どうしてこうなった? 異伝編 ID:88397

どうしてこうなった? 異伝編
とんぱ
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP
DF化したものです。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作
HUNTERの二次創作として投稿し
品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁
じます。
︻あらすじ︼
この作品は、HUNTER
ください。
﹂という作品の続編です。一応本編を
や、複数の異世界転生という地雷要素を気にされる方は閲覧にご注意
ない事もあるかもしれません。また、主人公使い回しという地雷要素
読んでいない方も問題なく読めるとは思いますが、たまに訳が分から
ている﹁どうしてこうなった
? ×
目 次 艦これ短編 │││││││││││││││││││││││
NARUTO 第一話 ││││││││││││││││││
NARUTO 第二話 ││││││││││││││││││
NARUTO 第三話 ││││││││││││││││││
NARUTO 第四話 ││││││││││││││││││
NARUTO 第五話 ││││││││││││││││││
NARUTO 第六話 ││││││││││││││││││
NARUTO 第七話 ││││││││││││││││││
NARUTO 第八話 ││││││││││││││││││
NARUTO 第九話 ││││││││││││││││││
NARUTO 第十話 ││││││││││││││││││
NARUTO 第十一話 │││││││││││││││││
NARUTO 第十二話 │││││││││││││││││
NARUTO 第十三話 │││││││││││││││││
NARUTO 第十四話 │││││││││││││││││
NARUTO 第十五話 │││││││││││││││││
NARUTO 第十六話 │││││││││││││││││
NARUTO 第十七話 │││││││││││││││││
NARUTO 第十八話 │││││││││││││││││
NARUTO 第十九話 │││││││││││││││││
NARUTO 第二十話 │││││││││││││││││
NARUTO 第二十一話 ││││││││││││││││
NARUTO 第二十二話 ││││││││││││││││
NARUTO 第二十三話 ││││││││││││││││
1
33
52
77
442 421 399 381 362 338 320 301 286 269 252 237 217 199 183 165 148 130 113 95
NARUTO 第二十四話 ││││││││││││││││
NARUTO 第二十五話 ││││││││││││││││
NARUTO 第二十六話 ││││││││││││││││
NARUTO 第二十七話 ││││││││││││││││
NARUTO 第二十八話 ││││││││││││││││
NARUTO 第二十九話 ││││││││││││││││
NARUTO 第三十話 │││││││││││││││││
NARUTO 第三十一話 ││││││││││││││││
NARUTO 第三十二話 ││││││││││││││││
NARUTO 第三十三話 ││││││││││││││││
NARUTO 第三十四話 ││││││││││││││││
NARUTO 第三十五話 ││││││││││││││││
NARUTO 第三十六話 ││││││││││││││││
NARUTO 第三十七話 ││││││││││││││││
NARUTO 第三十八話 ││││││││││││││││
NARUTO 第三十九話 ││││││││││││││││
NARUTO 第四十話 │││││││││││││││││
NARUTO 第四十一話 ││││││││││││││││
NARUTO 第四十二話 ││││││││││││││││
NARUTO 最終話 ││││││││││││││││││
NARUTO編おまけ││THE LAST││ ││││││
902 857 841 821 796 770 750 729 709 693 677 661 643 619 597 574 557 533 517 490 467
艦これ短編
ある時、人類はとある外敵からの攻撃により危機に陥っていた。
それは海からの進軍。海の底から現れた謎の艦艇群。それらを人
類は深海棲艦と呼称した。
艦艇群とあるだけに、深海棲艦は駆逐艦級から超弩級大型戦艦まで
多彩を極める艦種が存在し、その苛烈な攻撃により人類は制海権を失
いつつあった。
深海棲艦には人類の既存の兵器による攻撃は効果がなかった。
いや、全くなかった訳ではないが、深海棲艦には通常の兵器や戦略・
戦術が効きにくかったのだ。
それは深海棲艦の全てが人間大から大型の獣程度の大きさしか持
たないことが最も大きな理由であった。
兵器は時代と共に改良を成され、その攻撃対象も変化していった。
1
単体の人間を攻撃する武器から、より多くの人間を同時に攻撃出来る
ように大きく強く変化していった。
そしていつしか大型の兵器は同じく大型の兵器を相手にその力を
発揮するようになっていった。
軍艦で人間を攻撃する者はいない。軍艦は敵の兵器││軍艦や戦
闘機など││を攻撃する為の兵器なのだから。
だが深海戦艦は先も述べているように精々が大型の獣程度の大き
さしか持っていない。そんなものにどうやって攻撃を当てろという
のか
のそれなのだ。いや、軍艦すら凌駕していると言えよう。
そんな相手に直撃しない攻撃などどんな意味が有ると言うのか
?
だが相手は深海棲艦だ。見た目が人間大だろうとその性能は軍艦
に着弾させればその衝撃で殺すことも出来るだろう。
いや、並の人間であれば例え砲弾が直撃せずともある一定の距離内
ば分かりやすいだろうか。
00m以上離れた位置から米粒を正確に射るくらいの難易度と言え
軍艦から放たれる砲弾を、遠く離れた人間に当てる。それは弓で1
?
ない。それどころか資源の無駄であった。
そして例え直撃したところで倒しきれないのが深海棲艦なのだ。
逆に深海棲艦の攻撃は人類に大打撃を与えた。
深海棲艦は艦艇群だ。その攻撃力もそれに相当する。しかも通常
の軍艦と違って人間大な故にその機動力も大きく上回っている。
人間大の大きさで、海の上を自由に移動し、その攻撃力は軍艦を海
に沈めるには十分過ぎる火力を持つ。
そんなものを相手に戦えるような武器も、兵器も、戦術も戦略も、人
類は持ち合わせていなかったのだ。
人類は敗北に敗北を重ね、やがて制海権を喪失。それは人類にとっ
て非常に大きな損害であった。
このまま人類は深海棲艦によって徐々に滅びの一途を辿るのであ
ろうか
いくさぶね
かんむす
いや、そうはならなかった。深海棲艦という脅威を前に、唯一対抗
出来る存在がいたのだ。
ぎそう
それこそが、在りし日の軍 船の魂を持つ娘たち。艦娘である。
艤装と呼ばれる武器を装着し、生まれながらにして深海棲艦と互角
に戦う力を持つ彼女たち。
ふぶき
その活躍により、制海権奪還に向けた反攻作戦が開始されようとし
ていた。
◆
ある一人の艦娘がいた。彼女の名前は吹雪。駆逐艦の艦娘である。
駆逐艦と一口に言っても様々であり、彼女は特型駆逐艦と呼ばれる
艦船だ。
従来の駆逐艦と速度は同等に、その上で重武装化を果たした新たな
駆逐艦の基準となったのが特型駆逐艦だ。
つまり彼女も駆逐艦として立派な性能を持っているということな
のだ。││なのだが⋮⋮。
﹁はぁ⋮⋮どうして上手く行かないんだろう⋮⋮﹂
2
?
彼女は、落ちこぼれだった。
艦娘とは娘とあるようにその見た目は人間の女性と殆ど変わらな
い容姿をしている。
艤装を装着していない艦娘を一目見て知らない者が艦娘だと見抜
くのは難しいだろう。
そんな彼女たちがどうやって海上で深海棲艦と互角の戦いを繰り
広げられるというのか。
答えは簡単。艦娘は海の上を滑るように自由に移動出来るのだ。
いくさぶね
これは艦娘にとって特別なことではなく、当たり前の基本性能だ。
そうでなくては軍 船の力を有しているなどとは言えないだろう。
だが彼女は、吹雪は少々勝手が違った。
海上に浮けないわけではない。ないのだが⋮⋮彼女はいわゆる運
動音痴と呼ばれる部類の存在だったのだ。
訓練してもまともに海上を進むことが出来ない。そんな艦娘は果
たして戦力になると言えるだろうか
否。言えるわけがない。ここが従来の軍であれば彼女はとっくの
昔に除隊させられているか後方任務へと移動させられていただろう。
だが彼女は普通の兵ではない。深海棲艦と戦える人類唯一の力、艦
娘なのだ。そんな貴重な戦力を捨てるような馬鹿はいない。例え今
は役立たずだとしてもだ。
これで艦娘が気軽に量産出来る兵器であれば話は別だっただろう
が⋮⋮。
ともかく、彼女は落ちこぼれだった。まともに海上を進めない艦娘
など彼女以外にはいるとは思えないと言われるくらい落ちこぼれ
だった。
努力家ではある。性格も明るく前向きで、座学などは非常に優秀
だった。だが運動音痴だ。
今もこうして必死に訓練を積んでいるのだが、さっぱり上手く行っ
ていないようだ。
と言っても、彼女はまだ艦娘として軍に入って日が浅く、実戦は当
然として訓練時間も大したものではないのだが。
3
?
訓練し続ければいつかは他の艦娘と同様に海上を自由に走れるよ
うになるだろう。尤も、他の艦娘たちは大した訓練なく海上移動が出
来るのだが。
そういう理由で彼女はこの鎮守府の提督から戦力外扱いされてい
た。鎮守府にいられるのは先の説明の通り艦娘だからというだけだ。
それを理解しているからこそ彼女は精一杯努力している。⋮⋮結
果は散々だったが。
︶
吹雪は食事の為に一旦訓練を止め、宿舎へと移動する。もちろん食
事の後も訓練は続行するつもりだったが。
︵頑張って早く戦場に出られるようにならなきゃ
決意を新たにし落ち込んでいた気持ちを吹き飛ばして吹雪は前を
向いて進む。
そんな時だ。吹雪の耳にある話し声が聞こえてきたのは。それは
鎮守府で働いている一般兵士の会話だった。
当然だが鎮守府には艦娘以外に普通の人間も存在している。艦娘
は戦力であって、必要なのはその戦闘力だ。
雑務などの鎮守府を運用する為に必要な細かな仕事を艦娘に任せ
ることは基本的にない。その為に人間の兵士も鎮守府内で働いてい
るのだ。
﹂
素
そんな彼らの会話は吹雪にとって人生を変える程の衝撃を与えた。
﹂
たった一艦隊で数十を超える深海棲艦を相手に勝利
﹁すごいな呉鎮守府の一航戦は
﹁ああ
晴らしい戦果じゃないか
﹂
一艦隊では弾数が持つとは思え
﹁俺が聞いた話だと百に届く数だったと聞いたぞ
﹁それは話を盛りすぎではないか
?
﹁ああ。誇張もあるかもしれんが、撃破数の内の六割が空母赤城によ
聞きましたが﹂
﹁それとは別に、自分は赤城という空母型艦娘一人の戦果が大きいと
うな﹂
﹁確かにそうだな。流石にここまで話が届くうちに誇張されたのだろ
ん﹂
!
!
4
!
!?
!
!
一人で六割か。そんな艦娘が内の鎮守府にもいてくれれ
るものらしい。これは確かな筋の情報だ﹂
﹁本当か
ばなぁ﹂
︶
それも一人でその内の
!?
の人間││艦娘も含む││がこう言うだろう。無理だ、と
たとしても、そこまでの戦果を出すことなど出来るだろうか
大抵
例え艦娘と深海棲艦の戦いの発端から常に最前線で戦い続けてい
実戦経験が一度や二度という艦娘など鎮守府のどこにもいるだろう。
未だ実戦経験をしていない艦娘は吹雪以外にも当然存在しているし、
それは自然と深海棲艦と戦う回数も少ないということを意味する。
からそれほどの年月は経ってはいない。
だが赤城はそうではない。そもそも深海棲艦と艦娘が戦いだして
らば理解出来る。
有り得ないと言ってもいいだろう。いや、これが生涯に渡る戦果な
た。
未だ戦場に出る事すら叶わぬ吹雪にもその戦果の偉業が理解出来
六割
︵たった一艦隊で数十、ううん百もの敵を
な話は吹雪の耳にはすでに入っていなかった。
段々と話が上司や軍に対する不満に変わっていったが、彼らのそん
だ。それ程の戦力を回してくれるものかよ﹂
﹁無茶を言うな。この海域は深海棲艦の攻め入る量や回数が少ないん
!
吹雪は赤城を尊敬し憧憬し、いつしか赤城の横で共に戦うことを夢
な戦果を誇る者もいる。
つことはおろか海上に立つことさえ覚束ない中、伝説とも言えるよう
だが吹雪の中には尊敬という感情しかなかった。自分が戦場に立
物ではない。中には恐怖し怯える者もいるだろう。
恐怖などだ。圧倒的な力という物は必ずしも万人が受け入れられる
この話を信じた者が次に思うことが幾つかある。尊敬・嫉妬・畏怖・
そんな風に考える事はなかった。
法螺だとか、他の鎮守府を鼓舞する為に戦果を誇張した結果だとか、
だが吹雪の中で既にこの話は現実の物と認識していた。下らない
?
5
!?
見るようになった。
︶
︵ああ、いつか絶対に赤城さんと一緒の艦隊になって、赤城さんの護衛
艦になるんだ
を開始した。
お願いがあります
!
◆
提督は吹雪が未だに海上をまともに移動出来ないことを理解して
戦隊への配属命令を受けたからだ。
なぜ吹雪がこうも落ち込んでいるのか。それは提督から第三水雷
﹁はぁ⋮⋮﹂
ち込んだ雰囲気を漂わせ、しかも溜め息をついていた。
だが吹雪は挨拶を終えて提督室から退出したというのにどこか落
を優しく迎え入れた。
呉提督は異動したてで誰が見ても緊張していると理解出来る吹雪
督に着任の挨拶をした。
呉鎮守府へと異動して来た吹雪は鎮守府到着後すぐに呉鎮守府提
﹁失礼しました
﹂
の異動が決定したのだった。
そうして陳情した吹雪自身が呆気に取られる程迅速に呉鎮守府へ
言うなれば吹雪の異動願いは渡りに船だったのだ。
出来るだろう。
空きが出来る。そうなれば軍の上層部に新たな艦娘を要求する事も
吹雪が呉鎮守府へと異動すればこの鎮守府の艦娘の保有艦隊数に
ると戦力にならない吹雪を厄介払い出来るという判断だった。
別にこれは提督が吹雪のことを想っての事ではない。ぶっちゃけ
たが、その転属願いは受理された。
吹雪のいきなりの願い届けとその迫力に圧倒されていた提督だっ
吹雪は鎮守府を任されている提督に異動願いを出したのだ。
﹁提督
﹂
吹雪の決意は固かった。思い立ったが吉日と言わんばかりに行動
!
!
6
!
いた。恐らく吹雪が異動する前の鎮守府から吹雪の詳しい情報を得
ていたのだろう。
だというのにどうして戦隊の中に組み込むのか。このまま戦場に
出れば夢である赤木の護衛艦になるどころか味方の足を引っ張って
しまうだろう。
提督は優しくこう言った。失敗も経験の内だ、とか、君が失敗して
もそれを助けてくれる仲間がいる、とか、本番でなら意外と上手く出
来るかもしれないよ、と⋮⋮。
しかし、前向きだが失敗続きで自分に自信がない吹雪には提督の言
葉は慰めにもならなかった。
むつき
失 敗 し た ら ど う し よ う。そ ん な 吹 雪 の 考 え は あ る 人 物 の 登 場 に
よって一旦掻き消えた。
﹂
﹁あのぅ∼﹂
﹁は、はい
そこにいたのは吹雪と同じ第三水雷戦隊に所属する駆逐艦・睦月で
あった。
互いに挨拶を交わした後、二人は鎮守府の中を共に歩みだした。
睦月はとても面倒見が良く思慮深い性格をしていた為、着任したば
かりの吹雪に色々と世話を焼こうとしたのだ。
それは吹雪にとっても嬉しい話だった。赤城に憧れて呉鎮守府に
着任したのは良いが、知り合いなど一人もいなかった為心細かったの
だ。
こうして優しく迎え入れてくれ、その上面倒まで見てくれる睦月に
対して吹雪の好感度は急上昇中であった。
睦月自身も特型駆逐艦という従来の駆逐艦を上回る性能と言われ
ている駆逐艦が新たに同じ戦隊に配属されることはあらかじめ聞い
ていたのでそれなりに緊張していたのだ。
だが出会ってみれば吹雪はとても話し易く真面目で好感の持てる
人物だった。緊張もなくなり、気が合う仲間や友達として一緒に過ご
せそうだと嬉しく感じていた。
意気投合した二人はそのまま鎮守府内を楽しそうに歩いていく。
7
!?
吹雪は鎮守府の案内と施設の説明を睦月から受け、異動前の鎮守府
と比べその大きさや整えられた設備の良さに素直に感動する。
そうして案内されやがて吹雪は第三水雷戦隊に与えられた一室に
辿り付く。
そこで吹雪は新たな仲間たちに出会った。
﹂
よろしくお願いします
﹂
﹁夕立ちゃん。吹雪ちゃん連れてきたよ﹂
﹁ぽい∼
﹁吹雪です
何 だ か 地 味 っ ぽ い
い。大 抵 ブ レ ー キ に な っ て な い が。ち な み に 第 三 水 雷 戦 隊 の 旗 艦
丁寧でしっかりとした性格で、姉と妹のブレーキ役となることが多
可哀想な子である。
最後に次女の神通。夜戦馬鹿な姉とアイドル馬鹿な妹に挟まれた
たりステージで歌ったりと勝手なアイドル活動をしてたりする。
自分のことを那珂ちゃんと呼んでおり、よく無許可でビラ配りをし
そして三女の那珂。艦隊のアイドルを自称する少々痛い子である。
多い。どうやら夜行性のようだ。
口を開けば夜だ夜戦だと叫び、夜戦がなくとも夜に活動することも
軍 船が夜戦ばかりで戦っていたことが原因だと思われる。
いくさぶね
例えば長女の川内。彼女は大の夜戦好きだ。これには元となった
それだけにそれぞれ仲はいい。その性格には大分個性差があるが。
姉妹のようなものである。
この三人は同じ川内型と言われる型の軽巡洋艦であり、言うなれば
艦の川内・神通・那珂の三人がそれだ。
もちろん駆逐艦以外の艦娘も第三水雷戦隊には存在する。軽巡洋
は悪いわけではない。
少々おちゃらけた性格のようで大雑把なところもあるが、その性根
娘、夕立である。
妙な語尾を口癖とする少女。彼女は吹雪・睦月と同じく駆逐艦の艦
∼﹂
﹁夕 立 だ よ。あ な た が 特 型 駆 逐 艦 の 一 番 艦 ∼
!
?
︵リーダー︶を勤めている。
8
?
!
個性豊かな新たな仲間たちに囲まれて、吹雪の新たな鎮守府での生
活が始まった。
◆
吹雪は睦月に引き続き鎮守府の案内をされる。
第三水雷戦隊の部屋と艦隊の仲間への紹介を優先した為まだ鎮守
府内を殆ど回ってはいなかったのだ。
ちなみに暇だった夕立も付いて来ている。
﹁ここが教室っぽい﹂
その言い方ではここが教室ではない可能性もあるということだろ
うか。
夕立の口癖を深く考えては駄目だと出会ってものの数分で吹雪は
悟った。
9
﹁今日は日曜日で誰もいないから、明日皆に紹介するね﹂
﹁うん、ありがとう﹂
睦月の言葉に礼を述べ、そこで吹雪は黒板の隣に貼ってある授業の
時間割を見つける。
そしてそこにある一つの単語がふと気になった。
︻演 習︼。そ れ は 実 戦 を 模 し た 訓 練 を 指 す 言 葉 だ。そ れ に よ っ て 吹
雪は様々な連想をした。
演習によって実戦を思い浮かべ、実戦から深海棲艦を思い浮かべ、
﹂
更にそこから赤城の戦果を思い浮かべ、そして自らの夢を夢想する。
﹁どうしたの吹雪ちゃん
﹂
﹂
私が赤城さんを守るんだぁ﹂などと口走っている。かなり危ない状態
どうやら吹雪は夢想状態から覚めていないようだ。﹁えへ、えへへ、
雪を怪訝に思い声を掛ける。
睦月は突然トリップしたように幸せそうな笑みを浮かべている吹
?
何どうしたの
!?
!
のようだ。
え
?
﹁吹雪ちゃん帰ってこーい
﹁はわっ
!
夕立が珍しく語尾を付けずに叫んだ所でようやく吹雪は現実世界
に帰還した。だが自分がトリップしたことは覚えていないようであ
る。
﹁どうしたのはこっちの台詞っぽい。いくら呼んでも返事なかったぽ
い∼﹂
﹁あは、あはは。ご、ごめんね夕立ちゃん、睦月ちゃん﹂
﹂
﹂
﹁それはいいんだけど⋮⋮。何か気になることでもあったの吹雪ちゃ
ん
ねぇ、この鎮守府には一航戦の人達がいるんだよね
そう言われて吹雪は自分が何を考えていたのかを思い出す。
﹁そうだ
﹂
んで飛行する戦闘機の姿があった。
﹁一航戦の先輩たちの練習っぽ∼い﹂
﹁あぁ∼、やっぱりここにいるんだぁ
﹂
﹂
しかもその内の六割は赤城さんの活躍って話なんだよ
﹂
私は赤城さんの護衛艦になりたくてここに来た
!
完全にアイドルの追っかけである。いや、同じ艦娘同士だからアイ
んだから
﹁もちろんだよぉ
﹁あはは。その話、やっぱり有名なんだね﹂
出来ていないだろう。
というかこれで気付けない奴がいたら恐らくそれは日本語を理解
た。
れは完全に一航戦に、特に赤城に憧れていると睦月と夕立は気付い
瞳を爛々と輝かせて我が事のように嬉しそうに話す吹雪を見て、こ
ね
艦娘たち
﹁たった一艦隊で百以上の深海棲艦を相手に完全勝利したあの伝説の
夕立の言葉に興奮を隠しきれない吹雪。
!
そして空から聞こえる音の正体を見る。そこには綺麗に編隊を組
睦月も同じように窓際まで移動した。
空に響く音を聞きつけて夕立が教室の窓際まで移動する。吹雪と
﹁あ、噂をすれば
﹁うん、いるよ。赤城先輩と加賀先輩だよね﹂
!
!
!
10
!
?
?
!
ドルによるアイドルの追っかけと言った方が正確だろうか。
﹂
﹁でもその話ちょっと間違ってるっぽい﹂
﹁え
夕立の突然の声に吹雪は動揺する。
そんな考えが一瞬で脳内を巡ってしまった。
もしかしたら噂は誇張された物に過ぎず、赤城の戦果は大したもの
ではなかったのでは
︶
例え戦果が少なかろうとも赤城先輩が立派な艦
娘であることに変わりはないはず
︵いや、それでも
いたとしてもおかしくない程にだ。
しかもその話の内容があまりにも過剰な内容なのだ。誇張されて
聞いただけだ。
それは仕方ないだろう。実際に直接戦果を見たわけでなく人伝に
?
﹁増えるのっ
﹂
﹁倒したのは確か百五十を超えてるっぽい﹂
吹雪はそう考えて赤城への憧れを落とすことはなかった。
ろう。
だったら十分過ぎる程の戦果だ。数十だとしても伝説と言えるだ
ら。
実際の戦果が数機程度だとしたらそれを百に盛る訳がないのだか
それぐらいなければそこまでの誇張表現は有り得ない。
例え赤城の戦果が百もなかろうとも、それでも数十はあるだろう。
だが吹雪の赤城への憧れは揺るがなかった。
!
!
だよね
﹂
﹁いや、でも、赤城先輩がその内の六割っていうのは、違ったりするん
まった。吹雪の頭が混乱する。
まさかの増量である。戦果が下方修正どころか上方修正されてし
!?
夕立の悩み方からして流石に一人で百五十の内の六割撃破という
﹁あ、やっぱりそれはないんだ⋮⋮﹂
﹁うーん﹂
しまった。吹雪は己を見失っているようだ。
まさかの戦果増量のせいで何故か信じていた噂を自ら疑い出して
?
11
?
戦果はなさそうだと吹雪は悟った。
一艦隊でまさかの百五十以上の撃破だったが、その内の何割かは赤
城のはず。
六割が誇張であったとしても、五割、いや四割でも恐ろしい戦果だ。
艦娘の一艦隊は最大で六人編成だ。六人の中で一人が四割の撃破
・・
ならば十分過ぎるだろう。吹雪の憧れは憧れのままなのだ。
﹁まああれも赤城先輩の力だから、やっぱり赤城先輩の戦果でいいん
﹂
じゃないかな
﹂
﹁そうっぽい∼
﹂
﹂
!?
いや、流石にそれは⋮⋮﹂
?
・・
ぽい﹂
た。
・・
だが二人はそんな吹雪に対して少し微笑みながら異口同音に答え
になる。
吹雪は先程から二人が思わせぶりに口にしているあれとやらが気
﹁あれ
﹂
﹁伝説の一戦以外でも赤城先輩のあれを見た事はあるし、多分本当っ
・・
けだから。でも嘘じゃないと思うよ﹂
﹁私たちもその伝説の一戦は見てないの。先輩たちから話を聞いただ
いである。というか流石に簡単には信じ切れない。
これには赤城崇拝︵ただし互いに出会った事はない︶の吹雪も苦笑
﹁え
の深海棲艦を赤城一人で撃破したということになる。
夕立の話が真実ならば、百五十以上の撃破数の内八割、百二十以上
吹雪の許容量はそろそろ限界だ。
﹁また増えたっ
﹁それなら赤城先輩の戦果は八割くらいっぽい∼﹂
なった。
だ が そ ん な 吹 雪 の 疑 問 は 次 の 夕 立 の 言 葉 に 吹 き 飛 ば さ れ る 事 と
ない吹雪は置いて行かれている。
なにやら二人だけで納得しているようだが、会話の意味が理解出来
﹁
?
?
12
?
?
﹃見れば分かる︵よ︶︵っぽい︶﹄
・・
⋮⋮少々同音ではなかったようだ。
﹂
とにかく、どうやら赤城のあれとやらを話すつもりは今はないよう
だ。
﹁えー、意地悪言わないで話してよー﹂
・・
﹁そうだ。それなら今から一航戦の先輩たちの所へ行ってみない
行く行く
もしかしたらあれも見られるかも﹂
﹁え
?
にあった。
何故鎮守府内に弓道場があるのか
その答えは吹雪の視界の中
少々変則的だが誰が見ても弓道場だと思うだろう。
矢道があり、海の上にだが的がある。
そこはまるで弓道場を模したような鍛錬所であった。射場があり、
所変わって、吹雪たちは鎮守府内にある鍛錬所の一つに来ていた。
た。
そんな吹雪が赤城を見に行こうと言われて嬉しくない訳がなかっ
のは偏に赤城と共に戦いたいが為だ。
ひとえ
こうして元いた鎮守府から異動願いを出してまで呉鎮守府に来た
だった。
睦月の申し出は渡りに船というべきか、吹雪にとって最高の提案
!
﹁あれが第一航空戦隊。通称一航戦の誇り、赤城先輩だよ﹂
が空母型の艦娘に備わっている力である。
矢が戦闘機に変化するという本来なら有り得ない現象。これこそ
感動した。
その矢が小型の戦闘機へと変化し的を射抜く様を見て、吹雪は素直に
弓を射るその凛とした佇まいと一直線に飛んでいく矢姿。そして
﹁わぁ⋮⋮きれい﹂
の姿があった。
そこには、和弓を構え、弦を引き絞り、的に向かって矢を放つ艦娘
?
13
!?
﹁あの人が⋮⋮﹂
とうとうその御姿を拝見する事が出来、吹雪は至上の多幸感に包ま
れていく。どうやら脳内麻薬がドパドパ溢れているようだ。
艦娘にも脳内麻薬があると実証されるのも近いかもしれない。
だが、そんな吹雪のトリップは赤城の隣に立つ女性、赤城と同じく
一航戦である加賀によって冷水を浴びたかのように覚めることとな
る。
﹂
﹁断りもなく入ってきては駄目よ﹂
﹁す、すみません
三人を代表して睦月が謝罪する。といっても加賀も本気で怒って
いるわけではないが。
加賀はドライな性格をしており、規則は規則と注意しただけのこと
だ。この程度で罰するようなことはない。
ただ一見冷たそうに見える為、注意を受けた側である三人は少々萎
縮してしまったのだが。
そうして三人が萎縮している間に赤城と加賀は三人の近くにまで
近寄ってきた。
赤城は見慣れぬ艦娘がいることを不思議に思い、もしかして話に聞
いていた特型駆逐艦なのかと確認の為吹雪に声を掛けようとする。
あ、赤城先輩ですよね
だから、その﹂
いつか絶対赤城さんの艦隊で一
私特型駆逐艦の吹雪と言います
だがそれよりも早くに吹雪が赤城に対して言葉を掛けた。
﹁あの
その、私、今は未熟ですけど
!
城も少々戸惑ってしまう。
だがすぐに吹雪が何を言いたいのかを理解して、穏やかで包みこむ
ような笑顔を吹雪へと向けた。
﹂
﹁ええ、楽しみに待っていますよ吹雪さん﹂
﹁は、はい
て敬礼で返す。
憧れの存在からのそんな思いがけない温かい言葉に、吹雪は感動し
!
14
!
緒に戦えるくらい強くなりますから
!
!
突然の、まるでプロポーズでもするかのような勢いのある告白に赤
!
!
だが次の赤城と加賀の会話に吹雪は疑問を抱いた。
・・・
﹁でも、困ったわね。私の事を尊敬してくれているのは嬉しいのだけ
れど、あれは私だけの力じゃ││﹂
そう言えばあの子はどこに
﹂
﹁││そんな事はないわ赤城さん。あの力は赤城さんがいなくては意
味がないのだから﹂
﹁でもあれはあの子の⋮⋮あら
誰かを探すように辺りを見渡す赤城。
ていた。
﹁あ∼赤城先輩素敵すぎる∼
﹂
そこで間宮名物の特盛り餡蜜に舌鼓を打ちながら話に花を咲かせ
していた。
赤城たちと別れた吹雪たちは鎮守府内にある甘味所・間宮へと移動
ますね﹂
さん。それじゃあ私たちはまだ訓練の続きがあるから、これで失礼し
﹁ふふ、そう言わないであげて加賀さん。あっと、ごめんなさいね吹雪
﹁きっとまた間宮に行っているのでしょう。全く⋮⋮﹂
ろきょろと見るも、この場には他に誰も居はしなかった。
あの子とやらを探しているのだろう。吹雪も釣られて回りをきょ
?
・・
﹁そうよね。でも残念。吹雪ちゃんにあれを見せられなかったね﹂
気になる吹雪。
﹄
赤城先輩たちも何か意味深な事を言って
だが、そんな吹雪の気持ちはすぐに切り替わる事になる。
﹃っ
吹き飛ばした。
15
?
﹁確かに赤城先輩はかっこいいっぽいー﹂
!
睦月にそう言われて吹雪は当初の疑問を思いだした。
・・
﹂
﹁あれって結局何なのー
たし、気になるよー
!?
結局気になっていた何かを知る事は出来なかった。それが余計に
!
突如として鎮守府内に鳴り響く警報。それが吹雪の様々な疑問を
!?
軍事基地にて警報が鳴る。その意味を軽視する者はこの場には存
在しない。
深海棲艦に対して、反撃の狼煙が上がろうとしていた。
◆
空母赤城率いる主力の第一機動部隊。
戦艦金剛率いる第二支援艦隊。
軽巡洋艦神通率いる第三水雷戦隊。
今、呉鎮守府において稼動可能な全艦隊が出撃準備を終えて出港の
時を待っていた。
﹁秘書艦の長門だ││﹂
司令官である提督の秘書艦を務めている戦艦長門から全艦隊へと
通達が送られる。
16
遠征に出ていた第四艦隊が敵深海棲艦と遭遇し、その際敵棲地を発
見した。
呉鎮守府正面海域を制圧している艦隊の棲地であると推測され、こ
れより敵棲地を強襲するという作戦が通達される。
長門の言葉に多くの艦娘たちが沸き立つ。いよいよ深海棲艦への
反撃の狼煙が上げられるのだ。興奮するのも無理はない。
だが、長門の次の言葉に多くの艦娘たちがどよめいた。
﹁皆心して聴け。第四艦隊からの情報によると、敵の総数は数え切れ
﹄
ない、という物だったそうだ﹂
﹃っ
れた情報だ。蔑ろにする事は出来なかった。
敵深海棲艦と遭遇した第四艦隊が、命からがら逃げ延びて伝えてく
だが、それでも伝達しなければならない規模の敵だったのだ。
て軍内部の不安を煽る様な真似など本来はしないだろう。
長門も軍に所属する艦娘としてそういった未確定の情報を公にし
どない。
本来軍に置いて曖昧な内容を正式な情報として伝達することは殆
!?
﹁それでもお前たちに出撃を命じるのは、このままその敵深海棲艦を
放置していれば更にその数は増し、確実にこの鎮守府へと進撃してく
るからだ﹂
つまり、これ以上敵が強大になる前に先に敵を叩けということだ。
放置してより強大になった深海棲艦がこの鎮守府に攻撃を仕掛け
てくれば、確実に鎮守府は壊滅するだろう。
赤城が一度の出撃で百を超える戦果を上げた伝説と呼ばれる艦娘
だとしても、数に任せた波状攻撃を仕掛けられれば鎮守府を守りきれ
る訳がない。
だが逆にこちらが攻撃を仕掛け敵棲地にいる敵旗艦を叩けば敵の
統率は乱れ、その隙を突いて勝利を掴む事も出来るだろう。
敵深海棲艦の狙いは長門には理解出来た。恐らく赤城だ、と。
これまでにも細かな深海棲艦との戦闘はあったが、大きな戦闘は二
回だけだ。
17
その一度目は赤城によって大半の深海棲艦が撃破された。
そして二度目。深海棲艦は赤城を脅威と見たのか二百もの艦隊を
繰り出してきた。
みなぞこ
だがそれも赤城率いる第一機動部隊によって大打撃を受けて逃走
した。
深海棲艦はここで確実に赤城を水底へと沈めようとしているのだ。
その為に近海から多くの戦力を集めたのだろう。
﹁布陣は、一航戦赤城たちを主力とした第一機動部隊が敵棲地を強襲。
﹄
第二支援艦隊と第三水雷戦隊はこれを援護﹂
﹃え
していては務めを果たす事も出来ずに壊滅の危機に追いやられるだ
﹁今回の敵総数は二百以上だと推測される。その様な数を相手に先行
そんな当たり前の疑問に対して、長門はすぐに答えを返した。
行して主力の前衛として警戒に当たるのが基本だろう。
だが第三水雷戦隊。この艦隊は本来なら先の二つの艦隊よりも先
第一機動部隊と第二支援艦隊の布陣は問題ないだろう。
長門のこの命令には幾人かの艦娘が疑問を覚えた。
?
ろう。だからこそ、今回は全艦隊が一丸となって敵棲地を一気に攻め
落とす﹂
長門の命令を理解した艦娘たちの何人かは死を覚悟した。その殆
どが経験の浅い艦娘たちだ。
当然だ。戦力比が何倍もの敵を相手に突撃しろというのだ。作戦
が成功したとしても誰かが死ぬ。いやそもそも成功するのか
まだ経験の浅い者がそう思うのは無理もないだろう。
﹄
﹁そうか⋮⋮﹂
﹁大丈夫です﹂
赤城、あの子は
・・・
﹂
﹁案ずるな。私もお前たちを無闇に死地へと送り込みはしない。⋮⋮
それでもこの死地に飛び込む勇気が湧いて来たのだ。
たくはない。死にたいわけがない。
そう思った瞬間に、誰しも死の恐怖を乗り越えられた。いや、死に
くれるだろう。例え死しても礎にはなれるはずだ。
他の海域で戦っている艦娘たちが、必ず多くの制海権を取り戻して
れは無駄にはならない。
そう、例えここで死んだとしても、この作戦が失敗したとしても、そ
長門のその言葉の意味を誰もが理解した。
﹃
では敵は手薄になっているという事だ﹂
﹁⋮⋮こうして敵がこの海域に集中しているということは、他の海域
?
の海上護衛航路を回復する事にある。各自、心して作戦に掛かってほ
﹁本作戦の目標は深海棲艦の脅威を排除し、この鎮守府正面海域から
続く。
そんな少し緊張感が抜けた者達を嗜めるように長門からの通達が
か先程よりも安心感が増している様に吹雪は感じられた。
だが吹雪以外の艦娘はどうやらその秘密を知っているようで、どこ
かは理解出来ない。
どうやら赤城に何かしらの秘密があるようなのだが、それが何なの
長門と赤城の間にまたも吹雪が理解出来ない会話が成されていた。
?
18
!
しい。油断は禁物だ﹂
結局赤城の秘密が何なのか知る事も、そして呉鎮守府に来て一度も
﹂
訓練をする機会もなく、吹雪の初実戦が始まろうとする。
﹁暁の水平線に勝利を刻むのだ
長門のその締め括りの言葉と共に、とうとう吹雪の初実戦が始まっ
た。
◆
﹃第三水雷戦隊。出撃して下さい﹄
通信室から下された出撃命令。それを聞いて吹雪は覚悟を決める。
もうここまで来れば何をどう言おうと出撃を取り止める事など出
来る訳がない。
だったらもう覚悟を決めて出撃するしかない訳だ。そう、覚悟を決
めて、まともに動く事が出来ない海上に⋮⋮。
﹂
﹁第三水雷戦隊。旗艦神通、行きます﹂
﹁吹雪、行きまーす
吹雪の下半身に艤装が装着される。そうしてカタパルトから射出
﹂
されるように、吹雪は海上へと出撃した。
﹁きゃあぁぁぁぁあぁ
﹁うわぁぁあぁぁ
﹂
いく。これで吹雪は真に深海棲艦に対抗する力を手にした事になる。
海上へと出撃されていく最中、吹雪の上半身にも艤装が装着されて
⋮⋮悲鳴を上げながらだったが。
!
﹁特型駆逐艦
﹂
﹂
﹂
陣形崩れてるよー
﹁す、すみません
﹁大丈夫
﹁どこか調子悪いっぽい
﹂
!
﹂
19
!
旗艦である神通の出撃に合わせ、吹雪もまた出撃する。
!
⋮⋮まともに海上を動く事が出来ればの話だが。
!?
!
!
﹁う、うん、だいじょうぶ、あ、あわわ
!
?
?
綺麗な陣形を組んで移動する他の第三水雷戦隊と違い、吹雪はどう
にかして彼女たちに着いて行くのがやっとだった。
心配する睦月や夕立の声にも余裕なく返事をするしか出来ないで
いた。
﹁吹雪ちゃんもしかしてあなた⋮⋮﹂
そんな吹雪の動きや態度を見て、神通は何かに勘付いたようだ。
吹雪も神通に悟られたと気付き、思わず目が泳いでいた。
﹄
そうして吹雪の驚愕の事実に全員が異口同音に叫ぶ。
﹃実戦経験がない︵っぽい︶ー
⋮⋮いや、やはり少々同音ではないようだ。恐らく夕立がいる限り
その面子で異口同音が成される事はないのだろう。別段どうでもい
い事ではあるが。
とにかく、吹雪のまさかの実戦経験零という事実に全員が唖然とし
た。それは決して吹雪を悪く思っての事ではない。
前鎮守府では実戦経験を積ませる所か、練度を積む事すらさせても
らえなかったと言うのか。そういう吹雪が以前に務めていた鎮守府
に対しての反応だ。
だがそれは前鎮守府が悪いということではない。どちらかという
と前鎮守府は吹雪を守っていたと言えるだろう。
﹁私、運動が⋮⋮﹂
そう言い掛けた吹雪は、言葉を言い終える前に海上を転がり滑って
いった。
それを見た第三水雷戦隊は全員が吹雪の言いたい事を完全に理解
した。
﹂
ああ、運動音痴なんだ、と。
﹁何で言わなかったの
﹁いいかげんっぽーい⋮⋮﹂
司令官には恐らく何らかの考えがあるのだろう。
だがまともに動く事が出来ず実戦経験なしの状態で、初実戦でこの
ような戦地に送り込まれた本人はたまった物ではないだろう。
20
!?
﹁司令官が心配ない。皆が助けてくれるって⋮⋮﹂
?
それはある意味足手纏いを任された他の艦娘も同様である。
﹂
第二支援艦隊が敵深海棲艦と戦闘を開始
私たちもす
だが戦場は彼女たちに状況の整理を許す時間を与えなかった。
﹁皆さん
ぐに敵海域に突入します
!
なんて数
﹂
!
﹂
!
﹁きゃあああ
﹂
なければ話にならないだろう。
何せ敵の数は甚大だ。とにかく撃って攻撃をして敵の数を減らさ
を繰り出す。
神通の攻撃命令により、第三水雷戦隊は次々と各々の艤装から攻撃
﹁砲雷撃戦初め
れは力尽きるだろう。
れだけの数に責め立てられれば個々の練度で勝っていようともいず
未確認も含め、これらは全て駆逐艦級だった。だが問題は数だ。こ
認の種類すらいた。
た。しかもそれ以外の種類の深海棲艦も存在している。中には未確
だが問題はその数だ。イ級は数えられるだけで二十は出現してい
いと言える。
深海棲艦だ。見た目は恐ろしいが深海棲艦の中ではその脅威度は低
この大型の異形の魚のような見た目は駆逐イ級と呼ばれる種類の
異形であった事も原因だろう。
吹雪は初めて見える深海棲艦に怯えを見せる。予想よりも大きく
まみ
突如として海面に深海棲艦が現れた。
﹁っ
そして神通のその言葉はすぐに現実の物となった。
雷戦隊もすぐに敵との戦闘海域に入るはずだ。
第二支援艦隊とはほぼ横並びに陣形を拡げて移動していた第三水
その海域では既に味方と敵によって多くの砲弾が飛び交っていた。
方角を見る。
旗艦である神通からの報告に全員が第二支援艦隊が展開している
!
!
数が数だけに敵からの攻撃の密度が高く、攻撃どころか回避に専念
だがその数を減らすという行為すら容易ではなかった。
!
21
!
ここは一度陣形を組み直します
せねばすぐに撃破されてしまう程だったのだ。
﹁このままでは⋮⋮
﹂
!
﹂
﹂
﹂
!
えてくれた。
そんな吹雪の疑問には、吹雪の隣で弾幕を張り続けている睦月が答
だろうか。
どうしてこんなどうしようもない様な状況でも戦う事が出来るの
﹁どうして⋮⋮﹂
誰もが敵に負けじと攻撃を返していく。
だが、傷ついた仲間は誰もこの現状に恐怖していなかった。
を恐怖する。
このままでは皆やられてしまう。そんな未来を想像し、吹雪は戦場
た。
敵艦は更に数を増し、確実に第三水雷戦隊を追い詰めようとしてい
する。
頼れる仲間たちが傷ついていく。これが戦いなのだと吹雪は実感
﹁川内さん、那珂ちゃん⋮⋮
でもこのままではいずれ撃破されてしまうだろう。
続けて那珂も損傷する。損傷は小破と言ったところだが、今は小破
﹁か、顔はやめてー
損傷し艤装は中破している。戦闘力は大幅に下がっただろう。
最初に被弾したのは川内だ。撃破にはいたってないがあちこちを
﹁うわぁぁあ
だが、やはり数で圧倒的に劣るということは大きな不利であった。
る。
苛烈な攻撃を掻い潜りながらどうにかその場を切り抜けようとす
ことを提言する。
そう悟った神通は一度陣形を組み直してから再度攻撃を開始する
このまま攻撃に晒されるままでは確実にやられてしまう。
!
!
﹁大 丈 夫 だ よ 吹 雪 ち ゃ ん。私 た ち に は 助 け 合 え る 仲 間 が い る ん だ か
ら﹂
﹁え││﹂
22
!?
睦月のその答えはすぐに目に見える形で現れた。
戦場の空を多くの戦闘機が編隊を組んで飛び交っていく。
戦闘機はそれぞれに備わっている機銃や爆弾などの武装で次々と
﹂
﹂
敵深海棲艦を撃破していった。
﹁あれは
﹁主力艦隊っぽいー
第二支援艦隊と第三水雷戦隊の僅か後方に位置していた主力の第
一機動部隊が戦列に加わったのだ。
その中でも一航戦である空母赤城と加賀の航空攻撃だろう。この
﹂
攻撃によって前線は勢いを取り戻した。
﹁私たちも続きます
吹雪がそう呟いたのは誰にも聞こえなかったが、例え聞こえていた
﹁こんなの無理だよ⋮⋮﹂
たのだ。
娘たちを屠る様に、数え切れない深海棲艦が伯地の周りに終結してい
それだけではない。敵旗艦を守るように、そして攻め込んできた艦
その中央にある泊地に、敵の旗艦がその姿を現していた。
空は暗雲が覆い、海も何故か不気味に暗く染まっている。
﹁うそ⋮⋮﹂
がっていた。
そんな吹雪の不安が具現したかのような光景が、吹雪の視界に広
任務を遂行する事が出来るのだろうか。
このような状態で敵本隊が待ち構えている敵棲地に赴き、果たして
動部隊も損耗してしまっている。
しかし前哨戦とも言える戦いに全艦隊で出向いた為、主力の第一機
る敵艦主力を撃破し、この海域全般を開放する事である。
だが、これはこの作戦の前哨戦に過ぎない。最終目標は敵棲地にい
どうにかこの海域を切り抜ける事が出来た。
そして吹雪もまた不慣れながらも砲弾を放ち続け、危なげながらも
第三水雷戦隊も主力艦隊に負けじと攻撃を加え続ける。
!
としても誰も咎めなかっただろう。
23
!
!
初の実戦でこの様な光景を見せられては心が折れたとしても仕方
のない事だ。
どうすればこの絶望から逃れられるのか。不安と恐怖に押し潰さ
れそうだった吹雪は助けを求める様に後ろを振り向き、尊敬する赤城
の姿を探した。
赤城はすぐに見つかった。彼女は弓道場で見た時と同じように弓
を構えていた。
その表情には微塵も恐怖の色は感じ取れなかった。凛とした佇ま
いのまま、正射必中の心得を以ってして、矢を放った。
﹁赤城先輩⋮⋮﹂
赤城のその姿を見て、何時の間にか吹雪の中の不安や恐怖は何処か
へ消えてなくなっていた。
︵これが、私が憧れた人⋮⋮︶
この大軍を見ても、この戦力差を見ても、赤城は微塵も揺るいでは
﹂
分からない状態だ。
﹂
だがそんな吹雪の動揺は一瞬で更なる動揺によって塗り替えられ
24
いなかった。
それが吹雪に力を与える。赤城と共にならば必ず勝てると。
それを証明するように、赤城が放った矢は戦闘機へと姿を変え、敵
﹂
旗艦に向かって一直戦に飛翔し⋮⋮爆発四散した。
﹁⋮⋮え
﹁え
﹂
!
﹂
﹁来るよ吹雪ちゃん
⋮⋮戦闘機は、だが。
哀れ戦闘機は過剰とも言える対空攻撃によって海の藻屑となった。
出来たというのか。
あれだけの深海棲艦に守られた旗艦にたった一機の戦闘機で何が
吹雪は呆然としたが、まあ驚く事ではない。
?
﹁活目するっぽい
﹁ええ
!
?
睦月と夕立の言葉に慌てふためく吹雪。先程から何が何やら訳が
?
る事となった。
砕けた戦闘機から一つの小さな影が飛翔する。
それを狙って海上から先程よりも更に凄まじい対空攻撃が加えら
れた。
深海棲艦は理解しているのだ。これこそ、自分たちの同胞を沈めた
最強最悪の敵。
﹂
妖精であると
﹁ええー
妖精が自在に宙を飛び、無数の砲弾を掻い潜る
!
﹂
り注いでいるのだ
﹁ええぇぇ
﹁嘘でしょぉぉぉおぉぉ
弾き返せるの
﹂
どう言う事なの
?
常識とは何だったのか。妖精とは何だったのか。大口径主砲って
!?!?
覆ったと思うと、それらの攻撃の全てを弾き返したのだ。
だ が 妖 精 は そ う は な ら な か っ た。全 身 を 何 か オ ー ラ の 様 な 光 が
艦娘だろうと物の数秒で撃破されているだろう。
妖精がいる地点はまさに地獄そのものだ。あの場にいればどんな
重巡型が中口径主砲を放ち、戦艦型が大口径主砲の火力で押し込む。
空母型が戦闘機を繰り出し、駆逐艦型が機銃で弾幕を張り、軽巡・
はいない。
自ら放った攻撃で撃破されていく深海棲艦。だが彼女らも負けて
!
なぜなら、妖精の体に触れた弾はその軌道を変えて深海棲艦へと降
いや、全ての弾丸を避け切れてはいない。だが命中してもいない。
!
!?
?
である。
妖精とは艦娘を様々な面で補助をしてくれる重要かつ大事な味方
い。
そもそも妖精とはあんなに強いものなのか 否、そんな訳がな
れているのかもしれない。
もしかしたら今は夢の中で、目を覚ますと以前の鎮守府の布団に包ま
最 早 吹 雪 の 脳 は 限 界 だ っ た。何 が 現 実 で 何 が 夢 な の か も 曖 昧 だ。
?
25
!?
その仕事ぶりは様々だが、戦場に置いて最も重要な仕事として、戦
闘機の操縦がある。
空母が放った戦闘機は妖精が操縦しているのだ。そういう意味で
は彼女たち妖精は強いと言えるだろう。
空母の強さは妖精なくして語る事は出来ないのだから。
だがこれはない。この妖精の強さはそんな次元の話ではないだろ
う。
ど こ に 戦 艦 が 放 っ た 大 口 径 主 砲 を オ ー ラ で 弾 き 返 す 妖 精 が い る。
どこに無数の銃弾を正確に敵へと返す妖精がいる。
妖精さんで 妖精さんじゃなくて
﹂
妖精
妖精がそれだけ強ければ空母型の艦娘は全員戦闘機から妖精を取
妖精さんが
﹂
﹁これで落ち着いていられるわけないよ
?
り出して放つだろう。その方が効率的である。
﹁え
様ですか
﹂
?
﹁気持ちは分かるっぽい。でも今は戦闘に集中しようよ﹂
﹁落ち着いて吹雪ちゃん
?
﹁あれって何なのぉぉぉ
精女王
﹂
て説明する。
?
ないのだが。
﹂
だがまあ見た目は普通の妖精その物なので可愛くても可笑しくは
げる存在の名前にしては随分可愛らしいものだ。
今もなお二百を超える深海棲艦を相手に互角以上の戦いを繰り広
﹁ヨウ、ちゃん
﹂
睦月と夕立が交互に、そして最後には同時にあの奇怪な妖精につい
﹃その名もヨウちゃん︵だよ︶︵っぽい︶
﹄
﹁妖精を超え艦娘を超え深海棲艦を超え、全ての生物の頂点に立つ、妖
!
!?
﹁あれこそ、赤城先輩の伝説の立役者
﹂
ちなみに某鎮守府の秘書艦は数日程現実逃避したという。
何人いるのだろうか。
正論である。初見でこれを冷静に処理出来る者が果たして世界に
!
!
!
26
!
?
?
そんな可愛く二頭身で短い手足を付けて身長三十cmもあるか分
からないデフォルメされたぬいぐるみの様な存在がこの強さという
事が既に可笑しくはあるが。
﹁そう、ヨウちゃんだよ﹂
﹁ヨウちゃんは赤城先輩が放つ戦闘機の操縦妖精として何時の間にか
生まれてたっぽい﹂
﹁他の妖精さんと違って戦闘機が無くなってもああして自由に動ける
し、その強さも意味分からないくらいとんでもないの﹂
﹁あ ま り に も 意 味 分 か ん な く て そ の 内 皆 思 考 す る の を 止 め た っ ぽ い
⋮⋮﹂
﹁だから吹雪ちゃんも深く考えない方がいいよ。すぐに達観出来るか
ら﹂
﹂
またも交互に詳しく説明されたが、それで納得出来る程簡単な存在
ではないだろう。
﹁いやそんな事言われて││きゃっ
あまりの光景と話の内容に完全に戦場から気を逸らしてしまって
﹂
いた吹雪は、近くの海に着弾した敵の攻撃に驚き身を竦めてしまう。
﹁吹雪ちゃん
﹁あ⋮⋮﹂
態勢に入っていた。
避ける事は不可能。最早これまでか。死を覚悟した吹雪だったが
││次の瞬間には妖精⋮⋮ヨウちゃんから放たれたビームの様な攻
︶﹂
撃でその深海棲艦は消し飛んでいた。
﹁⋮⋮﹂
﹁︵ぐっ
アップしているのが分かった。大丈夫だ、こっちは任せろ、と言って
いるかのようだ。
そのままヨウちゃんは全身からビームを四方八方に放ち深海棲艦
を次々と沈めていった。
27
!?
そして目の前に急に現れた深海棲艦。すでにその深海棲艦は攻撃
!?
吹 雪 が 見 る と ヨ ウ ち ゃ ん が 吹 雪 に 向 か っ て 親 指 を 立 て て サ ム ズ
!
更には敵の数が減ってくるとビームを放つのを止め、近くに寄って
その小さな腕や足を振るって自分よりも遥かに巨大な深海棲艦を
木っ端微塵に粉砕していった。
終いには旗艦だと思われる人型の深海棲艦││深海棲艦の上位固
体は艦娘の様に人型をしている事が多い││に対してサブミッショ
ンらしき攻撃を仕掛けている。
あの短い手足でどうやっているというのか。その前に旗艦である
深海棲艦はその身をバリアらしき物で守っていたのだが、そんなもの
ヨウちゃんは殴って壊していた。深海棲艦も唖然である。
いまや敵旗艦はヨウちゃんの繰り出す数多のサブミッションで涙
目になっている。何度もタップを繰り返しギブアップを表現してい
るようだが、ヨウちゃんに容赦は無い。
周りの深海棲艦たちもリーダーを守りたいのだが、攻撃するとリー
ダーを巻き込んでしまうのであたふたしている。
﹂
敵深海棲艦撃破数三百二十六︵確認出来うる限りの数なのでこれ以
上の可能性有り︶。
その内八割が赤城︵その内更に九割がヨウちゃん︶による物である。
この情報は瞬く間に全鎮守府に伝わり、赤城最強伝説を更に膨らま
せる原因となった。
この戦果は全てが赤城の物となっている。これは軍としては当然
の情報操作だ。
敵深海棲艦を倒したのはヨウちゃんが殆どだが、それを馬鹿正直に
広めて信じる者がどれだけいると言うのか。馬鹿にされて終わりな
28
最早先程までの空気は何処かへ消え去っていた。吹雪はもう深く
考えるのを止めた。
﹄
﹁ヨウちゃん凄いねー
﹃ねー
◆
!
呉鎮守府近海海域奪還作戦成功。全艦娘帰還。
!
のが関の山だろう。
そもそも空母級が放った戦闘機の操縦者である妖精が敵を撃破す
ればそれはその空母級艦娘の戦果となるのだ。だからヨウちゃんの
戦果が赤城の戦果となっても別に不思議な事では無い。
﹁⋮⋮私の力ではないのですけど﹂
﹁いえ、赤城さんがいなければヨウちゃんも生まれていないわ。だか
ら赤城さんがそんなに気にする事はないの﹂
﹁︵コクコク︶﹂
がっくりと肩を落とす赤城を励ます加賀。そんな二人の肩をポン
ポンと叩き加賀の言葉を肯定するように頷くヨウちゃん。
妖精は話す事が出来ないからこうしてジェスチャーで感情や想い
を表現するのだ。
流石の規格外妖精もそこら辺は妖精の範囲内に収まっているよう
だ。もっとも、戦闘機乗りの妖精だというのに自由に出歩ける時点で
どうかと思うが。
﹁加賀さん、ヨウちゃん、ありがとう﹂
赤城の礼の言葉にヨウちゃんはぐっと親指を立てて応える。
そんな仕草に赤城は笑みを浮かべる。ヨウちゃんがどういう存在
なのかは解明されてないが、心優しく赤城の、いや艦娘の味方だとい
うことは確信を持って言えた。
だったら他の妖精のように信頼して接するだけだ。
さて、赤城が改めてヨウちゃんへの信頼を確認しその絆を深めてい
るところで、ヨウちゃんという規格外妖精について説明しよう。
率直に言えば、彼女は転生者と呼ばれる存在である。転生者と言え
ば読んで字の如く死して生まれ変わった者だ。
仏教徒であればこの世の生物は命が輪廻転生して巡っているのだ
と信じているだろう。実際はどうなのか転生者であるヨウちゃんに
も完全には理解出来てはいないが。
普通の輪廻転生と違い、ヨウちゃんには生前⋮⋮前世の記憶が残っ
ているのが特徴か。
29
それはそういう能力をかつてのヨウちゃんが作り出したことが原
因だ。
これはとある目的の為に意図して作り出した能力だったが、それが
意図していない結果を生み出してしまった。
それが転生人生である。ヨウちゃんは死んでは生まれ変わり死ん
では生まれ変わりを繰り返すようになったのだ。
しかもその能力をある程度の制限があるとは言え引き継いで生ま
れ変わっていく。記憶があるから技術なども引き継げる。
つまり生まれ変われば生まれ変わる程に強くなっていくのだ。も
ちろん様々な要因により前世より弱くなる事も有るには有るが。
ともかく、そんな延々と続く転生人生を歩んでいたが、これは真実
永遠に続くわけではない。終わる方法が幾つかあるのだ。
その最たる方法が自殺である。自殺をすれば転生の能力が発動し
なくなるというルールを能力の中に組み込んでいるのだ。
30
最も、今の彼女に自殺をするつもりはない。それは負けの様な気が
するのだ。まあ本当にどうしようもなく生に疲れたら自殺をするか
もしれないが。
︶も
今は生まれ変わったら以前の人生は大事な事以外忘れ、今の人生を
楽 し も う と 割 り 切 っ て い る よ う だ。現 在 の 妖 精 人 生︵妖 精 生
中々刺激的で楽しんでいるヨウちゃんである。
もう一つ⋮⋮最後に残された方法。それは女性と性交することで
さっぱり忘れている条件であった。
してきている。正直ヨウちゃん自身この確率については完全に綺麗
ちなみにこうして今も転生している事からこれまでは確実に発動
れてすぐにでも死ねば発動確率はほぼ0%だろう。
長く生きれば生きるほど転生の能力は発動しやすくなるのだ。生ま
確率とは、能力発動が絶対ではないことを現している。その人生で
る方法が有る。
他の転生を終える方法としては、単純に確率の問題と、もう一つあ
?
それはヨウちゃんの最初
この転生能力が消滅するというものだった。
なぜこの様な条件を組み込んだのか
?
の人生が大きく関わっているのだが、ここでは記す事も憚られる。
とにかくヨウちゃんはこれまでの人生で女性と一度たりとも性交
する事なく過ごしてきた。
それは別にヨウちゃんが女性嫌いという訳ではない。⋮⋮単純に
一度もその機会が巡ってくる事がなかったのだ。
大抵は女性として生まれてきた。性別がある生命に転生すれば性
別の確率はほぼ半々だ。
だが運が悪いのか、何故かほぼ全て女性として生まれてきたのだ。
女性に生まれれば余程の状況にならない限り女性と性交などするわ
けがない。
一応は男性として生まれる事も有るには有った。だが、男性という
か、それは雄だった。
雄。人間には使われない性別の総称だ。つまりはその時は人間で
はなく異種の存在だった。異形である。
そして同種の雌ももちろん異形だ。精神は人間であり、その美的感
覚も人間のままである当時の彼には同種との性交は御免であった。
結局彼││当時のヨウちゃん││はその生涯を童貞で終えた。最
後は涙したのを覚えている。こればかりは今もなお忘れる事が出来
ない悲しい記憶となってこびりついていた。
さて、そんな彼︵彼女︶が巡り巡って生まれ変わったのが、妖精で
あった。
初めて意識が出来たのは戦闘機の中であった。これには流石に驚
愕である。今まで生まれた時は当然赤子なのが殆どなのに、急に意識
が浮上したと思ったら戦闘機の中なのだ。
戦闘機の操縦は何故か理解出来た。これは戦闘機の操縦妖精に生
まれつき備わっている特性なのだろう。
だがそれを別としていきなりの状況に久しぶりに戸惑っていたヨ
ウちゃんはいきなり敵の機銃に被弾。そのまま戦闘機は無残に爆発
四散した。
しかしそこは百戦錬磨どころか百生練磨というくらいに戦い続け
て来た経験を持つヨウちゃんだ。
31
戦闘機が四散する前に中から飛び出し、状況を確認。海面には多く
の異形︵深海棲艦︶が存在、本能としてそれらを敵と判断する。
後はまあ説明するまでもないだろう。結果だけを述べよう。哀れ
深海棲艦は海の藻屑と化した。
そこからは産みの親とも言うべき赤城に驚かれたり、加賀に驚かれ
たり、秘書艦を呆然とさせたり、間宮で特盛り餡蜜を食べてご満悦し
たりと楽しい日々を送っているわけだ。
﹁こらヨウちゃん待ちなさい。まずは入渠して汚れを落としますよ﹂
﹁︵⋮⋮こくこく︶﹂
いつもの様に戦闘を終えて間宮にて好物の餡蜜を食べに行こうと
したヨウちゃんだったが、そこは赤城によって止められた。
傷は付いてないが戦場故に汚れはある。砲弾が飛び交う中にいた
のだ。煤汚れなどは流石にあった。
楽しみにしていた餡蜜が少しお預けされたが、まあ入渠︵お風呂︶は
32
嫌いではない。というか元日本人なヨウちゃんなので大好きと言っ
ても過言じゃなかった。
すぐに赤城の言葉に嬉しそうに頷き、そのまま赤城の肩に乗って共
に風呂場を目指す。
﹁お風呂が終わったら一緒に餡蜜を食べに行きましょう﹂
︶﹂
﹁私も行くわ﹂
﹁︵ぐっ
でいるようであった。
ままならない転生人生を送っているが、彼女は何だかんだで楽しん
ズアップしていた。
入浴後の餡蜜を楽しみに思い笑顔全開のヨウちゃん。全力でサム
!
NARUTO 第一話
かつて、戦国の世があった。
そこではチャクラと呼ばれる特殊な力を操る者達が血で血を洗う
戦いを繰り広げていた。彼らはこう呼ばれていた。忍、と。
国々が自国の利権や領土拡大の為に争い、その戦力として忍は一族
単位の武装集団として国に雇われ戦争に参加していた。
更には国の戦争に関係なく、いや戦争で多くの仲間や家族を殺され
た恨みや悲しみが広がったせいで、戦争以外でも忍は多くの一族がい
がみ合い殺し合う様になっていった。
そんな戦国時代、忍と国民の平均寿命は僅か30歳前後と言われて
いる。
その平均を大きく下げていたのは、多くの幼い子ども達の死だっ
た。
10歳にも満たない子どもが忍として戦場に出てその多くが死に、
そして国民もまた戦争の巻き添えとして子どもを含めて死んで行く。
いつまで続くのか、いつ終わるのか分からない地獄の様な時代。そ
れを地獄だと思わず常識だと認識してしまう世の中。
そんな時代に、ある一人の少女が生きていた。
彼女の名は日向ヒヨリ。忍の一族でも有名な日向一族、その宗家の
姫君である。
ヒヨリはこの戦国の世を憂いでいた。他の忍と違い、ヒヨリは殺し
を好まなかった。
いや、他の忍も好んで敵を殺す者は少なかったが、それでも敵は殺
す物として当たり前に思っていた。
だがヒヨリはそうではなかった。国の利権の為に雇われ、一族の利
権の為に敵を殺す。そんな生き方しかしらない自身の一族や他の一
族を哀れに思っていた。
何故ヒヨリがその様な考えに至ったか。それは彼女が前世の記憶
を有した転生者であるからだ。
平和な世界で生き、平和に育った経験を持つヒヨリにとって、この
33
戦国の世しか知らない人々は憐憫の対象となったのだ。
いや、大人ならばいい。大人が大人の都合で戦いに生きるのは否定
しない。ヒヨリとて争いはともかく競い合う意味を持った闘いなら
ばそこまで嫌いではない。
だが、子どもを巻き込むなら話は別だ。戦争に子どもを投入し、十
にも見たない歳の子が殺されていく。そんな世の中は間違っている。
だからこそ、子どもを戦争に加担させる事が当たり前だという常識
が、ヒヨリには我慢出来なかった。
大人が大人の都合で、国が国の都合で戦争しているならばヒヨリも
特に思うところはなかっただろう。
国にとっての戦争とは政治の延長という側面もあるだろうし、場合
によっては戦争をしなければ国が滅んでいた事態もある。戦争の全
てを否定はしない。
もちろん自国が一方的に他国に攻撃されて滅ぼされるのを許容す
るわけはないが。
それは別として、子どもを刈り出してまで殺し合いを繰り返すこの
世界の常識はヒヨリには受け入れがたかった。
あ る 日 の 事。ヒ ヨ リ は 日 向 一 族 の 集 落 を 抜 け 出 し 一 人 木 の 上 に
立っていた。
いつまでも続くこの戦国の世に気が滅入り、少し気分転換をする為
にこうして景色を眺めていたのだ。
高い所から目を凝らせばどこまでも遠くを見渡せるような気がす
るのでヒヨリは高所が好きだった。
ヒヨリはその両目を白眼へと変化させ、周囲360度全てを見渡
す。
白眼。これは日向一族が保有する血継限界と呼ばれる特殊な力で
ある。
血継限界とは忍がチャクラを練って生み出す術では再現出来ない
特殊な力の事を指す。
その希少な能力の中でも白眼は三大瞳術と呼ばれ恐れられていた。
34
その能力はほぼ360度に渡る視界と透視能力に望遠能力、そして
個人レベルでのチャクラの性質を見抜く事も出来るという優れ物だ。
優れたチャクラ感知能力を持つ忍もチャクラの性質に関しては同じ
事が出来るが、白眼だとそれ以上の精度で見抜く事が出来る。
それだけではない。人体にあるチャクラの流れ││経絡系││や、
その白眼の瞳力が強い者はチャクラ穴││点穴とも呼ばれる││と
言われる経絡系上にあるツボも見極める事が出来るのだ。
これらは戦闘に置いても感知に置いても非常に優秀な能力であっ
た。だからこそ日向一族は忍の中でも強者として名を馳せていたの
だ。
こ の 白 眼 の 能 力 は ヒ ヨ リ の 今 ま で の 人 生 で も 得 た 事 の な い 力 だ。
特に透視と望遠の能力は便利に思っていた。
というか、ぶっちゃけそれ以外の白眼の能力は大抵がヒヨリの経験
で補う事が出来ていた。白眼を発動させなくても経絡系を感じ取れ
る事がその証拠であろう。
これは日向一族には絶対に秘密にしている事である。言えば多分
へこむ。経験だけで白眼が真似られては悲しくてならないだろう。
ともかく、ヒヨリはこうして高所から白眼にて遠くを見渡すのが最
近の楽しみになっていた。
集落にいるとやれその力を一族の為に使えだの、敵を殺すのを躊躇
うなだの年寄り共が煩いのだ。
彼らもヒヨリの非凡な力を理解しつつあるのでヒヨリに期待して
そう言っているのだ。ヒヨリとしてはたまったものではなかったが。
そうして今日も年寄りの小言から逃げ出し遠方を見つめる。新し
い発見はないかと色々と見通すのだ。
ちなみにこれまでに幾つもの忍一族の集落や村などを見つけてい
る。ヒヨリがその気だったならば既に幾つかの集落が日向によって
滅ぼされていただろう。
それだけヒヨリの望遠能力は優れていた。並外れたチャクラを白
眼へと注ぎ込む事で桁違いの距離を見通す事が出来たのだ。
そんな風に遥か遠方を眺めていたヒヨリは気になるものを見つけ
35
た。
それは二人の少年だ。どうやら川原で戦っているようだ。だがそ
こに殺気は感じられない。恐らく同じ一族なのだろう。鍛錬でもし
ているのだろうか。
そう思ったヒヨリは白眼で見た二人のチャクラ性質でその考えを
否定した。
︵これは⋮⋮二人のチャクラ性質が違い過ぎる︶
チャクラは個人個人でその性質が異なる。これは指紋と同じ様な
もので完全に一致するチャクラ性質を持つ者はいない。
なのでこの二人の少年のチャクラの性質が異なっていたとしても
それはおかしな事ではないのだ。
だが、それでも似たようなチャクラの性質という物はある。それは
家族や一族など近しい血縁関係にある者達のチャクラ性質がそう
だった。
36
この二人は完全に別物のチャクラ性質を持っていた。いや、どこか
似ていると言えば似ている様に何故か感じるが、その性質はやはり別
物だ。
つまりこの二人は同じ一族の忍ではないということだ。だとした
らやはりこれは別の忍一族同士の殺し合いなのだろうか
﹁⋮⋮いや、やはり殺気はない﹂
いたのだ。
しかしその考えも否定した。ヒヨリは二人のチャクラ性質を見抜
た。それでもこうして共に研鑚を積む事はまずない事だが。
大抵は争うしかないが、稀に忍同士で手を組む事はあるにはあっ
とヒヨリは考える。
もしかしたら彼らは同盟を結んでいる忍の一族なのかもしれない
﹁これは⋮⋮﹂
に再戦したり、別の勝負方法で競ったりしている。
そして勝った方はひたすら喜び、負けた方はすごく悔しがり、すぐ
戦っていた。完全に鍛錬の為の組み手としか思えない。
ヒ ヨ リ は 思 わ ず そ う 呟 く。そ れ ど こ ろ か 二 人 は 実 に 楽 し そ う に
?
﹁千手と、うちはだと
﹂
千手一族とうちは一族。それは日向に勝る程の知名度を持つ忍一
族である。有名故にヒヨリも戦場で見かけた事があり、そのチャクラ
性質も見た事があった。
二人のチャクラ性質はこのそれぞれこの二つの一族に似通ってい
た。まず間違いなくその一族に名を連ねる者達だろう。
しかも二人の動きやチャクラの練り方、術の練度からして、まだ少
年だと言うのに並の大人よりも強いという逸材であった。余程の才
を持って生まれたのだろう。
そんな二人がどうしてこの様に楽しげに共に在るのか、ヒヨリは理
解に苦しんだ。
二つの一族は敵対している事で有名なのだ。両一族は共に強大な
力を持つので、戦争で千手を雇えば対抗する為にうちはが、そしてそ
の逆の立場が良く起こっていた。
だというのに、敵対する一族同士でこうして研鑚を積むなど有りえ
ないだろう。
そればかりか二人はこの世界の未来についても話し合っていたの
だ。これにはヒヨリも驚愕である。
⋮⋮ちなみにあまりに遠方なので当然会話は聞こえていないが、口
の動きからその内容を把握していた。ストーカー真っ青の能力であ
る。
それはさておき。二人の会話から、互いに一族の名を知らないのだ
ろうとヒヨリは感づいた。
姓を見ず知らずの相手に口にしない。それが忍の共通の掟だ。姓
を知られればそれが殺し合いに発展する事は多いのだ。
それでも、二人は互いの姓を知らぬままでも、お互いに今の世の中
をどうすれば変える事が出来るのかを話し合っていた。
少年だからだろう。方法は見つからずともどうにかして未来を良
くするんだという意気込みに溢れていた。
そんな二人を見て、ヒヨリは思った。
︵この、二人となら︶
37
?
二人の少年と比べて打算的な己のその思考に嫌気が差すヒヨリ。
だがそれでもやらなくてはこの世界は変わりはしない。この二人
と共にならば今の世を変革する事が出来る。
日向一族だけでは多くの忍を屠らなければ実現は難しくとも、この
二人と、そして千手一族とうちは一族と共になら⋮⋮。
思い立ったが吉日という奴だろう。ヒヨリはすぐにその場から飛
び立ち二人の少年││千手柱間とうちはマダラの元へと向かった。
それが⋮⋮悲劇を生んだ。もしヒヨリがもう少し熟考してから行
動に移していれば、起こらなかっただろう悲劇が⋮⋮。
◆
千手柱間とうちはマダラ。千手一族とうちは一族、両一族きっての
才能を誇る少年達は、偶然川原で出会ってから互いに無二の親友と
なった。
いや、偶然ではなかったのかもしれない。互いが川原にやって来る
のは川を見ていると心の中の嫌な気持ちが流れるような気がすると
いう同一の理由だったから、二人の出会いは必然だったのかもしれな
かった。
出会ってすぐに二人は同じ理由で川原へ来ているのだと直感した。
性格は違うが互いに何か通じるものを感じた二人はすぐに惹かれ
合っていった。
そして互いにこの戦乱の世を憂い、変えようとしていることを知
る。
それは今の世にあって異端と言っても良い考えだ。誰もが自分た
ちの一族の繁栄と、そしてそれ以外の一族の打倒を願っている。
それが当たり前の考えの世の中で、こうして同じ理想を持つ者同士
が出会えた事は奇跡に等しかっただろう。
互いの理想を知ってから、二人はちょくちょくと会う様になった。
姓は互いに知らないまま、忍の技を競い合ったり未来について話し
合ったりしたのだ。
38
まだ理想が高すぎて実力も手段も追いついてはいなかったが、それ
を覆すべく力を付けるべく共に研鑚していた。
そんなある日の事だ。いつもの様に組手で力比べをし、休憩がてら
に未来について語り合う。
いつもと同じ日々だ。辛い世の中だが二人で理想を目指すのは互
いの最大の楽しみだった。だが、その二人の日々は早くも終わりを告
げる事となった。
﹁でも具体的にどうやったら変えられるかだぞ。先のビジョンが見え
ないと⋮⋮﹂
﹁まずはこの考えを捨てねぇことと、自分に力をつけることだろが。
弱い奴が何を吠えても何も変わらねぇ﹂
理想実現に必要な事は何か。未だ具体的な方法は見つからないが、
何をするにも力は必要だとマダラは言う。
それは柱間も理解していた。どんなに崇高な理想を語ろうとも、こ
の戦乱の世でそれを示すには一定以上の力が必要だ。力のない理想
を語っても、それは騙りにしかならない。
﹁そだな⋮⋮とにかく色々な術をマスターして強くなれば、大人もオ
レ達の言葉を無視できなくなる﹂
﹁苦手な術や弱点を克服するこったな⋮⋮まあオレはもうその辺の大
人より強ェーけどよォ⋮⋮﹂
マダラの言葉は嘘ではない。二人は少年と呼ばれる歳でありなが
ら既に並の大人を凌駕する実力を有している。
そんな自信のある言葉を吐きながら、マダラはその場を離れ下に川
が流れる崖の端まで移動した。
何をするのか疑問に思った柱間だったが、すぐにマダラの行動を理
解した。
立ちションである。
それを理解してすぐに柱間はマダラの真後ろに立とうとした。
そうすれば小便が止まる繊細なタイプだと以前にマダラが口走っ
た事を思い出したからだ。
39
それを確認してやろうと悪戯心を出し、柱間は気配を消してマダラ
の背後に立つ。
そして⋮⋮悲劇は起こった。
﹁フウ∼∼⋮⋮﹂
小便が川に落ちる音が響く。だがそれもすぐに止まってしまった。
マダラの小用が終わったわけではない。柱間が後ろに立った為に
﹂
集中出来ずに小便が止まってしまったのだ。
﹁⋮⋮﹂
﹁ホントに止まるんだ⋮⋮﹂
﹁だからオレの後ろに立つんじゃねェーー
﹄
抱く。
そうして二人は急な訪問者に振り向く合間の一瞬で様々な想いを
との日々が終わってしまうのだから。
うであれば、この好敵手とも、同じ理想を求める同胞とも呼べる親友
二人はこの相手が自分達の一族ではない事を咄嗟に祈る。もしそ
う。
ない。ならばこの訪問者とも敵対する可能姓は高い、高すぎるだろ
柱間とマダラの理想は未だ理想であり忍の世に欠片も浸透してい
友だとしても、それは例外中の例外に過ぎない。
忍の世は敵だらけだ。例え二人が別の一族でありながら無二の親
に、二人は急な訪問者が忍であると察する。
上空から降り立つという、明らかに一般人の登場方法ではないそれ
反応して何があっても対応出来るように構えようとする。
二人の更に後ろに突然発生した気配に驚愕しつつも、二人はすぐに
﹃
り立ったのは。
その時だ。マダラの後ろに立つ柱間の、その更に後ろに急に人が降
マダラは後ろに立つ柱間に怒鳴りながら文句を言う。
!!
そして二人が振り向いた先に見た者は⋮⋮同年代くらいの少女で
あった。
40
!?
だが少女であろうと忍は忍。年齢や性別などそこに関係ない事を
二人は嫌というほど理解していた。
それを変えたいと思っている矢先にこうして別の一族と出会って
しまうのか。そう思っていた二人だが、少々少女の反応が可笑しい事
に気付く。
何か目的が有ってこの場に来たのは明白だ。そうでなくては二人
が一緒にいるこの場に現れる理由がない。
理由としては互いの一族の者が別の一族と出会っている為に相手
を殺しに来たのか。
二人は同時にそう考える。どちらもこの少女と初対面なので、互い
に相手の一族の者なのだと想像したのだ。
もう一つはどちらの一族の忍でもなく別の忍一族の者かという所
か。こうして別の一族を発見した為に少しでも戦力を減らす為に二
人を殺しに来たのか。
41
それならば一人で来るとは考えづらい。恐らくどこかに伏兵がい
るだろう。そう思い目の前の少女だけでなく伏兵も警戒する。
だが、警戒する少女は二人を見て何故か視線を逸らした。
いや、二人ではなくマダラを見て、だ。それはマダラも、そして柱
﹂
間も視線と気配で理解した。
﹁お前⋮⋮何者だ
まだ敵と決まった訳ではないぞ それに彼女に敵
﹁待てマダラ
﹂
意は見られん
どっかに他の敵が潜んでるかもしれないぜ ﹂
!
少女に敵意はなく、しかしだからと言って演技の可能性もある。警
どちらの言う事も正しく間違ってはいない。
こうしてるのはオレ達を欺く演技の可能性もある
﹁油断すんな柱間
!?
!
!
いかなかった。
何故か顔を赤らめていたりと様子が可笑しいが、警戒しない訳には
て来たとしか思えない登場の仕方だ。
柱間と出会った時は偶然かもしれないが、この少女は二人を目指し
様子の可笑しい少女にマダラは警戒心を顕わにする。
!?
!
!
戒心を解く理由にはならないだろう。
流石に少女との出会い方が悪かった。あれではこの戦国の世で警
﹂
戒するなという方が難しい。
﹁何の目的でここに来た
﹁えっと⋮⋮その⋮⋮﹂
言葉を選んで話せや
﹂
﹁男の⋮⋮気持ち⋮⋮﹂
イドはズタズタだ
﹂
﹂
マダラの男としてのプラ
少しは男の気持ちを理解して
ヒヨリの精神攻撃 効果は抜群だ
!!
意味わかんねぇわ
!
﹁もういいっつってんだろお前よー
可愛い物を見させてもらったといいますか﹂
互いに子どもじゃないですか。まだご立派な物でもなかったですし
﹁でも、その、見てしまいましたし。いえ私は気にしてないんですよ。
﹁いや⋮⋮もういいよ﹂
である。
ば、ヒヨリの到着が少しでも前後していれば、起こり得なかった悲劇
が僅かでも前後していれば、柱間がマダラの後ろに立とうとしなけれ
タイミングがとことん悪かった結果だ。マダラが小用を催したの
いたようで、まさか小用中だったとは思ってもいなかった様だ。
戦乱の世を変えてくれるかもしれない人材の発見に少々浮かれて
びしょ濡れの服で焚き火に当たるマダラにヒヨリは土下座する。
﹁何かすいませんでした﹂
◆
後に延々と笑い話にされるマダラの悲劇であった。
││マダラは崖から飛び降りた。
﹁その、股間⋮⋮見えてますよ
それがさらにマダラの警戒心を大きく刺激し││
マダラの詰問に対して少女は答えにくそうにうろたえている。
!?
﹁何でお前が落ち込んでんだよ
!
! !?
42
?
!?
!
マダラの言葉によってもはや男であった頃の気持ちなど記憶の残
﹂
効果は抜群だ ヒヨリは精神に多大なダメー
滓にも残ってないなぁと思いださせられたのだ。
マダラの反撃
ジを受けた
!
何言ってんだ柱間
﹁││だ﹂
﹁あ
!
!
﹂
!?
﹂
!?
﹁がぁ
﹂
﹂
どっかに他の敵が潜んでるかもしれないぜ アハハハハハハハハハハハッ
﹂
!!
﹁お前も笑ってんじゃねーっ
﹂
まあ、それを見てどう判断するかは人それぞれなのだが。
は見てて飽きる事がないな、と。そう思い、心から微笑んだのだ。
どれだけ永く生き、どれだけ経験を積もうと、こういったやり取り
そんな仲の良い二人を見てヒヨリはくすりと笑みをこぼす。
﹁ふふっ﹂
の範疇なのだろう。
と言っても互いに殺意はない。これくらいは親友同士の悪ふざけ
へと発展していった。
当然マダラがそれに耐えられる訳もなく、二人はそのまま殴り合い
マダラを煽っていく柱間。
股間を晒した状態で放ってしまった台詞を真似する事でとことん
﹁元はと言えばお前がオレの後ろに立ったのが原因だろォがァァ
﹂
⋮⋮股間おっぴろげて言う台詞ではない
こうしてるのはオレ達を欺く演技の可能性もある
!
﹁何の目的でここに来た
!
!!
ぞ
!
﹁油断すんな柱間
柱間のごく最近どこかで聞いた様な台詞にマダラが噴き出した。
﹁ぶふぅ
﹁お前⋮⋮何者だ
そして柱間はどこかキリッと表情をきつくしてこう言った。
柱間が何かしら呟いているのをマダラが気付いた。
そんな風にヒヨリとマダラが互いの心にダメージを与えている所、
?
!?
!?
﹁あはは、ああ、ごめん。嬉しくてつい﹂
!?
43
?
!
﹂
お前は一体何者
?
﹁⋮⋮ふん。何が嬉しいのやら。変わったやつだ﹂
そんな事より
﹁まあ恥ずかしいのは分かるが少女に当たるのはどうかと思うぞ
﹂
﹁お前はしつけーんだよ柱間ァ
だおい
!
!
﹄
﹂
る事はただ一つ。
﹁⋮⋮﹂
マダラは無言で苦無を構える。柱間も苦無を構えてはいないがや
くない
そしてこの忍が争う戦国の世にあって、他の一族と出会った忍がす
る場合の話で、自ら積極的に教える理由にはならないだろうが。
と言ってもそれは日向一族について多少なりとも知識や対面があ
だった。
そのせいで瞳を見れば日向一族だとばれる可能姓は大いにあるの
や薄紫がかった白色と言った所か。
ヒヨリの言う通り、日向一族は常に瞳の色彩が薄い。具体的にはや
しょう
かってますからね。どうせばれるなら初めから教えても問題ないで
﹁いやぁ、日向って白眼にならなくても瞳が解りやすいくらい白みが
言葉を続ける。
そんな前代未聞の自己紹介をしたヒヨリは唖然とする二人に更に
も過言ではないかもしれない出来事だ。
それを出会って十分足らずの相手に教えるなど前代見聞と言って
全忍の不文律とも言うべき掟なのだ。
当たり前だ。忍の姓は見知らぬ相手に教える物ではない。これは
ヒヨリのいきなりのカミングアウトに柱間もマダラも驚愕する。
﹃
ちゃけ日向一族の忍です。よろしく﹂
﹁えっと、今更ですが初めまして。私は日向ヒヨリと言います。ぶっ
たくはないものだ。
それも致し方ないだろう。誰だって自分の恥部の話を蒸し返され
たというべきか。
ようやく話が本題に戻ったようだ。いや、マダラが無理矢理に戻し
!?
?
44
!?
はり警戒している様だ。
それを見て、やはり早過ぎたかとヒヨリは落胆した。もちろん名前
だけで自己紹介をすませた方がいいのはヒヨリも理解していた。
これが偶然出会ったのならばそれで良かっただろう。その時はヒ
ヨリも姓までは名乗らなかっただろう。無駄な争いなど好むヒヨリ
ではない。
しかしヒヨリは目的が有って二人に接触した。その目的はもちろ
んこの忍の世の変革の為だ。
だと言うのにだ。姓も名乗れずにどうして忍の世が変革出来ると
いうのだ。それでは今までと何も変わらないではないか。
たかだか姓を名乗るだけだが、この世界では大きな一歩なのは理解
している。だが、それでも前に歩まなければ作りたい未来に辿りつけ
る訳がない。
ヒヨリは柱間やマダラの警戒心が籠もった視線を受けても目を逸
45
らすことなく二人を見据える。
││けどやっぱり早過ぎたかなぁ。もうちょっと仲良くなってか
らでも良かったかなぁ。
などと内心動揺していたが、それはおくびにも出していない。これ
も長年の経験による賜物である。
﹃⋮⋮﹄
柱間もマダラも、ヒヨリに対してどうすればいいのか考えあぐねて
いた。
敵意があれば交戦していただろう。だがヒヨリからは微塵も敵意
は感じられない。
そして何より、あんな出会い方をして、あんな馬鹿なやり取りをし
て⋮⋮そんな相手をすぐに敵だと見做したくなかったのだ。
そんな二人の葛藤を知ってか、ヒヨリはその口を開いた。
﹄
﹁姓も⋮⋮名乗れない世の中なんて⋮⋮嫌なんですよね私﹂
﹃
柱間もマダラも、互いの姓を知らずにいる。
それは二人の願いの根源の一つだ。
!?
そんな世の中を変えたいと願ってこうして二人で共に研鑚を積み、
方法を論じてきた。
だが、そんな二人なのに未だに互いの姓を知らない。それは今まで
にも何度も気に掛けていた事だった。
相手に教えたい。だがそうするとこの関係は崩れてしまう。それ
は恐らく確実な事だろうと互いに予想していた。
だが柱間は悩み逡巡した末に、意を決した様に面を上げて言葉を発
した。
﹂
﹁オレは⋮⋮オレの名前は⋮⋮﹂
﹁止めろ柱間
それをマダラは止めた。柱間が何を言おうとしたのか理解したの
だ。
それを聞けばマダラは柱間を許せなくなる。今まで柱間と接して
きてそう感づいているのだ。
解ってる
いたのだ。
千手柱間ぞ
お前の言いたい事は だが、オレ達の作
有し、相手に幻術を見せたり、催眠に掛けることも可能。
その能力は凄まじいの一言に尽きる。ずば抜けて高い動体視力を
それはうちは一族特有の血継限界、写輪眼である。
ていた。
そう名乗ったマダラの瞳に小さな勾玉の紋様が一つ浮かび上がっ
﹁オレは⋮⋮うちはマダラだ﹂
を感じ取り、自らの姓を名乗った。
もう今までの関係は終わりを告げてしまったのだ。マダラもそれ
言った。名乗ってしまった。最早後戻りは出来ない。
﹁オレは
﹂
を。そしてマダラの姓がなんであるかを、マダラと同じ様に感づいて
柱間もまた理解していた。マダラが自分の姓を知ってどう思うか
﹂
!? !
聞きさえしなければ知らなかったですむ。だが、知ってしまえば
⋮⋮。
﹁マダラ
!
!!
46
!!
りたい忍の世は、姓を名乗れぬ世界ではないぞ
!
!
その上、体術・幻術・忍術の仕組みを看破し、またその術をコピー
して自らの物とする事が出来る。全ての術を無条件でコピー出来る
わけではないが。
写輪眼は成長すると瞳に勾玉が三つ浮かび上がる様になる。つま
りマダラの写輪眼はまだ完全ではないという事だ。
だがそれでも十分過ぎる能力を持つのが写輪眼だ。日向一族の白
眼と共に三大瞳術に数えられている程の物である。
そしてその開眼条件はかなり特殊である。
それは、うちは一族の者が激しい感情の変化が起きた時、脳内に特
殊なチャクラが噴き出し、視神経に反応して眼に変化が現れて写輪眼
となるのである。
つまりマダラは写輪眼が開眼する程に激しい感情の変化が起きた
という事だ。
﹁柱 間 ⋮⋮ お 前 は 千 手。何 と な く そ う じ ゃ な い か っ て 思 っ て た。で
そんな事はない
﹂
オレ達は分かりあえただろ 別の道
!
!?
47
も、出来れば違ってほしかった⋮⋮オレの兄弟は千手に殺された﹂
そ れ が マ ダ ラ に 激 し い 感 情 の 変 化 を も た ら し た 要 因。マ ダ ラ に
取って千手一族は家族の仇だったのだ。
そしてそれだけではない。真に写輪眼を開眼した理由、それはマダ
ラが柱間と敵対する事を決意したからだ。
柱間と敵対する事を決意した事で激しい感情の変化をもたらすほ
ど、マダラは柱間の事を親友として認めていたという事である。
そして、そんなマダラの告白は柱間にも苦しい過去を思い起こさせ
た。
そうか⋮⋮やっぱりオレ達は殺しあうしかないようだな﹂
﹁オレの⋮⋮オレの兄弟も、うちはに殺された﹂
﹁
﹁違う
もあるはずだ
!
!
だが、マダラと同じ境遇であるはずの柱間の考えは違った。
り合えるわけもないだろう、と。
互いに兄弟をそれぞれの一族によって殺されたのだ。最早手を取
柱間の告白を聞き、マダラはこうなるべくしてなったのだと思う。
!?
柱間は、この状況でなおマダラと手を取り合う未来を捨てていな
かったのだ。
お
それがマダラには信じられなかった。マダラの中には千手に対す
オレは弟を殺した千手が憎い
﹂
でも、そうやって
!
る憎しみが今も渦巻いている。
﹂
﹁どうしてそんな事が言える
前だって
﹁オレだって 憎くないと言えば嘘になるさ
!
ずっと憎しみだけで戦っていけば結局何も変わらないぞ
!
!
﹂
﹂
!?
﹂
﹂
これ以上、兄弟を失いたくなかっ
!
オレは、オレはこれか
!
﹂
ら生まれてくる仲間や家族にこの地獄の様な世界を見せたくないぞ
﹁オレ達にはまだ守りたい者がいるだろう
柱間の必死な言葉がマダラの心に突き刺さる。
﹁ッ
たからだろ
な世界に嫌気が差したからだろ
﹁オレ達がこの世界を変えたいと願ったのは、幼子が戦場に出るこん
﹁それがどうした
﹁オレも、4人兄弟だった。そして、一人だけ弟が残っている﹂
﹁⋮⋮一人だけ、弟が残っている﹂
のか
﹁マダラ、お前は5人兄弟と言ってたな⋮⋮もう、一人も残っていない
守っているのだ。
今はこうして互いに思っている事をぶつけた方がいいと思って見
ヒヨリ。
そんな二人と違い、どこで声を掛けたらいいのかタイミングを計る
二人の様々な感情が入り交ざった討論は加速していく。
!
!
!
それはマダラとて同じ想いだ。だからこそマダラは柱間と意気投
合し、今まで共にいたのだから。
﹁オレは集落を作りたい そこでは子どもがちゃんと強く大きくな
るための訓練する学校があるんだ 個人の能力や力を合わせて任
!
!
48
?
!
﹁それは⋮⋮﹂
!
務を選べる様にする
依頼レベルをちゃんと振り分けられる上役
﹂
そうすれば子どもを激しい戦地へ送ったりしなくていい、
﹂
そんな物は夢物語だ
そんな集落だ
﹁何を⋮⋮
﹂
でもお前が協力してくれたらきっと実現出来る
だから頼むマダラ
!
夢物語に希望を感じたのだ。
﹁今は夢だ
レと同じ夢を見たお前となら
!
オ
と、最後に残ったたった一人の弟を守る事が出来るのではと、柱間の
そしてそんな集落が出来れば、今度こそ弟を失わずにすむのでは
いる。だが、それでも確実に今よりは少なくなるはずだ。
人が生きている限り全ての不幸がなくなる事はないのは分かって
様に無闇に死んだりはしなくなる。
本当にそんな集落が出来れば、今みたいに幼子が使い捨ての道具の
もそう思った。
いや、夢かもしれない。だが実現してほしい。マダラは激高しつつ
!
を作る
!
﹂
共に夢を追ってくれ
﹁柱間何を⋮⋮
﹁頼む
!
!?
頼む
﹂
全てが終わった時、お前の憎しみをオレにぶつけてもいい
から頼む
だ
お前とならば夢は夢ではなくなる
無防備な柱間を殺す事などマダラには容易いだろう。
そう言って柱間は苦無を構えるマダラの前で土下座をした。今の
!
!
今でも千手は憎い。柱間に対してもまだわだかまりがあるだろう。
まったのだ。
そんな想いの丈をぶつけられてはマダラの怒りも恨みも薄れてし
になってまだ自分を信頼し、命がけで頼み込んできたのだ。
マダラはいつしか苦無を落としていた。目の前の馬鹿は、この状況
﹁馬鹿が⋮⋮出来てもいない集落を託されても迷惑なんだよ﹂
前になら任せられるからな﹂
﹁ああ。だが、それで最後にしてくれ。その後は集落を頼んだぞ。お
うのか﹂
﹁集落が出来たなら、夢が叶ったなら⋮⋮オレに、殺されてもいいとい
!
!
!
49
!
!
!
!
!
それでも⋮⋮弟を想い、弟が平和に生きていく世界を作りたいと願
う気持ちは柱間と同じだ。
﹂
そして、柱間とならそんな世界が作れると思っているのもまた同じ
だった。
﹁マダラ
苦無を落とし殺意が薄れていく事でマダラの戦意がなくなった事
を柱間は悟る。
想いが通じたのだと柱間は喜色満面の笑みを浮かべ面を上げた。
⋮⋮ 他 人 の、腑 を 見 る こ た ぁ ⋮⋮ 出 来
そこに見えたのは写輪眼ではなくなった瞳のマダラの顔だ。
﹁気 色 わ り ぃ 顔 見 せ ん な
ねー﹂
んだってな﹂
﹁マダラ⋮⋮
﹂
﹁だが、今回だけは信じてやる。お前のさっきの言葉が、腑を見せたも
音までは確認する術はないのだ、と。そうマダラは言った。
だが本当にそうする事は不可能だ。人の腹の中の奥、腑までは、本
て仲を深める事が出来ればと願っていた。
敵同士でも腹の中を見せ合って本音を語って隠し事をせず、そうし
それはマダラがかつて柱間に言った言葉。
!
信じる事が出来たのだ。
泣くなうっとうしい
お前落ち込みやすいだけでなく
﹁う、うう。オレは、オレは嬉しいぞ⋮⋮
﹁だぁぁ
﹂
!
﹂
いけませんね歳を取ると涙もろくなってしまっ
感激屋でもあんのかよ
﹁うう、感動です
﹂
!
その歳で何ほざいてんだ
!?
!
﹁そういやいたなお前よぉ
!!
て⋮⋮
!
﹂
そんな自分と同じ境遇の柱間だからこそ、その腑を見ずとも言葉を
に死す世の中を憂い、そんな世界を変えたいと努力している。
柱間だからこそ。互いにたった一人残った弟を想い、幼子が理不尽
ろう。
柱間以外ならば、マダラは相手が何を言っても信じはしなかっただ
!
50
!
!
!
だーだーと涙を流す柱間の横で、一連の話を聞いて感動して涙をほ
ろりと流しているヒヨリ。
歳を取るとなんて言っているが、どう見ても柱間やマダラと同年代
﹂
である。馬鹿にしてるのかとマダラが思っても仕方ないだろう。 ﹁で、結局お前は何なんだ
たかったら私の心を射止める事ですね﹂
﹂
﹁んなこと知りたくもないわアホがァァ
﹁え⋮⋮もしかしてホ││﹂
﹁ぶっ殺す
﹂
﹁マダラ⋮⋮お前オレの体を狙って⋮⋮﹂
﹁そこから先は言わせねぇぞ
﹂
﹁日向ヒヨリ。性別女性。年齢・体重・スリーサイズは秘密です。知り
?
ある。
!!
化してしまった。
﹂
﹂
﹂
⋮⋮という事はもちろんなかったが。
冗談ですってば
﹁冗談
避けるな
当たれば痛いでしょ
くそ
﹁この
!
オレが悪かったぞ
﹁落ち着けマダラ
﹁避けるよ
!
﹂
やっぱりお前とは相容れねぇぇぇ
!
この騒動は柱間とマダラが倒れこむまで続いたという。
!
!
﹁黙れこらぁぁぁ
﹂
哀れ。二人は殺意の波動に目覚めたマダラによって大地の養分と
﹃ぎゃああああああ
﹄
マダラの瞳に写輪眼が宿る。しかも勾玉は二つだ。本気の殺意で
!
!
51
!
!
!
!
!
!
!
NARUTO 第二話
﹃ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ﹄
﹁お疲れ様でした。いい勝負でしたね。僅差でマダラの勝利かな﹂
倒れ伏している二人の頭上。何時の間にか樹上へと避難していた
ヒヨリが二人を労う。
三人の騒動は次第に柱間とマダラのタイマンへと移行していった。
まあヒヨリがさりげなく柱間を盾にして逃げたせいだが。
そんな二人のタイマンはヒヨリの判定ではマダラの勝利と出た。
これまでの組手から柱間とマダラでは僅かに柱間の方が上であっ
たが、その僅かな差を写輪眼が覆した結果だろう。
﹁よ、よし、オレの⋮⋮勝ちだぜ柱間⋮⋮﹂
﹁ぐ、次は⋮⋮負けんぞマダラァ⋮⋮﹂
既に互いに勝負の原因については忘れてしまっているようだ。
﹄
出来る世界を作る事です﹂
﹃それは⋮⋮﹄
その夢は、二人と同じ夢だった。
52
マダラなんて柱間に辛勝とは言えまともに勝てたおかげでむしろ
機嫌が良くなっているくらいだ。
ヒヨリは樹上から降り立ち二人へと近づいていく。
﹂
﹁さ て、そ れ で は 私 が 何 の 為 に あ な た 達 へ と 近 づ い た の か を 教 え ま
しょう﹂
﹃⋮⋮あ﹄
﹁⋮⋮忘れてましたね
﹃夢⋮⋮
を貸してほしい事です﹂
﹁安心してください。私の目的は、私の夢を叶えるのにあなた達の力
いただろう。
もしヒヨリの目的が二人の命ならばこの状況なら確実に殺されて
勝負の原因どころかヒヨリの目的を暴く事すら忘れていたようだ。
?
﹁はい。私の夢は⋮⋮子どもが戦場に出ずに、自由に遊べて、学ぶ事の
?
﹁一族に関係なく子ども達は仲良く遊べ、一族に関係なく子ども達は
共に学び、一族に関係なく協力しあえる。そんな世の中であってほし
い﹂
﹁柱間と同じ夢⋮⋮﹂
﹁違うぞマダラ。オレ達の夢ぞ﹂
そう言ってくれる柱間にマダラは嬉しく思う。こういう奴だから
こそ、性格は違えど共にいる事が出来るのだと。
そんな二人を見てヒヨリも嬉しく思う。この二人となら絶対に成
し遂げられると。
﹁一人では無理だと思っていた。そうして今の世の中を憂いているだ
﹂
けだった。でも、あなた達を見つけてそれが夢ではなくなったと思い
ました﹂
﹁⋮⋮どうやってオレ達を見つけたんだ
﹄
﹂
この時勢にあって違う一族同士の子どもが一緒に仲良く修行
﹁だからと言って覗くかおい﹂
したり語りあっていたら気になるのも仕方ないでしょう
よ
二人がいましてね。だってチャクラ性質が違う一族のそれなんです
﹁いやね。今の世に嫌気が差してふと遠方を見つめていたら気になる
ず突っ込んだ。
まさかの覗き見である。これにはマダラどころか柱間も耐えられ
﹃おい
﹁白眼で。会話は口の動きを読みました﹂
?
か。この二人とならこの不毛な乱世を終わらせる事が出来るんじゃ
ないかと思いまして﹂
﹁無視してるぞこやつ⋮⋮﹂
﹁存外図太い神経してんな﹂
﹂
﹁そう思ったらいても立ってもいられず⋮⋮⋮⋮あ、その節はすいま
せんでした﹂
﹁オレの股間を見ながら言う台詞かテメェェェ
きっと一生ネタにされるのだろう。マダラとヒヨリを見て柱間は
!!
53
?
﹁そしたらこの乱世にあって私と同じ考えを持っているじゃないです
?
?
そう確信した。
﹁というわけで
﹂
﹂
私もあなた達と一緒に集落作りをさせてください
﹂
股間見られた事なんか関係ねー 嘘じゃねぇぞ
ら伝わっていた。
?
﹁それは⋮⋮
﹂
ら姓を名乗らないだろ
﹂
﹁オレは⋮⋮嘘じゃないと思ってる。他の目的があるなら⋮⋮自分か
﹁大体こいつの言ってる事が嘘じゃないとどうして分かる
﹂
誰が見ても関係していると思うだろう。そんな必死さがマダラか
!
﹁断る
﹂
﹁いーや違うね
﹁マダラ、お前個人的な感情で言ってないか
!
!
?
二人を殺す事が目的ならその機会はいくらでもあった。もしかし
出来る。
はないだろう。つまりそれだけ自分達に賭けたのだとマダラも理解
だがそれでもヒヨリは姓を名乗った。それが分からない程馬鹿で
しかねない愚行とも言える。
柱間の言う通り、姓を名乗る事は二人はおろかその一族まで敵に回
﹁⋮⋮﹂
可能性があったのに、姓を名乗ったんだ。オレは⋮⋮信じたい﹂
﹁オレ達どころか下手すればオレ達の一族と敵対しかねない。そんな
たのだ。
今の世を変えたいと本気で願っている事を誰よりも早くに明言し
める為の自己紹介だったのだと。
そして、姓も名乗れない世の中は嫌だというヒヨリの本音も知らし
づいてきた。だからこそ嘘偽りなく姓も含めて自己紹介した。
あれはヒヨリの誠意だったのだ。遠くから覗き見し、目的有って近
解る。
それはマダラにも解っていた。あの時姓を名乗った理由が今なら
!
たら姓を名乗る事で二人を仲違いさせるのが目的かもしれない。結
54
?
!
!
!
果的にそうなる可能姓は高かったと言えよう。
だがそこまで疑っていてはもう誰も信用出来なくなるだろう。マ
ダラは自身と柱間の夢を叶える為には他人を信用する必要がある事
を思い出す。
﹂
﹁⋮⋮ 分 か っ た。た だ し 一 度 で も 裏 切 っ た ら 二 度 と 信 用 し な い か ら
な﹂
﹁もちろんです
﹁⋮⋮﹂
マダラが渋々と言った感じにヒヨリを認めたところ、それを聞いて
ヒヨリは喜びを顕わにする。
そして柱間はヒヨリの台詞を聞いて、
﹁いや、そいつはもちろんじゃ
なくてもろちんだっだぞ﹂などと口走ろうとしたが止めにした。
恐らくこれを口にしたが最後、マダラとは完全に敵対関係になる様
な 気 が し た の だ。や る な ら 時 間 が 経 っ て ほ と ぼ り が 醒 め て か ら だ。
あまり連続してからかうと相手を怒らすだけだろう。
三年後くらいにまたからかってやろうと決意して、それを一切表に
﹂
これでオレ達は同志だ
これから三人でどうすれば良い
は出さずに柱間は二人に話し掛ける。
﹁よし
か考えて行こうぞ
チリするんだが
﹂
﹂
﹁気のせいぞ気のせい
アハハハハハ
!
!
?
オレは仲間が増えて嬉しく思ってただけぞ
!
?
化す。
マダラもジト眼で柱間を見ているが、実際に証拠はないのだからこ
今日の所はこれで終わりにしよう。思った以上に時間が過
れ以上の追求はしなかった。
﹁さて
日は一旦解散して、また後日に会って話そうぜ﹂
﹁⋮⋮そうだな。下手に疑いを掛けられたらこの集まりも終いだ。今
ぎている。これ以上は一族に余計な心配をされるだけぞ﹂
!
55
!
﹁お前今なんか良からぬ事を考えてなかったか オレの首筋がチリ
!
!
どこかわざとらしい乾いた笑いをしながら、柱間はそう言って誤魔
!
﹁そうですね。ちょっとお待ちを⋮⋮﹂
そう言って白眼を発動するヒヨリ。感知に自信のあるヒヨリだが
周囲に気配は感じない。だが完全に気配を消していればヒヨリでも
感知出来ないやもしれない。
この世界はヒヨリも初めての世界であり、どんな能力があるのか見
等もつかないのだ。自身が強者である事は自覚しているが、絶対であ
る等とは過信出来ない。
取り合えずヒヨリの感知と白眼による知覚にて誰もいなければ一
先ずは安心と見ていいだろう。
﹁⋮⋮周囲5kmに渡って人はいないか。ここがばれているという事
は今の所ないと思いますよ﹂
﹁それが白眼か⋮⋮オレも目には自信あったけど、望遠に関しちゃ負
けてるな⋮⋮くそ﹂
﹁写輪眼もすごいですよ。さっきの戦いを見る限り洞察力は高まって
事に対して落ち込んでるのは明らかだ。
﹂
こんな事を言ってるが三人の内一人だけ特別な眼を持っていない
二人からすれば果てしなく下らない理由で落ち込んでいた。
ずるいなんて思ってないぞ⋮⋮これっぽっちも悔しくないぞ⋮⋮﹂
﹁どうせオレだけ何も持ってないぞ⋮⋮二人だけ便利な目を持ってて
そんな二人の心配は、ぶっちゃけ意味のない物だった。
急に落ち込んでいる柱間を心配して二人が優しく声を掛ける。
?
56
いますし、聞いた話だと見ただけで術をコピー出来たり、眼が合うだ
まあそうだな。でもお前の白眼だって大したもんだぜ﹂
けで幻術を掛ける事も出来るんだよね。羨ましいですよー﹂
﹁そうか
?
である。
﹁ははは⋮⋮お、おい
?
﹂
﹁あの、何かあったの
どうした柱間
だがそんな二人を尻目に一人落ち込んでいる者がいた。そう、柱間
行ったのか。
眼 を 褒 め ら れ て 満 更 で は な い よ う だ。さ っ き ま で の 疑 り は 何 処 へ
そう言って笑い合うマダラとヒヨリ。マダラも目覚めたての写輪
?
まあ柱間も本気の本気で写輪眼や白眼を羨ましいと思っているわ
けではないが。
﹂
﹁お、おい。そんな事で落ち込むなよ。瞳術がなくてもお前は強いだ
ろ
﹁そ、そうですよ。それにほら、こんなの持ってたら敵から狙われやす
くなるから、持ってない方がいい事もありますよ﹂
︶﹄
﹁⋮⋮慰めるでないぞ。別に落ち込んでなんかないぞ⋮⋮﹂
﹃︵う、うざい
れば
﹂
﹂
﹁忍の一族間のバランスは一気に崩れるぞ
力を貸してくれるやも知れぬ
﹂
﹁その為にはオレ達が強くならなくちゃな。よーし
るぞ
ともに未来について話し合い││
﹁ぜぇ、ぜぇ、ちょ、ちょっと待つぞ⋮⋮﹂
早速修行をす
そうすれば他の一族も
﹁なるほど。うちはと千手と日向。この三つの一族がそれぞれ協力す
﹁思うに私達三人がそれぞれの一族の長になればいいんですよ﹂
ともあれ、三人は同士として友として幾度となく集った。
⋮⋮思っているわけではないはずだ。
!
﹂
﹂
﹁誰ぞ
﹁何
﹁あ、こっちを目指して誰か来ますよ﹂
ともに研鑚し││
﹁私は私より強い奴に会いに行く⋮⋮﹂
﹁はぁ、はぁ、ひ、ヒヨリ⋮⋮お前、強すぎだろおい⋮⋮﹂
!
!
!
!
!
?
57
?
!?
オレを探してるのか
﹂
﹂
﹁白眼で確認した所、私達より少し年下の男の子ですね。チャクラ性
質からして千手一族かな﹂
﹁それは恐らく弟の扉間ぞ
﹄
!?
三人が一緒に行動するようになってそれなりの年月が経つ。
﹁そうだな﹂
﹁ああ﹂
楽しみに待っていますよ﹂
﹁全てが上手く行けばまた三人で笑い合える日々が来ます。その時を
﹁ああ。もうこうして会う事も出来なくなるな﹂
﹁⋮⋮これからオレ達はそれぞれ一族の長になるべく行動する﹂
広大な森を一望出来る大きな崖の上で、三人は向かい合っていた。
◆
そして、時は流れた。
そうして三人は強くなっていった。
時に理不尽に泣いたり││
子どもだから体力とか足りませんし﹂
﹁私一人でどうにかなるなら二人を見つけて喜びませんよ。私だって
﹁もう⋮⋮お前一人で⋮⋮いいんじゃないか⋮⋮﹂
﹁だ、だから⋮⋮強すぎぞヒヨリ⋮⋮﹂
時に逃げたり││
﹃おう
﹁取り合えず逃げましょう
﹁やべぇな。見つかったら終いだぜ﹂
!
!
だが、いい加減それぞれの家族から疑われ始めたのだ。
58
!
無理もないだろう。月に何度も姿が見えない日々があるのだ。後
を付けられた事も何度もあった。
修行をしてると誤魔化したり、付けられる度に巻いたり、例え気付
けなくてもヒヨリの白眼や感知で気付いて逃げたりして、一族にこの
集いが気付かれる事はなかったが、それももう限界だろう。
このままでは強硬手段を取られると判断した三人は、もうこうして
三人で集う事を終わりにした。
﹁これからオレ達は戦場で何度も出会う事になると思う⋮⋮一族同士
でぶつかり合って、互いの一族を殺す事もあると思う⋮⋮﹂
柱間の言う事は、これまでの話し合いで既に理解していた事だ。
既に千手とうちはは幾度となく戦場でぶつかりあっている。これ
から三人が長になる過程でも、それは起こるだろう。
﹂
﹁けど、それでもオレ達はやるしかない。オレ達の夢を叶えるにはオ
レ達が長になるしかない
﹁ああ。一刻も早く長になる。それが一族同士の殺し合いを防ぐ一番
の近道だ﹂
﹂
﹁ええ。私達が長となり、それぞれの一族で協力を結ぶ。そうすれば﹂
﹁オレ達の夢は夢でなくなる
三人の夢。この広大に広がる森と大地に大きな集落を作ること。
!
子どもが子どもらしく育つ事が出来る集落を。一族の垣根を無く
す事が出来る集落を。
﹂
﹂
﹁必ずヒヨリに勝つぞ
﹁おう
﹁お⋮⋮おう
﹂
﹂
!
!
ヒヨリは困惑している。
﹁ヒヨリに一度も勝てないのは納得いかんぞ
﹂
柱間の想いを籠めた叫びにマダラが同意する。
?
59
!
それを夢見て、三人は共に歩んできたのだ。
﹄
﹁必ず夢を実現するぞ
﹃おう
!
柱間の想いを籠めた叫びに二人が同意する。
!
!
﹁そうだ
何でそんなに強いんだこらァ
﹂
﹂
? !?
それなのに二人掛かりで勝てないのは
﹁そこはその⋮⋮年季が違うとしか、ねぇ
﹂
﹁オレ達と同い年だろうが
納得いかねー
!!
﹂
!
﹂
﹁丁度いいぞマダラ。この機に徹底的に修行してヒヨリを超えようぞ
う。女性だけならば皆無と言えた。
二人に勝るのはそれぞれの父親を含め僅か数人と言うところだろ
すでに柱間もマダラも一族の中では一級の実力者となっている。
﹁一族の女でオレより強い奴なんてもういねーよ
﹁そこはほら、女の子の方が成長は早いといいますし﹂
まあ、それを知らない二人が納得出来るわけがなかったが。
だ。
文字通り桁が違いすぎた。まだ若い二人が敵わなくても仕方ない事
戦 闘 経 験 で 言 え ば 言 う に 柱 間 や マ ダ ラ の 数 千 倍 で す む か ど う か。
る。
実年齢はともかく、中身は年季が違うどころではないのは秘密であ
!!
﹄
﹁ほ ほ う。面 白 い。い つ で も 挑 戦 を 待 っ て ま す よ。ふ は は は は は は
﹂
﹃ぐぅ、むかつく
ヒヨリという大敵を相手に負けじと対抗する柱間とマダラ
果たして二人はこの強大な敵に打ち勝つ事が出来るのか
柱間もマダラもヒヨリの感知を疑ってはいない。それ程に感知に
の存在が引っかかったのだ。
ヒヨリの感知網に柱間の弟である扉間と、マダラの弟であるイズナ
﹁もうお別れだな﹂
﹁⋮⋮そうか﹂
﹁⋮⋮二人とも。扉間とイズナがあなた達を探しているようです﹂
さて、この楽しげな茶番にも終わりを告げる時が来たようだ。
!
!
!
60
!
﹁ああ。いつか絶対に追い抜いてやる。うちはの血を舐めるなよ﹂
!
!
置いてヒヨリの練度は高かった。
どうやら扉間とイズナはそれぞれの兄を探しているようだ。それ
ぞれの一族の集落が別の場所にあるから扉間もイズナも互いに出
﹂
会ってはいないが、この場まで来れば確実に戦闘となってしまうだろ
う。
オレ達は再びここに集う
これで完全に終わりであった。
﹁別れじゃないぞマダラ
!
らな﹂
﹂
﹁アハハハハ
死ぬなよ
悪魔
﹃ない﹄
﹁鬼
﹃⋮⋮はっ﹄
﹂
﹂
﹂
!
◆
た。
約束をしてその場から立ち去り、それぞれの一族の元へと帰って行っ
後に集落を作ると決めた森を一望出来る崖の上にて、三人は再会の
﹁またね﹂
﹁ああ﹂
﹁それじゃあな﹂
そうして最後まで仲良く口喧嘩をして、三人は別れを告げた。
二人。
お前がか弱かったら人間は全員死にかけの老人だとばかりに笑う
﹁鼻で笑いやがった
﹂
その時を楽しみにしてるぞマダラ だからお前も
﹁そうだな。その時まで死ぬなよ柱間。オレはお前に勝ち越すんだか
!
﹁か弱い女の子になんて失礼な奴らだ
﹃いや忍だよ﹄
忍
﹁⋮⋮私の心配は
!
!
?
!
柱間とマダラと別れてからヒヨリは日向一族の長となるべく行動
61
!
!?
!
!
を開始した。
いや、一応は長となる下準備はヒヨリが産まれた時から出来てい
た。
そう、ヒヨリは日向一族の本家の姫君であった。正確には現日向当
主の次女であり第三子と言うべきか。
おおつつき
日向の歴史は古い。その歴史を遡ると忍の祖と言われる六道仙人
へと繋がる。
にんしゅう
六道仙人、その名を大筒木ハゴロモ。彼こそがチャクラの教えを説
き忍 宗を広めた忍の祖。
忍の神として崇められた始まりの人物とされており、乱れた世界に
安寧と秩序をもたらす創造神とも、世界を無にする破壊神とも伝えら
れている実在したかも曖昧な神話の存在だ。
説明の通り、今では六道仙人は神話やお伽話としてしか語り継がれ
ず、多くの人がその存在を空想上の人物だと思っている。だが彼は確
かに実在していた。
そして大筒木ハゴロモには弟がいた。その名は大筒木ハムラ。
ハムラはある理由にて月へと旅立ったが、その時に地上に残された
子孫が後の日向一族であった。
これは千年もの遥か昔の出来事だ。故にそれを知っている者は日
向一族でも極一部である。
話を戻そう。千年という永き年月に渡って伝わってきた血を持つ
一族だ。
当然その血統に対する誇りも並の一族のそれではない。
宗家の血は絶対であり、分家は宗家を立てる為の礎に過ぎない。全
員ではないが、そう思っている日向一族は宗家・分家問わずに多い。
誇り高き日向一族に取って一族の掟は絶対であり、どれほど優秀だ
ろうと分家の人間が宗家に成り変わって長となる事は不可能なのだ。
故に、ヒヨリはギリギリだが日向の長、当主となる資格を有してい
た。
尤もヒヨリが長となる確率は非常に低いと言える。理由は日向が
掟を重んじているからだ。
62
基本的に長となるのは当主の第一子だ。この場合はヒヨリの兄で
ある。これは余程の事がない限り覆される事はない。それが名家の
掟という物だ。
万が一ヒヨリの兄が死した場合は次に第二子、長女であるヒヨリの
姉が長となるだろう。そしてその姉が死した場合、ヒヨリが長となる
のだ。
つまりヒヨリが長となるには兄と姉が死なねばならない訳だ。柱
間とマダラに長となると言ったが、流石にヒヨリもそれは許容出来な
い。
宗家のみが一族の長となれる掟だからヒヨリには長になれる可能
性があり、掟を重視する一族だからこそ第一子が長に選ばれやすい。
何とも皮肉な事である。
まあ第三子という立場だからこそ、ヒヨリが頻繁に一族の集落から
姿を消していても注意はされど厳重に罰せられたり、隔離されたりは
しなかったのだが。
そうでなくてはあれ程頻繁に柱間とマダラに会う事は出来なかっ
ただろう。
こういった名家に置いて子どもは後継者のみを重視して、それ以外
は後継者が死んだ時の為の予備と考えられている事も多かった。
今代の日向の当主もそうであったというだけだ。それ故にヒヨリ
はあまり父親が好きではなかったが。まあ親には変わらないので憎
くまではないが。
話を戻そう。どうすればヒヨリが長になれるかだが、まだ方法は
あった。可能姓は低いが、この戦乱の世ならばこその方法が。
平時ならば先の説明の様に何らかの理由で兄と姉が死なねばまず
無理だろう。
だが、戦乱の世ならば話は違う。戦乱の世に一番必要なのは何か。
多くの者がこう言うだろう、それは力だ、と。
そしてその力を日向一族の誰よりも持っていると自負しているの
がヒヨリである。
忍の強さは主に体術・幻術・忍術の三つの項目で計られる。その中
63
で日向が得意としているのが体術だ。
日向には柔拳と呼ばれる独自の体術があり、その力は触れただけで
相手の経絡系にチャクラを流し内部から破壊する事が出来るという
凶悪なものだ。
経絡系は眼には見えぬ物だが、日向一族は白眼にて見切る事が出来
る。そして白眼の瞳力が強い者は点穴すら見抜き、その点穴を突く事
で相手のチャクラの流れを止める事も出来る。
白眼と、この恐るべき体術こそが日向を強者足らしめている最大の
要素と言えよう。
さて、ヒヨリの強さだが。彼女は転生者である。そしてその転生回
数は一度や二度ではなかった。
そう、ヒヨリは幾度となく転生を繰り返して来たのだ。何故ヒヨリ
がその様な転生人生を歩むようになったかは今は置いておくとしよ
う。
ヒヨリはある理由から強くなりたかった。そして転生を繰り返す
度に強くなる為に修行を続けた。まあ二度目の転生で既に最初に強
くなる理由はないも同然になってしまったのだが。
そしてヒヨリは転生しても記憶と技術、そして生命のエネルギーと
も言うべきモノを引き継いでいた。
そのエネルギーは世界によって呼び名は様々だ。オーラとも、気と
も、そしてチャクラとも呼ばれる。
そう、ヒヨリは転生して修行をし続けた事により、膨大なチャクラ
をその身に宿していたのだ。
ヒヨリに匹敵するチャクラを持つモノはこの世には現状存在しな
かった。そう言っても過言ではない程のチャクラ量だ。
あまりに膨大故に絶対に恐れられるだろうと予測している為、一族
の誰にもチャクラ量に関しては秘密にしていた程だ。
ちなみにこの予測は今までの転生人生による経験側だ。まず間違
いないとヒヨリは思っている。
チャクラは忍にとって最も重要な力の源だ。チャクラを練って忍
術を繰り出し、体術を強化し、相手のチャクラを乱す事で幻術に掛け
64
る。
チャクラ無くして忍は語れないだろう。チャクラは忍という兵器
を動かす為の燃料と言った所か。当然多ければ多いほど有利なのは
言うまでもない。
同じ術でも籠められたチャクラが違えばその威力も違ってくるこ
ともある。同じ技術、同じ忍術、同じ知力で忍が戦えば、チャクラが
多い方が勝つ確率が高くなるだろう。
そんなチャクラを誰よりも多く有している。それだけでヒヨリは
圧倒的に他の忍よりも有利だった。
そして体術。日向流の柔拳に関してはともかく、千年を超える研鑚
が築き上げたヒヨリの体術レベルは父である日向当主など歯牙にも
掛けぬ程だ。接近戦にてヒヨリに勝つ事は日向をしてまず不可能と
言えるだろう。
柔拳に関しても既に体得済みだ。元々ヒヨリの極めていた体術は
元の世界で柔術や合気と呼ばれる武術だ。柔拳とはそこそこ相性も
良く、それ故に覚えも早かった。恐らく後数年もせずに純粋な柔拳の
技術も父を超えるだろう。
まあ忍術と幻術に関しては未だお察しレベルではある。体術と比
べると月とスッポン、鯨とミジンコ程の差があるだろう。
この二つに関して本格的に修行するのは日向に認められて長とな
り、戦乱の世を終えてからでも良いとヒヨリは思っている。理由はや
はり日向が体術に重きを置いているからだ。
さて、日向にあって既に最強と言える力を有していたヒヨリだった
が、今までは目立たずに一族の中で過ごしてきた。目立てば目立つほ
ど自由に動きにくくなるから、それが嫌だったのだ。
だが最早そんな事は言えない。共に夢を叶えようとする柱間とマ
ダラ。今ごろは必死になって長となるべく行動している二人を前に、
目立つのが嫌だとか口が裂けても言える訳がなかった。
そうしてヒヨリは日向一族で頭角を現していった。
その圧倒的な力を徐々に周囲に知らしめ、兄や姉を差し置いても当
主に据えるべきだと言う意見を日向の長老連から出させる程に成長
65
した姿を見せ付けた。
そしてとうとう多くの一族に認めさせ、兄と幾つかの契約を結んだ
結果、ヒヨリは日向の当主となった。
◆
長きに渡った戦乱の世。その一部にだが、終止符が打たれようとし
ていた。
互いにいがみ合い憎しみ合い、殺し合って来た千手一族とうちは一
族が同盟を結んだのだ。
そしてそれと同時に日向一族もその二つの一族と同盟を結んだ。
これにより戦乱の世のバランスは千手・うちは・日向の忍連合軍に
よって一気に崩れる事になる。
最強の忍一族はと問われて出てくる答えの大半がこの三つの一族
だ。それが手を組んだとなると他の一族に勝てる見込みは万が一、い
や億が一にもなかった。
そして忍連合は周辺国家にて火の国と呼ばれる大国と手を組み、国
と里が同等の立場で組織する平安の国づくりを始めた。
その国づくりには猿飛一族や志村一族と言った名の知れた忍一族
も協力し、それに伴い更に多くの忍一族が同盟の元に集った。
かつて崖から一望出来ていた広大な森は、今ではその多くが切り開
かれ大きな里へと変化していた。
その里を崖の上から見下ろす三人の男女の姿があった。
﹁見よマダラ、ヒヨリ。これが、オレ達の││﹂
﹁ああ。夢の実現だ﹂
﹁長かったのか、それとも短かったのか⋮⋮ようやくここまで来まし
たね﹂
かつてと違い大人となった三人は、子どもの頃に語り合った夢が現
実になった事に素直に感動していた。
里が出来上がっていく様を見てもどこか浮世離れした物を見てい
66
猿飛一族や志村一族
る気分だったが、こうして三人揃ってかつて夢を語った崖の上から夢
まだまだこれからぞ
の塊を見る事でようやく実感したのだ。
﹁何をいうかヒヨリ
!
﹂
﹂
?
てない様であった。
﹁うーん、まあ火影でいいんじゃない
?
ぞ﹂
﹁オレ
⋮⋮冗談だろ
﹂
﹁う ん 何 を 言 う。オ レ は マ ダ ラ を 推 薦 し よ う と 思 っ て た と こ ろ
うし﹂
どうせやるのは柱間でしょ
呟きながら落ち込んでいる柱間。大人になってもかつての癖は抜け
密かに自信があったネーミングを安直と言われ、ぶつぶつと何かを
治ってなかったのかその落ち込み癖⋮⋮﹂
﹁ひねりのない安直な名前だなおい。ま、悪くは⋮⋮おい、お前まだ
の忍の長⋮⋮名を火影としようと思うのだが、どうだ
﹁火の国から里の代表を決めるよう要請があってな。火の国を守る影
それこそがこの三人が望んで止まなかった世界への架け橋なのだ。
忍の一族同士での殺し合いが殆ど無くなるという事を示している。
それは火の国の中という限定した空間かもしれないが、その中では
うになるでしょうね﹂
﹁ええ。恐らく火の国周辺に潜んでいた一族の多くがここへと集うよ
﹁聞いた話じゃまだ他にもいるらしいな﹂
るぞ
も仲間に入りたいそうだからな。これからこの里はもっと大きくな
!
で、そして度がつく程にお人好しを。
そんな柱間に、マダラは本当の馬鹿を見た気がした。底抜けの馬鹿
すと。
マダラの全ての憎しみをその身に受け止め、そして里をマダラに託
約束を、柱間は未だに忘れてはいなかった。
かつての、一歩間違えれば殺し合いになっていたあの時。その時の
集落を、里を託すと﹂
﹁何を言う。あの時約束したではないか。全てが終わった時、お前に
?
67
!
?
!?
﹁⋮⋮ 馬 鹿 が。そ ん な 約 束 忘 れ ち ま っ た よ。オ レ は 長 な ん て 柄 じ ゃ
ねーよ。うちはだけでも精一杯なんだ。お前かヒヨリがやればいい
さ﹂
﹁そ う い う 面 倒 な の は 人 に 丸 投 げ す る の が ヒ ヨ リ 流 長 生 き の 秘 訣。
﹂
よって私はパス﹂
﹁なんぞそれ
﹂
﹁ふむ。マダラさんや、柱間さんは何やらご不満の様子。ここは一つ
多くの一族が集う里にちなんで多数決で決めませぬか
て可決である。
﹂
即座にマダラとヒヨリの手が上がった。三人中二人が賛成。よっ
﹁それはいいな。では、柱間が火影になるのが良いと思う人は挙手を﹂
?
!
﹂
﹁はい決定。おめでとう柱間、お前がナンバーワンだ
﹂
﹁悔しいが⋮⋮お前なら許せるぜ⋮⋮頑張れよ柱間
﹁なんぞこの茶番はー
!
だ。
その結果が目の前にあるのだ。もう、一族間で殺し合う事はないの
恨みもした。それでも理想の為に心を殺して戦い続けた。
何度も何度もそんな戦いを繰り広げ、何度も何度も別の一族を憎み
満が溢れるだろう。
して守らなくてはならない。そうしなければすぐに一族の者から不
ましてや彼らは一族の長となった者達だ。その立場上、一族を優先
りなく死を少なくしても、人のやる事に限界はある。
それはどうしても避ける事が出来ない必要な戦いだったのだ。限
ていない。
でいった。この中の三人で、相手の一族を殺していない者は一人とし
千手も、うちはも、日向も、この里が出来るまでに多くの忍が死ん
必要な戦いを一族間でした。
戦乱の世を、理想のために駆け抜けた。意に沿わぬも、どうしても
怒鳴る柱間に笑いながら逃げるマダラとヒヨリ。
!!
火の国以外では未だに忍一族の闘争は続いている。完全に無くな
る事はないだろう。
68
!?
だが、それでもこうして自らの手が届き眼で見える範囲でだが、争
いを減らす事が出来た。
この里だが、木々が茂り木の葉が舞う里故に木
ようやく、三人揃って馬鹿な話で笑い合う事が出来る様になったの
だ。
﹁おお、そうだ柱間
﹂
﹂
﹂
大 体 人 の セ ン ス を 安 直 呼 ば わ り し て お い
ノ葉隠れの里っていうのはどうだ
﹁ご ま か す 気 か マ ダ ラ
て、お前のネーミングも安直ではないか
﹁ぬぬ、二人が里に関する名前をつけたなら私も何か考えねば
﹁どうしてそこで張り合うのだヒヨリよ⋮⋮﹂
﹁どうしたヒヨリ
﹂
﹂
!
間にその両人からの推薦が有ったというのが大きかった。
もちろんマダラやヒヨリもその候補として名が上がっていたが、柱
く火の国や里の民意と上役との相談によって決定された。
里の長、火影には柱間が就任した。これはマダラとヒヨリだけでな
な気がしていたが、まあ気のせいだろうとすぐに忘れる事にした。
ちなみにヒヨリは最後に思い浮かんだ言葉を何処かで聞いたよう
里の為に働き続けた。
そんな風に幼かった頃を思い出す様な話を繰り広げながら、三人は
﹁ああ、見てて痛々しかったぜ⋮⋮﹂
﹁それがいいぞ⋮⋮﹂
﹁ふ、ふぅ⋮⋮わ、私は何かを名付けるのは止めておくとしよう﹂
だけなのだから。
まあ気にする事はないだろう。遠い過去の痛々しい傷痕が疼いた
何故か頭を抑えて大地に膝をつくヒヨリを心配する柱間とマダラ。
﹁お、おい、何があった
﹂
煉獄⋮⋮光輪疾風漆黒矢零式⋮⋮うう、何故か頭が痛い⋮⋮
の名前でも⋮⋮四天王⋮⋮いや、死天王⋮⋮弐天羅刹⋮⋮八卦衆⋮⋮
﹁うーむ。里長の名称に里の名前と来たから⋮⋮火影直属の護衛部隊
!
!
!
!?
そしてマダラとヒヨリの両人も火影の補佐役としての立場につく
69
?
!
!?
事になった。
これはぶっちゃけると二人から火影を押し付けられた柱間の意趣
返しである。
木ノ葉隠れの里のシステムが思いの他上手く回っていた為、他国の
忍達もそれを真似する様になってきた。
火の国の忍が纏まった事に対して危機感を覚えたのもあるのだろ
う。やがて火の国と同等に大国と言われる四つの国にもそれぞれ大
きな忍の隠れ里が出来た。
これを後に忍五大国と呼ぶようになった。
これにより他国でも一族間の小競り合いや任務での殺し合いは少
なくなっていった。
三人の夢が世界に広がろうとしていたのだ。少なくとも柱間はそ
う思っていた。
だが、事はそう簡単には動かなかった。
一族間での争いはなくなったが、だからと言って忍同士の争いがな
くなったわけではない。
忍五大国の誕生は、新たな戦乱の世の幕開けとなったのだ。
一族間ではない、大国間での争い。忍五大国を中心として忍界全体
を巻き込む初の大戦。第一次忍界大戦が勃発したのである。
多くの忍が争い、そして死んでいった。だが、思いの他早くに戦争
は終結へと辿り着いた。
その決め手となったのが、木ノ葉の里の三人の忍。千手柱間、うち
はマダラ、日向ヒヨリである。
三人は圧倒的な力を他国に示した。そうする事が終戦に繋がる近
道だと三人で判断したのだ。
敵対するのも馬鹿らしくなる程の力を見せ付ける。言うなれば木
ノ葉の里を作る為に三人がした事と似たようなものだ。
もちろん敵も国を背景に持つ故に一族間の争いの様に、はい負けま
した、と言って戦争が終わる事はない。
だが、このまま戦争を続けても確実に木ノ葉の利となるだけと判断
70
した各里の長達││影達││は、木ノ葉からの休戦条約に飛びつい
た。
ちなみに余談だが、この三人はその圧倒的な力から木ノ葉の三忍と
他国からは恐れ、自国からはより敬われる様になった
優勢だった木ノ葉からの提案故に、残りの忍五大国も条約や協定に
関して無茶を通したりはしなかった。
むしろ木ノ葉から各国の戦力バランスの為に尾獣と呼ばれる強大
なチャクラの塊であり巨大な魔獣を各国に分配した。
もちろんタダではなかったが。いや、柱間本人はタダで分配しよう
としていたが、柱間の外付け政治回路である扉間によって阻止された
結果だ。
とにかく、これにより第一次忍界大戦は終戦へと導かれた。だが│
│
いつからだろうか。木ノ葉の歯車は狂い初めていた。
第一次忍界大戦から数年後⋮⋮うちはマダラが木ノ葉の里に反旗
を翻したのだ。
何故木ノ葉の里設立の立役者であり、第一次忍界大戦の英雄であ
り、うちはの現当主であるマダラが反旗を翻したのか。その真相は明
らかになってはいない。
そもそもうちはマダラが木ノ葉に反旗を翻した事実を知る者自体
が里の極一部の上層部のみだった。里の安定の為に闇に葬られた歴
史の真実である。
ともかく、反旗を翻したマダラは柱間と激しい死闘を繰り広げた。
地形が変わる程の激戦の末、勝利したのは柱間だった。この時、う
ちはマダラは死亡したとされる。
そしてそれから程なくして、柱間はマダラを追うようにこの世を
去った。
多くの者が悲しむが、時の流れは人を待ってはくれない。火影が亡
くなったのだ、次代の火影が必要となった。
二代目火影に選ばれたのは柱間の弟、千手扉間だった。ヒヨリにも
71
その話は来ていたが、ヒヨリはそれを自分には相応しくないと断った
のだ。
ヒヨリとしては最大の友であった柱間とマダラがいなくなった事
で時代の流れを感じたのだ。もう、自分が前に出る幕ではないのだ
と。
ヒヨリは火影をサポートし、里を見守る役目に終始する事を決意し
たのだ。
時は流れる。
扉間はその政治手腕で里に多くの制度や施設を設け、柱間が残した
里をより良く導いていった。
時折その現実主義な性格により人によっては非道と思わる政策を
提案していたが、全ては里の為を思っての事だった。
最も、あまりにあまりだと判断された政策はヒヨリが口を入れる事
で若干修正されていったが。
その一つがうちは一族による警務部隊の設立だろう。
当初の扉間の予定では暴走の可能性のあるうちは一族に里の中枢
への権限を無くし、それでいて里の警備を取り締まるという立場を与
える事でうちはを一つに纏め監視しやすくする為の政策だった。
だが、それでは里の上層部から遠ざけられた事に対していずれ反発
が来る可能姓があるとヒヨリから示唆され、扉間は火影が選ぶ優秀な
うちはの忍を代々の火影の補佐とする事でそれを緩和させる様にし
た。
そして日向一族から不満が出ないように日向からも同じ様に火影
の補佐を選ぶようになった。これによりうちはの動きを日向が見張
ることが出来るという意味合いも持たせていた。これはヒヨリには
秘密にしていたが。
扉間がここまでうちは一族を危険視しているのには理由がある。
それはうちは一族が愛情と憎悪に支配された呪われた悲しい一族
だからだ。
72
うちは一族の愛情は非常に深い。だが、うちははそれを封印してき
た。
一度うちは一族の者が愛情を知ると、その強すぎる愛情が暴走する
可能性を秘めていたのだ。
愛を知ったうちはの者がその強い愛情を失った時、それがより強い
憎しみに取って代わり人が変わってしまう事があるのだ。
扉間はそれを戦乱の世で幾度となく見てきた。そしてそうなる事
でうちはにある症状が出る。それこそが写輪眼である。
更に写輪眼は心の憎しみと共に力を増していく。その行き着く果
ては扉間にも分からない。だが、憎しみに捉われた者が里に安定をも
たらすとは扉間は思えなかったのだ。
扉間とてうちはを蔑ろにするつもりはない。扉間にとってどの一
族とて里にとって危険性があるものを注意深く捉えていた。ただう
ちはが特に考慮すべき一族だっただけだ。
うちは一族に警務部隊を任せた事がその証だろう。犯罪者を取り
締まる部隊だ。信用の置けぬ者には与えられない役目と言える。
更に火影の補佐という大役もうちはと日向から選ばれるので、うち
はが蔑ろにされていないという分かりやすい実証となった。
他の一族が火影の補佐に選ばれぬ事に不満を覚えるかもしれない
が、元々木の葉の設立の立役者がうちはと日向だ。更に里長たる火影
は一族に関係なく優秀な忍が選ばれる。そうであれば特に不満も上
がらなかった。
この火影の補佐は次第に火影の右腕左腕と称されるようになって
くる。
他にも扉間は忍の養成学校││通称アカデミー││を設立したり、
中忍試験の制度を定めたりと、次々と里の基盤を作り出した。
これらを見て、やはり二代目火影は扉間しか有りえなかったとヒヨ
リは語っている。ちなみにその時扉間は面倒だから押し付けただけ
ではないのかと呟いたそうだが、定かではない。
そんな扉間も火影の座を次代に譲る事となる。
それは雲隠れの里との会談の際、雲隠れの里の忍の一部が起こした
73
クーデターが切っ掛けであった。
クーデターにより扉間は瀕死の重傷を負ったのだ。共に会談へと
赴いていた忍を逃がすため、一人残って多くの敵を相手に囮を務めた
のが原因だ。
瀕死の重傷を負いつつも、扉間は木ノ葉へと帰還した。だが、傷つ
いた肉体を治療する事が得意な医療忍者はこの時代には数が少なく、
またその質も良くなかった。
そうして扉間はその傷が元で死亡した⋮⋮わけではなかった。
扉間はこの瀕死の重傷を乗り越え生き延びたのだ。それは何故か
ヒヨリがその溢れんばかりのチャクラと白眼を利用して鍛えた医
療忍術を超える再生忍術で半ば無理矢理治療したのである。
九死に一生を得た扉間は、火影後継者として猿飛ヒルゼンという忍
を推薦。火影引退後、忍としては一線を退くも多くの優秀な忍を育て
る事となる。
時は流れる。
三代目火影が木ノ葉を治める時代は長く、二度も大戦が繰り広げら
れた。
それが第二次忍界大戦と第三次忍界大戦である。これにより多く
の忍が戦争を経験し、そして死んでいった。
第一次忍界大戦より約二十年。再び起こった大戦である第二次忍
界大戦。
この大戦で、二代目火影であった扉間も死亡した。忍として一線を
退いており、最早木ノ葉に自らが要る必要がなくなったと判断したの
か、窮地に陥った里の忍を助ける為に奮戦し死亡したという。
その大戦の最中、木ノ葉のある三人の忍が二代目三忍と謳われる様
になる。初代三忍は既に一人しか残っておらず、その偉業も力も既に
過去の物として捉えられている事も多かった。これも時代の流れな
のだろう。
74
?
そして、第二次忍界大戦から更に二十年程の年月が経ち、第三次忍
界大戦が勃発。
その大戦にて、初代三忍で最後まで生き延びていた日向ヒヨリもそ
の命を落とした。
平均寿命が三十歳と言われていた時代から生き延び、齢八十近くま
で生きたのである。当時の力はすでに全盛期の半分以下だったと言
われている。
それでもなお戦場に赴き、多くの同胞を助け、最後には尾獣の一体
を食い止めて、瀕死の重傷で里に帰り、畳の上で死んだという。
そして⋮⋮少しだけ時は流れる。
戦争によって多くの人が命を落とした。それは変えられぬ事実で
あり、悲しい現実だろう。
﹂
﹂
﹂
とだろう。赤子の父も母も、そして産婆もその誕生を喜んでいた。
ホノカ
無事元気な赤子が産まれました
良くやったぞ
!
﹁おめでとうございます
﹁おお、良くやった
!
!
!
それもそのはず、この赤子は転生者である。かつては日向ヒヨリと
である。
半年もすればそれなりに喋れる様になるだろう。至って異常な赤子
まだ喉や舌が発達してないからまともな発語は出来ないが、それも
赤子に自我がある時点でまあ普通ではないだろう。
さて、この赤子だが、実は普通の赤子ではなかった。産まれたての
父さん︶﹂
﹁おぎゃぁ ︵あ、どうもよろしくお願いします今世の母さん、そして
んよ﹂
﹁ありがとうございますあなた⋮⋮初めまして、私があなたのお母さ
!
75
だが、生があるから死があり、そしてまた死によって失われる命が
おぎゃぁ
あるなら新たに生まれる命もあるのだ。
﹁おぎゃぁ
!
ここ木ノ葉の里にも新たな命が芽生えていた。とても喜ばしいこ
!
!
名乗っていた人物が死んで生まれ変わったのがこの赤子なのだ。
さて、そんな赤子が産まれてまず最初に気になる事があった。
まだ産まれて間もないので自分の肉体も把握出来な
﹁おぎゃあ⋮⋮︵ところで差し支えなければ早く私の性別を教えてく
れませんか
いんですよね⋮⋮︶﹂
それはこの者が最も重要視している自身の性別である。
この転生者、これまでに幾度も転生を繰り返しているが、その大半
が女性として生まれてきた。
そして数少ない女性でない転生は、男ではなく雄であったり、そも
そも性別がない存在に生まれたりと散々だったのだ。
﹂
ちなみにこの者の記憶が残っている最初の性別は男である。運が
﹂
ないとしか言い様がなかった。
﹁あなた、この子の名前は
﹁うむ、以前に話し合った様に、女の子だからアカネと名付けよう
﹁おぎゃあ︵知ってた︶﹂
!
?
それはそれは諦観が籠もった泣き声だったという。
76
?
NARUTO 第三話
さて、またも女性として産まれたアカネであったが、まあ何事もな
かったかのようにすくすくと育っていった。
そもそも彼女の起源は男性であるかもしれないが、すでに最初の人
生の何倍もの時間を女性として過ごしているのだ。もう中身は殆ど
女性といっても過言ではなかった。
彼女の根幹にあったとある目的の為には男性に生まれなければい
けないが、まあ気長に待とうと言えるくらい達観していた。それくら
いの長き人生を歩んできたのだ。
そんな彼女の苗字だが、なんと前世と同じく日向であった。これに
はアカネも驚いた。
転生の度に異世界に行く事が多いアカネが、二度続けて同じ世界で
生まれた事は数える程しかない。というかこれが二回目だった。
そして前世と同じ一族として生まれたのもまた驚きだった。多く
の一族が住まう木ノ葉にて連続で日向で生まれるなどどれだけの確
率なのか。
もっとも、転生自体が珍しいというレベルではないので他と比較す
る事など出来はしないが。
そもそもこの世界には多くの国があるのだから木ノ葉で産まれた
こと自体が珍しいと言えよう。
だが、アカネは知らない事だがこれには一応の理由があった。
それはアカネの内蔵するチャクラの量に関係している。
アカネは幾度もの生を経て、膨大なチャクラを生まれながらにその
身に宿している。
その為転生をするには器となる肉体がそのチャクラに耐えられる
素養を持ってなければならないのだ。
もし素養のない肉体に生まれ変わっていれば、アカネは数年と持た
ずに死んでいただろう。下手すれば産まれてすぐに死亡していた可
能性もある。
それを防ぐ為に無意識に魂が強い肉体を求めた結果、再び日向一族
77
に生まれ変わったのだ。
もっとも、確率で言えば日向に生まれ変わるのが低かった事は確か
だ。
アカネの転生体としての候補に上がる一族には、千手一族・うずま
き一族・うちは一族などが日向以外にあった。もちろんこれら以外に
も幾つか候補はあっただろうが。
その中でもっとも器として理想的なのが千手一族とうずまき一族
だ。この二つは特に生命力が強い一族として知られているからだ。
この候補はあくまで候補であり、転生時に選んでいる訳ではない。
日向に生まれ変わったのは完全に運である。なので、低い確率を引き
当てた事に間違いはなかった。
まあそんな事はアカネには知った事ではなく、とりあえず今の人生
を楽しむ事にしようと考えていた。
アカネはこれでも転生のベテランである。⋮⋮アカネ以外にそん
な存在がいて、それをアカネが知ればすぐにでも友達になりに行くだ
ろうが。
とにかく、アカネが転生してからまず最初にする事がある。前世は
前世、今世は今世と頭を切り替える事だ。
前世を引きずったままでは今世に色々と面倒事を持ち込むことに
なるからだ。
前世はああだった。前世は良かった。などと考えるのは今世に対
して失礼だろう。特に産んでくれた父母に対して一番失礼だ。
前世の両親の方が良かったなどとは口が裂けても言えないし、思う
こと自体が失礼だ。なので、頭を切り替えるわけだ。
そうする事で新しい人生を楽しむ事も出来る。子ども時代も慣れ
しも
れば楽しいものなのだ。ベテランは切り替えが早かった。
⋮⋮流石に赤子の内にされる下の世話だけは永遠に慣れる事はな
かったが。
さて、頭を切り替えたアカネだったが、日向一族に転生した事は
少々頭が痛い思いだった。それは日向一族の特異体質・白眼が原因で
あった。
78
白眼は相手のチャクラを色で見分ける事が出来る。そしてチャク
ラの色は個人個人で違う。
似ているチャクラ性質をしている者は色も似ているが、それでも瞳
力の強い白眼ならば見分ける事が出来るだろう。
そ し て ア カ ネ の チ ャ ク ラ の 色 は 前 世 で あ る ヒ ヨ リ の 色 と 瓜 二 つ
⋮⋮というか完全に同一の物だった。まあ魂が同一人物なので当然
と言えば当然だ。
日向一族とて常時白眼を発動している訳ではないが、それでもアカ
ネを白眼で見る機会が全くないという事はまずないだろう。
そしてその白眼の持ち主がヒヨリのチャクラ性質を良く知る者で
あったら⋮⋮その時は、アカネ=ヒヨリという図式が出てくるかもし
れない。
そうなればまず間違いなく面倒事が起こるだろう。
もし完全にばれた場合何かの実験台にされる、とかは別にいい。逃
79
げ切る自信はあるからだ。
だが敬われた場合、これが困る。新しい人生で楽しみたいのに最初
から敬われるなどたまったものではない。
そして敬われるだけの土台がある事はアカネも理解していた。何
せヒヨリは木ノ葉では伝説と謳われた三忍の一人にして、日向では最
強の長として尊敬と畏怖を集めていたのだ。
まあそこまではいい。許容範囲と言えた。だが、アカネにとって最
も恐ろしい事は、今世の父と母に忌み嫌われる事だった。
自分の子どもが前世の記憶を持っており、すでに大人顔負けの知識
や実力を有している。
人によっては自分の子ではないと捨て
産みの親として、育ての親として、これを容易に受け入れる事は難
しいのではないだろうか
る者もいるだろう。
ばれるのが怖くないという事にはならない。
もちろん両親がそう言った人柄ではないと理解しているが、だから
こそ恐れるのだ。
そしてアカネはこれまでの経験でそれを良く知っていた。だから
?
だからと言って出来る事はアカネにはなかった。ばれたくないか
らと言って逃げ出す訳にもいかないのだ。
今は事態が動くまでは二人の子どもとして甘えさせてもらうだけ
だった。
そして、早くも事態が動く切っ掛けが起きてしまった。
それはアカネが一歳の時に起きた事件が原因だった。
九尾の封印が解けたのである。
◆
四代目火影・波風ミナトの妻・うずまきクシナ。彼女は九尾の人柱
力だった。
九尾とは尾獣の一体である。尾獣はその名の通り尾を持っており、
それぞれ一本から九本の尾を持つ九尾を含めて九体が存在している。
そして尾獣を封印術により体内に封じられた者が人柱力と呼ばれ
る存在である。
人柱力は忍の里にとって非常に重要かつ繊細な立ち場にある。
強大なチャクラの塊である尾獣をその身に宿すのだ。その戦力は
小国など容易く滅ぼす事が出来るだろう。
それだけの力を誇る人柱力は里にとって重要な切り札となる。
だが、尾獣という強大な力を宿すのだ。当然リスクは高かった。
人柱力となった人間はその身に宿る尾獣により常に不安定で暴走
の危険性を孕んでいるのだ。
そしてそんな人外とも言える力を身に宿している人柱力は恐れら
れ遠ざけられる事が多い。
里としても強大な戦力である人柱力は最重要機密の存在であるた
め、他里に見つからないように隔離や軟禁、幽閉をしている場合もあ
る。
国を左右する程の戦力である人柱力。その一人であるうずまきク
シナは妊娠していた。もちろん赤子の父親は波風ミナトである。
80
人柱力の妊娠、そして出産。これは非常に危うい可能性を孕んでい
た。
人柱力が出産を行う際、尾獣の封印式が弱まり封印が解ける可能性
が高まるのだ。
九尾の復活は里にとって危険極まりない事件である。
そうはならないように封印術に長けた忍が護衛を務め、木ノ葉の里
より離れた場所にて結界を張って慎重に出産が行われるようになっ
た。
そして出産最中、九尾が封印から抜け出そうともがく事があった
﹂
おぎゃあ
﹂
が、出産自体は無事に成功した。
﹁おぎゃあ
﹁元気な男の子ぞえ
を取り上げる。
オレも今日から父親だ⋮⋮
!!
﹂
﹁ああああぁあぁぁぁぁぁあ
﹁これは
﹂
﹂
ミナトがそうしようとした矢先の事だった。
らない。
九尾を完全に押さえ込んで再び強固な封印術にて縛らなければな
にも弱まった封印から九尾が抜け出そうとしているのだ。
だが、感動も喜びも二の次にしなければならない。こうしている間
愛しい我が子の名を呼んでクシナは喜びの声を上げる。
想像以上の痛みに、女として母として耐え抜き、ようやく出会えた
﹁ナルト⋮⋮やっと会えた⋮⋮﹂
流す。
の声を聞き続け、そうして産まれてきた我が子にミナトが感動し涙を
出産という女性にしか分からない偉業を傍で見守り、痛みに叫ぶ妻
﹁ハハ⋮⋮
﹂
出産に立ち合っていた三代目火影の妻・ビワコが産まれたての赤子
!
九尾が出てこようとしてるぞえ
!
!?
それはミナトや監視役のビワコも予想外の出来事だった。
81
!!
!
!
今 ま で 以 上 の 勢 い で 九 尾 が 封 印 か ら 抜 け 出 よ う と し て い た の だ。
﹁いかん
! !?
﹂
それはまるで外から九尾を引っ張り出そうとしている力が働いて
﹂
!!
いる様だった。
﹂
このままではまずいぞえ
クシナ、もう少し頑張ってくれ
﹁は、早く封印式を強化するのじゃ
﹁はい
結界が破られた
!
﹂
!?
││火遁・豪火球の術
まれたばかりの赤子・ナルトだった。
だが、侵入者が最初に狙ったのは九尾を宿すクシナではなく⋮⋮産
てミナトはクシナの前に立つ。
声も発しない侵入者の狙いは九尾、すなわちクシナだろうと判断し
と言える容貌だった。
侵入者は全身をマントで、そして顔を面で隠した明らかに不審人物
﹁⋮⋮﹂
いとも容易く回避した。
気配を察知したミナトが苦無を投げる。だが侵入者はその苦無を
﹁何者だ
の二つが偶然な訳がない。
九尾が急激に封印を破ろうとしている事、そして何者かの襲撃。こ
何者かがこの場に侵入して来た事を意味する。
出産場所を守る為に仕掛けていた結界が破られた。それはつまり
﹁
だが全ては少しだけ、本当に少しだけ遅かった。
!
!
慌て、しかし冷静に忍達は対処する。
!
うナルトだった。
二者択一。ミナトが選んだのは⋮⋮今何とかしないと死んでしま
訳にもいかない。
ならない。だが、ミナトにとって産まれたばかりの我が子を見捨てる
ミナトがナルトを守る為にはどうしてもクシナから離れなければ
クシナから遠ざけていたのがミナトにとって最大の不幸だった。
九尾の封印式を強固にする為の邪魔になるのでナルトをビワコが
強大な火遁の術を放った。
侵入者はナルトと、そしてナルトを抱き上げていたビワコに向けて
!
82
!?
ミナトは黄色い閃光との異名が付くほどの忍である。その名に恥
じない速度でナルトへと近づき、そしてナルトを抱くビワコもろとも
飛雷神の術を発動し、その場から消え去った。
飛雷神の術とはチャクラを用いて付加したマーキングへと一瞬に
して跳躍出来る時空間忍術である。
﹂
﹂
あらかじめ用意していたマーキングへとミナトはナルトとビワコ
﹂
おぎゃあ
を連れて避難したのだ。
﹁くっ
﹁おぎゃあ
じゃが、このままではクシナが、九尾が
﹂
﹁す、すまぬミナト
﹁分かっています
!
!
!
元に行かねばならない。
﹂
ナルトをよろしくお願いします
任された
﹁ビワコ様
﹁うむ
﹂
とにかく、侵入者の狙いが九尾なのは確か。一刻も早くにクシナの
いう対処も出来たのだが⋮⋮。
とも言える間があれば豪火球を時空間結界にて別の場所に飛ばすと
咄嗟の判断を要されていたのも原因だった。あと少し、本当に一瞬
は対処しようがなかったのだ。
う。だが、先の豪火球はその威力ゆえに飛雷神の術で回避する以外に
普通の忍が使う豪火球の術ならばミナトは容易く対処出来るだろ
桁違いの威力と大きさだった。
あの侵入者は何者なのか。あの豪火球の術は並の豪火球と比べて
ていた。
ビワコの叫びにそう返しつつ、ミナトは焦りながらも冷静に思考し
!
だが、全ては僅かに遅かった。
する事が出来た。
されているのだ。これによりミナトはいつでもクシナの元へと移動
クシナに施された九尾の封印式には飛雷神のマーキングが書き足
瞬間移動する。
ビワコにナルトを託し、ミナトは飛雷神の術で再びクシナの元へと
!
!
83
!
!
!
!
﹁クシナ
﹂
⋮⋮危ないクシナ
﹂
!
それでか
﹂
!
名が浮かんできた。
﹁お前は⋮⋮うちはマダラなのか
﹂
そしてこれまでの情報を全て統合すると、ミナトの脳裏に一人の忍の
つ ま り こ の 侵 入 者 は 九 尾 と 契 約 を 交 わ し て い る と い う 事 で あ る。
以外には不可能なのだ。
口寄せの術で召喚出来る生物は、その生物との契約を交わした術者
事実を示していた。
の術で強引に召喚出来なくはないだろう。しかしそれは一つのある
だが、出産時に封印が弱まっていれば話は別だ。それならば口寄せ
け出る事はまずない。
本来ならば口寄せの術で口寄せされたところで九尾が封印から抜
尾が口寄せされた為である。
ミナトは出産を終えた時の急激な九尾の復活に得心がいった。九
﹁っ
﹁ミナト⋮⋮早く⋮⋮九尾が口寄せされようとしている﹂
口にした。
一体何者なのか。ミナトがそう思っていた時、クシナがある情報を
味な侵入者だ。
豪火球の術を放ったのは言うまでもない。全身を覆い隠した不気
の場所に飛ばす。
ミナトはクシナへと向かってくる豪火球の術を時空間結界にて別
﹁九尾が
出して、岩場の外に出ようとしている九尾を縛り付けていた。
その岩場がすでに崩れ去っていた。そしてクシナは全身から鎖を
にある離れた大きな岩をくり抜いて作られていた。
クシナがナルトを産む為に用意された場所は木の葉の里から場所
﹁う⋮⋮ミナト⋮⋮﹂
!
!
事が出来る忍。
る、九尾を口寄せでき、木の葉の結界に引っかかる事なく出入りする
桁の違う豪火球の術、出産時に九尾の封印が弱まる事を知ってい
?
84
!
そんなものはうちはマダラくらいだろうとミナトは見当したのだ。
だが、うちはマダラは初代火影と戦い死亡したはず。そう思いミナ
トは考え直す。
﹁いや、そんなはずはない⋮⋮彼は死んだ﹂
﹁⋮⋮﹂
それに対しても仮面の男は何も返さない。無言で攻撃をしよう印
﹂
を組んで⋮⋮しかしその動きが何故か止まってしまった。
﹁
突如として動きを止めた男を不審に思うも、今が好機と判断してミ
ナトは反撃に転じようとする。
⋮⋮あの男、口寄せされていたのか
﹂
だが、男は音を立てて煙と共にその場から消え去って行った。
﹁これは
?
た。
﹁うう
﹂
﹂
﹁クシナ
!!
憎しみを周囲にばら撒くだろう。
た。そしてクシナが死ねば九尾は自由となり、封印されていた怒りと
だがそれにも限界はある。クシナの命はまさに風前の灯火と言え
末裔だからだ。
存命なのはクシナがうずまき一族と呼ばれる生命力に溢れた一族の
九尾を、尾獣を抜かれた人柱力は死んでしまうのだ。クシナが未だ
ているが、それも時間の問題だ。
今はまだクシナの体から出ている鎖状の封印術が九尾を縛り付け
九尾がクシナの封印を無理矢理引き千切ろうとしているのだ。
﹁グルルルルル
﹂
九尾を狙う不穏な影を危険に思うが、今はそれどころではなかっ
という事である。
それはつまりあの男には協力者か、男を裏で操る黒幕的存在がいる
た。
喚された者が消える時と同じ現象だった事からミナトはそう見抜い
男が消えた時の独特の消え方が時空間忍術の一つ口寄せの術で召
!
!
!
85
?
それより
﹂
一番最初に狙われるのは⋮⋮この場から最も近く大きな里、木ノ葉
だろう。
﹂
今はビワコ様が守って下さっている
﹁ミナト⋮⋮ナルトは⋮⋮
﹁無事だ
﹁私なら、もう駄目よ⋮⋮﹂
!
くれた
ナルトの父親にしてくれた
﹂
君の男にして
それなのに⋮⋮
!
!
﹁え
⋮⋮どういうこと
﹂
いチャクラはナルトとの再会の為に使うんだ⋮⋮
﹂
﹁クシナ⋮⋮君が九尾と一緒に心中する必要はないよ。その残り少な
シナのその言葉を聞いて、ミナトは決意した。
心残りがあるとしたら、大きくなったナルトを見てみたかった。ク
幸せだと、そう言って今を肯定したのだ。
れて嬉しいと、もし生きて家族三人で暮らしている未来を想像したら
こんな状況でも、ミナトに愛されて嬉しいと、愛する我が子が産ま
だがクシナはそんなミナトを慰めた。
を苛める。
さいな
うとしてくれる愛しい女性を、守る事が出来なかった。それがミナト
守る事が出来なかった。今もなお死を以って自らと子どもを守ろ
!
﹁クシナ、君がオレを⋮⋮四代目火影にしてくれた
クシナの、今生の別れの言葉にミナトの感情は激しく渦巻いた。
﹁今まで⋮⋮色々とありがとう﹂
ば九尾の脅威からは一時的に逃れられるだろう。
だが尾獣が元に戻るのには数年程の時間が出来るのだ。そうすれ
は一旦チャクラへと分散し、そして再び元の尾獣の形に戻る。
人柱力がその身に尾獣を宿したまま死亡した場合、宿っていた尾獣
ナはミナトやナルトを救う為に最後の力を振り絞ろうとする。
そうすれば九尾の復活次期を延ばす事が出来る。そう言ってクシ
﹁このまま私は⋮⋮九尾を引きずりこんで⋮⋮死ぬわ﹂
はいないのだ。もう残された時間は僅かだろう。
クシナも自らの死を悟っていた。尾獣を抜かれて死なない人柱力
!
?
?
!
86
!
!
ミナトはクシナを九尾ごと連れて飛雷神の術で移動する。行き先
?
は⋮⋮ナルトのいる場所だ。
正確には最初にナルトとビワコを避難させた場所だ。当然そこに
は飛雷神のマーキングがしてある。
封印は解けたのかえ
﹂
そうして辿り付いた場所ではビワコがナルトを抱きかかえてあや
九尾
!!
していた。
﹁おぬし達
!
﹂
?
﹄
﹂
!
え﹂
﹁ビワコ様まで
﹂
﹁⋮⋮確かに、それならばまだ可能じゃ。この際⋮⋮致し方あるまい
ナルトに封印する。八卦封印でね﹂
﹁大丈夫だ。九尾のチャクラを陰と陽に分けて、陽のチャクラだけを
﹁そんな事をしたらナルトが
力であったナルトは⋮⋮言うまでもないだろう。
封印は遠からず破壊され、確実に九尾が復活する。そしてその時人柱
そんな九尾を産まれたばかりの赤子に封印すればどうなるか⋮⋮。
持っているかもしれない程だ。 け の 力 を 九 尾 は 有 し て い た。九 尾 一 体 で 他 の 尾 獣 の 数 体 分 の 力 を
並の人柱力では九尾を封印する事など出来るはずがない。それだ
らも伺えるだろう。
尾を押さえ込める特別な力を有するうずまき一族の人間を選ぶ事か
九尾の持つチャクラ、力は膨大の一言に尽きる。それは人柱力に九
ミナトの言葉はクシナにもビワコにも信じがたいものだった。
﹃
﹁九尾をナルトの中に封印します﹂
﹁どうするつもりじゃ
﹁ビワコ様、ナルトをこちらに﹂
び大声で泣き出した。
愕する。それによりビワコにあやされて泣き止んでいたナルトも再
突如として現れたミナトとクシナ、そして何より九尾にビワコは驚
!
が、ビワコの考えは木ノ葉の里を思えば当然の帰結なのだ。
ミナトの案にビワコは賛同する。それにクシナは納得が行かない
!
87
!?
尾獣は忍の里の軍事バランスとなっている。各里にはそれぞれ尾
獣とその人柱力が存在し、それが牽制しあって戦争や政治的なバラン
スを保っている。
だが、九尾ほどの尾獣が木の葉から無くなってしまえばどうなる
か。木ノ葉が弱体化したと考え、多くの他里が木ノ葉に戦争を仕掛け
て来るやもしれなかった。
しかも数年たって九尾が復活した場合、どこでどの様な被害が出る
か計り知れない上、他里に九尾を奪われるとより厄介な結果となるだ
ろう。
﹂
ミナトは火影として、里を守る長としてそれを認める訳にはいかな
かったのだ。
﹁大体、どうやって九尾のチャクラを半分に⋮⋮
ミナトのその答えは、クシナにとってもナルトにとっても残酷なも
どうやって九尾をチャクラを陰と陽に分けるのか。
!
き換えに術者の魂を死神に引き渡す、命を代償とする封印術である。
術の発動と同時に術者と封印の対象にしか見えない死神が現れ、術
者と対象の魂を喰らう。
そして死神に喰われた魂は死神の腹の中で互いに絡み合い憎み合
い永遠に闘い続け、未来永劫苦しみ続けるのだ。
命を代償とし、死後すら地獄もかくやという苦しみを味わわされる
だけに、この封印術は非常に強力だった。そう、九尾のチャクラを陰
陽で分ける事が出来るくらいに。
﹁ビワコ様、申し訳有りませんがそれ以外に方法はありません。木ノ
葉は⋮⋮しばらく三代目に任せます。火影を引退したばかりで引っ
張り出して悪いですけど⋮⋮﹂
88
のだった。
﹂
!
火影が里からいなくなっては里が⋮⋮
でも⋮⋮あの術は術者が
﹁屍鬼封尽を使う﹂
﹁⋮⋮
﹁それはならんぞえミナト
﹂
!
!
クシナとビワコが動揺する程の術・屍鬼封尽。それは術の効力と引
!
﹁⋮⋮そうか。ふん、ヒルゼンならアチシが尻を引っぱたいてでも働
かせてやるえ。心配はするなえ﹂
﹁ありがとうございます﹂
ミナトとビワコが今後について話し終わるが、まだ納得がいかない
どうしてミナトが⋮⋮
﹂
者がいた。そう、ナルトに九尾を封印するという事に、ミナトが屍鬼
なんでナルトに⋮⋮
封尽をするという事に納得のいかない者が。
﹁なんで⋮⋮
!
として未来を切り拓いてくれると何故か確信したのだ。
﹁この子を信じよう。何たってオレ達の息子なんだから
!!
◆
︵九尾のチャクラが消えた⋮⋮
︶
を託した。そして九尾は両親の想いと共にナルトに封印された。
そして、いくつかミナトとクシナは会話を交わし、ビワコにナルト
そう言って、ミナトは屍鬼封尽の術を発動した。
﹂
そして、それを止める事が出来るのはナルトだと。ナルトが人柱力
は確信していた。
今回の襲撃者とその裏にいる存在は、必ず災いをもたらすとミナト
そしてそれに伴って起きる災い。
ミ ナ ト は 言 う。か つ て ミ ナ ト の 師 か ら 聞 い た 世 界 の 変 革 の 予 言。
﹁君の言いたい事は分かる。でも││﹂
!
そのような歳でまともな力を発揮出来るわけがない。せめてあと
秀であろうとも、いまだ一歳の幼子なのだ。
当然だ。アカネがいかに転生者であり、前世の能力を引き継ぎ、優
た。
だが、それだけだ。察知しただけ、それ以上の事は何も出来なかっ
た。
九尾が復活した瞬間に、木ノ葉の忍の誰よりも早くにそれを察知し
アカネの感知能力は全ての忍の中でもトップクラスだ。それ故に
アカネは九尾のチャクラが消失したのを感じ取る。
!
89
!
三年も経っていればと歯噛みをしていたが、九尾は里の者に託す以外
になかった。
すべ
そうして焦燥していたが、九尾のチャクラは数分足らずで消失し
た。封印に成功したのだろうかと気になるが、今それを知る術はアカ
ネにはない。
今はただ情報が入るのを待つしかなかった。
九尾復活の情報はアカネには一切入ってこなかった。父親も母親
も、それらしい事は言わずに何事もなく生活をしている。
九尾が復活して暴れていれば甚大な被害が出ているだろうが、その
気配も微塵も感じられない。やはり九尾は再び封印されたのだろう。
そして変わりに入ってきた情報が、四代目火影ミナトとその妻クシ
ナの死去であった。
︵⋮⋮ミナトとクシナが逝ったのか︶
90
ミナトはアカネが知る限りでも優秀と言える忍だった。才能だけ
でなく、思慮深く里を想う良き忍だった。だからこそ火影となれたの
だろう。
そしてクシナ。彼女は里の問題児だった。幼少期は特徴的な見た
目によって馬鹿にされており、その馬鹿にした男子を返り討ちにした
という曰く付きだ。赤い血潮のハバネロという異名まで付いたくら
いだ。
だが、良い子だったとアカネは思っている。そうでなくてはミナト
が見初めるわけがない。
そんな二人が亡くなってしまった。悲しくあるが、アカネは九尾の
復活が原因である事はまず間違いないと考える。
九尾の人柱力であったクシナは九尾の封印が解けた為に死んだの
だろう。そしてミナトは九尾から里を守る為に死んだのか。その辺
りはアカネには詳しくは分からなかったが。
︶
次にアカネが考えるのが何故九尾の封印が解けたのか、である。
︵⋮⋮出産か
九尾の封印式は非常に強固だ。その封印を解いて人柱力から九尾
?
を抜き出すには万全の準備が必要だし、そして時間が掛かる。
だが、アカネが知る限り一度だけ九尾の封印が破られそうになった
事がある。それが九尾の前人柱力・うずまきミトの出産である。
その時は危うくも封印が破られる事はなかったが、今回はそうなら
なかった。ヒヨリの中ではそう予想された。
︵となると、二人の子どもは⋮⋮︶
ミ ナ ト と ク シ ナ 以 外 に 亡 く な っ た 人 の 話 は ア カ ネ も 耳 に し な い。
つまり死んでいないのか、そもそも生まれなかったのか、それとも
⋮⋮その存在を隠されているかだ。
もし存在を隠しているのだとして、四代目火影の子どもを隠す理
由。それはその子どもが非常に重要な立場にあるという事だ。他里
はおろか、木ノ葉の者││もしかしたら大人は皆知っているかもしれ
︶
ないが││にも隠すほどの理由。
︵⋮⋮人柱力か
アカネの行き付いた結論がそれだ。だがその結論はすぐに霧散し
た。
何故ならいくらうずまき一族の血を引くとはいえ、赤子では九尾の
チャクラを抑えきれないと考えたからだ。
それからも色々と推察してみるが、所詮推察は推察だ。見てもいな
いのに全てを理解する事は出来ない。
今はまだこの状況を甘んじるしかないだろう。だが、いつまでもそ
れでは駄目かとアカネは思う。
︵全く。転生しても忍はゆっくり出来ないな。前世では立場上のしが
らみがあった分色々と遊ぼうと思っていたのに︶
九尾の復活。それに伴う火影の死。これが出産の不手際であると
はアカネも思ってはいない。
あのミナトや三代目火影である猿飛ヒルゼンがいるのだ。そんな
不手際を起こす様な下手な真似はしないだろう。
ならば第三者の存在が介入したはずだ。木の葉の結界を超えて、厳
重な警護を敷かれていたであろう出産場所を襲い、火影を出し抜いて
九尾の封印を解く。
91
?
並大抵の忍では不可能な所業だ。つまり大物が関与しているわけ
だ。それは木ノ葉を揺るがす大きな災いとなる可能性もあった。
︶
︵木ノ葉は私と柱間と、そしてマダラの夢の里。そして私の子の様な
存在でもある。それに仇なすならば⋮⋮
アカネの前世、ヒヨリに子どもはいない。そもそも結婚自体をして
いなかった。
それはかつての兄との契約による結果だったが、アカネはそれを後
悔はしていない。
代わりに木ノ葉の里という大きく素晴らしい子を作る事が出来た
からだ。そしてその里に住む者達も皆ヒヨリが、アカネが守りたいと
願う者達だ。
ならばそれを害する事を許すわけにはいかない。いかなる難敵で
あろうとも木の葉を守る為ならば立ち向かう所存だった。
その為にはいずれ日向の当主と長老に自分の正体を告げる必要が
あるだろう。
今のままでは年齢と分家という立場が足かせとなり、自由に動く事
が出来なくなるだろう。
その上ヒヨリである事を教えるのが遅くなれば遅くなるほど信用
されにくくなる。幼い内に教えた方が信憑性が増すのだ。
成長すれば出来て当然でも、幼少時ではまず不可能という事は多く
ある。それらを幼い内に見せつけ、更にチャクラ性質の色を見せれば
ヒヨリを良く知る長老は納得するだろう。
そして現当主である日向ヒアシ。彼ももちろんヒヨリと面識があ
る。というかヒアシの祖父がヒヨリの兄なのだ。面識があって当然
である。
⋮⋮ちなみにヒヨリが兄から当主の座を譲ってもらう為に交わし
た契約は、子孫を残さぬ事と、兄の子が次期当主となる事の二つであ
る。
︵ヒアシと長老への報告は私に呪印を刻む時がいいか。確か三∼五歳
くらいになったら刻まれるはず。そのくらいの年齢なら今よりも多
少の力は発揮出来るだろうし︶
92
!
呪印を刻むとあるが、日向の分家の生まれは必ず額に︻籠の中の鳥︼
を意味する呪印を刻まれる掟となっている。
この呪印は日向宗家と、そして白眼を守る為に作られたシステム
だった。
白眼は三大瞳術の一つに数えられ、忍にとって非常に有用な能力で
ある。それ故に白眼を有する日向一族は繁栄していたのだ。
だからこそ、白眼は他の忍から狙われていた。白眼を奪い取り別の
忍に移植すれば、例え日向一族の忍でなくても白眼の能力を得る事が
出来るのだ。
それを防ぐ為に作られたのが呪印である。呪印を刻まれた分家の
忍が死す時、呪印はその者の白眼の能力を封印して消えてなくなるの
だ。
それだけではない。宗家の者が秘印を結ぶと呪印は効果を発揮し、
分家の者の脳神経を簡単に破壊する事が出来る。これは分家が宗家
を裏切る事がない様に仕組まれた物だ。
もっとも、白眼を守るという意味でなら呪印も認めていたが、宗家
が分家の命を物理的な意味で握っているこの効果はアカネは好きで
はなかった。
もちろん好き嫌いで判断し、私情を持って動く事は忍としても日向
の長としても失格であると理解していたが。
ちなみに四∼五歳で多少は力を発揮出来るとアカネは考えている
が、それは何もおかしな事ではなかった。
この世界では優秀な者は齢六歳くらいで忍者アカデミーを卒業し、
下忍として働きだす事もままあるのだ。まあ戦時下や里の戦力補強
が急務である時のみの話だが。
ヒヨリであれば四∼五歳くらいで上忍並の力は発揮出来るだろう。
︵ま、呪 印 を 刻 む と 言 っ て も、私 に は 呪 印 と か 効 果 な い ん で す け ど
ねー︶
そう、アカネに呪印は効果を及ぼさない。それは日向一族に伝わる
秘術ではなくアカネだけの特異体質だった。正確にはアカネの二度
目の人生で作り出したある能力が作用した結果だが。
93
その能力により、アカネは呪印や幻術といった能力が無効化される
のだ。もっとも無効化には術の効果に見合ったチャクラが消費され
る為、無尽蔵に無効化出来るわけではなかったが。
まあ無尽蔵と言ってもおかしくないチャクラ量を有しているので、
この世の大抵の呪印、幻術、封印術、その他陰遁等の術の大半は無効
化出来るのだが。
つまりアカネを倒すには物理的なダメージを与えるしかないので
あった。幻術使いは涙目である。
気になるのは呪印が刻めない事が問題となるかもしれない事だ。
前世がどうあれ今のアカネは日向の分家の生まれだ。宗家を敬う
立場の分家に呪印が刻めないとなったら色々と体面が悪いだろう。
︵うーむ。まあヒアシや長老に考えさせるか︶
ヒヨリ時代と相変わらずの丸投げであった。果たして彼女は成長
をしていると言えるのだろうか。
まあかれこれ千年以上は生きているので、逆に言えばこれ以上精神
的には成長しないのかもしれない。
百に満たない人生でアカネ以上に精神的に成長している人間もい
る事を考えると情けない限りである。悲しいが、これが彼女の人間と
しての器の限界なのだろう。
下手に長く生きすぎてあまりに強い力を手に入れてしまっている
ので大抵の困難が力づくで切り抜けられるのが原因の一つかもしれ
ない。強いというのも考え物だった。
94
NARUTO 第四話
さて、時は流れアカネも三歳となっていた。すくすく育ったアカネ
は肉体が大分思い通りに動くようになって来ていた。
長きに渡る人生に、多くの転生。この中で一番辛いのが成長過程の
期間である。
どうしてもまともに体は動いてくれず、かつては丸三日寝ずに闘え
ていた体力は見る影もない。
成長して体がまともに動くようになっても、体力は一から付け直さ
なくてはならないのだ。これがまた苦行だった。
技術面ではしばらく修行していなかった分の錆落としや、新たな肉
体と技との齟齬を無くしていけばいいのだが、体力は本当にひたすら
反復して付け直すしかないのだ。
こればかりは本当にうんざりする事もあるアカネだった。
それでも毎日の様に幼い体に無理が行かない程度に走りこみを続
ける日々を送るアカネ。
そんな日々にとうとう転機が訪れた。そう、アカネに呪印を刻む日
がやって来たのである。
﹁父上、本日はヒナタ様のお誕生日なのですね﹂
﹁⋮⋮うむ。宗家の嫡子であるヒナタ様の二歳の誕生日だ。今日は盛
大な祝いとなるだろう。その目出度い席に我らの様な分家の端くれ
も招待して下さったのだ。決して無礼な事をしてはいけないぞ﹂
﹁かしこまりました父上﹂
宗家の目出度い席に招待された事を光栄と言うが、アカネの父であ
る日向ソウは浮かない顔であった。
それはアカネも察していた。そしてその理由も。
宗家に何らかの祝い事があり、それに招待される分家の者の中に呪
印が刻まれていない幼子がいる。
幼子の内に宗家という超えられない絶対の壁を刷り込み、幼子の内
に呪印を刻む事で呪印が当たり前の物だと刷り込む。そうするには
95
盛大な祝いの日は都合の良いだろう。
盛大であればあるほど、多くの分家が宗家に傅いている姿を見れば
見るほど、その眼には宗家が絶対として映るのだから。
自分の子に呪印を刻まれる。その一生を宗家という大きな籠の中
で飼い殺しにされる決定的な楔を刻まれるのだ。それを喜ぶ親は少
ないだろう。
いや、日向にあっては少なくはなかった。分家は宗家の為に命を賭
して忠誠を誓う事が当たり前だと思っている分家の人間は多い。そ
してそれは決して間違った考えでもなかった。
宗家という日向にあって最も重要な血を未来永劫残すのは一族と
して当然の義務なのだから。
そ し て こ れ は ア カ ネ も 否 定 は し て い な か っ た。そ う い う 伝 統 に
きっと宗家の方々もアカ
よって残されていく文化や因習は古き歴史を知る貴重な宝にもなる
のだから。
﹂
﹁うむ。流石はオレとホノカの子どもだ
ネを気に入って下さるさ
に努めた。
それがアカネには逆に辛い。実は前世の記憶や力を引き継いでい
ます、等と口が裂けても言えない気持ちになってしまうのだ。
だが今日はそれを宗家だけでなく、父と母にも教えるつもりであっ
た。隠したままでは呪印を刻めない理由を教える事が出来ないだろ
う。
いや、そういう特異体質であると誤魔化す事は出来るかもしれない
が、このまま誤魔化したままでいるのは少々気が引けたのだ。
︵これでヒヨリとしての立場を得る必要がなければずっと二人の子ど
ものままでいられたのになぁ⋮⋮︶
覚悟は決めていてもそう思わずにはいられない。覚悟とは、父と母
に捨てられる覚悟である。前世を告げるならばそうなる可能姓は大
いにあるのだ。
そうしなければならない原因を作り出した九尾復活の裏にいる犯
96
!
ソウはすぐに浮かなかった表情を隠し、アカネを不安がらせない様
!
人。そいつは絶対に許さないと改めて誓うアカネであった。
﹁アカネは宗家のお屋敷は初めてでしたね﹂
﹁はい母上﹂
等と言っているが、もちろん初めてなのはアカネとしてである。
ヒヨリ時代では実家として使用していたのだ。知らない場所など
殆どなかった。まあ改築や増築などされていれば話は別だが。
かつての我が家を思い出しつつ、アカネは父と母に連れられて懐か
しき宗家の屋敷へと赴いた。
﹁ヒアシ様、ヒナタ様のお誕生日おめでとうございます﹂
﹁うむ。足労だったなソウよ﹂
﹁勿体無いお言葉です﹂
日向ヒナタの誕生祝いが盛大に開かれ、そして長き歴史を持つ日向
らしく厳かに終えようとしていた。
そして全てが終わる前に、最後のしきたりが行われようとしてい
た。
﹁それではソウよ。娘をしばし預かるぞ﹂
﹁⋮⋮はい﹂
全ては宗家の、ひいては日向一族の為。心が痛むがそう納得し、ソ
ウはヒアシの言葉に頷いた。
﹁アカネだったな。着いて来るのだ﹂
﹁はい﹂
アカネはヒアシの後を着いていく。ここでヒアシに全てを話すわ
けにはいかない。周囲には多くの分家の者がいるからだ。
前世に付いて教えるのは当主であるヒアシとその父の長老、そして
父と母だけで十分だ。それ以上は情報の漏洩という危険性も考える
と秘密にしておくべきだろう。
なので一度ヒアシに着いて行き、周囲に人がいなくなった時を見計
らって話を持ち出すつもりなのだ。
ヒアシの後を追いながら、宗家の屋敷を見渡すアカネ。そのほとん
どは記憶にある通りだった。
97
かつての我が家の懐かしさに目移りしているアカネを、ヒアシは初
めて訪れる宗家の屋敷に興味津々なのだろうと思っていた。
聞いた話では三歳にして天才と言われる分家の寵児との事だった
が、こうして見ると年齢に相応な少女だとヒアシは感じていた。
だが歳相応であるのは悪い事ではない。優秀であれば多少は眼を
瞑れるだろう。これくらいで期待外れだと感じる事もない。
それに分家の者だからと言って宗家より劣るとは限らない。ヒア
シは双子の弟を思い浮かべて僅かに顔をしかめる。
宗家に産まれた双子。それがヒアシとその弟ヒザシだ。
殆ど産まれたタイミングは同じだが、僅かに早く産まれたヒアシは
兄に、僅かに遅く産まれたヒザシは弟という立場になった。
そしてその僅かな時間で出来た立場の差は、後に大きな差となった
のだ。
兄のヒアシは宗家の当主となり、弟のヒザシは分家の一門に落ちた
のだ。
同じ宗家の人間として生まれ、容姿も実力も互角でありながら、産
まれたタイミングが僅かに違っただけで決定的な立場の差が出来て
しまった。
かつては兄弟として振舞えたが、今ではそれもままならない。当主
としての立場が、分家としての立場がそれを許さないのだ。
今でもヒアシは弟が当主の座を継げば良かったと思っている。
周囲からは互角と言われていた二人の実力だが、ヒアシはそうは
思っていない。ヒザシの方に僅かにだが日向の才の天秤は傾いてい
たと実感していたのだ。
だが、ほんの僅かな差は周囲には理解されず、また理解されたとし
てもその程度の差では弟であるヒザシが日向の当主となる事は出来
なかっただろう。
それを思い出して僅かに残ったしこりの様なモノが胸に去来する
が、ヒアシはすぐに気を取り直す。
そして後ろから聞こえた恐ろしい言葉を耳にして、驚愕と共に後ろ
を振り向いた。
98
﹂
﹁ヒザシの事を気にしているのですか
﹁
﹂
いたとしても、この場でこのタイミングで確認してくるものだろうか
く、例え分家の誰か││この場合は両親の可能性が高い││が教えて
相手は三歳の少女なのだ。ヒアシとヒザシの確執など知る由もな
て鎌をかけたというと、それも考えがたい。
ならばヒアシがヒザシに対して追い目を感じている事を知ってい
で読み取る事など出来る訳がない。 た今思考していた事をヒアシに術を掛けられたと認識させずに一瞬
そんな術を掛けられた記憶など当然ヒアシにはなく、そもそもたっ
応の術者が入念な準備と長い時間を掛けて行える術だ。
心や記憶を読む術などヒアシの記憶にはあるにはあるが、それは相
られるのだ。
何故たった今考えていた事を、僅か三歳の幼子がぴたりと言い当て
れば話は大きく変わる。
だが、この場所で、この時に、そしてこの者が、自身に放ったとな
その言葉自体は、特に恐ろしいと言えるものではないだろう。
?
ありえない。それがヒアシの見解だ。だからこそヒアシの中で目
の前の少女が一瞬で不審人物へと変化していった。
﹁貴様何者だ﹂
日向アカネに化けている別人、もしくは日向アカネの精神を乗っ
取った何者か。
いずれにせよ日向に、ひいては木ノ葉に仇なす存在だろう。ヒアシ
は瞬時に臨戦体勢を取り、両目の白眼を発動させた。
﹁いや、驚かせてすみませんヒアシ﹂
﹁⋮⋮答えぬか。ならば││﹂
もはや問答不要。言葉を捨て力にて答えを聞きだそうとするヒア
シ。
柔拳にて相手の経絡系にチャクラを流し込み、死なない程度に痛め
つけようとして││
99
!?
?
﹂
これは⋮⋮
││その攻撃は、アカネを覆うチャクラの塊にて弾かれた。
﹁なっ
││馬鹿な
だ。
ば敵の攻撃を弾きながら移動したり、別の行動をする事が出来るの
回天であれば敵の攻撃をその場で弾くしか出来ないが、廻天であれ
この廻天の利点は自分が回転していないという点につきる。
せる秘中の秘であった。
己の身ではなく全身から放出されるチャクラその物を高速回転さ
日向ヒヨリに見せられた回天を超える奥義・廻天。
それはかつてヒアシが先々代の当主であった木ノ葉の伝説の三忍、
す技だが、先のヒヨリはその身を一切回転させていなかったのだ。
回天とはチャクラを放出し、己の体を回転させて敵の攻撃を弾き返
て回天でない似て非なるものだった。
だが、アカネがたった今ヒアシの前で披露した防御法は回天であっ
御する事が出来る日向だからこその秘奥であった。
白眼により全身のチャクラ穴から放出されるチャクラを認識し制
可能としているのが白眼であろう。
それを全身で可能とさせるのが柔拳の極意である。そしてそれを
界だ。
と言えども手や足や体の一部からの放出を術や技に利用するのが限
チャクラ穴から放出されるチャクラはコントロールが難しく、上忍
来ない奥義である。
これは日向でも柔拳を極めて高いレベルで習得した者しか体得出
らゆる攻撃をいなして弾き返す。
そして更にそこから自身の体をコマの様に高速回転させる事であ
るというもの。
クラ穴からチャクラを多量に放出し、そのチャクラで攻撃を受け止め
日向宗家に代々口伝にて伝えられる秘術・回天。それは全身のチャ
自身の攻撃を弾いた防御法。それにヒアシは見覚えがあった。
!
そ の 自 由 度 の 差 は 非 常 に 大 き な 違 い を 生 み 出 す 事 に な る だ ろ う。
100
!
?!
だが、チャクラを全身から放出し、かつ敵の攻撃を弾けるレベルで高
速回転させるには非常に高度なチャクラ制御を要する。
なのでこの術を考案したヒヨリ以外には先代も現当主であるヒア
シも体得する事が出来なかった奥義なのだ。当然回天すら伝えられ
ていない分家に至っては言うまでもない。
﹂
だが、その秘奥の術を僅か三歳の、しかも分家の者が披露してみせ
﹂
る。今のヒアシの驚愕はいかほどか。
﹁お前は⋮⋮一体⋮⋮
﹁ふむ⋮⋮白眼で見ても分からないのか
﹂
﹁まさか⋮⋮ひ、ヒヨリ様⋮⋮なのですか⋮⋮
﹂
シ。言葉を交わすのは私の死の間際だから⋮⋮4年振りくらいか
﹂
﹁良かった。どうやら気付いてくれたようですね。久しぶりだねヒア
その全てがヒアシの中で繋がっていった。
く洞察力。
のみしか体得出来ていない廻天。自身とヒザシの確執に、それを見抜
ヒアシの白眼に映る忘れようもない色のチャクラ。そしてヒヨリ
に⋮⋮
﹁こ、このチャクラの色 まさか、いやそんな馬鹿な⋮⋮だが、確か
そして、唐突に信じがたい事実に気付いた。
染まりつつも白眼にてアカネの肉体を見つめる。
だとしたら少し面倒だな。等と呟くアカネに対し、ヒアシは驚愕に
?
!
!
?
あまりの出来事にアカネに対してどう対応していいのかヒアシの
﹁うむ、は、いや、いえ⋮⋮分かりました﹂
と母も一緒に。内密の話なので、場所は選んでください﹂
﹁良ければ貴方と長老⋮⋮ヒルマと話がしたいのです。あと、私の父
ていただけなのだが。
もっとも、アカネはヒアシが理解してくれた事が嬉しくてただ笑っ
ヒアシは二の句が継げなくなっている。
齢四歳にしてただならぬ雰囲気を発しているアカネに気圧されて
は出てこなかった。
こうも多くの動かぬ証拠を見せ付けられたヒアシはその答え以外
!?
101
!
中で定まっていないようだ。
分家の子どもが実は先々代当主でしたなどという奇想天外な事実
を突きつけられれば仕方のない事だと言える。
ヒアシは未だ動揺を抑えられずにアカネに言われた通りに行動し
た。
◆
日向宗家の屋敷、その奥にある一室。そこには数人の日向一族が集
まっており、その周囲にはそれ以外の人は完全に払われていた。
その場にいるのは当主である日向ヒアシと先代当主ヒルマ、そして
分家の日向ソウとその妻ホノカに、二人の子であり渦中の人物である
アカネの5人である。
﹂
﹂
﹁⋮⋮ヒアシ様、私達に内密の話があるとの事でしたが、それはどの様
﹂
シによってこの場に呼び出されていた。
内密の話があるとだけで呼び出したのだ。ヒアシが無駄な事をし
ない性格であると知っているヒルマからすれば相応の何かがあるの
だろうとは理解していた。
だが、その密会に日向の分家でも宗家との関わりも薄い者達を共に
呼び出しているせいで、余計に何があったのか想像だに出来ないでい
た。
102
な話なのでしょうか⋮⋮
﹁もしや、アカネが何か粗相を⋮⋮
たというのだ
﹁ヒアシよ。ワシも何故呼び出されたのか理解できん。一体何があっ
あった。
在から急に呼び出されては悪い出来事しか頭に浮かばない二人で
宗家と分家の身分差は大きく、その当主となれば尚更だ。そんな存
いた。
急にヒアシによって呼び出されたソウとホノカは戦々恐々として
!?
?
ヒアシの父であり先代当主のヒルマもまた何も知らされずにヒア
?
﹁⋮⋮父上、ヒヨリ様のチャクラを覚えておいでですか
﹂
﹁む⋮⋮。当然だ。あの方は日向の長き歴史に置いても最強と謳われ
た御方。その力の一端しかワシも触れてはおらぬが、それでもお主よ
りはその力をヒヨリ様の傍で体験してきたわ﹂
自分の事を長老ではなく父と呼ぶヒアシに一瞬だが怒気を発する
ヒルマ。伝統を重んじる一族なので当主の立場にあるヒアシが分家
の者がいる場でその様な発言をした事に怒りを覚えたのだ。
だがヒルマはヒアシに向けようとした注意の言葉を抑えた。ヒア
シは日向当主として十二分の才覚を発揮してこれまでの責務をこな
してきた。ここに来てそれが崩れたという事はそれ相応の事態が起
きたという事だろう。
ならば注意をする時間すら惜しい。先々代当主についての質問の
意図は理解出来なかったが、ヒルマはそれが必要な事だろうと判断し
て知ってる限りを答えた。
﹁⋮⋮今すぐ白眼を発動し、日向アカネのチャクラを確認してくださ
い。ソウにホノカよ、お前達もだ﹂
﹁ぬぅ﹂
﹁は、はい﹂
﹁かしこまりました﹂
ヒアシの言葉に疑問を覚えつつも、全員が白眼を発動してアカネの
チャクラを見る。
ソウとホノカはアカネのチャクラを見つつ、一体何の意味があるの
かと怪訝に思う。
その眼に映っているのはいつもと変わらない娘のチャクラだった。
経絡系のどこにも異常はない、全く健康な愛しい娘だ。
二人がそう不安に思い
それともチャクラ穴を見抜く事も出来ない未熟な白眼では見つけ
る事が出来ない異常があったのだろうか
出した所で不意に物音が聞こえた。
て慄いているヒルマの姿があった。
眼の焦点は凝視するようにアカネへと向いており、体は震え口は大
103
?
二人が物音の原因へと視線を向ける。そこには狼狽し体勢を崩し
?
きく開かれている。
そんな長老の姿を見た事も想像した事もないソウとホノカに理解
﹂
出来た事は、長老がここまで驚愕するほどの何かが娘にあるという事
だった。
﹂
一体何があるというのですか
アカネに何が⋮⋮
﹁ひ、ヒアシ様
﹁娘に⋮⋮
!?
﹄
﹂
や、更なる困惑を呼び出す様にヒルマはある言葉を口にした。
そして、ヒアシの言葉に困惑する二人に答えを教える様に⋮⋮い
いないのだ。
敬と言えるだろう。だから二人はヒヨリのチャクラの色を知っては
しかも組手や戦場でもない限り白眼にて宗家の人間を見るなど不
リと出会う機会はより少なかったのだ。
しかも二人が産まれた時の日向の当主はヒルマであったためヒヨ
家の当主を白眼で見る機会などそうそうない。
そう、二人はヒヨリを白眼で見た事がなかったのだ。分家の者が宗
のだな﹂
﹁⋮⋮そうか。ソウとホノカはヒヨリ様を白眼にて見た事はなかった
そしてヒアシは取り乱すソウとホノカを見てある事実に気付いた。
た。
やらなければならない事だと自分を叱咤してアカネは気を取り直し
ますます正体を明かす事に対して気が重くなってきたが、それでも
までに、自分の身を案じてくれているのだと⋮⋮。
それがどれほどの事かをアカネは心の底から理解する。それほど
言を荒げて追求する。
誠実で生真面目な父が、温厚で礼儀正しい母が、日向当主に対して
!?
!
﹁おお⋮⋮これはまさしく⋮⋮ヒヨリ様のチャクラじゃ⋮⋮
﹃
!
までの流れで理解出来ない程二人は愚かではなかった。
愛する我が子であるアカネのチャクラが、日向の先々代当主にして
伝説の初代三忍と謳われている日向ヒヨリと同一なのだ、と。
104
!
ヒヨリ様のチャクラ。この言葉が何に向けられた言葉なのか、これ
!?
﹂
﹁そ、それは一体どういう事なのですか
となって駆け抜けた。
⋮⋮そうか。ならば最早疑う余地はない。この御方は粉う事
出来なかった。
﹂
!
初めて出来た子どもが、実の子ではあれどその中身には前世の記憶
そんな二人に対してアカネは頭を下げて謝る事しか出来なかった。
﹁父上、母上⋮⋮今まで秘密にしてきて、申し訳ございません⋮⋮
﹂
その信じがたい、信じたくない事実に、二人は俯き耐え忍ぶ事しか
を疑う術をソウとホノカは持っていない。
現当主と先代当主。日向に置いて絶対の権力者である二人の言葉
﹁アカネは⋮⋮私達の子は、ヒヨリ様の⋮⋮﹂
﹁それでは、本当に
葉を肯定する何よりの証となった。
齢三歳の身で廻天を体得する。それはヒルマにとってアカネの言
わった。
の廻天の名は明かせなかったが、ヒアシの言葉はヒルマに十分に伝
分家の者がいる故、宗家のみの秘伝となる回天、そしてその発展系
なくヒヨリ様の生まれ変わりじゃ﹂
﹁ッ
われました﹂
﹁⋮⋮父上、ヒヨリ様⋮⋮いえ、アカネ様は、ヒヨリ様のみの秘奥を使
破った。
そして長きに渡る沈黙が降り立ち、その沈黙をゆっくりとヒアシが
誰もが声を発する事が叶わない中、アカネは滔々と説明した。
とうとう
その言葉は、この場のアカネを除く人間の人生に置いて最大の衝撃
﹁それは私が、日向ヒヨリの生まれ変わりだからです﹂
いない。それに答えられるのはアカネしかいなかった。
そしてその疑問の答えはヒルマも、そしてヒアシも持ち合わせては
ヒヨリのチャクラと同一なのかまでは理解出来ない。
ヒルマの言葉の意味を理解出来ても、どうしてアカネのチャクラが
﹂
﹁アカネが、ヒヨリ様のチャクラを⋮⋮
?
!
105
?
!
が詰まっていたのだ。
苦労しながら子どもを育み、その成長を見守ってきた親として騙さ
れたと考えても何らおかしくはないだろう。
﹁あ、アカネ⋮⋮﹂
﹁ああ⋮⋮﹂
アカネに対して何かを言おうとして、何を言えば良いのか分からな
いソウとホノカ。
アカネ様を呼び捨てにするとは││﹂
だがそんな二人に向かってヒルマは怒気を顕わにした。
﹁おぬしら⋮⋮
あまりの出来事にまだ動揺は収まっていないが、既にヒルマの中で
はアカネはかつて絶対の力を誇っていた日向の誉れ高き忍・日向ヒヨ
リその人だ。
そして日向ヒヨリは宗家の当主を務め、木ノ葉を築いた伝説の三忍
でもある。分家風情が対等な立場で物を言うなど許されるわけがな
い。
だがヒルマの怒気は、当のアカネによって止められる事となった。
﹁ヒルマ⋮⋮日向ヒヨリとしての立場を持ち出し、利用しようとして
いる私が言うべき事ではないのは分かっている。だが⋮⋮父上と母
上を許してくれ﹂
そう言って頭を下げてヒルマに頼み込むアカネ。尊敬し敬愛する
﹂
存在からそのように言われては逆に困惑するしかないヒルマだった。
﹁あ、頭を上げて下されヒヨリ様
その答えはすぐに出る事はなく、今はただ静かにこの場の流れを見
いいのか二人は悩んでいた。
だがヒルマの言う〟これから〟という言葉に関してはどうすれば
ヒルマの許しの言葉に二人は頭を下げて感謝の意を示す。
﹃寛大なお心、ありがとうございます﹄
し達に責は問わぬ。そしてこれからもじゃ﹂
﹁⋮⋮分かりました。ソウとホノカじゃったな。先の言に対しておぬ
にとって二人は掛け替えのない両親なんだ。⋮⋮頼むヒルマ﹂
﹁父上と母上は私を産み育ててくれたのだ。前世は関係ない、今の私
!
106
!
守るしかなかった。
﹁ヒヨリ様、こうして私達に前世を明かされたその理由は⋮⋮﹂
﹁ああ、二年前の九尾復活が原因だな﹂
﹁⋮⋮やはりそうでしたか﹂
アカネの言葉を聞いて、ヒアシは全てを理解した。
アカネは九尾の復活とその裏にいるだろう黒幕の存在を日向ヒヨ
リであった頃から察知していたのだ、と。
九尾の復活は里にとって滅亡の危機となる程の大事であり、それを
利用しようとする黒幕の危険性もまた同等と言えるだろう。
それを防ぐ為に、里を守る為に、転生の秘術によって再び日向にて
生 を 受 け た の だ。そ う 理 解 し て ヒ ア シ は ア カ ネ へ の 尊 敬 を 深 め て
いった。
ヒアシ、渾身の勘違いであった。
﹁しかし、流石はヒヨリ様。九尾の復活を予見されていたとは﹂
﹁気付く事は出来ても、当時の私は一歳の幼児でしたからね。流石に
九尾を抑えるには力不足でした。もう少し早く生まれていれば、四代
目の犠牲もなかったやもしれないというのに⋮⋮﹂
微妙にずれている二人の会話だが、両者ともそれには気付いていな
いようだ。
﹁⋮⋮恐らく九尾復活の裏には何者かの手引きがあったはず﹂
﹁⋮⋮ は い。現 場 に 居 合 わ せ た ビ ワ コ 様 が そ の 犯 人 を 目 撃 し て い ま
す。といっても、全身を布で覆っており、顔は仮面で隠していた為何
者かは未だ不明ですが﹂
﹁そうか。⋮⋮もうヒアシは分かっているだろうが、私がこうしてヒ
ヨリという前世を明かしたのは、私が自由に動けるように色々と手を
貸してほしいからだ﹂
アカネは日向の分家の生まれの為、宗家の命令には絶対服従を強い
られる。
そして順当に育ってもアカデミーに入り、卒業すれば上忍率いる忍
の一班の中に組み込まれ、自由に動く事は出来なくなるだろう。
その上この先修行をするにも相手を探すのに苦労するという問題
107
もあった。それらを解決する為にこうして宗家に全てを明かしたの
だ。
﹁私の修行の場と相手、そして下忍として縛られない立場。これらを
用意してもらえますかヒアシ﹂
﹁⋮⋮立場に関しては私専属の付き人としましょう。優秀故に幼い内
から育てるという名目ならば里の上層部も疑わないでしょう﹂
﹂
﹁ふむ、いいですね。それならばあなたの命令でいかようにでも動く
事が出来ますし﹂
﹁修行相手に関しては⋮⋮私では如何でしょうか
﹁ほう。⋮⋮ええ、問題ないですよ。ヒアシがどれだけ強くなってい
るか楽しみです﹂
修行の相手を自ら買って出るヒアシの目を見て、アカネは少し楽し
そうに笑った。
︵弟への嫉妬と後ろめたさ。それらを振り切りたいというところか。
うんうん、そういうのは嫌いじゃないぞ︶
ヒアシの感情を読み取っていたようだ。自分よりも優秀な弟に抱
く僅かな嫉妬と、優秀な弟を当主にしてやれなかった後ろめたさ。
それらを弟よりも強くなる事で振りきり、自分が当主として相応し
いと証明しようとしているのだろう。
そしてそれが自分だけでなく弟を思っての考えである事もアカネ
は見抜いていた。名家の双子というのは中々厄介な様だ。
﹁さて、取り合えず大まかな事は決まりましたね。公の場では私の事
﹂
は分家の娘として扱って下さいよ。もちろんヒヨリという名で呼ぶ
のは禁止です﹂
﹁もちろんでございます﹂
﹁後は⋮⋮私の呪印なんですけど、どうしましょうか
日向ヒヨリであるアカネに対して呪印を刻むという大それた事を
題に関して悩みだした。
誰もその事について忘れていたようだ。ヒアシもヒルマもこの問
⋮⋮﹂という間抜けな声を出した。
本来アカネが呼ばれた目的を口にして、アカネ以外の全員が﹁あ
?
108
?
する訳には、だが分家の者に呪印を刻まない訳には、等とどうすれば
いいのか分からず混乱している当主と前当主。
そんな二人にアカネはちょっとした爆弾発言をした。
﹄
﹁まあ私に呪印は効果ないのですけど﹂
﹃⋮⋮は
混乱が収まらない二人にアカネは説明する。
﹁いや、かつてそういった術を開発しまして。私に作用する陰遁や封
印術に呪印の類は自動的に無効化するのです。自動故に私の意思で
もこの能力を切る事は出来なくて⋮⋮﹂
結構無茶苦茶言ってるのだが、アカネは〟てへぺろ〟くらいの気持
ちで説明していた。
﹁それは、その⋮⋮どうしようもないですな﹂
﹁うむ⋮⋮しかし、それならば他の者達にヒヨリ様⋮⋮アカネ様に呪
印が刻まれていない事をどう説明したものか⋮⋮﹂
﹂
﹁それなんですよねぇ。いっその事、額に呪印と同じ刺青でも彫りま
しょうか﹂
﹁ヒヨリ様に刺青を彫るなどと
まあ多少肉体を失ったくらいならば瞬時に再生が出来るので何の
るのだが。
しようがなく、元の額に戻すには一旦刺青を額の肉ごと削ぐ必要があ
もっとも刺青は既に塞がった傷と言えるのでそのままでは治療の
通りに戻す事も出来るのだ。
そして元々は傷なので、アカネがその気になれば一瞬で治療して元
印に似せた刺青を彫る事も可能だろう。
傷の付け方で色々な見た目の刺青を作る事が出来るので、日向の呪
て着色させることで完成する。
刺青とは針や刃物などで体を少し刻んで傷を作り、その傷に色素に
戻せますし﹂
﹁別に刺青くらい構いませんよ。どうせその気になったらすぐに元に
!
問題もなかった。それが出来るのはヒヨリ含めて数人程度しか忍世
界にはいないが。
109
?
◆
結局アカネの呪印に関しては刺青で誤魔化す事に決まった。
刺青に関しては後々用意をしてから彫る事になり、それ以外にも幾
つか細かな話をして、この場は解散となった。
ヒアシとヒルマは解散後しばらく興奮し、二人して夜遅くまで酒を
呑みつつ昔話に花を咲かせていたりする。
そしてアカネとその両親であるソウとホノカ。家族三人は宗家の
二人とは対照的に静かに帰路についていた。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
三人ともに無言のままに家路につく。誰も何も言う事が出来ない
いた時も、アカネの中では全て経験して来た事のおさらい程度だった
のだ。
筋が良いとソウに褒められ嬉しそうにしていたのも、今では演技と
110
でいた。
ソウとホノカは驚愕の事実によって大きなショックを受けており、
そんな二人に対して何を言えばいいのかアカネには思いつかなかっ
た。
何を言っても、被害者と言える二人に加害者と言える自分が声を掛
けた所で御為ごかしにしか聞こえないだろうからだ。
自分の想いは既に宗家の屋敷にて話している。後は二人がどう受
け止めてくれるかだ。最悪捨てられる事になろうとも、アカネは二人
を恨むつもりはなかった。
﹂
そうしてゆっくりと無言で家路につく中、ソウがその重たい口を開
いた。
⋮⋮はい﹂
﹁今までの、多くが嘘だったんだな
﹁ッ
?
ソウに柔拳の鍛錬を受けていた時も、ホノカに様々な教育をされて
!
しか見られないだろう。多くの思い出は転生という詐欺のような力
によって穢されたのだ。
﹁あなた⋮⋮アカネは⋮⋮﹂
﹁分かっている。お前は黙ってなさい﹂
夫にそう言われては貞淑な妻としては何も言う事は出来ない。
﹂
ホノカは夫に全てを託して静かに夫と娘を見守った。
﹁なら、オレ達と過ごした全ても、嘘だったのか
しかなかった。
﹁⋮⋮﹂
嘘になる﹂
表では子どものフリをしてその裏
それに対する答えはアカネには一つ
﹂
なかった理由もな。それでも、その事に怒りが湧かないなんて言えば
﹁お前がヒヨリ様の生まれ変わりなのは⋮⋮理解したよ。それを言え
直してから口を開く。
そして玄関を開けずに、しばらく無言だったソウはアカネへと向き
人の家に帰りついた。
またもしばらく重たい空気の中を無言にて家路につき、とうとう三
そう返事をするだけで、またソウは無言となった。
﹁そうか⋮⋮﹂
たのだ。
は低いが、だからと言って楽しかった日々を否定する事も出来なかっ
だからソウの言葉はすぐに否定した。それを信じてくれる可能姓
らす日々に幸せを感じている事に嘘はなかった。
二人を騙す事になったが、両親としての二人を愛しているし、共に暮
そう、そんな事はなかった。確かに迂闊に話せる内容ではない為に
﹁そんな事ない⋮⋮
?
それだけは、絶対に⋮⋮
ではうんざりしていたのか
その全てが演技だったのか
一緒に寝て、家族として過ごしてきた四年間。
一緒に笑い、一緒に悲しみ、一緒に食事をして、一緒に風呂に入り、
?
!
?
アカネも覚悟していたが、実際に聞けば心に突き刺さる言葉だっ
た。
111
!
﹁だ け ど ⋮⋮ 家 族 で 過 ご し た 三 年 間、あ の 充 実 し た 日 々 の 全 て が 嘘
﹂
文句あるかホノカ
﹂
オレがア
お前の笑顔も、泣き顔も、全部が演技だって
だったなんて、オレだって思いたくない﹂
﹁父上⋮⋮﹂
﹁思ってたまるか⋮⋮
﹂
カネを愛しているって気持ちに嘘はない
﹁例え前世がなんであろうとアカネはオレ達の子どもだ
﹁父上⋮⋮
言うならオレは人間不信になっちまう⋮⋮
!
﹁当たり前だ
﹂
﹂
!?
﹂
ら覚悟しろ
﹂
!
!
る程に重たい空気は払拭し、三人は家へと戻っていった
だがそれでも、この家庭から笑顔が消え去ることはない。そう思え
はないと思い知らされた事に変わりはないのだから。
以前のような親子関係に戻る事は不可能だろう。純真な子どもで
きますね﹂
﹁ふふふ。それじゃあアカネが叱られている内に食事の準備をしてお
いっぱい、叱って下さい⋮⋮
﹁はい⋮⋮
﹁子どもの隠し事や悪戯なんていくらでもある 後で叱ってやるか
﹁二人に、本当の事を話さなかったのに⋮⋮
﹂
愛しても⋮⋮二人に愛されてもいいんですか⋮⋮
﹁いいんですか⋮⋮。これからも、父上と母上と呼んでも⋮⋮二人を
が子として受け入れようとしているのだ。
嘘になるだろう。それでも二人はアカネをヒヨリとしてではなく我
葛藤はあっただろう。悩み苦しんだだろう。蟠りがないと言えば
た。
それはソウに対してではなく、アカネに対して語りかけた言葉だっ
だ、正真正銘私の子ですよ。前世があろうとも関係ありません﹂
﹁文 句 な ど あ る わ け が あ り ま せ ん。ア カ ネ は 私 が お 腹 を 痛 め て 産 ん
それに対して、ホノカは優しく微笑んで答えた。
文句があるかを確認する。
ソウは自分自身に言い聞かせるように叫び、ホノカにもこの結論に
!
!
!
!
!
112
!
!
!
!
NARUTO 第五話
日向宗家の屋敷の中にある大きな道場にて、息を切らして床に倒れ
こむ者がいる。
厳しい稽古を積んでいる最中なのだろう。床には汗と思われる水
滴があちこちに散らばり、その中には赤い水滴も存在していた。
ぐぅ、も、もう一本、お願いします
﹂
倒れ込んでいる者││日向ヒアシ││は不規則な呼吸を出来るだ
はぁっ
け素早く整え、立ち上がって目の前の相手と対峙する。
﹁はぁっ
!
まさ
柔拳の技術では確かにアカネが勝っているが、ここまで一方的にな
は防ぎ切る事は出来ない。
ヒアシの攻撃はアカネに掠る事もなく、逆にアカネの攻撃をヒアシ
千年。そんな規格外を相手に勝てという方が可笑しいのだ。
日向流柔拳を学んで数十年、転生を繰り返して多くの武術を学ぶ事
だがこれに関してもヒアシが悪い訳ではない。
だが、それでもアカネを相手にすると力不足な感が否めなかった。
えた方が早い実力者と言えた。
ヒアシは日向の長い歴史の中での歴代の当主と比べても、上から数
生まれただけで成れるほど安い立場ではない。
日向の当主には相応の実力も求められるのだ。ただ宗家の嫡子に
る実力者は数える程しかいない。
ヒアシの実力は低くない。というよりも、木ノ葉の里でヒアシに勝
ろう。
せ倒れる。これを何も知らない者が見れば確実に自身の眼を疑うだ
がある二人が道場で対峙し合い、そして大人であるヒアシが息を切ら
大人と子ども。見た目でも、そして実際の年齢でもそれくらいの差
向アカネである。
ヒアシと対峙しているのは四歳の誕生日を迎えたばかりの少女、日
﹁ええ、何度でもお受けします﹂
!
るほどの差はない。ならば何故こうもヒアシはアカネに翻弄されて
いるというのか。
113
!
その答えが、アカネを最強足らしめているアカネ最大の武器の一
つ、読みである。
アカネ程戦闘経験を持つ人間はまずいないだろう。幾千幾万を超
える闘争を乗り越えたアカネの読みの深さはいつしか未来予知に匹
敵する程に至ったのだ。
相手の動きを、その呼吸や表情、チャクラの流れ、感情の変化、筋
肉の動き、足捌きや体裁き、多くの材料から先読みして対応する事が
出来るのだ。
アカネに勝つにはアカネ以上の技術を有するか、先読みしても避け
る事の出来ない規模の攻撃か、先読みすら覆す程の動きを要求される
のだ。そしてそのどれもヒアシは有していなかった。
ヒアシが幾度となく道場の床に転がされ、とうとう立ち上がる事が
出来なくなった時点で本日の修行は終了した。
﹁お疲れ様です。今日はこれくらいにしましょう﹂
﹁⋮⋮﹂
ありがとうございました。そう言葉にする事も出来ないくらいに
ヒアシは疲労しているようだ。
仕方あるまい。この組手の前にもチャクラコントロールやその技
術を高める修行をぶっ倒れるまでしていたのだ。
回復してすぐにこれではスタミナも尽きえよう。
だが日向当主がこの有様では他の者に示しがつかないという物だ。
不意な来訪が合った場合にだらしない姿を見せては日向の沽券に障
るだろう。
なのでヒヨリは自分のチャクラをヒアシへと分け与える。これで
多少はマシになるだろう。
﹁⋮⋮ふ、不甲斐ない姿を晒し、申し訳ありませぬ⋮⋮﹂
﹁気にしないでください。ヒアシには世話になっていますしね﹂
そう、アカネはヒアシにかなり世話になっている。
こうして修行に付き合ってもらう事で戦闘の勘も取り戻す事が出
来た。当主直々に付き合ってもらっているのだ、この時点で本来なら
あり得ないだろう。まあヒアシにも利点がある事なのだが。
114
それにアカネがヒアシの付き人という立場を得られたのも大きい。
これがなければ今後の展開にかなり差し支えていただろう。
﹁ふぅ、もう結構ですアカネ様。ありがとうございます﹂
﹂
﹁アカネと呼び捨てにしてもいいのに。むしろ立場上、私の方があな
たの事をヒアシ様と呼ばなければいけないんですよ
ヒアシは宗家で、アカネは分家。例え前世がどうであろうが今の立
場はそうであり、これが覆る事はない。
そうである以上アカネの言う事は正しいのだが⋮⋮。
﹁誰もいない修行中ならば問題はないでしょう。もちろんそれ以外で
は宗家として振る舞わせていただきますが﹂
だが、頑としてヒアシは││ヒルマもだが││周囲に誰もいなけれ
ばアカネに対して上位の者に対する振る舞いを取ってきた。
それほどアカネの前世であるヒヨリに敬意を示しているのだろう。
アカネはヒアシを見る事で最初と二度目の人生で当時のアカネに
対して並外れた敬意を払っていた一人の女性を思い出す。
︵⋮⋮いや、比べるとヒアシに悪いな、うん︶
あれは敬意というか、最早狂信の類に近かった気がしたのだ。恐ら
く命令すれば世界征服だろうと行動に移した事だろう。
﹂
結界。それはこの道場内に張られているチャクラを外に漏らさな
い為の防壁である。
これのおかげでアカネが全力でチャクラを練っても道場外の者に
は気付かれないだろう。数秒間は、という条件が付くが。
全力でチャクラを練って開放などすれば、まず道場が崩壊し、そし
て結界が吹き飛び、その後屋敷に甚大な被害が出るだろう。
ヒアシもそこまでの力をアカネが持っているとは想像だにしてい
ないが、それが木ノ葉の三忍の力なのである。
千手柱間とうちはマダラが全力で闘った時など地図を大きく書き
115
?
遥か過去を思い浮かべ、冗談になってないなとアカネは首を横に
何かあったのですか
振った。
﹁
?
﹁ああ、いえ、何もありませんよ。そろそろ結界を解除しますか﹂
?
換えなければならないほどの被害が出るのだ。山の一つや二つで済
んだら御の字と言えるだろう。
もっとも、それを知っている者はこの世でも一握りしか残っていな
いが。大半がお伽話の類と思われている嘘の様な本当の話であった。
結界を解除し、普段の立場である日向当主とその付き人へと戻る二
人。
そんな二人の前に一人の少女⋮⋮いや、幼女が現れた。
﹁ち、ちちうえ、アカネねえさま、おつかれさまです⋮⋮﹂
どこか自信無さげに話掛けるこの少女の名は日向ヒナタ。ヒアシ
の娘であり、後の日向当主となる予定の宗家の嫡子である。
一年近く前から父であるヒアシの付き人となったアカネとも当然
交流があり、物心付く頃から一緒にいたのでアカネの事を姉として
慕っているようだ。
アカネとしても自分を慕ってくれる年下の少女を本当の妹のよう
116
に愛おしく思っていた。
﹁うむ⋮⋮﹂
﹁ヒナタ様もお勉強をなされていたのですね。お疲れ様でした﹂
ヒナタは現在二歳││もうすぐ三歳になるが││だ。日向の宗家
ならばそれくらいの年齢から色々と教育されるのだ。
幼い頃からの英才教育が後の当主を作り出す事になる。⋮⋮全て
﹂
の人間が英才教育を受けたからと言って才能の花が開く事はないの
だが。
﹁あの、アカネねえさまは⋮⋮きょうはとまっていかれるのですか
﹁それは⋮⋮﹂
二人の会話を聞いて、ヒナタはその顔に歳相応の笑顔を咲かせた。
﹁ありがとうございますヒアシ様。お言葉に甘えさせて頂きます﹂
する事を許す﹂
﹁構わん。今日は疲れただろう。アカネよ、今日の所は屋敷にて逗留
ヒアシはそれに気付き、若干諦めた様に頷いた。
シに視線を送る。
何処か期待を籠めた様なヒナタの瞳を見て、アカネはちらりとヒア
?
﹂
﹁じゃ、じゃあ、きょうもいっしょにねてくださいますか
﹂
﹁ええ、喜んで。今日はどの様なお話をいたしましょうか
レモニーにて発露していた。
だ。戦争が好きだという忍は少なく、平和を望む者達はその思いをセ
長年木ノ葉と争っていた雲隠れと同盟という名の和解が出来たの
レモニーを行っていたのだ。
れる事になり、木ノ葉では来訪した雲隠れの忍頭を歓迎する盛大なセ
忍五大国の一つ、雷の国にある雲隠れの里との間に同盟条約が結ば
この日、木ノ葉は記念すべき日を迎えていた。
◆
その日を思い、ヒアシはある決意をした。
いう役目を与えられる為に。
シの息子・日向ネジは呪印を刻まれるだろう。宗家を守る為の道具と
もうすぐヒナタは三歳の誕生日を迎える。その目出度い日に、ヒザ
と思うと、僅かに感傷的になってしまったのだ。
だが、双子の弟であるヒザシの息子に呪印を刻む日が近づいている
めるつもりもない。
いを理解したとしても、伝統にして日向を守る為に必要なこの儀を止
ない限りはあり得ないし、例え我が子に呪印を刻まれる分家の者の思
もちろんヒナタは宗家の人間ゆえに呪印を刻む事は特別な理由が
か、と。
なければならないと思えば、それはどれ程の葛藤と苦しみがあるの
だからこそ。子がいるからこそ理解出来る。我が子に呪印を刻ま
は父として当たり前の感情だろう。
ければならないが、それでも子が喜んでいるのを見て嬉しいと思うの
ヒナタは初めて出来た我が子だ。当主として厳格な態度で接さな
楽しそうに話している二人を見て、ヒアシも僅かに表情を崩す。
﹁それじゃあ││﹂
?
だが、下忍から上忍に至るまでほぼ全ての忍が参加したそのセレモ
117
?
ニーに、唯一参加していない一族があった。それが日向一族である。
当然セレモニーに参加しなかったのには訳がある。その日は日向
の嫡子である日向ヒナタの三歳の誕生日という記念すべき日だった
のだ。
全ての日向一族はヒナタを祝う席に参加していた。そこで初めて
日向ネジと日向ヒナタは邂逅した。
ネジが見たヒナタの印象は、自分よりも小さく可愛らしい子であっ
た。ネジはこの時四歳であり、子どもらしい素直な感想と言えよう。
そしてその感想を隣に立つ父ヒザシにも素直に小さな声で呟いた。
﹁かわいい子ですね父上﹂
﹂
そんな息子の声に、ヒザシは浮かない顔をするだけで何も答える事
が出来なかった。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮どうしたのです父上
父親の様子が可笑しい事に気付き、ネジは心配したように話し掛け
る。だが、それに対してもヒザシは誤魔化すように何でもないと言う
事しか出来なかった。
尊敬し愛する父の想いはネジには理解出来ない。これから宗家に
絶対服従の証を刻まれるなどネジは知りようもないのだ。
日向ヒザシの根には宗家への憎しみの芽があった。双子として生
まれ、実力もほぼ互角の兄ヒアシ。その兄に全てを持っていかれたの
だ。
生まれた順番が違えば当主となっていたのはヒザシだった。二人
の違いは生まれた時間。それだけで、宗家と分家と言う超えられない
壁を兄弟の間に築かれたのだ。
兄として接してきたヒアシと対等の口を聞く事はもうあり得ず、常
に兄が上、弟は下という身分を強制される。
ヒザシが双子の弟ではなく、普通に歳の離れた弟として生まれてい
れば諦めもついただろう。だが、僅かなのだ。本当に僅かな差で、こ
こまで大きな差が出来てしまったのだ。
実力は互角と言われていたが、ヒザシは自分が兄より優れている自
118
?
信があった。そしてそれは真実だ。二人が百回闘えば、その内六割は
ヒザシが勝利しただろう。
だがその僅かな差は、数分あるかないかという産まれた時間の差と
いう僅かな差に押し潰されたのだ。
この境遇に立って、納得しない者は少なくないだろう。自分の方が
当主に相応しいと吠える者は多くいるだろう。
ヒザシもそれらの想いを抱いていた。だがそれを全て飲み込んだ
のだ。宗家が争って日向に利する事など一つとしてない。それを理
解しているヒザシは自分の想いよりも一族を重視したのだ。
だが、同じ想いを子どもにも背負わせるとなれば話は別だった。
父 親 の 目 か ら 見 て も ネ ジ の 才 能 は 別 格 だ っ た。日 向 の 天 凛 を 授
かって産まれたとすら言えるだろう、そう言える程の片鱗を齢四歳に
してネジは見せていた。
このままネジが育っていけば、自分を超えて日向の歴史上でも数え
ただろう。だが、お世辞にも宗家の嫡子たるヒナタに才能があるとは
言えなかった。
ヒザシがヒナタを見た事は数回しかないが、その数回でネジとヒナ
タの才能の差を理解出来るほどに二人の差は大きかった。それだけ
ネジが優秀と言う事でもある。
そんな劣る宗家の為に、日向の天凛たる我が子は生きねばならな
い。ネジの定めはヒナタを守り日向の血を絶やさない様に生きる事
119
る程の実力者に育つだろう。それほどの確信がヒザシにはあった。
だがその才覚も分家の身として産まれた瞬間に、宗家に全て捧げる
事が決定してしまった。それがヒザシは悔しかった。
自分の事ならば想いを飲み込む事が出来た。だが我が子となれば
親としての想いがまた出てくるのだ。それが親と言うものなのだろ
う。
何故宗家よりも優れているネジが分家の身に甘んじなければなら
ない 何故宗家の為に命を捨てる覚悟を持たなければならない
そんな思いがヒザシの内心を回り巡る。
?
いや、宗家がネジよりも優れているならばこんな想いも抱かなかっ
なぜ
?
?
何故自分が当
と決まっていた。ヒナタを守る為ならば死すら厭わない様に教育さ
れるのだ。
どうして納得出来る
当主であればネジにその様な生き方を強要する事は
それをどうして許せる
主ではない
?
だが、そこでヒザシに思いもよらない出来事が起こった。
るしかなかった。
ネジを残して無駄死にをする訳にもいかず、ヒザシは全てを諦観す
そしてその罰は⋮⋮死だ。
宗家に逆らう事は出来ず、逆らった所で呪印にて罰せられるのみ。
情は、諦めが勝った。
宗家への恨みと、どうしようもないという諦め。二つの相反する感
﹁⋮⋮いや、何でもない⋮⋮﹂
反応出来なかったのはその為だろう。
ザシの中の宗家への恨みをより引き出していた。先程ネジの言葉に
そしてこれからネジに忌まわしい呪印が刻まれる。その事実がヒ
を。
た。実力ではなく、産まれた順番ただそれだけで当主を決めた宗家
ヒザシは兄であるヒアシを恨んではいない。だが、宗家は恨んでい
切る事の出来ない想い。
様な物だ。平静を装えても、宗家に服従を誓っていても、決して消し
これらの考えはヒザシの中では小さな、しかし確かに残るしこりの
なかった。
?
あ、はい
﹂
﹁ヒザシよ。ネジを預かる前にお前に用がある。着いて来い﹂
﹁え
!
取って、その言葉は予想外だった。
一体どの様な用があるというのか。疑問に思うも宗家の命令に従
うしかないヒザシは無言で進むヒアシの後を着いていく。
そして到着したのは宗家の屋敷にある道場だった。ヒアシに着い
て中に入ると、そこには一人の少女の姿があった。
ヒザシにも覚えがある少女だ。齢三歳にしてヒアシの付き人にな
120
?
このままネジの呪印を刻む儀式を行うのだと思っていたヒザシに
?
るという日向の歴史でも異例の抜擢を受けた少女、日向アカネだ。
先程はネジに日向の天凛があると思っていたし、それは真実だとヒ
ザシは言える。だが、こと才能という点に置いてはアカネの方が上で
はという考えはかつてからあった。
生半可な才能で兄が分家の人間を傍に置くとは思っていないのだ。
アカネは二人が道場内に入室してすぐに立ち上がり、一礼をしてか
ら道場の端へと寄る。
何故ここにアカネがいるのか、一体兄はどうして自分をここへ連れ
てきたのか、疑問ばかり募るが、ヒザシに出来る事はヒアシの言葉を
待つだけだった。
そして、ヒアシは驚愕の言葉を放った。
決闘
私と、ヒアシ様が
﹂
﹁ヒザシよ。今から私と決闘を行ってもらう﹂
﹁なっ
!?
らやろう﹂
﹁ほ、褒美⋮⋮ですか
﹂
﹁安心しろ。例え私に勝っても罰はない。いや、それどころか褒美す
だが、ヒアシはヒザシが更に驚愕する言葉を放ってきた。
ヒアシも理解しているはずだ。
例え決闘を行ったとしてもヒザシが本気で闘える訳もなく、それは
して決闘をするなど許されるわけがない。
だが決闘となれば話は別だ。分家の人間が宗家の、しかも当主に対
よく共に鍛錬をした二人だ。
修行ならまだ分かる。かつては同じ宗家の一員として、兄弟として
!?
どうだ
﹂
﹂
﹁それとも、別の褒美が良いか
ネジに呪印を刻まないというのは
由など聞いた事はない。恐らく日向の歴史上でもありえないだろう。
勝負に勝てば当主の座を譲る。そんなとんでもない当主交代の理
た。
それはヒザシにとって、いや日向の人間にとって爆弾級の発言だっ
﹁なっ
﹁うむ⋮⋮ヒザシよ。お前が勝てば日向当主の座はお前に譲る﹂
?
?
121
!?
!?
?
﹁っ
﹂
ヒザシはここに来てようやくこれがヒアシの挑発なのだと理解し
た。
全力で掛かって来い。それでも私は負けはしない。そうヒアシは
言外に言っているのだ。
﹁⋮⋮本気、なのですね﹂
﹁二言はない。お前が勝てばどちらでも好きな褒美を選ぶといい﹂
﹁⋮⋮分かりました。全力でお相手いたします﹂
ヒザシの思いが白眼となって現れる。勝ってやる。そんな思いが
ヒザシの中に溢れていた。
ヒザシはこの勝負に勝ったとしてもヒアシが約束を守る事はない
だろうとは思っていた。
宗家は宗家、分家は分家だ。それが覆ることはない。先の言葉は自
分に本気を出させる為の方便なのだろうと思っている。
何の為にそんな事をするのか。そんな事はヒザシにはどうでも良
かった。ヒアシに勝って、その天狗となった鼻を叩き折ってやる。当
主の座はオレに相応しかったのだと教えてやる。
それらの思いがヒザシを全力で勝負に挑ませた。
﹁後ろの者はこの決闘の見届け人だ﹂
﹁日向アカネと申します。此度の決闘の見届け人を承りました。よろ
しくお願いいたします﹂
堂の入った挨拶に、ヒザシから放たれる圧力にも動じない態度だ。
それだけでやはり只者ではないと伺えた。
だが次の瞬間にはヒザシの中からアカネの存在は消えてなくなっ
た。目の前にいるのは敬愛する兄にして憎むべき宗家の当主。
そんな存在を相手に勝つにはその全てを持って集中して戦いに臨
まなければならないのだから。
﹁それでは、両者前へ﹂
アカネの言葉に従い二人が一定の距離まで近づく。すでにヒアシ
も白眼を発動している。両者とも臨戦体勢は完全の様だ。
そして⋮⋮決闘の合図が降りた。
122
!!
﹁始め
◆
﹂
﹁それまで
﹂
勝負は決した。地に立つ者と地に倒れる者。一目見て明確な差が
勝負の結果を表していた。
勝ったのは⋮⋮日向ヒアシだった。
﹁う、ぐ、ぅぅ⋮⋮﹂
数十の点穴を突かれ、チャクラを練る事も出来なくなったヒザシは
全身の痛みに苦しみ呻く。
そんな痛みの中、ヒザシは思う。この決闘になぜ負けたのか、と。
いや、完敗だった。何故負けたと説明するならば完全に地力の差と
言う他ないほどに、ぐうの音も出ない完敗だった。
だからこそ解せない。自分と兄の実力差はここまでではなかった
はずだ、と。むしろ、自分の方が若干だが強かったはずだ、と。
油断はなかった。全身全霊で勝ちにいった。勝つという気概はあ
れど、気負ってはいなかった。気負って勝負を急いては勝つ事の出来
ない実力者だと理解していたからだ。
それでも負けた。自らの身分が分家の座に落ちてからも、いや落ち
たからこそ一層の努力をして修行に励んできた。それでも⋮⋮負け
たのだ。
﹁ふ、ふふ⋮⋮わ、たしの、負けですね⋮⋮何をしても、宗家には勝て
ないのか⋮⋮﹂
ヒ ザ シ の 心 に 去 来 す る の は 運 命 に は 抗 い よ う が な い と い う 諦 め
だった。
そんなヒザシの諦めの言葉に対して、ヒアシはそれを否定した。
﹂
﹁違うぞヒザシ。お前は宗家に負けたのではない。兄である私に負け
たのだ﹂
﹁⋮⋮え
ヒアシが何を言っているのか、ヒザシには理解出来なかった。
?
123
!
!
宗家と分家に別れてから今まで、ヒアシと兄弟として接してきた事
はなかった。
ヒアシは当主として、ヒザシは分家として振舞わなければならない
為、二人の本心はどうあれ兄弟としての関係は終わったものだったの
だ。
少なくてもヒザシはそう思っていた。いや、ヒアシも少し前までは
同じ思いだった。
ヒアシはヒザシに近づき点穴によるチャクラ封じを解除する。こ
れで多少は楽になるし、チャクラを練る事も出来るだろう。
そ し て ヒ ザ シ に 対 し て 見 せ た 事 も な い 様 な 笑 み を 浮 か べ て こ う
言った。
﹁どうだ。私の勝ちだぞヒザシ﹂
それはヒザシが聞いた事もないヒアシの言葉だった。強気な態度
を示していても、こんな風に自慢げに話す事はない人だった。
124
だが、今のヒアシの表情は実に晴れ晴れとしており、そして何より
も楽しそうだった。
呆気に取られているヒザシにヒアシは更に言葉を続ける。
﹂
﹁お前が当主になれなかったのは弟だからではない、私の方が強かっ
たからだ﹂
﹁それは⋮⋮
必要な事だ﹂
日向という家と血を守り、他里に白眼を渡す事を防ぎ里を守る為にも
﹁ヒザシ。辛いかもしれんが、ネジに呪印は通例通りに刻む。これは
るのだと理解が出来たのだ。不器用な兄らしいな、と思えたのだ。
言葉だろう。だから余計にヒアシが真に自分の事を想ってくれてい
上からの立場による言葉にも思えるだろう。あまりにも不器用な
て歩いてくれ。そう、言っている様に感じたのだ。
お前は当主になれなかったのだ。だから、生まれを呪わず、前を向い
弟だから当主になれなかったのではない。私の方が強かったから
シはヒアシの思いやりなのだと感じ取った。
その、一歩間違えれば嫌味としか受け取れない言葉を、何故かヒザ
!
﹁⋮⋮はい、承知しております﹂
それは日向の分家として生まれた者には逃れられぬ運命。だが、そ
れでも当主たるヒアシがその運命に対して僅かなりとも想うものが
あると知れて、ヒザシは満足だった。
﹁すまぬな﹂
﹁ヒアシ様が謝られる事は⋮⋮﹂
﹁これは当主としてではない。お前の⋮⋮兄としての言葉だ。これく
﹂
らい素直に受け取れ﹂
﹁っ
ヒアシの言葉の意味をヒザシは理解した。今は宗家と分家ではな
﹂
く、一介の兄弟として接しろと。
﹁⋮⋮いいんですか、兄さん
﹁なぜ白眼を開く
﹂
ラや経絡系を調べた程だった。
ろうか。ヒザシはもしや偽者なのではと白眼を発動してそのチャク
一体何があったらあの厳格で強気で頑固な兄がこんなになるのだ
もいない時くらいは、構わんだろう。そう思わないかヒザシ﹂
﹁⋮⋮たった二人の兄弟だ。しきたりや伝統は守るべき物だが⋮⋮誰
?
﹁お前⋮⋮
﹂
﹁いや⋮⋮偽者なのかなって﹂
?
して接する事が出来る様になれるとは思ってもいなかった。
過程はともかく、今という結果は悪くはない。こうして再び兄弟と
するが、しかしすぐにどうでもいいかと思いなおした。
娘であるヒナタが生まれ育っていった過程で何かあったのかと推測
そんな兄を見て、やはりどこか変わったのだろうとヒザシは思う。
言ってこなかった。
がギリギリそうだと思える程僅かにだが││して、それ以上は何も
だが、ヒアシは少し顔を顰めるもすぐに表情を柔らかく││ヒザシ
てすかさず謝罪する。
ヒザシは少しばかり不機嫌になった兄を見てこれはまずいと感じ
﹁はは⋮⋮すまない兄さん、つい⋮⋮﹂
!
125
!?
そう思うと、何処か清々しい物がヒザシの中に通って行った気がし
た。これまで募った宗家への恨みやしこりが吹き飛んで行くような、
何かが。
そうしてヒアシだけでなくヒザシも晴れ晴れとした表情になって、
そこでふとヒザシは気付いた。
兄は誰もいない時くらいは兄弟に戻ってもいいだろうと言ってい
たが、この道場にはヒアシとヒザシ以外にもう一人日向の人間がいる
事に。
その当の本人であるアカネは兄弟二人を見て、うんうんと頷いてい
﹂
た。ようやく兄弟が多少は元の関係に戻れた事を喜んでいる様であ
る。
﹁兄さん、彼女は⋮⋮
ああ、アカネならば問題はない。この事を口外する様な奴で
﹁ずる⋮⋮ですか
﹂
﹁ヒザシよ。実は私は先程の決闘でずるをしていてな﹂
ネはそれに対して首を縦に振った。
によろしいのですかと確認の為にしばらくアカネを見つけたが、アカ
それでアカネが何を言いたいのか理解したヒアシは、アカネに本当
ザシの疑問に気付いたアカネはヒアシへと目配りをする。
その疑問はヒアシにも、そして当然アカネにも察せられていた。ヒ
てここまでの信頼を見せるなんて思えなかったのだ。
ヒアシのアカネに対する信頼にヒザシは驚く。兄が子どもに対し
はない﹂
﹁む
?
﹁実は、ここ一年ほど日向ヒヨリ様に稽古をつけられていてな。おか
ナーの気質もあるのかもしれない。
わ ざ と 答 え を 言 わ ず に 溜 め を 作 る ヒ ア シ。意 外 と エ ン タ ー テ イ
﹁うむ。実はな⋮⋮﹂
絡む要素はなかった様に思えた。
順当な力負けでヒザシは負けたのだ。そこにずるやイカサマなどが
先程の決闘は純粋に力と力、技と技のぶつかりあいであり、そして
ずると言われてもヒザシには何の事だか分からなかった。
?
126
?
げで数段実力が上がったわ﹂
﹂
﹁なるほどヒヨリ様に稽古を。道理で強くなって⋮⋮⋮なって⋮⋮⋮
は
日 向 ヒ ヨ リ に 稽 古 を つ け ら れ た。な る ほ ど 強 く な る の も 納 得 だ。
﹂
﹂ まさか、当主としての激務や責任による心労が
⋮⋮日向ヒヨリが生きていればの話だが。
﹁兄さん何を⋮⋮
兄さんを祟って
﹁その言葉かなり不敬だと理解してるかお前
﹁⋮⋮え
﹂
﹁どうも、私が日向ヒヨリです﹂
てくれない事には⋮⋮﹂
﹁だけど流石にそれは信じられない。せめてヒヨリ様本人を連れてき
う。それほど荒唐無稽な事をヒアシは言ったのだから。
だが事情を知らない人間ならばヒザシの言葉に頷く者が殆どだろ
?
!?
!
たのだ。許せヒザシ﹂
も勝つ事が出来なかったからな。久方ぶりの勝利に浮かれてしまっ
﹁⋮⋮この一年間。ヒヨリ様、もといアカネ様との勝負で一度たりと
嬉しそうに勝利を宣言していた理由も知る事が出来た。
そして最後にヒアシが決闘終了後に晴れやかな笑顔を見せて実に
るしかあるまい。
得した。納得せざるを得ない物証の数々を見せ付けられては納得す
事の顛末の全てを説明されたヒザシは納得しがたい超常現象を納
チャクラそのものであった。
そして白眼にて捉えたアカネのチャクラは、まさに日向ヒヨリの
つだった。
ろう。かつて幼い頃にヒヨリに見せてもらった秘奥技とまさに瓜二
チャクラは高速で回転しており、その勢いはあらゆる攻撃を弾くだ
術・廻天を使用しているアカネの姿があった。
声に釣られて横を向くと、そこには日向ヒヨリのみに許された秘
?
しれっとそんな風に言うヒアシ。ヒザシとしては別に怒ってはい
127
?
︶
ないが、このヒアシがたった一つの勝利に浮かれるという事実の方が
恐ろしかった。
︵一体どれほど負け続ければあの兄さんがこうなるんだ
それはもう大の大人が少女に負けて負けて負けて、負け続ければ勝
ちに貪欲になりもするというものだ。
相手が伝説の忍と理解していても、中身は少女ではないと言えど、
だからと言って負けて仕方ないで済ませられる程ヒアシも歳を取っ
てないという事だ。
﹁さて、そろそろ戻るとしよう。いい加減ネジが待ちくたびれている
事だろう﹂
﹁それは⋮⋮そうですね﹂
ネジの元に戻るという事はネジに呪印を刻むという事だ。ヒザシ
はそれを悲しく思うが、以前ほどではなかった。
少しは前向きに物事を考えられる様になった証拠だろう。分家が
宗家に尽くす事に変わりはないが、窮屈ながらも分家なりの自由があ
り、宗家にも宗家なりの窮屈さがあるのだ、と。
こうして兄弟としてヒアシと向かえ合えてヒザシはそれに気付け
た。ならば、兄が立派に宗家としての務めを果たしているならば、自
分も分家としての務めを果たすだけだ。
﹂
それがヒザシが開き直った結果辿り着いた境地である。
まあ、叶えられる程度なら聞こう﹂
﹁ところで兄さん、お願いがあるんだけど﹂
﹁む
﹁オレもアカネ様と一緒に修行をしてもいいんだよね
ヒアシにとってそれは実に複雑な頼みだった。
位性を縮められるのではという若干情けない思いもほんの僅かにだ
があった。
兄として常に弟より上にありたいという複雑な感情なのだ。かと
言って断ると懐の小さい人間と思われるだろう。
﹁まあ、構わん。もちろんアカネ様の了承を得られたならの話だが﹂
と、結局はそう言うしかないわけだ。 128
?
以前の様に共に修行に励める事は素直に嬉しく思う。だが今の優
?
?
﹁私は一向に構わん。というか、二人掛かりで相手をしてくれると嬉
しいですね。そろそろ私も修行の段階を上げたいので﹂
アカネとしても願ったり叶ったりな提案だ。ヒアシは十分な実力
者だが、一人が相手では出来ない修行もある。それに二対一くらいな
らばハンデとしてはまだ足りないくらいだ。
まあ、そう匂わせるような言動に、ヒアシとヒザシが反応しないわ
けがなかったが。
﹁ほほう。我ら二人を同時に相手にすると﹂
﹁いくらヒヨリ様とはいえ、怪我くらいは覚悟していただきますよ﹂
二人から放たれるプレッシャーにニコニコと笑顔で応えるアカネ。
それはもう嬉しそうに笑っていた。
後日、二人が道場の床にへばりついていた姿があったが、結界のお
かげで誰にも見られずに済んだようだ。
129
NARUTO 第六話
時は流れる。
雲隠れの里との同盟条約が結ばれてから、木ノ葉の里は戦争とは久
しく無縁の平和な日々を送っていた。
戦争を経験してきた忍たちはそれを謳歌していた。もちろん日々
の修行は欠かしていないが。
中には物心ついた頃から戦争を経験して来た忍もいるのだ。こう
して平和な日々が続き、そして今後もそうであってほしいと願ってい
る者が殆どだろう。
もっとも、里の忍の多くは知り得ない情報だが、実際には雲隠れの
里との同盟条約後には実は一悶着あったのだ。
それは雲隠れの里の忍頭が、日向宗家の嫡子である日向ヒナタを誘
拐しようとしていたからである。木ノ葉と同盟を結んだのも初めか
130
ら日向ヒナタを、日向の白眼を狙っての事だったのだろう。
正確にはこの事件、誘拐ではなく誘拐未遂で終わっている。日向ヒ
ナタは雲隠れの忍頭に攫われ掛けたが、すぐに助け出されたのだ。
その時ヒナタを救ったのが日向アカネである。というか、アカネは
かどうかはアカネ自身も分からな
雲隠れの忍頭が日向一族の土地に忍び込んだ瞬間からその気配を察
知していたのだ。
アカネの感知能力は世界一
忍頭だったのである。
さて、ここでアカネは少々困っていた。確認した侵入者が雲隠れの
中にいるようだ。それをアカネは白眼にて確認する。
アカネはすぐに宗家の屋敷へと駆けつけた。侵入者は未だ屋敷の
向宗家の屋敷へと侵入していった。完全に黒だろう。
一応は気配を追ってしばらく見に回っていたアカネだが、気配は日
けん
だったと言えるかもしれない。真夜中だったが。
日 向 の 敷 地 内 で 気 配 を 消 し て 移 動 す る。ま あ 忍 で あ れ ば 修 行 中
気配探知など朝飯前だった。
いが、少なくとも並ぶ者は少ないという自負はあった。これくらいの
!
雲隠れを歓迎するセレモニーに参加していなかったが、それでも彼
の 顔 は 木 ノ 葉 で は 一 躍 有 名 に な っ た。当 然 ア カ ネ も 容 姿 く ら い は
知っていた。
これで侵入者が木ノ葉の裏切り者とかだったら悲しいが話は簡単
だった。さっさと倒してお終いだ。
だ が 同 盟 条 約 を 締 結 し た ば か り の 雲 隠 れ の 忍 と な れ ば 話 は 別 だ。
下手な事をすれば話が拗れて同盟が崩壊しかねない危険性を孕んで
いた。
侵入して来たのは相手側だが、それで話が終わりなら苦労はしな
い。特に雲隠れの長である雷影は激情家で有名だ。無茶苦茶な理論
で戦争を吹っかけて来ても可笑しくない程にだ。
かと言って放置は言語道断だ。何せこの侵入者はアカネの愛する
妹分であるヒナタを担いで攫おうとしているからである。
死なない程度に痛めつける。忍頭の運命はこの瞬間に決定してい
た。
さて、ぼこぼこにされて全身の点穴を死なない程度に突かれて数多
の関節を外されて自殺も出来ない様に徹底的に捕縛された忍頭。彼
を巡って雲隠れとはいざこざが起こった。
木ノ葉側は里に忍び込むだけでなく里の人間を攫うとはどう言う
了見だ、と雲隠れを責め立て、雲隠れ側はそいつが勝手にした事だか
ら里は関与していないと突っぱねた。
これで忍頭が死んでいればそれを理由に木ノ葉を脅し、再び戦争を
仕掛けると匂わせてから落とし所として忍頭を殺した日向の下手人
を寄越せと言うつもりだった雲隠れだが、流石に死んでいないのなら
ばそこまでは言えないでいた。
というか、死んでいたとしても侵入して人攫いをしようとした時点
でどう考えても悪いのは雲隠れである。それでそんな事を言えるの
なら面の皮が厚いというレベルではないだろう。
結局この事件は雲隠れの落ち度として話はついた。雲隠れ自体は
里の関与を認めなかったが、それでも犯人が雲隠れの忍頭である事に
131
変わりはない。
しかし木ノ葉としても人的被害がなかっただけに雲隠れへの要求
もさして重い物にはしなかった。下手に拗れて再び戦争が起こるの
は避けたかったのだ。
なので雲隠れがそれなりの賠償金を払う事で今回の事件は手打ち
となった。多少は木ノ葉と雲隠れの間にしこりは残るだろうが、戦争
にまでは発展しないだろう。
そうして細かな事件が有りつつも、木ノ葉は概ね平穏だった。そ
う、まるで嵐の前の静けさの様に。
◆
木ノ葉の里の入り口にある〝あ〟と〝ん〟の文字を掛かれた巨大
な門の前に三人の男女がいた。
﹁アカネ姉さん、本当に行くんですか⋮⋮﹂
一人は日向ヒナタ。成長し大きくなった彼女は幼い頃と同じ様に
自信無さげに、そして寂しそうにアカネに尋ねる。
この自信のなさに関してはアカネもそれなりに修正しようと努力
していたが、まあ殆ど意味がなかった。ここまで来れば生まれついた
資質と言えよう。
﹁ええ。それがヒアシ様から与えられた私の任務ですから﹂
二人目は日向アカネ。妹分であり守るべき宗家の一員でもあるヒ
ナタのその懇願する様な瞳に精神にダメージを食らっているようだ。
だがそれを振り切ってでもやらなければならない事がアカネには
あるのだ。
日向アカネは現在十三歳となっていた。既にアカデミーは卒業し
スリーマンセル
下忍になっている。それからは中忍試験は受けず、下忍のまま過ごし
ていた。
ア カ ネ は 普 通 の 忍 と 違 っ て 三人一組 を 組 ん で は い な い。ア カ デ
ミーを卒業してからは一人で任務も受けずに只管に修行していた。
理由としては体力不足を補う為だった。技術に関しては前世へと
132
とっくに至り、その上でまだ修行を積み重ねている。だが体力だけは
新しく身に付けるしかないのだ。
どうして体力も持ち越せるように能力を組んでいなかったんだ最
初の私、などと実際にどうやるんだそれというツッコミが入るツッコ
ミを自分自身にしているアカネであった。
そうしてアカネが十分な体力を得たと実感したのが今の年齢なの
だ。ちなみにヒアシなどはもう十分なのでは、と数年前からアカネに
ぼやいていた。
無 駄 に 長 く 生 き て い る 分 目 標 も 無 駄 に 高 く な っ て い た ア カ ネ で
あった。
﹁ヒナタ様ももう十二歳。アカデミーも来年には卒業なされます。こ
れからは立派な忍として頑張らなくてはならないのですよ。そろそ
ろ姉離れをするべきですよ﹂
実際に妹離れが出来ていないアカネの台詞ではなかった。もしヒ
133
ナタが本気の本気で甘えて行かないでと言えば、しょうがないです
ねぇなどとベタベタに甘えさせて一日か二日は留まっていただろう。
それをさせない為にか、この場にはもう一人ある人物がいた。それ
が三人目にしてこの場で唯一の男、日向ネジである。
﹁ア カ ネ の 言 う 通 り で す ヒ ナ タ 様。ア カ デ ミ ー の 卒 業 は 問 題 な い で
しょうが、この先ヒナタ様は多くの任務をこなして中忍を目指さなけ
﹂
ればなりません。宗家の嫡子として恥ずかしくない姿を見せる為に
もアカネにかまけてばかりではいけません
なく才能もなくかなりおどおどとして情けないと口には出さずとも
そしてネジはその役目に充足感を感じている。守るべき姫は頼り
だという事が評価されての役目だ。
も近く、実力も高く、そしてネジの父親が日向当主であるヒアシの弟
日向ネジは宗家の嫡子である日向ヒナタのお守り役である。年齢
!
思っているが、だからこそ守り甲斐があるというものだとはりきって
いた。
﹂
?
それよりも、オレの言っている事をちゃんと聞いてい
﹁ネジ兄さん⋮⋮今何か言った
﹁いや何も
?
﹂
これでも我慢してる方なんだか
私はヒナタ様を甘やかして甘やかして、これでも
まったく、これもアカネがヒナタ様を甘やかしすぎる
﹂
るんですか
からだぞ
らな
かと言うほど甘やかしたいんだ
﹁何を言うネジ
!
﹁ネジこそしっかりとヒナタ様を守るんですよ 全く何でヒナタ様
に心の中で助けを求めた。誰も応えてはくれなかったが。
もう駄目だこいつ。早く何とかしないと。ネジはヒアシとヒザシ
!
!
?
!
馬鹿かお前は
﹂
の守役なのにヒナタ様の傍を離れて下忍として働いているんだか﹂
﹁木ノ葉の下忍だからだよ
!
﹂
!
﹁おのれ⋮⋮
﹂
﹁はっはっは。私に勝とうなど千年は早いなネジ君﹂
ないと知っているヒザシとしては複雑だった。
んだのだ。最終的に後者を選んだが、ネジがどう足掻こうと勝ち目が
無理だと悟らせるべきか、この悔しさによる成長を見守るべきか悩
雑な表情をしていたが。
ネジのその努力がアカネに負けたくないという理由なのを知って複
そ れ を 知 っ た 時 の ネ ジ の 父 ヒ ザ シ は そ れ は 驚 愕 し て い た も の だ。
いた。
回天や柔拳法八卦六十四掌という奥義を独力で身に付けるに至って
その悔しさをバネに必死に修行をして、宗家にしか伝わっていない
の、しかも女性に負け続ける事が悔しくて堪らなかった。
幼い頃から神童や天才と言われ自信があったネジとしては同年代
一度たりとも勝った試しはなかった。
出会ってから数年、ネジは何度かアカネと手合わせをした事があるが
ネジの心の底からの思いが声となって響き渡る。ネジとアカネが
﹁なんでこの馬鹿がオレよりも強いんだ⋮⋮
も護衛が恒常的についているなど有りえない。
全くである。戦時でもないというのに流石に宗家の嫡子と言えど
!
千年早いなどと言っているとは思うまい。
アカネの言葉を挑発と受け取るネジ。まあ誰だって本当の意味で
!
134
!
﹁さて、名残惜しいですがそろそろ出発するよ。ヒナタ様お元気で。
しっかりと修行するんですよ。ヒナタ様はお優しいから最後の一歩
﹂
を踏み込めませんが、そこを乗り越えたらきっと日向の才能を開花な
されます﹂
﹁アカネ姉さん⋮⋮
は優しく受け止める。
﹁憧れている人がいるのでしょう
ヒナタ様ならきっと出来ます﹂
な、ナルト君は、そ、その⋮⋮﹂
?
てもらおうと表現するようになっていた。
多い事。これらが重なりいつしかナルトは悪戯をする事で自分を見
父親も母親もいないという事と、大人から好意的に見られない事が
続けるといつしか気付いてしまう。ナルトもそうだった。
幼い子どもは意外と敏感で、そういった大人の感情の機微に晒され
を見ている大人の姿がちらほらと目撃されていた。
だがやはりどこか遠目から蔑んだり恐れるような目付きでナルト
目に見える迫害は受けてはいない。
あった。九尾復活の事件では幸い九尾は里に被害を与えていない為、
そのせいか一部の忍からはあまりいい目では見られていない節が
中忍以上ならば大抵が知っているが。
九尾の人柱力に関しては里の重要な軍事力になるので木ノ葉の忍で
在であり、その両方とも一般的には隠された情報である。といっても
九尾の人柱力な上に四代目の子どもという極めて扱いの難しい存
もについては詳しく聞いているのだ。
程度は知っている。ヒアシから九尾事件と四代目火影の残した子ど
アカネもナルトと直接の面識はないがどういう人物なのかはある
ある。
かるくらい真っ赤になっていた。ナルトに懸想しているのは明白で
先程までの悲しみに暮れた顔とは一転、ヒナタの顔は誰が見ても分
﹁ええ
だったら、その人の事を想えば
しばしの別れを悲しみアカネへと抱きつくヒナタ。それをアカネ
!
ア カ ネ も こ の 辺 り の 大 人 の 感 情 に つ い て は 色 々 と 思 う と こ ろ が
135
!?
あったが、流石にそれを変える事は難しかった。
こういう事は他人ではなく本人がどうにかして変えなければ上手
く行かないものなのだ。他人が横から止めたとしても大人達の内心
は簡単には変えられない。一時抑えるのが限界だろう。
まあ表だって迫害されてないだけ人柱力としては悪くはない扱い
と言えた。それにナルトも一人ではない。
忙しいが後見人としてナルトに﹁じいちゃん﹂呼ばわりされている
三代目火影に、その妻のビワコは忙しい夫に代わってナルトの面倒を
良く見てあげていた。本当の孫の様に扱っているのでナルトもかな
り懐いていた。
大人がナルトに余所余所しくしている為に、その子どももナルトに
対して馴染まずに仲間外れにする事もあったが、全ての大人がナルト
に対してそう言う態度ではないし、子どももまた同様だ。
ナルトにも友達と呼べる者はそれなりにおり、一緒に遊んだり悪戯
をしたりと年齢通りのヤンチャ振りを見せている。
さて、そんなナルトだが九尾が体内にいる故にその強大なチャクラ
が影響して上手くチャクラを練る事が出来ず、そのせいでアカデミー
では落ちこぼれ呼ばれをされている。
それでもめげる事なく火影になるという夢の為に毎日必死に努力
をしており、その落ちこぼれでも諦めずに努力を続ける姿を見続け
て、ヒナタはいつしかナルトに惹かれ憧れていったとのだと、いつの
頃かアカネは本人に聞いていた。
実 に 微 笑 ま し い 事 だ。感 動 的 だ。だ が 恨 め し い。そ れ が ヒ ナ タ か
ら惚気られたアカネの感想だった。順調に姉馬鹿の道を進んでいる
ようだ。おかげで常識の道からは更に外れてしまったが。
さて、そんな愛しのヒナタからネジへと視線を向ける。
﹁ネジも元気で。ヒナタ様を頼みましたよ﹂
﹁ふん、言われるまでもない﹂
そっけなく答えるがネジもアカネが嫌いな訳ではない。むしろ尊
敬すらしていた。負け続けて悔しいので表に出す事はないが。
それでもこうしてしばらく会えなくなると寂しく思うくらいの感
136
情は見せていた。
﹁⋮⋮せいぜい無事に帰って来い。オレがお前に勝つまでお前に死な
れたらオレが困るんだからな﹂
﹁ふふ。ええ、あなたが満足するまで相手をしてあげますよ﹂
聞きようによっては微妙に怪しい台詞である。だがこの場にいる
のはまだ少年と少女。その言葉を変な捕らえ方をする事はなかった。
良い事だ。一人だけ中身が怪しいが、まあ気にしない方が良いだろ
う。
無事に帰ってきて下さい﹂
﹁では、任務もありますので私はこれにて﹂
﹁いってらっしゃいアカネ姉さん
﹁さっさと行け。お前が長期任務している間にオレはもっと強くなっ
てやる﹂
二人から見送られ、アカネは木ノ葉の里から出立した。
◆
さて、アカネが木ノ葉の里から出立した理由、言うなれば任務の内
容だが、それは九尾復活の裏にいる存在について調べる為だった。
あれから既に十三年という年月が経つが、木ノ葉ではナルトを狙う
存在は現れる事はなかった。
諦めたのかと考える事はアカネはなかった。諦めたのではなく、力
を蓄えているか、九尾を狙う事が出来ない状況にあったのか。
とにかく理由は分からないがいずれ何らかの方法でナルトから九
尾を奪い取る算段だろうとアカネは考えている。
アカネも十分な戦闘力を身に付けたと自負しており、例え九尾を狙
う存在がどれ程強大だろうと最悪逃げ延びて情報を持ち帰る事くら
い出来ると踏んでいた。
今のアカネを倒すなら千手柱間とうちはマダラが協力して殺しに
掛かる必要がある。それくらいの戦闘力を既に取り戻していた。
⋮⋮いや、これには語弊があるかもしれない。取り戻したというの
は正確ではなく、アカネはヒヨリ時代より強くなっているのだ。
137
!
ヒヨリ時代ではしなかったいくつかの忍術の修行や術の開発。こ
れにより闘いの引き出しを増やしたアカネはヒヨリの時よりも強
かった。
今なら柱間とマダラの二人掛かりでも勝てるのではとアカネが考
えるほどにだ。
今ではこの力を振るえる相手を欲しがっているくらいだ。九尾を
狙う存在に若干期待している不謹慎なアカネであった。
﹂
﹁おじさん、蕎麦もう一杯追加で﹂
﹁あいよ
旅 を 続 け る 事 数 日。ア カ ネ は 久 し ぶ り に 里 の 外 を 満 喫 し て い た。
今は中々いい味の蕎麦屋を見つけたので満足いくまで食べている所
だ。本当はざる蕎麦の方が好みだがつゆ蕎麦も悪くはない。
先日は美味しい団子を、その前は鍋料理が評判の宿に泊まり、その
前はジューシーなステーキをたらふく食べていた。
幸い予算はそれなりに多く持っていた。任務に必要だろうと貯め
ていた貯金と、ヒアシから頂いた必要経費がたんまりとだ。
﹂
いい食べっぷりだったなお嬢さん 気分がいいか
﹁ふぅ。ご馳走様でした﹂
﹁ありあした
ら少しだけまけといてやるぜ
!
﹂
そうだ。聞きたい事があるんですけど、
この辺りで食事が美味しい宿ってありませんか
!
白眼はこういった探索には非常に有効な能力なのだ。透視眼は伊
的に白眼で周囲を見渡して怪しい場所がないか調べているのだ。
こうして適当に食べ歩きしている様に見えるかもしれないが、定期
いったらない。
だがもちろんアカネが任務を忘れた事など一秒たりともない。な
だ。
⋮⋮任務を忘れているのではないかと疑える程満喫しているよう
少し歩いた場所に││﹂
﹁あーっと、それならこの先の大通りの角を右手に曲がって、そこから
?
﹁ありがとうございます
!
!
138
!
達ではない。決して覗き魔には渡してはならない能力だ。
﹁⋮⋮覗き魔がいた﹂
まさかの覗き魔発見であった。アカネが先程教えてもらった旅館
には温泉があり、昼間からも良く旅館客が利用している有名な温泉ら
しい。
その温泉の女湯をめっちゃ覗いている人物を白眼にて発見してし
まったアカネ。
さて、こうして覗き魔を発見したならばどうするか。それは無視す
るか、法的機関に連絡するか、直接叩きのめすか、まあ色々あるだろ
う。
だがアカネはそれらをする前に、まず頭を抱えていた。それは何故
か
﹁じ、自来也ぁ⋮⋮﹂
それは、覗き魔が知り合いだったからだ。
自来也。それは木ノ葉の里では、いや他里に置いても非常に有名な
人物であった。
かつて第二次忍界大戦にて多大な活躍をし、雨隠れの里の長であり
〝山椒魚の半蔵〟という二つ名を持つ忍世界でも高名││忍にとっ
て名が売れる事は実力の高さを指す││な忍と激戦を繰り広げ、その
半蔵本人から認められた程の実力者。
それこそが初代三忍と同じ三忍の名を受け継ぐ木ノ葉の誇る二代
目三忍、大蛇丸・綱手・自来也の三人であった。
その木ノ葉の今を生きる伝説の忍が、女湯を覗きその顔をだらしな
く歪めて悦に浸っているのだ。情けなくて頭も痛くなるというもの
だ。
もういっそ初代三忍として三忍の称号を引っぺがしてやろうかと
考えるほどだった。
だがまあ自来也が以前と差して変わってはいない様なのでそこは
少し安心したアカネだった。
二代目三忍とはヒヨリ時代に彼らが三忍と謳われる以前から面識
があった。
139
?
彼らは三代目火影の弟子だったのだ。それも全員が優秀だったの
でヒヨリとしても先が楽しみであった三人だった。
だが、今の木ノ葉に三忍の影はなかった。
大蛇丸は禁術に手を出し、その上人体実験を繰り返す様になった為
に今ではビンゴブック││犯罪者の手配書││にて最高ランクのS
級犯罪者の烙印を押されており、当然木ノ葉からも抜け忍となって逃
げ出している。
綱手は抜け忍にこそなっていないが度重なる戦争で大切な人を亡
くしてしまい、そのせいで血液恐怖症となり里から離れ放浪し続けて
いる。
そして自来也。彼は里を抜けた大蛇丸の調査をする為と、個人的な
事情により世界各地を巡っていた。言うなれば彼だけは木ノ葉の忍
として今も立派に活動していると言えよう。
⋮⋮アカネの目には女湯を覗いてだらしなく笑う姿しか映ってい
140
ないが、立派なのである。
さてさて。まさかの覗き魔がかつての知り合いだった事は驚きだ
が、だからこそ余計に覗きを許せないというものだ。
アカネは気配を完全に消し、念のため遥か昔の人生で作っていた能
力を発動する。
その能力とは、チャクラを他人に察知出来ない様にするというもの
だ。例え全力でチャクラを練ってもそれを感知する事も視認する事
も出来ない優れ物だ。白眼であっても見抜けないだろう。
完全に気配を消しきったアカネはそっと自来也の裏へと回る。当
の自来也は今も﹁ええのぅええのぅ﹂等と女湯に入っている女性にば
れない程度の小声で女湯の神秘について感想を述べていた。
﹂
アカネは心の中で﹁南無⋮⋮﹂とだけ呟き、軽くチャクラを足に籠
めて⋮⋮自来也の股間を蹴り上げた。
﹁ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ
◆
自来也の声にならない叫びが周囲に、世界に響き渡った。
!!?
﹁よっこらせっと﹂
﹁うう⋮⋮﹂
アカネはあまりの痛みに悶絶し最終的に気絶してしまった自来也
を担いで街から離れた川原へとやって来た。
﹂
くぅぅ
﹂
恐ろしい事を仕出かしたアカネへと詰め寄る。
﹁覗いていた奴が悪いんですよ﹂
﹂
その
あれは覗きではなく取材じゃ 女体を直に目にす
為に必要な事なのだ
る事でインスピレーションを湧き立てより良い作品を作る
﹁何を言うか
!
は痛むようだ。潰れてはいないかを確かめつつ、自来也は男に対して
自来也が気絶して既に結構な時間が経過しているが未だにあそこ
なんて事をしてくれたんじゃ
そこで自来也を大地に下ろし、気付けの為に水をぶっかける。覗き
な、なんじゃこれはぁ
魔に掛ける情けはないのである。
﹁ぶはぁっ
お前は誰⋮⋮ぐおおぉぉ、ま、まだ玉がぁっ
﹁目が覚めましたかこの覗き魔め﹂
﹁むお
!
!?
ワシの大切な息子をあの世に旅立たせようとしたのはお前かのぉ
!
!
﹁お
ワシの事を知っておるのか
﹂
す。全く三忍ともあろう者が情けない⋮⋮﹂
﹁何 だ そ の 無 茶 苦 茶 な 理 屈 は。あ な た が ど う 言 お う が 覗 き は 覗 き で
である。悪くないわけがなかった。
要約すれば自分の為に必要だから覗いた。だから何も悪くはない、
!
!
!
?
い忍にはあまり知れ渡ってはいない。自来也が大蛇丸を追って木ノ
葉を出たのがかなり昔の事だから仕方ない事だ。
なので名前を名乗る前から自分の事を三忍と知っていた歳若いア
カネに対して不思議に思ったわけだ。
﹁え え、知 っ て い ま す よ。木 ノ 葉 の 誇 る 二 代 目 三 忍 の 一 人 自 来 也 で
しょう。まあ今のあなたを見て誇りに思う里の人がどれだけいるの
141
!
!?
?
木ノ葉の三忍として名は売れている自来也だが、容姿に関しては若
?
やら⋮⋮﹂
全く最近の若い奴は礼儀
女子じゃからと思っとったら大層な口を聞きおっ
おなご
はぁ、と思い切り溜め息を吐くアカネ。その言動を聞いて自来也は
憤慨する。
﹁なんじゃとぉ
自来也様と言わんか自来也様と
!
アカネは自来也に協力してもらおうと考えた。
言い直した所はまあ褒めてやる。それで、どうした
﹂
?
﹁ところで自来也⋮⋮様﹂
﹁うん
インならくれてやらんでもないぞ
サ
それはつまり信用の置ける木ノ葉の忍であるという事だ。そこで
事に安堵する。
取っているが言動は差して変わらず、そして内面も以前と同じである
それはアカネも知っているかつての自来也と同じであった。歳を
手に本気になる様な人間ではなかった。
目や言動で誤解される事もあるが、自来也の性根は善性だ。女子供相
などと言っているが、その実本当に自来也は怒ってはいない。見た
ストよ。今回ばかりは許してやる﹂
﹁ふん、口は達者だのぉ。まあいい。ワシは女性には優しいフェミニ
してどうして敬う事が出来ますか﹂
﹁尊敬されたかったら尊敬出来る様に見せなさい⋮⋮あんな出会いを
失せるというものだ。
ようとは思っていたが、まああの情けない顔を見せられてはその気も
アカネとしても一応は目上の立場にあるので様という敬称を付け
いかぶちぶちと小言を言うように文句を言っている。
た所をぞんざいに扱われ、上げて落とされる様に感じた様だ。そのせ
自分を知っているという女性に久方振りに出会えて内心喜んでい
を知らんの⋮⋮﹂
て
!
﹂
良くぞ聞いた
作ってるんですか
﹁おお
ワシが手がけているのはこれよ
﹂
!
?
話が妙な方向にずれているが自来也があまりに嬉しそうなので止
!
﹁いえサインはいりません。というか、作品とか言ってましたが何を
?
?
!
142
!
めるのも何だなとアカネは最後まで聞く事にした。
恋に愛
そして自来也が懐から出したのは一冊の本、小説だった。
﹂
﹂
人と人の複雑な恋愛模様を描いた渾身の一作よ
これはワシの実体験を元に描かれた小説よ
﹁イチャイチャ⋮⋮パラダイス
﹁うむ
出会いに別れ
﹁へぇ⋮⋮読ませてもらってもいいですか
﹂
して自来也に向かって叫んだ。
!!
⋮⋮。
﹂
これだから女子はいかん。男にとってエロ本とは己を
おなご
もうアカネに男であった頃の残滓は残っていないのかもしれない
では大層お世話になったというのにこの扱いである。
エロ本を所詮と言い張るアカネ。彼女の根源である始まりの人生
﹁ご大層な事を言っても中身は所詮エロ本じゃないですか
﹂
そうして読み進めていく内に段々とアカネの手が震えてきた。そ
自来也から手渡されてペラペラと中を読んでいく。
タイトルからして恋愛物だろうが、どんな小説なのかと気になり、
あの自来也が物書きをするようになるとはアカネも意外だった。
﹁うむ
!
!
!
?
﹂
男が欲に狂った事か
﹁うっ⋮⋮
それを所詮とは片腹痛いわ
﹂
!
!
説得力は高かった。
﹁って、そうじゃありません
!
全く⋮⋮﹂
!
多しと言えども自来也だけだろう。
まさに二代目三忍の名に偽りなし。恐るべきは自来也よ。
?
その情報を教
﹁そう言えば何か言っとったのォ。ワシに何か用でもあるのか
﹁ええ。自来也様は大蛇丸を追っているのでしょう
えてもらいたいのですが﹂
﹂
かつての日向ヒヨリにここまでエロ本エロ本と連呼させたのは忍
けじゃないんです
私はあなたとエロ本の話をしたいわ
自来也の気迫に圧されてしまうアカネ。それほどまでに自来也の
!
導き賢者へと至らせる悟りの書よ エロ本がなければどれほどの
﹁かぁーッ
!
!
?
143
?
!
!
!
﹁
﹂
そう、自来也は確かに大蛇丸を追っている。自来也のかつての同期
であり、同胞であり、同じ三忍であり、ライバルであり、そして友で
もあった大蛇丸。
そんな大蛇丸が大罪を犯して木ノ葉から去っていった。抜け忍と
なった大蛇丸が何をしようとしているか、その一部だが自来也には分
かっていた。
木ノ葉への復讐である。自分を認めず四代目火影に選ばず、禁術の
実験をしていた所を見つかり逃亡せざるを得なくなった。そんな大
蛇丸が木ノ葉をいつまでも放っておくとは思えなかったのだ。
だからこそ同じ三忍であった自来也が大蛇丸の調査に乗り出した
のだ。
それはいい。本当の事だし、木ノ葉でも知っている者はいる。歳若
いアカネが知っているのも担当上忍に教えてもらったという事も有
り得るだろう。
だが、何故それを知りたがるのかが疑問だった。大蛇丸は非常に危
険な存在だ。それは強さ以上にその性質が問題だった。
老若男女は大蛇丸の前に等しく意味がない。大蛇丸は他人の事を
己の役に立つか立たないか、邪魔をするかしないかくらいにしか考え
ていない。
役に立つならば徹底的にコマにして使い潰し、邪魔をするならば何
であろうと排除する。その際邪魔者が有用な実験材料になるなら血
の一滴まで研究し尽くすだろう。
﹂
﹂
そんな狂人について知ったところで良い事などない。下手に近づ
けば良くて死、悪くて一生実験動物だ。
﹁⋮⋮どうして大蛇丸について知りたがる
﹁十三年前の九尾復活について知っていますね
﹁うむ﹂
合いは師と弟子の関係だけでなく私生活にまで及び、生まれてくる子
四代目火影波風ミナトは自来也の自慢の弟子であった。その付き
あの事件は自来也にとっても痛々しく忘れがたい事件だった。
?
?
144
!?
どもの名前も自来也が名付け親になった程だ。
それほどまで付き合い長く信頼置ける弟子が火影となって喜んだ
のも束の間、あっという間に死んでしまったのだ。
忍の世を変革するとまで思っていた弟子の一人が亡くなった事を
自来也がどれだけ悼んだ事か。九尾復活は忘れるわけがない事件で
ある。
﹁あの事件の裏にいる犯人を追っているのですが、その容疑者の一人
が││﹂
﹁大蛇丸という事か。なるほどの﹂
何故この少女がそんな重要な任務を負っているのか。何故そんな
重要な任務を三忍とは言え自身に話すのか。
疑問はあるが、どうして大蛇丸について知りたいかは分かった。
だがそれに対する自来也の答えはこうだった。
﹁断る。悪い事は言わん。お前は里に帰れ。大蛇丸はお前なんぞの手
145
に負える奴じゃあないんでのぉ。あたら若い命を捨てる事もなかろ
うて﹂
それは任務を帯びた忍にとって侮辱とも取れる言葉だ。
だがそれを言われた本人は静かに微笑んでいた。
﹁本当に。あなたが四代目になっても良かったと私は思っていたんで
すけどね﹂
あの言葉が自来也の優しさから来る物だとアカネは理解していた
のだ。
自来也は自由奔放な性格故に火影として里に縛られるのを好まな
いのはアカネも知っている。だが自来也ならば火影に相応しい器で
あるともまた知っていた。
﹂
三代目もいい歳ですし、
当の自来也はまるで自分の事を昔からの知り合いの如くに話して
くるアカネに疑問を覚えていたが。
﹁今からでも五代目火影になりませんか
﹂
隠居させてあげなさいな。師を労わるのも弟子の役目ですよ
﹁⋮⋮お前、本当に何者だ
?
?
アカネと会話していると自来也は何故か昔を思い出してくる様な
?
気になり不思議に思っていた。
昔の知り合いのような、いや、それどころか目の前の少女が齢五十
の自分よりも年上のような気さえしてくるのだ。
﹁ふふふ、そうですね。あなたにならまあいいでしょう﹂
何が言いのだろうか。自来也がそれを聞き返す前にアカネは立て
続けに言葉を吐く。
﹁私の名前は日向アカネです﹂
﹁⋮⋮日向一族か﹂
だが聞いた事はない名前だ。やはりさっきの感覚は気のせいかと
﹂
さあ、
自来也が思いなおしたところで、アカネがチャクラを練り始めた。
﹁ぬう
﹂
﹁力があれば大蛇丸について聞いても問題はないでしょう
試してみなさい
有無を言わさぬアカネの圧力が自来也を襲う。
︶
!
それに自来也は無意識に反応して攻撃を選択していた。
あまりのプレッシャーについ
!
アカネに今まで敵意がなかったのも原因だろう。急なプレッシャー
に咄嗟に動いてしまったのだ。
自来也の口から炎の塊が吐き出される。自来也の使う火遁の術の
中では弱い部類の術だが、それでも人間一人を殺すには十分な威力
だ。
その、人間を殺すにたる威力の炎弾は、身じろぎ一つしていないア
﹂
カネの目の前で消し飛んだ。
﹁な、なんじゃとぉッ
!
せばいいのだろうか。
︵チャクラの放出で炎を消し飛ばしたのか
日向の回天ではなく、
流とも取れる。だが、かき消すとなれば忍としてどの程度の実力と評
られずに死ねば忍失格だろう。防ぐならば状況によるが一流とも二
避けるなら忍として合格だ。当たれば忍としては落第点だ。耐え
!?
146
!
││火遁・炎弾
︵しまったァ
!
ア カ ネ が 放 っ た プ レ ッ シ ャ ー に よ り 防 衛 本 能 が 刺 激 さ れ た の だ。
?
!?
部分的に放出したチャクラのみで
﹂
何という奴だ
︶
!
さいてん
斉天 敵 わ ぬ 三 忍 の
こ の 自 来 也 様 を 試 そ う
北 に 南 に 西 東
!
﹁ついでだ。お前の実力がどれ程上がっているかも試してやろう﹂
!
泣 く 子 も 黙 る 色 男
﹁ぬ ぅ 舐 め る な よ 小 娘
はくはつどうじがまつか
白髪童子蝦蟇使 い
たぁ百年早いわぁッ
!
!
自来也は大仰なポーズを取り見栄を切る。それが勝負開始の合図
となった。
147
!
!
!?
﹂
﹂
NARUTO 第七話
﹁ふっ
﹁ちぃっ
懐へと接近しようとするアカネに対して自来也は忍法・針地蔵にて
自分の髪の毛を鋭い針に変化させ、それで全身を覆う事でアカネに触
れられるのを防ぐ。
日 向 の 体 術 は 触 れ る だ け で 対 象 の 経 絡 系 を 攻 撃 し 内 臓 に 直 接 ダ
メージを与える防御不可能な柔拳だ。触れられたが最後、自来也と言
えどダメージは免れられない。
ならば初めから接近戦は捨てるまでだった。触れられさえしなけ
れば柔拳は発動しない。中距離から遠距離を保ち忍術などの遠距離
攻撃にて仕留める。それが日向への一般的な対応法だ。
初手を針地蔵にて防ぎ、次に距離を取る。それが自来也の選択だっ
た。
﹂
﹂
だが、その選択がすでに間違いだった。
﹁はぁっ
﹁ぐふぉおぉっ
︵な、なんちゅう馬鹿力
こりゃあ綱手と同じ攻撃か
︶
!
その綱手と遜色ないレベルの攻撃をアカネは放っていたのだ。も
を叩き込めば大地は広範囲に渡って砕け散るだろう。
綱手がその気になれば指一本で大地を割る事も出来るほどだ。拳
ていた。
中する事で攻撃力を跳ね上げる技術がある。それを綱手は得意とし
そのチャクラコントロールを応用し、攻撃する箇所にチャクラを集
非常に高度なチャクラコントロールを必要とする。
三忍の綱手は医療忍術のスペシャリストだ。そして医療忍術には
!
りか針地蔵にて防御していた自来也が吹き飛んでいく始末だ。
だが針山に叩きこんだ拳には傷一つ付いていなかった。そればか
ならその拳は無数の針によってズタズタになっているだろう。
アカネは鋭い針の山に何ら躊躇する事なく拳を叩きこんだ。普通
!?
!
148
!
!
し針地蔵がなくまともに今の一撃を受けていれば、それだけで勝負は
決していただろう。
アカネの拳が傷一つ付いていないのもチャクラを集中して防御力
を高めていた為だった。
︵こうして吹き飛んでいると綱手に全力で殴られた時の事を思い出す
わい⋮⋮︶
若干のダメージを受けて勢いのままに吹き飛ばされながら、自来也
はかつての死の恐怖を思い出す。
若かりし頃に女湯の綱手の覗きをした事がばれて綱手から全力で
殴られ、両腕と肋骨六本の骨折及び内臓破裂という重傷を負い死の境
をさまよった時の事を。
もしこれで死んでいれば三忍として最も最低な死に方をした忍と
して別の意味で伝説になっていただろう。生きていて良かったもの
である。
一般的にはこちらの攻撃方法が肉体による直接攻撃では基本だろう。
内部破壊を主とする柔拳の方が珍しいのだ。
だがその珍しい武術を基本戦術として取り入れているのが日向な
のだ。白眼との相性も非常に良く、日向の長き歴史に渡って練り続け
られた技術と言えよう。
言うなれば日向の誇りの一つと言えるのが柔拳だ。だというのに
思いっきり剛拳を放ってくるアカネに自来也も驚愕だった。
﹁失礼な。柔拳も剛拳も等しく敵を倒す為の技術。状況によって使い
﹂
分ける事も必要でしょう。そもそも、日向が剛拳を使って何が悪い
﹂
﹁お前に日向の誇りはないんかのぉッ
﹂
149
﹁それにしても⋮⋮﹂
﹂
優に100mは吹き飛んだか。ようやく地面に降り立った自来也
日向が剛拳なんぞ使うんでないわ
はある疑問をアカネにぶつけた。
﹁お前本当に日向か
!
剛 拳 と は 肉 体 を 用 い て 直 接 攻 撃 に て 対 象 の 外 部 を 破 壊 す る 攻 撃。
!?
﹁⋮⋮⋮⋮もちろんありますよ
?
!?
!
もはやお前を女子供とは思わん
ここか
全力で相手をし
まあこうして距離を取れたから良しとしよう
絶対ない。そう確信した自来也であった。
﹁ええい
﹂
らが本番よ
てやろう
﹂
!
ど こ の 世 界 に 人 間 を 1 0 0 m も 殴 り 飛 ば す か 弱 い
﹁わたし、かよわい、おんなのこだよ
﹁や か ま し い
おなご
!
﹂
﹂
久しぶりにわしを呼んだと思うたらこない
なガキを相手にさせる気かワリャ
!
﹂
﹂
見かけで判断すると痛い目を見るぞ
あいつ何処かで見た事ありゃせんか
!
だ。
⋮⋮ん
﹁気を抜くなよブン太
﹁ああん
?
!
の生物としての力などを有しており、全力で闘えば地形が変わるほど
だがその力は確かである。巨体故の破壊力、水遁系の術、ガマ特有
ないとその頭の上には乗せようとはしない。
也以外にはいない。それくらい気位が高いのだ。気に入った人間で
扱い辛い性格をしており、ガマブン太を口寄せ出来るのは現状自来
ているガマでも最強最大のガマ蛙、ガマブン太である。
さにヤクザそのものと言えるこの赤い巨大ガマこそ、自来也が契約し
煙管を咥え、腹にはサラシを巻き、法被を着て、そしてこの言動。ま
!
﹁なんじゃい自来也ァ
﹁ブン太まで知っとるとはのォ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ガマブン太か﹂
の大きさは50mほどもあった。
分の事を蝦蟇使いというだけの事はあるだろう。口寄せされたガマ
そして自来也が口寄せしたのは、巨大なガマ蛙であった。流石は自
と相応のチャクラを必要とするが。
巻物などに擦り付ける事で術式が発動するのだ。もちろん必要な印
これは口寄せの術を使用するのに必要な行為である。血を地面や
自来也は極当たり前の正論を吐きながら指を僅かに噛み切った。
女子がおるっ
!? !
はアカネに対して既視感を覚えた。
自来也の言葉にアカネを注意深く確認したブン太。そこでブン太
?
150
?
!
!
!
!?
見た目も多少はある。だがそれ以上にアカネのチャクラをかつて
何処かで感じた覚えがあるのだ。
確かにブン太とアカネは面識があった。正確にはブン太とヒヨリ
に面識があったというべきか。
ブン太は妙木山と呼ばれる秘境に住むガマであり、この秘境にすむ
ガマは仙術と呼ばれる特殊な力を使用する事が出来る。
仙術とは自然エネルギーを利用した術の事だ。自然エネルギーを
取り込む事で感知能力が高まるのである。
今はまだ仙術チャクラ││本来のチャクラに自然エネルギーを加
えたもの││を練っていないが、それでも自然エネルギーを感じ取れ
るブン太は感知能力もそれなりに高い。
そんなブン太がアカネのチャクラに反応している。つまりはかつ
て感じた事のあるヒヨリと同質のチャクラに反応しているという事
だ。
大なチャクラを練り込む。
﹁な、なんというチャクラ⋮⋮
﹂
ありゃああのガキだけのチャ
あやつは人柱力か何かか
﹁チャクラに尾獣の気配はないわい
!?
﹂
せされる物。それは一体何なのか。
大地に手を置く事で口寄せの術式が広がる。そして莫大なチャク
ラを消費してある生物が口寄せされた。
151
まだアカネがヒヨリである事に気付いていないが、いずれ気付く可
能性もあった。
﹂
﹂
まあアカネは自来也には自分の正体を教えるつもりなので何の問
題もなかったが。
﹂
﹁ふふふ、ブン太が相手なら私も口寄せをしましょう
﹁なに
どがいな相手じゃろうがわしの敵じゃあないわ
!
!
あ な い 馬 鹿 で か い チ ャ ク ラ 練 り こ ん で 何 呼 ぼ う っ
ちゃうんじゃあ
!!
自来也とブン太が驚愕するほど莫大なチャクラを練り上げて口寄
!?
クラじゃあ
!
!
アカネも自来也と同じ様に指に傷を作り、そして印を組んで⋮⋮莫
﹁はん
! !?
﹁⋮⋮あれ
綱手様ではないのですか
の大きさである。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮あ、わりゃカツユか
﹂
﹂
般的にナメクジと認識出来る大きさだった。具体的には小指くらい
それは、人間が一般的にナメクジと呼んでいる生き物で、人間が一
それはとても可愛らしい声だった。そして、とても小さかった。
?
に住む巨大ナメクジ⋮⋮そのほんの切れ端の様な分体であった。
ちなみにブン太とカツユの会話から分かるように、二人││二匹
││は知り合いである。結構古い仲であった。
くもあるかもしれない。
﹁あのー、あなたが私を口寄せしたのですか
﹁⋮⋮はい﹂
﹁い、言わないでぇ⋮⋮﹂
せ出来ない⋮⋮まさかあなたは
﹂
﹂
﹁この口寄せ⋮⋮私を口寄せ出来て、かつこの程度の大きさしか口寄
?
小さなナメクジが一生懸命に体を方向転換している様はどこか可愛
さて、口寄せされたカツユは召喚主であろうアカネへと向き直る。
?
口寄せされたのはカツユ。妙木山と同じく秘境と呼ばれる湿骨林
﹁あらブン太さん。お久しぶりですね﹂
?
るのではと思って試しに口寄せの術を使ってみたのだが、結果はご覧
アカネとしてはヒヨリの肉体ではないのだから適正も変わってい
般が非常に苦手であった。もう完全に適正がなかった。
そう⋮⋮ヒヨリは、アカネは口寄せが⋮⋮というより時空間忍術全
だったのである。
分体しか口寄せ出来なかったからだ。そう、かつてのヒヨリもそう
ちなみに正体に気付いたのはアカネがほんの切れ端の様な小さな
ある。
ユが口寄せ契約を結んでいたのでそこから気付くのも当然の帰結で
どうやらアカネの正体に気が付いた様子のカツユ。ヒヨリとカツ
!
152
?
のあり様であった。
ちなみにアカネが言わないでと言っているのは正体について言わ
ないでほしいではなく、この程度の大きさしか口寄せ出来ないという
点である。
﹂
﹁どうして生きているのですかヒ││﹂
﹁解
口寄せの術を解除したと同時に、白い煙と同時に音を立ててカツユ
︵超ミニ分体︶は湿骨林へと還っていった。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
三者三様の意味が籠められた沈黙が場を支配する。
﹂
訂正しよう。三者二様であった。一人と一匹の思いは同じだから
である。
﹁⋮⋮おい。こがいな阿呆がほんまに強いんか
それでも微々たる大きさのカツユしか呼び出せないのだが。ちな
り切ったカツユとの口寄せである。
うして会得出来たのが、馬鹿でかいチャクラで適正のなさを強引に振
ヒヨリ時代から空いた時間があればそれはもう練習していた。そ
た。
び出せる口寄せの術などの時空間忍術の事をアカネは気に入ってい
扉間やミナトが得意としていた飛雷神の術や、様々な契約動物を呼
﹁⋮⋮私にだって、苦手な事くらい⋮⋮ある﹂
たのかのォ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ワシも自信がなくなってきた。さっきのは幻術でも見せられて
?
﹂
みに三忍の一人である綱手は数十メートルはあるカツユ︵同一ナメク
ジ︶を呼び出す事が出来たりする。
﹂
掛かって来いひよっこがぁ
﹁さあ勝負の続きと行きましょう
﹁おお
!
!
あまりの哀れさに取り合えず先の事を見なかった事にしてあげた
153
!
﹁優しいのぅ自来也。見なかった事にしてやるんかい﹂
!
この屈辱を怒りに変えてお前達にぶつけてや
自来也である。やはり彼はフェミニストなのだ。
﹂
﹁やかましいブン太
る⋮⋮
あ奴から離れる
﹂
振り落とされんようにし
綱手ばりの馬鹿力で殴られるでのォ
﹁完全に逆恨みだのぉ⋮⋮。まあ良い ブン太
ように動いてくれ
﹂
﹁なんじゃいわしゃただの足がかりかい
ろよこの阿保がぁ
││蝦蟇油弾
││
一度の跳躍で一気に距離を取り、遠距離から自来也が攻撃をする。
い過ぎる。しかもブン太は蛙らしく跳躍が得意であった。
巨大なガマ蛙が移動するのと、人間が移動するのでは当然歩幅が違
ネを近づかせないようにする為だった。
自来也がブン太を口寄せしたのは単純な戦力としてではなく、アカ
!
しれないが。
八卦空掌。掌からチャクラによる真空の衝撃波を放つ柔拳の遠距
││八卦空掌
││
修行相手にされている自来也としたらふざけるなという考えかも
すかというのがアカネの考えだ。
を相手に十分な修行を積んでいた。ならば遠距離戦もたまにはこな
日向にも中・遠距離用の術はある。それに接近戦はヒアシとヒザシ
事にした。
蝦蟇油弾を躱したアカネは自来也に接近せず、遠距離戦に付き合う
ればならないだろう。
撃をアカネに当てたいならば超広範囲の術か超高速の術を使わなけ
ましてや相手は日向ヒヨリの生まれ変わりのアカネだ。遠距離攻
には有効だが、距離があれば攻撃は避けやすくなるものだ。
まあ当たればの話だが。遠距離からの攻撃は確かに近接主体の忍
弾と火遁の相性は抜群だ。その火力は骨も残さない程だ。
そして油で塗れた体は火遁の術で焼き払われる事になる。蝦蟇油
は油で塗れ動きを多少なりとも阻害されるだろう。
まみ
自来也の口から可燃性の高い油が一気に放出される。当たれば体
!
!
154
!
!
!
!
!
!
!
離攻撃である。白眼を用いれば遠方の敵の急所を的確に射抜く事も
可能だ。
威力に関しては個人個人で違う。要は籠められたチャクラとチャ
クラを放出する技術によって威力が変化するわけだ。
﹂
アカネの威力に関してはまあ自来也の反応を見れば分かりやすい
だろう。
﹁ぬおお
自来也はブン太の上で思いっきり横っ飛びする。そして自来也の
すぐ真横を八卦空掌が通り過ぎていった。
その時自来也の耳に入った音は大砲の弾でも横切った様な音だっ
た。
ふと自来也が後ろを見ると大きな雲にどこか不自然な、しかし綺麗
﹂
な大穴が空いていた。どうやら八卦空掌の軌道線上にあった雲のよ
うだ。
﹁⋮⋮殺す気か
﹂
かなりますって。私はあなたを信じています
﹂
まあええわい こいつ相手に
﹂
油だ
ブン太ァ
﹁もうお前加減する気ないじゃろ
加減の必要はないじゃろうからなぁ
││火遁・蝦蟇油炎弾
││
てはこの様な術を使いはしないだろう。⋮⋮多分。
自来也ももしかしたら気付いているのかもしれない。そうでなく
ものだ。
ほどまでにチャクラを嫌というほど感じさせられたら気付きもする
ちなみにブン太もどうやらアカネの正体に気付いたようだ。これ
馬鹿ではない。
だがまあここまで来てアカネを一介の忍と判断するほど自来也は
常に強力かつ超広範囲の術だ。一介の忍にする攻撃ではないだろう。
ブン太が自来也の要求に応える。今から二人がする合体忍術は非
!
﹁そんな信頼いらんわ
!
らいなら。多分威力なら綱手の一発の方が上ですよ上。だから何と
﹁ははは。三忍ともあろうお方が何を仰る。死にはしませんよあれく
!
!
!
!
?
!
!!
155
!?
小さな町程度なら軽く飲み込む程の巨大かつ強力な火遁がアカネ
を襲う。
ブン太の口から出た大量の油と自来也の火遁が合わさった結果だ。
││
その迫り来る死の炎に向かって、アカネは両手を突き出した。
││八卦空壁掌
それは両手で放たれる八卦空掌だ。だが並の使い手では個人で使
用する事は敵わず、二人以上の日向一族が同時に八卦空掌を放つ事で
八卦空壁掌となる。
これを個人で放つ事が出来る日向はアカネとヒアシとヒザシの三
人だけだ。
そして威力は八卦空掌の倍、どころではない。両手で放つ事でチャ
クラの放出量を増し、さらに放出面積を広げる事で術の範囲も大きく
広げる事が出来る。もちろん面積を狭めて貫通力を上げる事も出来
る。
蝦蟇油炎弾と八卦空壁掌がぶつかり合う。範囲と量では蝦蟇油炎
﹂
弾が、面積辺りでの威力は八卦空壁掌がそれぞれ勝り、やがて二つの
﹂
流石は
奴はどこじゃあ
!
術は互いに相殺しあい掻き消えた。
おいぃ
﹂
!?
!
場所には誰もいなかった。
﹂
﹂
じゃがあのガキのチャクラをとんと感じん
仙術で探れ
そればかりか、どれだけ探そうともアカネの姿はない。
﹁ブン太
﹁もうやっとるわい
どないなっとるんじゃい
!
!
そんな二人の疑問はすぐに解決した。
気配も微塵も感知出来ない。一体何処にいったというのか。
だ が そ れ で も ア カ ネ の チ ャ ク ラ を 捉 え る こ と が 出 来 な い で い た。
は、仙人モードで感知能力を大幅に上げていた。
自然エネルギーを取り込み仙術チャクラを練り上げていたブン太
!?
!
!
156
!
﹁ぬぅ、これすらも防ぐか
﹁
﹁なに
!
ブン太の言葉に驚き炎が消え去った大地を見るが、アカネが元いた
!?
!?
﹁っ
﹂
﹁な、なんじゃとぉ
﹂
二人がアカネに気付いた時には、すでにアカネは自来也の後ろを
取ってそっと掌を自来也へと当てていた。
アカネは八卦空壁掌を放ってからすぐに炎を目眩ましに上空へと
跳躍したのだ。そしてチャクラを感知出来ないようにかつての能力
である︻天使のヴェール︼を発動させた上でチャクラと気配を消して
いる。これで仙人だろうが何だろうがアカネのチャクラを感知する
事は出来ない。今のアカネを捉えるには目視か、アカネの気殺以上の
知覚能力を有するしかなかった。
柔拳使いに触れられている。それを意味する所を理解出来ない自
来也ではない。
﹁⋮⋮ワシの負けですのォ﹂
﹁ええ。私の勝ちです﹂
素直に負けを認めた自来也を見て、そっと手を下ろしてアカネは微
笑む。
これにて、近くの街を大騒ぎさせた傍迷惑な勝負は終わりを告げ
る。
巨大蝦蟇や雲を貫く衝撃波や蝦蟇よりも巨大な炎などを放ってお
いてばれないわけがなかった。
﹂
⋮⋮ちなみにそれを知った二人は脱兎の如く別の街へと逃げ出し
た。
◆
﹁申し訳ありませんでした
どうしてこうなったか。それはまあ、アカネの正体に自来也が気付
カネであった。
大男の名は蝦蟇使いの仙人・自来也。そして少女はもちろん日向ア
座していた。
今、街道から僅かに逸れた森の中で一人の大男が少女に対して土下
!
157
!?
!?
いたからに他ならない。
というか、実は先の戦闘中に自来也はアカネの正体がヒヨリである
事には気付いていた。と言っても気付いたのはかなり後半だったが。
見た目が違い過ぎる││老女と少女││し、そもそもヒヨリが死ん
でいるのでアカネがヒヨリであるとは思考の端にもなかったのだ。
だが流石にあれだけ闘えばそのチャクラからアカネがヒヨリであ
る事に気付いたのだ。
自来也にとってヒヨリとは言うなれば木ノ葉の下忍にとっての自
来也と同じだ。
こうべ
自分が子どもの頃から三忍と謳われ今の木ノ葉の礎を築いた伝説
の忍相手に、小娘だのひよっこだのと言い放ったのだ。まあ頭を垂れ
もしよう。
さいてん
はくはつどうじがまつか
﹁気になさらずに。今の私は所詮は礼儀知らずな小娘のひよっこ。三
忍 に し て 斉天 敵 わ ぬ 白髪童子蝦蟇使 い。泣 く 子 も 黙 る 自 来 也 様 に そ
158
の様に畏まられると恐れ多いですよ﹂
ニヤニヤしながら心にもない台詞を吐くアカネ。完全に自来也の
反応を楽しんでいるようだ。歳を取ると性格が悪くなるのかもしれ
ない。
﹁し、しかし、その件に関してはワシとて言い分がありますぞ。ヒヨリ
﹂
様は確かに亡くなられたはず。それがどうして生きて、しかも若く別
の肉体でいるのですか
まあ身に覚えはないので気のせいだろうと思い、自来也の疑問に答
感じていた。
過去に外道な事をしたような気になって心にちくちくと刺さる物を
そんな風に自来也に怪しまれているアカネはと言うと、何故か遥か
ノを感じていないが、だからと言って油断出来る相手ではない。
の為にも倒さねばならなくなる。今までのアカネの言動に怪しいモ
いくらヒヨリが木ノ葉の伝説とは言え、その様な外道に落ちれば里
を用いて今も生きながらえているのかもしれないのだ。
しかしたら他者の肉体を乗っ取るという非常に凶悪にして外道な術
これに関しては自来也も詮索しなければならない重要な件だ。も
?
える。無知とは時に己を助ける術となるのだ。何もかも知ればそれ
で良いという物でもない。
﹁これは私がかつて作り出した術による結果ですね。言うなれば新た
もしやヒヨリ様
に生まれ変わる術、輪廻転生を果たしたわけです。だから正真正銘こ
﹂
輪廻転生⋮⋮その様な術を⋮⋮。ッ
の体は私の生まれ持った体ですよ﹂
﹁なんと
は輪廻眼を持っておられるのですか
おとこ
に漢である。
﹁剛と柔。どちらがいいですか
﹂
誰であろうと変わらないその姿勢には一貫した物を感じる。まさ
比べ、どこかいやらしい目付きをしている自来也。
すでに老境の身であったヒヨリを思い出しながら今のアカネと見
のォ。あのヒヨリ様がこんなピチピチギャルになるとは⋮⋮﹂
﹁⋮⋮そうですか。しかし、生まれ変わりとはまたとんでもないです
ない秘術です。瞳術や血継限界ではありませんよ﹂
で見た事ありませんよ。この術は私オリジナルの私にしか使用出来
﹁いえ、輪廻眼なんてとんでもない代物は持ってませんし、私でも今ま
も今では死んでしまったという話を自来也は耳にしたが。
だが自来也はその輪廻眼に見覚えがあった。もっとも、その持ち主
れていない伝説の瞳術だ。
の開眼方法は明らかになっておらず、そもそも誰が開眼するかも知ら
他の二つの瞳術と違い血継限界として引き継がれる物ではなく、そ
崇高な瞳術と言われている。
輪廻眼とは、白眼・写輪眼と同じ三大瞳術の最後の一つにして最も
もしやと勘ぐる。
輪廻転生と輪廻眼。輪廻という共通の言葉を持つそれに自来也は
!?
んで下さい。もちろん敬称も敬語も必要ありませんよ。今の私に肩
﹁全くあなたは。まあいいです。私の事はヒヨリではなくアカネと呼
ける自来也。
アカネの脅しを聞いて空を飛ぶ鳶を見ながらそう言ってすっとぼ
﹁空が青いですなぁ。お、鳶ですぞ﹂
?
159
!?
!
書きなど下忍くらいしかありませんからね﹂
﹁しかし、そう言うわけには⋮⋮﹂
自来也としては先人にして憧れでもあるヒヨリにその様な態度を
取る訳にはと思っている。
だがアカネとしては自来也程の忍に畏まられる所を誰かに見られ
ると色々と勘ぐられるし、フレンドリーに接してくれた方が色々とや
りやすいというものだった。
それじゃあ普段通りにするかのォ。改めてよろしく
﹁私は気にしないので、あなたも気にしないで下さいな﹂
﹁そうですか
頼むぞアカネよ﹂
自来也の順応性の高さは三忍一なのかもしれない。この態度の変
化には流石のアカネも驚いていた。
﹁え、ええ。それで結構です﹂
﹁いやぁ、元々敬語は苦手でのォ。そう言ってくれると助かるわい﹂
かつては里の狂気と恐れられた事もある自来也である。そんな男
が敬語を得意とするわけがなかった。
まあ流石の自来也も人によっては敬語を使うのだが、相手が使わな
くて良いと言うなら遠慮なく甘えるだけだった。
﹂
﹁ところで、色々と疑問は解けたが⋮⋮あの口寄せはどういうことな
んだ
﹁それでもアレはないぞ どうしてあれだけのチャクラを練り込ん
﹁なにを
﹂
私がその気になればもっと大きなカツユを口寄せ出来る
れば確実に時空間忍術の適正は零という烙印を押されていただろう。
たりとも口寄せ出来ないだろうから、アカネのチャクラが膨大でなけ
ないわけではないだろうが、通常のチャクラでは恐らくカツユの欠片
なまじわずかばかりでもカツユを口寄せ出来た事から全く適正が
方が納得が行くレベルであった。
自来也としては最早時空間忍術の適正がないときっぱり言われた
であの程度のカツユしか呼び出せんのかさっぱり分からんわい﹂
?
という所を見せてあげましょう
!
!
160
?
﹁⋮⋮恥ずかしながら、私は時空間忍術が苦手でして﹂
?
﹁お、おい
﹂
結界は壊れる事もなく外に漏れる事もないだろう。
そう、全力でチャクラを練っても、だ。
﹂
アカネ
﹂
!
﹁はあぁぁぁぁぁぁぁぁ
ちょい待て
!
あんた国でも破壊する気ですかいのォ
﹁お、おお ちょ、ちょい
ネ様
!
﹂
!
比べ物にならないほどだ。
﹂
まさにナメクジと牛くらいの差があるだろう。
﹁はぁ、はぁ、よし
姿は違えどあなたはヒヨリ様ですね
!
アカネの口寄せしたカツユなど数千分の一あるかどうかが良い所
の大きさは本体の十分の一にも満たない大きさだ。
湿骨林にはカツユの本体が存在し、綱手をして口寄せ出来るカツユ
だがまあ自来也の感想としてはそんなものだった。
ろうなぁ﹂
ら、恐らく湿骨林にいるカツユ全てを口寄せしてなお余っていたであ
﹁確 か に で か く な っ と る。た だ ⋮⋮ 同 じ チ ャ ク ラ を 綱 手 が 使 え る な
に胸を張って自来也に向けてドヤ顔を見せていた。
だがアカネはそれどころではないようだ。どうだ、と言わんばかり
る。
口寄せされたカツユは召喚主であるアカネに擦り寄って問い詰め
﹁ああ、やはりヒヨリ様
﹂
音と共にカツユが現れた。その大きさは先のアカネの口寄せとは
﹁口寄せの術ぅぅ
クラを高めていった。そして、カツユを口寄せした。
そしてアカネは狼狽する自来也の言葉など気にもせずに更にチャ
ベルの結界を多重に展開しているというのに軋んでいるようだ。
あまりのチャクラに空間が歪んで見えるほどだ。結界も相当なレ
ラをアカネは発していた。
自来也が慌てて敬語になり、慄いてそう口走る程に馬鹿げたチャク
!?
いや、アカ
重結界となっていた。これならアカネが全力でチャクラを練っても
そう言ってアカネは四方に結界を作り出す。しかもその結界は多
?
!
!
!
!
161
!
だろう。
﹁⋮⋮私に時空間忍術を教えてくれませんか
﹂
﹁⋮⋮ワシにだって、出来ない事くらい⋮⋮ある﹂
三忍であり四代目火影を育てた自来也も、あれだけのチャクラを籠
﹂
めておきながらこの程度の口寄せしか出来ない相手に時空間忍術を
教え込むのは不可能というものだった。
﹁⋮⋮そろそろ私にも説明してもらえないでしょうか
カツユの寂しげな声が辺りに響いた。
﹁そうでしたね。これは他言無用ですよカツユ﹂
アカネは忍術・かくかくしかじかを使った。
まるまるうまうま。カツユは全てを理解した。
一匹で抱き合っていた。
アカネとカツユは別れを名残惜しそうにしながら二人⋮⋮一人と
所へと戻るのだ。
口寄せの術で呼び出された口寄せ動物は一定時間になると元の場
﹁アカネ様⋮⋮﹂
呼ぶ事は出来ませんし⋮⋮﹂
からねぇ⋮⋮私の全力で呼べるのがこの大きさですから、そう何度も
﹁いつまでもこうしていたいですが、口寄せには制限時間があります
ちょっとしたホラーだろう。自来也の感想も宜なるかな、である。
むべ
傍 か ら 見 た ら 巨 大 ナ メ ク ジ に 埋 ま り か け て い る 少 女 で あ る。
﹁シュールな光景だの⋮⋮﹂
︵ヒヨリ︶談であるので諸説あり。
これが意外とプニプニして柔らかくて気持ちいいらしい。アカネ
アカネは牛ほどの大きさのカツユの上に乗って寝転がっていた。
が出来るとは、嬉しいですねぇ﹂
﹁私もですよカツユ。再びこうしてあなたをベッドにして横になる事
会えて嬉しいです﹂
﹁なるほどそうだったのですか。ヒヨリ様⋮⋮いえ、アカネ様と再び
?
そうしてカツユが湿骨林へと戻った後、アカネと自来也は本題へと
戻った。というか、閑話が長すぎである。
162
?
﹂
﹁というわけで、大蛇丸の情報について私が知る事に異論はありませ
んね
﹁もちろん﹂
アカネの実力を嫌というほどに知った自来也だ。今更大蛇丸を追
うなとは言えなかった。
それに九尾を狙う者を追えば自然と大蛇丸にも行きつくのだ。自
来也は今まで自分で集めた情報からその可能性が高いと見ていた。
そうして自来也は大蛇丸に関して、そして大蛇丸が所属する組織に
関して知ってる限りを話した。
﹁暁⋮⋮ですか﹂
﹁うむ。ワシも奴らの関しては多くは知らぬ。知っているのは各地で
様々な術を集めている事と、組織の構成員の殆どがビンゴブックに
﹂
載ってる一癖も二癖もあるS級犯罪者というくらいだ﹂
﹁その中に大蛇丸が
﹂
この二人が受け入れる事はないのだろう。
﹁なるほど⋮⋮それで、暁のアジトは
﹁いや、そこまではワシも⋮⋮もし知っとったら
﹁そりゃさっさと襲撃して潰しておこうかと﹂
﹂
を目的とする人物も何人かいたりするのだが、まあ方法が方法なので
アカネも自来也も当然そう考えている。⋮⋮実は暁には世界平和
罪者集団のやる事が世界平和であるはずがない。
暁が何の為に各地から危険な術を集めているかは分からないが、犯
うのに危険性を感じる情報だ。
それが自来也の知る暁の全てであった。あまりにも少なく、だと言
﹁⋮⋮そうワシは睨んでおる﹂
﹁九尾⋮⋮いや、九尾を含む尾獣か﹂
﹁そうだ。そして奴らの狙いは恐らくだが││﹂
?
?
呆れるしかない自来也であった。
﹁無茶苦茶な⋮⋮大蛇丸が下に付くほどの組織だぞ
まあ奴の事だ
面倒な事は纏めて終わらせるに限る。力一杯にそう言うアカネに
?
?
163
?
から何か目的があるんだろうが。それでも大蛇丸が一構成員という
﹂
豪華千万な組織だ。その目的も知らずに事を進めるといくらお主で
も痛い目を見るやも知れんぞ
というチャクラを見せられれば
等と考えていた。
そうなるかもしれない。
まあ、お前実は尾獣じゃねぇの
奴っているのかのぉ
などと言う自来也だが、言っておいて何だがこの化け物に勝てる
?
いる事だし、じっくり暁について調べるとしよう﹂
﹂
?
取り合えず次の街で英気を養いましょう。全力
!
﹂
道中自来也の実力が否が応にも伸びた事は言うまでもない。
こうしてアカネと自来也の珍道中は始まったのであった。
﹁人の話を聞かんかぁ
でチャクラ練ったから疲れましたし﹂
﹁さあ行きますよ
﹁最後ちょっと待て﹂
すし。修行相手に持ってこいですし﹂
より二人とも言いますし。敵も複数いるようですし。あなた強いで
?
ワシも一緒になのか
﹁え
?
それはまあ、あなたが一緒なら色々と捗るでしょう
﹁え
一人
﹁うーん。そうですね。急いては事を仕損じるとも言うか。自来也も
?
?
!
164
?
NARUTO 第八話
﹁ワシは一度里に戻るぞ﹂
﹂
それはアカネと自来也が共に暁と大蛇丸について調べる為の旅に
出てから一年程が経った時の事だった。
﹁ふむ。それはいいのですが、やはり大蛇丸ですか
これまでの調査で二人は大蛇丸が何やら暗躍しているのを察知し
ていた。
というか、自来也からしたら暗躍していない大蛇丸というのを想像
出来ないのだが。
ともかく、どうやら大蛇丸は木ノ葉に関して何らかの動きを見せて
いる可能性がある。
そう判断した自来也は木ノ葉の里が手遅れになる前に里へと戻ろ
うとしている訳だ。かつては里の狂気と言われた男だが、里を愛する
気持ちは人一倍なのである。
﹁奴は木ノ葉に、三代目に対して恨みを抱いているからのォ。木ノ葉
に何らかの干渉をする可能姓は高い。それが木ノ葉の為になる可能
性は、まずないな﹂
﹁そうですか⋮⋮なら私も一度木ノ葉に帰りますか。どうも暁に対し
ては今の所手詰まりですしね﹂
アカネも自来也の話を聞いて一度木ノ葉へ戻る事に決めた。
というのも、暁について調べていたのはいいが、当の暁が目立った
動きを見せていないので中々尻尾を掴めそうになかったのだ。
一度だけ暁と思わしき敵に接触したのだが、その敵を倒してからは
とんと情報が入らなくなったのだ。
﹁後手に回ってるね。あの敵も私達の情報を得る為の尖兵だったので
しょう。恐らく捨て駒だな﹂
﹁だろうのォ。それに同じ見た目の敵が複数いた。分身とは違う実体
で。そういう術なのか、はたまた別の何かか⋮⋮﹂
世界は広い。長年生きてきた二人にも知らない術は多くあるのだ。
そしてそういった存在を集めているのが暁だ。自分達の常識に当
165
?
てはめて考えるのは危険というものだろう。
﹁相手がアクションを掛けて来るのを待つのも一つの手かもしれませ
んね﹂
﹁う む ⋮⋮ そ れ が 取 り 返 し の つ か な い 一 手 で な け れ ば 良 い の だ が
⋮⋮﹂
相手が仕掛けた最初の一手が取り返しのつかない一手であれば、も
はやどうしようもない。
だがそんな事を言っていては初めから何も出来ないのだ。今は出
来ることをするしかない。自来也はそう自分を納得させるだけだっ
た。
まあ隣にいる少女の見た目をした別の何かがいればどんな一手も
ひっくり返せそうな気がしているのだが、自来也は己の精神衛生上考
えないようにした。
﹁それでは懐かしの里へ帰るとしますか﹂
﹁アカネはまだ一年程度だろうに。ワシは何年になるかのぉ﹂
そんな風に話しながら二人は木ノ葉への帰路についた。
◆
木ノ葉の誇る三忍の一人大蛇丸。と言っても既に抜け忍となって
る彼は木ノ葉の誇るとは言えない存在に堕ちているが。
彼は今木ノ葉の里にて暗躍していた。正体を隠し中忍試験に参加
し、めぼしい存在を目を凝らして探していたのだ。
それは己の新たな器を探す為だった。大蛇丸はある禁術を開発し
ていたのだ。
ふしてんせい
それこそが、他者の肉体を乗っ取り自らの物とし、永劫を生き続け
る最悪の禁術、︻不屍転生︼である。
そして器となる肉体の素養が高ければ高いほど、それを元にした大
蛇丸の力も高まる事になる。
特に大蛇丸が興味を示しているのは努力では得られない力、血継限
界の持ち主達だ。
166
それも他の忍術で代用が利く氷遁や沸遁などの性質変化系統の血
継限界ではなく、肉体その物に効果が現れる体質系統の血継限界を
だ。
これまでで幾つかの器と成り得る候補を捕獲し、その中でも最大の
お気に入りがあったのだが、そのお気に入りは既に壊れていた。
死病を患った器など器足り得ない。だから大蛇丸は古巣である木
ノ葉に新たな器を求めてやってきたのだ。
そして現在大蛇丸が狙っている最大の器候補が、写輪眼という素晴
らしい瞳術を有するうちは一族であった。
だがうちは一族ならば誰でも良いという訳ではない。
写輪眼を開眼していないうちはなど必要としていないし、例え写輪
眼があったとしても才能が足りなければ大蛇丸の食指は動かない。
その大蛇丸が厳選した素材が、うちはイタチとその弟うちはサスケ
であった。
うちはイタチは大蛇丸からしても完璧な忍と言えた。
才能、肉体、精神。そのどれもが突出した力を持ち、うちはの長き
歴史に置いても才能という点でイタチに並ぶ者はあのうちはマダラ
くらいなのでは、と大蛇丸に思わせる程にだ。
だからこそ、イタチは大蛇丸の器候補に上がっていながら器には出
来なかった。そう、イタチが強すぎるからだ。
全力で闘えば勝てはせずとも負けはしないと大蛇丸は思っている。
だがそれでは肉体を乗っ取るなど不可能と言えた。
相手の肉体を乗っ取るのだ。相手が自分よりも強くては乗っ取り
ようがないのだ。
大体イタチも他のうちは一族と同じく木ノ葉の里の警備部隊に入
隊しているのだ。里にいるイタチを狙って他の忍に悟られないよう
に体を乗っ取る。そんな事が出来るわけがなかった。
現状大蛇丸がイタチを乗っ取るには様々な点から不可能と言えた。
そして次に目を付けたのがサスケだった。
イタチの弟であり、偉大な兄に追いつこうと必死に努力をしている
天才少年だ。
167
優秀な兄に対して多少のコンプレックスはあるが、それでも兄を慕
い兄を目指して今も中忍試験を受けている。
イタチに比べるとサスケは劣るかもしれない。
イタチは七歳でアカデミーを卒業し八歳で写輪眼を開眼させ十歳
で中忍に昇格したという異例の経歴を持っている。
対してサスケは十三歳でアカデミーを、写輪眼も同じく十三歳で、
そして今中忍試験を受けている最中だ。
単純に考えて兄が出来ていた年齢で弟が出来なかったら、それは兄
よりも弟が劣っていると判断されるだろう。
少なくともサスケやうちは一族はそう思っている。
だが大蛇丸は違う。サスケはまだ芽が出たばかり若葉なのだ。花
開くのはまだ先の話。
そしてその才能の花が開花すれば、サスケはイタチをも上回る忍に
なると大蛇丸は確信していた。
中忍試験を忍んでサスケを観察した甲斐が有ったと言うものだろ
う。サスケの才能を垣間見た大蛇丸は歓喜していた。あれがもうす
ぐ自分の物になると思って。
残虐非道で知られる大蛇丸だが中忍試験中は目立った動きをしな
かった。
大蛇丸が中忍試験に参加したのはサスケの才能を確かめる為だっ
たからだ。
下手な動きを見せれば木ノ葉の忍が自身を狙って来る事は理解し
ていた。
そこらの凡百な忍が束になって掛かってきても返り討ちにする自
信はあったが、先のうちはイタチや日向ヒアシ、三代目の現右腕左腕
のうちはシスイに日向ヒザシが来れば流石にどうしようもない。
︵やはり木ノ葉は厄介ねぇ⋮⋮ペインの言う通りここは木ノ葉の力を
削いでおきましょうか︶
大蛇丸は自身が所属する組織・暁のリーダーであるペインに言われ
た事を思い出す。
今回の中忍試験を機に、木ノ葉の戦力を削れ、と。出来るならば潰
168
しても構わないとの事だった。
その際九尾の人柱力であるナルトを確保出来ればより良いのだが、
これは最重要ではないようだ。
現状ナルトを捕らえても封印された九尾を奪う事は難しいからだ。
正確には奪ってもすぐに目的の為に活用する事が出来ないのだ。
ナルトを捕らえ九尾をいつでも活用出来るように常に監禁し続け
る事も出来るが、優先事項としては今はまだそこまで高くはない。
それよりも今後も障害と成り得る木ノ葉の優秀な忍を少しでも間
引きしておく方が先決だった。そうすれば今後も動きやすくなると
いうものだ。
逆に言えばS級犯罪者にして強者ばかりが集まっている暁が警戒
するほど今の木ノ葉の里は力があると言えた。
木ノ葉には忍のエリートであるうちは一族と日向一族が揃ってい
るのだ。
木ノ葉の里が建立された時から共に瞳術の使い手として競い合っ
たり、協力しあったりしている両一族の仲は悪いものではなかった。
特に一族で優秀な忍が火影の護衛として選ばれる事でその両者の
仲も深まり、それは一族へと繁栄されて行ったのだ。
そんな優秀な一族が揃っている木ノ葉と敵対すれば勝てるにして
も手痛い反撃を受けるだろう。
そうならない為にも木ノ葉で一暴れする様に大蛇丸は言われてい
た。
︵狙いは中忍試験本戦当日。諸外国の大名がいる中で惨劇を起こせば
例え里の被害が軽微でも里に入る依頼は減るでしょう︶
もっとも、大蛇丸はそんな生易しい結果で済ませるつもりは当然な
かった。
こうして目立つ事を避けて隠れ潜んでいるのだ。その日が来れば
徹底的に暴れるつもりであり、そしてその最大の狙いも決まってい
た。
︵三代目⋮⋮猿飛先生ィ⋮⋮あなたと闘える時を楽しみに待ってます
よ⋮⋮その時はとびっきりのプレゼントを贈ってさしあげましょう。
169
くくく︶
三 代 目 火 影 猿 飛 ヒ ル ゼ ン。自 ら の 師 に し て 自 ら を 火 影 に 選 ば な
かった男。里から逃げる切っ掛けとなった恩師。
三代目に逆恨みに近い憎しみと、未だ無くならぬ若干の敬意を宿
し、大蛇丸は三代目へのプレゼントを思い狂気に顔を歪める。
︵あの4人を見た時の猿飛先生の顔が楽しみだわぁ⋮⋮︶
狂った三忍大蛇丸。彼は中忍試験を途中でリタイア。変装に使用
していた草隠れの忍の姿を脱ぎ捨てて木ノ葉から一度離れ、木ノ葉崩
しの最後の準備に掛かった。
◆
アカネと自来也が木ノ葉に戻って来たのは中忍試験の本戦準備期
間中であった。
中忍試験は幾つかの試験を乗り越えた者だけが本戦へと出る事が
出来る。その本戦へ出場する忍に一ヶ月の準備期間が与えられたの
だ。
この準備期間で中忍試験中に傷ついた体を癒したり、新たな力を求
める修行をしたりするわけだ。
﹁ではここからはしばらく別行動を取るかの﹂
﹁いいですよ。私も一度宗家へ報告しに行きたいので﹂
里の入り口で一旦別行動を取る二人。
アカネはヒアシにこれまでの情報を報告し、そして気になっていた
ヒナタに会いに行くつもりだ。
ヒナタはアカデミーを卒業したばかりなので中忍試験を受けてい
ない可能性もあるが、受けていたとしたらどうなっているかも確認し
たい。
そして自来也は久しぶりの木ノ葉でのんびりと覗き⋮⋮もとい取
材に張り切るつもりだった。
なにせこの一年間はアカネと共に殆ど過ごしていたのでまともに
覗きをする事も出来なかったのだ。
170
これを機に思う存分取材という名の覗きを捗らせるつもりだった。
ちなみにアカネ自身を取材対象にしようとした事があったが⋮⋮
その時は人生二度目の死の予感を覚えた自来也だった。
アカネは懐かしい日向の敷地へと戻ってきた。
一年程度では差してどこも変わってないな、と当たり前の感想を胸
に抱きつつ歩いていると、ふとある人物と出会った。
ああ、確か君はアカネちゃんだったね。久しぶり、大きくなっ
﹁おや、これはシスイさん。お久しぶりです﹂
﹁ん
たじゃないか。いや、綺麗になったと言った方が正確かな﹂
その人物とはうちはシスイ。火影の右腕と呼ばれる凄腕の忍であ
る。
名前の通りうちは一族であり、その優秀さは幼い頃から知れ渡って
いた。
うちは最強と名高いうちはイタチも尊敬する忍であり、今ではイタ
チと共にうちはの両翼とまで言われている。
ヒザシ様に何か御用でも
﹂
﹁あはは。ありがとうございますシスイさん。ところで今日はどうし
たんですか
?
﹁そうですか。お仕事お疲れ様です﹂
事もある。ベラベラと機密情報を話していては忍失格だろう。
任務には極秘の内容もあり、それは当然自里の忍にも秘密にすべき
なるほど。任務に関する事か。そうアカネは推測する。
﹁ああ⋮⋮ちょっと色々とね﹂
にとってアカネは優秀な日向一族くらいの認識だが。
そうして以前にアカネとシスイは出会ったのだ。もちろんシスイ
しば有る。逆もまた然りだ。
こうしてたまに日向の敷地にヒザシに会いにやって来る事もしば
た。
なので任務上だけでなくプライベートでも二人は親しくなってい
する立場にある。
ヒザシは火影の左腕と呼ばれており、二人は共に火影を警護・補佐
?
171
?
﹁いや。⋮⋮そう言えばアカネちゃんは中忍試験は受けないのか
今年はもう無理だが、君ならいつでも中忍試験に合格する事が出来る
だろうに﹂
﹁ありがとうございます。でも、中忍試験とか怖いからいいですよ。
私は一生下忍でのんびりするんです﹂
﹁そ、そうかい⋮⋮。それじゃあオレはこれで。元気でねアカネちゃ
ん﹂
変わった子だと思いつつも、まあそういう忍が一人くらいいてもい
いかと思い直しシスイは去っていった。行き先はヒザシの所だろう。
﹁ふむ。シスイさんが任務か⋮⋮﹂
火影の右腕が任務とあらば厄介事しか考えられないだろう。ヒザ
シに相談しに行くほどならば尚更だ。
大蛇丸が本格的に動いているのかもしれないなと考え、アカネは宗
家の屋敷への足を速めた。
﹁ヒアシ様。ただいま戻りました﹂
﹁うむ﹂
宗家の屋敷にてヒアシと再会したアカネはまずは帰還の挨拶をす
る。
アカネの立場はヒアシの付き人だ。屋敷の中には多くの使用人も
おり、彼らに馴れ馴れしい態度を見せるわけにはいかないのだ。
丁寧に、身分の差を理解した応対をしてヒアシに招かれるままに後
ろを着いて行く。
﹂
そうして誰もいないヒアシの私室に到着し、二人は白眼で確認をし
てからいつもの態度に戻る。
﹁お疲れ様でしたアカネ様﹂
﹁いえ、それほど疲れは⋮⋮いやまあ多少は疲れる事はあったかな
ヒアシの労いの言葉を否定しようとし、しかし自来也との一件││
正確には口寄せの一件││を思い出して言葉を改める。
ヒアシとしてはあのアカネが素直に疲れる事があったという言か
ら何かしらの事件に巻き込まれたのかと勘ぐっていた。
172
?
?
﹁もしや九尾復活の犯人を突き止めたのですか
まして﹂
﹂
﹁二代目三忍の自来也様に
体を
﹂
⋮⋮もしや、自来也様もアカネ様の正
﹁ああ、いえ。実は三忍の自来也と出会いましてね。それで少々あり
!?
﹁ヒザシに
﹂
?
いえ、そう言う話は何も。⋮⋮そう言えば最近うちは
たいですが、何か知っていますか
﹁そう言えば先程シスイに会いました。何やらヒザシに用が有ったみ
油断していたら痛い目を見るのは明白だ。
ンバーはそれぞれが常識では計れない力を持つ者達。少数だからと
だがその方向性が合えば最高の質は最大の力となるのだ。暁のメ
力の方向性の違いだ。
回らないが百人ならば可能という事はいくらでもあるだろう。要は
もちろん状況によって話は変わる。いくら強くても一人では手が
方が強い場合は多々ある。
1の力を持つ忍が百人集まるよりも、100の力を持つ忍一人いた
言うだろう。可能である、と。
質で数を凌駕する事は可能かと言われればアカネもヒアシもこう
が全員が精鋭、その力を侮ることは出来ません﹂
﹁はい。大蛇丸が構成員となっているほどの組織です。少数の様です
﹁⋮⋮なるほど。大蛇丸に暁ですか﹂
そうしてアカネはこの一年間で得た情報をヒアシへと伝える。
﹁ええ。彼なら信用出来ますから。それと、幾つかの情報も得ました﹂
?
﹂
紛う事なき逢引である。
見。近くにあった茶屋に入り中で楽しく会話をしているようだ。
するとシスイと顔を赤らめた日向の娘が一緒に歩いているのを発
アカネはすぐに白眼を使って周囲数kmを確認する。
﹁はい、逢引です﹂
﹁⋮⋮逢引
話を聞いた事がありますな﹂
シスイが日向の分家の娘と逢引している所を何度か目撃したという
?
?
173
?
﹁⋮⋮逢引ですね﹂
﹁覗き見は感心しませんが⋮⋮﹂
白眼の悪い使用例である。
火影の右腕が来るほどだから余程の大事でも起こったのかと思っ
ていたらこれである。
まさかアカネもシスイが逢引の為に日向一族の敷地へ来ていると
は思っていもいなかった。
﹁まあ、平和な事で何よりです⋮⋮大蛇丸を見た者はいないのですか
﹂
﹁そう言う情報は上がっていませんな。中忍試験中は警備体制も強化
しなければならないですし、その為にヒザシに火影様の近辺に異常は
ないかを確認したので確かかと﹂
火影の左腕であるヒザシならば大蛇丸ほどの忍が木ノ葉の里の内
部で見つかれば確実に報せが届くはずだ。
それがないのだから大蛇丸は木ノ葉にいないのか、それとも未だに
見つかっていないのかのどちらかだ。
﹁相手が大蛇丸ならば見つかっていない可能性も高いですね﹂
﹁可能姓はあります。日向の者には白眼による監視を強化させましょ
う﹂
﹁見つけてもけして一人で先走らない様によく伝えておきなさい。必
ず上に連絡する様にと﹂
﹁もちろんです﹂
見つけました。でも倒されました。では意味がないどころかあた
ら命を無駄にするだけだ。
それを防ぐ為にもまずは報告を義務付けねばならない。それほど
大蛇丸は危険だった。
戦闘力で言えば自来也と差は殆どないかもしれないが、禁術や予想
出来ない術などを使ってくるので厄介さで言えば大蛇丸が上と予想
されていた。
まあ自来也もこの一年で強くなっているので実際にどうかは分か
らないが。
174
?
﹁では私はこれで。あ、そうだ、ヒナタは中忍試験を受けたんですか
﹂
﹁⋮⋮受けましたが、第三試験の予選試合にて落ちました﹂
第三の試験、言うなれば現在準備期間後に行われる本戦の事だが、
その出場者が予想以上に多かった為に急遽行われた予選の事だ。
予選の勝者のみが第三試験本戦に出場出来るようになる。つまり
は振り落としが行われたわけだ。
﹂
﹁そうですか⋮⋮。残念ですが、中忍試験はまた次の機会に受ける事
が出来ます。それと、ヒナタは無事ですか
たので。然程怪我もなく││﹂
﹁ほ、ほほう。ネジが、相手ですか。あの護衛め⋮⋮
ネジに落ち度はありませぬ
﹂
﹂
何とぞお
!
!
いや、勝つのはまだしも傷つけるとは⋮⋮
勝負ですゆえ
すとは⋮⋮
﹁勝負
ヒナタを負か
﹁ええ。幸いと言いますか、不幸と言いますか、予選の相手がネジでし
?
誰ぞおらぬか
﹁誰ぞ
アカネを止めよ
!?
ネジに逃げろと伝え
!
その日、木ノ葉のどこかで少年の悲鳴が聞こえたそうだが、特に問
しているのでこの叫びに応える者は誰もいなかった。
ヒアシの叫びも虚しく、いつもの如くアカネとの密会中は人払いを
﹂
るのだ
!
少々の修行をつけて来ようと思う。それではな﹂
﹁大 丈 夫 で す。私 は 冷 静 だ。ち ょ っ と 本 戦 に 出 場 す る ネ ジ に 激 励 と
心の知れたネジだという事が偶々重なったせいで怒りが湧いたのだ。
に溺愛するヒナタを傷つけられた事と、その相手がよりにもよって気
もちろんアカネも宗家だの分家だので怒ってはいない。ただ単純
ではない。
事くらいヒアシも理解しているのでそれで強権を振りかざす程狭量
宗家の人間を分家が傷つけたのだが、そこは試験の中の勝負という
傷つけたネジを庇う様に語りかける。
言える愚行を犯したネジにその怒りを向けるアカネに、ヒアシは娘を
護衛の癖に護衛対象を傷つけるというアカネからしたら大罪とも
!
!
怒りを御静めください
!
!
!
!
175
?
題にされる事はなかった。その件に日向の長が関わったそうだが、定
かではない。
◆
アカネがネジを一通りぼこぼこ、もとい修行をつけて来た翌日。
アカネは自来也を探して木ノ葉の里をウロウロとしていた。
﹁何処に行ったんだかあのエロ仙人は﹂
本人が聞けば否定しそうな本当の事を言いつつ、白眼にて周囲を見
渡し自来也を探すアカネ。
だが里の内部には自来也の姿はなかった。変わりにちらほらと砂
隠れの忍がいる。中忍試験により他里の忍も内部に入って来ている
為だろうが、それでも砂隠れの忍の割合が多い事が気になった。
なのですぐにヒアシに確認を取ったのだが、本戦への出場者で砂の
忍が多く残っている為だろうとの事だった。
それならと納得したアカネだが、一応は注意を向けて置く。どうに
も砂隠れの忍からピリピリとした緊張感を感じたからだ。
杞憂ならばいいのだがと思いつつ、アカネは再び自来也を探す。白
眼の望遠能力の範囲を広げて周囲を見渡すと、里の外れにある滝近く
の川辺に自来也がいるのを発見した。
ようやく発見したかと思い、次に何故そんな場所にと疑問を抱くア
カネだが、その傍にいる人物を見て更に疑問が深まった。
︵あれは⋮⋮ナルトじゃないか。どうして自来也とナルトが一緒に│
│︶
そう疑問に思いつつも、二人の行動からすぐにその疑問は晴れた。
どうやら自来也はナルトに修行をつけているようである。自来也
も可愛がっていた弟子の波風ミナトが残したナルトに何か思うとこ
ろがあったのかもしれない。
それとも九尾の人柱力だからその力の使い方を教える事で暁に対
するナルトの抵抗力を高めておこうとしたのか。いや、両方だろうな
とアカネは判断した。
176
アカネはこうして白眼でナルトを観た事は何度かあった。
そして白眼でナルトを︽観る︾度に柱間とマダラを思い出す事があ
るアカネであった。
かつてアカネが柱間とマダラを白眼で観た時に何故か二人のチャ
クラが二重になって見える事が何度かあった。
それと同じ事がナルトを白眼で観た時に起こっているのだ。そし
てそれはこれまでこの三人以外には起こった事はない現象だ。
この感覚が何なのか。もしかしたらナルトと接触する事でそれを
理解出来るかもしれない。
これもいい機会かと思いアカネは二人が修行している川原へと飛
び立った。
自来也はナルトに口寄せの術を教える為、その前準備としてナルト
に水面歩行の業をやらせていた。
177
これはナルト自身のチャクラを使い切らせ、ナルトの中に封じられ
た九尾のチャクラを発動させやすくする為である。
ナルトはまだまだ未熟であり、本人が練り上げるチャクラだけでは
口寄せの術が出来ないのだ。いや、出来はするが役に立つ程の口寄せ
動物を呼ぶ事が出来ないと言うべきか。
だが九尾のチャクラを上手く利用すればそれこそガマブン太すら
口 寄 せ 出 来 る だ ろ う。ま あ 自 来 也 は ナ ル ト が そ こ ま で 出 来 る と は
思っていなかったが。
そうしてナルトに水面歩行の業をやらせつつ、本人は近くの水辺で
水着を着て遊んでいる女性を隠れて眺めていた。
傍から見ると完全に変態である。大蛇丸はお姉言葉で喋る人体実
験マニアで、綱手は賭け狂いの若作り婆。木ノ葉の三忍にまともな人
﹂
間はいないのかも知れない。
﹁エヘヘ⋮⋮ぐぼぉっ
﹁あなたは本当に、本当に⋮⋮﹂
間旅をした女性、アカネである。
そんな変態を横から蹴り飛ばす者がいた。それはこの変態と一年
!?
アカネは心底情けなさそうに溜め息を吐いていた。
そういった思いがアカネの中を巡っていた。
これが本当に自分達の三忍の名を継いだ二代目三忍の一人なのだ
ろうか
柱間やマダラが生きていたらそれはもう嘆くだろうと思いながら、
﹂
いややっぱり柱間辺りはガハハハと笑ってそうかと思いなおしてい
た。
﹂
﹁うおおお⋮⋮い、痛いのぅ、何するんじゃアカネ
﹁ああ
﹁いや、すいませんでした⋮⋮﹂
川の上でフラフラと水面歩行の業をしていたナルトは目の前で繰
﹁な、何なんだってばよ⋮⋮﹂
ていた自来也であった。
今のアカネに逆らえば殺される。それをこの一年間で良く理解し
手のひらを返した。
来也はアカネに怒りを向けるが、アカネのドスの効いた返しにすぐに
神聖な覗き⋮⋮ではなく取材を邪魔された挙句蹴り飛ばされた自
!
﹂
り広げられた喜劇に疑問を覚えつつ、チャクラを使い果たして川に沈
んだのであった。
◆
エロ仙人
﹁おお、目覚めたか﹂
﹁⋮⋮んあ
?
﹂
を使い切ったようだのォ。早速技を教える
あ れ、さ っ き 変 な 姉
⋮⋮ ん
エロ仙人を蹴っ飛ばしたやつ﹂
!
﹁ああ、うむ。アカネならそこじゃ⋮⋮﹂
だがすぐに気絶前に見た光景を思い出し、その疑問を口にした。
の伝授に素直に喜びを顕わにする。
チャクラを使い切った事での気絶から目覚めたナルトは新たな技
ちゃんがいなかったか
待 っ て ま し た ぁ ー ー
!
?
﹁お お
?
﹁エロ仙人ではないっちゅうに。まあ良い。ようやく殆どのチャクラ
?
178
?
?
!
﹁あん
﹂
自来也の言葉に自来也が指の指す方向をナルトが見ると、そこには
﹂
息も絶え絶えになって大地にへばっている女性の姿があった。
﹁⋮⋮どうしたんだってばよ
等と考えた自来也であるが、すぐに
頑張れよー
だし、大変なんだな。おーい
﹂
く、くっくっく⋮⋮
﹂
!
﹂
!
始まったのだが⋮⋮。
才能ナシ
!
後ろ足生えてんじゃねーかよ
﹂
!
ないのだ。
﹁良く見ろってばよ
!
いや、進歩はしている。ナルトとていつまでも成長しないわけでは
ナルトの才能の無さは、自来也が匙を投げかける程であった。
﹁もーお前死ね
﹂
そうして自来也の指導によるナルトの口寄せ修行が始まった。
良く見とけ
﹁さあ、あやつに関しては後で教える。今は口寄せの術を教えるから
あった。
ルトの応援に手をヒラヒラとさせて応えるしか出来ないアカネで
だが限界までチャクラを振り絞ったせいで今はその元気もなく、ナ
決意されていたので意味のない堪えであったが。
もちろんその笑いはアカネの耳に届いており、あとでぶっ飛ばすと
構図を思い浮かべた自来也は笑いを堪えるのに必死であった。
下忍のナルトに心配されて応援される修行中の日向ヒヨリという
﹁ぷっ
!
﹁ふーん。あの姉ちゃんも修行中なんだな。上手く行ってないみたい
調子に戻ったら殺されるからだ。
やるならここでアカネを殺す覚悟をしないと確実にアカネが元の
その考えを却下した。
今ならセクハラし放題では
カネを見るのは初めてだのォ﹂
のだが⋮⋮上手く行かんでチャクラ切れを起こしたのだ。あんなア
﹁うむ、これからお前に教える口寄せの術の練習をあやつもしていた
?
?
!
!
179
?
!
そう
ナルトの口寄せした蛙には後ろ足が生えているのだ
﹂
アカネだってオレと変わんないってばよ
トが落ちこぼれと言われる原因であろう。
﹁大体
﹁うっ
﹂
だろうが、幼い内は特に負担が掛かり術などが苦手となるのだ。ナル
成長すれば徐々にナルトの体と九尾が慣れて行く事で緩和される
て経絡系からチャクラを練るのが苦手なのだ。
尾という強大なチャクラの塊が体の中にいる為に、九尾が阻害となっ
しかしこれはナルトの才能がない事が原因ではない。ナルトは九
だがまあ普通の忍からすれば微々たる成長なのだが。
う。
が、今は後ろ足が生えているのだ。徐々に蛙に近づいていると言えよ
確かに成長はしている。最初は見たまんまおたまじゃくしだった
しか口寄せ出来ていないのだ。
ナルトは口寄せの修行を始めてから十五日間の間、おたまじゃくし
蛙ではなく、おたまじゃくしであった⋮⋮。
⋮⋮語弊があったかもしれない。正確にはナルトが口寄せしたのは
!
ですよ
﹂
﹁な、ナルト。私は口寄せが苦手なだけで、他の術はそこそこ使えるん
だ。
カツユが何か喋っている時も、小さすぎてその声が聞き取れない程
来ないほどに小さなナメクジを口寄せする始末。
だがまあ結果はお察しである。もうカツユと判別をつける事も出
た。
のではなく、普通のチャクラで普通にカツユを口寄せしようとしてい
もちろん修行なだけに馬鹿でかいチャクラで無理矢理口寄せする
だ。
そう、アカネもナルトと同じくここで口寄せの修行をしているの
突如として話を振られたアカネは図星を指されて呻いていた。
!
正真正銘真実だが、結局は口寄せが出来ない事に変わりはなかった
りする。
180
!
!! !
?
﹁ふーん。どんな術
挟んできた。
﹂
アカネも日向の柔拳ってやつを使えんのか
!?
い。若者の可能性は無限なのである。
オレと組手してくれよ
﹁じゃあさじゃあさ
サスケばりのいけすかねー奴でさ
﹂
あの野郎
絶対勝ってやるんだ
!
!
﹁お、おう⋮⋮﹂
ですから必ずネジに打ち勝ちなさい
﹂
﹁いいでしょう。ネジに負けないくらいに叩きこんであげましょう
!
そいつも柔拳使うって話なんだ
!
﹂
それによりナルトはようやく口寄せの術を成功させる事が出来た。
い詰め、無理矢理九尾のチャクラを引き出させる事に成功する。
後に自来也がナルトをわざと窮地に落とし入れる事でナルトを追
自来也に突っ込まれて二人は口寄せの修行を再開した。
﹃あ、はい⋮⋮﹄
ないんかのォ
﹁まあ組手はいいがの。お前ら口寄せの修行を完了させるのが先じゃ
いだろうと思っていたりする。
いや、本当はもう怒ってはいないのだが、ナルトがネジに勝つと面白
ア カ ネ と し て は ヒ ナ タ を 傷 付 け た ネ ジ を ま だ 許 し て い な か っ た。
しまっていた。
が、ナルトが思っていた以上にアカネが乗り気で逆にナルトが引いて
そのネジが使う柔拳と同じ物を使えるアカネに組手を頼んだのだ
を良く思ってはおらず、絶対に負けてやるものかと意気込んでいた。
ナルト視点ではかっこつけて話たり上から目線で話してくるネジ
!
!
!
ジっていう奴でさ
次の対戦相手はネ
使うのが苦手な歳なのだ。きっと成長すれば賢くなる⋮⋮と思いた
ナルトはそこまで頭に入ってはいなかったようだ。まだまだ頭を
紹介したでしょうに﹂
﹁それはまあ。私も日向の一族ですし。て言うか日向アカネって自己
﹁え
﹂
アカネが幾つか会得した術を口にしていると、途中でナルトが口を
﹁えーと。日向の柔拳でしょ、螺旋丸系統でしょ、それからせ││﹂
?
!
?
181
!
なおアカネについては言うまでもない。
ちなみにナルトのチャクラが二重になって観える現象に関しては
何も掴めなかったりする。
182
NARUTO 第九話
﹁なぜ私は口寄せが、時空間忍術が出来ないのか⋮⋮﹂
アカネは修行を終えてすぐにそう述べた。
あの後、ナルトは口寄せの術に成功してからチャクラの使いすぎで
気絶し病院に入院した。だがすぐに退院し、約束していた通りアカネ
と二人で柔拳に対抗する修行を積んでいた。
そしてアカネはナルトに一通りの修行をつけた後、こっそりと未だ
諦めきれていない口寄せの修行を一人でしていた。もちろん結界を
張って周囲にばれない様にしてだ。
だがまあ何十年も上手く行ってない物がいきなり出来るわけもな
く、結局いつもの様にミクロなカツユを口寄せするだけに終わってい
た。
さて、修行を終えて家に戻り一休みしたアカネは今日が中忍試験の
本戦だと思いだし、試験会場に向けて白眼を発動した。これでここか
らでも試合を見る事が可能である。白眼様々であった。
ある程度の試合を見てアカネは満足そうに頷いた。下忍故にまだ
まだ未熟だが、注目すべき戦いは幾つかあった。まずはナルトとネジ
の試合だろう。
二人の勝負はやはりというべきかネジが優位に立って進めていた
が、土壇場になってナルトが爆発的な底力を発揮して最後にはネジを
叩き伏せていた。
これにはアカネも驚いていた。ナルトを鍛えたアカネだったが、そ
れでもナルトの勝率は一割にも満たないと思っていたからだ。
九尾の人柱力だからという理由ではなく、ナルトの諦めない根性と
気合が生んだ勝利だろう。これはアカネも素直に称賛していた。
もう一つ、木ノ葉の奈良一族の少年と砂隠れのくノ一との試合もか
なり見応えがあった。
純粋な戦闘力では砂隠れのくノ一が圧倒していただろう。風遁を
利用したり奈良一族の影縛りの術││若い忍は影真似の術と呼ぶ│
│の効果や範囲を見切り戦術を組み立てていた。戦闘力だけでなく
183
頭も切れるようだ。
だが奈良一族の少年の頭脳はその更に上にあった。力量の低さを
手持ちの武器と頭脳を駆使して覆したのだ。この試合に期待してい
なかった多くの観客も引き込まれる程見事な戦法と言えた。
最後には自身のチャクラ切れを見越してさっさとギブアップをし
てしまったが、頭脳に見合う実力とチャクラを手に入れたらと思うと
将来が楽しみな逸材である。恐らく今回中忍試験を受けたどの下忍
よりも隊長に向いているだろう。
そして第三試験一回戦最後の試合。これが始まりの合図となった。
そう、大蛇丸による木ノ葉崩しの始まりである。
その試合はうちは一族の期待の少年うちはサスケと砂隠れの我愛
羅という忍の闘いであった。
︶
そしてアカネは我愛羅を見た瞬間にある事実に気付いた。
︵砂隠れの人柱力か
アカネは我愛羅の中に我愛羅以外のチャクラを感じ取り、そしてそ
の正体に気付いたのだ。この禍々しくも強大なチャクラ。完全に尾
獣のそれであった。
我愛羅の中には一尾という尾獣の一体が封印されたいた。一尾は
昔から砂隠れが所有していた尾獣だ。砂隠れの忍である我愛羅が一
尾の人柱力なのもおかしな話ではない。
そして人柱力が中忍試験を受ける事も珍しくはあれどあり得ない
話ではない。実際ナルトも同じ様に試験を受けている。
だが人柱力には常に暴走の危険性が伴っている。尾獣と完全に共
同しあえる人柱力など忍の歴史でも稀なのだ。
この試験で暴走の可能性も有り得る。そう判断したアカネは取り
敢えずどうなっても対処しやすい様に試験会場へと移動を始めた。
移動しながらアカネは白眼の焦点を試験会場から全体へと拡げる。
大蛇丸が暗躍している可能生と、砂隠れの人柱力、そしてピリピリ
と気を張り緊張していた砂隠れの忍。これらがどうにも気になった
のだ。
そしてアカネは見た。火影である猿飛ヒルゼンの隣で中忍試験を
184
!
観戦している砂隠れの風影。その中身が大蛇丸であるという事実を。
更に里の外壁近くに砂隠れの忍が百人程木々に隠れて待機してい
まさか仲良く遊びに来たというわけがないだろう。それを証
るのを発見。この次期にこんな場所にこんな人数が集まって何をす
る
明するかのように、試験会場にて事態は動き始めた。
いざな
試験会場では幻術が発動し多くの観客や木ノ葉の忍││主に下忍
だが││を巻き込んで深い眠りへと誘 っていた。
その瞬間を狙って風影に扮していた大蛇丸は三代目火影を連れて
会場の屋根へと移動する。そして潜ませていた部下に強力な結界を
砂と大蛇丸が手を組んでいたか。大蛇丸の狙いはヒルゼン
張らせて周囲と孤立させた。
﹁ちっ
ろう。
彼らを放置していたら忍術合戦に巻き込まれ被害は拡大する一方だ
うよりはまず木ノ葉の忍を攻撃するだろうが、身を守る術を持たない
木ノ葉には忍だけでなく一般人も多い。砂と音の忍も一般人を狙
いた。
いる。しかも敵の中には大蛇丸が口寄せした家よりも大きな大蛇も
きた砂隠れと音隠れの忍に混乱した木ノ葉の民の多くは逃げ惑って
だが危機に陥っているのは火影だけではない。突如として襲って
闘い倒す事が出来るのか。そう考えると流石にアカネも不安が勝る。
そんな状態で五影と同等の実力と言われる三忍の大蛇丸を相手に
スタミナも衰えチャクラも全盛期の半分にも満たないだろう。
だがそれも全盛期の話だ。今のヒルゼンは齢七十が近い老齢の身。
い。
扱え、その術の使用法もまた効率的だ。 教 授との異名は伊達ではな
プロフェッサー
そして五大性質変化である火遁・水遁・雷遁・土遁・風遁の全てを
解している。
しているとも言われており、実際に全てではないがほぼ全ての術を理
アカネはヒルゼンの強さを知っている。木ノ葉の全ての術を網羅
の様だが⋮⋮﹂
!
かと言って火影を見捨てる訳にもいかない。火影とは里の中心的
185
?
存在だ。それが万が一にも死んでしまえば里の損失は非常に大きい。
周囲の忍を片付けるか、それとも火影であるヒルゼンに加勢する
﹂
か。結論はどっちも同時にやればいいというものだった。
﹁影分身
影分身の術。これは実体のない通常の分身とは違い、術者と同じ肉
体を持つ分身を生み出す高等忍術だ。更に無数の影分身を生み出す
多重影分身という禁術に指定された危険な術もあるが、今回は三体の
分身を生み出すだけに留めた。
無数の影分身を生み出すとチャクラを均等に分散する為に一体辺
りのチャクラ量は少なくなってしまう。それでは強大な敵が現れた
時に本体ならいざ知らず分身では対処出来ない可能性もある。
あとはアカネの実力なら三体の分身で十分だというのもある。敵
が弱ければ一掃し、強ければ三体という少ない人数だからこそのチャ
﹂
クラ量で対応する事も可能だろう。
﹁もいっちょ影分身
砂の我愛羅との戦闘中にそれは起こった。
中忍試験第三の試験本戦。その中の一戦、木ノ葉のうちはサスケと
◆
じてアカネは駆け出した。
築き上げた何者にも負けない大木なのだと。その大木の若葉達を信
て託した。木ノ葉はこの程度で揺らぐほど貧弱な木ではない。友と
それでも守りきれない部分はあるだろうが、それは自里の忍を信じ
れそれぞれの役目を果たす為に活動を開始した。
アカネ本体はヒルゼンのいる試験会場を目指し、影分身は四方に別
は倒すようにする。
らうつもりだった。その上でこの弱体化影分身で対応出来そうな忍
り出す。この弱体化影分身には木ノ葉の住民を助ける為に動いても
その上で殆どチャクラを籠めずに弱体化した影分身を百体ほど作
!
火影と共に観戦していた風影││砂隠れの長││が、突如として会
186
!
場内を覆った幻術の発動を合図として火影を連れて会場の屋根へと
移動したのだ。
そして音隠れの忍を使って自分と火影を中心に四方へと結界を張
らせる。四紫炎陣と言われるその結界は触れただけで対象を燃やし、
その強度も並大抵ではない強さを誇っている。
これだけだと砂が木ノ葉を裏切り戦争を仕掛けた様に見えるだろ
う。事実多くの砂の忍がこの戦争に加担している。
それは風の国が行った軍縮によって砂隠れの里の戦力維持が難し
くなった事が起因している。軍縮による戦力低下に危機感を感じた
風影は音隠れと組んで木ノ葉を襲ったのだ。
全ては里の為。風の国の大名に国の危機管理の甘さを教え、里の回
復の為に木ノ葉を襲ったのだ。これ以上時が経てば木ノ葉を襲う戦
力を完全に失う為、今この時を最後の機会として。
だが全ては大蛇丸の、ひいては暁の手の内だった。
里に木ノ葉を襲う様に命令した風影は⋮⋮既に殺されており、その
姿は大蛇丸の物とされていたのだ。そう、三代目を襲った風影は大蛇
丸が化けていた物だったのだ。
大蛇丸の狙いは初めから三代目火影の命。それは禁術を開発して
いた所を見つけられ、木ノ葉から追い出された恨み⋮⋮だけではな
かった。
真の理由は二つ。一つは止まっている物を見るのが退屈という極
個人的にして手前勝手な物。
そしてもう一つは自らの組織からの命令である木ノ葉の戦力低下
であった。火影を殺す事は間違いなく里の戦力低下を招くだろう。
もちろんそれを黙って見過ごす木ノ葉ではない。暗部と呼ばれる
木ノ葉の部隊が三代目に加勢しようとする。
だが四紫炎陣に阻まれて加勢は叶わなかった。外から四紫炎陣を
破るのは優秀な忍である暗部でも簡単ではなかったのだ。
内側で結界を張っている4人の音忍を倒せばいいのだが、それも音
忍が内側から更に結界を張る事で自分達の身を守っていた。
暗 部 達 は 三 代 目 火 影 を 案 じ な が ら も 見 守 る し か 出 来 な い で い た
187
⋮⋮。
三代目と大蛇丸が対峙し、二人が放つプレッシャーは高まり続けて
行く。
やがてプレッシャーは物理的な力すら持つようになり、二人の中心
にある屋根の一部はひび割れる程に高まった。そしてそれが戦闘開
始の合図となった。
││
三代目は手裏剣を一つだけ投擲し、印を結んでその手裏剣に対して
術を掛ける。
││手裏剣影分身の術
それは影分身と呼ばれる従来の分身の術ではなく実体を持った分
身を生み出す高等忍術と手裏剣術を組み合わせた術。
投擲された手裏剣は無数の実体を持つ手裏剣を生み出し、大蛇丸を
襲う。
││口寄せ・穢土転生
それを大蛇丸は口寄せの術の一種で防いだ。
それはかつて二代目火影が考案した禁術中の禁術。死者を浄土か
ら穢土に口寄せして自由に使役するという、まさに死者を冒涜する術
であった。
二代目は敵であるならば死者であろうと利用する程に現実主義者
であり、その有用性からこの術を考案したのだが、あまりに非道な術
ゆえに禁術として封じられていた。
いた。
ふたつ
﹂
一つ目の棺には︻初︼、二つ目の棺には︻二︼。これを見て三代目は
口寄せされた死人の正体を理解し、三つ目の口寄せだけは口寄せ解除
の印を組む事で防いだ。
⋮⋮ふふふ。三人目は防いだ様ですが、この方は防げな
だからこそ、四つ目の口寄せを防ぐ事が出来なかった。
﹁よっつ
188
!
!!
それを大蛇丸が解き明かして己の術としたのだ。
﹁ひとつ
!
そして口寄せされた死人が収められている棺には文字が書かれて
!
!
まさか
かった様ですねぇ﹂
﹁四人目
﹁忍法・口寄せ
﹂
屋台崩しの術
﹂
﹂
たが、その巨大蛇を圧倒する巨大蛙が突如として現れた。
あまりの巨大ゆえに討伐に駆けつけた忍も手が付けられないでい
寄せされて暴れていた。
場所は変わって木ノ葉の東口門。ここには巨大な蛇が複数体も口
◆
になる。
そして三代目はかつて木ノ葉にあった懐かしい面々と再会する事
外す事の出来ない、火影と同等の位置にいた人物を。
だが三代目はすぐに最後の一人に思い至った。木ノ葉を語る上で
なっている。ならば口寄せされるのは三人のはずだ。
火影は現在までで四代目まで存在しており、三代目を除き全員亡く
それならば四人目はいないはずだ。
そしてその危惧の通り、口寄せされたのは死した火影である。だが
の火影を口寄せされる事。
三代目が危惧していたのは自分を除く初代から四代目までの三人
﹁さあ、懐かしい顔とご対面ですよ猿飛先生ぃ⋮⋮
!
!!
有難や
天外魔境暴れ舞い
﹂
その小せー目ェ根限り開けて良ーく拝んどけ 異仙忍者自来也の
!
!
﹁⋮⋮あれ
﹂
逝き絶えていた。
だが見栄を切った対象である残りの巨大蛇はその見栄を見る前に
を切る。
木ノ葉の忍に囲まれ注目を浴びている自来也は調子に乗って見栄
!
﹁ヒヨっ子ども
そしてその巨大蛙の上には三忍である自来也が立っていた。
空から降り立った巨大蛙はそのまま巨大蛇を踏み潰してしまう。
!
!!
﹁お疲れ様です自来也様﹂
?
189
!
!?
!
﹁流石は三忍の一人⋮⋮噂以上の実力ですね﹂
残った二匹の巨大蛇を倒したのは二人の忍。うちはシスイとうち
はイタチであった。
二人は巨大蛇の出現を聞き、まずは並の忍では止められないだろう
それを防ぐ為に駆けつけたのだ。
だがまあ自来也がいれば来る必要もなかったかと思っている所だ
が。
﹂
﹁シ ス イ に イ タ チ か ⋮⋮ お 前 ら 揃 い も 揃 っ て 人 の 見 栄 張 り を 邪 魔 し
おってからに
﹂
﹁ははは⋮⋮申し訳ありません。ですが、非常事態ですので⋮⋮﹂
﹁まあ良い。三代目は
﹂
というものだの﹂
﹁すでに三代目にはとびっきりの加勢が行った。これ以上は過剰戦力
た。
だが、自来也も何の意味も無くそんな言葉を吐いた訳ではなかっ
三代目を守る必要がないと言いのける自来也にシスイは憤慨する。
﹁自来也様何を
﹁まあ待て。三代目の加勢は必要ないのォ﹂
だが、すぐにでも三代目を助けに行きたい二人を自来也は止めた。
力の持ち主である。
であり、また加勢に加わったところで三代目の邪魔になる事も無い実
あの結界も強固であるが、シスイとイタチならば破壊する事も可能
代目の加勢に行けるというものだ。
に三忍である自来也が加勢してくれたとあらば後顧の憂いもなく三
自分よりも里を大事にしている三代目らしい命令である。だが、里
シスイと左腕のヒザシの加勢を断り、里の防衛を課したのだ。
シスイは火影の右腕としてその護衛も兼ねている。だが三代目は
也様がいらっしゃるならば今からでも三代目の加勢に││﹂
﹁我々は加勢よりも里をと三代目に命じられたのです。ですが、自来
﹁試験会場で大蛇丸と⋮⋮﹂
?
自来也の感知に高速で試験会場に近づいて来る良く知ったチャク
190
!
!?
ラの持ち主が引っかかっていた。
あれが加勢する限り、三代目が死ぬ事はまずない。その確信が自来
也にはあった。
﹁それよりも、里を守る方が先決だの。上を見ろ﹂
自来也の言葉を聞く前から、シスイとイタチもそれに気付いて既に
上を見ていた。
そ こ に は 上 空 を 飛 ぶ 巨 大 な 鳥 の 様 な 物 に 乗 っ た 一 人 の 忍 の 姿 が
あった。
その忍は雲の模様が入った黒色の衣を付けていた。そしてそれに
自来也は見覚えがあった。
﹁暁か⋮⋮どうやら大蛇丸と一緒に里を攻めてきた様だの。一筋縄で
﹄
は行かん相手だ。気を引き締めろよ﹂
﹃はっ
三人は警戒しながら空を飛ぶ暁の一人を見る。
爆弾か
﹂
!
空を飛んでいる故に中々手出しは出来ず、遠距離の忍術で牽制する
高密度のチャクラが籠められている
かと考えていると、空を飛ぶ暁は空から何かを落とした。
﹁あれは⋮⋮
!
アマテラス
瞳力が宿っている。
ス
ことあまつかみ
サ
ノ
オ
は月読、右目には天 照という瞳力が、シスイの両目には別 天 神という
つくよみ
その力は万華鏡の名の通り個人によって変わる。イタチの左目に
事が出来る写輪眼を超えた写輪眼である。
万華鏡写輪眼とは写輪眼開眼者がある条件を満たす事で開眼する
る。
イタチとシスイはすぐに爆弾に対処すべく万華鏡写輪眼を発動す
応の威力を持った爆弾という事が予測された。
あれだけ上空にいるのも爆発の範囲から逃れる為。つまりそれ相
して上空から落とした事で爆弾だろうと予測したのだ。
そこまではイタチも知らないが、チャクラを大量に含んでおり、そ
クラを混ぜて起爆させる起爆粘土と呼ばれる動く爆弾だ。
イタチが写輪眼にて投下された物体を見切る。それは粘土にチャ
!?
そ し て 両 目 の 瞳 力 を 宿 し た 者 に の み 使 用 可 能 な 須佐能乎。こ の 須
191
!
佐能乎こそが二人が使用しようとしている術である。
須佐能乎はチャクラで構成された巨人を作り出し、術者を守る絶対
防御の鎧と化す術だ。
そしてそれは同時に強力な攻撃手段にもなる。あのうちはマダラ
もこの瞳術の使い手であり、その威力は山を斬り大地を裂き地形を大
きく変えた程だ。
だが今二人が求めているのは防御としての須佐能乎だ。これで空
から落ちてくる爆弾と思わしき物体から里を守るつもりなのだ。
﹂
﹁イタチ。お前は須佐能乎を使うな。お前の体の事を知らないと思っ
ているのか
ここで死ぬのは先のないオレだけで十分だ﹂
﹂
﹂
そして自来也は頭を抱えていた。
イタチも、その少女を知っているシスイも、その少女の行動に驚く。
チャクラで覆っている。それで爆発を防ぐつもりだろうか。
先に、一人の少女が爆弾を掴んでいた。両手で収まり切らない爆弾を
爆弾が里に落ちるよりも、爆弾を防ぐ為にイタチが飛び立つよりも
﹁あれは
﹁なっ
だが││
シスイを置いて爆弾へと飛び立とうとする。
里の為に生かすべきは先のあるシスイ。そう考えているイタチは
事はどんな時でもある物だ。
爆弾の威力が須佐能乎で防げる程度ならば良いが、予想以上という
事に繋がるのだ。
弟の事は気がかりだが、それでも弟が生きる里を守る事は弟を守る
の為に散っても良いと思っていた。
それを知りつつ、いや知っているからこそ、イタチはここで木ノ葉
と命を失くすだろう死病だ。
イタチは死の病に侵されていた。今はまだ良いが、もう数年もする
だろう
﹁⋮⋮シスイ。オレの事は気にするな。お前こそ、良い人が出来たん
?
﹁流石にそれは無茶なのでは││﹂
192
?
!?
!?
途端に爆音が辺りに響いた。その爆音は爆弾の威力の程を理解さ
せるに十分なほどであった。だが、木ノ葉の里には一切の被害はな
かった。
あの少女が身を挺して守ったのかと、その自己犠牲を嘆きながらも
イタチが空を見ると、そこには爆発の影響で吹き飛ばされているが五
体満足な少女の姿があった。
しかも空中で姿勢を制御し、その上でチャクラを放出する事で軌道
まで修正して元の位置へと戻っていく。
﹂
﹁な、なんとまあ。死なんとは思っとったがダメージ無しとはの。あ
やつ、本当に人間か
自来也は少女の、アカネの頑丈さにほとほと呆れていた。流石にダ
メージくらい負うかと思っていたが、あの爆発を間近で受けても無事
の様だ。
ちなみに流石のアカネもあの爆発を直接喰らえばダメージも負う
し、死ぬ可能性もある。あれはチャクラで爆弾を覆い、一箇所だけ穴
を開けてそこから爆発を逃がしていたのだ。
それにより威力を最小限にしていたのだ。その結果が無傷な姿な
のだが、空を飛ぶ暁の一員もこの結果に大きく動揺したようだ。
アカネはチラリと自来也を見て、すぐに上空の暁を無視して試験会
場へと駆けて行く。どうやら自来也達に上空の敵を任せたみたいだ。
││
そして自来也達も暁の動揺を見逃す程お人好しではなかった。
││
││火遁・大炎弾
││
││風遁・大突破
││火遁・龍炎放歌の術
目に映った。そしてそれはそのまま木ノ葉から飛び立っていった。
覆う大火炎の中を大きな鳥の様なモノが突き破っていくのが三人の
損なってしまう。だが、完全に喰らったわけではないようで、上空を
渾身の爆弾を防がれた暁の一員はそれに気付くのが遅れて回避し
暁へと迫って行った。
る。強力な火遁は風遁を受ける事で更に強大となり、そのまま上空の
自来也とイタチが火遁を、シスイが風遁を放ち上空の暁に攻撃をす
!
!
193
?
!
﹁⋮⋮逃げおったか﹂
﹁その様です。分身などではありません﹂
写輪眼は忍術や幻術を見抜く力を持っている。そのため先程逃げ
たのは分身などの囮ではないと見抜いたのだ。
﹁しかし、アカネちゃんは一体⋮⋮﹂
﹁おお、シスイはアカネを知っておるのか﹂
﹁ええ、日向の敷地で何度か。⋮⋮ですが、あそこまでの実力を持って
いるとは⋮⋮﹂
﹂
﹁まあ今はそれどころではあるまい。気になるだろうが、一先ずは里
の防衛に専念せよ﹂
﹁そうですね⋮⋮。イタチ、大丈夫か
﹁問題ない。それでは自来也様。私達はこれにて⋮⋮﹂
二人は里の防衛の為に各地に散っていった。
││三代目を頼むぞ、アカネ││
そしてアカネに想いを託し、自来也もまた別の場所を襲う砂の忍を
倒す為に移動するのであった。
移動の先々で無数のアカネ︵影分身︶を目撃したのは言うまでもな
い。
◆
試験会場では試験を観戦していた木ノ葉の上忍が攻めて来た砂の
忍に対応していた。
突如として同盟国が敵国へと変わり、火影も連れ去られ敵に襲われ
﹂
ているという危機的現状だが、上忍達は三代目火影を信じてまずは襲
い来る砂の忍に対処するよう冷静に行動する。
﹁三代目が心配だ。一気に奴らを叩くぞカカシ
﹁落ち着けよオビト。上は暗部に任せろ。火影様はそうやすやすとや
うだ。
に不覚を取る事無く次々と倒している。その腕は上忍に相応しいよ
⋮⋮若干一名は冷静さを欠いているようだ。だが襲い来る砂の忍
!
194
?
られるような人じゃない﹂
﹂
﹁お前には老人を労わる心がないのかこの人非人
﹂
﹁お前は相変わらず暑苦しいんだよ
﹂
火遁使ってるんじゃねーのか
﹁お 前 ら ぁ 相 変 わ ら ず 仲 が い い な ぁ 羨 ま し い ぞ コ ン チ ク シ ョ ー
た。
のライバルを自称する体術の達人マイト・ガイも嫉妬する程であっ
おかげでそのコンビネーションも群を抜いていた。同じくカカシ
える関係だ。
とにかく、両者とも同じ瞳を持ち、長年の友にしてライバルとも言
ていたりする。
老人愛護が強いオビトだったが、そのせいで余計に老人愛護が高まっ
が後者を選ぶだろう。事実オビトもヒヨリには感謝していた。元々
まあすぐに死ぬか、寿命が縮んでも生き延びるかならば大半の人間
る事は寿命を縮める結果に繋がるのだ。
る術だ。だが人の一生の細胞分裂回数は決まっている為、それを速め
再生忍術は対象の細胞分裂の回数を急激に速めて細胞を再構築す
命が縮まってしまったが。
火影すら癒した再生忍術にて命を長らえたのだ。そのせいで多少寿
右半身が岩に潰されるという重傷を負っていたが、ヒヨリの二代目
は日向ヒヨリに助けられる事で九死に一生を得たのだ。
その時は死を覚悟したが故の写輪眼のプレゼントだったが、オビト
つての戦争でいざこざがあり左目の写輪眼をカカシに譲った結果だ。
オビトは右目にだ。これは両方とも元々オビトの写輪眼なのだが、か
両者は対称的に片目のみに写輪眼を持っていた。カカシは左目に、
うちはオビトである。
この二人こそ木ノ葉一のコンビネーションを誇るはたけカカシと
攻撃を繰り出し、見事なコンビネーションで砂忍を仕留めて行く。
軽口を言い合いつつも二人の動きは止まっていない。矢継ぎ早に
﹂
﹁お前ね⋮⋮三代目を老人扱いするのはどうなの
!
!
195
?
!
!
!?
ガイは木ノ葉でも、いや世界で見ても右に出る者が少ない体術を披
露して次々と砂忍を倒し、オビトも写輪眼を駆使して敵の動きを読み
ながらカウンターを決めていく。
この二人も意外と仲が良かったりする。と言うか、かつて中忍試験
でガイにボコボコに負けた経験のあるオビトはガイもライバル視し
ているのだ。
青春と熱血が大好きなガイもそんなオビトを気に入っており、いつ
でもどこでも挑戦を受けて立っている。そんな関係を続けている内
に仲も良くなっていったのだ。
そんで怪我したらリンに
そんな暑苦しい両者を見て呆れるのがカカシであり、そんな三人の
関係は木ノ葉では有名であった。
﹂
﹁さっさと倒して三代目を助けに行くぞ
治してもらう
おま
﹂
それは言わない約束でしょーが
﹂
!
んでるの知ってるんだぞオレはァ
﹁ちょ
﹁そんな約束した覚えねーよ
﹂
﹁うるせー お前が影で隠れてこっそりとイチャイチャシリーズ読
なのである。⋮⋮多分。
オビトの未来はまだ閉ざされてはいないのだ。人の可能性は無限
際リンもオビトに対して想う所が無い訳ではなかった。
は今の所ない。今の所というのも、人の心は移ろうものだからだ。実
だが、彼女は実はカカシが好きであり、オビトの想いが報われる事
まで言われている。
術の使い手であり、その実力は医療忍者の最先端を行く綱手に次ぐと
リンとはオビトの台詞から分かる通りオビトの想い人だ。医療忍
﹁お前欲望に忠実だね。ほんとそこ等辺は尊敬するよ﹂
!
だがその動揺を怒りに変え、怒りを力に変え、それを全て砂忍にぶ
!
つける事にした。
﹂
風遁覚
!
一気にやるなら合わせろよオビト
﹁ええい
!
お前が風遁を使えりゃオレが火遁するのによ
﹁あれか
!
196
!
!
!!
!
秘密にしていた趣味を知られていたカカシは思い切り動揺する。
!
!
えろよカカシ
﹂
﹁四つの性質変化覚えてれば十分でしょ
﹂
﹁おう
││
行くぞ
﹂
!
﹂
!
﹂
オレも負けてられん
﹂
これが未来の火影の力だぜ
﹁やるじゃないかお前達
﹁どうよ見たか
﹁オレ達の力だろ。さあ、次の││なんだ
!
﹁あれは
﹂
﹁木ノ葉の下忍か
だがそれにしては
﹂
!
!?
かった。
﹁あれは⋮⋮ヒヨリ様だ⋮⋮
﹂
あ の チ ャ ク ラ は ヒ ヨ リ 様 の チ ャ ク ラ だ
!
更に右目の写輪眼でもヒヨリのチャクラを確認している。白眼程
身で感じ取っていた。
オビトはかつてヒヨリに助けられた時にヒヨリのチャクラをその
!
﹁なに
﹁オ レ が 間 違 え る も の か
﹂
﹂
ガ イ の そ の 考 え は 次 の オ ビ ト の 言 葉 に よ っ て 口 か ら 出 る 事 は な
それにしては強すぎるチャクラを纏っている。
!
場所は、三代目火影と大蛇丸が戦っている屋根の上だ。
その少女は会場内に着地し、すぐにその場を飛び立った。目指した
る内に高速でこちらに迫って来る少女をカカシは見た。
空に巨大な爆発が広がっていく光景が見え、そしてそれに驚いてい
出来事に圧倒されてその先を言う事が出来なかった。
次の敵を倒すぞ。そう言おうとしたカカシは、視界の中で起こった
!?
!
!
忍術によって会場内の砂忍はほぼ全てが無力化される事となった。
触れただけで感電し、その上高圧水流に押し潰されるという強力な
オビトの操作により自在に動き、会場内の砂忍を次々と襲っていく。
これが二人の合体忍術・雷水龍弾の術である。雷を帯びた水の龍は
オビトが放った水龍弾にカカシが雷遁のチャクラを混ぜ込む。
!
!
││水遁・水龍弾の術
﹂
﹁雷遁
!
!?
197
!
!
!
ではないが高い洞察力を持つ写輪眼によってオビトはヒヨリのチャ
クラを良く覚えていた。
そのチャクラと先の少女のチャクラが完全に同質だったのだ。ヒ
ヨリと同じく白眼を発動している少女を、オビトはヒヨリとしか見る
事が出来なかった。
そしてオビトの言葉にカカシ達が驚く暇もなく、少女は三代目と大
蛇丸を取り囲む結界を突き破って中に侵入していった。
198
NARUTO 第十話
三代目の目の前には懐かしい顔ぶれが揃っていた。
︻初︼と書かれた棺からは初代火影・千手柱間が、︻二︼と書かれた
棺からは二代目火影・千手扉間が、そして最後の︻日︼と書かれた棺
﹂
まさか
あの方々は⋮⋮
﹂
からは⋮⋮日向ヒヨリがそれぞれ姿を現していた。
﹁ま⋮⋮
﹁あの方々⋮⋮
!?
会いしようとは⋮⋮ん
﹂
﹁まさかこのようなことで御兄弟お二人と、そしてヒヨリ様に再びお
覚と言った所だろうか。
どないからだ。言うなれば未来にタイムスリップして来たような感
二人に死亡した時から今日までの記憶は当然ない。死者に記憶な
憶よりも歳を取った猿飛ヒルゼンだと気付く。
二代目が三代目に気付き、そして初代も目の前の老忍がかつての記
﹁ほぉ⋮⋮お前か。歳を取ったな猿飛﹂
﹁久しぶりよのォサル⋮⋮﹂
く若い暗部なのだろう。
もう一人はどうやら先代火影とヒヨリの姿を知らない様だ。恐ら
いた。
結界の外でそれを見た暗部の一人は口寄せされた者の正体に気付
!
﹁これは⋮⋮
﹂
術の失敗はなかったはず。死者である日向ヒヨリは確実に浄土か
ろん、術者である大蛇丸でさえ理解出来なかった。
何故ヒヨリの穢土転生だけ崩れ落ちたのか。それは三代目はもち
﹁どういう事なの⋮⋮
﹂
ちていき、最後に穢土転生に必要な生贄が中から倒れ出てきたのだ。
ヒヨリの姿を模っていた塵 芥は形成された瞬間からすぐに崩れ落
ちりあくた
の様子が可笑しい事に気付く。
思っていた三代目だったが、穢土転生の最後の一人である日向ヒヨリ
衝撃的な再会に驚きその再会がこの様な形で成された事を残念に
?
!?
!?
199
?
!
ら口寄せされたはずだ。だが、事実日向ヒヨリの穢土転生は失敗して
いる。
﹂
穢土転生に必要な死者の一部も、生贄も、術式も完璧だった。なの
そんな疑問が大蛇丸の中を巡る。
!
に何故
ヒヨリの奴め、まだ生きているのか
?
ヒヨリがそう容易く死ぬはずはあるまい そう言
﹁穢土転生が失敗した
﹁ガハハハハ
寄りになっているのだろう
見てみたいものぞ
﹂
!
﹂
!
そして大蛇丸が札を埋め込もうとした瞬間││結界の中に新たな
のだ。
それを防ぐ為に敵を殺す為のマシーンに切り替えようとしている
性がある。
制御に力を割く為に大蛇丸自身の三代目への対応が疎かになる可能
大蛇丸はこのままでも二人を操る事が出来るが、そうすると二人の
者の人格を殺し完全なる殺戮人形へと化す。
穢土転生による死者の頭の中に特別性の札を埋め込む事でその死
にして、師である三代目を殺すべきだと切り替えて行動に移る。
方のない事だ。今は穢土転生が成功した初代と二代目を完全な傀儡
大蛇丸も同じ疑問を抱いていたが、ここでこうして悩んでいても仕
うして穢土転生は失敗したのか。
確かに日向ヒヨリは亡くなっていたはずである。だというのにど
しい事だが、それに関しては疑問が残る物となっていた。
日向ヒヨリの穢土転生が失敗に終わった事は三代目に取って喜ば
を食い止めた時の傷が元で亡くなられたはず⋮⋮
﹁そんなはずは⋮⋮ヒヨリ様は確かに十五年前の戦争中に現れた三尾
だが三代目はそれはあり得ないと言う事を確信している。
だろう。穢土転生は死者を呼び出す術なのだから当然の話だ。
日向ヒヨリが生きている。それならば確かに穢土転生は失敗する
?
えば、猿飛がそれだけ歳を取っておるということはヒヨリも相当な年
!
﹄
乱入者が現れた。
﹃
200
?
?
三代目も大蛇丸も、結界を張っていた大蛇丸の部下も、結界の外を
!?
見守るしか出来なかった暗部も、新たに現れた存在に驚きを隠せな
かった。
三代目も大蛇丸も同時に
その乱入者は、暗部の侵入を拒んだ強力な結界を突き破り、三代目
と大蛇丸の間に着地した。新たな敵か
﹁日向
﹂
何故ここに
白眼の娘が何の用かしら
﹁お前は⋮⋮日向アカネか
﹂
えている三代目はすぐにアカネの名を思い出した。
木ノ葉にいる忍││アカデミーの候補生は除く││ならば全員覚
るという日向アカネ。
シの付き人として三人一組を組まずに一人で下忍として活動してい
スリーマンセル
その姿に見覚えがあったのだ。去年アカデミーを卒業し、日向ヒア
そう思い、そして三代目はそれが味方であると判断した。
?
!?
結界を突き破っての闖入には驚いたが、三代目を殺すついでに貰っ
易ではなかったのだ。
日向一族は白眼に対する警戒心が強いので大蛇丸でも奪う事は容
にも日向一族はいなかった。
世界各地から集めた珍しい能力を持っている大蛇丸の実験体の中
貰えるものなら貰っておこうかしら﹂
﹁白眼は持ってなかったわねぇ。写輪眼と比べると見劣りするけど、
に興味を示していた。
きたアカネを心配するが、大蛇丸はわざわざやって来た実験サンプル
三代目はこれから起こるだろう血みどろの殺し合いの中に入って
取り戻した。
乱入者の正体が判明した所で三代目も大蛇丸もすぐに落ち着きを
?
!
ていくのも悪くはない。そう思っていた大蛇丸は、すぐにその考えを
破棄した。
﹂
﹂
﹁う、おお⋮⋮
﹁これは⋮⋮
!
あまりのプレッシャーに周囲の屋根はどんどんとひび割れていく。
えが甘い物だと理解した。
目の前の少女から放たれるプレッシャーに大蛇丸は先程までの考
!?
201
?
先の三代目と大蛇丸のプレッシャーの比でない。
﹂
大蛇丸は確信した。これは⋮⋮化け物だ。
﹁ガハハハハ
﹁なるほど
お前は本当にオレを驚かせる
﹂
!
﹂
!
任せたぞ
﹂
!
﹂
木ノ葉は今日終わるのですよ
形になっていただきましょう
先代達は物言わぬ殺戮人
!
﹂
触れてしまった﹂
﹁愚かよの大蛇丸。人の道を外れ外道に成り下がり、その結果逆鱗に
そこから感じ取れる怒りを知り、三代目は大蛇丸を見た。
それは三代目に有無を言わせない圧力を籠めた言葉だった。
﹁下がれ。二人は私が止める。大蛇丸もだ﹂
﹁しかし⋮⋮
﹁ヒルゼン。下がってなさい﹂
徐々に二人の体が生気を帯びて行き、生前の姿へと近づいていく。
苛立ち、大蛇丸はすぐに二人の頭に札を突き入れた。
大蛇丸からしたら戯言としか言えない台詞を吐く初代と二代目に
!
﹁何を
そして二人の返事にアカネもまた頷く事で返した。
アカネの言葉に、柱間と扉間は頷いて答えた。
ぞ﹂
﹁お前がどうして今ここにいるのかは知らん。だが、木ノ葉を頼んだ
﹁うむ
﹁安心しろ。すぐに止めてやるから﹂
プレッシャーを弱め、二人を見ながら微笑み語りかけた。
そしてアカネは初代と二代目の言葉を聞いてそれまで放っていた
のか、驚愕の瞳でアカネを見ている。
大蛇丸はその意味が理解出来なかった。だが三代目は理解出来た
﹁⋮⋮まさかッ
﹁穢土転生が成功せんわけだ⋮⋮﹂
!
そして初代の隣にいる二代目火影も頭を抱えてアカネを見ていた。
火影は突如として笑い出した。
三代目と大蛇丸がアカネのプレッシャーに気圧されている中、初代
!
!
202
!
!?
﹁逆鱗
今更あなたの逆鱗に触れたところで⋮⋮
﹁ワシではない⋮⋮この御方のじゃ
﹂
﹂
だが、三代目の言う逆鱗とは己自身の事ではなかった。
とってそれは許せない事だ。
犠牲にして禁術の人体実験をしていた大蛇丸だ。里を想う三代目に
大蛇丸は既に三代目の逆鱗に触れている。少なくない里の忍達を
!
た。
﹁まさかお前は
﹂
その疑問は、アカネの放つチャクラを感じている内に解けていっ
纏っているが││をそう呼ぶのか。
何 故 火 影 と も あ ろ う 者 が 一 介 の 忍 │ │ に し て は 強 い チ ャ ク ラ を
思う。
三代目火影がこの御方と呼ぶ人物だろうアカネを大蛇丸は怪訝に
!
﹂
犠牲者からすれば筋違いかもしれない⋮⋮が 大蛇丸
人を口寄せした事を後悔させてやろう
﹂
!?
!
この二
﹁扉間も他里の忍にしていた事だ⋮⋮私が怒るのは扉間の穢土転生の
!
日向ヒヨリ
﹂
﹁あなたは
﹁はぁっ
!
!!
!
いや、私と同じ術か
したチャクラの衣を作り出し身に纏ったのだ。
まさか生きていたとはね
!?
﹂
!
ふしてんせい
!
見抜いていたのだ。
そして今の体の奥深くに隠してあるその本体をアカネは白眼にて
大な白蛇と化している。
他人の肉体を乗っ取る不屍転生を開発した結果、大蛇丸の本体は巨
かしら⋮⋮
﹁そこまで見抜けると言うのね あなたの白眼はどれ程見通せるの
?
﹁くっ
!
それはお前の中にいる白蛇の事か だとしたら一
?
緒にされるのは不快なんだがな﹂
﹁お前と同じ
﹂
無駄に放出されるチャクラを凝縮する事で視認出来る程に具現化
ラが溢れ、一瞬で内へと圧縮されていった。
大蛇丸がアカネの正体に気付いた瞬間、アカネの体から更にチャク
!
203
?
!
﹁しかも不屍転生ではない⋮⋮
﹂
いいわ
どうやって蘇った日向ヒヨリィィィ
興味があるわその術
!
言葉にすれば簡単だが実際にこの術を会得するのは非常に困難だ。
留め、それを対象にぶつける術である。
掌からチャクラを放出し、それを乱回転させて更に圧縮して球状に
うにする思想で開発された。
そして螺旋丸は印を用いず形態変化のみで最大の威力を持てるよ
ある。
様々な形態を加え、それが火遁や水遁などに代表される術となるので
す る 為 に 開 発 さ れ た 物 だ。こ の 印 を 組 む 事 で 性 質 変 化 を し た 術 に
ちなみに忍術を使用する時に必要な印は形態変化を簡易的に使用
大きく上げる事が出来る。
事だ。性質変化ほどの威力はないが、様々な形態変化により術の幅を
形態変化とは読んで字の如くチャクラの形態を変化される技術の
た忍術だ。
螺旋丸とはかつて四代目火影が考案した形態変化を極限まで極め
だ。
しかも柱間と扉間に大玉螺旋丸を叩き付けるというおまけ付きで
へと移動していた。
だがその術が発動する前に、アカネは二人を通り越して大蛇丸の前
水遁の印を組みそれぞれ術を発動しようとする。
柱間が木遁││柱間のみに使用出来る血継限界││の印を、扉間が
﹁⋮⋮遅すぎる﹂
えだった。
だが、その大蛇丸の考えはまだアカネという存在を過小評価した考
下手に手加減などすれば危ういのは己の身だ。
らいが丁度いいだろうとの判断だ。
殺戮人形故に加減は出来ないが、目の前の化け物は加減をしないく
カネにけしかけた。
大蛇丸はアカネを捕らえるべく殺戮人形と化した柱間と扉間をア
!
忍術の会得難易度で言えばAランク。上から二番目である。
204
!
!?
相当なチャクラ操作とチャクラ放出の技術が要される高等忍術で
あった。現在螺旋丸を会得している忍は数える程だ。
ちなみに術を開発し命名したのは四代目火影だが、アカネはヒヨリ
として生まれた時から螺旋丸を会得していた。
長きに渡る人生で似たような技を開発していたのである。印を用
いずに使用出来てかつ高威力を誇るのでアカネも愛用している術だ。
その術を両手で作り出し、その大きさを人一人が飲み込める程に大
きくして柱間と扉間にぶつけたのだ。
それだけではない。穢土転生体は例え体を損傷してもすぐに塵芥
が集まり元に戻ってしまう。いくら攻撃しても倒す事が出来ない不
死身の兵と化すのだ。
だからアカネは二人を攻撃した螺旋丸を自身の体から離れてから
もそのまま維持し続けた。二人が再生してもすぐに破壊して、再生と
破壊を繰り返させる事で行動不能に陥らせたのだ。
瞬神と呼ばれた四代目以上の速さ、螺旋丸の高等応用技、そして今
も周囲を圧迫する程の圧力を放ちながらも一切の無駄な破壊を生み
出していない高密度なチャクラの衣。
205
例え二人の肉体が動き螺旋丸からずれた場所で再生しようとして
もすぐにアカネが螺旋丸を操作して二人の体を攻撃し続ける。
螺旋丸は掌から放出されるチャクラを操作して作り出す術だ。こ
れは掌がもっともチャクラ放出に向いている箇所なのが理由だ。
それを肉体から離しても維持し続ける。そのチャクラ放出とチャ
クラ操作、二つのチャクラの技術が桁外れに高いアカネだからこその
芸当である。白眼で二人の位置を確認しているのも要因の一つだ。
﹁所詮は不完全な穢土転生。柱間と扉間が本来の力で蘇っていればこ
んな攻撃は通用しない。お前がそうしなかったという事は本来の力
これがお伽話に
で二人を復活させると穢土転生の縛りを破られると理解していたか
素晴らしい⋮⋮ これが
﹂
!
らか⋮⋮﹂
﹁ふ、ふふははは
すらなった初代三忍の真の力
!
大蛇丸をしてアカネの力は桁違いと思わざるを得なかった。
!
!
まさに伝説の忍。木ノ葉を築き上げた最強の三忍その一人。
﹁大蛇丸。お前は少々やりすぎた。幼い頃はこうではなかったのに、
いつから⋮⋮﹂
﹁さあ、それは私にも分かりませんねぇ⋮⋮。私はただこの世の全て
を解き明かしたいだけなのですよ﹂
この世の全てを解き明かす。それは全ての術を知りこの世の全て
の真理を理解する。それが大蛇丸の欲望。
ふしてんせい
だが人の身でそれを成すには時間が足りな過ぎる。有限の身では
全ての真理を理解するなど不可能だ。だからこそ大蛇丸は不屍転生
を開発したのだ。
﹁そんな事は全知全能にでもならない限り不可能だ。そしてそれは悠
久の時を手に入れても達する事が出来ない境地だ﹂
﹁まるで悠久の時を手に入れているかの様なお言葉ですね。死して新
ふしてんせい
たな肉体で蘇ったその秘密⋮⋮是非とも教えて頂きたい物です⋮⋮
﹂
ふしてんせい
大蛇丸の不屍転生にはある欠点があった。
それは一度不屍転生を行うと三年ほど時間を開けないと再び使用
出来ないという物。
だがアカネの術にそう言った欠点がないのなら、しかも乗っ取る相
手を見繕う必要がないのなら、それは大蛇丸にとって理想の転生忍術
と言えた。
﹁無駄ですよ。これは私だけの術。あなたが使う事は不可能です﹂
アカネの転生能力は忍術ではないのだ。例え誰であろうと、この世
の全ての術を会得しようとアカネの能力を会得する事は出来ない。
﹂
﹂
﹁だったらあなたの体を乗っ取ってでも⋮⋮
﹁やってごらんなさい。出来るものならね
!
択した。
幻術が一切効果ないとすぐに悟った大蛇丸は忍術による攻撃を選
のだ。
だが幻術の類はアカネの能力によって完全に無効化されてしまう
大蛇丸はアカネの肉体を無傷で手に入れる為に幻術を仕掛ける。
!
206
!
││風遁・大突破
││
大蛇丸の口から暴風が吐き出され、荒れ狂う暴風がアカネを襲う。
だがこの攻撃はアカネにダメージを与える為のものではなかった。
この程度の忍術でアカネを傷つける事は不可能だと大蛇丸も理解
している。
だが屋根の上という不安定な足場を崩し、アカネを宙に吹き飛ばす
事なら出来るだろう。
いくら暴風に耐える為に踏ん張ろうとも、足場その物が吹き飛べば
踏ん張りようがないのだから。
そうして宙に吹き飛んだ所を体の中に口寄せしてある草薙の剣で
攻撃する。
草 薙 の 剣 は 大 蛇 丸 の 持 つ 忍 具 の 中 で も 最 大 の 切 れ 味 を 誇 る 剣 だ。
また自在に刀身を伸ばす事も出来る。結界がある為アカネが吹き飛
び過ぎない様になっているのも計算づくだ。
これならばアカネがいかにチャクラの衣で身を守っていようとも
貫く事が出来る。大蛇丸は草薙の剣を空中で無防備となっているア
﹂
カネへと伸ばそうとして││
﹁なッ⋮⋮
アカネの位置は大蛇丸が風遁を放った時から僅かたりとも後ろに
下がってはいない。
そればかりか足場もないと言うのに宙に浮いて元の位置を維持し
﹂
ているのだ。未だ暴風はアカネを襲っているというのにだ。
﹁くっ
当たりさえすれば致命傷を与える事が出来るはず。その大蛇丸の
考えはまたも真っ向から否定される事となった。
草薙の剣は確かにアカネに命中した。だが高速で回転するチャク
││
ラによって草薙の剣はアカネにかすり傷一つ付ける事も出来ずに弾
いえこれは
!
かれたのだ。
││か、回天
!?
207
!
微動だにしていないアカネを見て驚愕する事となった。
!?
大蛇丸はそれでも構わずにアカネに向けて草薙の剣を伸ばした。
!
そう、大蛇丸が気付いた様にこれは回天ではない。
肉体ではなく放出したチャクラそのものを回転させる事で攻撃を
弾く回天の更に上の奥義、廻天である。
アカネは大蛇丸の攻撃を廻天にて弾いた後、そのまま廻天を維持し
つつ大蛇丸へと接近した。
そして放たれるは柔拳の奥義。瞬時に相手の点穴を流れるように
打ち続ける事でチャクラの流れを塞き止める日向宗家にのみ伝わる
秘伝。
﹂
││柔拳法八卦六十四掌││
﹁ぐがああ
凄まじい速度で繰り出される攻撃はその全てが大蛇丸の本体であ
る白蛇の点穴を突いていた。
肉体の奥深くに隠れている白蛇まで浸透するようにチャクラを鋭
く突き刺し、その上アカネのチャクラを点穴に突き刺して残してお
く。
これで時間が経っても点穴は解除される事はない。アカネがチャ
クラを消すか、誰かの手で排除してもらわない限り大蛇丸はまともに
チャクラを練る事も出来ないだろう。
さらには体の内部から焼かれる様な痛みが常に大蛇丸を襲い続け
る。これがアカネが大蛇丸に下す罰であった。
﹁これでお前の大半の術は奪った。そしてその痛みは永劫消える事は
くそ⋮⋮
﹂
ない。お前が弄んだ人の痛みを僅かでも思い知れ﹂
﹁ぐ、うううぅうっぅ
!
﹃はっ
﹄
﹁あなた達
﹂
るのだから。
何とかして逃げなくてはならない。生き延びさえすれば方法はあ
苦しみを味わうか、座して死ぬかの未来しか待っていない。
な事をしている暇はないのだ。このままでは木ノ葉に捕われ永劫の
悪態を吐く余裕もなく大蛇丸は痛みに悶えながら思考する。そん
!
208
!?
!
結界を張っていた大蛇丸の部下が結界を解除して主人を守るよう
!
に飛び出してくる。大蛇丸はそれに呼応する様に後ろへと下がって
行った。
部下に僅かでも時間を稼がせて自分は逃げ切るつもりだろう。だ
が、この程度の足止めがアカネに通用するわけもなかった。
﹁喰らえ蜘蛛しば││﹂
アカネに向けてチャクラを流し込んだ粘着性の糸を飛ばしてくる
﹂
音忍。だが既に糸を飛ばした場所にアカネの姿はなかった。
﹁ど、どこに
その言葉を最後に糸を飛ばした音忍は気を失った。
アカネは経絡系を突いて音忍の一人を気絶させた後、すぐに残りの
音忍へと攻撃を加える。
﹂
﹂
その速さに対応出来た音忍はおらず、残りの三人もあえなく気を失
う事となった。
﹁くっ⋮⋮役立たずめ
﹁逃げ切れると思うなよ大蛇││む
﹁消えた
この消え方、口寄せ解除か
﹂
だがその攻撃は寸でのところで止まる事となった。それは何故か
ネ。
逃げようと足掻く大蛇丸に止めとなる一撃を加えようとしたアカ
!?
!
!?
プライドの高いあ奴が口寄せされていたじゃと
き消えたからだ。
﹁馬鹿な⋮⋮
﹂
!?
そう呟きつつも、まだ木ノ葉には面倒事が残っている事を思い出
﹁⋮⋮やれやれ。面倒事を片付けられませんでしたか﹂
一瞬で移動する事が出来るのだから。
ば、その口寄せを解除すれば確実に元の場所まで時空間を飛び超えて
だが確かに効果的な逃走方法だ。予め口寄せにて現れていたなら
かったのだ。
大 蛇 丸 が 誰 か と 口 寄 せ 契 約 を す る 様 な 人 間 だ と は 思 っ て も い な
その事実に大蛇丸の師である三代目火影も驚愕していた。
!
209
!
そう、アカネが攻撃を止めたのは肝心の大蛇丸がその場から急に掻
?
?
し、それをアカネは片付けようと白眼にて当の面倒事を確認する。
﹁⋮⋮あれは﹂
アカネが見た物は、面倒事である尾獣が一体・一尾と闘っているナ
ルトの姿だった。
ナルトはあの一尾を相手にガマブン太を口寄せし、協力して渡り
あっている。
人柱力と力を合わせていない尾獣とはいえ、それでも尾獣は強大
だ。
それを相手に一歩も退かずにナルトは闘っていた。
﹁⋮⋮ふふ﹂
これなら大丈夫だ。アカネはそう確信を持って言えた。
今のナルトは誰かを守る為の目をしており、そして敵を憎む目をし
ていない。そういう目をした者は強い。アカネはそれを長き人生で
知っていた。
が
﹂
ですが﹂
アカネが後ろを振り向くと、アカネの予想通り四人の忍にじーっと
210
﹁もしもの事があれば加勢してあげるから、全力でやりなさいナルト﹂
もっとも、その必要はないだろう。何故かアカネはそう思えるほど
ナルトが勝つと信じていた。
アカネにそう思わせる何かがナルトにはあった。恐らくミナトも
それを感じ取ってナルトを信じて九尾を封じ込めたのだろうとアカ
ネは思う。
そんな風に過去に思いを馳せ、地味に現実逃避をしていたアカネは
﹂
後ろから感じる複数の視線に気付きつつもあえて無視していた。
いけナルト
!
﹁⋮⋮ヒヨリ様﹂
﹁おお、そこだ
﹂
!
私は日向アカネというしがない下忍でして。ヒヨリ様とい
﹁ヒヨリ様
﹁はて
!
う超絶美女くノ一とご一緒にされるとヒヨリ様に申し訳ないのです
?
﹁それで誤魔化せると思っておられるなら些かワシ等を馬鹿にし過ぎ
?
見られていた。
三代目火影、はたけカカシ、うちはオビト、マイト・ガイの四人で
ある。全員生前の日向ヒヨリと面識のある忍だ。
﹁⋮⋮てへぺろ﹂
﹁⋮⋮﹂
アカネの過去だろう人物を想像すると果てしなく似合わない仕草
と思ったカカシであるが、命が惜しくてそれを口にする事はなかっ
た。
だが残念。アカネはそれくらい容易に読み取る洞察力を備えてい
るのだ。初代三忍の名は伊達ではないのだ。
﹂
﹁何か言いたそうですねカカシさん。下忍なんかに遠慮せず言っても
良いんですよ
﹁空が青いですねー。あ、鷹だ﹂
どこかで聞いた事のある様な誤魔化し方をするカカシ。
﹂
カカシは自来也の孫弟子に当たるので、余計な所まで継承したのか
もしれない。
﹁うう、生きてたんですねヒヨリ様
涙を禁じえないようだ。
だ。亡くなったヒヨリがこうして無事︵
︶生きていて非常に嬉しく
そしてオビトは命の恩人であるヒヨリを今も尊敬し慕っていたの
の老人と知り合っていた。それは日向ヒヨリも例外ではない。
オビトは小さい頃から老人と仲良くなるのが得意で、木ノ葉の全て
るアカネはそれを思い出した。
昔から泣き癖がある子だったなとオビトの幼い頃を良く知ってい
オビトは残った右目からだーだーと涙を流していた。
!
すよ
なんでそんな疑わしそうにこっちを見るんだヒルゼン
﹂
﹁ええ。私もこの状況で白を切るつもりはありませんよ。⋮⋮本当で
事態ゆえ後回しにさせて頂きます﹂
﹁ヒヨリ様、色々と事情を聞かせてもらいたいのですが⋮⋮今は非常
?
?
﹁この戦争の片が付いたらこの場にいる人と信用の置ける忍を集めて
211
?
最初に白を切った本人に言われても説得力という物がないだろう。
?
﹂
すぐに戦争を終わらせるぞ
﹂
おきなさい。その時に全てを説明しましょう。でも、出来るだけ少な
い人数でお願いしますよ
﹄
﹁かしこまりました。皆の者
﹃はっ
!
脅かす存在が最低でも五人はいると判断していたのだ。
大蛇丸は木ノ葉の戦力を舐めてはいない。今の木ノ葉には自身を
ておいて正解だったと大蛇丸は自分の英断を内心で褒め称える。
後僅かに口寄せ解除が遅ければ⋮⋮。やはり口寄せ契約を交わし
丸。
口寄せの術を利用した移動法で上手く木ノ葉から逃げ延びた大蛇
息を吐いていた。
一人は大蛇丸。全身を襲う痛みに耐えながら大蛇丸は安堵の溜め
﹁危ないところだったわ⋮⋮﹂
とある薄暗い部屋の中に二人の人物がいた。
◆
こうして木ノ葉隠れと砂隠れの戦争は終わりを告げた。
はなかったのだ。
し出だが、木ノ葉としても無駄に戦争を続けて被害を拡大するつもり
木ノ葉はそれを承諾。戦争を仕掛けて来た砂の掌を返した様な申
真逆の結果を生み出してしまった砂隠れは木ノ葉に全面降伏を宣言。
後に、戦争により里の戦力低下を招くという本来の計画からすれば
砂隠れは木ノ葉から撤退。
そしてナルトが一尾とその人柱力である砂の我愛羅を倒した所で
半が戦意を喪失していた。
の砂忍の多くが死亡や重傷で戦闘不能に陥っており、無事な砂忍も大
と言っても既に大蛇丸は退場し、一尾もナルトが抑えている。残り
そうして三代目と共に上忍たちが砂忍との決着をつけにいく。
!
?
それが三代目火影・うちはシスイ・うちはイタチ・日向ヒアシ・日
向ヒザシの五人である。
212
!
一人一人ならば勝つ自信もあったが、二人同時ならば勝ち目は薄
く、三人以上ならばまず勝てないだろう。それ程の実力者達だ。
だからこそ念には念を入れて緊急避難用に口寄せ契約を結んでい
たのだ。
﹁ご無事で何よりです﹂
そして大蛇丸の隣で彼に医療忍術を掛けている男。彼の名前はカ
ブト。大蛇丸に仕える忍の一人にして大蛇丸が最も重宝している男
である。
このカブトこそが大蛇丸と口寄せ契約を結び、大蛇丸をこのアジト
へ呼び戻した張本人であった。
﹁ふん⋮⋮あなたにしたら私が死んだ方が良かったんじゃないかしら
ああ、私が死ねばあなたの大切な人も危なかったわねぇ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
大蛇丸の言葉に無言で返すだけのカブト。彼は望んで大蛇丸に仕
えている訳ではなかった。
かつてカブトはとある孤児院に世話になっていた一人の戦災孤児
であった。
孤児院は火の国や木ノ葉の里から補助金を受けて経営されており、
その補助金をより多く得る為に孤児院の職員や子どもは医療忍術に
て木ノ葉の忍を癒すという仕事をこなしていた。
カブトもまたマザーと呼ばれるカブトを拾ってくれた恩人に医療
忍術を教わり、多くの忍を癒してきた。
幸いと言っていいのかカブトには医療忍術の才能があった。いや、
不幸だったのだろう。才能があったからこそ、カブトは大蛇丸に目を
付けられたのだから。
大蛇丸は戦争で傷ついた肉体をカブトに癒してもらった時にその
才能を見出したのだ。
大蛇丸は木ノ葉を抜け出してから暁に入り、多くの人体実験を繰り
返していく中で一つの不満を抱えていた。
それは術の開発に使用される人間の数が多い為その補充が追いつ
かないという事だ。
213
?
あまりに多くの人間を攫って人体実験を繰り返していれば流石に
人体実験に使用した人間が
木ノ葉や他里の忍に気付かれやすくなる。
それを防ぐにはどうすればいいか
使い捨てではなく、再利用出来る様にすればいいのだ。
そんな悪魔の様な思考で大蛇丸は優秀な医療忍者であったカブト
を拉致して己の駒とした。
もちろんただ拉致しただけでカブトが自分の命令を聞くとは思っ
ていない。色々と口憚るような手段を取れば話は別だが、それでも意
思が強い者ならば裏切る可能性はある。
だから大蛇丸はカブトを調べ上げ、カブトが己の命よりも大切にし
ている者を人質にしたのだ。
それこそが孤児院のマザー、ノノウであった。
カブトに取ってマザーは命の恩人であり名付け親であり自分の理
解者であり、本当の親よりも愛している何よりも大切な存在だ。
そのマザーは大蛇丸に捕らえられ、いつでも大蛇丸の意思一つで殺
せるように処理されてしまったのだ。
さらに大蛇丸はマザーだけでなく孤児院その物もカブトを脅す材
料にした。孤児院はカブトの家というだけでなく、血は繋がってない
が兄弟と思っている多くの仲間がいる。
そんな存在も大蛇丸の手に掛かればいとも容易く破壊されてしま
うだろう。カブトは大蛇丸に頭を垂れるしかなかったのだ。
だがカブトも大蛇丸にただ従っているだけではない。虎視眈々と
復讐の機会を待ち、そして僅かばかりの嫌がらせに大蛇丸や暁の情報
を巧妙に隠して木ノ葉の一部の忍に伝えていた。
それが大蛇丸と同じ三忍の自来也だったりする。自来也が仕入れ
ていた大蛇丸や暁に関する情報の多くはカブトから手に入れたもの
だったのだ。
﹁⋮⋮もういいわ。ぐぅ⋮⋮少しは楽になったけど⋮⋮﹂
カブトの治療を受けた大蛇丸は未だ己を苛む痛みに呻く。
大 蛇 丸 の 本 体 で あ る 白 蛇 の 点 穴 の 内 六 十 四 は 今 も な お ア カ ネ の
チャクラ針によって塞がっている。
214
?
それは大蛇丸に間断無い痛みを与え続け、しかもチャクラを練る事
を阻害し続けているのだ。
三忍と言われた大蛇丸だからこそチャクラを多少は練る事が出来
ているようだが、一般的な忍ならば僅か足りともチャクラを練る事は
出来ないだろう。
﹂
そ し て そ れ ら は カ ブ ト の 卓 越 し た 医 療 忍 術 で も 癒 す 事 は 出 来 な
かった。
﹁おのれ日向ヒヨリ⋮⋮
静かに怒気を現す大蛇丸の言葉にカブトは内心で驚いていた。
日向ヒヨリ。とうに死んだはずの人間の名前が出た事に驚き、そし
﹂
て大蛇丸が言うからにはそれが事実なのだと理解して更に驚く。
﹁ふふふ⋮⋮今なら簡単に私を殺せるわよ
﹁ご冗談を⋮⋮﹂
なかったわけじゃない⋮⋮﹂
﹁ふん⋮⋮。まあいいわ。木ノ葉崩しは失敗に終わったけど、収穫が
いでいた。
その思いがある限りカブトは大蛇丸を表面上は裏切る事が出来な
いる。
蛇丸ならばそんな仕組みをマザーに仕込むのも容易いと思わされて
もしかしたらそれは大蛇丸のはったりなのかもしれない。だが大
れているのだ。
が死ねばマザーも死ぬようになっているとカブトは大蛇丸に説明さ
マザーがどこにいるかカブトは知らされていない。そして大蛇丸
ないのだ。
襲われている。だがそれで殺せたとしても、マザーを助ける事は出来
今もカブトはこの弱った大蛇丸の首を掻っ切ってやりたい衝動に
心配する二つの感情で占められていた。
そしてそんなカブトの内心は大蛇丸への殺意とマザーと孤児院を
は己を殺していた。
カブトの内心は大蛇丸でも計りきれない。それほど上手くカブト
?
大蛇丸は新たな器候補であるサスケと、今もなお生きて伝説の力を
215
!
そのままに振るったアカネの姿を思い浮かべる。
﹁くくく⋮⋮﹂
あの伝説の力を上手く誘導すれば、暁を出し抜く事も可能かもしれ
ない。暁との戦闘で弱った所を上手く突けば乗っ取りも可能かもし
れない。
かもしれないという希望的観測だが、その未来を想像した大蛇丸は
暗く歪んだ嗤いを浮かべ、闇の中へと消えて行った。
216
NARUTO 第十一話
木ノ葉の里のある一室に複数人の忍が集まっていた。
その面子は三代目火影を中心としてそうそうたる物で、木ノ葉のご
意 見 番 で あ る 水 戸 門 ホ ム ラ と う た た ね コ ハ ル。暗 部 の 中 の 一 部 隊
﹃根﹄の主任である志村ダンゾウ。二代目三忍の一人自来也。火影の
右腕うちはシスイに左腕日向ヒザシ。日向の長である日向ヒアシに
うちはの長であるうちはフガク。木ノ葉有数の上忍であるはたけカ
カシにうちはオビトとマイト・ガイにうちはイタチ。
以上の十三人と後一人が一室に揃っていた。この十三人がその気
になれば彼らだけで幾つかの国を落とす事も可能だろう。そんな実
力者達だ。
そんな実力者達が一人の少女を見つめていた。現在渦中の人物と
化してしまった日向アカネである。
﹁では、説明していただきましょうか﹂
皆を代表して三代目がアカネへと詰問した。
対するアカネは必殺忍術・かくかくしかじかを放った。
﹁とまあ、そういうわけでして。一応この事はこのメンバー以外には
秘密にしておいてください。外に漏れると厄介事しか呼びませんか
らね﹂
アカネの言う事は正しい。転生の秘術などという代物を知れば多
くの存在がそれを求めてやってくるだろう。
例え転生の秘術がアカネにしか使えないのだとしてもそんな事は
関係ないのだ。欲にまみれた人間は受け入れやすい事柄のみを事実
と信じ、受け入れがたい事実は信じないものなのだ。
この場の人間以外にも木ノ葉には信用の置ける上に立場もある忍
は多くいる。だが秘密というものは多くの人が共有すればするほど
漏れやすくなるものなのだ。であるので少なくとも今はこの十三人
のみがアカネの秘密を共有する事となった。
﹁なんと⋮⋮ヒヨリ様が転生なされたとは⋮⋮﹂
﹁こうして目の前にしても信じられん⋮⋮﹂
217
相談役のコハルとホムラは三代目の同期の忍だ。幼い頃からヒヨ
リの存在を良く知っていた人物達だ。
そ の 力 も 死 に 様 も 三 代 目 と 同 じ く こ の 場 の 誰 よ り も 知 っ て い る。
だからこそ誰よりもアカネの存在に驚いていた。
﹁御二方、信じがたいとは思いますがこれは真実です。それは私が保
証いたします﹂
日向の現当主にそう言われては疑る事も出来はしない。
日向ヒアシという人物が下らない嘘を吐く人物でない事をこの場
の全員が良く知っているのだ。
﹂
﹁間違いないぜコハル婆ちゃんホムラ爺ちゃん このチャクラはヒ
ヨリ様のチャクラだ
﹂
﹁し か し 何 故 そ れ を も っ と 早 く に 教 え て い た だ け な か っ た の で す か
この場の全員がアカネを疑う事はなくなった。
次々とアカネがヒヨリの転生体であると保証する声が上がる事で、
ない﹂
チャクラの質と大蛇丸を容易く撃退した強さ。疑い様などある訳が
﹁ワシも疑ってはおらぬ。あの時の初代様と二代目様の反応。そして
いなくヒヨリ様の転生体よ﹂
﹁ワシも保証しよう。この一年間アカネと旅をしてきたが、まあ間違
がなかった。
自身の右半身を癒してくれた力強く暖かいチャクラを間違える訳
言えた。
オビトはその右目の写輪眼で見切るまでもなく自信を持ってそう
!
﹁いやまあ、転生なんて大っぴらにしたくはありませんでしたしね。
それに⋮⋮教えたらダンゾウとかホムラとかダンゾウとかコハルと
かダンゾウとかが絶対に私を有効活用してきそうだったし⋮⋮﹂
﹂
﹁当たり前です。あなた程の力があれば里にどれだけの貢献が出来る
か。あと、ワシの名前が多いのはどういう事ですかな
今まで黙っていたダンゾウがアカネの言い分にそう返す。
?
218
!
三代目のその言葉にアカネは頬を掻きながら返した。
?
ダンゾウは使える物は親だろうが子だろうが使う性分なのでアカ
ネという最大戦力を遊ばせておくつもりは毛頭なかった。
﹁ほらぁ。こうなるから嫌だったんですよ﹂
﹁子どもですかあなたは⋮⋮﹂
﹁今は子どもですし。十四歳ですし﹂
好きだの嫌いだので動かれては忍が務まるか。そう考えているダ
ンゾウであったが、それでアカネを止められる訳もなかった。
﹁それにまあ、ちゃんと木ノ葉の為に働いてるじゃありませんか﹂
﹁まあ、それは確かにそうですが⋮⋮﹂
そう言われてはダンゾウも強くは言えなかった。実際アカネがい
なければ今回の大蛇丸と砂隠れによる木ノ葉崩しはもっと大きな被
害を受けていただろう。
﹁あと、暁という組織についても調べてますよ﹂
﹁それは既に自来也から聞いております﹂
﹁そうですか。では暁の危険性も良く理解出来たでしょう。私は暁に
対抗する為に出来るだけ里に縛られずに動きたいんですよね﹂
里の任務などで動いていてはいざという時に対応が間に合わない
可能性がある。
それを防ぐ為にもアカネは自由行動権を欲していた。これまでは
ヒアシ付きの下忍という立場でそれを得ていたが、こうして木ノ葉の
中枢に正体を知られたなら改めてその権利を得る必要があるのだ。
﹁そ れ は 了 解 い た し ま し た。ワ シ か ら の 特 別 任 務 と い う 形 を 取 り ま
しょう﹂
三代目のその意見に反対する者はいなかった。
﹁ありがとうヒルゼン。それと皆にお願いが。私の事は公には普通に
下忍として扱ってくださいね。敬語も必要ありませんし、アカネと呼
び捨てで結構です﹂
﹁それは⋮⋮﹂
﹁確かに必要な処置ですが⋮⋮﹂
﹁むう⋮⋮﹂
﹁ヒヨリ様を呼び捨てとは⋮⋮﹂
219
アカネのお願いに特に難色を示したのが老人四人だ。
いやぁあのヒヨリ様をこう呼ぶなんて
彼らはヒヨリとの付き合いが長かった為にすぐに了承の意思を見
せる事が難しかったのだ。
﹂
﹁分かったぜアカネちゃん
思ってもいなかったぜ
!
﹃はっ
﹄
﹂
﹁まあそう言うわけです。今後ともよろしくお願いしますね皆さん﹂
る様にしていた。
そして老人と若者の中間と言える者達は公私の区別を上手く付け
﹁ああ。私も屋敷ではそうしていたよフガク殿﹂
対する様にすれば問題ないでしょう﹂
﹁公の場では下忍として扱い、事情を知る者だけならばヒヨリ様と応
柔軟に対応していた。
対してまだ若い││と言っても老人組からしたらだが││者達は
んですよね
﹁お前はお前で馴染むの早いね⋮⋮。まあ了解だアカネ。これでいい
!
アカネはある事を思い出した。
﹁そう言えばヒルゼン。柱間と扉間はどうなりました
寄せされる事になるというわけだ。
﹂
つまりもう一度大蛇丸が穢土転生を使用すれば再びあの二人が口
れた死者は再び浄土へと戻るだろう。
出された存在なのだ。元の術である穢土転生を解除すれば呼び出さ
そう。穢土転生は口寄せの術の一種なので相手は口寄せにて呼び
﹁やはりか⋮⋮﹂
前にて穢土転生は解除されました⋮⋮﹂
﹁残念ながら⋮⋮大蛇丸が穢土転生を解除したのでしょう。封印の手
だが⋮⋮。
その間に三代目火影は封印術にて二人を封印しようとしていたの
よって常に破壊され続ける事で抵抗する事も出来ずにいた。
穢 土 転 生 の 術 に て こ の 世 に 口 寄 せ さ れ た 柱 間 と 扉 間 は ア カ ネ に
?
220
?
そうしてアカネの正体と今後の対応について一通り話終えた所で、
!
しかしそれはいずれ回復するのでは
﹂
﹁まあ今の大蛇丸がまともにチャクラを練る事は不可能でしょうが﹂
﹁点穴ですか
﹁なんと⋮⋮
﹂
﹁その様な技術が
﹂
ました。それを外さない限り経絡系が癒える事はありません﹂
﹁いえ、大蛇丸の点穴の奥深くに針の様に鋭いチャクラを残しておき
てもいずれは回復するだろう。
三代目の疑問は尤もだ。いくら点穴を突いて経絡系を封じたとし
?
計に驚いたのだろう。
?
突かれるというのは内臓を直接攻撃されるようなもので、その痛みは
全ては大蛇丸に他人の痛みを少しでも理解させる為にだ。点穴を
が苦痛が持続する攻撃方法を選んだ。
そう、あの時アカネは大蛇丸をただ倒すのではなく、死にはしない
の判断ミスですね。すみません﹂
﹁お仕置きに拘らなければここで終わりに出来ていたのですが⋮⋮私
かのどちらかの方が使い道があるだろう。
点穴は敵を無力化する時か、味方に突いてチャクラの増幅を図る時
も柔拳を一回叩きこむ方が早いのは道理だろう。
言うなればわざわざ六十四回敵を攻撃しているわけだ。それより
クラを流し込んだ方が早かったりする。
点穴を十だの二十だの六十四だの突くよりも、経絡系に大量のチャ
ては点穴を突くこと自体が無駄だと実は思っていたりする。
それだけで敵を無力化し倒す事が出来るだろう。まあアカネとし
普通に点穴を突くだけで十分なのだ。
そう、敵を倒すという一点ならばこのような技術を使うまでもなく
たいなものです﹂
通に点穴突けばいいだけなんですから。これはお仕置き用の裏技み
﹁と言ってもこれってあまり使い道ありませんよ
敵を倒すなら普
共に日向最強の二人なのだが、そんな彼らが知らない技術なので余
アカネの説明に一番驚いているのはヒアシとヒザシの二人だった。
!
慣れ親しめるものではない。
221
?
!
更にこの世の全ての術を手にしたいと願っている大蛇丸がその術
の源であるチャクラの大半を奪われてはその苦しみは想像を絶する
ものだろう。
そうして大蛇丸を無効化しておいて、その後捕らえて尋問なり投獄
なりするつもりだったのだ。口寄せの術を利用して逃走されるとは
その時は想像していなかったアカネであった。
﹁ふむ。まあ逃げられた事は仕方ないでしょう。この話はこれで終わ
りとしよう。次の話だが⋮⋮﹂
ダ ン ゾ ウ が 流 れ を 変 え る よ う に 話 を 切 り 出 し た。そ の 内 容 と は
⋮⋮火影交代についてだった。
﹁ヒルゼン。そろそろ五代目火影を決める時だろう﹂
﹁⋮⋮そうだな。ワシも歳を取りすぎた。大蛇丸といい暁といい、こ
れから木ノ葉と忍界は大きく動き出すじゃろう。その時にワシの様
な年寄りでは木ノ葉を動かすには荷が重い﹂
それは三代目も自覚していた事だった。元々三代目が今の木ノ葉
の火影として立っているのも四代目が早くに死去してしまい、火影と
して相応しい者がいなかった為である。
いや、正確には三代目が五代目にと思う者は複数いた。だがその誰
もが五代目火影就任を拒んだのだ。
例えば日向ヒアシ。彼は日向の宗家としての立場からその就任を
断った。そして弟のヒザシも宗家の存在を鑑みて宗家より上の立場
に立たないよう断っている。
うちはイタチも自分は若く未熟だとして断り、そしてシスイもまた
同じであった。
ちなみにアカネを火影にするという案は流石になかった。若くそ
して誰よりも強いが、表だった実績が少ないので木ノ葉の忍が認めな
いだろう。
ヒヨリという正体を明かすなどもっての他であるし、そもそもヒヨ
リは木ノ葉創生期の人間だ。そんな彼女に木ノ葉を任せるなど今の
木ノ葉はオムツも取れてない赤子と言っているようなものだ。それ
を容認出来る者はこの場にはいなかった。
222
﹁ダンゾ││﹂
﹁自来也か綱手姫が良かろう。ワシは裏方よ。根が表に出るなど大木
を枯らす行為。火影に出来ぬ仕事をするのがワシの役目よ﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁大体ワシもお前と同じ歳だろうに﹂
ヒルゼンが全てを言い出す前にダンゾウは自分の思いを語りきっ
た。ヒルゼンも二の句を告げなくなる程の返答であった。
ヒルゼンとしてもダンゾウに火影をしてもらうのはあくまで次の
火影が決まるまでの繋ぎをと考えていたのだが、こうも頑なに断られ
ては口に出す事も出来なかった。
﹁ワシは断る。火影なんて柄じゃないんでのォ。綱手にやらせるのが
一番だろうよ﹂
﹁だが綱手姫は今どこにいるか⋮⋮﹂
﹁ワシが探してこよう。ついでに旅の共に連れて行きたい奴もいるし
223
な﹂
自来也が言っているのはナルトの事である。
これを機にナルトに本格的に色々と指導しようとしているのだ。
暁がナルトを狙っているのはほぼ確定している。ならば早急にナ
ルトを強くする必要があった。
ナルトを守るのはナルトそのものが強くなるのに越した事はない
のだ。
﹁では頼んだぞ自来也。綱手姫が戻るまでは今まで通りヒルゼン、お
主が火影として里を牽引してもらうぞ﹂
﹁仕方ないのぅ﹂
これで一先ずの方針が決定したのでこの会議も終わりとなる。
﹁ではこれにて会議を終了する。今回の戦争の被害は少なかったがな
﹄
かったわけではない。各自里の復旧に力を貸してくれ﹂
﹃はっ
だがそんなアカネに声を掛ける人物がいた。それも複数もだ。
会議が終了したのでこの場から立ち去ろうとするアカネ。
﹁それじゃあ私もこれで﹂
!
﹁アカネ殿。良ければあなたの知識を披露しては下さらぬか。もはや
伝説となった初代火影と我らが先祖うちはマダラとの話などを聞か
せて頂けるとありがたいのだが﹂
﹁知識の披露もいいですが、私は稽古をつけてくれると嬉しいです。
あなたのチャクラコントロールは写輪眼でも真似る事が出来ない代
命を救ってくれた恩返しをしたいん
物。是非ともご教授願いたい﹂
﹁そんな事よりアカネちゃん
もちろんオレの奢りだ
﹂
ヒヨリ様の好きだった団子屋まだあるから一緒に食べに行か
ないか
だ
!
る。
﹁じゃあ団子屋に││﹂
!
オビト
この場の殆どの者がそう考えて
﹂
確かアカネ様は医療忍術の名手だったはず
いたが、ガイの頼みは至って真面目な物だった。
﹁アカネ様
を癒したのもアカネ様ですよね
りです
﹂
オレの弟子を治して下さい この通
!
何とぞリーを
どうかリーを
何とぞ
!!
﹁どうか
最近の薬はあまり知りませんし﹂
﹁え、ええ。まあ薬とかに関しては綱手の方が上でしょうけど。特に
!
修行の相手でも頼みこむのか
それは何とガイからのコールであった。
ア カ ネ が オ ビ ト の 誘 い に 乗 ろ う と し た 所 で 待 っ た コ ー ル が 発 生。
﹁ちょっと待ったーーッ
﹂
ちなみにアカネが一番惹かれているのはオビトの誘いだったりす
た。全部うちはだったが。
などとフガクの声を皮切りにアカネに対して多くの誘いが出てい
!
?
!
!
!
に 傷 つ い て い る 事 が 気 に 掛 か っ て い た。ガ イ の 弟 子 で あ る ロ ッ ク・
アカネはガイのその態度よりも、リーが自身に頼まねばならない程
んでいたのだ。
頭を下げる所か土下座をするほどに。それほどまでに真摯に頼みこ
だが、本当に真剣な頼み事だった。自分の為ではない。弟子の為に
その剣幕と必死さはアカネをして気圧される程だった。
!
!
!
224
?
!
リーとアカネはアカデミーの同期なのだ。
アカネにとってリーは他の同期よりも気になる存在だった。そん
﹂
﹂
な彼を見捨てる事はアカネの選択肢にはなかった。
治してくれるんですか
﹁もちろんです。リーの所に案内してくれますか
﹁おお
?
﹁容態を見てみない事にはなんとも言えませんが⋮⋮。それでも私に
!?
これでリーは⋮⋮リーは忍の道を諦
出来る限りの手は尽くしましょう﹂
﹂
﹁あ、ありがとうございます
めずに⋮⋮
!
﹁では行きましょうか﹂
ありがとうございます
!
た。
◆
﹂
!
﹁う、うおおおおおお
ありがどうございまずぅぅぅぅぅ
ダンゾウの言葉に力なく頷いて、アカネは今度こそ病院へと移動し
﹁立ってるモノは火影でも使う性分ですゆえ﹂
﹁いや、いいけどね⋮⋮。お前本当にいい根性してるよダンゾウ⋮⋮﹂
かもアカネ様がしては里の力が育ちませぬから﹂
もお願いします。多少の怪我程度ならば放っておいても結構。何も
﹁ああアカネ様。ついでに並の医療忍者では癒せない重傷患者の治療
だがそんなアカネの足をまたも止める様な声が掛かってきた。
伴ってリーがいる病院へと移動しようとする。
ア カ ネ は 涙 ぐ み な が ら も 希 望 を 感 じ て 明 る い 返 事 を し た ガ イ を
﹁はい
﹂
涙すら見せるガイに、アカネはただ一つ頷いて立ち上がった。
!
何故なら二度とまともに歩く事も出来ず、忍としての道を断たれた
んでいただろう。
だがそうと注意されていてもきっと彼は、ガイは大声で同じ事を叫
常識な態度だと言えよう。
木ノ葉の病院内に盛大な叫び声が響いた。病院という環境では非
!
225
!
!
愛弟子の容態が回復へと向かったからだ。
﹁ガイさん。ここは病院ですよ、お静かに﹂
はしゃぎ回るガイをアカネは宥め叱る。だがガイの気持ちは分か
らなくもない。
ボクは本当に完治したんですか
﹂
大切な人の容態が良くなって嬉しくない者など居はしないだろう。
﹁あ、アカネさん⋮⋮
アカネの治療を受けたリーは半信半疑にそう確認する。
永遠に半身不随だ。死ぬ可能性のある手術よりは少々寿命は削れる
成功する確率があるとは言え、この手術に失敗すれば死ぬか良くて
割と言った所だった。
と手術を組み合わせた所でその成功率はアカネをして五割、良くて六
残念ながらリーの傷は普通の医療忍術では回復は難しく、医療忍術
説明はしておいた。
アカネの再生忍術は対象の寿命を削る。これに関しては術式前に
僅かですがあなたの寿命を削る事になりましたが﹂
ていた神経も再生させました。ただし、治療する前に注意したように
﹁ええ。神経系に入り込んだ骨破片は全て取り除き、その際に傷つい
ないのだ。
治療したので治りましたと言われても急すぎて現実感が湧いてい
止められてきたのだ。
て修行していたがまともに動く事も出来ず、看護師からも幾度となく
今まで医者からは何度も再起不能だと言われ、それでも無理を推し
!?
これで、これでボクは夢を諦めな
が確実な再生忍術による治療を選択したわけだ。
う、うう⋮⋮
﹁多少の寿命くらい構いません
くても⋮⋮
﹂
!
!
ではなく、本当にセンスとして持ち合わせていなかったのだ。
だからリーは残された体術だけを磨き上げた。体術だけでも立派
な忍になれると信じて、それを証明する為に努力を重ね続けてきたの
だ。
文字にすれば説明も簡単な目標だろう。だがその努力がどれだけ
226
!
リーには忍術と幻術の才能がない。これは努力でどうにかなる物
!
辛く、そしてその努力を掲げる事がどれだけ過酷だったか。
まともに忍術も使えない者など忍と呼べるわけがない。そんな嘲
笑を浴び続け、真の才能の持ち主と相対して、心が折れそうになった
事は幾度もあるだろう。
だが、それでもリーは自分を信じて努力し続けて来たのだ。
死に物狂いの努力をしてでも叶えようとした夢を諦めずにすむの
﹂
﹂
だと実感した時、リーの瞳には自然と涙が流れていた。
﹁リー⋮⋮
﹁ガイ先生⋮⋮
ガイもリーと同じく涙を流していた。
ガイにとってリーはただの弟子ではなかった。
ガイもリー程ではないが忍術などは得意ではなく落ちこぼれの烙
印を押されていた。
今でこそ口寄せの術の一つくらいは覚えているが、それ以外の術は
体術以外にはない。
恐らく上忍で忍術らしい忍術を使えない者などガイくらいのもの
だろう。
ガイもいい歳をして青春だの熱血だのと言っているが、かつてはそ
れを疑問に思った事もあった。青春を信じて負けた時にはそんなも
のに意味はあるのかと悩んでいた事もあった。
それでも努力する事を忘れず、自分にとって大切なものを守りぬけ
るものこそ本当の勝利なのだとかつてのガイも父親から教わったの
だ。
ガイにとってリーは己の生き写しであり、父に教えられた想いと覚
悟を伝えるべき後継者でもあるのだ。
リーにとってもガイはただの担当上忍以上の存在だった。
心が折れそうな時に励まされ、自分を信じ、自分にとって大切なも
のを守りぬくことを教えてくれた恩師。
今のリーを形作るのにガイという存在は欠かせない物だ。ガイが
いなければリーは忍としての道をとうに諦めていただろう。
二人は涙を流しながら、最高の笑顔を浮かべて抱きしめあってい
227
!
!
た。
﹁⋮⋮﹂
アカネも二人の様子を見て破顔し、喜びを顕わにしていた。才能が
なくとも必死に努力して体術のみで忍の道を切り進もうとするリー
の事をアカネは気に入っていた。そんな彼が夢を諦める事なく済ん
でアカネも嬉しかったのだ。
念のため術の修行は明日からにするんですよ。そう伝えたいアカ
ネだったが、今は二人をそっとしておいてあげたかったので口は挟ま
なかった
アカネは書置きを残してそっと気配を消してその場から立ち去っ
た。まだ見るべき患者は何人かいるのでそちらの治療もしなければ
ならないのだ。
◆
228
リーの治療を終えてから数日後。アカネは木ノ葉に古くからある
老舗の団子屋に来ていた。
古くといっても何百年という歴史があるわけではない。そもそも
木ノ葉の里自体が出来てから百年の時も経っていないのだから当然
の話だが。
それでも五十年も店が潰れる事なく営業され続けているのはやは
り売り物の団子が美味しいからという一言に尽きる。
アカネもヒヨリ時代からお気に入りの人気店なのだ。
﹁やっぱり団子と言えば粒餡です。こし餡もみたらしも美味しいです
が、団子に限っては何故か粒餡が好きなんですよね﹂
そう隣に座る男性へ説明してからアカネはもきゅもきゅと団子を
頬張る。その顔は実に幸せそうだ。
その表情を見て隣に座る男性、うちはオビトも破顔して頷いてい
た。
﹂
﹁そりゃ良かった。ここの会計はオレが出すから遠慮せずに食べてく
れよな
!
﹂
私結構食べ
オレの命の恩人なんだからこれくらい安いもんさ
﹁誘ってもらっておいてなんですけど、いいんですか
ますよ
﹁もちろんだよ
﹂
?
まーす
﹂
!
そうなの
﹂
﹁むぐむぐ。そう言えば、オビトは火影が夢って言ってたね。今でも
のだが。
まあ、その甲斐性を本命相手に発揮出来ているかと言えばお察しな
人になるという事なのだ。
彼もいつまでも子どものままではないのである。誰しも成長し大
合わせてあげる男オビト。
そう言って趣味嗜好などを恥ずかしがる女性に理解を示し上手く
﹁だよねぇ。オレも修行した後は腹が減って腹が減って﹂
かっているという風に頷いた。
少し恥ずかしそうにはにかみながらそう言うアカネにオビトは分
﹁やっぱり動くと食べる量も多くなっちゃうんですよね﹂
い量ではあるが、オビトにとっては予想の範疇の数だった。
なので全部合わせれば81本という数になる。普通に食べ切れな
りの団子の本数は3本である。
し・よもぎ・醤油・きな粉・ゴマ・三色の9種類だ。そして一皿あた
ちなみにこの店の団子の種類は全部で粒餡・こし餡・白餡・みたら
﹁かしこまりましたー
﹂
﹁そ れ じ ゃ あ 遠 慮 な く。す い ま せ ー ん、団 子 各 種 3 皿 ず つ お 願 い し
してあった。
知っていた。若い肉体だと言う事も加味して路銀はそれなりに用意
そ し て ア カ ネ が 健 啖 家 で あ る 事 も ヒ ヨ リ 時 代 か ら オ ビ ト は 良 く
アカネに勘定を払わせるつもりはなかった。
これはかつて命を救ってくれた事への僅かばかりの恩返しであり、
オビトは数日前に言った通りアカネを団子屋へと誘ったのだ。
!
?
!
﹁ああ、その夢は今でも変わっていないさ﹂
?
229
!
そう、オビトの夢であり目標は火影になる事である。
それは何も珍しい夢ではない。木ノ葉で成長した忍ならば多くが
一度は夢見る目標だ。
だがそれをいつまでも維持し続ける者は少ない。ある者は実力の
壁を知り、ある者は任務で体を壊し、様々な理由で夢を見るのを止め
て現実を直視する様になる。
﹂
それでも火影になる者はやはりいる。それに必要なのは火影にな
るという目標に目指す努力⋮⋮ではない。
ああ⋮⋮﹂
﹁火影になる為に一番大事な事を知っていますか
﹁一番大事な事
じくらい必要で大事な事がある。それこそが││
﹁里と、里に住む人を誰よりも大切に想う気持ち⋮⋮だろ
﹁はい﹂
?
ない。
の人間として受け止める。これが出来ない者は里の長になる資格は
だが、その時に犠牲となった者を書類の上での数字ではなく、一人
あるだろう。
は少数の忍を犠牲にして多くの忍や民を救わなければならない事も
上に立つ人間は冷酷な判断をしなければならない時がある。時に
住む人々を一人の人間だと理解し愛するという事を意味する。
里を理解する。それは里をシステムとして見るのではなく、そこに
いう物を理解している者こそ、火影になるに相応しいのです﹂
でも、ただ強いだけでは火影は務まらない。里を想い里を愛し、里と
﹁強さは、必要です。強くなければ守りたいモノを守る事が出来ない。
塵も変わってはいなかった。それがアカネには嬉しかったのだ。
精神的にも肉体的にも成長している。だが、芯となる大切な部分は微
オ ビ ト は ア カ ネ の 知 っ て い た 小 さ な 頃 か ら 変 わ っ て い な か っ た。
オビトの答えに、アカネは嬉しそうに微笑んで頷く。
﹂
実力は必要だ。弱い影では里を守る事は出来ない。だが、それと同
オビトは一瞬迷うが、すぐにそれに思い至った。
?
もしそんな者が火影になりでもしたら、いずれ木ノ葉は滅びてしま
230
?
うだろう。少なくてもアカネはそう思っている。
﹁それを忘れていないあなたなら、きっといい火影になります。五代
目はもう決まっていますが、六代目はあなたかもしれませんね﹂
オ レ は き っ と 火 影 に な っ て 里 を
﹂
あのでっかい顔岩にオレの写輪眼を刻んでやるん
﹁あ あ。見 て ろ よ ア カ ネ ち ゃ ん
守ってみせる
それで他里に睨みを効かせてやる
﹁ええ、楽しみにしてますね﹂
だ
!
﹁オビト⋮⋮﹂
な、なにアカネちゃん
?
⋮⋮。
﹁お代わり、頼んでもいい
?
いたのだ。
オビトが快く︵
︶承諾してくれたのでアカネは早速お代わりを頼
話している最中も高速で食べていたので団子がすでに無くなって
団子のお代わり催促だった。
﹁あ、はい﹂
﹂
そんな内心慌てふためいているオビトにアカネがした頼み事とは
と心の中で呟きどうにか動揺を抑えようとしている。
アカネちゃんはヒヨリ婆ちゃん、アカネちゃんはヒヨリ婆ちゃん、
何だか憂いを籠めたようなアカネの表情にオビトは動揺する。
﹁え
﹂
に違和感を感じたのでオビトに頼み事をした。
アカネはどこかオビトとナルトが似ているなと考えながら、ふと手
ネは好ましかった。
子どもの様な夢を今も真っ直ぐにぶつけてくるオビトの事がアカ
それはかつてヒヨリが聞いたオビトの今も変わらぬ夢。
!
!
た。
ああ、サスケか。どうしたこんな所に
﹁よおオビトさん﹂
﹁ん
何かオレに用か
﹂
?
サスケとオビトは同じ一族のいわば遠縁同士なので当然知り合い
オビトを訪ねて来たのはうちはサスケであった。
?
もうとして、ふとオビトに近づいてくる人がいたので注文を取り止め
?
231
!
?
?
である。
何か用があって訪ねて来ても不思議ではないが、その内容は予想出
来ないオビトであった。
﹂
﹁いや、カカシの奴を探してんだが⋮⋮ところでオビトさんよ、デート
はいいけどよ流石に犯罪じゃねーか
ちらりとオビトの隣にちょこんと座るアカネを見てそう呟くサス
ケ。
出る所は出ているが、自分とさして変わらない歳の少女と団子屋で
お茶をしている二十台後半の男性。
事案であった。場合によっては一族から逮捕者が出るかもしれな
い。
﹂
恩返し
﹂
﹁おいぃぃ アカネちゃんなんて事言ってくれちゃってんのォ
気付けなくてごめんねぇ
恩返
警務部隊として里の治安を一任されているうちはから犯罪者が出
るとは⋮⋮サスケは心を痛めた。
オレこの子に救われたの
﹁ちげーーよっ これはデートとかじゃなくて
しなの
!
﹁⋮⋮私はてっきりデートかと。おめかしもしてきたのに⋮⋮﹂
!
服装であり、オビトが良く見れば僅かに化粧も施していた。
この違いに気づかない辺りまだまだオビトは未熟であった。
﹁⋮⋮警務部隊に配属される前に犯罪者を、それも一族を捕まえる事
﹂
話せば分かるから
だからその苦無をホルダーに収
になるなんてな。あんたの事、嫌いじゃなかったぜ﹂
﹁違うから
めるんだサスケ君
﹁逃 げ て オ ビ ト さ ん
﹂
!
私 が 囮 に な る か ら そ の 内 に あ な た だ け で も
!
!
!
﹂
言葉の通り演じているのだが。
まるで悲劇のヒロインを演じているかの様である。まあまさしく
!
232
?
!
!
それにおめかししてたのォ
!!
!?
アカネの服装は日向の代表的な胴着や忍衣装ではなく女性らしい
!?
!?
!
﹁話ややこしくすんなよ あんた絶対面白がってやってるだろォォ
!
!!
﹁私の名前は日向アカネです。よろしくね。団子食べます
﹂
いいぞ、ガキが調
﹁うちはサスケだ。悪いが納豆と甘い物は嫌いなんだ﹂
﹁分かった。お前らオレをおちょくってんだな
?
てでも戦いを挑んでいただろう。多分。
﹁で、サスケは何の用があって来たんだ
いだった。
スリーマンセル
﹂
ある。そして大部分を占めるのが、ナルトに負けてたまるかという想
内心ではナルトを認めつつも、心のどこかでは認めまいとする心も
いるようで不気味に感じたほどだ。
していった。気がつけば先を行っているはずの自分の後ろを走って
だがそんなナルトは一緒に任務をする内に目を見張る速度で成長
れば話にならないのが忍だ。
どれだけ負けても勝つ為に努力する根性は認めているが、才能がなけ
そしてサスケの知るナルトとは落ちこぼれの負けず嫌いであった。
良く知っている。
サスケはナルトと同じ三人一組の班であり、その強さも人となりも
⋮⋮﹂
﹁カ カ シ の 奴 を 探 し て い る ん だ。修 行 を つ け て も ら お う と 思 っ て な
アカネとしてはもうちょっとやってもよかったと思っていたが。
ような真似はしなかった。
流石にこれ以上はまずいと思ったのかサスケもオビトをからかう
若干不機嫌そうにオビトはサスケに同じ質問をする。
あ
これがもし仲間や里の民の命が懸かっていたならば必ず命を賭し
しただけなのだ。けっして臆病だとかではない。
勝ち目のない闘いを挑まない。彼は忍として非常に正しい選択を
なかった。
いたオビトだがアカネの強さを思い出して最後の一言は喉から出さ
大人の力という奴を見せ付けてやるとかなり大人気ない事を考えて
唐突に自己紹介に切り替えた二人が自分をからかってると理解し、
子に乗っても大人には勝てないと⋮⋮あ、やっぱりいいです﹂
?
?
それは今回の木ノ葉崩しの一件で更に膨れ上がった。サスケはこ
233
?
の事件にて砂の人柱力である我愛羅を追っていたのだが、その力に屈
し殺され掛けていた。
それを救ったのがナルトだった。圧倒的な砂の我愛羅を相手に奮
闘し、驚くべき力を発揮して最後には撃退してしまったのだ。
その時は素直にサスケも感嘆した。仲間であるナルトの成長に興
奮もしたものだ。
だが全てが終わり冷静に振り返った時、サスケはナルトに助けられ
た事を恥じていた。
これがナルト以外ならばサスケもこうは思わなかっただろう。だ
が何故かナルト相手だとサスケは異常に反応してしまうのだ。
それが何故かはサスケにも分からない。だが昔からナルトにだけ
は負けたくないという想いがサスケの中にはあったのだ。
ナルトには負けたくない。そんなサスケがやるべき事はただ一つ、
修行である。
234
その為に修行相手を探しているのだ。最有力候補であった兄は里
の復旧任務で忙しく、父も簡単に時間が取れる立場にはいない。
そして担当上忍であるカカシに白羽の矢を立てたわけだ。
﹁カカシの奴なら任務だな。里の被害は思ったよりは少なかったけど
それでも平時よりは忙しくなってるからなぁ﹂
﹂
まったくイタチ相手だとああまで態
﹁それなのにあんたはデートとかいいご身分だなオビトさんよ﹂
﹁まだ言うかこのクソガキめ
度が変わるのによ﹂
﹁ふん。まああんたでもいいか⋮⋮あんた、雷遁は使えたっけか
﹁使えねぇ⋮⋮﹂
﹁悪いがオレが使えるのは火遁と水遁と土遁だ﹂
よう。
いのだ。もっと修行すれば更に発展する可能性を秘めていると言え
もうとしているのだ。まだ雷遁を覚えたばかりで応用も出来ていな
サスケはここ最近にカカシ教わった雷遁に関してさらに修行を積
つつもオビトにそう確認をする。
この際オビトで妥協しようと本人が聞いたら噴飯物の思いを抱き
?
!
﹁んだとこらー
﹂
忍術の性質である五大変化には適正というものがある。
大体は生まれ持って一つの性質変化の才能を持っているが、努力に
よって適正を増やす事も不可能ではない。木ノ葉の上忍ともなれば
多くが2∼3の性質変化を有している。
一族ごとに引き継がれる性質もあり、うちは一族は火の性質変化を
生まれついて有している。
この性質変化だが修行して新たに覚える事は確かに出来るのだが、
それを実現する為には相当な修行期間が必要になる。一般的には数
年は掛かるだろう。更には生来の性質変化と合致していないと威力
を保てない場合もある。
その性質変化を下忍になる前に火遁を覚え、カカシに習って一ヶ月
足らずで新たに雷遁を覚えた上に威力も兼ねているサスケは真実天
才という事になる。
ともかく、上忍で三つの性質変化を有しているオビトは十分優秀な
のだ。
今はカカシが覚えていない風を覚えようと努力している所だ。風
の性質変化を覚えればカカシとのコンビネーションが更に高まるだ
ろう。
﹂
まあ、それも今のサスケにとっては意味がなく役に立たない事なの
だろうが。
﹂
﹂
﹁それなら私が教えましょうか、雷遁
﹁⋮⋮お前が
﹁アカネちゃん
﹁⋮⋮本当か
﹂
は役に立てると思いますよ﹂
﹁私も雷遁を使えますし、その応用技もいくつか知っています。多少
も覚えられたらなと思っているところだ。
で強力になる性質を選んで風と雷を更に覚えたのである。後は土で
元々は水の性質変化を持っていたアカネが、水と同時に使用する事
アカネの会得している性質変化は水と風と雷である。
?
235
!
!?
?
?
サスケはアカネの話が信用出来ずにアカネにではなくオビトへと
確認をした。
サ ス ケ は そ の 歳 で は 木 ノ 葉 で 右 に 並 ぶ 者 が い な い 程 の 実 力 者 だ。
下忍になって一年未満だが既に実力は中忍並に至っている。
そんな自分の修行の相手となれる同年代の少女がいるなどサスケ
には俄かに信じがたかったのだ。
﹁ああ、雷遁が使えるのは知らなかったけど、アカネちゃんが強い事は
間違いない。それだけは保証する﹂
オビトはそれだけは誰にだろうと保証する事が出来た。
﹂
口憚る事情さえなければ木ノ葉最強だと大声で叫ぶ事も出来ただ
ろう。
﹂
﹁他にも美貌とか智謀とかも保証してくれてもいいんですよ
﹂
﹁強さと優しさは保証する
﹁おい
﹁⋮⋮﹂
?
任されました
さあ、有望な若人を鍛えるぞ∼
を待たなかったのかと少しだが後悔する事になる。
後に、サスケは何故この時アカネに修行を頼まずカカシの任務完了
!
ろ。今は時間を無駄にしたくないからな、頼んだぜ﹂
﹁ええ
﹂
﹁まあいい。あんたが雷遁が使えるって言うんなら少しは役に立つだ
スケも駄目元でアカネに頼んでみる事にした。
このやり取りで若干、いやかなり信憑性をなくしているが、まあサ
!
この時何故かサスケは猛烈な悪寒を感じたと言う。
!
236
?
!
NARUTO 第十二話
アカネとサスケは木ノ葉にある訓練場の一つに来ていた。ここな
らば大規模な術を使わない限り誰にも迷惑を掛けずに修行をする事
が出来るだろう。
そしてアカネはサスケが望む通り雷遁の修行と、その為に必要な雷
遁の説明を開始した。
﹁雷遁は応用力のある性質です。ただ術として敵に放つだけでなく、
肉体活性に応用する事も出来ますし、形状変化と組み合わせると非常
に効果的です﹂
﹁知っている。オレの雷遁は千鳥だからな﹂
サスケがカカシから習った雷遁は千鳥と呼ばれる術だ。
これはカカシのオリジナルの術であり、今やカカシの代名詞となる
程有名な術でもある。
その正体は電撃を帯びた突きだ。言葉にすれば簡単だが、実際はそ
れ程簡単な術ではない。
雷遁による電撃を片手に集め、肉体活性による高速移動を用いて対
象を貫く。単純だが威力の高い一撃だ。
その分リスクも高い。あまりに高速で動く為に使用者自体の反応
が追いつかない事があるのだ。その場合敵にカウンターを合わせら
れると目も当てられない惨状になるだろう。
写輪眼の様な洞察眼に優れた眼を持っている者や、瞳術でなくても
反射神経に優れた者でないと危険性が高い術である。
更にこの術は性質変化だけでなく形態変化も加えられている術だ。
放電している様に見えるのは雷だからではなく、放電している様に
形態を変化させる事で攻撃の威力と範囲を変化させているのだ。
ま あ こ れ く ら い の 形 態 変 化 は そ れ 程 難 易 度 の 高 い 物 で は な い が。
だが形態変化によって様々な可能性を広げる事が出来る術と言えよ
う。
﹁千鳥ですか。カカシさんに習っただけはありますね﹂
この歳で千鳥を会得する。それは十分に天才の証だとアカネもサ
237
スケを評価する。
﹂
性質変化と形態変化。両方を有する術を持つ忍は上忍でも稀なの
だ。
﹂
﹁では千鳥を更に応用する方法は分かりますか
﹁⋮⋮⋮⋮別の形態変化か
導き出した。
?
千鳥をより極めていけばもっと強くなれる。絶対にナルトに追い
た。
サスケはアカネからの言葉により千鳥の可能性を広げる事が出来
るはずですよ﹂
ています。だったら千鳥を剣状にしたり槍状にしたりする事も出来
すけど。さてさて、千鳥を使えるあなたは形態変化もある程度は修め
﹁またまた正解。まあ他にも色々ありますから正解は一つではないで
な﹂
﹁そ う だ な ⋮⋮ 剣 と か 槍 み た い に 伸 ば し て 攻 撃 範 囲 を 広 げ る と か だ
﹁正解です。さて、例えばどんな形態変化があるでしょうか
﹂
アカネの問題に対して少しだけ熟考してからサスケはその答えを
?
くそ
﹂
﹂
なっていますよ。一旦休憩した方がいいですね﹂
﹁くっ⋮⋮
ないのだが。
サスケのチャクラ量はまだ十分な物ではない。チャクラは身体エ
ネルギーと精神エネルギーを練り合わせる事でチャクラへと転じる。
そしてチャクラの総量はある程度生まれついての資質が物を言う
事が多いが、修行次第で総量を増やす事も可能だ。
今 の サ ス ケ は 修 行 不 足 と い う よ り は 成 長 し き っ て い な い だ け だ。
まだ十三歳の少年なのだから当然の話だ。
238
?
つかれてたまるか。そんな思いでサスケの修行が始まった。
﹁はぁ、はぁ
!
﹁は い、ス ト ッ プ。チ ャ ク ラ が 少 な く な っ て 余 計 に 形 態 変 化 が 雑 に
!
サスケの修行は難航していた。と言ってもまだ一日も経ってはい
!
とにかく、チャクラ量がまだ十分でない為に千鳥の練習も難航して
いるのだ。
千鳥を発動してそこから形態を変化させようとしているのだが、そ
の千鳥自体サスケは一日に二度が限界とカカシに言われているのだ。
本来の千鳥と違い肉体活性を使わずに威力も抑えているのでチャ
クラ消費も大分少ないが、それでも何度も練習していればすぐにチャ
クラも尽きるというものだ。
チャクラそのものを形態変化させるのは比較的簡単であり、剣状や
槍状くらいならばサスケも一時間も経たずに会得出来るだろう。
だが性質変化と形態変化を組み合わせた瞬間にその難易度は跳ね
﹂
上がる。チャクラが足りずに練習回数が足りない現状では流石の天
才も一日では会得出来なかったようだ。
﹁⋮⋮そう言うお前は││﹂
﹁お前じゃなくてアカネですよ﹂
﹁⋮⋮アカネは千鳥の形態変化が出来んのかよ
サスケのぶっきらぼうな話し方にアカネは昔の大切な友達を思い
出す。
彼もサスケと似た様な感じだったなぁ、と遥か過去でありながら色
あせない思い出に心を馳せて、アカネはサスケの策略に乗ってあげ
た。
今のサスケは写輪眼を発動していた。これでアカネが千鳥の更な
る形態変化を使用した所を見てコツを盗むつもりなのだろう。
アカネに出来なければ出来ないでその時はアカネが修行相手に相
応しくないとして一人で修行するだけだった。
﹁出来ますよ。はい﹂
そう、本当に簡単そうに言って、簡単にアカネは千鳥を発動して形
態を変化させた。
剣状にしたり、槍状にして伸ばしたり、果ては手から離して投擲し
﹂
て遠くの岩を破壊したりまでした。サスケの眼はまん丸だ。比喩だ
が。
﹁とまあご覧の通りですね。師としては合格ですか
?
239
?
﹁⋮⋮カカシよりは使えると思ってやる。⋮⋮明日も暇か
﹁ええ。暇な時間はいつでもお相手してあげますよ﹂
﹂
相変わらず上から目線だが、これでも思春期の少年には精一杯のお
願いなのだ。
ア カ ネ と し て は そ ん な 態 度 に は 慣 れ た も の で む し ろ 微 笑 ま し く
思っていた。他人の修行に付き合うのも好きなので特に不満に思う
事はなかった。
﹁じゃあまた明日に││﹂
﹁で は 今 日 は 体 力 作 り の 為 に 走 り こ み を し て、そ の 後 疲 れ た 時 に も
ちゃんと動ける様に組手の修行をしましょう。それが終わればチャ
クラを回復してあげますからまた千鳥の修行に戻りますかね。最後
は体をほぐす為に軽くランニングしながら帰りましょうか。さ、行き
ますよ﹂
﹁え、ちょ、ま││﹂
何度も何度も千鳥の形態変化の修行をした為にチャクラが底を突
きかけ、わざわざ疲れる必要もないほどに疲れているサスケ。
そんなサスケにアカネの言葉は寝耳に水だった。軽い修行ならま
だともかく、アカネの言う内容を判断するに明らかに軽くなどない。
思わず抗議の言葉を発しようとしたサスケだったが、次のアカネの
台詞でその言葉は胸の中にしまわれる事となった。
﹂
﹁ナルトならこなせた修行なんだけどなぁ⋮⋮﹂
﹁何してる早く行くぞアカネ
に思春期真っ盛りの少年であった。
我 が 強 い が 扱 い や す い。そ れ が ア カ ネ の サ ス ケ に 対 す る 評 価 で
あった。
﹁ただいま⋮⋮﹂
﹂
﹁おかえりサスケ遅かったわね⋮⋮って、あなたボロボロじゃない。
どんだけ修行したのよもう
サスケの帰りを待っていた母のミコトはサスケのあまりのボロボ
240
?
ナルトに出来て自分に出来ない。それが我慢ならないというまさ
!
!
ロな姿に驚愕していた。うちはの家紋が入った衣服も見る影もない
程だ。
あの後、一通りの修行を終えたサスケはボロボロになってどうにか
自宅まで帰ってきた。
あの後徹底的にしごかれたサスケ。走り込みで周回遅れという屈
辱を受けた上に組手でもぼこぼこにされたのだ。
チャクラを回復してもらってからの修行で千鳥の性質変化をある
程度会得したのは流石だったが、それがプラスに思えないほど徹底的
に力の差を見せ付けられていた。
悔しさはあったが、アカネに修行をつけてもらえば強くなるという
実感はあった。今日だけで一段も二段も成長した自覚があるからだ。
﹁取り合えず風呂に入ってくる⋮⋮﹂
﹁あ、待ちなさい。父さんが呼んでたわよ。先に挨拶してからにしな
さい﹂
﹁父さん帰ってたのか。分かったよ﹂
父のフガクは一族の長であり最近は木ノ葉崩しの影響で家にいな
い時間も多い。
そんな父がどうしたのだろうかと思いながらも、サスケは父のいる
だろう私室へと赴いた。
﹁失礼します﹂
﹁うむ﹂
親子でありながらも礼節を弁えた態度でサスケは入室する。
フガクは家族想いではあるが、それと同じくらいに立場と言うもの
を重視する性格だ。
うちは一族の長としての威厳は家族に対しても発揮しなければな
らない物として出来るだけ家族を贔屓せずに対応している。
そんな厳格な父の私室にボロボロの格好で入るのはサスケも気が
引けたが、修行に対する理解は忍の一族ゆえに当然高いのでそこまで
怒られる事もないだろうと思い直していた。
﹁それは⋮⋮修行か。休まず良く鍛錬している様だな。その調子で次
の中忍試験にも励むんだぞ﹂
241
﹁ありがとうございます⋮⋮次の
﹂
⋮⋮そうですか。すみませんでした﹂
﹂
﹁あ⋮⋮は、はい
分かりました
﹂
辺も意識して修行するといいだろう﹂
の下忍は力押しという印象が強まってしまった。これからはそこら
戦術の見事さが目立ちすぎたのも原因だな。おかげでお前を含む他
ろうし、お前は十分に合格する対象に選ばれていた。後はシカマルの
こった事も原因だ。従来の中忍試験ならばまだ試験は続いていただ
﹁今回は途中で木ノ葉崩しというあまりにも大きなアクシデントが起
動揺したままのサスケにフガクは言葉を掛けた。
スケはフガクの言葉にまたも驚愕する。
中忍試験失格に関して叱られる為に呼び出されたと思っていたサ
﹁え
﹁あまり気にするな﹂
だ。
というのに自分は、という思いが強まり自分自身が情けなくなったの
う目標も大きく遠ざかった気がしていた。兄が十歳で中忍になった
そして父の期待を裏切ったばかりか、尊敬する兄を乗り越えるとい
しては中忍試験にかなりの自信があったのだ。
フガクの言葉はサスケに相当なショックを与えていた。サスケと
﹁っ
来たのは一人だけ。奈良一族のシカマルのみだ﹂
﹁まだ正式な発表はされていないが、此度の中忍試験で中忍に昇格出
を嬉しく思う暇もなく、サスケは父の言葉に疑問を抱いた。
フガクはやはりサスケの姿にも理解を示してくれたようだ。それ
?
!
明日ならば修行の相手が出来るが、どうする
﹂
﹁話はもう一つある。ようやくオレの仕事にも休日が取れそうでな。
相応の態度だろう。
まり褒める事をしない父親に褒められたとなれば年頃の少年として
頭を下げつつもその表情はどこか嬉しそうだ。不合格とはいえあ
れないままに礼をした。
フガクが慰めてくれているのだと理解して、サスケは動揺を抑えら
!
?
242
!?
?
﹁本当父さん
﹂
まあカカシならば問題はないだろうが﹂
?
﹂
﹁それは本当か
﹂
﹁うん⋮⋮日向アカネって││﹂
ところが相手はフガクが仰天する程の人物だった。
士が共に修行しているならば話は分かるという物だ。
案し、日向の天才である日向ネジを思い出す。うちはと日向の天才同
だがサスケが個人で学ぶ様な相手や繋がりがあっただろうかと思
はいる。
葉結成以来から切っても切れない関係で、合同で訓練をしたりもして
どうしてそこで日向の名前が出てくるのか。うちはと日向は木ノ
﹁日向
﹁いや、日向の⋮⋮﹂
﹁ふむ。カカシか
﹁あ⋮⋮ごめんよ父さん。明日は他に修行相手が⋮⋮﹂
沈んでしまう事となった。
だがそこでサスケは明日の予定が入っている事を思い出し、途端に
たのだ。それを忘れる程に嬉しかったのだろう。
下忍になってからは出来るだけ忍として対応する様に心掛けてい
まう。
フガクの言葉に嬉しくなり思わずサスケの喋り方も元に戻ってし
!
﹁⋮⋮は
﹂
るだろう﹂
﹁いや、アカネに修行をつけてもらうといい。その方が良い経験とな
﹁あの、明日は断って父さんとの修行を││﹂
﹁そうか⋮⋮﹂
も行かず、首肯するしか出来なかった。
やばい、怒られるのか。そう思ったサスケだが父に嘘を吐くわけに
にしか表に出さなかったのは流石と言えよう。
切る前にフガクはサスケに詰め寄った。この時内心の驚愕を最小限
恐る恐ると修行相手の名前を告げたサスケが最後まで言葉を言い
?
フガクのまさかの返事にサスケは呆気に取られるしかなかった。
?
243
?
この父が自分よりも他人、それも下忍を持ちあげるような言動をす
そ う い う 疑 問 が サ ス ケ の 中 に 巡 る。
るなどどうして思えるというのか。
一 体 ア カ ネ は 何 者 な ん だ
﹂
そしてその疑問をサスケは父にぶつけてみる事にした。
﹁アカネって、何者なんですか
﹁⋮⋮⋮⋮日向の天才児だ﹂
﹁それはネジの││﹂
﹁そ、そんなに
﹂
数える程だろう。今のお前が負けてもそれは仕方のない事だ﹂
﹁サスケ。アカネに負ける事は恥ではない。⋮⋮アカネに勝てる忍は
方ないと思いつつもサスケを慰める言葉を紡ぐ。
そんなサスケの感情の変化を見抜いたフガクはこればかりは致し
だ、と。
歳は一つしか違わない。だというのにどうしてこうも差があるん
らせていった。
フガクのアカネを手放しで褒める言葉にサスケは徐々に嫉妬を募
フガクは今考え付いた言い訳でどうにか対処する。
故にあまり表立ってはいなかったがな﹂
﹁そのネジなど歯牙にも掛けぬほどのな。ヒアシ殿の秘蔵っ子だった
?
そ嫌と言うほどに教え込まれたものだ。
だがそれでも父がそこまで言うほどとは思ってもいなかった。ア
カネに勝てる忍は木ノ葉でも火影やうちはと日向の長などの一部の
忍のみなのかと驚愕したのだ。
ちなみにフガクはわざとぼかした言い方をしている。数える程と
は現存する忍の中からとは一言も言っておらず、歴史上の忍を含めて
の事だというのは悟られないように話したのだ。
﹁そしてアカネがそれだけ強いのにも理由がある。だがこれに関して
は里の最重要機密だ。ここまで話した事でさえ本来は有り得ない事。
故に、これらの情報は誰にも言うんじゃないぞ。もちろんアカネ本人
にもだ﹂
244
?
アカネが強い事はサスケも知っていた。今日の修行だけでそれこ
!?
﹁は、はい。分かりました﹂
や は り 甘 く な っ た か。そ う 自 嘲 し な が ら フ ガ ク は 溜 め 息 を 吐 く。
ここまで話すつもりはなかったのだが、やはりアカネがサスケのほぼ
同年代というのがネックだったのだ。
アカネという存在に関わってしまえば誰もが自分と比較してその
差を確認してしまうだろう。それが同年代ならば自分への劣等感で
苛まれる可能性もある。
だがアカネが十四歳だというのは完全な詐欺なのだ。それなのに
詐欺と比較して落ち込んで歪んでしまうのは流石に酷というものだ
ろう。
﹁話は以上だ。明日も頑張りなさい。後は風呂に入って食事をしてか
失礼しました﹂
らゆっくり休むといい﹂
﹁はい
サスケが退室してしばらくしてからフガクは難しい表情をから僅
かに破顔した。
﹁アカネの⋮⋮あのヒヨリ様の目に適う、か。⋮⋮ふふ、流石はオレの
⋮⋮いや、流石はサスケだ﹂
フガクはヒヨリという伝説の忍に見出された自分の子を誇らしく
走 れ 走
思い、その夜は久しぶりに秘蔵の酒を出して晩酌をする事にした。
◆
サスケがアカネと修行する様になって十日が経った。
体 力 な く し て 忍 が 務 ま る か
それまでの修行の内容の一部をダイジェストで送ろう。
﹂
!
後ろから千鳥刀振り回しながら追ってくんじゃ
﹁何 は と も あ れ ま ず 体 力
れー
﹂
﹁うおおおおおお
ねー
!
﹁なに
うおぉぉっ
﹂
﹁あ、そこから先はトラップゾーンになってるから気をつけてねー﹂
!
!?
245
!
!
!
!?
﹁ただ漠然と肉体活性をするのではなくどこを活性化させるか意識し
なさい。そうすればより効率的に肉体を強化する事も出来るし、視力
と神経系を強化すれば写輪眼を頼らずとも千鳥を安定して使用する
﹂
事も出来ます。そうすればチャクラ消耗も抑えられるでしょう﹂
﹁こうか
何と違うって
﹂
?
きますよー﹂
?
﹁ぐぅ⋮⋮今の、なんだ
﹂
?
何で言い淀んだんだ
の力を利用するんです﹂
﹁
﹂
?
﹁いえこれは私の⋮⋮オリジナル⋮⋮ですよ。合気と言いまして相手
た⋮⋮それも柔拳なのか
写輪眼で見てたのに、体が反応出来なかっ
﹁世界の違いへの愚痴さ⋮⋮。ま、気にしない気にしない。さあ次行
﹁ん
に。││とは大違いだよホント﹂
か、高すぎる力ですから。とにかく色んな応用法を考えておくよう
﹁おお、飲み込み早いですね。チャクラは応用力が高い力⋮⋮という
!
﹁雷遁のチャクラを全身に纏う事が出来れば飛躍的にスピードと攻撃
力と防御力が上げられます。雷により神経伝達スピードを上げる事
で高速戦闘を可能とし、攻撃力も千鳥を知るあなたなら予想出来るで
﹂
よし⋮⋮
﹂
しょう。何より雷遁チャクラで防御力も高まるという三点セットで
お得な術
﹁それはすごいな⋮⋮
!
ガイさんからいい物を貰ってきましたよ
﹁それを⋮⋮先に⋮⋮言え⋮⋮﹂
﹁サスケ
﹂
﹂
!
!
これで修行もより捗りますね
!
!
特注の重りです
﹂
﹁ただし馬鹿みたいにチャクラを消耗するのでご利用は計画的に﹂
!
!
!
﹁ま、まさかそれは
﹁はい
!
246
?
﹁ほらほら細かい事は気にせずに掛かってきなさい﹂
?
﹁オレがこんな暑苦しい物を⋮⋮
﹂
このアイテムは身体能力の大幅な強化が見込め、その
しかも
﹂
あんな物をつけて今まで闘っていたのか
上体力も付くのでチャクラ量も自然と増すという優れ物
戦闘中に外す事で﹃なに
納得いかねー
ナルトならこの程度では││﹂
﹁何でこんな馬鹿がオレよりも強い⋮⋮
﹁もう限界ですか
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁う、うう﹂
﹁良し立て。疲れた時にする修行こそ真の修行﹂
﹁そうか
まだ千鳥も三発撃つのが限界なんだがな﹂
﹁サスケも大分成長しましたね﹂
いったのだった。⋮⋮絆も高まっているはずだ。
と、この様に非常に濃密な修行をした二人はその絆と実力を高めて
﹁はっはっは。冗談ですよ冗談。今は少し休みなさい﹂
﹁こ、殺される⋮⋮﹂
!
﹁何を言う
!
﹄と相手を驚愕させる効果も││﹂
!
﹁あ、駄目だコレ。仕方ないなぁ。チャクラちゅ∼にゅ∼﹂
!
!
!
?
る。
﹁それだけ撃てたら普通に中忍のチャクラは超えてると思うけど
﹁⋮⋮そういやそうだったな﹂
﹂
に無駄に出ていた余計なチャクラ消費が少なくなったおかげでもあ
あとチャクラコントロールが高まったおかげで千鳥を発動するの
になってるのは相当チャクラ量が増えているという事なのだが。
が原因であり、実際には修行前は二発が限界の千鳥を三回撃てるよう
だがまあそれはサスケが修行の濃さで色々と麻痺してしまった事
でそこまで成果が出たとは思えなかったのだ。
強くなったとは思うが、毎回修行でボロボロになる上にたった十日
成長したという実感はない。
修行の休憩中にアカネにそう言われるも、サスケとしてはそこまで
?
247
!
!?
サスケはかつてカカシが千鳥は四発が限界と言っていたのを思い
だす。上忍のカカシでそれなのだから下忍にして十三歳という若さ
で三発も撃てれば十分過ぎると言っても過言ではないだろう。
﹁まあチャクラは上忍クラスかもしれませんが、今のあなたではその
端っこに触れた程度のものです。チャクラを多くするなら基礎鍛錬
を欠かさない事ですよ﹂
﹁分かってる﹂
それは本当に嫌と言うほど分かっていた。この十日間で体力が尽
きずに終わった試しがなかったからだ。
目の前の体力おばけは汗を掻く程度で済んでいたというのに自分
がこれでは沽券に関わる。負けず嫌いのサスケは女に負けてなるも
のかと奮起していた。
アカネはそれを見て女だとこういう時に便利だとほくそ笑んでい
たが。
﹂
綱手の付き人かな
︶
木ノ葉の中でも知らない事などいくらでもあるのだから当然だ。
現状だとほぼ確実にサス
なので特に気にする事なく次の修行について考えていた。
︵サスケとナルトを一度闘わせてみるか
が、サスケを見ている時にマダラが思い浮かぶ。
柱間とマダラと同じこの現象。そしてナルトを見ている時に柱間
れと同じ現象がサスケにも出たのだ。
それはナルトのチャクラが二重になって見える時がある事だが、そ
アカネは二人に関して気になる事があった。
ケが勝つだろうけど、ナルトの爆発力も侮りがたい。それに⋮⋮︶
?
248
﹁さーて今日の修行は⋮⋮っと、どうやらナルトが帰って来たようで
すね﹂
﹁ナルトが
︵はて、誰だこれ
?
ア カ ネ も 綱 手 の 交 友 関 係 を 全 部 知 っ て る な ど は 流 石 に な か っ た。
?
一つは綱手と分かったが、もう一つは誰かは判別が付かなかった。
そ し て 二 人 と 一 緒 に 別 の チ ャ ク ラ が 同 行 し て い る の も 察 知 し た。
アカネはナルトと自来也のチャクラを感じ取りその帰還を知る。
?
この感覚は何なのかをアカネは知りたかった。もしかしたら二人
の転生体なのかとも思ったが、柱間が穢土転生で口寄せされたからに
はその可能性も低い。
取り合えず二人をぶつけてみたらもしかしたら分かるかもしれな
いし、二人をぶつける事は両者の成長にも良い影響となるだろうとの
考えだ。
⋮⋮いいぜ。オレもナルトと闘ってみたかったところだ﹂
﹁良し。サスケ、ナルトと一度組手をしますよ﹂
﹁なに
サスケはナルトと一度闘ってみたかった。任務の中や中忍試験で
どんどんと成長するナルトに対して今までとは違うライバル心が芽
生え出していたのだ。
そしてこうして強くなった今、その成果を計る事が出来る相手を求
めていたというのもある。アカネ相手ではいまいちそこら辺が掴み
にくいのだ。
﹁では早速行きますか﹂
﹁ああ﹂
二人は早速ナルトの所へと移動する。どうやらナルトは里の奥へ
と向かっているようだ。恐らく綱手を木ノ葉の重役達の所へ連れて
行っているのだろう。
︵あの綱がとうとう火影か。感慨深いなぁ︶
アカネは綱手と最初に会った時の事を思いだす。
あれはまだ綱手が生まれたばかりの事だ。その時からアカネは綱
手の事を知っていた。何故なら綱手は千手柱間の孫だからだ。
初 孫 が 出 来 た 時 の 柱 間 の 喜 び よ う を ア カ ネ は 今 で も 思 い 出 せ た。
それはもうジジバカの顔をしていたものだ。
柱間が孫にべったりだったおかげで柱間の賭け事好きを綱手が受
け継いでしまったのは残念だったが。
そうして思い出に馳せている内に、アカネは少しだけ綱手と会う事
を躊躇する。それはかつての苦い記憶が原因だった。
綱手には歳の離れた弟が一人いた。名前は縄樹。だが彼はもうこ
の世にはいない。戦場で命を落としたのだ。かつての戦国の世と比
249
?
べると遥かにマシになったが、それでも死ぬ時は死ぬのだ。
縄樹が死んだ綱手は大層落ち込んだが、そんな彼女の心を救ったの
がダンという青年だ。ダンと綱手はすぐに恋人となり仲睦まじく過
ごしていた。
それを見てアカネも⋮⋮ヒヨリもホッとしたものだ。縄樹が死ん
だ時の綱手は見ていられなかったのだ。
だが⋮⋮忍びの世は残酷だった。綱手の心の拠り所となっていた
ダンも縄樹と同じ様に戦場で命を落としてしまったのだ。
その時綱手は医療忍者としてダンと同じ小隊にいたが、ダンを癒す
事は出来なかった。
腎臓がほぼ丸々消し飛ぶ程の致命傷だったのだ。当時二代目三忍
と謳われていた医療忍術のスペシャリストの綱手も失われた臓器を
復活させる事は不可能だった。
だがヒヨリならばそれは可能だった。医療忍術を超えた再生忍術。
それならばダンの命を救う事は出来た。自分がいればダンを助ける
事が出来たのではとヒヨリは自責の念に駆られたものだ。
当時ヒヨリは別の戦場で他の忍達を助ける為に奮闘していた。多
くの忍が命を救われたのはヒヨリのおかげであり、ダンを助けられな
か っ た か ら と 言 っ て 自 分 を 責 め る 必 要 は な い。そ れ は ア カ ネ も 分
かっている。
どれだけ強くともアカネは神でも全知全能でもない。全てを救う
など到底不可能なのだ。
そして神ではない人間だからこそヒヨリにも好き嫌いというもの
が あ る。綱 手 は 大 事 な 親 友 の 大 事 な 孫 だ。そ れ に 肩 入 れ し た い と
思っても不思議ではないだろう。
しかももう一人の孫、綱手にとっての弟を失っているのだ。残され
た綱手を守ってやりたかったのだ。体だけでなく、その心も。
綱手はダンが死んだ時に血液恐怖症という精神的な病を患ってし
まった。もう第一線で働くのは厳しいだろう。
あれから長い年月が経っているから既に克服している可能性もあ
るが⋮⋮。せめて時の流れが綱手を癒してくれていたらとアカネは
250
願っていた。
251
NARUTO 第十三話
アカネ達がナルトを目指して移動しているとやがて火影室へと辿
り着いた。
どうやら大分前にナルト達は綱手を重役達に出会わせていたよう
だ。まだ正式発表はされていないが既に綱手は五代目火影として就
任していた。
そして五代目となった綱手は重要な話があるという事でナルトと
サスケを招集する。そこに丁度アカネ達も到着したようだ。
三代目はどうしたんだカカシ
﹂
丁度いい所にいたな。五代目様がお呼びだぞサスケ﹂
サスケを呼ぶ為に火影室から出て来たカカシとすぐに出会ったの
だ。
﹁ん
﹁五代目
ういないだろうけどね﹂
?
﹁う⋮⋮分かったよ﹂
んまり調子に乗ってると怒られるよ
⋮⋮特にフガクさんに﹂
﹁お前ね⋮⋮少しは上司に気を使いなさいよ。火影様だよ火影様。あ
﹁⋮⋮それで、五代目とやらがオレに何の用だ
﹂
たのが異例だったんだよ。ま、三代目ほど治世が巧みだった火影もそ
まった為の一時的な引継ぎだったんだ。ここまで長く里を治めてい
﹁三 代 目 様 は 引 退 な さ れ た ん だ。元 々 四 代 目 が 早 く に な く な っ て し
?
だようだ。
?
だ。
カカシに疑問にアカネは胸を張って答えた。どや、と言わんばかり
﹁それはもちろん。私がサスケの師匠だからです﹂
などあったのだろうか、と。
カカシはサスケの隣に立つアカネに疑問を抱く。この二人に接点
﹁ところで⋮⋮なんでお前とアカネが一緒にいるの
﹂
だがカカシがフガクの名前を出したので流石のサスケも口を噤ん
以外には基本的に敬語を使わないのがサスケだ。
相手が担当上忍だろうが火影だろうが自分が認めて尊敬する相手
?
252
?
?
﹁え
アカネが
﹁⋮⋮まあな﹂
サスケの
⋮⋮ほ、本当なのかサスケ
!
﹂
?
﹁ナルトも
一体なんだってんだよ⋮⋮﹂
﹁ええ分かりました﹂
ケだからさ﹂
﹁ま、アカネは少し待っててくれるか。呼ばれてるのはナルトとサス
う事を知られるのが嫌なのであった。
基本的に捻くれた少年であるサスケは本人に気になっているとい
なかった。
とも疑問の当人であるアカネがいるのにそんな話題を出す事は出来
だがその疑問を素直にぶつけられるサスケではなかった。少なく
﹁⋮⋮﹂
ていたのだ。
父は日向の天才児と言っていたが、それだけではないような気がし
気になるのだ。
共にアカネを知っており、そして一目置いているという事実が非常に
ガクと担当上忍にして上忍の中でも抜きん出ているカカシの二人が
それだけならここまで疑問には思わなかっただろうが、父であるフ
何も知りはしない。
か っ て い る。人 が 良 い の も 分 か る。だ が そ れ だ け だ。そ れ 以 外 に は
一 体 こ の 女 は 何 者 な ん だ、と。日 向 の 一 族 で、強 い と い う 事 は 分
きくなった。
そんなカカシの言葉にサスケが以前から抱いていた疑問が更に大
﹁そうか⋮⋮運が良かったなサスケ﹂
事件なのだ。
アカネがヒヨリであると知っているカカシからすれば驚いて当然の
日 向 ヒ ヨ リ が 弟 子 を 募 集 す れ ば 全 国 か ら 数 多 の 忍 が 募 る だ ろ う。
スケを弟子にした。これはちょっとした事件である。
サスケの返事にカカシは目を大きく開けて驚く。あのアカネがサ
!
残されたアカネはナルトが呼ばれた理由はともかく、サスケが呼ば
そうしてサスケとカカシは火影室へと入っていく。
?
253
!?
れた理由が分からなかったのでそれについて思考していた。
ナルトならば恐らく暁に関する事だろう。暁がナルトの中にいる
九尾を狙っているのは明白。ならば当の本人にもそれを話しておく
事は必要だろう。
だがサスケに関しては想像出来ないでいた。ナルトと共に呼ばれ
ているという事はもしかしたら暁は関係のない事柄なのかもしれな
い。
しかし火影室には自来也もいるようなのだ。それが余計に暁関連
の話を想像させていた。
﹁ま、気長に待ちますか﹂
結 局 考 え て も 仕 方 な い の で 今 は そ う す る し か な い と い う 結 論 に
至ったようだ。
アカネは近くの椅子に座って話が終わるのを待つのであった。
﹂
!
254
◆
火影室にてサスケは五代目火影の綱手と初対面する。そして僅か
に驚いた。
今の若い忍は火影と言えば老人である三代目火影を真っ先に思い
浮かべるだろう。それはサスケも同じだ。
だからこんな若い女性が五代目火影だとは思ってもいなかったの
だ。
もっとも、綱手の見た目は確かに二十台程だが実際は自来也と同じ
く五十一歳というとても若いとは言えない年齢なのだが。
これは綱手が老いるのが嫌という何とも女性らしい理由により特
別な術を用いて見た目の年齢を自由に変化させている為だ。
言うなれば若作り婆さんなのだが、それを本人の前で口にすればど
うなるかは自来也に聞くと懇切丁寧に教えてくれるだろう。
﹁良く来たな。お前がうちはサスケか﹂
久しぶりだなサスケ
﹁ああ⋮⋮。あんたが五代目火影⋮⋮様か﹂
﹁よお
!
﹁おう。それで、一体オレになんの用なんですか
﹂
早くナルトと勝負をしたいサスケは速攻で話を終わらせようと用
件を聞きだし始めた。
﹁ふむ⋮⋮。あまり良い話ではないが、コレに関しては早い内に知っ
ておいた方がいいだろうと思ってお前達をここに呼んだ﹂
そう言って綱手は話を切り出した。
暁。その組織がナルトを狙っているという話を。
現在自来也とアカネが調べて入手した限りの暁の情報と危険性を
説明し、ナルトが狙われている事を伝える。 事実、ナルトが自来也と共に綱手捜索の旅に出た時に暁に襲われた
のだ。その時は自来也が撃退して事なきを得たが、一歩間違えればナ
ルトは暁の手に落ちていただろう。
﹁そして暁が次にナルトを狙ってくるのは三、四年後だと言う情報が
入った。その間にナルトには徹底的に強くなってもらう。お前が強
くなる事が暁への一番の抵抗だからな﹂
なるほど。確かにその通りであるし、ナルトが危機的状況である事
聞いてりゃオレ
も暁とやらの危険性も理解は出来た。だがそれでも分からない事が
サスケにはあった。
﹂
﹁それとオレにどういう関係があるって言うんだ
の話は一切出てこないようだが
同じ班の仲間だが、それを言うならここにいない最後の一人である春
野サクラもそうだ。
だがサクラは呼ばれずに自分は呼ばれる。それがサスケには腑に
落ちなかった。
﹂
﹁お前も無関係の話ではないからだ。⋮⋮暁には大蛇丸という奴がい
てな﹂
﹁大蛇丸
サスケはどこで聞いたのかを思いだそうとしている内に、答えを綱
手が口にした。
255
?
?
そう、これまでの話とサスケに関わりがないのだ。確かにナルトは
?
初耳、いや何処かで聞いた事がある名前だった。
?
﹁二代目三忍、いや元をつけた方がいいな。そいつは木ノ葉の抜け忍
だ﹂
﹂
それを聞いてサスケも思いだした。かつて忍者アカデミーで授業
に出た事のある名前だと。
﹁その大蛇丸がどうしたって言うんだ﹂
﹂
どういう事だってばよ綱手婆ちゃん
﹁奴はお前を狙っている﹂
﹁なに
﹁なんだって
人の体を乗っ取ろうなんて何様だそいつ⋮⋮
!
る可能性もより高まる事になる﹂
﹁ちっ⋮⋮
﹂
た力をいつ元に戻すかも分からない。そうなればお前が連れ去られ
も今のお前程度が百人いても相手にならない奴だ。それに抑えられ
﹁今の大蛇丸は本来の力の半分程度も発揮出来ない状態だが、それで
行った時にこぼした言葉から分かった事だった。
それは大蛇丸が綱手にアカネに封じられた点穴の治療を依頼しに
サスケを狙っているという事を。
大蛇丸が不死の研究の末に開発した禁術・不屍転生。その器として
ふしてんせい
そんな二人に綱手は知り得る限りの情報を伝える。
に驚愕を顕わにした。
サスケも、今までの話が良く理解出来ずにいたナルトも綱手の言葉
!
て暁だの大蛇丸だのに捕らえられては意味がない。私達も里の外で
﹁ほう、いい気概だ。とにかく、今お前達を下手に任務などで外に出し
ちにしてやる﹂
﹁ふん⋮⋮上等だ。その大蛇丸とやらがオレを狙ってくるなら返り討
方法だからな﹂
つもりはないが、ナルトと同じ様にお前が強くなる事が一番の自衛の
だ。私達も里の仲間であるお前をそう簡単には大蛇丸なんぞに渡す
﹁と い う わ け で だ。お 前 も 乗 っ 取 ら れ た く な け れ ば よ り 強 く な る 事
して憤慨していた。
当然サスケも自分の体を狙っているという存在を不気味に思いそ
誰しも自分の体を他人に渡したくはないものだ。
!
256
!?
!?
オ レ っ て ば す っ
まで常にお前達を守れるわけではないからな。だからしばらくは里
の中で修行に励んでもらう﹂
﹁え ー そ れ じ ゃ あ 任 務 と か 出 来 な い っ て 事
やろうと思ってんのによー
﹂
げー難しい任務を次々とこなして里の皆を認めさせて火影になって
!?
﹂
かったな
﹂
これはS級任務だ。分
オレに任せとけ綱手の婆ちゃん
!
望むところだった。
﹂
⋮⋮っと、ちょっと待った婆ちゃん
どうしたナルト
﹁よーし、やるぞー
﹁ん
﹂
こ こ に は サ ク ラ
﹂
!
﹁任 務 っ て ん な ら オ レ 達 第 七 班 全 員 の 出 番 だ ろ
﹂
サクラちゃんはどうすんだってばさ
カカシ、誰だそいつは
ちゃんがいねーじゃん
﹁サクラ
!
なので第七班の担当であるカカシに説明を任せた。
全く知らなかった。
ナルトの言う事も至極もっとも。だが綱手はサクラという存在を
?
!
!?
?
!
暁や大蛇丸に負けないくらいに強くなる。それはむしろサスケの
いた。
そう言うサスケも綱手の命令を聞いてうっすらと笑みを浮かべて
!
暁や大蛇丸に負けないくらいに強くなれ
﹁これこそがその任務だ。私からお前達に任務を言い渡す。三年間で
たが、今では誰よりも守りたい存在と思っている。
と認めていた。出会ったばかりの当初は馬鹿なガキという感想だっ
綱手はナルトと出会い火影になるまでの経緯でナルトを本物の男
こか微笑ましく感じていた。
ナルトだが、綱手にとっては弟の様な存在なのだ。そういう言動もど
そんなナルトを綱手は優しく微笑んで見ていた。生意気で馬鹿な
のは御免なのだ。
りたいナルトは修行に励む事は反対ではないが、任務を受けられない
綱手の言葉にすぐに反感の意思を見せたのはナルトだ。火影にな
!
!
﹁ウスラトンカチが⋮⋮どれだけ単純なんだお前は﹂
おっしゃー
﹁S級⋮⋮
?
?
257
!
!
?
﹁我々第七班の最後の一人である春野サクラ。今はまだ下忍の域を出
ておらず正直力不足は否めませんが、頭脳は明晰でチャクラコント
ロールも高く、そして根性があります﹂
意味深な目線を送りながら綱手にサクラの説明をするカカシ。
その目線とチャクラコントロールに長けて根性があるという説明
を聞いて綱手はカカシの言いたい事を理解した。
﹂
﹁分かった。同じ班という事ならそのサクラとやらにも同じ任務を受
話が分かるぜ婆ちゃん
けてもらう﹂
﹁おお
もらう﹂
どうしてだよ
!?
答えたのはサスケだった。
?
味方に危機を招く事になる﹂
﹂
﹁そんなのオレとサスケがいりゃあどうとでもなるってばよ
だろサスケ
﹂
もし五代目が言った様な状況になっ
﹁いや、オレも五代目の意見に賛成だ﹂
﹁サスケ
﹁このバカ、少しは頭を使え
﹂
そうなった
お前はそうしたいのか
てオレ達が死んだら残されたサクラは誰が守るんだ
⋮⋮それは﹂
らサクラも死んで終わりだろうが
﹁っ
!
!?
!?
そう
可能性は非常に高い。そこに弱者がいればそれだけで自分はおろか
﹁そうだ。お前達と同じ班のままいるという事は、暁や大蛇丸と戦う
﹁⋮⋮弱ければ危険だからだ。そうだろ五代目
﹂
綱手の厳しい言葉に反感を覚えるナルト。そしてナルトに対して
﹁えー
﹂
判断したら、その時点で春野サクラの任務は終了。別の班へ移動して
﹁ただし、サクラの修行は私がつける。それに着いてこれないと私が
!
!
!?
!
!?
死ぬのならばまだいい。だがサクラが、仲間が死ぬのは何よりも痛
かった。
ナルトが消沈したところで今まで黙っていた自来也が溜め息を吐
258
!
!
サスケの言う状況を思い浮かべてナルトは意気消沈する。自分が
!
きつつ口を開いた。
﹁全く。ナルトォ、お前はもう少し話を良く聞けぃ。綱手はそのサク
ラとやらが修行に着いてこれないなら、と言っておっただろうが﹂
﹂
﹁あ ⋮⋮。そ っ か、そ う だ な サ ク ラ ち ゃ ん な ら き っ と 綱 手 の 婆
ちゃんの修行に着いていけるさ
﹁ふん⋮⋮﹂
ナルトはサクラなら絶対に綱手の厳しい修行を乗り越えられると
自信を持って言えた。仲間を信じる思いは誰よりも高いのがナルト
なのだ。
サスケも言葉にはせずとも意外と根性のあるサクラならば大丈夫
だろうと思っていた。精神を乗っ取るという心転身の術を受けても
無理矢理にその縛りを破った女なのだから。
﹁では決まりだな。サクラには私から話しておく。まあこの話を聞い
て初めから断る様ならそれまでだがな﹂
﹁ナルトの修行に関してはワシが見よう。螺旋丸も含めてこ奴を鍛え
るのにワシ以上の人材は⋮⋮まあ、おるにはおるがワシが適任だろう
んアカネだ。
だが綱手は未だにアカネの存在と正体を知ってはいなかった。も
ちろん火影になったので早い内に知らされるだろう情報だが。
まだこの部屋にはナルトとサスケがいる為に迂闊にアカネの正体
に関しては話す訳にもいかないので、今は説明する時ではないと自来
也は口を噤んだ。
﹁ああ、まあ、それは後で話すとしよう。サスケに関してだが、うちは
の事はうちはに任せるのが良いかの﹂
お前以外でか
﹂
﹁それですが⋮⋮実は今サスケの師匠をしている人がいまして⋮⋮﹂
﹁ん
?
元 々 カ カ シ が 今 ま で は 担 当 上 忍 と し て サ ス ケ の 修 行 を 見 て い た。
?
259
!
!
お前以外に螺旋丸が使える奴が今の木ノ葉にいたのか自来也
しのォ﹂
﹁ん
﹂
?
自来也が自分以上の人材と口にして頭に思い浮かんだのはもちろ
?
うちはの者を担当上忍にしてはサスケへの贔屓の可能性も考慮して
写輪眼を持つカカシに白羽の矢が当たったのだ。うちは一族の大半
が警務部隊に入っているというのも大きな理由だが。
だがこれから先は今まで通りには難しかった。流石のカカシもサ
スケの修行を見つつ大蛇丸に対応する事は難しい。むしろカカシ自
体の戦力上昇も考えなければならない状況なのだ。
それゆえに今回はうちは一族の誰かにサスケを任せようとしてい
たのだ。うちは一族の敷地内ならば大蛇丸とてそう易々とサスケを
狙う事は出来ないだろうとの考えだ。
﹂
﹁ええ⋮⋮アカネです﹂
﹁⋮⋮マジか
﹁はい﹂
カカシの言葉に嘘が無いと判断した自来也は感嘆の念を籠めてサ
スケに話しかけた。
﹁⋮⋮サスケ、お前よく生きておったの﹂
﹁ああ⋮⋮あんたもか﹂
同類を見るような目線を自来也はサスケに送った。自来也もアカ
ネと共に旅をした一年間で相当絞られたのだ。もうしばらくはアカ
ネと一緒に旅をしたくないと思うくらいに⋮⋮。
サスケも自来也を見て同胞を見つけたような気持ちになりいつも
の強気の態度を崩して何度も頷いていた。ここに性格も年齢も違い
﹂
﹂
過ぎる二人の男が分かりあった。多分日向に行けば後二人くらい同
胞が増えるだろう。
﹁一体誰なんだそのアカネという奴は
﹁それは⋮⋮﹂
﹁日向アカネってやつだが⋮⋮知らないのか
どうして日向の人間がうちはの師をして
だが今までの反応からしてどうにも綱手はアカネの事を知ってはい
応 を 伺 っ た。こ れ に よ り 綱 手 が ど う 反 応 す る か を 見 た か っ た の だ。
カカシが口淀んだ瞬間にサスケはアカネの名前を出して綱手の反
?
?
260
?
誰だそいつ
?
ないようだ。
﹁アカネ
?
いるんだ
﹁アカネェ
う事だ︶
らない
﹂
なんでアカネがサスケの師匠をしてんだってばよ
カカシや自来也って三忍は知っているのにか
﹂
どうい
︵ナルトがアカネを知っているのはともかく⋮⋮五代目はアカネを知
!?
る。
﹁で、どういう事だ
事が出来ない内容なのか
﹂
日向アカネとやらについてはあいつらに話す
そうしてナルトとサスケが退室してから、綱手は自来也を睨みつけ
ん。では解散だ﹂
話した後に正式に任務を告げる。それまで自由に待機していて構わ
﹁⋮⋮分かった。ナルトとサスケ、お前達には私がサクラに同じ事を
これで解散するぞ﹂
﹁あー、アカネについては後でワシから説明する。取り合えず一旦は
が、それ以外に何かありそうな気もしていたサスケであった。
単に綱手がしばらく木ノ葉を離れていただけという可能性もある
アカネを知らない。
存在だろう。そして自来也も知っている。なのに同じ三忍の綱手は
カカシやフガクの反応からしてアカネは上忍からも一目置かれる
これによりサスケはよりアカネの存在が気になる事になる。
?
て待ち構えていたのだ。ナルト達には後で合流すると話している。
アカネはナルト達が出て行った時に自分が呼ばれるだろうと思っ
そうして火影室から出たカカシはすぐにアカネを見つける。
﹁おう、そうか。なら頼むとしようかの﹂
きますよ﹂
どうせ五代目様には知られる事になるでしょうから、ちょっと呼んで
﹁ちょっと待って下さい。実は当のアカネがすぐそこにいましてね。
けがなかった。
それほどまでに情報を規制する必要がある存在が気にならないわ
二人を遠ざけようとしていたのに気付いていた。
綱手は自来也がアカネについてナルトとサスケに知られない様に
?
?
261
!? ?
?
﹁アカネ⋮⋮五代目様がお呼びだ﹂
﹁ええ。⋮⋮あの子に会うのも久しぶりですね﹂
ア カ ネ は 記 憶 に 残 る 最 後 の 綱 手 を 思 い だ す。そ し て 思 わ ず 目 を
瞑った。
当時の綱手はそれはもう荒み落ち込んでいたものだ。最愛の弟と
最愛の恋人を戦争で失ったのだ。そうなるのも致し方ないだろう。
アカネはヒヨリとして綱手とはそれなりに親しい関係を結んでい
たが、それでも綱手の心の傷を癒す事は無理だった。
いや、その時間すらなかったのだ。ダンを失った綱手は程なくして
木ノ葉から去ったのだから。
その綱手が木ノ葉に帰り火影の座についた。安堵と心配と不安と
感慨深さが混ざり合った感情を抱きながら、アカネは火影室の扉を開
けて中に入る。
﹁失礼します﹂
262
﹁うむ。私が五代目火影の綱手だ。お前が日向アカ⋮⋮ネ⋮⋮﹂
入室して来たアカネを見て綱手は火影として挨拶をする。だがア
カネを見てすぐに綱手の言葉は尻すぼみしていった。
信じられないモノを見たかのように驚きで目を見開いてアカネを
見つめる綱手。唇は震え、座っていた体は何時の間にか乗り出してい
た。
﹁ばあ様⋮⋮﹂
そしてポツリとそう呟いた。アカネは確かにヒヨリと同じ日向の
一族だが、別段そっくりという訳ではない。
他の日向の女性を見た時はこんな風にヒヨリを思い浮かべる事は
ない。だが、何故か綱手はアカネの姿にヒヨリが重なって見えてい
た。
﹁⋮⋮いや、すまない。私の勘違いだ││﹂
勘違いだから気にするな。そう言おうとした綱手の言葉をアカネ
が遮った。
﹂
﹁久しぶり、綱﹂
﹁
!!
その言葉に、その優しい眼差しに、またも綱手はヒヨリを思い浮か
べる。
久しぶり。会った事もない相手からのその言葉だが、綱手は何故か
不思議とおかしいとは思わなかった。
﹂
そして自然と答えが口から出て来ていた。
﹁ヒヨリ⋮⋮ばあ様、なのか
綱手のその言葉に、アカネは頷いて答えた。
﹁少し長くなるけど、全てを話すよ﹂
驚愕に身を竦ませている綱手に、アカネはゆっくりと全てを語っ
た。
そ し て ア カ ネ の 正 体 と そ の 経 緯 を 知 っ た 綱 手 は 溜 め 息 を 吐 い て
ゆっくりと腰を下ろした。
﹁ふぅ⋮⋮。まさかヒヨリばあ様が転生をしていたなんてな⋮⋮﹂
予想だに出来なかった事態を目の前にして流石の火影も興奮が冷
めやらぬ様子のようだ。
まあ、予想しろという方が無茶なので誰しもこうなって当然だろ
う。
そんな綱手にアカネは優しく、そして嬉しそうに語りかけた。
⋮⋮ 何 で も お 見 通 し か。ば あ 様 に は 昔 か ら 隠 し 事 が 出 来 な
﹁綱⋮⋮過去を乗り越えたんだな﹂
﹁っ
がなくなっている事に気付いた。
いや、正確には少し違う。無くなっているのではなく乗り越えたの
だ。あの凄惨で非情な過去を飲み込み、前を向く事が出来ているの
だ。
自分の力で克服したのか、それとも第三者の手助けがあったのか、
﹂
それを考えてアカネはふとナルトの存在を思いだした。
﹁⋮⋮ナルトか
﹁⋮⋮ああ﹂
?
263
?
アカネは綱手と接している内にかつて綱手の中にあった負の感情
かったな﹂ !?
﹁そう、か﹂
うずまきナルト。九尾の人柱力であり木ノ葉の下忍。だがそれ以
上の可能性を秘めた少年。
どこか不思議な期待を持たせる事が出来るあの少年ならばと、アカ
ネは思えたのだ。
﹁ナルトには、礼をしなければなりませんね﹂
自分にも出来なかった事をナルトは成し遂げてくれた。きっとア
カネがどんな言葉を並びたてようともそれは綱手の心に響かなかっ
ただろう。
けどナルトはそんな綱手の心を動かしたのだ。どうやったのかは
分からないが、それだけでナルトはアカネにとっての恩人だった。
大切な親友の孫を救ってくれたのだから⋮⋮。
﹂
﹁後で修行でもつけてあげましょうか﹂
﹂
﹁お前、ナルトに恨みでもあるんかの
﹁なんで
ヒヨリばあ様になんて口の聞き方だ
!
矢先の自来也の言葉である。
﹁おい自来也
﹂
お礼にとびっきりの修行をつけて強くしてあげようと思っていた
?
下忍を相手に敬う態度を見せては色々と問題だろう。
綱手もアカネの言い分は理解出来る。火影ともあろうものが高々
﹁それは⋮⋮確かにそうだが⋮⋮﹂
下さい。そうしないと厄介ですし﹂
けの場ならともかく、それ以外では普通に木ノ葉の下忍として扱って
﹁いいんですよ綱。というか、あなたもこう言った事情を知る者達だ
も無理はない。
そんな尊敬すべき相手に対し対等の口を聞く自来也に憤慨するの
手伝いをしてくれたりと色々と世話をしてもらったものだ。
美味しいおやつを貰ったり、怪我をしたら治してくれたり、修行の
優しいお婆ちゃんだった。
にして初代火影の左腕にして木ノ葉設立の立役者にして、そして気の
綱手にとってヒヨリとは尊敬する祖父である初代火影柱間の親友
!
264
!?
﹁⋮⋮分かった。では普段はそうさせてもらう。だがそれ以外ではヒ
ヨリばあ様として対応させてもらうぞ﹂
﹁いいですよ。私もその方が嬉しいですし﹂
再会を喜びあった二人はそう言って互いに笑いあう。
だがそれも束の間。すぐに二人は先の事に付いて話しあった。
﹂
﹁ヒヨリばあ様がサスケを見るならばそちらは安泰だろうが、やはり
問題はナルトか﹂
﹁ワシが信用出来んか綱手
﹁そうではない。だが大蛇丸だけが狙っているサスケと暁全員が狙っ
ているナルトでは話が違う。一刻も早くナルトには強くなってもら
わねばならん﹂
その物言いと籠められた思いから、綱手が余程ナルトを信用してい
るのだとアカネは理解した。
恐らくナルトを弟の縄樹に重ね、その上で過去を乗り越える要因と
なったナルトに可能性を感じているのだろう。
ナルトならば九尾の人柱力という境遇を乗り越え、いずれは火影に
なり里を守る力となると信じているのだ。
﹁け ど 焦 っ て も 意 味 は あ り ま せ ん。ま ず は 地 力 を 伸 ば す 事 が 重 要 で
す。その上で九尾の力を完全に使いこなせれば⋮⋮﹂
そうなればまず敵はない。それほど九尾の力は凄まじいのだ。
ナルトの中にある九尾のチャクラはどうも完全ではないとアカネ
は感じ取っていたが、それでも尾獣の中でもっとも強大な力を持って
いる規格外の尾獣が九尾なのだ。
ちなみに今のナルトの中にある九尾のチャクラは陽のチャクラの
み。陰のチャクラは屍鬼封尽にてミナトが道連れにして封印してあ
る。半分でそれだから本当に規格外なのである。
﹂
﹁うーん、九尾チャクラを自在にコントロール出来れば修行も大幅に
捗るのですが⋮⋮﹂
﹁どういうことだばあ様
それは影分身を応用した修行だ。分身の術とは実体を持たない術
265
?
綱手の質問にアカネは九尾チャクラを利用した修行法を伝える。
?
者の分身を生み出す術だが、影分身はそれに実体を持たせるという高
等忍術だ。
そして影分身の特性として、影分身が得た情報や経験は影分身を解
除した時に本体に還元されるという物がある。
それを利用して、影分身を大量に出してその分身全てに修行させる
事で修行時間を大幅に縮めるという裏技的な方法があるのだ。
もっとも全てにおいて都合良くは出来ていない。まず影分身自体
が本体のチャクラを分散して作り出す術なのでこの修行方法だと
あっという間にチャクラが切れてしまうのだ。
これを行うには桁違いのチャクラが必要になってくる。それこそ
尾獣のチャクラを自在に操れるくらいでなければ不可能だ。
だが今のナルトはまだその域に達してはいない。今までにも何回
か九尾のチャクラが漏れ出して爆発的な力を見せた事はあるが、自在
にとなると難しい。
﹂
強くなってもらうとしよう﹂
結局はそれが一番の近道だろう。そう結論付けたアカネだったが、
そこにカカシが口を挟んだ。
﹁ち ょ っ と お 待 ち を。木 遁 忍 術 な ら 一 人 だ け 扱 え る 忍 を 知 っ て い ま
266
そして上手く九尾のチャクラを引き出せた所で問題がある。あま
りに九尾のチャクラを引き出していると下手すれば九尾の封印式が
緩んで九尾が復活する可能性もあるのだ。
この修行法は上手く行けば非常に効率的な修行だが同時に危険性
も高いのである。
﹁なるほどな⋮⋮﹂
﹁柱間がいればなぁ。あいつ木遁で九尾を縛る事が出来たし﹂
九 尾 と い う 天 災 を 抑 え る 事 が 出 来 た 数 少 な い 忍 の 一 人 が 柱 間 だ。
木遁の特殊な力で九尾の力や意思を抑える事が出来るのだ。かなり
おかしい性能である。流石は忍の神と謳われた存在だ。
何か言ったか
﹁落ち込みやすい性格の癖に⋮⋮﹂
﹁ばあ様
?
﹁いや何も。まあ無い物ねだりをしても仕方ない。ナルトには地道に
?
す﹂
﹁え
﹂
﹁どういう事だカカシ
﹂
これにはアカネも綱手も困惑した。木遁とは初代火影のみに許さ
れた血継限界だ。
いや、柱間と同じ千手一族にも直系の子孫にも伝わっていないので
血継限界とすら言えないのかもしれない。それほどの秘術なのだ。
それを扱える者が今の世にいるなどとは流石の二人も想像だにし
ていなかった。
﹁実はかつて大蛇丸がしていたという人体実験の成果でして⋮⋮﹂
カカシは事の詳細を語る。と言ってもカカシも全てを知っている
わけではなかったが。
かつて大蛇丸がまだ木ノ葉の里から抜けていなかった時、大蛇丸は
様々な研究を秘密裏に行っていた。木遁の研究もその一つだ。
千手柱間の細胞を利用してそれを幼い子どもに移植し木遁を再現
出来ないかという最悪の実験。そして実験台となった子どもはその
殆どが死に絶えた。
いや、大蛇丸は全員が死亡したと思っていた。だが一人だけ生き延
びた子どもがいたのだ。
﹂
﹁それが後に暗部の一員となったテンゾウという男です﹂
﹁大蛇丸め、どこまで⋮⋮
に力を貸してもらいましょう﹂
﹁そうか。それじゃあナルトの修行が一段落したらそのテンゾウさん
える事も出来るでしょう﹂
﹁とまあ、テンゾウはオレも信用の置ける男です。奴ならば九尾を抑
丸。彼の運命や如何に。
初代三忍と二代目三忍の紅一点から命を狙われる事になった大蛇
︵この二人の怒りを買うか。死ぬのぉ、あいつ︶
それを見た自来也は少しだけ外道に堕ちた元仲間に同情した。
カカシの説明を聞いた二人は大蛇丸への怒りを顕わにする。隣で
﹁最悪だな。今度あった時は一切の加減も仕置きも抜きで⋮⋮﹂
!
267
?
?
﹁今すぐじゃ駄目なのかばあ様
﹂
﹁え え。最 初 か ら 他 人 に 頼 っ た 修 行 を し て は ナ ル ト の 為 に な り ま せ
ん。三年の時間があるなら二年はきちんと自分の力だけで強くなっ
てもらいます﹂
自力で影分身による修行が出来るならば話は別だが、そうでないな
らば頼り切った修行は毒になる。まずは地力を伸ばしてからという
事に変わりは無かった。
﹁何時でもテンゾウが動ける様にあいつにはオレから声を掛けておき
ます﹂
﹁うむ。これで大体の方針は決まったな。後は他里にも声を掛け続け
ておく。暁が人柱力を狙っているならば必ず他の里も狙うはずだか
らな﹂
だがそう言いつつも綱手は他里が木ノ葉の話を素直に聞き入れる
のは難しいだろうと思っている。
改めて同盟国となった砂はともかく、雲と土と霧。この三つの里が
まともに話を聞くわけがない。例え暁の危険性を説いても自分達な
らば大丈夫と言い張り、他里との連携など期待出来ようもないだろ
う。
そもそも人柱力とは里にとっての重要な軍事力なのだ。それは最
重要機密であり、他里に漏らす訳がない。
危機的状況になってからでは遅いのだが、その状況にならなければ
理解出来ないのが人間なのだ。それでも何もしないままでいるわけ
にも行かないので、綱手は出来る限り他里へと呼びかけをするので
あった。
268
?
NARUTO 第十四話
木ノ葉の里に広がる森の中。その森で木々のない開けた土地に数
人の忍が集まっていた。
アカネ・自来也・綱手の師匠組と、ナルト・サスケ・サクラの弟子
組、そして第七班の担当であるカカシの計七人である。
サクラがこの場にいるのは、サクラが綱手から聞かされの任務を受
ける事を選択した。今まで彼女はナルトやサスケに助けられてばか
りだった。そんなお荷物な自分が嫌で、逆にナルト達を助けてやろう
と決心したのだ。
その時のサクラの意気込みを見て綱手はサクラを気に入った。こ
うなったら開いた時間を使って徹底的に鍛え上げるつもりだ。
そして今日はナルトとサスケが勝負をする為にこうして集まって
いるのだった。
269
狙われている二人の力を計る為であり、サクラに今の自分とナルト
達との差を理解させてより追い付こうとする気概を持たせる為でも
あった。
そしてアカネにとってはナルトとサスケのチャクラを見比べる為
でもある。この二人だけどうしてチャクラが二重に感じるのか。そ
の不思議を少しでも解く為だ。
勝負が始まる前からアカネは白眼を発動して二人を見る。こうし
て見比べると二人は似ているようでどこか違っていた。
ナルトからは柱間を、サスケからはマダラを思い起こさせるチャク
ラを感じる。だが二人のチャクラが柱間とマダラに似ている訳では
ない。
二重になっているチャクラがそれぞれ柱間とマダラの二重になっ
︶
ていたチャクラと同一に感じるのだ。
︵はてさて。これは一体何なのか
﹁そ れ じ ゃ あ こ れ よ り う ず ま き ナ ル ト 対 う ち は サ ス ケ の 勝 負 を 始 め
今は観察に集中するしかなかった。
長い人生を歩むアカネも皆目見当が付かないこの現象。とにかく
?
る。まずは互いに対立の印をせい﹂
自来也の言葉に従い、ナルトとサスケが対立の印を組む。
対立の印とは木ノ葉の里で古くから守られてきた伝統の訓練方式
である忍組手の所作の一つだ。
組手前に必ず片手印を相手に向ける行為の事だが、両手印で術を発
動する所作の半分を意味し、これから戦う意思を示す行為。それが対
立の印だ。
そして組手が終わり決着の後に、互いに対立の印を前に出して重ね
合わせ結び、和解の印として仲間である事の意思を示す。
その一連の流れが忍組手の作法一式である。
ナルトとサスケは対立の印を組む事で過去に思いを馳せていた。
それは二人の最初の戦いの記憶。アカデミーでの忍組手の記憶だ。
当時の組手はサスケの圧勝だった。家族がいて才能があって強く
て、ナルトにとってサスケは眩し過ぎる存在だった。
270
それからナルトはサスケをライバル視するようになった。必ずサ
スケに勝って自分を認めさせる。無意識の内に自分が初めて眩しい
と感じた相手に認められる事で第一歩を踏み出せる様に思ったのだ。
今までは落ちこぼれとしてナルトはサスケの眼中になかった。だ
が同じ班となって共に任務をし、今ではサスケから闘いたいと言われ
る様になった。
﹂
﹂
お前にやっと勝てる
そ し て 今 目 の 前 に 本 気 の サ ス ケ が い る。そ れ が ナ ル ト に は 嬉 し
かった。
﹁へへ﹂
﹁何がおかしい
﹂
﹁おかしいんじゃねーってばよ、嬉しいんだ
と思ったらな
ナルトの答えにサスケは笑って返す。
﹁ふん。残念だが、今日もオレが勝つ。明日も、明後日もだ
﹂
﹁いつまでも落ちこぼれだと思ってんじゃねーぜ
﹂
﹁安心しろ⋮⋮とっくの昔に思っちゃいねェーよ
﹂
!
﹁サスケェーー
!
!
!
?
!
!
﹁ナルトォーー
﹂
互いの名を叫び、そして勝負が始まった。
二人は正面からぶつかりあった。
互いに振りかざした拳を同じ様に受け止め、そしてそこから幾度か
の攻防が繰り広げられる。
天 才 と 謳 わ れ た サ ス ケ の 体 術 に ナ ル ト は 付 い て い っ て い る の だ。
それだけでサクラにとっては驚愕だった。
︵あ の 落 ち こ ぼ れ だ っ た ナ ル ト が 何 時 の 間 に か こ ん な に ⋮⋮ と っ く
に、置いてかれていたんだ⋮⋮︶
それはどこか寂しさを感じさせる現実だった。自分よりも下と見
ていたナルトが何時の間にか自分の遥か上に立っている。
それが悔しくもあり、情けなくもあり、そして悲しくもある。何時
までも成長していない自分に腹が立っていた。
そんなサクラを見て綱手はこれだけでもサクラを連れてきた甲斐
があったと思っていた。
こうした思いがある限り人は努力出来るのだ。これで奮起しない
様では忍として端から見込みがないと切り捨てるしかないだろう。
ナルトとサスケの体術合戦は徐々にサスケが優位に進めていった。
いくらナルトが急成長したとは言えサスケとの間にあった差を埋め
る程ではなかった。
いや、サスケが成長していなければとっくに追い抜いていただろう
が、サスケとて成長しているのだ。
まともにぶつかり合っては不利と判断したナルトは得意術にして
﹂
とっておきの切り札を使用する。
﹁多重影分身の術
とそれだけでチャクラが少ない者ならば気絶する可能性を秘めてい
影分身は術者のチャクラを分散する術故に大量の分身を生み出す
る術でもある。
身の数を単純に増やしたという術だが、それだけで禁術扱いされてい
術の発動と共に百を超えるナルトが現れた。影分身で生み出す分
!
271
!
た。
﹂
故にこれはチャクラが大量にある忍のみに使用を許された禁術な
のである。
﹂
﹁いくぞサスケェ
﹁ちぃ
﹃うわぁあぁ
﹄
││千鳥流し
││
ならば迎撃あるのみ。それがサスケの選択だった。
にも上空にも無数のナルトがいる為無事に切り抜ける事は難しい。
これを防ぐのは並大抵の体術では不可能だろう。飛んで逃げよう
は当然として上空からも攻撃を仕掛けてくるのだ。
大量のナルトがサスケに襲い掛かる。影分身同士が連携して四方
!
!
術だろう。
﹁何時の間にあんな術を
﹂
出来る。一撃でも攻撃を受ければ消滅する影分身相手には効果的な
威力はそこまで高くはないが多くの敵を巻き込み痺れさせる事が
電流を流す術だ。
一点に集中していた千鳥を全身から発する事で自身の周囲に高圧
る。
これがサスケがアカネとの修行で新たに覚えた千鳥の発展型であ
サスケの周囲を覆っていたナルト達が一斉に消滅していく。
!
それを怪訝に思うサスケだったが、次の瞬間にサスケはナルトの態
せるが、それに対してナルトも笑って返した。
上手く大量の影分身を消滅させたサスケはナルトに強い態度を見
﹁へへっ﹂
﹁ふっ﹂
込んだアカネを褒めるべきか悩みどころなくらいだ。
サスケの天性の才能を褒めるべきか、それとも短期間でサスケに仕
付けているとは思ってもいなかったのだ。
カシだったが、中忍試験からたった二週間程でこの様な応用技を身に
これに驚愕したのはカカシだ。元々千鳥をサスケに教えたのはカ
!
272
!
﹂
度の理由を理解した。
﹁がぁっ
サスケの足元の地面がひび割れ、突如として地面を突き破ってナル
トが現れたのだ。
そしてサスケの顎を殴りつけて上空へと吹き飛ばす。さしものサ
スケもこれには反応出来なかった様だ。
ナルトは大量の影分身を出した時に影分身に紛れて本体を地面の
ず
ま
き
!
ナルト連弾
!
﹂
下へと潜らせていたのだ。かつて中忍試験でネジを相手に使用した
う
!
!
戦法の応用である。
﹁まだまだぁ
!
﹂
!
︶
︶
!
う。
ナルトがサスケ君に勝っちゃうの
!?
︵まさか
︵うそ
ナルトがここまで成長しているなんて
身を一斉に突撃させた。ここで一気に勝負を決めるつもりなのだろ
最後の一撃で大地に叩き付けられたサスケに、ナルトは全ての影分
にガードする事も叶わずにナルト連弾を喰らってしまう。
顎に強烈な一撃を貰い軽い脳震盪を起こしていたサスケはまとも
﹁ぐ、あ、あぁ
るサスケと違いナルトは影分身と協力しあっての連携体術だが。
サスケを意識したが故の物真似だろう。もっとも一人でやってい
真似で覚えた体術である。
これもかつて中忍試験でサスケが使った獅子連弾という体術の物
!
外だったようだ。
カカシもサクラもあの落ちこぼれだったナルトが天才のサスケに
勝利する瞬間に目を見開いて活目していた。
﹂
だが、その驚愕の瞬間は訪れなかった。
﹁な、なにぃ
本体だけではない。無数の影分身全ての視界から消えたのだ。そ
いた。
決着をつけようとしたナルトの視界からサスケの姿が消え去って
!?
273
!?
!
いくらナルトが強くなったと言っても現時点でのこの展開は予想
!
んな事が有り得るのか ナルトは動揺しつつも四方を見渡してサ
スケを探す。
﹂
﹂
﹁うわぁぁぁっ
﹂
けてはいなかった。つまり、抵抗する事すら不可能という事だ。
く。その高速攻撃に対応出来る反射神経を今のナルトはまだ身に付
サスケは瞬きも許さぬ間に次々とナルトの影分身を消し去って行
のだ。これが先程ナルトがサスケを見失った理由だった。
度を加速させる。これにより目にも止まらぬ高速戦闘を可能とした
全身に雷遁の衣を纏ったサスケは雷を利用して電気信号の伝達速
﹁はぁ
雷遁チャクラによる高速モードである。
ラ消費量の為にまだ短時間しか発動出来ないサスケのとっておき。
それは先程ナルトの攻撃を回避した時と同じ術。あまりのチャク
き切り札を使用した。
脳震盪を回復させるには十分な時間を得たサスケは、大きく息を吐
強い
﹁ふぅ⋮⋮ナルト。お前は強い⋮⋮強くなった。だが⋮⋮まだオレが
撃に移行した。
ない。だが見つけたからには本体含む全てのナルトがサスケへの追
どうやってあの一瞬でそこまで移動したのかはナルトには分から
所に移動していたのだ。
そして見つけた。何時の間にかサスケは数十メートルも離れた場
?
﹁それまで
勝者うちはサスケ
﹂
ずにあっという間に倒されてしまった。
にか応戦しようとしてチャクラを練ろうとするが、その暇も与えられ
ナルトが訳も分からぬままに影分身は全て消滅する。そしてどう
!?
!
はぁ
﹂
!
﹂
!
悔しがるナルトに息を荒げるサスケ。勝者はサスケだが消耗が激
﹁はぁ
﹁く、くそぉ⋮⋮
てそれを見た自来也が決着の言葉を放った。
倒れたナルトに馬乗りになり拳をすん止めしているサスケ。そし
!
274
!
!
!
しいのもサスケだった。
今のサスケのチャクラではやはり雷遁の衣を発動し続けるのは厳
しい物があるのだ。
対してナルトはまだまだスタミナが残っていた。ナルトのチャク
ラ量はサスケを凌駕しており、実に数倍の差がある。その上九尾の
チャクラを引き出せれば百倍を超えるチャクラを有する事になるの
だ。ことチャクラ量でナルトに勝る忍は極僅かと言えよう。
だが勝負はチャクラ量だけで決まるものではない。少ないチャク
ラも要は使い方次第だ。
今のナルトはまだ大量のチャクラを持て余しているに過ぎなかっ
た。
﹁では互いに和解の印をせい﹂
組手が終われば和解の印を組む。ここまでが忍組手の流れだ。
最初に二人が闘った時はいがみ合って素直になれずに拒みあって
!
275
いたので和解の印は成立しなかった。
負けた事が悔しくて才能溢れるサスケに認められていなかった事
が悔しくて、ナルトから拒んだ結果である。
だが││
﹂
﹁はぁ、はぁ⋮⋮。ナルト⋮⋮オレはもっと、もっと強くなる﹂
﹁ッ
!
に行くぞ﹂
へんっ
オレってばお前よりも絶対強くなってやる ﹁だからお前も追いかけてこい。さっさと来ないとオレはどんどん先
の錯覚は消え去った。
た置いて行かれる様な錯覚を覚えた。しかし、次のサスケの一言でそ
そんな遠い目標を持っているサスケの瞳を見ているとナルトはま
けがなかったのだ。
う手が届かない位置にいる存在を知っているのに満足など出来るわ
サスケの目標は優秀で尊敬する兄であり、そして身近にアカネとい
足していなかった。
今でも十分に強いとナルトは思っていた。だがそれでサスケは満
!
﹁⋮⋮
!!
追いつくんじゃなくて追い抜いてやるから覚悟しとけよ
﹂
サスケはナルトを自分のライバルと認めたのだ。先程の勝負はア
カネに修行を付けて貰ったからこその僅差だった。雷遁による高速
戦闘がなければどうなっていたかは分からない。それはサスケも自
覚していた。
そしてそんなサスケの思いはナルトに伝わっていた。一番認めて
欲しい存在から認められたのだ。嬉しくない訳が無かった。
ここで二人は始めて和解の印を結んだ。互いに仲間と認め友と認
め好敵手として認めあったのだ。二人の実力が加速度的に飛躍して
いくのはこれからであった。
﹁サスケ君もナルトもすごい⋮⋮﹂
﹁本当にね。全く、こりゃうかうかしてたらあっという間に追い抜か
れるな﹂
多重影分身を使った戦術と膨大なチャクラ量を披露したナルトに、
覚えたばかりの雷遁を巧みに操り圧倒的な力を見せたサスケ。
どちらも一ヶ月前には想像出来なかった姿だ。同じ班としてサク
中にも感じたその思い。成長し続ける二人に置いていかれたくない
という思い。
﹂
このままでいい訳がない。自分だって二人と同じ第七班の一員な
必ず横に並んでみせます
修 行 は 厳 し い ぞ
!
のだ。来るべき時に向けて強くなり、二人を守ると誓ったのだ。
﹁いえ、私は二人の後ろにいたくない
﹂
﹁そ う か。な ら ば お 前 を 私 の 正 式 な 弟 子 と す る
﹂
﹁はい
!
!
276
!
ラは二人を尊敬し、そして自分の情けなさに肩を落としていた。
﹂
そんなサクラに綱手が声を掛けた。
﹂
﹁置いていかれるままでいいのか
﹁ッ
?
それはサクラの核心を突く言葉だった。先程の二人の忍組手の最
!?
サクラも決意を新たにして綱手の弟子となった。これからあの二
!
?
人に追いつくために必死の修行をするだろう。
それを見ていたアカネもふとした事を思い付いた。
どういうことだばあ⋮⋮アカネ
﹂
﹁ふむ。どうせなら私も第七班それぞれに教えましょうか﹂
﹁ん
供出来そうですし﹂
?
いて二人に疑問をぶつけてみた。
﹂
﹁ねぇ、あのアカネっていう人何者なの
と普通に話しているの
何で五代目火影の綱手様
そんな二人の会話を聞いていたサクラはナルトとサスケへと近付
﹁お願いします綱手様﹂
﹁いいだろう。うちは一族には私から伝えておく﹂
そう判断した綱手はアカネの意見を取り入れた。
揃 っ て 連 携 や 基 礎 修 行 を 行 う 様 に す れ ば よ り 効 果 的 な 修 行 に な る。
普段は別個に分かれて個人に合わせた特化修行を行い、たまに三人
だろう。
技術を全員が恩恵に与れるようにした方が全体の戦力向上に繋がる
アカネがサスケ一人に集中するよりも、これまで培ってきた経験と
﹁なるほど⋮⋮﹂
を見ようかと﹂
代目にサクラさんの修行を付けてもらい、私は空いた時間にそれぞれ
しょう。なので、自来也にナルト、カカシ及びうちは一族にサスケ、五
せた修行に特化します。三人一緒に修行してもあまり意味はないで
﹁いえ、基礎修行ならともかくここから先はそれぞれの方向性に合わ
﹁ふむ⋮⋮。それなら三人一緒に修行をするという事か
﹂
クラさんにも授けようかと思いまして。それぞれに合った技術を提
﹁サスケばかりに教えるのも何ですから。私の持つ技術をナルトとサ
?
?
みたいだが﹂
かはさっぱりだ。父さんやオビトさん⋮⋮一族の一部は知っている
﹁オレもだ。あいつのおかげで強くなれたんだが、あいつが何者なの
ど、すげー強いって事しか知らねーってばよ﹂
﹁オ レ も わ か ら ね ー っ て ば よ。少 し だ け 一 緒 に 修 行 し た 事 あ ん だ け
?
277
?
ア カ ネ っ て 一 体 何 者 な ん だ っ て ば よ
謎の女アカネ。そのベールが暴かれる時は果たして来るのだろう
か。
︶︶
﹁な あ な あ 綱 手 の 婆 ち ゃ ん
﹂
︵︵良くやったナルト
﹂
いいじゃん婆ちゃんのけちーっ
さなど考えたくないものだ。
﹁えー
﹁何と言おうと駄目なものは駄目だ
﹂
!
里全体に広まり、そして他里にも広まるだろう。そうなった時の厄介
口が軽そうなナルトにアカネの正体など教えればあっという間に
広める様な事もするなよ。特にナルト﹂
よって教える事は出来んし、以後の質問も禁ずる。もちろんこの話を
﹁うむ。気になるのは分かるだろうがこれは里の重要機密に関わる。
日ばかりは褒めていた。
られていたのだ。それを一切気にせずに質問した馬鹿なナルトを今
どうにもアカネには重要な秘密がある様なので明確に聞く事が憚
サスケとサクラは内心で褒め称えた。
気になっても聞くに聞けなかった事をあっさりと聞いたナルトを
!
﹁本当かアカネ
ようし、その約束忘れんじゃねーぞ
﹂
﹁そうですね。私に勝てたら教えてあげてもいいですよナルト﹂
そこでアカネはふと面白い案を思い付いた。
るつもりはなかったが。
きりになればその時に本人に確認する事だろう。まあアカネも教え
だが諦めていない事は誰の目にも明白であり、恐らくアカネと二人
がった。
食い下がるナルトだが綱手が了承するはずもなく、仕方なく引き下
!
!
!!
ては何も分からなかった様である。
なお、ナルトとサスケのチャクラが二重になって見える現象に関し
うまでもなかった。
教える気はないなこりゃ。それが大人組全員の感想だったのは言
!
278
!
!?
◆
暁。それはS級犯罪者としてビンゴブックに名を連ねている凶悪
犯罪者集団の集い。
その活動は多岐に渡り、忍の争いに傭兵として雇われたり、闇相場
で賞金を懸けられている凄腕の忍を狩ったり、世界中に散らばる禁術
を集めたりなどだ。
だがそのどれも本当の目的ではなかった。あくまで組織を運営す
る金や力を目的とした活動なだけで、真の目的は他にあった。
その目的の為の手段が尾獣狩りである。
暁はある目的の為に九体いる尾獣の全てを手にするつもりなのだ。
その為に世界各地から仲間足りうる力と思想を持つ忍を集め活動し
ていた。
もっとも、真の目的など関係なくただ己の欲望を満たす為に動く者
が殆どだったが。暁という組織が自分の欲を満たすのに適している
から属しているだけの者は多かった。
だが暁はここしばらく活動を控えていた。それには二つの理由が
あった。
一つは尾獣を人柱力から引き剥がし外道魔像と呼ばれる存在に封
印する為の準備期間だ。これらの術と必要な道具を集めるのにかな
りの時間が掛かるのだ。
そして二つ目の理由。それは⋮⋮日向ヒヨリの存在であった。
﹁どうして今更活動を抑えろって言うんだよ、なあリーダーさんよぉ﹂
岩肌に囲まれた薄暗い洞窟の中に複数の気配が漂う。外道魔像と
呼ばれる巨大な像の指の上にそれぞれ一人ずつ人間が立っていたの
だ。
だが実際にその場に人はいない。これは術によって遠方にいる人
間の意識をこの場に具現し会話しているのだ。
この場に集まっているのは暁の面々。そして会話の内容は今後の
活動方針に関してだった。
279
それは三年間に渡って活動を抑えるという、過激派とも言えるメン
バーにとっては納得のいかない方針だったのだ。
その理由を問いかけているのは飛段という男だ。過激派の中でも
特に人を殺す事が大好きでジャシンという神を崇めるジャシン教の
狂信者だ。
﹁我々の目的は尾獣だ。だが尾獣を封印する為の準備に後三年はかか
る﹂
表だった理由を暁のリーダーであるペインが語るが、それで納得す
る者はこの場に一人もいなかった。
ツー マ ン セ ル
﹁それならば尾獣狩り以外の仕事をする事に問題はないだろう﹂
ツー マ ン セ ル
そう言ったのは角都。飛段と二人一組を組んでいる男だ。
暁 は 基 本 的 に 二人一組 で 行 動 す る よ う に な っ て い る。そ し て 飛 段
と組んでいるだけにこの男もかなりの危険人物であった。
人殺しを好むというより、金のみを信じているので金の為に人を殺
知らなかったようだが。
﹂
﹁馬 鹿 な ⋮⋮ 日 向 ヒ ヨ リ は 十 五 年 も 前 に 死 ん だ は ず だ。そ れ が 生 き
て、しかも若い肉体を得ているだと
だからこそ日向ヒヨリの存在を良く知っていた。だからこそ死ん
持つという現存する忍の最高齢だった。
その年齢は実に八十八歳。あの初代火影千手柱間との戦闘経験を
を奪い取り自分の物とする事で今も生き延びている老忍だ。
この事実を一番信じられなかったのが角都だ。角都は他人の心臓
?
280
すのだ。だが、普段は冷静沈着だがトラブルが起こると激昂し仲間で
あっても殺してしまうというとんでもない癖もある。
この恐ろしい二人が組んでいるのには訳があるが、今はそれは置い
ておこう。
角都に図星を突かれたペインは活動を抑える本当の理由を話した。
﹄
誰だそれ
﹂
﹁⋮⋮木ノ葉の日向ヒヨリが生きている。それも若い肉体を得てな﹂
﹃
﹁あ
?
暁の殆どがペインの言葉に驚愕する。飛段だけはヒヨリの存在を
?
!?
だはずのヒヨリが生きている事にもっとも驚愕したのだ。
﹁それが本当だとしたらこの上なく厄介ですねぇ﹂
獰猛な鮫を思わせる見た目とは裏腹に丁寧な物言いをする男の名
は鬼鮫。
水遁を得意とする忍であり、そして鮫肌という特殊な大刀と駆使す
それともお前と同じ術か大蛇丸
﹂ くぐつ
る。チャクラ量も尾獣並であり尾のない尾獣とまで呼ばれている強
者だ。
﹁オレと同じ傀儡か
うのか。
﹁おい大蛇丸。どうなんだ
返事をしろ﹂
用しようとしていたのだ。それがどうしてペインにばれていたとい
この事実は今はまだ暁には教えずに機を見て暁を翻弄する為に利
ているという事実をペインが知っている事に内心動揺していた。
そしてもう一つの理由として問われた大蛇丸は日向ヒヨリが生き
﹁⋮⋮﹂
だ。
いない。それならば日向ヒヨリが生きているのにも頷けるという物
人形ゆえに老いる事はなく、その姿は若かりし頃と全く変わっては
呼ばれる人形に改造した生きた傀儡人形だ。
そう聞いたのはサソリと呼ばれる男だ。サソリは己の身を傀儡と
?
と言ってもゼツの戦闘力は暁でも最低、いや世界的に見てもけして
と思うよ﹂
ていたボクの分身も見つかって一瞬で捕らえられた。あれ、相当強い
﹁うん。二代目三忍の自来也と一緒に暁について調べていたよ。隠れ
いるのだ。
木に同化するという特異な能力を駆使して世界を巡り情報を集めて
ペインが問うたゼツという男は暁の情報収集担当の男だ。地面や
なゼツ﹂
そして、ヒヨリは我々の活動を調べているという報告がある。そうだ
﹁理由はどうでもいい。問題は日向ヒヨリが生きているという事だ。
﹁さあ⋮⋮私にも分からないわ﹂
?
281
?
高いとは言えないだろう。
それでも情報収集には非常に役に立つ能力を有しているからこそ
暁の一員なのだ。
﹁その日向ヒヨリっていうのはどんな見た目だ、うん﹂
独特の語尾で話す男の名はデイダラ。起爆粘土と言うチャクラを
混ぜた爆発する粘土を使用する術を持ち、大蛇丸の木ノ葉崩しの手助
けをした忍だ。
﹁日向の若い女だよ﹂
﹁それだけじゃわからねーよ。だが、多分あいつだな、うん。オレの芸
術をあんな不完全な形にしたクソ女だ﹂
デイダラが木ノ葉崩しにて里に落とした起爆粘土はアカネによっ
て防がれてしまった。
その時の動揺で出来た虚を突かれて手傷を負ってデイダラは撤退
したという苦い記憶がある。
﹂
3は起爆粘土の中で最も爆発力が強いデイダラの十八番で、その威力
は一つの里を飲み込む程もある。
それを防いだという日向ヒヨリの実力の高さは最早疑いようがな
いだろう。
﹁分かったな。それが日向ヒヨリだ。伝説の存在を舐めてかかれば手
痛いしっぺ返しでは済まない。本格的な活動は準備の整った三年後、
それまでは情報を集めて地下に潜む。そして⋮⋮準備が整い次第に
気にくわねーな。いくら強いからってたった一人の人間に
九尾以外の尾獣を一気に集める。日向ヒヨリにばれる前にな﹂
﹁ちっ
ン教の教義を満足するまで満たす事が出来るからだぜ。それなのに
これじゃあ本末転倒もいいところだ﹂
ジャシン教の﹁汝、隣人を殺戮せよ﹂という狂った教義を全うする
282
﹁お前のC2を防いだのか
﹂
﹁⋮⋮C3だ﹂
﹁なに⋮⋮
?
C2・C3とはデイダラの起爆粘土の種類を表している。そしてC
!
怯えてこそこそするなんてよぉ。大体オレが暁に入ったのはジャシ
!
為に飛段は暁に入ったのだ。
ただ単に暴れるがままに暴れていてはいずれ大きな里から目を付
けられて自由に動く事が出来なくなる。それを防ぐ為の暁入りだっ
たのだ。
それが意味をなさないならば暁を抜ける事もある。暗にそう含ま
せて飛段はペインに問う。
﹁⋮⋮各々の趣味を制限するつもりはない。だがけして目立つ様には
動くな。五大国には近付かず、小国や小さな隠れ里、一族のみで生き
る忍のみを狙え。それらの情報はゼツから受け取れ﹂
﹁そうこなくちゃな﹂
一先ずは満足の行く答えが貰えたようだ。他にもメンバーに不満
は大小あるが、それでもペインの言う方針を破るつもりはないよう
だ。
﹁それではこれで一度解散する。三年まてば⋮⋮その時は思う存分暴
﹁何の事
﹁
﹂
﹂
﹂
話せば、お前を蝕むチャクラの縛りを解いてやろう﹂
﹁貴様が日向ヒヨリと交戦したのは分かっている。その情報を隠さず
大蛇丸の予想外の言葉を口にした。
だがペインではなく、もう一人残った仮面を付けた様に見える男が
練れない自分が逆らった所で勝ち目などある訳がない。
大蛇丸をして謎の多い存在。そんな人物に今のチャクラをまともに
平静を装っているが大蛇丸の内心は動揺に塗れている。ペインは
?
283
れさせてやる﹂
ペインの言葉を最後にそれぞれが術から開放されて意識を元の肉
体に戻していく。
だが大蛇丸とペイン、そしてもう一人だけはその場に残っていた。
まだ何か用かしら
術の使用者であるペインがその二人を開放しなかったのだ。
﹁⋮⋮
?
﹁⋮⋮お前の知っている情報を全て話してもらうぞ大蛇丸﹂
?
大蛇丸の知る限り仮面の男はこれまで殆ど会話らしい会話をした
!?
事がなかった。
それがこんなにも長く話す。日向ヒヨリにかなりの関心を示して
いるのは明白だった。
何故そこまでの関心を示すのかは大蛇丸にも分からないが、男の言
う事は大蛇丸には願ったり叶ったりではある。
既にこの身を蝕むチャクラの縛りを解く手立ては立っている。な
らばこの取引を利用して別の利を得た方がマシという物だ。
﹁⋮⋮ 必 要 な い わ。ど う に か す る 目 処 は 立 っ た か ら ⋮⋮。そ れ よ り
も、あなたが九尾の封印を解除した時の事を詳しく聞きたいわぁ。興
味があるのよね、うずまき一族の封印術にも⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
仮面の男は無言だが、大蛇丸の情報網の広さと勘の良さには内心称
賛していた。良くもまあそこに気付いたものだと。
ある程度の憶測はあるのだろうが、もしかしたら自分の正体にも気
付きかけているかもしれない。
だがそれならそれで別に構わなかった。大蛇丸は使えるコマであ
るし、裏切ったところで処分するのも容易く放置した所で支障はな
い。仮面の男にとって大蛇丸はその程度の価値だった。
そして九尾襲撃時の出来事を話す事にも何も問題はない。それよ
りも日向ヒヨリに関する情報を少しでも多く集める方が先決と言え
た。
﹁いいだろう。奴に関する情報は少しでもあった方がいい。奴と直接
戦ったお前に聞くのが一番だ﹂
﹁そう。じゃあ話しましょう﹂
そうして己の知る全てを大蛇丸は語る。
大蛇丸が全てを語り終えた後、この場に残っているのは誰もいな
かった。
とある場所にて仮面の男は空を見て呟いた。
﹁生きていた、いや転生したのか⋮⋮﹂
あの時、三尾をけしかけて確実に殺したはずの女。それが転生して
284
新たな肉体を得て生きている。
流石にこれはイレギュラーだった。面倒な日向ヒヨリを確実に殺
す為に戦場を操り波状攻撃を仕掛け弱ったところに三尾を投入した
のだ。
だというのにこれでは意味がないどころか若返ったのでむしろ面
倒事が大きくなったくらいだ。
﹁まあ、いい。どうせその気になればすぐにでも⋮⋮﹂
そう呟く男の声はこの世に全くの興味を持ってない、そんな意思が
籠められたかの様な声だった。
﹁所詮ただの余興だ。この世界は等しく存在する価値がない。ならば
せめてこのくらいの余興は楽しませてもらわねばな﹂
そうして男は姿を消した。この世にある全てはただの余興と断じ
て。この世の全てに価値はないと断じて。
285
NARUTO 第十五話
アカネがカカシ率いる第七班それぞれに修行を付ける様になって
一ヶ月が経った。
影分身を利用する事で三人同時に別々に修行を付ける事が出来る
ので改めて影分身の利便性を再確認するアカネ。
加えて影分身を解除すると本体に経験が戻ってくるので自分の修
行にもなるという優れ物だ。この術を開発した二代目火影は表彰物
だとアカネは思っている。もっとも、穢土転生を開発したせいでプラ
マイゼロ、いやマイナスかもしれないが。
﹁しゅ∼ぎょう∼しゅ∼ぎょう∼、た∼っぷ∼り∼しゅぎょう∼﹂
等と良く分からない歌を口ずさみながらアカネはご機嫌で歩いて
いた。
若者の成長の早さは素晴らしい、とナルト達の成長を思い出して悦
に浸っているようだ。
前から修行を付けていたサスケはともかく、ナルトは何と自来也と
綱手を探しに行った十日程で螺旋丸を覚えていたのだ。これにはア
カネも驚いていた。
ナルトは器用なタイプではない。発動に必要な印が不要な螺旋丸
はナルト向けだがその程度の日数で覚えられるとは思ってもいな
かったのだ。
螺旋丸を考案したナルトの父であるミナトは螺旋丸の完成に三年
の年月が掛かっている。完成形を教えられるナルトが早く覚える事
が出来るのは道理だが、それでも一から覚えるなら十日というのは素
晴らしい速度だと言えよう。
螺旋丸を使うナルトを見るとアカネはミナトを思いだす。やはり
親子だと実感するのだ。血は争えないと言う事だろう。
今はまだ九尾のチャクラはもちろん自分の膨大なチャクラも持て
余しているが、下地が出来上がりそれらを上手く操れる様になれば飛
躍的に成長するだろう。
サクラは医療忍術を習い始めたばかりなのでまだ表立った成果は
286
出ていない。だがチャクラコントロールには目を見張る物があるの
も確かだった。
医療忍術は難易度が高く一人前になるには長い年月を修行に費や
す必要があるが、サクラならばあと少しである程度の医療忍術を覚え
る事が出来そうだった。
綱手と共に一通りの医療忍術を叩き込んだらその後はチャクラコ
ントロールを利用した攻撃方法と、医療忍者に必要な戦闘技術を教え
込むつもりだ。その際はこの世界にはいないあの武術の後継者にな
るかもしれない。
上手く育てば綱手の後を継ぐ医療忍者に至れるだろう。将来を思
うと楽しみになるアカネだった。
サスケに関しては言うまでもない。まさに彼は天才だった。
うちは一族に当てられたその言葉だが、サスケはその中でも飛び抜
けた才を持つ一人だろう。
アカネの教えを水を吸い取る砂の様に吸収して行く様は見事の一
言だった。目下の弱点はチャクラ不足だが、それを克服した時サスケ
に勝てる忍びは数える程になるだろう。
そしてナルトとサスケの関係が上手い具合に作用していた。
互いに相手をライバルと認識しており、相手に負けてなるものかと
修行する事で成長を更に後押ししているのだ。
そしてそんな二人を意識する事でサクラも二人に付いて行こうと
必死に努力する。素晴らしい関係だった。
ナルトがサスケに勝つ↓サスケが更に修行する↓サクラが二人に
追い付こうと努力する↓サスケがナルトに勝つ↓ナルトが更に修行
する↓サクラが追い付こうと努力する↓ナルトがサスケに勝つ↓以
下エンドレス。
これがアカネの思い描く最終段階である。この修行の無限螺旋に
至れば三人の実力は否応無く上がっていくだろう。そう思うと歌も
歌いたくなるというものだ。
﹁うーん、今日もいい修行日和だ﹂
空からは燦燦と太陽の光が降り注いでいる。まるでナルト達の成
287
長を祝福しているようだ。⋮⋮当のナルト達は今日も地獄が始まる
と朝からどんよりしていたが。
そんな風にアカネが機嫌良く歩いているとふと見知った人達を見
掛けた。アカネの正体を知る数少ない人物であるうちはイタチとう
ちはシスイである。
二人は日向一族に用があるのか、日向の敷地に向かって歩いてい
た。つまり日向の敷地から出て行こうとしていたアカネとは自然と
すれ違う事になる。
﹁おはようございますシスイさん、イタチさん﹂
﹁おはようアカネちゃん﹂
﹁おはよう﹂
アカネもシスイ達もどちら肩書き通りの立場で会話をする。つま
りアカネは下忍であり、イタチは上忍、シスイは火影の右腕としての
﹂
立場だ。前以って決めてあった通りの対応である。
﹁本日は日向にどの様なご用件でしょうか
﹁ああ、サスケ君から修行の時間を聞いていたがどうやらいいタイミ
ングだったようだね﹂
﹂
アカネはシスイのその言葉からどうやら二人は自分に用があるの
だと理解する。
﹁⋮⋮なるほど。誰も居ない場所の方が都合が良いでしょうか
﹁出来ればね﹂
﹁⋮⋮﹂
も考えたが、出来るだけ広めたくない話ならば止めた方がいいだろう
アカネは二人を連れて人気のない場所へと移動する。宗家の屋敷
﹁⋮⋮着いて来てください﹂
観察力により、イタチの体にどこか違和感があると感じ取った。
はイタチを少しだけ観察する。そして長き年月によって鍛えられた
用件とはどうやらイタチに関する事のようだ。そう思ったアカネ
はそう読み取れた。
はどこか不満そうだ。あまり表情を変化させてはいないがアカネに
アカネの質問に対し、シスイはイタチを見つつ答えた。当のイタチ
?
288
?
と思い直したのだ。
宗家の屋敷ならばヒアシの耳に入るのは確実だ。人払いをするに
も表立った立場が低いアカネではヒアシに頼まねば出来ないのだか
ら致し方ないだろう。
そうして到着した林の中で周囲に他者の気配が無い事を確認し、ア
カネは二人の用件を聞く前に白眼を発動してイタチの体を詳しく調
べた。
﹁⋮⋮これは﹂
﹂
﹁流石はアカネ様。イタチの状態を察して白眼にて早くも確認すると
は。⋮⋮どうでしょうか
シスイは誰も居ない場所なので口調をヒヨリに対する物へと改め
る。
シスイの言葉の意味。それはイタチの容態は大丈夫なのでしょう
かという確認の言葉だ。
それはつまり、イタチの体が病に蝕まれているという事だった。
事の発端は数ヶ月前にイタチが任務を終えて里へと帰還した時だ。
うちは一族は警務部隊を担当しているが、だからと言って通常の任
務を受けられない訳ではない。警務部隊が休日の時や、人が足りてい
る時には里の任務を受ける一族も少ないがいるにはいた。イタチも
その一人だ。
そして久しぶりの長期任務を終えて帰って来たイタチをたまたま
シスイが発見した。良く知った仲であり兄弟のいないシスイはイタ
チを弟の様に思っており、当然気軽にイタチへと声を掛けた。
いや、掛けようとした。掛けようとしたが、イタチがふらりと道か
ら外れて人気の無い小道に入っていくのを見て声を掛けるのを止め
たのだ。
悪戯心が湧いたシスイは少し驚かせてやろうと思いイタチをこっ
そ り と 尾 行 し た。そ し て そ こ で 咳 き 込 み 膝 を 着 く イ タ チ を 見 て し
まったのだ。
心配して駆け寄ったシスイにイタチは驚きつつも、少し咳き込んだ
だけだと説明した。その時はシスイもそれで引き下がった。だがそ
289
?
れからシスイはイタチを注意深く観察する様にしたのだ。
そうして観察している内に、シスイはイタチの体に何らかの異変が
あると判断した。イタチの動きが若干、本当に若干だが鈍いのだ。そ
れは注意深く観察したシスイだからこそ気付ける程僅かな違いだ。
しばらくは黙って見ていたシスイだったが、木ノ葉崩しにて自分を
犠牲にしようとするイタチを見て我慢も限界が来たのだ。
命
そうして医療忍術の第一人者であったヒヨリの転生体であるアカ
﹂
ネへと相談に来たわけだ。
﹁⋮⋮どうでしょうか
治療は可能なのか
治せますけど
﹄
﹂
本 当 に イ タ チ は 不 治 の 病 な の で す か
す。なので、これが不治の病であると知りとうに諦めていました﹂
﹁申 し 訳 あ り ま せ ん ⋮⋮。自 分 の 体 の 事 は 良 く 知 っ て い る つ も り で
イタチは答える。
アカネの叱る様な口調に、まるで子どもに戻った様だと自嘲しつつ
私がヒヨリと分かった時点で何故相談しなかったのですか﹂
それら全てを籠めた言
再びシスイはアカネに確認する。イタチの病気は何なのか
に別状はないのか
?
﹁⋮⋮全く。イタチ、あなた初期症状は自覚していたんでしょう
葉だ。
?
?
!
と理解出来たシスイも、アカネの一言に呆気に取られていた。
﹁いえ、いい自己判断ですよ。良く初期症状の段階でそこまで見抜い
ていましたね。並の医療忍者ではこの病を手術で治療する事は出来
ても治療箇所の発見は困難でしたでしょうから、その判断も間違った
﹂
物ではありません﹂
﹁並の⋮⋮では
す﹂
﹁はい。私か綱なら手術と医療忍術を駆使する事で治療可能な病気で
!
290
?
?
﹁イ タ チ ⋮⋮ ア カ ネ 様
﹂
﹁いえ
﹃⋮⋮え
?
!
助かる事のない命と思っていたイタチも、イタチの言葉に嘘がない
?
?
!?
﹂
アカネの言葉にシスイは喜色満面の表情を見せる。イタチも普段
どうかイタチをよろしくお願いします
の冷静な面を捨てて素直に驚愕を顕わにしていた。
﹁アカネ様
はないだろう
お前にだって幸せになる権利はあるんだ
﹂
﹁⋮⋮お前は任務で大切な人を亡くしてしまった。その上この仕打ち
﹁止めてくれシスイ。オレの為にお前がそこまでする事はない﹂
を下げた。
アカネにイタチの治療が可能と知り、シスイは土下座する勢いで頭
!
!
イタチが自分の死を軽んじていた事を察していたアカネは少しだ
﹁⋮⋮どうやら説教の必要はないようですね﹂
シスイを見てそう考えるととても安易に死を選べなくなったのだ。
思ったのだ。自分を想ってくれる人が自分が死んだ時にどう想うか、
幸せになれるかは分からないが、己の命を軽んじる事は止めようと
て治療を懇願する。
シスイの想いを受け止めたイタチはアカネに対して深く頭を下げ
様。どうか、オレの体を治療してはもらえないでしょうか﹂
﹁ああ、分かっている。ありがとうシスイ。⋮⋮お願いしますアカネ
ま病に倒れて死ぬなどシスイには耐えられなかった。
様に信頼を置いている唯一無二の存在なのだ。そのイタチがこのま
だがシスイにとってイタチとは友であり好敵手であり、そして弟の
いだろう。
だ。イタチを気に掛ける事はともかく申し訳なく思う必要まではな
なる権利がある。シスイもまた大切な人を失い万華鏡に開眼した者
いや、イタチに幸せになる権利があるようにシスイにもまた幸せに
だ。
人が死んだというのに、自分は恋人を作り幸せな日々を送っているの
そしてシスイはイタチに対して心苦しく思っていた。イタチは恋
タチはその悲しみによって万華鏡写輪眼を開眼したのだ。
世界では良くある話だが、だからと言って悲しくないわけがない。イ
イタチはかつて任務にて恋人を失ってしまった。それはこの忍の
!
け説教をするつもりだったのだが、イタチが考えを改めたのを知りそ
291
!
の必要がないと理解した。
﹂
﹁二人とも頭を上げなさい。そこまで頼みこまなくてもちゃんと治療
はしますよ﹂
﹁本当ですか
﹁ありがとうございますアカネ様﹂
﹁手術は細かな検査をして綱と話し合ってからですね。しばらくは治
﹂
療 に 掛 か り つ き に な り ま す か ら 当 然 任 務 は 受 け な い で く だ さ い よ。
警務の仕事も休みなさい。あと、ちゃんと家族には話すんですよ
﹁⋮⋮はい﹂
て大地に転がっていた。
今アカネ││影分身だが││の目の前では三人の男性が疲れ果て
第七班の修行が始まってから既に一年という年月が経った。
◆
しているようだった。
り切っているが、家族からの要望もありその仕事量は以前よりも落と
かつての技の冴えを取り戻したイタチは今も里の警務と任務とに張
術後しばらくしてイタチは退院。完全に元の健康体に戻っており
死が待っていた。
能が著しく落ちていただろう。手術すらしなかった場合はもちろん
再生忍術が無くても手術は成功していただろうが、イタチは肺の機
切り取り、それを再生忍術で元の健康な肺に戻すという手術だった。
イタチの手術が行われたのはそれから一週間後。肺の三分の一を
はフガクの元へと事情の説明と任務の長期休暇を取りに行く。
アカネは綱手にイタチに関する事情を話しに行き、イタチとシスイ
た。
取り敢えずこの場で話す事は終わったので三人は一度ここで別れ
?
これで今日の修行中六回目のダ
?
オビトは三回、ガイに至っては一度もダウンしてませ
?
292
!
﹁カカシ、またへばったんですか
﹂
ウンですよ
んよ
?
﹁もうしわけ⋮⋮ありません⋮⋮﹂
そ れ は 少 し 前 に
三人とはカカシ・オビト・ガイの木ノ葉の有名な忍達であった。
何 故 彼 ら が ア カ ネ の 元 で 修 行 し て い る の か
あった第七班vsカカシの勝負が原因である。
一年間で第七班がどれだけ強くなったか。それを確認する為に第
七班の担当上忍であったカカシがナルト達三人と勝負したのだ。
その内容は鈴取り勝負。カカシが腰につけた鈴を奪うという、第七
班の思い出深い勝負である。と言うのもこの勝負はかつて第七班が
カカシから与えられた下忍になる最終試験でもあったのだ。
結果は合格だったが、鈴を奪えた訳ではなかった。カカシがこの三
人に忍として、人として必要なモノを持っていると判断したからこそ
の合格である。
なのでナルト達は今度こそ鈴を取ってやると息巻いて勝負を開始
した。
⋮⋮ 結 果 は カ カ シ の 負 け で あ っ た。鈴 を 取 ら れ た だ け で は な い。
ナルト達が鈴を奪うのに必要とした時間は僅か二分程度だったので、
アカネが勝負を鈴取りから本気の勝負へと変更したのだ。
も う 分 か る だ ろ う。カ カ シ は 三 人 と 本 気 で 勝 負 し て 負 け た の だ。
ナルトは多重影分身から螺旋丸を加えた体術による連撃を、サスケは
大幅に伸びたチャクラ量を利用した雷遁チャクラモードに火遁を巧
みに利用した戦術を、サクラは二人をサポートしつつ綱手直伝の怪力
にアカネ直伝の合気柔術という武術を、それぞれが修行で身に付けた
力をこれでもかとぶつけてきたのだ。流石のカカシも押し負けてし
まった。
いくら自来也に綱手、そしてアカネが鍛えているとはいえたった三
人の下忍に、それも教え子に負けたカカシはショックでしばらく落ち
込んでいた程だ。
落ち込んでいたカカシだがこのままでは担当上忍の沽券に関わる。
そう思い至ったカカシは名案を思い付いた。
あの三人がアカネに修行を付けてもらい強くなったのなら自分も
そうすればいいじゃない、と。
293
?
二日後には後悔していた。なのでオビトとガイを誘い地獄の道連
れを作り出したのである。自分だけでないならきっと耐えられると
思ったのだ。
オビトもガイもカカシの申し出を快く受けた。オビトは火影にな
る為に、ガイは二人に負けない為に、どちらもカカシの申し出は願っ
たり叶ったりだったのである。
二日後にはオビトは後悔していたが。なおガイは一切後悔してい
ない模様。流石は努力の達人である。これにはアカネもにっこりだ。
﹁あ な た は チ ャ ク ラ 量 が 他 の 上 忍 と 比 べ て 少 な い わ け で は あ り ま せ
ん。ですが、写輪眼はうちは一族ではないあなたの体には合っていな
い代物です。便利だからと無闇に使用すればすぐにチャクラ切れを
起こします﹂
それはカカシも理解しているカカシのみの写輪眼の欠点だ。理解
しているからこそカカシは普段は写輪眼を布で覆って塞いでいるの
294
だ。
だ が そ れ で も 厳 し い 戦 闘 で は 写 輪 眼 を 使 用 せ ざ る を 得 な い の だ。
それほど写輪眼とは便利な代物だった。
写輪眼が無ければカカシは自身の切り札である雷切り││カカシ
の千鳥の呼称││をまともに運用出来なくなってしまうだろう。
それはカカシに決定打とも言える術が無くなる事を意味する。更
に写輪眼は相手の術を見切りコピーして自らの物としてしまう能力
もある。
これらが封じられた時カカシの戦闘力は果たしてどれだけ落ちる
のか。
﹁あなたの課題は三つです。写輪眼に頼らずとも使える決定力を得る
事、写輪眼と同時に術を使用してもすぐにチャクラ切れを起こさない
﹂
チャクラ量を手に入れる事、そして写輪眼に慣れる事です﹂
﹁写輪眼に、慣れる
﹁あなたは写輪眼を発動し続けるとすぐに体が参るので普段は写輪眼
はどういう事かよく理解出来なかった。
前者二つはカカシも想定していた自身の課題だ。だが最後の一つ
?
を使用していませんが、これからは普段から出来るだけ写輪眼を発動
していなさい。そうすれば少しずつ体が写輪眼に合わせて慣れて行
﹂
そうするとオレはすぐにへばって動けなくなっちゃうんです
くでしょう﹂
﹁え
けど⋮⋮
かつての強敵ザブザとの戦いをカカシは思いだす。あの時も普段
はあまり使用しない写輪眼を戦闘中ほぼずっと発動していたので戦
闘後は一週間も寝込んでいたのだ。
戦闘中ではないとはいえ、普段からずっと写輪眼を発動していては
その内に倒れてしまいまたも長い時間寝込む事になるだろう。
そうすれば体はその間に衰え、修行しても意味がない物となってし
まう。
だが、そんな不安はアカネの前では無意味だった。
﹁大丈夫です。影分身の私があなたに付いてあなたが倒れたらすぐに
﹂
治療します。チャクラも分けますからすぐに元通りです。これでい
つでも何度でも写輪眼の修行が出来ますよ
!
﹂
羨ましいぞカカシぃ
﹂
﹁⋮⋮よ、良かったなカカシ、アカネちゃんがずっと一緒だってよ﹂
﹁うおおお
﹁お前ら⋮⋮
!
そのいい例がガイであろう。ガイと勝負をしてもオビトは殆ど勝
的な術は多いが、一人の強敵相手は苦手なのである。
これもまたオビトも理解していた課題であった。対集団には効果
﹁う⋮⋮﹂
強いられるでしょう﹂
団の敵に対しては強いですが強敵相手には決定打が無い為に苦戦を
これだという決定打がありません。術も火遁・土遁・水遁と多彩で集
﹁オビトの課題は欠点が少なく纏まっている事ですね。カカシと違い
カカシの問題を指摘した次に、アカネはオビトへと視線を送った。
どちらも勘弁してくれというのがカカシの心情だったが。
ガイは本気で羨ましそうな視線を送っていた。
アカネの説明を聞いたオビトはカカシに同情の視線を送り、そして
!
!
295
?
?
てた試しがない。
大規模な術を使ってもガイならそれを避けるなり突き破るなりし
て向かってくるのだ。
近接戦闘が苦手なわけではないが、それでも決定打がないオビトで
は接近戦の達人であるガイ相手に近付かれてはどうしようもないの
だ。
﹁あなたも基礎修行は当たり前として、近接主体の決定打を覚えても
﹂
﹂
らいましょうか。後は風遁を覚える事が出来ればいいですね。影分
身は使えますか
﹁ああ、使えるけど
﹁それは重畳。風遁を覚えれば一人で火遁と風遁の合体忍術が使用出
来ます。これだけで広範囲の決定打としては十分でしょう﹂
忍術の属性には相性があり、風遁は火遁に弱い。何故なら火遁と風
遁がぶつかり合うと風遁の風を受けた火遁が更に威力を増してしま
うからだ。
逆に言えば味方同士で火遁と風遁を同時に敵に向かって放てばそ
れは更なる威力の火遁となるのだ。その威力は火遁に強い水遁でも
相殺出来なくなる程だ。
チャクラ切れ
﹁というわけで、ナルトと違って土台が出来上がっているあなたは影
安心して下さい。私がいますよ﹂
分身を応用して修行してもらいましょうか。なに
が起きるって
?
り修行中のチャクラ切れは起こり得ない。
つまり延々と修行が出来るという事である。素晴らしい天国の様
な環境だ。⋮⋮修行ジャンキーにとってはだが。
﹁オレは、絶対に火影になるんだ⋮⋮﹂
自分の夢を再確認する事でオビトは自身を奮い立たせた。きっと
彼ならば立派な火影になってくれるだろう。修行を乗り越えられた
らだが。
次にアカネはガイへと視線を向ける。そこには期待に胸を躍らせ
ているガイの姿があった。きっと自分にはどんな課題があるのか楽
296
?
?
アカネという尾獣すら超えたチャクラを持つ化け物が傍にいる限
?
しみなのだろう。
カカシとオビトを良く知り、二人の欠点と課題を聞いていたガイは
それらの課題を乗り越えた時に二人がどれほど強くなるか理解して
いた。
なので自分もアカネの課題を乗り越えた時にどれだけ強くなれる
か楽しみで仕方ないのだ。
ちょっとアカネ
﹂
それはないんじゃないか こう、オ
﹁ガイは何と言うか、今のままで完成していますね﹂
﹁えー
!?
﹁そうだ
羨ましいじゃないか
﹂
﹁完成してると言われて何で落ち込んでるんだお前は⋮⋮﹂
た時に強くなれるという楽しみが潰された思いだ。
ガイは予想と違ったアカネの答えに困惑していた。弱点を克服し
うになったのだ。まあ、それはいいとしよう。
アカネやカカシ達が何度も説明してようやく通常の対応をするよ
守る気はないのかと問いたい。と言うか問うた。
らアカネが里の何処にいようとも出会えば敬ってくるのだ。秘密を
いや、それが秘密を知る者だけがいる場ならいいんだが、常日頃か
たが、アカネが懇願してどうにか止めてもらえた。
ガイはリーを救ってくれた恩からアカネの事を様付けで呼んでい
レにもここが足りないとか、こうすれば良くなるとかあるだろ
!
!
だ。
!
﹁まあ落ち着いて下さい。完成されているのは通常のガイの事です。
える。
そんなガイにアカネは朗報││と言っていいのだろうか││を伝
ら欠点を克服する事に青春を見出している様だ。
事情を知らない者には訳の分からない事を口走っているが、どうや
﹁オレだってもっと青春をしたいんだ
﹂
叩き付けられたというのに、ガイだけはそれがないのだから当然の話
逆に憤慨しているのがカカシとオビトだ。自分達は大量の欠点を
!
と言うと
﹂
?
297
!?
!?
あなたの切り札である八門遁甲を使った時は別ですよ﹂
﹁え
?
欠点があると明確に言われたのに嬉しそうに反応するガイ。そん
なガイを馬鹿を見る目で見つめるカカシとオビトであった。
﹁あなたは忍術や幻術を不得意としているのに、体術のみでカカシと
互角以上にまで至った素晴らしい忍です。そして八門遁甲を発動す
ればあなたに勝てる忍は極僅かでしょう。⋮⋮死門まで開ければま
た話は変わるでしょうが﹂
八門遁甲とは、経絡系上に頭部から順に体の各部にある八つの門│
│経絡系の弁、言うなればリミッター││を無理矢理外す事で通常で
は出せない潜在能力を発揮する禁術である。
門にはそれぞれ開門・休門・生門・傷門・杜門・景門・驚門・死門
と名付けられており、後半の門ほど開ける事が難しい。もちろん後半
になるに連れ引き出される力も大きくなっていく。
そして、それだけ強力な術だけに代償も大きい。それこそがこの術
が禁術に指定された理由だ。
﹂
298
術に慣れていない者なら一の門である開門を開けただけでも体は
大きく傷つく。その上の門など説明するまでもないだろう。
そしてどんなに八門遁甲に長けた術者であろうと、最後の死門を開
﹂
いた者は僅かな時間だが火影の何十倍もの力を得る事と引き換えに、
その命を失ってしまう。
﹁今のあなたはどこまで門を開けますか
﹁⋮⋮七門までだ﹂
魚に殺されては話にならない。
を倒したはいいが、全身が傷つき動けなくなった時に後から現れた雑
そして毎回それではその時は危機を退けられても後がない。強敵
潜在能力を無理矢理引き出しているのだ。肉体が傷ついて当然だ。
だ が そ の 引 き 換 え に ガ イ の 全 身 は 骨 ま で ボ ロ ボ ロ に な る だ ろ う。
に勝てる忍は本当に数少ない。五影でも怪しいと言えるだろう。
第七の門・驚門。死門の一つ手前の門だけに、ここまで開いたガイ
?
﹁死門は論外として、実質最高の七門までですか。ちょっと開放して
﹂
?
⋮⋮いや、分かった。では行くぞぉ
!
もらえますか
﹁ん
?
何故この場で八門遁甲を開放させるのか、その理由はガイには分か
らなかったが今は師であるアカネの言葉に従いガイは驚門までを開
放する。
そしてガイの体から凄まじいチャクラが溢れだし、その身を碧い蒸
気が覆う。驚門を開いた者は体から碧い汗をかく。それが己の熱気
で蒸発して碧い蒸気となるのだ。
行くぞぉ
﹂
﹁ではあそこの木まで走って、ここまで戻って来てもらえますか﹂
﹁分かった
!!
戻って来たぞ
﹂
!
﹁うむ
え
⋮⋮ぐ、ぐわぁぁぁぁぁ
﹂
!
が限界でしょう﹂
!
﹂
分かったぞアカネよ
限界を乗り越えて修行し続けて始めて辿り
﹂
着ける境地があるのです
う、うおおおお
﹁限界を乗り越える⋮⋮
オレは限界を超えて更に体術を磨き上げていくぞ
﹂
あなたにも私の影分身を付けましょう とも
に体術の極みへと近付きましょう
!
﹁その意気や良し
!
!
先は極めた後にある
す事になりますね。それとは別に体術の強化もしましょう。体術の
る様になる事です。基礎修行と驚門を開き続ける修行を只管繰り返
﹁というわけで、今後のあなたの課題は第七門を副作用無く運用出来
アカネはガイに治療を施しながら話を続ける。
﹁お、仰る通りで、おおおおぁっ
﹂
ね。今のあなたが副作用無く運用出来るのは第五門か、良くて第六門
﹁とまあ、このように八門遁甲は強大な分その副作用もまた強大です
用が待っているのだ。
驚門まで開けて動けばたったあれだけの時間でもこれほどの副作
アカネに言われ八門を閉じて元に戻るガイの全身に痛みが走る。
?
﹁お疲れ様。それでは八門を閉じていいですよ﹂
﹁良し
オビトには見る事も叶わぬ速さである。
移動し、そして瞬時に戻ってきた。写輪眼を発動していないカカシと
叫ぶと同時にガイは目にも止まらぬ速さで数百メートルの距離を
!
!
!
!
299
!
!
!
!
!!
ああ、最悪の二人が意気投合したのかもしれない。カカシとオビト
は同時にそう恐怖していた。
そんな二人の思いを他所にアカネは影分身を利用した他の忍の強
化なども考えていたりする。
なお、多くの忍︵主に男性︶に影分身を付けて密着修行した事で後
の木ノ葉の里でアカネが複数の男性と付きあって弄ぶ悪女だという
噂が立つのだが、今それを知る術はアカネにはなかった。
300
NARUTO 第十六話
ナルト達が修行を始めて一年と半年が過ぎた。アカネ︵本体︶とナ
ルトが修行をしている場には、日向の姫君である日向ヒナタの姿も
あった。
さ て、何 故 ナ ル ト と 一 緒 に ヒ ナ タ が い る の か。そ の 答 え は ⋮⋮ ま
あ、野暮というものだろうがすぐに分かるだろう。
やっぱりヒナタはいい奴だってばよ
﹁な、ナルト君⋮⋮お疲れ様、こ、これ良かったら飲んで。家で作って
きたの﹂
﹁お、サンキューヒナタ
⋮⋮鬼アカネと違って﹂
同じ第八班同士による連携修行や任務もあるのだから致し方ない。
そんなヒナタが常日頃からナルトと共にいる事は出来ないだろう。
事だ。まあ、ナルトも一応は任務中なのだが。
つまりナルトと違ってヒナタには任務をこなす必要があるという
率いる第八班の一員である。
がカカシ率いる第七班という班に入っているように、ヒナタも夕日紅
さて、こうしてナルトと一緒に修行をしているヒナタだが、ナルト
後かもしれない。
見過ごしたのは今だけのようだ。ヒナタが離れた時がナルトの最
︵ヒナタ様がいなくなったら覚えていろよナルトめ︶
ルトが小さく呟いた言葉を見過ごしてやった。
だからこそ、愛する妹分であるヒナタの為だからこそ、アカネはナ
う案だ。
もヒナタの優しさと魅力に気付き、いつしか愛が芽生えるだろうとい
そして疲れた時や傷ついた時に優しく看護すればその内にナルト
ネが共に修行をする事を提案したのである。
憧れていて惚れた男と一緒にいたい。そんなヒナタの想いにアカ
タも一緒になってナルトと修行をしている。
とまあ、この様に甲斐甲斐しく世話をしているのだ。もちろんヒナ
!
だが第八班の班員達にはある悩みがある事がヒナタの言葉から発
301
!
覚した。それを解消し、そしてヒナタの想いも遂げられる一石二鳥の
案をアカネは考え付いたのである。
では第八班の悩みとは何なのか。それは⋮⋮自身達とヒナタとの
実力差であった。
第八班の一員、犬塚キバ。彼は現在アカネ︵影分身︶の地獄の修行
を受けていた。最近ヒナタがメキメキと実力を付けて来て、このまま
ではいられないと思っていた矢先、担当上忍である紅からアカネを紹
介されたのである。
﹁もう、無理だ⋮⋮﹂
﹂
あんたやネジみたいにそう簡単に全
﹁大丈夫。出来ます。これが出来ればあなたの通牙は更なる威力を得
て進化するでしょう﹂
﹁オレは日向じゃねぇんだよ
身からチャクラを放出なんて出来るか
チャクラとは基本的に掌という放出しやすい箇所を使用して術な
どを発動する。螺旋丸を手から作っているのもそれが理由だ。まあ、
アカネは全身のどこからでも螺旋丸を作る事が出来るが。その気に
なれば﹁私自身が螺旋丸になる事だ﹂などという意味不明な台詞を吐
いて実行する事も出来る。
だが全身からチャクラを放出出来るのは経絡系や全身の点穴を見
切る事が出来る日向ならではの技術なのだ。キバがアカネに文句を
言っているのも間違いではない。いや、間違いではないが、間違って
いるとも言えた。その理由をアカネがキバに説明した。
﹁全身からチャクラを放出するのは日向の特権ではありません。日向
はあくまでその技術に長ける素養があるだけの事。その素養がなく
ても意識して修行すればいずれは全身からチャクラを放出する事が
出来る様になりますよ﹂
﹁⋮⋮んなこと言ったってよ﹂
アカネに説明されても納得を見せないキバ。こうしてアカネに修
行を付けてもらっているのは担当上忍である紅からの指示だからだ
302
!
!
が、いきなりの事なのでまだ全てに納得が出来ていないのだ。強くは
なりたいが、良く知りもしない同い年くらいの少女が相手では納得す
る事が出来ず修行に身が入るわけもない。
これが今のあなたの通牙です﹂
だからアカネは分かりやすくキバに修行の結果を見せて上げるこ
とにした。
﹁いいですか
そう言ってアカネは全身を高速回転させながら敵に体当たりする
という荒業、通牙を使用してみせた。
犬塚一族は一族に代々伝わる擬獣忍法という獣そのものに成りき
る術にて獣の俊敏性を手に入れ、全身を高速回転させる事で初めて通
牙を放つ事が出来る。その通牙をアカネは擬獣忍法無しで放ったの
だ。しかもその威力はキバのそれを遥かに凌駕していた。
﹁⋮⋮す、すげぇ﹂
これがアカネの修行による成果だとすると、キバは興奮するしかな
かった。
しかもたった一人でこれだ。相棒の忍犬である赤丸と共に放った
ならばどれだけの威力になるか。
﹂
﹁そしてこれが私の修行を成し遂げた時の通牙です﹂
﹁え
それは最初の通牙と違い、全身からチャクラを放出して纏う事でそ
の威力を格段に上昇させていた。
威力が増した通牙は全てを切り裂き薙ぎ払い突き進んでいく。そ
の破壊の嵐はキバの想像を遥かに超えていた。触れれば相手が何で
あろうとも確実に倒せるだろうと確信させる程のものだ。
﹁⋮⋮﹂
もはやキバには言葉もなかった。茫然自失となってこの破壊の傷
痕を眺めており、そして少しずつ現実感が戻ってくると徐々に興奮が
湧き上がっていく。
﹁とまあ、このように通牙でさえこの威力になります。これを極めれ
ば通牙の発展系である牙通牙やそれ以上の術も効力を増す事でしょ
303
?
キバが驚く間もなく、アカネは再び通牙を放った。
?
すげぇよ
赤丸
絶対にこの技を覚えようぜ
!
﹂
!
う﹂
﹁すげぇ
﹂
!
はないのだが。
﹂
?
﹂
文句なんてあるもんか 早く修行を付けてくれ
何でもするぜ
!
﹁では、私の修行に文句はありませんね
﹁ああ
すればいいんだ
どう
得した秘奥中の秘奥を、まだ若いキバが一年や二年で体得出来るわけ
もっとも、当主であるヒアシをして十年の年月を掛けてようやく体
わるだろう。
の奥義になるからだ。流石にそれを他家に教えては日向の沽券に関
それは即ち日向の秘奥と言われている回天の上位、廻天と同じ理屈
めた。
せる事で更なる威力向上をと思っていたのだが、流石にそれは取りや
ちなみにアカネとしては放出した肉体と同時にチャクラを回転さ
対する意欲が湧いてきた事に安堵する。
最初の頃とのその気迫の差にアカネは苦笑しつつ、どうやら修行に
﹁オン
!
﹁私があなたの師となる日向アカネですが⋮⋮私で問題はないのです
アカネが強く、そして師として有能である事を知っているのだ。
それはアカネの修行を楽しみにしているという事だ。そう、シノは
来た。だが、シノにはキバと違う点があった。
シノもキバと同じく担当上忍に言われるがままにここへとやって
互いに無言のままに時間が過ぎていく。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
女シノと対面していた。
ところ変わって、アカネ︵影分身︶は第八班の最後の一人である油
どもにしかと教えた言葉である。
気軽に何でもするなどと言ってはいけない。後にキバが自身の子
!?
!
!
304
!
!
か
﹂
﹁ああ⋮⋮何故なら、お前の評判はヒナタから良く聞いているからだ﹂
そう、ヒナタは事有る毎にアカネの自慢をしているのだ。
アカネ姉さんに教わったからこの技が出来る様になった、アカネ姉
さんがたくさんの下忍や上忍にまで修行を付けている、等とだ。
そしてヒナタの実力がここ最近急速に伸びているのもアカネのお
かげとの事だ。
このままではヒナタだけが強くなり、自分達は置いていかれるので
は。そう思った矢先にこの話が来たのだから、シノとしては渡りに船
だったのだ。
ちなみにキバがアカネの事を覚えていないのは単に彼がヒナタの
自慢話を聞き流していたからである。
﹁そうですか⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
シノは期待していた。どのような修行で自分を強くしてくれるの
か、と。
﹁では⋮⋮﹂
﹁ああ⋮⋮﹂
ごくり、と唾を飲み込む音が聞こえる。果たしてそれはどちらから
聞こえた音なのか。
﹁と、取り敢えず基礎修行をしましょうか﹂
﹁⋮⋮﹂
シノが期待した様な特別な修行はなかった。
だがそれも仕方がないのだ。何故なら油女一族は木ノ葉に存在す
る秘伝忍術を伝承する一族の中でも、更に特殊な一族だからだ。
油女一族は蟲使いの一族である。この世に生を受けたと同時にそ
の体を巣として蟲に貸し与え、その力を借りて戦うという秘伝忍術の
一族だ。
油女一族は蟲を自在に操り戦闘の殆どを蟲に委ねる代償として、自
らのチャクラを餌として与え続ける契約をしているのだ。
そんな特殊な秘伝忍術の使い手に、更なる秘伝忍術の応用や発展な
305
?
ど油女一族ではないアカネにどうしてできようか。
出来る事と言えば基礎修行と近接戦闘修行を付けて、より秘伝忍術
の使い勝手を上げるくらいである。
﹁す、すみません。あなたの一族の術は特殊すぎて私ではそれらを発
展させる事は難しいんです⋮⋮﹂
﹁⋮⋮分かっている。何故なら、それが油女一族だからだ﹂
基礎修行をしてチャクラを増やせば寄生させる
そう返すシノは、どこか寂しそうであった。
﹁だ、大丈夫です
蟲の種類や量を増やす事が出来ますし、近接戦闘力を向上させれば敵
﹂
への接近時に戦術の幅も広がります そうすれば秘伝忍術を使用
する時に便利なはずです
﹁⋮⋮そうだな﹂
!
﹁はい
﹂
﹁では、よろしく頼む﹂
しれない。そう思えばシノもやる気が漲ってくるというものだ。
今寄生させている蟲だけでも新たな戦法を作り出す事も可能かも
きな利点を得る事も出来る。
術を覚える事は出来そうにはないが、アカネの修行を成し遂げれば大
これに関してはシノも異論はなかった。確かに新たな蟲の秘伝忍
!
行と近接戦闘修行に力を入れる事でその不備を詫びようと気合を入
れる。
まあ、どう考えても気合の入れ方を間違っているだろう。哀れ、シ
信じてくれよ
ノは蟲使いだというのに木ノ葉でも屈指の近接戦闘のスペシャリス
トへと至るのであった。
◆
アカネちゃんとは何でもないんだって
オレがロリコンだなんて根も葉もない噂だ
!
﹂
﹁だから
リン
﹁オビトの言う通りだ
!
!
306
!
シノに合った特別な技を伝授出来そうにないので、アカネは基礎修
!
!
オレは無実だ
﹂
してもらえるわよね
﹂
⋮⋮。だ っ た ら ⋮⋮ あ な た 達 の 隣 に い る そ の 娘 は 何 な の よ
説 明
﹁ふーん。そのアカネって子とは何でもないし、根も葉もない噂、ねえ
まで聞いて怒りを顕わにしない程、リンは聖女ではなかった。
るという噂を聞いたからである。しかも両者とも同じ少女だ。ここ
想ってくれているオビトの二人が、十六歳の少女に手篭めにされてい
その理由は、親友であり想い人であるカカシと、親友であり自分を
もかく怒っていた。
対して非常に怒り狂っていた。失礼、流石に狂ってまではいない。と
まさに怒髪天を突くという言葉が相応しいだろう。リンは二人に
はなかった。
そんな優しいリンだが、今の彼女に逆らう気概はオビトとカカシに
事が好きなので三十路が近い今でも独身を貫いているのだが。
嫁にしたいと思っている男性は数多いだろう。だが、彼女はカカシの
リンは優しくて気立ても良く、木ノ葉でも有数の医療忍者である。
仲が良く共に食事をしたり任務を遂行したりしている。
らリン。この三人はかつては同じ小隊を組んでいた仲であり、今でも
男性の名はうちはオビトとはたけカカシ。そして女性の名はのは
死に懇願をしていた。
今、木ノ葉の里で大の大人である男性二人が一人の女性を相手に必
!
!?
﹂
話 を 聞 い て
言ってるだろ
﹁待 っ て
はべら
オ レ が 愛 し て い る の は リ ン だ け だ っ て
﹁これまた器用に二人共に同じ娘を侍らせるとはね⋮⋮﹂
は二人いる事になる。
オビトの二人にそれぞれ影分身は付けているので、今この場にアカネ
ただし本人ではあるが本体ではない。影分身だ。そしてカカシと
人がいた。
リンの言う通り、カカシとオビトの隣には件の少女であるアカネ本
﹃ど、どうも。日向アカネと申します﹄
!!
!
オビトが言うように、実はオビトはリンに対して既に告白をしてい
!
!
307
!
た。想いを秘めていたのは十数年以上前からなので、遅い告白ではあ
る。
その募った想いの丈をリンにぶつける事が出来たのはアカネから
の発奮があったからだ。オビトの恋心を知ったアカネが後押しをし
たのだ。そう、まるで近所の世話好きのおばちゃんの如くにだ。
そうして一大決心をしてリンに告白をするも、返って来た答えはオ
ビトの期待していた答えではなかった。だが、予想していた答えでは
あった。
リンがカカシの事が好きなのは昔から知っているのだ。それでも
オビトはリンが好きだった。例え断られようとも、その程度で揺らぐ
ような愛でも恋でもなかったのだ。
だからオビトは断られても、リンに迷惑にならない程度に自分の愛
を証明してきた。プレゼントをしたり、デートに誘ったり、熱い告白
を再びしたりとだ。
ロリコンなんて不
﹂
だがカカシは過去にリンが敵に捕われた時に任務遂行を優先して
見捨てるという選択をした事を悔いていた。
そのせいでリンだけでなくオビトまでも危険に晒したのだ。自分
が任務だけでなくもっと仲間の事を想えば起こらなかっただろう悲
劇だ。
ヒヨリという存在がいたからこそ、今もこうして三人揃って無事に
308
リンもオビトが自分の事を好きな事は知っていたが、自分はカカシ
に想いを抱いているので告白されても袖にするしかないと思ってい
たし、自分がカカシが好きだという事はオビトも知っていると理解し
ていたので告白してくる事はないと思っていた。
だが急な告白に、断ってからも愛を伝えてくるオビトに、次第にリ
ンの気持ちも揺れていた。いつまで経っても自分を避ける煮え切ら
ないカカシと、ストレートに自分だけを見つめてくるオビト。この二
後生だから最後まで説明させてくれ
つに揺れるのは乙女︵28︶として仕方のない事だろう。
﹁頼む
名誉な称号がオレに付くなんて耐えられないんだ
!
そしてカカシ。リンが幼い頃から恋心を抱いていた相手。
!
!
生きているのだが、そうでなければ確実にオビトは死んでいただろ
う。
リンを見捨てたという最低最悪││少なくとも今のカカシはそう
思っている││な選択をした自分が、リンに愛される資格なんてな
い。
カカシはそう考えているからこそ、リンの想いを知りつつもそれを
避けるように行動しているのだ。そしてそれはリンも分かってはい
た。
いつかは心の傷も癒えて自分の愛を受け入れてくれる。いや、自分
が心の傷を癒してあげる。リンはそう想い続けていたのだ。
だがそういった二人への想いも全部台無しだった。
何 だ こ の 二 人。私 の 愛 を 受 け 入 れ な い の は 私 が 若 く な い か ら か。
若 い 女 の 方 が い い の か。ど う せ 私 は も う す ぐ 三 十 路 の お ば さ ん だ。
私 だ け を 愛 し て い る と か 言 い な が ら 本 当 は 若 い 女 が い い ん だ ろ う。
﹂
遊びとかじゃなくて││﹂
﹂
内心でカカシとオビトをそう罵倒するが、それ
物であるカカシとオビトは既に戦意を失っているようだ。
この役立たずめ
!
309
この野郎共。
鬼 気 迫 る と い う べ き か。ア カ ネ で す ら 恐 れ る 程 の 殺 気 を リ ン は
放っていた。カカシとオビトなど最早涙目だ。
﹁お、おち、落ち着いて下さいリンさん⋮⋮わ、私は二人とは何でもな
いんです⋮⋮﹂
長い人生に置いてここまで動揺した事は数えるほどしかなかった
つまり二人とは遊びだったんだぁ﹂
なぁ、などとアカネは軽く現実逃避をしながら過去に思いを馳せてい
た。
﹁へえ
﹁タスケテ
﹁じゃあやっぱり本気なんだよね
!
思わず助けを求める程にアカネは追い詰められる。だが、渦中の人
!
?
﹁ち、ちが⋮⋮
で現実へと引き戻された。
だが残念。現実は非常である。アカネは深まるリンの殺気に一瞬
?
で味方が増えるわけではない。アカネの命は風前の灯火だ。
最後に頼りに出来るのは自分自身。なので、影分身のアカネは互い
﹂
にどちらかを犠牲にしようとし、ほんの僅かに早くオビトに付いてい
た影分身が自らその体を消滅させて逃げだした。
﹂
残されたのはカカシに付いていた影分身のみだ。
﹁う、うらぎりものー
﹂
﹁ちょっと、お・ね・え・さ・んとお話しようかしら
﹁ヨロコンデー
﹂
?
なので、カカシとオビトがリンは信用出来ると太鼓判を押した事も
だ。
程の実力となると、それはもうアカネの年齢では考えられない物なの
説明する必要があり、影分身を大量に作ってそれぞれに修行をつける
アカネが二人に修行を付けている事を説明するにはアカネの力を
がヒヨリである事も含めている。
ここまで来ては全てを話す他はない。その全てとは、アカネの正体
かせて釈明をした。
アカネはリンの家にまで連れられて、そこでどうにかリンを落ち着
訳ではありません。ご理解いただけたでしょうか
﹁と、言うわけなのです。なので、けっして私と彼らは付きあっている
そうか画策したというがそれは定かではない。 元された事でアカネはリンの怒りを知る事になり、木ノ葉から逃げ出
なお、影分身の一体が消滅し、その経験と知識が本体のアカネに還
択肢は与えられていなかった。
お姉さんという言葉を強調するリンに対し、アカネに拒否という選
?
!
これってドッキリ
﹂
あり、アカネはリンに自身の正体を明かした上で全てを説明したので
ある。
﹁⋮⋮え
?
葉設立の立役者である日向ヒヨリだなどとどうして信じれる。
﹁いや、信じられないかもしれないけど、本当なんだリン。オレの写輪
310
!
リンの反応も宜なるかな。目の前の少女が伝説の三忍にして木ノ
?
眼でもアカネちゃんのチャクラがヒヨリ様と同じなのは確認してい
るからな﹂
﹁ああ。それに日向ヒアシ様や二代目三忍の自来也様に、三代目様も
アカネがヒヨリ様だと認めている。他にも何人かの里の重役は知っ
ている事だ﹂
二人の言葉からドッキリであるという線はなくなった。二人に対
して怒ってはいても、やはり最も信頼しているのもこの二人なのだ。
なので、二人が嘘を吐いてないのは理解出来た。
⋮⋮その理解を先程の二人のロリコン疑惑釈明時に発揮してやれ
﹂
れば良かったのだが、あの時は冷静さを失っていたのだろう。だから
仕方ないのだ。
﹂
﹁も⋮⋮﹂
﹁も
﹁申し訳ございませんでしたー
それはそれは見事な土下座であった。見る人が見れば惚れ惚れし
ていたであろう。まあ、そんな土下座への理解者はこの場にはいない
のだが。
﹁あ、頭を上げて下さい。誤解される様な配慮の足りない事をした私
本当に申し訳ございません
⋮⋮お、オ
私達を助けて下さったヒヨリ様に対してあのような仕打ち
が悪いのですから﹂
﹁いえ
をしてしまったのです
!
た﹂
それは涙を流しながら発せられた言葉だった。あの時、ヒヨリがい
なければオビトは確実に死んでいただろう。それを思うと、何度礼を
してもしたりないくらいであった。
﹁⋮⋮あなたのお礼は、ヒヨリであった頃にも頂いていますよ。だか
ら、もう気にしないでください。木ノ葉は私の子どもの様な里です。
そこに住む人々を守るのは、当然の事ですから﹂
そう、ヒヨリが存命時にもリンはヒヨリにオビト救出の礼はしてい
る。姿形は違えど同一人物なのだから、同じお礼は一度貰えば十分
311
!
?
ビトを、オビトを助けて下さって⋮⋮本当にありがとうございまし
!
!
だ。
﹁はい⋮⋮ありがとうございますヒヨリ様⋮⋮﹂
アカネの優しさにリンは再び涙して礼を述べる。ヒヨリであった
頃から変わらない、母の様な慈しみの心を持って接してくれるアカネ
に感激して。
⋮⋮まあ、その母の様な人を脅して怯えさせるという珍事を成した
のだが。柱間やマダラにさえ出来なかった快挙であった。
いえ、アカネ様
﹂
しばらくして落ち着いたリンは改めてアカネに頭を下げる。
﹁ヒヨリ様
ちたいの﹂
れないかしら
私も医療忍者としてもっと腕を上げて皆の役に立
﹁⋮⋮じゃあ、アカネちゃん。私にも二人と同じ様に修行を付けてく
し、下忍の立場にいる私が敬われるのはおかしいですから﹂
﹁呼 び 捨 て で 結 構 で す よ。公 の 場 で 私 が ヒ ヨ リ と ば れ て も 困 り ま す
!
?
り祈願であった。
﹂
﹁⋮⋮私の修行は厳しいですよ
﹁望むところです
﹂
﹂
アカネならば自分の壁を壊してくれるはず。そう願っての弟子入
事が出来る。
リの生まれ変わりであり、影分身を利用して多数の忍に修行を付ける
だがアカネは違う。医療忍者としては最高峰と謳われる日向ヒヨ
が引けたのだ。
の弟子を持っている。そんな彼女に弟子入りを申し込むのは少々気
しかし綱手は火影という非常に忙しい立場であり、そして既に一人
忍者と言えば一年半年前に帰って来た綱手くらいだった。
優秀な師がいれば良かったのだが、既に木ノ葉にはリン以上の医療
しようもない壁に当たっていると実感したのだ。
だが最近自分に限界が見えてきたのだ。これ以上は独力ではどう
だ。リンは常日頃からそう思って修行を怠る事はなかった。
自分にもっと医療忍術の腕があれば、助けられる人も多かったはず
?
﹁止めておくんだリン
!
!
312
!
﹁そうだ
早まるんじゃない
﹂
!
行為を止めようとする。だがリンの決意は固かった。
﹂
﹂
﹁二人ともアカネちゃんに修行を付けて貰っているんでしょう
だけ仲間外れにするつもり
﹁そう言うわけじゃないけどさ
!
﹂
﹁お前が自殺しようとしているのを見過ごすわけには行かないでしょ
!
?
私
アカネの修行の過酷さを身を持って知っている二人はリンの自殺
!
﹁あなた達、私の修行を何だと思っているんですか⋮⋮﹂
地獄。その一言をカカシもオビトも喉から出そうになって飲み込
んだ。言えば最後、地獄も生温い過酷な修行が待っているに違いない
からだ。
だが時既に遅し。二人の物言いから既にアカネの中では修行の三
割増しが決定されていた。これで二人とも更にレベルアップする事
だろう。目出度い事だ。
﹂
﹁まあ、取り敢えずリンさんの修行は後日からにしましょう。今日の
それってオレ達の修行も休みってこと
所は三人でゆっくり休んで下さい﹂
﹁え
?
◆
?
術により完治していたが、再発や転移の恐れがある病だった為に定期
今アカネは白眼にてイタチの体を診察していた。イタチの病は手
﹁ああ、そうするよ。度々すまないな﹂
ね﹂
が、違和感を感じたら必ず私の所か綱手様の所に相談に来てください
﹁え え。問 題 な い で す ね。今 は 完 治 し た と 見 て い い で し ょ う。で す
﹁⋮⋮どうだ
﹂
した物であった。
カカシ大正解である。流石はコピー忍者のカカシ。頭の切れも大
﹁明日から修行が三割増しくらいになってそうで逆に不安だよ⋮⋮﹂
?
313
!
的にアカネが診察しているのだ。
ちなみにイタチの言葉遣いが丁寧ではないのはこの場がイタチの
実家であり、近くにミコトとサスケがいる為だ。この二人はアカネの
正体を知らないので、下忍に対する振る舞いを取らなくてはならない
訳だ。
﹁アカネさん、本当にありがとうございます。あなたと綱手様のおか
げで息子は無事に今も生きていられます﹂
アカネと綱手がイタチの手術をした事はこの一家には周知の事実
だ。もう何度も礼をしているが、それでもミコトはしたりないくらい
だった。
サスケの修行を手伝ってくれている事といい、ミコトはアカネにお
礼と称して良く家の食事に誘っていた。そういう訳でアカネはちょ
くちょくサスケの家で食事を摂っていたりする。
﹁気になさらないでくださいミコトさん。私も何度も夕飯をご馳走に
アカネが買いに行けばいいんじゃないかと文句を言うサスケだった
が、フガクの一睨みで颯爽と家から飛び出して行った。
314
なってますし、お礼は頂いていますから﹂
﹁ミコト。診察も終わった事だから茶の用意を頼む。茶菓子も忘れず
にな﹂
﹁はい。アカネさん、少し待っていて下さいね。美味しい羊羹がある
んですよ﹂
そう言ってミコトはその場を立ち去った。美味しい羊羹と聞いた
アカネの期待度は非常に高まっているようだ。
﹂
﹁いや、確かその羊羹は昨日イタチが食べてしまったな。サスケよ、少
しばかり買ってきてくれんか。場所は分かるだろう
﹁⋮⋮すまないなサスケ﹂
男である。
!
影分身という非常に便利な使い走りを用意出来る術を持っている
﹁アカネが影分身で買いに行けばいいんじゃ││行って来ます
﹂
えるが、フガクの考えを読み取りフォローすら入れた。空気の読める
食べた覚えがないイタチは濡れ衣を着せられた事に僅かにうろた
?
こ れ で し ば ら く は こ の 場 に は 事 情 を 知 る 三 人 の み と な る だ ろ う。
改めてフガクはアカネに頭を下げた。
﹂
﹁アカネ様、イタチの病を治していただき、感謝の念が尽きぬ思いです
⋮⋮まことに、まことにありがとうございます⋮⋮
大きな声ではないが、静かに響く思いが籠められた言葉だった。
ミコトとサスケを遠ざけたのも、うちは一族の当主である自分が下
忍を相手に頭を下げている姿を見せないようにする為だった。
逆に言えばアカネに礼を言いたいが為に二人を遠ざけたのである。
その為にわざわざミコトがアカネに出す為に用意していた羊羹を、ミ
コトに隠れてこっそりと食べたのだ。
﹁父さん⋮⋮﹂
あの厳格な父が自分の為にこうして頭を下げて思いの丈を顕わに
してくれているその姿に、イタチは素直に感動する。だからと言って
羊羹を食べた犯人を擦り付けるのはどうかと思ったが。
自分にも他人にも厳しいフガクだが、家族への愛情は内に秘めてい
た。滅多に表に出す事はないが、命を救ってくれたとなれば話は別
だった。
今まではアカネと一緒にいる時にはサスケやミコトがいた為に簡
単な礼しか言えなかったが、こうして機会を作り深く感謝の意を示し
たのだ。
﹁頭を上げて下さい。ミコトさんにも言いましたが、もうお礼は頂い
ていますよ﹂
﹁ああ⋮⋮﹂
アカネに言われて頭を上げたフガクはすぐに佇まいを当主として
の物にする。ミコトが近付いてくる気配を感じ取ったのだ。
﹁ごめんなさいアカネさん。羊羹がどこにもなくて⋮⋮おせんべいな
らあるんだけど﹂
﹁ごめんよ母さん。昨日オレが知らずに食べてしまったんだ。今サス
ケが買いに行ってくれているから﹂
フガクは心の中でイタチに謝った。こうもフォローしてくれると
余計に心が痛くなるものである。
315
!
﹂
﹁そうだったの。もうしょうがないわねぇイタチは。そうそうアカネ
さん、今日も夕飯食べて行くわよね
﹁そう何度も世話になると申し訳ないんですが⋮⋮﹂
﹁いいのよ、そんなに気にしなくても﹂
﹁じゃあ、お言葉に甘えてご相伴に預からせてもらいますね﹂
夕飯に誘う、一度は断る、気にしないでいいのよ、じゃあお言葉に。
これがアカネがサスケ宅で食事を摂る一連の流れである。
既にフガクやイタチも、そしてサスケも何度となく見た光景だ。た
まにイザナミ││幻術の一種││にでも掛かっているのかと思うく
らいに同じ流れである。様式美なのだから仕方ない。
そうしてサスケ宅にて夕食が開始される。ちなみにアカネの両親
にはちゃんと影分身で夕食をご馳走になる事は伝達済みだ。
﹁サスケ、修行の方はどうだ﹂
夕食を摂りながらの家族の会話だ。サスケがあの日向ヒヨリの修
行を受けているとなるとやはり父としてもうちはの当主としても気
になるのだろう。
幼い頃は優秀な兄と比べられてあまり期待されていないと思って
いたサスケは、こうして父が自分に興味を示してくれているのが嬉し
かった。
﹁ああ、大分強くなったと思うよ。今なら兄さんにだって勝てるかも
ね﹂
それはサスケなりの冗談だったが、それくらい強くなったと伝えた
かったのだ。
﹁ふ、大きく出たな﹂
﹁ん。まあ六対四くらいですかね﹂
サスケの言葉を虚勢と取ったフガクは、その後に続いたアカネの言
﹂
葉の意味が良く理解出来なかった。
﹁六対⋮⋮四
が六でサスケが四です﹂
316
?
﹁ええ。イタチさんとサスケが戦った場合の勝率ですよ。イタチさん
?
﹁⋮⋮え
﹂
その言葉に一番驚いていたのがサスケである。サスケにとって兄
とは優秀すぎる壁で、乗り越えたいと努力をしても決して追いつけな
い存在であった。
昔から父は事ある毎に優秀な兄と自分を比べ、優しい兄を尊敬しつ
つも嫉妬するというコンプレックスを抱いていた。
﹂
もう
さ っ さ と
そんな兄に、まだ負ける確率が高いとはいえ勝つ可能性を自分が得
﹂
ている。それがどこか信じられないでいた。
﹁そ、それは本当かアカネ
ほ ら よ 大 盛 り だ
﹁あ、ミコトさん、お代わりお願いします﹂
﹂
﹁お 代 わ り な ら オ レ が 入 れ て や る
さっきの話を詳しく聞かせろ
﹁食事くらい⋮⋮ゆっくり⋮⋮食べさせて⋮⋮下さいよ﹂
!
﹁もう半分飯食い終わってんじゃねーかこのウスラトンカチ
少しゆっくり食え
!
!
!
!?
罵倒など耳にも入らなかった。
?
何でこんなのがオレより強い⋮⋮
﹂
!
﹁ふぅ。お茶が美味しい。⋮⋮で、何でしたっけ
﹁この尼⋮⋮
﹂
の相性の良さは異常である。それを堪能しているアカネにサスケの
肉を食べ、白飯を食べ、そして肉を食べ、白飯を食べる。肉と白飯
!
て仲良くなれそうですね
﹂
﹂
!
﹁そ、それほどまでに⋮⋮﹂
分にサスケにも勝機があります﹂
ともいい勝負が出来ますよ。経験の差でイタチが有利でしょうが、十
﹁楽しみに待ってましょう。先程の話ですが、今のサスケならイタチ
﹁いつか絶対ぶっ飛ばしてやる⋮⋮
﹁まあサスケをからかうのはこれくらいにしますか﹂
ジと心が通じそうな気がしてならなかった。
ネジもきっと同じ思いを抱いているのだろうと思うとサスケはネ
!
!
﹁ああ、心底そう思うぜ⋮⋮
﹂
﹁その台詞。ネジにも何度も言われるんですよねぇ。あなたとネジっ
!
317
?
これにはフガクも驚愕であった。サスケに期待はしていたが、それ
でもイタチと比べると見劣りすると思っていたのは確かだ。
将来的にはもしかしたらと思っていたが、ここまで早くに芽を出す
とは思ってもいなかったのだ。
期待に目を輝かせてこちらを見るサスケに、フガクはまだまだ子ど
もかと思いつつも、サスケが望む言葉を口にしてあげた。
﹂
﹁流石はオレの子だ﹂
﹁父さん⋮⋮
﹂
﹂
﹂
ガクであった。
?
﹁い、いや、何でもない﹂
﹁ど、どうしたのあなた
﹂
それに過剰反応したのは当のアカネやイタチにサスケでもなくフ
﹁ぶはっ
の嫁に来ない
﹁ねえアカネさん。アカネさんが良ければイタチかサスケのどちらか
トが爆弾発言をした。
しく食事中にフガクが晩酌をしつつ、そうした団欒が広がる中、ミコ
食事をしつつ、サスケとアカネが馬鹿な話をしつつ、それを肴に珍
る。
なのでこっそりとアカネへ弟子入りしようかなと考えていたりす
として弟の壁で有りたいという思いもあった。
ちなみにイタチはサスケの成長を嬉しく思いつつも、もう少しは兄
﹁⋮⋮﹂
うちは当主の名は伊達ではないのだ。
調 子 に 乗 ら な い 様 に 多 少 の 釘 を 刺 し て お く 事 も 忘 れ て は い な い。
﹁う⋮⋮
超えるくらいはしてもらわねばな﹂
﹁まあ、下忍のままで修行に身を費やしているのだ。イタチやオレを
それだけ父に認められた事が嬉しかったのだろう。
サ ス ケ の 喜 び よ う と 来 た ら ア カ ネ も 見 た 事 の な い ほ ど で あ っ た。
!
?
318
!
!
ミコトのいきなりの発言に酒を噴き出してしまったフガク。だが、
事情を知る者ならば彼を責めまい。事実イタチは父の反応を理解し
ていた。
フガクからすれば日向ヒヨリが息子の嫁になるという意味不明ど
ころか驚天動地な出来事を聞かされたのだ。驚くなという方が無理
である。
﹁うーん﹂
アカネさんがいるといつもより明るくなるから私と
難しそうな、困った様な表情のアカネを見て、ミコトは少し表情を
暗くする。
﹁ダメかしら
﹃⋮⋮﹄
﹂
﹁そうなの
だったら、好みの人はどんな人なの
﹂
﹁意中の人ですか⋮⋮。そういう人は⋮⋮いませんね﹂
かしら
しては嬉しかったんだけど⋮⋮もしかして、他に意中の人でもいるの
?
?
﹁ふんふん、どんな人がいいの
﹂
﹁そうですね。優しい人なら⋮⋮あ、でも││﹂
なっている様だ。
完 全 に ガ ー ル ズ ト ー ク で あ る。周 り の 男 共 は 若 干 居 心 地 が 悪 く
?
いた。
かつての悲しい過去を思いだし、アカネはしばらく夜空を見続けて
私たちを⋮⋮﹂
﹁私と同じくらい強い人、か⋮⋮。あの馬鹿め⋮⋮どうして木ノ葉を、
そしてふとミコトに告げた言葉を思いだす。
夕食も終わり、サスケの家を発ったアカネは帰路へと付く。
フガク、イタチ、サスケの親子三人の言葉が完全に一致した。
﹃結婚する気はないようだな﹄
﹁私と同じかそれ以上に強い人ならもっといいかな﹂
?
319
?
NARUTO 第十七話
ナルト達が暁に備え、暁が来たるべき未来に備え、それぞれが力を
蓄える。そうして時は瞬く間に流れて行った。
ナ ル ト 達 が 修 行 と い う 任 務 を 受 け て か ら 三 年 近 い 年 月 が 経 っ た。
その年月でナルト達は強く、そして大きく育っていた。
それを証明するかの様にナルトとサスケは闘いを繰り広げていた。
三年前と同じ様に体術合戦をし、三年前とは桁違いな技術を披露す
る。
ナルトの流れる様な連撃をサスケは捌き、サスケの反撃を紙一重で
避ける事でナルトは逆に反撃の機会を作る。だがそれを読んでいた
││
サスケは体を深く沈めてその反撃を躱し、体を沈めた反動を利用して
﹂
ナルトを蹴り上げた。
﹁ぐあっ
││火遁・豪火滅却
空中に吹き飛んだナルトへの追撃としてサスケは火遁の術を放つ。
それはかつてうちはマダラが集団の敵を相手にするのに多用してい
た高等火遁だ。今回単体のナルトに使用したのは影分身を警戒した
為である。
広範囲に広がっていく炎がナルトを襲う。まともに当たれば並の
忍ならば骨も残らないだろう。だが、ナルトは並などではなかった。
ナルトは空に吹き飛ばされながら追撃への対処として既に影分身
を作りだしていた。豪火滅却を放たれた後に影分身をしても間に合
わない可能性があるから蹴り上げられながら影分身の術を使用して
いたのだ。
そして影分身は本体の前に現れ、両の手にそれぞれ大きな螺旋丸を
作り出す。それを豪火滅却にぶつける事で後ろにいる本体へ炎が向
かわない様にする。
威力と範囲を兼ね備えた豪火滅却を一部分とは言え掻き消す事が
出来るのも同時に二つの螺旋丸を作り出す事が出来る様になったか
らである。
320
!
!
かつては影分身を利用して初めて片手に螺旋丸を作る事が出来た
のだが、今はその必要もないのだ。
更にナルトは次々と影分身を作り出す。影分身が本体を投げたり
蹴ったりする事で空を移動しているのだ。
そうして豪火滅却による炎の壁を上から乗り越えてサスケへと接
近。豪火滅却は巨大な炎の壁を作り出してしまうので、術者が対象を
見失う欠点もあった。それを突いたナルトの戦術であった。
だがそのような欠点など術者であるサスケには承知の上だ。常に
気を張ってチャクラを感知していたサスケはナルトの位置を見失っ
てはいなかった。
サスケは感知タイプと呼ばれる感知を得意とする忍ではないが、そ
れでもこの距離ならばこの程度の感知は造作もなかった。
ナルトとサスケは互いに睨み合い、そして計ったかの様にそれぞれ
が自身の代名詞となりつつある術を展開する。
﹂
に向かっていたナルトは更に急加速して大地に叩き付けられたので
かなり痛そうに呻いていた。
空に吹き飛ばされたサスケは空中で姿勢を取り戻し、華麗に着地し
ていたが。これは単に二人の力の方向がナルトが地に、サスケが天に
﹂
﹂
向かっていたのでそれを合気にて利用しただけで、他意はない。その
はずだ。
﹁あ、頭がぁあああ
﹁なにしやがるサクラ
!
!
321
ナルトは螺旋丸を、サスケは千鳥を。両方とも一撃で相手を殺し得
﹂
る威力を持つ術だ。それを相手に叩きつけようとして││
﹁はいストップ
ナルトとサスケの術を発動している手首を掴んで合気にてそれぞ
第三者の手によってそれを邪魔された。
!
れを吹き飛ばしたのだ。
﹂
﹁うわぁっ
﹁くっ
!?
ナルトは大地に、サスケは上空にそれぞれが吹き飛ばされる。大地
!?
ナルトは大地に叩き付けられた頭部の痛みに悶絶し、サスケは勝負
を途中で遮るという邪魔を仕出かした第三者、サクラに詰問する。
そう、合気にて二人を吹き飛ばしたのはアカネではなくサクラだっ
たのだ。サクラは医療忍者として綱手の弟子になっていた。そして
同時にアカネに合気柔術という護身術も習っていたのだ。
医療忍者として類い稀なるスピードで成長したサクラはまさに綱
手の後継者と言える程になっていた。
そして成長したのは医療忍術だけではない。そも、医療忍者は戦闘
にて敵の攻撃を受けてはならないと教えられている。
それは味方を癒す医療忍者がやられては意味がないという理由か
らだ。
だからアカネは合気柔術をサクラに伝授したのだ。合気柔術は相
手の力を利用する武術。その為には相手の力の流れや相手の意を読
まなければならない。
322
合気の理を三年間みっちりと叩きこまれたサクラは相手の意を読
んで攻撃を読む事に長ける様になった。
そして敵の力を利用した合気柔術に、チャクラコントロールを利用
した怪力。これらを武器に闘う様になったサクラの力はナルト達に
匹敵するほどに高まっていた。
﹁ごめんごめん。でも、あれ見てよサスケ君﹂
そう言ってサクラが指を差した方角をサスケが見ると、そこには緊
急招集を知らせる煙が上がっていた。
﹁あれは⋮⋮﹂
﹁そ、綱手様からの緊急召集の要請よ﹂
煙の色を見て、あれが第七班への報せだとサスケも理解する。そし
おいナルト、今回の勝負は次に持ち越しだ﹂
て遅れた場合あの五代目が叱責するだろう点もまた理解していた。
﹁ちっ
二人の実力は大きく向上し、特にナルトはサスケとの差をほぼ完全
﹁オレの勝ちに決まっているだろうが﹂ のになぁ﹂
﹁あーいてて。分かったってばよ。ちぇっ、今日はオレの勝ちだった
!
に埋めていた。修行を始めて三年目から行った多重影分身を利用し
た修行がその要因だろう。
だがそれでもナルトがサスケに勝ったのは僅か二回だ。これに関
してはサスケを褒めるべきだろう。ナルトの多重影分身修行は尾獣
を持たないサスケには真似をする事は出来ない。だがその不利を生
来の才能で覆したのだ。
いや、生来の才能の差を多重影分身で埋めたナルトを褒めるべきな
のかもしれないが。どちらにせよ両者とも並の上忍程度なら軽くあ
しらえる実力を手に入れていた。そして受けに回れば二人でも攻め
切れないサクラ。第七班は木ノ葉でも最強の⋮⋮下忍だった。
そう。何と三年経ってもこの三人は下忍のままなのだ。実力では
とうに上忍クラスに到達していたが、誰もこの三年間で中忍試験を受
けなかったのだ。
中忍試験を受けるという事は、中忍試験に集中して修行の時間が削
323
れるという事。つまり他の第七班に先を越されるという事だ。
サスケを追い抜こうとしているナルトはそれが我慢出来ず、ナルト
に追い抜かれまいとするサスケはそれが我慢出来ず、二人に追い付き
追い越そうとするサクラはそれが我慢出来ない。そんな三人の意思
が一致した結果である。
ちなみに三人の同期で下忍のままの忍は誰もいない。一つ上のネ
﹂
﹂
ジに至っては上忍になっている。
﹁んだとぉー
﹁やるかウスラトンカチ
わよ﹂
﹁もう、二人とも止めなさいよー。早く行かないと綱手様に怒られる
が混ざるとこうなってしまうのだ。
というよりは冷静さを持つ様になってはいる。ただ、ナルトとサスケ
いや、ナルトは三年間で以前よりも思慮深くなり、サスケもクール
も変わらずであった。
三年間で成長したのは実力だけなのかもしれない。この二人は相
そんな事など全く気にせずに二人は仲良く口喧嘩をしている。
!
!
そう言いつつもサクラは二人を見て微笑んでいた。
いつまでも子どもの様に変わらずに友としてライバルとして接し
ている二人が微笑ましく、そして嬉しかったのだ。
だが、そんな楽しい日々にも終わりが来るのかもしれない。綱手の
緊急招集の報せを見て、サクラはそう不安に思ってしまった。
﹂
そして、その不安は当たっていた。暁が活動を再開したのである。
◆
﹁我愛羅が⋮⋮
火影室に呼び出されたナルト達が聞いたのは砂隠れの新たな風影
となった我愛羅が暁に捕われたという報告だった。
我愛羅はかつて砂隠れが大蛇丸と共謀して木ノ葉に戦争を仕掛け
た時に切り札とされていた砂の人柱力だ。
かつては自分の境遇に孤独と憎しみを抱き、周囲にその憎しみを感
情のままにぶつけていた我愛羅だが、同じ境遇を持つナルトに負け
て、そしてナルトに理解される事で互いに友情を感じる様になる。
それにより我愛羅は変わった。ただただ憎しみを振りまくのでは
なく、例え迫害されても負けない強さを持つナルトの様になりたいと
思うようになったのだ。他者との繋がりを否定していた我愛羅が、苦
しみや悲しみ、そして喜びを他者と分かちあえるのだと思うように
なったのだ。
その心境の変化が良い結果に繋がったのだろう。風影という中核
を失っていた砂隠れは我愛羅を風影に任命し、我愛羅は里を守るべく
五代目風影へと就任した。
そして⋮⋮里を守る為に、暁に攫われてしまった。一対一の戦いで
は我愛羅は里を襲った暁の一員・デイダラに負けてはいなかっただろ
う。
だが里に巨大な起爆粘土を落とされた為、里を守る為に持てる力を
振り絞ったのだ。それにより疲弊し大きな隙を作ってしまった我愛
羅はデイダラに捕らえられてしまったのだ。
324
!
それを知った砂隠れは同盟国である木ノ葉に連絡を取る。その連
絡を受け取った綱手がナルト含む第七班を召集したのだ。
﹁そうだ。そこでお前達に新たな任務を下す。直ちに砂隠れの里へ行
き状況を把握し木ノ葉に伝達。その後砂隠れの命に従い彼らを支援
しろ﹂
それは火影としては間違った指令かもしれない。これは暁にナル
トという餌を与えるに等しい行為かもしれないからだ。
だが綱手はナルトの気持ちを理解していた。ナルトと我愛羅は同
じ人柱力だ。そして二人はかつて中忍試験で闘った仲である。
その時ナルトは我愛羅を理解し、そして我愛羅もナルトの理解を得
る事で人としての自分を取り戻した。
同じ人柱力同士分かり合えたのだ。そしてナルトは我愛羅を助け
たいと思っている。そんなナルトの後押しを綱手はしてあげたかっ
たのだ。
そして何より綱手はナルトを信じていた。ナルトならば暁などに
負ける事なく任務を達成出来ると。
﹁その任務。私は参加しませんので﹂
そう言ったのはアカネである。アカネはこの三年間は第七班を初
めとする多くの忍の修行に忙しくて暁についての情報収集も出来な
かった。
その暁が再び活動を再開したとなれば厄介ではあるが打倒する好
機でもある。地に潜られたままよりは対処しやすいと言えた。そん
な好機を逃すわけには行かないだろう。
だと言うのに何故ここに来て暁討伐の機会を逃す様な事を言い出
すのか。それには二つの理由があった。
一つは暁に気付かれない様に近付きたかったから。
アカネとてこの機会を逃すつもりはない。だが暁にどの様な能力
者がいるか分からないまま、あからさまにナルト達と共に行動してい
ては暁にアカネの行動がばれる可能性もあるだろう。
暁にアカネが日向ヒヨリの転生体である事は周知されていると見
ていいだろう。暁に大蛇丸が所属している事からその点はほぼ間違
325
いがないとアカネは考えている。
アカネが警戒されている可能性は非常に高いと言える。だからこ
そ暁に見つからない様、第七班にも秘密にして行動するつもりだっ
た。
もう一つの理由は第七班の精神的な成長を促す為だ。
彼らはアカネの実力の高さを嫌と言うほど知っている。だからこ
そ、アカネがいればどんな局面でもどうにかなると思っているかもし
れない。
そ う で あ れ ば い ざ と い う 時 に ア カ ネ が い な け れ ば 精 神 的 に 脆 く
なってしまう可能性もある。どれだけ実力が伸びようともそれでは
意味がないだろう。
それを確認する為にも第七班のみでこの任務を受けてもらい様子
を見たかったのだ。まあ、いざとなればアカネが手助けする事に変わ
りはないのだが、そのいざという事態に陥った時の対応が見たいの
思えた。そして残りの三人の台詞もまた逞しいものだった。
﹂
﹁ふん、我愛羅を助ける義理はないが、暁が相手なら丁度いい。この三
年間でオレがどれだけ地獄を見たのか教えてやる⋮⋮
ンビと呼ばれる暁の一員以外はサクラの前に立ってはいけないのか
今のサクラに十発も殴られれば絶対に途中で死ぬだろう。不死コ
⋮⋮。一発、ううん、十発は殴らないと気が済まないわ﹂
元はと言えばそいつらがナルトとサスケ君を狙っているからよね
﹁そうよね⋮⋮私達が中忍試験を受ける事もなく修行し続けたのも、
ぶっている。
や怒りを背負わなくても万華鏡を開眼しそうな程にチャクラが荒
三年間の修行はサスケに地獄を見せたようだ。そのせいか哀しみ
!
326
だ。
⋮⋮もっとも、第七班の実力の高さから余程の事がない限りそのい
我愛羅は絶対に助けてやる
ざという事態が起こる事もないかもしれないのだが。
﹁アカネが行かなくてもオレは行くぜ
﹂
!
ナルトのその言葉を聞いたアカネは確認の必要はなかったかなと
!
もしれない。
︵こいつらに負けないように修行して、そのせいで不名誉な称号を得
たオレ達の恨みと憎しみと哀しみをオレが代表して暁にぶつけてや
る︶
カカシは言葉にこそしていないが、暁に対する恨みはナルト達に負
けない程に高まっていた。まるで一人ではなく多くの忍の怨念を背
負っているかの様である。
影分身だがアカネとほぼ四六時中一緒にいて修行していたせいで、
アカネの修行を受けた三十代前後の忍はその多くにロリコンの称号
が里から与えられていた。
あの時、カカシとオビトを見るリンの冷たい視線を彼らは一生忘れ
る事はないだろう。そういった恨みの諸々を暁にぶつける時が来た
とカカシは普段の様子を捨ててまで息巻いていた。
そんな第七班の様子を見てアカネは確信する。うん、こいつらが私
に頼り切りになる事ってないな、と。
そして同時に願った。どうか、彼らと戦う暁が人としての尊厳を
保ったままにやられますように、と。
◆
カカシ率いる第七班は我愛羅救出に向けて木ノ葉を発つ。道中で
火の国に来ていた我愛羅の姉であるテマリと偶然合流し、それから三
日掛けて砂隠れに到着する。
ナルト達が全力を出せば二日で辿りつけるだろうが、それでは肝心
の暁と戦う時に疲労が大きくなっているだろうし、テマリがいるから
移動速度を抑えた結果が三日という時間だった。
いや、テマリとて木ノ葉崩しから約三年で下忍から上忍となってお
り大きく成長しているのだが、ナルト達の成長がそれを遥かに凌駕す
る程だったのだ。
砂隠れの里に到着したナルト達は我愛羅救出に向かう前に我愛羅
327
の兄であるカンクロウの治療を行う。
カンクロウは我愛羅が連れ攫われた時にすぐに弟を救うべく暁に
立ち向かったのだ。かつては憎しみのままに殺戮を振りまく弟を疎
ましく思っていたが、成長した我愛羅を見てカンクロウも変わったの
だ。今では大切な弟であり里の中核を成す風影となった我愛羅を誇
りに思っている程だ。
だが相手は暁。カンクロウ一人では敵うことはなく、あえなく返り
討ちにあってしまった。その際に敵の毒を受けてしまい、今まさに生
死の境を彷徨っているのだった。
その毒は砂隠れの里のご隠居であり毒の専門家でもあるチヨとい
う老婆でも解毒は不可能な程困難な調合を施されていた。
だが綱手とアカネの修行を受けて医療忍者として成長したサクラ
が直接毒を体内から抜き取る事でどうにか大事を切り抜ける。その
後は砂隠れにある薬草を用いて解毒薬を調合し、カンクロウの解毒処
置は完了した。
なお、その際にチヨがカカシを見てその容貌からカカシの父である
サクモと勘違いし、カカシに襲い掛かるというハプニングがあったの
だが⋮⋮まあ怪我人は出なかったので問題はないだろう。
解毒薬の準備も整った所で第七班は我愛羅救出の為に暁の追跡に
入る。カンクロウから暁の手がかりである匂いの元を託され、そして
同時に我愛羅を頼むという思いも受け取ったナルト達は砂隠れを発
つ。
メンバーにはチヨも加わる。理由は我愛羅を攫った暁の一員に、チ
ヨの孫であるサソリが混ざっていたからだ。
サソリは傀儡の使い手であり、その腕前も群を抜いている。それに
対抗する為にサソリに傀儡の術を教えたチヨ本人が出張ったという
訳だ。いや、それ以上に孫を止めたいと願う気持ちもあるのだろう。
道中でチヨはナルトの境遇と我愛羅へのシンパシーと想いを知り、
時代は変わりつつある事に気付く。同盟など形だけと思っていたが、
こうして自里が危機に陥った時に同盟国は即座に救援に来てくれた。
ナルト達の可能性を見てそれを羨ましく思いつつも、まだ老いぼれ
328
にも出来る事はあるかも知れないと思い至り、チヨは一人覚悟を決め
ていた。
そしてチヨ含む第七班は暁のアジトの一つだろう場所に辿り付く。
だが⋮⋮その時既に、暁はその場には誰もいなかった。
アジトは岩壁をくり抜かれた洞窟状になっており、その入り口は大
岩で塞がれた上に何らかの封印が施されていたので簡単に中に入る
事は出来ない。そしてナルト達では中の様子を確認する術もない。
だが、アジト内部に既に生きた人間は誰もいない事に気付いたのが
この中にいた。それは第七班でもなければ、チヨでもない。その人物
はカカシの忍具を収める鞄の中から声を出した。
﹁これは⋮⋮まずいな﹂
﹂
突如として響いたその声に第七班は驚愕する。
﹁え
﹂
﹂
﹂
アカネの声よ今の
?
カカシは自分の鞄を下ろして鞄を開く。すると中から巻物が一つ飛
び出してきた。
飛び出した巻物は空中で音を立てて姿を変える。そう、巻物はアカ
カカシは気付かなかった自分
ネが変化した姿だったのだ。アカネは気配を消して巻物に変化して
﹂
カカシの鞄の中に潜んでいたのだ。
﹂
﹁い、いつの間に⋮⋮
﹁誰じゃお主⋮⋮
一体いつの間に潜んでいたのか
!?
﹂
中は既にもぬけの空です い
!
るのは⋮⋮尾獣を抜かれた風影様のみ⋮⋮
!
﹁それよりも、風影様が危険です
反応からして敵ではない様だと判断はしているが。
を恥じ、そしてチヨは突然現れたアカネを訝しむ。まあ、ナルト達の
?
?
!
329
﹁いま、アカネの声がしなかったか
﹁間違いないわ
﹁⋮⋮そこか
﹁ま、まさか⋮⋮﹂
!
そ し て カ カ シ と チ ヨ は そ の 声 が ど こ か ら 聞 こ え た の か 見 抜 い た。
!
!
!?
﹃っ
﹄
そう、全ては遅かった。暁は我愛羅を攫ってから凄まじい速度でア
ジトへと戻り、この三年間で修行した封印術により圧倒的速度で我愛
羅から尾獣を抜き取ってアジトから逃げ出していたのだ。
全てはアカネを、ヒヨリを警戒しての電撃作戦だった。砂隠れが木
ノ葉と同盟を結んでいる事は周知の事実。当然暁もそれを知ってい
﹂
る。だからこそ、全てを速攻で終わらせてこの場から離れたのだ。
﹁早く中に入らねーと
﹂
この岩には封印が施されている。これを何とかしな
いと中に入る事は出来ないぞ
﹁待てナルト
るナルトは焦って大岩を壊して中に入ろうとする。
人柱力から尾獣が抜かれる。それにより起こる事実を理解してい
!
﹂
変わらずなのだが。
!
﹃え
﹄
います
﹂
﹁その必要はありません 事は一刻を争うので強引に行かせてもら
﹁だったらさっさとその札を外して我愛羅を助けるぞ
﹂
くもあり悲しくもある思いを秘める。まあ、ナルトは成長しつつも相
成長した第七班を見て、カカシはもう自分は必要ないかな、と嬉し
﹁⋮⋮﹂
サクラがその知識で封印術の種類と対処法を伝える。
にあるはず
けて結界を作っているわ。この岩に一つあるから、残り四つがどこか
﹁これって五封結界ね。近辺に〝禁〟と書かれた札を五ヶ所に貼り付
印術を見抜いたのだ。
焦るナルトを止めたのはサスケだ。その写輪眼にて大岩を覆う封
!
!
!
!
﹁離れていなさい
怪我をしますよ
﹂
!
アカネが叫ぶと第七班は全員がその場から離れていく。アカネが
!
囲の者は感じ取る事は出来ないでいたが。
げる。同時に天使のヴェールを発動しているのでそのチャクラを周
ナルトの意気込みを他所に、アカネは一気に体内チャクラを練り上
!
330
!?
?
そう言うならばそうなのだと理解しているのだ。チヨも第七班を見
てそれに倣いその場から離れた。
それを確認したアカネはチャクラを右手の一点に集中し、そして封
印を無視して大岩を粉々に破壊した。
ナ ル ト 達 は 岩 が 破 壊 さ れ た 瞬 間 に 内 部 に 侵 入 す る。チ ャ ク ラ を
練っていない││ナルト達にはそう見えている││アカネが岩を破
壊した事に驚愕するが、それでいちいち行動を止めていては命が幾つ
あっても足りないと達観しているのだ。
そして内部に侵入したナルト達は⋮⋮倒れ伏し、ピクリとも動かな
い我愛羅を発見する事となる⋮⋮。
﹂
﹁が、我愛羅⋮⋮﹂
﹁くっ⋮⋮
﹁ナルト⋮⋮﹂
ナルトの声に我愛羅は何の反応もしなかった。その体に生気はな
く、息もしていない事をナルトは悟る。
サ ス ケ も か つ て 戦 っ た 化 け 物 の 如 き 我 愛 羅 が こ う し て 死 ん で し
まった事にどこか悔しさを感じていた。あの強かった我愛羅が、呆気
なく死んでいるのを見て何かこみ上げてくるものがあったのだ。
サクラはナルトの悲しみを知り、そして死者を救う事が出来ない医
療忍術の限界を嘆いた。仕方ない事だとは分かっている、死者を治療
する術はないと分かっているのだが、それでもやはり救えないという
のは悔しいものなのだ。
そんな三人を尻目に、アカネは我愛羅の治療を試みる。
傍に駆け寄り、心臓をマッサージして少しでも血流を動かして、再
生忍術にて尾獣が抜かれた事による経絡系の損壊を修復しようとし
ているのだ。
再生忍術は生きている人間にしか効果はない。再生させる細胞が
死んでは再生しようがないのだ。だが細胞とは人間が死ねばすぐに
心臓を直接マッサージするんです
﹂
死滅するわけではない。もしかしたらという可能性を信じて、アカネ
手伝いなさい
!
!
331
!
は再生忍術を施し続ける。
﹁サクラ
!
﹁わ、分かったわ
﹂
アカネの考えを理解したサクラはすぐにチャクラで作ったメスで
我愛羅の胸部を切開し、直接心臓をマッサージする。
そして人工呼吸にて息を吹き込み、我愛羅の蘇生を試みる。少しで
も息を吹き返せばアカネがどうにかしてくれる。そう信じてサクラ
は心臓マッサージと人工呼吸を繰り返した。
﹁⋮⋮﹂
それを見て、チヨは決めていた覚悟を取り出した。
他里の忍である我愛羅の死を本気で嘆くナルトに、悔しそうに呻く
サスケ。今も必死で蘇生を試みるサクラと、そしてかつての大敵が風
影を必死に助けようとする姿を見て、今が覚悟を示す時だと思ったの
だ。
チヨは我愛羅へと近付いていき、その体にそっと手を添えてある術
それ
を発動させる。そして、それを白眼で見たアカネはチヨを止めようと
止めなさいチヨ
!
する。
﹂
﹁それは⋮⋮そのチャクラの流れは⋮⋮
ではあなたは
!
チヨは古くから砂隠れの忍として存在している。故にアカネの前
世であるヒヨリとの面識も当然あった。だからこそ、アカネのチャク
ラを感じずともヒヨリという正体に思い至ったのだ。
日向ヒヨリはそのチャクラを他者に悟らせない。古い忍達はそう
知っているのだ。天使のヴェールの存在が逆にアカネの正体を気付
かせる事になったのだ。何せ、その様な術者などそう多くいるわけが
ないのだから。
当時はその強さに恐れ慄いていたものだとチヨは苦笑する。当時
から今も生きている忍で日向ヒヨリを恐れなかった者など一人とし
﹂
ていまいと自信を持って言える程だ。
﹁チヨ
が時代を動かす力となるのだ﹂
332
!
﹁やはり見抜くか日向の姫よ。姿は変われどその瞳力は変わらんな﹂
!
﹁もう、ワシの時代ではないのだ日向の姫よ。老いぼれは去り、若い者
!
チヨの覚悟はアカネにも理解出来ない訳ではない。事実、アカネも
今までの人生で何度となくそう思った事があるからだ。
だが、転生を続けるアカネは何度もその考えに至りつつも、何度も
それを否定してきた。歳を取った時にはそう思っても、転生して若い
ナルト、チヨに
肉体になり仲の良い老人を見ると、歳を取っても生きていて欲しいと
願うようになるからだ。
﹁時代とか、そんな事が年寄りが死ぬ理由になるか
﹂
きしょうてんせい
﹁どうですか。生きていればいい物が見られるでしょう﹂
チャクラを分けながらアカネは話し掛ける。
笑い掛けている姿を見ながら呆然としていた。そしてそんなチヨに
まさか生き延びるとは思っていなかったチヨはナルトが我愛羅に
我愛羅を蘇生させるのに全ての命を懸ける必要がなくなったのだ。
我愛羅を蘇生していた事で、完全な死者ではなく半死人となっていた
する。だが、ナルトからチャクラを分けてもらい、サクラとアカネが
本来なら己生転生を用いて死者を蘇生した場合、術者は確実に死亡
あった。
そして己生転生の術者であるチヨも大きく疲弊してはいるが無事で
きしょうてんせい
あ ら ゆ る 蘇 生 術 を 施 さ れ た 我 愛 羅 は 程 な く し て 息 を 吹 き 返 し た。
ある己生転生を使用する。
きしょうてんせい
術を施し、チヨが己の命を代償に初めて可能とする禁術、転生忍術で
そしてサクラが心臓マッサージと人工呼吸を行い、アカネが再生忍
チャクラを流し込まないようにサポートをする。
してサスケは写輪眼でチャクラの流れを見切り、ナルトが過剰な量の
ナルトがチヨの手に自分の手を重ねてチャクラを分け与える。そ
﹁⋮⋮仕方ないな﹂
﹁お、おう
﹂
チャクラを分けるんだ。サスケはそれを写輪眼でサポートしてくれ
!
﹁⋮⋮そうじゃな。全く、意外としぶとい物じゃな﹂
﹁いい事じゃないですか﹂
333
!
!
﹁ワシではないわ、お前の事よ日向の姫よ。どうして若い肉体になっ
て生きておるんだ⋮⋮﹂
﹁ははは⋮⋮私特有の転生忍術でして⋮⋮﹂
アカネの言葉が本当かは分からないが、この姫が生きている木ノ葉
に戦争を仕掛けても成功するはずもないとチヨは理解した。
まあ、アカネに関係なくすでにチヨの中に木ノ葉へ戦争を仕掛ける
気などないのだが。ナルト達を見てチヨは木ノ葉への見方を、忍の世
界の見方を変えたのだ。
他里同士でもいがみ合うだけでなく、分かりあう事も出来るのだと
⋮⋮。
﹂
﹁ほら、いい物が見れますよ﹂
﹁ん
それは我愛羅の生を喜ぶナルトと、そのナルトを見て喜ぶ我愛羅の
姿ではなかったのかとチヨは思い、そして少しの時間を置いて驚愕す
る。
そこには、砂隠れの里から風影である我愛羅を助ける為に多くの忍
が駆けつける姿があったのだ。
かつては我愛羅を蔑み恐れ離れて迫害していた里の忍達が、今では
我愛羅の為に駆けつけてその無事に喜びを顕わにしている。そこに
嘘はないと長年の経験でチヨは理解していた。
﹁⋮⋮ああ、こういう物がまだ見られるなら、もう少しばかり生きてい
たいものだな⋮⋮﹂
﹁そうでしょう。こういうのは、何度見ても、いつになっても、素晴ら
しい物です⋮⋮﹂
﹂
この場の誰よりも人生経験を積んでいる二人は、多くの忍に囲まれ
る我愛羅を見てそう思った。
﹁⋮⋮私の事、秘密にして下さいね
﹁えぇ⋮⋮﹂
﹁さてのー。ワシ、年寄りじゃからそんな約束覚えられんかものー﹂
?
334
?
﹁なーんてな
ボケたフリ∼
ギャハ、ギャハ、ギャハ
﹂
!
さぁ。いくら強いったって一人だろ
﹂
﹂
﹁全 く よ ぉ。こ こ ま で 警 戒 す る 必 要 が あ る の か そ の ヒ ヨ リ っ て の は
⋮⋮中にはそうでない者もいたが。
そ れ だ け 暁 は ア カ ネ と い う 存 在 を 警 戒 し て い る と い う 事 で あ る。
を整えてから一気に事を起こしたのだ。
暁は三年間地に潜み力を蓄え人柱力の情報を集め、そして全ての準備
全ては日向アカネに悟られない様にするために。それだけの為に
いたのだ。
先に捕らえていた人柱力は大蛇丸の薬で意識を奪って捕らえ続けて
だが尾獣は尾の数が少ない一尾から順に封印する必要があるので、
いただけなのである。
は木ノ葉の同盟国である砂隠れの人柱力だったので後回しにされて
いた。三尾のみ人柱力ではなく尾獣のままに捕らえていたが。一尾
そう、ペインが言うように、暁は既に九尾以外の人柱力を捕らえて
だ﹂
﹁その内の七体は既に捕獲済み。後は尾獣を抜き出して封印するのみ
暁のリーダーであるペインが現在の状況を各々に説明する。
﹁これで一尾は終わりだ。残る尾獣は八体﹂
な場所に、十人の男女が集まっていた。
どこか薄暗い洞窟の中。まともな人間なら集まりそうもないそん
◆
した。
界の隅に映っていたのだが、とりあえずアカネは何も考えないように
なお、ここに来た意味があったのかを考えている木ノ葉の上忍が視
い事ではないと苦笑した。
でいるチヨを見てアカネはそう思い、そしてやはり長生きするのは悪
個性的な笑いをする様になったな⋮⋮。自分をからかって楽しん
!
﹁日向ヒヨリを舐めるなよ飛段。⋮⋮死ぬぞ
?
?
335
!
﹁そ れ を オ レ に 言 う か よ 角 都。ほ ん と 殺 せ る も の な ら 殺 し て 欲 し ー
ぜ﹂
飛段はジャシン教と呼ばれる宗教によりある秘術を施され、不死身
の肉体を手に入れている。それは文字通り不死身なのだ。
心臓を貫かれても、首を切り落とされても、体をバラバラにされて
も生きているだろう。最早人外の術と言えよう。だが、そんな人外の
集いが暁なのだ。
うっせーな、分かってんよ﹂
﹁例え死ななくても対処の仕方はあるわ。封印でもされたら終わりよ
﹂
﹁ちっ
大蛇丸に図星を刺された飛段は捻くれた様に舌打ちする。だが実
際封印されるのだけは勘弁な飛段だった。
何せ死にもせず永遠の時間を動きを封じられて過ごさなくてはな
らなくなるからだ。〝汝、隣人を殺害せよ〟という狂った教義と殺戮
をモットーとしているジャシン教信者としては耐えがたい屈辱だろ
う。
﹁何度も言うが、あれは人ではなく一種の化け物だ。人柱力など歯牙
﹂
にも掛けぬ程のな。死なないからと舐めて掛かれば⋮⋮身体を修復
不可能な程に粉々にされるぞ
﹁⋮⋮﹂
にも楽しめませんでしたよ﹂
でまともに戦わず奇襲にて終わらせたのが殆どですからねぇ。どう
﹁しかし、ようやく暴れられますね。人柱力相手は時間を優先したの
そして木ノ葉に備えて地力を伸ばしていた。
ていたのだ。それは他の暁も同様である。多くの者が日向アカネに、
何せ時間なら無駄にあったし、殺戮を楽しみながらも修行に費やし
この三年間地道に修行をしてきたのだが。
だから相当なのだろう。まあ、角都がそこまで言うからこそ、飛段も
同じ不死コンビと呼ばれ、自分よりも強い角都がそこまで言うほど
の言葉を信じる事にした。
流石に粉々になれば終わりかもしれない。そう思った飛段は角都
?
336
!
?
鬼鮫はこれからの事を思い獰猛な笑みを浮かべる。三年間地に潜
み、こそ泥のように人柱力を連れ攫ったので流石に鬱憤が溜まってい
るようだ。
﹁そうは言ってもしばらくは封印で時間が取られるがな﹂
我愛羅を連れ攫った片割れであるサソリはうんざりとした様子で
呟く。
人柱力から尾獣を抜き取る作業はかなりの時間を要するのだ。修
行により多少の時間短縮は出来ているが、二尾から八尾までの七体の
尾獣を抜き取るとなると多少短縮しても相当な日数が掛かるだろう。
そう思うと憂鬱になるものだ。
﹁そういった鬱憤は全部木ノ葉にぶつけてやればいいさ。次こそはオ
イラの芸術であの女を吹き飛ばしてやるぜ、うん﹂
デイダラは未だに己の芸術と称する起爆粘土をアカネに防がれた
事を根に持っていた。自信のあったC3という大技だけに尚更だ。
それを晴らす機会がようやく来たと思えば封印術に掛かる多少の
日数など何ともない程だ。
無言の者も多いが、やる気が見られる暁の一同を見てペインは言葉
を放つ。
﹁ではこれから残る二尾から八尾までの封印を開始する。それが終わ
れば全員で木ノ葉を⋮⋮潰す﹂
暁が、その牙を木ノ葉に向けようとしていた。
337
NARUTO 第十八話
暁が捕らえた尾獣の内、六体を封印し終わるのに要した時間は約二
週間。尾獣一体に辺り二日はかかるので、流石に合間に休憩を挟みな
がらであった。
そして最後の八尾の人柱力であるキラービーから尾獣を抜き取り
封印をする。だが、そこで思わぬトラブルが生じた。
キラービーを捕らえていた大蛇丸が口寄せにてキラービーを封印
の間に呼び出す。それを見た仮面の男はピクリと反応し、滅多に開か
ない口を開いた。
﹄
﹁⋮⋮分身か﹂
﹃
仮面の男の言葉に驚愕する暁。そして仮面の男にその言葉の意味
を追求する前に、仮面の男はキラービーに苦無を投げつける。
薬で意識を奪われた上に鎖で雁字搦めにされたキラービーは当然
﹂
その苦無を避ける事が出来ない。だが、苦無が命中した瞬間、キラー
いっぱい食わされてるじゃねーか
ビーの肉体は巨大な蛸の足へと変化した。
﹁これは⋮⋮﹂
﹁情けねーな大蛇丸
!
また八尾を捕らえに行くのか
?
めた結果からの判断でもある。
﹁どうするんだ
﹂
ない。そういう勘のようなものがあったのだ。後は様々な情報を集
このまま暁の思い通りに事が進めば自分の野望を達成出来そうに
大蛇丸は全てが暁の思い通りに動かないように手を抜いていたのだ。
だ が こ れ は 大 蛇 丸 が わ ざ と キ ラ ー ビ ー を 逃 が し た 結 果 で あ っ た。
﹁⋮⋮申し訳ないわね。私の失態よ﹂
く尾獣の一部を囮にして逃げ出したのだろう。
蛇丸がキラービーに騙されたという事になる。恐らく戦闘中に上手
飛段が言うように、キラービーを担当したのは大蛇丸だ。つまり大
!
ん﹂
﹁だが確実に逃げてるな、うん。また居場所を探す手間がいるぜ、う
?
338
!?
﹁その手間は大体ゼツが払うんですがねぇ﹂
口々に自分の考えを語る暁に、仮面の男は特に焦る事もなく儀式を
続ける。
﹁問題ない。蛸足一本でもいいから外道魔像に封印しておけ﹂
﹁⋮⋮そう言う事だ。全員封印の準備にかかれ﹂
仮面の男の言葉を聞いたペインはその通りに取り掛かるように全
員に命令を下す。
それを見た大蛇丸はやはりペインの裏にいるのが仮面の男だと確
信する。あれが裏でペインを操っているか、それとも共謀しているだ
けなのかまでは分からないが。
暁が八尾の蛸足を封印し終える。これで不完全ではあるが捕らえ
た尾獣は全て封印された事になる。
まあ、オレは金が手に入ればそれでいい﹂
﹁芸術は爆発だ。それを木ノ葉の連中に教えてやるぜ、うん﹂
﹁違うな。芸術とは永遠に残る美の結晶だ。オレはこの傀儡の体でそ
れを永久に伝えていくのだ﹂
﹁さて⋮⋮私も準備に取りかかろうかしらねぇ﹂
暁のメンバーそれぞれが自分の欲望のままに動ける事に喜びを顕
わにする。
この三年間で溜まった鬱憤を全てぶつける事が出来る機会が来て、
真実嬉しいのだろう。
﹁作戦は以前に言った通りだ。では、一度解散する﹂
そうしてその場から暁は一人、一人と消えていく。最後に残ったの
はペインと仮面の男のみだ。
﹁⋮⋮あの作戦で良かったのか あれではお前一人で日向ヒヨリを
?
339
﹁では、各々休息して最後の準備に取りかかれ。それが終われば⋮⋮
やっと思い切り人を殺せるぜ ジャシン様ァァ
﹂
!
木ノ葉を落としに行く﹂
﹁よっしゃー
見てて下さいよぉ
!
﹁お前はこの三年間で大分殺しただろうに。まだ殺したりないのか。
!
!
抑える事になるが﹂
暁には作戦通りと口にしたが、ペインは仮面の男一人であの日向ヒ
ヨリを抑える事が出来るのかと疑問に思い問いかける。
﹂
それに対して仮面の男は不適に笑い、その問いに答えた。
﹁ふ⋮⋮問題ない。オレを誰だと思っている
﹁⋮⋮そうだったな。日向ヒヨリと同じ初代三忍の一人⋮⋮うちはマ
ダラならば不可能ではないか﹂
仮面の男、うちはマダラはその言葉に頷き宣言する。
﹁教えてやろう。オレは⋮⋮うちはマダラは日向ヒヨリに劣らぬとい
う事をな﹂
マダラは仮面の下にある瞳を怪しく輝かせ、その顔を喜色に歪め
た。
◆
時は僅かに遡る。暁が尾獣封印に時間を掛けている時、木ノ葉の二
代目三忍である自来也はある任務をこなしていた。
それは大蛇丸のアジトの探索である。自来也は自分が持つ情報網
から暁がしばらくの間は動けないという事を知っていた。それはつ
まり大蛇丸も動く事が出来ないというわけだ。
今が好機と断じて自来也は兼ねてからの任務をここで終わらせよ
うとしていた。その任務とは⋮⋮。
﹁ここが当たりであって欲しいのぅ⋮⋮﹂
既に幾つかのアジトは見たが、そのどれにも目当てのモノはなかっ
た。まあ、多くの実験体がいたのでそれらを開放はしたが。
そして新たに見つけた大蛇丸のアジトに、どうか目当てのモノがあ
るようにと祈る。というのも協力者から得た情報で見つけられたア
ジトはこれが最後だからだ。ここから先は目的のモノを見つけるま
で、自力でアジトを探さなければならなくなるだろう。
焦る気持ちを抑えてアジトを丁寧に探索する自来也。探索の為に
自来也は仙人モードと呼ばれる状態になっており、大きく広がった感
340
?
知能力で周囲を探る。ちなみにかつての自来也は一人で仙人モード
になる事は出来なかったのだが、色々と修行した結果それを可能とし
ていた。
そうして仙人モードでアジトを探る事十数分。とうとう自来也は
見つけた。そのアジトの奥にある牢屋の中に捕らえられた一人の女
﹂
性、孤児院のマザーであるノノウを。
﹁この女性か
写真で見た通りの見た目の女性を見つける。仙人モードで目を凝
らして見た限り、どうやら変化などの偽者ではなさそうだ。
自来也が見る限りノノウは衰弱はしているが外傷などはない様で
ある。だがその瞳は開いてはいるが完全に焦点があっておらず、目の
前に自来也が現れても虚空を眺め続けていた。
﹁幻術か。薬も打たれているな。大蛇丸めむごい事を⋮⋮﹂
大蛇丸がノノウに仕出かした処置を思うと自来也は大蛇丸への怒
りと、そして自身への怒りを膨らませる。
かつては里の同志であったと言うのに、ここまで歪んでしまったの
かという怒りと、大蛇丸の近くにいながらそれを止める事が出来な
かった自身への怒りだ。
だが今は過去の後悔を思っている場合ではない。自来也はノノウ
を縛る鎖を壊し、そしてノノウの体内チャクラを正常に戻す事で幻術
を解く。
﹁う⋮⋮﹂
だが薬を打たれているノノウは幻術から目を覚ましてもすぐに意
識を取り戻す事はなかった。
﹂
自来也はそれを気にせずに、更にノノウに施された呪印を解く。
﹁ぬん
てノノウを縛る呪印の解除は簡単⋮⋮とまでは行かなかったが、不可
能ではなかった。
少々面倒な呪印を解除し、これで完全にノノウが自由の身になった
事を自来也は確認する。
341
!
既にここに至るまでに大蛇丸の研究資料を見てきた自来也にとっ
!
どうやら後は薬を抜くだけのようだ。それ自体は特に難しい事で
はないのでノノウは大蛇丸から開放されたと見ていいだろう。
念には念を入れて口寄せ解除の術式をノノウに刻み、そして自来也
はノノウを担いでその場から離れて行った。
火の国のある場所にて自来也は一人の青年と落ちあう。その青年
とは大蛇丸に仕えている忍、薬師カブトであった。
いや、カブトは大蛇丸に脅されて協力を強要されているだけであ
り、その内心は大蛇丸への復讐を誓っていた。だからこそカブトは大
蛇丸と敵対している自来也に暁の情報を渡していた。
そしてその見返りがノノウの救出であった。この三年間は暁が動
かなかったのでカブトも中々手の出しようがなかったが、暁が尾獣封
印の為にしばらくは自由に動けない事を知ってこうして自来也に頼
良かった
﹂
ボクです、分かりますか
を覚える。だが、すぐにある事を思いだした。
﹂
ノノウは普段から眼鏡をかけている事を。そして今はその眼鏡を
342
みこんだのである。
﹂
﹁待たせたのカブト。ほれ、お前が助けたがっていたノノウだ。受け
取れ﹂
﹁マザー
﹁マザー
﹁⋮⋮だれ、なの
!
ノノウのその言葉にカブトは頭をガツンと殴られたかの様な錯覚
?
!
ないせいかノノウのぼやけた視界の中に、カブトの姿が映った。
そしてノノウの目蓋が薄く開らかれていく。まだ覚醒しきってい
ずつ意識を取り戻していく。
その言葉を証明するかのようにノノウはカブトの声を聞いて少し
から程なく目覚めるはずだ﹂
﹁安心しろ。薬の影響で意識を失っとるだけだの。解毒は施してある
を心配して声を掛ける。
自来也からノノウを受け取ったカブトは、意識を失っているノノウ
!
!
かけていない事を。
かつてプレゼントした眼鏡が無くなっている事を悲しく思うが、今
はそれを無視してカブトはすぐに自分の眼鏡をノノウにかける。
かつて視力が悪くて時計の針が見えなかった時にノノウから貰っ
た大切な、とても大切な思い出の眼鏡だ。あれから十年以上が経つの
にこうして大事に使っているのがその証拠だろう。
そして眼鏡をかけた事でぼやけた視界が綺麗になったノノウは、改
めてカブトを見た。
マザー
マザー
﹂
﹁ああ⋮⋮カブト⋮⋮良かった、無事だったのね﹂
﹁っ
!
うだ。
﹁うん、ごめんよマザー⋮⋮
あとで叱ってくれてもいいから⋮⋮
時ではないのだが、どうやらノノウの意識は完全には戻っていないよ
た後もそれを出来るだけ習慣付けていた。だが今はそれを言うべき
孤児院では夜の九時を消灯時間としている。カブトは孤児院を出
ころだ。
辺りはすでに暗くなっている。時間としては夜の九時を過ぎたと
﹁もう⋮⋮駄目じゃないカブト⋮⋮もう寝る時間でしょ⋮⋮﹂
する事が出来た。それを嬉しく思わないカブトではない。
意識を取り戻し、視力も取り戻したノノウはカブトをカブトと認識
!
自来也の言葉に顔を顰めるカブト。分かってはいたが、マザーが
狙われるだろう、の﹂
﹁うむ。だが大蛇丸がいる限り再びお前もマザーも、そして孤児院も
に戻って来ました﹂
﹁ありがとうございました自来也様。あなたのおかげでマザーは無事
てカブトは自来也へと顔を向ける。
眠りについたノノウを優しく抱きしめて、自身の頬を伝う涙を拭っ
だ体力が戻っておらず、解毒はしたが薬の影響も残っているのだ。
そうしてノノウは再び意識を失う。いや、眠りについたようだ。ま
﹁そう、ね。ごめんなさいカブト⋮⋮少し、寝るから⋮⋮﹂
今はマザーがゆっくり休んでよ⋮⋮﹂
!
343
!
﹂
戻ってきた喜びを奪われると思うと怒りと憎しみが煮えくり返る思
いになるのだ。
﹁分かっています。大蛇丸は絶対に⋮⋮
それに大蛇丸の仕出かした事はワシの、木ノ葉
をするつもりか知っているカブトとしてはその点が不安であった。
﹁ですが、本当に暁のリーダー⋮⋮ペインの所に乗り込む気ですか
﹂
かだ。自来也がどうにかしてくれるとは言うが、この後に自来也が何
だが、大蛇丸をどうにかしない限り孤児院に平穏は戻らない事も確
復讐に走るなど本末転倒だ。また離れ離れになるだけである。
自来也の言う通りだ。こうして無事に戻ってきたマザーを置いて
自来也の気持ちを理解したカブトは未だ燻る復讐心を抑える。
﹁⋮⋮分かりました﹂
の不祥事でもある。お前は孤児院でマザーや兄弟達を守ってやれ﹂
れた者はどう思う
﹁幸いお前は失ったわけではない。お前が復讐に走って、それで残さ
た自来也はそれを知っていた。
復讐に走った者の末路は多くが悲惨な物になる。長くを生きてき
うとする。
カブトのその暗く冷たい思いを知っている自来也はそれを止めよ
﹁まあ待て。大蛇丸はワシに任せておけ。それがお前の為だの﹂
!
インの居場所は⋮⋮雨隠れの里だと。
自来也の言葉を信じたカブトは自分の知る情報を伝えていく。ペ
﹁⋮⋮分かりました﹂
けておくよう頼んでおくからそっちの問題もないわい﹂
トになるのだから、のぅ。それに、お前の所の孤児院にも助っ人を付
﹁安心しろ。ワシとて一人でペインに挑もう等とは思わん。敵のアジ
可能となるだろう。
これが分かればペインの情報を更に探り、多くの忍による奇襲作戦も
暁という得体の知れない組織のリーダー。ペインの居場所である。
そう、それがカブトが自来也に渡す最後にして最大の情報。
前が渡す最後の情報だったな﹂
﹁暁のリーダーであるペインの居場所。それがマザーを助けた時にお
?
344
?
◆
ペインの情報を入手した自来也は里へと戻りその情報を火影であ
る綱手へと伝える。もっとも、それは酒を酌み交わしながらであった
が。火影として、三忍としてどうなのかと思うが、幸か不幸かそれを
注意する者は近くにはいなかった。
自来也から話を聞いた綱手は奇襲作戦にてペインを叩く好機だと
判断する。だが、肝心のペインの居場所がまずかった。
雨隠れの里は土・風・火の三大国に囲まれた小国だ。だから雨隠れ
はその三大国の戦争に巻き込まれその土地を戦場とする事が多かっ
た。
それにより雨隠れは閉鎖的な国になり、雨隠れを出入りする者には
入国審査と滞在期間中の監視を徹底するようになったのだ。そんな
国で奇襲作戦を行おうにも複数の忍が侵入しては気付かれる可能性
も高まってしまうだろう。
だからこそ、自来也は一人で雨隠れに侵入する事にした。
綱手は危険だと一度は反対するが、自来也の説得に押し切られてし
まう⋮⋮わけがなかった。
さま
いや、その場ではいつも損な役目をさせている事を申し訳なく思う
・・
様を見せていたが、内心ではある事を考えていたのだ。
そうして自来也は綱手の心中など知らずに一人で雨隠れへの侵入
任務に出る。
綱手はそれを見送り、そして何事もなく帰ってくれば自来也の秘め
た思いを受け入れてやると誓い⋮⋮何かしらあって帰ってくればそ
の時はまだまだだと笑ってやるつもりでいた。
雨隠れへと侵入した自来也は雨隠れの忍を二人ほど捕らえ、彼らか
ら情報を入手する。
と言っても捕らえた忍は下っ端であり、あまり良い情報を得る事は
出来なかった。いや、ペインに関する情報は例え里の上層部でも知ら
345
されていない事なので、彼らが知らないのも当然の事なのだが。
だがその中で自来也は信じられない情報を聞いた。それは、ペイン
が雨隠れの長であった〝山椒魚の半蔵〟を殺したというものだった。
半蔵はかつて自来也を含む二代目三忍が戦い、そして敗れた程の実
力者だ。忍の世界では知らぬ者がいないとまで言われている忍であ
り、その強さは世界に知れ渡っていた。
そんな半蔵と戦い生き延びたからこそ、半蔵は彼らを二代目三忍と
呼ぶようにし、それが木ノ葉にも他里にも定着したのだ。つまり、そ
れだけの発言力を持つ人物だったのだ。
だが、その半蔵がペインに殺された。あの強かった半蔵を倒したと
いうペインに、自来也は底知れぬ何かを感じ取る。
それ以上のペインの情報を得る事は出来なかった。どんな術を使
うのか、どんな見た目をしているのか。それらが分からない以上、交
戦してでも情報を得るしかない。そう思った自来也は覚悟を決める。
346
覚悟を決めた自来也は己の中に封印してあった八卦封印に結合す
る鍵を開放する。それはナルトの中にいる九尾を封印している術で
ある八卦封印が弱まった時に、再び封印を閉め直す鍵であった。
自分が死ねばこの大事な鍵も失われてしまう。それを恐れた自来
也が一度開放したのだ。ちなみに、鍵は特殊な蛙によって守られてい
る巻物に記されており、その蛙は意識も知恵も持っていた。なので自
来也の次の言葉に反発をしていた。
﹁ワシに何かあった時はナルトに蔵入りしろ﹂
ナルトに蔵入りしろとはすなわちナルトの中に封印されておけ、と
いう意味だ。それは金庫と鍵を一緒に保管する事と同じ意味になる
だろう。
それはどうぞ金庫を開けて下さいと
それを蛙は反対する。当然だろう。何処の世界に金庫を開ける鍵
を金庫の傍に置く者がいる
願いだと受け取ったのだ。
そして自来也はそれをいずれナルトに託して欲しいというミナトの
だ が 自 来 也 は 違 っ た。こ の 鍵 は ミ ナ ト か ら 預 か っ た も の だ っ た。
言っているようなものだろう。
?
ナルトならばいずれ九尾の力をコントロールする事が出来る様に
なる。そうミナトは信じていただろうと確信しているし、自来也もミ
ナトと同じくナルトを信じているのだ。
八卦封印の鍵をナルトに託した自来也は心置きなく侵入任務を再
開する。
ペインと戦う覚悟は決めていたが、だからと言って堂々と強引に事
を進めるつもりはなかった。こうして侵入して別の場所から情報を
得たり、ペイン本人を見つけて奇襲で事なきを得られたならばそれに
越した事はないからだ。
だが、自来也が雨隠れの里に侵入した瞬間から、すでにペインは侵
入者の存在に気付いていたのだった。
そして、自来也は懐かしい顔と再会する事となった。
それは暁の一員にして、かつての自来也の弟子、小南であった。
小南と再会した事で自来也は薄々と勘付いていたペインの正体を
ほぼ確信した。自来也が小南と同時に取った弟子は残り二人。その
内のどちらか⋮⋮いや、奴だけだと。
ペイン。痛みを関するその名を掲げる男の正体。それは、自来也の
弟子であり、幼い頃に三大瞳術の一つにして、最も崇高とされる輪廻
眼に目覚めた少年⋮⋮長門であった。
長門と再会した自来也は見た目も、そして思考も大きく変わったか
つての弟子を嘆く。
だが嘆いてばかりではいられない。かつての弟子と言えど、木ノ葉
はおろか忍界全てを巻き込む騒動を起こそうとしているのなら倒さ
なくてはならないからだ。
長門の目的を聞いた自来也は到底それに共感出来なかった。長門
は尾獣を集め、その力を元にして強大な破壊を齎す禁術兵器を開発し
ようとしていたのだ。
それを各国にばら撒き、国々が戦争でその力を使用する。そして互
いに大きな代償を払って痛みを知り、初めて平和が築かれる。世界に
痛みを教える事で世界の成長を促す。それが長門の目的であった。
347
自来也には欠片も理解出来ない思想だ。何千何万、いやそれ以上の
人間を犠牲にして得られる平和に何の価値があるというのか。
かつての優しかった愛弟子は歪み変わってしまった。ならば、その
後始末をつけるのは師の役目だろう。
そうして自来也と長門。二人の強者の闘いは始まった。
自来也は長門との戦いの中で妙木山の二大蝦蟇仙人を口寄せし、仙
法両生の術にて融合する。これが自来也の仙人モードの最終形態で
ある。
自来也はかつては一人で仙人モードになる事は出来なかったが、こ
こ数年の修行でそれを可能とした。だがそれでも二大蝦蟇仙人と融
合した方が強いのでこうして口寄せにて呼び出したのだ。
理由としてはやはり仙人モードの持続時間が上げられる。周囲の
自然エネルギーを集め、それを自身のチャクラと混ぜ合わせる事で仙
人モードに至れる事が出来る。だがそれではいずれ集めた自然エネ
ルギーがなくなり、元に戻ってしまうのだ。
それを防ぐ方法として蝦蟇仙人との融合があるのだ。自来也の肩
に融合した蝦蟇仙人││フカサクとシマの蝦蟇夫婦││が自然エネ
ルギーを集め続ける事で、自来也の仙人モードを持続するというわけ
だ。
これには自然エネルギーを集めるのにしばらく動かずにじっとし
なければならないという欠点を補うという利点もある。
更にはフカサクとシマはそれぞれが幻術や仙術にて自来也の戦闘
をサポートしてくれるのだ。これで通常の仙人モードより弱いわけ
がなかった。
だが、その仙人モードに至った自来也でも輪廻眼の持ち主である長
門は強敵と言わざるを得なかった。
いや、相手が一人ならば既に決着は付いていただろう。だが長門は
二人の人間を己の味方として口寄せしたのだ。しかもその二人の両
目にも輪廻眼が存在していた。
これには驚愕するしかない自来也である。伝説とまで称されてい
348
る輪廻眼の持ち主が同時に三人も現れるなどどうして予想出来よう
か。
疑問に思う自来也だが、それで敵が待ってくれるわけもない。三人
に増えた事により長門との戦いは更に加速していく。
その中で自来也は敵の能力の幾つかに気付いた。まず、輪廻眼はそ
れぞれが同じ視界を共有しているという事だ。これに気付いたのは
正確にはフカサクであったが。
視界を共有する事で誰かが敵を視認していれば、他の二人は敵を見
ずともその位置や何をしているのかが分かるという事だ。
更に自来也が気付いたのは、敵の能力が一固体に付き一系統しかな
いのでは、という事だった。
最初に戦った長門は口寄せの術のみを使用し、もう一人は術を吸収
するという異能のみを使用する。残る一人は分からなかったが、その
二人はそれ以外の術を使用する事はなかった。
まだ確定ではないが、これを前提として自来也は賭けに出る。
戦闘で出来た大穴の中に入り自来也は敵と距離を取る。そして二
大蝦蟇仙人による音を使った幻術にて敵を幻術の中に落としこもう
とする。
当然それを黙って待つペイン達ではない。自来也を捜索し、そして
手遅れになる前に始末しようとする。
自 来 也 を 発 見 し た ペ イ ン 達 は そ の ま ま 自 来 也 に 駆 け 寄 っ て い く。
だが、その自来也は影分身であった。
壁に隠れていた本体はペインの後ろを取り、そこから火遁の術を放
つ。そうする事で術を吸収する敵がその火遁を吸収するのを自来也
は確認した。
自来也の推測は合っていた様だ。そして影分身の自来也はすぐに
真正面からも火遁の術を放った。
後ろからも吸収されているとは言え火遁が放たれ続け、前からも火
遁が迫る。術を吸収する者は後ろで火遁を吸収しているので前から
迫る火遁は避ける他ない。
そして逃げ道は上空のみだった。そう判断したペイン達は天井高
349
くへと飛び上がる。だが、それすらも自来也の罠であった。
天井を足場とした敵の一人はその天井に足を取られたのだ。予め
自来也が仕掛けていた地面を底無し沼へと変化させる土遁黄泉沼の
術である。それを天井に使用していたのだ。
残る一人は足を取られた味方に手を付く事で黄泉沼からは逃れる
事が出来たが、これで完全に分断される事となった。
そうして各個が分断された事でコンビネーションを失ったペイン
達はそれぞれが動きを封じられ、やがて二大蝦蟇仙人が放つ幻術に捕
われる事となる。
幻術に掛かり無力化されたペイン達はあえなく自来也によって止
めを刺された。
巨大な剣を胴体に突き立てられたのだ、生きてはいられないだろ
う。それは自来也も確認をした。
全てが終わった。そう思った自来也の後ろには⋮⋮別の敵が存在
る。
﹁ぬん
た。
﹂
!?
﹁そうか、ワシらの幻術に掛かり切る前に⋮⋮。だが、これで終わり│
﹁どうやら前もって口寄せしておいたんでしょうのォ﹂
を上げる。
倒しはしたものの、いきなり現れた新たな敵にフカサクは驚きの声
﹁こ、こいつは
﹂
吹き飛ばされていくその敵は完全に意識を、いやその命すら失ってい
その敵が動揺した瞬間を狙って自来也は大玉螺旋丸を叩きつける。
!
350
していた。
﹁油断するなとアンタから教わったはずだが⋮⋮自来也先生﹂
そしてその奇襲は自来也を傷つけ吹き飛ばす⋮⋮ことはなく、自来
そんな物はワシにはないのぉ﹂
也の左腕によって防がれる事となる。
﹂
﹁油断
﹁
?
完璧なタイミングの奇襲を防がれた事に、新たな敵は逆に動揺す
!?
気を引き締めて下されよ
!
│﹂
﹂
﹁とは、行かんようですな⋮⋮御二方
ここからが本番のようです
!
驚愕する自来也を無視して、弥彦の面影を持つ敵は自身が持つ能力
かった。
が、こうして目の前にいる敵はまさしく成長した弥彦にしか見えな
自来也と長門が戦う前に、長門は弥彦は死んだと言っていた。だ
リーダー格となっていた者だった。
小南と共に弟子にした最後の一人である。そして、彼ら三人の中で
自来也は新たな敵の顔に弥彦の面影を見たのだ。弥彦とは長門と
﹁⋮⋮﹂
﹁まさか⋮⋮その顔⋮⋮弥彦なのか﹂
そして、その敵を見た時に自来也は驚愕する事になる。
自来也の言葉を示す通り、自来也の前には更に新たな敵が現れた。
!
﹂
た弥彦似の敵に、詳細がつかめない新たな能力。
そして⋮⋮吹き飛ばされて壁を付き破り外へと飛び出した自来也
の目に、更に理解出来ない光景が広がっていた。
﹁ペイン六道⋮⋮ここに見参﹂
そこには先程倒したはずの四人の敵を含む、六人の敵が揃ってい
た。そしてその六人全員が輪廻眼を宿している。
そう、暁のリーダーペイン。その名はこの六人全員を指し示す呼び
名であったのだ。
六人で一個の生命のように動く忍。そしてその能力はそれぞれが
通常の能力とは一線を画す力を持っている。まさに暁のリーダーに
相応しい力の持ち主だろう。
﹁何故だ⋮⋮弥彦は死んだはずじゃ⋮⋮﹂
戦いの前に確かに長門はそう言った。だが目の前にいるペインの
351
を発動する。
﹄
﹁ぐおぅっ
﹃
!?
目に見えない強い力に自来也は吹き飛ばされていく。新たに現れ
!!?
中の一人は確かに弥彦だ。
しかし解せないのはその弥彦が輪廻眼を持っている事だ。輪廻眼
を持っていたのは長門一人のはず。弥彦は普通の眼であった。
六人全員が輪廻眼を持っている事といい、輪廻眼を持っていなかっ
た弥彦が輪廻眼を持っている事といい、死んだはずの弥彦がこうして
生きている事といい、倒したはずのペインが生き返っている事とい
い、もう分からない事だらけである。
だがその中で分かった事が一つだけあった。それは、長門と思って
いた最初に出会ったペインが、長門ではないという事だ。
風貌が変わっていたが全くの別人というほどの変化ではなく、輪廻
眼を持っていたという事もあって最初のペインを長門と思いこんで
いた。
だが弥彦の肉体を見てそれは違うと確信したのだ。弥彦には長門
の面影を感じるというのに、この六人のペインの中に長門の面影を感
お前らは一体何なんだ
ちと困惑を見せる自来也に対して弥彦は、ペインは言う。
﹁我々はペイン⋮⋮神だ﹂
﹂
そう言って、ペイン六道は全員で自来也を始末するべく動き出し
た。
自来也とペインの戦いは熾烈を極めた。
ただでさえ一体一体が強く厄介な能力を個別に持っている上に、六
人全員が一個の生命のように連携を取って掛かってくるペイン。
更に輪廻眼による視界の共有によりそのコンビネーションは更に
高まっている。このペインを相手に戦って無事でいられる忍が果た
しているのだろうか。
だが自来也はそんなペインを相手に善戦していた。
口寄せを使うペイン││畜生道││が口寄せした巨大な犬を髪の
毛を伸ばして操作し対象を締め付ける乱獅子髪の術にて縛り、そして
352
じる者は一人としていない。またも分からない事が増えてしまった。
﹁弥彦なのか⋮⋮長門なのか⋮⋮
!?
ここまで分からない事だらけの状況は自来也とて初めてだ。苛立
?
それを振り回して巨大な武器とする。
この巨大犬は増幅口寄せと呼ばれる特殊な術に縛られており、攻撃
を受ける度に体が増えるという特殊な口寄せだ。しかも分裂と融合
までする事が出来る。
それは先の戦闘にて理解していたので自来也は髪の毛で縛りつけ
て増幅しても分裂出来ないようにしたのだ。
巨大な質量の武器と化した口寄せ動物はペインに当たる前に口寄
せを解除される。
そして全身に兵器を仕込んだ傀儡人形のペイン││修羅道││が
肉体のあらゆる箇所からミサイルを放つ。
自来也はそれをシマの火遁とフカサクの風遁、そして自身の蝦蟇油
弾を組み合わせて放たれる強大な火遁、仙法・五右衛門にて迎撃。
そのままあわよくば修羅道をとも思っていたが、それは術を吸収す
るペイン││餓鬼道││によって防がれてしまう。
対象の頭に手を当てる事で対象の記憶や情報を読み取る能力を持
つペイン││人間道││が黒い棒状の武器を持って自来也を攻撃す
る。
それを避けて反撃をするが、その反撃は弥彦の肉体を持つペイン│
│天道││によって防がれた。
だがそれは自来也には予想された行動だった。どのペインも人間
道を庇うには遠く、唯一近くにいた天道のペインのみが助ける事が可
能だと読んでいたのだ。
弥彦の肉体だが、もはや問答は無用。ここで倒さなくてはペインは
更なる災厄を生み出すだろう。その果てに平和があったとしても受
ける痛みは代償としてはあまりにも高すぎる。
既に覚悟を決めていた自来也は螺旋丸を作り出し、それに更に火遁
を混ぜ合わせた火遁・極炎螺旋丸を放つ。
形態変化の極限である螺旋丸に火の性質変化を組み合わせるとい
う会得難易度で言えば最高峰のSランクに当たる術だ。
そしてその威力は桁外れと言ってもいいだろう。螺旋丸によって
高速回転している渦が炎を帯びて更に威力を増し、あらゆる物を焼き
353
滅ぼす極炎と化すのだ。
当たればまず死は免れない。そして、避けられるタイミングではな
かった。ペイン六道が不可思議な力にて蘇るとしても、肉体が欠片も
地獄で会おうぞ
︶
残っていなければ復活も到底出来ないだろう。
︵すまんな弥彦
﹂
よって防がれる事となる。
﹁ぐぅぅっ
﹂
大丈夫か
﹁な、なんじゃこれは
﹁自来也ちゃん
﹂
だが、自来也のその必殺の一撃は⋮⋮攻撃対象であるペイン天道に
!
だ。
﹁こ、これはあの時の⋮⋮
﹂
だと言うのに、自来也は突如として謎の力によって吹き飛ばされたの
あの瞬間に何をしようとも避ける事はおろか防ぐ事も不可能なはず。
そ れ も そ の は ず。極 炎 螺 旋 丸 は 確 実 に 当 た る タ イ ミ ン グ だ っ た。
くフカサクとシマも困惑しているようだ。
この謎の力によって吹き飛ばされるという現象に自来也だけでな
れ、そして雨隠れの里の周囲を覆っている水へと叩きつけられる。
攻撃が当たる寸前に、何故か自来也は後方へと大きく吹き飛ばさ
!?
な強力な幻術など発動自体を許しはしないだろう。
況で幻術などしてもすぐに無効化されるか、そもそもペインに効果的
いや、幻術ならば可能性はあるが、六人の敵に囲まれているこの状
限りペイン天道にダメージを与える事は実質不可能というわけだ。
その力は物体はおろか忍術全般を弾き返す。つまりこの力がある
う強大無比な能力である。
これがペイン天道の能力。己を中心として引力と斥力を操るとい
誇る極炎螺旋丸まで無効化するという有り得ない力。
相手を吹き飛ばすどころか、自来也の持つ術の中で最大の攻撃力を
する。
してそれがペイン天道が最初に放った謎の力と同じ物であると判断
水面から上がってきた自来也は驚愕の瞳でペイン天道を見つめ、そ
!
354
!
!?
!?
!?
﹁流石は伝説の三忍。流石は我が師。たった一人でこのペイン六道を
相手にここまで戦えるとはな⋮⋮﹂
それは素直な賞賛の言葉であり、そして上から見た意見でもある。
だが真実それは自身が負ける事がないという自負からの言葉なの
だろう。ペイン六道に隠された秘密を解き明かし攻略しない限り、ペ
イン六道に対して勝ち目等ないのだから。
﹁随分と上から目線だのぉ。そういうのはな⋮⋮﹂
水面の上に立ち、全てのペインから見下ろされている自来也はそう
言いつつ一拍間を置く。
そして、次の言葉を放つ前に、ペイン餓鬼道の後ろの水面から現れ
﹂
﹂
たもう一人の自来也が餓鬼道へと奇襲の一撃を喰らわせた。
﹁なに
﹁ワシを倒してからほざくんだのゥ
強烈な一撃は確実に餓鬼道の命を奪った。術を吸収する厄介な防
御役であるこのペインさえ倒せば、一番厄介なのはペイン天道のみ。
自来也は水の中に入ってから水面に上がってくるまでに影分身の
術を使用していたのだ。それを水中で気配を消して餓鬼道の裏側へ
と移動させる。
ペイン六道は視界を共有しているが、その全員が自来也を見ていた
上に、囲んでいなかったので後ろに回った影分身に気付くのが遅れた
という訳だ。
この時自来也が天道を狙わなかったのは奇襲すらも気付かれた瞬
間にあの謎の力で防がれる可能性があったからである。
あの避ける事も防ぐ事も出来ないタイミングですら弾かれたのだ。
能力を発動するのに要する時間は限りなく零に近く、その上予備動作
も必要としない。これでは奇襲も成功しづらいだろう。
確実に殺せるだろう餓鬼道を先に始末する。敵の数は減り、そして
術を吸収される事もないからやりやすくもなる。あとは蘇らされな
い様に攻撃を加え続けることでその隙を無くせばいい。
だが、そう事は簡単には進まなかった。自来也はまだペイン天道の
能力を過小評価していたのだ。
355
!!
!?
﹂
﹁残念だったな自来也先生⋮⋮﹂
﹁ぬ
﹂
ペイン天道は餓鬼道と自来也の中心に立ち、そして天道の力を発動
する。
﹁な、なにぃ
あった。
﹁何じゃと
﹂
﹁こげん馬鹿な話があるかい
﹂
時⋮⋮その口の中から餓鬼道は完全な姿となって新たに現れたので
その閻魔像が餓鬼道の死体を口の中に入れ、そして再び口を開いた
が現れる。
地獄道が手をかざすと、そこから閻魔を模したかのような巨大な顔
ンだった。
へと吹き飛ばされる。そしてそこにいたのは地獄道と呼ばれるペイ
自来也が後方へ吹き飛ばされると同時に餓鬼道の死体も反対方向
のそれはその計算を遥かに上回っていたのだ。
自来也は先の攻撃で天道の力の及ぶ範囲を計っていた。だが、今回
囲が先程よりも圧倒的に伸びていたからだ。
自来也が驚いたのは天道の力を発動した事ではない。その力の範
!?
あのペインが他のペインを復活させていたのか
﹂
から一番離れた位置で積極的に攻撃をせずに戦闘を見守っていたの
この地獄道こそがペイン六道の生命線だ。だからこそ常に自来也
で復活させているのだ。
いる。正確には人間の魂を抜き取り、それを死したペインに与える事
自来也の予想通り、地獄道は他のペインを復活させる能力を持って
!
けた能力を持つ敵を相手にしているのだから。
﹁そ、そうか
だから⋮⋮
!
だから後ろにいたのか。自来也はペインの陣形を理解した。
だがそれも当然だろう。倒しても倒しても復活をするというふざ
らない驚愕だ。
フカサクとシマが驚愕する。ペインと戦い始めて何度目かも分か
!?
!
!
356
!?
だ。
﹁これで再び元の六対一だ。ここまで善戦出来るとはな、伝説に偽り
なしか。⋮⋮だが、もう終わりだ﹂
よ、ようやく一体か⋮⋮﹂
ペイン六道が、自来也に止めを刺すべく襲い掛かった。
◆
﹁くっ⋮⋮
自来也はどうにかペインの一人、畜生道を倒す事に成功する。蝦蟇
結界により蝦蟇の中に引きずり込んで止めを刺したのだ。
これにより結界内部に死体を留めておく事で地獄道による復活を
阻止する事が出来る。つまりペインの数が減ったという事だ。
だが、それに至るまでに自来也が受けた傷はとても代償にあってい
るとは言えなかった。
全身の多くは傷ついており、右肩にはペインが持っている黒い棒状
の武器が突き刺さっている。いくつか骨も折れているだろう。
自来也の強さを警戒したペインが天道の力を巧みに使い、自来也か
ら攻撃の手段やタイミングを奪いさったのが苦戦の一番の理由だ。
チャクラが乱される
﹂
ペインの生命線は地獄道だが、もっとも厄介なのは天道であると自
体が⋮⋮
!!
来也は身を持って知った。
﹁ッ
!?
如として乱される。
その原因が自来也に突き刺さっている黒い棒だと察したフカサク
は即座に自来也から黒い棒を抜きさった。
黒い棒が抜かれた事で自来也のチャクラの乱れは収まる。正体も
奇妙ならば武器まで奇妙と来たものだ。どうすればペインに対抗す
る事が出来るのか、自来也には見当も付かなかった。
︵いや⋮⋮アカネならばどうにか出来そうだから笑えるのォ︶
自分よりも遥かに長く生きている理不尽の権化を思いだして自来
也は苦笑する。
357
!
畜生道を倒して結界の中で一息ついていた自来也のチャクラが突
!?
きっとアカネならばペイン六道が相手でもどうにかしてしまいそ
うだと思わずにはいられなかった。
自来也は今ここにいない人間を思う事を止め、ペインの謎について
思考を巡らせる。
ペイン天道の顔は間違いなく弥彦であると自来也は確信する。だ
が、弥彦は輪廻眼を持っていなかった。
な ら ば 弥 彦 が 何 ら か の 理 由 で 長 門 か ら 輪 廻 眼 を 奪 い 取 っ た の か。
しかしそれも解せない。何故なら他にも輪廻眼を持つ者があれだけ
いるからだ。
更に戦いの前に人間道が話していた内容からは長門の言葉を思わ
せるものもあったのだ。ならば目の前で死体となっている畜生道は
やはり長門なのだろうか。
自来也がそう思った時、畜生道の額当てが外れ落ちた。激戦の中で
留め金が緩んでしまったのだろう。
こいつは長門なんかじゃない
にある横一筋の傷を見てそれを思いだした。
﹂
それはかつて自来也が旅をし始めたばかりの頃に山道で襲ってき
た風魔一族の男だったのだ。額の傷を付けたのは自来也なので間違
えようがなかった。
何故その男がペインの一人としてここにいるのか。深まる謎に対
して、自来也にはある予想が浮かび上がっていた。
だが予想は予想。確信には至らない。ならば確信する必要があっ
た。それがペイン打倒に繋がる秘密となるからだ。
﹁ワシはもう一度奴らの前に出て確かめたい事があります⋮⋮お二人
はお帰り下され﹂
そ れ に は フ カ サ ク も シ マ も 猛 反 対 し た。既 に 自 来 也 は 死 に 体 だ。
生きているのが不思議な程の猛攻を受けたのだ。
ペイン六道を相手に今も生き延びている。それは自来也の強さの
358
そうして畜生道の額が顕わになったのを見た時、自来也はかつての
記憶を思いだした。
﹁そうだ⋮⋮思いだした
!
そう。畜生道の体は長門の物ではなかった。自来也は畜生道の額
!
証と言えよう。
だが次にペインと相対すれば間違いなく自来也は死ぬ。そうフカ
サクとシマは確信していた。
だが自来也が自身の意見を曲げる事はなかった。今を除いてペイ
ンの正体を掴む機会はないだろう。
先程はああ思ったが、実際にペインを相手にしてアカネですら勝て
る保証はないのだ。
そもそもペインが里を襲ったとして、アカネを頼る事すら出来ない
状況に陥る可能性もある。そうなれば多くの忍が命を落とすだろう。
それを防ぐ為にもここで少しでも多くの情報を手に入れなければ
ならないのだ。
覚悟を決めていた自来也はフカサクとシマに今までの情報と人間
道の死体を持ち帰るよう頼む。
そしてそれを了承したのはシマのみだった。フカサクは自来也に
359
付き合ってペインと戦おうと言っているのだ。
︶
全てが終わったら自来也と共に飯を食べに帰ると妻であるシマに
約束して⋮⋮。
︵ありがとうございます⋮⋮。⋮⋮ぬっ
!!
く自来也も五人のペインを良く見ていた。
こいつら全員ワシの会った事のある忍だ
︶
そして残る五人全てのペインが自来也を睨みつける。そして同じ
は通用しなかった。鋭く投擲された苦無は容易く躱されてしまう。
死角から放たれた苦無だが、それは五つの視界を共有するペインに
静かに水面から顔を出して修羅道に苦無を投擲する。
蝦蟇結界から外へと飛び出した自来也は気配を消して水中を進み、
◆
付いて驚愕した。
自来也は二人の優しさに深く感謝する。だが、次の瞬間に何かに気
!?
そこで自来也は予想を確信へと変えた。
︵間違いない
!
その確信を得て、そしてこれまでの全ての情報を繋ぎ合わせた結
果、自来也はペインの正体に行きついた。
この情報を必ず木ノ葉へと伝える。そしてその為にするべき事も
﹂
理解しており、覚悟も決めていた。
﹁ッ
水面から奇襲を仕掛けてきた修羅道の一撃により自来也は喉を潰
される。その上で残る四人のペインがあの黒い棒にて自来也を串刺
しにしようとする。
それを自来也はどうにか二本ほど防ぐが、やはり奇襲により体勢を
﹂
崩していた事により残る二本を避ける事は出来なかった。
﹁││ッ
の正体を知る者は殆どいない暁でも謎の存在である。
﹁とんだ邪魔が入った。他の奴らは準備が出来ているか
﹂
もそれぞれ左と右で違っているという不可思議な存在であった。そ
ゼツはその左半身が白く、右半身が黒く染まっていた。そして思考
﹁かなりかかったね﹂﹁相手ハアノ自来也ダッタノダカラナ﹂
ある。
特殊な能力を持っており、潜入任務や情報収集にはうってつけの男で
その言葉と共に現れたのはゼツだ。地面や木々と同化するという
﹁ところで⋮⋮そろそろ出て来い﹂
に顔を向けて話だす。
そうして自来也の強さを褒め称えた所でペインは誰もいない方向
てはしなかっただろうな。流石は我が師だ﹂
﹁伝説の三忍自来也もついに死す、か。我らにこの秘密が無ければ勝
インは自来也の死を確信する。そして再び同じ言葉を口にした。
そうして自来也は力なく水中へと沈んで行く。それを見届けたペ
丸は足場である岩を崩すだけに終わった。
して螺旋丸を作り出して⋮⋮そのまま倒れ込んでしまい、最後の螺旋
だが最後に残った力を振り絞り、一人でも多くのペインを倒そうと
喉を潰されて声も出ないままに自来也は血を吐き出す。
!
﹁うん。後はペインだけだよ﹂
﹁サテ、木ノ葉ガ崩壊スルノヲ見学サセ
?
360
!!
テモラオウカ﹂
ゼツは情報収集に特化した能力ゆえかそれほどの戦闘力は持ち合
わせていない。少なくとも木ノ葉襲撃に参加すると途中で倒される
事は間違いないと他の暁には思われている。
なので暁が木ノ葉へと仕掛ける戦争には参加せず、能力を駆使して
見 学 に 徹 す る つ も り な の だ。そ れ に 関 し て は 暁 全 員 が 認 め て い た。
うかつに死なれては今後の情報収集に携わるからだ。
﹁悪いが少しばかり時間を貰う。オレも少々消耗したからな﹂
﹂﹁三忍ノ名ハ伊達ジャナカッタカ。大蛇丸ヨリ強イン
﹁そうなの
痛み。それこそが世界を成長させて平和へと至らせる唯一無二の
﹁さあ、世界に痛みを与えよう﹂
ゼツの姿が消えて無くなった後にペインは小さく呟いた。
そう言ってゼツは地面へと溶け込み姿を消していく。
﹁じゃあ回復したら教えてね﹂﹁ソノ時ガ木ノ葉ノ最後カ。楽シミダ﹂
事にした。
それをペインは苦々しく思うも、今はそれを忘れて回復に集中する
ばしの時間が掛かるだろう。
自来也の奮闘はペインを大きく消耗させていた。その回復にはし
﹂
ジャナイカ
?
手段。そう信じてペインは歩み続ける。
361
?
NARUTO 第十九話
今、木ノ葉の里をある衝撃が襲っていた。
二代目三忍自来也死す。それは多くの忍にとって信じがたい出来
事であった。
三忍とは木ノ葉にとって特別な称号だ。それは初代三忍が木ノ葉
の設立者であり、そして並ぶ者がいない実力者だったからである。
それは二代目三忍も同じだ。多くの忍にとって三忍とは雲の上の
存在なのだ。
その三忍である自来也が暁のリーダーであるペインに敗れた。
強く、里を愛し、忍の文字に恥じない忍耐を持つ彼が死んだ事も衝
撃だったが、暁のリーダーが自来也を上回る強さという事もまた木ノ
葉を揺るがしている衝撃であった。
あの三忍でも勝てなかった。それを知って危機感を覚えない忍は
362
木ノ葉にはいないだろう。
﹂
そして、自来也の最後の弟子であるナルトもまた、自来也の死を
知って嘆き悲しんでいた。
﹁何でそんな無茶を許したんだってばよ
かったのだ。
﹁バアちゃんはエロ仙人の性格を良く分かってんだろ
!
﹁よせナルト。五代目の気持ちが分からないお前じゃないだろ﹂
でそんな危ねー所に││﹂
たった一人
人で行かせた事に変わりはないと綱手はナルトの言葉を否定しな
難しい任務であり、そして綱手は反対をした側なのだが、最終的に一
正確には自来也が自ら買って出た任務であり、一人ではないと逆に
れがナルトには許せなかった。
だというのに、そんな危険な任務を自来也一人で行かせたのだ。そ
険な任務かはナルトにも理解出来る。
リーダーがいるアジトに一人で潜入任務をする。それがどれだけ危
ナ ル ト は 火 影 室 で 綱 手 に 詰 問 し て い た。暁 と い う 危 険 な 組 織 の
!!
なおも綱手を責めるナルトをカカシが宥める。ナルトとて綱手が
親しい人の死をどう受け止めているかは理解している。
だが、理解出来るからと言ってそれで納得出来る程ナルトは大人に
﹂
大体、そんな危険な任務ならアカネが一緒にいれば良かっ
はなっていなかった。
﹁くそ
たじゃねーか
それを聞いてアカネは顔を僅かに顰めるが、すぐに表情を元に戻し
てナルトへと言葉を返した。
﹁私とて常に誰かに付いていられる訳ではありません。忍の世界に死
とは切っても切れない物。どんな強者でも死ぬ事はあります。私が
いればどうにかなると思っているなら大間違いですよ﹂
﹁う⋮⋮﹂
静かだが、しかしはっきりとした物言いとアカネから放たれた圧力
にナルトは気圧されて何も言い返せなくなる。
・・・
任務と死は隣り合わせ。それは分かっていたつもりだった。だが、
親しい人の死に慣れていないナルトにはやはりつもりだったという
﹂
事だろう。
﹁くそ
ナルトは五代目火影が自来也だったならば綱手にこんな無茶をさ
﹂
せていなかったと悪態を吐いて火影室から退室する。
﹁ナルト
﹂
?
﹁お前には頼みがある﹂
ケは綱手に問い掛ける。
サクラは退室させて自分は残される。それを不思議に思ったサス
﹁⋮⋮オレはいいのか
その言葉に従いサクラはナルトを追う事はなく、自身も退室した。
今 の ナ ル ト に は 時 間 を 与 え た 方 が い い と い う 綱 手 の 判 断 だ ろ う。
クラにも退室を促した。
そんなナルトを追いかけようとするサクラを綱手は止め、そしてサ
退室しろ。少し緊急の話し合いがある﹂
﹁サクラ⋮⋮いい。少しそっとしておいてやれ。それよりも、お前も
!
363
!
!
!
﹁⋮⋮ちっ。分かったよ。オレも今のナルトじゃ戦い甲斐がないから
な﹂
サスケは綱手が何を頼みたいのかすぐに理解した。
今のナルトは大切な師匠が死んでしまい落ち込んでいる。優しく
慰めてあげる事も必要だが、発奮を掛けた方が上手くいく場合もあ
る。特にナルトの様なタイプだとそうだろう。
﹁理解が早いな⋮⋮流石はライバルというところか﹂
﹁ふん﹂
綱手が親友と言わなかったのは言っても拒否されるからだ。
だがこんな親友がナルトの近くにいてくれた事を綱手は内心感謝
していた。
﹁だが、今日の所は放っておいてやってくれ。あいつも一人で考えた
い事もあるだろうしな﹂
﹁過保護すぎんぜアンタ。まあいい、それじゃあオレは行くぜ﹂
364
そう言ってサスケは火影室を退室する。口ではこう言っているが、
親がいないナルトにはこれくらいの理解者がいてもいいだろうとい
う思いもあった。
﹁ウスラトンカチが⋮⋮﹂
その理解者を罵倒して出て行ったナルトに若干の怒りを感じつつ、
同時に自来也が死んだ事で悲しむ気持ちも理解する。
自分だったらどうだろうか。そう考えればぞっとする。家族が任
務で死んだら自分は怒り憎しみ、そして何を捨ててでも復讐に走るだ
オレは何を考えている⋮⋮﹂
ろう。そんな嫌な自信があったからだ。
﹁ちっ
ていた。
ナルト達が退室した火影室では残る四人による話し合いが始まっ
スケは気分を変えるべく窓から飛び出して外の空気を浴びに行った。
自来也が死んだ事で意外に影響を受けているのか。そう思ったサ
もならない事をする自分が馬鹿らしくなり頭を振る。
起こっていない出来事を考えて嫌な気持ちになるという何の得に
!
まあ、四人と言っても一人は蛙なので三人と一匹というのが正しい
のかもしれないが。
﹁さて、問題はペインの能力だな﹂
綱手はまずそこからだと話を切り出す。ペインの能力が理解出来
なければ自来也と同じく返り討ちにあってしまうだろう。
﹁うむ。奴らは││﹂
ペインの能力を自来也と共に体験したフカサクが知りうる限りの
情報を顕わにする。
それを聞いたカカシはペインの底知れなさに恐怖する。一人で挑
んで勝てる相手ではない。ここまでの情報を手に入れた自来也の奮
闘に頭が下がる思いだ。
﹁視界の共有と個体ごとの固有能力。大まかにはこれくらいですが、
その固有能力がまた厄介ですね﹂
﹂
﹁うむ。特に復活と斥力の様な能力。これらをどうにかしない限り勝
ち目は薄いな。⋮⋮ばあ様はどうだ
ペインの能力について纏めていた綱手はそれらの能力を相手にア
カネが勝てるかどうかを確認する。
どうにも綱手ですら自分を頼る気持ちが零ではないようだ。そう
思うアカネだが、まあ人に頼る事は全てが悪い事ではないかと思い直
す。
物事の全てを他人に頼っては成長にはならないが、緊急事態なら話
は別だ。それに綱手は常日頃からアカネに頼っている訳ではないの
で問題はないだろう。
﹁まあ、体験してみない事にはどうとも言えませんね。その斥力とや
らが私の想像以上なら私でも苦戦するかもしれません﹂
﹁⋮⋮そうか﹂
アカネでも苦戦するやもしれないペインの実力に驚くべきか、自来
也を圧倒したペインに苦戦で済ませるアカネに驚くべきか。アカネ
を除くこの部屋の者達は全員が同じ思いを抱いた。
﹁それに伝説の輪廻眼です。他にも能力があってもおかしくはありま
せん﹂
365
?
アカネは友であり同志であり好敵手でもあったうちはマダラを思
いだす。
マダラの持つ写輪眼を超えた万華鏡写輪眼は凄まじい瞳力を有し
ていた。特に完成体と呼ばれる須佐能乎の威力は天を裂き地を砕き
山を断つ程だ。
そして輪廻眼と言えば三大瞳術の中で最も崇高と謳われている代
物だ。ならばマダラの万華鏡写輪眼を超えていてもおかしくはない。
自来也と戦った時ですら本気ではなかったのかもしれない。そう
であるならばアカネとて勝てるとは言い切れなかった。
﹂
﹁警戒するに越した事はないな⋮⋮。フカサク様、他に情報はないの
か
﹂
﹁うむ⋮⋮どうもあのペインは全て本物ではないようじゃ﹂
﹁本物では⋮⋮ない
つまり、そいつらが全員輪廻眼を持っていたのか
過去に自来也ちゃんが出会った事のある忍の様なのじゃ﹂
﹁⋮⋮
﹂
?
﹁これは自来也ちゃんが気付いたんじゃがの。あのペイン六道は全て
綱手の言葉にフカサクは首肯し、そして詳細を述べた。
?
﹁だったら何故そんなにも輪廻眼を持つ者がいるんだ
﹂
かつての自来也ちゃんの弟子である長門一人じゃろう﹂
﹁これも自来也ちゃんの予想なんじゃがな。恐らく輪廻眼を持つ者は
牛耳る事が出来るだろう。
る訳がない。輪廻眼の大量生産を可能とするならそれだけで忍界を
一人ならまだしも、六人もの人間が輪廻眼を後天的に得るなど出来
か。
後天的に輪廻眼を手に入れる。それが事実ならどれ程恐ろしい事
眼を得たという事になる﹂
ど持っておらんかったそうじゃ。つまり、ペイン六道は後天的に輪廻
﹁いや、そうではない。自来也ちゃんが出会った時には誰も輪廻眼な
?
得が行く話じゃ﹂
の長門本体が全てのペイン六道を操っている。そうであるならば納
﹁⋮⋮ペイン六道の中に長門とやらはおらんようじゃった。恐らくそ
?
366
?
フカサクの言葉を聞いた三人はこれまでの情報を吟味する。
一個体につき一つの固有能力。六人全員が持つ輪廻眼。全ての視
界 を 共 有。全 身 に 刺 さ っ た チ ャ ク ラ を 乱 す 黒 い 棒。死 体 の 復 活。そ
してペイン六道はかつては誰も輪廻眼を持っていなかった。
長門本人がペイン六道に己の力を分け与えて全てを操作している。
確証のない推測だ。だが、確かにそう言われると全てに納得が行っ
た。
﹁だとしたら本体を倒さない限り⋮⋮﹂
﹁ペインを倒した事にはならない、な﹂
カカシと綱手が難しそうに呻く。ただでさえ強いというのに、本体
がどこにいるかも分からずに倒す事が出来るのだろうか、と。
﹁とにかく今は自来也のおかげで手に入れた情報源から新たな情報が
得られる事を期待しましょう﹂
﹁⋮⋮そうだな﹂
367
黒い棒とペイン六道の一人餓鬼道の死体、そして雨隠れの忍。これ
ら全てを調べ上げれば更なる情報が得られるだろう。
そうなればよりペインの秘密に近付けるやもしれない。今はそれ
を待つしかないと綱手も判断した。
﹁さて、ではナルトですが⋮⋮明日になって本人の気持ちが定まって
いれば仙術の修行をつけましょう﹂
﹂
﹁ようやくか⋮⋮こう言っては何だが、もっと早くにしても良かった
んじゃないか、ばあ様
今の第七班の関係が非常に上手く回っていましてね⋮⋮﹂
﹁もちろんナルトに仙術を教える事は吝かではなかったのですが⋮⋮
あった。
そ れ で も ア カ ネ が ナ ル ト に 仙 術 を 学 ば せ な か っ た の に は 理 由 が
えていた。
チャクラを有していなければならないが、ナルトは完全に基準値を超
仙 術 を 身 に 付 け る に は 自 然 エ ネ ル ギ ー に 負 け な い く ら い 多 く の
学ぶに十分過ぎる程に達している。
綱手の疑問は分からなくもない。既にナルトの基礎能力は仙術を
?
そう、アカネの言う通り今の第七班の関係は非常に上手く行ってい
た。それはそれぞれの力関係についてだ。
ナルトは現状でもサスケとほぼ互角の力量に至っている。それで
もナルトはサスケに負ける事が多いので必死に努力して修行し、サス
ケはナルトに追い付かれまいと修行に更に励み、同じ様にサクラも二
人に追い付こうと努力する。
だがナルトが仙術を覚えてしまうとこの関係が崩れてしまう可能
性があるのだ。
仙術を覚えたナルトは確実にサスケを圧倒する実力を得るだろう。
もちろんそうなるとサスケも負けじと努力するだろうし、サクラも同
じだ。
だがアカネの理想としては今の力量関係を維持したままの方が実
力の伸びが速いのだ。仙術を覚える事はいざとなればいつでも出来
るので後回しにした結果である。
更に言えばナルトの向上心が減少する可能性も考慮していた。サ
スケを圧倒する実力を得て調子に乗って修行への気の入り方がこれ
までと比べて減少するだろうというアカネの予想だ。
これに関しては修行をしなくなるという事はないだろうが、確実に
起こり得る事態だとは思っていた。人間は目標を達成すると気が抜
けてしまうものなのだ。
﹁ですが、自来也の死という衝撃を受けたナルトならばその心配もな
い で し ょ う。理 不 尽 な 力 か ら 誰 か を 守 る 為 に は 自 身 に も 力 が 必 要。
それをナルトなら分かるはずです﹂
﹁⋮⋮そうだな。荒療治だが、これが忍の世だ。ナルトには悪いが今
回の件を糧にして欲しい⋮⋮﹂
死に慣れては欲しくないが、死と隣り合わせの世界に生きている。
その実感はして欲しい。そういう贅沢な願いを籠めて綱手は呟いた。
﹁ナルトならきっと乗り越えてくれる。私はそう信じている﹂
◆
368
自来也の訃報から一夜明けた木ノ葉の朝。ナルトは未だ自来也の
死から立ち直れずに自室にて籠もっていた。
昨夜に恩師であるアカデミーの講師イルカに慰め励まされたが、や
はり完全に振りきれてはいないようだ。
部屋の明かりを点けるのも億劫だ。そんな風にナルトが沈んでい
る時、玄関のチャイムが鳴り響いた。
無視しようかという思いもあったが、何か重要な任務に繋がる話か
もしれない。忍としての習性が捨てきれずにナルトはゆっくりと玄
関へと移動する。
そして扉を開いた時に驚愕した。そこには同じ第七班にしてライ
バルであるサスケの姿があったからだ。
﹂
今までサスケがナルトの家を訪ねた事はなかった。だからこそ余
計に驚愕したのだ。
﹁サスケ⋮⋮な、何の用だってばよ
﹁ちょっと面貸せウスラトンカチ﹂
いつもなら反応しているその罵倒にナルトは呆ける事しか出来な
かった。
サスケの剣幕に押されての事だが、そんなナルトを見てサスケは苛
立ちを覚える。
﹂
サスケはナルトの返事を待たずにさっさと移動する。
﹁ちょ、待てよサスケ
道中サスケは一言も言葉を発さず、それに対してナルトも何も言え
なかった。
﹂
そうして二人が付いたのは演習場の一つだった。
﹁おい、どうしてこんな場所に来るんだってばよ
れ。
まさか今この状況で戦おうと言うのか。だったら別の時にしてく
!?
369
?
ナルトは慌ててサスケの後を追う。
!
そう言おうと思っていたナルトだが、その言葉を口にする事は出来
﹂
なかった。
﹁ぐあっ
!?
ナルトに背を向けていたサスケが突如として振り返ってナルトを
力いっぱい殴りつけたからだ。
サスケの突然の行動にナルトは反応する事も出来なかった。そし
﹂
てその隙を突いてサスケは何度もナルトを殴り、蹴り飛ばす。
﹁な、何しやがる⋮⋮
﹂
﹂
あの程度の攻撃なんざ修行でいくらでも受けてきただろうが。
﹁うっ⋮⋮く⋮⋮﹂
それが反応する事すら出来ないとはな。無様だなナルトォ
た
﹁さっきから何だその態度は。いつからお前はそんなに腑抜けになっ
は気圧された。
サスケから放たれる怒気と、写輪眼となったその鋭い視線にナルト
﹁⋮⋮なっ
﹁気に入らねェんだよ﹂
ていた。
怒りを顕わにするナルトに対して、サスケはそれ以上の憤怒を見せ
にする事が出来た。
蹴り飛ばされて距離が開いた事でようやくナルトはその言葉を口
!
た。
自分に追い付こうと追い抜こうとするナルトはどこにもおらず、た
だの負け犬がそこにはいた。
あの程度の剣幕に気圧されてのこのこと付いて来て、あの程度の奇
襲に反応出来ずにただ殴られるままでいて、この程度の怒気に気圧さ
れて何も言えなくなる。
そんなナルトはサスケの知るナルトではなかった。サスケの知る
これ
ライバルの姿ではなかった。それがサスケには心底我慢出来なかっ
これがオレの認めた男か
!
た。
﹂
﹁これがオレと同じ班の一員か
がオレの⋮⋮クソがっ
!
た。
最後の言葉を飲み込んで、サスケは怒りのままにナルトに突撃し
!
370
!?
サスケは気に入らなかった。今のナルトの全てが気に入らなかっ
!
?
﹁ナルトォ
﹂
忍 術 も 幻 術 も 使 わ な い。た だ 体 術 の み で 攻 撃 す る。い や、振 り か
ぶって殴っているだけで、それは体術と呼ばれる物ですらなかった。
そう、子どもの喧嘩の様に力一杯に攻撃しているだけだ。
五発、六発と殴られていく内に、ナルトにはサスケの思いが理解出
来てきた。
︵⋮⋮そうか⋮⋮︶
サスケは悔しかったのだ。自分が認めた男が腑抜けになった様を
見て。
サスケとて最初はただ発破を掛けるだけにするつもりだった。だ
が、ナルトを一目見た瞬間にそんな気持ちが吹き飛んだのだ。
こんな男が自分のライバルなわけがない。こんな男がオレの⋮⋮
オレの最も親しい友なわけがない。
そんな思いを籠めて、不器用なサスケはただ全力でナルトを殴りつ
けているのだ。
﹂
︵すまねぇ⋮⋮サスケ⋮⋮︶
﹁おおお
だ。
﹂
﹁サスケェ
﹁がっ
﹂
そしてナルトは吹き飛びつつも倒れる事なく踏みとどまり、叫ん
と。
サスケには分かったのだ。今の一撃をナルトはわざと受けたのだ
れを見てサスケは目を見開いた。
サスケが放ったテレフォンパンチをナルトがまともに喰らう。そ
!
喰らう。
吹き飛ばされつつも、サスケもナルトと同じ様に踏みとどまり、そ
﹂
してナルトと同じ様に叫びながら前に出る。
﹂
﹁うおおおぉ
﹁ぐぅ
!
371
!
!
助走を付けて思い切り振り被り叩きつけた拳をサスケはまともに
!?
!!
またも吹き飛ばされるナルト。そして再びサスケを全力で殴り飛
ばす。サスケも負けじとナルトを殴り返す。
そこにあったのは忍同士の戦いではなく、ただの意地の張り合いで
あった。
どれだけの時間が過ぎたのか。本人達は数時間は経ったかの様に
思っていたが、実際は十分も経ってはいなかった。
二人は既にボロボロだ。避ける事もなく全力で殴り合えばそうも
なろう。だが、それでも二人の顔はどこか晴れ晴れとしていた。
﹁⋮⋮今日もオレの勝ちだウスラトンカチ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮当たり前だろうが⋮⋮お前の方が先に殴ってんじゃねーか﹂
サスケの言う通り先に倒れたのがナルトだったので勝者がどちら
かと言えばサスケだろう。
だがナルトの言う通り最初にナルトを多く殴っているのでそれだ
けサスケが有利だったのは当然だ。
﹁⋮⋮いつまでもウジウジしてんじゃねーよ﹂
﹁ああ⋮⋮分かってんよ﹂
それ以上の言葉はナルトには必要なかった。言葉以上に分かりや
すくサスケが教えてくれたからだ。
落 ち 込 ん で い て も 何 も 始 ま ら な い。悲 し む 事 が 悪 い 訳 で は な い。
だが、それで進む事を止めてしまっても死んだ人間は帰ってこない。
﹁エロ仙人の思いはオレが受け継ぐ⋮⋮そうじゃなきゃ、弟子失格だ
からな⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ふん﹂
ナルトの思いを聞いたサスケはようやく自分なりの結論を見つけ
たかと思い、そしてその結論に至れたナルトを内心で尊敬する。
自分とナルトの立場が逆であったならば。その時自分は同じ結論
に至れるだろうか。その自信がサスケにはなかった。
◆
372
﹁なんでこんなにボロボロなのよぉ
﹂
本当に何時まで経っても子どもなんだから
ていたらこうもなろう。
﹁全くもう
﹁ごめんよサクラちゃん⋮⋮﹂
!
﹂
かった敵を自来也の変わりに倒す。それが自来也の意思を継ぐ第一
敵討ちをしたいという思いもあるだろう。だが、自来也が倒せな
!
う。
﹁ばあちゃん
エロ仙人を倒した敵の事を詳しく教えてくれ
いた。自来也の思いを受け継ぐと決めた今、やるべき事は一つだろ
治療を終えたナルトはサクラに礼を述べるとすぐに火影室へと赴
療忍術により完治する。
アカネが過去に思いを馳せている間にナルト達の傷はサクラの医
だ。
いて同意していた。どうやらかつての親友達を思いだしているよう
ちなみに近くにはアカネもおり、サクラの言葉に﹁うんうん﹂と頷
とは違う、その言葉に籠められた思いを理解したからだ。
サクラのその言葉に二人は何も言えなかった。ただの侮蔑の言葉
﹃⋮⋮﹄
﹁ホントにもう⋮⋮男って馬鹿なんだから⋮⋮﹂
もに動けなくなっているだろう。
これで医療忍者を怒らせて治療をしてくれなかったら当分はまと
らいに熱を持ち、口内は鉄の味しかしていないのだ。
顔は腫れ上がって痛みを通り越して外の空気が気持ちよくなるく
かった。
手当てをしてもらっている身としては二人とも謝る事しか出来な
﹁わりぃ⋮⋮﹂
﹂
あった。まあ、顔だけを狙ってひたすら防御も回避もせずに殴りあっ
修行でもこんなになった事はないというのに、まさに酷い有様で
スケを見てサクラは憤慨する。
顔中ぼこぼこでもはや別人のように膨れ上がっていたナルトとサ
!?
ナルトがやるべき事は自来也を殺した敵を倒す事である。
!
373
!
歩だと思ったのだ。
﹁⋮⋮少しは吹っ切れたか﹂
突如として火影室に押しかけて第一声が挨拶でないという失礼極
まりない態度であったが、綱手は不機嫌になるどころか昨日とは打っ
て変わったその顔を見ることで笑みを浮かべた。
かたき
﹁いいだろう。だが、ペインの情報を教えたところで今のお前をペイ
ンと闘わせるわけにはいかん﹂
﹂
﹂
⋮⋮だったら、このまま黙って他の奴らがペインを倒すのを
黙ってみてろって言うのかよ
﹁っ
はずだ﹂
に負けてしまえばどうなるか⋮⋮お前も風影を通じて理解している
﹁今のお前ではペインには勝てん。九尾の人柱力であるお前がペイン
ルトにさせるわけには行かないからだ。
だが綱手としても言い分がある。負けると決まっている闘いをナ
言葉は納得が行かなかった。
気持ちの整理をつけてやる気を漲らせていたナルトに今の綱手の
いんだ
﹁なんでだよばあちゃん エロ仙人の敵はオレが討たなきゃならな
!?
良く分かっていた。綱手の言い分も理解出来る。
だが、だからといって﹁はい分かりました﹂と言って納得出来るナ
ルトではない。
それを綱手も良く分かっている。だからこそ、ナルトのその噛みつ
くような言葉に不敵に笑って答えを返す。
⋮⋮どういうことだってばよ
﹂
﹁勘違いするな。私は今のお前では、と言ったんだ﹂
﹁え
﹁せん⋮⋮じゅつ
﹂
けん限りにはペインに抗う事も出来んからのう﹂
﹁ナルトちゃんには妙木山で仙術の修行をしてもらう。仙術を身に付
ナルトの疑問には綱手の変わりにフカサクが答える。
!?
﹁そうじゃ。自来也ちゃんも身に付けていた力じゃ﹂
?
374
!
暁に負けた人柱力がどうなるか。それは我愛羅の一件でナルトも
!?
!
?
﹂
自来也も身に付けていた。それを聞いたナルトは目を見張りフカ
サクに掴みかかるように確認をする。
﹁それでホントにペインに勝てるのか
?
越えて仙術を身に付ける。それ以外にない。
それでもやるかえ
﹂
ならば答えは簡単だ。例えどれほど厳しい修行だろうと必ず乗り
ろうし、そもそも勝ち目がない。
仙術を身に付けなければ綱手はペインとは闘わせようとしないだ
それを聞いたナルトはどの道これ以外に方法がないと理解する。
﹁⋮⋮﹂
﹁それは分からん。じゃが、今のままでは勝ち目がない事は確実じゃ﹂
!?
だ っ た ら オ レ だ っ て 負 け ね ぇ ﹁仙術の修行は想像以上に厳しいぞ
﹂
﹁エ ロ 仙 人 に も 出 来 た 事 だ ろ
やってやる
!
!
に話しかける。
修行が上手く進まずに舌打ちをするサスケにアカネは宥めるよう
﹁ちっ⋮⋮﹂
◆
撃を仕掛けたのである。
ナルトが妙木山に赴いてから一週間。とうとう暁が木ノ葉へと襲
ていく。
だが、ナルトが修行に励んでいる間も時は全てのモノに等しく流れ
ける事になる。
妙木山へと辿り着いたナルトは蝦蟇仙人から厳しい仙術修行を受
妙木山へ移動する事が出来るのだ。
だが蝦蟇と口寄せ契約を結んでいる者ならば逆口寄せにより直接
らない限り辿り着く事すら不可能な秘境にある。
妙木山は木ノ葉から歩いて一ヶ月は掛かる上に、秘密のルートを知
そうしてナルトの仙術修行が始まった。
?
﹁焦る必要はありませんよ。自然エネルギーは簡単に感じ取れるもの
375
!!
ではありませんから﹂
アカネの言葉が示す通り、サスケは自然エネルギーを感じ取る修行
をしていた。
もちろんその理由は仙術を得る為であり、仙術を得る理由はナルト
﹂
に負けたくない為である。非常に分かりやすい男であった。
﹁妙木山以外にも仙術を学べる場所はないのか
﹂
・・
﹂
﹁残 念。私 も 龍 地 洞 の 場 所 は 知 り ま せ ん。湿 骨 林 な ら 分 か り ま す よ
﹁⋮⋮その中じゃ蛇がマシか。じゃあ││﹂
﹁湿骨林が蛞蝓で、龍地洞が蛇ですね﹂
﹁⋮⋮それはなにとなにの秘境だ
・・
﹁あるにはありますよ。湿骨林と龍地洞です﹂
自分よりも先に進んでいるかもしれない事に苛立っているのだが。
正確には仙術を学ぶ上で最高の環境である妙木山にいるナルトが
に進まない仙術修行に苛立っていた。
けの期間を掛けて修行の成果が出なかった覚えがないサスケは一向
ナルトが妙木山に旅だってから一週間しか経っていないが、それだ
?
山に行くと言い出していた。
だがアカネからの説明を聞いて前言撤回した。その説明とは、秘境
にて仙術を会得するとその秘境の特徴が現れるというものだった。
つまり蝦蟇の秘境である妙木山で仙術修行をすると、仙人モードに
なった時に蛙の影響を受けて見た目が蛙っぽく変化するのだ。
もっともこれは仙術に対する適正が高ければ変化も少なくなるの
だが。ちなみに自来也は少々の影響を受けて見た目が若干蛙化して
いた。
とにかく、それを聞いたサスケは蛙になる事を拒んで妙木山行きを
取り止めた。
な ら ば 秘 境 に 頼 ら ず に 仙 術 修 行 を す る。そ れ が サ ス ケ の 考 え で
あったが、流石に何のとっかかりもなしに自然エネルギーを感じ取っ
376
?
サスケはナルトが仙術修行をしていると聞いた当初は自分も妙木
﹁⋮⋮遠慮しとく﹂
?
て吸収する事は天才サスケをして難しかったようだ。
何の成果も得られない為に妙木山以外の秘境をと確認したが、返っ
て来た答えはサスケにとって残念極まりないものだった。
蛙・蛞蝓・蛇ならばまだ蛇がマシと思ったが、肝心の蛇仙人の秘境
である龍地洞の場所はアカネをして知らなかったのでどうしようも
ない。
﹁⋮⋮ナメクジ可愛いのに﹂
﹁それだけは共感できねーな﹂
今すぐカツユを口寄せしてその可愛さをたっぷりと教えてやろう
か。そう思ったアカネだったが、流石にそれは止めにした。
﹁とにかくです。秘境に頼らずに仙術を会得するならそれ相応の時間
が必要になります。まあ、サスケなら1ヶ月もすれば自然エネルギー
﹂
を感じ取れる様になるでしょう。ですが問題は別にあります﹂
﹁問題
﹁え え。仙 術 の 説 明 は し た か ら 覚 え て い る で し ょ う が、仙 術 エ ネ ル
ギーとはチャクラの源である身体エネルギーと精神エネルギーに更
に自然エネルギーを混ぜ合わせて生み出されるものです﹂
それは修行の始めにアカネから教わった事だ。ナルトと違いそれ
なりに記憶力のいいサスケは当然それを覚えている。
自然エネルギーという外なるエネルギーを加える事で内なるエネ
ルギーのみのチャクラよりも遥かに強くなれると。
しかも自然エネルギーは世界に溢れ返っている。使えば使うほど
消耗する従来のチャクラと違い、取り込めば取り込む程逆に体力を回
復するのだ。
スタミナでナルトに負けているサスケには打ってつけの力と言え
た。だからこそサスケは仙術チャクラを会得したかったのだ。
だが、ナルトと比べてチャクラが少ない。それが仙術を得る上での
ネックだった。
﹁自然エネルギーとは非常に強力な力です。その身に膨大なチャクラ
を持たないと自然エネルギーを取り込んだ時に逆に自然エネルギー
に取り込まれてしまいます﹂
377
?
﹁自然エネルギーに取り込まれる
﹂
﹁⋮⋮﹂
﹂
﹂
会得するには危険が過ぎ、会得した所でナルト程
の成果を得られない。それでも仙術の修行を続けますか
﹁どうしますか
ナルトが有利だと言う事だ。
ナルトとサスケが同じ仙人モードになってもその効力は圧倒的に
どうなるか。それくらい馬鹿でも分かるだろう。
の差に繋がる。取り込む自然エネルギーがナルトよりも少なければ
そのチャクラの差はそのまま自然エネルギーを取り込める許容量
倍以上のチャクラを持っているのだ。
の平均の倍はあるだろう。むしろ多いくらいだ。だが、ナルトはその
サスケのチャクラ量は決して少ないわけではない。木ノ葉の上忍
﹁⋮⋮﹂
ります﹂
す。ですが、取り込める自然エネルギーの量は確実にナルトよりも劣
﹁今のあなたのチャクラ量ならば最低限の仙術を会得する事は出来ま
きなしっぺ返しを受けてしまうのだ。
自然エネルギーとはあまりに強すぎるが為に下手に利用すると大
それこそが仙術を学ぶ上で最も重要かつ恐ろしい事実だ。
﹁
まうのです。それも永遠に⋮⋮﹂
﹁自然エネルギーを取り込み過ぎた場合、その者は石へと変化してし
恐ろしい答えを返した。
それはどう言う事なのか。想像もつかないサスケに対し、アカネは
?
いだけの話。
取り込める自然エネルギーが少なくとも、それもこれまでと変わらな
そう、サスケのチャクラがナルト以下なのは今までも同様なのだ。
一つ。質で劣っても使い手が上ならば何の問題もない﹂
きた。これまでも、そしてこれからもだ。仙術も術である以上武器の
﹁少ないチャクラも要は使い様だ。そうやってオレはナルトに勝って
アカネの問い掛けにサスケはしばし沈黙し、そしてニヤリと笑う。
?
?
378
!?
例え少ないチャクラだろうとそれでもナルトを上回る。手に持つ
手段を最大限に生かして戦うのが忍なのだ。
チャクラ量も、忍術も、幻術も、体術も、戦術も、仙術も、それら
は全て手段に過ぎない。それを相手よりも上手く活用した者が勝者
となるのだ。
たかだかチャクラ量が劣るだけで負けるわけには行かない。それ
がサスケの考えであった。
サスケの答えを聞いたアカネは機嫌良さそうに笑う。
﹁分かりました。それでは仙術の修行を続けましょう。まずは自然エ
﹂
ネルギーを感じ取る事からですが⋮⋮修行の前に言った様に、私がい
ない時には絶対に仙術の修行をしてはいけませんよ
﹁ああ⋮⋮オレも石になんかなりたくないからな﹂
最初に聞いた時はその理由が分からなかったサスケだったが、自然
エネルギーを取り込み過ぎた場合は石に変化してしまうと聞けば納
得もする。
誰かにそれを止めて貰わなければ一度の失敗で永遠に自然物の仲
間入りだ。それはサスケも御免であった。
﹁ではじっとして自然エネルギーを感じ取る修行を再開します﹂
自然エネルギーは生物としての流れを止め、自然の流れと調和して
初めて感じ取る事が出来る。
そ の 為 に は 指 先 一 つ 動 か さ ず に じ っ と し な け れ ば な ら な い の だ。
聞くだけだと簡単だが、実際にそれを実行する事は困難だ。
動物とは読んで字の如く動く物である。動かずに居続ける事は非
常に難しく辛いのである。
﹁くっ⋮⋮激しい修行の方がまだ楽だぜ⋮⋮﹂
今までの修行と全く別物の修行にサスケは地獄の修行の方がまだ
楽だったとこぼしてしまう。
それを聞いたアカネは仙術を会得したら次は仙術の修行が楽だっ
﹂
379
?
たと思わせてやろうと考え││突如として愕然とした。
﹂ どうしたアカネ
?
!
お、おい
?
﹁な⋮⋮
﹁⋮⋮
?
急に振り返ってあらぬ方向を見つめて目を見開くアカネにサスケ
は驚愕する。
今までアカネと接して来て、こんな反応をしたアカネを見たのは初
めてなのだ。
⋮⋮マダラ﹂
心配するサスケを気に掛ける事も出来ずにアカネは小さく呟いた。
﹁穢土転生⋮⋮なのか
うちはマダラ。かつての同志にして好敵手にして、そして最高の
友。
そのチャクラを感じ取り、アカネは驚愕に目を見張った。
380
?
NARUTO 第二十話
木ノ葉の里から数km程離れた場所にある森の中。
そこに一人の男が立っていた。仮面を被り顔を隠した男はそこで
じっと誰かを待っていた。
﹁⋮⋮来たか﹂
待つ事僅か十数秒。僅かなチャクラを発してからその程度の時間
でのご到着だ。
流石は、等とは男は思わない。何故なら相手は日向ヒヨリ、その転
生体。ならばこの程度の所業など造作もない事なのだ。
仮面の男の前には何時の間にか日向アカネが立っていた。二人は
僅かに互いを見やり、そして懐かしそうに仮面の男が口を開いた。
﹁まさか転生するなど思ってもいなかったぞ。身体は違えどこうして
再びお前と相対するとはな⋮⋮久しいなヒヨリ﹂
381
﹁⋮⋮マダラ﹂
仮面の男││うちはマダラは仮面を外すことなく会話を続ける。
﹁お 前 な ら ば オ レ の 発 し た 僅 か な チ ャ ク ラ を 感 じ 取 る 事 が 出 来 る と
思っていたぞ﹂
その言葉からマダラが何らかの目的があってアカネをこの場に呼
び出した事が分かる。
ではそれは一体何なのか。今のマダラは暁の象徴とも言える外套
を羽織っている。それが意味する所は一つしかないだろう。
暁の一員であるマダラの用件。それが碌な物ではないと予想しつ
﹂
つ、アカネはマダラが何かを言う前に先にマダラにある確認をした。
﹁お前は⋮⋮穢土転生で操られているのか
もしれないが、アカネは白眼にてマダラの仮面の裏を透視しているの
そして例え実は死んではおらず生きていたという可能性もあるか
土転生による擬似的な復活くらいしかアカネは想像が出来なかった。
柱間と闘い死んだはずのマダラがこうして今ここにいる理由は穢
やはりそうか。マダラの返事を聞いたアカネは内心でそう呟く。
﹁ふ⋮⋮流石に分かるか。そう、今のオレは穢土転生で蘇った身だ﹂
?
だ。
そこには穢土転生の証である黒ずんだ瞳があった。写輪眼を持つ
マダラには似つかわしくない黒ずんだ瞳が⋮⋮。
﹂
﹁だがオレは操られてなどいない。オレはオレの意思で動いている﹂
﹁⋮⋮穢土転生の術者は大蛇丸なのか
﹁そ う だ。お 前 へ の 対 抗 と し て オ レ を 穢 土 転 生 し た の だ ろ う な。だ
が、その為にオレを生来の実力に近しく蘇らせてしまった。縛りきる
自信があったのかもしれないが⋮⋮ふ、三忍の名を舐めてもらっては
困る﹂
確かに今のマダラは誰かに操られている様子はない。だが操られ
ていないという保証もまたなかった。
会話だけは自由意志を持たせておいて肉体の主導権のみを得る事
も穢土転生は可能だった。そうであるならば油断するわけには行か
ないだろう。
﹁まあ、それを信用しろというのは無理があるだろう。だが、オレの話
は最後まで聞いてほしい。お前がオレに協力してくれるならばそれ
﹂
に越した事はないのだからな﹂
﹁協力
の話に興味を持ったアカネはその内容を聞く事にした。
﹂
﹁そうだ。⋮⋮なあヒヨリよ。オレ達が目指した平穏な世界には一体
いつになったら届くんだ
﹁それは⋮⋮﹂
の果てが戦争である。
く協力して生きていても競争とは起こる物なのだ。そしてその競争
人が二人いれば大小の差はあれど争いは起こる。どれだけ仲が良
完全なる平穏など有り得ないという事を。
長きを生きるアカネはそれを理解していた。人間が生きる世界で
だ。
えを知らない訳ではない。知っているからこそ答えられなかったの
その質問に対してアカネは何も答える事が出来なかった。いや、答
?
382
?
一体何の協力をさせようと言うのか。疑心暗鬼ではあるが、マダラ
?
極端だがつまり完全なる平和・平穏とは人が生きていく社会では達
成する事は出来ないのだ。
﹁そうだ。オレ達が目指した平和な世界にはいつまで経っても到達す
る事なんか出来やしない。オレが死んでからどれだけの時が流れた
それでも世界には争いが蔓延っている⋮⋮無駄だったのさ、オレ
そ れ で も 私 達 が し た 事 は 無 駄
確かに未だに世界には争いはあるし、今でも人
達がして来た事はな﹂
﹁そんな事はない
!
争いの中にも秩序が生まれ、無駄な死は少なくなっ
は 傷 つ け あ っ て い る ⋮⋮。だ が
じゃなかった
﹂
!
﹂
?
?
る。
﹂
﹁恒久的な平和。それが実現出来るとしたらどうする
﹁な⋮⋮
﹂
そんな想いを籠めたアカネの言葉を遮って、マダラはアカネに告げ
はないと実感していた。
争いの少ない平和な世界を知っているアカネにはそれが夢物語で
は常に流れ続けているのだ、今は無理でもいつかはそこに行きつく。
争いを無くす事は無理でも限りなく少なくする事は出来る。時代
も、それでもいつかは戦争がない時代も││﹂
ば世界はより平穏に近付いている。今は無理でも、完全には無理で
﹁それでも確実に犠牲者は減っている。あの血に塗れた時代と比べれ
規模は逆に大きくなった。これを無駄と言わずに何と言う
りに里と里の戦争が出来上がった。結局は回数が減っただけでその
里というシステムが出来た事で小競り合いは減った。だがその代わ
﹁違うな。オレ達がした事は新たな戦争を産み出しただけだ。確かに
だが、激昂するアカネに対してマダラは冷たく言い放つ。
言えども許す事は出来なかった。
る為の努力と、成し遂げた成果。それらを否定する事は例えマダラと
自分達がしてきた事は無駄ではない。あの最悪の戦国時代を変え
た
!
?
かもしれない。
恒久的な平和の実現。確かにそれが可能ならば素晴らしい事なの
!?
383
!
だがどうやって実現するというのか。それを問われて答えられる
者はいるのだろうか。
いや、答えだけならば幾つかはあるだろう。例えばだが、この世に
生きる全ての人間を滅ぼし尽くせばいい。そうすれば人と人の争い
はなくなり、自然本来の必要な争いしか残らなくなる。
だがそれは本末転倒だ。人が生きていく中での平和が必要だから
こそアカネは柱間達と努力してきたのだ。肝心要の人がいなくなれ
ば何の意味も持たないだろう。
﹁オレにはその手段がある。こうして穢土転生で復活出来たのはまさ
に好機、天がオレに世界を変えろと言っているのだ。そしてお前が協
力してくれれば確実に世界に平和を齎す事が出来る﹂
自信を持って答えるマダラに嘘はない。それはアカネの長年の経
験で理解出来た。
﹂
だがそれ以外の何かでマダラは嘘を吐いている。それもまた長年
て柱間と死闘を繰り広げた理由だ。
ヒヨリであった当時に柱間にもそれを確認したが、柱間曰くマダラ
は世界を平和にする為だと言っていたという。
だが何故世界を平和にする為に柱間と殺し合う必要があったのか
がヒヨリには理解出来なかった。
そしてもう一つ、恒久的な平和とやらを実現する方法。それが本当
ならば確実に非人道的な方法になるはず。そうであるならば協力な
ど出来るわけがない。
﹁⋮⋮柱間とオレは結局相容れなかったのさ。オレの考えを柱間は理
﹂
解出来なかった。ならばオレの邪魔になる前に消すしかなかった﹂
﹁そんな事で⋮⋮そんな事で私達を裏切ったのか
﹁それも全ては世界の為なのさ。目的に至るまでに犠牲は必要だ。オ
?
384
の経験で理解出来てしまった。
﹂
その方法とは一体何だ
﹁⋮⋮一つ、いや二つ聞きたい事がある﹂
﹁⋮⋮なんだ
﹁何故、柱間と闘った
?
アカネが一番確認したかった事。それはマダラが自分達を裏切っ
?
?
レ達もそうしただろう
互いの一族で殺し合って、な﹂
マダラの言葉は間違ってはいない。里というシステムを作るまで
に柱間もマダラもヒヨリも、それぞれの一族として他の一族と戦って
﹂
来たのだ。そこに至るまでに死んだ忍の数は十や二十などでは利か
ないだろう。
﹁だからと言って⋮⋮
﹁お前が協力してくれればその犠牲も限りなく少なくすむ﹂
犠牲が必要なのは仕方ないかもしれないが、だからと言ってそれを
当然と割り切るのは間違っている。
そう憤慨するアカネにマダラは優しく語りかける。
﹁オレにはお前が必要だ。共に平和な世界を作り上げ、そして共に生
きようではないか﹂
それはアカネにとって甘美な誘いだ。平和な世界が実現する事は
当然望む所ではあるし、友であるマダラと共に生きる事も否はない。
だがその前に最後の確認が残っている。肝心要の平和な世界を実
﹂
現する方法。それを聞かなければ話は始まらないだろう。
﹁⋮⋮どうやって平和な世界を実現するつもりだ
待っている﹂
?
持っている事もまた知っている。
れはアカネも知っているし、マダラならばそれが可能なほどの実力を
穢土転生で復活した者がその縛りを解く事は不可能ではない。そ
﹁当然だ。まあ、それを証明しろと言われても証明しようがないがな﹂
﹁⋮⋮もう一度聞く。お前は穢土転生で操られてないんだよな
﹂
ぞれに与える。そこには争いもわだかまりもない。完全なる平穏が
﹁全ての人間を幻術の中でコントロールする。誰もが望む世界をそれ
を吐いて行く。
やはりか。そう落胆したアカネを他所にマダラは次々と己の理想
手段の一つだった。
それはアカネが想像した中で全ての人間を殺す手段を除き最悪の
けるのさ﹂
﹁月に己の眼を投影する大幻術、無限月読にて全ての人間に幻術を掛
?
385
?
!
だが、そんな事は関係なくアカネには確信出来る事があった。そし
﹂
て、それを実証する為にアカネはある言葉を言う。
﹁お前⋮⋮何者だ
何を言う。オレはうちはマ││﹂
﹂
﹂
どっかに他の敵が潜んでるかもしれないぜ 柱間だと
こうしてるのはオレ達を欺く演技の可能性もある
﹁なに⋮⋮
だろう
﹁⋮⋮﹂
﹂
⋮⋮どうした、お前はうちはマダラなん
!?
だったら⋮⋮何故この言葉で怒りを顕わにしない
・・
!!
﹁何の目的でここに来た
そして怒りを籠めて残りの言葉を言い切った。
マダラの、いや仮面の男のその反応でアカネは完全に理解した。
アカネの突然の言葉にマダラは辺りを警戒する。
?
!
﹁油断すんな柱間
マダラの言葉を遮ってアカネは更に言葉を続ける。
﹁
!?
!
﹂
?
﹂
それを無駄だったなどと口にするか マダラの想
いを侮辱したな⋮⋮イズナァァァ
ダラが⋮⋮
が、あれだけ弟を、イズナを思って、イズナの為に里を作り上げたマ
﹁貴 様 が ⋮⋮ 貴 様 が 私 達 の 夢 を 無 駄 だ と 言 っ た 時 か ら だ ⋮⋮ マ ダ ラ
﹁⋮⋮いつから気付いていた
﹁上手くマダラを演じたな⋮⋮私も最初は騙されかけたよ﹂
かった男はメッキを剥がす事となった。
当人達だけが知る何らかの暗号か何かか。とにかくそれを知らな
?
!
良くぞ見抜いた 警戒に警戒を
!
!
﹂
重ねていたつもりだったが、まだオレはお前を見くびっていたようだ
﹁ふ、ふふ⋮⋮ふはははははは
ラの体を操っているイズナへと向かう。
駕する膨大なチャクラが物質的な圧力すら伴ってマダラに、いやマダ
アカネの身から怒りと共にチャクラが噴き溢れた。尾獣すらも凌
!!
!
だがそのチャクラの暴威を受けたマダラは、いやイズナはそれを涼
しげに受け止めていた。
うちはイズナ。うちはマダラに残された最後にして最愛の弟。マ
386
!?
!
?
!
ダラが守りたいと願った唯一無二の存在。
それこそがうちはマダラの肉体を操っている張本人であった。最
初に言った穢土転生の術者が大蛇丸というのも大嘘であった。穢土
転生体は術者以外には操る事は無理なのだから当然だ。
何故貴様が今も生き
穢土転生体に幻術を掛ける事は出来るが、それでも意識を乗っ取り
﹂
何故貴様がマダラを操っている
操る事は幻術では出来ない所業である。
﹁イズナ
ている
﹂
!!
ネに劣らぬ程の怒気を顕わにした。
﹂
﹂
仮面をゆっくりと剥がしていき、それを握りつぶしたイズナはアカ
﹁何故オレが兄さんを操っているか⋮⋮だと
せる程のプレッシャーと共にイズナを詰問する。
を知るには当人から聞きだすしかないだろう。アカネは木々を軋ま
だが、アカネもそこに至った理由や原因までは理解出来ない。それ
どイズナ以外には考えられなかったのだ。
生にて蘇らせた上で操る事が出来る。その全ての条件を満たす者な
も前の状況を詳しく知っており、マダラを生前の実力に近しく穢土転
ラの演じ方が完璧だったからだ。その口調に表情の変化、更に何十年
アカネがマダラを操っている存在がイズナだと気付いたのはマダ
!?
?
貴様が、貴様らがそうさせたんだろう
どういう事だ
﹁それを貴様が言うか
﹁なに⋮⋮
!
!
どうしてオレ達の兄弟を殺した千手な
!
﹂
の長になる どうして兄さんはそれを許容した
﹂
貴様と柱間のせいだろう
﹁な⋮⋮
全部⋮⋮全部
!
!
千手一族は五人いたイズナの兄弟の内三人を殺した憎い敵だ。そ
それはイズナがずっと溜め込んできた想いだった。
!
!
んかと手を組まなくてはならない どうして千手柱間なんぞが里
﹁貴様らが兄さんを変えた
そんなアカネに対してイズナは怒りのままに叫び続けた。
かを問う。
イズナの言葉に身に覚えがないアカネはそれがどういう意味なの
!?
387
!
!?
!
れは兄のマダラも同じ想いだった。そのはずだった。
それを変えたのが当の千手一族である千手柱間であり、そして二人
の癒着剤の役目となっていた日向ヒヨリであった。
千手柱間がいなければ。そうであれば忍の世を支配していたのは
兄のマダラだった。
日向ヒヨリがいなければ。そうであれば兄のマダラは千手柱間と
手を取り合うなどなかった。
それがイズナの考えである。
﹁いや、オレだって平和な世界がそれで実現出来るなら我慢もした
だが現実は
!
里が出来て一族の争いがなくなったら次は里と里の争い
兄さんに頼まれれば憎い千手とも手を取り合った
どうだ
!
ふ ざ け る な
?
言うのか
それを容認した兄さんを見続けて生きろと言うのか
﹂
!!
していた。
◆
?
それに、柱間のやり方
今のままじゃオレ達うちはは里に組み
﹁イズナ⋮⋮どうすれば分かってくれる
﹁兄さんこそ分かってくれ
﹂
アカネに思いの丈をぶつけつつ、イズナはかつての記憶を掘り起こ
いても、今のやり方で完全な平和は手に入らないってことがな﹂
でオレは理解した。どれだけの犠牲を払っても、どれだけの我慢を強
﹁第一次忍界大戦。その終わりが全ての始まりだったのさ。あの戦争
いたとは思ってもいなかったのだ。
た。イズナが避けていた事は知っていた。だが、ここまで思い詰めて
ヒヨリであった頃、ヒヨリはイズナと対面した事はほとんどなかっ
そこまでの闇を抱えて生きていたのか。
﹁イズナ⋮⋮お前⋮⋮﹂
!
そんな事で⋮⋮そんな下らない物の為に弟達の無念を諦めろと
?
下らない争いにオレ達うちはは便利な道具として刈り出され
だ
!
そ う し て 得 ら れ る 物 は 何 だ 僅 か な 名 誉 か
る
!
込まれて永遠に道具として使われるだけだ
!
!
388
!
!
では本当の平和なんて手に入りやしない
﹂
第一次忍界大戦が終結した木ノ葉の里。その中のうちは一族の所
有地にて、一族の当主であるうちはマダラとその弟うちはイズナは言
い争っていた。
その原因はイズナが木ノ葉から離反しようとマダラに持ちかけた
事から始まる。イズナは里というシステムでも完全な平和には至れ
ないと今のやり方に見切りをつけたのだ。
﹁今すぐに平和を実現する事なんて出来やしないさ。だが、永遠に続
くと思われていた一族間の争いを失くす事は出来た。オレ達は少し
ずつだが前に進んでいるんだイズナ﹂
だがマダラはそれは早計だとイズナを諭した。確かに戦争は未だ
になくならないが、一度に全ての争いを無くすことなど出来はしな
い。それを成す為には少しずつ目標に向かって歩み続けるしかない
のだ。
例え自分達の代でそれを成せなかったとしても、その想いを引き継
いでくれた次代の者が、それで無理でもその更に次代の者が世界を少
しずつ良くしてくれる。そうすればいつかは平和な世界に行きつく
はずだと。今焦る必要はないのだと。
だがそんなマダラの言葉はイズナには届かなかった。マダラ程に
千手に対して寛容になれていないイズナにとって、家族や仲間を殺し
た連中と歩みを共にする事は非常に苦痛だったのだ。
それでも平和が訪れるならばまだ我慢も出来たが、実際には戦争は
未だになくなっていない。先の大戦は木ノ葉の三忍による圧倒的な
力により一応の終結を迎えたが、力で迎えた終結などいつ崩壊するか
分かったものではない。
そう考えていたイズナはそれでもすぐに発起したわけではなかっ
た。例えうちは一族が木ノ葉から離反したところでその結果は見え
ていたからだ。
木ノ葉が誇る三大戦力である千手・うちは・日向。その力はほぼ拮
抗している。うちはのみが離反したところでその結果は想像に難く
ないだろう。
389
!
だが今のイズナはそれを覆す手段を手に入れていた。正確には、そ
の手段に至れる方法を知ったというべきか。
どういうことだイズナ
﹂
﹁兄さん、オレと眼を交換してくれ﹂
﹁なに
﹂
﹂
視力が落ちる事のない永遠の万華鏡写輪眼を手に入れ
る事が出来るんだ
どうしてそんな事をお前が知っているんだ
!?
なくなる
﹁だけど万華鏡写輪眼を開眼した者同士が瞳を交換するとその反動が
も大きく使う度に全身が痛むのだ。
使えば使うほどに視力を徐々に失っていき、更に肉体に掛かる負担
かった。
イズナの言う通り、万華鏡写輪眼は強力だがデメリットもまた大き
力な瞳術だけどその分反動が大きい﹂
﹁オレ達は互いに万華鏡写輪眼に目覚めている⋮⋮でも、万華鏡は強
か。
理由を問いかける。そんな事をして何の意味があるというのだろう
突如として眼を交換してくれなどと言い出したイズナにマダラは
?
る事が真実であり、そしてうちは一族に伝わる石碑に書かれていた事
そう、その偶然をイズナは天恵と受け取ったのだ。これに書いてあ
ちてきたんだ。オレにはそれが天命に思えたよ﹂
﹁オレだって驚いたよ。蔵の整理をしている時に棚の上からこれが落
⋮⋮﹂
﹁確 か に ⋮⋮ そ う 書 い て い る な ⋮⋮ だ が、こ ん な 書 物 が あ っ た と は
す。それをマダラはじっくりと読み進めて行く。
そう言ってイズナは懐に収めていた古びた書物をマダラへと手渡
よ﹂
﹁うちはに伝わる古文書を紐解いていた時に見つけたのさ⋮⋮これだ
ラには解せなかった。
か否かはともかく、何故それをイズナが知っているのか。それがマダ
それはうちは当主であるマダラも知り得なかった事である。真実
﹁なんだと
!
!
!?
をイズナなりに解釈すれば⋮⋮。
390
?
賭けにはなるが、上手く行けば真の平和を得る事が出来る。例えど
﹂
れほど可能性が低くとも、それだけでイズナには全てを賭ける事が出
来た。
﹁⋮⋮永遠の万華鏡を手に入れてどうするつもりなんだイズナ
﹂
﹁千手柱間に勝負を挑む﹂
﹁なに
千手柱間に勝負を挑む。それはまさに自殺行為と言えた。
の全てを受け入れるよ﹂
﹁頼むよ兄さん。これでオレが柱間に負けたら、その時は今の木ノ葉
は。
だからだろう。次のイズナの言葉にマダラが肯定してしまったの
には到底思えなかった。
の万華鏡写輪眼を手に入れた所でイズナが柱間に勝てるとはマダラ
だが柱間はその数える程の中に加わっている忍なのだ。例え永遠
しているイズナに勝てる忍など数える程だ。
いや、イズナは強い。マダラと共に研鑚を積み万華鏡写輪眼を開眼
?
ありがとう兄さん
﹂
﹁⋮⋮分かった。ただし、戦うのは柱間一人だ。他の忍や里を巻き込
む事は許さん﹂
﹁ああ、もちろんだ
!!
貴様らがいなければ兄さんはオレの
!
﹂
!
る。
まるで子どもの癇癪の様な叫びを聴いてアカネは苛立ちを募らせ
いのは貴様らのせいだ
意見に賛同してくれたんだ⋮⋮オレが兄さんを操らなくてはならな
うして兄さんを操っている
﹁オレは貴様らの作った偽りの平和ではなく、真の平和を作る為にこ
◆
それが⋮⋮悲劇の始まりとなった。
た。
そうして二人は互いの両眼を交換し、共に永遠の万華鏡を手に入れ
!
391
?
﹁ふざけるな
マダラがお前の野望に反対した事は間違いな
どうしてお前がマダラを操っているか、その経緯は
分からん⋮⋮だが
だというのに、マダラを操ることで無理矢理協力させ
﹂
何度も言わせるな⋮⋮貴様らさえいなけ
ている奴が⋮⋮どの口でほざく
﹂
﹁それはこちらの台詞だ
れば良かったのだ
!
﹂
﹂
いという事を見抜いた。
イズナのその言葉からアカネはイズナがまともに戦うつもりがな
﹁⋮⋮何を狙っている﹂
に分があるだろうな﹂
﹁ふ、確かにお前の言う通り、今の兄さんの体でまともに戦ってもお前
だがイズナはアカネの台詞を聞いて不敵に笑った。
ネに勝てるわけもない。
が、実力としては生前の一割から二割は落ちるだろう。それではアカ
無限のチャクラを有しており、朽ちる事のない肉体を持っている
だ。
界最強の一角ともなると穢土転生では再現出来る力に限界があるの
いや、並の忍ならばそれも可能だろう。だがうちはマダラという世
に同じ力で蘇らせる事が出来るわけではなかった。
アカネの言う通り、穢土転生は死者を蘇らせるがそれは生前と完全
か
転生で不完全な力となっているマダラで私を倒せると思っているの
﹁やってみるがいい。だが、いかにマダラを操っているとはいえ、穢土
が
いならば貴様は計画の最大の障害だ⋮⋮ここでくたばれ死に損ない
貴様が協力すると言うのならば全てを許すつもりだったが、そうでな
﹁兄さんを操っているオレには世界を平和に導く使命と義務がある。
のだ。
のせいと決め付けているイズナにアカネの言葉は届きはしなかった
話は完全に平行線であった。全ての原因を千手柱間と日向ヒヨリ
!
!
いんだろう
!
!
!
ならばどうやってアカネと戦うつもりなのか。口で説明するより
392
!
?
﹂
もその身で理解させてやる。そう言わんばかりにイズナはマダラを
⋮⋮こうするのさ
操ってその力を開放した。
﹁何を狙っているかって
!!
﹂
﹁き、貴様⋮⋮
﹂
事に木ノ葉を守り切るとはな﹂
﹁流石は日向ヒヨリ。この一撃を受けて傷一つ負わないばかりか、見
葉を送った。
地形を変える一撃を見事に捌き切ったアカネにイズナは賞賛の言
まま天を貫いて消えて行った。
く。須佐能乎の力は木ノ葉から空に向かって方向を修整されてその
天から振り下ろされた須佐能乎の剣をアカネは廻天にて逸らし弾
﹁っ
それを⋮⋮イズナは木ノ葉の里に向かって振り下ろした。
書き変えなければならない程の影響を与える力の権化。
その力は天を裂き地を砕き山を断つ。地形を大きく変えて地図を
眼したもののみが使用可能となる須佐能乎の、言葉通り完成体だ。
完成体須佐能乎。かつてのマダラの最強の力。両目の万華鏡を開
?
﹂
!?
ならない。これがまともな戦闘ならば避ければ済むものを、木ノ葉を
それを防ぐ為に、アカネは身を挺して須佐能乎の力を受けなければ
え切れないものとなるのは間違いない。
たったの一撃で里を半壊させるだろう。その時に生まれる犠牲は数
須佐能乎の力は数km離れていようが確実に木ノ葉に届き、そして
人質にしたのである。
アカネが大切にしている友と作り上げた掛け替えのない木ノ葉を
もに戦わずに封じる最高にして最悪の戦術。
そう、それがイズナの作戦。厄介なアカネを足止めし、そしてまと
だが⋮⋮木ノ葉を守りながらいつまで耐えられるかな
﹁気付いたか。そう、確かに貴様は強い。その力は忍界最高だろうさ。
していた。
はない。それどころかイズナの最悪の戦術を理解して怒りを顕わに
イズナからの賞賛の言葉を聞いてもアカネは少したりとも嬉しく
!
393
!?
守る為に常に庇い続けなければならない。
そんなアカネに対してイズナはただ全力で木ノ葉に向かって須佐
貴様が兄さんを語るな
貴様が
お前は、お前はマダラの想いを砕
能乎の力を振り下ろせばいい。この状況でどちらが有利かなど言う
﹂
分かっているのか
までもないだろう。
﹁イズナ
こうとしているんだぞ
﹁何度も⋮⋮何度も言わせるな
﹂
⋮⋮ 貴 様 が い な け れ ば こ う す る 必 要 も な か っ た ん だ よ 日 向 ヒ ヨ
リィィィ
イズナは咆哮と共に須佐能乎の剣を木ノ葉に向けて幾度となく振
るう。
その全てをアカネは廻天にて受け流し、逸らし、木ノ葉に、そして
いつまで持つかな
﹂
出来るだけ周囲に影響のないように空に向けて力の方向を変えて行
そらそら
!
く。
﹂
﹁はっははははは
﹁く、うう
!
の体力が尽きようと、術者が死のうと穢土転生は止まらない。持久戦
カネと比べてどちらの消耗が早いかなど言うまでもない。そも、術者
いないのだ。強いて言うなら術者の体力はいずれ尽きるだろうが、ア
持久戦に置いて穢土転生に勝てる者はこの世のどこにも存在して
はない。
る為限界はあるが、どれだけ術を放とうともそのチャクラが尽きる事
転生体のチャクラはまさに無限。出力そのものは生前を元としてい
対してイズナの操るマダラの肉体は穢土転生で作られた物。穢土
なるとその消耗は当然激しい物となる。
は尽きる。しかもマダラの完成体須佐能乎を受け止める程の廻天と
ろうと一週間だろうと戦い続けるチャクラを有していようと、いずれ
だが人である限りどんな事にも限界という物が存在する。三日だ
て磨き上げた技術は並ぶ者がいない。
アカネのチャクラは膨大であり、そのスタミナも同様であり、そし
!
でアカネに勝ち目等有りはしないのだ。
394
!
!
!
!?
!
!!
!
貴様が勝つのは簡単だぞ 木ノ葉を見捨
!
それだけで貴様はその力を十全に振るう事が出来る
﹁どうした日向ヒヨリ
てればいい
のだからな
!?
﹂
﹂
﹂
持っているからこそ自らそれに枷を嵌めている
﹂
!
!
ている時点で貴様の勝ちはなくなったんだよ
﹂
﹁はあっ
﹁ぬ
!
木ノ葉を背にし
﹁愚 か な 奴 だ 誰 よ り も 強 い 力 を 持 ち な が ら、無 駄 に 優 し い 心 を
からこそ、勝ち誇ってそれを嘲り笑っているのだ。
そんな事がアカネに出来る訳がない。イズナはそう理解している
﹁く⋮⋮っ
! !!
!
た。
﹁ぐぅ
﹂
イズナがそれを理解していながらアカネの狙いを許すわけがなかっ
そうすれば木ノ葉を気にせずに攻撃に集中する事が出来る。だが、
置までマダラの肉体を移動させようとしているのだ。
狙いを理解していた。アカネは須佐能乎の力が木ノ葉に及ばない位
そう言いつつもイズナは攻撃の手を緩めない。イズナはアカネの
乎の攻撃を受けつつここまでの反撃に転じる事が出来るとはな﹂
﹁⋮⋮心底、貴様に守るべき物がある事を安堵するぞ。完成体須佐能
メートルも後方に吹き飛ばされた。その事実にイズナは驚嘆する。
だが、防ぎはしたがマダラの肉体は八卦空掌の威力に押されて数十
のだ。
能乎は最高の攻撃力を誇ると同時に最高の防御力も兼ね備えている
その一撃はマダラを覆う須佐能乎によって防がれてしまう。須佐
つつ、その猛撃の合間を縫って八卦空掌にて反撃をする。
アカネはイズナの嘲笑を無視して廻天にて須佐能乎の力を逸らし
!
かの力がアカネを襲ったのだ。
流石のアカネも初見にてそれに対応することは出来なかったよう
だ。だが、知識として知っていた為にそれが何であるのかは理解し
395
!?
突如として謎の力にて吹き飛ばされるアカネ。目に見えない何ら
!?
た。
﹂
八 卦 空 掌 に よ り 吹 き 飛 ば さ れ た 距 離 を 一 気 に 詰 め て 元 の 位 置 に
戻ったイズナにアカネは問い掛ける。
﹁馬鹿な⋮⋮何故お前に、マダラの両目に輪廻眼がある
何時の間にか両眼を輪廻眼に変化させているマダラを見てアカネ
は叫ぶ。そう、その力は自来也を圧倒した敵ペイン六道。その中の一
体ペイン天道が使用する斥力の力であった。
﹂
ペイン六道以外にも輪廻眼を、しかもマダラがそれを有している事
はアカネにも予想外の事態だ。
﹁答える必要はない⋮⋮。それよりも、これを防ぐ事が出来るかな
だが、そんなアカネに対してイズナは嘲り笑うように口を開き、そ
かな間という物が存在する。それを狙わないアカネではない。
イズナの術を警戒するアカネだが、印を組んで術を発動するには僅
出来なかった。
伝忍術か血継限界の類いなのだろう。それならばアカネにも予測は
言った干支の名を冠した十二の基本印とは全く違う印だ。恐らく秘
だがイズナが組んでいる印は見た事もない印だった。子・丑・寅と
ので大抵は予測出来る。
い印だろうと忍術の印は概ね性質に合わせて組まれ方に法則がある
術の発動前にそれが何であるかを理解する事が出来る。例え知らな
この世界で長く生きるアカネは多くの印を知っており、印を見れば
のか予測出来ない。
が組んだ印を知らないアカネはイズナがこれから使用する術が何な
そう言ってイズナは印を組む。何をしようとしているのか、イズナ
?
木ノ葉が終わるぞ
そして空を見る。
﹂
そこには常識では考えられない物があった。いや、超常の力を使う
忍という存在に対して常識を問うのもおかしいかもしれないが、そん
な忍であっても常識外れの事態が起こっていたのだ。
396
!?
してアカネはその言葉を聞く前に何が起こったのかを理解した。
﹁いいのか
?
イズナがその言葉を言い終わる前にアカネは木ノ葉へと振り向き、
?
それは⋮⋮木ノ葉の里の遥か頭上。天高くから堕ちる巨大な隕石
という有り得ない現象があったのだ。
﹂
人の、個人の力で隕石を落とす。それを成す者を本当に人と呼んで
いいのだろうか。
﹁さあ、防いでみせろ
言われるまでもない。アカネは両手を勢い良く合わせ、そして周囲
の自然エネルギーを吸収する。
仙人モード。そう呼ばれる状態に至るのに要した時間は一秒未満。
両目の周囲に僅かに隈取りが浮かぶくらいの変化という完璧な仙人
││
モードに至ったアカネはその力を隕石に向けて放つ。
││仙法・螺旋風塵玉
││
﹂
?
問題は⋮⋮そのタイミングで放たれた須佐能乎の威力を木ノ葉へ
アカネにはない。
れば木ノ葉へとその力が届いてしまう。初めから防ぐ以外の方法は
その一撃を避ける事はアカネには出来なかった。いや、元より避け
た。
放つ前からイズナはアカネに向けて須佐能乎の剣を振り下ろしてい
その言葉を言い終わる前から、いや正確にはアカネが八卦水壁掌を
﹁良くやった。だが、隙だらけだぞ
さに伝説の三忍の名に偽りなし。だが││
ら彼方へと吹き飛んでいく。瞬く間に放たれた二つの極大仙術。ま
膨大な水の壁が高速で放たれた事で二つ目の隕石は砕け散りなが
の隕石へと放たれた。
な破壊力を手に入れた八卦水壁掌だ。それは天から降り注ぐ二つ目
・・・
八卦空壁掌に水遁を加える事で水の重さと高圧水流を得て圧倒的
││仙法・八卦水壁掌
るにも関わらずアカネは新たな術を即座に発動した。
石は術名の通り粉微塵となり風に乗って散っていく。だが、そうであ
アカネはそれを巨大隕石へと撃ち放つ。螺旋風塵玉が命中した隕
に籠められた風の刃があらゆる物を切り刻み微塵と化すのだ。
螺旋丸に風遁の性質変化を加えた術・螺旋風塵玉。強大な螺旋の渦
!
!
397
!
と届かせない為の廻天を発動する間がアカネにはなかった事だった。
アカネに出来たのはせめてその身で少しでも威力を減らすべくその
一撃を受ける事だけだ。
イズナの凶刃が、アカネに振るわれた。
398
NARUTO 第二十一話
木ノ葉の里は忍界にある忍の隠れ里の中でも最大と言っても良い
強国である。
多くの優秀な秘伝忍術を使える忍を有しており、血継限界も強力な
瞳術である写輪眼のうちは一族と白眼の日向一族を有している。
忍里の中では比較的穏やかな風潮もあり、更に肥沃で広大な土地を
持っている為に忍の数そのものも他里と比べて多いのも強国の理由
だろう。
質と数。二つの力を共に有しているからこその強国だ。
だが、その強国であるはずの木ノ葉の里が現在蜂の巣をつついたか
の様な騒ぎとなっていた。
その原因は何かと問われれば誰もがこう言うだろう。﹁化け物が現
れた﹂と。
化け物。それは二つの存在を指す言葉だった。
一つは日向アカネ。怒りと共に発したチャクラは大瀑布の如くに
木ノ葉へと一瞬で届いていた。
それを感じ取れなかった忍は一人としていない。下忍はおろか、ア
カデミーの忍候補生も当然の如く、そればかりかチャクラをまともに
感じ取る事が一生ないだろう一般人にすら感じ取れた程だ。
この時点で木ノ葉の忍は何かとんでもない事が起こっていると漠
然と理解し、アカネのチャクラを良く知る者達はそれ以上に恐ろしい
何かが起こっているのだと恐怖した。アカネが全力を出す事態など
易々と想像は出来ないのだから当然だ。
そしてもう一つの化け物。
それが突如として森の中から現れたチャクラの巨人、うちはマダラ
の完成体須佐能乎である。
数kmは離れている為に流石に須佐能乎の姿は小さく映る程度だ
が、逆に言えば数kmは離れているというのにその大きさで見えると
いう事だ。
多くの忍や民は塀で囲まれている為に巨人を見る事はなかったが、
399
それでも少なくない数の忍は高所からそれを見つけて驚愕していた。
しかもその巨人が巨大な剣を里に向けて振るっているのだ。その
一撃は強大な衝撃波となって上空を通過していく。その際に雲は散
り散りとなって消し飛んでいた。
その威力は塀の中からも見えていた。雲を消し飛ばす程の威力を
持つ何かが里に向けられている。それを理解して恐慌しない者は殆
どいないだろう。
特に一般人である里の住民は怯え竦んでいた。多くの忍が彼らの
避難誘導を率先した事でパニックによる被害は少なく済んだが、それ
だけでも大騒ぎと言えた。
こ の 巨 人 に 関 し て は ア カ ネ を 知 る 者 達 も 多 く が 知 ら な い 存 在 で
イタチ
﹂
あったが、それを理解する者も少ないがいた。
﹁これは⋮⋮
﹁須佐能乎なのか⋮⋮
・・
だが、オレの須佐能乎とは⋮⋮﹂
あれはオレの知るそれであっているのか、と。
タチへと確認する。
マダラの完成体須佐能乎を見たうちはフガクは隣にいる息子のイ
!
﹂
!?
うちはマダラは当に死んでいる
そんなはずは│
!
﹁だが、アカネ様から聞かされていたうちはマダラの情報と符号しま
事となる。
そんなはずはない。その言葉は次のイタチの言葉により飲み込む
│﹂
﹁馬鹿な⋮⋮
それを聞いたフガクはイタチの言葉を一度は否定した。
測する。
イタチはその鋭い分析力であの須佐能乎がマダラの力であると推
﹁まさかあれはうちはマダラの⋮⋮
がす。まさに化け物の総称が相応しいだろう。
うだけで天を切り裂き、雲をかき消し、当たってもいない大地を揺る
だがイタチの目に映る完成体須佐能乎はまさに桁が違った。振る
華鏡写輪眼の開眼者だ。
桁が違う。イタチも須佐能乎に目覚めている史上でも数少ない万
!?
400
!
!
す。それに穢土転生という例もあり、更にはアカネ様という例もまた
⋮⋮﹂
﹁⋮⋮確かに。忍の世に想像を超える出来事など多いという事か﹂
そう、死者が蘇るという一例を既に二人は二回も見ているのだ。
初代火影と二代目火影の穢土転生に、転生を果たして今も生きる日
向アカネ。それを思えばうちはマダラが復活したとあっても不思議
ではなかった。
お前はすぐに火影様にこ
﹂
シスイがいるとは思うが不在の可能性もある
﹁ともかくこうしてはおられん。イタチ
の情報を伝えよ
﹂
オレは警務部隊を動かして里の住民を避難させる
﹁はっ
!
!
だった。
︵やはりうちはマダラ⋮⋮復活したというのか
﹁ダンゾウ様、如何いたしましょう﹂
︶
の チ ャ ク ラ の 塊。こ の 質 は 遥 か 以 前 に も 感 じ た 事 の あ る チ ャ ク ラ
強大なアカネのチャクラと、そしてもう一つ感じた別の恐ろしい程
いった。
暗 部 の 説 明 を 聞 い た ダ ン ゾ ウ は こ の チ ャ ク ラ の 持 ち 主 に 得 心 が
音も無く現れた一人の暗部がダンゾウへと地上の騒動を伝える。
﹁ダンゾウ様││﹂
﹁これは⋮⋮﹂
地上の異変に気付いた。
その根の創設者でありリーダーのダンゾウは薄暗い地下にあって
ぬ地の中より支えるという目的で作られた暗部、それが根だ。
同時刻。木ノ葉の地に潜む〝根〟。木ノ葉という大木を目に見え
に表している想像を超えた出来事が二人の目に映っていた。
忍の世に想像を超える出来事など多い。そのフガクの言葉をまさ
事態が起こった。
迅速を尊ぶ二人の行動は早かった。だが、その二人の動きを止める
!
!
﹁放っておけ。アカネ様がどうにかするだろう﹂
?
401
!
そう、うちはマダラを相手に自分達が出来る事はない。ダンゾウは
それを良く理解していた。
下手にアカネの援護などしようものなら無駄に多くの忍を失うだ
けである。
﹁では、地上の混乱は⋮⋮﹂
﹁それも構わん。綱手姫はお飾りではない。既に避難誘導の為の組織
を向かわせているはずだ﹂
その冷静な態度は里の民を想っていない様にも思えるだろう。だ
が││
﹁ワシ等にはワシ等のすべき事がある。ワシの予測が正しければこれ
より暁が攻め込んで来るはず。根の者は暁に備えて里に散開。見つ
け次第交戦し時間を稼ぎ、そして情報を集めよ﹂
﹃はっ﹄
何時の間にか、ダンゾウの周囲には多くの根が傅いていた。
そしてダンゾウの命令に従って小隊を組み、木ノ葉の各地に散ら
ばっていく。
戦って勝てとはダンゾウは命令しなかった。いや、勝つ事が出来れ
ばそれに越した事はないのだが、相手は暁だ。まともに戦って勝てた
ら苦労はしないだろう。
最も大事なのは最終的に勝つ事だ。場当たり的に交戦するのでは
なく、防御に徹して時間を稼ぎ被害を少なくし、敵の能力などの情報
を手に入れて多くの仲間に伝える。
そうすればいずれ敵は丸裸となり対処も容易になるだろう。感情
のままに動くのではなく感情を制御して里の為に貢献する。それが
根の役目なのだ。
﹁さて、そろそろワシも⋮⋮﹂
時代は流れている。既に木ノ葉は磐石だ。
かつてのある事件にて持ち出せなかった覚悟を、今この時に胸に秘
めてダンゾウは地上へと赴いた。
同時刻。火影である綱手と共に日々の業務をこなしているうちは
402
﹂
シスイもイタチと同じく須佐能乎の正体とその術者を見抜いていた。
﹁間違いないのかシスイ
﹁綱手様
﹂
﹁分かっている
﹂
で良い訳がない まずは里の民の避難だ
に動いてくれていると思うがそれでは手が足りん
﹂
へと民を誘導する訓練を積んだ忍の小隊を組織していたのだ。
被害を減らす事に注力するのは当然の事だ。その為に里の避難場所
一度受けた痛みだ。次に同じ事があればそれを失くす、少なくとも
惑う住民が起こしたパニックによる被害が大きかった。
三年前の木ノ葉崩しは忍による被害こそ少なかったがその実逃げ
練を積んでいた小隊をすぐに向かわせろ
緊急避難の訓
恐らくフガクなら既
今はばあ様が守ってくれているがいつまでもそれ
ろしさを理解出来ないヒザシではない。
だが、あのアカネと同等の力を持つ伝説の三忍が敵に回る。その恐
は理解出来ていた。先程のチャクラはその為だったのだろう。
まだ里が無事なのはアカネが守ってくれているからだとヒザシに
限りマダラはその力を木ノ葉へと向けている。
何が原因かは分からないが、うちはマダラが復活した。しかも見た
ヒザシもシスイの言葉に驚愕する。
シスイと同じく火影の警護と業務の手助けを任務としていた日向
﹁うちはマダラが蘇ったと言うのか⋮⋮
能乎を統合して考えるとその答えに行きついたのだ。
そしてその情報とシスイ自身の須佐能乎、そしてあの凄まじい須佐
ある。
して最強のうちはの称号を持つマダラについて語ってもらった事が
うちは一族でアカネの正体を知る四人は、アカネに自分達の先祖に
ダラの完成体須佐能乎、恐らくはその使い手もまたマダラかと⋮⋮﹂
﹁恐らくは⋮⋮。あれは以前にアカネ様からお話して頂いたうちはマ
!?
﹂
﹁次に各一族の長に木ノ葉襲撃に備えるよう通達しろ。この騒動、マ
﹂
ダラだけでは終わらんぞ
﹁⋮⋮まさか
!?
!
403
!
!
!
!
!
!
!
﹁暁
﹂
綱手の言葉を二人はすぐに理解した。この騒動に合わせて暁が攻
今は僅かな時間も⋮⋮こ、これは﹂
めて来る。綱手がそう言っているのだと。
﹁急ぐぞ
﹁ば、馬鹿な⋮⋮﹂
?
﹁シスイ
﹂
﹂
!
私よりも少しでも里の民を
綱手様こちらに
お前ら何をする
﹁分かっている
﹁っ
﹂
!
見て、一瞬ではあるが呆然とした所でそれを咎める事が出来ようか。
天を覆い隠すよう大岩。そんな物が頭上から落ちて来ているのを
ように呆然としていただろう。
呆然とする三人。いや、この時木ノ葉の殆どの忍がそれを見て同じ
﹁これが⋮⋮人の業だと言うのか
﹂
を見て驚愕するしか出来ないでいた。
空を見上げて呆然とする綱手と同じく、シスイとヒザシもまたそれ
一言を発する事が出来なかった。
僅かな時間も惜しい。そう言おうとした綱手は空を見上げてその
!
!
あんな岩程度私が砕いてやる
だか
!
ザシの任務なのだ。
﹁止めろヒザシ 死ぬぞ
﹂
!
が、生き残る者もまた多いはず
その時あなたは必要なのです
﹂
!
!
大岩を砕くという綱手の言葉だが、綱手の怪力を知るヒザシでもそ
!
﹁これで里の全てが終わるわけではありませぬ 多くの犠牲は出る
らお前が須佐能乎の中に
!!
ザシ。命を懸けて火影を守る。それこそが火影の左腕に選ばれたヒ
僅かでも威力を軽減するべく須佐能乎の前にて廻天を展開するヒ
駕しているのは明白。だからヒザシは須佐能乎の中に入らなかった。
だが、頭上から落ちる圧倒的な質量は並大抵という言葉を遥かに凌
でそれで綱手を守るつもりなのだろう。
須佐能乎の防御力は並大抵の攻撃では超える事は出来ない。なの
する綱手を羽交い絞めにしてでもだ。
シスイは綱手を自らの須佐能乎の中に閉じ込める。外へ出ようと
!
!
!!
404
!?
!
れが自分を生き残らせる為の嘘だと気付いていた。だが、あの大岩に
向かおうとしている事が嘘ではないのも気付いていた。
里の為に、部下の為に命を懸けて大岩を砕こうとする。そんな綱手
だからこそ火影に相応しく、今後の木ノ葉に必要な人物なのだ。そん
な火影だからこそ命を懸けるのに相応しい。
︵すまないネジ⋮⋮生きていてくれよ︶
一人残す事になる息子を想い、そして全力で大岩に備えるヒザシ。
﹂
﹂
﹂
だが、ヒザシの覚悟はどうやらここが発揮する場ではなかったよう
だ。
﹁こ、これは
﹁なんと⋮⋮
﹁⋮⋮ば、ばあ様か
木ノ葉へと降り注がれようとしていた絶望は瞬きの間に消滅した
の だ。正 確 に は 粉 微 塵 と な り 砂 と な っ て 風 に 乗 っ て 彼 方 へ と 消 え
去ったのだ。
それがアカネの仕業であると理解し、次に新たに落ちる二つ目の大
岩に驚愕し、またそれが膨大な水流で砕けながら彼方へと消えるのを
見る。
﹃⋮⋮﹄
﹂
怒涛の展開に三人は言葉もなかった。だが、そうして呆けている事
少しぐらいゆっくりさせてくれてもいいものを
を許してくれるほど暁は優しくはなかった。
﹁⋮⋮ちっ
!
た暁の一員を。
◆
﹁⋮⋮なるほど、分かりやすい合図だ﹂
空から落ちる巨大な岩を見て、ペインはそう呟く。
合図。それはマダラ││実際はイズナ││がペインへと教えてい
た作戦開始の合図だ。
405
!
! !?
空を見上げていた綱手はそれに気付いた。そう、天から侵入して来
!
離れた位置から木ノ葉を眺めていればすぐに気付くと言われて待
機していたが、なるほど確かにすぐに気付ける合図の様だ。
﹂
﹁そうね。でも、これでは私たちが出るまでもなく木ノ葉は終わりで
は
ペインにそう訪ねたのは小南だ。作戦も何も、天から落ちる絶望を
見れば木ノ葉の未来は容易く想像が出来ていた。
そして内心でうちはマダラの力を小南は恐れる。完全に信用して
いたわけではないが、ここまで予想を超えた力を持っているとは流石
に思ってもいなかったようだ。
﹁ペイン⋮⋮﹂
﹁ああ、オレも奴を信用はしていない。だが、奴の協力がなければここ
までこれなかったのも事実だ﹂
そう、ペイン││長門が世界平和という目的の為にここまで強大な
組織を作り尾獣を集める事が出来たのもマダラの協力あっての物だ。
あの時、二人の友にして仲間にして、そして最高の家族であった弥
彦が死んだ時、マダラがいなければそれから先に何を成せていたか。
恐らく感情のままに暴れて程なくして力尽きていただろう。マダ
ラが道を示してくれたからこそ今の暁が、今のペインがあった。
﹁もうすぐだ。もうすぐ世界は痛みを知る。そうなれば争いはなくな
り世界は平和になる。その時にマダラが世界の悪になるというのな
ら⋮⋮オレが殺す﹂
﹁⋮⋮分かったわ﹂
ペインが、最後に残された最愛の家族である長門がそう言うのなら
と小南は納得する。
﹁さて、オレ達の出番が来たようだな﹂
﹁そうね⋮⋮日向ヒヨリ、まさかここまでの存在だとは⋮⋮奴も危険
過ぎるわ﹂
天から落ちる絶望を吹き飛ばしたアカネの手腕に小南はマダラと
同じ脅威を覚える。
人外の者と思わざるを得ない化け物二体。果たして無敵のペイン
であっても勝てるかどうか。ペインではなく長門の弱点を知ってい
406
?
・・
る小南としてはそれが不安であった。
﹁では行って来る。お前はオレの本体を頼む﹂
﹁気をつけて。木ノ葉は強いわ﹂
﹁分かっている。だからこその暁の総力戦だ﹂
そう言ってペインは六道の内、口寄せ能力を持つ畜生道を地獄道に
よって木ノ葉に向けて投げ飛ばす。
易々と里を囲む壁を飛び越え、木ノ葉の里を覆う感知結界を突き
破って畜生道は里の内部へと侵入し、そして口寄せの術を使用した。
本気で殺しまくりますからよォォ
﹂
﹁やっとかよ待ちくたびれたぜ ジャシン様見てて下さいよォォォ
オレめっちゃ殺すから
!
!
﹂
?
い。せいぜい二人一組が限界だろう。
ツー マ ン セ ル
集まりなのだ。連携して動けと言われてそれが出来れば苦労はしな
だが暁の運用法としてはこれで合っていた。元々我が強い連中の
える事だけ。
作戦だ。唯一守るべきは九尾の人柱力であるナルトを殺さずに捕ら
各個に分かれて好き放題に暴れる。それが暁の作戦とも言えない
その言葉に従い、暁は木ノ葉を滅ぼすべく動き出した。
﹁思う存分暴れろ﹂
そしてリーダーであるペイン天道が集合した暁全員に命令を下す。
ン六道だ。
畜生道の口寄せにて現れたのはゼツ・小南・マダラを除く暁とペイ
まりがなくて実に暁らしいですよ﹂
﹁やれやれ。これだけの面子が揃っての任務は暁初ですからねぇ。纏
﹁木ノ葉崩し再び⋮⋮次は防げるかしらねぇ﹂
らん芸術を見せるんだな。前回は不発だったんだろう
﹁やられるのがオチだ。それよりも、木ノ葉の連中にお前の良く分か
かったのによ、うん﹂
﹁ち、気 に く わ ね ー な。オ イ ラ の 芸 術 を あ の 女 に 魅 せ つ け て や り た
ら心置きなく暴れられる﹂
﹁⋮⋮どうやら日向ヒヨリの足止めは成功しているようだな。これな
!
そして、暁はそれで何も問題はなかった。我が強いだけの忍が集め
407
!
られた組織ではない。忍界屈指の使い手が集められた組織が暁なの
だから。
木ノ葉の里に戦火が舞った。
◆
迫り来るイズナの凶刃を背後に感じながら、アカネに出来た事は耐
える為にチャクラを活性化させる事だけだった。
耐える自信はあった。仙人モードとなって身体能力が圧倒的に向
上しているアカネの防御力は桁違いだ。だが、ダメージは確実に負う
だろうし、何より須佐能乎の威力を殺し切る事が出来ないだろう。
そうなれば木ノ葉は甚大な被害を被ってしまう。だがアカネには
どうする事も出来ない。そういうタイミングでイズナは攻撃を放っ
たのだ。そうすればアカネがより苦しむだろうと理解して。
が苦しいと言うのか。
その答えはイズナ本人が教えてくれた。
408
だが、アカネが想像する地獄の様な光景も、イズナが想像する愉悦
極まる光景も、いつまで経っても来る事はなかった。
アカネは痛みも衝撃も来ない事を疑問に思うもすぐに体勢を立て
直してイズナへと向き直る。するとそこにはアカネに当たる直前で
止められている須佐能乎の剣があった。
﹁⋮⋮なぜ振り下ろさなかった﹂
確実に当てる機会だったはずだ。自慢になるが、自分にまともに攻
撃を命中させる機会など滅多にある物ではないとアカネは自覚して
いる。
疑問に思うアカネ
外道な手段を使ってまで手に入れたその機会をイズナが潰すとは
アカネには思えなかった。一体何のつもりだ
た。
何故
何故穢土転生の肉体で苦しそうに呻いているのか。腕が
はイズナの、いやマダラの苦しそうに歪む顔を見て更に怪訝に思っ
?
もがれようが首が千切れようが気にせずに戦える不死身の肉体で、何
?
ま、まさか
﹂
﹁ば、馬鹿な⋮⋮まだ、意識が⋮⋮
﹁意識が⋮⋮
!?
﹂
!?
﹁何でだ
﹁マダラ
﹂
何で邪魔をするんだ⋮⋮
マダラなのか
兄さん
﹂
!!
う、マダラ本人の言葉が紡がれた。
!
は心底嬉しかった。
自分の為にそこまでの力を発揮してくれている。それがアカネに
力を籠めて耐えているのだろう。
抗っていた。振り下ろし掛けている剣は僅かに震えている、それだけ
軽口に聞こえるかもしれないが、今もマダラは必死にイズナの力に
いなかったぞ⋮⋮とんだ再会になってしまったがな﹂
﹁ふ、久しいなヒヨリ。姿は違えどこうして再び会えるとは思っても
﹁マダラ⋮⋮﹂
と。
とイズナの怒りは更に膨れ上がった。そこまでこの女が大事なのか
だと言うのにこれだ。アカネを守る為に意識を取り戻したと思う
は保留にしたが、マダラへの縛りは念入りに強固にしていた。
当時は他の尾獣を奪い封印する準備が整っていなかった為に九尾
なかった苦い記憶をイズナは思い出す。
時だ。おかげで九尾という最強のチャクラの化け物を奪う事が出来
最後にマダラが意識を取り戻したのは十六年程前、九尾復活事件の
ラの意識を封じ込め続けていた。
だが、その度にイズナはより強固に穢土転生の縛りを強くし、マダ
を取り戻していた。
経っている。その間にもマダラは何度かイズナの縛りを解いて意識
イズナがマダラを穢土転生にて口寄せしてから二十年近い年月が
まだ意識を保っていたとは。完全にイズナは意表を突かれていた。
﹁この、うちはマダラを⋮⋮舐めるなよイズナ
﹂
二人の叫びに応えるかの様に、マダラの口からイズナではない、そ
!
!?
イズナの言葉から考えられる事はアカネには一つしかない。
?
﹁ありがとうマダラ⋮⋮お前のおかげで木ノ葉は無事だ﹂
409
! !?
﹁転生しても相変わらずだな⋮⋮少しは自分の身を心配したらどうだ
﹂
須佐能乎の力を受ける直前でも自分ではなく木ノ葉を心配してい
たアカネを見てマダラは変わっていないなと安堵する。
例え姿が変われどアカネはヒヨリのままだった。それがマダラに
は嬉しかったのだ。かつての友は友のままであったと感じる事が出
来て。
﹂
イズナはオレの意識ではなく肉体の操作のみに
もう、持たんぞ⋮⋮
﹂
穢土転生のお前の全力程度なら幾らでも受
!
﹁く⋮⋮ヒヨリよ
力を注いでいる⋮⋮
分かった⋮⋮
け止めてやる。だから安心しろ
﹁っ
!
!
!
れるのも癪なんだがな
﹂
﹂
﹁だったらかつてより強い姿を見せてみるんだな
強くなっているけどな
﹂
永遠の万華鏡を手に入れて輪廻眼に目覚めたオレの力を侮
﹁ふん
!
!
!
!
あって旧友を確かめあっているのだ。
暁が木ノ葉を襲っているぞヒヨリ
!
﹁む
!
だが里の忍は強い 私たちの子は皆逞しく育っ
﹁分かっている
!
その術を見たアカネは不安が的中した事に舌打ちをする。やはり
を発動する。
アカネのその言葉に対抗するように、マダラを操るイズナはある術
それに私の影分身も里には多く居るから││﹂
てくれているさ
!
﹂
想 像 を 絶 す る 戦 い の 中 と は 思 え な い 会 話 だ。二 人 は 戦 い の 中 で
まだ隠し玉はあるから精々注意するんだな
るなよ
!
まあ、私も大分
﹁お前は全く⋮⋮穢土転生とはいえ、そうも容易くオレの力を止めら
に整っている。その一撃を廻天にて逸らし、空へと受け流していく。
再び振り下ろされた須佐能乎の剣。だがアカネの臨戦態勢は疾う
そのままだが肉体の動きを自由にする事が出来なくなった。
でいた。ギリギリの所でイズナの縛りに耐えていたマダラは意識は
イズナはマダラの全てを操る事を諦め、肉体の操作のみに力を注い
!
!
!
!
410
?
柱間を取り込んでいたのか、と。
﹂
下らない事を言わずに木ノ
﹁その胸のモノはお前の趣味じゃないようだな
・・・・・
﹁誰がこんなモノを好きで埋め込むか
﹂
﹁次はどうする
﹂
がその一撃によって消滅していった。
だが、修行用に作り出された影分身ではそれが限界。全ての影分身
それぞれが廻天にて全ての須佐能乎の力を逸らしていく。
そ れ を 防 ぐ 為 に 里 に 残 っ て い た ア カ ネ の 影 分 身 全 て が 対 応 し た。
能乎を発動して木ノ葉へとその力を振るう。
合計して二十体の木遁分身のマダラが作り出され、その全てが須佐
葉を守れ
!
﹂
!
﹂
け、全ての攻撃を捌き切った。
﹁つくづく規格外だなお前は
﹂
﹂
以前よりも増えてるだろうが
だが、木遁使ってるお前に言われたくない
何だそのチャクラ量は
﹁良く言われる
﹁黙れ
﹂
文句があるなら尾獣も修行す
チャクラの化け物とか言われている尾獣に謝れ
!
﹁私が修行で手に入れたチャクラだ
ればいいだろうが
!
!
﹂
!
て楽しく戦っている場合ではない事も思い出す。
﹁いつまでもこうしていたいがそういう訳にもいかないか⋮⋮
マ
これでマダラが操られてさえいなければ。そう思うアカネ。そし
がら死闘を繰り広げる。だが、そこに殺意は欠片もなかった。
再会するまでの長い時間を埋めるかの様に二人は互いに罵倒しな
いがみ合っている様に見えて、その実二人は笑いあっていた。
﹁修行する尾獣とか笑えないんだよ
!
その仙術・影分身達は一瞬でそれぞれ木遁分身のマダラへと駆けつ
籠めた影分身を二十体作り出した。
アカネはマダラ本体の一撃を捌きながらも一瞬で仙術チャクラを
﹁問題ない
たれようとしている。
マダラのその叫びが示す通り、新たな一撃が全ての木遁分身から放
!?
!
411
!!
!
!
!
!
!
!
ダラ
一体何が有ったんだ
白だ。
﹂
とは思えない。何か理由があり、それにイズナが関わっているのは明
少なくとも今のマダラを見てアカネはマダラが木ノ葉を裏切った
を裏切り柱間に戦いを挑んだのか。
生きているのか。何故輪廻眼に目覚めているのか。何故⋮⋮木ノ葉
何故穢土転生してイズナに操られているのか。何故イズナは今も
須佐能乎の横薙ぎの一撃を下から蹴り上げて弾き、アカネは問う。
!?
﹂
﹁⋮⋮オレはイズナに頼まれて互いの両眼を交換した。それが全ての
﹂
どういう事だ
始まりだった⋮⋮
﹁眼を
!
﹂
﹂
!
には理解出来なかった。
イズナが、そうだ
﹂
!
﹁それだけではない⋮⋮
に目覚める事があるのだ⋮⋮
!
永遠の万華鏡を開眼した者は新たな瞳術
だが、どうしてそれが全ての原因となるのだろうか。それがアカネ
力は確実に高まる結果となっただろう。
その代償が無くなるというのは喜ばしい事だ。マダラとイズナの
える様に頼み、マダラもそれに応えて別の力を手に入れていた。
アカネもそれを心配してマダラには出来るだけ万華鏡の使用を控
て視力は徐々に低下していく。最後には光を失ってしまうだろう。
だが、その代償は重い。使えば使うほどに肉体は反動で痛み、そし
化を手に入れる事が出来る。
開眼者固有の瞳術に目覚め、極めると須佐能乎という恐ろしい力の権
そ れ は 確 か に 凄 ま じ い 情 報 だ。万 華 鏡 写 輪 眼 は 強 大 な 力 を 誇 る。
﹁なっ
への負担が無くなる永遠の万華鏡写輪眼に目覚めるのだ
﹁万華鏡に目覚めた者同士が互いの眼を交換すると視力の低下と肉体
を交換しなければ気付かなかった事実だ。
当主のマダラ自身イズナが手渡した古文書がなければ、イズナと目
アカネとてうちは一族の全てを知っている訳ではない。
何 故 兄 弟 で 眼 を 交 換 す る 必 要 が あ る の か。そ れ が 何 に な る の か。
!?
!
412
!
!?
!?
﹁イ ズ ナ が
﹂
あまてらす
か
ぐ
つ
ち
イ ズ ナ の 万 華 鏡 は 天 照 と 加具土命 ⋮⋮ 新 た に 目 覚 め
た瞳術は何なんだ
﹂
導して操る最強幻術だ⋮⋮
﹂
﹂
イズナはオレを別天神にて操ったのだ⋮⋮
ノ葉から離反した理由を。
﹁そうだ⋮⋮
て目的の為にオレと柱間を戦わせたのさ
掛けたのだろう
!
そし
何処かでこの会話を聞いているだろうイズナにアカネはありった
貴様はどこまで堕ちれば
﹂
オレはイズナの言う通りに行動した⋮⋮何の疑
問も抱かずにな
!
﹂
﹁い、イズナ⋮⋮
!
﹁イズナはオレに対して、自分に疑問を持つなという類いの幻術を仕
にだ。
事を自ら進んで仕出かしてしまったのだ。それも何の疑問も抱かず
木ノ葉を、仲間を、友を、全てを捨てて裏切るなど、考えられない
理解していた。
したくて仕方がなかった。だからこそ別天神の恐ろしさを誰よりも
だからこそ操られてからの自身の行動を思い出し、自身を殴り飛ば
に戻っている。
穢土転生となり蘇ったマダラの思考は別天神で操られる前のそれ
!
!
そしてアカネはその幻術の存在を知る事で理解した。マダラが木
まさに最強の幻術と言えよう。
気付く事はない、第三者が解除しない限りは自力での解除は不可能。
意志の様に思いこませる事でその行動を誘導する。対象者がそれに
だが別天神は別だ。対象の意識を誘導し、さも自分が考えて決めた
の真っ只中にあれば殺されない限りはいずれ気付くだろう。
上ならばいつ幻術に掛けられたかも気付く事は出来ないが、その幻術
幻術に掛けられた者はいずれそれに気付く事が出来る。相手が格
﹁なっ
ま、まさか⋮⋮
﹁⋮⋮ 別 天 神。対 象 に 幻 術 に 掛 け ら れ た 事 に 気 付 か せ ず に 意 識 を 誘
ことあまつかみ
してアカネはイズナが目覚めた最強の瞳術の名を聞いた。
何十合もの攻撃を交わし続けながら二人は情報を共有し合う。そ
!?
!
!
!
413
!?
!
!?
けの怒りをぶつける。だが、当のイズナは何の痛痒も感じずにマダラ
を操り攻撃を繰り返していた。
﹁すまぬ⋮⋮。兄であるオレがイズナを止めるべきだった。オレが不
﹂
甲斐ないばかりにお前に、柱間に、木ノ葉に、世界に迷惑を掛けてし
まった⋮⋮。オレがあの時イズナを止める事が出来ていれば⋮⋮
だ と 言 う の に こ れ だ。何 が 三 忍 だ。何 が う ち は 最 強 だ。何 が 伝 説
られて穏やかに終わる。そうなるはずだった。
扉間も加わり、更に自分達の家族が増えて行き、最後には多くに見守
上手く行っていたはずだと。柱間とヒヨリと自分。そこにイズナや
自分がイズナを止めてやる事が出来ていれば。そうすれば全ては
いがひしめいているのだ。
マダラの中には後悔が溢れていた。全ての元凶は自分、そういう思
!
お前はイズナを誰よりも想って
の忍だ。忍としての締め括りを失敗した己が誇れる事などあるわけ
お前が悪いわけがない
がない。
﹁違う
!
私たちはその切っ掛けに過ぎない
それを理解せず
いた イズナの為にお前は憎しみを捨てて平和な世界を作ろうと
努力した
!
事か、イズナには理解出来ないのか⋮⋮﹂
﹂
﹁戦乱の世から、僅か数十年であの里に至った⋮⋮。それがどれ程の
えていた。
その平和もすぐに崩れる砂上の楼閣、少なくともイズナにはそう見
和。
や恨みを我慢し耐えて、そして得られたのは完全には程遠い僅かな平
大切な兄弟と、大切な友や仲間たち。それらが死して、その憎しみ
たのさ。支払った犠牲に対して得られたモノの小ささに⋮⋮﹂
は、オレよりも、誰よりも家族を、友を愛していた。だから許せなかっ
﹁⋮⋮そう言ってくれるな。イズナの想いはオレにも分かる。あいつ
言うのか。
の思い通りに進めようとする。そんなイズナが元凶でなくて何だと
イズナこそが全ての元凶。マダラの想いを踏みにじり、全てを自ら
に自分勝手な怒りをぶつけてくるイズナこそが
!
!
414
!
!
様々な世界の知識や常識を知っているアカネにはそれがどれだけ
途方もない事か理解していた。
世界の流れを変えるという事は非常に困難な道のりだ。長い年月
を掛けて徐々に徐々に人々の意識を変えて行き、そうして何百年何千
年と掛けて辿り着ける。それが平和な世という物だ。
だと言うのに、僅かな時間で得た結果を見て見切りをつけて、全て
を幻術の中に落とそうとしているイズナはアカネにとってただの我
が侭な子どもにしか見えなかった。
確かに完全な平和は到達しようがないが、それでも幻術でそれを強
制しようなど間違っている。
﹁オレだって、あの里が尊い物だと理解している。それをもっとイズ
ナに語るべきだった⋮⋮﹂
いや、マダラは語らなかったわけではない。ただ、完全な平和とい
う夢物語の可能性を見つけてしまったイズナがそれを理解するのを
﹂
﹂
!
415
拒んでしまったのだ。
イズナがあの古文書を見つけなければ、そしてうちは一族に伝わる
石碑を曲解しなければ⋮⋮話はまた変わっていたかもしれない。
﹁マダラ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮話を戻すぞ。とにかく、オレはイズナに言われるがままに柱間
と戦った。それにはある理由があった﹂
そう、イズナがマダラを柱間と戦わせたのはただ千手憎し、木ノ葉
憎しだからではない。
﹂
全ては千手柱間の細胞を手に入れる為だったのだ。
﹁木遁を得る為にか
﹁なっ⋮⋮
﹁いや違う⋮⋮輪廻眼に目覚める為にだ
ダラが木遁忍術を使用しているのだろう。
マダラの胸に柱間の細胞が埋め込まれている事に。だからこそマ
ていた。
アカネはその白眼と、そして持ち前の感知能力で疾うの昔に理解し
!?
今日一日で何度驚いただろうか。アカネも今までの人生でそう経
!
験のない事だ。そんなアカネを他所にマダラは全てを説明していく。
輪廻眼。それはかつて六道仙人が開眼したと言われる伝説の瞳術。
そして輪廻眼は何が要因となって開眼するかは全く解明されていな
かった。
突然変異として現れるという説もあり、少なくとも血継限界の様に
遺伝で受け継がれている物ではないとされていた。
だが、実際は写輪眼の行きつく先が輪廻眼だったのだ。そしてイズ
ナはうちは一族秘伝の石碑を読み解いてその開眼方法を見つけたの
だ。
石碑にはこんな文があった。〝一つの神が安定を求め陰と陽に分
極した。相反する二つは作用し合い森羅万象を得る〟。
うちはと千手。それは両方とも六道仙人の直系の子孫であり、その
力をそれぞれ受け継いでいる一族。
陰と陽。うちはと千手。二つの力を手に入れたモノが森羅万象を
得る。そうイズナは解釈したのだ。
そして⋮⋮最強の千手の力を手に入れるべく、イズナはマダラと柱
間が闘う様に仕向けたのだ。
その死闘は柱間の勝利で終わったとされている。だが、それは実は
誤りであった。
当時の柱間とマダラの実力は完全に互角。いや、九尾という最強最
悪の尾獣を用意していたマダラが有利であった。
だが実際に勝ったのは柱間だ。それはイズナがマダラにわざと負
けるように命じていたからだった。
ここで勝つと柱間以上に面倒な日向ヒヨリが出てくるだろう。そ
う予想していたイズナはマダラに戦闘中柱間の細胞を不自然の無い
様に手に入れさせ、その上でわざと負けさせたのだ。
この時、柱間は確実にマダラに止めを刺していた。だが、マダラは
ある幻術にて柱間の目を欺いていたのだ。
それがうちは一族に伝わる幻術・イザナギである。このイザナギも
また別天神に劣らぬ凶悪な幻術だ。
本来幻術とは現実ではなく文字通り実体のない幻覚を見せる術だ。
416
だがイザナギは現実に干渉するという幻術の枠を超えた幻術であっ
た。
他者ではなく自身に掛けるという幻術で、不利な事象を﹁夢﹂、有利
な事象を﹁現実﹂に変えるというまさに究極の幻術。
しかも時間差で術を発動することも可能であり、これによってマダ
ラは柱間に殺されたという現実を書き換えることで表向きには死亡
したように装ったのだ。
ただし、やはり強大な力を持つ幻術ゆえに代償はあり、使用した場
合必ず失明するというリスクがある。一度の使用につき一つの目を
失明するので、他人の写輪眼を得ない限り二度しか使えないという幻
術であった。
そうしてマダラは、いやイズナは千手柱間の細胞を手に入れた。そ
れをイズナは自身とマダラの体へと移植した。全ては輪廻眼を得る
ダラのみ。しかも寿命によって死ぬ間際になってようやくだ。
それを見たイズナは自分が死の間際になっても輪廻眼に開眼する
事はないと悟った。自分よりも優秀な兄が死の間際になってようや
く開眼した物を、自分が生きている内に開眼する事はないと考えたの
だ。
うちはの肉体に千手の力を加えても自分は輪廻眼に目覚める事は
ない。ならばどうすればいい 考えたイズナは⋮⋮兄の細胞すら
﹁柱間と、お前の
﹂
自分の体へと移植したのだった。
?
あった。
輪廻眼に開眼したのだ。まさにイズナの執念が産み出した産物で
チャクラ。それらを取り込んだイズナは⋮⋮﹂
﹁そ う だ ⋮⋮ オ レ と 柱 間。う ち は と 千 手、二 つ の 一 族 最 強 の 細 胞 と
!?
417
為に。
﹂
?
だが││
﹂
じゃあ輪廻眼に目覚めたのはお前だけと言う事か
﹁だが、それでもイズナは輪廻眼に目覚めなかった⋮⋮
﹁何だって
!
そう、イズナは輪廻眼に目覚めなかった。輪廻眼に目覚めたのはマ
?
そうと言うのも輪廻眼の開眼条件をイズナもマダラも真に理解し
ていなかったからだ。
真に輪廻眼に開眼するにはある特殊な条件がある。それが、六道仙
人の息子であるインドラとアシュラ。その二人の転生体のチャクラ
を一つにするという途方も無く可能性の低い条件だった。
イ ン ド ラ と ア シ ュ ラ は 互 い に 六 道 仙 人 か ら 受 け 継 い だ 力 が あ る。
インドラは仙人の眼︽チャクラと精神エネルギー︾を、アシュラは仙
人の肉体︽身体エネルギーと生命力︾を。それらを一つにするとどう
なるか。そう、六道仙人そのものになるだろう。
つまりインドラの転生体であるうちは一族の者││この場合うち
はマダラ││が、アシュラの転生体││この場合千手柱間││のチャ
クラを得る事で初めて輪廻眼は開眼するのだ。
そこまでして初めて六道仙人に近付く事が出来るという訳である。
輪廻眼を開眼した者は六道仙人を除きマダラが初めてだ。それほど
チャクラ
418
困難な条件だったのだ。
そう、つまるところイズナは⋮⋮インドラの転生体でないイズナは
本来なら輪廻眼に目覚める事は出来ないのだ。
チャクラ
だがそれをイズナは執念で乗り越えた。その身にインドラの転生
体であるマダラの細胞とアシュラの転生体である柱間の細胞を取り
込む事でその条件を満たし、そして本来なら開眼するはずもない故に
起こった途方もない激痛に耐えて、とうとう輪廻眼に開眼したのだ。
﹁なるほどな⋮⋮だが、それでも解せない事がある﹂
マダラの説明を戦いながら聞いたアカネは全てに納得する。マダ
ラが裏切っておらず、そして何のために柱間と戦ったかを。
途方もない話故に動揺はしたが、それでも筋が通っており理解出来
﹂
る話だ。だが、それでも解せない点が一つだけあった。
・・・・・・・
﹁何故イズナは今も生きている
る。生きているだけならばまだ納得も出来るが、このマダラをこれほ
だがそれでもイズナが今も生きているとしたら百が近い高齢とな
マダラよりは年下だ。
そう、それが最後に残る疑問だ。イズナはマダラの弟であり、当然
?
ど操れる程の力を保ったままとなると納得が行かない現象だ。
この世界は戦乱の世が続いていた為に人間の平均寿命は短い。そ
れは戦争で早く死んでしまうのが原因だが、それ故にこの世界の人間
の最大寿命もまた低くなっているのだ。
長く生きる事がなく、医療技術なども完全に発達しているとは言い
難い世界だ。老いが早いのは当然の話となる。戦乱から離れて医療
技術が発展し続け食生活が安定した時代が長く続けば自然と寿命も
延びるだろうが、それは先の話だ。
とにかく今の世で八十まで生きれば長寿であり、そして老いによっ
て衰えるのもまた早い。三代目火影である猿飛ヒルゼンは全盛期の
半分の実力もないだろう。
それはアカネも同じであり、かつてヒヨリとして最期に戦った時は
全盛期と比べて見る影もない程だった。
そして老いとは全ての存在に平等に訪れる現象だ。イズナもまた
419
同じ。どうにか今も生き延びていたとしても、その力は全盛期とは程
遠いはずなのだ。
その謎に、マダラは更なる驚愕の真実を語った。
﹁イズナは一度死んだ⋮⋮そして蘇ったのだ。オレの輪廻眼の力、輪
廻天生でな⋮⋮﹂
輪廻天生。輪廻眼を持つ者が使える多くの能力の一つであり、他人
きしょうてんせい
を生き返らせる事が出来る転生忍術。
砂隠れのチヨが使用していた己生転生と同じ転生忍術だが、己生転
生と違い肉体が滅びた者でも蘇生でき、死から然したる時間が経過し
ていなければ一度に多くの者を生き返させる事も出来るという瞳術
だ。
﹂
もっとも、己生転生と同じく使用した術者はその命を失う事となる
のだが⋮⋮。
﹁だがそれでも若返るわけではないだろう
だ が 輪 廻 眼 は そ の 理 屈 す ら 覆 す 力 を 持 っ て い た。輪 廻 天 生 に て
るだけだ。つまり元の老人のままだと言う事になる。
そう、例え生き返ったとしてもそれは転生とは違って元の肉体で蘇
!?
蘇ったイズナは全盛期の体で復活していたのだ。
﹁そして、輪廻天生の反動で死んだオレを穢土転生にて復活させたの
だ⋮⋮﹂
それが全ての真相であった。穢土転生で復活したマダラは別天神
の影響から外れており、正気に戻ってイズナを説得した。
だが輪廻眼を開眼し、更に生前のマダラの輪廻眼を手に入れたイズ
ナにマダラの言葉は届かなかった。
夢で見るしかない完全なる平和が後一歩の、手を伸ばせば届く距離
にまで近付いているのだ。今更マダラが何を言おうともイズナがそ
れで止まる訳がなかった。
老いてなお厄介な日向ヒヨリを戦争をコントロールし三尾を操る
事で排除し、全ての準備が整うまで闇に潜んで焦らずに計画を進めて
いく。
若さを取り戻し、輪廻眼を手に入れた事で誰よりも強く、六道仙人
に近しい存在となったイズナに焦る理由はなかったのだ。
すでに計画は最終段階に入っている。例え日向ヒヨリの転生体で
あるアカネがいようと、木ノ葉がどれだけ強国となろうと、全ての忍
里が手を組もうと、それでどうにかなる段階ではない。
全てはイズナの手の上に集まっているのだから。
420
NARUTO 第二十二話
木ノ葉の里は創立以来最大の危機に陥っていた。
暁が攻めて来てまだ五分と経っていない。だが既に里のあちこち
喝
﹂
からは火が上がり、悲鳴が響き、そして多くの忍が犠牲となっていた。
﹁芸術は爆発だ
!
﹄
﹁おのれ暁
﹂
││火遁・豪火球の術
││
た。しかも速度・威力共に向上している。
は難しかったが、それもこの三年間の修行でそれらを可能としてい
かつてのデイダラはここまで多くの起爆粘土を一度に操作する事
で急所を爆破すれば確実な致命傷となるだろう。
急所に貼り付けたのだ。いくら威力が低かろうとそれ程の至近距離
は威力が低いが、それを数十も操作して木ノ葉の忍の顔や首と言った
更に遠隔操作をする事も出来る。蜘蛛の造型で作り出されたC1
その威力も向上していく。
と呼ばれる小さく最弱の威力からC2、C3とレベルが上がるごとに
籠めたチャクラの量と粘土の量で起爆粘土のレベルが変わり、C1
チャクラを籠める事で起爆粘土へと変化させる。
を作り出す術だ。掌に作り出した口から粘土を取り込み、その粘土に
デイダラの能力。それは岩隠れの里で禁術とされていた起爆粘土
が死へと誘われた。
いざな
早いC1と呼ばれている起爆粘土に対応する事が出来ずにその多く
起爆粘土を見慣れていない木ノ葉の中忍は小さく、そして動きの素
﹃││
けて一斉爆破する。
デイダラが起爆粘土を大量に作り出し、それを木ノ葉の忍に取り付
!
デイダラの起爆粘土に唯一対応出来た通りその実力は上忍クラス
れた一般人がいないか確認に来た警務部隊の一員だった。
を攻撃する。男はうちはの家紋を背負っており、ここ等一帯に逃げ遅
この場にあって唯一生き延びていた忍が豪火球の術にてデイダラ
!
!
421
?!
に至っている。豪火球もかなりの規模となってデイダラへと襲いか
かっていた。だが││
﹁遅いな﹂
その豪火球をデイダラは空を飛ぶ事で回避した。デイダラが作り
出した起爆粘土はその造型による為か、その上に乗り空を飛ぶ事も可
能なのだ。
そう、デイダラは鳥を模した起爆粘土││C2││の上に乗り自由
に空を飛んでいるのだ。一直線に放出される上に単発の豪火球では
まともに狙いをつけるのも難しいだろう。
﹁うちはの家紋か。だが、血統に恵まれようと弱い奴は弱い。恨むな
ら、才能のない自分を恨むんだな﹂
デイダラはC2の口から大量の起爆粘土を吐き出させ、それを上空
﹂
からうちはの忍に向かって大量に投下する。
﹁う、おおお
小さいとはいえ大量の起爆粘土の一斉起爆は大爆発を巻き起こし、
敢え無くうちはの忍は命を落とす事となる。
﹁こんなもんだ、うん。木ノ葉と言っても弱い奴は弱いって事だ、う
ん﹂
そう言いつつも木ノ葉を警戒しているデイダラはC2に乗って空
を飛びその場から離れる。
ヒット&アウェイ。空という絶対的な地の利を持つデイダラは地
に残って長く戦わずに空から爆弾を投下し続ける。それだけで木ノ
葉の忍では対処が難しく一方的に攻撃出来るのだ。
攻撃が集中しないので一定以上の強者には通用しない戦術だが、多
⋮⋮と言いたいとこだが
くの忍を巻き込み木ノ葉全体に被害を与えるこの戦術は木ノ葉の里
からしたら最悪の戦術であった。
﹁さぁて、次はC3の爆発を見せてやる
⋮⋮うん﹂ でもしたら命を失いかねない威力の衝撃波が上空を不規則に飛び
には完成体須佐能乎の衝撃波が飛び交っていた。直撃はおろか、掠り
そう呟き、デイダラは空を見上げる。既に一片の雲もなくなった空
!
422
!?
交っているのだ。C3という強大な起爆粘土の爆発に巻き込まれな
これじゃあ空を飛べばオイラまで巻き込まれるな、うん。
い程の上空へ行けば逆にこの衝撃波に巻き込まれる恐れがあるだろ
う。
﹁ちっ
﹂
仕方ない、地道に木ノ葉の里に芸術の素晴らしさを見せつけてやる
か。芸術は、爆発だ
に死ぬ﹂
﹁苦しいか
その毒はオレの特別製。解毒は不可能だ。お前は確実
は自らの実力に自信があるという事だ。
にして三分も持った事を心底褒めているのだ。そう、それだけサソリ
それでもサソリは根を褒め称えた。そこに嘘はない。自分を相手
が、既に小隊は壊滅状態。そして小隊の隊長は今や虫の息であった。
サソリと根の小隊が戦い始めて三分程度しか経過していない。だ
リは根の忍を褒め称える。
蛇腹状の鋭い刃を持つ尾を振り払い血を吹き飛ばしてその男は、サソ
周囲に多くの屍を生み出し、その中心に不敵に立つ男。腰辺りから
こまで持つとは、な﹂
﹁なるほど。木ノ葉の暗部は中々の粒揃いだな。このオレを相手にこ
木ノ葉の暗部の一つ〝根〟。その根の忍が苦痛に顔を歪めていた。
﹁う、うう⋮⋮﹂
していく。
イダラはそのアートを木ノ葉の忍にも見せつける為に地獄を生み出
芸術は爆発だ。それを言葉通りの意味で実行する最悪の芸術家デ
でその一瞬にアートを感じる。
形ある物はただの造形物に過ぎず、作り出した芸術を爆発させる事
!
を死に至らしめる強力な毒だ。
サソリの刃の尾には毒が仕込まれている。例えかすり傷でも対象
?
423
!
成分を解析すれば解毒薬を作る事も出来るだろうが、それも非常に
優秀な知識と腕、そして時間を必要とするだろう。今この場でそれが
出来る者はおらず、隊長の死はもはや確定と言えた。
﹂
﹁まあ、お前も平時ならばオレのコレクションの末端に加えても良い
くらいの実力だったぞ。こんな風に、な
そう叫んでサソリは己のコレクションを披露し、そして背後に潜ん
でいた残りの暗部に襲い掛かる。
コレクション。サソリがそう呼ぶそれは傀儡人形の事だ。だが、た
だの傀儡ではない。サソリの作り出すそれは生身の人間を元に作り
出された人傀儡なのだ。
サソリは殺した忍の中で強く気に入った忍を選び、防腐処理を施し
てから仕込みを埋め込んで人傀儡へと作り変えているのだ。まさに
凶人の発想であり、そして恐るべき術でもある。
この人傀儡は通常の傀儡人形と大きく違う点がある。人傀儡は生
前の忍のチャクラを宿したまま傀儡となっており、その為生前の術を
そのままに扱う事が出来るのだ。
││風遁・風切りの術││
││火遁・龍火の術││
二体の人傀儡が生前のその者が得意としていただろう術を放つ。
﹄
二つの術は一つとなり、豪火となって隠れ潜んでいた暗部へと襲い
かかる。
﹃ぐわぁあぁ
だが、無意味だったな﹂
サソリは己のコレクションを元に戻し、死に掛けの暗部隊長を一瞥
してその場から離れていく。
﹁⋮⋮﹂
隊長は毒が回り死に瀕しているその状況で、どうにか暗号を残して
僅かでも仲間に情報を伝えようとする。
僅かしか得られていない情報だが、それでもあるとないとでは大違
いだ。敵が傀儡師であるという情報も、操る傀儡人形が忍術を放つと
424
!
﹁ふん、オレの情報を得る為に部隊を分けていたか。用意周到な事だ。
!
﹂
いう情報も、どちらも非常に重要な情報である。
﹁っ
だが、隊長の体から僅かな暗号を書き残す力すら消え去る事とな
る。
サソリが放った尾がその体を貫いていたからだ。
﹁毒で苦しんで死ぬ事もないだろう。慈悲をくれてやる﹂
それが本当に慈悲であるなど誰も思いはしないだろう。最後の務
めすら奪われた隊長は、無念の内にその命を散らした。
﹁ふん。定命の者は苦労するな。この程度で死ぬなんてな﹂
生身の身体という、サソリからすれば不便極まる肉体しか持たない
﹂
者を哀れに思い、そして蔑みながらサソリは新たな犠牲者を生み出す
為に動き出した。
﹁な、なんだこいつら
﹂
!?
こらぁ
﹂
﹁あー痛てて。多勢に無勢でやってくれるじゃねーかよ。痛かったぞ
やその恐ろしい能力に驚愕していた。
今、木ノ葉の忍はある暁のコンビと戦い、そしてその実力に⋮⋮い
﹁信じられん⋮⋮化け物か
!?
相 方 で あ る 角 都 も 飛 段 の 姿 を 見 て 何 も 動 揺 し て い る 様 子 は な い。
﹁遊びすぎだ。わざわざ敵の攻撃を受ける必要はない﹂
うしたと言わんばかりに平気で動いているのだ。
だと言うのに飛段は痛みに苦しむ素振りを見せながらも、だからど
さっている。どう見ても致命傷ではなく即死している傷だ。
心臓に刃が突き刺さり、左腕が千切れ、胴体に幾つもの苦無が刺
で理解出来るだろう。
ある上忍達がそれ程恐れる理由。それは飛段の身体を一瞥するだけ
飛段。それが木ノ葉の忍が恐れ慄いている男の名だ。歴戦の忍で
!!
425
!?
つまりこれは二人に取って特別大した事ではないという意味を表し
ている。
それもそのはず。飛段は真実不死身であるという、常識外れの暁に
あって更に常識から外れた存在だからだ。
飛段はジャシン教という邪教の信者であり、その邪教が行っていた
儀式││人体実験とも言う││の被験者であった。その実験により
飛段は不死身の肉体を手に入れたのだ。
首を刎ねられようが、心臓を貫かれようが死ぬ事はない。そんな不
死身の化け物が飛段である。
そして角都もまた飛段に劣らず化け物であった。
飛段はダメージを受けているが、角都は全くの無傷である。だがそ
れは攻撃を受けなかったという訳ではない。
角都も木ノ葉の上忍の攻撃に当然の如く晒されていた。だが、その
全てを無傷で切り抜けていたのだ。
む
426
それだけ聞くと全ての攻撃を避けたかの様に思えるだろう。しか
しそうではなかった。上忍達の苛烈な攻撃は確実に角都へと届いて
いたのだ。
ど
だがそれは角都の土遁の術によって防がれていた。それが全身を
鋼の様に硬化する土遁・土矛である。起爆札という高威力の爆発する
札すら防ぎ切る防御力を得る術だ。
それだけが角都の能力ではない。彼も飛段と同じく不死と呼べる
ある能力を有しているのだ。
ダメージを受けず、例え受けたとしても問題なく行動する事が出来
﹂
る不死コンビ。それを見て驚愕しない者が果たしてどれだけいるだ
ろうか。
﹁分かってるって。でもよ、手っ取り早かっただろ
は死にはしない。
した時点で飛段を倒したと思った。だが、不死身の飛段はその程度で
必殺のタイミングで攻撃をした木ノ葉の上忍は心臓を刃で突き刺
けなかったのには一応の理由があった。
角都の言葉を聞き飽きた様に返す飛段だが、飛段が一切の攻撃を避
?
飛段は心臓を刺した男がそれで油断をし離れた瞬間にその手に持
さっさ
つ大鎌を振るってその首を跳ね飛ばしたのだ。不死身である事を利
用した自爆戦法である。
﹁オレも儀式をしなけりゃならないのを我慢してるんだぜ
あればだがな﹂
!
た。木 ノ 葉 崩 し が 終 わ れ ば そ れ は そ れ は 大 量 の 人 間 が 死 ぬ だ ろ う。
だからこそさっさと終わらせて、その上で儀式を行うつもりだっ
馬鹿でも理解出来るだろう。
するつもりはなかったようだ。そんな事をすればどうなるか。まあ
だが流石の飛段も木ノ葉の里の中、敵に囲まれている状況でそれを
る儀式を行っている。それがジャシン教の戒律なのだろう。
飛段は人を殺した後に三十分以上の時間を掛けてジャシンに捧げ
れだから無神論者は⋮⋮﹂
﹁分かってんよ
だから我慢してるって言ってんじゃねーか こ
﹁ふん、したければすればいい。だが、敵陣ど真ん中でそれをする暇が
んだよオレはよぉ﹂
と殺して殺して殺して、面倒事を終わらせて儀式をしなきゃいけない
?
神に捧げられる贄となれ
⋮⋮って、わ
そうなればどれだけの供物がジャシンへと捧げられるか。
さぁ
﹂
!
それを思うと今から笑みが浮かぶ飛段であった。
﹁ゲハハハハ
﹁締まらない奴だ⋮⋮﹂
りぃ角都ぅ、手、繋げてくれねぇかな
!
頼み込む。不死身ではあるが再生能力が有るわけではないようだ。
﹂
角都は飛段の言動に溜め息を吐きつつも、その身体から黒い触手を
これで思いっ切り暴れられるぜ
生やして飛段の左腕を縫いつける。
﹁サンキュー
なくなっていた。心臓を刺しても平気な顔をし、五体が千切れてもそ
それを見た木ノ葉の忍はもう何に驚いていいのか理解が追いつか
手を動かし具合を確認していた。
縫い付けてすぐに神経まで繋がったのか、飛段はその左腕を回して
!
427
!
大仰な言葉を吐いた飛段だが、千切れた左腕を見て角都へと治療を
?
!
!
の程度の治療で元に戻るなどどう考えても納得がいく話ではないだ
ろう。
﹁さ て、こ い つ ら は ビ ン ゴ ブ ッ ク に も 載 っ て い な い 雑 魚 ど も だ ⋮⋮
さっさと次に行くぞ﹂
﹂
﹁そんなに金が大事かねぇ。まあ、次に行くのはオレも賛成だ。こい
つら皆殺しにしてなぁ
暁の不死コンビが木ノ葉の里にその猛威と恐怖と、そして死を振り
撒いて行く。
一人の男が異様な大刀を振るっていた。いや、それは刀と言ってい
いのだろうか。
鋭いギザギザとした刃が無数に連なって形作られているそれを一
目みて刀だと判断出来る者はまずいないだろう。
それは霧隠れの里で有名な七本の忍刀の一つ、〝鮫肌〟である。読
んで字の如く鮫の肌のような刀であった。
その異様な大刀を振るう男の名は干柿鬼鮫。暁の一員にして霧隠
れ出身の忍であり、霧隠れでは〝尾を持たない尾獣〟と恐れられてい
る強者である。
既に周囲には大量の死体が転がっている。その全ては見るも無残
な遺体となっている。鮫肌によってそうなったのだ。
その理由は鮫肌の形状にあった。見た目通りまともな形状をして
ない鮫肌は対象を綺麗に斬る事は出来ず、むしろ肉や骨を削るという
荒々しい刀だ。
そんな鮫肌で攻撃され続ければ肉体は削り取られ獣が喰らった後
のような無残な遺体が残るのである。
﹂
そして今もまた新たな犠牲者が生まれようとしていた。
﹁こ、これは⋮⋮
それも
428
!!
﹁気付きましたか。そう、私の鮫肌は斬るのではなく削る
!
!?
肉体だけでなく⋮⋮チャクラもね
﹃
﹄
﹁ギギギ
﹂
ら、鮫肌も喜んでいますよ﹂
﹂
﹁あなたのチャクラはそれなりに美味しいようですよ。その証拠にほ
敵と言ってもいいだろう。
意味となり、術を発動する事も敵わない。忍術を得意とする忍には天
練り上げたチャクラも鮫肌を一振りすれば削り取られてしまい無
事であった。
はチャクラを削り喰らうという忍にとって最悪の能力を有している
鮫肌はただ肉体を削るだけの刀ではなかった。その真の恐ろしさ
根の忍が鬼鮫にその肉体を削られながらも鮫肌の特性を見抜いた。
!
﹂
!
理由だった。
!
﹃うわぁああぁあ
﹄
チャクラを水へと変化させて津波の如く吐き出す術である。
印を組み上げた鬼鮫はその口から大量の水を吐き出す。口の中の
││水遁・爆水衝波
││
⋮⋮この三つこそが鬼鮫が〝尾を持たない尾獣〟と恐れられている
持ち前のチャクラと鮫肌によるチャクラの増加。そしてもう一つ
にチャクラをプールさせる為の食事に過ぎなかったのだ。
つまり削り殺された忍達は鬼鮫にとって今後の戦闘に備えて鮫肌
る鬼鮫に還元するという能力を持っている。
鮫肌はチャクラを削り喰らい、そしてそれを溜め込んで使い手であ
あったからという訳ではない。
食事。そう、鬼鮫が鮫肌で根の忍を削り殺したのはただ嗜虐趣味が
チャクラが集まったのでここらで食事も終わりにしましょう
﹁あなた達にも鮫肌を味わわせてあげたいのですが、鮫肌にも十分な
鮫は笑みを深くし、そしてその隙を突いて印を組んだ。
刀が鳴き叫ぶという怪異を見た根の忍は驚愕する。それを見て鬼
!!
水遁ではない。
押し寄せる濁流に根の忍は飲み込まれていくが、これは攻撃の為の
!?
429
!?
大量の水を作り出すことで攻撃用の水遁を使いやすくする為の補
助忍術だ。だが、その補助忍術も桁が違えば十分な威力となる。
大量の水に飲み込まれた根の忍たちは水圧と水量に押し潰されて
││
流されていく。そしてそんな彼等に鬼鮫は無情にも追撃を放った。
││水遁・五食鮫
﹂
﹁うわああぁあ
﹂
インは破壊と共に痛みを木ノ葉の里に振り撒いていく。
痛み。それこそが平和へと繋がる唯一絶対の手段。そう信じてペ
新たな獲物を待ち構えていた。
木ノ葉を水浸しにして自らに有利な戦場を作り上げながら、鬼鮫は
﹁ギギギ
﹂
﹁くくく、さて次の獲物のチャクラは美味しいでしょうかねぇ、鮫肌
もがく忍を襲い⋮⋮跡形もなく喰らい尽くした。
する。そこから五匹の鮫のような形の水遁が出現し、そして水の中を
自らが作り出した水の上に立つ鬼鮫が水中に手を入れて術を発動
!
﹁うずまきナルトはどこだ
﹂
抜かれた者の末路は⋮⋮死だ。
道は対象の記憶を読み取る際にその魂を抜き取るのだ。そして魂を
だが、その手には忍の肉体ではなく魂が掴まれたままだった。人間
りに手を離す。
そして目的の情報を持っていない事が分かれば用済みと言わんばか
人間道がある忍の頭にその手を当て、そしてその記憶を覗き込む。
﹁う、あ⋮⋮﹂
込まれてしまう。
害を与えていく。ペインを食い止めようとした忍はその破壊に巻き
修羅道がその体から数多の兵器を放ちその火力で周囲に膨大な被
!?
?
430
!!
?
﹁知らん
知っていたとしても仲間を売ったりなんぞするか
﹂
!
﹁ぎゃああ
﹂
待っている運命には何ら変わりはないのだから。
それが幸いとなる事はなかった。魂を抜き取られる事はなかったが
だがこの忍は本当にナルトの居場所を知っていないようだ。だが、
た者は魂を吸い取られてしまう。それが地獄道のもう一つの能力だ。
地獄道が掴み上げた忍に質問をする。その質問に対して嘘を吐い
!
﹂
﹁な、うおおお
﹂
うとするが、それすらもペインは許してはくれなかった。
せめて新たに得た情報││人間道と地獄道の能力││を持ち帰ろ
を及ぼさない。まさに手詰まりだ。
忍術も体術も無意味。かといって幻術も実力差が有り過ぎて効果
を狙って放たれた忍術を弾き掻き消す。
餓鬼道が忍術を吸収し、天道が物理攻撃や餓鬼道が吸収している隙
防がれていた。
ンを攻め立てていた。だがその攻撃の全ては天道と餓鬼道によって
多くの忍がペインの犠牲となっている間にも、更に多くの忍がペイ
﹁くそ
によって死を迎える事となった。
哀れ、地獄道の手から逃れられた忍は畜生道が口寄せした巨大な獣
!!
この程度ではまだ足りない。痛みを知るにはもっと、もっともっと
進める。
攻撃を仕掛けてきた全ての忍を返り討ちにしたペインは更に歩を
しまった。
隙を作り、敢え無く天道が作り出した黒い棒によって串刺しにされて
離れようとした瞬間に引き寄せられるという現象は忍達に大きな
﹁が、あ⋮⋮﹂
す、引力を操る〝万象天引〟である。
これが天道のもう一つの能力。斥力を操る〝神羅天征〟と対を成
寄せられてしまう。
この場から離れようとした忍達は突如として天道に向かって引き
?!
431
!
大きな犠牲が必要だ。
痛み。それこそが平和へと繋がる唯一絶対の手段。そう信じてペ
インは更なる破壊を木ノ葉の里に振り撒いていく⋮⋮。
そして、木ノ葉の里に攻め入った暁の最後の一人。
元木ノ葉の忍にして元二代目三忍。ある目的の為に狂ってしまっ
た最悪の忍、大蛇丸。
その大蛇丸が、目標であったうちはサスケと対峙していた。
﹁探したわぁサスケ君﹂
﹁⋮⋮お前が大蛇丸とやらか﹂
他の暁達が木ノ葉を攻め入っている中、大蛇丸だけは木ノ葉ではな
の忍ならばそれだけで戦意を喪失する程のプレッシャーを、だ。
432
くサスケを目標としていた。
いや、大蛇丸も木ノ葉を攻めるつもりはあるが、今この時を除いて
サスケの肉体を奪う機会はそう訪れないと理解しているのだ。
暁により木ノ葉の里が混乱しているこの時こそ、この若く美しく、
そして強い肉体を手に入れる最高の好機なのである。
大蛇丸は最終的にはアカネの肉体を奪いその転生術の秘密を手に
入れる事を目標としていたが、その為にはまだ実力が足りないと判断
していた。
だからこそサスケの体を奪う事でより強くなり、その上で機会を見
てアカネの体を奪うつもりであった。
時間は掛かるが何ら問題はない。何故なら大蛇丸は不老の術を手
に入れているのだから。
⋮⋮ちょうだい、若くて美しくて強
﹁ええそうよ。綱手か自来也から聞いているようね。なら、私の目的
﹂
も分かっているんでしょう
い、その身体をォォォ
?
大蛇丸がその欲望をプレッシャーと共にサスケに叩きつける。並
!
だが⋮⋮この三年で、サスケは並などとはけして言えない実力を既
に有していた。
﹂
﹁オレの身体はオレの物だ。浅ましく他人の力を欲している盗人風情
が⋮⋮返り討ちにしてやる
大蛇丸のプレッシャーを跳ね除けてサスケは吠える。それを見て
大蛇丸は笑みを深くした。ここまで成長しているのか、と。それが自
分の物になるのか、と。
かつての木ノ葉の天才と、現木ノ葉の天才。二人の天才が、死闘を
繰り広げ始めた。
◆
先手はサスケだった。今木ノ葉の里は非常事態に陥っている。そ
んな状況で無駄な時間を掛けるつもりはサスケにはなかった。
大蛇丸を倒し、そして残りの暁を倒す。どうせならナルトが帰って
くる前に全てを終わらせてやるという思いでサスケは大蛇丸に攻撃
を仕掛ける。
手首に仕込んである口寄せ術式に触れて術式を発動。契約をして
いた苦無が口寄せられてサスケの手に収まる。
あらかじめ剣やクナイなどの忍具を巻物や衣服に封じ、 必要に応
じて召喚する忍具口寄せの一種・雷光剣化である。
忍具を取り出す手間に、構えから投擲までの行程を限りなく少なく
する事で攻撃速度を上げる事が出来る便利な術式だ。
サスケは次々と口寄せされる苦無を電光石火の速度で投げ放つ。
無数の苦無に晒された大蛇丸は口寄せ・羅生門によって全ての苦無
を防ぎ切った。
羅生門は強固な防御力を誇る巨大な門であり、その防御を突破する
には苦無では威力が足りな過ぎた。
だがサスケはそれでも構わずに苦無を投擲し続ける。その苦無は
真っ直ぐに羅生門へと向かわず、羅生門を逸れて投擲されていた。
完全に当たるコースではない。だがサスケは苦無と苦無を空中で
433
!
衝突させる事でその軌道を変化させ、羅生門の後ろに隠れている大蛇
﹂
丸へと苦無を届かせた。
﹁やるじゃない
反射を利用して左右上下から迫る苦無を大蛇丸は見事な体捌きに
て避け切った。だが、大蛇丸は全ての苦無を避け切ったというのに咄
嗟にその場から離れていく。
次 の 瞬 間 に は 大 蛇 丸 が 先 程 ま で 立 っ て い た 地 点 に 爆 発 が 起 こ る。
サスケが幾つかの苦無に起爆札を付けていたのである。
﹁⋮⋮なるほどね。私が羅生門を口寄せして、視界が通っていない内
に起爆札を⋮⋮﹂
雷光剣化による苦無の高速投擲が羅生門によって防がれたならば、
それを利用して新たな手を二重三重に仕込んで打ってくる。
この歳でこの力量。将来は確実に自分の手に余る存在へと至るだ
ろう。やはりこの時以外にはなかったと大蛇丸は確信した。
﹁ちっ⋮⋮﹂
無駄にチャクラを使わずに終わらそうと思っていたサスケはこの
段階で手傷も負わせられなかった事に舌打ちをする。
元とは言え二代目三忍の名前は伊達ではないようだ。そう認識し
たサスケは消耗なくして倒せない敵だと意識を改めた。
意識を改めたサスケは大蛇丸を確実に殺す為に全力を尽くす。
高速で印を組み、得意の千鳥にて一気に勝負を決めようとするサス
ケ。だが、大蛇丸も黙ってそれを見ているわけがない。大蛇丸も印を
組み、術を発動させようとする。
そしてサスケは大蛇丸の印を写輪眼で見切り、その構成が風遁系の
術だと看破した。
サスケは修行の過程で多くの術の印を教え込まれていた。それは
それらの術を会得する為ではなく、術の印の構成を見切る事でその術
が完成する前に何の術が発動するかを理解出来るようにする為だ。
普通の忍には無茶な修行だが、写輪眼という動体視力と観察眼に優
れた眼を持っているサスケならば無茶ではない。後は印の知識を詰
め込めば良いだけである。
434
!
大蛇丸が放とうとしている術が風遁系だと理解したサスケの行動
は早かった。
雷遁は風遁に弱い。そして千鳥は雷遁の一種である。術の相性的
に雷遁で風遁に勝つ事は難しいと言える。雷遁チャクラを纏っても
その防御を超えてダメージを与えてくる可能性も高い。
ならばどうするか。答えは簡単だ。風遁に強い火遁を放てばいい
のである。
サスケは直ぐに雷遁から火遁の術へと印を組み直した。それを見
││
││
た大蛇丸は怪訝に思ったが、既に組みあがった術の発動を止める事は
出来なかった。
││風遁・真空大玉
﹁ぐああああぁあぁ
﹂
を持って教えてくれた。
出来るのだが、敵対する者同士ならばどうなるか。それは大蛇丸が身
二人の忍が協力すればより強大な火遁の術へと転じさせて敵を攻撃
これが性質変化の相性なのだ。風遁は火遁の炎をより強大にする。
蛇丸がサスケに劣るという訳でもない。
なる。これは真空大玉が豪火球に劣る術という訳でも、術において大
だがそれは後から放たれた豪火球の術に飲み込まれてしまう事と
通力を持つ真空玉という術の強化版だ。
大蛇丸が口から巨大な真空の玉が放たれる。当たった物を貫く貫
││火遁・豪火球の術
!
すら飲み込みその身を焼き焦がしていく。
大 蛇 丸 の 全 身 が 黒 焦 げ と な る の に 大 し た 時 間 は 掛 か ら な か っ た。
サスケは身じろぎ一つしなくなったその死体を一瞥してその場から
離れていく。
﹂
流石は写輪眼と言ったところか
そしてすぐに体を捻って後ろから迫っていた草薙の剣を紙一重で
躱した。
﹁やはり生きていたか
﹁ふふふふふ、良く見抜いたわね
!
!
435
!
真空大玉を飲み込んで更に巨大な炎の塊となった豪火球は大蛇丸
!?
しら
﹂
黒焦げの死体となったはずの大蛇丸がその口から草薙の剣を吐き
出して刀身を伸ばしサスケを攻撃していたのだ。
更に大蛇丸はその口から大蛇丸自身を吐き出し、まるで脱皮したか
のごとく黒焦げの表皮を脱ぎ捨てて無傷のままに復活を遂げた。
この恐るべき再生能力も数多の人体実験で得た成果だ。あの程度
の外傷では大蛇丸を倒すには至らない。角都か飛段のどちらかがい
なければ大蛇丸が不死コンビの片割れになっていたかもしれない。
戦闘開始と同じく再び相対する二人。だがそんな二人の表情は対
照的だった。
片や面倒な敵だと大蛇丸を睨みつけるサスケ。片やサスケを見な
がらその表情を歓喜に歪ませる大蛇丸。
そして大蛇丸はサスケに対してその実力を褒め称え始めた。
﹁素晴らしい⋮⋮素晴らしいわサスケ君。良くぞここまで強くなった
ものね﹂
印の速度。相手の印を見抜く洞察眼。そしてその術の詳細を理解
する知識。即座に印を組み直し、相手の術に相性が良く後手に回った
故に手早く印が組み終わる術を選択する判断力。全てが上忍ですら
成し得ない熟練の業だ。これが十五、六の少年だと言うのだから称賛
せずにはいられないだろう。
﹂
そして大蛇丸はその称賛の後に爆弾発言を落とした。
﹂
﹁流石は三忍の弟子と言ったところかしら
﹁⋮⋮なに
?
そんな風に考えるサスケの
?
﹁ああ⋮⋮そう言う事。どうやら教えてもらっていないようねぇ。日
反応を見て大蛇丸はサスケの疑問を理解した。
大蛇丸が勘違いでもしているのか
のは兄のイタチと父のフガク、そして主に日向アカネだったからだ。
だがサスケはその三人の誰の弟子でもない。サスケを鍛え上げた
だ。
とって三忍とは自来也と綱手、そして目の前にいる大蛇丸を指す言葉
大 蛇 丸 の 言 葉 は サ ス ケ に は 理 解 出 来 な い モ ノ だ っ た。サ ス ケ に
?
436
!
﹂
向アカネも人が悪い⋮⋮いえ、秘密にする必要がある事だから仕方な
いと言えば仕方ないわね﹂
﹁⋮⋮アカネが何だって言うんだ
﹁⋮⋮﹂
あの歳で誰よりも⋮⋮そう、火影よ
代三忍である日向ヒヨリの生まれ変わりだからよ
﹂
﹁日向アカネが誰よりも強い秘密⋮⋮それはね、日向アカネがあの初
それが、大蛇丸の口からサスケへと放たれた。
密。
が人間だ。誰もが詮索を避けつつも内心で気にしていたアカネの秘
そう言われれば守るのが忍だが、そう言われれば余計に気になるの
くれない。それどころか詮索無用の命令まで受ける始末だ。
だが事情を知っているだろう上忍や火影に聞いても誰も教えては
アカネの正体を知らない者ならば誰もが疑問に思っていた事だ。
そう、それは常日頃からサスケが、いやアカネが修行を付けていて
りも強いだなんて普通はありえないわ﹂
思った事くらいあるでしょう
﹁くくく、いいわ教えてあげる。日向アカネの強さにあなたも疑問に
教えてあげた。
にするが、大蛇丸は無駄に引っ張らずに気になっているだろう答えを
ないようだと笑みを深める。それを見たサスケが更に苛立ちを顕わ
そんなサスケを見て大蛇丸は強くなっても精神はまだ成熟してい
にサスケを苛立たせているようだ。
気になっていた秘密を敵である大蛇丸が知っているというのが余計
大蛇丸の思わせぶりな言い方にサスケは苛立ちを見せる。自分も
!?
う返した。
﹁⋮⋮馬鹿にしてんのか
﹂
大蛇丸が語った衝撃の真実を聞いたサスケは一瞬呆けて、そしてこ
!
普通に考えてあり得る訳がない。
しかも敵である大蛇丸の言葉だ。騙そうとしているか馬鹿にして
いるかのどちらかと考えても何らおかしな事ではない。
437
?
サスケの反応は間違いなく正しい反応だろう。生まれ変わり等と
?
﹁いいえ真実よ。信じられないのも分かるわぁ。私もまさかあの日向
ヒヨリが復活するとは思ってもいなかったからねぇ。いえ、誰であろ
うと想像した事はないでしょうよ。しかも、記憶も術もチャクラも受
﹂
け継いだ上に完全に新たな肉体となって生まれ変わるなんてね⋮⋮
教えて欲しいものねぇ、その転生の秘術を⋮⋮
﹂
た思いである。
﹁納得したかしら
﹂
的に長い時を修行に費やしていると分かって幾分かは溜飲が下がっ
負けて悔しいという思いはなくならないが、相手が自分よりも圧倒
構打ちひしがれていた事は多かったのだ。
としたくらいだ。ここまでの力の差があって同年代という思いに結
確かに信じがたい事実だが、むしろ同年代でなかった事に逆にホッ
スケはどことなくすっきりとした。
道理で強いわけだ。あの化け物染みた強さの秘密が理解出来てサ
﹁なるほどな⋮⋮道理で⋮⋮﹂
くらいあって不思議ではないだろう、と。
これからも不死であろうとしている。ならば輪廻転生の一つや二つ
人知れずあるのだ。目の前の男も他人の体を乗っ取り長く生き続け、
そう言われてサスケは納得する。この世界には想像を超えた術が
思わない
には存在する。ならば輪廻転生する術があっても不思議ではないと
蘇らす術や他者の肉体を乗っ取り転生する術は数少なかれどこの世
﹁そのまさかなのよ。穢土転生しかり、私の不屍転生しかり。死者を
﹁まさか⋮⋮﹂
⋮⋮。
在 の 秘 匿 性。そ れ ら の 理 由 が 日 向 ヒ ヨ リ の 転 生 体 で あ る 事 な ら ば
アカネの圧倒的な底知れぬ強さ、特定の忍との関係、そしてその存
しまう。
大蛇丸の心の底からの叫びにサスケはその言葉に信憑性を感じて
!
たよ﹂
﹁ああ⋮⋮二代目三忍とやらが名前負けしてるって事が良く理解出来
?
438
?
﹁⋮⋮なんですって
﹂
影分身のアカネにすら勝てな
?
てはあの二人に悪かったな﹂
﹁言ってくれるわねひよっ子風情が⋮⋮
﹂
﹂
!
﹁なに
﹂
て、その刀身を伸ばし攻撃をする。
﹂
の上で離れようとしているサスケに向けて草薙の剣の切っ先を向け
だがその合わせ技を大蛇丸は容易く草薙の剣で弾き飛ばした。そ
大蛇丸へと放たれた。火遁の威力と殺傷力を持つ合わせ技だ。
サスケの口から放たれた複数の火の玉はその中に手裏剣を隠して
るのだろう。サスケはその場から離れつつ火遁・鳳仙火の術を放つ。
剣での接近戦を仕掛けようとする大蛇丸と距離を取ろうとしてい
戦する。
スケも黙ってそれを受け入れるわけもなく身を翻して躱し術にて応
無数の蛇を口寄せし、その蛇にてサスケを拘束しようとするが、サ
﹁やってみろ
﹁力の差を教えてあげるわ
ろうと苛烈な攻撃を仕掛ける大蛇丸。
める。草薙の剣を振るい、生意気な口を聞く小僧に痛い目を見せてや
サスケの挑発に激昂した大蛇丸は怒りを隠す事もなくサスケを攻
!
!
﹁そのひよっ子に返り討ちにされるのさあんたは
﹂
いや、元だから仕方ないか。自来也や五代目をお前なんぞと一緒にし
いオレを相手に手こずっている二代目⋮⋮。三忍の名が泣いてるぜ。
﹁初代があれで、二代目がこれだろ
そんな大蛇丸を無視してサスケは挑発を止めずに言葉を続ける。
その言葉に大きくプライドを揺すられた。
事実を知ったサスケの反応の変化を見て悦に浸っていた大蛇丸は
?
だがそれは悪手であった。
草薙の剣は苦無とは比べ物にならない切れ味を誇っている。金属
と金属がぶつかり合ったとは思えない程にあっさりとサスケの苦無
は草薙の剣によって真っ二つに切り裂かれた。
439
!
ま さ か の 攻 撃 方 法 に サ ス ケ は 咄 嗟 に 苦 無 に て そ の 切 っ 先 を 防 ぐ。
!?
﹁なっ
﹂
﹁もらったわ
﹂
防いだと思っていた草薙の剣が苦無を切り裂いた事でサスケに動
揺が生まれ、その隙を突いて大蛇丸はそのままサスケの胴体を貫く。
致命傷ではないが、戦闘続行は難しい重傷だ。死にさえしなければ
その体を乗っ取る事が出来る大蛇丸だ。傷も乗っ取りさえすればす
﹂
ぐに癒す事が出来るのでなんの問題もなかった。
﹁が、ぁあ⋮⋮
﹁こ、これは
﹂
勝ち誇る大蛇丸。だがすぐにその嘲笑は収まる事となった。
﹁ふふふふふ⋮⋮残念だったわねぇ。所詮はまだひよ││﹂
!
巡った。
わざと大蛇丸を激昂させてその思考や動きを読みやすくし、鳳仙火
通りに動いていた。
そう、サスケが大蛇丸を挑発してからの攻防は全てがサスケの計算
﹁⋮⋮なるほど、全てがあなたの⋮⋮﹂
﹁鳳仙火を放った後にだ﹂
ケ自身が教えてくれた。
いつの間に幻術を仕掛けたのか。その答えは幻術を仕掛けたサス
﹁い、いつの間に⋮⋮﹂
いった。
大蛇丸の胴体は綺麗に上下に分かれ、無残にも大地に転がり落ちて
変化させた時の切れ味もまた同じくだ。
千鳥の攻撃力は雷遁忍術でもトップクラス。そして形状を刀へと
の形状を刀へと変化させてサスケは大蛇丸の胴を薙ぎ払った。
れでサスケには十分だ。幻術に嵌った隙を突き、千鳥を発動させてそ
その事実に気付いた時には既に遅かった。一瞬の幻術だったがそ
││幻術
││
そして周囲から無数の刃が自分を貫くイメージが大蛇丸の脳内を
貫き重傷を負ったはずのサスケが大蛇丸自身に変化していく。
!?
!?
という弱い術を放ったのもチャクラ温存を計りつつ後方へ下がる為
440
!
!?
の時間稼ぎに見せかけ、その上で後方へ下がって草薙の剣による追撃
を誘う。
草薙の剣についての情報も自来也や綱手から聞いていたのでサス
ケはそれを利用して戦術を組み立てていたわけだ。そして大蛇丸に
自身が草薙の剣で貫かれるという幻術を見せる。後はその隙を突け
ばいいだけの話だ。
チャクラの消費を抑えたローコストで決着を着ける為のサスケの
戦術であった。
自分にも気付かせない程の幻術の冴え。眼と眼を合わせれば相手
を幻術に落としいれる事が出来る写輪眼の力を十全に使いこなした
結果に大蛇丸はますますサスケへの評価を高めていく。
﹁⋮⋮つくづく化け物だな﹂
胴体を真っ二つにしたはずの大蛇丸に向かってサスケはそんな言
葉を吐き捨てる。
だ
﹂
く。
441
それもそのはず。二つに分かれた胴体から無数の蛇が生え、そして
﹂
﹂
あなたは私の予想を遥かに超え
互いにくっ付き合って元に戻ったのだ。
﹁お前⋮⋮本当に不死か
﹁そうよ。私は不死 私は不滅
て強いわ、でも⋮⋮不死の私を殺す事が出来るかしら
!
?
﹁⋮⋮いいだろう。だったらお前が蘇らなくなるまで殺し続けるまで
!?
!
サスケと大蛇丸の激戦は更に加速し、周囲にその影響を広げてい
!
NARUTO 第二十三話
不死不滅。致命傷を負っても瞬く間に元に戻ってしまう化け物大
蛇丸が己を称する言葉だ。
だが実際に大蛇丸は完全な不死不滅という訳ではない。本体であ
る巨大白蛇を殺せばそれで一応の死を迎えるだろう。
アカネから大蛇丸の正体を聞いていたサスケも本体を倒す事が大
蛇丸を倒す事に繋がると理解している。問題はその本体をどうやっ
て探し出せばいいかだ。
サスケの写輪眼では大蛇丸の肉体の奥深くに潜むその白蛇を見抜
く事は出来ない。なのでどうやってか引きずりだすか、肉体もろとも
本体を滅する必要がある。
問題は真っ二つにしたというのにその本体の白蛇が全くの無傷だ
ろうという事だ。胴体を薙いで駄目なら頭部か、それとも心臓付近
442
か、はたまた下半身か。
と に か く 見 当 が 付 か な い の で 手 当 た り 次 第 に 攻 撃 す る し か な い。
そう判断したサスケは全力を出す為に自身に課せられていた修行の
枷を解く事にした。
﹁⋮⋮それは﹂
サスケの行動を見て大蛇丸はまさかと思う。この状況でそんな物
を着けていたのかと。
そう、サスケが解いた枷。それは⋮⋮修行の為に常に着けさせられ
ていた高重量の重りであった。
サスケが両手首と両足首に着けていたその重りを放り捨てる。重
﹂
りが地面に落ちた時の重量感溢れる音と、柔らかい土が減り込む見た
目によりその重りがどれ程の物かは想像に難くない。
﹁あなた⋮⋮そんな物を着けて私を倒すつもりだったの
け感謝している﹂
﹁修行中に攻め込んで来た貴様らが悪い。⋮⋮だが、お前には少しだ
サスケは平然と返す。
本気で舐められたものね。そう怒りを顕わにする大蛇丸に対して
?
﹁⋮⋮どう言う意味かしら
﹁ッ
﹂
﹂
﹂
!
た。
││水遁・水陣壁
││
外ではない。対応が遅れたのは事実だが対応出来ない訳ではなかっ
だが大蛇丸も然るもの。この程度の速度ならば予想以上でも予想
る。
地を蹴って舞った土煙を残し、サスケは瞬速にて大蛇丸の背後を取
重りを外したサスケの速度は大蛇丸の予想以上だった。
││速い
││
﹁おかげで仲間には試せない術が思う存分使えるんでな
その意味をサスケは言葉と共に身を持って教えてやる事にした。
するというのか。
サスケの言葉の意味が理解出来ない大蛇丸。なぜわざわざ感謝を
?
る。
││火遁・豪火滅却
││
水陣壁を見たサスケは体術ではなく忍術へと攻撃方法を切り替え
忍という証拠だろう。
速度に驚愕しつつもすぐに対応して術を選べるのも大蛇丸が歴戦の
も行かないので選んだのが水の性質変化による防御術だ。サスケの
火の性質変化を持つサスケを相手に風の性質変化で防御する訳に
り出す事が出来る。
出す術だ。熟練者になると術者の周囲360度に渡って水の壁を作
チャクラを水に変化させ、術者の口から水を出す事で水の壁を作り
!
である。
つまるところ、サスケは強引に水陣壁を突破しようとしているわけ
所でまさに焼け石に水だろう。
水を掛ければ火は消えるが、森を焼き尽くす劫火に多少の水を掛けた
だが性質変化の相性はあくまで有利不利の話であり絶対ではない。
えないどころか完全な悪手だ。
水の性質変化に対して火の性質変化を用いる。それは定石とは言
!
443
!
!?
サスケの口から放たれた豪炎は大蛇丸の水陣壁を蒸発させてその
まま大蛇丸自身も焼き払う。
だがそれでサスケの攻撃は止まらない。これくらいで死ぬ相手な
らばとっくに殺しているからだ。
水陣壁が蒸発する際の水蒸気を利用してサスケはある仕掛けを施
││
し、そして厄介な水陣壁が無くなった事で更なる追撃を放つ。
││千鳥
口寄せした苦無に千鳥を流し、その切れ味を圧倒的に高めて複数本
投擲する。
その千鳥苦無は岩すら貫通する威力となって焼け焦げた大蛇丸に
命中。その身に幾つもの穴を作り出した。
頭部に二つ、胴体に四つ、両手足に二つずつ。完全に即死のダメー
残念ねサスケ君
﹂
ジだ。全身を攻撃したのは本体にダメージを与える確率を増やす為
である。
だが││
﹁あははははは
!
││
全身に刺さった千鳥千本を何の痛痒にも感じずにそう語る大蛇丸
﹁ち⋮⋮﹂
あなたでは私の真の点穴を見抜く事は出来ないわね﹂
﹁無駄よ。私の点穴はそこではないわ。日向アカネならばともかく、
だが││
の写輪眼が点穴すら見抜けるまでに至ったからこその術である。
点穴を突く事でその戦闘力を奪い去るつもりなのだ。これはサスケ
これは致命傷を与える為ではなく、大蛇丸の点穴を狙った攻撃だ。
針状に形態変化させた千鳥をその名の如く無数に投擲する術だ。
││千鳥千本
も果敢に攻め続けた。
心が折れそうなものだ。だがサスケはそんな大蛇丸の不死性を見て
いくら攻撃しても無意味の如くに復活する様を見せられ続ければ
さに不死身を思わせる再生力だ。
ボロボロとなった肉体の口から新たな大蛇丸が吐き出される。ま
!
!
444
!
を見てサスケは舌打ちをする。
いくら点穴を見抜ける様になったとはいえ、その辺りは白眼の十八
番だ。流石に写輪眼ではこれ以上に大蛇丸の奥深くを見抜く事は出
来ないでいた。
いや、写輪眼で点穴を見抜ける時点で十分なのだが。何せ白眼の持
ち主でさえ点穴を見抜ける者は稀なのだから。
ここでサスケは大蛇丸の言葉からアカネから聞いていた大蛇丸の
弱体化について思いだした。
本体である白蛇に直接チャクラの針を埋め込む事でその点穴を封
じ込め続けるという性質の悪い仕置きをアカネは大蛇丸に施してい
たはずだ。
だがこの大蛇丸は弱体化しているようには到底思えない。いや、こ
れで弱体化していると言うのだろうか。それならば流石は二代目三
忍となるのだが。
﹂
とっくの昔に解除させてもらったわ﹂
ああ、あれね。私がいつまでもあんな術で封じられている
﹁⋮⋮お前、アカネの封印はどうした
﹁封印
と思うのかしら
とうに解けているようだ。
大蛇丸がチャクラの針を取り除いた方法は単純だ。チャクラその
ものを吸収したのである。これは大蛇丸の部下にそういう特殊能力
を持つ者がいたからこその回復手段だった。
尤も、大蛇丸自身すぐにその発想に至らなかったからこそ一度は綱
手に助けを求めたのだが。人間窮すると思考が纏まらないものであ
る。
﹁そうか。じゃあこれで全力って事か。やっぱり大した事はなさそう
だな﹂
﹂
﹁⋮⋮まあそうね。いつまでも舐められているのも癪だし、ここは挑
││
発に乗って上げようかしら
││風遁・大突破
!
大蛇丸が叫びと共に口から暴風を解き放つ。だがこれは攻撃では
!
445
?
サスケにはどうやったのかの見当は付かないが、どうやら弱体化は
?
?
なく目晦ましの為の術だった。
その証拠に大突破はサスケではなく地面に向けられていた。それ
﹂
により発生した膨大な土煙は周囲を覆い隠し視界を零にしてしまう。
﹁無駄な事を
﹂
││雷遁・電磁投射の術
││
したサスケは即座に攻撃を放つ。
他の脱皮体は微動だにしていない事からこれが本体であると判断
た。
そこでサスケは大蛇丸のチャクラを持ち、尚且つ動く物体を発見し
そして周囲を見渡し、写輪眼にてあらゆる物を注意深く観察する。
から飛び立ち土煙から離れて木の枝に着地する。
一旦は土煙から離れて様子を見る。そう判断したサスケはその場
行かない。
いるとは限らないので無駄撃ちをしてチャクラを消費をする訳にも
いっその事全てを焼き払ってやろうかと思うが、本体が土煙の中に
は少ない。
風遁の性質変化を有していないサスケにこの土煙を掻き消す手段
﹁ちっ
蛇丸の本体がどれなのか判断が出来ないでいた。
脱皮体には大蛇丸のチャクラが残されており、それによりサスケは大
だが大蛇丸は土煙の中に自らの脱皮体を複数配置していた。この
いてもある程度は判別する事が出来るのだ。
輪眼はチャクラを色で見分ける事が出来る。それは視界が遮られて
土煙で視界が遮られていようとサスケには関係ない。サスケの写
!
よって磁力をコントロールし苦無同士を引き寄せ合わせる。擬似的
無と殆ど変わらない。投擲した時に雷遁を籠めておき、雷遁の強弱に
電磁石は電気を流した時に磁力を発する。つまり通常は普通の苦
とアカネが開発したオリジナルの術が電磁投射の術である。
コントロールにより磁石苦無同士を空中で引き寄せるというサスケ
流す。そうする事で苦無は電磁石と化すのだ。そして雷遁の巧みな
導線を巻いた特殊な苦無、それを複数本投擲して雷遁により電流を
!
446
!
な磁遁とも言えるだろうか。
最初に投擲した磁石苦無が大蛇丸へ向かうが、それはあっさりと避
けられてしまう。だがそれで問題はなかった。すぐに投擲された新
たな磁石苦無が最初に投擲された磁石苦無を引き寄せ、後ろから大蛇
丸を狙い撃つ。
前方から迫る苦無に集中すればするほど後方の苦無に対しては一
度避けた事もありその存在を感知する事も出来なくなるだろう。し
かも互いに引き寄せあう性質により途中から苦無の速度が上がるの
でその為に目測を見誤る事もある。
確実に命中した。そう思っていたサスケは次の瞬間に驚愕する事
﹂
となる。
﹁なに
不意を突いたはずの二段構えの攻撃が完全に躱されたのだ。
﹂
しかも後ろを見る事もなく後方から迫る苦無を掴み取るという芸
当も披露してだ。
﹁あれを初見で見抜いただと⋮⋮
﹁これは⋮⋮
﹂
貌が顕わになった。
大蛇丸がそう呟くと同時に土煙は霧散していき、そして大蛇丸の全
ないわ﹂
﹁無駄よサスケ君⋮⋮今の私の感知能力にはあの程度の攻撃は通用し
を避けたのだ。一体どういう絡繰なのか。
しかも土煙により視界がほぼ零の状態で前後から迫る高速の苦無
う。
という自覚があった。それだけ特殊で意表を突いた攻撃だと言えよ
サスケ自身、何も知らなければこの術を見抜く事は出来ないだろう
!?
その見た目の変貌、そして大蛇丸の言う感知能力。そこからサスケ
ように変質している。そして両目の周囲には隈取りが現れていた。
頭部には4本の角が生えており、全身の皮膚はまるで爬虫類の鱗の
た。
そこにいたのは大蛇丸だ。だが、その見た目は大きく変貌してい
!
447
!?
﹂
は大蛇丸の変化の答えに行きついた。
﹁まさか⋮⋮仙人モードか
﹂
!?
!
う仙人モードを会得したのだ。
見た目が人間からより蛇に近付いただけだろうが
!
││仙法・白激の術
││
は蛇を脱し、龍へと至ったのよ
﹂
﹁ふふふ。既に私は蛇じゃないわ⋮⋮。完全な仙人の力を手にした私
た。
限に警戒してのその判断は、それ故にサスケを窮地へと陥れてしまっ
あらゆる動きを見逃してなるものか。仙人となった大蛇丸を最大
写輪眼にて大蛇丸を睨みつける。
一瞬でやられてしまう。そう認識してサスケは全神経を集中させて
事実先の攻撃を完全に見切り躱しているのだ。油断しよう物なら
ら説明されて実感はなくとも理解はしていた。
口ではそう言うが、サスケは仙人モードの恐ろしさをアカネの口か
﹁ふん
﹂
分過ぎる時間だった。そして再び訪れた龍地洞にて大蛇丸はとうと
だがこの三年という年月は大蛇丸が自身の肉体を強化するには十
た。仙人モードに耐えうる肉体を持っていなかったのだ。
したのだ。だが大蛇丸はその時はまだ仙人へと至る事は出来なかっ
そこから大蛇丸はその一族の秘密を探り当て、そして龍地洞を発見
つ一族を分析していた。
大蛇丸は実験にて自然エネルギーを体に取り込む特殊な性質を持
そう、この三年間で大蛇丸は仙人モードを会得していたのだ。
な仙人モードに至った私を相手に勝てるかしら
﹁知っていたのねぇ。そう、これが私がこの三年で得た力よ 完全
!
!!
﹁││ッ
﹂
玉を中心に渦巻いて行き、そして炸裂した。
大蛇丸がその口から黒い球を持った白い龍を吹き出す。龍は黒い
!
炸裂した龍は凄まじい光と音を発したのだ。その光量と轟音に思
たサスケに対して、その術は最大限に効果を発揮した。
何が起こっても対応出来る様に注意深く写輪眼でその龍を見てい
!?
448
!
わずサスケは目蓋を落とし目を瞑り、そして耳を塞いでしまう。
咄嗟にその場を離れようとするが、骨すら軋むような轟音にサスケ
の感覚は麻痺してしまいまともに動く事すら叶わなかった。
激しい光で視界を奪い、轟音で聴覚を奪い、空気振動で感覚を麻痺
させて動きを奪う術、それが白激の術だ。
この状況で動く事が出来るのは大蛇丸のみだ。蛇の角膜で視界を
閉じることで光を無視し、体内を液化するという大蛇丸の実験体から
得た能力で音と振動に柔軟に耐える。
白激の術をまともに受けてしまった時点でサスケに対処する手段
は 皆 無 と な っ た。当 然 こ の 大 き な 隙 を 大 蛇 丸 が 狙 わ な い 訳 が 無 い。
颯爽とサスケに近付いて行きその口を大きく、サスケを飲み込める程
に大きく広げてそのままサスケを体内へと捕らえようとする。
体内にてサスケの動きを麻痺させ、ゆっくりと意識を朦朧とさせ、
そして最後にはその肉体を乗っ取る。これで大蛇丸は今までで一番
││ちぃっ
﹂
うとしていた大蛇丸は突如として身を翻しその場から離れる事と
なった。
﹂
何故千載一遇の好機を逃したのか。その理由はサスケと大蛇丸の
間を塞ぐように振り下ろされた巨大な剣が物語っていた。
﹁ここに来て邪魔が入るとは⋮⋮麗しい兄弟愛ねぇ、うちはイタチ
﹁⋮⋮﹂
﹁まるで見ていたかの様に完璧なタイミングでの登場じゃない⋮⋮ど
対峙する。
そんなサスケの傍にイタチは降り立ち、サスケを守る様に大蛇丸と
ケには現状の把握が出来ないでいた。
白激の術自体は既に消えているがその効果がまだ残っているサス
﹁ぐ、ぅ、な、何が⋮⋮﹂
うちは最強の男。うちはイタチである。
そう、それが大蛇丸の邪魔をした男の名。うちはサスケの兄にして
!!
449
強く美しい肉体を手に入れる事が出来るだろう。
﹁頂いたわサスケ君
!?
だがそうはならなかった。後一歩の所でサスケの肉体を飲み込も
!!
うやってここが分かったのかしら
﹂
﹁あれほどの火遁が上がればな⋮⋮﹂
﹁ああ、なるほどねぇ﹂
そう、サスケが放った火遁・豪火滅却は木ノ葉の里でサスケ以外に
使用する者はイタチしかいない。そして豪火滅却は炎が広範囲に広
がるので遠目からでも確認する事が出来る術だ。
イタチはフガクの命令通りに綱手の元に赴き情報を伝え、その後に
暁に対抗する為に動き出していた。
だがサスケの術を確認した為にサスケと暁が交戦中だと判断し、弟
を守る事と暁の数を減らすという名目を同時にこなせるだろうこの
場へと急遽赴いたのだ。
そしてタイミングに関しては大蛇丸の言う通り、見ていたからこそ
の完璧なタイミングだった。
暁はどのメンバーも得体の知れない能力を有する者達だ。そんな
敵を相手に何も考えずに戦闘に参加し、何の情報もないままに未見の
能力で一網打尽にされては堪った物ではない。
けん
そう判断したイタチはサスケが優勢に戦闘を進めていた事もあっ
てまずは大蛇丸の能力を見切る為に忍んで見に回っていたのだ。
そして白激の術の範囲外にてその効果を理解し、サスケを飲み込も
﹂
うとする大蛇丸を牽制する為にサスケの眼前に須佐能乎の剣を振り
下ろしたのである。
﹁これは⋮⋮に、兄さん
は驚きの声を上げる。
﹂
﹁ああ。遅くなってすまなかったな﹂
﹁くっ⋮⋮
安堵と、己への不甲斐なさだ。
超えるべき兄に助けられる。成長し強くなっても未だに兄の手の
平の上に立っているに過ぎないのかと己の不甲斐なさに情けなくな
るくらいだ。
450
?
ようやく視界が元に戻ったのか、傍に立つイタチを確認してサスケ
!?
尊敬する兄に助けられた事はサスケに二つの想いを抱かせていた。
!
そんなサスケを見てイタチはそれを否定した。
﹁そう嘆くな。今のはオレも初見では対応する事は出来なかっただろ
ああ、分かっているさ
﹂
う⋮⋮気を引き締めろよ。奴は強い﹂
﹁っ
﹂
そしてそれは驕りではなかった。真実大蛇丸はそれだけの力を手
るということだろう。
大蛇丸の余裕は崩れなかった。それだけ今の自分の実力に自信があ
現うちは一族で五本の指に入る実力者を二人同時に相手にしても
るというのは魅力的じゃない
ねぇ⋮⋮。加減を間違えてどちらかを殺してしまってもスペアがあ
﹁二対一ね⋮⋮いいわよ。イタチ、あなたの肉体も十分に魅力的だし
さを表している事に他ならないのだ。
それは慰めにはなったかもしれないが、逆に言えば大蛇丸の恐ろし
何物でもない。
イタチですら初見では対応出来なかったという事実は脅威以外の
!
!
おれ達はお前なんぞの替えじゃないんだよ
にしていた。仙人モードとはそれほどの物を秘めているのだ。
﹁ふざけやがって⋮⋮
﹂
!
が、もはやそうも言ってられる状況ではなくなったと判断して全力を
開放する。
すなわち雷遁チャクラモードの発動である。仙人モードの大蛇丸
は完全にサスケを上回る実力を有している。そんな敵を相手にチャ
クラの温存などと悠長な事を言っていられる訳もなかった。
﹂
﹁行くぞサスケ﹂
﹁ああ
して瞬く間に大蛇丸に近づき手刀を繰り出す。
先手はサスケだった。雷遁チャクラモードによる高速移動を駆使
が狂った龍退治に挑む。
雷遁を纏うサスケと須佐能乎を纏うイタチ。うちはの兄弟コンビ
!
451
!
サスケは大蛇丸の不死性に対抗する為にチャクラを温存していた
!
雷遁チャクラモードは体内を走る雷が神経伝達を上げる事で高速
戦闘を可能とし、その上全身を覆う雷が肉体を守る強固な鎧と化す。
そして攻撃においても同様だ。千鳥と同じく一点に集中させた電
撃によりサスケの手刀はあらゆる物を貫く矛となっている。
だが、どれだけ鋭い矛だろうと当たらなければ意味はない。
仙人モードの感知能力は桁違いだ。通常の大蛇丸ならば敢え無く
この一撃を受けていただろうが、仙人に至った大蛇丸は瞬きする間も
ないサスケの攻撃でさえ見切っていたのだ。
紙一重でサスケの手刀を躱した大蛇丸は反撃にサスケへと拳を振
り下ろす。
その攻撃は雷速を手に入れたサスケには余裕で回避出来る速度で
﹂
あった。現にサスケは不適な笑みを浮かべて余裕をもって回避して
いる。
﹁ぐあっ
だが、サスケは理解出来ない攻撃によって大きく吹き飛ばされた。
確実に避けたはずだった。大蛇丸の腕はサスケの肉体には全く触
れずに通り過ぎたはずだった。それは離れていたイタチも写輪眼に
﹂
て確認していた。
﹁これは⋮⋮
致命傷を与えて放置し、その後にゆっくりとイタチを相手にするつ
を刺そうとしているようだ。
吹き飛ばされるサスケに大蛇丸が高速で迫る。ここで一気に止め
訳だ。
つまりサスケにもイタチにもこの攻撃を見切る事は出来ないという
し か も 自 然 エ ネ ル ギ ー は 仙 人 で な い 限 り 感 知 す る 事 は 出 来 な い。
出来るのだ。
の自然エネルギーを術者の体の一部の様に操り、対象に攻撃する事が
仙人モードになると自然エネルギーをその身に纏う様になる。そ
である。
撃。これが仙人モードの特徴の一つ、自然エネルギーを利用した攻撃
経験豊富で洞察力と分析力が高いイタチにも理解出来ないその攻
!?
452
!?
││
もりだろう。だがそれを黙って見ているイタチではない。
││八坂ノ勾玉
﹂
そう考えていた大蛇丸にイタチが言葉を投げ掛ける。
︵やはりイタチを先に仕留めるべきかしらねぇ︶
い。
再生の間に得体の知れない術で封印でもされたらたまった物ではな
大蛇丸ならば先の忍術で致命傷を受けても再生するだろうが、その
計り知れない。
今の八坂ノ勾玉もそうだ。大蛇丸が知らない術であり、その威力は
チは大蛇丸をして何を秘めているのか分からない何かがあった。
純粋な実力ではサスケもイタチに十分追い縋っている。だがイタ
蛇丸は判断する。
やはりうちはイタチはうちはサスケ以上に危険な存在か。そう大
念しサスケに止めを刺すのを断念した。
流石に危険と判断したのか大蛇丸は八坂ノ勾玉を回避する事に専
﹁くっ
を負うだろう。
その威力は凄まじく直撃すれば仙人モードですら致命的なダメージ
これがイタチの須佐能乎の最強の遠距離忍術、八坂ノ勾玉である。
能乎から投擲する。
イタチが写輪眼の瞳の勾玉の形をした巨大なチャクラの塊を須佐
!
﹁大蛇丸⋮⋮かつては二代目三忍と謡われたあなたが何故そこまで堕
﹂
ちた⋮⋮
?
﹁だから言ってるでしょう。目覚めたのよ。木ノ葉の為 下らない
なたも木ノ葉の為に命を懸けて戦っていたはずだ﹂
﹁かつてのあなたはそうではなかったと聞く。少なくともかつてはあ
て平和ボケした木ノ葉に住んでいるとうちはも腐っていくのね﹂
目覚めたと言って欲しいわね。そんな質問をするだなん
﹁堕ちた
?
に命を懸けて戦っていたなんて反吐が出そうよ﹂
だって。愚かしい、どう言おうが所詮は赤の他人よ。そんなものの為
わ。私 は 私 の 為 に 生 き る。猿 飛 先 生 が 言 っ て い た わ ね ぇ。里 は 家 族
?
453
!
そう吐き捨てて大蛇丸は風に乗って眼前に落ちて来た木の葉を振
り 払 い 微 塵 に す る。ま る で 木 ノ 葉 に 対 す る 憤 り を 表 す か の よ う に
⋮⋮。
﹁私にとって忍者とは忍術を扱う者の事。全ての術を手に入れ全ての
真理を理解する事が私の望み。そんな私にとって仲良しこよしのあ
なた達木ノ葉と一緒にいるのはうんざりだったわぁ﹂
﹁そちらの方が下らないな。例え永遠を生きたとしても全ての真理を
手に入れるなど不可能だ﹂
﹂
﹁日向ヒヨリも同じような事を言っていたわね。でも、やってみなけ
れば分からないでしょう
﹁無駄な事は止めて三代目の教えを思い出すんだな。その方が余程身
の為になる﹂
話は完全に平行線だった。大蛇丸の里への想いなど負の感情しか
残っておらず、イタチの言葉など聞く耳も持たなかった。
﹁無駄だ兄さん。こいつは瞳と共に心も閉じている。何を言おうが意
味はない﹂
イタチと大蛇丸が会話をしている間にサスケは態勢を立て直し再
び大蛇丸と対峙していた。
自然エネルギーを利用した一撃は非常に強力であり、並の忍ならば
一撃で即死となっている。だが雷遁チャクラを纏っていたサスケの
防御力はどうにかダメージを最小限に抑えていたのだ。
それでも復帰するのにここまでの時間を要したのだ。感知不能な
威力の高い攻撃。接近戦は不利だとサスケは悟った。
﹁時間稼ぎは終わりかしら。それじゃあそろそろ行かせてもらうわよ
﹂
││
に乗っていた大蛇丸は、サスケが戻って来たのを確認してその力を発
揮し始める。
││仙法・無機転生
生体機能を持たない土や岩、鉱物に生命が与えられ、大蛇丸のコント
大蛇丸が周囲の自然物に自身の生命力を分け与える。それにより
!
454
?
イタチの会話をサスケが戻るまでの時間稼ぎと理解しつつもそれ
!
ロール化に下った。
土遁などの忍術で操る術とはその攻撃速度も術の範囲内でのコン
﹂
トロールも桁が違っていた。恐るべきは仙人の術か。
﹁ちぃ
﹂
!
﹂
﹂
││
!
そしてそれは好手となった。無機転生で操られた自然物はサスケ
で一気に無機転生を焼き尽くすつもりだろう。
迫り来る無機物に対してサスケは火遁で応戦する。範囲の広い術
││火遁・業火滅却
姿勢が崩れたサスケに向かって大地が刃と化して迫り来る。
﹁くそ
んで行った。
ら攻撃に転じた為か空中で姿勢が崩れ、その苦無はあらぬ方向へと飛
サスケは空中で大蛇丸目掛けて苦無を投擲する。だが回避しなが
﹁この
ていただろう。
木ですら操る事が出来ていれば今頃サスケは大蛇丸の餌食になっ
足場を得なければ逃げようがなかったのだ。
出来ていない状況だったが、大地の全てが襲ってくる状況でどうにか
これはサスケも一か八かの賭けだった。大蛇丸の術の詳細が理解
だ。
元から命を持っている木々ならば足場にするに問題はないという事
そう、無機転生は命を持たない自然物に命を与えて操る術。つまり
!
ける。
﹁やるじゃない
﹂
確かに命を持っている木は私にも操れないわねぇ
事も出来ないサスケは木々を足場として利用してその攻撃を躱し続
自然物が牙を剥いて攻撃を仕掛けてくる。大地にまともに降り立つ
しかし大蛇丸の攻撃は止まらない。サスケを追って次々と周囲の
で躱し、イタチは須佐能乎が誇る絶対防御でその攻撃を防ぎ切った。
だがサスケとイタチも然る者。サスケは雷遁による圧倒的な速度
﹁っ
!
!
!
455
!
﹂
の火遁を受けて元の大地へと戻って行ったのだ。
﹁サスケ、オレの傍に来い
││
めるべく術を放つ。
ケが磁石苦無に籠めていた雷遁を一気に活性化させる。
サスケが投擲した磁石苦無が大蛇丸の元に飛来する。瞬時にサス
だが。
単純だが確かに効果的かもしれない。まあ、見破られなければの話
という気だろう。
知能力が高いならば感知しようが避け切れない量の攻撃を加えよう
それらを見た大蛇丸はサスケの狙いを看破した。仙人モードの感
向けて雷光剣化により口寄せした苦無や手裏剣を無数に投擲した。
大蛇丸に向けて磁石苦無を投擲。そしてすかさずサスケは上空に
た。
すでに大蛇丸に破られた術だが、サスケは敢えてこの術を選択し
││雷遁・電磁投射の術
││
安全な足場を得たサスケは接近戦を避けて遠距離で大蛇丸を仕留
なったが、それ故に弱点も増えてしまったわけだ。
そう、それが無機転生の弱点だった。生命を得た事で強力な術と
まったのね。良い実験になったわ﹂
﹁な る ほ ど ね ぇ。生 命 を 得 た が 故 に 炎 の 熱 さ で 大 地 が 元 に 戻 っ て し
めたのだ。
その黒炎を周囲の大地に仕掛ける事でイタチは無機転生を封じ込
手すれば術者にも牙を剥きかねない強力にして危険な瞳術だ。
封印する以外に天照の黒炎を取り除くことはほぼ不可能であり、下
で存在し続けるという。
写輪眼だ。その黒炎はけして消える事はなく、対象を燃やし尽くすま
天照。視界の中で焦点を合わせた空間に黒い炎を生み出す万華鏡
││天照
は自分たちの周囲に万華鏡写輪眼の一つを仕掛ける。
その言葉を聞いたサスケがイタチの元に戻って来た瞬間にイタチ
それを見たイタチは無機転生の弱点を理解した。
!
!
456
!
強力な電磁石と化した苦無目掛けて空中の苦無や手裏剣が一気に
引き寄せられた。だが当然そうなると理解していた大蛇丸は空に向
かって風遁・大突破を放っていた。
仙術となった大突破ならばこの程度の磁力を無視して上空の苦無
を 吹 き 飛 ば す だ ろ う。後 は 高 々 一 本 の 磁 石 苦 無 を 処 理 す る だ け だ。
⋮⋮そのはずだった。
電磁石の磁力は導線を巻いた回数と流される電流の強さによって
変わる。そしてサスケが投擲した苦無には重ならないよう数十回も
導線が巻かれ、その上雷遁により強力な電流が流れている。
つまりこの電磁石は非常に強い磁力を放っているわけだ。空中に
飛来していた苦無や手裏剣は当然の如く⋮⋮地中に隠されていた苦
﹂
無も反応して引き寄せられる程にだ。
﹁なに
これには大蛇丸も驚愕した。空中はともかく、地中の苦無はいつ仕
掛けたのか全く理解が出来なかったのだ。
感知能力が高まり、視界は蛇の角膜で閉ざしているので幻術で騙す
事も出来ない。そんな仙人モードの自分をいつ欺いたのか。
実はサスケは大蛇丸が仙人モードになる前に地面に苦無を仕掛け
ていたのだ。
大蛇丸の水陣壁を業火滅却にて蒸発させた後。水蒸気で視界が遮
られている隙に地面に苦無を仕込んでいたのだ。後の電磁投射の術
に利用する仕込みとしてだ。
一 度 目 の 電 磁 投 射 で 仕 留 め る 事 が 出 来 れ ば 利 用 す る つ も り は な
﹂
かったが、どうやら無駄な仕込みにはならなかったようである。
﹁こんなもので
だが、そんな弱点を術者であるサスケが理解していない訳がない。
避する事が出来る。
られているのだ。つまり磁石苦無から離れれば残りの苦無も全て回
結局は苦無は大蛇丸目掛けてではなく磁石苦無目掛けて引き寄せ
ら離れる。
意表を突かれた大蛇丸だがその素早い感知で咄嗟に動きその場か
!
457
!?
磁石苦無へと引き寄せられていた無数の苦無は突如としてその軌道
まさか
﹂
を変え、大蛇丸目掛けて再び飛翔する。
﹁これは
ないわ
﹂
﹁下らないわね
所詮はたかが苦無 仙人モードの私に効きはし
より動きを硬直させる。これぞ電磁投射包囲の陣である。
うとすれば強力な電撃を浴びてダメージを負い、生き延びても電撃に
撃の壁、電磁結界を作り出す。これで逃げ場はない、結界を抜け出よ
更に大蛇丸を囲む磁石苦無がそれぞれ電撃を放ち大蛇丸を囲む電
ていたのだ。
為にあらぬ方向へ投擲されたのではない。この展開を狙って仕掛け
サスケが無機転生から逃れている時に放った苦無は姿勢が崩れた
さって放電している苦無が映る。そう、サスケの磁石苦無である。
大蛇丸は咄嗟に背後を振り返った。そして大蛇丸の視界に木に刺
!
!
が突き刺さったのであろう。
した磁石苦無である。雷遁により切れ味が増していたのでこれだけ
大蛇丸に刺さったのはたった一本の苦無だけだった。最初に投擲
﹁ふん、所詮はこの程度よ。あなたの忍術では私は殺せないわ﹂
した。
そう判断した大蛇丸は迫り来る苦無をその身で受け、そして弾き返
だろう。
逆に全てを防ぐ事で仙人モードの力をより見せ付ける事になるだけ
苦無程度で多少の傷を負ったとしてもすぐに再生する事が出来る。
る追撃を誘発するだけだろう。
下手をすれば自分が巻き込まれる恐れもあり、風遁は確実に火遁によ
水遁か風遁で防ぐ事も考えたが、水遁では雷遁の力で電気を帯びて
しての矜持みたいなものだ。
して回避していたのはまともに受けるのも癪だという大蛇丸の忍と
た高まっている。苦無程度では多少の傷にもならないだろう。こう
仙人モードは自然エネルギーにより身体能力が向上し防御力もま
!
残りの苦無は大蛇丸に何の痛痒も与える事なく大地に転がってい
458
!?
!
る。サスケが再び電磁投射の術を使用すればまた再利用出来るだろ
うが、それも結局は無意味となるだろう。
﹂
勝ち誇る大蛇丸。そんな大蛇丸に対してサスケは続けて攻撃を仕
掛けた。
││
﹁なら、これでどうだ
﹂
││千鳥流し
﹁ぐっ
!?
││天照
││
││火遁・豪龍火の術
││
的な麻痺を受けた。その隙を狙わない二人ではない。
これには流石の大蛇丸も多少のダメージと、そして電撃による一時
直接電撃を加えたのだ。
れており、サスケと繋がっていた。それに千鳥を流し大蛇丸の体内に
大蛇丸に刺さった唯一の苦無。その磁石苦無にはワイヤーが張ら
!
!
はなかった。
!!
向けて更に豪龍火を放った。
これで、終わりだ
!
すべ
木ノ葉の里の上空はマダラの須佐能乎の攻撃による衝撃で雲一つ
集まっていた。
手を天高く掲げるサスケ。この場の上空にはいつの間にか雷雲が
﹁はぁ、はぁ
﹂
そしてサスケは悶え苦しむ大蛇丸に更なる追撃を加える為に、空に
ら。
く、そしてどれだけ強固な防御力をも無意味とするのが天照なのだか
肉体に燃え移るとその部位を切り落とさない限りは逃れる術はな
かった。
流石の仙人モードと言えどこの連撃は、特に天照は防ぎようがな
﹁ぐあぁあああぁっ
﹂
動で右目から血を流し多大なチャクラを消耗するが、この機を逃す手
そしてイタチもその右目に宿った瞳力・天照を使用する。天照の反
掛かる。
サスケの口から龍を形取った炎が幾数も放出されて大蛇丸に襲い
!
!
459
!?
ないというのに、この場だけにある雷雲にイタチが怪訝に思う。
そしてその怪訝はすぐに理解へと変わった。そう、これはサスケの
﹂
放つ術の為の前準備だったのだ。
﹁喰らえ
麒麟。それがサスケが使用する術の名。対アカネ用に編み出した
サスケのとっておきである。
火遁の熱を大量に利用して大気を急激に暖める事で上昇気流を発
生させ、積乱雲││雷雲││を作る。
雷雲から発生する自然の力、雷。人がチャクラで生み出す雷遁とは
比べ物にならないエネルギー。
それを誘導し敵に叩き付けるという荒業が麒麟なのだ。
サスケが大蛇丸と戦闘を始めてから放った様々な火遁の術に、イタ
チの天照。そして最後にサスケが上空に放った豪龍火の術が決め手
となり、積乱雲は作り出された。
後は積乱雲が発生させる雷を大蛇丸へと振り下ろすのみ。ここま
で来ればもはやチャクラは僅かしか必要としない。術の大本は天に
あるのだから。
││
そしてサスケが天高く掲げたその手を振り下ろした。
││麒麟
﹁⋮⋮﹂
﹁ようやく、くたばりやがったか⋮⋮﹂
存在していた。
る。そこには無残にもバラバラになって焼け焦げた大蛇丸の遺体が
やがて砂煙が晴れ渡り、麒麟の直撃を食らった大蛇丸の姿が現れ
てただではすむまい。
モードと同じ自然のエネルギーを利用した一撃だ。流石の大蛇丸と
麒麟の一撃にイタチも驚嘆していた。これほどの威力、そして仙人
﹁凄まじいな⋮⋮﹂
﹁はぁ、はぁ、どうだ⋮⋮﹂
で大蛇丸付近の大地は消し飛んだ。
天の怒りが大蛇丸目掛けて落ちてくる。轟音が鳴り響き、その衝撃
!
460
!
サスケは消耗激しく、ようやく大蛇丸を倒す事が出来て安堵してい
た。このまま戦闘が長引けば確実に大蛇丸よりも先にサスケのチャ
クラが尽きていただろう。
そうなる前に勝負を決する為に、これほどの大技を連発したのだ。
﹂
だが、その甲斐は⋮⋮どうやらなかったようだ。
﹂
くそが
﹁まだだサスケ
﹁⋮⋮っ
﹂
今のは危なかったわサスケ君 まともに受けてい
れば私でも死んでいたかもしれないわね
!
本人の純粋なスタミナが切れない限りは戦い続ける事が出来るの
膨大であり、それを吸収出来る仙人は消耗してもすぐに回復する。
自然エネルギーは人間が持つチャクラとは比べ物にならないほど
かしらねぇ﹂
ギーのおかげで万全の状態よ。さて、そんな状態で私を殺し尽くせる
﹁あ ら、二 人 と も 大 分 消 耗 し て い る わ ね ぇ。対 し て 私 は 自 然 エ ネ ル
﹁⋮⋮﹂
﹁く⋮⋮﹂
して再び姿を現したのだ。
下深くに潜み、自然エネルギーを蓄えて新たなガワを作り出してこう
そして麒麟はそのガワを砕いたにすぎなかった。本体は悠々と地
ワのみを切り捨てれば本体は問題ない。
天照は触れた物を焼き滅ぼす消えない黒炎だが、天照に晒されたガ
のみを地面の下へと避難させていたのだ。
大蛇丸は豪龍火と天照を受けた時に、その炎を目晦ましとして本体
り大蛇丸は麒麟の直撃を回避していた事になる。
そう、麒麟をまともに受けていれば大蛇丸とて危険であった。つま
!
﹁あはははは
た。⋮⋮完全に無傷の状態で、だ。
麒麟の直撃を受けた大地が盛り上がり、そこから大蛇丸が姿を現し
修行で残心を心掛けていたサスケもそれに気づいた。
油断なく周囲を見据えていたイタチも、勝ったと思いつつも日々の
!
!
!
だ。これも仙人モードの強みであった。
461
!
そして大蛇丸のスタミナは蛇の如くに多くこの戦闘で尽きる事は
まずないだろう。つまり、大蛇丸の衰弱は有り得ないという事だ。
対してサスケとイタチは既に半分以上のチャクラを使い果たして
いた。
大技を連発し、雷遁チャクラモードというチャクラの消費の激しい
術を発動し続けているサスケは持って後数分でチャクラが尽きるだ
ろう。
イタチも天照に須佐能乎というチャクラの消耗が激しいだけでな
﹂
く、肉体への負担も激しい反動の大きな術を連発しているのだ。その
消耗は計り知れなかった。
兄さんを置いてオレだけ逃げろって言うのか
﹁サスケ⋮⋮ここから先はオレだけでやる﹂
﹁なっ
﹁言う事を聞け。もうオレ達でどうにかなる相手ではない﹂
えない事にイタチに苛立ちすらした。
を言い出すイタチが信じられず、サスケは未だに一人前に扱ってもら
イタチの発言はサスケには到底受け入れられない物だ。そんな事
!
﹂
﹁だったら兄さんが下がってろ オレが食い止めておくから援軍で
も何でも呼んで来ればいい
!
││月読
つくよみ
││
そんなサスケにイタチはある瞳術を発動した。
葉にサスケは反発する事しか出来なかった。
だがそれでも自分を犠牲にしてサスケを逃がすというイタチの言
イタチの言葉は忍としては正しく、それはサスケにも理解出来る。
!
それをイタチはサスケに使用した。
せてしまうという恐ろしい術だ。
拷問や対象が見たくないトラウマなどを見せつけ続け、そして発狂さ
現実では一瞬だが、幻術内では何十時間にも引き伸ばされた時間を
の思う通りの幻術を対象に見せる事が出来るのだ。
だがただの幻術ではない。月読は幻術内の時間を引き延ばし、術者
チの左目と目を合わせた対象に幻術を仕掛けるというもの。
月読。イタチの左目に宿る万華鏡写輪眼である。その効果はイタ
!
462
!?
﹁ぐっ
﹂
一瞬。現実時間ではほんの一瞬だが、サスケはイタチが作り出した
幻術世界にてそれ以上の時間を過ごした。
そして現実世界に帰還したサスケはイタチを睨みつけ⋮⋮イタチ
﹂
を無視して大蛇丸に向かって行った。
﹁おおおお
﹁ぐあっ
﹂
ギーによる攻撃を叩きこむ。
紙一重で手刀を回避した大蛇丸はサスケに反撃として自然エネル
だが感知能力が高まっている大蛇丸にその攻撃は通用しなかった。
鋭い手刀を繰り出す。
雷遁チャクラモードによる高速移動で大蛇丸に接近したサスケは
れたかもしれないのにねぇ﹂
﹁くくく。お兄ちゃんの言う事を聞いていれば、もしかしたら逃げら
かった。
それは大蛇丸には兄に逆らう青い少年の無謀な突進にしか見えな
!
ではない。
││八坂ノ勾玉
││
それを逃がすまいと追う大蛇丸だが、それを黙って見ているイタチ
ら遠ざかっていく。
おこうとしたのだ。だがサスケは雷速の反応で大地を蹴り大蛇丸か
大蛇丸がサスケを逃がさない様に自身から離れない位置に留めて
ケだったが、今度は大地に叩きつけられたのだ。
だが若干結果は変わっていた。最初の攻防は吹き飛ばされたサス
サスケは感知出来ない攻撃を受ける。
サスケとイタチが揃ってから始まった攻防を焼き直したかの様に
!?
八坂ノ勾玉によるイタチの牽制に大蛇丸はサスケから離れ、そして
◆
咄嗟に放った八坂ノ勾玉にてイタチは大蛇丸を牽制する。
!
463
!?
イタチに向けて口を開いた。
﹂
﹁まるでデジャブね。でも最初との違いはやはりあなた達の消耗。も
う万華鏡を使う事も厳しいのではなくて
﹁⋮⋮はあ、また下らない説法
いい加減聞き飽きたわ
﹂
て戦っていた頃があったはずだ。三代目の教えを思い出すんだ﹂
﹁大蛇丸、かつての自分を思い出せ。お前にも木ノ葉の為に命を懸け
?
!
﹂
﹁何度も意味のない事を
﹂
お構いなしにサスケは電磁投射の術を放った。
ここで大蛇丸は何かがおかしい事に気づく。だがそんな大蛇丸に
﹁⋮⋮
味はない﹂
﹁無駄だ兄さん。こいつは瞳と共に耳も閉じている。何を言おうが意
放った。
そ ん な 大 蛇 丸 に 対 し て 態 勢 を 立 て 直 し た サ ス ケ が 辛 辣 な 言 葉 を
事を思い出して辟易としたのだ。
大蛇丸はかつての友である自来也にも似たような言葉を言われた
大蛇丸は目の前に落ちてきた木の葉を振り払い叫ぶ。
?
││天照
││
││火遁・業火滅却
││
遁よりはこちらの方が敵に利用されない分マシだろうという判断だ。
眼前の苦無に対しても大蛇丸は無機転生にて対処した。水遁や風
く。これで結界は解除された。後は眼前の苦無を処理するだけだ。
無機転生にて大地に命を与え、そして周囲にある磁石苦無を取り除
も同じ術を喰らえば対処法も編み出す事くらい出来る。
再び大蛇丸に迫る無数の苦無。だが大蛇丸とて馬鹿ではない、何度
!
!
麟はまたも不発となってしまう。
だが大蛇丸は麒麟発生を感知して既に地中深くに避難しており、麒
麟を放った。
そしてサスケは火遁により上空に発生した雷雲を利用して再び麒
じ込める。
サスケとイタチは無機転生が苦手な火遁を放ち、再び無機転生を封
!
464
?
一度通用しなかった術が二度も三度も通用するわけない
﹁無駄よ
﹂
!?
だ。三代目の教えを思い出すんだ﹂
黙れ黙れ黙れェェェッ
!
こ、こんな││﹂
!!
暁に入った事が間違っていたのか
木ノ葉に反逆
?
?
三代目の教えを無視したのが間違っ
それとも⋮⋮。
したのが間違っていたのか
かったのか
チ が サ ス ケ の 助 け に 来 た か ら か サ ス ケ に 勝 負 を 挑 む 時 期 が 遅
こんなはずではなかった。一体どこで間違ったというのだ。イタ
を超え、そして日向アカネの肉体すら手に入れるはずだった。
に入れて龍へと昇華し、うちはサスケの肉体を手に入れて日向アカネ
こんなはずでは。大蛇丸の中に様々な想いが巡る。仙人の力を手
﹁ぎゃああああ
とするが、その術は火遁・業火滅却であった。
それを見て大蛇丸は電磁投射だと判断し無機転生を発動させよう
対してサスケが攻撃を仕掛けようとする。
同じタイミングで同じ様に落ちて来る木の葉に恐怖する大蛇丸に
叫ぶ大蛇丸の目の前に木の葉が舞い落ちる。
﹁だ、黙れ
﹂
出せ。お前にも木ノ葉の為に命を懸けて戦っていた頃があったはず
﹁大蛇丸。お前は既にオレの術中に嵌っている。かつての自分を思い
﹁こ、これは⋮⋮
力で反撃し、だが追撃はイタチの八坂ノ勾玉にて防がれる。
そんな大蛇丸にサスケが接近戦を仕掛け、それを自然エネルギーの
同じ事を繰り返すサスケとイタチに大蛇丸が苛立ちを見せる。
﹂
でしょう
!
﹁そう、運命を決める術⋮⋮イザナミだ﹂
﹁これが兄さんの言っていた⋮⋮﹂
﹁⋮⋮これで、終わりだ。奴はこのループから逃れる事は出来ない﹂
◆
大蛇丸のその苦悩には、今はまだ答えが出ないでいた。
ていたのか
?
?
?
465
!
!
立ったまま一切の反応を見せなくなった大蛇丸の前でサスケとイ
タチが会話を交わしていた。
圧倒的な力を振るい、視覚による幻術を無効化していた大蛇丸を陥
れた幻術。それがイザナミである。
イタチはこのイザナミを大蛇丸に使用していた。だがイザナミの
使用条件は非常に困難であり、その条件の達成の為にクリアしなけれ
ばならない手順をイタチは戦闘中にこなしていた。
その為にイタチはサスケに対して月読を使用したのである。それ
に関してはまずイザナミの使用条件について説明しなければならな
いだろう。
イザナミは視覚ではなく術者と対象の二人の体の感覚によって発
動させる瞳術だ。
行動の中の任意の一瞬、その一瞬の術者と対象の感覚を瞳力にて写
真の様に記憶する。仮にこれをAとしよう。
そしてイタチがサスケに月読を仕掛けた理由。それはサスケにイ
ザナミの説明をする為であった。
イタチは月読の幻術世界でサスケにイザナミの概要と、その仕掛け
方を説明していたのだ。イタチの意思で月読の効果時間は変更可能。
そ し て 現 実 世 界 で は ほ ん の 一 瞬。作 戦 説 明 に は 持 っ て 来 い の 術 で
あった。
そしてサスケはイタチが記憶したAという事象を再現する為にイ
タチに苛立った様に見せて大蛇丸へと突進したのだ。イタチがサス
ケを煽る様な発言をしたのは大蛇丸がサスケの突進に疑問を持たな
いようにさせる為の芝居だったのだ。
全てはイタチの思い描いた通りに事は進んでいた。これにて大蛇
丸は完全に無力化された。⋮⋮イタチの左目の失明を引き換えにし
て。
466
そしてAと同じ体の感覚をわざともう一度再現し、その一瞬を同じ
を作る。
を重ね繋げる事によりそれまでの二つの
ように瞳力で写真の様に記憶しA
イザナミはそのAとA
'
間の時の流れまで繋げて無限ループを作り出す能力なのだ。
'
NARUTO 第二十四話
大地に立ち尽くし虚空を眺め続けている大蛇丸。そんな大蛇丸に
止めを刺すべくサスケは千鳥を振り下ろそうとしていた。
だが、それを止めた者がいる。大蛇丸にイザナミを仕掛けた本人で
あるイタチだ。
﹁待てサスケ﹂
その言葉を聞いたサスケは大蛇丸に触れる寸前の千鳥を静止し、イ
こいつは生かしておいても││ に、兄さ
タチに向かって叫んだ。
﹂
﹁どうしてだ兄さん
ん、その左目は
!?
都合のいい結果のみに運命を変えようとすると同じところを永遠
それを止める為に作られたのがイザナミなのだ。
の良い結果の奪い合いが始まるのだ。
イザナギの術者が一人ならば問題はないが、二人以上になると都合
なったのだ。
ままに変える事が出来る故に術者を驕らせ、個を暴走させる要因と
だが、イザナギには失明以上のリスクがあった。結果を己の思うが
でもやり直せるという究極の幻術だ。
る事が出来る。失明というリスクはあるが眼を交換さえすれば何度
己の結果に上手く行かない事があればその結果を掻き消し元に戻
瞳術だと言われていた。
イザナギは術者の都合の良いように運命を変えるうちはの完璧な
イザナミとはイザナギを止める為に編み出された瞳術だ。
﹁イザナミはその効果と引き換えに失明するリスクを負う⋮⋮﹂
ザナミの反動であった。
イタチの左目が一切の光を映していないのである。そう、これがイ
は吹き飛んでいた。
を止めた兄に憤るサスケだが、イタチの左目を見た瞬間にそんな感情
生かしておいても害悪しかない存在である大蛇丸に止めを刺す事
!?
とループし続ける仕組みだ。
467
!?
だが失明をリスクとするイザナギを止める為に作られたせいか、イ
ザナミもまた失明をリスクとしてしまうのだ。
しかもイザナミは対象を救う為の術。故にイザナミから抜け出す
方法もまた存在している。抜け道のある術など実戦では危険なので
使用出来ない。そういう意味でイザナミは禁術とされていた。
だが、そんな欠陥禁術を使ってまでイタチは何故大蛇丸を止めたと
まさか大蛇丸を救うためってわけじゃない
どうして兄さんがそんなリスクを負ってまで大蛇丸にイ
言うのか。それはサスケにも疑問であった。
﹁何でだ
﹂
ザナミを掛けたんだ
だろうな
実力で自分たちを凌駕し、再生までするという限りなく不死不滅に
近い大蛇丸を倒すのにイザナミを使ったのはサスケにも分かる。
だ が そ の 後 に 止 め を 刺 さ ず に い る と い う の は 納 得 が 出 来 な い 事
だった。抜け出す可能性があるならば今ここで止めを刺すべきなの
だ。だが、イタチの考えは違っていた。
﹂
﹂
﹁今ここで大蛇丸を殺すのは簡単だ。だが、それで大蛇丸は本当に死
ぬのか
﹁なに⋮⋮
そう、大蛇丸は殺しても死ぬのか。それがイタチの疑問だった。
イタチは自来也から大蛇丸の情報を確認している。情報とは戦闘
に置いて非常に重要な要素だとイタチは理解しているのだ。それに
大事な弟を狙っているという大蛇丸に関して調べずにいられるわけ
もなかった。自来也以外にも大蛇丸の元弟子であった人物や、大蛇丸
の人体実験場の跡なども調べている。
イタチは様々な観点から大蛇丸を調べた。そしてその不死に対す
る類まれなる欲望を知ったのだ。
日向アカネの存在は大蛇丸も知っているはずだ。あのアカ
そんな大蛇丸が何の保険も掛けずに木ノ葉に戦争を仕掛けるだろ
うか
ネを敵に回して死の危険はないと驕るだろうか
小評価は死に繋がると知っているのだ。
それはない。少なくともイタチはそう大蛇丸を評価する。敵の過
?
468
!?
!
!
?
?
?
大蛇丸がかつての弟子に施していた呪印には大蛇丸のチャクラが
籠められていた。それもただのチャクラではない、仙術チャクラが
だ。これは自来也が確認したので間違ってはいないだろう。
呪印と共に大蛇丸の意識や魂の一部を封印し、いざという時のバッ
クアップとする。それくらいならば仕出かしかねない恐ろしさが大
蛇丸にはある。そうイタチは判断していた。
﹁ここで殺しても、大蛇丸ならばいずれ何らかの形で復活する。その
手はずを整えていないと、この不死身の男を相手にどうして言える
﹂
﹁それは⋮⋮﹂
イタチにそう言われてはサスケも否定しづらい。本当にそうかも
しれないという不死性を大蛇丸に見せ付けられたからだ。
忍の術には想像もつかない術も多い。そうアカネから教わり固定
観念に捉われるなと言われた事がある。
他の忍ならばともかく、大蛇丸ならばとサスケも思ってしまった。
﹁封印するだけなら、別の方法もあったのだがな⋮⋮﹂
とつかのつるぎ
そう、イタチには大蛇丸に対抗する為の力がまだあった。
十 拳 剣と言い、イタチの須佐能乎に備わっている三種の神器の一
つ。突き刺した者を幻術の世界に飛ばして永久に封印する効果を持
つ剣である。
これならば如何に大蛇丸が不死であろうと関係なく封印する事が
出来る。だが、そうしなかった理由は上記の通りという訳だ。
﹁イザナミは過ちを繰り返す限り抜け出る事は出来ない⋮⋮己の間違
いを認め受け入れて初めてループは終わる。その時は大蛇丸も⋮⋮﹂
不死不滅を求めた根幹。それを思い出した時、その時は木ノ葉の忍
としての自身を思い出しているだろう。そうなればイタチとしては
後顧の憂いがなくなるというものだ。
イタチはけして大蛇丸の為を思ってイザナミを仕掛けた訳ではな
い。自来也から聞いた大蛇丸が狂いだした原因は確かに同情の一つ
もするが、それでも大蛇丸がしてきた事は同情を遥かに凌駕するほど
の罪なのだから。
469
?
ならばなぜイタチは大蛇丸にイザナミを使用したのか。⋮⋮それ
は全てサスケの為であった。
大蛇丸が生きている限りサスケは狙われ続けるだろう。ここで殺
してもどこかで復活する恐れのある大蛇丸だ。殺しても安心し切る
ことなど出来はしない。
だからこそのイザナミだ。イザナミならば大蛇丸の性根を正して
くれる。それだけの力を秘めた術だ。イタチはサスケが永遠に狙わ
れ続ける僅かな可能性よりもイザナミによる矯正に賭けたのだ。
﹁⋮⋮分かった。だが、もし大蛇丸がイザナミから抜け出ても変わっ
ていなかった時は⋮⋮﹂
﹁ああ、その時はお前の好きにしろ。オレも力を貸す﹂
サスケとしては完全には納得出来なかったが、イタチが失明してま
で大蛇丸に僅かな希望を与えたのだ。その兄の意思を無にするよう
な事はしたくはなかった。
折衷案として出したのがイザナミを抜け出た後の大蛇丸の処置だ。
もしそれでも大蛇丸がなんら変わっていなかったら⋮⋮。
イザナミが術としての効果を発揮している以上その可能性はない
が、それで少しでもサスケが納得してくれるならとイタチはその言葉
に了承した。弟の為に失明したというその考えを自分の中で飲み込
んで。
﹁⋮⋮いや、その時はオレ一人の力で大蛇丸を倒す。いつまでも子ど
も扱いは止めてくれよ兄さん﹂
﹁ふ⋮⋮そうだったな。許せサスケ﹂
既にサスケの実力はイタチに迫っている。いや、万華鏡写輪眼がな
ければサスケはイタチ以上と言えるだろう。
だが子ども扱いしないでくれと呟くサスケはやはりイタチにとっ
てはまだ子どもと言える愛しい弟だ。
そんなサスケに対してその額を指で小突くイタチに、それを子ども
扱いされていると見て不満そうに睨むサスケ。
﹁さて、何時までもこうしている訳には行かないな⋮⋮戦闘はまだ続
いている﹂
470
﹁分かっている。だが、オレ達も大分消耗してるぞ⋮⋮﹂
イタチの言う通り、木ノ葉の里ではまだ暁との戦闘が続いている。
だがサスケの言う通り現状の二人はかなり消耗していた。既に写
輪眼を維持する事も難しい状態であり、その戦闘力は通常時の三割に
も満たないだろう。
そんな状況で戦線に加わっても足手纏いになりはしないだろうか。
それがサスケの不安であった。
﹁そうだな⋮⋮取りあえず補給の為に兵糧丸を受け取りに行くか﹂
兵糧丸は食べるとチャクラを回復・増幅させる効果を持つ丸薬だ。
と言っても増幅はサスケ達クラスになると殆ど効果を及ぼさないが。
回復に至っても二人のチャクラ量ならば完全回復させるには大量
の丸薬を食さねばならないだろう。だがないよりはマシだと判断し
﹄
て二人は補給の為に医療施設へと移動しようとして││
﹃っ
││突如として、二人の周囲が爆発した。
◆
フォーマンセル
木ノ葉の里の一角にて木ノ葉の小隊と暁が戦闘を繰り広げていた。
小隊は三代目火影の息子である猿飛アスマを隊長とした四人一組
で、そのメンバーはアスマの弟子であった奈良シカマル・山中イノ・
秋道チョウジのいわゆるアスマ班である。
彼らは暁が攻め込む前に焼肉店にて食事をしていたのだ。そして
ツー マ ン セ ル
暁が攻め入った事でそのまま小隊を組み、暁に対抗しているのであ
る。
ツー マ ン セ ル
対 す る 暁 は 不 死 コ ン ビ と 名 高 い 飛 段 と 角 都 の 二人一組 だ。暁 で も
ツー マ ン セ ル
珍しく二人一組として機能しているコンビである。
ツー マ ン セ ル
というのも暁は二人一組で動く事を基本としているのだが、我が強
い暁のメンバーは二人一組を組んでもまともに小隊としての機能が
働かないのである。
まあ、この二人も我が強い事に変わりはないのだが、それでも二人
471
!?
ツー マ ン セ ル
の特異な能力が噛み合っている為に他のメンバーよりも二人一組と
﹂
して機能しているのだった。
﹁この、化け物め
悪 態 を 吐 き な が ら ア ス マ は 飛 段 に 向 か っ て 火 遁・灰 積 焼 を 放 つ。
チャクラを高熱の灰に変化させて口から吹き出し、奥歯に仕込んだ火
打石による火花で着火させて爆発させる術だ。
灰という粉塵故に広範囲に広まる点ではなく面を重視した術であ
る。その分自分や味方を巻き込まない様に注意する必要があるが。
灰積焼は確実に角都と飛段の二人を飲み込みそして着火、その爆発
は二人に着実なダメージを与えた⋮⋮はずだった。
﹁痛てーじゃねーかおい﹂
飛段は確かに眼に見えるダメージを受けていた。灰積焼の爆発に
より全身の至る所に火傷が見られる。
だがその動きには一切の陰りが見られない。言動からも痛みは受
けているが何ら行動に支障がない様に見受けられ、しかもその火傷は
すぐに消失してしまった。
﹁無駄な事をするな。手間を掛けさせずにさっさと死ね﹂
角都に至ってはダメージすら見受けられなかった。どんなカラク
リがあるのか、先の灰積焼を無傷で切り抜けたらしい。
そして角都の興味はアスマに向けられていた。アスマの忍衣装に
ある火の紋様。それが裏の社会では多額の賞金を懸けられている守
護十二士の証だからだ。
角都は﹁信じられるのは金だけだ﹂と豪語するほどに金に対して執
着心があり、その角都にとってアスマはまさにお宝なのだ。
残りの三人はどれだけ強かろうが角都にとってはゴミに過ぎない。
﹂
せいぜいがここで生き延びればその内いい賞金首になるかもな、くら
﹂
いの感情しか持っていないだろう。
﹁何なんだこいつら⋮⋮
﹁全然こっちの攻撃が効いてないじゃない
飛段と角都は多くの忍を屠ってきた。
チョウジとイノが思わず叫ぶのも無理はない。ここまでの戦闘で
!
!?
472
!
その戦闘でどれだけの攻撃を受けてもすぐに再生するか全くの無
傷かで切り抜けているのをその眼で見たのだから。
﹁⋮⋮﹂
飛段と角都を見てシカマルは思考する。完全な不死身なんてある
わけがない。あったとしても対処法はあるはずだ、と。
飛段は攻撃を受けると傷は負っている。それがすぐに元に戻って
いるだけだ。だが四肢の欠損までは自力での再生は出来ていなかっ
た。つまり修復能力はあれど再生能力はないという事だ。
角都は殆どの攻撃を回避するか、受けても無傷で切り抜けている。
つまりダメージを受けない様にする術か何かがあるだけで飛段のよ
うな不死性はないと予測される。
ここまではいい。問題はその為にどうすればいいかだ。圧倒的に
準備が足りていないのだ。
能力を知っても対処する為の道具や準備がなければどうしようも
ない。それだけの力の差が現状のアスマ班と不死コンビにはあった。
しかも敵の能力は完全に詳細が割れていないのだ。どんな力を隠
し持っているかも分かっていないこの状況でどうやって勝てばいい
のか。
これが野外での遭遇戦ならばどうにかして逃げの一手を打つ事も
出来ただろうが、これは里を舞台とした防衛戦なのだ。ここで退いて
いつ戦うと言うのか。
﹁どうにかして私の術が決まれば⋮⋮﹂
山中一族であるイノは一族に伝わる秘伝忍術を会得している。そ
れが心転身の術だ。対象に自分の精神を直接ぶつけて対象の精神を
乗っ取る術である。これならば確かに勝機は作る事が出来るかもし
れない。
いや、それでも難しいとシカマルは判断していた。心転身の術は精
神を乗っ取った時にその対象が傷つけば術者自身も傷つくというリ
スクがある。不死の敵が相手では一方的にこちらにダメージが蓄積
されるだけという可能性もあった。しかも心転身の術は一度不発し
てしまうと数分は元の肉体に戻れないという欠点もある。うかつに
473
使用する訳にもいかない術なのだ。
強敵の一人を操れば確かに有利になるかもしれないが、まだ敵の能
力が割れていない状況ではリスクが高すぎる作戦だった。
﹁さて、こいつら結構やるからこれを使うとするか﹂
シカマルが僅かな時間に数十もの策を講じている内に飛段が動き
出した。
自身の体から流れていた血を使って地面に陣図を描き、その中に入
る。そして三つの刃がついた異様な大鎌をアスマ班に向けて⋮⋮振
るった。
飛段とアスマ班の距離は大鎌が届く範囲ではないが、大鎌の柄の先
端には縄が付けられており、実際の攻撃範囲よりも遥かに延びて届く
仕組みになっている。
﹂
その大鎌を巧みに操って飛段はアスマ班へと攻撃を繰り返す。
﹁お前ら下がっていろ
﹂
﹂
﹂
!
イノは医療忍者であり特殊な秘伝忍術の使い手であまり体術は得
意ではなく、チョウジは体術は得意だがどちらかと言えば圧倒的な質
量による攻撃がメインで回避はそこまででもない。シカマルは頭脳
はずば抜けて優れているが体術に関してはイノ以上チョウジ以下と
言ったところだ。そんな三人ではこの攻撃を捌く事が出来ないと判
断してアスマは代わりに攻撃をひき付ける。
その間にシカマルが打開策を立て、それを二人がサポートしてくれ
れば。そう頼りに思う程に三人の力が合わさった時の爆発力は侮れ
ない物があるとアスマは確信していた。
だが敵は飛段一人ではないのだ。アスマの思う通りにシカマル達
﹂
の手はずが整うのを待ってくれるわけがなかった。
﹁オレもやる。面倒事は残っているんでな﹂
﹁しゃーねーな。んじゃさっさと終わらせますか
!
474
﹁くっ
﹁きゃあ
﹁うわぁっ
!
アスマは三人を庇う様に前線に立ちその大鎌を捌く。
!
!
げ
る
ぐ
ぐ
││水遁・牙流愚虞
﹂
││
?
共に新たな術を放った。
││
﹁やるな。だが、これはどうだ
ぎあん
││雷遁・偽暗
﹂
次々と迫る水刃の全てを切り裂いたアスマに角都は称賛の言葉と
な刃と化しているのだ。
で出来ており、アスマの風のチャクラ性質を吸収した事で非常に鋭利
このチャクラ刀とは使用者のチャクラ性質を吸収する特別な金属
いていく。
その水刃をアスマは己のチャクラを籠めたチャクラ刀にて切り裂
﹁おおお
マ達を襲う。
放った。高圧水流により鋭い刃と化した水刃が無数に飛び交いアス
角都の左肩から突如として奇妙な面が現れ、そして強力な水遁を
!
﹂
!
﹁させっかよ
﹂
ンの一つであった。
こる。そこを飛段の大鎌が狙いをつける。このコンビの必勝パター
ないが故に致命傷には至っていないが、それでも電撃による麻痺は起
足元の水分を伝って雷遁はアスマにまで到達した。直接命中して
の戦闘を潜り抜けてきた猛者だと理解させる攻撃であった。
え防がれたとしても次の一手に繋がる攻撃を仕掛ける。角都が数多
アスマの周囲の地面は先の水遁により水に覆われていたのだ。例
﹁し、しま││がああああっ
マに直接ではなく、地面に向かってだ。
角都の右肩に現れた新たな面が強力な雷遁を放った。それもアス
!
影真似の術は術者の影を自在に操作し、術者の影と対象の影を接触
その場から離れさせようとする。
し、シカマルは奈良一族秘伝・影真似の術にて麻痺したアスマを操り
イノとチョウジは苦無や手裏剣などの忍具で大鎌を少しでも逸ら
の大鎌の一撃をどうにかして食い止めようとする。
自分たちの先生であるアスマを見捨てる訳もなく、シカマル達はそ
!
475
!
させる事で自身の動きを対象に真似させるという特殊な術だ。
この術で敵の動きを封じて味方の術のサポートをするのが本来の
使い方だが、今回の様に身動き出来なくなった味方を助けるという使
用方法もある。
﹁ぐ、た、助かったぞお前たち⋮⋮﹂
飛 段 の 大 鎌 は ア ス マ の 腕 を 僅 か に 切 り 裂 い た だ け だ っ た よ う だ。
あのまま放置していれば確実に死んでいただろうからこの程度は軽
傷と言えるだろう。
九死に一生を得た事を弟子であり成長した仲間に礼を言うアスマ。
だが、そんなアスマを嘲笑うかのように飛段は大鎌に付着したアスマ
オレと一緒に最高の痛みを
既にてめーはオレに呪われた
さアァ
無駄だ無駄だ
の血を舐めて笑い声を上げた。
﹁ゲハハハハハ
﹂
これより儀式を始める
味わおーぜェェ
!
﹃っ
﹄
﹁ぐあっ
﹂
き刺した。
如く、飛段は鋭く細い槍状の武器を懐から取り出し⋮⋮己の左足に突
の言う呪いという、アスマ達が理解出来ないその言葉を実証するかの
いつの間にか全身に黒い紋様が浮かび上がった飛段。そんな飛段
!
!
どうしてアスマ先生まで││﹂
﹂
前に目の前でアスマが痛みに呻き出した。
﹁アスマ
﹂
﹁な、何で
﹁先生
!?
三人が見ればアスマが手で抑えている左足からは血が流れ出して
いる。先程まではそんな箇所に攻撃を受けた様子は確かになかった。
しかも血が出ているのに何故衣服には傷一つないのか。
しかも飛段が突き刺した左足の太ももと、アスマに突如として現れ
た傷の箇所は完全に一致していた。ここまでの一致が偶然の一言で
476
!
!
!!
意味不明な行動にシカマル達は誰もが唖然となり、その真意を問う
!?
!?
どうしてアスマまで、飛段と同じ左足に怪我を負っているのか。
!?
!?
片付けられていいのだろうか。
しじひょうけつ
もちろんそんな偶然などあるわけがない。これこそが飛段の最悪
の呪術・死司憑血の効果である。
地面に描いた図の上に立ち、そして呪いたい対象の血を舐めて体内
に取り入れる。これが死司憑血の発動条件だ。
そしてその状態で自身の肉体に傷を与えると、血を取り込んだ対象
の肉体にも同じ傷が浮かび上がる。
これだけならば相打ち用の自爆技とも言えなくもない。だがこの
呪術の術者は不死身の飛段であり、対象は不死身ではない。
だ が 急 所 は こ ん な も ん じ ゃ ね ー
つまりこの状況になれば一方的に相手にのみ致命傷を与えること
が出来るという訳だ。
ゲ ハ ハ ハ ハ
あの痛みは最高だ
﹁痛 て ぇ だ ろ
ぞォォ
﹂
他人が死ぬ時の痛みがオレの身体
痛みを通り越して快感に変わるゥ
!
イノ
﹄
﹂
!
見過ごす角都ではなかった。
転身の術のみ。チョウジがそう判断して二人に叫ぶが、それを黙って
この状況を覆す事が出来るのはシカマルの影真似の術とイノの心
﹃分かってる
﹁シカマル
の動きは止まりようがないのだ。
遠距離から飛段を攻撃してはアスマが傷つくだけで、不死身の飛段
い。
来た。ならばそれを止める為には飛段の動きを止めなければならな
飛段がダメージを負えば同じダメージをアスマが負う事は理解出
状況をどうにかすべく思考を張り巡らせ行動を開始していた。
シカマル達は飛段のその狂い様を見て青ざめるが、それ以上にこの
狂人と言わずにどう言うのか。
しかも他人の死すら快楽を彩るスパイスとしているのだ。これを
け止める者など飛段以外にいるのだろうか。
る。そういう性癖の人間はいるが、死すら厭わぬ痛みを以ってそう受
完全に狂人の嗜好であった。痛みを苦として受け入れず快楽とす
の中に染み込んで来る
!
!
!?
!
!
477
!
!
││
﹁何をする気かは知らんが、邪魔はさせん﹂
あつがい
││風遁・圧害
﹄
﹂
!!
﹂
これは⋮⋮﹂
無事なの
傷には至っていないようだ。
?
た。
!?
││っ
!?
少女の姿を。
﹁てめーか
﹂
数十メートルは離れた位置から掌をこちらにかざしている一人の
し、そして発見した。
誰かが遠距離から槍をへし折った。そう悟った飛段は周囲を見渡
に左胸に傷を作るしか出来なかっただけだったのだ。
が己の心臓を突き刺す瞬間に、その槍が根元からへし折れた為に僅か
そう、飛段の術の効果はアスマ達が予想していた通りだ。だが飛段
元から折れており、鋭く尖った先端は大地に転がっていた。
飛段はそう叫んで右手に持っていた槍を投げ捨てた。その槍は根
﹁⋮⋮誰だ神聖な儀式の邪魔をした奴はよぉ
﹂
やるアスマ班だが、そこには怒りに振るえている飛段の姿が映ってい
飛段の術に対する予想が間違っていたのか
そう思い飛段を見
アスマ本人も不思議がっており左胸を抑えている。どうやら致命
⋮⋮左胸付近からは僅かに血が流れているが、それだけだ。
だが結果は全員の想像とは違った物となっていた。アスマの心臓
﹁先生
﹁っ⋮⋮ん
いないだろう。
を貫かれた事になる。⋮⋮その結果が理解出来ない者はこの場には
飛段とアスマのダメージはリンクしている。ならばアスマは心臓
﹁アスマァァッ
い槍を突き刺した。
そしてシカマル達が動きあぐねている中、飛段は己の心臓にその鋭
はその対応に精一杯で飛段の動きを止めるどころではなかった。
角都から新たに現れた別の仮面が強力な風遁を放つ。シカマル達
﹃うわあああぁっ
!? !
!?
?
!
478
!?
儀式の邪魔をした張本人を見つけた飛段は制裁を加える為に大鎌
﹂
を振りかざそうとするが、大地からの奇襲によりそれを阻止される事
となる。
﹁ひゃっほう
わず舌打ちをする。
やってくれたなてめー
!!
する。
﹁良く分かったなシノ
あの図を破壊すりゃいいってよ
﹂
!
﹂
シカマル達は希望の笑みを浮かべる。
﹁お前ら⋮⋮
﹁へっ、苦戦してんじゃねーかシカマル
﹂
!
⋮⋮﹂
﹁アスマ先生
みんな
私たちも加勢します
﹂
!
◆
戦いにも││
窮地に陥っていたアスマ班に援軍が現れた。そして他の木ノ葉の
!
﹁あまり強い言葉を言うものじゃない。なぜなら、弱く見えるからだ
てもいいぜ
オレらに任せて休んでい
怒りを顕わにする飛段を無視して談笑する三人。その三人を見て
﹁ううん、私には分からなかったからやっぱりすごいよシノ君﹂
然の事だからだ﹂
﹁そうでもない。なぜなら、敵の用意した物を怪しむのは忍として当
!
そしてその傍に槍を破壊した少女と図を破壊した少年と犬が集合
が一人立っていた。
その言葉に飛段は後ろを振り向く。そこには先ほどとは別の少年
﹁その反応。どうやらその図がお前の術には必要な様だな﹂
﹁ちぃっ
﹂
その攻撃は飛段が立っていた図を破壊した。それを見て飛段は思
により大地を削りながら地中を進んで来たようだ。
大地を削りながら現れたのは一人の少年と一匹の犬だ。高速回転
!
!
!
!
479
!
鬼鮫は襲い来る木ノ葉の忍の全てを返り撃ちにしていた。
水遁は水がない所ではその規模が縮小されるというのが一般的な
忍の常識だ。
だが鬼鮫はその常識を無視する程の水遁使いであり、しかも得意な
フィールドを自ら作り出す事さえ出来るのだ。
これも鬼鮫が有している圧倒的なチャクラの量による代物だ。そ
して鮫肌という特殊な大刀を得物としている鬼鮫に対抗出来る忍は
いなかった。
既にどれだけの忍が犠牲となっているか。水遁に強いはずの土遁
使いも木ノ葉には少なからずいるが、その相性の差を覆す実力を鬼鮫
は有していた。
土遁を得意とする岩隠れの忍ならばもしかしたら鬼鮫に対抗する
事も出来たかもしれないが、火遁を得意とする者が多い木ノ葉の忍に
とって鬼鮫は鬼門と言っても良い敵だった。
ける。
これまでの忍とは一線を画すその貫禄と放たれる気配から余程の
大物だと理解したようだ。
そしてその忍は鬼鮫の言葉に対して返事を返した。
480
﹁忍五大国最強と言われる木ノ葉も案外大した事ないんですねぇ。こ
れなら霧隠れの方が歯応えが││﹂
その呟きは最後まで言葉として発する事は出来なかった。
攻撃を受けた訳ではない。誰かに話しかけられたが為に遮られた
のではない。
ならば何故か。それは⋮⋮無駄口を叩く余裕もなくなる程の敵意
﹂
をその身に受けた為だった。
﹁これは⋮⋮
﹂
?
崩れ掛けた建物の上に立ち自身を見下ろすその忍に鬼鮫は問い掛
名前を伺っても
﹁次のお相手はあなたのようですねぇ。どうやら大物のご様子⋮⋮お
主を発見した。
鬼鮫はプレッシャーを感じ取った方向に振り向き、そしてその持ち
!
﹁貴 様 に 名 乗 る 名 な ど な い。だ が、こ の 言 葉 だ け は 魂 に 刻 ん で お け
⋮⋮日向は木ノ葉にて最強。来世があるならば思い出す事だ。我ら
ならばその言葉が真実
!
﹂
に敵対せぬようにな
﹂
!
たのだが⋮⋮。
﹁うう⋮⋮﹂
﹁まだ息があったか。せっかくだ。うずまきナルトはどこだ
﹂
痛みを振りまいていただろう。それならばまだ各個撃破の目があっ
そうでなければペインは六道をばらばらに動かして木ノ葉の里に
た事が逆にペインを警戒させていた。
実力が高くなまじ善戦をしてペインの能力の多くを里に持ち帰らせ
六体が揃ったペイン六道に勝てる忍は居はしなかった。自来也の
られ回避されるのが殆どだ。
撃を無効化される以前に輪廻眼による視界共有で全ての攻撃は見切
いや、そもそも単純な実力で圧倒的な差があるのだ。この二体に攻
理攻撃の多くは天道に弾かれる。
多くの忍が様々な攻撃をするも、術の多くは餓鬼道に吸収され、物
た所で無意味と言わんばかりであった。
その力は自来也が齎した事前情報により警戒を重ねて作戦を練っ
圧倒的な力を振るい木ノ葉に痛みを与え続けるペイン六道。
二人の強者がぶつかり合った。
尾を持たない尾獣、霧の怪人干柿鬼鮫。
日向当主にして一族最強の男、日向ヒアシ。
かどうか、確かめさせて頂きましょう
日向の御大ですか
﹁これはこれは⋮⋮
!
記憶を抜き取ろうとする。
だがペインはそれをむしろ幸いだと利用し、その頭を掴み魂と共に
無数の忍が返り討ちにあった中、一人の忍が命を長らえていた。
?
481
!
どれほど強固な精神をしていようと、魂から直接記憶を盗み見る人
間道の力の前では無力だ。数秒も経たずにこの忍は知っている情報
を洗いざらい読み取られるだろう。
だがその前に人間道はその忍から手を放した。記憶を読み取り終
わった訳ではない。そうする前に手を放さざるを得ない状況に陥っ
たのだ。
﹁⋮⋮大した物だ。このペインを相手にここまで気配を感じ取らせな
いとはな﹂
﹁⋮⋮﹂
人間道がゆっくりと首を動かし、ある人物に語りかける。
そこには忍刀を右手に携えて左手に先の忍を抱えている一人の老
人の姿があった。
そう、この老忍に切り掛かられた為に人間道は咄嗟に記憶を読もう
とした忍から手を離したのだ。
﹂
││
!
それにより真空玉は一つ一つが豪炎と化し、威力を高めてペイン六
道へと襲いかかる。
咄嗟の判断で天道がその力││神羅天征││にて全ての豪炎を掻
482
﹁一人か。このペイン六道を相手にそれは自殺行為だな﹂
残る五人のペインもその老忍を取り囲む。一対六。かの二代目三
忍自来也でさえ覆せなかった戦力差だ。この老忍にそれを覆すこと
が出来るのだろうか。
││
老忍はペインの言葉には耳も傾けずに忍術を放つ。
││風遁・真空玉
﹁
││火遁・豪炎の術
い、そしてそれは老忍の予想通りの反応であった。
この程度の術など餓鬼道で吸収するまでもない。そうペインは思
﹁下らぬ。この程度の術││﹂
取っては児戯と言っても良いレベルの術であった。
老忍の口から数発の真空の弾が放たれた。だが、それはペインに
!
突如として現れた新たな老忍が真空玉に向けて火遁の術を放った。
!?
き消した。
その判断力は流石は暁を統べる者というべきだろう。だが、能力を
使用した瞬間を狙う者達がこの場には隠れ潜んでいた。
││
││
││水遁・水龍弾の術
││風遁・真空波
!
﹂
ダンゾウのじいちゃん
はインターバルがあるようですね﹂
﹁大丈夫か三代目様
﹂
!
ダ ン ゾ ウ 様 に 失 礼 で し ょ
!
にはもう安心だぜ
﹁じ い ち ゃ ん っ て ⋮⋮ ち ょ っ と オ ビ ト
﹂
オレ達が来たから
﹁なるほど。やはりフカサク様が仰った様にあの術を弾き返す能力に
事となった。
だがその行動が天道の能力に限界がある事を木ノ葉の忍に教える
る。
る。どれだけ強力な術だろうと忍術ならば餓鬼道の前では無力とな
無防備となった天道の前に餓鬼道が現れてその合体忍術を吸収す
この合体忍術はその隙を狙っての攻撃だったのだ。
ある。
ある欠点があった。それが術と術の間に必要とするインターバルで
斥力を操りあらゆる物理的な攻撃を弾く事が出来る神羅天征にも
それに対して天道は神羅天征にて術を弾く事が出来ないでいた。
﹁っ
天道へと迫って行った。
二つの術が同じチャクラ比率で合わさった事で更に威力を増して
の真空波が後押しして水龍の圧力を更に高める。
水で形作られた龍がその勢いで敵を圧殺しようと迫り、それを風遁
!
!
!
はおらんだろうな
﹂
ゾウ。四代目の弟子にして日向アカネの弟子でもあるはたけカカシ・
三代目火影猿飛ヒルゼン。根のリーダーにして裏の火影志村ダン
﹁ふん、お主の風遁に完全に合わせておっただろうが﹂
?
483
!
﹁⋮⋮構わん。ここでは無礼講とする。それよりもヒルゼン、衰えて
!
うちはオビト・野原リン。
ペイン六道の前に五人の忍が立ちはだかった。
毒と傀儡。この二つの武器でサソリは木ノ葉の里を蹂躙していた。
それ以外の忍術らしい忍術は使用せず、したとしてもそれは人傀儡
が放つそれのみ。
毒も傀儡に仕込ませている武器だ。つまりサソリは傀儡人形の力
のみで木ノ葉と言う大国を相手取り蹂躙しているのだ。それだけサ
ソリが傀儡師として優秀だという事である。
だが、意外にもサソリの相手をした木ノ葉の忍の中で毒によって死
んだ者は少なかった。
サソリがその身体から生やしている蛇腹状の刃の尾にはかすり傷
484
一つでも死に至る毒が塗られている。
だがそれで死んだのは致命傷を負った忍のみで、多少の傷ならば物
ともせずに動いていたのだ。毒による朦朧もなく攻めて来る忍を見
急に毒で死ぬ忍が少なくなった︶
てサソリは怪訝に思っていた。
︵どういうことだ
毒の入手、調合配分の検査、解毒薬の調合。これだけの事を僅かな
やって入手したと言うのか。
だと言われている。その毒に対する解毒薬をこの僅かな時間でどう
その配合率を見抜くのはサソリの師であったチヨバアにも不可能
特別製の毒もサソリが手ずから配合したものだ。
サソリは傀儡人形の造詣以外にも毒に対しても非常に詳しく、この
ん﹂
﹁馬 鹿 な。オ レ の 毒 に こ の 短 時 間 で 解 毒 薬 を 作 っ た な ど ⋮⋮ 有 り 得
は見られるのだがいつの間にか治療されているというべきか。
だが突如として毒の効き目が薄くなったのだ。いや、効いている節
発揮していた。
そう、急になのだ。奇襲を仕掛けた当初は毒は非常に有効に効果を
?
時間で出来る者などいるわけがない。
だが実際にサソリの毒は大部分が無効化されてしまっている。一
体どういうことなのか。それを調べる為にサソリはわざと生かして
おいた忍をその尾で持ち上げた。
﹁う、うう⋮⋮﹂
﹁おい、きさまは解毒薬を持っているだろう。見せろ﹂
﹁な、何の事だか分かりませんね⋮⋮﹂
眼鏡を掛けたその忍はサソリの言葉に対して不敵に笑ってそう白
を切る。そう、白を切ったのだ。つまりこの忍は解毒剤を持っている
のだ。
何 故 木 ノ 葉 の 忍 が 暁 の サ ソ リ の 毒 に 対 す る 薬 を 持 っ て い る の か。
その答えは春野サクラにあった。
サクラは砂影奪還の任の時にサソリの毒にやられた砂の忍を診察
し 解 毒 し た。そ の 際 に 毒 の 配 合 を 見 抜 き 解 毒 薬 を 作 っ て い た の だ。
サソリとの戦闘に控えて砂隠れの里にあった薬草を調合することで
解毒薬を三つ用意していたサクラだったが、暁が早々に退き上げた事
でその解毒薬は使用される事はなかった。
だが役に立たなかった訳ではない。いずれ暁が攻め込んで来るだ
ろうと予測していた綱手はサクラに解毒薬の量産をさせていたのだ。
そして今回の暁侵攻により、サソリに立ち向かう忍に解毒薬が普及し
たのである。
そうと知らないサソリは半死半生の忍に問い掛ける。もっとも、サ
ソリとしてはいちいち死体を探って解毒薬を見つけるのが手間だか
らこそこうして直接確認しただけであり、教える気がないならわざわ
ざ生かすつもりもなかった。
﹁そうか、なら死ね﹂
躊躇なくその尾を振り払い忍を空中に投げ捨て、止めを刺そうとす
るサソリ。
だがその前にサソリに対して奇襲を仕掛けた忍がいた。いや、忍と
言ってもいいのだろうか。それはまだ年若い少年だった。
いや、確かに少年は忍ではある。だが少年はまだアカデミーを卒業
485
して間もない下忍であった。
木ノ葉を襲う暁は誰もが恐ろしい使い手だ。アカデミーを卒業し
たばかりの下忍が相手に出来る代物ではない。事実少年も暁の猛攻
に怯えて隠れ潜むしか出来なかった。
それでも少年は恐怖を振り払い暁に立ち向かった。殺されそうに
なった恩師を助けるために。
﹁おっと﹂
そんな少年に対してサソリは無造作にその尾を振るった。所詮は
ガキ、どうという事はないとばかりに。
だがその結果を見てサソリは眼を見開いた。少年は影分身を用い
て小さいが確かに螺旋丸を作り出し、サソリの尾を破壊したのだ。
ここは私が時間を稼ぎますから
これにはサソリも驚きだった。そして冷徹な眼でこの結果を生み
出した少年を見下ろした。
﹁う、うう﹂
﹁に、逃げなさい木ノ葉丸君⋮⋮
﹂
てしまう。
無理もない。如何に才はあろうがまだ少年なのだ。そんな木の葉
丸を見て死に体だった忍、エビスはその身体に鞭を打ってどうにか木
ノ葉丸を逃がそうとする。
﹂
﹁に、逃げない。オレは、ナルトの兄ちゃんと火影の名を賭けて、いつ
か勝負するって約束したんだ
それから木ノ葉丸はナルトを目指して進むようになった。だから
け止め、そして火影を目指すライバルだと言ってくれたのだ。
だがナルトは違った。木ノ葉丸を等身大の木ノ葉丸として見て受
た。
彼もが火影の孫として自分を見て、木ノ葉丸として見てくれなかっ
そんな時に木ノ葉丸はナルトと出会い、そして変わったのだ。誰も
でちやほやされていた事に嫌気が差していた頃の事だ。
それは木ノ葉丸がまだ幼く、そして三代目火影の孫という立場だけ
!
486
!
サソリの生み出した圧倒的な圧迫感に少年は、木ノ葉丸は気圧され
!
木ノ葉丸は逃げ道を選ばない。その先に、尊敬するライバルはいない
﹂
と知っているのだから。
﹁うおおお
﹁木ノ葉丸君⋮⋮﹂
大きく成長した木ノ葉丸を見て、そしてその成長を促したのが里の
嫌われ者と言われていたナルトだと理解して、木ノ葉丸の教師役だっ
たエビスは嬉しく思う。
だが、どれだけ木ノ葉丸が精神的な成長を見せようと敵は暁。その
差は果てしなく、残酷なまでに大きかった。
再び作り出した螺旋丸をサソリに叩きつけようとするが、奇襲です
らないそれはサソリには完全に見切られていた。
注意すべきは螺旋丸のみ。それ以外は突出した動きも見られない
下忍の域を出ない忍だ。
エビスはどうにかして木ノ葉丸を救おうと足掻くが、サソリによっ
てボロボロとなったその身体は意思に反してまともに動いてはくれ
なかった。
サソリが半ばから砕けた尾を振るう。それだけで木ノ葉丸はこの
世を去るだろう。
﹂
そんな未来を見たくなく、思わずエビスは眼を背けてしまった。
﹂
﹁⋮⋮お前、何者だ
﹁⋮⋮
?
﹂
エビスは恐る恐ると眼を開き、そしてサソリの前に立つ一人の少年
を見た。
﹁な、ナルト兄ちゃん
慌てたナルトはすぐに木ノ葉に帰ろうとしたが、ナルトの仙術修行
事実を妙木山へ持ち帰り、ナルトやフカサク達に伝えたのだ。
暁によって攻め込まれた時に木ノ葉に残していた連絡用の蛙がその
ナルトは妙木山にて仙術の修行に明け暮れていた。だが木ノ葉が
であった。
そう、その少年はうずまきナルト。暁が求めていた最終目標その人
!
487
!
その言葉はエビスが想像した未来にはない言葉だ。
?
には一つ問題があった。
それはナルトの中に封じられている九尾のチャクラのせいでナル
トとフカサクが仙法両生の術にて融合する事が出来ないという事
だった。
こ れ で は 戦 闘 中 に 仙 人 モ ー ド に な る 事 は 難 し い と 言 え る。仙 人
モードになるには自然エネルギーを吸収する必要があるが、その為に
は一切の身動きをしてはならないのだ。戦闘中にそんな事をすれば
致命的な隙を作ってしまうだろう。
それを防ぐのが仙人蛙との融合なのだが、ナルトはそれが出来な
い。ならばどうすればいいのか。
その答えに行きつくのに少々の時間が掛かってしまったのだが、ナ
ルトは独自のアイディアでそれを解消し、こうして木ノ葉に戻って来
たのだった。
﹁おう、良く頑張ったな木ノ葉丸。流石はオレのライバルだってばよ
﹂
邂逅一番、ナルトのその言葉は木ノ葉丸にとって最高の言葉だっ
た。
思わず目頭が熱くなるが、敵を前にして泣くわけにはいかないと木
ノ葉丸は顔を拭う。
﹂
﹁木ノ葉丸。エビス先生を連れてここから離れてろ﹂
﹁でも
﹂
!
﹂
!
﹁ターゲットが自らのこのこと現れるとはな。先ほどのガキも無謀に
現れたのだ。他の有象無象など放って置いても何の支障もない。
それをサソリは黙って見ていた。当然だ。目の前に最高の獲物が
場から離れていく。
木ノ葉丸はすぐにエビスを抱え、ナルトの邪魔にならない様にその
その言葉と笑顔は木ノ葉丸に何の疑いも抱かせなかった。
﹁⋮⋮うん
﹁大丈夫だ。オレに任せとけ
木ノ葉丸にナルトは自信満々に答えた。
一人で暁に挑もうとするナルトを木ノ葉丸は案じる。だが、そんな
!
488
!
﹂
も実力差を省みずにオレに挑んできたり⋮⋮木ノ葉には馬鹿しかい
ないのか
サソリの馬鹿にしたような物言いに対してのナルトの返答は⋮⋮
﹂
サソリには見切る事が出来なかった。
﹁││ッ
一瞬。ほんの一瞬でナルトとサソリの間にあった距離は零となり、
ナルトが放った螺旋丸がサソリの肉体を打ち砕いた。
﹁⋮⋮それがてめーの本体か﹂
いや、砕いたのはサソリの肉体ではなかった。今まで木ノ葉の忍が
サソリだと思っていたのはサソリが操る傀儡人形の一つ、ヒルコだっ
たのだ。
サソリはヒルコの中に潜みそこからヒルコを操り行動していたの
だ。そしてサソリはナルトの攻撃が回避不可能と悟り、ヒルコを破棄
して脱出する事で難を逃れたのである。
﹁やるな⋮⋮まさかオレ本体が出張る事になるとはな﹂
﹂
﹁うっせーよ。木ノ葉をこんなに無茶苦茶にしやがって⋮⋮ぶっ飛ば
してやる
仙人に至ったナルトと百の傀儡を操るサソリが戦闘を開始した。
489
?
!?
!
NARUTO 第二十五話
アスマ班の危機に駆けつけた夕日紅上忍が率いる第八班、通称紅
班。
だが担当の紅は妊娠中の為とても戦闘に参加する訳にも行かず一
般人と共に避難している。
なのでこの場に現れたのは日向ヒナタ・犬塚キバ・油女シノの三人
の中忍だけである。
三人が援軍として駆けつけて来たおかげでアスマは九死に一生を
得た。だがアスマのその心境は複雑であった。
確かに援軍は心強い。だが彼らはまだ中忍の身だ。現在アスマ達
が戦っている敵はあまりにも強大であり、中忍レベルが何人集まろう
とも焼け石に水と言える程の実力差があった。
アスマも紅班の実力は知っている。三年前の時点ではアスマ班と
﹂
た形状のチャクラ刀││を両手に構えて叫ぶ。
捨て駒となるのは自分。それ以外の者ではこの敵を相手に撤退の
あんた一人で死ぬ気かよ 足止めならオレがやる
為の時間稼ぎすら出来ないと判断しての考えだ。
﹁ふざけんな
﹂
!
!
!
490
比べてそれほどの差はないレベルだった。この三年間で強くなって
いるだろうがそれも予測が出来るレベルだろう。
つまり自身の班員であるシカマル・チョウジ・イノと極端には変わ
らない実力だと予想していた。それでは駄目なのだ。
いや、シカマル達もキバ達もそれぞれ突出した一芸とも言える秘伝
忍術や血継限界を有している。これは普通の忍にはない強みであり、
彼らをそこらの中忍と比べて一際輝かせる武器となっている。
それでも、それでも暁との間には果てしなく高い壁があるのだ。今
は退き、情報を持ち帰り、準備と戦力を整えてから再び暁と相対する。
一旦退け
それが今するべき最適な戦術。その為の捨て駒となるのが⋮⋮。
﹁お前ら
!
アスマはアイアンナックル││メリケンサックとナイフが合体し
!
オレの能力の方が最適だ
!
﹂
﹁お前なら理解しているはずだ
言う事を聞け
今はこれが最善の手だ
オレの
!
しじひょうけつ
!
まだ時間を稼ぐ事が出来るのだから。
アスマ先生だけ置いていくなんて出来ない
﹂
何故なら紅班に押し付けた方が片足が傷ついているアスマよりも
にしたくなく、自己犠牲に殉じたいだけなのだ。
かもしれない。シカマル達もキバ達も未来ある若者だ。彼らを犠牲
いや、最善の手などと言っても所詮はアスマの言い訳に過ぎないの
る技量はまだ持ち合わせていなかった。
闘能力が優れないイノは論外であり、チョウジも複数の敵を相手に粘
そしてイノとチョウジもまた足止めには向いていない。純粋な戦
い。その為にシカマルを残すという選択肢はない。
理解し反撃の策を思いつくにはシカマルが生き延びなければならな
だがシカマルの真骨頂は術ではなくその頭脳にある。敵の能力を
止めにはシカマルの言う様に奈良一族の術が確かに最適だ。
そして撤退する為にはどうしても足止めが必要になる。そして足
わない。
の為には必要な準備という物がある。一度撤退しなければそれは叶
この情報があれば飛段の能力を逆に利用する策も取れる。だがそ
に立つ事だと。
発動条件は呪いたい対象の血を取り入れる事と、地面に描いた図の上
シ カ マ ル は 既 に 飛 段 の 能 力 を お お よ そ 理 解 し て い た。死司憑血 の
は一人を犠牲にして一度撤退する事だと。
そう、シカマルとて理解しているのだ。この状況で最も正しい行動
いとばかりに叫んだ。だがアスマはそんなシカマルを怒鳴りつける。
アスマの言動からその考えを見抜いたシカマルは到底賛同出来な
!
ヒナタ達だって来てくれたんだからきっと皆で戦え
﹁そんな、嫌だよ
﹂
﹁そ、そうよ
ば
!
た。そして当然の如くそれに反対する。
チョウジは生来から気が優しく師であるアスマの事を尊敬してお
491
!
!
二人の会話を聞いてチョウジとイノもアスマの自己犠牲を理解し
!
﹂
り、イノも気の強い性格をしているがその芯は心優しい故にアスマを
実力差が分からないのか
見捨てる事が出来ないのだ。
﹁馬鹿野郎ども⋮⋮
!?
﹁はっ
なんだこりゃ
お涙頂戴の三文芝居か
﹂
木ノ葉っての
?
﹃
﹄
い出す⋮⋮そう、初代火影をな﹂
﹁貴様らのような甘ちゃんを見ていると初めて戦った木ノ葉の忍を思
のでそれを思い出すと余計に苛立つというものだった。
いながら強いという理不尽な里だ。任務失敗も木ノ葉の忍が原因な
そんな角都から言わせれば木ノ葉の里は他の里よりも温く、それで
出して里抜けをしたのだ。
里を角都は切り捨てた。そうして角都は滝隠れに伝わる禁術を盗み
あれだけ貢献してきたというのに、一度の失敗で己に屈辱を与えた
失敗を里は許さず角都に汚名と重罰を与えた。
だが角都はある任務に失敗した。たった一度の失敗だ。だが、その
ありその名を馳せていた。
角都は滝隠れの里出身の忍だった。角都は里の中でも優れた忍で
して成り立っている⋮⋮虫唾が走るな﹂
﹁木ノ葉は昔からこうだ。そうでありながら他のどの里よりも強国と
が飛段なのだが。
意が湧いてくる思いだった。もっとも、そうでなくても殺意が湧くの
そんな飛段がアスマ達を見ると元いた里を思い出して辟易とし、殺
にジャシン教の教えに感銘を受けて里を抜け出したのだ。
だが飛段にとってその里は平和ボケしたぬるま湯に過ぎず、それ故
を享受し平和主義の里となった。
飛段は湯隠れの里出身の忍である。湯隠れの里は軍縮に伴い平和
は随分と温いんだな。オレがいた里を思い出してムカムカするぜ
?
そんなアスマ班を見て飛段は馬鹿にするように鼻で笑っていた。
三人の言葉を嬉しく思いつつもアスマは必死に三人を説得する。
!
十 年 も 前 に 亡 く な っ た 木 ノ 葉 設 立 期 の 人 間 だ。そ ん な 伝 説 の 忍 と
492
!
!
それを聞いた木ノ葉の忍は全員が驚愕した。初代火影と言えば数
!?
戦って今を生きているこの男は一体何歳だと言うのか。
ちなみに角都が失敗した任務とは実は初代火影の暗殺任務だった
り す る。初 代 火 影 の 暗 殺 に 失 敗 し た の で 里 は 角 都 を 厳 罰 に 処 し た。
そんなデタラメを⋮⋮
﹂
これを初代火影の強さを知る者達が聞いたら誰もが角都に同情する
だろう。
﹁ふざけるな
!
﹂
││
!?
﹁なっ
﹂
││
のまま内部からむさぼり食われてしまう。
だ。読んで字の如く、適切なチャクラ量を与える事が出来ない者はそ
その恐ろしい蟲を触れた対象の肉体に送り込む術。それが虫食い
り急成長する寄生させておくのが難しい蟲がいる。
に奇大蟲という、体内で与えるチャクラの量を間違えると肉をむさぼ
油女一族は身体の中に様々な蟲を寄生させている。その中の一種
││虫食い
だが、シノの攻撃は角都に触れている時点で既に終了していた。
ている様なものだ。
ざ声を掛けるのだから。これでは攻撃しますよ、避けて下さいと言っ
せっかく背後を取ったのだからそのまま攻撃すればいい物を、わざわ
シノの気殺に驚愕する角都だが、やはりガキかと内心で嘲笑する。
うのにこんな若造に後ろを取られている。
会話に気を取られていたとはいえ油断はしていなかった。だとい
││何時の間に
に拳を当てていた。
その言葉で角都がシノに気付いた時には、すでにシノは角都の背中
﹁っ
﹁同感だ。何故なら、敵を前に無駄に話すものではないからだ﹂
無駄話は終わりだ。そう言い放つ角都に賛同する者が一人いた。
そろそろ死んでもらうぞ賞金首﹂
﹁信じる信じないは自由だ。それよりも、だらだらと話すのは終いだ。
!
!
る。
493
!?
自らの内部で突如として急成長する蟲に角都は困惑と痛みを感じ
!?
だが初代火影と戦ったという言葉は法螺ではない。歴戦の猛者た
﹂
る角都はすぐにその原因に気付き、己の能力にて奇大蟲を即座に排除
する。
﹁ぐぅっ
角都の身体から生えた黒い触手が体内に潜んでいた奇大蟲が成長
﹂
しきる前に体外へと引きずりだし、そしてそれを角都が殴り殺した。
﹁こ、このガキ
だ。
たのだから。
ど
む
何故なら、硬化していなければ確実に死んでいただろう攻撃を浴び
り全身を硬化させた。それは最適な判断だったと言えよう。
その動きを見てまずいと判断した角都は吹き飛びながら土矛によ
れ以上の速度で追い掛けて、そして追撃を放とうとする。
それでシノの攻撃は終わらなかった。肘打ちで吹き飛ぶ角都をそ
﹁ぬぅっ
﹂
きで躱し、逆にその勢いを利用して懐に飛び込んで肘打ちを叩きこん
角都の怒りの籠もった一撃を、しかしシノは中忍とは思えない体裁
る事も出来る。
は身動きも出来なくなるが、一部のみならば今のように攻撃に利用す
硬化した部位は曲げたり動かしたりは出来ず、全身を硬化した場合
種だ。今まで受けた攻撃を無効化して来たのもこの術である。
土矛は肉体を硬化する事で絶大な防御力を得る肉体強化の術の一
殴り掛かる。
角都は目の前の舐めたガキを殺すべく土遁・土矛にて腕を硬化して
るのに十分なものであったようだ。
という悪癖がある。そんな角都にとってシノの挑発は殺意を誘発す
普段は冷静沈着な角都だが、トラブルが起こるとすぐに殺意が湧く
ちは頂点に達する。
自分よりも遥かに年下の少年のその挑発めいた言葉に角都の苛立
﹁あまり敵を舐めない方がいい。なぜなら、油断は死に繋がるからだ﹂
!!
シノはチャクラを籠めた拳を角都の鳩尾に叩き込む。そのまま地
494
!
!
に沈む様に拳を下ろし、角都を大地に叩きつけた。
これで衝撃が分散される事はない。シノは走ってきた勢いをその
まま足に乗せ振り上げ、そして踵を全力で角都の顔面へと振り下ろし
た。
その一撃で起きた爆音と衝撃により周囲の瓦礫や砂が吹き荒れる。
おい角都ぅ
﹂
シノの突然の動きに驚愕していたアスマ達が角都を確認するが、地面
なんだ今のは
深くに埋まった為にその姿は眼に映る事はなかった。
﹁おい、おいおいおい
!?
だが角都を心配する暇は飛段にはなかった。すぐ後ろから迫るキ
しまった。
身ぶりで敵を驚愕させている飛段だが、これには逆に飛段が驚愕して
そんな角都があんな少年一人に圧倒されたのだ。普段はその不死
い事も自覚していた。
闘に置いて非常に信頼している。純粋な戦闘力では角都には勝てな
まさかの出来事に飛段も困惑している様だ。飛段は角都の事を戦
!
すキバに、そのキバに追従する様に動きキバの連撃の間を縫って攻撃
を繰り出しその隙を減らす忍犬の赤丸。
忍犬と共に戦う犬塚一族らしいコンビネーションでキバと赤丸は
飛段に反撃の隙を与えずに戦っていた。
そしてヒナタがアスマ班の前に立ち白眼を発動しながら彼らを護
﹂
!
る様に柔拳の構えを取る。
﹂
今の内にアスマ先生の足を治療して
あ、うん
﹁イノちゃん
﹁え
!
!
﹂
﹂
返り、医療忍者として最も重要な味方の治療という役目を思い出す。
﹁こりゃ⋮⋮まさかのまさかか
﹁ああ⋮⋮こいつらオレの予想を遥かに超えて成長してやがる
!
?
495
!
バに気付いたのだから。
﹂
﹂
﹁おらぁっ
﹁ちぃっ
!
キバの鋭い爪を飛段はその大鎌で受け止める。更に連撃を繰り出
!
紅班の戦い振りに呆気に取られていたイノはヒナタの言葉で我に
?
シカマルがシノとキバの実力にシカマルとアスマが理想の未来を
・・
夢見てしまう。つまり、誰も犠牲にならずに勝利するという理想を
だ。
あの人は
だが現実はそこまで甘くはない。少なくとも白眼にて角都を視た
シノ君だけではあの敵には勝てません⋮⋮
ヒナタには二人の考えは楽観視にしか映らなかった。
﹁いいえ
まだ││﹂
﹁うォォォォ
﹂
あの人はまだ⋮⋮全力を出していない、と。
がヒナタの言葉の続きを理解した。
角都の放つプレッシャーはシノ以外にも届いていた。そして全員
りはしなかった。
を受けるシノ。だが、それでもシノは冷や汗を一つ掻くだけで後ずさ
この場の誰よりも戦闘経験を持つ角都が放つ強大なプレッシャー
になった角都と相対する。
風遁の術の範囲外に逃れていたシノは怒りが振り切れて逆に冷静
舐めた相手にここまで虚仮にされたのは初めてだったのだ。
だが無傷のはずの角都はそのプライドに傷を負っていた。ガキと
あれだけの猛攻すら無傷で凌ぐ程の防御力を有するようだ。
風遁が放たれた中心地から現れたのは無傷の角都だ。土矛の術は
﹁やってくれたな⋮⋮﹂
そこには天を貫く様に放たれた風遁の術があった。
ヒナタの言葉を遮る様に爆音が響いた。その音源を全員が見ると、
!
角都本来の性質変化は土遁だが、これにより残り四つの性質変化を
変化以外の性質変化を手に入れる事も出来るという凄まじい術だ。
更に忍の心臓をその経絡系ごと抜き取り取り込む事で生来の性質
て操作する事も出来る。
全身から黒い触手を生やし操る術で、触手を通じて肉体を切り離し
これが角都が滝隠れの里から奪った禁術・地怨虞である。
じ お ん ぐ
出る。そして仮面は触手で構成された肉体を得てその姿を現した。
叫びと共に角都の肉体が盛り上がり四つの仮面と黒い触手が溢れ
!
496
!
使いこなしているのだ。
しかも自身の心臓が寿命で止まる前に新しい心臓を得る事で寿命
を無理矢理延ばす事も出来る。角都が九十一という高齢になっても
忍として現役で戦えている理由がこれだ。
﹁光栄に思えガキ。全力で戦う敵は久方振りだ﹂
﹁⋮⋮来い﹂
角都と四体の仮面がシノに襲い掛かる。これはシノの数十倍の戦
闘経験を持つ忍が強力な性質変化の術を使う四人の味方と共に完璧
な連携で襲いかかってくるという事だ。
シノは冷静に自己と敵の戦闘力を比較して判断した。勝ち目がな
い、と。アカネの修行で強くなったとしても、いや強くなったからこ
すべ
そより顕著に理解出来るのだ。
この状況を勝利に導く術をシノは有していない。せいぜい死ぬま
での時間を延ばす程度が限界だろう。⋮⋮一人だったならば、だが。
あつがい
ず こっ く
風遁を操る仮面と火遁を操る仮面が融合し、その口を同時に開く。
風遁・圧害と火遁・頭刻苦による合体忍術を放つつもりだ。
角都という本体が操っている仮面達はその術のチャクラ比率を完
全に同一にする事が出来る。通常の忍が連携して放つ合体忍術には
多少のチャクラ比のズレが生じるが、仮面の合体忍術にはそれがない
のだ。
それはつまり合体忍術を最大の威力と効率で放つ事が出来るとい
う事である。そして単体の術でも強力な風遁・圧害と火遁・頭刻苦が
合わさればその威力はまさに強力無比な火力となる
決まれば必殺。直撃すればシノは、いやシノどころか周囲にいる角
都を除く全ての忍が巻き込まれ、そして死にかねない。
いや、飛段だけは例え炭と化しても死す事はなくいずれ元に戻るだ
ろう。不死身という有り得ない仲間だからこその巻き込み攻撃であ
る。
もっとも、角都は飛段が不死身でなかったとしてもこの術を放って
い た だ ろ う が。殺 意 に 塗 れ た 角 都 に 仲 間 を 気 遣 う と い う 精 神 は な
かった。
497
││八卦空掌
﹁なにっ
﹂
﹂
││
事なく吹き飛んで行ったからだ。
風遁と火遁の仮面がその口を開いた瞬間に、二体の仮面は術を放つ
だが、全てが灰と化す様な未来は訪れなかった。
!
た。
﹁ぬぅ
﹂
る点を狙う術である。それをヒナタは四連射し、全ての仮面を狙撃し
白眼をスコープの様に使用する事で急所を的確に射抜く事が出来
を放つという中・遠距離用の柔拳の基本技だ。
それが先の八卦空掌である。掌からチャクラによる真空の衝撃波
る事に動いた。
ラ比率である事。これを視たヒナタはすぐにその術の発動を阻止す
術に籠められたチャクラの総量と、二つの術が完全に同一のチャク
がチャクラを高めて術を発動させようとしている前兆も捉えていた。
白眼は他のどの瞳術よりも視る事に特化している。それ故に仮面
・・
ヒナタの警戒は最大限に高まっていた。
う強力なチャクラの塊。そしてそのチャクラの塊が外に現れた事で
全身に蠢いているチャクラの糸に、体内に存在する四つの心臓とい
していた。
眼にて角都を視ていたヒナタはその化け物ぶりを他の誰よりも理解
そう、角都が術を放とうとする瞬間を狙ったのはヒナタだった。白
の間にもヒナタの攻撃は止まってはいない。
全ての敵を焼き滅ぼそうと思っていた角都はそれに驚愕するが、そ
﹁はぁぁっ
!?
人を見て角都は怒りを顕わにするが、シノはそんな角都にお構いなく
攻撃を繰り出した。
だがその攻撃を角都は土矛の術ではなく体術によって捌き、逆にシ
ノへと触手による反撃を加える。
角都の触手はかなりの攻撃速度を有しており、シノをあっさりと捕
498
!
次々と放たれた八卦空掌に全ての仮面が吹き飛ばされる。その犯
!
﹂
縛した。だがその触手はシノの身体から溢れ出る蟲によって噛み千
舐めるなよガキが
切られる事となる。
﹁ちっ
﹂
﹁ぐっ
ばされる前に逆さのままに角都の頭部を蹴り付けた。
り付ける。その一撃を十字に組んだ腕でガードしつつ、シノは吹き飛
それを嫌った角都は掴んでいた足を離し、未だ空中にいるシノを蹴
接攻撃する。
ようとする。だがシノは掴まれた足から蟲を繰り出し角都の手を直
その一撃を角都は左腕でガードし、シノの足を掴み大地に投げつけ
大地に手を付いて体勢をコントロールして蹴りを放った。
拳を放つ。それをシノは前に踏み込み体を沈める事で躱し、そのまま
触手が効果を成さない事に苛立つ角都が直接シノを殴り殺そうと
!
﹂
﹁大した事ではない。何故なら、言葉も忍の武器だからだ﹂
﹁つくづくオレを怒らせるのが上手い奴だ⋮⋮﹂
る訳には行かないという気持ちが勝っていた。
まさ
だが、それでも世界の頂点を知っている身としてはこの程度で屈す
自分が攻めあぐねている事に世界の広さを感じている様だ。
シノも角都の実力に舌を巻いている。徹底的に体術の修行をした
﹁体術も想定以上か。だが、予想以上ではない﹂
かった。
少 な く と も こ こ ま で 自 分 に 喰 ら い 付 い て 来 る と は 思 っ て も い な
する者は少ないだろう。
角都は素直にシノを称賛した。この年齢でここまでの体術を披露
﹁このガキ⋮⋮大した体術だ﹂
で多少腕が痺れてた程度ですんでいる。
対するシノもチャクラを籠めた強固なガードが間に合ったおかげ
大したダメージは受けてはいない。
頭部に一撃を受けた角都はシノが不安定な体勢で放った攻撃故に
﹂
﹁くぅ
!
﹁抜かせっ
!
499
!
!
﹁ふっ
﹂
再びシノと角都の体術合戦が始まる。いや、角都は見た目とは違い
冷静であり、こうして体術でシノを足止めしつつ四つの仮面を操り残
りの敵を倒そうとしていた。
だがそれは全てヒナタによって防がれていた。遠距離から全てを
││
見通す白眼にて的確に敵の動きを見抜き、その行動を一歩手前で止め
ているのだ。
││八卦四天空掌
﹂
てそれはキバも同じだった。
﹁おらよっ
﹁くっ、この犬っころ共がッ
﹂
もしヒナタがいなければ疾うにシノは殺られていただろう。そし
だけでシノは角都だけに集中して動く事が出来ていた。
瞬時に四発の八卦空掌を放ち、全ての仮面の動きを阻害する。それ
!
ってーなまたかよこのクソ女がァァッ
!!
を突こうとした瞬間に八卦空掌が飛んで来るのだ。
﹁があっ
﹂
の攻撃を防ぐではなく無理矢理受け止め強引にキバに隙を作り、それ
だがそんな飛段の自爆戦法すらヒナタは防いでいた。飛段がキバ
しいのだ。
撃するという強引な手段がある。飛段に取っての相打ちは勝ちに等
飛段には多少の負傷を無視してでも敵の攻撃を受けて無理矢理反
行っていた。
様に体術に磨きを掛けていたが、キバと赤丸の連携はその飛段の上を
飛段もこの三年間で修行を重ねて死司憑血をより効率的に扱える
しじひょうけつ
キバと赤丸の強力な連携攻撃は飛段を圧倒していた。
!!
!
﹂
てキバは赤丸と共に術を放つ。
﹂
﹁行くぜ赤丸
﹁ワン
キバと赤丸が重なりあい、そして同時に変化の術を使用する事で一
!
!
││犬塚流・人獣混合変化・双頭狼
││
何度も何度も邪魔をされて飛段は怒り心頭だ。そんな飛段に対し
!
500
!
!
体の巨大な双頭の狼へと変化する。
犬塚一族の秘伝忍術による変化は見た目だけでなくその戦闘力も
大きく向上する。一人と一匹が協力する事で得られる力を全力で奮
││
い、双頭狼は飛段に襲い掛かった。
││牙狼牙
双頭狼が高速で回転し敵に突撃する。その回転は真空の刃を作り
出し触れずとも裂傷を負わせる程だ。
それだけではない。キバは修行の末にとうとう全身からのチャク
ラの放出を会得していた。
流石に日向一族程ではないが、それでも牙狼牙等の犬塚一族が良く
使用する回転攻撃中にチャクラを放出する事でその威力を向上する
くらいならば可能となったのだ。
しかもあまりの高速回転故に敵へのマーキングがなければ追尾不
可能という欠点も克服していた。敵のチャクラを感知し更に敵の体
││
臭を覚える事でマーキングなくとも追尾を可能としたのだ。
││あれはまずい
た。
﹁うおっ
﹂
た瞬間、ほんの一瞬のその隙を突いて角都は飛段を触手にて引き寄せ
やはりその戦闘経験の差だろう。キバの術にヒナタが目を見張っ
た。
による結果を誰よりも早くに理解したのは他でもない、角都であっ
元々の威力が高い高速回転の術に、チャクラの放出を加える。これ
!
と化した。更に双頭狼は破壊を撒き散らしながら飛段を追いかける。
これに慌てたのがシノだ。角都は飛段を己へと引き寄せた。そし
てシノは角都と体術合戦を繰り広げていた。つまりこのままではシ
ノまでこの恐ろしい術に巻き込まれるという事になる。
﹁冗談ではない⋮⋮﹂
流石にそれは御免だったシノは一度角都から離れキバの術の範囲
から逃れる。飛段を追尾している事はシノも理解しているので飛段
501
!!
飛段が角都に引き寄せられた瞬間に、飛段がかつて居た大地は微塵
!?
から離れれば問題はないのだ。
飛段を引き寄せた事で角都も双頭狼の牙の攻撃範囲に入る。だが
角都としてはここで飛段を見捨てるつもりはなかった。
これは仲間意識というよりは戦術上の問題だ。飛段という味方が
減る事で自分に掛かる負担が大きくなる事を避ける為である。
﹂
つまり⋮⋮この術は不死身の飛段を戦闘不能に至らせる程の威力
があると角都は判断したのだ。
﹁いって、痛てぇっつてんだろ角都ぅ
る
あつがい
ぐ
ぐ
││
││
││
││
││火遁・頭刻苦
ず こっ く
││雷遁・偽暗
ぎあん
││水遁・牙流愚虞
げ
そして角都は迫り来る双頭狼に向かって全ての術を開放した。
だろう。
取りだ。これでヒナタはキバが邪魔で八卦空掌を放つ事が出来ない
その位置取りとはヒナタの邪魔が入らない、双頭狼を壁にした位置
離れつつ位置取りを行う。
その言葉を無視しながら角都は飛段を引きずりながら双頭狼から
!!
狼へと襲い掛かる。
牙流愚虞と偽暗が合わさった事で水刃は雷を帯び全てを切り裂く
質量を持った雷刃と化し、頭刻苦と圧害は火遁と風遁のセオリーに従
い全てを焼き尽くす劫火と化す。
触 れ ず と も 敵 を 切 り 裂 く 高 速 回 転 と 双 頭 狼 の 持 つ 鋭 い 牙 と 爪 に
チャクラの放出が組み合わさった圧倒的破壊と、単体で強力な威力を
誇る四つの性質変化の術が互いを相殺する事なく組み合わさった圧
倒的破壊がぶつかり合う。
﹂
結果、二つの圧倒的破壊は互いに拮抗し、凄まじい衝撃を生み出し
た。
﹁き、キバ君
502
!
四つの仮面から放たれた強大な術は互いに威力を高めあって双頭
││風遁・圧害
!
!
!
あまりの衝撃にキバを心配するヒナタ。そんなヒナタの知覚に高
!?
速で迫る双頭狼の姿が感知される。
ヒナタは咄嗟に双頭狼に向かって八卦空掌を放った。だがこれは
攻撃の為ではなく、双頭狼の勢いを軽減させる為のクッションとして
威力と範囲を調節した八卦空掌であった。
おかげでキバと赤丸はその勢いのままに壁や地面に突撃するとい
﹂
う事態を避ける事が出来た。あのままではそれだけで重傷を負いか
赤丸も大丈夫
ねなかったのだ。
﹁キバ君
﹂
!
相 殺 し 切 れ な か っ た の か よ
!
出来たようだ。
﹂
﹁お い お い
ねーか
一 匹 殺 ら れ て ん じ ゃ
はその被害は少ないだろう。だがそれでも多少の損害を与える事は
だ。もちろん術者本人が突撃する牙狼牙と違って忍術を放った角都
つまり、キバに起こった現象は角都側にも起こっているという事
止めなければその勢いで死にかねないほどの衝撃を受けた為だ。
してキバはその衝撃によりここまで吹き飛ばされた。ヒナタが食い
キバの術と角都の術は質は違えどその破壊力は拮抗していた。そ
れに気付いたのだ。
アスマは飛段と角都を油断なく見つめていたので誰よりも先にそ
味のない慰めではなかった。
そんなキバに対してアスマは慰めの言葉を掛ける。だがそれは意
﹁いや⋮⋮落ち込む必要はないぞキバ
く揺らいでいるようだ。それほど自信のあった術だったのだろう。
だが必殺のつもりで放った一撃を防がれた事でキバの精神は大き
心配するヒナタだがどうやらキバも赤丸も命に別状はないようだ。
﹁クゥン⋮⋮﹂
﹁う、うう⋮⋮くそっ、あれでも駄目かよ⋮⋮﹂
!?
角都は飛段の喚きを鬱陶しそうに聞き流し、そしてキバを睨み付け
﹁黙れ。助けてもらっておいて喚くな﹂
る仮面の一体が崩れ落ちているのがその目に映った。
それは飛段の叫びだった。その叫びにキバも敵を見ると、角都が操
!
503
!
!!
る。
予想以上の威力に角都も想定外の被害を受けて憤慨しているよう
だ。
飛段の叫びもありいっそ見捨てるべきだったかとも思う角都だが、
あの威力の攻撃を喰らえば不死の飛段も全身がバラバラとなり戦闘
力は皆無となっていただろう。
そうなればこの敵を相手に一人で戦わなければならない。それを
避けたいと思うほどに、自分よりも遥かに年下の敵は手強かったの
だ。
今は治療しなきゃ
﹂
﹁へへ、何だよ効いてんじゃねーか⋮⋮。良し、赤丸もう一撃だ⋮⋮
﹂
﹁駄目だよキバ君
けで凄まじいのだが。とにかく、もう一度牙狼牙の様な強力な体術を
いや、あの四つの術とまともにぶつかってこの程度で済んでいるだ
で吹き飛ばされるという事はそれだけの衝撃を受けたという事だ。
キバの身体はボロボロだった。大地に激突すれば死ぬほどの速度
!
赤丸も
﹂
放てばその反動でキバは下手すれば死んでしまう可能性もあった。
﹁キバ、こっちに来て
!
!
許してくれるわけがないのだが。
﹂
﹂
もっとも、それは敵も理解している当然の戦術なのでそれを黙って
来れば勝利も手にする事が出来るだろう。
に変わりはない。こうして少しずつ敵の戦力を減らして行く事が出
それでも味方を治療する事は戦闘の勝率を上げる結果に繋がる事
じ攻撃を受けてくれればの話だが。
来ず、牙狼牙の威力に飲み込まれるだろう。もちろん敵が大人しく同
そうすれば仮面の一つを失った角都はその攻撃を相殺する事が出
出来るだろう。
この一人と一匹が完治すればまたあの凄まじい攻撃を繰り出す事が
ア ス マ の 治 療 が 終 わ っ た イ ノ が キ バ と 赤 丸 を 治 療 し よ う と す る。
!
奴らを調子に乗らせると面倒だ
!
いつものあれで行こうぜ
!
﹁行くぞ飛段
﹁おおよ
!
504
!
!
時間を与えれば有利になるのは木ノ葉の忍。そう理解している角
都は一気に猛攻を仕掛けて殲滅させる事を選んだ。
飛段の呪術にてアスマを呪い殺すという選択もあるが、そうする内
いつかおめーには神の裁きが下るぜ
﹂
にキバが回復するという可能性を考慮し、回復の手間を潰す事を選択
したのだ。
﹁飛段、盾になれ﹂
﹁⋮⋮ちっ、わーったよ
﹁くっ
﹂
あり、念の為の飛段という盾であった。
本体である自分ならば八卦空掌にも対応出来ると踏んでの戦術で
が、ヒナタの狙撃は飛段と角都の二人のみに絞られる。
とにかく、全ての仮面を融合させる事で攻撃の手数や戦術は減る
だと角都は理解していた。
第八班の戦術を支えているのはシノでもキバでもない、ヒナタなの
ない存在だ。
発動を先読みして遠距離から的確な狙撃をしてくるなど厄介極まり
だがヒナタの様な敵がいるとそれも意味がない戦術となる。術の
敵の注意を分散させて攻撃の手を増やす為だ。
角都が仮面の化け物を別個に分離して使用するのはそうする事で
をする。
にして角都は己の身体に残る三つの仮面を融合させて術を放つ準備
そうして飛段はアスマ達に向かって一直線に突撃する。それを盾
のだ。
もそれを了解した。それが正しい戦術であると飛段も理解している
角都が何を言いたいのか理解した飛段は角都に苛立ちを見せつつ
!
お前の動きに注意してりゃそんなの避けるのわけないん
はヒナタの攻撃モーションから見切って完全に躱し切った。
﹂
﹁馬鹿が
だよ
に集中出来なかったが為だ。
今までそれが出来なかったのはシノやキバによる攻撃で八卦空掌
!
505
!
迫り来る飛段と角都にヒナタは八卦空掌を放つ。だがそれを二人
!
!
一度集中出来れば流石の暁というべきか。八卦空掌に慣れた事も
あってその攻撃はほぼ見切っていた。
﹁来るぞ﹂
シノが前に立ちそう呟く。ここ最近の修行で体術に秀でてしまっ
今度はオレも加勢する
﹂
た蟲使いはその力で敵を食い止めるつもりの様だ。
﹁ああ
﹁ボクもやる
﹂
﹁キバ、赤丸ごめん。治療する暇はないかも
﹂
﹁アスマがそう言うって事は勝ちの目を見たって事だな﹂
!
実しているようだ。
﹁キバ君は休んでて
﹁くそ⋮⋮﹂
ここは絶対通さないから
﹂
!
心伝身だ
﹁イノ
﹂
少しでも力を回復させる為に身体を休める。
そんな自分を情けないと思いながらもキバはヒナタの言葉に従い
もに動くことも出来ない状況だ。
ヒナタはキバの前に立ち庇うように構えを取る。キバはまだまと
!
チョウジとイノも絶望しかなかった状況が一変した事で気力が充
にか出来そうだと戦術を組み立て直している最中だ。
ようだ。それはシカマルも同じだった。ここまで味方が揃えばどう
成長した第八班の実力と健闘を見てこの戦いに希望が湧いて来た
ルを構える。
足の治療が終わったアスマはシノと共に前に立ちアイアンナック
!
!
!
場合は術者に大きな負担が掛かる事もある。
も可能だ。ただし、伝達対象が膨大だった場合や伝達時間が長すぎた
これは術者のみでなく術者に触れている対象の思念を伝達する事
りを行うテレパシーの一種、心伝身の術である。
これが山中一族に伝わる心転身の応用、周囲の仲間と思念のやりと
に作り出した戦術をイノを通じて全員に伝える。
シカマルはここまでの敵の能力と味方の能力を計算に入れて新た
﹂
﹁ええ
!
506
!
!
だがこの程度の人数で、シカマルの戦術を説明するくらいならば問
題はなかった。
﹂
だが、シカマルが全ての戦術を説明し終わる前に飛段と角都の猛攻
が始まった。
﹁そらよぉぉ
攻めに転じる事が出来た飛段は生き生きと大鎌を振るう。
独特の形状であり柄の先端に縄が付けられている大鎌は広い攻撃
範囲を生かして後方にて体力回復に努めているキバに襲い掛かる。
今はほぼ無力化されているが、あの破壊力をもう一度放たれる可能
性を考えると真っ先に潰しておくべきだと判断したのだ。
同 時 に 飛 段 は キ バ を 護 る ヒ ナ タ も あ わ よ く ば 片 付 け ら れ た ら と
思っている。ヒナタという守りの要がいなくなれば後が楽になるだ
ろうからだ。
かすり傷一つでも付けば血液という呪術の材料が手に入るので、飛
段の攻撃は全て避けなければならない。
だが、命中しても傷が付かなければ問題ないという考えもある。そ
││
れをヒナタは実行した。
││回天
キバとヒナタに同時に迫る大鎌を、ヒナタは日向宗家にのみ伝わる
奥義にて完全に防ぎ切った。
未だ点穴を見切る事が出来ないヒナタではあるが、厳しい修行の果
てにとうとう回天を会得したのだ。
全ては尊敬する愛しい人を護りたいという一心による賜物だ。そ
んな想いで会得した回天は仲間であるキバを護り抜いた。
だが暁の攻撃は終わっていない。飛段は大鎌を振るったままにア
││
スマ達に突撃し、それを迎え撃とうとしたアスマ達目掛けて角都は術
を放った。
││風遁・圧害
だが流石は上忍か。アスマは角都の仮面の化け物を見て、どの仮面
り得ない味方の特性を利用した戦術だ。
飛段に対応しようとした矢先にこの竜巻である。不死身という有
!
507
!!
!
がどの術を放つかを既に見切っていた。
四つの仮面はそれぞれ形が違っているのだ。今は三つだが。とに
かく、仮面の形と性質を覚えていればどの仮面がどの術を放つかを見
││
切るのは容易いだろう。
││火遁・豪炎の術
た。
﹁そりゃどうも
﹂
││
﹁意外とやるな。術を選ぶ判断力は褒めてやる﹂
飛び出してくる。
爆炎が掻き消える前にその中から焼け焦げた飛段が大鎌を振るって
だが角都が放った頭刻苦によってその爆炎は相殺された。そして
││火遁・頭刻苦
を暴風によって飛段達に向けようとしたのだ。
その爆炎にアスマは更に大突破による暴風を放つ。燃え盛る爆炎
││風遁・大突破
││
り圧害は豪炎の術に押される事なくその場で爆炎となって燃え盛っ
圧害が豪炎の術よりも術としての威力が高かったのだ。それによ
風遁が押される事になるのだが、今回の結果は違っていた。
風遁と火遁がぶつかり合えば火遁が勝つ。その場合火遁の勢いに
アスマが逆に利用した。
風遁には火遁。お決まりの性質変化の相性を角都が利用する前に
!
﹂
邪魔なんだよ
マはアイアンナックルで飛段の大鎌を捌く。
﹁オレに一度呪われた雑魚が
﹁だからオレが貴様の相手をしているのさ
﹂
!
うとの予測だ。
一段階としているならば、それが既に終わっているアスマが適任だろ
これはシカマルの予測だった。飛段が血を取り込む事を呪術の第
応だ。
もない。二重に血を取り入れても意味がないだろうと見越しての対
そう、一度呪われたアスマならば飛段にまた血を取り込まれる心配
!
!
508
!
!
角都の本気かどうか分からない称賛の言葉をぞんざいに返し、アス
!
飛段が呪術を発動するには地面にあの図を描かなければならない。
だがこうも接近戦を繰り広げているとその隙もないだろう。
だが純粋な近接能力では飛段の方がアスマよりも上だ。このまま
長引けば呪いなどに関係なくアスマが殺されるだろう。
そうさせない為の援護役がヒナタだ。後方から白眼にて戦場を把
握し援護射撃に専念する事で味方のサポート役に徹する。
そして角都に対抗するのが残りの全員だ。そうするだけの実力が
角都にはあるとシカマルは判断していた。
シノが角都に術を放つ暇を与えさせない様に接近戦に入る。こと
忍術に置いて角都はこの場で最も優れている存在だ。敵の真骨頂を
引き出してやる必要はないだろう。
更にチョウジが秋道一族に伝わる秘伝忍術・倍化の術を駆使してシ
ノと共に角都を攻め立てる。これで土矛の術を使用させて動きを阻
害させるという狙いだ。土矛の術で防御した時に角都が動いていな
509
い事をシカマルは見抜いていたのだ。
そうして角都を足止めしている隙にイノはキバの治療を行い、飛段
の 動 き を 止 め る。そ う す れ ば 全 員 で 角 都 を 相 手 に 封 殺 す れ ば い い。
﹂
││
後はシカマルの戦術がどこまで通用するかであった。
﹁おおお
││部分倍化の術
!
める作戦だ。
﹁おのれ⋮⋮
﹂
こうして角都と飛段と引き離してそのコンビネーションを食い止
弾き飛ばす。
がある。そこを突いてシノは角都を全力で蹴りつける事で後方へと
だがやはり全身を硬化した場合身動きが取れなくなるという欠点
よう。
にてそれを防ぐ。この質量すら無傷で防ぐこの術は凄まじいと言え
まともに受ければダメージは免れないと判断した角都は土矛の術
めされている角都を攻撃する。
チョウジが巨人の如くに巨大化した腕を大きく振るい、シノに足止
!
!
吹き飛ばされた角都はすぐに土矛の術を解き、接近して来るシノに
向かって雷遁・偽暗を放った。
威力・速度共に優れている偽暗ならばこの面倒な敵を一蹴出来るだ
﹂
ろう。そう思って放たれた雷の槍はシノに命中した。
分身だと
だが││
﹁蟲⋮⋮
﹂
だがシノはそこで油断せずにすぐにその場を離れる。次の瞬間に
動していなかった角都を貫き、その心臓をも破壊した。
チャクラを集中させて攻撃力を増していた抜き手は土矛の術を発
﹁硬化がなければ問題ない﹂
﹁ぐぶっ
いて抜き手にてその心臓を一突きした。
本体は瓦礫に隠れて近づいており、角都が分身を攻撃した瞬間を突
を用いて分身を作っていたのだ。
チョウジの部分倍化にて角都が押し潰され視界が途切れた時に蟲
その一撃を受けたシノは無数の蟲となって霧散していった。
!
これで二つ目
﹂
はシノが立っていた場所に無数の触手が攻撃をしていた。
﹁よし
!
れぞれ心臓の様に脈打つ臓器がくっ付いていた。
心伝身の術でシカマルとヒナタが情報を交換していたが、あの臓器
はやはり心臓と同じ経絡系が絡み付いていたという。
そこでシカマルは敵が自分の物を含めて五つの心臓を持っている
のだと予測した。不死身の敵の相方だ。能力を過大評価しても過小
評価する必要はないだろう。
﹂
もちろん当たっていない方が嬉しい予測だったが、今回は残念なが
らも正解だった様だ。
﹁オレの心臓を二つも⋮⋮久方ぶりだぞ
た。
怒りを顕わにする角都。だがその怒りを更に増す出来事が起こっ
!
510
?
!?
シカマルの予測はまたも正解だった様だ。あの四体の仮面にはそ
!
アスマと飛段は激しい戦闘を繰り広げていた。飛段はアスマより
も体術に秀でていたが、それでも圧倒するほどの差ではない。
そうしてアスマを相手に梃子摺っている間にヒナタによる狙撃を
受ける。これでは飛段もアスマを殺しようがなかった。
なので飛段はアスマを自分とヒナタの直線上に立つ様に誘導した。
角都がキバを盾にしてヒナタの攻撃を防ごうとしたのと同じ考えだ。
後はヒナタの邪魔が入らない内にアスマを殺せばいい。だが意外
と手強い為に戦っている内にいつヒナタが邪魔に入るかも分からな
い。
一番いい方法は呪術・死司憑血にて確実な止めを刺す事だ。これな
らば自分への邪魔は寧ろアスマへのダメージになる。
つ八卦空壁掌を飛段へと撃ち放った。
父や尊敬する姉に比べればまだ未熟な空壁掌だがそれで問題はな
い。ダメージを与える為ではなく飛段を吹き飛ばす為の攻撃なのだ
から。
﹂
511
死司憑血の為の図を描く隙を作るにはどうするか。そう考えてい
﹂
た飛段の前で、アスマは突如として苦悶の表情で左足から体勢を崩し
た。
﹁ぬぐっ
を刺せばいいだけだ。
││
﹁アスマ先生伏せてください
││八卦空壁掌
!
だが、そうはさせじとばかりにヒナタは八卦空掌を両手で同時に放
!
﹂
この隙に飛段は地面に呪術の為の図を描いた。後は図の中で心臓
のだろう。
傷が完全には癒えていなかったのだ。激しい戦闘で再び傷が開いた
それを見た飛段は笑みを浮かべる。あの時の呪いによって与えた
!?
﹁ぐ、おお
!
八卦空壁掌を受けた飛段はその勢いに押されて図から吹き飛ばさ
れていく。その衝撃によるダメージをアスマも受けたが、心臓を貫か
れる事に比べれば遥かにマシだろう。
だが吹き飛ばされた飛段は大鎌を大地に突き刺す事でどうにか踏
﹂
みとどまり、すぐに体勢を戻して再び図へと戻ろうとする。
﹁今度こそ邪魔はさせねぇッ
まった。
﹂
﹁な、なんだとォッ
﹁影真似成功⋮⋮
﹂
鋭い槍を己に突き刺そうとして⋮⋮そのまま身動き一つ出来ずに固
そうしてようやく敵を呪い殺せる事に快楽の笑みを浮かべ、飛段は
当然だろう。
かった。まあ、地面に伏せたアスマを避けるように放たれたのだから
飛 段 に 取 っ て 幸 い に も 先 ほ ど の 八 卦 空 壁 掌 で 図 は 壊 れ て は い な
る。
素早く図の上に戻り、新たな邪魔が入る前に儀式を完了しようとす
!
をトレースさせるという奈良一族の秘伝忍術。
その術をシカマルは飛段に仕掛けていた。それに飛段が気付かな
か っ た 理 由 は 二 つ。シ カ マ ル が 今 ま で 影 真 似 の 術 を 使 用 し て い な
かった事。そしてシカマルの影が地面に描いた図と重なっていた事
だ。
シカマルは影真似の術を最後の最後に利用すると決めていた。こ
こまでの戦闘で影真似を使用していなかった事を逆に利用し、その効
果を敵が理解する前に決め手となる時に術を使用した訳だ。
そして飛段が呪いを発動する為に必ず図の上に乗る事も利用した。
奈良一族は己の影を自在に動かして形を変える事が出来る。影を伸
ばす距離の限界は影そのものの面積と同じだが。そうして影を伸ば
し、図と同じ形で図に重ねて飛段が影に触れるのを待ち構えていたの
だ。
こうなれば飛段に足掻く術はない。シカマルの影真似の術は持続
512
!?
影真似の術。自身の影と対象の影を重ねる事で対象に自身の動き
!
時間が切れるか、圧倒的な実力差で無理矢理外すくらいしか抜け出る
﹂
方法はないが、そのどちらも飛段には満たす事は出来なかった。
﹂
﹁今だアスマ⋮⋮
﹁ああ
う。
!
﹂
!
る。
﹁飛段⋮⋮
油断し過ぎだ
いアスマだが、シカマルの言う通りだと理解して次の敵に目を向け
予想はしていたがこれでも飛段が生きている事に驚きを禁じえな
﹁だが、不死身でもそうなっちまえばどうしようもねぇよな﹂
﹁そんなになっても生きているか⋮⋮﹂
﹁て、てめぇら⋮⋮よくも
﹂
だ。ここまですれば例え生きていたとしてもどうしようもないだろ
不死身だと言うのならば身動き一つ出来なくすればいいだけの話
体をバラバラに切り裂く。
た。風の性質変化を吸収したチャクラ刀は鋭い切れ味にて飛段の五
そうして飛段は敢え無くアスマのチャクラ刀によって切り裂かれ
したのを確認してアスマは武器を振るう。
シカマルが影真似の術で飛段を無理矢理に図の上から引きずり出
!
たが。
││秘術・蟲玉
﹂
!
身から触手を噴出させて蟲をなぎ払った。
程度の足止めは角都の動きを僅かに止めただけだ。すぐに角都は全
シノが放った蟲が角都の全身を覆いその動きを止める。だがその
﹁ぬっ
││
だが、角都に並行するように動く者がいた。いや、者というか、蟲だっ
足 が 傷 つ い た ま ま の ア ス マ で は そ れ を 防 ぐ 事 が 出 来 な い だ ろ う。
段の身体を繋ぎ合わせようとしているのだ。
角都の触手は糸の様に使用する事も出来るので、それを利用して飛
う。
飛段が行動不能に陥ったのを見た角都はすぐに飛段の元へと向か
!
513
!
!
だが僅かに動きを止めるだけでシノには問題なかった。敵が嫌が
る行動をする事が勝利への一歩だとシノは理解していた。
角都が何をしようとしていたかまではシノは理解していなかった
が、それでも角都が飛段に駆け寄ろうとした事には何らかの意味があ
ると判断し、その動きを阻害したのだ。
これは
﹂
﹂
そしてその僅かな動きの阻害で、勝負は決していた。
﹁邪魔を⋮⋮っ
﹁この程度の術⋮⋮
﹂
ていた角都を捕らえたのだ。
る。そして音もなく近づいていた影は蟲玉によって動きを抑えられ
更に瓦礫が生み出す影がシカマルの影の距離を伸ばす役目にもな
に敵に近づけるには最適の役目を果たしていた。
影真似再びである。周囲の瓦礫はシカマルの影を気付かせない様
﹁アンタら⋮⋮敵を舐めすぎだぜ
!?
﹂
││
はしなかった。
圧倒的破壊力を誇る双頭狼の牙狼牙の直撃。それは角都の心臓の
﹁う、うおおおおッ
﹂
抜け出す暇もない連携攻撃だ。角都には防ぐ事も避ける事も出来
イミングで残る力を振り絞ったのだ。
丸が牙狼牙を放っていた。体力回復に努めていたキバはここぞのタ
角都が影真似に捕らえられた瞬間。完璧なタイミングでキバと赤
││牙狼牙
﹁喰らえやァッ
で生き延びている老獪な忍らしい思考だ。だが、全ては遅かった。 生きてさえいれば再起は可能。この歳まで他人の心臓を奪ってま
を続ける程角都は愚かではなかった。
し飛段も行動不能となっている。そんな状況で木ノ葉を相手に戦闘
そう、角都はここに至って撤退する気であった。心臓を二つも消費
尽きる前に抜け出し、そして再起を図る事も出来た。
ただろう。少なくとも後二回死ぬ余裕がある角都だ。全ての心臓が
角都ならば影真似の術から逃れるのに然程の時間は掛からなかっ
!
!?
514
!
!
! !!
全てを破壊するばかりか、その身体の殆どを消し飛ばした。
﹁ばか、な⋮⋮﹂
首だけになった角都が最期に怨嗟の声を呟く。視界に映るのは己
よりも遥かに若い少年少女達。
﹂
そんな者達が一丸になったとはいえ自分を打ち倒した事が未だに
殺られやがったのかよおいっ
信じられないまま、角都はこの世を去った。
﹁か、角都
と。
だが飛段はシノに対して嘲笑を浴びせた。
﹁ク ッ、ク ク ク 確 か に オ レ の 負 け だ な
だ が オ レ は 死 に は し
そんな飛段にシノは冷静な口調で現状を語った。既に詰みなのだ、
﹁もう終わりだ。何故なら、お前はもう動く事も出来ないからだ﹂
だけのままで叫ぶ。
自分よりも強い角都が死んだという事実が信じられずに飛段は首
!
!
﹂
封印だろうが何だろうがしてもいずれ抜け出して、テメーら
の喉元に喰らい付いてやるぜ
ねぇ
!
当にそうなりそうだという不安を周囲に与える程にだ。
だがシノはそんな飛段に対して冷静に残酷な言葉を返した。
﹂
﹁無駄だ。何故なら⋮⋮お前はこれから蟲の餌となるからだ﹂
﹁⋮⋮あ
﹂
!
﹂
﹁や、やめろォォォ
﹂
﹁肉片一つ残さずに消えても生きているのか⋮⋮確かめた事はあるか
﹁て、てめー、ま、まさか⋮⋮
から開放した無数の蟲を見て青ざめる。
シノの言葉が理解出来なかった飛段は一瞬呆け、そしてシノが全身
?
なく蟲に喰らわれて完全に消滅した。
﹁⋮⋮むごいな﹂
﹁⋮⋮ああ﹂
515
!
その叫びはアスマ達を呪い殺さんばかりに響き渡った。いずれ本
!!
!
哀れ、不死身なれど再生能力を持っていない飛段は、全身余すこと
!!
?
﹂
﹁ボク、虫料理だけは食べられないと思う⋮⋮﹂
﹂
﹁見ちゃ駄目よヒナタ
﹁う、うん
その死に様には暁に対して敵愾心しか持っていないアスマ達にも
!
同情心を生み出したという。
516
!
NARUTO 第二十六話
現在、木ノ葉の里には不自然に水浸しとなった一角がある。まるで
その一角のみに天から大量の雨が降ったかの如く大地は水で溢れて
いた。
そんな不自然な地にて二人の強者が向かい合っていた。一人は日
向ヒアシ。木ノ葉にて高名な日向一族の長だ。もう一人は干柿鬼鮫。
この一角を水浸しにした張本人にして暁の一員。
木ノ葉と暁。二人の忍が出会ってする事はただ一つ。生死を懸け
た戦いのみであった。
﹂
二人が相対し僅かに睨み合い⋮⋮そして戦いは始まった。
﹁では⋮⋮そのお力を見させてもらいましょうか
先に動いたのは鬼鮫だった。獰猛な見た目には似つかわしくない
丁寧な言葉遣いを放ち、鬼鮫はヒアシに切り掛かる。
日向を相手に接近戦を挑む。大半の忍がそれを愚かな選択だと罵
るだろう。日向一族は独特の体術である柔拳を用いて戦う。触れた
だけで内臓に直接ダメージを与える柔拳の使い手に接近戦は不利だ。
だが鬼鮫はそれを理解しつつ敢えて接近戦を挑んだ。鬼鮫の体術
がヒアシよりも優れているから、という理由ではない。
確かに鬼鮫は忍術はおろか体術すらそこらの上忍を凌駕している
が、ヒアシと比べると一歩も二歩も劣るだろう。他の日向一族ならま
だしも、一族を束ねる長たるヒアシを相手に接近戦を挑むなど無謀と
いう物だ。
だが鬼鮫には他の忍にはない特別な武器があった。常に肌身離さ
ず持ち歩いている愛刀鮫肌である。
鮫肌の能力であるチャクラ吸収は凄まじい効果を持っている。そ
の特異な形状は肉を削るだけでなくチャクラすら削り喰らうのだ。
そして柔拳は相手の体内にチャクラを流し込んで発動させる体術
だ。だが、流し込まれたチャクラが体内を傷つける前に鮫肌が吸収し
てしまえば⋮⋮。その一撃はただの打撃、いやそれ以下に陥るだろ
う。
517
!
空間に満ちるチャクラすら削り喰らう鮫肌の旺盛な食欲と吸収の
早さ。その能力があるからこそ、鬼鮫は敢えてヒアシを相手に接近戦
﹂
を挑んだのだ。
﹁⋮⋮はぁっ
﹂
﹁ちぃっ
﹂
空掌の乱れ撃ちだ。
困惑する鬼鮫だが、ヒアシはお構いなしに攻撃を放ち続ける。八卦
るのか。
いのか。何故チャクラを吸収したはずの攻撃にここまでの威力があ
これには鬼鮫も怪訝であった。何故得意のはずの接近戦を受けな
勢いに押されて十数mも吹き飛ばされてしまう。
鬼鮫は咄嗟に鮫肌を前に構えて八卦空掌を受け止めた。だがその
﹁っ
う接近戦を挑んでくる鬼鮫に対し、ヒアシは八卦空掌を放ったのだ。
だがヒアシが鬼鮫の思惑に付き合う事はなかった。己の領分だろ
!
そしてヒアシの攻撃は道具を使用した物ではない。印も結んでお
チャクラを吸収して威力を軽減する事は出来る。
飛び道具は道具そのものは吸収出来ないが、その道具に籠められた
喰らう事で無効化出来る。チャクラを飛ばす気弾も同じだ。
チャクラの攻撃は忍術ならば││火遁は熱がるが││鮫肌で削り
道具による攻撃だ。
遠距離攻撃は主に二つに分けられる。チャクラによる攻撃と、飛び
││さて、どうして鮫肌で吸収出来ないのか││
だ一つ。
鬼鮫のその考えはあっていた。となると鬼鮫にとっての問題はた
た忍がヒアシにその能力を伝えたのだろう。
けなかった理由はおおよそだが気付いていた。恐らく鮫肌の力を見
そして僅かに稼いだ時間を使って思考する。ヒアシが接近戦を受
鬼鮫も堪らず後退し周囲の建物の裏に隠れた。
正確に、高速に、それでいて重い一撃が連続で放たれる。これには
!
らず性質変化もしていなかったのでチャクラを用いた気弾という事
518
!?
になる。だが鮫肌で吸収する事は出来ていない。つまりあれはチャ
クラそのものを放つ遠距離攻撃ではないのか
﹂
﹁しまった⋮⋮
﹂
能力を思い出したのだ。
ぐに解消された。日向が誇る血継限界にして三大瞳術の一つ、白眼の
だが何故死角に隠れている自分を攻撃出来たのか。その疑問はす
ないだろう。
誰が成した事かはすぐに理解していた。敵対するヒアシに他なら
﹁がはっ
その答えに行きつく前に、鬼鮫は思わぬ衝撃を受けて吹き飛んだ。
のみの威力だったのだ。
する事は出来ない。つまり先ほど鬼鮫が吹き飛ばされたのは衝撃波
鮫肌がチャクラを吸収しようとも生み出された衝撃波までは吸収
出し、それを対象にぶつける体術なのだ。
八卦空掌は掌からチャクラを高速で放出して真空の衝撃波を生み
そのものはチャクラではないのだ。
ない。確かにチャクラを利用して放たれる攻撃ではあるのだが、攻撃
鬼鮫の疑問は正解だ。八卦空掌はチャクラによる遠距離攻撃では
?
鮫を攻撃したのだ。
!?
││八卦空掌六十四連
││
でしかも連続で放つ。まさに日向の長に相応しい実力と言えよう。
ていた。これだけの遠距離で、針の穴を通す様に正確な攻撃を高威力
更にヒアシの八卦空掌は高速で弾き飛ぶ鬼鮫の点穴を正確に貫い
ルの様に鬼鮫を弾き続ける。
吹き飛ぶ鬼鮫の態勢が整わない内に追撃を加え、空中で跳ねるボー
えた鬼鮫を逃がしはしなかった。
ヒアシの攻撃は止まらない。連続して放たれる八卦空掌は一度捉
﹁ぐ、あっ、があぁぁ
﹂
透視眼にて鬼鮫の位置を正確に把握していたヒアシは建物ごと鬼
る程度では事足りない。
白眼は視る事に特化した瞳術。その瞳から逃れるには物影に隠れ
!
!
519
!?
六十四の点穴を突いた時、ようやくヒアシは攻撃の手を止めた。
人体には三百六十一箇所の点穴があり、この攻撃はその内の六十四
を突いた事になる。
これだけならばまだ大半の点穴が残っている様に思えるかもしれ
ないが、これだけで身体を巡るチャクラを塞き止めるには十分なので
ある。
点 穴 を 突 か れ た と い う 事 は チ ャ ク ラ を 封 じ ら れ た だ け で は な い。
同時に内臓にもダメージを受けたという事だ。放置すれば死に至る
だろう。
いや、あの威力の八卦空掌を喰らい続けたのだ。点穴に関係なく死
に至る攻撃だったと言える。事実ヒアシですら終わったと思ってい
た。
﹁ぐ⋮⋮ぅ⋮⋮ッ﹂
﹁ほう。生きておったか。大した物だ﹂
肌によって防がれたのだ。
ヒアシは驚愕するが、それは鬼鮫が生き延びたからではない。そう
なる可能性すらヒアシの予想の範疇。敵が瀕死の振りをしている可
520
鬼鮫は生きていた。だが、それは文字通り生きていただけだった。
全身は血に塗れ内臓のダメージにより多量の吐血をしている。ま
さに死に体だ。止めを刺す必要もなく僅かな時間でくたばるだろう。
﹁未だ武器を手放さぬその闘志は認めよう。だが慈悲はない﹂
鬼鮫はあれだけの攻撃に晒されながらもその手から鮫肌を離して
はいなかった。
それをヒアシは称賛するが、それで慈悲を掛ける訳もない。相手は
多くの同胞を殺めた大罪人なのだから。
ヒアシは死に体となった鬼鮫相手にも油断する事なく、確実に止め
を刺すべく全力の八卦空掌を放った。
だが││
﹂
﹂
﹁ギギッ
﹁むっ
!
その八卦空掌は鬼鮫の命を奪うには至らなかった。その攻撃は鮫
!?
能性すら考慮の内だ。
そんなヒアシですら鮫肌そのものが動き鬼鮫を庇うとは流石に予
想していなかったようだ。意思を持つ武器など想像の範疇を超えて
いるだろう。
主を護った鮫肌は更に驚くべき行動に出た。今まで殺してきた木
ノ葉の忍から奪ったチャクラを鬼鮫に還元したのだ。
鬼鮫に送られた膨大なチャクラは傷ついた身を急速に癒した。そ
れは塞がれていた点穴すらも、だ。
敵からチャクラを奪うだけでなく、それを持ち主に還元して傷や体
﹂
力を回復させる。これが鮫肌の最も恐ろしい真の能力であった。
﹁かぁっ
完全に回復し切る前にとヒアシは八卦空掌を放つが、それは傷の大
部分が治癒した鬼鮫によって防がれてしまう。
威力に押されて後退するが、立ち止まった時には既に鬼鮫の傷は完
全に癒えていた。
﹁日向は木ノ葉にて最強⋮⋮この言葉、伊達ではない様ですねぇ。死
ぬかと思いましたよ﹂
﹁どうやら風貌通りの怪物の様だな。まあよい。回復などという生ぬ
るい事が出来ぬよう、完全に息の根を止めれば良いだけの話よ﹂
そう、生きていれば回復も出来るが、死ねば回復もへったくれもな
いだろう。ヒアシの答えは極端だが正解だった。
次は点穴を狙うなどと生易しい事はせずに八卦空掌の連撃にて肉
﹂
体に風穴を開けてやろう。そんなヒアシの思惑に、今度は鬼鮫が付き
合う事を拒否した。
││
﹁無理矢理にでも接近戦に持ち込ませて頂きましょう
││水遁・大爆水衝波
!
その迫り来る大津波に対し、ヒアシは八卦空壁掌にて対抗しようと
く。大量の水が溢れ返り一瞬で大地に湖を作り出す程だ。
単純だがその効果は凄まじかった。その効果はまさに大瀑布の如
き出す爆水衝波。その単純な強化版が大爆水衝波だ。
口の中に溜め込んだチャクラを水に変化させ、それを津波の様に吐
!
521
!
して、それを躊躇してしまった為に水の中に飲み込まれてしまう。
ヒアシを飲み込んだ大津波はそのまま大地に流れ広がって行く事
﹂
無く、巨大な水球となってヒアシを閉じ込めた。
﹁⋮⋮
大水球に捕らわれたヒアシはそれでも焦る事無く冷静に在るが、鬼
鮫の身体に起こった変化には流石に驚愕した。
鬼鮫と鮫肌。忍と忍具。別個に存在するはずのその二つが融合し
一つとなったのだ。
鮫肌と融合した鬼鮫はその容貌を更に鮫の如くに変化させた。鮫
をモチーフにした半魚人とも言える姿に変化した鬼鮫を見てヒアシ
は僅かに渋面となる。
││これではあの武器を奪う事は出来ぬな││
鬼鮫の対処法として回復する前に殺し切るという物騒な手段とは
別にヒアシが考えていた手段だったが、これではそれも不可能だろ
う。
しかも融合した事で鮫肌が蓄えていたチャクラも完全に鬼鮫へと
受け継がれ、元々鬼鮫が有していた膨大なチャクラと合わさり尾獣に
匹敵する程のチャクラを鬼鮫は放っていた。
これが尾を持たない尾獣と恐れられている鬼鮫の真の戦闘形態で
ある。
﹁では、行きますよ﹂
鬼鮫は凄まじい速度で水中を移動しヒアシへと接近する。どうや
ら見た目の変化は伊達ではない様だ。
大爆水衝波で作り出した膨大な水に敵を捕らえ、鮫肌と融合して水
中で動きが不自由となった敵を攻撃する。水牢鮫踊りの術と呼称さ
れる鬼鮫の得意術だ。
対するヒアシは水中が不利なのでどうにか移動してこの大水球を
脱出しようと考え⋮⋮る事はなかった。
迫る鬼鮫に対して微動だにせず待ち構え、鬼鮫が近づいて来た瞬間
に全身からチャクラを放出しそれを高速で回転させる事で日向の秘
奥である廻天を使用する。
522
!
日向ヒヨリが編み出した回天を超える廻天。自らが回る回天とは
違い廻天は放出したチャクラそのものを高速で回転させる。
この二つの違いは術中の自由度の差だ。自らの肉体を回転させる
回天は術中にその場から動く事は出来ない。だが廻天ならばチャク
ラの高速回転による防御をこなしつつ攻撃や移動を行う事も出来る。
これは非常に大きな差となるだろう。
ヒ ア シ は 廻 天 に て 己 の 周 囲 に 満 ち て い る 膨 大 な 水 を 押 し の け た。
防御の為ではなく、自由に動ける空間を作る為の廻天だ。
廻天ではなく回天を使用しなかったのは攻撃のタイミングが一瞬
しかないからだ。相手は鮫肌と融合している。チャクラを放出して
水を押しのけようとも吸収されれば元の木阿弥だ。
だからこそ、相手がチャクラを吸収し、水が元に戻ろうとした一瞬
のタイミングで攻撃する。そのタイミングを得る為には回天よりも
廻天の方が都合が良かったのだ。
﹂
523
ヒアシの予想通り、廻天によるチャクラの放出は鬼鮫に吸収され、
周囲の水は一瞬で元に戻ろうとする。
││
そのタイミングでヒアシは鬼鮫の攻撃を躱し逆に柔拳の一撃を叩
き込んだ。
││柔拳法・一撃身
これならどうです
せんしょくこう
││水遁・ 千 食 鮫
││
﹁感服しましたよ。やはり接近戦はあなたが有利の様ですね。なら、
を即死させるには至らなかった様だ。
だが、やはり多少なりとも吸収された事でその威力は軽減し、鬼鮫
﹁⋮⋮鮫肌と融合した私にここまでの一撃を加えるとは﹂
鮫肌に全てを吸収される前に鬼鮫の肉体に確かに届いた。
一点に集中している上に一瞬で放たれた膨大なチャクラの一撃は、
吸収も遅いだろうと予測しての攻撃である。
体外に漏れ出すチャクラではなく体内のチャクラなら鮫肌による
で爆発的な威力を生み出す柔拳の一撃だ。
体内に集中させていたチャクラを触れた対象に一瞬で叩き込む事
!
!
!?
鬼鮫が周囲の水を利用して放たれた水遁は術名を表す様に千匹も
の水の鮫となってヒアシに襲い掛かった。
水中という本来の動きが取れない不自由な地形でそれだけの数の
鮫に襲われる。それで死ぬ様ならばヒアシは日向は木ノ葉にて最強
などという言葉を口にはしないだろう。
ヒアシは無数の鮫の攻撃を全て見切り、一瞬の内に柔拳にて破壊し
ていく。背後から迫る水鮫も白眼にて殆ど死角がないヒアシには通
用しなかった。
だが敵は水鮫だけではないのだ。無数の鮫に紛れて鬼鮫もヒアシ
に対して攻撃を加えていく。
その動きをヒアシはチャクラの質を見切る白眼にて見抜いていた
が、だからと言って全ての攻撃に対応出来る訳ではない。
一番厄介である鬼鮫の攻撃を捌き躱す事に集中すると、どうしても
水鮫の攻撃は完全には躱し切れない。回天や廻天にて防御するも、そ
水という全身を覆う邪魔物はヒアシの動きを制限していた。
攻撃のモーションが鬼鮫に見切られるのだ。そんな攻撃など放た
れる前に察知され、自在に水中を動く鬼鮫にあっさりと回避されてし
まった。
攻撃を当てる事も出来ないヒアシはやがて追い詰められ逃げ惑う
様に水中を移動し、そして水底へと沈んで行った。
もはや逃げる力もなくなったのか。そう判断した鬼鮫だが焦らず
524
れは鬼鮫にて削り吸収される。
そして一撃が掠り、また一撃が掠りと、少しずつ鬼鮫と水鮫の攻撃
苦しいでしょう。水中で呼吸が出来ないのは不便で
はヒアシに着実とダメージを与えていた。
﹁どうですか
しょうねぇ﹂
││
!
迫り来る鬼鮫に向けてヒアシは八卦空掌で狙い撃つ。だがやはり
││八卦空掌
い。どれだけ修行しても人としての限界という物はあるのだ。
だがどれだけ水中戦に長けていても、水中で延々と息が続く事はな
ヒアシとて忍だ。水中戦は不慣れなれど多少の心得はある。
?
侮りなくヒアシを追い詰めていく。
ヒアシは、水中に捕らわれようと逃げる心算など欠片もなかった。
無数の攻撃に晒されて移動したのも、水底へと沈んだのも、それは逃
げた結果ではない。
自らこの場所に移動したのだ。鬼鮫が移動するとこの巨大な水球
も移動する。それを戦闘中に察知したヒアシが、最も適切な場所にこ
の大水球を移動させる為に逃げる振りをして鬼鮫を誘導していたの
だ。
││
そして全ての準備が整ったヒアシはその力を解放した。
││八卦空壁掌
水中から放たれたその一撃は膨大な水を全て押し上げていく。術
という物は使い手によって威力が変化する。例え同じ術でも下忍と
上忍ならば基本的に上忍が放つ術の方が威力が上だろう。
ヒアシが放った八卦空壁掌もそうだ。ヒナタやネジがこの三年間
の修行でようやく会得した八卦空壁掌も、ヒアシは会得して数十年と
経っている。ならばその質・威力も熟練と共に向上して当然だろう。
湖を生み出す程の大量の水という質量をヒアシは八卦空壁掌にて
吹き飛ばそうとしているのだ。一撃だけではない。八卦空壁掌の連
続使用という凄まじい所業にて大量の水を彼方へと吹き飛ばして行
く。
そ う し て 全 て の 水 は 木 ノ 葉 の 里 を 囲 む 広 大 な 森 の 中 へ と 消 え て
行った。
これがヒアシの狙いだった。ヒアシが最初に大水球に飲み込まれ
た時。あの時ヒアシは八卦空壁掌にて水に飲み込まれる前にその水
を吹き飛ばす事が出来ていた。
だがそれをしなかった理由は吹き飛ばした水の行き先が木ノ葉の
里の内部だったからだ。あれだけの水が吹き飛んでくればその場に
いた者達は確実に巻き込まれ、そして多くが犠牲になっただろう。
その中には自分の娘すらいたのだ。そんな事はヒアシには出来な
かった。なので鬼鮫の攻撃を受けつつも木ノ葉に影響を受けない位
置へと移動し、そして全ての水を森林へと吹き飛ばしたのだ。
525
!
﹁あれだけの水を吹き飛ばすとは⋮⋮化け物ですかあなた
﹁貴様に言われたくはない⋮⋮﹂
﹂
久方ぶりの空気を存分に味わい、ヒアシは空から降り立った鬼鮫と
再び相対する。
どうやら鬼鮫に先ほどの八卦空壁掌によるダメージはないようだ。
それはヒアシが鬼鮫を攻撃する為ではなく水や鬼鮫を吹き飛ばす為
に範囲を大きく広げていたからだ。
まあ、多少のダメージを受けていたとしてもすぐに回復していただ
ろうが。
﹁ここならば存分に戦う事が出来る﹂
﹁どうやらその様ですね⋮⋮﹂
先の八卦空壁掌を見るにもはやヒアシには水牢鮫踊りの術は通用
しないと鬼鮫も理解していた。術の基盤となる大爆水衝波自体が大
量の水を生み出す前に消し飛ばされるだろう。
な ら ば ど う す る か。決 ま っ て い る。や は り 接 近 戦 に て ヒ ア シ の
チャクラを奪いつつ消耗させる戦術が最も効果的だろう。
柔拳はその性質上どうしても敵にチャクラを放つ必要がある。そ
の工程を介する限り鮫肌のチャクラ吸収によって柔拳の威力は激減
してしまうのだ。
鬼鮫はヒアシのチャクラを吸収しつつ回復する事が出来、ヒアシは
チャクラを吸収され消耗しながら戦う。純粋な接近戦はヒアシが圧
倒しているが、長期戦になれば鬼鮫が有利なのは言うまでもないだろ
う。
鮫肌を奪われる事が唯一の敗因となると理解している鬼鮫は鮫肌
と融合したままにヒアシに攻撃を仕掛ける。陸上だろうと人間の特
﹂
性も持つこの形態は特に動きを鈍らす事はない。
﹁陸に上がった鮫如き⋮⋮﹂
﹁その如きに食われるんですよあなたは
シの反撃を恐れる事無く、鮫の獰猛性を表したかの様な猛攻を仕掛け
││
526
?
柔拳恐るるに足らず。鮫肌という強力な相棒を持った鬼鮫はヒア
!
﹁ごっ
﹂
﹂
││ヒアシの拳を受けて吹き飛ばされた。
﹁な、あ、それ、は⋮⋮
﹂
?
た。
﹁どうした
何を呆けておる
る鬼鮫が放った攻撃を躱し⋮⋮その顔を全力で殴り付けただけだっ
ヒアシは、本当に特別な攻撃をしたわけではない。ただ近付いて来
していただろう。今の鬼鮫の様に。
それは木ノ葉に限らず、日向一族と柔拳を知る者ならばきっと驚愕
に驚愕するだろう。
だと思える攻撃しただけだ。だが、木ノ葉の忍ならば誰もが今の一撃
ヒアシは特別驚くような攻撃をした訳ではない。誰が見ても普通
!?
﹂
﹂
!!
時間を掛ければ有利になるのは鬼鮫。それはヒアシも理解してい
合わない程の重傷を負っているのだ。
にも鮫肌の能力をフル稼働させて傷を癒す。そうでもしないと間に
大量の血反吐を撒き散らしながら鬼鮫は吹き飛んで行く。その間
﹁ばはあぁぁぁっ
が離れるではなく鬼鮫を強烈な回し蹴りにて吹き飛ばす。
し、傍に近寄った事で始まっているチャクラ吸収から逃れる為に自分
大地に膝を付いた所を丁度いい高さだとばかりに脳天に肘を落と
て脳天に踵を落とす。
鋭い蹴りを鬼鮫の延髄を抉る様に叩き込み、そのまま足を振り上げ
を黙って見ている訳がなかった。
鮫肌のチャクラによりそれも回復していくが、ヒアシが完治するの
ではなく真実背骨をへし折っていたのだ。
激痛が走り思わず呻く鬼鮫。それもそのはず、ヒアシの一撃は比喩
﹁がはぁっ
へし折らんばかりに殴り付ける。
瞬身の術にて一瞬で鬼鮫の背後に回り、鬼鮫が振り向く前に背骨を
更なる追撃を加える。
ヒアシは呆然とした鬼鮫にそう問い掛けつつも、答えを聞く事なく
?
!
527
!?
る。今も吹き飛ばされながら傷を癒しているのを白眼にて確認し、器
用な真似をすると顔を顰めながらも鬼鮫を追う。
勝負は速攻。一切の無駄な時間を作らない様、ヒアシは鬼鮫に向
かって駆け寄った。
鬼鮫は近寄って来たヒアシに対して空中で姿勢を制御しつつ大地
に降り立ち、迫るヒアシに反撃する。
その反撃に対してヒアシは防御するでも回避するでもなく、自身の
﹂
攻撃をぶつける事で逆に鬼鮫の攻撃して来た腕を破壊する。
﹁ッ
防御しても回避してもここまで接近した以上チャクラを奪われる
だけ。ならば逆に攻撃してダメージを与えた方が効率的という物だ
ろう。
さま
ヒアシは練り上げたチャクラを全力で肉体強化に回し、吸収される
前に凄まじい速度で攻撃を加え続ける。その様はとても日向宗家の
戦闘とは思えないだろう。
だが剛拳を振るっているがそこに至るまでの工程は日向の血や柔
拳の基礎によって築かれていた。
白眼にて敵の動きやチャクラの流れを見抜き、柔拳を鍛え上げた事
で培った戦闘経験で的確に敵の攻撃を見切り反撃する。
様々な下地があるからこそ、ヒアシの剛拳は効果を発揮しているの
だ。
ヒアシの苛烈なまでの猛攻を受け続けた鬼鮫。だがその猛攻を受
けたのは鬼鮫だけではなかった。
鮫 肌 は 意 思 を 持 つ と い う そ の 特 殊 性 の 為 か 痛 覚 ま で 持 っ て い る。
つまり鬼鮫と融合した鮫肌もヒアシの攻撃を受けているという事に
なるのだ。
あまりの痛みを受けた為か、鮫肌はその痛みから逃れる為に鬼鮫と
の融合を解除してしまった。鮫肌の主人である鬼鮫も予想していな
かった行動だ。武器で在りながら意思を持つが故の欠点と言えるの
かもしれない。
融合を解除した鮫肌を、それでも鬼鮫は手放す事無くその柄を握り
528
!?
締めていた。離せば最後、回復の手段を失った瞬間に死が待っている
と鬼鮫は理解しているのだ。
だがヒアシがそれを許す様な生易しい性格をしているはずもない。
味方にも自身にも厳格な男が、敵に優しい訳がないのだ。
ヒアシは鮫肌を握る鬼鮫の腕に強烈な手刀を叩き込み、その腕をへ
﹂
﹂
し折った。更に鮫肌の柄を蹴り付ける事で鬼鮫の手から鮫肌を奪う。
﹁ぎっ
﹁ギギィ
奇しくも主人とその武器は痛みにより似た様な悲鳴を上げる。
そんなどうでも良い事は気にも止めず、ヒアシは鮫肌を更に蹴り付
﹂
けて遠くへと吹き飛ばした。
﹁ギィッ
い、と。
対して、日向最強の忍はこう言うだろう。日向が剛拳を使って何が悪
だが今の鬼鮫の様に日向が剛拳を使う事を想像もせずにいる者に
を想像出来る者が果たして忍界にどれだけいるのだろうか。
そんな日向一族の長が、柔拳ではなく剛拳にて敵を打ち倒す。それ
いう認識は常識とも言える程だ。
義すらある程に日向は柔拳に誇りを持っており、日向と言えば柔拳と
日向一族が代々伝えてきた柔拳。宗家にのみ口伝として伝える奥
て当然であろう﹂
﹁柔拳も剛拳も等しく敵を打ち倒す為の技術。状況によって使い分け
息も絶え絶えに呟く鬼鮫のその言葉にヒアシはこう返した。
使って来るとは⋮⋮ね﹂
﹁ま、まさか⋮⋮日向の長ともあろう御方が⋮⋮柔拳ではなく剛拳を
り向く。
そんな鮫肌を見て、鬼鮫は苦痛に顔を歪めながら次にヒアシへと振
事も出来ないだろう。
る。自らの力で動く事も出来る鮫肌だが、これではそう簡単には動く
吹き飛ばされた鮫肌は勢いのままにその刀身が大木へと突き刺さ
!!
誇りを持つ事によって人は己に自信を持つだろう。だが、誇りを重
529
!?
!
視し過ぎて視野を狭くする事は愚かである。
柔拳に誇りを持つ事は良い事だが、だからと言って剛拳を身に付け
てはいけない理屈もない。ヒアシはアカネからそう教わったのだ。
時には柔拳が効果を及ぼさない敵や状況もある。そんな時の選択
肢として剛拳を覚えておく事は悪い事ではない。そうして身に付け
た剛拳は確かに効果を発揮した。
柔拳の内部破壊は確かに生物に対しては無類の強さは発揮するが、
鬼鮫の様な特殊な敵には効果は今一つだ。
だが剛拳は柔拳と違い己の肉体を強化して対象を外部から破壊す
る単純明快な攻撃方法だ。その攻撃に対象にチャクラを流し込むと
いう複雑な工程は挟まれない。
つまり鮫肌によるチャクラ吸収を最低限に抑えて攻撃する事が出
﹂
来るという事だ。これが鮫肌を有する鬼鮫への最適解の戦術であっ
た。
﹁わた、しは⋮⋮
全身が傷つき、息も絶え絶えとなっている鬼鮫はそれでも力を振り
絞って足掻き通した。
偽りのない世界。誰の言葉も疑う必要のない、夢の世界。暁にて唯
一イズナの目的を知り、それを目指している鬼鮫は最期の最期まで諦
││
めるつもりは毛頭なかった。
││水遁・大鮫弾の術
﹁見事
私も全霊にて応えよう
﹂
鮫を作り出す。まさに鬼鮫の執念が籠もった一撃だ。
い。殆ど水のない土地にて自らのチャクラのみでここまでの巨大な
周囲にある水はヒアシが吹き飛ばした事で僅かしか存在していな
思わせる程、この術の規模は凄まじかった。
あの身体でどうやってここまでの術を放ったのか。ヒアシにそう
!
!
││
すべき敵として全力を尽くした。
││八卦空壁集掌
八卦空壁掌を一点に集中させて攻撃範囲を絞り、その威力を絶大に
!!
530
!
その執念を感じ取ったヒアシは鬼鮫を憎き敵としてではなく尊敬
!
高めた柔拳の奥義。
鬼 鮫 の 大 鮫 弾 は 術 そ の も の が チ ャ ク ラ を 吸 い 取 る と い う 性 質 を
持っている。敵が放った忍術を吸収して更に巨大となり攻撃力を増
すという凄まじい術だ。
だがヒアシが放った八卦空壁集掌はその大元は八卦空掌と同じ、す
なわちチャクラを放出して真空の衝撃波を作り出すという術だ。
大鮫弾の術ではチャクラを吸収してもその威力までは吸収しきれ
ず、鬼鮫が全てを振り絞って放った術は敢え無く消し飛んだ。
﹁⋮⋮がぶっ﹂
鬼鮫の口から大量の血が溢れる。そしてその胸からも。ヒアシが
放った一撃は巨大な水の鮫を消し飛ばすに飽きたらず、鬼鮫の胸部を
も貫通していたのだ。
両肺と心臓。強靭な生命力を誇る鬼鮫も、この二つの重要内臓器官
を失った事でもはや戦闘力の欠片も残ってはいなかった。
﹁まだ息があるか⋮⋮大した奴だ。慰めにもならんが最期に伝えてお
こう。私は貴様の事をけして忘れんだろう。⋮⋮さらばだ﹂
﹁⋮⋮﹂
ヒアシの言葉を聞いた鬼鮫が最期にどう思ったか。それは誰にも
分からない。
こうして、偽りだらけの世界を生きた事で偽りのない世界を夢見る
様になった男は散っていった。
﹁⋮⋮やはり剛拳は慣れぬな﹂
鬼鮫の死を確認したヒアシは自身の手を見やり呟く。その両手は
鬼鮫ではなく自らの血に塗れ、指の骨も幾つかが折れていた。
鮫肌と融合した鬼鮫の皮膚は文字通り鮫の肌の様に硬くざらつい
ていたのだ。それを幾度も強打していればこうもなろう。チャクラ
の吸収がなければそれも防げたのだろうが。
それ以外にも多くの傷をヒアシは負っていた。鬼鮫の水牢鮫踊り
の術はヒアシを大きく負傷させていたのだ。
だが泣き言など言えぬ。誰が見てなかろうとも日向ヒアシは誇り
高き日向一族の長。それが泣き言など口にしてはならないのだ。
531
休みたがる肉体の声を無視し、ヒアシはその歩を進めていく。
532
NARUTO 第二十七話
一体一体が強力な固有能力を持ち、輪廻眼の視覚共有により完璧な
連携を誇るペイン六道。
あの二代目三忍自来也が仙人となっても太刀打ち出来なかった相
手だ。だが木ノ葉の誇る精鋭が五人で掛かればどうだろうか。
いや、ペイン六道を相手に数の有利はない。必要なのは数ではなく
質だ。一定以上の実力を持たない忍が何百、何千と集まろうと一蹴さ
れるだけで終わるだろう。
その点で言えばこの五人は一定以上の質を有していた。三代目火
影 猿 飛 ヒ ル ゼ ン。裏 の 火 影 と 謳 わ れ る 根 の リ ー ダ ー 志 村 ダ ン ゾ ウ。
千の術をコピーしたはたけカカシ。火影を目指すうちはの精鋭うち
はオビト。綱手に次ぐ医療忍術の使い手のはらリン。
いずれも強国である木ノ葉にて右に並ぶ者が少ない実力者たちだ。
533
彼らだけで一国を落とす事も可能だろう。
だが、それでもペイン六道を相手に十分だと言い切れる戦力ではな
かった。それは相対する木ノ葉の忍の誰もが理解していただろう。
﹁三代目火影と、それを裏から支える志村ダンゾウか﹂
ペイン六道の中でリーダー格として動く天道が戦闘の前に口を開
く。カカシ達には目もくれず、天道の視線はその二人を射抜いてい
た。
﹁お前達は今の木ノ葉を築き上げた立役者だ。初代が作り、二代目が
﹂
基礎を積み上げ、お前たちが磐石の物とした。その治世は他里すら羨
む程だろう﹂
﹁暁の首領に褒められてもな⋮⋮﹂
﹁その木ノ葉を滅ぼそうとする輩が何をほざく
続けた。
そんな二人の怒りから放たれる威圧など意に介さず、天道は言葉を
ての者を子どもの様に想っている三代目は激昂していた。
冷静だが里を滅茶苦茶にされた事でダンゾウは静かに怒り、里の全
ダンゾウもヒルゼンも、天道の言葉に怒りを顕わにする。
!
こんな事をして平和ですって⋮⋮
﹂
﹁全ては世界平和の為。お前達木ノ葉はその礎となるのだ﹂
﹁平和
もおかしくはなかった。
﹁三代目様達は誰よりも立派に木ノ葉を護って来た
﹂
!
を攻撃する暁とその首領の言葉など受け入れられる訳がなかった。
その尊敬する彼らをまるで無能の様に罵る上に、尾獣を奪い木ノ葉
ウを尊敬していた。
里と里に住む人々を愛し火影を目指すオビトはヒルゼンやダンゾ
作り出したお前達に言われたくねぇんだよ
戦争の火種を
が暁によって狩られた。軍事バランスが崩れた今、いつ戦争が起きて
ち多くの犠牲を恐れて戦争は避けられていた。だがその尾獣も殆ど
この十数年、尾獣という強大な力の塊が里と里の軍事バランスを保
に同盟を結んだが、それも永遠に続く訳ではないだろう。
国の内、四つが平和と反する行動を取っている。砂隠れは木ノ葉と真
信用しない岩隠れ、近年に木ノ葉を襲った経歴を持つ砂隠れ。忍五大
軍事力を高め続ける雲隠れ、血生臭い噂が絶えない霧隠れ、他里を
の話だ。
葉の忍が一丸となって里を平和にしようとも、それは木ノ葉の里だけ
の言葉が事実だからだ。どれだけ二人が、いや二人の意思を広げ木ノ
天道の言葉にヒルゼンもダンゾウも返す言葉を失くしていた。そ
﹃⋮⋮﹄
いのだと﹂
里を理想の形に導こうとも、他里にまでその理想を届ける事は出来な
と幾度となく殺しあって来たお前達ならば分かるはずだ。⋮⋮幾ら
かに、そして平和に導いて来た。だが、それでも戦争は起こる。他里
﹁そうだ。三代目、そして志村ダンゾウ。お前達は確かに木ノ葉を豊
た。
を殺して木ノ葉を破壊しているペインの言葉は到底許せない事だっ
心優しく戦いを望まないリンに、平和の為とほざきながら多くの忍
りを言葉にしてペインへとぶつけた。
天道の言葉を聞いたリンはペインの言動の矛盾に誰よりもその怒
!?
!!
534
?
﹁そう、我々は戦争の火種を作った。その戦争をコントロールし、世界
﹂
に痛みと言う名の成長を与える。痛みなくして世界に平和は訪れな
い﹂
﹁その痛みとやらでどれだけの犠牲が出ると思っている⋮⋮
﹁例え億単位の人間が死のうとも、それが世界の平和に繋がるなら必
要な犠牲だ﹂
カカシの言葉もペインには届きはしない。かつての師である自来
也にも語った様に、尾獣を利用した禁術兵器によって世界に大きな痛
みを与えようとしているペインにとって、犠牲の多さは寧ろ好都合な
のだ。
﹁どうやら会話は成り立たん様だの﹂
﹁元より問答無用。木ノ葉を傷つけた報いは受けてもらう﹂
﹁愚かな。我らに協力すれば助けてやるのも吝かではなかったという
のに﹂
会話は無意味。分かり合える事なく平行線を保つのみ。ならば互
いに問答は不要であった。
││
木ノ葉の強豪とペイン六道。その死闘が幕を開けた。
││土遁・土流城壁
を垂直に隆起させる事でペイン六道の前に壁を築き上げる。更に術
の効果範囲を操作する事でペインの周囲全てを土の壁で覆った。
こ れ は 攻 撃 の 為 の 術 で は な く ペ イ ン 六 道 の 視 界 を 塞 ぐ 為 の 術 で
あった。自来也が得た情報はフカサクが伝えた事で主だった木ノ葉
の忍に知れ渡っている。
││
その情報を元にオビトはペインの視界を塞ぎ輪廻眼の視界共有を
妨げたのだ。
││雷遁・雷獣追牙
そして間髪入れずに放たれるのはカカシの雷遁である。カカシの
代名詞とも言える雷切の形態変化で、狼の形をした雷切が敵を襲う術
だ。
535
!
先手必勝とばかりに手を出したのはオビトだ。土流城壁にて地面
!
!
土流城壁に向けて放たれた雷獣追牙は土の壁を一瞬で食い破り、そ
の後方にいるペインへと襲い掛かる。
雷遁は土遁に強い。その相性の良さを利用し、土の壁で視界が塞が
れているペインにその壁越しに奇襲を喰らわせるというコンビ技だ。
オビトが土流城壁を放つタイミングとカカシが雷獣追牙を放つタ
イミングに然したる差はなかった。一切の打ち合わせをせずにこの
連携を行う事が出来るのが、二人がコンビとしてその名を馳せている
証拠であろう。
雷獣追牙が土の壁を突き破った時、そこには既に天道と餓鬼道が待
ち構えていた。
土流城壁にて土の壁が築かれた瞬間に次に忍術か飛び道具による
一斉攻撃が来ると予測していたのだ。
流石に土の壁が築かれた瞬間にそれを突き破って雷遁が強襲して
くるのは予想外だったが、忍術ならば餓鬼道が吸収すれば済むだけの
得意とする忍術を同時に、完全にチャクラ比を合わせて放った。カカ
シとオビトのコンビに勝るとも劣らぬ、まさに熟練の技である。
大豪炎に真空大玉が合わさる事でその火力と規模は圧倒的に高ま
り、修羅道の兵器を防ぎ切った。
それだけでなくそのまま餓鬼道に向かってその炎は直進していく。
だが当然忍術による攻撃が餓鬼道に通用するわけもなく、炎はそのま
536
事だ。
更に修羅道がその全身から数多の兵器を作り出し、土の壁に向けて
一斉に放った。
無数のミサイルやレーザーと言ったこの世界の技術水準では本来
有り得ない兵器を自らの肉体から作り出す。これも輪廻眼の恐るべ
き力であった。
無数の兵器は土の壁を容易く破壊しそのままヒルゼン達に襲い掛
かる。
││
││
││火遁・大豪炎の術
││風遁・真空大玉
!
当然それを黙って受けるわけもなく、ヒルゼンとダンゾウは互いに
!
ま餓鬼道に吸収されていく。
だが餓鬼道は忍術を吸収している間動く事が出来ない。その隙を
突いてリンは複数の苦無を投擲する。
物理攻撃を防ぐ手段を餓鬼道は有していない。それを防ぐ為に天
道は苦無に向けて神羅天征を放つ。自分を中心として周囲に斥力を
発生させるだけでなく、こうして部分的に斥力を発生させる細かな放
出も可能であった。
餓鬼道が炎を吸収し続け、天道が苦無を弾いた。その瞬間にカカシ
が地面から奇襲を仕掛けた。
カカシはオビトの隣で立っている。だがこうして奇襲をしている
のもカカシだ。
カカシは土流城壁が壊される前に影分身の術を使用していたのだ。
そして影分身を地中に潜らせて天道が神羅天征を使用した瞬間に攻
撃を仕掛けたのである。
537
神羅天征のインターバルに付いてもフカサクから聞かされていた。
その隙を突いての奇襲であった。
だが天道、いやペイン六道は能力が強いだけの存在ではない。
影分身のカカシが地面から飛び出す前に大地が僅かにひび割れた
予兆を見逃さず、その奇襲を見切り完全に回避した。
更に追撃しようとする影分身だが、修羅道が振るった刃の尾により
肉体を貫かれて消滅する││前に、修羅道に電撃を流していく。
││雷遁影分身だと││
そう、カカシの影分身はただの影分身ではない。雷遁を組み合わせ
る事で消滅する前に対象に雷撃を流す雷遁・影分身であった。
電撃を流された修羅道はその動きが麻痺した事で次の攻撃を回避
││
する事が叶わなかった。
││螺旋丸
定打を手に入れたのだ。それが螺旋丸である。
アカネとの修行でオビトは自身に欠けていた近接戦闘に置ける決
螺旋丸により、修羅道は破壊された。
カカシとタイミングをずらして地面から奇襲を仕掛けたオビトの
!
チャクラを乱回転させて球状に留めた事で生み出される破壊力は
ペイン六道の一体の破壊に成功する。
オビトはそのまま餓鬼道を破壊しようとするが、それは天道によっ
て防がれた。
そして天道がその腕から伸ばした黒い棒によりオビトは貫かれて
消滅する。だが、当然この奇襲に使われたのも影分身だ。当人はカカ
シの隣で立っているのだから。
﹁取り敢えず一体か⋮⋮﹂
﹁油断するな。奴らは復活する様だからな﹂
﹁復活の術を使うあのペインを先に倒しておきたい所だがのぅ⋮⋮﹂
修羅道を倒したオビトにダンゾウもヒルゼンもまだ油断するなと
声を掛ける。
そして奥にいる地獄道を難しそうな表情で睨んだ。地獄道は人間
道と畜生道によって護られているのだ。
﹄
﹂
と大違いであった。一瞬で目に見えない力が全身に襲い掛かり、僅か
に留まる事も出来ずに吹き飛ばされる。
防御だけでなく攻撃にも利用出来るまさに攻防一体の厄介な能力
538
その三体のペインは後方に下がって完全に防御の体勢に入ってい
た。木ノ葉に地獄道がペインの急所だと知られているのを理解して
いるので、地獄道がやられるのを警戒しての動きだった。これでは奇
襲も成功しないだろうと、まずは数を減らす事を先決にして修羅道を
狙ったのである。
﹁このペイン六道相手にここまで戦えるとはな。自来也先生といいお
﹂
前達といい、木ノ葉にはいい忍がいる⋮⋮。だが、このペイン六道の
前では全てが無意味
操るという忍術の枠を超えた圧倒的な力はそれを警戒していたヒル
天道は修羅道の前に立ち自身を中心に神羅天征を放った。斥力を
!
ゼン達をいとも容易く吹き飛ばしていく。
﹃ぐぅっ
﹁きゃあっ
!?
斥力の力は情報として頭に入れてはいたが、実際に体感するとなる
!?
だ。強く吹き飛ばされた事で全身が痛む彼らはこの術にどう対抗す
べきか高速で頭を回転させていた。
だがそれどころではなかった。天道が放った神羅天征はヒルゼン
達を攻撃する為だけではなく、修羅道を後方へと吹き飛ばす為でも
あったのだ。
吹き飛ばされた修羅道は地獄道に受け止められ、そして地獄道が呼
び出した閻魔に飲み込まれて再び現れる。その姿は傷一つない、破壊
﹂
される前の修羅道そのものであった。
﹁これで振り出しに戻ったな﹂
﹁じょ、常識超え過ぎだろおい⋮⋮
得しろというのが無理という物だろう。
﹂
だがこのままじゃジリ貧だぜ
﹂
忍術は吸収され、物理攻撃は弾かれ、倒しても復活する。これに納
うして目にするとその理不尽さに嫌気も差すというものだ。
理不尽な力の応酬にオビトも歯噛みする。話には聞いていたが、こ
!
トの言葉もまた正しい。天道は振り出しに戻ると言ったが実はそう
ではない。消耗はヒルゼン達の方が激しいのだ。
術の連発に神羅天征のダメージ。まだ動きに支障が出るほどでは
ないが、確実に戦闘開始直後よりも消耗している。
対してペインも確かにチャクラは消耗しているかもしれないが六
道全員が無傷だ。その上忍術を吸収する事でそのチャクラも回復し
ている。どちらが有利かなど子どもでも理解出来るだろう。
この現状を覆す方法は誰もが理解していた。敵の復活の要である
地獄道を倒す事だ。そうすればペイン六道がこれ以上復活する事は
なくなるだろう。
だがもちろんそれはペインも理解している。だからこそ地獄道を
強固な守りで護っているのだから。
どうにかしてあの守りを突破し地獄道を倒す。それがヒルゼン達
に残された唯一の道である。
539
﹁それでもやるっきゃないでしょ
﹁分かってるよ
!
!
敵が理不尽でも戦うしかないというカカシの言葉は正しいが、オビ
!
﹁さて、これはどうする
﹂
する事で凌いでいく。
﹂
そのカマイタチに対して修羅道はミサイルを放ち迎撃しようとす
攻撃する。
ダンゾウが口から複数のカマイタチを吹き出し上空のペイン達を
││風遁・真空連波
││
この怒涛の攻撃に対してヒルゼン達はそれぞれが力を発揮し連携
かる。
では巨大な犬とカメレオンとムカデがそれぞれヒルゼン達に襲い掛
更に修羅道が空から地上に向けて無数の兵器で攻撃を仕掛け、地上
これでより地獄道を倒す手段が減った事になる。
空 と い う 領 域 に 飛 び 立 っ た 地 獄 道 へ の 攻 撃 方 法 は 限 ら れ て い る。
﹁あれでは⋮⋮
修羅道が乗り込み空へと飛び立った。
それだけでなく巨大な鳥の口寄せ動物に畜生道・地獄道・人間道・
物を呼び出しそれらをヒルゼン達にけし掛ける。
一瞬の膠着状態を破ったのはペインだ。畜生道が複数の口寄せ動
?
!
││
るが、カマイタチとミサイルの間に突如として現れた存在がいた。
﹂
││土遁・地動核
﹁むっ
!
であった。
地動核の術は対象の立つ地面を不意打ちの形で持ち上げたり下げ
たりする術だ。その術で餓鬼道をカマイタチとミサイルの間まで上
昇させたのである。
忍術を吸収出来る餓鬼道だが物理攻撃はそうではない。前方のカ
マイタチは吸収出来るが後方のミサイルは防げずにダメージを受け
るだろう。
だがヒルゼンとダンゾウが予想した未来は訪れなかった。なんと
餓鬼道はカマイタチではなく地動核にて持ち上げられた地面を吸収
したのだ。
540
!
それはヒルゼンの地動核の術により一気に持ち上げられた餓鬼道
!?
元々は普通の地面だが、チャクラによって操られ隆起した存在だ。
﹂
ならば術を吸収する餓鬼道に吸収出来ないわけはなかった。
﹁物体である土遁も無理か
﹁舐めんな
﹂
││土遁・土流槍
││
更にオビトは連続して術を放つ事でこの口寄せ犬を封じ込めた。
突 如 と し て 地 面 に 出 来 た 裂 け 目 に 巨 大 な 犬 も 飲 み 込 ま れ て い く。
作る事で対処した。
その口寄せ犬に対してオビトは土流割にて大地に巨大な裂け目を
││土遁・土流割
││
て噛み砕かんとばかりに襲い掛かる。
回避行動を取るオビトに向かって巨大な犬がその強靭な顎と牙に
へと降りかかり、それをヒルゼン達は躱していく。
り合い上空で爆発が起こる。その爆発を縫って更にミサイルが地上
餓鬼道が元の地面へと戻った事でカマイタチとミサイルはぶつか
たが、忍術である限り餓鬼道には通用しないようである。
火遁などのエネルギーではなく質量を持つ土遁ならばと思ってい
!
﹁そらよ
﹂
動きを封じる様に術を放っているのだ。
だがそれは前もってオビトも聞いている情報だ。だからこうして
を受けるとその数を増やしていくのだ。
口寄せの術という特殊な口寄せに縛られた巨大な犬は物理ダメージ
その攻撃を受けた事で口寄せ犬はその頭部を増やしていく。増幅
串刺しにしたのだ。
自らが作り出した裂け目から無数の土の槍を生み出し口寄せ犬を
!
閉じる事で口寄せ犬を地下に閉じ込めた。
増えた頭の数だけ分裂する口寄せ犬を串刺しにし身動きが出来な
い状態にし、その上で大地を閉じる事で分裂できるスペースを完全に
奪い去ったのだ。
口寄せ犬が分裂をする前にこれだけの術を一瞬で連発し大地を閉
541
!
!
更にオビトは土流割にて作り出した裂け目を再びチャクラを操り
!
じる。巧みなチャクラコントロールと忍術の腕を必要とする高等な
技である。
﹁大したものだ⋮⋮﹂
相手にすると厄介な増幅口寄せをこうも見事に封じ込めた手腕に
ペインも称賛の言葉を紡いだ。
流石はカカシと共に音に聞こえた忍なだけはある、と。こういった
忍は生かしておくと後々厄介になるとペインは理解していた。
まあ、この場の誰一人も生かす気がないので今更ではあったが。
天道はオビトに向けて片手を伸ばす。それを見たオビトは神羅天
征を使用するつもりだと予測し斥力の力に耐えようと身構える。
││万象天引││
だが天道が使用したのは神羅天征ではなかった。それは神羅天征
﹂
と対を成す術、引力を操る万象天引であったのだ。
﹁なぁっ
弾かれる力に身構えていたオビトは予想外であった引き寄せる力
に不意を突かれ、一気に天道へと引き寄せられて行く。
万象天引の力を受けたオビトは瞬時に天道の力を理解した。天道
﹂
は斥力を操る力を持っているのではなく、斥力と引力を操る力を持っ
こいつは引力も操るッ
ているのだと。
﹁みんなー
!!
具として持っていた鎖を周囲の瓦礫に絡ませる。
だが万象天引の力にはその程度で抗う事は出来なかった。天道が
更に力を籠める事でオビトは握り込んでいた鎖を手放してしまい、待
﹄
ち構えていた天道が持つ黒い棒に突き刺されてしまう。
﹃オビトォォォ
﹃くっ
﹄
助ける事が出来ず叫ぶしかなかった。
サポートしつつ味方の回復役として前に出ていないリンも、オビトを
巨大なムカデを相手にしていたカカシも、苦無を投擲してカカシを
!!
542
!?
全員に天道の能力を教えながらもオビトは万象天引に抗おうと忍
!
姿を消して攻撃を仕掛けてくるカメレオンに対処していたヒルゼ
!
ンも、空中の敵への牽制とミサイルの迎撃に精一杯のダンゾウもオビ
﹂
トに救いの手を伸ばす暇はなく、歯噛みするしか出来ないでいる。
だが││
﹁⋮⋮貴様﹂
﹁ぐっ⋮⋮へ、舐めんなって言っただろうが
オビトは生きていた。左肩を黒い棒にて貫かれているが、急所は避
けていたようだ。
そればかりかオビトは鎖から手を離した瞬間にその右手に苦無を
持ち構え、引き寄せられた勢いを利用して逆に天道に苦無を突き立て
ていた。
それは惜しくも天道の左腕にて防がれた為に致命傷には至ってい
ないが、それでも自来也ですら傷つける事が出来なかった天道に傷を
付けたのは確かだ。
オビトは更に追撃を加えるべく、苦無から手を離し右手で螺旋丸を
作り出す。この至近距離ならば外しようはない。先ほどは咄嗟だっ
た故に螺旋丸を作る事は出来なかったが、この威力ならば腕でガード
しようがダメージを防ぎきれるものではない。逃がさない様に肩の
痛みを無視し左手で天道の右腕を掴み、全力で螺旋丸を叩きつけよう
﹂
とする。
﹁ッ
れは天道が神羅天征を使用した為ではない。オビトの左肩に刺さっ
た黒い棒が原因であった。
この黒い棒はチャクラの受信機としての役割を持っている。ペイ
ン六道の全身に刺さっているのと同じ物だ。これを利用してチャク
ラを流し込む事でオビトのチャクラを乱したのだ。
螺旋丸は非常に高度なチャクラ操作を要求する高難度の術だ。そ
んな術をチャクラをかき乱された状態で使用出来る訳もなく、敢え無
﹂
く霧散してしまったという訳だ。
﹁クッ
543
!
だがその螺旋丸は天道に当たる直前に掻き消える事となった。そ
!?
オビトは咄嗟に天道から離れる。黒い棒を引き抜いた為に左肩に
!
激痛が走るが、そんな痛みは無視して更にその場を離れようとする。
そんなオビトに向けて修羅道は空からは無数のミサイルを撃ち放っ
た。
あわや絶体絶命か。そう思っていたオビトは突如として後方へと
﹂
引き寄せられる事でそれらの攻撃から逃れる事が出来た。
﹁無事かオビト
助かったぜカカシ﹂
!
﹂
﹁リン
早く傷を見せて
﹂
!
!
トの傷を確認して医療忍術を施す。
こんなの唾でも付けときゃ問題ないからさ
!
らね
﹂
﹁何強がり言ってるの
私を心配してそんな事言ってるなら怒るか
るが、それで納得するリンではなかった。
それによりリンが危険になる事を危惧したオビトは強がりを述べ
攻撃に晒されより危険に陥る可能性が高い。
戦闘中の回復は必要だが、この状況では回復している暇にペインの
﹁だ、大丈夫だって
﹂
カカシは二人の前に立ちペインの動きに警戒し、リンはすぐにオビ
!
りがある事を見抜けないカカシとリンではなかった。 急死に一生を得たオビトはカカシに礼を言う。だがその中に強が
﹁ああ、問題ねー
た後にオビトに鎖を絡ませて引き寄せたのだ。
オビトを救ったのはカカシだ。巨大なムカデを雷切にて切り裂い
!
オビト
﹁ええ
!
﹁リン⋮⋮悪かった﹂
ンはオビトの言動に嬉しく思うので複雑ではあったが。
しい。仲間として頼ってほしいと思うのだ。同時に女性としてのリ
そんなオビトにリンは腹を立てていた。もっと自分を信用してほ
いるのだ。これが強がりなのは明白だろう。
間の為に無茶をした事がある。その上リンに惚れていると公言して
誰よりも仲間想いなオビトだ。これまでの任務でも幾度となく仲
た。
オビトが自分を心配してそう言っている事はリンには分かってい
!
544
!
!
﹁ううん、怒鳴ってごめん⋮⋮。よし、これでもう大丈夫よ
見つめていたのだ。
故見過ごしたのか
﹂
る為に生まれる隙は攻撃の為の絶好の機会だったはずだ。それを何
何故自分たちを注視して攻撃の手を止めたのか。オビトを治療す
のをカカシは見抜いた。
ペインの視線の先にあるのが自分とオビトとリン、この三人にある
││いや、見ているのはオレ達だけか
││
口寄せ動物が倒された畜生道も新たな口寄せをする事なくこちらを
空から降り注がれていたミサイルも、天道の引力と斥力も、全ての
一切の攻撃をしてこなかった。
に掛けた時間は僅かだ。だがその僅かな時間の中とはいえ、ペインは
そしてペインの動きの不自然さに気付いた。リンがオビトの治療
笑ましく思いつつもペインへの注意は怠っていない。
カカシは自分の後ろでそんな風に治療と青春をしている二人を微
た。
く伸ばしており、この程度の傷ならば僅かな時間で治療が可能であっ
アカネの元で医療忍者として修行を積んだリンはその実力を大き
えた様だ。
リンの想いを理解したオビトは素直に謝罪する。そして治療も終
!
てかつての記憶を思い出していた。
こ の 世 に 平 和 を も た ら す 為 に 努 力 し て 無 茶 を す る か つ て の リ ー
ダーである弥彦。その弥彦の無茶を窘めつつも、無茶によって傷を
負った弥彦を癒す小南。そんな二人を見守る自分。
二人が誰よりも大事だった。仲間であり友であり、それ以上に家族
であった。弥彦の夢が自分の夢であり、三人でずっと一緒に平和を目
指し、三人でずっと一緒に平和を謳歌したかった。
今でもその叶わぬ夢を思い出す。そんなペインがカカシ達の今の
光景をかつての自分達と重ね合わせてしまうのは仕方のない事なの
かもしれない。
545
?
カカシには分かるはずもなかったが、ペインはこの時カカシ達を見
?
かつてあった幸せな記憶を壊したくない。そんな想いがペインに
攻撃の手を緩めさせる原因となった。
ペインは最後の慈悲としてカカシ達に言葉を告げる。
﹁⋮⋮我々に従い協力しろ。世界を平和へと導く為の力となれ。そう
すれば、これ以上木ノ葉を傷つける事はしないと約束しよう﹂
それは最後通告だった。これに従わないならばペインもこれ以上
の慈悲を掛けるつもりはなかった。
だったら、答えは一つ
そしてその言葉への返答はオビトが行った。
﹂
﹁その木ノ葉の中にナルトはいないんだろ
だけだ
﹁このままでは⋮⋮
﹂
げているヒルゼン達はむしろ称えられても良い程である。
攻撃を弾き、何度やられても復活する。こんな化け物を相手に耐え凌
そして破壊されたペインは地獄道が修復する。忍術を吸収し、物理
鬼道が身を挺して守る。
の傍にいる餓鬼道が忍術を吸収し、物理攻撃は天道が避けるか最悪餓
天道の神羅天征の術と術の合間にあるインターバルを狙うも天道
の攻撃は天道が巧みに操作する斥力によって弾かれる。
これらの前にヒルゼン達は耐え凌ぐ事しか出来なかった。こちら
な破壊の雨。畜生道が新たに口寄せした巨大生物。
地上の天道による引力と斥力の操作。空中の修羅道による圧倒的
その言葉を合図にペイン六道の攻撃は再び開始された。
﹁そうか⋮⋮ならば死ね﹂
の場にはいないのだから。
ペインの言う世界平和の為に生み出される犠牲を容認出来る者はこ
例えペインがナルトの命を奪わないと言っても答えは同じだろう。
を強い意思で睨み付けている。
その言葉はオビトだけでなく全員の意思の代弁だ。誰もがペイン
?
歴 戦 の 忍 だ が 同 時 に 高 齢 で も あ る の だ。衰 え た 肉 体 に 蓄 え ら れ る
既にヒルゼンもダンゾウもチャクラの大半を失っている。二人は
このままではいずれ力尽きる。ヒルゼンの危惧は正解だ。
!
546
!
チャクラの量は限られている。二人とも全盛期の半分程の実力もな
いだろう。
二人が全盛期であったならばヒルゼン達とペイン六道の立場は完
全に逆転していたと言えよう。木ノ葉の全ての術を知り五大性質変
化を有するヒルゼンと、﹃根﹄の創立者にして裏の火影たるダンゾウ
だ。その全盛期は忍の神と謳われる程であった。
だが悲しいかな。時の流れとは全てに平等に流れ、そして残酷だ。
いや、衰えても並の上忍等とは比べ物にならない程の強さを保ってい
る二人はやはり忍として高みに至っているという事なのだろう。
ともかく、既に多くのチャクラを失ったヒルゼンとダンゾウ。この
二人が倒れてしまえば一気に戦況はペインへと傾く事になる。
そうなれば残る三人もあっという間に倒されるだろう。そしてペ
何をっ
﹂
インは悠々と木ノ葉を破壊して回ることになる。そうするわけには
行かない。
﹁三代目様
││後は頼んだぞダンゾウよ
││
だろうとヒルゼンは信じているのだ。
そうすれば必ず友が、自分の最も信頼する男がその隙を突いてくれる
だからこその捨て身だ。全てを賭してでもペインに隙を作り出す。
ているのだ。
けるしかない。ペインもそれを理解しているからこそ地獄道を守っ
敵の要である地獄道。これさえ仕留めれば後はペインも消耗し続
だ。
負おうとも、それでも未来を切り開く為に自爆覚悟の攻撃に出たの
ヒルゼンは覚悟を決めて前に出る。例え敵の攻撃で死に至る傷を
!?
ンゾウならば自分の思いを理解してくれると信じ切っていた。
いに蟠りを失くしてからは真の友として助け合ってきた。そんなダ
幾度となく語らい、いがみ合い、時には争い、そして今に至る。互
から。
長きに渡って共に在った仲間であり、友であり、そして好敵手なのだ
言葉にせずとも伝わっているとヒルゼンは信じている。それ程の
!
547
!?
﹁ゆくぞ猿魔よ
﹂
ヒルゼンは自らの口寄せ動物である猿猴王・猿魔を金剛如意という
変幻自在の棍へと変化させ、空中にいる地獄道に向けて跳躍する。
﹁愚かな﹂
その無謀とも言える特攻に修羅道は迎撃の兵器を放つが、それはダ
ンゾウが放つ風遁により逆に迎撃される。
天道は万象天引にてヒルゼンを引き寄せようとするが、それを阻止
するべくカカシとリンは天道に向けて無数の苦無を放つ。オビトは
餓鬼道が天道を庇わない様に火遁を放ち吸収させる事でその動きを
止めていた。
﹁ちっ﹂
やむなく天道は神羅天征にて己の身を守る。どうせ無謀な特攻を
したヒルゼンは敢え無く修羅道により迎撃されると踏んでいたのだ。
それを証明するかの如く修羅道はその頭部からレーザーを放とう
としていた。エネルギーの塊であるレーザーならばダンゾウの風遁
では防げないだろう。
それでもヒルゼンは構わず地獄道目掛けて跳躍していた。口寄せ
された鳥が離れようとも閻魔の変化を利用して空中で足場とし跳躍
を繰り返し追い続ける。
例え修羅道のレーザーがこの身を貫こうとも構わずに地獄道を道
連れにするつもりだ。頭部のみを守り近付くヒルゼンに、修羅道は望
み通り胴体に風穴を開けてやろうとレーザーを放ち││
﹄
││互いに大地に引き寄せられる事でその体勢を崩す事となる。
﹃なッ
これには敵も味方も驚愕していた。
天道は神羅天征も万象天引も使用していない。ならばこれは誰の
﹂
ばく
仕業だと言うのか。答えは大地にいる巨大な生物にあった。
﹁ヴォオオオオ
と呼ばれており、ダンゾウが口寄せした生物である。
象の様な鼻を持つこの巨大な生物の名は貘。悪夢を喰らう化け物
!!
548
!
凄 ま じ い 勢 い で 引 き 寄 せ ら れ る ヒ ル ゼ ン と 空 中 に い る ペ イ ン 達。
!?
その能力は強力な吸引だ。巨大な口を大きく開きあらゆる物を吸
い込んでいく。その吸引力でヒルゼンも、そして空を飛ぶ鳥諸共ペイ
ンも引き寄せられているのだ。
大地に立っていれば抵抗も出来ようが、空という不安定な空間では
自らを支える事も出来ずにヒルゼンもペイン達も貘に向けて引き寄
せられていく。
更にダンゾウは影分身を使用し、その影分身に風遁・大突破を本体
自らに向けて放たせる事で貘の吸引力を振り切ってペインへと向か
う。
巨大な鳥に降り立ったダンゾウはその勢いのままに苦無を振るい
﹂
地獄道を破壊しようとして││修羅道によって阻止された。
﹁ぐぅっ
ペインもダンゾウの思いのままにさせるつもりはない。貘の力で
地上へと降ろされかけダンゾウに近付かれたのは予想外だったが、そ
れでやられるままにいる訳がないのだ。
修羅道が振るった刃の尾はダンゾウの身体を貫いていた。それだ
けではない。残る人間道、畜生道もその手から黒い棒を伸ばし次々と
﹂
ダンゾウの身体を貫いていった。
﹁ダンゾウ
ルゼンをダンゾウは僅かに見やり、そして笑みを浮かべた。
││今度はオレの番だヒルゼン││
ヒルゼンはダンゾウのそんな声を聞いた気がした。その言葉の意
﹂
味を理解したヒルゼンは再び叫んだ。
﹁だ、ダンゾウォォ
抗など保てようはずもない。
五人掛かりで拮抗を保っていたのだ。そこから一人減れば最早拮
﹁ようやく一人か。だが、お前たちの抵抗もこれで終わりだな﹂
巨大な鳥の上に倒れるダンゾウを見て地獄道は呟く。
!!
こ、これは
﹂
!?
549
!!
ヒルゼンは大地に落ちつつその光景を目にして叫んだ。そんなヒ
!!
だが、その地獄道が放てる言葉はそれが最後だった。
﹁む
?
一番最初に異変に気付いたのは人間道だ。ダンゾウの身体から黒
い何かが噴き出したのだ。そしてそれは周囲に広がりある陣を描き
﹂
出した。
﹁ちっ
ダンゾウの最期の足掻きに口寄せ鳥の上に立つペイン達はその場
から離れようとする。だが、その中で地獄道のみが脱出する事が出来
ないでいた。
地獄道の足をダンゾウが掴んでいたのだ。死ぬ前に全ての力を振
り絞り、地獄道だけは逃がさない様にしたのだ。
そしてダンゾウがその身に刻み込んでいた術式がその効果を発揮
した。己の死に際に発動するよう術式を組んでいた封印術。周囲の
全てを自らの死体に引きずり込んで封印する道連れ封印術である。
ダンゾウは初めからこれを狙っていたのだ。貘を今まで使用して
いなかったのは敵に空中から引きずり落とす手段がないと油断させ
る為。ヒルゼンの特攻を補佐したのもヒルゼンを囮とし自らの行動
を悟らせない様にする為。
味方すら欺き敵の隙を生み出しそこを突く。根を束ねるダンゾウ
らしい戦術だった。その隙を突いた苦無の一撃も通用はしなかった
が、それすらダンゾウの手の内だった。
もちろん苦無の一撃にて地獄道を破壊する事が出来ていればそれ
に越した事はなかったが、それが不可能だった場合は自らが犠牲とな
る事をダンゾウは厭わなかった。
全ては木ノ葉の為に。かつて若かりし頃のダンゾウはその覚悟を
持ち出す事が出来なかった。だがヒルゼンは木ノ葉の為に犠牲とな
ろうとしていた。ヒルゼンの犠牲は二代目火影扉間によって防がれ
たが、当時は屈辱のあまりヒルゼンを憎んだ事すらあるダンゾウだっ
た。
だが生きて帰った二代目に諭され、時間を掛けてヒルゼンと共に成
長していく内にダンゾウは変わった。ヒルゼンに対抗する為ではな
く、真に木ノ葉を想って物事を考える様になったのだ。
そ し て か つ て 持 ち 出 す 事 が 出 来 な か っ た 覚 悟 を 持 ち 出 す 機 会 が
550
!
やって来た。ダンゾウが予想した通りヒルゼンは自らを犠牲にして
未来を切り開こうとしていた。
それを阻止し、自身が犠牲となる。五代目の統治にヒルゼンの様な
存在は必要だ。経験不足の綱手をより良く導いてくれるだろう。自
分の代わりは作れるが、ヒルゼンの様に木ノ葉を照らす光の変わりは
そうはいないのだ。
だからこそヒルゼンを生かし自身を礎とする。そうする事で最後
にヒルゼンに勝てた様な気になりそれを嬉しく思いつつも、死に際ま
でヒルゼンへの対抗心が残っていた事にどこか可笑しく思いながら
ダンゾウは死んでいった。
この、馬鹿者が⋮⋮ ワシの様な年寄りを庇っ
﹁ダンゾウ⋮⋮
!
前を向く。
﹂
﹁これで敵の復活はない⋮⋮
﹄
の一戦にある
﹃はっ
ゆくぞ皆の者
木ノ葉の未来はこ
!
た。だがそんなヒルゼン達の覚悟も、そしてダンゾウの犠牲をも嘲笑
ヒルゼン達は誰もが相打ってでもペインを止めようと覚悟してい
がいなくなった今こそがペイン打倒の唯一の好機なのだから。
からといって退くわけには行かなかった。復活のキーである地獄道
こちらもダンゾウが死した為に戦力は大きく削れてしまったが、だ
ンはもはや復活する事は出来ない。
ダンゾウの死を悲しむ暇などない。地獄道がいなくなった今、ペイ
!
はその想いを内に秘め、ダンゾウが切り開いてくれた未来を掴む為に
だが今はダンゾウの死を嘆き続けている場合ではない。ヒルゼン
平和を謳歌する子ども達を見守り続けてほしかったのだ。
きて未来を見てほしかったのだ。ダンゾウの努力によって築かれた
木ノ葉の根として火影の裏方として動き続けていたダンゾウには生
こんな先の短い老いぼれを庇い犠牲になる必要はなかった。常に
ダンゾウの死を嘆きつつその行動を批判する。
庇うならばこんな枯葉ではなく木ノ葉の若葉だろうと、ヒルゼンは
﹂
てどうする⋮⋮
!
!
551
!
!
うかの如く、ペインはその力を見せ付けた。
天道の近くに集まっていたペインの内、畜生道のみが修羅道によっ
て遥か後方へと投げ飛ばされる。
それを見たヒルゼンはペインの行動の意味を理解し、すぐにこの場
一旦離れよ
﹂
から離れるように叫んだ。
﹁いかん
││神羅天征
││
﹁いい判断だ。だが遅い﹂
!
﹁ぐ、ううっ⋮⋮﹂
﹁なんて奴だ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮みんな、無事
﹂
わんばかりの強大な力が全てを吹き飛ばした。
征が放たれると予測したのだが、その予測も退避の支持も無意味と言
畜生道を逃がした行動で、ヒルゼンは今までとは規模の違う神羅天
のはあらかじめ避難していた畜生道のみだ。
まないという便利な力ではないのだ。この力に巻き込まれなかった
当然その力に周囲のペイン達も巻き込まれる。味方だけは巻き込
き飛ばし、そして耐える暇もなくヒルゼン達を吹き飛ばしていく。
天道を中心に強大な斥力が放たれる。それは大地を削り瓦礫を吹
!
ダメージは比ではなく、天道と畜生道以外のペインは全て破壊されて
いや、ヒルゼン達よりも天道の遥か近くにいた為にその身に受けた
巻き込まれダメージを受けている。
ヒルゼンの考えている通り、天道の周囲にいたペインも神羅天征に
﹁なんという力。じゃが、あれでは奴らも⋮⋮﹂
自身の傷を癒す事にリンは集中する。
らない。それ程の傷をリンも負っているのだ。まずは動けるように
皆の傷を癒そうとリンが動こうとするがその意思は肉体には伝わ
も折れ、瓦礫により無数の傷が出来ている。
負っている様だ。あまりの力で吹き飛ばされた為に全身の骨が幾つ
ヒ ル ゼ ン 達 は か ろ う じ て 全 員 が 生 き て い た。だ が 誰 も が 重 傷 を
﹁どうやら、生きてはいるようだな⋮⋮﹂
?
552
!
しまっていた。
﹁自分たちの戦力を減らすなんて、何考えてんだ
﹂
﹁だが好機だ。あと二人、特にあのペインを倒しさえすれば⋮⋮
﹃ッ
﹄
﹂
魔像に飲み込ませ、そして元通りの身体で復活させた。
﹂
新たなペインは破壊された三体のペインを自らの力で呼び出した閻
呼び出されたのは七体目のペインではない。それを示すかの様に、
言うべき存在はいる。だがこの場では関係ないのでそれは省こう。
ヒルゼンの言葉にそう返す天道だが、正確には七体目のペインとも
﹁違うな。ペイン六道はその名の通り六体のペインを表す﹂
﹁七体目の、ペインじゃと
鬼道、そしてもう一人、今まで見た事のない新たなペインであった。
口寄せされたのは神羅天征によって破壊された修羅道・人間道・餓
行った事を見て、ヒルゼン達は驚愕した。
道は口寄せの術を使用した。そして口寄せされた者を見て、その者が
天道は万象天引にて遠く離れた畜生道を引き寄せる。そして畜生
││万象天引││
していなかった。唯一畜生道だけ逃したその意味を。
だがカカシは理解していなかった。いや、ヒルゼン達の誰もが理解
え倒せば残る畜生道はどうとでもなる。
オビトの疑問ももっともだが、カカシの言う通り最も厄介な天道さ
!
?
その力を持つペインはダンゾウが封印したはず
体目のペインなのではなく、ペイン六道の一体、地獄道なのだ。
﹁ば、馬鹿な
﹂
!
﹁予備⋮⋮だと
﹂
獄道を動かしたのだ﹂
﹁その通りだ。地獄道はあの男によって封印された。だから予備の地
!
ペインと自来也が戦った時、ペインは自来也の予想以上の実力に多
なのだが。
イン六道の予備を用意していたのだ。と言っても予備は地獄道のみ
そう、予備だ。ペインは木ノ葉に戦争を仕掛ける前にあらかじめペ
!?
553
!?
それはまさに地獄道の力そのものであった。そう、このペインは七
!?
くの力を見せる事となった。そしてその情報が木ノ葉に伝わってい
る事も理解している。
ならば敵が地獄道を狙わないはずはなかった。当然だ。復活させ
る能力を持つ敵を放置するなど馬鹿でもしない所業だろう。ペイン
が地獄道を他のペインで守っているのも同じ理由だ。
だがそれだけでは地獄道を守るには足りないだろうとペインは木
ノ葉を高く評価していた。自来也という強大な力の持ち主がいたの
だ。他にも多くの実力者がいないとどうして言える。
自来也と同じ二代目三忍の綱手。三代目火影であるヒルゼン。裏
の火影ダンゾウ。火影の右腕左腕に、うちはと日向の当主、他にも多
くの名が知れ渡っている忍を擁するのが木ノ葉隠れの里なのだ。甘
く見てはペインと言えど痛い目を見るだろう事は容易く予想された。
更にはあの日向ヒヨリの生まれ変わりである日向アカネと戦う事
も計算に入れていたのだ。慎重に慎重を重ねても臆病ではないだろ
う。
そうしてペインは木ノ葉を襲う前に地獄道の予備を用意した。手
頃な死体を用意し、それにチャクラの受信機となる黒い棒を埋め込
み、地獄道が破壊された時に新たな地獄道となる様に準備していたの
だ。
この手は無数の予備を生み出すには至らなかった。ペイン六道を
生み出すにはそれなりの手間と準備が必要であり、無数に予備を用意
する事は様々な点から不可能だったのだ。
予備の地獄道を準備するだけでも長門に大きな負担を強いていた
のだからこれ以上は長門の体力と寿命を更に削る事になっていただ
ろう。
﹁恨むなら自来也先生の強さを恨め。そして誇れ。このペインにここ
まで警戒させたお前達の力を﹂
そう言って、ここまで戦い抜いたヒルゼン達を称賛しつつペインは
ヒルゼン達に神の裁きを下す。
復活した修羅道がその全身から数多のミサイルを生み出し、傷つき
瓦礫に埋もれるヒルゼン達に放った。
554
﹁ぬぅぅっ
﹂
﹂
﹁う、おおお
ヒルゼンとカカシは全身の痛みを無視してその場から離れた。戦
力差は絶望的なまでに開いたが、だからと言って諦めるつもりは毛頭
ない彼らは最後まで足掻くつもりだ。
リンも同じくその場から離れている。この中で唯一医療忍者であ
る彼女は自身の傷を癒し万全に近い体調に戻っていた。あの距離か
ら放たれたミサイルならば問題なく避けられただろう。
﹂
だが唯一瓦礫から動かない者がいた。
﹁く、くそっ
││水遁・水陣壁
││
!
││
││火遁・大豪炎の術
けの援護をオビトに向けた。
当然ヒルゼン達がそれを良しとする訳がない。各々が今出来るだ
の餌食となってしまうだろう。
間にもミサイルは迫っているのだ。このままではオビトはミサイル
足から鉄材を抜こうにもそれだけの暇は既にない。こうしている
動く事など出来ないだろう。
き刺さっていた。その鉄材は巨大な瓦礫と繋がっていた。これでは
それはオビトだ。オビトの足には建築に使われただろう鉄材が突
!!
る全ての苦無に起爆札を付けてミサイルに投擲する。
である苦無の本数は三本。そしてミサイルの数は七つだ。リンは残
リンはオビトの前に向かいつつ自身の忍具を確認する。投擲武器
││残る苦無は三本││
を守った。
向かう。だがリンがオビトに向かって走りつつ、その脅威からオビト
やがてヒルゼン達の守りを突破し、幾つかのミサイルがオビトへと
これ以上の援護は無理だった。
だ が そ れ が 限 界 だ。今 の ヒ ル ゼ ン 達 は 傷 つ き 疲 弊 し 弱 っ て い る。
オビトの防御を高める。
ヒルゼンが火遁にてミサイルを迎撃し、カカシが水の壁を張る事で
!
555
!
!
一投目、ミサイルに命中し爆発、更に誘爆を起こした事でミサイル
の数は五つとなる。二投目、同じく命中し爆発、誘爆によりミサイル
は残り二つとなる。
そして最後の一投。それもミサイルに命中し爆発を起こす。だが
⋮⋮誘爆を起こす事はなかった。
最後に残ったミサイルはそのままオビト目掛けて飛び続ける。も
はやリンにそれを阻止する手段はない。いや、あった。オビトを守る
為の最後の手段が。
﹄
リンは、己の身を盾として、ミサイルからオビトを守り抜いた。
﹃り、リンーーーッ
ミサイルの爆音を掻き消すかの如くに、オビトとカカシの慟哭が木
ノ葉の里に響き渡った。
556
!!?
NARUTO 第二十八話
圧倒的。まさにそう言っても良い程の実力をナルトは発揮してい
た。
敵であるサソリは暁でも屈指の実力者だ。高名な傀儡使いである
砂隠れのチヨバアからその技を教わり、更に独自に進化させたサソリ
は忍界最高の傀儡使いに至った。
傀 儡 使 い は 操 れ る 傀 儡 の 数 で そ の 実 力 が 計 れ る と 言 わ れ て い る。
一体の傀儡を操れて傀儡使いを名乗る事が出来、三体の傀儡を操る事
が出来れば一流と言え、十体もの傀儡を同時に操るチヨバアはまさに
超一流だ。
ならば、百体の傀儡を同時に操る事が出来るサソリは何なのだろう
か。チヨバアすら凌駕する忍界最高の傀儡使い。百の傀儡にて一国
を落とした事すらある男だ。
そんなサソリがナルトという十六歳の少年一人を相手に圧倒され
ていた。
隠れ蓑であったヒルコを容易く破壊され本体を晒されたサソリは
ナルトを最大限に警戒していた。なのでサソリはコレクションして
いる人傀儡の中で最も気に入っている一品を取り出した。
それが三代目風影の人傀儡である。かつて三代目風影は何者かに
攫われて行方不明となっていたのだが、その真実はサソリが人傀儡の
コレクションとするべく三代目風影を密かに殺害していたのだ。
サソリの人傀儡は生身の人体から作り出した故に生前のチャクラ
を宿している。つまりこの三代目風影の人傀儡も生前の力を振るえ
るという事だ。
その力は磁力の力だ。三代目風影は練り込んだチャクラを磁力に
変える事が出来る特別な体質であり、それを利用して砂鉄を操り状況
に応じた武器を作り出す事を得意としていた。それにより三代目風
影は歴代最強と謳われていたのだ。
その三代目風影を、サソリは全力で操った。傀儡へと改造した時に
全身に仕込んだ仕込みを余す事無く披露し、様々な形状に変化させた
557
砂鉄を雨あられの如く放出する。
毒使いでもあるサソリなだけにそれらの攻撃には全て毒が仕込ま
れていた。掠りでもすれば毒は回り戦闘力は低下し、短時間で死に至
る恐るべき毒だ。
対抗する為の解毒薬は既に木ノ葉に存在しているが、残念ながらナ
ルトは所持していない為に掠り傷一つで敗北は必至となる。
だが、その全てをナルトは跳ね返した。
仙人モード。それはナルトに圧倒的なまでの力を与えていたのだ。
大きく広がった感知能力によりサソリの鋭く複雑な攻撃の全てを
見切り、磁力によって千本の様に鋭く細かな武器と化した砂鉄も超大
型の螺旋丸にて全てを吹き飛ばした。
細かな武器では意味がないと悟ったサソリは砂鉄を一つに纏めて
ナルトにぶつけようとするが、自然エネルギーにより向上した身体能
力を持つナルトは鋼の硬さを持つ砂鉄の塊を容易く殴り飛ばす。
これでは埒が明かないと思ったサソリは三代目風影の切り札を使
用する。
砂鉄界法。磁界の反する二つの高密度の砂鉄の塊を結合する事で
磁力を一気に高め、その磁界の反発力にて広範囲に砂鉄の針を棘の如
く拡散させる術だ。
これだけの速度と広範囲に広がるこの術ならばとサソリは思うが、
ナルトはこの術の真っ只中にあってさえ無傷であった。
ナルトの周囲には三体の影分身がそれぞれナルトを囲む様に配置
され、外側に向けて大型螺旋丸を作り出していた。
更に本体のナルトも頭上に向けて大型螺旋丸を掲げており、それに
より死角を無くしたナルトは周囲から迫る砂鉄の全てを螺旋丸にて
なぎ払ったのだ。
この切り札でも倒せなかった事にサソリは驚きを禁じえないが、そ
れでも冷静さを保ち傀儡使いのセオリー通り中距離を保って戦闘を
続行しようとする。
傀儡使いは接近されると弱い。もちろんサソリはその例から外れ
ているが、今のナルトを相手に近付くことは自殺行為だと理解してい
558
るのだ。
だがそんなサソリの警戒すらまだ足りないとばかりに、ナルトはサ
││
ソリに向けてある仙術を放った。
││仙法・風遁螺旋手裏剣
風遁螺旋手裏剣。螺旋丸に風の性質変化を加えた忍術だ。その威
力は凄まじく、風遁のチャクラによる無数の針が螺旋丸に渦巻く事で
圧倒的な攻撃回数を誇るという大技だ。
その攻撃回数は濃度で表した方が的確な程に濃く、針に形態変化し
たチャクラは対象の経絡系の全てを損傷させる程の威力を持つ。そ
れだけでなく単純な破壊力に置いても右に並ぶ術は忍界に少ないと
いう程の仙術だ。
元々は忍術として一度は完成させていた螺旋手裏剣だったが、手裏
剣の名は伊達と言わんばかりに投げる事が出来ない不完全な術だっ
た。それが仙人に至った事でこうして完全な術へと進化したのだ。
ナルトは完成した風遁螺旋手裏剣をその名に負けない様にサソリ
に向けて投擲する。それに焦ったのはサソリだ。
サソリは間違いなく超一流の忍だ。故にこの風遁螺旋手裏剣の恐
ろしさを一目で理解した。
当たればまず死は免れない。人の身体を捨て、痛みを捨て、胸にあ
る唯一の生身の部位を破壊されない限り行動可能というサソリがこ
の術の前に逃げの一手を取ったのだ。
サソリは風遁螺旋手裏剣の軌道から素早く離れる。予想以上だと
思っていたナルトが更に予想以上なのだと理解したサソリはどうす
るべきかと考える。
ここまでの戦闘でナルトの強さが自分以上だとサソリは見抜いた。
このまま戦っては死ぬか、死なぬまでも確実に手痛い目に遭うだろ
う。ならば撤退するべきか。
僅かな時間でそこまで思考したサソリだが、次の瞬間に驚愕に目を
見開いた。投擲された風遁螺旋手裏剣が、その軌道を変化させて自分
に向かって来ているのだ。
その理由はナルトの影分身にあった。ナルトは風遁螺旋手裏剣を
559
!
投擲する前に自身の影分身を先行させていたのだ。そしてサソリが
回避行動を取った所を確認し、近づいて来た螺旋手裏剣を掴みサソリ
に向けて再び投げつけたのだ。
自身の術とはいえ、これほどの大忍術をこうも容易く操れるのはこ
れまでのナルトの弛まぬ努力の結果だろう。ともかく、一度避けたと
思っていた術が再び迫る事態にサソリは驚愕し、そして三代目風影の
﹂
人傀儡を犠牲にする事で難を逃れた。
﹁くっ
人傀儡と風遁螺旋手裏剣がぶつかり合い、そして凄まじい破壊の奔
流が周囲を襲う。それに吹き飛ばされながら、サソリは風遁螺旋手裏
剣の威力を垣間見た。
そこには巨大な大穴しか残っていない。瓦礫も、平らな大地も、そ
して三代目風影も、跡形もなく消え去り、綺麗な半円状となった地面
しか残されてはいなかった。
﹁ここまでとはな⋮⋮﹂
規模で言うならばこれ以上の忍術は数多⋮⋮とまでは言わないが
それなりに存在する。だが、ここまでの密度を保った威力を誇る術は
どれだけあるだろうか。
あの術の攻撃範囲内にあった物は全てが塵と化すだろう。サソリ
にそう思わせるだけの威力を風遁螺旋手裏剣は有していた。
先の戦闘の実力に加え、これだけの術とそれを使いこなす技術と判
断力。まさに手に負えない化け物だ。多くの人柱力を狩ってきた暁
が最後に当たった壁がこれかとサソリは苦笑するしかなかった。
撤退するべきか、ではなく撤退するしかない。サソリのその判断は
正しく、そして遅かった。
﹂
﹁逃がさねぇよ﹂
﹁くっ
いつの間にか、既にサソリの周囲には影分身含めた四人のナルトに
囲まれていた。
この状況で逃げるのは不可能。ならば戦闘しつつどうにかして隙
を作り出して逃亡するしかない。瞬時に作戦を見直したサソリは自
560
!!
!
身が操れる最大数である百体の傀儡を巻物から口寄せしようとして
﹂
││ナルトによって殴り飛ばされた。
﹁
反応する暇もない攻撃だが、その威力はそこまでではなかった。更
にナルトは続けてサソリを殴り飛ばす。何度も、何度もだ。
怪訝になったのはサソリだ。ナルトの実力を知ったサソリはこの
攻撃で自分を破壊する事は容易いだろうと予測していた。だという
﹂
﹂
のに、ナルトは今も大したダメージにならない攻撃をサソリに加え続
けている。
﹁何のつもりだ
﹁てめぇは⋮⋮そんな身体になって、痛みを忘れちまったのかよ
﹂
オレが言ってんのは自分の痛みじゃねー 他人の
痛みを理解する事も出来なくなったのかって言ってんだ
﹁⋮⋮あ
﹂
!
!!
﹁ふざけんな
だが、サソリのその考えは見当違いの物だった。
サソリはナルトを嘲笑う。
敵が痛みに苦しむ様を見られなくて悔しがっているナルトを見やり、
憎とサソリは傀儡の身。痛みなどとうの昔に捨て去った物だ。憎い
ナルトは自分を痛めつけてやろうとしていたのだろうと。だが生
の答えに行きついた。
ナルトの言葉の意味を理解出来なかったサソリは、少し逡巡してそ
だからな﹂
なったオレには不要の代物だ。何せ悪い部品は交換すればいいだけ
異 常 を 知 ら せ て く れ る 便 利 な 装 置 な の か も し れ な い が な。傀 儡 と
ない無駄なもんだ。いや、お前ら生身の人間にとっちゃ自分の肉体の
﹁⋮⋮何を言うのかと思えば。痛みなど戦いに置いて邪魔にしかなら
!
?
!
それが忍の世に何の役に立つと言うのか。
?
て何になるというのだ。自身の肉体の痛み以上に邪魔な物にしかな
ら裏切る。それが忍の世の常だ。だと言うのに、他人の痛みを理解し
敵と遭えば敵を殺し、利用出来るなら騙し、必要とあらば仲間です
他人の痛み
今度こそ、サソリはナルトが何を言ってるのか理解出来なかった。
?
561
!?
らないだろう。それがサソリの偽りない本心だった。
﹂
馬鹿かお前
忍の世は騙
﹁何でこんな事が出来る どうして戦争なんてふざけた真似が出来
るんだてめーらは
﹁他人の痛みなんざ理解してどうなる
?
!
た。
﹂
﹂
﹁お前にはいなかったのかよ
奴がよ
﹁⋮⋮﹂
する。
﹂
誰か一人くらいお前を愛してくれる
そして背中に仕込んであった巻物を取り出し百体もの傀儡を口寄せ
サソリは突如としてナルトを殴り、その勢いでナルトから離れた。
﹁ぐっ
いとサソリは考える。
を不思議に思いつつ、これも目の前の少年が成せる力なのかもしれな
戦場という命のやり取りをする特殊な環境でそんな思いに至る事
れない。この状況に至って、何故かサソリはそう思った。
思えば、その存在がいなくなった事が自身が歪み出した原因かもし
れた確かな存在を思い出す。
そんな者はいなかった。いや、いた。サソリは自身に愛を注いでく
!
きながらも育ち、仲間と師に恵まれ、友を得たナルトはそう信じてい
だが、やはりそれは一面なのであり、全てではない。木ノ葉で傷つ
ているのかもしれない。
んな一面がある事は確かだ。それを覚悟せずに忍になる事は間違っ
確かにサソリの言う言葉は全てが偽りではない。この忍の世にそ
リの考えはどうしても理解出来ない物だった。
から理解してもらいたく、他人に認められたかったナルトには、サソ
ナルトは更にサソリを殴り付ける。他人から痛みを受け育ち、他人
﹁てめー
になんざなるもんじゃないのさ﹂
し騙されが当たり前に徘徊する魔窟だ。それが嫌なら初めから忍者
?
!!
﹁赤秘儀・百機の操演。オレはこれで一国を落とした。⋮⋮もう遅い
562
!!
!
!?
﹂
のさ。止めたければ、オレを殺すんだな﹂
﹁この、馬鹿野郎が
逃げる心算はサソリの中から消えていた。それを不思議と思いつ
つも、サソリは何故か逃げるつもりにはならなかった。かつて失った
何かが胸に宿った様な気がして、サソリはそれを自嘲する。
││生身の身体を捨てた時、オレは人の心も捨てたはずなのにな│
│
どうしてか目の前で素直に感情を表す少年を見ると捨てたはずの
心が疼く気がした。 人の身体と共に心を捨てたはずのサソリにそう思わせる何かをナ
ルトは持っているのだ。自来也や綱手にアカネがナルトを実力以上
に信頼しているのもそれと同じだろう。
己の全てを振り絞ったサソリとナルトの戦いは、然程の時間を要す
る事なく終わりを告げた。
無数の傀儡に無数のカラクリを仕込もうとも、自来也とアカネの修
行を受けて成長し、妙木山にて仙人に至ったナルトには届かなかっ
た。
サソリが操る人傀儡は一体一体が並の上忍に匹敵する程の戦力を
持つ。だが仙人モードのナルトも、仙人モードによる影分身も、人傀
儡など歯牙にも掛けぬ程の戦力を有していた。
襲い来る無数の傀儡を次々と破壊しながらナルトはサソリへと突
き進み、そしてサソリの元へと到達する。
サソリは全ての力を出し切った。操れる全ての人傀儡を繰り出し、
全てのカラクリを披露し、掠り傷一つで勝ちを拾える毒を用い、己の
本体とも言える生身のパーツを別の人傀儡に移し見た目だけの人傀
儡を囮にする戦法まで駆使した。
それら全てをナルトは突破した。百の人傀儡の攻撃を掠りもさせ
ず、邪魔をする人傀儡は破壊し、そして仙人モードによる感知力でサ
ソリの本体を見極める。
そして、壊された傀儡を装い隠れていたサソリの生身であるチャク
ラを生み出すパーツを、ナルトは螺旋丸にて破壊した。
563
!!
﹁⋮⋮ちっ。やられたか⋮⋮﹂
サソリは口から血の様な液体を流しながら呟く。だがその表情は
何の痛痒も感じていない様に見えた。
当然だ。人傀儡となった時に、サソリは苦痛という物を失った、い
や捨て去ったのだから。
だが今のサソリは痛みではなく、別の何かに感情を支配されてい
た。それは悔しさだ。
人の肉体を捨てた時にサソリは人形になりきったはずだった。そ
れは人の心すら捨てたという事だ。
だが違った。チャクラを生み出す為にどうしても生身のパーツを
使わざるを得なかった様に、人の心もまた完全に捨て去る事は出来て
いなかったのだ。
それがナルトとの戦いの中で蘇った。いや、ナルトがぶつけて来た
熱く偽りのない生の感情が、サソリの心の奥底に残っていた感情を呼
564
び起こしたのだ。
ナルトには全てをぶつけたいとサソリは何故か思ったのだ。そし
て全力を尽し、負けた。全力を出したから満足した等とサソリは思わ
こんなガキにやられるなんざな⋮⋮﹂
ない。むしろこんな子どもに負けた事を悔しく思っていた。
﹁⋮⋮何て顔をしてやがる
だ。
殺した相手でも、人が死ぬ事は悲しい。そう、ナルトは言っているの
人形を破壊したのではない。人間を殺したのだ。憎くても、自分が
人形なんかじゃねー﹂
﹁違う⋮⋮お前は敵だし、憎いとも思った。だけど⋮⋮お前は人間だ。
た。それだけの話だ⋮⋮﹂
﹁たかだか人形一つを破壊しただけだろうが⋮⋮。憎い敵が一つ壊れ
里ではどういう教育をしているのか気になる程だ。
情とはとても思えない。敵に対して感情を顕わにするなど、木ノ葉の
自分たちの仲間や里に破壊と死を撒き散らした憎き敵に対する表
いた。
自分を倒したはずの男は、ナルトは悲しそうにサソリを見下ろして
?
﹁⋮⋮木ノ葉には馬鹿が多いが、お前はとびっきりだな。こんな馬鹿
は初めて見た⋮⋮だからだろうな⋮⋮オレにも、馬鹿がうつったのは
⋮⋮﹂
馬鹿が感染したせいで、逃げる事もせずに負ける戦いをしてしまっ
た。そ う 納 得 し た サ ソ リ は、負 け て 悔 し い と 思 え ど、何 故 か 逃 げ な
かった事は後悔せず⋮⋮その生涯を終えた。
﹁⋮⋮馬鹿野郎﹂
どこか満足そうに死んだサソリに最後にそう呟き、ナルトは気合を
他は
アカネは⋮⋮くそ、冗談
じっちゃんやカカシ先生達はまだ大丈夫か⋮⋮
入れ直す。落ち込んでいる状況ではないからだ。
﹁くそっ
⋮⋮大分やられてるけど、勝ってんのか
回復させる。
ナルトは消耗した仙術チャクラを自然エネルギーを吸収する事で
に意識を向けるべきだと判断する。
での実力差を感じ取り、今は木ノ葉の内部にある戦闘を終わらせる事
仙人モードの自身ですら勝ち目があるとは言えない。それほどま
る隔絶とした差を。高みに至ったが故に気付ける更なる高みを。
より明確に理解出来る。アカネとマダラ。この二人と自分の間にあ
それは化け物と化け物のぶつかりあいだ。仙人に至ったからこそ
感じ取った。
そしてアカネに向けて感知を伸ばすと信じられない物をナルトは
ているマダラ以外には暁はいないと判断した。
来ないので、現状では三代目達が戦っているペインと、アカネが戦っ
暁と思わしきチャクラや戦闘中のチャクラは殆ど感じ取る事が出
で攻め込んだのか知りようがなかったのだ。
ている。この戦争の途中から参戦したナルトは暁がどれだけの人数
ナルトには理解出来ないが、喜ばしい事に暁の多くは既に打倒され
握する。
ナルトは仙人モードによる感知能力で木ノ葉の里周辺の状況を把
じゃねーってばよ﹂
!
そして三代目達が戦っている場所へ赴こうとして││ナルトは木
565
?
!
ノ葉の外れにて二人の忍のチャクラを感じ取った。
その内の一人はナルトが誰よりも良く知る人物だ。同じ班の仲間
にして好敵手にして友であるサスケ。そしてその兄であるイタチ。
そ ん な 二 人 が い つ も と 比 べ る ま で も な く 分 か る ほ ど に 弱 々 し い
チャクラを発し││そんな二人に近付く感じた事のないチャクラを
見つける。
瞬間、ナルトは影分身を木ノ葉の各地に分散させ、本体である自身
はサスケの元へと駆け出した。
感じた事のないチャクラはサスケ達へと近付いている。仙人モー
ドのナルトでなければ気付けない程巧妙に気配を消して、だ。
仲間に対してそんな風に近付く必要はなく、つまりサスケ達に近付
﹂
くこの存在は⋮⋮敵だ
﹁サスケェ
る。その上イザナミの使用により左目は失明している。これでまと
だ。そして須佐能乎の反動で全身には強い痛みが断続的に続いてい
イタチの右目からは血が流れている。これも天照を多用した結果
に強い痛みを与えるリスクが存在するのだ。
であり、その上長期で見れば失明というリスクが、短期で見ても全身
る負担が非常に大きな瞳術でもある。使用に必要なチャクラは膨大
万華鏡写輪眼は非常に強力な瞳術であり、それと同時に肉体に掛か
メージを与える結果となった。
照と須佐能乎の多用とイザナミの使用。これらはイタチに多大なダ
特にイタチの消耗はかなりのものだった。万華鏡写輪眼である天
た。
大蛇丸との激闘を制したサスケとイタチは予想以上に消耗してい
◆
それは││僅かに遅かった。
サスケに忍び寄る魔の手を払うべくナルトは全力で駆ける。だが
!
もな戦闘が出来るわけもないだろう。
566
!!
サスケもイタチ程ではないが大きく消耗している。幾度となく強
力な忍術を連発した事でチャクラは大きく減少し、仙人モードの大蛇
丸の攻撃を喰らった事で大きなダメージも受けている。
今のサスケの戦闘力は通常時の二割から三割といったところだろ
う。そこらの雑魚ならともかく、暁ほどの敵となると足手まといにな
りかねない消耗具合だ。
なので二人が医療施設を目指しているのは間違った判断ではなく
││二人が敵の気配に気付かなかったのも仕方ない事である。それ
ほど巧妙に敵は気配を消しており、それ以上に二人は消耗しているの
だから。
二人の前に突如として現れたのは奇妙な形をした虫とも蜘蛛とも
言える見た目の何かだ。それが無数に二人へと飛び掛ろうとしてい
た。
それを確認した瞬間、サスケはイタチを突き飛ばした。今のイタチ
﹂
自分が突き飛ばしたのだから倒れているのか、それなら仕方ない。
だが何故全身から血を流しているのか。それ程強く突き飛ばした
覚えはない。それ程の爆発だったのか。だがそこまでの衝撃を自分
567
はまともに動く事も難しい程に疲弊しているのだ。ここまで歩くの
にサスケの肩を借りねばならなかった程にだ。
自分が兄を守る。そう決意していたサスケは庇う様にイタチの前
﹂という言葉と共に爆発した。
に立ち、全身を雷遁チャクラにて強化して敵の攻撃に備え││そして
無数の何かは﹁渇っ
﹁⋮⋮にい、さん
景は││うちは一族が誇る写輪眼を疑いたくなるような光景だった。
そう怪訝に思うサスケが爆発による土煙が晴れた後に目にした光
る。敵の攻撃が予想以上に弱かったのか。
撃も殆どなく、身体は爆発に吹き飛ばされる事無くその場に立ってい
だがすぐに気付く。あれだけの爆発の割には痛みがない事に。衝
ようと両手で顔を覆う事しか出来なかった。
まさか爆発するとは思ってもいなかったサスケはその衝撃に耐え
!
隣に立っているはずの兄がいない。いや、いた、大地に倒れていた。
?
は受けていない。
幻術なのか
自分が兄の前に立ったのに、自分が爆発でやられていないのに、兄
が倒れているのはおかしい。何だこれは
?
﹂
﹁嘘だあああああぁっ
﹂
なり、イタチはあの爆発による衝撃をまともに受けたのだ。
サスケに須佐能乎の鎧を分け与えたからこそ、自分の守りが疎かと
﹁嘘だ⋮⋮﹂
は然したるダメージを受けなかったのだ。
須佐能乎の鎧で守られたからこそ、あれだけの爆発の中でもサスケ
﹁にい⋮⋮さん⋮⋮
それは須佐能乎の鎧だ。
﹁あ、ああ⋮⋮﹂
事にも。
覆うチャクラの鎧に気が付く。それがイタチの身体から伸びている
目の前の光景が理解出来ず混乱するサスケは、やがて自身の周囲を
?
スケとイタチだ。こちらも協力して戦うのが最も良い戦術だろう。
協力して木ノ葉の忍を倒すこと。傍目から見ても強敵だと分かるサ
この時点でデイダラには二つの選択肢があった。一つは大蛇丸に
だ。
した。そして見つけたのは同胞である大蛇丸と戦うサスケとイタチ
それが気になったデイダラはその外れに近付きつつ遠目から確認
炎が舞ったのをその目で見たのだ。
暴れていた。だが空から眺めている内に、木ノ葉の外れにて大きな爆
デイダラは木ノ葉にて空を飛びつつ起爆粘土をばら撒き好き放題
土の使い手、デイダラだ。
むらから姿を現す。それは暁の一員にして芸術家を自称する起爆粘
サスケの慟哭など気にも止めず、二人に奇襲を仕掛けた張本人は草
﹁ちっ。まとめて一発ってわけにはいかねーか、うん﹂
尽きても効果が残る類の術ではないのだ。
そして、サスケを覆っていた須佐能乎が消えた。当然だ。術者が力
!!
だがデイダラはもう一つの選択肢を選んだ。それは、どちらかが勝
568
?
利するまで身を隠し、勝利した方を不意打ちにて殺すという選択肢
だ。
仲間であるはずの大蛇丸だが、デイダラは大蛇丸の事を嫌ってい
た。同胞でなければ自分が殺したいと思うほどにだ。今までは同じ
暁の一員という建前があった為それは不可能だったが、木ノ葉との戦
争中のドサクサに紛れて暗殺すれば何の問題もないだろう。
他の仲間から怪しまれようとも、木ノ葉の連中に殺された事にすれ
ばそれ以上疑われる事もない。デイダラはそう思っていたし、実際そ
うなる可能性は高いと言えた。
そして蓋を開ければ勝利したのは木ノ葉の忍だ。大蛇丸をだらし
ないと思いつつも、死んではいないようなので止めを刺す楽しみはあ
る上に、生き残った二人の厄介な強者も倒す事が出来る。まさに一石
二鳥だ。
まともに戦えそうもない程に弱った二人を殺す事など容易い事だ。
﹂
は芸術がどうたらという話ではない。真実デイダラの言葉が聞き取
れなかったのだ。
569
だが得体の知れない力を使う敵を警戒し、デイダラは起爆粘土による
奇襲を試み⋮⋮今に至る。
﹁まあいい。生き残った奴ももうボロボロだしな。うん。今すぐ大好
きなお兄ちゃんの所に送ってやるぜ﹂
生き延びはしたが、今のサスケが自分相手に勝てるわけもないと踏
んだデイダラは悠々と語りつつ起爆粘土を用意する。
木ノ葉を攻め落とす為に起爆粘土に必要な粘土は大量に用意して
ある。袋に入れてある粘土を掌の口に食わせる事で自身のチャクラ
を混ぜ込み起爆粘土へと変化させ、それを独自の感性に基づき造形し
ていく。
これでデイダラ曰く芸術作品の完成だ。いや、これは完成への序章
うん
だ。後はこれをサスケにぶつけ爆発させるだけ。それでデイダラの
地獄でそれを広めるんだな
!
芸術は真の完成に至る。
﹁芸術は爆発だ
!
サスケにはデイダラが何を言ってるのか理解出来なかった。それ
!
それ程今のサスケの感情は高まっていた。デイダラの声が言葉と
どうして
して認識出来ないほどに、ただの耳障りな音としか認識出来ない程
││
に、サスケは昂ぶっていた。
││なんだこれは
なんでこうなった どうして兄さんが倒れている
決まっている。オレが弱かったからだ。
決まっている。オレを庇ったからだ。
だ。
?
決まっている。オレを庇う必要
?
リンーーッ
吹き飛ばされた。
﹁リン
﹂
その爆風は直撃していないオビトにも向かい、オビトはその衝撃で
発だ。
為にリンが自らの肉体を盾としてミサイルを受けた為に起こった爆
オビトの目の前で凄まじい爆発が起こった。それは、オビトを庇う
◆
││
││サスケの感情は昂ぶり続けやがて最高潮へと達した。その瞬間
から敵がいたからオレが突き飛ばしたから敵が攻撃をして来たから
どうしてどうしてどうしてどうしてどうして││オレが弱かった
があったからだ。オレを、オレ達を攻撃した奴がいるからだ。
いや、オレを庇った理由は何だ
事をしなければ何の問題もなかったはずだ。
き飛ばさなければ、オレと兄さんが離れていなければ、オレが余計な
乎で守った事で、自分の守りが薄くなったからだ。オレが兄さんを突
いる。オレと兄さんの距離が離れすぎていたからだ。オレを須佐能
兄さんが須佐能乎で自分を守れなかったのは何故だ
決まって
兄さんを守れないくらい、逆に兄さんに守られる程に弱かったから
どうしてオレを庇った
?
?
?
!!
たかの如くにただただ叫ぶ。叫び、リンの安否を確認する。
だがオビトはそんな衝撃など気にも止めず、全身の痛みなどなかっ
!
570
?
?
そ ん な は ず な い。リ ン が 死 ぬ は ず な い。き っ と 生 き て る。い や そ
んな訳ない。あの威力が直撃して生きているわけがない。そんな事
はない、リンが死ぬ訳ない、だから生きている。
リンが生きていると根拠もなく叫ぶ自分と、そんな訳ないと冷静に
現実を見る自分。相反する二つの意思がオビトを支配する。
分かっているのだ。忍として高い実力と判断力を持つオビトは現
実を直視出来る冷静さを持っている。今の攻撃でリンが生きている
可能性は限りなく零に近いのだと理解しているのだ。
だがそれを認めたくないオビトがいるのも確かだった。リンはオ
ビトにとって何よりも大切な人だ。幼い頃から思いを募らせ、今に至
るまで慕い続けてきた最愛の人なのだ。
死んでいるわけがない。きっと生きている。少しでも生きていれ
オビト
﹂
ば、医療忍術できっと癒せる。そう、信じている。信じたかった。
﹁リン
伝える事を止めようとはしないだろう。
班以外がアカデミーに戻されているが、それでもカカシはこの思いを
いる。伝えようとするあまりカカシが担当した下忍はナルト達第七
オビトのこの言葉を、この思いを、カカシは自分の生徒へと伝えて
カカシはそう思っている。
だが人間としてオビトはカカシよりも遥かに上だった。少なくとも
か ら そ う 教 わ っ た の だ。忍 と し て は オ ビ ト は 間 違 っ て い る だ ろ う。
だが仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだ。カカシはオビト
いされる。
重要であり、この世界で必要だ。それを守る事が出来ない忍はクズ扱
だがそれはオビトによって間違いだと気付かされた。確かに掟は
た。
り、感情を優先して行動する事は忍として最も愚かな事だと思ってい
幼い頃のトラウマから、カカシは忍に必要なのは掟を守る事であ
人は最も親しい友だ。
カカシもまた二人の安否を気遣っていた。カカシにとってこの二
!
かつてクズだった自分を慕ってくれたリンと、クズだった自分を正
571
!
してくれたオビト。掛け替えのない二人の親友。その命が危ぶまれ
ようとしているのだ。カカシが冷静なままでいられる訳もなかった。
やがてカカシはオビトの姿を見つけた。今もリンを探して叫び続
けているオビトを見つけるのは容易かったようだ。
だがリンの姿はどこにもない。リンからの返事も一切がない。カ
カシもオビトも、心を潰さんばかりの絶望と、僅かな希望を胸に抱い
てリンを探し続ける。
そして二人はすぐにリンを見つけた。爆風によって吹き飛ばされ
たのか、リンはオビトよりも後方にて倒れていた。リンはミサイルの
直撃を受けてもどこも欠損をしていなかった。あの威力のミサイル
が直撃したにしては奇跡とも言えるだろう。⋮⋮その全身から止め
﹄
処なく血を流していなければ、だったが。
﹃リン⋮⋮
二人の声にピクリとも反応しないリンを見つめて、オビトとカカシ
は絶望する。写輪眼でも死んでいるとしか判断出来ない有様だ。傷
ついた肉体からは欠片もチャクラは感じ取れず、流れる血は命がその
ままに流れ落ちていくかの様に見えた。
二人は今までにも幾度となく今のリンと似た状態の者達を見てき
た事がある。そう、それは戦場で、助ける術もなく死にゆく者達。敵
と味方の区別もなく、死にゆく者達を数多く見てきた。それとリンが
重なって見えた。つまりもう││
││ああ、リンは助からない││
何よりも信じたくないその現実を、心の中でどこまでも冷静であろ
うとする忍の部分が、そう告げていた。そしてその現実を受け止めた
時⋮⋮受け止めてしまった時、二人の感情は振り切れた。その瞬間│
│
◆
その瞬間││サスケの両目が、オビトの右目が、カカシの左目が、万
華鏡写輪眼となった。
572
!
どの様な偶然か。この日この時、同じタイミングで、三人の忍が万
華鏡写輪眼に目覚めた。
573
NARUTO 第二十九話
兄が死んで呆けているサスケに向けて、デイダラは新たな起爆粘土
を放つ。呆けている。少なくともデイダラはそう思っていたし、この
一撃で終わりだとも思っていた。
サスケが先の奇襲で生き延びたのはイタチの助けがあったからだ。
それが無くなった今、サスケに起爆粘土を防ぐ術はないだろう。まと
もに命中すれば必ず死ぬ。それは間違いではないだろうし、そしてサ
﹂
スケがデイダラの起爆粘土を避ける事はなかった。
﹁喝っ
言葉と共に爆音が響き渡る。デイダラ曰く芸術作品の完成だ。そ
﹂
れと同時に、この場に新たな存在がやって来た。
﹁サスケェェ
てめぇよくも
!!
者も一気に始末出来たし、オイラはついてるな。うん﹂
イタチ兄ちゃんまで⋮⋮
!
笑っている敵を全力で殴りつけてやろうとして││
これで怒りを顕わにしないナルトではない。目の前でヘラヘラと
サスケまでも。
事すらあった。そんなイタチが物言わず倒れている。そして今また
ナルトは思い出す。自分にも兄がいれば。イタチを見てそう思った
弟の友達になってくれてありがとう。イタチにそう言われた事を
だった。
イタチは良い兄であり、ナルトに対しても優しく接してくれた存在
あった。サスケによる兄の自慢を聞いた事があるナルトからしても
サスケと長い付き合いであるナルトは当然イタチとも知り合いで
﹁サスケ⋮⋮
﹂
﹁おいおい。最終目標がわざわざ目の前まで来てくれるとはな。邪魔
から木ノ葉の外れまでは遠く、僅かに間に合わなかったようだ。
力でここまで駆けつけた。だがナルトがサソリと対峙していた位置
仙人モードの感知力でサスケに迫る危機を察知したナルトは全速
!!
!
﹄
574
!!
﹁ナルト⋮⋮下がってろ﹂
﹃
!?
サスケの言葉で、その行動を停止した。
どうやって防いだ
これに驚愕したのはナルトだけでなくデイダラもだ。あの爆発で
どうして生きている
?
﹂
死 体 を 守 っ て ほ し い ど れ だ け 強 く て も
?
だがその言葉は最後まで発する事が出来なかった。
サ ス ケ の 感 傷 を 子 ど も 故 の 物 だ と 馬 鹿 に し よ う と す る デ イ ダ ラ。
やっぱガ⋮⋮キ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ は っ、は は は
ケは応えていただろう。
えた。二人の立場が違っていれば同じ事をナルトは願い、そしてサス
だが、それでもそうしてほしいとサスケは願い、ナルトはそれに応
場で無意味な行動かは二人とも理解している。
死んだ人間を守ってほしい。それがどれだけ感傷的で、どれだけ戦
﹁⋮⋮分かった﹂
つかないように⋮⋮﹂
﹁お前は兄さんを⋮⋮兄さんを守ってやってくれ。もうこれ以上、傷
じ気持ちを仇であるペインに対して抱いたのだから。
師である自来也が死んだと、殺されたと聞いた時、今のサスケと同
じ事をしただろうという自覚がナルトにはあった。
がサスケの立場だったらどうしていただろうか。きっとサスケと同
そんなボロボロの体で何を、等とはナルトには言えなかった。自分
﹁⋮⋮﹂
﹁こいつはオレがやる⋮⋮邪魔をするな⋮⋮﹂
の良い兄弟であり尊敬する兄を失ったサスケの怒りはどれ程の物か。
当然だろう。ナルトですらイタチの死にここまで怒ったのだ。仲
識の内に唾を飲む。そしてサスケの怒りの深さに納得する。
サスケの無事を喜ぶナルトだが、同時に彼が抱く怒気に気付き無意
﹁さ、サスケ
スケの姿だった。
た瞳をデイダラに向け、その身を須佐能乎のチャクラで覆っているサ
たそこにあったのは⋮⋮写輪眼とは異なる紋様を怒りと共に浮かべ
疑問は募るが、その答えはすぐに理解できた。爆発による煙が晴れ
?
!
575
!
魅入ってしまったからだ。デイダラの言葉を聞いて、憎き敵の存在
のみに意識を集中させて殺意を放つサスケに。
兄が死んだ悲しみと、そうさせた原因である自身の弱さの後悔と、
そして兄を殺した敵への憎しみ。その全てがサスケに万華鏡写輪眼
を開眼させる切っ掛けとなった。
両目の万華鏡写輪眼を開眼した事によりサスケは須佐能乎を開眼
する条件も満たしていた。先の起爆粘土を防いだのも開眼したばか
りのサスケの須佐能乎だ。
開眼したばかりだというのに何故かサスケは自身の新たな力を把
握していた。左目に宿っているのは天照。そして右目にはそれを自
在に操る加具土命。
更に須佐能乎も開眼したてだというのにこうして自在に発動して
いた。いや、それどころではない。サスケの怒りはデイダラという明
確な敵を目の前にして更なる成長を遂げていた。
576
須佐能乎には幾つかの段階がある。第一段階は巨大の骸骨の様な
形となって術者を覆いその身を守る鎧となる。これは須佐能乎を開
眼したばかりの術者に共通する形だ。
そして第二段階。ここから術者によって様々な形に変化していく。
イ タ チ の 場 合 は 天 狗 の 様 な 顔 に 三 種 の 神 器 を 装 備 し た 形 で 現 れ た。
そしてサスケの須佐能乎もまたこの第二段階へと変化していく。
サスケの溢れんばかりの殺意に須佐能乎が応えているのだ。巨大
な骸骨は更にチャクラを纏っていき、陣羽織を羽織った武者の様な姿
へと変化した。
万華鏡に変化した瞳に殺意を乗せ、破壊の権化である須佐能乎を纏
うサスケ。それは神や仏を殺そうとする悪魔や修羅の様にも見えて、
デイダラはそこに自分とは違う芸術を見出した。
││これは、芸術だ││
サスケが作り出した生きた芸術。それに魅入られたデイダラは、サ
スケが放った攻撃に対して僅かに反応が遅れてしまった。それが全
﹂
ての明暗を分ける結果となった。
﹁はっ
!?
デイダラがそれに気付いた時には遅かった。サスケの須佐能乎は
左腕に弓を携えており、右手から作り出したチャクラの矢を弓にて高
速で撃ち出したのだ。
その矢の速度は放たれてから避けるのは遅すぎると言える程に速
かった。これを回避するには仙人モードに匹敵する程の感知力や反
射神経を持たなければ不可能だろう。
そのどちらもデイダラは有していなかったし、そもそも反応するの
が遅すぎた。
まさに呆気ない幕切れと言えよう。その一撃で、イタチを死に追い
やった張本人であるデイダラは死亡した。
最大の破壊力を持つC3や、切り札であるC4など使う暇もなく、
その胴体を巨大な矢で貫かれて即死したのだ。苦しむ暇がなかった
のはデイダラにとって幸いと言えよう。
いや、自身とは違う形の芸術の美しさを見せ付けられ、それを否定
兄さん
!
ま大地に幾度も幾度も叩き付ける。
地面に叩き付けられ続け、いや須佐能乎の力で握り潰された事でデ
イ ダ ラ の 遺 体 は と う に 細 切 れ と 化 し た。そ れ で も サ ス ケ は 止 め な
577
する事も出来ずに死んでいったのはデイダラとしては不幸だったの
かもしれないが⋮⋮。
だが不幸なのはデイダラではなくサスケなのかもしれない。仇を
打った。それもいとも容易くだ。そこに至る達成感も苦労も何も感
さいな
じないほどに容易くにだ。
それが逆にサスケを苛めた。こんな奴に、こんな呆気なく殺せる奴
に兄さんは殺されたのか。こんな奴を相手に守られなければならな
い程自分は弱かったのか。
いっそ死闘の末に倒す事が出来た方がサスケにとっては良かった
お前なんかが
!
のだろう。それが自分を慰める言い訳にも使えたのだから。これほ
﹂
!
どの敵だったならば仕方なかった、と。
おお、おおおおお
﹁ふざけるな⋮⋮ふざけるな お前が
を
!!
サスケは怒りのあまりにデイダラの遺体を須佐能乎で掴み、そのま
!
もう、やめろ⋮⋮
﹂
かった。いくら死体に当たっても、大地を削っても、サスケの心が晴
れる事はなかった。
﹂
﹁もう止めろサスケ
﹁はぁ、はぁ
!
きたからイタチは死んだのだ。
!
﹁ゴホッ
﹂
スクの高いその力は確実にサスケの肉体を蝕んでいた。
ている。そればかりか須佐能乎の使用にその急激な成長だ。元々リ
むしろ無茶をした反動によりサスケの消耗は限界に達しようとし
戦えた。だがそれも一時の誤魔化しに過ぎない。
した為と、万華鏡に開眼したが故に一時的にサスケは消耗を無視して
どれ程サスケが力を振り絞ろうとも既に限界なのだ。感情が爆発
﹁ぐ、ぅ⋮⋮﹂
その場で膝を付いた。
サスケは殺意高らかに叫びつつペインの元を目指そうとし、そして
﹁殺してやる⋮⋮暁は、どいつもこいつも皆殺しだ
﹂ の姿だ。あれが木ノ葉を滅茶苦茶にした元凶だ。あれが攻め込んで
サスケがその類稀なる力を持つ瞳にて見たのは、宙に浮かぶペイン
思議と思う事もなく、サスケは次の目標を見つける。
況にあってもナルトの言葉は何故かサスケに届いていた。それを不
ナルトの言葉を耳にしてようやくサスケは動きを止めた。この状
!
﹂
邪魔するなら⋮⋮お前も⋮⋮
なナルトの手を弾いてサスケは前に進もうとする。
﹁邪魔を、するな
﹂
!
だが││
それだけの意思を籠めて、サスケはナルトを睨む。
そ の 復 讐 の 邪 魔 を す る な ら 例 え 親 し い 友 と い え ど 容 赦 は し な い。
だろう。
ら自分の身がどうなってもいい。悪魔に売り渡してもいいと言えた
今のサスケにあるのは復讐。それだけであった。それさえ叶うな
!
578
!
突如として吐血したサスケを心配してナルトが近付く。だがそん
﹁サスケ
!? !
﹂
﹁邪魔すんなら、どうだってんだ
﹁な││ぐぁっ
ずに吹き飛んで行った。
!
﹂
お前こそ何しようと思ってた
﹁何しやがるだって
殺してやるのさ
あんな攻撃
﹂
イタチをあんな目に合わせた奴
﹂
誰が守ってくれた
無駄に散らすのがお
それを、イタチ兄ちゃん
!
殴りながら、サスケを怒鳴り続けた。
今生きてんのは誰のおかげだ
﹁お前が
﹂
命を懸けて守ってくれたお前の命を
イタチの兄ちゃんだろうが
イタチの
が
﹂
前のする事なのかよ
﹁││
!
!
た事が。悔しかったのだ。
﹁イタチ兄ちゃんがお前を助けたのは
﹂
それを
!
あの時、自来也の死を知った後の不甲斐なさを見てナルトを殴って
していた。
サスケはナルトを見ながら怒りを忘れて少し前の過去を思い起こ
││ああ、オレもこんな顔だったのかもな││
それを
!
たからだろうが
!
!
お前に生きていてほしかっ
の身を挺してまでサスケを守ったのかを理解していないサスケを見
ている様を見た事が。イタチの死に怒るあまり、どうしてイタチがそ
悔しかったのだ。自分の友が、怒りに全てを忘れて闇に進もうとし
と思うほど悲しかったのだがこの涙はそうではない。
いていた。それはイタチの死による悲しみではない。いや、泣きたい
ナルトは泣いていた。サスケを殴りつつ、怒鳴りつつ、ナルトは泣
!!
!
サスケを怒鳴りつつ、ナルトはサスケの言葉を遮って更に殴った。
の仲間なんざ皆殺して││がぁっ
!
!
ペインを相手にどうしようってんだ
も避けられねぇ奴が
がそんな怒気などナルトは意に介せず、逆にサスケを怒鳴りつけた。
ナルトの突然の行動にサスケは更に怒気を籠めて睨み付けた。だ
﹁て、めえ⋮⋮何しやがる⋮⋮
﹂
ナルトがサスケを殴る。突然のその行動にサスケは反応すら出来
?
!
!
﹁決まってる
?
!
!
579
!?
!
!
!
!
いた自分も、今のナルトの様に怒りと悲しみを混ぜ合わせたかの様な
﹂
顔をしていたのだろうか、と。
﹁はぁ、はぁ⋮⋮
﹂
﹁⋮⋮貸しだ﹂
﹁え
﹂
?
これからペインと戦うから今は殴るのは勘弁してやる。先ほどの
⋮⋮お前が、自来也の仇を取るんだろう
﹁何 し て や が る ⋮⋮ さ っ さ と ペ イ ン を 止 め て こ い ウ ス ラ ト ン カ チ が
いて言葉を放った。
その行動をジッと見ていたナルトに向けてサスケは僅かに振り向
し、そしてゆっくりとイタチの元へと戻って行く。
そう言ってサスケは自分の服を掴んでいたナルトの手をそっと外
﹁これは⋮⋮貸しだ。全てが終われば、殴り返してやる⋮⋮﹂
く。その意味が理解出来ずにナルトは呆けた声で聞き返した。
殴るのを止めて自身を睨んでいたナルトに対してサスケはそう呟
!
ああ
とっとと終わらせて来るってばよ
﹂
言葉がそういう意味だと理解したナルトは嬉々として返事を返す。
﹁っ
!
万華鏡写輪眼を開眼したオビトとカカシ。二人は新たな力に戸惑
◆
﹁お前は││﹂
いや、応えた者がいた。それは││
﹁良く耐えましたね、サスケ﹂
その言葉に応えてくれる者は誰もいなかった。
﹁これで良かったのか⋮⋮兄さん⋮⋮﹂
と駆ける。後に残されたのはサスケと、物言わぬイタチのみだ。
そしてナルトは宣言通り早く全てを終わらせる為にペインの元へ
つものサスケが戻って来た事がナルトには嬉しかった。
いた。悲しみや憎しみは無くなった訳ではないだろうが、それでもい
振り向いたサスケの瞳は先ほどまでとは違い冷静さを取り戻して
!
580
?
!
それが痛みだ。その痛みを
う事無く、まるで予め知っていたかの様にその力の使い方を理解して
いた。
﹁⋮⋮親しい者を殺したオレが憎いか
﹁なに
﹂
﹂
修羅道のいる空間が突如として歪み出したのだ。
そして、まさにその言葉通りとなった。カカシの視線の先にあった
修羅道を睨み付けていた。まるで視線のみで敵を殺せるとばかりに。
対してカカシはその場から動かずにペインを、それもリンを殺した
如くにペインに向かってオビトは駆け寄っていく。
が、今のオビトは痛みなど凌駕していた。そんな傷などなかったかの
叫びと共にオビトは駆け出した。鉄材が突き刺さっていた右足だ
﹁おおおおお
やるべき事。すなわち⋮⋮リンを殺した敵を殺す事だ。
べき事のみに集中していた。
ペインの言葉など今の二人には戯言にしか聞こえず、ただただやる
世界中が知って初めて世界は平和の道を歩み始めるのだ﹂
?
付いた。カカシの左目の万華鏡写輪眼。その力は時空間忍術の類で
ある。
神威と名付けられるこの瞳術は術者の視界の任意の範囲内を別空
間に転送するという能力を有している。その本質は言うなれば時空
間移動の能力だが、それを応用する事で攻撃用の忍術として扱う事も
出来る。
カカシは今、修羅道の胴体部分のみを別空間││神威空間とも言わ
れる││へと転送しようとしているのだ。空間を歪めて任意の空間
のみを神威空間に移動させるこの術に対して耐えるという防御法は
通用しない。
・・・
攻撃に利用すれば回避は可能だが防御不能という圧倒的殺傷力を
持つ術へと変化する。それがカカシの神威であった。
神威の効果を理解し切る前に、修羅道は回避もままならずにまとも
に神威を受けてしまう。その結果、修羅道の胴体部分は神威空間に飛
581
!
空間を歪める程の力の先にあるのがカカシの左目だとペインは気
!?
﹂
ばされ、この世界に残された上半身と下半身の一部が大地に転がっ
た。
﹁これは⋮⋮
﹁おおおおおっ
﹂
威が間近に迫っていた。
カカシの瞳力の凄まじさに驚愕するペイン。だがすぐに新たな脅
!
﹂
﹂
修羅道に向かう。
修羅道のレーザーを神威にて回避したオビトはその勢いのままに
威。二つの神威がペインに牙を剥く。
ある。 最強の矛であるカカシの神威と最強の盾であるオビトの神
他者を転送するカカシの神威と対を成す、自身を転送させる神威で
だ。
も意識せずとも発動させる事が出来るというまさに絶対回避の能力
に被弾する部位を時空間に転送し接触を回避する事が出来る。しか
そしてオビトの神威の能力、それは敵の攻撃や物体に接触する瞬間
いるのはオビトの写輪眼を譲り受けたからに過ぎない。
る。この二つの神威は元は一つだったのだ。カカシがそれを有して
写輪眼が元々は一人の、つまりはオビトの写輪眼だった事に起因す
そう、オビトの万華鏡もまた神威という名称だった。それは二人の
ビトの右目に宿った万華鏡写輪眼の力、オビトの神威である。
・・・
貫き、だがオビトにダメージを与えるには至らなかった。これがオ
﹁なっ
﹁おおおおおお
そしてそのレーザーはオビトに確実に命中しその体を貫き││
のだ。
なく、最期の足掻きとしてオビトに向けて頭部からレーザーを放った
上半身の一部となった修羅道だがまだ完全に破壊されたわけでは
る。
に対してペインは修羅道に最期の仕事をさせる事で対処しようとす
凄まじい殺気を隠す事もなくペインに迫るオビト。そんなオビト
!!
!!
そして螺旋丸を作り出し、死に損なっている修羅道に向けて叩きつ
582
!?
けた。これで完全に修羅道は破壊された。地獄道が復活させない限
り行動は不可能だろう。
オビトは修羅道を破壊してすぐに標的を残るペインに向ける。こ
いつらがリンを殺した。愛する女性を殺したのだ。ならばこの怒り
をぶつけずしてどうするというのか。
次に狙いを定めたのは地獄道だ。地獄道がいる限り敵は延々と復
活し続ける。怒りに身を任せても忍として冷静な部分が効率的な動
きをオビトにさせていた。
当然それを阻止しようとペインは残る六道にてオビトを攻撃し続
ける。人間道と餓鬼道は黒い棒にてオビトを突き刺し、畜生道は新た
に口寄せした動物でオビトを叩き潰す。
だがそのどれもがオビトにダメージを与える事はなく、全てをすり
抜けてオビトは地獄道へと迫り、そして螺旋丸を叩きつけようとす
る。
それを天道は神羅天征を地獄道に放つ事で防いだ。地獄道は神羅
天征の威力で吹き飛ばされるが、螺旋丸が直撃するよりはマシだろ
う。
そ し て 天 道 の 予 想 通 り 神 羅 天 征 で も オ ビ ト は び く と も し て い な
かった。まるで攻撃の全てがすり抜けるように全ての攻撃が無効化
される。
いや、神羅天征を無効化した時は他とは違う現象が起きていた。オ
ビトの肉体が完全にこの空間から消えていたのだ。オビトの体に神
羅天征の斥力が触れた瞬間、オビトの体が消えるのを天道はその輪廻
眼にて確実に見ていたのだ。
斥力という全身に触れる攻撃を受けたが故にオビトの全身が神威
空間に飛ばされたのだ。一部ならすり抜けるように見えるが、全身と
もなるとそうは行かない。これによりペインはオビトの能力の一端
を見抜いた。
││何らかの時空間忍術による回避。厄介だな││
天道が神威に関して大まかに予測するが、それどころではない事態
が天道を襲う。
583
﹁これは
くっ
﹂
ぐぅっ
!?
力を応用して宙に浮いているのだろう。
﹁お前だけでも逃がすか⋮⋮
﹂
そんなオビトを嘲笑うかの如く、天道は空へと昇っていく。斥力の
けつける。
目の前で消えた地獄道に歯噛みするが、すぐに狙いを天道に変えて駆
もう少しで地獄道を破壊出来る寸前まで追い詰めていたオビトは
すぐに畜生道に自分以外のペインを口寄せさせた。
天道は畜生道を神羅天征にて木ノ葉の外まで吹き飛ばす。そして
る事を選んだ。
なのでペインは温存する事を捨てて、全ての力を解放して敵を滅す
ろう。
力な瞳術だ。疲弊している今仕留めなければ後に厄介な敵となるだ
ペイン六道もかくやと言わんばかりのコンビネーションに、この強
い存在だ。
一人一人でも警戒に値する敵だが、二人揃って戦えば面倒極まりな
││あの二人、厄介過ぎる││
によって引き千切られ消滅する事となったが。
事で強引にその場から離れた。代わりに口寄せ動物はカカシの神威
そうして天道は畜生道が口寄せした動物を自身に体当たりさせる
な物。簡単に失う訳にはいかないのだから。
なので必死になってその場から離れようとする。この肉体は特別
ういう効果を持っているかも最早言わずとも天道は理解していた。
天道の周囲の空間が歪んでいるのだ。これが何の能力なのかも、ど
!
うとも、万華鏡ともなると話は別だ。うちは一族ではない上に消耗し
それだけではない。どれだけアカネの訓練で写輪眼に体が慣れよ
のだ。
強力無比な攻撃術になる代わりに、オビトの神威よりも消耗が激しい
強大な力にはそれに伴うデメリットも存在する。カカシの神威は
万華鏡の反動によりカカシは膝から崩れ落ちてしまう。
カカシは天道に対して再び神威の照準を当てる。だが強力すぎる
!
584
!
切っている体でこれ以上の神威の使用は命に関わる危険すらあった。
﹁それだけの力だ。代償はあったか﹂
﹂
ペインにもその代償は理解出来る。彼もまた大きな代償を払いこ
てめぇは絶対に逃がさねぇ
の力を振るっているのだから。
﹁待て
オレは
リンの仇も取れないのかよ⋮⋮
!
!
にかする方法をカカシもオビトも有してはいなかった。
﹁くそ、くそぉっ
!
残っていない。
で回復が出来るじゃろう﹂
﹁こちらに来い。綱手が里の忍全てにカツユを寄越してくれた。これ
けにも行かないだろう。
戦力とも言える程になったオビトとカカシをこのままにしておくわ
いつまたペインが襲来してくるかも分からない今、木ノ葉の最大の
の想いは分からんでもないが、今はそれどころではないのだ。
己への無力感に絶望している二人にヒルゼンが声を掛ける。二人
﹁二人とも、こっちに来るのじゃ⋮⋮
﹂
たい敵を倒す事も出来ない。無力な自分という現実しかこの場には
だったのに、結果は無様な物だった。助けたい人を助けられず、倒し
何 の 為 に あ れ だ け の 修 行 を こ な し て き た の か。こ う な ら な い 為
カカシもまた己の無力さを噛み締めているのだ。
オビトの絞り出す様な叫びにカカシも何も言う事は出来なかった。
﹁オビト⋮⋮﹂
﹂
最早跳躍してどうにかなる距離ではないだろう。今のペインをどう
そ の 言 葉 を 最 後 に ペ イ ン は 一 気 に 空 高 く へ と 飛 び 上 が っ て 行 く。
﹁まだ理解出来ないならば教えてやる⋮⋮これが、神の力だ﹂
は呟く。
大地へと落ちていく。そんなオビトやカカシを見やりながらペイン
そんな状況でまともに飛べる訳もなく、オビトはペインに届かずに
ないのだ。
りどれだけ痛みを無視していても右足が傷ついている事に変わりは
宙に浮かんでいくペインに向かってオビトが跳躍する。だが、やは
!!
!
585
!
リンは、リンは助かるんですか
﹂
ヒルゼンのその言葉に二人が振り向くと、そこにはリンに張り付い
カツユ様
ているカツユの姿があった。
﹁っ
!?
ない。
得る事も出来ずにただただ須佐能乎の攻撃を捌き続けなければなら
の里を襲うだろう。そうするわけにもいかず、アカネは反撃の機会を
アカネが僅かでも動きを止めると完成体須佐能乎の一撃は木ノ葉
アカネとマダラの戦いは一瞬たりとも止まる事無く続いていた。
◆
けて放たれた。
制限していた力の全てを解放し、神羅天征が木ノ葉の里の全てに向
││神羅天征││
﹁ここより世界に痛みを﹂
がった天道は、その恐るべき力の全てを解放する。
そ し て そ ん な 地 上 の 出 来 事 な ど 些 事 と ば か り に 天 高 く 浮 か び 上
いくだろう。
に自身の分身を貼り付けた。これで傷ついた二人も多少は回復して
カツユは黙り込む二人に声を掛ける事はなく、そのまま黙って二人
る程だった。
僅かとはいえ希望を抱いた二人を更なる絶望に落とすには十分過ぎ
た。下手な希望は持たせたくないとばかりに告げられたその言葉は、
だが、カツユから返って来た言葉は二人が望んだ言葉ではなかっ
﹁⋮⋮お二人とも、早く私の分身を連れて下さい﹂
ではないかと希望を抱いてしまったのだ。
こうしてリンに張り付いているならば、まだ可能性は残っているの
施す事が出来る。
を抱いた。カツユは綱手の力を受けて遠隔で医療忍術による回復を
リンに張り付いているカツユを見てオビトとカカシは僅かな希望
!
イズナが操るマダラがその動きを僅かでも止めるとアカネはその
586
!
一瞬で反撃の一手を打つだろう。そうするわけにもいかず、イズナは
マダラの攻撃の手を一切緩める事が出来ないでいる。
マダラの完成体須佐能乎は両手に持った刀を間断なく振るい続け
てどうにか拮抗を保っている状況だ。
一振りで幾つもの山を断ち、大地はおろか天も海も裂く攻撃を雨あ
られの如くに放ち続け、ようやく拮抗を保っているのだ。
その拮抗もアカネに木ノ葉を守る気があるからこそだ。そうでな
ければアカネはとっくの昔に穢土転生のマダラ如き叩き潰している
だろう。
木ノ葉を守る為に須佐能乎の衝撃を完全に空へと逃がす。その余
計な行為がアカネから反撃の暇を奪っているのだ。
││このままでは││
││このままでいい││
アカネとイズナ。二人の思惑は完全に対立していた。
遠く離れた里の被害をその優れた感知能力にて感じ取っているア
カネはどうにかして木ノ葉に救援を送りたく、イズナは当然それを阻
止すべく動いている。
アカネは次々と消えていく命を感知してしまっている。このまま
では更に犠牲者が増えていくだろう。だが、アカネが焦る事はない。
いや、焦っているのだが、それが表に出る事がないと言うべきか。
修行に修行を重ね、千年を超える修行という本来の人間では辿り着
けないだろう境地に至っているアカネは外部の影響により精神が乱
れる事はほぼないと言っても良いほど完成されている。
どれだけ里を大事に思っていても、どれだけ大事な人が傷つき倒れ
ても、それで怒りはすれど動きに支障が出る様な事はないのだ。それ
は武人としては長所なのだろうが、人間としては短所だろうとアカネ
は思っている。
だがいくら動きや技に支障がないからと言って焦らない訳ではな
いのだ。アカネは今も消えゆく命を思い、この状況を打破したいと願
い続ける。
そう、願っている。願う事しか今のアカネには出来ないのだ。それ
587
ほど詰みとも言える状況にアカネは追い込まれているのだから。
この状況を打破する為にアカネが動けば木ノ葉は須佐能乎の攻撃
﹂
に巻き込まれ壊滅する。それでは本末転倒だろう。だから、この状況
を一変してくれる第三者の手を待つしかないのだ。
﹁マダラ、どうにかして動きを止める事は出来ないのか
アカネの悲痛な叫びにマダラは悔しそうに顔を背け、そして答え
た。
﹁すまん⋮⋮無理だ。オレの意思を縛っていない分、イズナはその力
をオレの体の操作のみに回している。これほど強固な縛りを破る事
はオレでも出来ん⋮⋮﹂
そう、マダラにはこの現状を打破する力はなかった。むしろこうし
て意識を保っていること自体が奇跡と言えよう。
長年に渡って抵抗して来たマダラを御する為にイズナは幾度とな
く穢土転生の縛りを強固に改良して来た。それはマダラが最後にそ
の意思を見せた十六年前、あの九尾事件で更なる強化を重ねる事で完
全にマダラの意思を封じる事となった。
最も面倒な尾獣である九尾を捕らえる機会を潰されたのだ。イズ
ナは二度とその様な事がない様に徹底的に穢土転生の縛りを強めて
いた。
マダラはそれすら破ってこうして意識を浮上させたのだ。アカネ
の危機とはいえ、その精神力はまさに桁違いと言えよう。
それもイズナが意思と肉体の両方を操っていたからだ。こうして
このままでは、木ノ葉が、皆が⋮⋮
﹂
肉体のみの操作に力を注げば流石のマダラと言えど抵抗のしようも
なかった。
﹁マダラ、頼む⋮⋮
!
事はなく、ただ悲痛の表情で顔を背けるしか出来ないでいた。
そして世界のどこかでアカネのその顔を見て、イズナは悦に浸って
いた。あの日向ヒヨリが、伝説の三忍の一人が、最強の忍が懇願して
いるのだ。その力が及ばずに他人に助けを求めているのだ。これが
愉快でなくて何だと言うのか。
588
!?
泣きそうな程に顔を歪ませるアカネの懇願に、マダラは何も答える
!
今イズナがこうして兄であるマダラを操っているのも、兄が心変わ
りをして千手一族への憎しみを捨てたのも、全ては千手柱間と日向ヒ
ヨリのせいだとイズナは決め付けている。
そんな元凶の一角がこうして己の無力に嘆くしかないのだ。イズ
ナにとってはまさに痛快とも言える見世物だろう。
﹁せいぜい苦しめ⋮⋮だがその程度オレの苦しみと比べたら些細な物
だ﹂
どことも知れぬ場所にてイズナは一人呟く。このまま木ノ葉が壊
滅して行く様を背中越しに味わい続けるアカネがどうなっていくか
を思い描き顔を愉悦で歪めながら。
﹂
だが、イズナの思い描く光景は現実になる事はなかった。
﹁なに
突如としてイズナが操るマダラの攻撃が止まったのだ。何らかの
攻撃を受けた事でマダラが吹き飛ばされたためだ。
アカネがそれを出来るわけはない。仙人モードのアカネに対抗す
べくマダラの完成体須佐能乎は攻撃のみに集中していたのだ。あの
状況ではいかにアカネと言えど反撃出来る訳がない。
そう、イズナの言う通りこれはアカネの仕業ではない。もちろんイ
ズナに完全に操られていたマダラの仕業でもない。つまり、第三者に
﹂
よる仕業という事。
﹁何者だ⋮⋮
﹁もう遅い
﹂
││仙法・影分身
││
だが、それは遅すぎる判断だった。
イズナは疑問に思うが、次の瞬間に意識をマダラの操作へと戻した。
こ ん な 化 け 物 と 化 け 物 の 戦 い に 割 っ て 入 る の は 一 体 何 者 な の か。
る程しかいない。
でもイズナに気付かせずにマダラを攻撃出来る者はこの忍界に数え
らアカネの反撃を封じる為に攻撃のみに注力していたのはいえ、それ
いくらイズナがマダラを操作する事に注力していたとはいえ、いく
!
イ ズ ナ が 気 付 い た 時 に は ア カ ネ は 既 に 影 分 身 を 生 み 出 し て い た。
!
!
589
!?
そしてその影分身を木ノ葉の里へと向かわせる。
更に本体のアカネはそのままマダラに攻撃を仕掛けて来た。イズ
ナはマダラを操りその攻撃をどうにかして凌ぐ。
﹂
そして次のアカネの言葉を聞いて先ほど邪魔に入った第三者の正
体をイズナは理解した。
もう少し早く来なさい
馬鹿な
││
こんな怪獣大決戦にほいほい割って入ればこっち
﹁遅いですよ自来也
﹁無茶を言うな
﹂
││自来也だと
が死ぬわ
!
そして自来也が二人││二匹
││の蝦蟇仙人に内心で感謝をし
カサクに至っては自来也と一緒に残って戦おうとする始末だ。
止めようとしたフカサクとシマも強情な自来也に折れてしまい、フ
してでも情報を得ようとする。
ペインの秘密にもう少しで辿り着けると確信した自来也は無茶を
りペインの一人をどうにか倒した時の事。
もう少し詳しく説明しよう。あの時、自来也が水中で蝦蟇結界を張
それだけの話なのである。
だが答えは簡単だ。単に自来也はあの時死んでいなかった。ただ
れに疑問を覚えない者がいるだろうか。
イズナの疑問は最もだろう。死んだはずの人間が生きている。こ
のか。
心であるゼツが自来也の最期を見ている。ならば一体どういう事な
ペインが嘘を吐いたとはイズナには思えないし、そもそも自分の腹
んだ目はない。つまり完全に生者だと言う事だ。
穢土転生かとも考えるが、今の自来也に穢土転生の特徴である黒ず
人物だ。
二代目三忍の一人自来也。それはペインによって殺されたはずの
!?
!
突如として感じた新たなチャクラに自来也は驚愕する。
ている時、急に自身の持つ忍具入れからチャクラを感じ出したのだ。
?
590
!
!?
!
ペインが新たな能力で結界の中に侵入でもしたのか。そう思い警
戒する自来也だったが、次の瞬間にはハトが豆鉄砲を食らったかの様
な顔になっていた。
﹁よっと。お疲れ様です自来也。大分苦戦しているようですね﹂
﹃⋮⋮﹄
忍 具 入 れ か ら 飛 び 出 し た 苦 無 が い き な り 年 頃 の 少 女 に 変 化 す る。
⋮⋮あれ
どうしたんですか自来也
あまりの出来事に誰もが言葉を失っていた。
﹁はっはっは。助っ人参上
﹂
?
がないじゃろうが
﹂
﹁どうしたもこうしたもあるか いきなりお前が現れて驚かんわけ
!
!
﹂
!
﹁こ、これは⋮⋮
﹂
﹁父ちゃんも気付いたか⋮⋮
リちゃん
なしてこげん姿で生きとんじゃヒヨ
の正体を勘ぐる内にそのチャクラの持ち主に行き付いた。
二大蝦蟇仙人は悟る。そして仙人モードになっている二人はアカネ
そんな自来也の様子の変化にどうやらこの少女が敵ではない事を
の中の空気はがらりと変わってしまっていた。
さっきまでの悲壮で覚悟を決めた空気は何処へ行ったのか。結界
!
!?
するかを確認する。
?
﹂
?
だがそれに対するアカネの応えは否だった。
権化を見てその考えを改めて確認をする。
勝ち目は無い。そう思っていた自来也だったが目の前の理不尽の
⋮⋮⋮⋮アカネ、お前なら勝てるか
﹁あ あ ⋮⋮ 奴 の 秘 密 を 理 解 せ ん 限 り に は、勝 ち 目 は ⋮⋮ 勝 ち 目 は
﹁自来也はもう一度ペインの前に出て行くつもりなのですね
﹂
そしてアカネは簡潔に自分が転生した事を説明し、この現状をどう
仙人とも顔見知りなのである。
アカネはヒヨリであった時に妙木山に赴いた事があるのでこの両
です﹂
﹁あはは。お久しぶりですフカサク様、シマ様。お元気そうで何より
!?
591
?
﹁奇襲が通用すればともかく、真っ向勝負では無理ですね。あなたの
忍具に入ってずっと外を視ていましたが⋮⋮影分身の私ではあの斥
力の様な力に抗う事は難しいです﹂
﹁⋮⋮そうか﹂
影分身は一撃でも攻撃を受ければ消滅してしまう。その一撃に強
い弱いはない。攻撃を受ければ例え掠り傷だろうとも消滅してしま
うのだ。
そしてあの斥力の様な力はペイン天道を中心として予備動作もな
く広がっていく。影分身には相性の悪い攻撃方法だろう。まさに攻
防一体の凄まじい能力であった。
﹁あの威力と範囲、あれ以上になろうとも予想を遥かに超えていない
限り私の本体であればどうとでも出来るでしょうが﹂
﹁⋮⋮そうか﹂
まあ、それも予想出来ていたことなので今更驚く事はない。
﹂
592
問題なのは今だ。そして未来だ。例えアカネがペインに勝てると
しても木ノ葉がそうとは限らないし、アカネがどうとでも出来ると
言っているのはペイン天道の話だ。
ペイン六道は天道含む六体でペイン六道なのだ。天道を倒しても
﹂
地獄道に復活させられては意味がないし、天道が予想以上の力を持っ
ている可能性もないわけではない。
﹁やはりペインの秘密は手に入れるべきですな﹂
﹁ヒヨリちゃんと二人でなら逃げ出す事も出来るんじゃないか
﹁そうじゃのう﹂
﹁な
﹁どういうことじゃ自来也ちゃん
﹂
﹁いや、やはりワシ一人でペインの元へ向かいましょう﹂
の言葉に再び表情を曇らせた。
そう思ったフカサクとシマは明るい表情になる。だが、自来也の次
能性が増えた。
アカネがいる事で自来也がペインと再び相対しても生き延びる可
?
アカネが来た事でせっかく生き延びる可能性が見えたというのに
!?
!?
それを拒否するとはどういうつもりなのか。
憤慨する両仙人に対して自来也は自分の考えを述べる。
﹁アカネがいるのならば一芝居打つ事も可能かと思いましてのぅ﹂
﹁⋮⋮ああ、なるほど。ここで死んだ事にするつもりですか﹂
自来也の考えを読んだアカネは納得して頷く。アカネの言葉を聞
いて両仙人も自来也の狙いが理解出来たようだ。
﹁お二方はアカネと共にここから離れて逃げてくだされ。アカネなら
ばペインに気付かれずに水中から逃げる事も可能じゃろう﹂
﹁まあ、出来ますね﹂
﹁そしてペインの感知が届かぬ地まで離れたら白眼にてワシを確認し
﹂
続けてくれ。そしてワシはペインに殺られたフリをして水中に落ち
ていくので││﹂
﹁そこをワシが逆口寄せをすればいいんじゃな
これがアカネが加わった事で自来也が思い付いた作戦だった。
このままアカネの力を借りて逃げ帰るよりも、敵に死んだと思わせ
た方が後の油断を誘えると判断しての作戦だ。
﹁ですが危険は伴いますよ。あなたが殺られたフリをする前に本当に
﹂
殺されるかもしれません。私がそれを見抜いてフカサク様に逆口寄
せを願っても間に合わないかもしれません。それでもやりますか
当然自来也が生きている事はアカネを送り込んだ綱手以外には伏
伝えに行ってもらった。
間が掛かり、その間にフカサク達には先に木ノ葉へとペインの情報を
流石にかなりの重傷だった故に影分身のアカネでは完治までに時
癒す為に力を注いだのだ。
成功した自来也をフカサクに頼む事で逆口寄せしてもらい、その傷を
後はその様子を見ていたアカネが十分に沈みペインを騙すことに
か水中に沈む様に死んだフリが出来た。
より喉を潰され黒い棒に貫かれるが、それでも致命傷は避けてどうに
そうして自来也はこの作戦を決行した。その結果、ペインの攻撃に
げるアカネの言葉に対し、自来也は首肯する事で応えた。
生き延びるだけならばそんな危険を冒す必要はない。暗にそう告
?
593
?
せられてだ。多くの忍が知ればそれは木ノ葉の里に広まり、そして暁
に伝わる可能性もある。それを考慮しての判断である。
ナルトが精神的に傷付く事も予測されたが、アカネや綱手は逆に成
長してくれる事を願ってナルトを信じて自来也の生を隠した。
そうして命からがら生き延びた自来也は影分身のアカネから治療
を受け、完治した後は何らかの情報がないかアカネの影分身と共に身
を隠して行動していた。
だが影分身のアカネから告げられた情報を聞いて自来也は即座に
木ノ葉へと舞い戻った。暁襲来の情報である。木ノ葉に残していた
アカネの影分身が須佐能乎の攻撃を防いで消えた時に、その時の情報
が自来也に付いていた影分身にも還元されたのである。
そして影分身のアカネは自来也にある頼み事をした。それは、本体
がマダラによって動きを封じられているので、気付かれない様にマダ
ラに近付いて強力な一撃を与えて隙を作ってほしいという頼みだ。
その頼みを自来也が承諾した後に、影分身のアカネは自らをチャク
ラへと還元させて本体に情報を持ち帰った。その情報を知ったアカ
ネは出来るだけイズナの気を自分に引く様に、イズナが気に入りそう
な演技を見せていたのである。
そして自来也は気配を消してマダラへと近付き、渾身の極炎螺旋丸
を完成体須佐能乎に叩き込んだのだ。
然しもの完成体須佐能乎も火遁と螺旋丸の組み合わせである強力
な忍術に耐え切れず吹き飛び、その鎧の大部分が破壊されていた。
それでも中身であるマダラの身にダメージが入っていないのだか
ら完成体須佐能乎の防御力の高さが伺えるというものだろう。
だがそこで出来た隙は果てしなく大きかった。アカネが仙術チャ
クラを籠めた影分身を作り出す事も容易い程に大きな隙が出来たの
だ。
﹁全く。泣きそうな面をしておると思えば、やっぱり可愛げのない女
594
子じゃのぅ
﹂
﹁はっはっは。覚えておくといい。女性は皆女優だと言う事を
﹂
!
飛ばされる事もなかった。
﹂
﹁来ると分かっていればこの程度
﹁な⋮⋮
﹂
﹂
カネにとって既に初見の攻撃ではない。ならば以前と同じ様に吹き
近付いて来るアカネを吹き飛ばそうと神羅天征を放つが、それはア
食い止められその威力に押されて一気に後退する事になる。
アカネが作り出した巨大な螺旋丸により須佐能乎の攻撃は初動で
攻撃を防ぐ為にイズナは全力を尽くさねばならなくなったのだ。
だが全ては遅いのだ。攻守は逆転した。今までとは逆にアカネの
﹁ふっ
に振るう。
技なのだと気付いたイズナは激昂し完成体須佐能乎の攻撃をアカネ
自来也とアカネの会話からあの慟哭も表情も全ては自分を騙す演
!
!!
﹃本物の化け物だな⋮⋮ん
﹄
神羅天征の力をその身で味わった自来也も驚愕した。
向かって吹き飛んで行く。これにはイズナどころかマダラも、そして
そうして対象が吹き飛ばずにいる事で逆にマダラの肉体が後ろに
どころか斥力を無視するかの如くマダラに向かって進んでいた。
全てを弾き飛ばす斥力の力を受けてもアカネは微動だにせず、それ
!
﹂
・・
・・
﹁それはありがたいですな。ところでやはりアレは昔からああなので
た奴だ。その名に恥じぬとオレが認めよう﹂
イズナを欺きオレの完成体須佐能乎をあそこまで破壊する⋮⋮大し
﹁ああ、話は聞いている。名ばかりかと思っていたが中々どうして。
達の通り名を襲名した二代目三忍自来也と申します﹂
﹁これは初代三忍うちはマダラ様。お初にお目に掛かります。あなた
分かりあった。
台詞が完全に被ったマダラと自来也は同時に互いを見やり、そして
?
595
!
﹁決 ま っ て い る だ ろ う。アレ の せ い で 昔 か ら ど れ だ け 苦 労 し た か
?
⋮⋮﹂
﹁心中お察ししますぞ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮何でお前らそんないきなり分かりあってんの
﹂
人間共通の話題があればそれだけで分かり合えるものなのだ。目
の前に化け物⋮⋮もとい共通の話題があれば人は協力し合えるので
ある。
﹁まあいい。自来也、ここは私に任せて木ノ葉に行け﹂
﹁うむ。だが、残る戦いにワシは何もせん﹂
木ノ葉の忍が聞けば信じられないだろうその言葉をアカネは否定
しなかった。
﹁ああ⋮⋮残る敵はペインのみ。ならば││﹂
﹂
﹁ナルトに全てを託し、ワシは信じて待つ。ナルトならば、必ずやペイ
ンを⋮⋮長門を止めてくれる。ワシはそう信じておる
るが、それでもアカネならばまだ間に合う。木ノ葉の命運をナルトに
今ならばまだ間に合う者も多くいるのだ。見知った者も倒れてい
る木ノ葉の忍の救援に向かわせていた。
アカネもまたペインをナルトに託し、自身の影分身達を傷付き倒れ
て。
ナルトならば必ずや長門を、かつての愛弟子を正してくれると信じ
る事は愛弟子であるナルトを信じる事だけだった。
している。残る敵はペインのみだという事も。ならば、自来也に出来
アカネも自来也も仙人モードによる感知力で木ノ葉の現状を理解
!
託し、アカネもまた自身に出来る事を成す為に全力を尽くすのみだっ
た。
596
?
NARUTO 第三十話
イタチを殺した暁への復讐。それを無理矢理にでも抑えナルトに
全てを託す。
その判断が正しかったのか、今のサスケには分からない。例え死し
てでも憎き仇に立ち向かうのが正しかったのではないか。だが、それ
は自分を守ってくれた兄の想いを無にする行為ではないか。
理 性 と 感 情。理 想 と 現 実 の 狭 間 に サ ス ケ は 揺 れ 動 く。こ れ で 良
かったのか。それを物言わぬ兄に問うた時、サスケに声を掛ける者が
現れた。
﹁良く耐えましたね、サスケ﹂
﹁お前は⋮⋮アカネ⋮⋮そうか、影分身か⋮⋮﹂
突如として現れ声を掛けてきたアカネを一目見て、それが影分身で
あるとサスケは見抜いた。
希望と絶望。助かる可能性を見たのだ。助かるかも知れないと感じ
取ったのだ。
今のアカネの行動から、もしかしたら兄は蘇生するのではないかと
597
サ ス ケ の 写 輪 眼 の 瞳 力 は 影 分 身 を 見 抜 く 程 に 高 ま っ て い る の だ。
洞察眼に優れた白眼の使い手でも影分身を見抜ける者は殆どいない。
それだけサスケの力量が上がっているという事だろう。
﹁復讐を押し止め、イタチの想いを汲んだあなたをもっと褒めたい所
ですが、一刻を争うのでそれは後にします﹂
話しながらもアカネは素早く行動する。イタチの元に駆け寄り白
眼にてその全身を確認する。
心肺停止状態。全身に無数の擦過傷に裂傷、更には軽度の火傷もあ
り。骨は無数に折れているがそれよりも問題なのは折れた肋骨が幾
つかの内臓を傷つけている事。心肺停止から約二分。
﹂
瞬時にイタチの容態を把握したアカネは即座に治療に移る。これ
兄さんは、助かるのか⋮⋮
ならまだ間に合うと判断したのだ。
﹁⋮⋮まさか、助かるのか
!?
施術を開始したアカネに向かってサスケは叫ぶ。そこにあるのは
?
希望を抱いたのだ。これでもし無理だと言われたら、きっとサスケは
立ち直れないだろう。
﹂
ですが、手元が狂う可能性も
だが、アカネの口から出た言葉は、サスケを安心させるものだった。
﹁これくらいならば問題ありません
ああ
あるので今は集中させてください﹂
﹁あ、ああ
!
﹂
蘇生は終わって傷は全て再生しま
そう事も無げに言うアカネにサスケは目を丸くしていた。
﹁ふぅ、これで良し。さて、サスケの傷も治しておきましょうか﹂
イタチは傷一つない元の体へと戻っていた。
く。アカネがイタチの蘇生を行って僅か数十秒。それだけの時間で
強力なアカネの再生忍術によりイタチの肉体は瞬く間に癒えてい
に施していく。
が溢れ出す。だがそれを気にせずにアカネは再生忍術をイタチの体
心臓が動いた瞬間にイタチの体は一瞬痙攣し、その口から僅かに血
び動かした。
の位置に戻す。その後イタチの止まっていた心臓に衝撃を与えて再
アカネはまず臓器に刺さっていた骨を全て取り除き、そして骨を元
は何も言わずアカネを見守っていた。
アカネの言葉を聞いたサスケは涙声で返事を返す。そしてその後
!
兄さんは
?
ア カ ネ の 言 葉 を 聞 き 終 わ る 前 に サ ス ケ は イ タ チ に 近 付 い て い く。
そして恐る恐るその体に触れた。
暖かい。それを感じた瞬間に次にサスケはイタチの口元に手を当
﹂
て、呼吸がある事を確認する。最後に胸元に耳を当てて心臓の音を確
認する。
﹁⋮⋮生きてる。兄さん⋮⋮兄さん⋮⋮
大人よりも強くなっているサスケもやはりまだ子どもなのだと、こう
普段は生意気な態度が多く大人ぶった印象が強く、そして並みいる
泣きながらイタチに抱きつくサスケを見ながらアカネは微笑む。
!
598
!
もう終わりましたけど
﹁⋮⋮え
﹁え
?
?
した。今はまだ気絶しているだけです﹂
?
しているサスケを見るとそう感じたのだ。
イタチを抱えて衝撃に備えろ
﹂
だが次の瞬間にアカネはサスケの前に立って叫んだ。
﹁サスケ
﹂
!
﹂
場を襲った。
﹁はぁっ
!?
﹂
!
だが、これでは綱も⋮⋮
﹂
!
﹂
﹁⋮⋮サスケ、早くあなたの傷を治しますよ﹂
ない程に綱手は弱っていると予測された。
知れないだろう。下手すれば気を失いしばらく起き上がる事も出来
だがそれだけの人数にチャクラを注ぐとなると綱手の負担は計り
知る。
手がその力で里の忍を回復させる事でどうにか被害を抑えたのだと
綱手が里の者ほぼ全てにカツユを付けた事を察知したアカネは綱
﹁綱か
感知したアカネはその原因も突き止める。
だがこの惨状に比べて人の被害は殆ど出ていないようだ。それを
していた。
この惨状にはサスケも開いた口が塞がらず、アカネも怒りを顕わに
﹁ペイン⋮⋮
﹁嘘だろ⋮⋮﹂
た。まさに壊滅状態と言えよう。
木ノ葉の中心から外周部近くまでが大きく円状に削り取られてい
発生しただろう中心地である木ノ葉の里を。
そしてアカネとサスケは見た。衝撃波がやって来た方角、衝撃波が
止み、アカネが廻天を解除する。
それによりこの強大な衝撃波を防ぎきったようだ。そして衝撃が
た巨大な廻天を作り出す。
アカネはサスケとイタチを囲むように中心部分に空間を作り出し
﹁こ、これは
﹂
アカネの言葉の意味をサスケが理解する前に、凄まじい衝撃がこの
﹁なに
!
!
﹁⋮⋮いいのか
?
599
!?
!
サスケの言葉の意味は早く木ノ葉に向かわなくてもいいのか、とい
う意味だとアカネは理解した。
そしてそれに対してアカネは首肯して答えを返す。
﹂
﹁里の皆にも他の私達が向かっています。それに、あのペインは││﹂
﹁││ナルトが倒す。だろう
アカネの言葉を遮ったサスケの答えにアカネは微笑んで返す。
﹁仙人の力とやらを手に入れたんだ。それに⋮⋮オレのライバルなら
それくらいしてもらわなくてはな﹂
そう言いながらもどこか照れた様にそっぽを向くサスケを見て、ア
カネは楽しそうに笑う。
﹁ふふ、そうですね。あなたも万華鏡の力を手に入れたみたいですし、
これでナルトとの勝負も分かりませんね﹂
﹁ふっ、オレも仙人の力を手に入れるつもりだ。そうなれば万華鏡が
ある分オレが有利だ﹂
﹂
﹁あはは。そうですね。じゃあ、この騒動が終われば仙術の修行と万
華鏡の修行ですね﹂
﹁当然だ。オレは⋮⋮もっと強くなる
嘆いている。
天高く昇っていくペイン。地上ではオビトとカカシがリンの死を
◆
誓った。
今は眠る兄を見つめ、サスケは更に強くなる決意をここで新たに
ケには真っ平御免だった。
いくらいに強くなりたい。自分の為に誰かが犠牲になるなんてサス
強くなりたい。誰かを倒す為ではない。誰かに守られなくてもい
たのだと実感したのだ。
だ足りない。強くなったつもりだったが、本当につもりでしかなかっ
サスケは暁との戦いを通じて自分の弱さに嫌気がさしていた。ま
!
そしてペインがその力を発動する少し前にこの地にアカネの影分
600
?
身の一体が辿り着いた。
﹄
﹁お待たせしました皆さん
﹃アカネ︵ちゃん︶
﹂
!
して叫ぶ。
﹁ここから離れますよ
行くぞオビト
ら駆け出した。
﹁くっ
﹂
!
﹃うおおおっ
﹄
れられてもなんら可笑しくはないだろう。
個人の力でこれだけの広範囲を壊滅させる。まさに神の所業と恐
態に陥った。
まで広がっていく。そしてその力で広大な木ノ葉の里はほぼ壊滅状
斥力の力はその範囲で収まったが、余波が衝撃波となって里の外に
ていった。
ノ葉の里のほぼ全域に広がり、里の約八割の大地が削り吹き飛ばされ
全力で放たれる斥力の力が全てを薙ぎ払っていく。その範囲は木
││神羅天征││
そして、天から神の裁きが落ちた。
ルゼンもまた全力でその場を離れる。
足が傷つき素早い動きが出来ないオビトをカカシが抱えて走り、ヒ
﹁すまない⋮⋮
﹂
そう言ってアカネは遺体であるダンゾウとリンを抱えてその場か
!
!
験上どでかい一発が来ます
﹂
ペインが何をするかは分かりませんが、経
突如として現れたアカネに一同は驚愕するが、アカネはそれを無視
!?
?
のだ。
﹁全員⋮⋮無事か
﹂
しまう影分身なので、こうして僅かなダメージを受ける事すら防いだ
事でダメージを防いでいた。僅かでもダメージを受けると消滅して
アカネのみはリンとダンゾウごと自身の周囲に廻天を発動させる
よって吹き飛ばされていく。
効果範囲から完全に抜け出す事が出来なかったアカネ達は斥力に
!?
601
!
!
信じられねぇ⋮⋮﹂
﹁ええ何とか。綱手様の力で回復してくれたおかげもあってか、殆ど
怪我はありません﹂
﹁これは、あの斥力の力なのか
里が無くなった。その結果を見て果たしてどれだけの忍が戦意を
保てるだろうか。
木ノ葉の忍はその多くが綱手のおかげで生き延びている。だが誰
もが大小あれど傷を負っており、そしてこの破壊の爪跡を見て戦意を
失っていく。
もちろん戦う気概のある者はまだ多くいるが、それでも勝てないか
もしれないという思いは誰もがどこかに持っていた。
﹁大丈夫です﹂
オビトもカカシも僅かにそういう思いがあった。敵は愛する女性
を殺した憎い仇だが、傷つき疲弊しきった自分たちでは手も足も出な
いと感じていたのだ。
だが、そんな二人を安心させるかのようにアカネは呟いた。
ならばナルトは仙人に至ったのか
﹂
﹁ナルトが来ました。ナルトなら、きっとペインを止められます﹂
﹁ナルトが⋮⋮
⋮⋮う、うう。リン、リン⋮⋮
﹂
﹁そ う だ な ⋮⋮ だ け ど、悔 し い な。オ レ が リ ン の 仇 を 取 り た か っ た
﹁そうか。あのナルトが仙人に⋮⋮。完全にオレは超えられたな﹂
!?
﹁オビト、カカシ。悔しければ次はリンを必ず守りなさい﹂
カカシもまた同じ思いだからだ。
そんなオビトに対してカカシも何も言えず項垂れるしか出来ない。
嘆く事しか出来ないでいた。
いう事だ。成長した精神がオビトにその衝動を抑えさせる。だから、
人生を長く歩むという事は肉体だけでなく精神すら成長させると
どもではなかった。
ンを愛していた。だが、本当にこの世の全てを捨てる程にオビトは子
この世の全てがどうでもいいという衝動すら起こる程オビトはリ
リンの死を改めて受け止めたオビトは嘆くしか出来なかった。
!
602
?
ヒルゼンの言葉にアカネは首を縦に振る。
!
﹁⋮⋮次
﹂
いるのを見る。
!
﹂
﹁ま、まさか⋮⋮
リン
!
生きている事を確認する。
﹂
リンは生きてる
﹂ ?
の前で喜びを顕わにする程二人は不謹慎にはなれなかった。
助かる命もあれば助からない命もある。そして助からなかった命
してその喜びを胸の内に収めた。
リンの蘇生を喜んでいたオビトとカカシもアカネ達の会話を耳に
﹃⋮⋮﹄
過ぎない。
チやリンを助けられたのは彼らが蘇生出来る可能性があったからに
いくらアカネでも完全に死んだ人間を蘇らす事は出来ない。イタ
り、ダンゾウは蘇生不可能なほどに⋮⋮死んでいたのだ。
時間がアカネの蘇生術が効果を及ぼす時間を超えていたのだ。つま
だがダンゾウは助けられなかったのだ。ダンゾウが死んでからの
のだ。
そう、リンは確かに助けられた。蘇生してからの再生が間に合った
﹁⋮⋮はい。私の力が及びませんでした﹂
﹁アカネよ⋮⋮ダンゾウは、無理なのじゃな
そしてその答えはヒルゼンによって明かされた。
喜ぶ二人を見るアカネだが、その言葉はどこか悲しそうであった。
!
﹁生きてる⋮⋮
﹁ああ、生きてるよ
!
!
﹁どうにか間に合ったようです⋮⋮﹂
﹂
オビトもカカシもすぐにリンに駆け寄った。そしてリンが確実に
﹁リン
﹂
リンの口から僅かな呻き声が聞こえた。胸も呼吸に沿って動いて
﹁う⋮⋮﹂
そしてアカネが抱えていたリンを見た。
その言葉の意味が理解出来ない二人はアカネに向かって振り向き、
?
﹁⋮⋮ナルトか﹂
603
!
ヒルゼンの言葉に全員が里の中心に目を向ける。そこにはペイン
と対峙するナルトの姿があった。
﹁見てるかミナト、クシナ。お前達の子が⋮⋮里に疎まれた子が⋮⋮
今、里を救おうとしておるぞ﹂
遠目からナルトの背を見てヒルゼンはそう呟く。生まれてすぐに
親を亡くし、複雑な事情があるナルトを預かったのはヒルゼンとその
妻ビワコだ。
火影としての仕事の多さ故にあまり構ってはやれなかったが、それ
でもナルトに掛ける愛情の深さは人一倍だろう。
小さな頃から自分を見てほしい為か悪戯が絶えず、多くの者から蔑
まれていたあのナルトが。落ちこぼれと言われ馬鹿にされ続けたあ
﹂
の ナ ル ト が。誰 よ り も 大 き な 背 を 見 せ て あ の ペ イ ン 相 手 に 立 ち 向
かっているのだ。
﹁⋮⋮歳ですかねヒルゼン。涙ぐんでますよ
﹁そうじゃな。もう歳じゃよ。ダンゾウも逝った⋮⋮ナルトはこの戦
い で 勝 利 す れ ば 木 ノ 葉 を 救 っ た 救 世 主 と し て 称 え ら れ る じ ゃ ろ う。
それを見届けた後にワシは引退しよう⋮⋮﹂
ヒルゼンは忍として一線に立つ事が出来る年齢をとうに超えてい
る。ヒルゼンと同じ年代の忍など三代目土影を含め数える程だろう。
他はとうに引退して一線を退いている。
今まで老体に鞭を打って働いていたのは偏に木ノ葉の為にだ。だ
がこうして木ノ葉の若葉は立派に育っている。もう自分が出来る事
はなく、綱手の相談役としての立場に落ち着こうと考えていた。
﹁気が早いですよヒルゼン。今はナルトの戦いを見守りましょう﹂
﹁そうじゃな⋮⋮。ナルトよ、お前が未来を切り開くのをワシはここ
で信じて待っておるぞ﹂
それからはこの場の誰もが固唾を飲んで静かにナルトとペインの
死闘を見守った。
その死闘はペイン天道が最大の力で神羅天征を放った事が要因と
なり戦況はナルトに傾いていく。
神羅天征はその力の強弱によりインターバルの時間も延びる。あ
604
?
れだけの神羅天征を放った天道はその力を再び使用する為に長い時
間を必要とし、その間に天道以外の全てのペインがナルトによって破
壊される事となった。
ようやく力を取り戻した天道。だがナルトは強かった。サスケと
いう目標に向けてひたすら修行し、共に競い合い力を高め合い、そし
て今仙人の力を得た。
既にその力は自来也すら超えていた。仙人としての適正も自来也
以上だったのだ。影分身を利用して巧みに仙人モードを維持し、ナル
トはペインを追い詰める。
﹂
﹂
そして、ペインとの幾多の問答と死闘を超え、ナルトはペインに打
ち勝った。
ナルトが勝ったぞカカシ
本当に、強くなったなナルト⋮⋮
﹁勝った⋮⋮
﹁ああ
!
﹁そうかもしれませんね⋮⋮﹂
に掛かっておる。ワシはそんな気がするよ﹂
﹁復讐の相手を前にナルトがどういう答えを出すのか⋮⋮未来はそこ
かとヒルゼンも確信に至ったようだ。
それを見てやはりどこかでペイン六道を操っている本体がいたの
チャクラを逆に感じ取り、その潜伏場所へと向かう。
ナルトは自身の体にペインの黒い棒を刺した事でペインの本体の
が掛かりペイン六道とまともに相対するしかなかったのだが。
だが完全に確証もなく、その上どこで操っているのか探るのも時間
るのではないかという憶測は立てられていた。
自来也から得た情報で、敵が何らかの方法でペイン六道を操ってい
﹁本物はいない⋮⋮つまりはそういう事か﹂
﹁⋮⋮いえ、どうやらまだ終わってはいないようです﹂
頃とは大違いなその姿に感動すらしていた。
落ちこぼれでサスケに無謀なライバル心を見せるだけだったあの
シは担当上忍としてナルトの成長を感慨深く見ていた。
ナルトの勝利を見届けたオビトとカカシは素直に喜ぶ。特にカカ
!
!
実際は自来也は死んでいないのだが、現状それを知っているのはア
605
!
カネと綱手と両蝦蟇仙人に、あとはマダラとイズナくらいだ。
味方すら騙している事にアカネは若干心を痛め、謝罪の言葉を今か
ら考えていた。
◆
・・
ナルトとペインの本体である長門。共に同じ師を持ち、だが異なる
道を進んだ二人の弟子が互いの意思と答えをぶつけ合う。
長門の答え。それが平和に必要なのが痛みというものだ。かつて
長門が受けた二つの痛み。両親の死と、新たな家族である弥彦の死。
その二つの痛みはかつての自身が出した答えが意味のない物だと
長門に気付かせた。
その後も長門は多くの仲間の死を味わった。それら全ては木ノ葉
を筆頭とする大国の平和を維持する影で行われる戦いの犠牲であっ
た。
大国の平和は小国の犠牲の上に危うく成り立っているだけであり、
彼らの平和が弱者への暴力なのだと長門は語る。
人は生きているだけで気付かぬ内に他人を傷つけている。人が存
在する限り同時に憎しみも存在する。この呪われた世界に本当の平
和など存在せず、自来也が語った人々が理解し合える時代など来はし
ない。
そんな長門の意思と答えに対し、ナルトも己の意思と答えを示し
た。
長門達の過去は理解したし、その怒りもまた理解出来る。だが、そ
れでも長門達を許せず憎しみは未だ残っている。
だが、自来也は自分を信じて託してくれた。ならば自来也が信じた
事を信じる。それがナルトの答えだった。
だが長門にとってそんな言葉は戯言にしか聞こえなかった。今更
自来也の言葉など信じる事は出来ないと。本当の平和など呪われた
世界に生きている限りありはしないのだと長門は叫ぶ。
そんな長門に対し、ナルトはある言葉を送った。
606
﹂
﹁なら⋮⋮オレがその呪いを解いてやる。平和ってのがあるならオレ
がそれを掴み取ってやる。オレは諦めねェ
﹂
言葉を出す事が出来ない長門に向けて更にナルトは続けて話す。
﹁⋮⋮﹂
でもあった。
方向性を変えたのだが、これが自来也の最初の本であり、一番の力作
それは自来也が書き記した書物。あまりに売れなかった為に本の
ていた﹂
書いた最初の本だ。エロ仙人はこの本で本気で世界を変えようとし
﹁そうだってばよ⋮⋮今のは全部この本の中のセリフだ。エロ仙人が
覚えと、そして見覚えがあったのだ。
長門はナルトのセリフに覚えがあった。聞き覚えではない。言い
﹁そのセリフは⋮⋮﹂
﹁長門⋮⋮どうしたの
﹁お前⋮⋮それは⋮⋮﹂
小南も動揺する程にだ。
だが、そんな綺麗事に長門は反応した。それは長門と最も長く居た
和が掴めるのなら苦労はないだろう。
まるで理想だけを語ったかのような綺麗事だ。諦めないだけで平
!
﹂
﹁本の最後にこの本を書くヒントをくれた弟子の事が書いてあった。
そんな⋮⋮これは偶然か⋮⋮
アンタの名前だ⋮⋮長門﹂
﹁
?
ナルトの言葉を聞きながら長門はある過去を思い起こす。それは
自来也の元で修行していた一時期、長門が最も幸せだと感じていた時
期の話だ。
そこで長門はラーメンで腹ごしらえをしている最中の自来也と話
す。自来也がかつて長門に話した世界の憎しみについて、長門なりに
考えそして答えを出した事を自来也に伝えに来たのだ。
平和に辿り着く方法、それは長門にも分からない。だが、いつか自
分がこの呪いを解いてみせる。平和があるなら自分が掴み取って見
607
?
﹁そしてこの本の主人公の名前⋮⋮それが││﹂
!
せる。
方法よりも大切な事。それは信じる力だと、長門は自来也に告げ
た。
長門のその言葉を聞いた自来也は本のアイディアが浮かんだ。同
時にその本の主人公の名もその場にあった食べ掛けのラーメンから
安直にひねり出す。
後に自来也と別れた長門は自来也が残した一冊の本を読んだ。そ
こに書かれていたのはまさに長門を主人公とした小説だった。
例えどんな苦境にあっても諦めず、平和を掴む為に足掻き続ける。
﹂
その主人公の名は││
﹂
﹁ナルトだ
﹁ッ
ナルトが重なって見えていた。
﹁だからオレの名前はエロ仙人からもらった大切な形見だ
オレは火影にな
諦めて師匠の形見に傷をつける訳にはいかねェ
オレを信じてく
そんでもって雨隠れも平和にしてみせる
る
!
自分を、そして自分に全てを託してくれた自来也を信じて放たれた
それがナルトだ﹂
の歩く生き様だ⋮⋮。どんなに痛てー事があっても歩いていく││
﹁オレは師匠みてーに本は書けねーから⋮⋮だから、続編はオレ自身
したものとは別の本になってしまう。それはナルトではないと。
主人公が変わればその物語は別の物になってしまう。自来也の残
そんな長門の問いに対して、ナルトは答える。
自分を信じられるのか。
捉 わ れ ず 自 分 を 信 じ た ま ま で 居 ら れ る の か。そ う 言 い 切 れ る の か。
これからどれ程の痛みが自身を襲っても変わらないと。憎しみに
らないと言い切れるのか。
長門には理解出来なかった。どうしてナルトはこうも自分が変わ
﹂
れ
!
オレが
ナルトの言葉に長門は更に動揺する。長門には過去の自分と今の
!!
!
!
その言葉は欠片の嘘がない物だと長門に理解させる力を持っていた。
608
!
!
長門の脳裏に次々と過去の記憶が巡る。ペインとなった自分と相
対した時の自来也の言葉が、弟子であった自分を信じる自来也の言葉
が、弥彦が最期に自分に託した言葉が、自分自身が語った言葉が、そ
してナルトの今の言葉が。
﹁オレは兄弟子⋮⋮同じ師を仰いだ者同士理解し合えるハズだと前に
言ったな﹂
それは長門がナルトと戦った時に冗談として発した言葉だ。だが、
それが本当に真実に、しかも逆の意味で理解し合うとは長門は思って
もいなかった。
ナルトを見ていると長門は昔の自身を思い出す。他の誰にもない、
信じさせる不思議な力をナルトは持っている様だと長門は思う。
長門は自来也を信じる事が出来ず、自分自身さえも信じられなかっ
た。だが、ナルトは自分とは違った道を歩く未来を予感させてくれ
た。
だと思っていたはずの、しかもこの場の誰にとっても特別な存在がい
きなり現れたのだ。これに驚愕するなと言う方が無理だろう。
自来也先生は確かにオレが⋮⋮﹂
﹂
あ、痩せても枯れても二代目三忍自来也様が
﹁馬鹿な⋮⋮これは幻術なのか
﹁かっはっはっ
おぬしの様なひよっこに殺されるはずなかろうがのゥ
││本物だな││
││本物ね││
││本物だってばよ││
!
?
れは間違い無く本物の自来也だと。この状況でこんな馬鹿げた見栄
そう言って見栄切りする自来也を見た三人の思いが一致した。こ
!!
!
609
﹁お前を⋮⋮信じてみよう⋮⋮うずまきナルト⋮⋮﹂
この時、交わる事がないと思われていた二人の道が交わった。隠れ
て見守りつつそれを知った自来也は涙を堪えてゆっくりと姿を現す。
﹄
﹁ようやく、元のお前に戻ったのぅ長門﹂
﹂
﹃じ、自来也先生
﹁エロ仙人
!?
突如として現れた自来也に誰もが驚きの声を上げる。当然だ、死ん
!?
切りが出来る者をナルト達は他に知らなかった。
⋮⋮あ
だっ
エロ仙人が死んでオレ
﹁エロ仙人⋮⋮生きてたのかよ 良かった⋮⋮
たら何で今まで姿を見せなかったんだよ
﹂
!
かって自来也は言葉を掛ける。
今 更 ど の 面 下 げ て 自 来 也 を 見 れ ば い い の か。思 い 悩 む 長 門 に 向
也に顔向け出来ない思いで一杯だった。
ナルトと向き合う事でかつての自分を思い出した長門の心は自来
﹁自来也先生⋮⋮オレは⋮⋮﹂
﹁⋮⋮長門よ。良くぞかつての自分を見つけた﹂
そしてもう一人の弟子である長門に眼を向けた。
どもかと暖かく見守る。
そう言って涙を見せる愛弟子を自来也は強くなってもまだまだ子
⋮⋮﹂
﹁⋮⋮いいってばよ。エロ仙人が生きててくれて⋮⋮本当に良かった
いをさせた事は事実だ。それはやはり謝罪すべき事なのだろう。
だからと言って味方を騙した事に変わり無く、親しい者に悲しい思
偽装死は一応の成果を見せている。
が出来、そのおかげでアカネは木ノ葉に援軍を送る事が出来た。この
自来也の偽装死によってイズナが操るマダラに大きな隙を作る事
それを嬉しく思いつつもナルトに謝罪する。
自来也は自身の死でナルトがどれだけの衝撃を受けたのかを知り、
なって本当にすまなかった﹂
と判断してな。いずれお前にも教えるつもりだったが、ここまで遅く
﹁すまんの。今後の事を踏まえて死んだ様に見せかけた方が良かった
也に詰め寄る。
いたのなら早く無事な姿を見せてくれれば良かったとナルトは自来
ナルトは本当に自来也を慕っておりその死を嘆いていた。生きて
た事に怒りを見せる。
自来也の生存を喜ぶナルトだが、次に生きていたのに姿を隠してい
がどんな気持ちだったか⋮⋮
!
﹁誰にでも間違う事はある。長門に小南、お前達にはそれを正してく
610
!
!
!
れる者が傍にいなかった。それだけだ。元に戻ろうという意思があ
る限り、必ず間違った道から戻って来る事は出来る﹂
﹁自来也先生⋮⋮﹂
赦すと、言っているのだ。自来也は長門達の過ちを赦すと、まだ遅
くはないと言っているのだ。それが長門にも小南にも理解出来た。
﹁本当ならワシが気付かせたかったのだがのゥ⋮⋮ワシにはそんな力
は な か っ た。ナ ル ト よ ⋮⋮ お 前 の お か げ だ。良 く や っ て く れ た ⋮⋮
﹂
﹁エロ仙人⋮⋮﹂
自来也はそう言ってナルトに頭を下げる。ナルトがいたからこそ、
ナルトが自分を信じてくれたからこそ、長門もまたかつての自分に戻
る事が出来たのだ。
﹁長門よ。今のお前ならば⋮⋮諦めない気持ちを思い出したお前なら
﹂
ばもう大丈夫だろう。これからは共にナルトに協力し、皆が分かり合
える平和な世界を目指してはくれんか
自来也すら知らない印だった。
そう言って長門はある印を組み始める。それはナルトはともかく、
染まり過ぎた⋮⋮。││外道・輪廻天生の術﹂
﹁ありがとう自来也先生。そしてナルト。だが、オレのこの手は血に
だが、そんな二人の思いを長門は受け取る事が出来なかった。
ナ ル ト も ま た 長 門 を 信 じ る 様 に ま っ す ぐ に 長 門 を 見 つ め て い た。
る。
んな自分でもまだ信じてくれるのかと長門は目を細めて自来也を見
師を、自身すらも裏切った長門に向かって自来也は手を伸ばす。こ
?
﹂
だが長門と共に在り続けた小南だけはその術を知っており、そして
アナタまさか
驚愕の声を出す。
﹁長門
!!
かだとナルトと自来也も朧気に理解する。
小南の反応から長門が使用しようとしている術がとてつもない何
択肢が⋮⋮﹂
﹁小南⋮⋮もういい。オレに新たな選択肢が出来た⋮⋮諦めていた選
!
611
!
﹁何だ
何の術だってばよ
﹁さよならだ自来也先生﹂
﹁⋮⋮まさか。止めよ長門
﹂
﹂
の術の内容を小南の説明と術の名で予測してしまった。
その説明だけではナルトにはピンと来なかった様だが、自来也はそ
のペイン。外道だと。
界の外に居ると言われている。長門の瞳力は生死を司る術。七人目
輪廻眼を持つ者はペイン六人全ての術を扱え、生と死の存在する世
ナルトの疑問には小南が答えた。
!?
﹁これは⋮⋮
﹂
死の原因であった傷すら完全に癒えて。
暁との戦いで死んだはずの死者が次々と蘇っているのだ。しかも
へと入っていく。そして不思議な現象が木ノ葉の各地で起こった。
その口からは死者の魂が次々と開放されていき、その魂が死者の中
突如として巨大な閻魔像が出現する。
木ノ葉隠れの里の中央。神羅天征にて出来たクレーターの中心に
◆
た。
自来也の制止の声もむなしく、ここに外道・輪廻天生の術は発動し
!!
﹁なっ
﹂
どういうことなんだ一体
﹂
﹁そんな
﹂
!
!?
返っている
﹁ま さ か ⋮⋮ い え、生 き 返 っ て い る 死 ん だ は ず の 者 達 が 皆 生 き
!?
!
のでしょう﹂
た為に、ペインはこの術で犠牲となった皆さんを生き返らせてくれた
﹁これはどうやらペインの能力の様です。ナルト君がペインを説得し
ユを通じて得た情報を教えてくれた。
そしてヒルゼン達に付いているカツユがナルトに付いているカツ
アカネはその感知力で次々と蘇る忍を察知したのだ。
!
612
!?
!?
﹁そんな術が⋮⋮﹂
﹁これも輪廻眼の力って奴なのか﹂
カツユの説明に驚愕するオビトとカカシ。そして同時にあのペイ
ンすら説得したというナルトの器の大きさに感動する。
特にナルトと同じ様に火影を目指すオビトはより顕著だ。そして
﹂
ナルトに負けない様にもっと人として大きくならなければと心に
誓った。
﹁⋮⋮これは﹂
﹁だ、ダンゾウ
そしてここにも輪廻天生にて蘇った者がいた。そう、志村ダンゾウ
である。
アカネでさえ蘇生不可能だったダンゾウもこうして完全に蘇って
いる。改めて輪廻眼の力の凄さをアカネは理解するが、ダンゾウと、
そしてダンゾウの復活を喜ぶヒルゼンを見て、今は輪廻眼に関しては
置いておこうとアカネは思う。
﹂
こ の 馬 鹿 が ワ シ な ん ぞ を 庇 っ て 犠 牲 に な る と は
!
暑苦しいから離れろヒルゼン
◆
﹂
﹂
!?
﹁何だってばよ
何が起こったんだってばよ
この時、何かに気付いた様にアカネが呟く。そしてアカネは││
﹁あ││﹂
光景が広がっていた。
そんな二人を見てアカネ達も喜び、そして木ノ葉の里にも同じ様な
り喜びを顕著にするヒルゼン。
生き返ったばかりで激昂するダンゾウに、そんなダンゾウを見てよ
!
何かが起こっているのだが、ナルトにはまだ理解出来ない。
小南の悲痛な表情に自来也の制止の声。二人がそこまで焦る程の
!?
613
!!
お前がいなくなればワシは誰と喧嘩すればいいのだ⋮⋮
﹁ダ ン ゾ ウ
⋮⋮
!
!
﹁⋮⋮まさか死に損なうとはな。生き恥を晒したわ⋮⋮って、ええい
!
そんなナルトに現状を説明してくれる者がいた。それはナルトの
服の中に隠れていたカツユだ。カツユはペインとの戦闘中にナルト
に様々な助言を与えていたのだ。
それって⋮⋮
﹂
﹁里の人達がどんどん生き返っています﹂
﹁
﹁やはり⋮⋮か﹂
﹁それは⋮⋮
﹂
てもの償いだ﹂
﹁木ノ葉に来てオレ達が殺めた者達ならばまだ間に合う。これがせめ
便利な術には、代償があるものなのだ。
の長門の消耗を見て輪廻天生の術のデメリットも予想する。強力で
更に自来也は術の効果と小南の反応、そして赤い髪が白く染まる程
た。
カツユの言葉はナルトに驚愕を与え、そして自来也に確信を与え
!
﹁戦いとは双方に死と⋮⋮傷と痛みを伴わせるものだ⋮⋮。大切な人
るうずまき一族の末裔である長門ですら耐えられない程だろう。
長門は多くの木ノ葉の忍を蘇生させた。その負担は生命力に溢れ
ければ長い程その負担も大きくなる。
する対象の人数が多ければ多い程、もしくは死亡した時間の経過が長
術の代償として術者は生命力を大きく削る事となる。しかも蘇生
を生き返らす事が出来るだけの便利な術ではないのだと。
長門の消耗具合を見てナルトも気付いた。輪廻天生の術とは死者
﹁⋮⋮お前﹂
い⋮⋮﹂
﹁ハァ、ハァ⋮⋮。安心しろ⋮⋮暁の連中は⋮⋮生き返らせてはいな
説明したのと同じ言葉だと自来也も気付いた。
その言葉を聞いてそれがかつて自分が長門達を拾う時に綱手達に
と同じ言葉を長門は紡ぐ。
かつて戦争孤児だった自分たちを拾って強く育ててくれた自来也
!
の死ほど受け入れられず⋮⋮死ぬはずがないと都合よく⋮⋮思い込
む⋮⋮﹂
614
!?
長門は最後の力を振り絞ってナルトに語り掛ける。戦いの先にあ
る痛みを、憎しみを、死を、それらが戦争であり、ナルトがこの先立
ち向かう事になるものだと。
ナルトはその言葉を聞き心に刻みこむ。一言一句頭で覚えるのは
無理かもしれないが、それでもその言葉と長門が託そうとしているモ
ノの意味は、きっとナルトは心で覚え続けるだろう。
﹁オ レ の 役 目 は こ こ ま で の よ う だ ⋮⋮。自 来 也 先 生 ⋮⋮ ナ ル ト を 見
守ってやってください⋮⋮。ナルト⋮⋮お前だったら⋮⋮本当に│
│﹂
そうしてナルトに全てを託し、長門は散っていった。
◆
のあるマダラはすぐに術の効果に気付き、そして疑問に思う。
長門は戦争を憎み、それでも平和の為に戦争を利用するという矛盾
を抱えながらも意思を貫き続けていた男だ。
それがどうして自らの命を代償とする輪廻天生を使用して木ノ葉
を救うというのか。それがマダラには理解出来なかった。
﹁きっとナルトだろう。ナルトには人を変える不思議な力があるんだ
よ。あの子ならきっと私達の理想に近付けると思わせてくれる程に
な﹂
﹁そうか⋮⋮お前がそこまで言うのなら、きっとそうなのだろうな﹂
いつしかマダラはその動きを止めていた。マダラを操っているイ
ズナがこれ以上の戦闘行為に意味がないと悟ったのだ。
そしてマダラの肉体を操る力をマダラの意思を操る事に向け、そし
て口を開いた。
615
長門が外道・輪廻天生にて木ノ葉の里の忍を蘇生させた時、それに
﹂
﹂
?
アカネとマダラ、そしてイズナも同時に気付いた。
﹁む、これは
長門め、どういう心境の変化だ
!?
自らもイズナに操られていたとはいえ輪廻天生の術を使用した事
﹁⋮⋮まさか、輪廻天生か
!?
﹁日向ヒヨリよ⋮⋮今回は貴様達の勝利だ﹂
﹁⋮⋮イズナか﹂
その変化にアカネはすぐに気付いた。イズナという存在が裏にい
ると知っていれば、最も親しい友とその弟の差くらい見抜けないアカ
ネではなかった。
﹁だが所詮はただの余興だ。オレにとってはな。ここでお前達が死ね
﹂
ば良し。そうでなくとも何の問題もないのだ﹂
﹁余興だと
木ノ葉の多くの人間を巻き込み傷つけたこの戦争を、イズナは余興
だと言う。それはアカネの怒りを買うのに十分過ぎる言葉だった。
アカネは空間すら歪みそうな程の怒気と殺気をマダラ越しにイズ
ナに叩き込む。だがイズナは涼風でも当たったかの様に平然とアカ
ネに言葉を返す。
﹁そう、余興さ。全てはオレの手に集まっている。お前達はオレの手
﹂
だが、そう
の平の上で踊っているに過ぎん。最早月の眼計画は成就しているも
同然なんだよ﹂
﹁どういう事だ
﹁ははははは それを説明してやる必要もあるまい
!
に導いてやる﹂
?
ならばせいぜい守るんだな 八尾と九尾を守る
だが、月の眼計画に賛同していれば良
為に戦力を集めるといいさ
!
はははははは
﹂
その二人を守る為にどれだけの人間
かったと後悔しても遅いぞ
が無駄死にするかな
!
?
?
!
﹁そうだろうな
ただアカネの反応を見て愉しんでいるだけなのだ。
当然イズナはアカネがそんな条件を飲む訳がないと理解している。
いるのだ。
すれば永遠の幻術の世界に連れて行ってやる。そうイズナは言って
八尾と九尾、つまりは雷影の弟であるキラービーとナルトを生贄に
﹁ふざけるなよ。私がそんな条件を飲むと思っているのか
﹂
寄越せ。殺しても飽きたらない所だが、そうすれば貴様も安寧の世界
だな。やはり労力や犠牲は少ないに越した事はない。八尾と九尾を
!
!
!
616
?
イズナは本体と操作するマダラの両方で高笑いしながらマダラを
その場から本体の元に呼び戻し、消えた。
﹁イズナ⋮⋮お前は必ず止める。⋮⋮⋮⋮すまない、マダラ﹂
イズナを止める決意。それはイズナを││
アカネはその決意を固めた事をマダラに静かに謝った。
◆
暁と木ノ葉の死闘はこれにて幕を閉じた。唯一生き残った小南は
長門と天道の肉体であった弥彦の亡骸を持って木ノ葉を去った。
自来也が共にいる事を提案したが、それを小南は拒否した。小南は
長門が信じたナルトを信じ、雨隠れにてナルトと共に二人の夢を追い
掛けると告げて雨隠れへと戻って行った。
ナルトは小南と別れた後に木ノ葉に戻ろうとする。だがやはり激
617
戦に次ぐ激戦を乗り越えた為かその疲労は大きく、道中で倒れそうに
なる。
だがそれを自来也が支えた。そして改めてナルトに向かって言葉
を放つ。
﹁よく、頑張ったな。お前は⋮⋮お前はワシの自慢の弟子だ﹂
﹁へへ⋮⋮﹂
自来也の言葉にナルトは疲労も忘れて笑顔を浮かべ、そして自来也
の背に顔を埋める。
そのまま自来也がナルトを背負い木ノ葉に帰還する。するとそこ
には多くの忍や木ノ葉の民が待ち構えていた。
﹂
﹂
﹂
そして誰もが一斉にナルトに向けて声を掛ける。
﹂
﹁よく帰って来た
﹁信じてたぞ
!
﹁お前は英雄だナルト
﹂
﹂
﹁ありがとう
﹁おかえり
!
!
!
﹁自来也様も帰っているぞ
!?
!!
﹂
﹁自来也様も生き返ったのか
﹁とにかくよかった
﹂
﹁おかえりー
!
﹂
!?
﹂
来を掴み取れたのだ。
﹂
﹁敵はどんなだった
﹁怪我してない
押すなってばよ
!
!?
いく。
ヒナタ
かしかいなかった。
だが、戦乱の芽はまだ潰えていない。それを知る者はこの場には僅
こうして木ノ葉隠れに新たな英雄が生まれた。
とヒナタの同期生も二人の進展を見守っている様だ。
それを暖かい目でアカネは見守る。サスケやサクラ、そしてナルト
ルトに抱きついた。
ナルトが生きて帰ってきてくれた事を誰よりも安堵し、ヒナタはナ
﹁ナルト君⋮⋮良かった。無事で良かった⋮⋮﹂
﹁ん
﹂
そこにアカネに背を押されたヒナタがナルトに向かって近付いて
群がってくる無数の子ども達に戸惑っている様だ。
今までこんな風に羨望や憧れの目を向けられた事がないナルトは
﹁イテ
﹂
はもちろんあったが、それでもナルトが諦めなかったからこそこの未
全てはナルトの諦めない根性と忍道が招いた結果だ。他人の助け
われる様になった。
かつては多くの者から蔑まれていたナルトが、今は多くの者から慕
ち構えていたのだ。木ノ葉を救ってくれた英雄の帰りを。
カツユが事の顛末を里の皆に話した事で誰もがナルトの帰りを待
﹂
﹁ナルトーー
!
!
?
?
618
!
?
NARUTO 第三十一話
暁の脅威が去って僅か一日。木ノ葉の里は早くも復興の兆しを見
せていた。
それと言うのも一人の忍の活躍が大きかったからだろう。その忍
の名はヤマト。かつてはテンゾウという名で暗部に所属していた木
ノ葉唯一の木遁使いである。
かつての大蛇丸の人体実験により初代火影柱間の細胞を埋め込ま
れ た 多 く の 実 験 体 の 中 で 唯 一 の 適 合 者 で あ り 生 き 残 り が ヤ マ ト だ。
それ故に彼は柱間のみの秘術であった木遁を使用出来るのだ。
その木遁を巧みに使用して一瞬で大量の家屋を作り出す。職人が
複数人で掛かって何日も掛けて行う作業を僅か数秒足らずで行うの
だ。復興速度は桁違いだろう。
人が生活する上で住居があるとないとでは大違いだ。ヤマトの活
躍はまさに木ノ葉の影の救世主と言えた。⋮⋮もっとも、それは彼の
疲労と引き換えに得た実績だったが。
﹁も、もう駄目だ⋮⋮これ以上は死ぬ⋮⋮﹂
﹁お疲れ様でした。はい、チャクラを分けてあげますね﹂
アカネのチャクラ譲渡があったとはいえ、一日足らずで木ノ葉の住
民全員が住める家屋を作り出したヤマトは肉体的にも精神的にも疲
労困憊であった。
ノルマをこなし終えた後に疲労回復の為のチャクラを譲渡され、ヤ
マトはようやく開放された。
﹁明日には足りない家屋や設備などが書類に纏められていると思いま
す。明日も今日ほどではないでしょうが大変なのでゆっくり休んで
ください﹂
まさに救世主に相応しい活躍をしたヤマトに労いの言葉を掛け、ア
カネはその場から消えた。どうやら影分身のアカネだったようだ。
消滅した影分身を見てヤマトはぽつりと呟く。
﹁ア カ ネ が い る か ら こ れ だ け の 作 業 を ど う に か こ な せ た と 思 う べ き
か。それともアカネがいるから休憩すらなくこれだけの作業をこな
619
さなければならなかったのか⋮⋮不毛だな、今は何も考えずに休も
う﹂
考えても意味がない事に気付いたヤマトは自分で作った家の中に
入り、作りたて故に布団なども一切備え付けられてないのでそのまま
床に寝転がって泥の様に眠りについた。
さて、里が復興に向けて動いている中、一部の忍達が一同に集まっ
て会議を開いていた。
参加者は木ノ葉の上役に三代目火影、五代目火影、志村ダンゾウ、自
来也、うちはと日向の長、火影の両腕、名だたる名家の代表に、多く
の上忍達、そしてアカネである。
﹁皆、里の復興に忙しい中だが良く集まってくれた﹂
まず木ノ葉のトップである五代目火影綱手が集まった面々にそう
告げる。綱手は暁襲撃の一件で酷く消耗していたが、アカネの治療と
チャクラ譲渡により元の体調に戻っていた。
﹁今回集まってもらったのは他でもない。今後の木ノ葉、そして忍界
の未来について重要な話をする為だ﹂
綱手の言葉がなくとも誰もが理解していた。暁の脅威は去ったが
それは一時的な物に過ぎず、残る暁は少なくとも多くの尾獣を有する
その戦力はけして侮ってはならないものなのだと。
﹁暁に関しては五大国全てとその隠れ里で協力するべきだが、それに
関しては私の方から再び五影会談を開く様に申請してある。⋮⋮多
くの里から人柱力が連れ去られ、尾獣を奪われている現状ならば五影
会議も開かれるだろう﹂
そう言う綱手の表情には僅かな苛立ちがあった。これまでに幾度
も砂隠れと共に他里に向けて緊急の会談を要請していたが、それらは
全て却下されていた。
ここまで緊急を要さない限り協力する切っ掛けすら出来ない忍界
の現状に苛立ちを、そして憂いを持っているのだろう。
﹁だがそれは別として木ノ葉の里でも皆に知ってもらいたい情報が幾
620
つかある。⋮⋮アカネ﹂
そこまで話して綱手は部屋の一番後ろに座していたアカネに言葉
を掛け、そして前に来るように促す。
促されるままにアカネは綱手の横まで移動し、そして多くの忍へと
向き直した。
﹁初めましての方もいらっしゃるので自己紹介を。日向アカネと申し
ます。残る暁に関しては私がより詳しい情報を得ているので、こうし
て皆様の前で話させて頂きます﹂
アカネが前に出る事に多くの忍から困惑の気配が漏れるが、それは
僅かでありすぐに全員がその気配を消している。
だがアカネの事情を知る者からはその困惑が全くない事から、幾人
かの忍はそこからアカネに何らかの秘密や事情がある事を理解して
いた。僅かな気配の動きからそこまで察する事が出来るのは流石は
名だたる忍の集いと言うべきだろう。
621
﹁ですが、暁に関して話す前に皆様に私について知ってもらおうと思
います。これから話す情報は眉唾物と取られそうですので、まずはそ
の信憑性と説得力を得る為に私について知ってもらった方が良いと
思いますので﹂
アカネという少女について詳しく知ればどう説得力が出るという
のか。その真意が理解出来ない者が多いが、相手は下忍と言えど五代
目火影である綱手が呼んだ忍である。誰もが文句も言わずに黙って
その推移を見守っていた。
﹁先ほどは初めましてと言いましたが⋮⋮こうして見ると多くの者と
知り合いだったりしますね。では改めて。私は日向ヒヨリの転生体、
日向アカネと申します。生前よろしくしていた方もしていなかった
﹄
方も、今後ともよろしくお願いしますね﹂
﹃⋮⋮は
?
る。
﹁ヒヨリ様の⋮⋮
﹂
たる忍達もこの紹介を理解するには一瞬以上の時間を要する様であ
今度こそ多くの忍から呆けた様な声が漏れ出ていた。流石の名だ
?
﹁転生体
﹁はい﹂
﹂
自分達の耳か頭が壊れたのかと確認する様に呟いた言葉をアカネ
がにこやかに肯定する。
﹂
﹁ヒヨリ様って⋮⋮﹂
﹁あの初代三忍の
﹁はい﹂
﹂
?
にもだ。
詳しいだろう綱手やヒルゼンにも理解出来なかった。当然いのいち
その言葉の意味は誰にも、アカネの前世であるヒヨリについて最も
﹁⋮⋮38戦38勝0敗﹂
情報を思い出した。
そして奈良シカマルの父である奈良シカクを見つけ、アカネはある
なる様な物を出す事は出来ないかなとアカネは考える。
でいいのだろうが、せっかくだからそれ以外の者からどうにか証拠に
もちろん事情を知っている綱手や自来也などに説明を頼めばそれ
う。
彼を納得させるだけの材料をアカネから提出する事は出来ないだろ
だけだ。ヒヨリの頃にいのいちとまともに会話した事など殆どなく、
アカネはいのいちの事を知っているが、それは文字通り知っている
てそれを証明する事は難しい。
同じチャクラの質や記憶など証拠になる物はあるが、いのいちに対し
証拠と言われたアカネはどう答えるか悩み周囲を見渡す。生前と
﹁そうですね⋮⋮﹂
前の人物が日向ヒヨリとあらば尚更であった。
り転生と言われてもいきなりは納得出来ないのだろう。しかも転生
そう聞いて来たのは山中いのの父親である山中いのいちだ。やは
﹁すまないが、それが嘘ではないという証拠はあるのか
返って来るのは年頃の少女のにこやかな笑顔と肯定の言葉だ。
再 び 念 を 入 れ る か の 様 に 多 く の 忍 が ア カ ネ に 確 認 を す る。だ が
?
だが一人だけその勝敗を聞いて僅かに反応する者がいた。そう、奈
622
?
良シカクである。
﹁それは⋮⋮﹂
日 向 ヒ ヨ リ。そ し て 自 分。そ の 対 戦 成 績。こ れ ら を 結 び つ け る 記
憶がシカクには確かにあった。
偶然の一言で片付けるには正確過ぎる数字の指摘。そしてヒヨリ
が誰かに話す事はまず考えられず、例え話していたとしてもこの情報
﹂
が日向一族とはいえ今の世代に伝わる事もまずないだろうとシカク
は考える。
﹁まさか、本当にヒヨリ様なのですか
﹁懐かしいですねシカク⋮⋮﹂
﹂
﹁シカク、先ほどの対戦成績は何なんだ
﹂
だろう。それほどいのいちはシカクの頭脳を信頼していた。
そのシカクがここまで断言するからには本当にまず間違いないの
だ。
れる忍だ。そのIQは200を超えるのではないかと言われる程に
シカクは木ノ葉でも、いや世界でも右に並ぶ者が少ない程に頭が切
得も出来るという物だ。
な噂もあったが、これらに前世が日向ヒヨリという情報を絡めると納
重影分身、多くの忍を鍛える手腕、日向一族の秘蔵っ子。幾つか眉唾
三年前の木ノ葉崩しに置けるアカネの活躍、里に無数に散らばる多
だ。
シカクがこれまでの人生で耳にしたアカネの情報の全てという意味
た。これまでの情報とはこの会議に置けるアカネの発言だけでなく、
シカクはこれまでの情報全てを統合して思考し、そして結論を出し
﹁⋮⋮これまでの情報を統合するに、まず間違いはないな﹂
﹁ほ、本当にヒヨリ様なのかシカク
はまず間違いない事だといのいちは理解しているのだ。
そんな二人を見ていのいちは驚愕する。シカクが認めるという事
も納得せざるを得ないシカク。
懐かしそうに過去を想うアカネと、それをどこか信じ難く思いつつ
?
いのいちが気になるのはそこだ。この成績を聞いてシカクはアカ
?
623
!?
ネがヒヨリの転生体だという奇想天外な話を納得した。ならばこれ
はそれだけ説得力のある情報だったという事になる。
いのいちだけでなくこの場の全ての忍がそれを気にしていたが、そ
れでも多くの者はやはり文字通り対戦成績なのだろうと予測する。
ヒヨリに勝てる忍など他の初代三忍以外にまず考えられず、老いて
いたとしても若かりし頃のシカクでは勝ち目はなかっただろう。3
8勝0敗という成績も当然という物だ。
﹁38戦38勝0敗⋮⋮ふふ、強かった。⋮⋮シカク、あなた強すぎま
すよ⋮⋮﹂
﹄
﹁戦闘ではともかく、将棋ならば負けるつもりはありませんな﹂
﹃将棋かよ
全員が総突っ込みをする。どうやら38勝はヒヨリではなくシカ
クの戦績の様である。
﹁飛車角落ちならばまだ良い勝負になったでしょうが、ヒヨリ様は頑
なにそれを拒みましたからな﹂
﹂
﹂
﹂
﹁当然です 対等の相手に勝ってこそ勝利の喜びがあるというもの
手加減されるなど屈辱の極み
﹁⋮⋮そ、そんな事、ないよ
﹁⋮⋮飛車角落ちでも負けるのが怖かったという事は
!
けて偶にシカクと将棋を指していたのである。
結果は先も説明してある通り全敗。千年を超える年月を生きる中
で覚えた将棋も、真の天才の前には呆気ない物であった。アカネのI
Qでシカクに将棋で勝つには、それこそ一つの人生を将棋に捧げなけ
ればならないだろう。
﹁ま、まあ、将棋はともかくだ。アカネがヒヨリ様の転生体である事は
上層部の全てが承知の上じゃ。今まで黙っていたのは無用な混乱を
避ける為であるのは理解してくれると思う﹂
混乱する場をヒルゼンがそう言って締めた。
ヒルゼンの言葉を聞いて会議室は一気に静まり返り、そして改めて
アカネの存在を誰もが理解し受け入れた。流石は年の甲と言うべき
624
!!
!
とまあ、この会話から分かる様に、かつてヒヨリは暇な時間を見つ
?
?
!
か。場を支配する力は高い様である。
﹁さて、私に関してまだ納得出来ない方もいらっしゃるとは思います
が、それは後にして話を進めさせてもらいます﹂
どうやって転生したのか、なぜ転生したのか、記憶と共に実力も引
き継いでいるのか、他にも様々な質問があるだろうが、今はそれどこ
ろではないのだ。自身が日向ヒヨリの転生体である事を理解しても
らったところでアカネは本題に移る。
﹁今 回 の 事 件 ⋮⋮ い え、忍 界 に 置 け る 様 々 な 事 件 の 裏 に い る 首 謀 者
⋮⋮それは││﹂
ここまでを聞いたフガクはアカネが首謀者の名前を言い切る前に
うちはマダラが首謀者だと察し、そして表情には出さずとも苦い思い
をしていた。
うちはマダラと言えばうちはの英雄なのだ。千手柱間や日向ヒヨ
リと共に木ノ葉の基盤を作り上げ、第一次忍界大戦にて破竹の活躍を
というもの。もう一つは、誰だ
?
が広まる程に活躍していない、という訳ではなく、単純に兄であるマ
ダラの偉業が大きすぎるのが原因だ。
625
成して三忍の二つ名を有した忍。
今でもマダラを尊敬し、マダラを目指すという者はうちはに少なく
ない。フガク自身はマダラが木ノ葉に反旗を翻し、柱間と死闘を繰り
広げたという隠された歴史を知っているが、殆どの忍はそうではない
のだ。
それが覆されるのかと思うと、うちは一族の当主としてはやはり受
け入れがたいものがあった。
だが、アカネの口から出た首謀者の名前はフガクが予想だにしてい
なかった物だった。
﹄
﹁││うちはイズナです﹂
﹃
というものだ。
?
イズナの名はマダラと比べると認知度が低い。それはイズナが名
それは
は、イズナはもう死んだはずでは
うちはイズナ。その名を聞いた者の反応は二つに分かれる。一つ
!?
第一次忍界大戦にてイズナはかなりの戦果を上げている。当時の
単純な実力でも現在のイタチやサスケに勝るとも劣らぬ実力者で
あっただろう。ただ、偉大すぎる兄の影に埋もれてしまったのだ。更
にはイズナが自ら歴史の影へと消えていった事も大きな原因だろう。
大戦当時から今も生きる者や、そうでなくても経験を積んでいる
者、博識な者はイズナの名を知っているが、それでもまだ若いと言え
る忍はイズナの名を知らずとも致し方ないと言えた。
そうしてイズナを知らぬ者が困惑する中、イズナを知る者から別の
うちはイズナはとうの昔に死んでいるはず⋮⋮
困惑の声が上がった。
﹁馬鹿な⋮⋮
を起こせるとは到底思えませぬ
﹂
いや、例え生きていたとしてもどれだけの高齢か⋮⋮。この様な事件
!?
の原因も、イズナにあったのです⋮⋮
﹂
﹁ですがイズナは生きていた。そして、マダラが木ノ葉を裏切ったそ
えるのか。
ンゾウよりも遥かに年上のイズナが今を生きているなどどうして思
きれば長生きと言われるこの時代で、既に七十を過ぎたヒルゼンやダ
イズナが木ノ葉から離れてどれだけの年月が経ったか。五十年生
優れていようとも、寿命は等しく存在する。
は永遠ではない。どれだけ強くとも、どれだけ賢しくとも、どれだけ
フガクの疑問も、そしてアカネのその考えも至極全うなものだ。人
んだ事が原因で木ノ葉から出奔し、そしてそのまま何処かで、と﹂
﹁私もイズナはとうに死んだものと思っていました⋮⋮。マダラが死
た後に木ノ葉から出奔したというものがあった。
その知識の中で、イズナはマダラが反旗を翻し柱間によって討たれ
主としてその歴史や過去の人物について詳しく理解している。
フガクも当時を生きる者ではなかったが、それでも一族を率いる当
はずのフガクから上がった。
その疑問は当然と言うべきか、うちは一族について誰よりも詳しい
!
始めた。
その言葉を皮切りに、アカネはマダラとイズナから得た情報を語り
!
626
!
アカネが全てを話し終えた後、室内を支配したのは静寂であった。
誰もがアカネの話を信じ切れず、それでいてなお激しく危機感を感じ
ていた。
マ ダ ラ の 裏 切 り の 真 実。イ ズ ナ の 暗 躍。輪 廻 眼。月 の 眼 計 画。十
尾。無限月読。この中のどれか一つだけでも忍界を揺るがす事が出
来るだろう。それがこうも立て続けに知らされれば無言にもなろう
と言うものだ。
全員が事態を飲み込めただろうという十分な時間が過ぎた頃に、ア
おおごと
カネに代わり綱手が話を切り出した。
﹁分かったはずだ。これがどれ程の大事かを。イズナをそのままに放
﹂
置すれば待っているのは永遠の平和という名の支配だ。そんな事を
許すわけにはいかん
綱手の言葉に誰もがその眼に力を取り戻す。
そうだ。事の大きさに呆けている場合ではない。この事態をどう
にかする為に今出来る事をしなければ。そうした思いが全ての忍に
宿っていく。
それをイズナに示す為に
﹁未来とは、平和とは、一人の人間によって与えられる物ではない
全員で掴み取ってこそ意味がある物だ
!
も忍界全てが手を組まねばならん 皆も他里に思う所はあるだろ
!
のだ
﹄
皆の力と想い、私に貸してくれ
﹂
う。だが、里と里という垣根を超えて人と人が手を結ばねばならない
!
!
ろうとしている。これで木ノ葉の意思に問題はないだろう。ヒルゼ
ンとダンゾウは成長した綱手を見てそう安堵する。
だが問題はその手を組むべき他里なのだ。恐らく五影会談は開催
されるだろうが、それで上手く五里が纏まるだろうか。砂隠れはとも
かく、残りの三つに関して考えると頭が痛くなるヒルゼン達であっ
た。
627
!
綱手という木ノ葉を照らす灯火の元に、木ノ葉の思いは一つに纏ま
﹃はっ
!! !
﹁ともかくだ。今はどうなるか分からん五影会談の問題よりも現状分
かる問題に関して纏めるべきだろう﹂
そう言って綱手はフガクに視線を向け、そして口を開く。
﹂
﹁フ ガ ク よ。別 天 神 に 関 し て ⋮⋮ こ の 場 の 者 達 に 説 明 す る 事 に な る
が、構わないな
﹁⋮⋮はっ。あれはうちはにとっても木ノ葉にとっても最も秘するべ
き力でありますが、この状況にあっては致し方ないかと⋮⋮﹂
この二人の会話を聞いたアカネは疑問に思う。別天神というアカ
ネすら知らなかった万華鏡の力を、この二人は既知であるように聞こ
えたからだ。
フガクが知っているのは何の疑問も抱かない。うちはの当主とし
て過去にあった万華鏡の力や情報が記録として残っている可能性も
ある。そこからフガクが別天神に関して知りえていてもおかしくは
ないだろう。
だが綱手はそうではない。しばらく木ノ葉から離れていた綱手が
そこまで万華鏡に関して詳しいとは思えない。火影という立場とは
いえ、全てを知っている訳ではないのだ。
その綱手が別天神に関して何らかの情報を得ている。ここからア
カネが予測出来る事は一つ。火影の右腕であるうちはシスイ。彼か
﹂
ら何らかの情報を得ているという事。いや、もしかしたら││
﹁⋮⋮もしや、別天神の使い手が今のうちはにいるのですか
と僅かな上層部しか知りえない情報だった。それほど別天神の力は
この情報は木ノ葉を揺るがしかねない最重要情報だったので、火影
下手すれば里が割れかねない情報であった。
雄 を 操 っ た 力 を 持 つ 者 が い る の だ。こ れ を 悪 用 す れ ば ど う な る か。
この情報に多くの忍が驚愕する事となる。当然だ。かつての大英
天神なのです。それも両目ともに﹂
﹁はっ。私の万華鏡写輪眼はもうお察しされたかと思いますが⋮⋮別
﹁ああ⋮⋮。シスイ、説明しろ﹂
⋮⋮肯定だった。
アカネは疑問をそのままに綱手にぶつける。そして綱手の答えは
?
628
?
凄まじいのだ。
対象に幻術を掛けられていると気付かせずに思考を誘導・操作する
その術は、一握りの上層部に仕掛ければ下手すれば組織の全てを操り
うる可能性を持つ力だ。
火影に仕掛けたとすれば、木ノ葉その物を裏から支配する事も不可
能ではないだろう。そんな力を周囲に知らしめる訳にはいかず、ごく
僅かな人数で機密として守っていたのだ。これはアカネすら例外で
はなかった。
それだけではない。シスイという人物は誰からも認められる人格
者であるが、だからと言って別天神という力を持たせたまま自由にさ
せるという事は、木ノ葉の上層部としては看過出来なかった。
故にシスイにはある呪印が施されていた。緊急時に置いては現火
影の了承が、そうでない場合は火影と相談役二人、そしてダンゾウの
四人の了承がなければ別天神を使用出来ないという呪印だ。
629
これによりシスイは要注意人物とみなされながらも自由を得てい
たのだ。下手すれば国を乗っ取る事も可能な力だ。これは穏便な処
置と言えるだろう。
これらの情報を聞いて多くの忍が安堵のため息を吐いていた。こ
れならば本人は当然として、第三者がシスイを抱き込んで悪用する事
も容易ではないだろう。
綱手がシスイに関する境遇や状況を説明した後、シスイは別天神に
関して詳しい情報を伝えていく。
もっとも、その幻術としての力に関しては大体がアカネがマダラか
ら得ていた情報と変わりはない。あえて言うならば再使用に必要と
される時間に関してだろうか。
効果だけを見ればまさに最強幻術の名に相応しい別天神であるが、
やはり強すぎる力にはそれなりのデメリットも存在していた。
﹂
別天神は一度使用すれば、再使用までに十数年もの年月を必要とす
るのだ。
﹁シスイ殿が最後に別天神を使用したのはいつ頃なのだ
﹁私が万華鏡写輪眼に目覚めた時の事ですね。二十年近くも前、霧隠
?
れの忍と交戦中の事でした。その後はこの力を上層部とフガク様に
説明し、封印に至りました﹂
﹂
シカクの質問に対してシスイが説明をする。それに対してシカク
は微笑を浮かべて頷いた。
﹂
﹁そうか⋮⋮つまり別天神を使用する事に問題はないのだな
﹁ええ、それはまあ⋮⋮﹂
﹁何かいい案でもあるのかシカク
うが、正直敵の力が未知数なので⋮⋮﹂
﹁いや、可能性はある。いけるかシスイ
﹁恐らくは⋮⋮ですが﹂
﹁そうか。いや、十分だな﹂
﹂
﹁上手く行く保障はありませぬ。いえ、普通ならば問題ないのでしょ
﹁⋮⋮なるほど﹂
まりは││﹂
﹁いい案という程ではありません。誰でも思いつく程度の事です。つ
綱手の期待に応えるかの様に、シカクは自身の考えを述べていく。
というのが綱手の本音であった。
う予想もつかない難敵を相手に効果のある作戦はいくらでも欲しい
そんなシカクの立てる作戦ならばその信頼性も高い。イズナとい
くは木ノ葉一と言っても過言ではないだろう。
確認する。シカクは先も説明した通り非常に頭の切れる忍だ。恐ら
何やら含み笑いをするシカクに対して綱手は若干の期待を籠めて
?
﹁良し。今回は非常事態に当たり、シスイの別天神の封印を一部解除
上手く行けば││そう考えるだけでアカネの心は高揚していた。
天神の使い手がいる事を知らないというのも強みだろう。
別天神の力を考えれば可能性は高い。特にイズナがこちら側に別
?
﹂
630
?
する。シスイよ、今後イズナ陣営のみに対して別天神の使用を許可す
る﹂
﹁はっ
!
﹁では次だが││﹂
そうして綱手は様々な情報と今後の対応について会議を続けてい
く。
イタチよ﹂
﹁大蛇丸に関してだが⋮⋮奴が自力で幻術から抜け出る可能性はない
んだな
しばらくして話題に上がったのは大蛇丸に関してであった。
二代目三忍にして木ノ葉の裏切り者。その力は五影にすら匹敵、下
手すれば上回るだろうとすら言われている危険人物だ。実際仙術を
身に付けた大蛇丸に確実に勝てると言える五影はいないだろう。
そんな大蛇丸だが、今はイザナミの幻術の中だ。ここから自力で脱
出するのは不可能。抜け出るには己を変革せねばならないという、別
天神とは別の意味で厄介な幻術だった。
﹁はい。大蛇丸が幻術から抜け出せた時、それは奴が自らの過ちを理
解し受け入れた時でしょう。今の自身を保ったまま自力で抜け出せ
る事は不可能です﹂
﹂
﹁⋮⋮だが、それで大蛇丸が過ちを理解し幻術から抜け出したとして、
木ノ葉に仇なさないとは限らないのでは
そう結論付けた後、綱手は申し訳なさそうにイタチを見た。その視
して管理する事とする﹂
丸に関しては現状死なぬように栄養補給を行いつつ、厳重な封印を施
﹁ふむ⋮⋮分かった。イタチの言い分も皆の心配ももっともだ。大蛇
分という方法を取る方が危険だとイタチは言う。
むしろどこで復活の禁術を仕掛けているか分からない分、殺して処
事はもうないと思われます﹂
つての自分を思い出す事が出来たならば。その時は木ノ葉に仇なす
出せる事はないでしょう。そうでないならば、過去の過ちを悔い、か
﹁大蛇丸が生まれついての邪悪であるならば⋮⋮二度と幻術から抜け
生するとは到底信じ切れないのだ。
うちは一族はともかく、そうでない一族の者はあの大蛇丸がそれで更
そう心配する声が周囲から上がる。イザナミの力を理解している
?
631
?
線は特にイタチの左目へと注がれている。だが綱手はその立場上言
いにくい事があり、それを察した自来也は綱手の代わりにイタチへと
謝罪の言葉を掛けた。
﹁すまんなイタチ。本来ならばあやつは友であったワシが止めるべき
だ っ た ⋮⋮。ワ シ の 力 不 足 が お 前 に 犠 牲 を 強 い る 事 と な っ た ⋮⋮。
面目ない﹂
﹁いや、師であるワシが大蛇丸の変化を察してやれなかった事が原因
よ。ワシが止める事が出来ておれば⋮⋮すまぬ﹂
木ノ葉隠れの長として公の場では素直に謝罪するわけにもいかな
い綱手に代わり、自来也とヒルゼンが謝罪をする。いや、例え綱手の
代わりという名目がなくとも、この二人は謝罪をしていただろう。そ
れほどに大蛇丸に関して責任を感じていた。綱手もこの場に第三者
がいなければ同じく謝罪していただろう。
それを理解出来ているイタチは三人の気持ちを汲み取り、その謝罪
﹂
を聞かれるか理解しつつイタチに問い返した。
﹁⋮⋮自来也様はお亡くなりになられたのでは
﹃⋮⋮﹄
ぬ無情の突っ込みである。
﹂
ほぼ全員からの冷静な突っ込みが入る。まさに火影を火影と思わ
﹃そんなの見れば分かります﹄
﹁自来也が死んだと言ったな⋮⋮あれは嘘だ﹂
綱手が口を開いた。
こうなるだろうと理解していた綱手と自来也は互いに頷き、そして
らぬ多くの忍が同意する様に頷いた。
会議が始まってから誰もが突っ込みたかったその質問に、事情を知
?
632
を受け取った。
﹁お心遣いありがとうございます。ですが、私は木ノ葉の忍として抜
け忍を捕らえたのみ。あまりお気になさらないで下さい。それより
どうした
も、お聞きしたい事があるのですが⋮⋮﹂
﹁うん
?
イタチの言葉が自身に向けられていると知った自来也は、内心で何
?
﹁ま、まあ、ぶっちゃけるとだ。敵を騙すにはまず味方から、という訳
だのゥ﹂
自来也の言い訳で一応は全員が納得の意を見せた。忍の世界では
良くある手法なのだ。小隊の誰もが密書を運ぶ依頼だと思っていて
も、実はそれは囮で本物の密書は別の小隊が運んでいるなどというの
は忍の世界では珍しい事ではない。
﹂
そうして自来也に関しての説明が終わったところで、綱手がイタチ
へとある確認をする。
﹁ああ、イタチ、今の大蛇丸から情報を得る事は出来るか
﹁可能です﹂
﹁ならば後ほど私と共に来てくれ。以上で大蛇丸に関しては終了とす
る﹂
様々な情報から下した綱手の処置に対して異論を挟む者はおらず、
大蛇丸に関しての議題は終了した。
いつか彼が幻術から解き放たれた時、その時はもしかしたら二代目
三忍が再び終結する時かもしれない。それがいつになるかは誰にも
分からないが。
◆
﹁ではこれにて会議を終了とする。皆はそれぞれ与えられた任務に当
たってくれ。手の空いた者や任務までに時間のある者は出来るだけ
里の復興を手助けしてほしい。以上だ﹂
綱手の言葉と共に、多くの忍が解散してその場から離れて行く。
アカネもまた同様だ。アカネにもするべき事は多いのだ。その内
の一つを終わらせるべく、アカネはうちはの人間を伴ってそのままフ
ガクの家へと移動した。
そうして一同がフガクの家に到着し、人払いをした一室にて集ま
る。そこには会議にはいなかったサスケの姿もあった。
﹁では、先の会議にて敢えて話していない情報について語ります﹂
633
?
サスケは会議とやらが気になるが、今はそれは置いておきアカネの
話に集中する。そこから語られた話はとんでもない物だった。
永遠の万華鏡写輪眼。従来の万華鏡と違い、視力の低下や使用時の
肉体への反動がなくなる。まさに永遠の瞳力を手に入れられるのだ。
その上新たな瞳力に目覚める可能性もあるという。
まさに夢の様な情報だ。万華鏡写輪眼の唯一の欠点がなくなるば
かりか、更なる力すら望める。この永遠の万華鏡があればどんな敵で
も倒せるだろう。
そう思っていたサスケだが、アカネの鋭い視線を受けて冷水を掛け
られた思いとなる。
﹂
﹁永遠の万華鏡写輪眼があれば誰にも負けない。そんな風に考えてい
ませんでしたかサスケ
そ、そんな訳ないだろう﹂
スイ││がいればNOとは言えなかった。
言われた上に、周囲にいる逆らいがたい面々││フガク・イタチ・シ
サスケとしては早く永遠の万華鏡が欲しかったが、アカネにこうも
﹁う⋮⋮。くそ、分かったよ⋮⋮﹂
鏡に関して再び話をしましょう﹂
をします。新たな力とそのリスク。それらを理解した時、永遠の万華
﹁少し考えが変わりました。サスケ、しばらくは万華鏡写輪眼の特訓
ろう。
万華鏡写輪眼を手に入れてはサスケが慢心しかけても致し方ないだ
鏡に至ったのはサスケの才能と不幸な状況だが、こうも容易く永遠の
だが、容易に苦労もせずに手に入れた力で間違える者は多い。万華
う。
う、更なる力を欲する。それは浅はかと一言では言えない感情だろ
た想いだったのだ。次は負けない様、誰かに守られなくてもすむよ
先の暁が起こした戦争にて、ただでさえ己の力不足を見せ付けられ
出来る者は少なくないだろう。
まさに図星を言い当てられたサスケ。だがサスケの気持ちを理解
﹁
?
後に、サスケは別の意味で永遠の万華鏡写輪眼を欲する様になる。
634
!?
﹂
あんな化け物にただの万華鏡で勝てるか。それがサスケの言い分で
あった。
﹁イタチさんもそれでいいですか
﹁ああ﹂
イ タ チ と し て も ア カ ネ の 言 い 分 に 異 論 は な か っ た。サ ス ケ が 間
違った道に進む前に正そうとしてくれているのだ。異論などあるは
ずがなかった。
そんな二人の会話を聞いてサスケは考える。あの時、大蛇丸が言っ
たアカネの正体。それを兄や父は知っているのだろうか、と。
恐らくだが父は知っているだろうと予測出来た。サスケがアカネ
の修行を受けていると知った時の父の反応。今思えばあれはアカネ
の正体を知っているからこその反応だろう。
更に同じ理由でカカシも知っていると予測出来る。サスケと綱手
が初対面する前に、カカシが父と似たような反応をしたのをサスケは
気付いていたのだ。
父が知り、カカシも知る。ならば当然だが火影も知っており、火影
の右腕たるシスイも知っているだろう。ここまで来れば一定以上の
実力者や上層部は知っているはずとサスケは考えた。
そ う し て 膨 ら ん だ 疑 問 や 好 奇 心 を 抑 え る 事 は サ ス ケ に は 出 来 な
かった。なので、他に誰も聞いていないこの場でサスケは疑問をぶつ
けてみた。
﹄
﹁ア カ ネ ⋮⋮ お 前 が 日 向 ヒ ヨ リ の 生 ま れ 変 わ り だ と い う の は 本 当 か
﹂
﹃ッ
解した。
﹂
﹁なるほど、やはり真実か⋮⋮﹂
﹁⋮⋮大蛇丸か
アカネの確認に首肯するサスケを見て、アカネはため息を吐く。
行き付いた。
アカネもサスケがその情報を知りえる可能性を考え、そして答えに
?
635
?
サスケの言葉に対する全員の僅かな反応。それだけでサスケも理
!?
?
﹁全く。面倒事しか作らないなあいつ⋮⋮。ええ、黙っていてすみま
せんでした。仰る通り、私は日向ヒヨリの生まれ変わりですよ。⋮⋮
﹂
幻滅しましたか
べて頷いた。
﹁ええ。ですが、私が座して待つ様に見えますか
﹁⋮⋮そこは座して待ってろよ﹂
﹂
そんな挑発的なセリフに対し、アカネは驚きつつも真実笑みを浮か
いてやる。せいぜい修行時間の差に胡坐をかいて待っていろ﹂
﹁気にすんな。まあ今は無理だが、いつか必ず追いついて、いや追い抜
﹁安心って⋮⋮﹂
を持たずに生まれている事になるだろう。
らいである。サスケの才能が低いとすれば、この世の誰も才という物
て修行時間の違いから自分の才能が低いわけではないと安心したく
むしろほぼ同年代でありながらこの圧倒的な力の差に納得し、そし
うでもいい話だ。
滅の一つもするかなーと思っていたが、サスケとしてはそこら辺はど
つては何十年も生きた老人な上に生き汚く転生しました、となれば幻
アカネとしては今まで師として友として接していた相手が、実はか
むしろ納得したし、安心したくらいだ﹂
何でだ
?
﹁幻滅
?
がアカネにとっては内心残念な事実でもあった。
敵がいない。それは平和が脅かされる事が少ない証拠である。だ
修行と実戦を重ね、この世の誰よりも経験を積んでいるアカネだ。
ると言ってもいいくらいにだ。幾度となく転生を繰り返し、その都度
アカネとしては本当に楽しみにしていた。アカネは強い。強すぎ
﹁はい。楽しみにしていますね﹂
﹁まあいい。せいぜい首を洗って待ってろよ﹂
に笑った。
これくらいのハンデなどむしろ望むところとばかりに、サスケは不敵
だがサスケは亀ではなくうさぎ、いや龍と言っても過言ではない。
スタート地点が違ううさぎを相手に亀では勝ち目はないだろう。
アドバンテージが大きい上に修行を怠らない。油断をしない上に
?
636
?
この鍛えた技を惜しげもなく使用出来る相手が欲しい。それは忍
にとっては失格の考えであり、武人にとっては至極当然の考えであっ
﹂
た。やはりアカネの骨子は忍ではなく武人だという事だろう。
﹁ところで、シスイは永遠の万華鏡に関してはどうしますか
現在木ノ葉の万華鏡開眼者はシスイ・イタチ・サスケ・オビト・カ
カシの五人。だがオビトとカカシは他の三人と違い片目ずつという
開眼だ。この二人に永遠の万華鏡の法則が通じるかはまだ不明であ
る。
そしてイタチとサスケがいずれ万華鏡の交換をするとして、シスイ
はどうするのか。
イタチとサスケが交換した後にどちらかと万華鏡を交換するのか。
それともオビトとカカシの二人と片目ずつ交換するのか。それらの
方法で永遠の万華鏡に至るか至らないか。兄弟などの血縁関係でな
くとも問題はないのか。
分からない事は多くある。だがシスイの答えは一つだった。
﹁いえ、私はこのままで十分です。むしろ私に関しては下手な事はし
ない方がいいかと⋮⋮﹂
﹁そうか。そうだな。すまないシスイ。いや、ありがとう﹂
そう。ただでさえシスイは別天神という警戒される力を有してい
るのだ。それが永遠の万華鏡になればその警戒度は更に跳ね上がる。
下手すればうちは一族全てに在らぬ疑いを掛けられかねない程にだ。
そ れ を 憂 慮 し た シ ス イ は 永 遠 の 万 華 鏡 を 求 め る こ と を 拒 否 し た。
そこまで里の為に滅私するシスイに対し、アカネは謝罪と礼を述べる
しか出来なかった。
これ以上は逆にシスイに気を遣わせてしまうだろうと判断したア
カネは別の話題を切り出した。
﹁しかし、イタチとサスケの万華鏡交換については問題が一つあるな
⋮⋮﹂
﹂
﹁イタチの左目ですな﹂
﹁⋮⋮っ
637
?
アカネの言う問題点をフガクはすぐに察し、そしてサスケは苦い顔
!
をする。
自分を助ける為に左目の視力を失ったのだ。サスケの反応は止む
無しだろう。いくらイタチが気にするなと言ってもそれで気にしな
いサスケではなかった。
﹁ええ。今の状態で互いの瞳を交換して、果たしてそれで問題ないの
かどうか⋮⋮﹂
視力を失った万華鏡写輪眼でも、永遠の万華鏡を得られるのか。そ
れともやはり失明したままなのか。それは移植してみなければ分か
らないだろう。
だがアカネの見解としてはやはり失明した状態から元に戻ると考
えるのは、少々気楽に過ぎるという物だった。
﹂
﹁いえ、それに関しては問題ありません﹂
﹁フガク
何を以って問題ないと言えるのか。もしやアカネも知らぬうちは
の秘密でもあるのか
﹂
を譲る所存だった。
ればならない事だ。だがそれを理解しつつもフガクはイタチに片目
うちは一族という精鋭を束ねる存在がそうなるのは本来避けなけ
るのだ。
はそれだけで戦力が下がるが、うちはに限ってはそれ以上の痛手とな
写輪眼は両目揃って初めて真価を発揮する。片目を失うという事
からない者はこの場にはいなかった。
一族の代名詞とも言うべき写輪眼を譲る。これがどれ程の大事か分
うちはの現当主が、いや警務部隊の隊長が実の息子相手とは言え、
られていない。
驚愕するイタチ。当然サスケも絶句しており、シスイも動揺を抑え
﹁父さん
﹁私の左目をイタチに移植して頂きたい﹂
た。
そう思っていたアカネに対し、フガクは決意していた思いを述べ
?
﹁イタチよ。お前の力は既にオレを超えている。そんなお前の力を維
638
?
!?
﹂
持、いや今以上にする事が出来るならば、オレの片目程度安い物だ﹂
﹁だが⋮⋮
⋮⋮了解致しました﹂
﹂
これはお前への施しではなく、木ノ葉の、引い
!
てはうちはの為に最善手と考えての命令だ
﹁⋮⋮ッ
!
﹁勘違いするでない
タチに対してフガクは一喝した。
父の想いを知るも、イタチはなおも食い下がろうとする。そんなイ
!
⋮⋮﹂
それはもしや⋮⋮﹂
﹁お前で駄目ならば誰を推薦すればいい
サスケも既にオレを超え
﹁ですがオレは今回の戦争で一度死んだ身⋮⋮オレには荷が重いかと
ぐうの音も出ない話であろう。
務める訳にもいかない。フガクの言葉は誰もが納得のいく物であり、
片目を失ったうちは一族が里の治安を維持する警務部隊の隊長を
る。次の隊長は⋮⋮イタチよ、お前だ﹂
﹁うむ。お前と左目を交換次第、オレは警務部隊の隊長の座から降り
﹁最後
﹁それでいい。オレからの最後の命令だ。すまんなイタチ﹂
たイタチに対し、なおもフガクは言葉を続ける。
命令とあらば逆らう事は出来ない。苦々しくもその命令を承諾し
!
﹁了解いたしました⋮⋮隊長の任、お受けいたします﹂
だ。
解したイタチは、フガクの想いを拒否する事など出来はしなかったの
にあるフガクの当主としての想いと父としての想い。その二つを理
目に関しては命令と言い、隊長に関しては命令とは言わない。そこ
の頼み事となる。
つく話に関しては命令とは言わなかった。つまりこれはフガクから
フガクは自身との目の交換を命令と言ったが、その後の隊長の座に
は出来なかった。
フガクにここまで言われてしまえば、イタチとしてもそれを拒む事
るだろう。うちはの者達に聞いてみるといい。誰も文句は言わん﹂
てはいるが、まだ経験不足な点も多い。だがお前ならば誰もが納得す
?
639
?
﹁うむ⋮⋮。それではアカネ様、移植の手術をよろしくお願いいたし
ます﹂
フガクの考えは変わらないだろうとアカネも理解している。なの
でこの願いには拒否する事無く首肯した。
これによりイタチの左目は再び光を取り戻した。代わりにフガク
の左目は失明状態となる。一応はイタチの左目を移植したが、やはり
光は戻らぬままであった。
しかしうちは全体で考えればイタチが失明したままよりは全体の
力を増した事になるだろう。だが、もしフガク以外の写輪眼保持者か
ら移植すれば、フガクの力も衰えぬままだっただろう。
だが例え誰かが写輪眼を譲ると申し出たとしても、フガク自身がそ
れを拒否しただろう。それがフガクの忍としてではなく、父としての
矜持であった。
﹄
﹂
!!
てアカネがイタチに土下座してまで謝罪するというのか。その疑問
はアカネが全て答えてくれた。
◆
あれは長門の輪廻転生にて木ノ葉の無数の死亡者が生き返った時
の事。ダンゾウが生き返った事を素直に喜ぶヒルゼンと、そんなヒル
640
取りあえずうちはの面々の問題が一段落した所で、アカネはイタチ
﹂
に向かって謝らねばならない問題を切り出した。
﹁さて⋮⋮イタチよ﹂
﹁は⋮⋮なんでしょうか
﹃⋮⋮は
﹁申し訳ありませんでしたーー
そんなイタチに対し、アカネは全力で⋮⋮土下座を敢行した。
る。
改まったかの様に述べるアカネにイタチも態度を正して耳を傾け
?
これに驚愕したのはイタチだけでなく他の面々もだ。一体どうし
?
ゼンを鬱陶しそうにあしらうダンゾウ。そんな二人を見て笑みを浮
かべていたアカネだったが、次の瞬間にその笑みは吹き飛んでいた。
﹁あ││﹂
何かに気付いたかの様なアカネの呟きと、その後の明らかに動揺し
ていると見られるアカネの態度にカカシとオビトが反応する。
﹁わ、私が治療せずとも生き返っていた⋮⋮﹂
それを聞いたオビトはアカネに優しく声を掛けた。
﹁そんな事関係ないだろ 死んだ人間が生き返るなんてどうやって
由に気がついた。
それとも呪
﹁まさか⋮⋮﹂
樹
え、どうしたのアカネちゃん
﹂
?
﹁⋮⋮じゅ﹂
﹁じゅ
?
そう言うオビトだったが、カカシはアカネが冷や汗を掻いている理
誰も思わないって﹂
予想すればいいんだよ アカネちゃんの治療が無駄だったなんて
?
?
全ての器官や組織すら再生出来る術なのだが、人間が一生で行う細
速に速めて細胞を再構築する術だ。
再生忍術とは対象の各種タンパク質を活性化させて細胞分裂を急
傷が大きければ大きいほど、対象の寿命を削ってしまうのだ。
りやすい。再生忍術もそれに漏れなくデメリットが存在し、再生した
だがメリットが大きければそれに伴うデメリットもまた大きくな
ある。
療忍術でも治療不可能な傷すら再生させる事が出来る優れた忍術で
アカネのその言葉でオビトも思い出した。アカネの再生忍術は医
﹁⋮⋮あ﹂
﹁じゅ、寿命⋮⋮めっちゃ⋮⋮削っちゃいました⋮⋮﹂
もカカシには予想出来ている。
それを理解しているのはカカシのみだった。じゅ、の後に続く言葉
いのかも理解出来ていない。
オビトはアカネがこうも焦っている理由が理解出来ず、何を言いた
?
胞分裂回数は決まっている。つまりそれを速めるという事は実質寿
641
?
﹂
命を縮めるのと同意なのだ。
﹁ど、どれくらい
そ の 寿 命 の 減 り 方 は も ち ろ ん 再 生 忍 術 に よ る 細 胞 分 裂 の 回 数 に
よって決まる。目安としてはその怪我が自然治癒するのに掛かる日
数だが、一概にそうとは言えない。傷の範囲が大きければ大きいほど
寿命は減りやすく、例え完治に時間が掛かるとしても傷の範囲が小さ
ければ寿命は減りにくい。
そしてアカネの経験や感覚で対象の寿命がどれくらい減ったのか
﹂
は予測出来る。その予測によると││
﹁だいたい、一年くらい⋮⋮かな
まあ、当然の如く誰も怒ってなどいないのだが、治療が余計な物に
じ様にリンにも後ほど土下座謝罪を敢行していた。
イタチは気絶していた為にアカネが後ほど伝えたのである。当然同
ちなみにイタチの寿命も約一年程縮む結果となっていた。この時
そこには見事に土下座するアカネの姿があった。
﹁ご⋮⋮⋮⋮ごめんなさい﹂
うだろうが、寿命を削らなくても復活出来たとなれば話は別だろう。
それも死ぬはずの運命を覆せるならば一年の寿命も仕方なしと思
出来るだろう。
僅かとなった時に同じ事が言えるかと考えれば一年の大きさを理解
一年くらいなら、と思う者もいるかもしれないが、それは人生残り
で、あった。それ程にリンが受けた傷は大きかったと言える。
?
なったと思い込んだアカネ当人は地味に傷ついていたりするので
あった。
642
?
NARUTO 第三十二話
木ノ葉の里が着々と復興し、その影で多くの忍││主にヤマト││
の悲鳴が上がる中、ある一行が木ノ葉の里を訪れた。
﹁なるほど⋮⋮大蛇丸に関してか﹂
﹂
﹁はい。大蛇丸は木ノ葉にとっても抜け忍のはず。協力していただけ
ますよね
その一行とは雲隠れの忍であるサムイ・カルイ・オモイの三人。そ
の目的は雷影の弟にして雲隠れの人柱力でもあるキラービーを連れ
去った犯人である大蛇丸の捜索と情報の収集であった。
特にカルイとオモイの二人はこの任務に対する意気込みが高かっ
た。二人はキラービーの弟子であり、師であるキラービーを非常に尊
敬しているのだ。今も隊長であるサムイが綱手を相手に直談判し、雷
影の手紙を手渡しして大蛇丸に関する情報を確認している中、カルイ
とオモイの二人はその情報を待ちきれずに独自で木ノ葉の中で情報
収集に奔走していた。
この二人から見て取れるよう、雲隠れでは人柱力に対する態度や差
別が他里と比べると非常に少ない。完全にない訳ではないが、それで
も人柱力に弟子が存在している事からその事実が伺えるだろう。
どういう意味ですか
﹂
﹁もちろんだ。だが、協力は出来るが、ある意味では無意味かもしれん
な﹂
﹁⋮⋮
?
イに対し、綱手は雲隠れにとってとんでもない情報を話した。
﹂
﹁うむ。まず問題の大蛇丸だが⋮⋮既に捕らえて無力化している﹂
﹁なっ
名は体を表す。それを字の如く体現している忍が多い雲隠れにて、
サムイもその名の如く冷静沈着な忍である。
そんなサムイが驚愕する情報を綱手は平然と言い放った。しかも
それだけでは終わらなかった。
﹁な、ならば大蛇丸の引渡しを申し出ます。この件に関しては雷影か
643
?
綱手の言葉が理解出来ないサムイはその意味を問う。そんなサム
?
!?
ら私に一任されているので、これは雷影の言葉と受け取ってもらって
結構です﹂
あの気難しい雷影からそこまでの信頼を得ているサムイという忍
に、綱手は優秀な忍なのだろうという評価を下す。雷影からの信の厚
さはそのまま忍としての実力を示していた。
﹁申し訳ないが大蛇丸に関しては我々の恥部だ。奴は木ノ葉にて裁く
ようにしている﹂
﹁ですが大蛇丸は雲隠れの人柱力を││﹂
綱手の言い分に異議を申し立てようとするサムイの言葉を遮って、
綱手は次の驚愕発言を言い放った。
﹁あと、大蛇丸から得た情報だが、どうやらキラービー殿は捕らえられ
﹂
ていないようだ﹂
﹁││は
冷静に異議を申し立てようとしていたサムイはその言葉で固まっ
てしまった。そんなサムイに綱手は立て続けに情報を与えていく。
﹁協力は出来るが無意味かもしれんと言っただろう。捕らえた大蛇丸
に幻術を駆使して引き出した情報だが、どうやら大蛇丸が捕らえたキ
ラービー殿は分身による偽者だったようだ。雲隠れにもこの情報が
伝わっていないという事は、キラービー殿はどこぞに⋮⋮姿をくらま
したようだな﹂
キラービー殿はどこぞに雲隠れしたようだな。雲隠れの里だけに。
この言葉を綱手は思いつくも咄嗟に飲み込んだ。正しい判断だった
だろう。
それはどうでもいいとして、綱手の話を聞いたサムイはありえない
話ではないと判断した。キラービーの性格からして、暁に捕らえられ
たフリをして雲隠れから脱走するというのは十分考えられた。
別にキラービーが抜け忍になったというのではなく、自由奔放な性
格であるキラービーが、たまに里の外を自由に謳歌したいと考えての
脱走だろう。
だが綱手の話が全て真実であると判断するのはサムイには出来な
かった。これが大蛇丸を庇う為の嘘であるという可能性もある。綱
644
?
﹂
手と大蛇丸は元は同じ二代目三忍であり、これもありえない話とは言
えなかった。
﹁その話、真実である証拠は
﹁大蛇丸から聞き出したという事。大蛇丸が嘘を吐いていない事。こ
の二つは私の火影としての立場を賭けてもいい﹂
これは賭け事が弱い綱手にも自信を持って肯定出来る情報だ。確
定した情報ゆえに賭けにすらなっていないと言える。
もちろん綱手が回りくどい言い方をしたのには理由がある。あく
までこれは大蛇丸から得た情報だ。当の大蛇丸がこの情報を真実だ
と思い込んでいただけで、実は別の暁が既にキラービーを捕らえてい
る可能性はないとは言えない。
なので綱手はキラービーが無事だとは言わず、大蛇丸から得た情報
とその信頼性は確定していると話したのだ。
﹁⋮⋮了解しました。重要な情報に感謝します﹂
﹁礼には及ばん。それよりも、一刻も早くキラービー殿を捕捉する事
に注力した方がいい。暁の狙いは全ての尾獣を捕らえる事だ。多く
﹂
の暁は此度の戦いにて死亡・無力化したが、まだ厄介なのが残ってい
るからな⋮⋮﹂
﹁厄介⋮⋮とは
筒が届いた。緊急の五影会談を要請する手紙だ。⋮⋮こうなる前か
ら五影会談の要請を出していたのだがな﹂
綱手の、雲隠れ含む好戦的な里や他里を信じられない里がそれを拒
み続けたから事態は緊急を要したんだがな、という暗を含めた言葉と
視線に、サムイは動じる事無く冷静に対応した。
すなわち安易な事は何も言わず、ただただ黙するだけである。下手
に言い繕う事も、異議を申し立てるのも、雷影から全権を受けている
という言葉を発したサムイにとっては悪手なのだ。今のサムイの言
動は雷影のそれと同意なのだから。
それで木ノ葉隠れと雲隠れの関係が今更悪化するわけではないが、
それでも無駄に攻撃出来る要素を与える必要はないだろう。
645
?
﹁これに関しては五影会談にて詳しく説明する。先程雷影殿より封印
?
﹁⋮⋮﹂
﹁お前に言っても意味はなかったな。すまん﹂
サムイの反応を見て綱手はますますサムイの評価を高める。
﹁お気になさらずに﹂
﹁うむ。とにかく、キラービー殿捜索に関しては我々も独自の小隊を
結成して対応に当たらせよう。事は雲隠れだけで済む問題ではなく
なっているからな。見つかり次第連絡を取りたいので、そちらとの連
絡手段を用意してもらいたい﹂
﹁了解しました﹂
そうして特に問題もなくサムイの用件は終了した。カルイとオモ
イも木ノ葉隠れの里を動き回るが、特別新しい情報を得る事なく終わ
る。大蛇丸に関しては上層部や上忍の一部が知る情報なのでまあ仕
方ないだろう。
それよりもサムイから得たキラービーが生きて、それも捕らえられ
ていないという情報に二人は喜びを顕わにした。確信は出来ない情
報だが、それでも死んでいる可能性が高いと思われていた状況と比べ
ると大きな違いだろう。
三人は早速この情報を連絡鳥にて雲隠れへと送り、自身達も木ノ葉
隠れに負けじとキラービーの捜索に動き始めた。
◆
時間は流れ、五影会談が始まろうとしていた。開催場所は鉄の国。
三狼と呼ばれる独特の形状の三つの山からなる国で、独自の文化、独
自の権限と、強力な戦力を保有する中立国である。
古くから忍はこの鉄の国に手を出さないという忍界全体の決まり
事があり、故に鉄の国では忍ではなく侍と呼ばれる者達が国を守って
いた。
忍術としてではなく、チャクラそのものを出力として戦う術に長け
ている侍。その技量は万能の忍とは違い戦闘に特化している面が強
く、その分一人一人が精鋭と言えるだろう。
646
そんな強国であり、中立国である鉄の国ならば、五影会談にはうっ
てつけの場所と言えた。
﹁五 影 の 傘 を 前 へ ⋮⋮。雷 影 殿 の 呼 び か け に よ り、今 こ こ に 五 影 が
集った。この場を預かるミフネと申す。これより五影会談を始める﹂
木ノ葉隠れの五代目火影・綱手。砂隠れの五代目風影・我愛羅。霧
隠れの五代目水影・照美メイ。雲隠れの四代目雷影・エー。岩隠れの
三代目土影・オオノキ。そして鉄の国の代表である侍大将・ミフネ。
五影と、その後ろにて会談を見守るそれぞれの信頼置ける部下が二
名。そしてミフネとその部下たち。この少数人数にて忍界の未来を
決める会談が始まった。
﹁オレから話す。聞け﹂
会談は我愛羅の話から始まった。いや、始まりはしたがその進みは
微々たる物だった。
砂
霧
﹂
お前らの里の抜け忍で構成されとる
!
647
我愛羅は己の体験から来る暁の危険性を語り、人柱力がここまで奪
われてからようやく協力するという現状に憤りを示す。だがオオノ
キは自国の体裁や面目を保つ為にそんな事は出来るわけがないと、自
里のみを考えるならば正しいかもしれない反論を吐く。
メイも尾獣が奪われた事が即危険や恐怖に繋がる訳ではないと反
論する。尾獣の力は凄まじいが、反面そのコントロールは難しいと。
オオノキの言い分に対して、我愛羅は体裁や面目を保つ為に無駄な
犠牲を生み出す事の愚かしさを少ない言葉で語るが、この場の誰より
も齢を重ねているオオノキにとって、それはまだ若僧の意見として見
﹂
貴様らがどれだけ暁の危険性を語ろうと、ワシはお前達
られていた。
﹁下らん
を信じる事は出来ん
岩
﹁木ノ葉
!
エーはつらつらと他里の闇を語る。彼らは暁を利用してきたのだ
!!
!
それだけではないぞ
のが暁だ
!
は他里に対する怒りがありありと溢れていた。
若人と老人。二つの意見がぶつかり合う中、エーが吠える。そこに
!
!
!
と。
かつての戦国時代とは違い、大国は一様に安定してきた。それは軍
拡から軍縮へ移行している事からも明らかである。
軍縮が伴うに連れて国の軍事力である里は金食い虫の邪魔な存在
となってしまう。だからと言って里の軍事力を下げすぎる事はリス
クも大きい。戦争はいつ起こるか分からないのだ。突然に戦争が起
きた時、国を守る力が少なければどうなるかは明白だ。
それを回避する一つの方法が戦闘傭兵集団である暁だったという
事だ。里は無駄な出費や人材の消費を防ぐ事が出来、暁は活動資金を
得る事が出来る上に腕を磨く事も出来る。互いに得のある契約とい
う訳だ。
こうして特に暁を利用したのが岩隠れであり、砂は暁であった大蛇
丸と手を組んで木ノ葉崩しに利用し、霧に至っては暁発生の地との噂
もある。
そもそもこの軍縮の時代にお前らがなりふり構わ
対抗する為に暁を雇わざ
648
エーの言葉にメイは里としての恥部を苦々しく思いながらも話す。
先代である四代目水影は何者かに操られていたのではないかとの疑
いがあり、それが暁の可能性もあったと。これが他里に知られる訳に
﹂
もいかず、事を大げさにしない為に秘していたのだ。
﹁どいつもこいつも⋮⋮
﹁口を慎め雷影
キもまた反論する。
そうして岩・霧・砂に対して怒りを顕わにするエーに対してオオノ
た。
てもらっているという、完全に雲隠れの落ち度と言える事件であっ
らえられた忍も傷つきはすれど命に別状はなく、しかも穏便に済ませ
欲しさに日向ヒナタを拉致しようとした後ろめたい前科がある。捕
しかも雲隠れはかつて木ノ葉隠れに対して和平と言いつつも、白眼
接点もなく、戦争での利用もない。
また暁の一員である大蛇丸を生み出しているが、それ以外では暁との
エーが強く当たれない里は木ノ葉隠れくらいであった。木ノ葉も
!
ず力を求めて忍術を集めよるから⋮⋮
!
!
﹂
るを得んようになってきたんじゃぜ
﹁何だと
﹃ッ
﹄
﹁暁にはうちはマダラがいる﹂
を落とした。
﹂
一度も発言をしていなかった綱手がそれだけの衝撃を持つ爆弾発言
る二人を落ち着かせるには相応の衝撃が必要だろう。そして今まで
そうしてヒートアップするエーとオオノキ。互いに嫌いあってい
人物であった。
た自里の為ならばこれくらいの汚い手段などどうでも良いと言える
れに対抗する為に暁を利用するのもどうかとは思うが、オオノキもま
エーはそれが他よりも大きいと言えよう。そんな雷影を有する雲隠
も ち ろ ん そ の 考 え は 大 な り 小 な り と 誰 も が 持 っ て い る だ ろ う が、
なってもいいという過激な考えもある人間だった。
忍には大きな愛情を注いでいるが、反面自里の為ならば他里などどう
じる所があった。自里には誰よりも深い愛情を持っており、同じ里の
エーは非常に好戦的な性格をしており、それは他里との関係にも通
ながち間違いとは言えない点もある。
オオノキのそれはエーにいい様に言われすぎない為の反論だが、あ
!
﹂
にマダラの力をかつての大戦にて見た事があるオオノキの反応は誰
よりも大きかった。
﹁あやつはとっくに死んでるはずじゃぜ⋮⋮
﹁あ あ。言 葉 が 足 り な か っ た な。確 か に マ ダ ラ は 死 ん で い る。だ が、
!?
まさかそれは
﹂
それを操る者が暁にはいる。そいつが暁の真のリーダーだ﹂
﹁死者を⋮⋮操る
!
﹂
!?
﹃ッ
﹄
﹁⋮⋮マダラの弟であるうちはイズナだ﹂
操っているんじゃぜ
﹁穢土転生⋮⋮それならば確かにマダラを。いや、なら誰がマダラを
﹁ああ⋮⋮かつて二代目火影が生み出した禁術、穢土転生だ﹂
?
649
!!
静かに、だがはっきりと発せられたその言葉に誰もが絶句した。特
!?
!?
次々と出てくる情報の大きさに、木ノ葉を除く全ての者が驚愕す
る。そして綱手はアカネから知り得た情報を皆に伝えた。
穢土転生として蘇ったマダラに、それを操る上に伝説の輪廻眼を持
つイズナ。そしてイズナの目的である月の眼計画。尾獣の集合体で
そんな話が信じられるか
﹂
あるという十尾。どれもこれもが眉唾物の情報だ。
﹁馬鹿な⋮⋮
!
﹄
?
﹁う、うちは⋮⋮マダラ⋮⋮
﹂
と共にその人物の名を口にした。
た。それを見て誰もが警戒態勢を強め、そしてオオノキは更なる驚愕
その言葉に、アカネの視線の先からゆっくりと一人の男が姿を現し
てきなさい﹂
﹁私相手に隠れ切れると思っている訳じゃないだろう ⋮⋮早く出
雰囲気を醸し出したこの空間で、平然と口を開いた。
そんなアカネはただ一点のみを見つめている。そして一触即発の
のみだった。
唯一態度を変えていないのは口を挟んだ当の本人⋮⋮日向アカネ
補佐たる忍は己が主を警護すべく素早く傍に近寄る。
その言葉に全員が反応する。五影は誰もが警戒態勢を取り、五影の
﹃ッ
がどうやら忍び込んでいるようです﹂
﹁会談中に口を挟んで申し訳ありませんが⋮⋮その真意を問える人物
一人の忍が口を開いた。
の証拠はどこにあるのか。それを問う前に、綱手の後ろに控えていた
エーの言葉は誰もが考えた物だ。到底信じられる話ではない。そ
!
﹁なに
﹂
呟く。その言葉を聞いて残る皆も驚愕を強める。
五影の中で、うちはマダラを直接見た経験を持つオオノキが思わず
!
﹁あの伝説の三忍の一人⋮⋮﹂
﹁うちはマダラ⋮⋮﹂
オオノキの言葉を皮切りに、エー・我愛羅・メイ・ミフネがマダラ
650
!
﹁こいつが⋮⋮﹂
!?
を呆然と見つめる。
そんな彼らを無視してマダラは、いやマダラを操るイズナは淡々と
言葉を発した。
﹁ふ、やはりお前がここにいたか。まあ、オレもお前の目を欺くなど出
﹄
来るとは思っていないさ。なあ⋮⋮日向ヒヨリよ﹂
﹃なっ
五影会談で幾度となく驚愕してきた五影とミフネだが、今回の情報
もまたありえない驚愕を生み出していた。
日向ヒヨリ。うちはマダラや千手柱間に並ぶ初代三忍の一人。数
多の伝説を作り出した偉人の一人。だが日向ヒヨリは確かに死んだ
はず。それが何故この少女を指してその名が出てくるというのか。
各々の驚愕を他所に、マダラを操るイズナは五影に向かって己の目
的を話し出した。
﹂
﹁一つ言っておくが、オレは戦闘目的でここに来たわけではない。そ
れはお前ならば分かるだろう
分身じゃと⋮⋮
で慢心はしないだろう﹂
﹁なに
﹂
﹁だろうな。木遁分身如きで五影を始末出来る。流石のお前もそこま
五影にそう言いつつ、イズナはアカネにそう確認する。
?
である。
本当に分身なのか
そう疑問に思うアカネ以外の全員に対して、
た。白眼を発動させてもマダラの肉体が分身であると見抜けないの
これは右目に白眼を有する水影の護衛の一人である青も同様だっ
れが分身であると見抜く事は出来なかった。
アカネの言葉にオオノキも、そして誰もがマダラを注視するが、そ
?
に取っては慰めの言葉だったのだが、そう受け止められる者はこの場
かつての自身でも見抜く事は出来なかった。つまりこれはイズナ
くとも何ら恥ではないさ﹂
出来たのは兄のマダラと、そこの日向ヒヨリのみ。貴様らが見抜けな
﹁まあ気にするな。この木遁分身は千手柱間の術。それを見抜く事が
イズナは優しく声を掛ける。
?
651
!?
?
に一人たりともいなかった。
特に挑発と受け取ったのはエーだ。怒気を顕わにしながらイズナ
﹂
へと怒鳴る。
﹁貴様
﹁先も言ったがオレは戦闘目的で来たわけではない。落ち着いてオレ
の話を聞くんだな﹂
今にも飛び出しそうな雷影に対してイズナはあくまで冷静に語り
掛ける。雷影も一時は激情に身を任せそうになるが、相手が分身だと
いうのならば倒した所で意味はない。
まずは情報を得る方が先決だと冷静さを取り戻し、イズナの声に耳
を傾けた。そんなエーの反応を見てイズナは自らの目的について説
明し出す。
﹁さて、オレの最終目的である月の眼計画については既に知ったと思
うが⋮⋮﹂
いざな
イズナのその語りから先の情報は間違っていなかったと誰もが理
解し、そしてその正気を疑った。
この世の全ての人間に幻術を仕掛け、永遠の夢の中に誘う。常人な
らば誰もが理解出来ない平和へ至る方法だ。確かにそれならば争い
は起こらないだろう。
だがそれは全ての可能性も同時に奪ってしまう事となる。人と人
が関わる事で生まれる争い以外の結果。それも無限月読は消し去っ
てしまうのだ。
誰もがイズナを狂人として見る。だがイズナはそんな事は気にせ
ずにこの場に来た目的を話した。
﹁残りの八尾と九尾を差し出せ。オレの計画に協力しろ。それが最も
犠牲を生まずに平和へと至る唯一の方法だ﹂
月の眼計画への協力の申し出。それがイズナが会談の場に来た理
由だった。言うなれば最後通告だ。
﹂
これを飲むならば全ての人間が幸せな夢の世界へと至れる。だが
断るならば││
﹁馬鹿な。そんな事を飲むと思っているのか
?
652
!!
﹁そうか。ならば戦争だな﹂
オオノキの答えに対してイズナは躊躇なく戦争と口にする。そう、
断るならば、イズナの答えは一つだった。
﹂
﹂
戦 争。五 大 国 と イ ズ ナ。二 つ の 戦 力 に よ る 第 四 次 忍 界 大 戦。そ れ
がイズナの答えだ。
﹁残りの五影も同じ答えか
﹁私が素直にナルトを渡すと思っているのか
﹁うずまきナルトは渡さない﹂
﹂
﹁私も同じく
?
?
そ れ は 流 石 に 五 里 を 舐 め す ぎ で は
?
﹂
﹂
?
ては五里が協力する為にわざとそうしたのだろうとアカネは考える。
わざわざ五影会談に現れたのも。危機感を無駄に煽ったのも。全
後の言葉からそこにあるのが愉悦なのだと理解した。
アカネはイズナの真意について塾考していたが、今までの会話と最
から消えた。残っているのは僅かな木片だけであった。
そう不敵に笑いつつ、イズナはマダラの木遁分身を解除してこの場
しみに待っていよう。せいぜいオレを愉しませてくれよ
﹁当然だ。いずれお前達は今回の決断を後悔するだろう。その時を楽
﹁正気か貴様
の宣戦を布告する﹂
﹁まあいいだろう。お前達の決意は理解した。ここに第四次忍界大戦
持っていると自負している。アカネはそう確信出来た。
自信ありげに語るイズナに嘘は見られなかった。それだけの力を
今のこのオレの力をな﹂
﹁ふ⋮⋮違うな。貴様らが、いや貴様が舐めているのだよ日向ヒヨリ。
?
忍里の戦力。それらを合わせた所でオレには敵わん﹂
﹁ど う で し ょ う か
﹂
イ ズ ナ
﹁愚かだな。そこにいる日向ヒヨリの戦力に、貴様ら五影有する五大
ズナは愚か者を見る様に蔑みながら語り掛ける。
当然の如くに残る五影の答えも同じだった。そんな彼らに対し、イ
﹂
﹁弟は渡さん
!
!?
653
!
?
何故敵が強大になるのに協力したのか。それはイズナが既に勝利
していると完全に思い込んでいるからだ。勝利が確定しているから
こそ、その道程を愉しもうとわざと敵を煽り強大にしたのだ。
この予想は恐らく間違っていないとアカネは思うし、事実間違って
﹂
おおごと
はいなかった。そんな風にイズナの真意について思考するアカネに
なんでしょうか
じゃあるか
﹄
対し、綱手を除く各国の人間がアカネに注目していた。
﹁⋮⋮え
﹃なんでしょうか
﹂
!?
﹂
五里の全てが敵に回ったとイズナは知る。それはイズナに取って
﹁五影は全員敵に回ったか⋮⋮まあ、予想通りではあるな﹂
いた。そしてマダラの木遁分身から得た情報に、一人納得する。
雨隠れのある場所にて、イズナは操作しているマダラと共に歩いて
◆
実の中に、メイが求めた答えはなかったとだけ記しておこう。
とにかく、全員から疑問の声をぶつけられたアカネから得られた真
にするメイがそう思うのは無理のない事なのかもしれない。
を見せるアカネといい、そんな二人を見て自分の歳と婚期の遅れを気
実ならばヨボヨボの老人であるはずなのに完全に少女と言える若さ
だが五十代になっても二十代の若さを保つ綱手といい、先の話が真
はいなかった様だ。
いたりするが、それは小声であった為にどうやら他の誰にも聞かれて
誰もがアカネに対して真実を問う中、メイのみ別の疑問をぶつけて
﹁木ノ葉には若さを保つ秘訣でもあるのでしょうか⋮⋮﹂
﹁最早ここに至って隠し立ては不要だ。全てを話してもらおう﹂
じゃぜ
﹁これが真実ならばマダラやイズナが生きていたのと同じくらい大事
﹁お前が日向ヒヨリだというのはどういう事だ
アカネの疑問の声に全員が突っ込みを入れた。
!!
?
も予想していた事であり、そして望むところでもあった。
654
?
?
!!
イズナとしても五里が自身の目的に協力した方が犠牲が少なくて
済むと考えてはいる。だがそれと同時に避けては通れない道だとも
理解していた。
イズナも自身の計画が万人に受け入れられる物ではないと理解し
ているのだ。いや、万人どころか月の眼計画に賛同する者は余程今の
世に絶望した者くらいだろう。
だ が そ れ で も イ ズ ナ は 止 ま ら な い。止 ま る 事 は 出 来 な い。今 止
まってしまえば、今まで犠牲になった家族や友にどう言えばいいのか
例えその家族や友が賛同しないだろうとしても、それでもイズナ
は止まる事は出来なかった。
﹁無駄だ。無駄なんだよ。例え五影や五大国が手を組もうとも、日向
ヒヨリがどれほど強くとも⋮⋮オレと兄さんの力には敵う事はない﹂
そう呟くイズナはある場所に辿りついた。そこは雨隠れの国に隠
されたある建物。その中にイズナは誰の断りも入れずに堂々と入っ
ていく。
そんなイズナとマダラに向かって突如として無数の紙が飛び交っ
﹂
?
それと⋮⋮お前は何者だ
﹂
た。だが無数の紙はマダラが放った火遁にて一瞬で燃え尽きた。
何故あなたがここに
!?
﹁小南か。そんな攻撃がオレに効くと思っていたのか
﹁マダラ
!!
そしてイズナは小南の疑問に対して答えを口にした。
すら操る存在がいる事を悟って驚愕する。
マダラではなくイズナから語られるその言葉に、小南はあのマダラ
﹁な⋮⋮。まさか⋮⋮マダラの裏にまだ││﹂
ら永遠の平和を得る事が出来なくなった﹂
いるだけであれば良かったものを。お前も長門も無駄な事をするか
﹁オレに関しては今更お前に話しても意味がない。オレに踊らされて
身知らぬ男に小南は警戒を顕わにする。
だと言うのにここに辿り着いたマダラに、そしてマダラの隣で立つ
ないはず。
とって何よりも守るべき場所。それを知る者は雨隠れのどこにもい
先 の 攻 撃 は 小 南 が 放 っ た 紙 手 裏 剣 だ っ た よ う だ。こ こ は 小 南 に
!
655
?
﹁何故ここに、と言ったな。長門の輪廻眼は元々マダラの、オレの兄さ
﹂
んの物だ。そのチャクラを感知する事などオレには容易い﹂
﹁⋮⋮
輪廻眼の真の所有者に、マダラの弟だという発言。ここまでの多く
の事実に小南が驚愕し、僅かな隙を作ってしまった。
一瞬だ。その驚愕の隙を突いたイズナの写輪眼による幻術に小南
は捕らわれた。
﹁幻⋮⋮じゅつ⋮⋮長門⋮⋮やひ、こ⋮⋮﹂
幻術と気付いたところで抵抗は無意味だった。僅かな時間で小南
は気を失ってしまった。
僅かな隙でも見せてしまえばその瞳術の餌食となる。一対一で写
輪眼と向かい合う事は危険とされていた理由がこれだ。
倒れ伏した小南に止めを刺すべくイズナは歩み寄り、そして後ろか
ら掛けられた声にその動きを止めた。
﹁もう、止めろイズナ⋮⋮それ以上の犠牲は生むな﹂
それは操られていないマダラの言葉だった。先のアカネとの接触
にて、マダラは僅かだが自身の縛りを解く事が出来る様になったの
だ。
そうして闇に落ちてなお、更なる深淵に潜ろうとする最愛の弟を止
める。だが、それでも僅かにしか止める事は出来なかった。
﹁⋮⋮分かったよ。こいつを殺しても生かしても意味はない。利用す
る関係だったとはいえ元は仲間だ。長門と弥彦と過ごす夢に浸らせ
るのもいいだろう﹂
そう言ってイズナは小南に止めを刺す事を止めた。だが、それだけ
だ。月の眼計画に関しては、例えマダラが何を言おうとも止めるつも
りはイズナにはなかった。
そうしてイズナは小南をその場に捨て置き、前に向かって歩みを進
める。そこには紙で作られた多くの薔薇の造花に埋もれた弥彦と長
門の遺体が安置されていた。
小南が二人を想って作り出した造花を踏み躙り、イズナは長門の遺
体の横に立つ。そして⋮⋮遺体から両目の輪廻眼を抜き取った。
656
!?
﹁⋮⋮確かに返してもらったぞ﹂
死してなおイズナを嘲笑うかの如くに微笑を浮かべる長門に僅か
な苛立ちを覚えるが、所詮は死人だとイズナは割り切る。
死ねば意味がない。どんな想いがあろうとも、どんな理想があろう
とも、どんな力があろうとも、生きていなければそれは無意味だ。
だからこそ、イズナは兄の命を犠牲にしてでも今もこうして生き長
らえているのだ。全ては理想を、この世の完全平和を成し遂げる為
に。
目的を果たした後、誰も知らぬアジトへとイズナは戻って来た。そ
して理想を叶える為の力を見渡した。
イズナが千手柱間の細胞を培養し、尾獣のチャクラを注いで作り出
したという十万体もの白ゼツ。
そして姿をくらまして暗躍している内にかき集めた名だたる忍の
肉体情報。そこから作り出した穢土転生による精鋭集団。
﹁しかし⋮⋮大蛇丸にはしてやられたな。オレの正体はともかく、兄
さんが穢土転生だという事に薄々と気付いていたか⋮⋮﹂
そう、大蛇丸もイズナと同じく穢土転生の使い手だ。故に暁にて大
蛇丸は仮面で顔を隠したマダラと接触する内に、その正体が穢土転生
であると確信はなくとも感づいていたのだ。
だからこそ大蛇丸は先手を打っていた。それが初代・二代目火影の
穢土転生による口寄せと、それらの封印であった。
あらかじめ穢土転生にて口寄せした人物は、その穢土転生が解かれ
ない限り別の穢土転生で口寄せする事は出来ない。それを利用して
大蛇丸は、マダラとその裏にいるであろう何者かに対抗する切り札と
してその二人を口寄せし、封じていたのだ。
これでは然しものイズナと言えど、死した火影達を口寄せする事は
不可能だ。二代目とはいえ三忍の名は伊達ではないかとイズナは大
蛇丸を称賛する。
﹁まあいい。余興の愉しみが一つ減ったくらいだ。日向ヒヨリがかつ
ての同胞二人と争う様は見たかったがな⋮⋮﹂
657
どちらにせよ自身の勝利に変わりはない。それを確信する為の力
をイズナは手に入れたのだから。
﹂
そうして理想実現の為に最も必要な力を手に入れようとするイズ
そんな事をすればお前は
ナを見たマダラは思わず叫び、イズナを止めた。
﹁まさか⋮⋮止めろイズナ
!!
﹂
たマダラと同じく千手柱間の細胞を自らに移植しているのだから。
生命力という点だけならばイズナはクリアしている。イズナもま
う。
族の様に秀でた生命力があって初めて輪廻眼に耐えられると言えよ
られない事を示している。千手一族や、千手の遠縁であるうずまき一
させる事なのだ。それはつまりうちは一族の肉体では輪廻眼に耐え
ラの転生体││に六道仙人の肉体││アシュラの転生体││を融合
元々輪廻眼を開眼する条件自体が、六道仙人のチャクラ││インド
の資質が高かった為に他ならない。
られたのは、長門が生命力に溢れるうずまき一族の末裔であり、本人
けで発狂しかねない程に強力すぎる瞳術なのだ。長門が移植に耐え
輪廻眼はそこらの忍ではその力を発揮するどころか、移植をしただ
めるべきと言えよう。
かったと言える。いや、輪廻眼の力をあそこまで引き出せた長門を褒
だがそれすら本来の持ち主ではない故に、その真価を発揮していな
た。
生道・餓鬼道・地獄道・外道の七つの力を操り長門は木ノ葉を蹂躙し
その力は木ノ葉にて大いに振るわれた。天道・人間道・修羅道・畜
最も崇高にして最強の瞳術だ。
輪廻眼とは神話の存在とも言われる六道仙人が開眼した、この世で
﹁ぐ⋮⋮おおおおおおお
そしてイズナは⋮⋮マダラの輪廻眼を自らの両掌へと埋め込んだ。
考慮して、そうなる前にマダラを一時的に封印する。
かった。イズナはこれから起きる出来事でマダラが自由になる事を
マダラのその必死の制止の呼びかけは、やはりイズナには届かな
!
その上でマダラの細胞を移植したからこそ、本来輪廻眼目覚めない
658
!!?
はずのイズナが輪廻眼に目覚めたのだ。だが、やはりそこには無理が
あった。
自分の物ではないマダラと柱間の細胞とチャクラ。どちらか一つ
ならまだしも、二つも掛け合わせる事で無理矢理輪廻眼に目覚めると
いう方法はイズナに苦痛を与えた。
当時イズナが輪廻眼に開眼した時は三日はその苦痛が止まなかっ
た。そこに更に輪廻眼を二つも組み込めばどうなるか。筆舌し難い
が、あああアアァァァァァアァッ
﹂
苦痛がイズナを襲うだろう。いや、果たしてそれは苦痛だけで済むの
かどうか。
﹁ぐおおお
り出せないというのならば、己こそが作って見せよう。その一心にて
兄も、千手柱間も、日向ヒヨリも、五影達も、誰もが真の平和を作
明する為に、真の平和を生み出す。
の、同胞の無念の叫びを。彼らの犠牲は無駄ではなかった。それを証
耐え抜いた。誰が忘れようともイズナは忘れない。亡くなった家族
そんな苦痛の嵐を、イズナは狂気とも言える信念で耐えて、耐えて、
るかどうか。
の力だ。それが四つともなれば、例え真の輪廻眼開眼者でも耐えられ
が引き裂かれようとしているのだ。一つでも常人ならば発狂する程
四つの輪廻眼という強すぎるチャクラと力に、イズナの肉体と精神
ける様になったのだ。
まった。喉が枯れ果てた故に叫ぶ事すら出来ず、無言の苦痛を発し続
イズナの叫びは何日経とうとも止まらなかった。いや、叫びは止
!!?
﹂
敬愛する兄すら犠牲にした。ならば、どうしてここで屈せようか
﹁││
!
よるイズナの痙攣は治まり、死んだかのようにイズナは倒れる。
だがイズナはゆっくりと、だが確かに己の二の足で立ち上がった。
そして己の中に巡る新たな力の鼓動を感じて口を開く。
﹁これが⋮⋮真の平和への第一歩だ﹂
強すぎる力によって傷ついた肉体は、その力を掌握した瞬間に治癒
659
!!
やがて、声にならぬ雄叫びがアジト内に上がった。そうして苦痛に
!!
していた。
うちはとしての自らの力。取り込んだ千手柱間の力。自らの輪廻
眼に、兄の輪廻眼。これら全てを有したイズナは確信する。もはや誰
にも負ける訳がない、と。
ここに、六道仙人すら超える存在が誕生してしまった。
660
NARUTO 第三十三話
五影会談。暁がもたらした被害と脅威により開催されたそれは、イ
ズナの登場によって混迷の一途を辿っていた。
イズナの計画を聞いた五影と鉄の国の侍大将ミフネは、到底その目
的を理解出来ず、敵対する道を選んだ。
イズナもそうなるだろうと予測しており、不敵な笑みを残して消え
去って行った。残された者達に出来る事は唯一つ。そう、イズナの計
﹂
画を止める為に諍いを捨てて協力し合う事⋮⋮ではなく、一人の可憐
でか弱い乙女を弾糾する事であった。
﹂
﹁ぷるぷる。私、悪い日向ヒヨリじゃないよ
﹁やかましいわ
﹂
﹁正 直 に 答 え ろ
貴 様 が 日 向 ヒ ヨ リ だ と い う の は ど う い う 意 味 だ
ないだけで、こういう一面も持っているのである。
で最もヒヨリを知るオオノキが思わず叫ぶ。だが、外部に知られてい
日向ヒヨリとはこんな性格だったのだろうかと、綱手を除きこの場
?
でも捨ててきたエーが怒鳴り散らす。だがまあ今回ばかりはエーと
同じ気持ちの者達が大半であったが。
流石にアカネもこれ以上とぼける事はしない。最初のおとぼけは
いわゆるお約束という奴なのだ。
﹁そのままの意味ですよ。私はかつて日向ヒヨリという存在でした。
﹄
死して魂が輪廻転生し、再び今の私として生を授かったのです﹂
﹃
驚愕する皆に対して、アカネは転生に関してある程度の情報を公開
する。幾つかの重要な情報は秘密にしているが。流石に何度も転生
してきた事や、童貞捨てるのが最初の目的でしたとか言える訳がな
かった。
﹁信じられないだろうが、これは事実だ⋮⋮。私も始めて知った時は
本当に驚愕したがな﹂
661
!
!
真面目に対応しないアカネに、我慢という言葉をそこら辺の草原に
!?
!?
誰もが信じ難い事実を、やはり信じ切れずにいたが、綱手のその言
葉で信憑性が上がり一概に嘘だと断定する事も出来ないでいた。
﹂
﹁うーん。私のチャクラの質は変わっていないので、オオノキなら分
かるんじゃないですか
﹁本当かオオノキ
﹂
﹁⋮⋮そ、そういえば⋮⋮日向ヒヨリと同じチャクラの質じゃぜ⋮⋮﹂
?
﹂
?
﹂
たのだ。当時の畏怖はまだ残っていた。
ないが、オオノキにとっては群を蹴散らす圧倒的な個を見せ付けられ
い。ヒヨリにとっては無数の敵の中の一人に過ぎなかったかもしれ
特に敵としてヒヨリと相対した事のあるオオノキはその思いが強
もチヨバアの気持ちを理解出来ていた。
少し拗ねた様に言うアカネだが、綱手とオオノキだけは他の誰より
﹁失礼な。私をそんな危険人物みたいに言わないで下さい﹂
﹁チヨバアは余程お前を恐れているようだな⋮⋮﹂
は敵対するなと言われていた事を。
ヨバアもが来ていた事。そして事件解決後に、チヨバアからアカネと
人柱力として暁に狙われ攫われた時に、救出部隊としてアカネとチ
こで我愛羅はかつての事件のあらましを説明した。
二人の会話の意味が理解できずにエーが我愛羅へと確認する。そ
﹁どういう事だ風影
﹁あ、そうですね。チヨは前回の一件で私の正体に気付きましたよ﹂
﹁⋮⋮もしや、これはチヨバアも知っている事か
葉は、アカネがヒヨリの転生体だという信憑性を更に上げていた。
ヨリと同質のチャクラだ。間違いない。そう確信するオオノキの言
そんなオオノキがアカネのチャクラを探ると、そこにあったのはヒ
の質は目と体に焼き付けられていた。
キだ。その圧倒的な実力と、有り得ない程のチャクラの量、そしてそ
第一次忍界大戦にてヒヨリの戦いをその目で見た事があるオオノ
!?
﹂
﹁で、では、あなたが日向ヒヨリの転生体という事に間違いはないので
すね
662
?
こうも立て続けに情報が上がっては嘘だと断言する事も出来ず、水
?
影は最後に念を押してアカネへと確認をする。
それに対してアカネは首肯した。ここまで来て今更嘘を吐く気は
アカネにはない。今は全ての里が協力して乗り越えなければならな
い事態に陥っているのだから。
﹁はい。私の誇りに誓って、私が日向ヒヨリの生まれ変わりだという
事を宣言します﹂
﹃⋮⋮﹄
この言葉は真実だろう。五影とミフネはそれを確信出来た。里や
﹂
一国を代表するまでに至った彼らだ。嘘を見抜けるかはともかく、真
摯に答えた言葉を理解出来ない訳はなかった。
﹁⋮⋮一つ聞く。お前の強さは日向ヒヨリの最盛期と同等なのか
﹁いいえ﹂
オオノキの質問にアカネは首を横に降った。当時の最盛期と同等
ではない。それは非常に残念な答えだった。
当時のヒヨリはまさに圧倒的な実力を誇っていた。当然同じ三忍
であるマダラも圧倒的な力を見せ付けていた。
敵にマダラを有するイズナがいるならば、こちらにも同レベルの三
忍がいる事は非常に望ましい事だ。だがそうでないならば⋮⋮。
!
するオオノキに、エーはそれを冗談と受け取らずに怒りを顕わにす
る。
多くの者はオオノキの言葉を冗談だと思い、雷影は相変わらず冗談
が通用しないな、等と思っていた。だがオオノキは半分以上本気で発
言していたりする。
﹁お前は何も分かっとらんのじゃぜ。日向ヒヨリよりも強い。これを
当時の日向ヒヨリの強さを知る者が聞いたら、誰だってワシと同じ思
663
?
﹂
僅かに落胆するオオノキだったが、彼は少々勘違いしていた。
﹂
﹁当時よりも今の方が強いですね。修行は欠かせませんでした
﹁もうお前一人でいいと思うんじゃぜ
﹂
オオノキは思考を放棄した。
﹁何を言っているオオノキ
?
たった一人に戦争を任せるという本気か冗談か分からない発言を
!!
いになるはずじゃぜ⋮⋮﹂
達観したオオノキの言葉は何よりも説得力が籠もっていた。アカ
ネとしては少々納得いかない思いである。
イズナとの戦争もそうです。皆が協力して、初めて勝機
﹁まったく。私がいくら強くたってどうしようもない事は山ほどある
んですよ
が生まれると私は考えています﹂
あのイズナの自信。それはハッタリや誇張ではないとアカネは感
じ取っていた。真実イズナはアカネを含み五大忍里が協力したとし
ても負ける訳がないと思っているのだと。
それだけの切り札を持っているのだろう。それが輪廻眼か、それと
も十尾とやらか、はたまたそれら含む全てかまではアカネにも分から
ないが。
﹁私に対して思うところもあるでしょう。ですが、どうか忍界の、いえ
全ての人々の未来を守る為に、協力してください﹂
そう言ってアカネは頭を下げる。しばらく無言の時間が続くが、実
年齢はともかくこの場の誰よりも長く生きているアカネのこの行動
を無碍にするつもりは誰にもなかったようだ。
﹁お前が何者だろうと関係ない。ワシはあんな奴に協力するつもりも
負けるつもりもない。癪だが手を組んでやる﹂
﹁日向の姫君にそう言われてはな⋮⋮。ワシも協力しよう﹂
﹁元よりそのつもりだ﹂
﹁ええ。イズナの暴挙を許す訳にはいきませんからね﹂
﹁私も当然協力する。ばあ様、頭を上げてくれ﹂
雷影・土影・風影・水影・火影。五大隠れ里と謳われる忍の里の長
が 協 力 し あ う。そ こ に は か つ て 柱 間 と マ ダ ラ が 夢 見 た 形 が あ っ た。
それを思い、アカネは嬉しくなる。
︵見てるか柱間、マダラ⋮⋮。今、忍界が一つになろうとしているん
だ︶
それは強大な危機が訪れたからこその団結なのだろう。皮肉だが、
イズナの行動がこの協力関係を生み出したと言える。
だがそれでもいい。ようはこれで終わりにせず、これを始まりにす
664
?
ればいいのだ。この強大な危機を乗り越え、その後も全ての里が協力
し合えたなら⋮⋮。
アカネが希望の未来に想いを馳せている中も、五影の会話は続いて
いく。
﹁しかし、良く日向ヒヨリを信用したもんじゃぜ雷影よ。お前なら日
向ヒヨリが裏でマダラと手を組んでいる、とか言い出しそうなもん
めったな事を口にするな ばあ様を疑っ
じゃと思っとったんじゃがな﹂
﹂
﹁おい両天秤のジジイ
ているのか
!
﹂
から託された想いを守る為に更なる力を求めていた。
│である修行に今も励んでいる。ナルトとしても兄弟子である長門
ナルトは綱手から言われたSランク任務││という名目の保護│
である私に何らかの情報が伝わる様になっています﹂
﹁私の影分身がついています。何かあれば影分身が解除されて、本体
﹁問題ない。ナルトは里で保護してある﹂
事が先決だ。火影よ、九尾の人柱力の保護は万全か
と九尾、つまりはワシの弟と木ノ葉隠れの人柱力をこちらで確保する
﹁下らん話は終わりだ。ワシらがすべき事はイズナの狙いである八尾
だった。
ざわざ日向ヒヨリの正体をばらして行ったのではないかと勘繰る程
要素は大きすぎる。むしろ、イズナがこういったいざこざを狙ってわ
それすら計算に入れていたとしても、疑問を持たれる段階で不確定
わざスパイ容疑を掛けられる様な情報を与えはしないだろう。
まさに正論と言える答えだった。敵が騙し討ちをするならば、わざ
る。もし手を組んでいたならば黙っていた方が利になるだろう﹂
﹁ふ ん。自 分 達 か ら 正 体 を ば ら し 疑 わ れ る 様 に す る 馬 鹿 が ど こ に い
昂したが、エーは激昂する綱手を横に置いてオオノキに答えを返す。
もちろんそんな訳ないとアカネを信じている綱手はその言葉に激
はと疑ってもそれほどおかしな発想ではないだろう。
元々同胞であったマダラとヒヨリだ。実は裏で手を組んでいるので
オ オ ノ キ の 言 葉 は 辛 辣 だ が、あ る 意 味 で は 全 う な 疑 り で も あ る。
!
?
665
!
﹁よし。なら問題はワシの弟か⋮⋮﹂
そう言いながら、エーは内心でこの状況でややこしい事を仕出かし
た弟に頭を痛くしていた。だが表情には出さずに他里に向けて次々
と指示を出していく。
﹁木ノ葉から得た情報によると、ビーは単独行動中の様だが、先ほどの
イズナの言葉からするとそれに間違いはないようだな。里からは既
に捜索隊を編成しておる。岩・霧・砂・木ノ葉にはキラービーの情報
を提供する。それを元に捜索チームを編成しすぐに動け﹂
そうしてエーの指示ともたらされた情報によってキラービー捜索
の動きが進む。そこでミフネは纏まりつつある忍達にある提案を促
した。
﹁五影の方々。こうして協力関係になるに当たり、公に忍連合軍を作
るというのはどうだろうか﹂
その提案に異論を唱える者はいなかった。五大隠れ里が協力する
666
のだ。誰が見ても分かりやすい纏まりの形を作り上げた方が良いだ
ろう。
問題なのはその指揮系統だ。連合軍の権限を誰が持つか。それに
よっては一悶着あるやもしれなかった。
﹁指揮系統は統一するのが望ましい。だが、それを決めるのがあなた
方だけでは揉め事になる。ここは中立国の立場を尊重して頂いた上
で、拙者が提案したい﹂
この意見にも異論を唱える者はいない。ここで反論した所でその
者が全員から糾弾されるだけなのだから。
緊張が場を支配する中、ミフネがゆっくりと忍連合軍総大将を指名
する。
﹁先の雷影殿の指示、その適切さと早さは有事に置いて非常に利とな
るだろう。ヒヨリ殿に対しての判断からも、冷静に事をみる力を持っ
ている事が伺える。それにキーとなる尾獣八尾をコントロール出来
﹂
るのは雷影殿のみ。故に、雷影殿に忍連合軍の大権を任せてみてはい
かがか
﹃⋮⋮﹄
?
綱手・我愛羅・メイの三人は特に異論なく、納得の表情を見せてい
た。オオノキのみ若干不満そうにしていたが、ここに至って揉めてい
ては今後の纏まりに差し支えが生じる。それは年の功で理解出来た
オオノキであった。
﹁仕方ない。お前の命令を聞いてやる﹂
﹁ああ、協力しろ﹂
互いに不満そうに不敵に笑いながらも、エーもオオノキも敵として
の相手をある意味信頼していた。
だから味方にすればどれほど頼もしいかも理解している。互いに
相容れない一面を持つ忍同士が、今手を取り合った。ここに、忍界初
の忍連合軍が結成された。
できん⋮⋮。それに尾獣を使った術や隠し玉を持ってるやもしれん
﹂
ぜ。ワシら忍連合軍側も、八尾と九尾の尾獣を戦力として計算した方
がいいのではないか
な力を有するナルトとビーを隠すのではなく、戦争の戦力として投入
対してそれに異を唱えるのが綱手とオオノキだ。両者ともに強大
?
667
五大忍里からなる忍連合軍が結成されるが、それで五影会談が終
わった訳ではない。その後にも幾つかの話し合いが講じられていた。
﹁八尾と九尾をこちらの連合軍で見つけ出し、隠しておくのがベスト
ではないでしょうか﹂
メイの意見は正論だろう。イズナの目的である無限月読には十尾
が不可欠。そして十尾復活には八尾と九尾が不可欠。
八尾と九尾を除く全ての尾獣がイズナの手にある今、その目的を妨
げる為には八尾と九尾を捕らえられない様にするのが最も効率的だ
ナルトもビーも大きな戦力だぞ 隠してどう
!
ろう。
﹂
﹁何を言っている
する
!
﹁火影に賛成じゃぜ。イズナの持つ七体の尾獣が集まった力は想像も
!
した方が良いと判断していた。
だが、五影にはメイと同じ考えの者が多かったようだ。
ナルトはな││﹂
﹁それは駄目だ。これは二人を守る戦争でもある﹂
﹁この若僧が
﹁あいつの事は良く知ってる⋮⋮﹂
我愛羅の言葉に綱手は力を籠めて反論しようとするが、それを遮っ
て我愛羅が言葉を発する。
﹁仲間の為なら無茶をする⋮⋮だからこそだ﹂
﹁⋮⋮﹂
我愛羅のその言葉に、綱手は何も言えなかった。まさにその通りだ
と綱手も理解していたからだ。
綱手はナルトと出会ったばかりの事を思い出す。あの時も、ナルト
は無茶をして、そしてそれを押し通していた。結果として綱手はその
おかげでかつてのトラウマを克服出来たが、その代償にナルトは瀕死
の重傷を負った。
綱手の治療が間に合ったから良かったが、そうでなければナルトは
あの時死んでいただろう。それを思い出すと綱手は我愛羅に対して
何も言えなくなったのだ。
沈黙する綱手を尻目に、メイとエーも我愛羅の意見に賛同する声を
上げる。
﹁私も風影様の意見に賛成です﹂
﹂
﹁ワシも風影の意に同意だ。もしもの事を考えれば、敵を前に八尾と
九尾をおいそれと出すわけにはいかん
﹁そもそも八尾であるワシの弟は作戦などという言葉には縁遠い奴だ
危険性も口にする。
エーは八尾と九尾が捕らえられる危険性を上げ、そして続けて別の
!
﹂
同意を示していた。どうやらキラービーの性格は雲隠れではかなり
知られているようである。
668
!
何をしでかすか分からん⋮⋮逆に戦場が混乱するかもしれんし
な
!
エーの言葉にエーの部下の二人が何とも言えない表情を浮かべて
!
﹁⋮⋮九尾のナルトも同じだ﹂
﹁⋮⋮だな﹂
﹁⋮⋮ですねぇ﹂
キラービーの評価を聞いた我愛羅がナルトについても同じだと語
り、綱手もアカネもそれに同意した。意外性ナンバー1の名は伊達で
はなかった。
﹂
﹁分かりました。では八尾と九尾は保護拘束という事でどうです火影
様、土影様
﹁⋮⋮分かった﹂
﹁⋮⋮うむ﹂
メイの申し出に、綱手もオオノキも渋々だが同意する。内心では人
柱力の戦力を持ち出したい所だが、五影内ではその意見は少数な上
に、他の五影が言う様に危険性の高さも理解しているので、どうにか
納得したようだ。
こうして五影全員の意思により八尾と九尾に対する処置が決まっ
た所で、エーは五影以外の人物の意見を求めた。
﹁⋮⋮お前の意見を聞きたい日向ヒヨリ﹂
五影会談で五影や会談を預かる立場の者以外に意見を問う。それ
は異例と言っても過言ではないだろう。
だが相手はこの場の誰よりも長く生き、誰よりも経験豊富で、誰よ
りも敵であるイズナやマダラについて詳しい人物だ。忍連合軍を預
かる者としては意見を求めるのは当然ではあった。
﹁そうですね。ナルトの気持ちを考えるとナルトも戦力に加えたい所
ですが⋮⋮﹂
そこまで言ったアカネの言葉に再び場が荒れようとする。五影の
話し合いでは三対二で決着した問題が、アカネの意見で再びもつれよ
うとしているからだ。
五影でないアカネの意見など話し合いの数に入れる必要はないが、
そうするにはアカネの立場と実力が高すぎた。
再び混迷しようとする五影会談。だが、それを作り出したのがアカ
ネならば、それを収めたのもアカネであった。
669
?
﹁ですが、今のナルトが戦争に加わった所で正直足手まといにしかな
らないでしょうね﹂
アカネのその言葉に一番に反応したのは綱手だった。綱手はアカ
ネの事を誰よりも尊敬している。立派な祖父であった柱間と同等の
存在であり、幼い頃より世話になっている存在だ。尊敬しない訳がな
かった。
だが、それでも今のアカネの言葉は綱手には許せなかった。綱手は
ナルトの事を心底想っており、ナルトが強くなろうとしている意思
と、そして実際に強くなったその努力を知っている。それが無意味で
あのペインを倒したんだぞ それが
あるかの様に言うアカネの言い方は、アカネを尊敬する綱手にも看過
ナルトは強い
出来なかったのだ。
﹁ばあ様
﹂
!
﹂
﹁そのナルトよりも、敵の方が圧倒的に強いからです﹂
﹁なら何故
﹁綱手。ナルトは強いですよ。それは私も認めます﹂
論には成りえないのだった。
だが、綱手のその正論による反論は、ナルトの立場を考慮すれば正
う。
手まといだと言うのならば、世の忍の大半は足手まといになるだろ
至った今のナルトに勝てる忍が一体どれ程いるだろうか。それが足
それと真っ向から相対し、打倒したのがナルトなのだ。仙人にすら
の実力は、忍界でも屈指の物だろう。
つくし、生き返ったとはいえ多くの名のある忍を打倒したペインのそ
ノ葉隠れの里に残るペインの巨大な爪跡。広大な里の大半を破壊し
その実力は木ノ葉隠れが誰よりも知っているだろう。今もなお木
インは表とはいえ際物揃いの暁でリーダーを張れたのだ。
リーダーであり、真の黒幕ではない。だが、実力が確かだからこそペ
綱 手 の そ の 反 論 は ま さ し く 正 論 だ ろ う。ペ イ ン は 暁 の 表 向 き の
足手まといになるわけがないだろう
!
なおもアカネに食って掛かっていた綱手に対し、アカネはその言葉
で反論を切って捨てた。
670
!
!
!
﹁ナルトがただの忍であれば、まさに戦争において頼れる戦力となっ
ていたでしょう。ですが、ナルトは敵に狙われる立場。八尾と九尾を
敵に捕らえられる訳にはいけません﹂
それは綱手も先の五影との話し合いで理解している。だからこそ
綱手もナルトとビーを保護拘束する案に納得したのだ。
だが今納得出来ないのはナルトが戦争で足手まといになるという
一点だ。それをアカネは説明した。
﹁そして、今のナルトが百人いたところで、イズナ相手に勝ち目はあり
﹂
ません。そんなナルトを守る為にどれだけの忍が犠牲になればいい
﹂
か⋮⋮あなたに分かりますか綱手
﹁それは⋮⋮それ程なのか⋮⋮
が勝つとなれば、それはナルトを守るという前提がある戦争ではナル
ナルトとイズナの戦力差が少なければともかく、百対一でもイズナ
当に僅かだ。だが、イズナはそれを凌駕するのだ。
アカネも認める様にナルトは確かに強い。ナルトに勝てる忍は本
かった。
ア カ ネ の 意 見 に 反 論 の 言 葉 が な く な っ た 綱 手 は 沈 黙 す る し か な
﹁⋮⋮﹂
る訳には行かなかった。
犠牲となるのか⋮⋮。それを考えれば、今のナルトを戦争に参加させ
は他の忍の役目となる。そうなればどれだけの忍がナルトに代わり
ナルトが自身で自身の身を守る事が出来ない以上、ナルトを守るの
ルトはまだ未熟です﹂
ダラ、一尾から七尾までの尾獣⋮⋮それらから己の身を守るのに、ナ
自信からして恐らく間違いはありません。イズナ自身、穢土転生のマ
﹁イズナの実力は恐らくマダラ以上となっているでしょう⋮⋮。あの
だが、アカネは綱手の問いに対し、残酷にも首肯する事で答えた。
だ。
力を知る綱手としては、流石にそこまでとは考えていなかったよう
今のナルトが百人いたところでイズナには敵わない。ナルトの実
?
トは足手まといとなってしまうのだ。
671
?
﹁ナルトが九尾の力を自在に扱える様になれば話は別ですけどね﹂
そこまでの強さになれば、ナルトが足手まといになる事はないだろ
うとアカネは言う。
ナルトが九尾の力を引き出せれば、それでイズナに勝てると言う訳
ではない。だが、少なくとも簡単に捕らえられる事はなくなるだろ
う。
そこまで話してアカネはチラリとエーに対して視線を向ける。そ
れに気付いたエーはまさかと思いつつも、ナルトとキラービーの隠し
場所として考えていたとっておきの場所を思い出していた。
﹁⋮⋮それに関してはワシに考えがある。元々八尾と九尾の隠し場所
﹂
として提案しようとしていたのだが⋮⋮﹂
﹁どういうことじゃ雷影
隠し場所だけならともかく、ナルトが九尾の力を自在に扱える様に
なる事に関してどんな関係があるのか。オオノキの、いや他の五影全
員の疑問にエーは答えた。
﹁場所は暁メンバーの出ていない雲隠れにある場所が妥当だろう。そ
して、そこはビーと一緒に修行に励んだある孤島だ。そこでビーは尾
獣の力を己の物にした﹂
﹁なるほど⋮⋮。そこで八尾と九尾を保護しつつ││﹂
﹁ナルトに人柱力の修行を課す、というわけか﹂
﹁それなら万が一に九尾が暁に襲われても、それを自力で跳ね除ける
可能性も上がるな﹂
﹁保護と人柱力の強化。一挙両得の案という訳じゃぜ﹂
﹂
エーの案に全ての五影が納得した。だが肝心のエーは浮かぬ顔で
アカネを見つめていた。
﹁⋮⋮雲隠れの秘密の孤島の事を知っていたのか
﹁ありがとうございます雷影様﹂
更この状況で秘密だとは言わん﹂
﹁ふん⋮⋮。まあいい。元々九尾もそこに案内するつもりだった。今
法があるという噂をね。まさか本当にあるとは⋮⋮﹂
﹁いえ。噂で聞いた事はあるくらいです。雲隠れには人柱力を御す方
?
672
?
﹁ふん﹂
にこやかに礼を言うアカネに対し、エーは不機嫌そうに返す。どう
にもアカネの手の平の上で動いている感じがして気に食わないよう
だ。
だからと言ってアカネに対して反発する程に気に食わない訳では
ない。物腰や目配りなど、そこには嫌みの様な物は感じない。先の礼
も真実想いが籠められているのをエーは感じていた。
そこら辺の機微の調整を上手くされている様で、どうにも苦手に感
じている様だ。
八尾と九尾に対する方針が決定した次にした事は、敵の戦力の確認
であった。
﹁残る暁についてだが、我々が知っている情報を全て開示しよう﹂
そうして綱手は大蛇丸から得た情報を五影全てに伝えていく。
と言っても注目すべき存在は少ない。残る暁は実質二人しかおら
ず、そしてその内の一人は情報収集専門に等しいからだ。
だがその情報収集一つ取っても暁は桁違いだ。ゼツという人物が
情報収集担当であるが、そのゼツは胞子の術という特殊な術を用いる
事が出来る。
胞 子 の 術 と は、己 の 分 身 を 胞 子 の 状 態 に し て 対 象 に 取 り 付 か せ、
チャクラを奪い取り実体化するという術だ。しかも胞子状態では優
れた感知タイプの忍ですら気付く事が出来ないという恐るべき術で
ある。
更に樹木を媒介に大地と同化して感覚を共有する術も持っている。
この二つの術は柱間細胞から得た木遁忍術を応用して作り出された
術のようだ。
これらは大蛇丸の研究によって解明されたゼツの能力であり、この
点から大蛇丸が余程の研究者だというのが伺える。
他にも隠れた能力を有している可能性もあり、単なる情報収集専門
の忍と思わない方がいいだろう。
そして肝心要のイズナ。彼に関しては分かっている事は非常に少
673
ない。
アカネの言葉によると、当時のイズナの実力は現在で言うならばイ
タチやサスケに匹敵する程だったようだ。
確かに強いだろう。だが、その程度ならば何の問題もない。忍連合
軍が相手をするまでもなく、木ノ葉隠れだけでどうとでもなる程度と
言える。
だが今のイズナは輪廻眼を有しているのだ。輪廻眼の恐ろしさは
ペインにて実証済みだ。しかも会談に侵入したイズナの言から、それ
以上の実力を持っている可能性は非常に高いと言えた。
何より、一番分かりやすい障害となっているのがイズナに操られる
マダラである。
その実力はオオノキも知っている。千手柱間・日向ヒヨリの二人と
共に、たったの三人で第一次忍界大戦を終結に導いたのだ。実際に当
時の戦争に参加していたオオノキとしては、あの光景は恐怖以外の何
674
物でもなかった。
だが、アカネはオオノキが驚愕する事実を述べた。
﹁今のマダラは穢土転生であり、その実力は完全には発揮出来ていな
いでしょう。それでもなお、今のマダラは第一次忍界大戦当時のマダ
﹂
ラよりも強いです﹂
﹁な、なんじゃと
オオノキがそう考え
?
だから、アカネの次の言葉にオオノキが動揺したのも仕方ないと言
たのも仕方ないと言えよう。
一人で忍連合軍を圧倒出来るのではないか
あの圧倒的な力に、更に圧倒的な力が加わっているという。マダラ
ています。これらは当時の戦争ではマダラが得ていなかった物です﹂
﹁マダラは永遠の万華鏡を得て、木遁忍術を得て、その上で輪廻眼を得
ていた綱手でさえ、何度聞いても背筋が凍る様な思いとなる。
それに驚愕しない者はこの場にはいなかった。前もって話を聞い
いる。
われた存在が、不死身の肉体を得て当時以上の実力となって敵対して
当時でさえ、その実力は同じ三忍以外には並ぶ者はいないとさえ謳
!?
えた。
﹂
﹁ですが、マダラを抑える策はあります﹂
﹁本当か
マダラとの絶望的なまでの実力差を想像していたオオノキだが、そ
れだけにアカネの言葉は朗報だった。
考えてみればここにいるのも、マダラと同じ三忍であった日向ヒヨ
リ、その転生体なのだ。アカネがマダラを抑えられるならば希望の目
はあるだろう。
﹂
﹁戦争が始まり、マダラが現れたら私が相手をします﹂
﹁それだけであのマダラを抑えられるのか
ヨリ殿の心配も分かるが、これでもなお勝ち目はないかな
﹂
その力もまた未知数⋮⋮。そしてこの戦争、我々侍も参戦する
ヒ
﹁確かに暁の力は未知数。だが、今ここに世界初の忍連合軍がある。
過言ではないだろう。
ネは語る。これらによって此度の戦争の行く末が決まると言っても
こればかりは実際に戦争で見ない限りは理解出来ない事だとアカ
か⋮⋮﹂
ズナがどれ程の力を有しているか⋮⋮尾獣をどの様に利用してくる
﹁未知数なのはやはりイズナと、そして捕らえられた尾獣ですね。イ
動はしない、と。
て誓った。アカネが存在する限り、忍界に無駄な争いを投じる様な行
やはりこれも化け物だ。オオノキは改めてそれを確信する。そし
た。
しないと断言するアカネ。これには五影も、いや室内の誰もが絶句し
化け物もかくやとばかりのマダラを相手に、勝つだけならば苦労は
﹃⋮⋮﹄
ですね﹂
労はしません。むしろ、周囲の者達を巻き込まない様にする方が難儀
﹁抑えるだけならば簡単です。というか、勝つだけならばそれほど苦
?
!
た力も負けてはいないと断言する。それに対してアカネは答えを返
イズナの力を案ずるアカネに対し、ミフネは忍と侍の全てが結集し
?
675
!?
す。
﹁まさか。今の忍界に一番期待しているのは私なんですよ﹂
そう言ってアカネは笑顔で答えた。ここにあるのはまさに希望な
のだ。ここから忍界全てが手を取り合う可能性が広がろうとしてい
るのに、それに期待しない訳がなかった。
こうして五影会談はひとまず終了した。五影はすぐに己が里に戻
り、第四次忍界大戦に向けての準備を始める。
各里からそれぞれの国の大名にも連絡が行き渡り、そして大名達の
会談も終えて、正式に忍連合軍は結成された。
五大国という強大な国と、五大忍里という強大な忍里。それらを巻
き込んで、世界が大きく動き始めた。
676
NARUTO 第三十四話
忍連合軍が第四次忍界大戦に向けて動いている中、キラービーはと
ある土地にて発見・拘束された。彼は非常にマイペースな性格をして
おり、大蛇丸に襲われた時のいざこざを利用して里から抜け出し、心
配する者や捜索する者の気持ちもそっちのけで自分の趣味に浸って
いた。
その趣味とは⋮⋮演歌である。元々はラップが好きだったのだが、
次は演歌だと急に言い出し、八尾の声も無視して演歌忍者棟梁である
サブちゃん先生の元へ演歌の教えを請いに行ったのだ。⋮⋮演歌忍
者という需要があるのかどうか分からない存在がいるこの世の中は、
きっと広いのだろう。
ともかく、多くの捜索隊やアカネの影分身による捜索によってキ
ラービーは発見され、そして兄貴分であるエーによってしこたま怒ら
相手は当然というべきか、最早終生のライバルとも言えるサスケで
ある。
仙人モードのナルトと、万華鏡写輪眼に目覚めたサスケ。多くの修
行で高められた二人は、新たな力を得た事で更に激しいぶつかり合い
をしていた。
視界にある空間に直接黒炎を呼び出す天照。サスケがそれを発動
した瞬間に、ナルトは仙人モードで感知して即座に回避する。
サスケは呼び出した黒炎をもう一つの万華鏡である加具土命にて
操作する。加具土命は天照の黒炎を自在に操る力を持つ。これによ
り強大だが扱いが難しく、消耗も激しい天照の欠点を補えるという訳
だ。
677
れた後に保護された。暁に捕らえられる前に八尾と九尾の安全を確
保でき、一先ずは有利に事を運べていると言えよう。
さて、渦中の人物である九尾の人柱力のナルトだが、彼は今も激し
い修行を積んでいる最中であった。
﹂
﹁はあぁぁ
!
﹂
﹁おおぉぉ
!
味方であるナルトに気兼ねなく天照を使用出来るのもこの加具土
命のおかげである。これがあれば消えぬ黒炎も解除する事が出来る
からだ。
黒炎が鋭い無数の刃となってナルトに襲い掛かる。だがナルトは
慌てる事なく対応した。影分身を作り出し、その影分身が大地に螺旋
丸を叩き込む事で出来た破片を使って黒炎をガードする。
影分身が黒炎を対処している間に本体はもう一体の影分身を伴っ
てサスケへと突撃する。そして本体と影分身の両方が同時に巨大螺
旋丸を生み出し、それをサスケにぶつけようとする。
もちろん影分身を前方に出して本体を死角とし、写輪眼や天照に対
する防御とする事も忘れてはいない。
仙術が加えられた巨大螺旋丸。だが、サスケはそれを回避しようと
はせずに敢えて受け止めた。そう、サスケが開眼した第三の万華鏡、
須佐能乎の力を確認する為にだ。
溢れていた。
﹁問題、ない⋮⋮
続きをやるぞナルト⋮⋮
﹂
!
だがその力は諸刃の剣なのだ。強すぎるが故に術者自身を苛む、そ
を乗り越え、確実に強くなっている。
サスケは強くなった。悲しみと憎しみを得て万華鏡を開眼し、それ
それが強がりであるのは誰の目から見ても明らかである。
!
678
絶対防御とまで言われる須佐能乎の防御。第二段階にまで至った
サスケの須佐能乎は、ナルトの巨大螺旋丸を確かに防いだ。だが、や
はり螺旋丸の威力も然る物だ。そのあまりの威力に須佐能乎にも皹
が入っている様だ。
螺旋丸でこれならば、風遁螺旋手裏剣を防ぐ事は難しいな。サスケ
﹂
はそう考える。そしてそれ以上に、己を苛む痛みに思考が逸らされ
た。
﹂
サクラちゃん
!
﹁ぐ、ぅ⋮⋮
大丈夫かよサスケ
﹂
!
!
分かったわ
﹁お、おい
﹁ええ
!
!
天照を放った左目からは血が流れ、須佐能乎の反動か口からも血が
!
れが万華鏡写輪眼なのだ。このまま多用すれば視力は無くなり、肉体
はボロボロになるだろう。
⋮⋮ッ
﹂
﹁そこまでですサスケ。これ以上は修行の効果も少ないでしょう﹂
﹁止めるなアカネ
!?
無茶しないで
もうこれ以上は無理よ
﹂
えなかったのだ。強大な力に振り回され、その代償に苦しむ様は無様
サスケからすれば、今の自分は己の力を到底扱え切れているとは思
アカネからのお墨付きだがサスケの気持ちは晴れる事はなかった。
﹁⋮⋮﹂
酔う事はないと信じています﹂
その代償も⋮⋮。今のあなたならば、永遠の万華鏡を手にしても力に
﹁サスケ、もう十分です。あなたは新たな力を十分に把握しました。
はまともな視界をサスケから奪う様になるのだ。
る時ならばともかく、こうして戦闘により力を消耗した時、その視力
て、その代償として今のサスケの視力は大分落ちていた。集中してい
おかげでサスケは自身の新たな力を把握し切ったと言える。そし
その度に限界ぎりぎりまで肉体を酷使していたのだ。
だったが、それ以外の修行では幾度も万華鏡写輪眼を使用しており、
万華鏡写輪眼を駆使してナルトと全力で戦ったのはこれが初めて
ている。
は万華鏡写輪眼の力を把握し、自在に操れる様にする為の修行を行っ
のアカネと共に何度も修行を繰り返していた。その間に当然サスケ
アカネの本体が五影会談に出向いている間にも、ナルト達は影分身
が初めてではない。
サクラの言う通り、サスケが万華鏡写輪眼の反動で倒れるのはこれ
!
そのまま大地に膝を付いてしまう。
﹁サスケ君
!
に何度倒れていると思っているの
これまで
だが、やはり無理があったのだろう。サスケは更に口から吐血し、
るが、サスケはアカネの制止すら振り解こうとする。
修行を見守っていたアカネもサスケのこれ以上の修行を止めに入
!
そのものだと自身を罵倒していた。
679
!?
!
そんなサスケの心情を知ってか、アカネはサスケへと声を掛ける。
﹁サスケ。自信は過ぎれば過信となり、慢心を生み、死を呼びます。で
すが、自信を持つこと自体は何も悪い事ではありません﹂
そう、自信を持つ。それ自体は悪い事ではない。むしろ良い面を多
く持つだろう。
自分に自信を持てずに様々な機会を逃した者は世に多い。自信を
持つ。それだけで人は成功出来る可能性を高める事が出来るのだ。
過信せず、さりとて過小せず、己を知る。それが大事なのだとアカ
ネは語る。
﹂
﹁イタチの左目も既に馴染みました。あなたも万華鏡の力を理解しま
した。眼の交換は今日行います。分かりましたね
﹁⋮⋮分かったよ﹂
戦争に向けて五大忍里は着々と準備を進めている。それは木の葉
隠れも例外ではないし、サスケ達も戦争に参加する事は通達されてい
る。
サスケやアカネは未だに下忍という立場だが、二人の戦力は下忍の
それを遥かに上回り、そこらの上忍すら歯が立つ事はない。忍界全て
の未来が掛かっている戦争だ。下忍だからと言って力ある者を遊ば
せておく余裕はないのだ。
そして万華鏡写輪眼を交換した場合、その万華鏡が自身の身体に馴
染むのに時間が掛かる事が予想させる。その為に出来るだけ早くサ
スケとイタチの両目を交換した方が良いのだ。
アカネの言葉を理解したサスケは、まだ自身の不甲斐なさに思う事
はあれど一応の納得をする。
もっとも、サスケの考えは少々的外れでもある。サスケは万華鏡写
輪眼の反動に屈する事を不甲斐ないと思っているが、そもそも歴史上
に置いて万華鏡写輪眼の反動を抑え込んだうちは一族は一人として
いないのだ。
永遠の万華鏡を手に入れる事が唯一の道であり、それ以外で自力の
克服は有り得ない。これはうちはマダラをして覆らない法則だ。
それをサスケが出来ないからと自身を貶めるのは、ある意味傲慢と
680
?
言ってもいいだろう。だが、だからこそのうちはサスケだとも言え
る。他人が出来なかったから自分も出来ない等と、サスケは思わな
かったのだ。
﹁全く、自信を持つのは悪い事ではないと言いましたが⋮⋮持ち過ぎ
も駄目とも教えているんですがねぇ﹂
そんなサスケの傲慢を読み取ったアカネは、サスケが自信を無くし
て落ち込んでいたのではなく、自信がありすぎたせいで落ち込んでい
たのだと理解して肩を竦める。
天才故の傲慢と言うべきか。どことなくマダラを思い出させるサ
スケにアカネは苦笑した。
﹁これで痛みは和らいだはずよサスケ君。でも無茶はしないでね﹂
﹁ああ⋮⋮悪いなサクラ﹂
会話の最中にサクラはサスケへと医療忍術を掛けていた。それに
よりサスケの痛みは和らいではいる。
オレはどうすればいいってばよ
﹂
影分身のアカネと組
!?
681
だがこれが一時しのぎでしかない事は他ならぬサクラが理解して
いた。サクラとしては出来るだけ早くにサスケに永遠の万華鏡を手
に入れて欲しいと願っている。
最愛の人が苦しむ様を見せられ、それを和らげる事しか出来ないの
は医療忍者としても、サスケを愛する女性としても苦しい事なのだ。
﹁それでは今日の修行はこれまでとします。サスケとサクラは私に付
いて来てください。サクラは今後の為に少しでも多くの経験を積ん
だ方がいいので、眼の交換を良く観ておくように﹂
﹂
﹁分かった﹂
﹁はい
﹁アカネ
み手でもしてればいいのか
?
!
と、そこで特にする事がないナルトがアカネに問い掛けた。
らない。
んでいるが、だからと言って更なる経験を積まないでいい理由にはな
医療忍者としての経験の為である。今までにも似たような経験は積
どうやらサクラも眼の交換に立ち合う様だ。アカネの言葉の通り
!
修行相手がいなくなり、手持ち無沙汰となったナルト。だが兄弟子
である長門の想いに応える為にも足踏みしている暇はないのだ。
そう意気込んでアカネに問い掛けるナルトだが、アカネがナルトに
課したのは修行ではなく、任務であった。
﹂
﹁いえ、ナルトにはある任務についてもらいます﹂
﹁ある、任務
・・
アカネの答えに疑問を持つナルト。そして、そんなナルトが雲隠れ
の国の、とある孤島││という名の何か││に出荷されるまで約二
日。
ナルトは任務という名目の保護拘束と、人柱力として尾獣の力を自
在に引き出せる様になる為の修行を行う事となった。
◆
ナルトは極秘の任務を受けて雲隠れにある孤島へと移動する。道
中は同じ任務を受けたヤマトと、幾人かの木ノ葉隠れの忍、そして案
内として雲隠れの忍が同行していた。
ヤマトが同行しているのは当然ナルトの監視と尾獣の抑制の為で
ある。ナルトが九尾を抑えられずに暴走した時に、それを抑える力を
持つヤマトが傍にいるのは当然だ。
木ノ葉隠れの復興といい、尾獣の制御といい、まさに獅子奮迅の活
躍である。木ノ葉隠れはヤマトにもっと感謝してもいいかもしれな
い。
ヤマトの功績はともかく、ナルトはこの島である人物と出会った。
それはナルトにとってある意味運命的な出会いだったのかもしれな
い。
その人物こそ、ナルトと同じく尾獣を宿した人柱力にして、尾獣を
完全にコントロールする事が出来る史上でも数少ない忍、キラービー
である。
出会った当初は互いにまだ分かり合えずにいた二人だが、ナルトは
ビーの過去を知り、そしてビーに共感した。同じ人柱力として似たよ
682
?
うな過去を持っている事に気付いたのだ。
だからこそ、ナルトはビーを尊敬した。同じ様な過去を持ち、他人
に害され疎まれ、そして殺されそうになった事もあった。だがビーは
それを吹き飛ばす程に陽気で、自身を殺そうとしていた存在すら受け
入れるその度量の大きさを持っていたのだ。
そしてビーも同じ様な事をナルトに感じていた。結局は二人は似
た者同士だったのだ。過去や己の境遇に負けず、前向きで明るく生き
ている。
そんな二人が互いを受け入れて、年齢を超えた友となるのに然した
る時間は掛からなかった。
ビーの過去を知り、ビーと打ち解けあったナルトは己を受け入れる
試練に挑んだ。
この島には真実の滝と呼ばれる場所がある。そこは己の中にある
闇と向き合う場所。自身の闇そのものに討ち勝たねば、憎しみの塊で
ある尾獣の力は到底扱えないのだ。
ナルトもビーと打ち解ける前にここで試練に挑み、そして一度は敗
れた。己の闇に討ち勝つ事が出来なかったのだ。
だが、ビーとその仲間と会話している内に、どうすればいいのかと
いう答えをナルトは得ていた。己の闇に討ち勝つのではない。己を
受け入れなければならないのだと。
自分自身を信じられずにどうして前に進めようか。自分を疑わず
自分に誇りを持っているビーを見て、ナルトはそれに気付いたのだ。
そして、ナルトは自分自身を受け入れた。他人を憎み、疎ましく思
う闇もまた、自分なのだと。
己の中の闇を捨てず、受け入れ、そして乗り越えたナルト。これで
ナルトは己の中にある九尾と向き合う資格を得たのだった。
真実の滝の試練を乗り越えたナルトは、次に本命である九尾のコン
トロールを得る修行へと挑む。
その修行法は、滝の裏にある特殊な遺跡にて行われるものだ。その
遺跡は尾獣と対話出来るシステムとして作られた遺跡だ。その中で
683
人柱力に選ばれた者は尾獣と対話し、そして尾獣の力を自在に引き出
せる様になったのだ。
ただし、ごく限られた僅かな人柱力のみが、であったが。尾獣との
対話を失敗した多くの人柱力はそこで死に、尾獣は新たな人柱力が来
るまで遺跡の中に封印される仕組みとなっているのだ。
死ぬ可能性がある。ビーからの説明でそれを理解したナルトは、そ
の事実に恐れず九尾と相対する事を選んだ。
遺跡の奥には何もない白く広大な部屋があった。そこは真実の滝
と似たシステムで作られた部屋であり、この場所で集中する事で己の
精神世界にて尾獣と対話する事が出来る様になっている。
そしてナルトは、九尾の力をコントロールする為に⋮⋮九尾の封印
を解いた。
ナルトの精神世界での九尾との戦いはナルトの優位に進んでいた。
ビーがナルトの精神世界に八尾の力を送り、それで援護し、ナルト
684
も本体がじっと座って己の精神世界に没頭しているのを利用し、仙人
モードとなって一気に九尾を追い詰めたのだ。
だが、尾獣の力をコントロールするにはここからが本番だった。人
柱力が尾獣の力を得る為には、尾獣の意思から尾獣のチャクラを奪う
必要がある。
奪ったチャクラは人柱力の物となる。だが、その際に必ずと言って
良いデメリットがあった。尾獣の意思からチャクラを奪うという事
は、尾獣の意思に触れるという事なのだ。
つまりナルトは九尾の意思に、九尾の憎しみに触れるという事にな
る。それを防ぐ為には強い意思が必要であり、その為の真実の滝の試
練だったのだ。
だが、九尾の憎しみはビーの予想に反して強すぎた。ナルトは九尾
││
││
││
のチャクラを吸収すると同時に九尾の憎しみも吸収してしまう。
││憎い
││苦しい⋮⋮
││
││殺してやりたい⋮⋮
││助けて
!
!
!
!!
││復讐してやる⋮⋮
││
││
││あいつさえ居なければ
││
││どうせうまくいかない⋮⋮││
││あいつばっかり⋮⋮
◆
!
﹂
﹁お前にワシの力をコントロールする事などできん
憎しみの小さな一部にすぎん
お前はワシの
だが、その前にナルトの内面で変化が起こっていた。
力を振るおうとする。
陥ってしまう。傍で見守っていたヤマトはそれを抑えようと木遁の
九 尾 の 憎 し み に 飲 み 込 ま れ か け た ナ ル ト は 暴 走 の 一 歩 手 前 ま で
みも強大なのだろう。
尾獣の中でも最大の力を持つ存在だ。それ故に積もり積もった憎し
特に九尾に染み付いた憎しみは他の尾獣を上回っていた。九尾は
るわれる度に、更なる憎しみを得ていったのだ。
か尾獣は長く在り続ける内に、 尾獣としての力を利用され人々に振
憎しみのチャクラは九体に分離しても消えなかった。それどころ
の苦しみや憎しみが混ざり、黒に染まってしまった。
チャクラは純粋な力の塊だったのかもしれない。そこに多くの人々
そして十尾はその力でかつて人々を苦しめていた。元々は十尾の
尾が九つに分離したのが九体の尾獣の始まりである。
尾獣とは、十尾と呼ばれる最強のチャクラを持つ存在の一部だ。十
多くの意思による憎しみの塊。それが九尾の憎しみの正体。
それは、無数の憎しみの塊だった。一つではない。一人ではない。
!
三代目火影は忙しい中も自分に愛情を向けてくれた。その妻ビワ
迫害された事もある。だがそれだけじゃなかった。
だが、ナルトは耐えた。認められず、相手にされず、疎ましがられ、
を聞く度に、ナルトは暗く重たい過去を思い出す。
九尾の言葉はナルトに重く圧し掛かっていた。九尾が発する言葉
!
685
!
!
コは忙しいヒルゼンに代わり、ナルトを本当の孫の様に扱ってくれ
た。
多くの子どもからは嫌われていたが、それでも友はいた。一緒にい
た ず ら を す る 悪 友。共 に 修 行 す る 仲 間。互 い に 認 め 合 っ た 好 敵 手。
こんな自分を愛してくれる女性。
だが、それもここまでだ小僧
﹂
憎しみだけで育った訳ではない。それがナルトを九尾の憎しみか
ら押し止めていた。
﹁存外しぶとい⋮⋮
!
与えた。
消えていなくなれ
!!
同時に九尾の憎しみも大量に浴びてしまったのだ。
消えちまえ
!
﹁
﹂
││いいえ⋮⋮ここに居ていいのよ││
配しようとする。その時だった。
一人では耐えようのない憎しみがナルトの中に渦巻き、ナルトを支
││消えろ
││
今までの比ではないチャクラをその身に吸収したナルト。それと
﹁うわああああ
﹂
だが、そんなナルトに対して、九尾はわざと大量のチャクラを分け
!
何故か愛しく、ナルトの心に染み渡っていく。
不思議とナルトを締め付ける憎しみは収まっていた。そして目の
前に佇む一組の男女にナルトは気付く。
﹁ナルト⋮⋮﹂
﹁ようやく会えたね﹂
二人はナルトに向けて優しく微笑みかけた。そこにあった感情は
愛、その一言に尽きるだろう。
自身に向けて微笑み掛けてくる初対面の二人にナルトは戸惑うが、
四代目の顔岩の人
﹂
男の方はどこかで見た事があると既視感を感じ、そして思い出した。
﹁んっと⋮⋮ああーー
!
そう、男の方は四代目火影の顔岩とそっくりの顔をしているのだ。
﹁はは⋮⋮そこは普通に四代目でいいよナルト⋮⋮﹂
!
686
!?
!
ナルトの中に憎しみ以外の声が響いた。その声はとても穏やかで、
!!
﹂
というか、本人である。正確には本人を模した存在なのだが。
﹁ナルトって⋮⋮オレの名前⋮⋮どうして⋮⋮
じゃあオレってば││﹂
何すんのさクシナ
﹂
何が、お前の名前はオレが名付けたん
!?
!
﹁そ、それは、そうだけどさ。それを決定したのはオレだろ
成長し
ナルトの名前は自来也様から頂いたものだってばね
﹁なーに言ってるってばね
だから、よ
﹂
!
﹁いたっ
女性が突如としてミナトの後頭部を殴り付けた。
そのいきなりの事実にナルトが驚愕している中、ミナトの隣にいた
息子だという事になる。
せがれ。つまりは息子。それが正しいならば自分は四代目火影の
﹁せがれ
﹁そりゃ、お前の名前はオレが名付けたんだから。せがれなんだし﹂
いて更に混乱する。
のか。現状が理解出来ずに混乱するナルトは、次のミナトの答えを聞
目の前の人物が四代目火影だとして、なぜ自分の名前を知っている
?
突如として始まった寸劇にナルトは戸惑う。四代目火影に対して
こうも気安く話す女性は一体何者なのか。
そ
疑問に思った事は色々と考える前に知っている人に聞くのが早い。
そう結論したナルトは素直にミナトに疑問をぶつけた。
﹂
﹁な、なあ⋮⋮もしかして、四代目火影がオレの父ちゃんなのか
れと、そっちの女の人は一体誰なんだってばよ
?
自分と同じ様な口癖。そして父だろうミナトと仲睦まじい女性。
﹁〝てばね〟って⋮⋮も、もしかして⋮⋮﹂
ていたのだから。
なかったのではなく、最愛の息子とようやくの再会に気持ちが先走っ
それは仕方ない事だろう。二人はけしてナルトを蔑ろにして答え
ナルトの疑問に対し、ミナトも女性も答えを返してはいなかった。
﹁ふふ、そうかもしれないね﹂
﹁〝てばよ〟⋮⋮私の口癖って遺伝みたいだってばね⋮⋮﹂
!?
687
?
!
た息子との初対面なんだから少しはかっこつけさせてよ⋮⋮﹂
?
!
ナルトはその答えに辿り着き、そして最後の確認をするかのように
二人に期待を籠めた視線を送る。
その視線を受けて、二人はより一層の愛を籠めてナルトに名乗りを
上げた。
・・・・
﹁さっきの質問の答えを言うよ。オレは波風ミナト。君の、父親だよ﹂
﹁私はうずまきクシナ。あなたの││﹂
そこまでで十分だった。答えを最後まで聞く前に、耐え切れなく
なったナルトは二人に向かって飛び込み、抱きついた。
母
ナルトは震えながらミナトとクシナを、父と母を抱き締める。これ
が嘘ではないんだと言わんばかりに震えながらだ。
それを受け止めた二人は優しく抱き締め返した。
﹂
﹁ず っ と ⋮⋮ ず っ と 会 い た か っ た っ て ば よ ⋮⋮ 父 ち ゃ ん ⋮⋮
ちゃん⋮⋮
﹁うん⋮⋮私も⋮⋮﹂
﹁オレもだよ⋮⋮ナルト﹂
を封印したのか。
最初はナルトが不満をぶつけた。何故自分の子どもに、オレに九尾
た。
そうして九尾を一時的に封じた後に、ナルト達は様々な会話を行っ
クシナは九尾の人柱力として選ばれたのだ。
うずまき一族の生命力と封印術。この二つを有しているからこそ、
の持ち主である九尾をすら封印出来る程だ。
封印術を会得している。その封印術は凄まじく、強大凶悪なチャクラ
うずまき一族は封印術に長けており、クシナもそれに漏れず強力な
﹁ちょっと待っててねナルト。まずは九尾を大人しくさせるから﹂
る為に、クシナは残されたチャクラで九尾の動きを縛り付ける。
だが、ゆっくりとしていられる状況ではない。まずはその時間を作
きしめあった。
十六年ぶりに再会を果たした親子は、その時間を埋めるかの如く抱
!
九尾の入れ物となったせいでナルトは辛い思いを何度もしてきた
のだ。それがなければどれだけ違った人生を歩めていたか。
688
!
両親に出会えた嬉しさはあれど、それと同時に今まで思っていた事
をぶつけたいという気持ちも絡み合っていたのだ。
そんなナルトに対し、ミナトとクシナは謝る事しか出来なかった。
事情はあったとはいえ、それは火影としての事情、世界の平和の為の
事情。非常に重要な事だが、犠牲となったナルトには関係ない話でも
ある。
だ が、ナ ル ト は そ ん な 二 人 を 許 し た。確 か に 辛 か っ た。苦 し か っ
た。だが、それでも自分は四代目火影の息子なのだ。ならばこれくら
い耐える事は出来る。
そう言い放つナルトを二人は誇りに思う。自分達が育てずとも立
派になってくれた事に感謝する。そして、自分達の手で育てられな
かった事を悔い、悲しむ。
だが悲しんでばかりはいられない。こうしてチャクラを以ってし
て意思を具現化するには制限があるのだ。チャクラが無くなってし
まえば消滅してしまう。その前に二人はナルトと様々な会話をした。
会話と言っても重要な事は僅かだ。十六年前に九尾復活を企んだ
男の正体はすでに知れている。その事はミナトとクシナもナルトの
中で見ていたので当然知っていた。
むしろ、ミナトとクシナが驚愕したのは仮面の男の正体ではなく、
日向ヒヨリが転生し、自分の息子を鍛えている事だったりする。
ナルトの中にチャクラと意思のみで存在していた二人は、ナルトが
見聞きした事柄を感じ取れていた。その中でアカネの正体がヒヨリ
であると察したのである。
四代目火影とその妻であり九尾の人柱力であったクシナだ。当然
木ノ葉隠れ最大の顔役であったヒヨリとは幾度と無く面識があり、ミ
ナトに至っては螺旋丸を開発してヒヨリに見せたら、ヒヨリが昔から
使っていた技術の一つであったと判明した苦い過去もあるくらいだ。
そんな二人がアカネのチャクラを感じてその正体が日向ヒヨリで
あると察するのは容易く、その強さを見て正体に確信するのに時間は
掛からなかった。
﹁しかし⋮⋮ヒヨリ様が転生するなんてね⋮⋮﹂
689
それって誰
﹂
﹁ぴっちぴちに若返っていたってばね⋮⋮羨ましい⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ヒヨリ様
念そうな表情をしていた。
そうして疑問に思っているナルトを見て、ミナトとクシナの方が残
ある事のはず。だが聞き覚えは無い。
なかった。二人がこうして話題に出したという事は、自分に関わりが
会話の中でミナトからふと漏れたその名前にナルトは聞き覚えが
?
﹂
﹁ナルト⋮⋮修行もいいけどもう少し勉強もしようね。火影になると
﹂
書類仕事が結構あるからね
﹁う⋮⋮お、おっす
?
﹂
⋮⋮ん
﹂
?
じゃあ初代
!?
でも、何でそのヒヨ
エロ仙人が二代目三忍って奴だろ
三忍のヒヨリ様ってすげーんだな
リ様って奴が話に出てくるんだってばよ
!
?
﹁三忍って⋮⋮
を築き上げたお方よ。初代三忍って言えば分かるかしら
﹁ヒヨリ様はかつて初代火影様やうちはマダラ様と一緒に木ノ葉隠れ
みと理解し、火影を目指す身として渋々だが了承した。
元火影だけに実感の籠もった言葉である。ナルトもそれをしみじ
!
言う。
せると。どこまでいっても子どもを信じるのが親だからとミナトは
ナルトならば、忍の世に蔓延る憎しみを終わらせる答えを見つけ出
に向けて自らの想いを託した。
3人は残された時間を使って会話を続ける。そして二人は、ナルト
る事にした。
かく出会えた両親と会話する方が重要だと考えてヒヨリの事は忘れ
ミナトの言い分が少々気になったナルトであるが、それよりもせっ
﹁うーん⋮⋮ま、いっか﹂
﹁まあ、その内分かる事だよ。今は別の話をしよう﹂
い事を鑑みて、ここでは黙っておく事にする。
そう考えるナルトだが、ミナトはアカネがまだナルトに話していな
る。ならそのヒヨリという輩も同様のはずだ。
初代火影と言えばかなり昔の人物であり、当然本人は死亡してい
?
690
?
!
﹁ナルト。オレはお前を信じてる﹂
親が子を愛するのは当たり前。その当たり前を生まれてから一度
も受け取れなかったナルトに対し、クシナは愛を籠めて言う。
﹁ナルト。あなたを愛してる﹂
二人の言葉を受け取ったナルトは心の底から充足していった。二
人の言葉は心の隅まで染み渡り、絶大な安心感をナルトに与える。
先ほどまで九尾の憎しみに捉われていたのが嘘の様に、ナルトは一
気に九尾の憎しみを追いやった。
そして再びナルトと九尾の戦いが始まる。
両親によって憎しみを追いやる事が出来たナルトは、今までとは比
べ物にならない攻撃を九尾に加える。
ミナトの援護とクシナの封印術も相まって、九尾は手も足も出せず
にいい様にやられ、そのチャクラの多くをナルトに吸収された。
それでもなお九尾の力は凄まじかった。膨大なチャクラを籠めら
れた巨大な黒い球を作り出し、尾獣玉と呼ばれるそれをナルトに向け
て放とうとする。
だが、そこまでだった。ナルトが腹部の封印式を操作し、一瞬で九
尾を元の封印牢へと封じ込めた。
怨嗟の声が九尾から漏れ出る。それをナルトは受け止め、そして憎
しみ以外の感情で返した。
││ごめんな九尾⋮⋮でも、おめーを悪ぃようにはしねーから⋮⋮
少しの間、待っててくれ││
両親との邂逅と語らいは、ナルトから九尾の憎しみすら乗り越える
力を与えていた。
今はまだ無理だ。だが、必ず九尾を受け入れる。九尾を疎ましくす
ら思っていたナルトが、九尾を真に認めた瞬間であった。
⋮⋮そして、別れの時がやってきた。
ミナトとクシナがこうしてナルトの精神世界で対面出来たのは、二
人が死ぬ前に自らのチャクラをナルトに封じ込めた為だ。
ナルトが九尾を暴走させそうになった時や、九尾の人柱力として力
をコントロールしようとした時に助ける事が出来るようにとの想い
691
によって、二人はナルトにチャクラを封じた。
だが、封じられたチャクラの量は定められており、そして回復する
事はない。こうして意思を具現化するだけでチャクラは消費され続
け、その上九尾との戦闘でナルトを援護した事でチャクラは更に消費
された。
もう、二人に残された時間は殆ど無かったのだ。
二人は最後に十六年前の事件、九尾復活の真相についてナルトに語
る。そして、事情があったとはいえナルトに重荷を背負わせた事を再
び謝った。
そしてナルトもまたそんな二人を再び許した。いや、そもそも恨ん
ですらいないと伝えたのだ。確かに九尾を封印された事に憤りを感
じた事はある。だが、それで親を恨んだ事はなかった。
親の愛情というものを理解していなかったナルト。だが、今ならそ
れが理解出来た。自分の命を子どもの為に与えてくれた両親。そこ
に籠められた物は一つ、そう、愛情だ。
自分の器には九尾よりも先に愛情が入っている。それが分かった
だけでナルトは十分であり、幸せだった。
父と母の子で良かった。ナルトの想いの全てを聞いたミナトとク
シナは、ナルトに礼を言いながら消えていく。
││私達の元に生まれてきてくれて⋮⋮本当にありがとう││
消えていった父と母。だが、その想いはナルトの中に残っていた。
そしてナルトはここに誓った。火影になる事を。どの先代すら超
えた火影になる事を。そして父よりも格好良い男に、母よりも強い忍
になる事を。
こうして、ナルトは現実世界へと意識を帰還させる。
生まれた時から籠められた愛によって、九尾の憎しみを克服したナ
ルト。だが、真に九尾と分かりあえた訳ではない。
未だ完全なる人柱力とは言えず、新たに得た力もまだ未熟。なの
で、ナルトは先達であるビーと共に新たな力を自在に操る修行を行う
のであった。
692
NARUTO 第三十五話
ナルトが人柱力としての修行に力を入れている中、アカネはアカネ
で色々と行動していた。
イズナの戦力は到底侮れる物ではない。この戦争で敗れれば待っ
ているのは理想の世界という名の地獄だ。幻術に支配されて見せら
れる平和な世界に何の意味があるのか。到底受け入れる事の出来な
い未来を回避する為には、イズナとの戦争に勝たなければならない。
その為の準備は必要不可欠だ。前もって決めていた作戦を総大将
である雷影含む五影全員に相談し、そこから更に作戦を詰めていく。
﹂
﹁なるほどな⋮⋮。ならば、お前はこの戦争では部隊を率いず、遊撃要
員として動くわけだな
﹁はい。今の私は立場としては下忍です。部隊を持っても部下が納得
しないでしょう﹂
そう、アカネがいくら強くとも、明確な立場は下忍なのだ。下忍が
部隊の隊長をしても、部下となる上忍や中忍は反発する可能性が非常
に高いだろう。
例え納得したとしても内心では快く思わない事は多いだろうし、そ
んな状況でアカネが命令を出しても満足の行く働きが出来るとは思
えなかった。
まあ、忍連合軍の作戦会議に参加出来て、その上自分の意見を述べ
る事を許されている段階で下忍の域を超えているのだが。
﹁それにマダラが現れた場合、部隊を率いていてはマダラへの対応が
遅れてしまいます﹂
それが最も重大な問題だ。マダラの相手はアカネ以外では務まら
ない。五影が揃ったとしても勝ち目は薄く、そもそも雷影が総大将で
ある以上戦場で五影が揃う事はない。⋮⋮はずだ。
五 影 全 員 で す ら 勝 て な い 敵 を 放 置 す れ ば ど れ 程 の 被 害 が 出 る か。
それを抑える為に、マダラ出現に合わせて自由に動ける立場がアカネ
には必要なのだ。
﹁ただ、同行者は一人付けますが﹂
693
?
﹁同行者だと
﹂
﹂
!
﹂
がいるんじゃぜ
﹂
﹁ほう。こやつも万華鏡に。⋮⋮木ノ葉にはどれだけの万華鏡開眼者
なります﹂
﹁オビトの万華鏡写輪眼の力があれば、この作戦は非常にやりやすく
映ったようだ。
そんなうちは一族にあって、オビトの熱血具合は雷影には印象良く
印象だ。
ちは一族はエリート意識が高く、すかした態度を持つ者が多いという
どうやらオビトは雷影に気に入られたようだ。雷影からすればう
﹁ありがとうございます
﹂
﹁ふ む。う ち は の 者 か ⋮⋮。う ち は に し て は 中 々 い い 目 を し と る な
させていた。
いつか自分もこの中に。そういった想いがオビトの挨拶を力強く
事は緊張と感激で一杯だった。
火影を目指すオビトにとって、五影全員が揃っているこの場にいる
アカネからの紹介に、オビトが力強く挨拶をする。
﹁よろしくお願いします雷影様
﹁ええ、私の後ろにいる彼、うちはオビトです﹂
度が格段に変わる事になる。
くとも作戦自体は可能なのだが、彼がいるといないとでは作戦の自由
アカネの作戦には一人の協力者が不可欠であった。いや、彼がいな
?
﹁現状ではオビト含めて五人ですね﹂
を組むという状況になっていなければ恐るべき敵なのだが。
それが複数いるならば非常に頼れる戦力と言える。⋮⋮忍界が手
オオノキも万華鏡保持者を見たのはマダラ以来だ。
それを有する存在は過去の戦争でもほんの僅かしか現れていない。
万華鏡写輪眼だ。
ですら手を焼く代物だというのに、それを遥かに上回る力を持つのが
万華鏡写輪眼。うちは一族自慢の写輪眼すら超える瞳術。写輪眼
?
694
!
!
﹁⋮⋮﹂
清々しいまでのインフレに流石のオオノキも開いた口が塞がらな
いようだ。いや、それは綱手を除く他の五影も同じなのだが。
万華鏡有するうちは一族に、アカネ有する日向一族に、それらを有
する木ノ葉隠れの里。明らかに木ノ葉一国の力が他里と比べて突出
しているとしか思えない五影である。
今回の忍連合軍はある意味では良い機会だったのだろうとオオノ
キは悟った。これを機に忍界が手を取り合えば無駄な争いはなくな
る。木ノ葉との勝ち目のない戦争など考える必要もなくなるのだ。
このまま上手く戦争が終われば、岩隠れは五大忍里として木ノ葉隠
れと対等の立場でいられるだろう。ある意味イズナに感謝するオオ
ノキであった。全ては戦争で勝てればの話だが。
オビトの能力と作戦の大まかな説明が終わり、アカネとオビトは此
度の戦争にて遊撃部隊として動く事が決定された。
戦場のいずこかにマダラが現れたら、連合本部にて全部隊に情報を
伝達している情報部隊から通達が入り、アカネがその場へと向かう様
になる手はずだ。
なお、オビトがアカネに戦場で追従する理由の一つがここにもあ
る。情報部隊の伝達方法だが、山中一族の心伝身の術││いわゆるテ
レパシー││にて行われる。
だが、アカネは自らの固有能力にて、心伝身の術を無効化してしま
うのだった。なお、この固有能力の詳細を知る者は未だ世にいない。
また、念には念を入れて影分身のアカネを各部隊に一体ずつ配置さ
せる事となった。
マダラやその裏にいるイズナ、そして尾獣に対抗する為に、本体の
余裕を持たせるよう影分身は最小限のチャクラで作り出される。
だが、最小限でも元が元だ。全チャクラの1%程度を消費し、それ
を更に各部隊に振り分ける程に影分身を作り出したとしても、その影
分身一体一体の力はそこらの上忍を超える。
チャクラ総量で言えば上忍以下になるだろうが、そもそもの技量が
桁違いなのでチャクラ以上の活躍は見込めるだろう。
695
そうして影分身がマダラと遭遇すれば、影分身が消滅して本体に情
報を伝え、遭遇前に消滅した場合は先に決めていた様に情報部隊から
の伝達を待てばいい。
なお、ここまで念を入れているのだが、アカネは戦場にマダラが出
現すればその瞬間にチャクラにてマダラを感知する事が可能である。
ここまでするのは本当に念には念を入れての事であった。万が一
にも何らかの未知の手段で、マダラやイズナがチャクラを感知出来な
い様にしていないとも限らないからだ。
これで一先ずのアカネの戦争での動きは決定された。後は残る時
間を使って準備を進めるだけだ。
木ノ葉隠れでは影分身のアカネが弟子である忍達の最終調整に当
たっていた。イタチとサスケの眼も互いに馴染みつつある。戦争に
もぎりぎり間に合うだろう。
と言っても、二人ともぎりぎり過ぎる為にアカネと同じく部隊に加
ア・ヒルゼン・ダンゾウ・アカネ・オオノキ・ミフネ││が集まって
696
わる事はなく、遊撃部隊として動くだろうが。
うちはきっての忍であり、永遠の万華鏡を得た兄弟。その遊撃部隊
がどれほどの活躍をするかはまさに見物と言えよう。
本体であるアカネは特筆してやる事は終わり、すでに日常の一部│
│食事や睡眠と同意││となっている鍛錬をこなしたり、老人達と茶
日向の姫にマッサージをさせるとは。流
を飲みつつ昔話に花を咲かせていたりする。
﹁ギャハ、ギャハ、ギャハ
﹂
?
一通りの会議が終わり、休息の時間となった時、老人組││チヨバ
﹁ふむ。心地良さそうだな土影殿⋮⋮﹂
﹁おお、そこじゃぜ。あ∼、効くのぅ﹂
﹁私、下忍ですもん。ここですかオオノキ
﹁全くだ。もう少し御自分の立場という物を考えてほしいものだ﹂
﹁ワシからすれば信じ難い光景じゃて⋮⋮﹂
石は両天秤のオオノキと恐れられただけあるのー﹂
!
和気藹々としていた。
その最中にオオノキが腰を痛めた事が切っ掛けとなり、アカネによ
るマッサージが始まったのだ。
人体をこれでもかと知り尽くしているアカネだ。マッサージの極
意など人を壊す極意と同時に会得している。壊すも治すも思いのま
まなのだ。
マダラだ
そんなアカネのマッサージをこれでもかと受けたオオノキは、まさ
身体が軽い こんな気持ちは初めてじゃぜ
に若返った思いになっていた。
﹁おお
﹂
!
﹁土影殿に同意﹂
そりゃそうじゃ
!
﹁右に同じく﹂
﹁ギャハ
﹂
上に修行をしている忍がどれだけいるか知りたいもんじゃぜ﹂
﹁おぬしに言われてはどの忍だろうと立つ瀬がないぜ。日向ヒヨリ以
らすれば腰痛すら修行不足の一言で済ませてしまうのだった。
アカネがフラグを回避する為にオオノキに注意を促す。アカネか
修行不足ですよ﹂
あったから腰痛になるのです。無理というか、無駄とも言えますね。
﹁調子に乗りすぎですよオオノキ。そもそも、身体の使い方に無理が
して不安になったのは誰も知らない。
叫び出す。それを聞いたアカネが何らかのフラグが立ちそうな気が
生まれ変わったかのような気持ちにオオノキは舞い上がり、思わず
まさに新生オオノキである。
間 に そ の 痛 み か ら 開 放 さ れ た。骨 や 神 経 の 歪 み を 矯 正 さ れ た の だ。
絶えず鈍い腰痛に襲われていたオオノキは、マッサージを終えた瞬
ろうがイズナだろうが、もう怖い物はない
!
﹁こうして、忍の重鎮である各々や、侍である拙者が集まり馬鹿な話を
そしてそんな彼らを見てミフネも笑みを浮かべる。
に疎ましげに、されど楽しげに笑うアカネ。
オオノキの言葉から始まり、アカネを肴に笑う老人達。それを僅か
﹁こいつら⋮⋮﹂
!
697
!
!
して笑い合う。こんな時が訪れるなど、この歳になっても思いもせな
んだ⋮⋮﹂
そう呟くミフネに、誰もが聞き入った。そう、その通りだ。こんな
状況を誰が思い描く。かつては、いやほんの数週間前までは敵同然の
相手が集まり、互いに笑い合う。まさに夢物語だ。
皆がそう思い、今のこの状況に深い感慨を持つ。その中にあって、
アカネだけは違う想いに浸っていた。
﹁柱間と⋮⋮マダラ。この二人は夢見ていました。誰もが手を取り合
う世界を⋮⋮﹂
そして、アカネも。そんなアカネの想いを察したのか、この場の誰
よりも疑い深く、敵対心が強かったオオノキが言う。
﹁この戦争、必ず勝つ﹂
世界の行く末はその先にある。オオノキがその言葉を言い放つ事
は、他の誰よりも深く重みがあり、そしてこの場の誰もがそれに同意
698
する。
歳を取り、凝り固まった感覚を捨て、新たな目標を定める。生き方
が定まっている老人には難しい事だ。だからこそ、忍を代表する老人
達が平和を求めて同じ意識を持つ事が、何よりも世界が変わろうとし
ている証拠と言えた。
﹂
﹁その為にはしっかりと休養を取らんとな。日向の姫よ、ワシもマッ
サージをしてくれんかの。ギャハ、ギャハ、ギャハ
いた。
こうして老人達はリラックスしながら、明るい未来に想いを馳せて
の気持ちが分からない歳ではないので次の順番を待っていたりする。
を見て、ヒルゼンもダンゾウもやや頭を痛くする。だが自分達も彼ら
他の里や国の重鎮に甲斐甲斐しくマッサージをする木ノ葉の英雄
アカネは苦笑しつつも、影分身を使って両者にマッサージを行う。
﹁仕方ないお爺ちゃんお婆ちゃん達ですねぇ﹂
肩の凝りが疼く故に﹂
﹁確かに。では拙者もお願い致す。先程の土影殿を見ているとどうも
!
忍連合軍の戦争への準備は着々と進んでいた。潜入偵察隊によっ
て暁のアジトは割り出され、その戦力の一部も把握出来た。
一部、と言ってもその数はなんと十万。忍連合軍総数八万よりも多
い数だ。だが、それで怖気づく者は五影にはいなかった。
総大将である雷影から素早い指示が飛び、残る五影もそれに倣い細
かな指示を出し、作戦や準備が整っていく。忍界史上初の五大忍里と
侍による様々な混合部隊が作り出され、そして各里の忍の垣根を超え
る為の額当ても作られた。
〝忍〟。その一文字のみを印された額当てだ。木ノ葉隠れでも、砂
隠れでも、霧隠れでも、岩隠れでも、雲隠れでもない。ただ、忍。こ
こにあるのは国や里を超えて、忍の世を守る為に集まった忍なのだ。
という意味がこの額当てには籠められていた。
その意味を、我愛羅が忍達に伝える。
かつては敵同士であり、互いに憎みあっていた事もある。親兄弟、
仲間を殺され、憎んだ敵が傍にいる。当然そんな状況下で仲良く手を
組み合う事など出来ず、諍いを起こす者は複数現れた。
だ が、我 愛 羅 の 演 説 で そ れ も 収 ま る。今 こ こ に 敵 は い な い。皆 が
皆、暁 に 傷 つ け ら れ た 痛 み を 持 っ て い る。痛 み を 知 っ て い る。な ら
ば、そこに国や里の差はない。あるのはただ〝忍〟だ、と。
我愛羅の想いが籠もった真摯な言葉に、忍全てが賛同する。諍いを
起こしていた者達は互いに非を詫び、そして互いを認め合った。
この瞬間、忍連合軍の戦意は格段に上昇した。我愛羅が年若く風影
となった事に納得しない者達もいただろうが、今の我愛羅を見て風影
に相応しくないと考える者は最早いないだろう。
そうして忍連合軍が動き出す。史上最大の戦争である、第四次忍界
大戦が開戦した。
◆
火の国から見て北にある山岳。山岳の墓場と呼ばれる場所に、イズ
ナのアジトがあった。そこではイズナが忍連合軍が動き出すのを待
699
ち構えていた。
﹁動き出したか﹂
イズナは忍連合軍が準備を終えるのをわざわざ待っていたわけで
はない。マダラの輪廻眼を両掌に移植して、その反動にも耐え切っ
た。
だが完全に力が馴染むにはまだ時間が必要だったのだ。万華鏡写
輪眼を移植した場合も、それが馴染むのに時間を必要とする。輪廻眼
もまた同様だったのだ。
今のイズナはほぼ完全に四つの輪廻眼に馴染んでいる。その力は
イズナですら計り知れない程だ。
﹁ふ、早く試してみたいものだ。⋮⋮いかんな、まるで玩具を与えられ
た子どもだな﹂
新たな力を振るいたくて堪らない今の自己の心境を、イズナは正確
に評する。だが初めから力を振るっては余興の意味がないと、イズナ
700
は自らを戒めた。
そう、余興なのだこの戦争は。忍界の全てが手を組み、力を合わせ
て立ち向かう彼らの意思も、イズナにとっては余興に過ぎなかった。
イズナは既に得ているからだ。十尾に至る尾獣のチャクラ、その全
てをイズナは手に入れていた。一尾から七尾までは言うまでもなく
外道魔像に封印済みだ。ならば残る八尾と九尾はどこに
九尾と戦い、食べられるも腹の中で生き延び、九尾のチャクラ肉を
や当時の忍界でも比べる者が少ない程であった。
二人はかの六道仙人の末裔であり、その力はまさに雲隠れでも、い
る。それが兄の金角と、弟の銀角の金銀兄弟である。
かつて、雲隠れの里にて﹁雲に二つの光あり﹂と謳われた忍達がい
補っていた。
印 さ れ て い る。そ し て、残 る 九 尾 の チ ャ ク ラ。そ れ は 穢 土 転 生 に て
一部と言えど八尾は八尾。そのチャクラは多少は外道魔像へと封
だが。
尾の足の一部であった。正確には大蛇丸はわざとビーを見逃したの
その答えの一つは、ビーが大蛇丸の目を誤魔化す為に切り捨てた八
?
喰らいながら二週間も暴れ続け、堪らず九尾が二人を吐き出して生き
長らえたと言えばその実力の一端が理解出来るだろうか。
しかもその際に九尾のチャクラを持つ様になったのだ。金銀兄弟
は雲隠れが集めた六道仙人の宝具の内、四つを所有しており、本来な
ら使用するとあまりのチャクラ消費に死亡するとまで言われるそれ
らの宝具も、九尾のチャクラのおかげで何の問題もなく扱えた。
金銀兄弟はその力にて二代目火影扉間に致命の傷を与えた事もあ
る。もっとも、扉間一人に対し、金銀兄弟は二十人の部隊で相手にし
ていたのだが。
この場合はその状況から部下が逃げ切る時間を稼ぎ、その上で自ら
も木ノ葉隠れまで逃げ切れた扉間を褒めるべきだろう。おかげで扉
間は致命の傷を負うも、ヒヨリによって治療されて生き長らえたのだ
から。
そんな金銀兄弟もとうの昔に亡くなっている。だが、それを覆す禁
術がこの世にはあった。そう、穢土転生である。
穢土転生にて蘇った者は生前と同じ力を再現されている。あまり
に強すぎた場合は再現しきれないが、金銀兄弟に宿った九尾のチャク
ラを再現する事も可能であった。
その金銀兄弟を外道魔像に封印する。そうすれば九尾のチャクラ
の一部だが、外道魔像に封印した事になる。
この二つ、八尾の一部と金銀兄弟はあくまで代用品だ。だが、代用
品でも十尾を目覚めさせるには十分だった。
代用品ゆえに十尾は完全体としては復活しない。だがそれでもイ
ズナには問題なかった。イズナの目的はあくまで無限月読による永
遠の平和。その術は十尾が復活してさえいれば組む事が可能なのだ。
目的に至る手段をイズナは既に得ていた。だからこそ、この戦争は
余興でしかないのだ。戦争の結果に関わらず、イズナは目的を果たせ
るのだから。
と言ってもイズナは戦争で負けるつもりは毛頭ない。代用品は用
意しているとはいえ、八尾と九尾を捕らえて完全な形で十尾を復活さ
せた方が良い事に変わりはないのだ。
701
そして何より。自分達の世界を守ろうとする今の世の忍や、日向ヒ
ヨリの力と意思をへし折る事が出来ると思うと、負けても良い等とは
││
イズナには到底思えなかった。
││口寄せ・穢土転生
﹂
﹂
くくく、お前達が何かをする必要はない﹂
﹁⋮⋮どういう意味だ
﹁どうする、だと
﹁てめーなにもんだ。オレ達を蘇らせてどうするつもりだ﹂
﹁そうだ金角、銀角。お前達は穢土転生によって蘇った﹂
る。だが、金角はどうやら自らの現状に思い至ったようだ。
蘇った金銀兄弟は死んだ時の記憶を思い出し、現状に戸惑ってい
﹁オレは⋮⋮オレ達は確かに死んだはず⋮⋮いや、これはまさか﹂
﹁⋮⋮なんだぁ
イズナは穢土転生にて贄である金銀兄弟を浄土より口寄せする。
!
で利用させてもらう事にした﹂
﹂
﹂
しく敗れるだけだ。それでどこぞに封印されても困るのでな。ここ
﹁戦場に出した所でお前達程度、日向ヒヨリの手に掛かれば塵芥に等
を放った。
そんな金銀兄弟に対し、イズナは二人の誇りを傷つけるような言葉
何もする必要はないというイズナに金銀兄弟は訝しむ。
穢土転生にて蘇らせたならば、それなりの意味があるはず。だが、
?
?
た二人だ。イズナの今の言葉がどれほど癇に障ったか。
元々激情しやすい二人はイズナの言葉に切れ、その力を開放する。
尾獣化である。人柱力以外で尾獣化を成せる者は金銀兄弟を除いて
この世にはいない。その力は小さな九尾と言えるだろう。
だが、それで終わりだ。尾獣化した所で二人は穢土転生の肉体。術
﹂
者であるイズナに対して逆らう事は出来ない様に術を組み込まれて
いた。
﹁ぐ、ぐおお
!
702
?
オレ達を舐めてんのか
﹁なんだと
﹁てめー
!!
!?
騙し討ちとはいえ、二代目火影を追い詰め、二代目雷影を討ち取っ
!
﹁身体が⋮⋮動かねぇ
﹂
尾獣化しようとも、イズナの穢土転生に逆らう事は不可能であっ
た。これに曲りなりにも逆らう事が出来るのはうちはマダラくらい
⋮⋮いや、それももう不可能と言うべきか。
四つの輪廻眼を得たイズナの力は今までよりも遥かに増していた。
それは穢土転生に逆らっていたマダラの意思を容易く封じる程にだ。
もう、マダラはイズナの力に抗う事は出来ないのだ。
﹁無駄にチャクラを放出するとはな。おかげで日向ヒヨリが気付いた
だろうが。まあ、どうでもいいがな﹂
そう、この瞬間にアカネは九尾のチャクラを放つ存在に気付いてい
た。どれだけ遠く離れていようと、尾獣化する程のチャクラを放てば
アカネが気付かぬ訳が無い。
同時に九尾のチャクラを引き出せる様になったナルトも、金銀兄弟
が放つ九尾のチャクラを察知していた。今頃は疑問に思ってビーに
相談している事だろう。
﹄
﹁さて、金銀兄弟よ、復活ご苦労だった。ではお別れだ﹂
﹃うおおおおおッ
れる。これで全ての尾獣のチャクラが外道魔像に封印された、という
訳ではなかった。
今の外道魔像には二尾から七尾までの尾獣が封印されていなかっ
た。それはイズナが穢土転生を利用して新たな戦力を作り上げてい
た事が原因である。
イズナは暁によって捕らえた人柱力を六道の力にて操り、その身体
に再び尾獣を封印したのだ。言うなればイズナ流のペイン六道であ
る。
そして人柱力に尾獣を封印しても、その封印の大本は外道魔像に繋
がっている。つまり人柱力に何かあったとしても、尾獣は外道魔像の
中に戻る様に細工が成されていた。これならばアカネや忍連合軍が
何をしようとも問題はない。
更に名だたる忍の穢土転生体が無数。イズナが暗躍しつつ集めて
703
!
そうして、金銀兄弟は何もする事が出来ずに、外道魔像へと封印さ
!?
いた者達だ。そして白ゼツ十万体。穢土転生という質、白ゼツという
数。二つを揃えたならば、忍連合軍にも劣らないだろう。
﹁さあ、余興を始めよう。頼むから、兄さんやオレが出てくるまで耐え
てくれよ。そうでなくては興ざめだ﹂
そうしてイズナが動き出す。史上最大の戦争である、第四次忍界大
戦が開戦した。
◆
戦端が開かれてから僅か一時間足らず。既に両軍は様々な場所で
ぶつかり合っていた。
戦争と言っても、ただただ正面から軍勢同士をぶつけ合う物ではな
い。忍連合軍は幾つもの部隊に分かれており、それを狙って暁の軍勢
も分散して攻め入っていた。
││
704
多くの血が流れる戦場。その趨勢は、忍連合軍に傾いていた。
││土遁・開土昇窟
数の利と命を惜しまぬ勢い。その二つによって忍連合軍にも被害
ひたすらに前に進んでいく。
て更に押し切ろうとする。死を恐れぬ白ゼツ達は自らの命を武器に
一瞬にして無数の白ゼツ達は命を失っていく。だが、敵は数に任せ
必要はなく、誰もが全力の一撃を放っていく。
眼前はどこもかしこも敵だらけだ。術が外れるという心配をする
ける。
瞬間に掛かる部隊長の号令と共に、幾多の忍達が白ゼツに攻撃を仕掛
だがそれに怯む者は忍連合軍にはいなかった。白ゼツが溢れ出た
や万に及ぶだろう。
す。瞬間、雲霞の如く地中より溢れ出す白ゼツ達。その数は数千、い
地中を移動する白ゼツの大軍を、岩忍が土遁にて地中より追い出
!
││
が出始める。だが││
││牙狼牙・廻
!
キバが双頭狼となりて、全身からチャクラを放出させつつ高速回転
││
で敵を蹴散らしていく。
││八卦空壁掌
││
水遁・爆水衝波
雷遁・千鳥流し
││
!
にて無数の敵を鎧袖一触する。
││土遁・土流割
!
シノが蟲を大量に操り多数に攻撃を仕掛けつつ、その類稀なる体術
││蟲玉
出して敵を飲み込んでいく。
ヒナタとネジが同時に八卦空壁掌を放ち、更に強大な衝撃波を生み
!
対応が遅れた理由はそれだけではない。敵は過去の人物達。つま
達に苦戦し、対応が遅れていたのだ。
に穢土転生対策をシミュレーションしていた忍達も、穢土転生の強者
もっとも、強大な敵を相手にそれを行う事が困難なのだが。戦争前
ようがない。
て封じればいいのだ。そうすれば如何に不死身であろうとも足掻き
与えてもすぐに再生するならば、まず動きを封じ、その後に封印術に
だが、穢土転生を無効化する為の手段は構築済みであった。外傷を
の化け物という理由もあって開始当初は忍連合軍に被害が多かった。
敵は一体一体が里や歴史に名を残す程の存在であり、その上不死身
うだ。
が、いざ名だたる忍の面々と立ち向かうとやはり戸惑う事はあったよ
あらかじめ穢土転生による敵の存在を示唆されていた忍連合軍だ
別の戦場では穢土転生との遭遇戦が開始されていた。
て味方の損耗は予想よりも少なくすんでいた。
を与えていた。当然他の忍達も彼らに負けじと力を振るい、結果とし
アカネと、そしてアカネによって大きく成長した者達が敵に大打撃
に雷遁を流し込んで一気に殲滅する。
の裂け目へとさらけ出し、水遁にて大地の裂け目を敵ごと埋め、そこ
そして影分身のアカネが土遁にて大地を割り、未だ地中の敵を大地
!
りはかつての同胞であったり、恩師、親友、家族等と、忍連合軍の戦
705
!
う意思を削ぐ様な相手もいたのだ。
それらの穢土転生達はイズナによって意思を縛られて無理矢理に
争わされている。それが分かっていても、親しかった者達に刃を向け
るのを躊躇う者は少なからず居た。
だが、だからと言ってむざむざ殺される訳にもいかない。敵が知人
だからこそ、その地獄から解放してやりたいと全力を尽くす者もまた
ザ
ブ
ザ
存在していたのだ。
﹁再不斬⋮⋮白⋮⋮すぐに楽にしてやるからな﹂
カカシが二人の穢土転生に向かってそう呟く。
鬼人・再不斬。かつてナルト達が少年時代に戦った元霧隠れの忍。
サイレントキリングと呼ばれる無音暗殺術の腕前は右に出る者がな
いと言われた程の忍だ。
そして白。再不斬に付き従う少年であり、氷遁と呼ばれる血継限界
の所有者である。
706
イズナに穢土転生の駒として選ばれただけに、両者ともにその実力
は高い。当時のナルト達が勝てたのはカカシの存在と、ナルトとサス
ケの潜在能力の一部が開花した為だ。そうでなくてはナルト達は今
を生きてはいなかっただろう。
そんなかつての強敵だが、二人はナルトにとって特別な敵だった。
ただ強く恐ろしいだけでなく、その生き様や死に様はナルトに強い影
響を与えていた。そして何より、この二人もナルトを気に入っていた
のだ。最後にナルト達と戦えた事を良かったと言える程に⋮⋮。
カカシにとっても、生死を懸けて戦った敵である再不斬の事を少な
からず尊敬している。そんな再不斬と白が無残にも操られて争いを
強制されているのを見て、カカシの中に沸々と怒りが湧いていた。
敵は再不斬と白だけでなく、他にも無数の穢土転生体がいた。数で
再生する暇を与えるな
言えば忍連合軍が勝っているが、その質は確実に穢土転生達の方が上
だろう。⋮⋮極一部を除けば、だが。
﹂
﹁オレが倒した者から順に封印術を掛けろ
よ
!
部隊長であるカカシがそう叫び、そして瞬身の術にて一瞬でその場
!
から掻き消える。
カカシの狙いは再不斬だ。既に戦場は再不斬の得意術である霧隠
れの術にて濃霧に覆われて視界が失われていた。
視界が役に立たないこの状況では、忍連合軍の多くが戦力半減とな
るだろう。それを解除する為にも再不斬を真っ先に封印する。それ
がカカシの狙いだった。
アカネとの修行で身に付けた雷遁の鎧を身に纏い、身体能力を最大
限に活性化させたカカシの動きを見切れた者は殆どいなかった。
だが、こと速度という一点でカカシを上回る者がいた。それが白で
ある。氷の鏡を無数に生み出し、その鏡の反射を利用して一瞬で移動
する秘術を白は持っている。
それを利用して白は再不斬の前に立ち、カカシの雷切を受け止め
る。意思がなく、死すらない穢土転生だからこその庇い方だ。だがそ
れは、かつての白が再不斬を庇った時と皮肉にも一致していた。
白によって動きを封じられたカカシに向けて、再不斬が彼を象徴す
る武器である首切り包丁を振るう⋮⋮と見せかけて、再不斬は大地に
向けて首切り包丁を振り下ろした。
その一撃によって大地は砕け、その下から現れたカカシに首切り包
丁の一撃が命中する。そして、そのカカシは音を立てて消滅した。
あらかじめ作っていた影分身に、地中を掘り進めて奇襲させようと
していたのだ。そして、それを再不斬は見抜いた。再不斬はサイレン
トキリングの達人だ。それ故に音で気配を察知する技術に長けてい
たのだ。
かつてカカシと再不斬が戦った時は、似たような戦法にて地中から
の奇襲に対応出来なかった事が、今の再不斬に活きたのかもしれな
い。最適な行動をする様に操られていたのもこの奇襲を察知出来た
理由の一つだろう。
そして再不斬は、白に動きを止められているカカシに向かって今度
こそ首切り包丁を振り下ろそうとする。動きを止めている白ごとに
だ。イズナによって感情を制御されている穢土転生に、仲間を巻き込
む事に対する躊躇いなどなかった。
707
そして再不斬は⋮⋮上空からのカカシの奇襲によって袈裟切りに
﹂
裂かれた。
﹁⋮⋮
全てはカカシの術中であった。本体の攻撃も、地中の奇襲も、全て
は囮。本命は空中に飛ばしておいた二体目の影分身であった。
本体が雷遁の鎧を帯びる時に発する音も、地中を掘り進む音も、空
中からの奇襲を悟らせない様にわざと立てていたのだ。そして、攻撃
する一瞬のみに雷切を発動し、その類稀なる切れ味にて再不斬を切り
﹂
裂いたのだ。
﹁今だ
カカシの合図と共に封印術の使い手が再不斬と白を封印する。途
端に戦場を覆っていた霧は晴れ渡り、視界は元に戻った。
封印されていく再不斬と白を見ながらカカシは思う。かつての再
不斬も自分を庇った白もろともにカカシを斬り殺そうとした。だが、
その時の再不斬には白を斬る事に躊躇いを持っていたのだ。
そして、白が死んだ事に内心で動揺し、その動きは精彩を欠き、互
角に戦っていたカカシに呆気なく敗れたのだ。それは忍としては失
格の感情なのだろう。だが、再不斬が感情のある人間である証拠でも
あった。
そんな人間を、感情のない道具にまで貶め、争わせる。再不斬と白
﹂
の二度目の死に様を見たカカシはここに誓った。こんな戦い、一刻も
残る全ての穢土転生を封印する
早く終わらせてやる、と。
﹁行くぞ
﹄
!
カカシの号令と共に、忍連合軍と穢土転生の争いは激化していく。
﹃はっ
!
708
!?
!
!
NARUTO 第三十六話
両軍あわせて二十万近い忍達が争う第四次忍界大戦は、忍連合軍の
優勢で進んでいた。
里や国の垣根を超えて手を取り合った忍達は、自軍よりも数多い暁
の軍勢に真っ向から立ち向かい、そして撃破していた。
強大な力を誇る穢土転生の忍達には手を焼かれていたが、現代にも
過去の傑物に勝るとも劣らぬ忍が存在する。そんな彼らが率いる軍
勢は、過去の忍にも負けじと対抗していた。
そして何より、数の有利という物を覆す存在が忍連合軍にいた事
││
も、忍連合軍が優勢に事を進められている要因だろう。
││水遁・八卦水壁掌
点ではなく面を重視した忍術により、数千という白ゼツ達が消し飛
んで行く。
地上を行く者はことごとく蹴散らされる。ならば地下からこの化
け物をやり過ごし、別の部隊を叩く。それが白ゼツ達の判断であっ
た。
だがその考えは、白ゼツ達が化け物と称する者相手には無意味な考
えであった。
﹁地下を通り過ぎるつもりか⋮⋮無駄な事を﹂
白眼にて地下を透視出来るこの存在に対し、その行動は容易く見透
かされる。
││
そして、出て来ないならばそれでいいと言わんばかりに、化け物は
その力を振るった。
││土遁・螺旋土流削
印を組み大地に手を当てる。それでこの忍術は発動した。
地下の土や岩を螺旋状に操作し、そのまま高速で乱回転させるとい
﹂
う忍術だ。当然、その場に潜んでいた白ゼツ達はミキサーに掛けられ
アカネちゃん一人で片付けないでくれよ
たが如くにすり潰されていく。
﹁ちょっとちょっと
!
709
!
!
アカネが個の力にて数を圧倒しているのを傍目で見ていたオビト
!
は、自分が何もせずとも敵が全滅していく事に焦りを覚えた。
オビトもアカネの強さを理解しているが、それでも自分より一応は
年下の少女が活躍し、自分は何もしていない等というのは我慢出来な
いようだ。
そうしてオビトもその力を発揮する。影分身を作り、アカネの土遁
││
││
で出来た大穴に向けて術を放つ。
││風遁・真空大玉
﹁よし
どんなもんよ
﹂
達を飲み込んでいったのだ。
風の勢いを備えた炎は、岩の隙間や穴に入り込み、生き残った白ゼツ
豪 炎 乱 舞 は ア カ ネ の 土 遁 の 範 囲 外 に い た 白 ゼ ツ 達 に 降 り か か る。
体忍術の一つ、豪炎乱舞である。
わせ、強大な業火と化して敵を焼き尽くす。これがオビトの大軍用合
いた火遁。その二つを影分身によって完全に同等のチャクラ比で合
修行により新たに会得した風遁と、うちは一族として元より備えて
││火遁・豪龍火の術
!
修行の成果は本番で発揮出来てこそ意味がある。その点で言えば
オビトは十分にアカネの中で合格点であった。
既にアカネとオビトだけで万を超える白ゼツを倒している。これ
だけで他の忍連合軍の負担は非常に減るだろう。
だが、アカネの本命はあくまでマダラ、そしてイズナだ。その二人
が出てこない今、全力で戦場を動き回る事は難しい。
だからと言って敵を放置する訳にも行かず、消耗しない程度に無理
せず敵を間引いていたのだ。まあ、今程度の消耗では消耗とも言えな
いのだが。それでも敵が強大な上に未知数なので、どうしても全力を
出す訳にはいかなかった。
これは⋮⋮
﹂
﹁さて、イズナはいつ出てくるつもりなのか⋮⋮。高みの見物でもし
ているのでしょうね、全く。⋮⋮ん
!
何かに反応した。
アカネがまだ動かぬイズナに対し僅かに不満を零した時、アカネが
?
710
!
!
﹁ええ。素晴らしい一撃でしたよ﹂
!
﹁どうしたんだアカネちゃん
﹁なら何があったんだ
﹂
ぐ戦場に向かっていますよ﹂
まさかナルトに何かあったのか
﹂
﹁いえ、ナルトに変化はありません。ビー殿と一緒にそのまままっす
るのは当然と言えた。
けに等しい。そうなる訳には行かず、オビトがナルトの安否を確認す
ビー、つまり九尾と八尾が暁に捕らえられたら、その時点で戦争は負
だが、この戦争はナルトを守る為の戦争でもあるのだ。ナルトと
うのうと安全な場所で過ごすなど出来る訳がない。
もナルトの気持ちは理解出来る。皆が命を懸けている中、自分だけの
を少しだけ困った風に、そして嬉しそうに笑っていた。オビトとして
アカネはこうなる事を予想していたらしく、ナルトが飛び出したの
ネが察知していたのだ。
ルトが木ノ葉隠れや雲隠れの監視を超えて島を抜け出したのをアカ
に向かっているからだ。ナルトに何があったのかは分からないが、ナ
オビトがナルトの事を心配している理由は、ナルトが現在この戦場
化があったのかと心配していた。
アカネの反応にオビトも気が付く。そして問題のナルトに何か変
?
カネはそれに対して難しそうな表情で考え込み、そして急に笑顔を見
せた。
﹁ふ、ふふふ。ああ、いえ、すみません。少し、いやかなり嬉しい事が
あったものでして。ふふふ﹂
急に機嫌良く笑い出したアカネにオビトは怪訝に思うが、アカネは
その真相を話す事はなかった。
﹁さあ、敵の数は減っていますが油断は禁物ですよ。穢土転生で復活
﹂
した忍は強敵揃いですからね。これから他の部隊の救助に行きます
よ﹂
﹁おう
い事だろうとオビトは判断し、アカネの言う様に次の戦闘に向けて気
711
?
ならば先程の反応は何だったのか。それが気になるオビトだが、ア
?
アカネの変化は気になるが、アカネが何も言わないならば問題はな
!
を入れ直す。
そうして二人は別の戦場へと飛び立った。この時のアカネの反応
がどういう意味を持つのか、それは後ほど判明する事となる。
時の流れが緩やかに感じる戦争という極限の環境。だが、それは戦
争を体験している者達の主観であり、例えどんな環境だろうとも時間
は等しく流れる。
既に戦争が始まって半日以上が経過しており、周囲は夜の闇に覆わ
れていた。そして戦争もまた、夜に合わせて変化するのであった。
忍連合軍は医療部隊を中心として組み立てた陣地にて負傷者の手
当てを行い、交代しながらの休息を取っていた。
だが、夜になったからと言って戦争が終わらない限り、争いもまた
終わる事はない。油断する事なく警戒を強め、感知能力の高い忍によ
る警戒網を構築していた。
しかし、白ゼツの能力はその警戒すら超えるものであった。
白ゼツは対象に触れる事で、その対象のチャクラを吸収する能力を
持っている。だが、白ゼツの真価はその能力ではない。
白ゼツは吸収したチャクラの持ち主と完全に同一の見た目に変化
する事が出来るのだ。しかも、そのチャクラ性質まで完全に一致する
程の変化だ。まさに忍界一の変化の術と言えよう。
忍連合軍は変化の術を代表とする術に対して、チャクラ性質を見極
める事で敵か味方かを判断する様にしており、陣地へと入るにはその
検査を通らなければならない。
事前に登録されたチャクラ性質と合致しなければ、その瞬間に敵と
見なされて拘束される事になるだろう。
それだけ厳重な警戒だが、白ゼツには通用しなかった。チャクラ性
質まで完全に真似るという変化の術の前では、感知タイプの忍の検査
も意味を成さないのだった。
忍連合軍の忍に変化した白ゼツは、易々と連合軍の陣地に侵入し、
そして闇に紛れて静かに、そして確実に連合軍の忍を暗殺していく。
例え死体が見つかり侵入を察知されても、白ゼツの変化の術を見抜
712
く事は出来ない。事が大きくなっても、白ゼツは悠々と連合軍の忍を
殺して行くだろう。⋮⋮そこに、理不尽に人の皮を被せた存在がいな
ければ、の話だが。
白ゼツは変化の術を駆使し、さも味方の様に連合軍の忍に近付いて
いく。
陣地の中にいるのは味方。その常識が連合軍の危機感を奪い、殺気
を隠して近付いてくる白ゼツに胸襟を開いて対応してしまう。
警戒心のない者を殺す事など白ゼツには容易い。周囲に多数の目
がない場所にいる忍は、白ゼツにとって格好の得物だった。
そして今また、白ゼツによって新たな犠牲者が⋮⋮出る瞬間に、白
﹂
何をする気だ
﹂
ゼツの動きを止めた者がいた。
﹁なっ
﹁お、お前
する。
﹁ふっ
﹁があっ
﹂
﹂
そしてアカネは白ゼツの驚きを無視して、そのまま白ゼツを無力化
受けそうになった忍が驚きの声を上げる。
動きを止められた白ゼツと、そして仲間だと思っていた者に奇襲を
!?
﹂
!
﹂
ですが、悪意や殺意は消す事は出来ていませんよ。次があれば意を消
能力はそれなりに高いと自負しています。チャクラ性質はそっくり
﹁あなたの変化の術は確かに忍一かもしれません。ですが、私も感知
⋮⋮
﹁ば、馬鹿な⋮⋮ボクの変化の術は忍一だ⋮⋮。どうやって見抜いた
なったらそれも当然だろう。
た 忍 は 驚 愕 す る。こ れ だ け の 警 戒 網 を 超 え て 敵 が 侵 入 し て い る と
突如として仲間から敵に変化した光景を見て、暗殺されそうになっ
﹁こ、こいつは
その衝撃で、白ゼツの変化の術は解けてしまった。
一瞬で宙に浮き逆さとなり、大地に叩き付けられる白ゼツ。そして
!?
713
!
!?
!
?
す修行に専念するんですね﹂
ア カ ネ に も 白 ゼ ツ の 変 化 の 術 を 見 た だ け で 見 抜 く 事 は 出 来 な い。
だが、完全に対象を真似る事が出来ても、その心まではそうではない。
アカネは白ゼツの忍連合軍に対する悪意や殺意から、その正体はと
もかく不審人物だと確定したのだ。そして気配を消して後をつけ、そ
の犯行の寸前を確認したという訳だ。
﹁この白ゼツはどうやらチャクラすら真似て変化できるようです。恐
﹂
らくチャクラを吸収した対象に化ける事が出来るのでしょう。その
﹂
旨を本部へと通達してもらえませんか
﹁わ、分かった
忍連合軍一の切れ者である奈良シカクは悩み、だが冷静に思考す
区別がつかないこの状況をどうすれば切り抜けられるか。
と本部にも伝わったのだ。だが、問題なのはその対応策だ。敵味方の
そんな中に医療部隊から連絡が入る。敵の正体は白ゼツの変化だ
がなく、敵の正体に想像を重ねるしかなかった。
もなお敵が見つからない。正体が分からないままでは対応のしよう
夜襲の動きはなく、防壁を張り、感知タイプの忍を置いて、それで
ちされている中、その犯人は欠片も正体を見せていないからだ。
連合本部では現場の混乱に頭を悩ませていた。現場の仲間が闇討
配置されているので、被害は抑えられるとは思うが。
カネ一人では出来る事に限りがある。まあ、各部隊に一体の影分身が
本部に通達されればその対応も早く成されるだろう。影分身のア
報が必要なのだ。
なる変化の術を成している。ならば、その結果が重要であり、その情
外れているか当たっているかはともかく、結果として白ゼツは完全
細を大まかに予測する。
大蛇丸から得た白ゼツの情報から、アカネは白ゼツの変化の術の詳
?
⋮⋮どうやら、各部隊に配置されて
る。何か手はあるはずだ、と。その時だ。新たな情報が連合本部へと
送られてきた。
﹁⋮⋮待て、また連絡が入った
!
714
!
その方法はなんだ
白眼か
﹂
いる日向アカネが敵の変化を見破れるようだ⋮⋮﹂
﹁なに
!?
出来るか
﹂
﹁⋮⋮なるほどその手があったか。その方法を全部隊に通達って⋮⋮
﹁⋮⋮白ゼツの悪意や殺意を感知した、だそうです﹂
方法を一刻も早く知りたいと思うのは当然だろう。
見破る方法が全体に通達されれば、被害は最小限に抑えられる。その
闇の中に光る一筋の光明にシカクが声を荒げる。白ゼツの変化を
!?
互いの意見は平行線であった。そしてナルトは強引にでもこの場
を巡る戦争を他人任せにする事などナルトには考えられないのだ。
当然ナルト達は綱手達の言葉に反対する。誰に言われようと、自分
だろう。
では遅いのだ。総大将であるエーと綱手が出向くに値する重要案件
エーと綱手が向かっていた。ナルトとビーが暁に捕らえられてから
島 亀 か ら 脱 出 し た ナ ル ト と ビ ー。そ の 二 人 を 取 り 押 さ え る 為 に
だが、そのシカクの悩みも無意味なものであった。
苦茶である。
ルトを守る為の戦争にナルトを投入する。完全に目的と手段が滅茶
そう判断したシカクだが、それは本末転倒だとも気付いている。ナ
の変化を見抜ける可能性は高い。
として記録に残っている九尾の人柱力の力ならば、より明確に白ゼツ
シカクにはアカネの感知がどの程度の精度かは分からない。情報
感知する事が出来るという物だ。
れは、九尾の力を自在に操れる様になった人柱力ならば、敵の悪意を
そして十数分。シカクはとうとう目的の情報を見つけ出した。そ
は九尾とその人柱力に関する資料を漁り、情報を調べ出す。
だがその時、シカクの脳内にある閃きが走った。次の瞬間にシカク
は内心で叫んだ。
外にそれが出来る存在がいてたまるかと、アカネの正体を知るシカク
冷静なシカクですら思わず突っ込んでしまったようだ。アカネ以
!!
を突破しようとし、エーはナルトを殺してでも止める決断をした。
715
!
九尾の人柱力であるナルトが死ねば、同時に九尾も一時的にだが霧
散する。いずれはチャクラが集合し元の尾獣へと戻るが、それまでに
はしばらくの時間を必要とする。その間はイズナの目的を防ぐ事が
出来るという判断だ。
流石の綱手もそれには反対を示す。だがそれは、総大将として戦争
を勝利に導く責任があるエーの耳には届かなかった。
そんなエーに真っ向からぶつかったのがビーだ。殺すならばナル
トではなく自分を殺せとまでビーは言う。それ程までにビーはナル
トを信頼していた。
だがエーとしては人柱力として完成されているビーの方が、ナルト
よりも戦力として安定しているという判断で、ビーを生かそうとす
る。そ こ に 兄 と し て の 私 情 は 挟 ん で い な い だ ろ う。必 要 と あ ら ば
ビーを殺す覚悟すら固めているのだから。
エーの意思に反対するビーに対し、エーは人柱力とは国や里のパ
ワーバランスであり、力の象徴であり、特別な存在だと諭す。個人の
感情で好き勝手に動いていい存在ではないのだ、と。
だが、ビーは人柱力にも人としての心があると反論する。それを無
くしたら、人柱力はただの兵器に陥ってしまうのだと。
ラ リ アッ ト
それでも己の意思を変えないエーに対し、ビーもまた己の意思を見
せ付けた。
互 い の 得 意 技 で あ る 雷犂熱刀 を ぶ つ け 合 う 二 人。こ の 体 術 は 敵 を
中央に挟み、互いに同等の力で敵の首に放つ事でその首をねじ切ると
いう荒業である。
だが、このぶつかり合いでビーはエーに勝利した事はなかった。完
全に互角の威力を出してこそ、初めて雷犂熱刀は真価を発揮する。な
のでビーは過去に宣言していた。いつかはエーを追い抜くと。エー
が自分に合わせるのではなく、自分がエーに合わせるようにしてやる
という意気込みだった。
そして今この時、ビーはその発言を真実に変えた。そう、ビーの雷
犂熱刀がエーの雷犂熱刀を凌駕したのだ。
いつの間に自分を追い抜いたのか。そう驚愕するエーに、ビーは告
716
もと
げる。力だけが人柱力ではない。もっと強い力の基が入っているか
ら、信じるものがあるから、強くなれるのだと。
ビーのいう信じるもの。それはかつてエーがビーに対して告げた
言葉だ。﹁お前はオレにとって特別な存在。オレ達は最強タッグだ﹂、
それがエーの言葉だ。それを信じて、ビーは強くなろうとし続けたの
だ。
それをようやくエーも思い出した。雷影となり、ビーを対等な相棒
という立場から、里にとって重要な人柱力として見るようになってし
まったエーが忘れてしまったかつての言葉。それをビーは片時も忘
れていなかった。
ビーの言葉にエーも揺らいでいた。そして綱手に至っては、ナルト
の覚悟と想いを聞きナルトに賭ける事にした。ナルトならば必ずや
忍の皆を守る事が出来ると信じたのだ。
だが、それでも簡単に考えを改める程に、エーの頭は柔らかくな
かった。エーにとって覚悟とは力だ。力のない覚悟などなんの意味
も持たない。故にエーは、己の全力をもってナルトの力を確かめた。
雷遁の鎧のマックス状態。その速度は忍一とも言われている。そ
の力にて、ナルトを殺すつもりでエーは全力で攻撃した。
そしてその一撃を、ナルトは完全に見切って躱しきった。その速度
はナルトの父であるミナトの異名、〝黄色い閃光〟を綱手が思い出す
程であった。
ナルトの覚悟と、そしてそれを裏付ける力を見たエーは、ナルトを
信じる事にした。
総大将であるエーに完全に認められて、今ここにナルトが戦争に参
戦した。
◆
エーからの信頼を得たナルトは戦場へと向かい、そして早速八面六
臂の活躍を成す。
九尾チャクラモードと呼ばれる状態となったナルトは、その感知能
717
力にて敵の悪意を感知する。例え白ゼツが完全に変化をしていたと
しても最早無意味であった。
元々アカネによって数を減らされていた白ゼツ達は、ナルトによっ
て更に数を減らす事になる。
更 に ナ ル ト は ま だ 戦 場 で 暴 れ て い る 穢 土 転 生 体 の 封 印 に も 一 役
買っていた。ナルト自体に封印術はないが、その圧倒的な力で穢土転
生の忍を打ち倒し、再生する前に他の忍が封印していったのだ。
そしてアカネはそんなナルトの活躍を遠くから感じ取り、やはりこ
うなったかと苦笑する。あのナルトがいつまでも大人しくしている
訳がないのだ。そんな事は短くない付き合いで理解していた事だ。
だが、ナルトをこのまま放置する訳にはいかなかった。九尾のチャ
クラを引き出せる様になったナルトは今までよりも遥かに強さを増
している。それでもなお、マダラ相手だと勝ち目は薄いと言えるレベ
ルであった。
いや、マダラを相手に僅かでも勝ち目がある時点でナルトを褒める
べきだろう。若干十七歳足らずでは破格の強さと言える。このまま
成長すればいずれは、とさえ思わせる成長速度だ。
しかし問題は未来ではなく今なのだ。今のナルトではマダラを相
手に勝ち目は薄い、それが重要なのだ。ナルトとビーが捕らえられれ
ばその時点で終わりに等しい、そうさせる訳には行かないアカネはナ
ルトの傍へと移動する。
アカネの作戦上でもその行動は間違ってはいない。マダラはイズ
ナの持つ戦力でも最上級。ならばナルトとビーを捕らえる為に動か
す可能性は高いと言えた。
そしてアカネの予想は半分だが当たっていた。イズナもまたナル
トのチャクラを感じ取り、そして穢土転生から得た情報もあってその
位置をより正確に特定していた。
当 然 イ ズ ナ は ナ ル ト と ビ ー か ら 尾 獣 を 奪 う 為 に 戦 力 を 繰 り 出 す。
いくら代用品があるとはいえ、やはり本物の尾獣を捕らえた方がより
確実なのは間違いないのだ。
そしてアカネの予想の外れた半分。それは繰り出す戦力にあった。
718
イズナはここにあってもマダラを温存し、マダラ以外の強力な戦力を
ナルトとビーにぶつけたのだ。
それがかつての人柱力達であった。
暁に捕らえられて尾獣を抜かれ、死した後も六道の力にて操られ利
用される。この所業にはビーすら怒りを覚えた。
輪廻眼を植えつけられ、イズナの六道と化した六人の人柱力達。し
かも彼らは蘇った後に再び尾獣を封印されていた。つまり、生前と同
じ、いや輪廻眼のおかげでそれ以上の力を振るえるという事である。
そして今のイズナの力は、六人の人柱力全てを六道の力を付与さ
せ、その上尾獣化させてなお余裕があった。
輪廻眼の視界共有と六道の力を持つ六体の尾獣化した人柱力。対
してナルトとビーは二人。しかも尾獣化を可能としているのはビー
のみだ。いかに九尾が最強の尾獣であり、ビーが完全なる人柱力と言
﹂
り出せる程にナルトは成長していた。
﹂
だが敵は六道人柱力。餓鬼道の力を持つ者が螺旋手裏剣を吸収す
る事で容易く難を防いだ。
﹁こいつら全員長門のと同じかよ
覆す事は出来ないでいた。
﹁はっきり言って無茶苦茶やばいぜバカヤロー
コノヤロー
﹂
!
だが、そんなビーに対しナルトは笑みを浮かべて言った。
流石にこれはまずいと考えているようだ。
あまりの戦力差にビーも泣き言を呟く。ラップ調を出しているが、
!
は六体。ビーも尾獣化をして対抗しているが、それでもこの戦力差を
一対一なら、いや二体でも今のナルトならば勝ち目はある。だが敵
ペイン六道と同じ力を有しているとなると厄介この上ない。
これにはナルトもうろたえた。これだけの力を持つ者達が、その上
!?
719
えど、これは分が悪すぎた。
﹁この
││
!
九尾チャクラモードにより、影分身を使わなくとも螺旋手裏剣を作
││風遁・螺旋手裏剣
!
﹁問題ねー
だが信じる自身
﹂
こんな戦力差、すぐにひっくり返るってばよ
﹁根拠ない自信
!
﹂
!
やっぱり結構余裕があるのかもしれない。そう思わせるビーに、ナ
﹂
ルトの自信の理由が映った。
││
﹁根拠は、あるってばよ
││須佐能乎
!
﹂
!
る。
││螺旋丸
││
そしてほぼ同時に別の援軍が到着した。そう、アカネとオビトであ
人はこうして駆けつけて来たのだ。
保護拘束されているはずのナルトが戦場にいる事を疑問に思い、二
る程に大きかった。
タイプではないサスケ達だが、それでもナルトのチャクラは感知出来
うと動き出していた。そこで感じたのがナルトのチャクラだ。感知
互いに交換した万華鏡に馴染んだ二人は、その力を戦争に役立てよ
最強の兄弟である。
そう、サスケとイタチ。永遠の万華鏡写輪眼を得た、うちはの誇る
﹁無事で何よりだナルト﹂
﹁うるさいウスラトンカチが﹂
﹁おせーぞサスケ
ナルトに味方する二人の須佐能乎の使い手。となれば答えは一つ。
その場に存在していた。須佐能乎の使い手は限られている。そして
そのチャクラの刃の正体は須佐能乎の刃。そして須佐能乎は二体
て吹き飛ばされる。
ナルト達に迫っていた尾獣の内、二尾と六尾がチャクラの刃によっ
!
一端である神羅天征によってアカネは吹き飛ばされ││る事はなく、
七尾は天道の力を有していた。最強の六道とも言える天道、その力の
そしてアカネが七尾に向かって拳を叩き込もうとする。だが、その
ばされてしまう。
巨体を誇る尾獣も、流石にこれだけの螺旋丸を同時に喰らえば吹き飛
オ ビ ト が 複 数 の 影 分 身 と 同 時 に 大 量 の 螺 旋 丸 を 三 尾 に 叩 き 込 む。
!
720
!
!
神羅天征に耐える事で逆に七尾をその反動で吹き飛ばすのであった。
﹄
﹁一度見た術が何度も通用するとは思わない事です﹂
﹃お前だけだそんなん出来るのはよ
さすがは長年の付き合いと言うべきか。ナルトとサスケの突っ込
みは完全に一致していた。
ともかく、四人の援軍によって迫り来る尾獣の数は一気に減る事に
なる。残る四尾と五尾をナルトとビーがそれぞれ相対し、数の上での
有利不利は完全になくなる事となった。
﹁一人一体ずつか。尾獣に対するノルマとしてはおかしい気がするな
おい﹂
オビトがそう呟くが、確かに間違ってはいない。本来尾獣とは一個
人で相手をする存在ではないのだ。そんな化け物六体と忍六人が相
対するなど、火影を目指すオビトも考えた事もなかった光景だ。
﹁強敵だな。いけるなサスケ﹂
﹁当然だ。ナルトよりも早く倒してやるさ﹂
﹁残念だったなサスケ。オレってばすっげー強くなってっから負ける
気はしないってばよ﹂
だが、そんな化け物と相対する忍達に恐怖心はなかった。この場に
いる誰もが忍界屈指の強者だ。その力は尾獣に勝るとも劣らぬ者達
皆いく││﹂
ばかりである。
﹁よし
われても止まる事が出来ず飛び出す寸前だったナルトは、アカネが合
急に止めるなよ吃驚するだろうが
﹂
気にて動きの流れをコントロールする事でどうにか止まる事が出来
﹂
!
た。
﹁何だってばよアカネェ
﹁んだとこのヤロー
﹁やるかウスラトンカチが
﹂
﹁だったら急に飛び出すなこの馬鹿が﹂
!?
尾獣を前にして仲間割れが出来るこの二人は状況を把握出来てい
!
!
721
!
いざ決戦と意気込むナルトにアカネがストップを掛ける。急に言
﹁ちょいとストップですナルト﹂
!
ない馬鹿か、それとも大物かのどちらかだろう。後者である事を期待
したイタチであった。
そんな馬鹿二人に拳骨を落とし、静かになった所でアカネが白眼に
て尾獣達を見つめる。
杭
どういうことだってばよ
﹂
﹁ふむ。鎖で縛られているのか⋮⋮大元は首筋の杭⋮⋮。なるほど﹂
﹁いってぇ⋮⋮鎖
?
のである。
﹁あん時と一緒か
よーし
﹂
並外れて優れているからこそ、外道の力に縛られる尾獣の姿が映った
を見る事が出来るのは自分だけだと悟ったからだ。アカネの白眼が
鎖に関してはアカネは何も言わなかった。どうやら尾獣を縛る鎖
言う事はない。
有利となるだろう。十尾復活に必要な尾獣をこちらが確保出来れば
尾獣を開放する事も可能かもしれない。そうなれば戦況は一気に
れを抜けばあるいは⋮⋮﹂
となるあの黒い棒が杭の様に首筋に埋め込まれているようです。そ
﹁ええ。尾獣達はペイン六道と同じ様に操られています。その受信機
の意味を問う。
頭をさすりながらもアカネの呟きを聞き逃さなかったナルトがそ
?
られていた。
ナルトが相手をしているのは四尾だ。四尾には人間道の力が与え
るまでだ。
る可能性がある。僅かな可能性だとしても、やる価値があるならばや
全員の狙いは首筋にある杭だ。それを抜き取れば尾獣が開放され
続き残る者達もそれぞれ相対する尾獣の元へと動き出す。
サスケもまたナルトに負けじと別の尾獣へと駆け出した。それに
﹁ったくあの馬鹿が﹂
トも理解しているだろうと判断したからだ。
て進み出す。流石にアカネもそれを止める事はなかった。もうナル
ペイン六道との戦いを思い出したナルトは今度こそ尾獣に向かっ
!
722
?
!
ちなみに四尾に人間道の力が与えられたのには理由がある。人間
道の能力は対象の頭に触れる事でその記憶を読み取るというもの。
そして四尾の姿は巨大な猿だ。つまり人間と同じ様に手足がある
ので、他の尾獣よりも人間道の力が使いやすいだろうという、まあそ
れだけの理由だ。イズナとしては少しでも合理的にと思っただけで、
実際に人間道の力を尾獣化の状態で使わせるつもりはあまりなかっ
たりする。
ともかく、他の面倒なペインよりも比較的楽な相手だと言うのが原
因か。ナルトは九尾チャクラモードの力もあって四尾の攻撃を掻い
潜り、誰よりも早く四尾を縛る杭の元に辿り着いた。
数の不利があった時はともかく、一対一ならば尾獣を相手にしても
これだな
﹂
ここまで戦える程にナルトは強くなっていた。
﹁よっしゃ
またナルトの言葉を聞いていたのだ。いや、九尾はずっとナルトの声
そして、その言葉を聞いていたのは四尾だけではなかった。九尾も
トは言う。それが本気の発言だと四尾は気付いたのだ。
る。ビーと八尾の関係が羨ましく思え、尾獣と友達になりたいとナル
ナルトと会話を続ける内に、四尾は徐々にナルトを認める様にな
初めてだった。
尾獣を下に見ずに対等な立場として接する。そんな人間は四尾には
に四尾は気付いた。尾獣に対する憎しみや恨みなどの気持ちがなく、
だがナルトと会話をする内に、ナルトが他の人間とは違うという事
のか、と。
るナルトに吠えたけていた。またも己の力を奪おうとする輩が来た
その空間では四尾が鎖に繋がれて自由を奪われ、そして侵入者であ
柱力だからこその何らかの共鳴があったのかもしれない。
したのではなく、精神だけが四尾の深層心理へと入り込んだのだ。人
そこは四尾の深層心理とも言うべき空間か。ナルトはそこに移動
かある空間へと移動していた。
そしてナルトが杭を抜こうと触れた瞬間││ナルトはいつの間に
!
を、その行動を見てきた。だからこそ、ナルトが本気でそう思ってい
723
!
る事を誰よりも理解していた。
そんなナルトに対し、九尾は語るだけでは本心は伝わらないと考え
る。だが、それは九尾がナルトを良く知っているという証拠でもあっ
た。
ナルトならば言葉だけでなく、行動によって証明する事を知ってい
るのだから。
九尾の思い通り、ナルトは行動で示し証明してみせた。深層心理か
ら元の世界へと意識を戻したナルトは、四尾を縛る鎖の元である外道
の杭を抜き取ったのだ。
これで四尾は鎖から開放されて自由になる││わけではなかった。
例え全身を縛る鎖がなくなっても、四尾と外道魔像を繋げる鎖はその
ままだ。何故なら、その鎖は外道魔像を介しているからだ。四尾を開
放するには外道魔像をどうにかするしか方法はなかった。
それでも、行動を以って証明したナルトを四尾は真に認めた。そし
マ
﹂
724
てナルトにある物を託し、四尾は外道魔像の中へと戻って行った。
四尾に認められたナルト。だが、認めたのは四尾だけではなかっ
た。九尾もまたナルトを認めたのだ。
ナルトのこれまでの行動。その全てが、九尾の中の人間への憎しみ
を払拭させたのだ。もちろん全ての人間を無条件に信じる事はない
だろう。だがナルトならば信頼出来る。そう九尾は思えたのだ。
ナルトは、四尾の中で知ったとてつもなく大切な情報を思い出す。
尾獣には尾の数に適した呼び名ではなく、ちゃんとした名前がある事
を。
ラ
四尾の名は孫悟空。そして九尾の名は││
ク
﹁行くぜ九喇嘛
サスケが相手をしている尾獣は二尾。尾獣という強大な敵を相手
であった。
たナルトと九喇嘛。それはナルトが真に人柱力として完成した瞬間
九喇嘛。それが九尾の本当の名前。互いに名を呼び合う友となっ
!
に、永遠の万華鏡の試運転としては不足のない相手だとサスケは考え
る。
不遜とも言えるその思考。だが、それでこそうちはサスケとも言え
た。
先手を取ったのは二尾だ。二尾には修羅道の力が与えられており、
尾獣化した全身から機械の身体を口寄せし、そこから大量のミサイル
やレーザーを放つというとんでもない攻撃を仕掛けてきた。
人間サイズならまだしも、尾獣という巨体にて修羅道の力を発揮す
る。まさに兵器の面目躍如と言わんばかりの火力である。
そんな圧倒的火力に対し、サスケは万華鏡写輪眼にて対応する。
天照にて空間に黒炎を生み出し、それを加具土命にて網目状に変化
させる。それだけでミサイルの全てを迎撃せしめた。
網の目を潜り抜ける様にレーザーがサスケに迫るが、それすら須佐
能乎にて完全に弾かれる。
725
そしてそれらの力を使った反動を確認し、サスケは不敵な笑みを浮
かべた。
﹁ふ、これが永遠の万華鏡か﹂
万華鏡写輪眼のリスクが無くなるとはあらかじめ聞いていた。だ
が、聞くと体験するとでは大違いだ。それをサスケは身を以って実感
した。
これだけの強大な力を振るいつつも、代償となっているのは多少の
チャクラのみだ。サスケが浮かれるのも仕方ないと言えよう。
だ が サ ス ケ は 直 に 自 戒 す る。強 く な っ て も 上 に は 上 が い る の だ。
﹂
ここで調子に乗ると痛い目を見るのは過去の経験からも明白だった。
﹁まあいい。さっさと終わらせてもらうぞ化け猫
そうしてサスケが二尾に突き刺さっている杭を抜こうとした時、サ
いう杭を抜くだけだ。
に須佐能乎の弓を放ち、両足を大地に縫い止めた。後は首筋にあると
そのまま黒炎は二尾に燃え渡りその視界を炎に染める。そこに更
が口から放った炎を、それ以上の黒炎にて焼き尽くしていく。
今は敵に集中すべきだとサスケは思考を切り替える。そして二尾
!
スケはナルトのチャクラが一気に増大したのを感じ取った。
尾獣化したナルト。その姿は他の人柱力の尾獣化とは少々異なっ
ていた。
他の尾獣化は完全に尾獣の姿になるのに対し、ナルトの場合は九尾
を形取ったチャクラを纏っている様に見えるのだ。
この理由は九尾が陰と陽のチャクラに分けられている事が原因な
のかもしれないが、詳しい事は判明されていない。だがそれは問題に
はならないだろう。何故なら、例え完全でないにしても、ナルトと九
こいつらの杭、オレに抜かせてほしいってばよ
﹂
喇嘛が手を組んだその力は他の人柱力を凌駕するからだ。
﹁皆
抜く為に攻撃をしているのは理解しているが、孫悟空と対話をしたナ
尾獣達を攻撃する仲間にナルトはそう叫ぶ。彼らも尾獣から杭を
!
尾獣化
﹂
ルトは尾獣の開放は自分がしなければならないと何故か思ったのだ。
﹁ナルトついにやったのか
﹁これがナルトの⋮⋮﹂
!?
﹂
﹂
?
その言葉と同時に、ナルトは一瞬で全ての尾獣玉を弾き飛ばした。
﹁ああ。問題ねーってばよ
﹁ナルト、あなただけで防げますか
中、アカネは平然としてナルトに確認をする。
然しものサスケ達も五体同時の尾獣玉には肝を冷やした。そんな
最大の攻撃である尾獣玉を放とうとする。
そんな風に皆がナルトの尾獣化に気を取られていた隙に、尾獣達は
しているが。
ナルトの尾獣化に誰もが驚愕する。アカネは何やら感慨深そうに
ねぇ﹂
今 の ナ ル ト な ら マ ダ ラ 相 手 で も 大 分 粘 れ る か ⋮⋮ 強 く な り ま し た
﹁あなた、ナルトの攻撃もすり抜けられるでしょうに。⋮⋮ふむふむ。
﹁こりゃ巻き込まれない内に離れた方がいいな﹂
﹁すごいな。九尾の力を完全にコントロールしているのか﹂
!?
!
726
!
﹁速い
﹂
﹁写輪眼でも見切るのが限界か
﹂
万華鏡写輪眼で強化された動体視力でも僅かしか見切れないその
速度。
そして一つの街を容易く破壊出来るだろう尾獣玉を弾くその力。
まさしく桁違い。これがナルトと九喇嘛の力であった。
だが、初めての尾獣化ゆえに欠点はあった。まだ完全にナルトと九
喇嘛がリンクする事が出来ないので、尾獣化の持続時間はせいぜい五
分が限界だったのだ。
もっとも、五分もあればナルトには十分だった。
今のナルトに六道の力で効果が期待出来るのは天道くらいだ。い
や、その天道とて神羅天征は吹き飛ばされずに耐える事ができ、地爆
天星も吸い寄せられる前に容易く破壊する事が出来る。
まあ、イズナ本体が人柱力六道から離れすぎている為に、その力も
かなり制限されているという理由もあったが。それを差し引いても
尾獣化したナルトの強さの賜物だろう。
五対一という圧倒的不利な人数差もナルトには程よいハンデだっ
た。そしてナルトは尾獣達それぞれの杭の位置を確認し、チャクラを
伸ばしてそれを抜き取ろうとする。
その瞬間、ナルトは再び尾獣達の深層心理の世界へとやって来た。
いや、九喇嘛とリンクを果たした為、ナルトは先程よりも更に深い深
層心理へと到達していた。
四
尾
その証拠が人柱力の存在だ。ここには尾獣だけでなく、その人柱力
も同時に存在していたのだ。
彼らはナルトに対して初めから好印象だった。それは孫悟空が外
道魔像に吸い込まれる前に、他の人柱力と尾獣達にナルトの事を伝え
ていたからであった。
そしてナルトは、人柱力と尾獣それぞれと名を交し合った。尾獣の
真の名を知る人間。ここにいない一尾は除くが、それ以外の全ての尾
獣の名を知った者は六道仙人を除きナルトが初めてであった。
全ての尾獣から名と、そしてチャクラを託されたナルト。この時、
727
!
!
ナルトは全ての尾獣から認められたのだった。⋮⋮ただし、一尾は除
く。
728
NARUTO 第三十七話
ナルトが尾獣達を解放してすぐ、尾獣は全て外道魔像の元へと再び
﹂
封印された。それをナルトはじっと見つめ、そして必ず尾獣達を解放
すごいじゃないか
すると決意する。
﹁おいナルト
ドは、ってもう駄目か
﹂
﹁オビトのおっちゃんもイタチ兄ちゃんもありがとな。でもこのモー
め息を吐く。
成長しても、ナルトに関してはまだまだ子どもなのだと、アカネもた
若干一人ほどナルトの急成長に苛立ちを示していたが。どれだけ
﹁ちっ⋮⋮まだ負けたわけじゃねぇ﹂
めていた。
化を成功させて敵に操られる尾獣を開放した手腕を掛け根無しに褒
そんなナルトの元に仲間達が駆けつける。オビトもイタチも、尾獣
﹁九尾の完全なるコントロール⋮⋮これ程とは﹂
!
そんな優しく自分を褒めてくれるアカネを見てナルトも感動する。
が、いざそれを見ると感嘆の想いしか浮かばなかった。
本当に成長した。ナルトならばいずれは、と思っていたアカネだ
受け入れる。それがどれほど困難で、どれほど偉業か。
あの憎しみばかりを籠めたチャクラを放っていた九尾を、友として
﹁アカネ⋮⋮﹂
ナルト﹂
﹁九喇嘛⋮⋮九尾と本当に和解したんですね。⋮⋮良くやりましたね
﹁分かったってばよ九喇嘛﹂
はともかく、尾獣化は少し間を置いてからだ││
││しばらくは無理だな。ワシのチャクラをコントロールする事
しまった。
除され、その上九尾チャクラモードも切れて通常のナルトへと戻って
突如として声を荒げるナルト。それと同時にナルトの尾獣化が解
!
修行中は厳しくも、上手く出来れば褒めてくれたアカネだが、これほ
729
!
ど真に想いを籠めて褒められた事は初めてだったのだ。
﹁と言っても、まだ九尾のコントロールは完全ではないようですね。
持続時間も短いです。戦争中ですので修行は出来ませんから、実戦に
て磨くようにしなさい。最重要課題ですよ﹂
﹁あ、はい﹂
感動は一瞬で終わった。褒めた後に新たな課題を出す所は修行も
実戦も変わらない様だ。
生まれ変わっても変わってねーなこいつはよ││
││けっ
││
?
アカネがヒヨリって人の生まれ変わりぃぃぃ
教え込んだ。
﹁はあああ
し、人間と事を構えるつもりはないから問題ないのだが。
﹁まじかよ⋮⋮﹂
!?
﹁ふん、今更気付いたのか﹂
もしかしてサクラちゃんも
﹂
﹂
嘛の心境や如何に、であった。まあ今は九喇嘛もナルトの事を信頼
しかも新たな宿主であるナルトを鍛え出したのだ。その時の九喇
たりする。 アカネとなり、そのチャクラを九喇嘛が感じ取った時には歯軋りして
そのヒヨリが亡くなった時は内心笑みを浮かべたものだが、転生し
していたのだ。
いたのは言うまでもなく、九喇嘛は己の対抗手段であるヒヨリを警戒
いざ九尾が復活した時の抑止力としてヒヨリが九喇嘛を警戒して
向ヒヨリの事を知った。
九喇嘛は先々代の人柱力であるミトの中に封印されていた時に、日
いた。
ナルトのいきなりの発言を聞き、アカネは即座にその答えに行き付
?
!?
﹁おや、九尾⋮⋮九喇嘛と言いましょうか。九喇嘛が教えましたね
﹂
そこで九喇嘛は隠す事もなく、自分の知るアカネの正体をナルトに
葉が気になる様だ。
心の中で九喇嘛と会話をするナルト。どうやら九喇嘛の呟いた言
生まれ変わったってどういうことだってばよ
││あん
!
﹁サスケは知ってたのかよ
!
730
?
!?
﹁サクラはどうだか知らんが、オレはとっくに気付いていた﹂
等とサスケは偉そうに言っているが、サスケ自身も大蛇丸から教え
られていなければ今も気付いていなかった可能性は十分にあったり
する。
まあ、サスケもアカネの異常性には勘付いていたので、自力でアカ
ネの正体に辿り着いた可能性はナルトよりは遥かに高いのだが。
﹁死んで生まれ変わる、これって一大事。でも巨乳に罪はない、乳って
超大事﹂
﹁⋮⋮いえまあ、疎まれるよりはいいですけどね﹂
素直にアカネの巨乳を見て興奮している事を隠さず、転生という大
事よりも乳を優先するビーにアカネも少々たじろいだ。
だがビーの人間性はそれで理解出来た。ビーを簡潔に評すると、器
が大きい、この一言に限るだろう。その言動は破天荒だが、人として
は非常に信頼出来るタイプだとアカネは感じ取る。
﹂
の一言に二人は、いや全員が衝撃を受けた。
﹄
﹁これは⋮⋮まさか十尾か
﹃
?
尾獣全ての融合体。この世を生み出したとされる神にも等しい存在
だ。
だが、十尾復活のキーである八尾と九尾はこの場にいる。ならばア
カネは何を感じ取ったというのか。
﹁巨大なチャクラの塊が出現した。場所はここから遥か遠く。恐らく
敵のアジトですね。チャクラの位置と地図の場所が敵のアジトとほ
ぼ一致しています﹂
731
﹁さて、長話をしたいのは山々ですが、今は戦争中││﹂
言葉を最後まで言い切らず、アカネは突如としてあらぬ方角を見や
る。
﹂
どうしたアカネ﹂
﹁アカネ
﹁⋮⋮
?
ナルトもサスケもアカネの反応を怪訝に思う。そして、アカネの次
?
アカネの言葉を聞いた者達はまず己の耳を疑った。十尾。それは
!?
十尾の復活には八尾と九尾が必要な
だが、ビーさんもナルトもここにいる。それは本当に十尾
﹁待ってくれよアカネちゃん
はずだ
﹂
﹂
?
﹁これは⋮⋮
﹂
﹁馬鹿な⋮⋮﹂
││おいおい、どういうことだこりゃ
││
喇嘛、そしてアカネが十尾の不自然な点に気付いた。
九喇嘛の説明を聞いてイタチは敵の策を想像する。だが、八尾と九
封印したのか。ならばその抜け殻を戦力として使う気か
﹁お前は九尾か。⋮⋮なるほど、先程ナルトが開放した尾獣達を再び
印し、不完全なままに動かしたんだろうよ﹂
﹁恐らくだが、それは十尾の抜け殻だ。そこにワシら以外の尾獣を封
││少し代われナルト。ワシが説明する││
喇嘛だった。
それに対して答えたのはアカネではなく、ナルトの身体を借りた九
問を叩きつける。
淡々と感じ取ったチャクラの情報を話すアカネに対し、オビトが疑
なのか
!
﹁どういうこった⋮⋮
⋮⋮いや、あの時感じたワシのチャクラ
オレのタコ足⋮⋮││
﹂
!
金銀兄弟は死んだはずだ
﹂
そして九尾のチャクラを得た兄弟の話を。
﹁馬鹿な
﹁いや、穢土転生がある﹂
オビトの反論に対しイタチが穢土転生の存在を指摘し、この場の誰
!?
!
﹁あ⋮⋮いや、でも八尾はどう説明するんだ
﹂
り討ちにあって食われ、それでもなお生き続けて九尾の肉を喰らい、
そう言って九喇嘛は皆に説明する。かつて、九尾の戦いを挑み、返
﹁ワシのチャクラに関してだが⋮⋮覚えがある﹂
気が付いた。
疑問に思った二体の尾獣だが、そこでそれぞれのチャクラの正体に
││あ⋮⋮
!
外道魔像から、八尾と九尾のチャクラを僅かだが感じ取れたからだ。
十尾の抜け殻
アカネも、九喇嘛も、八尾も、それぞれに驚愕する。なぜなら││
?
!
!
732
!? !
!
もが金銀兄弟に関しては納得するが、八尾に関してはどうなっている
のか。
その答えは、当の八尾の人柱力であるビーが説明をしてくれた。
﹁前にタコ足分身のチャクラを少々回収されてるゥ。こう見えても少
し慌ててるゥ﹂
相変わらず良く分からない韻を踏んだ言葉だが、それとは裏腹に
ビーも本当に焦っていた。
﹁だが完全には復活してねー。十尾は自然エネルギーそのものだ。仙
人モードでもなけりゃ感知は出来ないからな。感知出来る今はまだ
不完全ってわけだ。ワシらのチャクラを完全に取り込んでないから、
復活にも多少は時間が掛かるようだな﹂
﹂
﹁なるほど。なら、完全復活する前に止めるのが吉ですね。⋮⋮っ
札の切り方が分かっているなイズナ
﹁今度はどうした
﹂
やって苦虫を噛んだ様な表情をした。
いう定石とも言える戦術を行おうとして、そして再びあらぬ方角を見
九喇嘛の説明を聞いたアカネは、十尾が完全に復活する前に叩くと
!
近くには五影と、そして忍連合軍が無数
﹂
の力は推し量る事すら出来ないだろう。下手すればそれで世界は終
嘛のチャクラは完全ではないが、それでも七体の尾獣の集合体だ。そ
だが、十尾を放置すれば十尾は完全に復活してしまう。八尾と九喇
状態に陥るだろう。
カネは判断している。このまま十尾の元に向かえば忍連合軍は壊滅
いくら五影であろうとも、マダラを相手にして長くは持たないとア
!
アカネに説明を要求する。そしてアカネはまたも衝撃発言をした。
﹁マダラが現れた⋮⋮
﹄
このままじゃ全滅必至だ
﹃
!
!
﹂
わりを告げるかもしれなかった。
﹁ちぃっ⋮⋮
!
733
!
次から次へと面倒事が起こっている様子にサスケも苛立ちを見せ、
!?
うちはマダラ出現。それも忍連合軍の総大将の元に、だ。
!?
どうするべきか。アカネは僅かしかない時間の中で、一瞬にして思
考を繰り広げる。
マダラの力、五影の力、マダラに対する策、十尾、無限月読、イズ
あな
ナの思考⋮⋮。それらを頭の中で組み立て、そして答えをはじき出
オビト 皆を神威空間へ
!
問答の時間も惜しい、先に行くぞ
!
す。
﹁今すぐマダラの元に向かう
たも神威空間で移動しなさい
﹂
!
﹂
これ以上、お前の手を汚させはしない
!
に、全力で駆け出した。
││マダラ
皆
オレを信じてくれ
!
アカネは最速にて戦場を駆ける。友の誇りを守る為に。
﹁くそ、オレも速く行かなきゃ
﹂
!
﹃⋮⋮おう
﹄
﹁ナルト、サスケ、そしてビーさん。オビトさんを信じろ﹂
あった。
それをこの場で最も理解していたのはオビトと、そしてイタチで
い。
る様だ。だがアカネが言ったように、問答をする時間はないに等し
展開の速さにナルトの思考速度が付いて行けなくなり、混乱してい
﹁ど、どういう事だってばよ
﹂
││
アカネはオビトに指示を出し、そしてオビトの返事を確認した瞬間
﹁わ、分かっ││って、はや
そうしなければ五影も、忍連合軍も無事ではすまないだろう。
た。ならば、十尾にはまだ猶予がある。今はマダラを止めるべきだ。
必ずイズナは十尾の力を振るう。それがアカネには確信出来てい
ぐに無限月読を仕掛けるとは思えなかったのだ。
き潰すつもりだと感じ取った。そんなイズナが、十尾を復活させてす
これまでのイズナの言動から、アカネはイズナが全力でアカネを叩
止める。その理由はイズナの性格にあった。
答えは、マダラを止めに行く、であった。十尾を放置してマダラを
!
!?
!?
!
!
イタチの言葉をナルトもサスケも信用する。二人ともイタチが無
!
734
!
駄な事をしないという事を良く理解しているのだ。
そ し て ビ ー も こ こ に 来 て 仲 間 を 疑 う 様 な 懐 の 小 さ い 人 物 で は な
かった。
全員の意思を確認したオビトは、自身の万華鏡写輪眼である神威を
使用する。
オビトの神威により、全員が神威空間と呼ばれる特殊な時空間へと
移動する。そしてオビト自身もまた、己を神威空間へと移動させるの
であった。
そうして一瞬にして、先程まで尾獣と尾獣がぶつかり合っていた戦
場から、全ての存在がいなくなった。
◆
忍連合軍と暁の穢土転生。その戦いは最終局面へと突入していた。
多くの穢土転生を打ち破り、封印してきた忍連合軍。だが、敵が新
たに繰り出した穢土転生によって、再び危機に陥っていた。
その穢土転生はかつての五影達。つまりは今の五影の先任や先々
任達である。
二代目水影、二代目土影、四代目風影、三代目雷影。かつて里の為
に心力を注ぎ、多くの忍から尊敬されていた影達。それが忍達に牙を
剥いたのだ。
いや、牙を剥けさせられた、というべきか。死者の意思など関係な
い。それが穢土転生なのだから。
これに対抗すべくオオノキが前線に立つ。師である二代目土影を
止める事が出来るのは自身のみだと理解していたのだ。
いや、オオノキだけではなかった。なんと、連合軍の総大将である
エーと綱手、メイまでもがここに参戦したのだ。
エーの先代である三代目雷影は恐るべき実力を持つ。それを止め
られるのは自身のみと、エーもまたオオノキと同じ事を考えていたの
だ。
綱手はエーを守る為にも追従し、そして敵の戦力がこの場に集中し
735
ている事を考慮し、メイもまたここでの勝利が戦争の勝利に近付くと
判断し、この戦場に参戦する。
ここに、過去の影達を止めるべく、現代の影達が集った。
影と影の戦い。その決着に要する時間は長くはなかった。
それも当然だ。影と影の戦いとは言うものの、実際には忍連合軍と
暁の戦いだ。つまり、現代の五影には多くの味方が付いているのだ。
一対一という展開を望む者は五影の中にはいなかった。唯一エー
のみは尊敬する親である先代と一人で戦いたいという想いがあった
が、総大将として勝利を得る事を優先する強かさは持ち合わせてい
た。
いくら前影達が強く、不死身の肉体を持っていたとしても、流石に
戦力が違いすぎた。こちらには、五影と同等の実力を持つ忍が幾人も
﹂
いたからだ。
﹁はぁ
﹁⋮⋮﹂
八門遁甲・第七門を開いたガイと三代目雷影がぶつかり合う。雷遁
の鎧と頑強な肉体を誇る三代目雷影の強さは、下手すればエー以上か
もしれない。
だが、ガイはそれと真っ向から渡り合っていた。八門遁甲によって
強大なパワーアップを果たしたガイは、その強さを五影並かそれ以上
に伸ばしているのだ。
雷遁により一撃の鋭さは三代目雷影が上だが、ガイは巧みな体術に
﹂
よって三代目雷影の攻撃を捌き、的確に自身の攻撃を当てていく。
﹁極・木ノ葉金剛力旋風
く。
ラ イ ガー ボ ム
そしてエーが吹き飛んだ三代目雷影を掴み、そのまま全力で対象を
﹁むん
﹂
力な回し蹴りを放つ。その一撃により、三代目雷影は吹き飛んでい
ガイは地獄突きと呼ばれる三代目雷影の貫手を躱し、反撃として強
!
﹂
大地に叩きつける忍体術、雷我爆弾を放つ。
﹁まだだ
!
736
!
!
ギ ロ チ ン ド ロッ プ
更にエーはそのまま跳躍し、三代目雷影の首元へと蹴りを叩き付け
る。これも雷遁忍体術の一つ、儀雷沈怒雷斧である。
この二つの忍体術の恐るべき威力により、大地は大きく陥没した。
並の忍ならば幾度となく死んでいる威力だろう。
だが、三代目雷影は無傷であった。それは穢土転生の力で再生した
のではなく、その強靭な肉体によりガイとエーの攻撃を防ぎ切ったか
らである。
まさに雷影の名に相応しい実力。だが、それで恐れを抱く二人なら
﹂
﹂
賢しい者が多いと思っていたが、
ならば効くまで攻撃するのみ
ば、既にこの場から逃げ出しているだろう。
﹁効いていないか
﹁雷影様⋮⋮﹂
﹁わかっとる
残る敵は⋮⋮二代目土影のみか
良し、さっさと
座を得ている。ならば、感傷に浸るなど許されない。
だが、今は一人の忍ではない。雷影の称号と、忍連合軍の総大将の
が亡くなった時、エーは誰も知らない場所で号泣したものだ。
封印されゆく父に、エーは別れの言葉を告げる。かつて三代目雷影
﹁⋮⋮さらばだ、オヤジ﹂
よって封印されていく。
それにより大ダメージを負った三代目雷影は、忍連合軍の封印術に
た。
雷影が古傷を負った箇所であり、最も強度の少なかった箇所であっ
エーの貫手が突き刺さる。突き刺さった箇所は右胸。そこは三代目
や が て、ガ イ の 連 撃 に よ っ て 大 き な 隙 が 生 ま れ た 三 代 目 雷 影 に、
の肉体とはいえ、流石に三代目雷影にも勝機はなかった。
同等の実力を持つエー。この二人がタッグを組んで戦う限り、不死身
第七門を長時間開放し続ける事を可能としたガイと、三代目雷影と
に加えていく。
路が似ているのだろうか。ともかく、二人は更なる攻撃を三代目雷影
ガイの言葉にエーも力強く同意し、そしてガイと共感する。思考回
オビトといいお前といい、木ノ葉にも中々の奴がいる
!
!
﹁その通りだ 良くぞ言った
!
!
737
!
!
!
潰して終わらせるぞ
﹂
エーは即座に気を入れ替え、残る敵を確認する。
四代目風影は我愛羅によって、二代目水影はメイと自来也によって
既に封印されていた。
二代目水影は蜃気楼や幻術の使い手であったが、仙人モードの自来
也の感知力の前では形無しだったようだ。本人は眉無しだが。
残るは二代目土影のみ。だが、それが最も面倒な敵であった。
純 粋 な 肉 体 面 で の 強 さ な ら ば 三 代 目 雷 影 が 圧 倒 し て い る だ ろ う。
だが、二代目土影には恐るべき術があった。
それが塵遁。血継限界の更に上、風遁・土遁・火遁の三つの性質変
化を組み合わせるという、血継淘汰である。
その術の能力は││触れた物質を分子レベルまで分解して消滅さ
せるという、完全なる一撃必殺の術だ。更に術の範囲も中距離までカ
バーしている上、敵の忍術を消す事も可能。まさに攻防ともに優れた
術と言える。
当たれば確実に死ぬ。どんな屈強な肉体の持ち主でも、どんな強力
な術の持ち主でも関係ない。故に塵遁使いに戦えるのは塵遁使いの
││
み││という訳でもなかった。
││神威
ばす。正確には神威空間へ移動させたのだが、現実世界で見ると消し
飛ばしたという表現になる。
素早い原界剥離の術に対し、即座に神威を合わせられるその精度。
カ カ シ も 戦 争 ま で の 期 間 で 神 威 に 関 し て か な り 研 究 し た 様 で あ る。
﹂
﹂
もっとも、その代償として視力がかなり低下しているのだが。
﹁土影様
﹁分かっておる
土影に放つ。
・・
だがそれは避けられてしまった。いや、正確には分裂して片方だけ
避けられたのだ。
738
!
二代目土影が放った塵遁・原界剥離の術をカカシが神威にて消し飛
!
カカシが作り出した隙を狙って、オオノキが原界剥離の術を二代目
!
!
分裂。それが二代目土影のみに許された秘術。分身と違って完全
な実体を持ち、影分身と違って攻撃を受けても消えないという秘術で
ある。
二代目土影はオオノキの塵遁が命中する直前に、分裂によって片方
の自分を術の範囲外へと逃したのだ。
本来ならばこれで終わりだ。分裂体はその力も半減し、塵遁も使用
不可能になる。だが敵は穢土転生体、不死身の肉体を持っているの
だ。
消滅した片方の二代目土影は直に再生を始め、そして再び元の一つ
になる。それを防ぐ為に再生する片方を封印しようとしても、分身体
﹂
がそれを阻止する。
﹁またか⋮⋮
これで二度目だ。上手く追い詰めても、ギリギリで封印を回避す
る。穢土転生でなければ既に終わっているが、それは穢土転生を相手
に言っても仕方のない事だ。
だが、二度目は確実に一度目よりも上手く追い詰める事が出来た。
次は必ず封印まで持っていく。そんな風に考えるオオノキとカカシ
一気に終わらせるぞ
﹂
に、それを後押しする者達が現れた。
﹁オオノキ
!
る。
五影全員と、自来也とカカシとガイ。いくら塵遁が強かろうとも、
それを無効化出来るオオノキとカカシがいてこの人数だ。勝利は確
実と言えた。
だが、それは敵も理解していたのだろう。なので二代目土影は、塵
﹂
遁ではなく口寄せの術を使用した。
﹁させんぜ
当然それを黙って見ている五影達ではない。オオノキは瞬時に二
代目土影に原界剥離の術を放つ。口寄せの術を使用していた二代目
土影にそれを防ぐ術はない。
原界剥離の術が届くよりも僅かに早く口寄せの術が発動し、新たな
739
!
そう、他の前影達を封印した者が援軍として駆けつけて来たのであ
!
!
穢土転生が戦場に口寄せされる。だが、原界剥離の術は二代目土影ご
﹂
と、後方に現れた穢土転生を消滅させようとそのまま直進し、そして
早く封印の準備をするんじゃぜ
二体の穢土転生を飲み込んで行った。
﹁やった
﹄
!
﹁ば、馬鹿な
﹂
﹁う、うちはマダラ
﹂
その答えは、オオノキが驚愕の声を上げる事で判明した。
訳がない。だというのにこれは一体どういう事なのか。
子レベルまで分解させる術をまともに受けて存在するモノなどある
だが、原界剥離の術の範囲内にあって、動き出す人影があった。分
生を封印しようと準備に掛かる。
ノキの指示に従い、封印術を会得している忍が再生する二体の穢土転
全身が消滅しようとも、封印しない限り穢土転生は復活する。オオ
﹃はっ
!
対しての驚きだった。
!
ムウ
せめて無様だけでも
﹂
!
何故何もせん
!
印を黙って見ていた。
﹁⋮⋮どういう事だ
﹂
だが、オオノキの予想に反し、マダラは何もせずに二代目土影の封
断だ。
来也達が協力すればマダラを抑えるくらいは出来るだろうという判
ノキは叫ぶ。当然それはマダラによって阻まれるだろうが、五影や自
マダラは仕方ないとして、せめて二代目土影だけでも封印をとオオ
﹁くっ
吸収する餓鬼道には通用しなかったようだ。
したのだ。例え塵遁と言えども忍術は忍術。ならば、忍術そのものを
その輪廻眼の力の一つ、餓鬼道にて忍術を吸収したのだろうと推測
のペインとの戦いで綱手は輪廻眼の力を嫌という程に理解している。
塵遁を防いだ理由、それを真っ先に思いついたのは綱手だ。かつて
﹁いや、輪廻眼の力か
﹂
事に対して、ではなく、塵遁が当たったのに全く無傷で存在する事に
オオノキの声に反応したのはエーだ。それはマダラがここにいる
!?
!
!?
740
!
!
何もしないマダラに不審を抱いたエーは感情のままに叫ぶ。
当然残る者達もマダラの意図に疑問を抱き、より一層マダラの警戒
を強めた。
そして二代目土影が封印され、ようやくマダラがその口を開いた。
﹁ふ、影程度、兄さんが出るまでの繋ぎに過ぎん。こうして兄さんが出
た以上、お前達程度どうとでもなる﹂
二代目土影を助けなかったのは助ける必要がないから。それがマ
ダラの、いやイズナの答えだった。
﹂
いくら貴様が強かろうと、これだけの数を相手に勝
﹁どうやらイズナがマダラを操っている様だな﹂
﹁舐めおって
てると思っておるのか
マダラの裏にいるイズナを感じ取る綱手。そしてエーはイズナの
増上慢に怒りを顕わにする。
お前達にもそれくらいの経験はあると
愚かな。真の強者の前に、数などいくら集めても
だがイズナはそんなエーに対し嘲笑する事で返した。
﹁はっ。数、だと
無意味だと分からんのか
思っていたのだがな﹂
持っている事になる。
﹁私達が束になってもあなたに勝てないと
﹂
られているのだ。それはつまり、五影がそこらの雑魚という意味を
だが、イズナの言葉はそこらの雑魚にではなく、五影に対して向け
百、いや数千集まっても蹴散らされて終わりだろう。
イズナの言葉は間違いではない。五影達に対し、そこらの忍が数
?
?
ならば先達として少し教授してやろう
表情を変化させる。
﹁仕方ない
﹂
!
イズナの叫びと同時にこの場の全員が戦闘態勢に移行する。だが
いうものをな
真の強者と
メイの言葉に対してそう返し、イズナは嘲笑から蔑む様な笑みへと
ないようだな﹂
安心したぞ。だが言葉は理解出来ても、どうにも意味は理解出来てい
﹁なんだ。オレの言葉が理解出来なかった訳じゃなかったようだな。
?
741
!
!
!
!
││
そんな行動など無意味だとイズナは内心で五影達を見下し、そして印
を組み上げた。
││木遁・樹海降誕
││
﹂
!
うちはマダラが正面からぶつかろうとしていた。
相見える両者。伝説に謳われた初代三忍の内の二人、日向ヒヨリと
あいまみ
い、敵を過小評価したくなかったのだが。
恐らく後者だろうとアカネは考える。いや、単純に前者であると思
出来ない程にイズナが力を高めたか。
新たに穢土転生の術式を上書きしたか、それともマダラですら抵抗
が出来ていた。だが、今はそれがないように見られる。
以前は意思と肉体のどちらかならばマダラもイズナに抵抗する事
れている事を危惧する。
それを安心しつつも、アカネはマダラの意思が完全にイズナに操ら
て、まだ誰も傷ついてはいなかった。
どうやら間に合ったようだとアカネは安堵する。マダラが出現し
﹁マダラ⋮⋮いやイズナか﹂
﹁やはりこちらに来たか⋮⋮日向ヒヨリ
は、忍連合軍に襲い掛かろうとしていた蔓の全てを切り裂いた。
八卦空壁掌に風遁を合わせた忍体術。線状に広がって行く風の刃
││風遁・八卦風刃掌
だが、そうはならなかった。
ず、このままでは多くの忍が命を落としてしまうだろう。
るのが精一杯だった。残る大勢の忍はこの秘術に対抗する術を持た
蔓の勢いは凄まじく、五影や自来也達でも己の身や近しい者達を守
ほどあるか。
りに広大だった。大軍用の忍術でも、ここまでの規模を持つ術はどれ
その無数の蔓が一気に忍連合軍へと襲い掛かる。その範囲はあま
る。
木遁にて樹木が生成され、人の身体よりも太い蔓が無数に生えてく
!
相対した瞬間に訪れた静寂の間。それは一瞬で終わりを告げた。
742
!
先手を取ったのはアカネであった。マダラは印を結ぼうとするが、
アカネはその印が結び終わるよりも先に八卦空掌を放っていたのだ。
まさに神速の一撃。これを可能としたのがアカネの長年の経験か
ら来る、未来予知にも匹敵する先読みである。
敵の動きの先が読める故に、その動きに対して常に先手を取り最適
﹂
な行動を選ぶ事が出来る。アカネの強さを支える重要な技術の一つ
である。
﹁ちぃっ
﹂
﹂
!
先決であった。
﹁やはり強いな⋮⋮
だが、兄さんの力を舐めてもらっては困る
そうさせる訳には行かない。なので、まずはマダラを遠ざける事が
の被害が出る事か。
マダラの力とアカネの力。二つがぶつかり合う余波だけでどれだけ
これがアカネの狙いだ。忍連合軍から離れなければ、イズナの操る
退し続ける。
それをマダラは須佐能乎にて防ぐが、やはり威力は殺しきれずに後
で数十もの八卦空掌が放たれマダラを狙い撃つ。
そこに更にアカネが追撃する。八卦空掌の乱れ撃ちである。一息
﹁はああっ
ぐ。それでもあまりの威力に吹き飛ばされ、印は崩れてしまった。
マダラはその八卦空掌を須佐能乎の限定発動によってどうにか防
!
完成体須佐能乎。その具現化した破壊の権化を見て、忍連合軍の大
という事である。
逆に言えば、完成体須佐能乎でもなければ対抗する事すら出来ない
相手にする。それが唯一の対抗手段だ。
見るという判断は愚の骨頂。故に初手から最大最強の須佐能乎にて
日向ヒヨリを相手に、第一段階や第二段階などの須佐能乎で様子を
そして限定発動ではなく完成体の須佐能乎を発動させた。
その隙を突けないマダラではない。僅かな間を見切り攻撃を躱し、
アカネの攻撃が届く時間も僅かだが延びる事となる。
マダラを遠ざける事には成功した。だが、距離が開けば開くほど、
!
743
!
半が無意識に後ずさりする。
離れていても一目見ただけで理解出来たのだ。あれには絶対に勝
てっこない、と。そして、同時に思った。
ならば、その破壊の権化と互角以上に戦っているあの忍は何なん
だ、と。
完成体須佐能乎が刃を振るう。一振りで離れた山すら斬り裂く神
話の一撃だ。
それをアカネは真っ向から受け止め、そして捻じ伏せた。チャクラ
の刃を白羽取りの要領で掴み、そのままへし折ったのだ。
それをマダラへと投げつける││のではなく、マダラの立つ大地に
投げつける。マダラの力でマダラを倒す事など出来ないのはヒヨリ
の時代から百も承知だ。それよりも足場を崩した方がマシだと判断
したのだ。
当然マダラは崩れ行く足場から別の足場へと跳び移る。そこをア
744
カネが襲撃した。
一気に距離を詰め、完成体須佐能乎を砕く勢いで殴りつける。事
実、完成体須佐能乎はその一撃で皹が入っていた。
輪廻眼を持つマダラ相手にチャクラの技は通用しない。チャクラ
を流し込む柔拳もまた、吸収されて意味を成さないだろう。
故に剛拳。チャクラを攻撃する箇所一点のみに集中させ、その上で
高速連撃を放つ。
拳の弾幕とも言うべきか。速度と威力を両立させたアカネの攻撃
﹂
の前に、完成体須佐能乎はその鎧を剥がされていく。
﹁くっ
化していた。それを遠目で見ていた忍達の誰かが呟いた。
アカネとマダラの戦いにより、二人の周囲の地形は瞬きする間に変
アカネと距離を取るという意味では成功だったと言えよう。
えるアカネにより、その反動でマダラの身体が吹き飛ばされていく。
だが、その程度の斥力は最早アカネには通用しなかった。斥力に耐
ばそうとしているのだ。
たまらずマダラは神羅天征を放つ。斥力の力にてアカネを吹き飛
!
﹁な、なんという戦いだ⋮⋮﹂
﹁うちはマダラを圧倒している⋮⋮誰なんだあの忍は⋮⋮﹂
ここに至って、流石にアカネの正体を隠し通すのは無理かと、アカ
ネの正体を知る者達は思う。
忍達の中にはヒヨリのチャクラを覚えている古兵もおり、その者達
から日向ヒヨリという声も上がってきたのだ。
そこで綱手は近場にいた山中一族の者に頼み、本部へと伝達をす
る。そして本部から全忍に伝達が走った。
あれこそが、現代に蘇った日向ヒヨリ。日向ヒヨリの転生体である
﹄
日向アカネだ、と。
﹃おお⋮⋮
死者が転生して新たな生を得る。平時に聞けば眉唾物だ。真実な
らば脅威だろう。
だが今は戦争という異常事態だ。死者が蘇るなどいくらでも見て
きたものだ。例え日向アカネが転生者であろうと、彼女が味方で、そ
﹂
して強敵を相手に戦ってくれるならば心強いとしか言えなかった。
﹂
これなら暁にも勝てる
﹁初代三忍の一人が味方なのか
﹁勝てるぞ
の だ。だ が、そ れ も 折 り 込 み 済 み で は あ る。そ れ に 兄 は 穢 土 転 生 に
兄を何よりも尊敬するイズナにとって、その判断は非常に歯痒いも
判断する。
マダラを操るイズナは、やはり兄の力では日向ヒヨリに勝てないと
イズナである。
だが、その希望を打ち砕いてやろうと企む者がいた。そう、うちは
にしてそういう者が多いのが人の世なのだ。
も、希望の光が見え始めた事で気を取り直す。現金なものだが、往々
うちはマダラという圧倒的な強者を前に心が折れかけていた者達
!
!
││
よって生前の力を発揮出来てはいない。その事実を慰めとし、イズナ
は次の一手を取る。
そう、絶望の一手を。
││口寄せ・外道魔像
!
745
!
!
十尾の口寄せ。そして十尾という圧倒的な力によって全てを蹂躙
する。
戦局を容易く覆す最大の一手だ。そしてマダラが口寄せの術を発
﹂
﹂
動した瞬間││マダラの近くの空間が歪み、突如として一人の忍が現
れた。
﹁なに
うちはマダラよ
﹁己を取り戻せ
!
いマーキングを必要とせず、敵に干渉されずに別の場所へ自由に移動
飛雷神などの術と比べればタイムラグは大きい。だが、飛雷神と違
間に入った場所ではなく別の場所に出現する事も可能なのだ。
それだけではない。神威空間から現実空間へと移動する時、神威空
は出来ないのだ。
つまりマダラやイズナでも、神威空間に身を隠すシスイに気付く事
言えば、外から神威空間の中に干渉する事も出来ないという事だ。
術や飛雷神の術などの時空間忍術でも脱出は叶わない。それは逆に
そして神威空間からは神威でなければ脱出は不可能だ。口寄せの
神威空間に送る事も出来るのだ。
を神威空間に送る事であらゆる攻撃を防ぐだけでなく、人間や物質を
この作戦の肝は神威の能力の利便性である。オビトの神威は自身
させてもらい、別天神の奇襲を敢行する。これが作戦の全てだ。
てマダラが現れた時にオビトによって神威空間から現実空間に移動
シスイは戦争には参加せず、オビトの神威空間にて身を隠し、そし
ダラに使用する為に、神威を利用した奇襲作戦を取ったのだ。
別天神の力を考えれば可能性はあった。そして、確実に別天神をマ
あった。
た 策。イ ズ ナ に 操 ら れ て い る マ ダ ラ を 更 に 操 り 返 す と い う 作 戦 で
これがアカネの、正確には別天神の力を知った奈良シカクが発案し
らすらに神威空間の中で待ち続けていたのだ。
現れたのはうちはシスイだった。シスイはこの瞬間の為に、ただひ
││
││別天神
!
出来るのは大きな利点だろう。
746
!
!?
これによって別天神の奇襲は成功した。後は別天神がイズナの穢
土転生の縛りを上書き出来るかどうか、であった。
││
果たしてその結果は││マダラがある印を組んだ事で判明された。
││解
口寄せ解除の印。それによって口寄せされかけていた外道魔像は
元の空間へと戻って行った。
﹂
敵の不利となる行動を取る。それはすなわち││
﹁マダラ⋮⋮
れた瞬間であった。
◆
別天神だと
!!
うするだろうと考えていたのだ。
それ程の力が別天神にはあり、傲慢な者が多いうちは一族ならばそ
るはず。イズナはそう考えていた。
だ。別天神に開眼したならば、必ずやうちは至上の里へと変化してい
だが、今の木ノ葉を見てその可能性はないと判断してしまったの
た。
い。いつかは誰かが別天神を開眼する可能性がある事も考えてはい
いや、イズナも自分が持つ万華鏡が自分独自の物とは思ってはいな
られなかったのだ。
自分と同じ別天神の使い手が都合よく現れる等と、イズナには考え
だ。
て万華鏡という名に相応しく、使い手によって能力が千差万別なの
そもそも万華鏡写輪眼の使い手は歴史上でも数えられる程。そし
全に予想外の出来事であった。
戦場から遠く離れたアジトにてイズナは叫ぶ。これはイズナも完
﹁馬鹿な
﹂
初代三忍うちはマダラ。半世紀を超える縛りより、ようやく開放さ
﹁⋮⋮すまんなヒヨリ。手間を掛けさせた﹂
!
だが、今の木ノ葉はかつてと同じく生温い里のままだ。ならば別天
747
!
!
神に開眼した同胞はいない、そうイズナは判断した。
仕方ない事かもしれない。イズナにとってうちは一族は誇り高く
最も素晴らしい忍の一族だ。里を支配出来る力を得ればそうするだ
ろうという考えが、イズナの思考の隅にこびりついていたのだ。
だからうちはシスイという人間を見誤った。一族ではなく、里全て
に愛を注ぎ、里の為に生きてきた最高峰の忍を見誤ったのだ。
別天神の力はイズナが良く理解している。あの偉大な兄でさえ、別
天神には逆らえなかった。そこに力の強弱は関係ない、別天神を受け
れば必ずその幻術に支配されてしまうのだ。
つまり、例え穢土転生の縛りがあろうとも、別天神はそれを上書き
してしまう。マダラはイズナの手を離れてしまったのだ。
﹁ならば穢土転生を解除して││いや、駄目か﹂
穢土転生を解除してマダラを開放し、再び穢土転生にてマダラを蘇
らせる。そう考えたイズナだが、すぐにこの案を却下した。
748
何故ならば、マダラも穢土転生の仕組みを完全に理解しているから
だ。穢土転生にはあるデメリットが存在していた。それは穢土転生
の印さえ知っていれば、死人側から穢土転生の口寄せ契約を解除する
事が出来る、というデメリットであった。
これだけならばマダラが再び穢土へと戻るのではと取れるかもし
れない。だが、実際には術者の縛りから解き放たれ、死なぬ身体、尽
きぬチャクラにて自由に動ける様になるのだ。
つまり穢土転生を解除しても何の意味もないという事だ。それど
ころかデメリットにしかならない。
未だに穢土転生で蘇った古兵達は忍連合軍と戦っているのだ。穢
土転生を解除すれば、他の穢土転生全てが解除される。それは敵にメ
リットしか与えない愚策だろう。
別段全ての忍が集まっても物の数ではないが、だからといって敵の
そして惰弱した同胞どもめ そんなに
メリットを増やすつもりもイズナにはなかった。
﹁おのれ日向ヒヨリィィ
﹂
!
イズナはアカネと現代のうちは一族に対して怨嗟の声を上げる。
里の飼い犬でいたいか
!!
!
かつては忍の世で最強と恐れられ、千手一族と覇権を争っていたう
ちは一族。そのなれの果てにイズナは怒りしか覚えなかった。
今の惰弱しきったうちは一族など最早同胞にあらず。イズナは過
去の思い出にある自分にとって都合のいいうちは一族だけを同胞と
し、他の全てを切り捨てた。
なお、ヒヨリが一緒になって怒りの対象となっているのは条件反射
である。それほどイズナはヒヨリを憎み恨んでいるのだ。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮まあ、いい﹂
しばしの時を費やし、イズナは己の中から怒りを排出する。
兄が奪われたのは憤慨すべき事であり、惰弱な同胞は唾棄すべき存
在である。だが、それだけだ。過程がどれ程変わろうとも結果は変わ
らない。
﹁そう、オレが直接出ればいいだけだ。予定が繰り上げされた。それ
だけの事だ﹂
749
そうだ。兄がいなくとも、初代三忍が敵に回ろうとも、忍全てを相
手にしようとも、結果は変わらない。ならば問題などどこにもない。
﹂
﹁この怒りは奴らの絶望にて収めるとしよう。ふ、ふふふ、はぁーはっ
はっは
尾を携えて。
狂った様に笑い、イズナが戦場へと出陣する。最強の尾獣である十
!
NARUTO 第三十八話
戦場に、忍連合軍のどよめきが響き渡る。誰一人として大声は出し
ていないが、それでも万を超える人数が動揺しざわめくと、それだけ
で戦場に響き渡るというものだ。
忍連合軍が動揺している理由。それは、日向アカネとうちはマダラ
の戦いが突如として終わりを告げたからだ。
あれほど激しい戦いを繰り広げていた二人が、今は何故か静かに向
かい合っている。しかもそこに敵意は感じられない。これは一体ど
ういう事なのか。
忍連合軍の疑問は、総大将であるエーにオビトからの伝達が伝わっ
た事で解消された。
││
オビトの伝言を受け取ったエーは即座に本部へと通達し、マダラの
現状を全部隊へと通達させたのだ。
││うちはマダラは穢土転生の縛りを破り味方となった
その通達を聞いた忍達は、まず沈黙してその言葉の意味を噛み砕こ
うとする。
﹂
﹂
がその真相を知る者がそれを広めようとする事はない。
別天神という力は出来るだけ知られない方がいいのだ。下手すれ
ば新たな混乱を呼び起こす事になるかもしれないのだから。
とにかく、忍連合軍の士気は大幅に上がった。先ほどまで圧倒的な
力を見せ付けていた敵が、その力のままに味方になったのだ。
そして同等以上の力を持つ日向アカネもいる。初代三忍の内の二
750
!
そしてどう解釈しても答えは一つだと理解し、通達から数瞬後に爆
﹂
発的な歓声が湧き上がった。
﹁おおおお
﹂
﹂
どうやって穢土転生を破ったんだ
﹁あのうちはマダラが味方に
﹁すげー
﹁流石はうちはマダラだ
﹁いや、日向ヒヨリの力じゃないのか
!
!?
!
様々な憶測が飛び交うが、真相はうちはシスイの別天神である。だ
!?
!!
!
人が味方として戦場に立っている。その事実に興奮しない者は殆ど
いなかった。
忍連合軍が沸き立っている中、アカネとマダラは再会の喜びを噛み
締めあっていた。
二人が再会したのは暁による木ノ葉崩しの最中であったが、あの時
はイズナに操られていた為にその意思に反して敵対関係にあった。
だが今は違う。別天神によって自由を取り戻した事により、アカネ
とマダラは真の再会を果たす事が出来たのだ。
﹁マダラ⋮⋮﹂
﹁ヒヨリ⋮⋮﹂
ああ、マダラが帰って来た。終生の友が、平和を目指した同志が、共
に高め合った好敵手が帰って来たのだ。
ラがアカネに攻撃を加える。
﹂
作 戦 は 失 敗 だ っ た の か。そ う 悲 観 し、臨 戦 体 勢 を 取 る シ ス イ。だ
﹂
木ノ葉外れの森でアレを叫んだ事を忘れた
・・
が、真相はシスイが聞けば馬鹿馬鹿しく思う程度の物だった。
﹂
貴様
﹁な、何をするマダラ
﹁やかましい
とは言わさんぞ
! !?
ま、まさか、聞こえていたのか
﹂
敵同士というより、互いに理解し合っている悪友というべきか、と
にしては雰囲気が妙だった。
シスイはどうも様子がおかしいことに気付く。別天神が失敗した
!!
!
!?
にかくそんな雰囲気だったのだ。
﹁え⋮⋮
?
751
アカネは感動のあまりに僅かに涙ぐみ、マダラへと駆け寄ってい
﹂
﹂
ま、まさか別天神が効かなかったのか
!?
く。そして勢いのままに抱きつこうとして││
﹁ふん
﹁あがぁ
﹁な
マダラに拳骨を落とされた。
!?
!
これに驚愕したのはシスイだ。別天神が発動したというのに、マダ
!
﹁当然だ
﹂
操られている時も意識はうっすらとあったわ
お前への須佐能乎の攻撃を止められたんだろうが
﹁で、ですよねぇ﹂
マダラの言葉を聞き、アカネは冷や汗を流していく。
だから
﹂
あれのおかげで私はイズナの正体に気付
けたと思えば、そこまで悪い事ではなかったんじゃなかろうか
﹁だ、だが待ってほしい
カネは慌てて言い訳を口にする。
それを鑑みるに、当然今回も⋮⋮。マダラの怒りを抑えるべく、ア
とヒヨリだったが、当然その度に制裁が加えられていた。
そうと知りつつも年単位で時間を置き、たまに弄っていた当時の柱間
マ ダ ラ は あ の 時 の 出 来 事 を ネ タ に さ れ る 事 を 非 常 に 嫌 っ て い る。
!
﹂
イズナが知らずにオ
レ達だけが知ってる話とか、あるだろうがあぁぁぁぁ
!!
い。仕方ないったら仕方ないのだ。
!?
あの時はそれどころじゃなかったから保留に
﹁だったら何であの時に怒らなかったんだよ
﹁何で逆切れしてる
﹂
だってあの記憶が一番アカネの印象に残っていたのだから仕方な
浮かんだのがモロチ⋮⋮アレだったのである。
・・
マダラの叫びは激しく正しい。だが、あの時アカネの脳内に咄嗟に
!!
﹁もっと別のやり方があるだろうがぁぁぁぁ
!?
!
し。ね
﹂
﹂
!
﹁まあいい。今回は勘弁してやる。それと⋮⋮すまなかった﹂
のだろう。
ういうのではなく、やはりマダラという存在がアカネにとって特別な
別段ナルト達との付き合いが嫌だとか、楽しそうでなかったとかそ
アカネは、今まで見た事がない程に楽しそうなのである。
そしてシスイはアカネの態度の差に気付く。マダラと接する時の
失敗した訳ではない様である。
シスイは確信した。やっぱりこれ悪友同士の会話だ、と。別天神は
﹁むかつく正論を吐きおって⋮⋮
﹂
﹁な ら 今 回 も 保 留 に し よ う。今 は 戦 争 中 だ か ら そ れ ど こ ろ じ ゃ な い
してやったんだよ
!?
!!
752
!
!
?
マダラは先ほどまでの空気を一変させ、そして心底申し分けなさそ
うに謝罪した。
そしてアカネもまた真面目な態度に戻り、マダラの謝罪に対して首
を横に振る。
﹁お前は悪くない、悪くないんだ。だから、謝る必要なんてない﹂
﹁⋮⋮全ての責任を負う事など傲慢かもしれん。だが、オレがイズナ
の変化に気付けてやれれば⋮⋮そう思うとな﹂
﹁お前の言う通り、傲慢だよそれは。人はどれだけ強くなろうとも神
にはなれない。例え家族でも、完全に理解してやる事なんて出来ない
んだ﹂
﹁そうか⋮⋮﹂
アカネの慰めの言葉はマダラにも理解出来る。
だがそれでもマダラは納得出来なかった。自分がイズナを止める
事 が 出 来 て い れ ば。そ う 考 え る の を 止 め る 事 は マ ダ ラ に は 出 来 な
753
かった。
しかし、先ほどアカネが言った様に今は戦争中だ。後悔を捨てる事
﹂
は出来ないが、気持ちを切り替える事は出来る。
﹁そこの同胞よ。名は何と言う
まった不甲斐ない先祖だ。それよりも、此度の尽力に感謝する。よく
﹁そ う 畏 ま る 必 要 は な い。失 敗 し、お 前 達 に 多 く の 問 題 を 残 し て し
例外ではなかった。
ダラみたいになりたいと一度は夢見るのである。それはシスイとて
族の幼い者は誰もがマダラの伝説を読み聞かされ、マダラに憧れ、マ
一族の歴史においてマダラ以上の存在など記録に残っていない。一
シスイにとってマダラとは尊敬すべき偉大な先祖なのだ。うちは
正して名を告げた。
そしてシスイは偉大なる先祖とこうして出会えた事に感動し、礼を
イへと意識を向ける。
気持ちを切り替えたマダラは己の意思を取り戻させてくれたシス
様﹂
﹁は っ。シ ス イ と 申 し ま す。お 初 に お 目 に 掛 か れ て 光 栄 で す マ ダ ラ
?
ぞオレの自由を取り戻してくれた﹂
﹁勿体無いお言葉です。ですが、あまり御自分を卑下なさらないでく
ださい。あなたは我々にとって英雄だ。それは今でも変わりません﹂
﹁そうか⋮⋮﹂
シスイの言葉に、マダラは救われた思いになる。現代の同胞がかつ
ての己を誇りに感じてくれている。
それは、自分がしてきた事は無駄ではなかったのだと実感出来たか
らだ。見返りを求めたつもりはないが、それでもこうして目の当たり
にすると感慨深く思うのは、マダラも人の子だったという事だろう。
﹁ヒヨリ⋮⋮オレ達のしてきた事は⋮⋮﹂
﹁ああ、無駄でも、間違いでもなかったよ﹂
戦乱を収める為に多くを殺した。多くを失った。憎しみを飲み込
み、同胞を、家族を殺した一族と手を組んだ。その全ては⋮⋮無駄で
はなかったのだ。
ダラ﹂
﹁ええ。今や忍界は一つになろうとしています﹂
754
マダラはアカネとシスイと共に忍連合軍の元に移動する。
忍連合軍には他の戦場からもやって来た援軍も辿りついて、誰もが
静かにマダラを見つめる。ナルト達もまた神威空間から現実空間に
戻り、同じ様にマダラの行動を見守っていた。
そしてマダラは現代の忍達を前で、ゆっくりと頭を下げた。
﹁迷惑を掛けた。その上で、恥を承知で頼む。⋮⋮イズナを止めたい。
力を貸してくれ﹂
まさか素直に謝罪されるとは思ってもいなかったのだろう。マダ
ラのこの行動にアカネ以外の誰もが驚愕する。
うちは一族の歴史上最強とまで恐れられた人物だ。もっと傲慢な
﹂
人間だという思い込みがあったようだ。イズナに操られている時の
忍の世の為にも、イズナは必ず倒す
態度も影響しているのだろう。
﹁言われるまでもない
!
﹁そういう事じゃぜ。あなたこそワシらに手を貸して貰うぜうちはマ
!
絶対にこの戦争に負ける訳にはいかん
﹁この戦争が終われば、これを機に争いは収まる﹂
﹁ならば
﹂
!
﹃ッ
﹄
て││
マダラは心の中で柱間に語り掛ける。そして再び口を開こうとし
││柱間よ。ここにオレ達の夢がある。見逃すと損だぞ││
ラは笑みを浮かべた。かつての夢がここにあると理解したのだ。
五影の意思を聞き、忍連合軍もその意気を高める。それを見てマダ
!
﹁ば、馬鹿な
﹂
口寄せではない
よって否定された。
﹁違う
﹁十尾は前触れなく現れた
﹂
﹁グオオオオオオオオオォォォォォ
﹂
﹂
そして先ほどの十尾の出現が飛雷神だと想像した理由だが、飛雷神
は、イズナくらいなのだから。
は顔を見ずとも理解出来る。この世で十尾をコントロール出来るの
十尾の上にはイズナがいた。何やら仮面を被っているが、その正体
﹁イズナ⋮⋮
それを肯定する様に、アカネは十尾の上に立つ存在を指差した。
は考える。
瞬間移動に匹敵する時空間忍術の存在に思い至り、もしやとマダラ
!
﹂
﹁まさか飛雷神の術か
?
十尾の上を見ろ
﹁可能性は⋮⋮あるな
!
この場に出現したのだ。まるで瞬間移動でもしたかのように。
だが十尾にはそれがなかったのだ。一切の感知も出来ず、いきなり
術者の発動なり、召喚時特有の煙なりと口寄せ特有の前触れがある。
十尾出現。それは一切の前触れなく起こった。口寄せの術ならば
﹂
こいつは││﹂
エーと綱手が驚愕の声を上げる。だが、それはアカネとマダラに
口寄せされたのか
﹂
も、五影も、忍連合軍の誰もが、それの突然の出現に驚愕していた。
・・
突如として起きた異変に驚愕した。マダラだけではない、アカネ
!?
﹁いつの間に
!? !?
!
755
!?
!!
!
!
!
の術は術者が触れている対象も同時にマーキングした場所へと移動
する事が可能だからだ。
イズナが飛雷神の術の使い手ならば、マダラを操っている時にマー
﹂
キングをして、十尾と共にこの場に瞬時に移動する事も可能だろう。
﹁マダラ、イズナは飛雷神の術を
﹁⋮⋮分からん。オレですら今のイズナの力を把握してはいない﹂
イズナが飛雷神の術を会得していたかどうかをアカネが確認する
も、それは、マダラですら知り得ぬ情報であった。
そして突然の出来事に動揺する忍達に向けて、イズナはその口を開
いた。
﹁まずは称賛しよう。まさか五大国の忍がここまで協力する事が出来
るとは、な。正直驚いたぞ﹂
それは嘘偽りない称賛の言葉だ。単にここまで勝ち抜くだけなら
ば、日向ヒヨリ一人でも可能なのはイズナが良く知っている。
だが、忍の世が一つに纏まろうとしているのはイズナの予想外な出
来事だった。忍連合軍と言っても、所詮は形だけであり、連携や信頼
などない烏合の集だと思っていたのだ。
しかしそれは間違っていた。忍達は国や里の垣根を越え、かつては
殺し合った者同士で手を組み、助け合って困難を乗り越えここまで来
たのだ。
それをイズナは素直に驚き、そして称賛したのである。
イズナの言葉を聞いたマダラは、一縷の望みにかけてイズナに語り
掛ける。
﹁なら分かったはずだイズナ。人は分かり合える。時間は掛かるがい
つかは手を取り合い、協力して平和を実現させる事が出来るのだと。
もう、こんな事は終わりにするんだ﹂
どうかこんな愚かな行為は止めてほしい。マダラの想いが籠めら
れたその言葉は⋮⋮イズナには届かなかった。
一 年 か 十 年 か
﹂
そ れ と も 百 年 経 っ て も 千 年 経 っ て も
?
756
?
﹁無理だよ兄さん。確かに今は協力している。だが、それはいつまで
続く
?
協力していられるのか
?
?
イズナの問いにマダラは答えられなかった。人間とは忘れる生き
物だ。十年や二十年ならばいい。だが、百年もすればこの戦争も記憶
ではなく記録になってしまう。
そうなれば、人は忘れる。個としての人ではなく、種としての人が
忘れてしまうのだ。かつての戦争で受けた痛みを⋮⋮。
忘れてしまえば再び起こりうる。それが争いであり、その果てが戦
オレが平和を作り出す
兄さんにも
このオレが作る
!
争だ。永遠の平和などない。それをマダラは理解していた。
﹁無理だろう だから
日向ヒヨリにも無理ならば
!
誰 も 騙 さ れ ず 誰 も が 幸
!
千手柱間にも
﹂
永 遠 の 平 和 を 誰 も 傷 つ か ず
せになれる世界を
!
?
貴様らにも平和を享受する事は許されている オ
それ
未来の事なんざ分からなくて当たり前だろう
﹂
それでも皆で頑張って、少しずつ前に進んでんだろう
をテメー一人の勝手で邪魔してんじゃねー
が
﹁ふざけんじゃねぇ
向から立ち向かった。
その中にあって、この場で誰よりも若い三人の忍が、イズナに真っ
に忍連合軍が気圧される。
イズナの覚悟と信念、そして振るわれずとも理解出来る圧倒的な力
ち続けていた。
用する。だが、それでも多くの者に平和をもたらそうという考えは持
邪魔する者には容赦はしないし、平和実現の為に利用出来る物は利
になれる世界。この誰もがには、敵対する忍も含まれていた。
イズナの平和を実現したいという想いは嘘ではない。誰もが幸せ
限月読を実行するまでよ
﹂
これに従わないならば⋮⋮邪魔者全てを消して無
!
!
﹁最後通告だ
人では曲げられない信念が。
そこには確固たる信念が存在していた。歪んでいるが、それでも他
!
!
!
!!
レに協力しろ
!
!
!
が怖ければ自分だけ妄想の中に引き篭もってろ。オレ達を巻き込む
な負け犬が﹂
757
!
!
!
﹁お前一人が作る未来が平和である保証がどこにある。そんなに未来
!!
!
﹁あなたがしようとしている事は逃避よ
まるで子どもね
﹂
辛く困難な平和への道か
ら逃げて、安易な偽りの平和に逃げたのよ
﹁ああ、今のお前は間違っている。だから、それを止めるのが兄である
﹁⋮⋮兄さんもオレの邪魔をするのか﹂
たのだ。
いる中で尻込みする事を恥じ、誰もが戦意を高めてイズナを睨み付け
それだけではない。五影や他の忍達もまた、若い忍が覚悟を見せて
見て、アカネとマダラも前に立ち、イズナと敵対する意思を見せる。
三代目三忍という称号に相応しいまでの成長を見せるナルト達を
﹁なら、先輩として後輩に負ける訳にはいかないな﹂
﹁二代目三忍はいるのだし、三代目とでも言うべきかな﹂
る。そんなナルト達を見て思う事は一つだ。
何者にも曲げられない信念を持ち、未来を信じて前を見続けてい
た。
アカネ達の瞳には、ナルト達がまるで過去の自分達の様に映ってい
﹁ああ⋮⋮あの少年達を見ると思い出すな、昔のオレ達を﹂
﹁ふ、ふふ。見たかマダラ﹂
でイズナの気迫に対抗していた。
多くの大人が気圧される中、自らの信念を曲げずにナルト達は全力
を否定する。
ナルト、サスケ、そして二人に合流したサクラがイズナの語る理想
!
そし
オレの役目だ。あの時止められなかったオレの罪を、ここで雪ぐ﹂
﹂
!
へと繋がっていく。これにより十尾をよりコントロールし易くして
いるのだ。
そして十尾がその姿を変化させていく。今の十尾はまだ不完全な
のだ。それでもなお、十尾の力は凄まじかった。
十尾の口に巨大な尾獣玉が作られていく。その威力は並の尾獣が
放つ物とは比べ物にならないだろう。眼下に放てば、それだけで忍連
758
!
!
止めてみせようちはマダラよ
十尾の力に絶望せよ
﹁⋮⋮分かったよ。ならば
て忍達よ
!!
!
イズナの叫びと共に、イズナの体からは柱間細胞の管が生え、十尾
!
合軍が壊滅する事は必至。
だが、それを見るアカネやマダラ、そしてナルトに焦りはなかった。
アカネとマダラは躱す必要がないと確信し、ナルトもまた暖かな
チャクラを感じて不安に思わなかったのだ。
﹁イズナよ。三忍の力を舐めるなよ﹂
アカネの言葉と同時に、十尾が巨大な尾獣玉を発射しようとし、忍
連合軍はそれを防ぐ為の用意をどうにか整え、そして││
││木遁秘術・樹界降誕││
そして、十尾が尾獣玉を放つよりも僅かに早く、十尾の足元に巨大
な樹海が生み出された。
それによって十尾はバランスを崩し、尾獣玉は天高く飛んでいく。
そして遥か彼方、誰も存在しない荒野に着弾した。
半径数百kmは消し飛んだだろうか。その恐るべき威力に忍達は
恐れを抱く。だが、それでも防ぐ事は出来た。ならば対抗する事は不
﹂
なぜ柱間がここにいるのか。それを語るにはしばし時を遡らなけ
ればならない。
◆
759
可能ではない。
そう思い至り、そして木遁を使用したマダラへと感謝する。だが、
木遁を使用したのはマダラではなかった。マダラは両腕を組んで見
守っていただけで、何もしてはいなかったのだ。
だが、それもまた違ってい
ならば、誰が木遁を放ったのか。木遁を使用出来るのはマダラ以外
ではヤマトのみ。ならばヤマトなのか
た。
?
答えは、木遁の最初にして最強の使い手。木ノ葉の誇る初代火影に
して初代三忍││
﹄
﹁遅れてすまぬな二人とも
﹃遅いぞ柱間
!!
そう、千手柱間その人である。
!
第四次忍界大戦に多くの忍が参加している中、当然木ノ葉隠れの里
も中忍以上の忍は出払い、残っているのは僅かな強者と多くの下忍達
であった。
最低限の守りはあるが、それでも平時と比べると圧倒的に守りが薄
くなっているだろう。そのせいもあって、里の警備はより一層の警戒
心を持って固められていた。少ない人数ならば、それを覆す様に警戒
に当たっているのだ。
だが、それは外からの襲撃に対してだ。里の内部にはそこまでの手
が加えられていなかった。人が少ないから仕方のない事だろう。だ
が、そうして内部の警戒が薄れるのを待っていた者が、里の内側に存
在していたのである。
周囲に誰もいない事を気配で確認し、その人物は慎重に瞳を開け
る。
そして全身に絡み付いていたチューブなどの医療器具を外し、おも
むろに立ち上がった。
﹁やはり、里の警戒が外に向いているわね。予想通り戦争が起こった
ようね﹂
里の内部にて自身への警戒が薄れるのを待ち望んでいたのは、イタ
チのイザナミによって幻術に捕らわれていたはずの大蛇丸であった。
大蛇丸はイザナミによって永劫終わらぬ幻術に苛まれていたが、数
日前にようやく解放されたのである。
だが、大蛇丸はすぐには動かなかった。目覚めた事が木ノ葉にばれ
れば、永遠に幽閉されるか、殺されるか、少なくとも何かしらの処置
はあるだろう。それだけの罪を犯した自覚が大蛇丸にはあった。む
しろ今こうして生かされているのが不思議なくらいだ。
﹁いえ⋮⋮木ノ葉はそういう甘ちゃんだらけだったわね﹂
かつての同胞や師を思い出し、大蛇丸は憎しみではなく懐かしそう
な笑みを浮かべる。
そしてすぐに行動を開始しようとする。あまり時間に猶予はない
からだ。
﹁戦争が始まっているとしたら⋮⋮急いだ方がいいわね﹂
760
﹂
﹁どこに急ぐのですか
﹁
﹂
?
﹂
﹂
?
﹂
?
﹁どちらの陣営として
﹂
?
﹁もちろん、木ノ葉の忍として﹂
﹁木ノ葉を裏切ったあなたが、何故
﹁うちはイタチに借りを返す為﹂
﹂
﹁戦争に参加しようと思いましてね﹂
すという賭けにだ。
しばしの無言が続き、そして大蛇丸は賭けに出た。正直に全てを話
ネの目を見つめ返す。
アカネは真っ直ぐに大蛇丸の目を見ながら話し、大蛇丸もまたアカ
﹁⋮⋮﹂
﹁さて、何をする為に急いでいたのですか
で悲観する。そんな大蛇丸にアカネは問い掛けた。
大蛇丸はその事実に冷や汗を流し、そして目論見が崩れた事を内心
化、それにすらアカネは気付いたのだ。
うだ。大蛇丸がイザナミから抜け出し、意識が目覚めた時の気配の変
大蛇丸もまさか最初から気付かれていたとは思いもしなかったよ
﹁⋮⋮それはまた、随分と過大評価をされたようで恐縮ですねぇ﹂
張り専用の影分身ですので﹂
﹁いつから、ですか。あなたが目覚めてからですよ。私はあなたの見
分を慰めた。
だ。アカネならば自分が気配を見逃しても仕方がないと、大蛇丸も自
日 向 ヒ ヨ リ。い や、日 向 ア カ ネ。そ れ が 大 蛇 丸 に 声 を 掛 け た 人 物
来て頂けるとは光栄ですよ。⋮⋮いつからお気づきで
﹁⋮⋮これはこれはヒヨリ様。わざわざ私の目覚めに合わせて挨拶に
れましたか
﹁おはようございます大蛇丸。良く眠れたようですね。いい夢は見ら
た。
はなかったはず。そう動揺するが、声の主の正体をしって納得がいっ
一人独白する大蛇丸。だが、その独白を聞いていた者がいた。気配
?
?
761
!?
﹁借りとは
﹂
﹁かつての私の願いを⋮⋮思い出させてくれたからよ﹂
アカネの問いに、大蛇丸は流れる様に答えていく。その答えは大蛇
丸を知る者ならば到底信じられないものだ。
己の実験の為に木ノ葉にて多くの忍を材料とし、数多の人間の未来
を歪め、師も同胞も裏切った最悪の忍。それが大蛇丸だ。そんな者が
今更何を言おうと信じられるはずもないだろう。
﹂
アカネは大蛇丸の答えを聞いても何の反応もせず、そして更に問い
を続けた。
﹁かつてのあなたの願いとは
だ。
ないと答えられた。つまり、十年先か百年先かも分からないという事
両親が生まれ変わるのはいつなのか。それはヒルゼンにも分から
それはいつしか、永遠の命を手に入れる事に変わっていった。
大 蛇 丸 は 生 ま れ 変 わ っ た 両 親 に 再 会 す る 事 を 夢 見 る 様 に な っ た。
まった。
む大蛇丸を慰めたかったのだ。だが、それは呪いの言葉になってし
それはヒルゼンなりの気遣いの言葉だった。両親を失って落ち込
たのだ。
また大蛇丸に会う為なのではないか。ヒルゼンは大蛇丸にそう言っ
両親の墓で白蛇の皮を見つけたのも、両親が生まれ変わり、いつか
師であるヒルゼンに、白蛇は幸運と再生の象徴だと教わった。
れは白蛇の脱皮した皮だ。大蛇丸は一緒に両親の墓参りをしていた
そして両親の墓の前にて、大蛇丸はある物を見つけてしまった。そ
だ。
大きな傷を作り出した。それほどに、大蛇丸は両親を愛していたの
大蛇丸が幼い頃に両親は亡くしてしまった。それは大蛇丸の心に
いでもあった。
それが、大蛇丸の最初の願い。そして、大蛇丸を歪めてしまった願
﹁⋮⋮死んでしまった父と母。両親にもう一度会いたかったのよ﹂
?
ならば、例え何百年経っても生き続けていなければ両親との再会は
762
?
叶わない。その為には研究をしなければならない。その為には多く
の術理を知らなければならない。その為には世の真理を解き明かさ
ねばならない。その為には不死にならなければならない。不死にな
る為には更なる研究を。研究、研究、研究。
そうして多くの研究と人体実験を繰り返し、戦争にて多くの死を間
近で見て行く内に、大蛇丸は歪んでいった。そしていつしか、幼い頃
の純粋な願いは歪み、この世の真理を解き明かすという目的の為の手
段が、目的へとすり替わってしまったのだ。
だが、イザナミによってその歪みに気付けたのだ。かつての願いを
思い出した大蛇丸は、まるで悪い夢から覚めたかの様に晴れ晴れとし
た気分になった。
当然目的の為に手段を選ばないその精神は変わってはいない。だ
が、それでも本当の目的を思い出した大蛇丸に、木ノ葉やヒルゼンに
対する恨みは消えてなくなっていた。
はい、これで問題ないでしょう﹂
﹁ええ、先ほどの言葉に嘘はないと思っていますから。それに、戦争に
は少しでも多くの戦力が必要ですからね﹂
大蛇丸ほどの実力者となれば、戦争でどれだけ貢献出来るか。その
貢献でどれだけの忍の命が助かるか。
それを考えるならば、大蛇丸をこんな場所で遊ばせておくつもりは
アカネにはなかった。もちろん、大蛇丸が味方になる確信があっての
話だが。
763
大蛇丸の言葉に嘘はなく、その瞳は澄んで恨みや憎しみは無くなっ
ている。アカネはそう判断した。
﹁分かりました。では、ここから出てもいいですよ﹂
﹂
﹁⋮⋮感謝するわ。と言っても、結構な強度の結界が張られているん
だけど
﹁解
だが、その術者はアカネであり、その解除も容易であった。
蛇丸を逃がさない様にする為の結界である。
そう、大蛇丸の周囲には非常に強固な結界が張られていた。当然大
?
﹁私が言うのもなんだけど⋮⋮えらく簡単に私を外に出すわね﹂
!
﹁ですが、一応私も付いて行きますよ。少なくとも里の中で自由にさ
せるには、あなたは信用を失い過ぎていますので﹂
戦争には、ね﹂
﹁ええ、当然ね。それじゃあ早速行きましょう。まずは戦力を集めな
﹂
ければね﹂
﹁戦力
﹁そうよ。必要なんでしょう
そう言って大蛇丸は笑みを深め、アカネと共にある場所へと赴い
た。
そこは木ノ葉の外れにあるうずまき一族の納面堂だ。そこには無
﹂
数の死神を模した面があり、大蛇丸はその中から一つを選び取った。
﹁これね﹂
﹁これがどうかしたんですか
何を考えている大蛇丸
?
魂を開放する為に必要な道具ですよ﹂
﹁屍鬼封尽だと
﹂
﹁これは死神の面。屍鬼封尽によって死神の腹の中に封じられた者の
?
劫封印され、そして永遠に苦しみ続けるのだ。
グアアウウッ
屍鬼封尽にて呼び出された死神の腹の中に、術者と封印の対象が永
あった。
救ったという。だが、九尾すら封印するその術の代償は、術者の命で
かつてはその術にて四代目火影であるミナトが九尾を封印し、里を
伝わる封印の秘術だ。
屍鬼封尽。それはアカネも名前と効力しか知らぬうずまき一族に
?
﹁まあ、少し離れてご覧になっててください。⋮⋮
﹂
!!
る。
そしてそのまま死神を操作し、死神の腹を裂いた。同時に大蛇丸の
腹にも同じ傷が出来る。死神と憑依した者には、死神と同じ傷を受け
てしまう様だ。
裂かれた死神の腹の中から一つの魂が解放される。これで死神に
764
?
?
そう言って大蛇丸は死神の面を被り、そして己に死神を憑依させ
!!
用はない、大蛇丸は面を外し、そして腹から流れる血と、身体に刻ん
である術式を利用して口寄せの術を使用する。
そうして口寄せされたのは、なんと三体の白ゼツであった。
﹁これは⋮⋮﹂
﹁安心してください⋮⋮これは私が白ゼツを培養して作ったクローン
よ⋮⋮意識はないわ。生きているけどね﹂
そう、これは大蛇丸が柱間細胞を研究している為に生み出した白ゼ
ツのクローンである。
白ゼツの細胞を手に入れたのはいいが、研究する為には少ない細胞
では足らない為に、培養して増やしたのである。
生きてはいるが、意識はない。培養液に漬け続ければ生かしておく
事が可能な命のストック。それは大蛇丸の不屍転生の材料として最
適なのであった。
﹁クローンとはいえ命は命。それを⋮⋮﹂
││
ていない二人を他所に、大蛇丸は更に口寄せの術を行った。
765
﹁確かにそうかもしれませんが、そもそも白ゼツ自体が千手柱間の細
胞から作られた存在ですしねぇ。今更倫理を問うてもどこから問え
ばいいのやら⋮⋮。それよりも、そろそろ意識が限界なのでこの白ゼ
ツを使わせて貰いますよ﹂
そう言って大蛇丸は不屍転生にてクローン白ゼツに乗り移り、その
身体を自らの物とする。
私は寿命をこれ以上減らすつもりは
﹁そのくらいの傷なら私が治せましたのに﹂
﹁それって再生忍術でしょう
ありませんので﹂
術を使用する。
││穢土転生の術
﹂
そう言って再生忍術に掛かる事を拒否しつつ、大蛇丸は穢土転生の
?
大蛇丸が蘇らせたのは二人の人物だ。その人物とは││
﹂
!?
私たちは死んだはずなのに⋮⋮どういう事なの
﹁こ、ここは⋮⋮クシナ
﹁ミナト
?
!
四代目火影ミナトとその妻クシナであった。現状をまだ把握出来
?
││口寄せの術
じであった。
││
扉間⋮⋮
!
﹁⋮⋮ここは
おお
﹂
﹂
?
!
﹁また大蛇丸とかいう忍か⋮⋮
ん
同時に蘇らせる事は出来ない。その法則を利用したのである。
他の術者が穢土転生にて蘇らせた存在を、別の術者が穢土転生にて
用出来ないように穢土転生にて縛り続けていたのだ。
用する事も可能だろう。そう判断した大蛇丸は、敵が柱間と扉間を利
うちはマダラすら利用出来るならば、初代火影や二代目火影すら利
らば、マダラの裏にはマダラを利用する存在がいる。
ダラが穢土転生である事に大蛇丸は薄々だが勘付いていたのだ。な
その理由は、マダラの裏にいるだろう何者かへの対抗策の為だ。マ
穢土転生を解術せず、現世に留まらせ続け、その上で封印する。
大蛇丸はこの二人の穢土転生を厳重に封印し、隠していた。決して
る。
そう、初代火影千手柱間と、その弟にして二代目火影千手扉間であ
﹁柱間⋮⋮
﹂
は〝二〟。この二つはかつて大蛇丸がヒルゼンを狙った時の物と同
棺にはそれぞれある文字が書かれていた。一つは〝初〟、もう一つ
封印は大蛇丸によって解除され、中から二人の人物が現れる。
そうして現れたのは二つの棺。厳重な封印が施された棺だが、その
!
﹂
!
﹁おお
前回は迷惑を掛けたのヒヨリよ
オレにとってはほんの
そして柱間もアカネと同じく友との再会を喜んだ。
アカネは久しぶりの旧友との再会に喜びの声を上げる。
﹁久しぶりだな二人とも
るが、すぐにアカネ︵ヒヨリ︶の存在に気付いたようだ。
意識を取り戻した柱間と扉間。現状の確認に一瞬の戸惑いを感じ
!
?
!
のぅ﹂
﹁ああ。あれから三年は経ったな﹂
﹁そうかそうか﹂
766
!
少し前だが、お前の姿を見る限りそれなりの時間が経っているようだ
!
と、互いに笑い合う二人。そんな二人に対して、不機嫌そうに叫ぶ
者がいた。
﹂
大蛇丸とや
ヒヨリよ、これはどういう状況
全てを説明してもらうぞ
何故お前は今の世に新たな肉体で生きておる
﹁何を悠長に笑っている二人とも
だ
らと共にいる理由は
﹁む
なんだ貴様は
﹂
﹁ま、まあまあ落ち着いてください二代目様﹂
て扉間が怒鳴り散らすのがかつての木ノ葉の日常だったのである。
馬鹿三忍││誤字にあらず││が何かをやらかした時には、こうし
凄まじい剣幕での怒鳴りにアカネも柱間もやや腰を引いている。
!
!
!
初対面であるミナトとクシナが自己紹介をする。柱間と扉間は紹
﹁私はその妻のクシナです。よろしくお願いします初代様、二代目様﹂
﹁オレは四代目火影のミナトと言います﹂
?
四代目とな うむうむ、里も長く安定しておるようだな
介せずともこの場の誰もが知っているので必要ないのだ。
﹁ほお
﹂
!
!
自分が死した後も里が潰える事なく続いている事に柱間は素直に
﹂
喜びを表し、そしてアカネの言葉で素直に落ち込んだ。
﹁綱か⋮⋮今、里は大丈夫ぞ
﹁そうか
それなら良かったぞ
﹂
﹁安心してください。きちんと火影をしていますよ﹂
そんな孫が無事に里を運営出来ているか不安だったのだ。
には柱間の好きな賭け事まで覚えてしまう始末だ。
初孫だった綱手を柱間は大層可愛がり、甘やかし続けていた。果て
?
!
び落ちた。
﹄
﹁無駄話をせずさっさと説明せんかぁぁぁ
﹃すいませんでした
!!
自身が転生した事、大蛇丸が改心した事、そして、イズナによって
扉間の怒りを収める為にもアカネは迅速に状況を説明する。
!
﹂
そう言ってアカネと柱間は互いに笑い合い、そして扉間の怒りが再
!
767
!
!
?
﹁今は綱が五代目をしていますよ﹂
!
忍界に危機が訪れている事を。
﹁⋮⋮そうか。イズナだったのか﹂
﹁柱間⋮⋮﹂
全てを知った柱間は納得したように呟く。
かつて、柱間はマダラと死闘を繰り広げた。最大の友との望まぬ死
闘。それが柱間の心をどれほど痛めた事か。
だが違った。マダラは自分達を裏切ってはいなかったのだ。今で
も友として自分達を思ってくれているのだ。
イズナがしてきた事は到底許される事ではなく、柱間にも怒りは湧
いている。だが、それ以上にマダラの真実を知れた事が柱間には嬉し
かった。
﹁うちはイズナが引き起こした戦争に勝たなければこの世の未来はな
くなります。力を貸してもらえませんか初代様、二代目様﹂
大蛇丸は自身の術である穢土転生の存在に対して、命令ではなく頼
768
み込む。
それを見たミナトは大蛇丸の変化に驚いた。四代目火影の座に固
執し、自分が選ばれなかった事に恨み骨髄だった大蛇丸が、こうも変
わるとは想像も出来なかった様だ。
﹁⋮⋮ワシらの縛りを無くしておる様だな﹂
﹁はい。その力も出来る限り生前に近づけています。あなた達がやろ
うと思えば、私など一瞬にして殺せるでしょうね﹂
そう、大蛇丸は柱間達を縛ってはいなかった。今の柱間達は己の意
思で自由に行動する事が可能であり、大蛇丸を殺して完全な自由を手
に入れる事も可能なのだ。
﹁なるほどな⋮⋮﹂
扉間は大蛇丸を見つめ、そして柱間とアカネに目をやり、二人が頷
いたのを確認してため息を吐く。
﹁相変わらずお人好しが過ぎる⋮⋮。まあよい。戦争を止める事はワ
安心するが良い。オレも全力でイズ
!
シも不本意ではない﹂
﹂
﹁そういう事だ大蛇丸とやら
ナを止めようぞ
!
﹂
﹁ナルトが頑張っているんだ。父親として手伝ってあげなきゃね﹂
﹁母の強さをイズナって馬鹿野郎に教えてやるってばね
﹂
事に笑みを浮かべ、自らの顔岩の上で守るべき里を眺めつつ、気合を
アカネの言葉を理解した柱間は、友と再び力を合わせる事が出来る
堵し喜んでいた。
認出来た柱間のチャクラに納得し、敵としての復活でなかった事に安
この時、戦場にいるアカネの本体はこの情報が伝わり、戦場から確
る。
そう言って、影分身であったアカネは柱間達に後を任せて消滅す
私達が全部終わらせちゃいますよ﹂
﹁柱間。私と、そしてきっとマダラも待っています⋮⋮早く来ないと
全員の答えは一致していた。ならば、後はやる事は一つ。
!
行くぞ
!!
入れて叫ぶ。
﹄
﹁いつの世も戦いよ⋮⋮だが、戦争もこれで最後ぞ
﹃はっ
769
!
こうして、柱間率いる最強の援軍が、戦争に参戦したのであった。
!
NARUTO 第三十九話
千手柱間。言わずと知れた初代火影であり、初代三忍の内の一人。
そんな伝説の人物が突如として戦場に現れた。
そして、この衝撃的な事実に忍連合軍が気付く前に、次々と新たな
援軍がやって来る。
﹁兄者め。慣れ親しい友と再び共闘出来るからと逸り過ぎだろう﹂
優れた瞬身の術の使い手である扉間が到着。次にクシナを抱えた
ミナトと、そして大蛇丸も戦場に到着する。
﹂
クシナという人一人を抱えてこの速度。瞬身使いとしては自身以
上かと、扉間はミナトを称賛する。
﹁遅れたかな、ナルト﹂
﹂
﹁私達が来たからにはもう大丈夫だってばね
﹁父ちゃん、母ちゃん
ナルトは九尾モードのチャクラ感知にて二人の存在には気付いて
いた。だが、それでも実際に再会した時の喜びは想像以上だった。
ミナト達も最愛の息子とこうして現実世界で対面出来た事を喜ぶ。
しかし今は戦争中、それも最終局面だ。感動の再会に浸るのは後にし
て、今は前方にいる恐るべき敵に集中すべきだと気持ちを切り替え
る。
﹂
別の場所では援軍に現れた大蛇丸に、自来也と綱手が驚愕してい
た。
﹂
いつイザナミから抜け出したのだ
﹁大蛇丸
﹁お前
そんな旧友に対し、大蛇丸は相変わらずな二人だと思い、そして変
わりすぎたのは自分かと自嘲する。
﹂
﹁久しぶりねぇ二人とも。まあ、今はそんな事よりもあっちを優先す
べきじゃない
そう言って大蛇丸は前方を指差す。そこには猛り叫ぶ十尾の姿が
?
770
!
!
!
!
まさかの大蛇丸の登場に、綱手と自来也は目を見開いた。
!
あった。まるで自分の攻撃が意味を成さなかった事に怒り狂ってい
るかの様だ。
確かに、今は大蛇丸の事情や真意を問いただしている暇はない。自
来也はそう考え、そして大蛇丸の目を見て確認する。
﹁⋮⋮信じていいんだな﹂
﹁それはあなた達が決めなさい﹂
﹂
それ以上、大蛇丸は何も言わなかった。ほんの僅かな間が空き、そ
遅れたら置いていくぞ
して自来也は不敵に笑う。
﹁鈍っておらんだろうな
!
﹂
た。
﹁ガハハハハハ
オレはお前を信じていたぞマダラ
﹂
!
﹂
﹁めいわっ⋮⋮いてーだろうが いつまでも叩いてんじゃねぇこの
事が嬉しかったのだろう。
マダラが裏切っていないという事実と、マダラと友として再会出来た
嬉しそうに笑い、ばしばしとマダラの肩を叩き続ける柱間。よほど
﹁いたっ、⋮⋮すまんな柱間。迷惑をっいっ、迷惑っ││﹂
!
一方、柱間は懐かしき友との再会を喜び楽しく会話を繰り広げてい
取り戻す。そう、二代目三忍と称された時の空気を。
そして三人は共に僅かな笑みを浮かべ、一瞬にしてかつての空気を
なく当然の突っ込みである。
自来也と綱手の息のあった熟年突っ込みであった。だが、残念でも
﹃お前が言うなお前が
﹄
てねぇ。初代様達も見ている事だし、三忍の面汚しにはならないでよ
﹁私達の中で一番みそっかすだったあなたにそんな事を言われるなん
!
!
をしてしまった。
マダラだが、柱間が肩を叩く力があまりに強かった為に、思わず反撃
かつて友に掛けてしまった多大な失態について謝罪しようとする
!
﹂
馬鹿が
!
ガハハハハ
﹁ぐはっ
!
771
!
?
だがそれでも柱間はめげずに大声で笑い続ける。そこにはただ嬉
しいだけでなく、マダラに対して気にするな、という思いが籠められ
ていた。
それはマダラも気付いていた。だからこそ、マダラは柱間の想いを
汲んで、いつも通りに柱間と接する事にした。
⋮⋮それにしても﹂
おぬしならばとっとと終わらせかねなかったから
﹁何やってんですか二人とも⋮⋮。まあ、間に合った様で何よりです
よ柱間﹂
﹁おう、ヒヨリ
な、出来るだけ急いだぞ
!
﹄
以前よ
!
﹁で
だからどうした
﹂
いる中、イズナがその口を開いた。
そんな風に旧友達がその親交を深めたり、親子が真の再会を喜んで
でもなく当然の結果でもある。
まあ、穢土転生なので何の問題もないのだが。ついでに言うと哀れ
る。哀れ、柱間は参戦直後に再起不能のダメージを受けた。
完全なるセクハラ発言に、アカネとマダラのツープラトンが炸裂す
﹃ふん
りも胸は大きいのでは││﹂
﹁あらためて見るとなんとまあ、ピチピチに戻ったものよ
柱間はアカネの身体をじろじろと眺め回す。そして一言。
!
?
んでいた者達も、意識はちゃんとイズナと十尾に向けていたのだが。
イズナのその言葉の意味を理解出来た者は少ない。それは初代三
﹂
忍達だけであった。その言葉の意味は││イズナがそのまま口にし
た。
﹁初代三忍が揃った所で、それで勝てると思っているのか
﹁先ほども言ったが⋮⋮あまり三忍を舐めない方がいいぞイズナ﹂
そんなイズナに対し、アカネもまた自信をもって返した。
で負ける要素は欠片もないという、圧倒的なまでの自信だ。
その言葉にあるのは純然なる自信。例え初代三忍が全員揃った所
?
772
!
イズナの言葉に誰もが視線をそちらに向ける。もっとも、再会を喜
?
﹁お前達三人の強さは良く知って││﹂
﹁違うな﹂
イズナの言葉を遮ったのはマダラだ。その言葉に、一つ間違いがあ
る事を指摘したのだ。
その間違いとは││
﹁イズナよ。三忍の称号は⋮⋮既にオレ達だけのものではない﹂
初代三忍、千手柱間・うちはマダラ・日向ヒヨリ。
二代目三忍、自来也・大蛇丸・綱手。
そして、初代に三代目として認められた新たな三忍、うずまきナル
ト・うちはサスケ・春野サクラ。
ここに、三代に渡る全ての三忍が揃った。
イズナは思う。なるほど。確かに戦力は増した。三忍が全て揃い、
その上二代目火影や四代目火影にその妻までいる。
﹂
!
手伝え
﹂
!
動し跪いていた。
﹄
﹁四赤陽陣をする
﹃ははぁ
!
柱間が選ばれていない理由は、柱間がこの戦場に到着するまでに、
二人は当然火影である扉間と、そしてミナトである。
その術の使い手として、扉間はヒルゼンとダンゾウを選んだ。残る
の数十倍も強いという。
う、強力な結界だ。その強さはかつてヒルゼンを閉じ込めた四紫炎陣
四赤陽陣。それは火影級の忍が四人で協力して初めて出来るとい
!
773
それでもイズナは揺るがない。例え敵の戦力がどれほど増大しよ
うとも、最早イズナに止まる術もなければ、そのつもりもないのだか
ら。
最早言葉は無意味。ならば力で以って示すのみ。イズナがその判
﹄
ダンゾウ
断に至った瞬間、扉間が動き出した。
﹁猿
﹃はっ
!
扉間がそう叫ぶと、ヒルゼンとダンゾウは一瞬にして扉間の前に移
!
自分も思う存分アカネ達と暴れたいと我侭を言ったからである。
兄が一度言い出したら聞かない事を理解している扉間は、仕方なく
それを承諾し、そして最後の一人にダンゾウを選んだ。
その理由を扉間はダンゾウに説明せず、ただ一言、四赤陽陣をする、
と命令だけを下す。
それにダンゾウは応えた。出来るか、等とは扉間は言わない。出来
る事しか扉間は言わないからだ。つまり、自分ならば火影と変わらぬ
働きをすると信じられているのだ。
それに応えずして何が忍か。ダンゾウは何の反論や疑問も抱かず
に、扉間やヒルゼンと共に前に立つ。
﹁二代目、三代目、ダンゾウ様、私の前へ﹂
四赤陽陣の為の前準備は既にミナトが終わらせていた。四人で対
象の四方を囲む必要があるのだが、ミナトの飛雷神の術があればそれ
も容易い事だった。
ミナトは飛雷神のマーキングがついた特別製の苦無を十尾の後方
と左右に投げていたのだ。その早業に扉間も火影の名は伊達ではな
いかと笑みを浮かべる。
そしてミナト自身も全力で戦う為にその力を発揮する。その力と
は、ナルトと同じく九尾チャクラモードであった。
ナルトの中に封印されている九喇嘛は陽のチャクラの塊であり、残
る陰のチャクラはミナトの中に封印されていた。
ミナトはその陰の九尾チャクラをコントロールし、九尾チャクラ
モードへと至ったのだ。恐るべきはそのセンスだろう。ナルトが苦
労した九尾のコントロールを、ここまで完璧にこなしているのだか
ら。
⋮⋮もしかしたらだが、死神の腹の中で延々と陰の九尾と共に苦し
んでいた事により、陰の九尾と何らかの友情みたいなものが芽生えた
のかもしれない。
ともかく、九尾チャクラモードになったミナトは、扉間達三人をそ
れぞれの配置へと飛雷神の術にて飛ばす。
ちなみにミナトの配置は真正面であった。これはミナトが勝手に
774
選んだ配置だ。理由は、最愛の妻から離れたくないというものと、最
﹂
││
愛の息子の活躍を正面から見たい、という二つの個人的理由からであ
る。
﹁行くぞ
││忍法・四赤陽陣
扉間の掛け声と共に四赤陽陣が発動し、十尾の四方に巨大な結界が
張られた。
喰らうってばね
﹂
そしてそれだけではない。ミナトはクシナに向けて視線にて合図
を送る。
﹁もういっちょ
!!
﹂
これで十尾の動きは封じたわ⋮⋮
﹂
﹁大丈夫だよクシナ。その前に十尾を││来る
ないわよ
﹁よし⋮⋮
でも長くは持た
それでも動きを封じるくらいならば可能であった。
流石にこの封印術を以ってしても十尾を封印する事は叶わないが、
まき一族の強力無比な封印術だ。
クラが溢れ出した。かつては九尾を完全に押さえ込んだという、うず
クシナが気合を入れた瞬間に、クシナの身体から無数の鎖状のチャ
!
!
巨大な尾獣玉が十尾の口から放たれる。その破壊力は先に見た通
りだ。だが、四赤陽陣は結界術の最高峰であった。
放たれた尾獣玉が四赤陽陣にぶつかる。その威力に四赤陽陣は大
きく歪み膨らむが、結界は砕かれる事はなくその威力に耐え、そして
﹂
尾獣玉の爆発は開いている上空に向けて上昇していった。
﹁危ないからお口も閉じときなさい
﹁す、すげぇ
﹂
尾獣玉は放てなくなるだろう。
クシナの封印術が更に十尾を縛り、その口元を塞ぐ。これで簡単に
!
た。
りにした事は、火影を目指すナルトとしては興奮するのは当然であっ
ナルトは火影や母の力に興奮していた。特に火影の力を目の当た
!
775
!
!
動きを封じられた十尾は、その怒りを力に変えて放った。
!
!
!
そして柱間が木分身にて結界の四面それぞれに出入り口を作り出
す。これで忍達は四赤陽陣に入り、十尾に挑む事が出来る様になっ
た。
それだけではない。九喇嘛の協力もあり、ナルトは影分身を駆使し
て忍達全員に九尾のチャクラを受け渡していた。
これにより忍達は今までの数倍のチャクラを得て、大幅にパワー
アップする事になる。当然ナルトの中の九尾チャクラは減るが、九喇
嘛が瞑想してチャクラを溜める事で再び回復は可能だ。
このチャクラの受け渡しは九喇嘛のチャクラを忍一人一人のチャ
クラ性質に合わせて
器用に変化させなければ不可能だ。それが出来る様になるほど、ナ
ルトが成長したという事である。
そうして九尾のチャクラを得た忍に対し、イズナは身動きが取れな
い十尾の代わりに、十尾の肉体から小さな分裂体を無数に生み出して
776
対抗する。
小さな、と言ってもそれは十尾と比べての話だ。分裂体の大きさは
バラバラだが、最も小さい者でも人間大。大きな者は10mを越える
者までいる。
そんな化け物達に対し、忍達も怯まずに立ち向かう。忍連合軍と十
﹂
尾の死闘が、開始された。
◆
﹁しゃーんなろー
は分裂体を粉砕していく。
溜め込んだチャクラを用い、師匠である綱手譲りの剛力にてサクラ
あって初めて会得出来る白豪の印。
チャクラを一定に溜め続けるという、緻密なチャクラコントロールが
サ ク ラ の 額 に は 綱 手 と 同 じ く 白 豪 の 印 が 浮 か ん で い た。三 年 間
ラが分裂体の群れを突破する。
独特の掛け声とともに、三代目三忍とも称される程に成長したサク
!!
更に、アカネによって鍛えられた技術も同時に発揮していた。この
世界で極少数しか会得していない技術、合気である。
分裂体の動きを鍛えられた観察力で見抜き、力の流れと重心のバラ
ンスを見切り、分裂体の攻撃に合わせて柔を仕掛ける。
そうしてバランスを崩した所に、全力の一撃を放つ。その一撃に
よって分裂体は他の分裂体を巻き込みつつ、数百メートルも吹き飛ば
されて行った。
﹁⋮⋮サクラちゃんを怒らせるのは止めておこう﹂
﹁⋮⋮こればかりは同意する﹂
自分が分裂体だったら。そんな恐ろしい想像をしたナルトとサス
﹂
﹂
ケは、サクラを本気で切れさせる事はしないと誓った。
﹂
﹁さて、サクラちゃんに負けてられないってばよ
吠え面かかせてやるぜ
﹁どっちが多く倒せるか、勝負するか
﹁上等だ
?
!
を一瞬で吹き飛ばし、サスケも雷遁の鎧による高速移動と攻撃力で、
九尾チャクラモードのナルトは圧倒的な速度にて数十もの分裂体
いながら分裂体へと向かっていく。
サクラばかりに活躍させるつもりもなく、ナルトとサスケは競い合
!
ナルトに負けじと分裂体を切り裂いていく。
﹂
﹁まだまだぁ
!
││
││
!! !!
﹃よし。オレの勝ちだな。⋮⋮﹄
を見たナルトとサスケが叫ぶ。
その強大な一撃は、それぞれが数百もの分裂体を消滅させる。それ
を放つ。
が放ち、サスケは須佐能乎の弓矢に加具土命の力を混ぜ合わせた一撃
そして、九喇嘛のチャクラにて超巨大化させた螺旋手裏剣をナルト
││炎遁・須佐能乎加具土命
││風遁・超大玉螺旋手裏剣
スケもまた同じ様に力を振るう。
そして、ナルトはナルトでサスケに負けじと更なる力を発揮し、サ
﹂
﹁おおおおぉ
!
777
!
互いに異口同音し、そして睨み合う二人。負けず嫌いであり、あい
つだけには負けたくないと互いに思っている二人は、次の瞬間には新
たな得物を求めて同時に動き出していた。
本人達が知らぬ内に三代目三忍の名を襲名されたナルト達が奮闘
している中、二代目三忍達もまたその猛威を振るっていた。
﹁さて、久しぶりにやりましょうかねぇ﹂
﹂
﹁まさか再びお前と力を合わせる時が来るなんてな﹂
﹁人生とは分からぬものよのゥ。だからこそ面白い
再び集結した二代目三忍。この三人の誰一人として、こうなる未来
を予想した者はいなかった。
だからこそ、大蛇丸も綱手も自来也の言葉に同意する。未来は未知
三
遠からんものは
怒りに溢れた血の涙ァ
大舞台ゆえに張り切って行こうかのゥ
だからこそ面白いのだ、と。
﹁さあ
音に聞け、近くば寄って目にも見よ
﹂
!
合わせろよ大蛇丸
﹂
だが、大蛇丸と綱手から言わせると空気が読めてないのは自来也で
もういいわい
││
!
あった。
﹁ええぃ
││火遁・大炎弾
﹁仕方ないわねぇ﹂
││
!
いく。
﹁はあぁ
﹂
巨大な壁となった炎はそのまま直進し、無数の分裂体を飲み込んで
威力を増幅していく。
自来也と大蛇丸が同時に放った火遁と風遁が互いに合わさり、その
││風遁・大突破
!
!
!
!!
778
!
!!
自来也様たァ││﹂
!!
少しは空気を読まんか
妙木山の蝦蟇妖怪
忍語りて仙人に
﹂
﹁先に行くわよ
﹂
待たんかお前ら
﹁置いて行くぞ自来也
﹁あ、ちょっ
!
!
せっかくの見栄切りをまたも邪魔され、自来也は怒り心頭になる。
!
!
!
!
!!
!
そしてその壁を突き破り、綱手が生き残った分裂体に直進してその
まま殴り付ける。
流石はというべきか。弟子であるサクラに劣らぬ怪力にて、分裂体
は吹き飛んで行った。
﹁さて、細かいのは他の忍でも相手に出来るでしょう。私達は大物を
仕留めましょうかね﹂
そう言って大蛇丸は分裂体の中でも大型の物に標的を絞り、複数の
││
大型分裂体に向けて術を放った。
││口寄せ・三重羅生門
受けてしまう。
﹂
る。それにより逃げ場を失った大型分裂体達は、次の一撃を無防備に
大型分裂体の周囲を囲むように三つの巨大な羅生門が口寄せされ
大蛇丸はそれを敵の動きを封じる為に使用した。
羅生門とは攻撃の為の術ではなく、本来は防御の為の術だ。だが、
!
それでワシの方が強すぎたら謝るとしよう
!
ましと挑発を混ぜた発言をし、加減なしに術を放つ準備をする。そ
う、仙人モードである。
当然それを見た大蛇丸も負けじと仙人モードへと至る。互いに仙
人になった二人は不敵に笑い合い、そして全力の術を放った。
││
││仙法・火遁大紅蓮弾
!
側から溶けつつあった。
もっと大勢の敵を巻き込んでやれ
!
綱手の怪力によって羅生門は吹き飛ばされ、その勢いに押されて地
力で殴り付ける。
それを見た綱手はもっともな意見を放ち、敵側に向けて羅生門を全
﹁過剰火力だろうが
﹂
大型分裂体達は一瞬にして焼滅し、強靭な耐久力を誇る羅生門すら内
獄炎と大嵐。二つが混ざりあい、羅生門の内側に地獄が現出した。
││
││仙法・風遁大嵐烈風
!
!
779
﹁次はあなたが合わせなさい
﹁全力でやるからのぅ
﹂
!
自来也は、自分の全力についてこれなかったら謝ってやろうと、励
!
獄の炎も無数の敵に向けて吹き飛んでいく。哀れ、直線上にあった分
裂体は溶解しかけた羅生門に押し潰されたり、地獄の炎に巻き込まれ
て焼滅していった。
そうして多くの分裂体を倒した二代目三忍だが、その手を休める事
││
なく更なる力を戦場で発揮する。
││口寄せの術
自来也の口寄せ、巨大ガマのガマブン太。
大蛇丸の口寄せ、巨大ヘビのマンダ。
綱手の口寄せ、巨大ナメクジのカツユ。
口寄せ三竦みと恐れられた二代目三忍の口寄せ動物が再び集い、戦
場で暴れるのであった。
﹂
なるほどなる
二代目三忍と三代目三忍の活躍ぶりを見て、初代三忍達はその力を
あれがお前達の言う二代目と三代目か
称賛していた。
﹁ほほぅ
ほど。里の力は無事に育っているようだな。安心したぞ
!
た柱間は、後任達の活躍を見てご満悦だった。
自分がいなくなった後も、里は立派に成長をしている。それを目の
当たりに出来て嬉しかった様だ。
﹁うーん、まあ、強さは十分なんですが⋮⋮。一人は少々⋮⋮いえ、か
なり危うかったんですよねぇ﹂
アカネは三忍達の中で一人だけ大罪を犯している人物を思い浮か
べ、人間変わりもするものだとしみじみと感じていた。
誰よりも人生経験が豊富なアカネであったが、あそこまで歪んでい
た人物がこうも良い方向に変化したのを見るのは早々ない経験で
あった。
恐るべきはイザナミと言うべきか。うちはの力は大概だなぁ。と、
自分の力は棚に上げて感心するアカネであった。
﹁大蛇丸は確かに過ちを犯したが、結果的に見れば意外と助けになっ
ていたりする⋮⋮本当に意外だがな﹂
780
!
アカネとマダラに二代目三忍と新たな三代目三忍の話を聞かされ
!
!
﹁そうなのか
﹂
そう、アカネは知らぬ事だが、マダラが言う様に大蛇丸が木ノ葉隠
れから抜け出さなければ現状は更に窮していた事になる。
大蛇丸はビーをわざと逃がしたり、イズナに柱間と扉間の穢土転生
を利用されないように封印したり、イズナから屍鬼封尽について聞き
出してミナトの魂を救い出したりしているのだ。
どれもこれも自分の利とする為にしてきた事ではある。ビーを逃
がしたのも柱間達を封印したのも、大蛇丸が暁にこれ以上力を与えな
い様にする為であり、屍鬼封尽については自分の知識欲の為だ。
それがどこをどう転がったのか、忍連合軍の為に上手く働いてい
た。だからといって大蛇丸がしてきた事は到底許される事ではない
のだが。
﹁罪は罪であり、罪には罰が必要だ。だが、罪とはけして拭えぬもので
はない。大蛇丸とやらが改心したのならば、それを受け入れるまで
ぞ﹂
﹁⋮⋮そうだな。では、オレも罪を拭う為に働くとしよう﹂
﹁お前の場合は仕方なかっただろうと言ってるのに⋮⋮﹂
柱間の言葉にマダラが同意し、償いの為に力を振るおうとする。
﹂
アカネや柱間としてはマダラは操られていただけなのだが、マダラ
今は戦場に気を入れるべきぞ
は割り切れてはいない様だ。
﹁まあ、それも後の話よ
!
する。
﹄
﹁では行くぞ
﹃おう
﹂
を見て、彼らに忍の最高峰を見せてやろうと初代三忍がその力を発揮
二代目三忍や三代目三忍達、そして多くの忍連合軍が戦っているの
だ修行が足らない事を教えてあげなくては﹂
﹁それは困りますね。後輩達が調子に乗って増長しないよう、まだま
うだ﹂
﹁そうだな。このままだと後輩達に全ての見せ場を取られてしまいそ
!
781
?
!
柱間の掛け声と共に、三人が同時に仙人モードとなる。その所要時
!
間、僅か一秒足らず。
目のふちに僅かに隈取りが出来るだけの完全な仙人モードに至り、
││
そして初代三忍が伝説の力を見せ付けた。
││仙法・木遁木人の術
柱間が木遁忍術にて木製の巨人を作り出す。だが、木製と侮るなか
れ。その力は尾獣玉すら相殺する事が出来る恐るべき巨人なのだ。
その木人の上に立ち、柱間はそのまま木人を自在に操作する。前方
の味方達を飛び越え、敵陣中央にて縦横無尽に暴れ出したのだ。
近寄る分裂体など物ともせず、腕を一振りしただけで無数の分裂体
││
を吹き飛ばし、足を振り上げるだけで無数の分裂体を文字通り蹴散ら
す。
││仙法・木遁挿し木の術
﹂
﹁まだまだ
││
友との久しい共闘ぞ。存分に力を振るわせてもらうぞ
して周囲に群がる分裂体達を串刺しにしていく。
更に木人の全身から四方八方に万を越える木の槍を飛ばし、一瞬に
!
││頂上化仏
││
に上回る、無数の腕を持つ巨大な仏像であった。
柱間が印を組んだ瞬間に生み出された物。それは木の巨人を遥か
││仙法・木遁真数千手
!
﹂
!
威を振るう。
そう言って、人間相手ではない事に安堵しつつ、柱間は分裂体に猛
する必要がないぞ
﹁戦争は好かんが、敵が人ではないのがまだマシか。おかげで加減を
ろう。
それが数千数万と放たれるのだ。その威力の程は想像もつかないだ
圧倒的であった。一撃一撃が分裂体を容易く屠る威力を持っており、
圧倒的質量から繰り出されるその連打の威力は、まさに質量以上に
向けて振り下ろされる。
真数千手の名の通り、数千もの腕から繰り出される連打が分裂体に
!!
782
!
!
!
柱間とは別の戦場にてマダラは戦っていた。初代三忍の力は強す
ぎる為に、狭い戦場に集まって力を振るうと逆に効率が悪くなってし
まう事もあるのだ。
強力な個に対してならばともかく、無数の群に対してならばばらけ
た方が効率的なのだった。
││
﹁さて、柱間やヒヨリに負ける訳にはいかんな﹂
││完成体須佐能乎
﹂
発揮したのだ。
││仙術須佐能乎
││
そしてそれだけではない。マダラは忍連合軍の想像以上の力まで
にて戦場で蹂躙を開始した。
他の術など児戯。誰もがそう思わせる程に、マダラは須佐能乎の力
とばかりに一緒くたに切り裂かれていく。
一振り。ただそれだけで、大小様々な分裂体が大きさなど関係ない
﹁はっ
佐能乎を存分に操り、忍達が期待した通りの働きを見せる。
その力の程は既にこの場の誰もが知っているだろう。マダラは須
先程までとは違い、忍連合軍の味方としてだ。
山を断ち、地を砕く神話の力。完成体須佐能乎が戦場に顕現する。
!!
大きく歪めてしまう。
まらず、そのまま直進を続けて四赤陽陣にまで到達し、結界の一面を
それだけではない。その威力は分裂体や大地を切り裂くだけに留
だの一撃の威力にて作り出してしまったのだ。
年月を掛けて作り上げる大自然を、土遁などの術の作用ではなく、た
その一撃により、大地に巨大で深い峡谷が出来上がった。星が長い
される。
る時には発揮出来なかったマダラの全力が、分裂体目掛けて振り下ろ
心技体。全てが揃った今のマダラだからこその力だ。操られてい
最強の力だ。この力にてマダラは柱間と互角以上に渡りあったのだ。
完成体須佐能乎に自然エネルギーを加えるという、生前のマダラの
!!
783
!
﹁む、いかんな。加減をせんと扉間に怒鳴られてしまうな⋮⋮﹂
マダラの心配は当たっていた。先の一撃が命中した結界の一面は
扉間の担当する一面であり、先の一撃で無駄に結界に負担が掛かった
事に怒りを顕わにしていたりする。
アカネもまた二人とは違う場所を己の戦場としていた。
アカネは火遁を除く四つの性質変化を駆使して雑魚狩りに励む中、
同じくその力にて分裂体を狩っている柱間とマダラを見る。
﹁⋮⋮﹂
というものであった。
そこにあった感情は、懐かしの友とまた一緒に戦える嬉しさ││で
はなく、あいつらなんかずるくない
こっちが普通││アカネにとってはだが││に五大性質変化の術
でそこらの忍と同じ様││アカネにとってはだが││に戦っている
というのに、柱間達は木遁やら須佐能乎やらの特殊な力を振るってい
るのだ。絶対にずるい。
アカネとしては何だか仲間外れにされた様な気になるのだ。アカ
ネがそう思うのは仕方ない事と言えよう。けっして私もあんな風に
巨大兵器みたいなのを操って戦いたい、と思っている訳ではないので
ある。
﹁⋮⋮やってみよう﹂
思い立ったが吉日。鉄は熱い内に打て。先人達は素晴らしい言葉
を残してくれている。ならばそれに倣うのみだ。
アカネはチャクラを練り上げ、その身に集中させていく。そしてそ
のチャクラを操作して造形を作っていき、須佐能乎の様にチャクラの
﹂
﹄
巨人を作り上げ身に纏う事に成功した。
﹁出来た
﹂
﹃阿保かお前はぁぁ
﹁おおぅ
尾って二体いるんだっけ
﹂、と 忍 連 合 軍 に 思 わ せ る 程 に 馬 鹿 げ た
チャクラを放ち、そのチャクラで巨人の衣を作り上げていたのだ。
?
784
?
いつの間にか、近くに柱間とマダラがいた。アカネが、﹁なあ、十
!!
!
?!
当然柱間とマダラがそれに気付かぬ訳がなく、恐ろしく無駄にチャ
クラを消耗する無駄のない超高度な技術を用いた無駄な術を作り出
﹂
なんぞそのチャクラの巨人は
ど
したアカネに耐え切れず、自分の戦場を離れて突っ込みに来てしまっ
たのだ。
﹁な、なんですかいきなり
﹂
﹁なんですか じゃあるか
んだけぞおぬし
そんなにチャクラを籠めて無駄な巨
!?
!?
﹂
幸か不幸か、アカネはその両方を有していた。それこそ柱間やマダ
だ。圧倒的なチャクラ量と、圧倒的な技術があれば、だが。
を練り上げ、それを巨人の形に形態変化させて身に纏う。確かに可能
だが、アカネが作り出したチャクラの巨人は違う。無駄にチャクラ
る事も可能だが。
形としてあらかじめ決まっているのだ。多少ならば形態変化をさせ
ざああいう形に形態変化させているのではなく、あくまで術者固有の
きる術だが、須佐能乎の形は使用者によって千差万別あれど、わざわ
須佐能乎もそれに近い。両目の万華鏡を開眼した者だけに使用で
化の術ではない。
れてあるからだ。なので、水龍弾の術は性質変化の術であり、形態変
るからではない。術を発動する印にてそういう形になる様に設定さ
この術が龍の形をしているのは、術者が龍の形に形態変化させてい
つけるという術だ。
ば水遁・水龍弾の術という術がある。これは文字通り水の龍を敵にぶ
るものだ。忍術の仕組みについて説明すれば分かるだろうか。例え
須佐能乎のチャクラの鎧はあくまで須佐能乎という術の効果によ
術には大きな違いがあった。
ば須佐能乎の模倣みたいなものだが、須佐能乎とアカネの作り出した
柱間とマダラの指摘は非常に正しい。アカネの今の術は言うなれ
ろうが
人作るくらいなら、同じチャクラで術を放った方がよっぽど効率的だ
﹁無駄にも程があるだろうが
!
!
!?
?
ラですら足元にも及ばぬ程にだ。だからこそチャクラの巨人を作り
785
!!
出せたのだが、この場合は無駄に過ぎるというものだろう。マダラが
言う様に、同じチャクラで普通の術を放った方が何倍も効率的だ。わ
ざわざ巨人の形に形態変化させる意味がどこにあるというのか。そ
﹂
私はチャクラの回復量も桁違いなんですから れならそういう印を作り出した方が遥かにマシであった。
﹁いいんですよ
この程度の消耗ならほんの一分足らずで回復するよ
が。
﹄
﹂
お前らと違って若いんだよこっちは
﹁だってお前らばっかずるいじゃないですか
﹃子どもか
﹁十七歳ですし
﹂
だから問題ない、というには明らかにやりすぎだったりするのだ
人モードのアカネならばすぐに回復する量しか消費していない。
した量は凄まじくとも、アカネからすれば全体の数パーセントだ。仙
そう、チャクラ量が多いからこそその回復量もまた桁違いだ。消費
!
ならばこっちもあれをやるぞマダラ
!
が、それでもこれはない。
﹁ええい
﹂
生き続けている訳ではなく、精神も年相応に合わせて多少は変化する
だが、中身は千年を越える時を生きている。転生する故に連続して
!
!!
い出した。
・・
﹁⋮⋮あれ
﹂
自分の知らぬ二人の術など
?
上げた術を披露する。
││
││仙法・木遁木人の術
││仙術須佐能乎
!
それをどうしようというのか。そう思っていたアカネの前で、二人
のだ。
二人が繰り出したのは、先程戦場で二人が振るっていた術と同じも
!
││
そう疑問に思うアカネを他所に、二人はかつてヒヨリに隠れて作り
そう多くはない。というか、殆どないはずだ。
柱間の言うあれとは一体何なのか
・・
何やらアカネに対抗意識を燃やしたのか、柱間が何か不穏な事を言
﹁む⋮⋮やるのかあれを⋮⋮﹂
!
786
!
!
!
!
?
││
はその力を││融合させた。
││威装・須佐能乎
る。
﹁見たか
﹄
﹂
﹂
!
﹄
﹂
!!!
﹂
おぬしがその馬鹿どもと一緒に馬鹿をしてどうする ﹁す、すまん扉間﹂
ちゃんと馬鹿二人の手綱を握らんか
﹁マダラ
らの名誉の為に記しておこう。
一応初代三忍達が倒した分裂体の数は誰よりも多いという事は、彼
ぎである。
ていればこうもなろう。久しぶりの集合だからと少々羽目を外しす
二代目と三代目が激闘を繰り広げている中で、初代のみが馬鹿をし
まさに怒髪天をつく怒りである。
馬鹿三忍││誤字にあらず││に対して扉間がとうとう激怒した。
﹃す、すいませんでした
﹁真面目に戦わんかぁぁぁあぁぁ
が死力を尽くして戦っている相手に酷い仕打ちである。
をしながらも、この三人はそこらの雑魚を蹴散らしている。忍連合軍
異口同音に叫ぶ柱間とマダラであった。なお、そんな風に馬鹿な話
﹃んなもんお前が強すぎるからだろうが
﹁なんで二人がかりで対私用の忍術作ってんだよ
これぞ対ヒヨリ用に二人で開発した合体忍術ぞ
二人の力が合わさった事により、その力・耐久力は大幅に上昇してい
その木人に須佐能乎を纏わせる。木人須佐能乎とでも言うべきか。
木人はちょうど須佐能乎と同じくらいの大きさだ。
象と言っても須佐能乎と同じ大きさを持たなければ使用出来ないが、
対象に須佐能乎を纏わせる、威装・須佐能乎と呼ばれる技術だ。対
!
!!
!
に。
らなくなるだろう。穢土転生でも痛みは感じるのだ。胃の辺りが特
それがこの有様では、生前と同じく胃薬を処方して貰わなければな
中で一番ましなマダラにストッパーとなってほしいのだ。
扉間の剣幕に流石にマダラも謝罪する。扉間としては馬鹿三忍の
!!
787
!
!
!
!
そんな扉間の胃の痛みを救ってくれたのは、他でもない十尾であっ
た。
十尾はふざけている││当人達は至って真剣なのだが││初代三
忍達が苛立ったのか、それとも初代三忍が放つ力に脅威を抱いたの
か、その身体を更に変化させて力を振るい易くする。
クシナが封印術にて封じているが、十尾がその力を更に強大にした
為にわずかに封印が緩んでしまい、一部が自由になったのだ。
その一部とは││最も自由にしてはならない、尾獣玉を放つ十尾の
頭部であった。
十尾がその形を徐々に変化させていく。より強くなる為に進化し
ている││のではなく、元に戻っていくと言った方が正確である。
完全体として復活出来なかった十尾は、徐々に力を溜めて元の姿に
戻ろうとしているのだ。それはつまり、更に強くなるという事であ
る。
ろか、結界内の忍全員が全滅するだろう。それはイズナも同じだとい
うのに、イズナは十尾に自由に力を振るわせていた。
イズナにどんな企みがあるかは知らないが、そんな事は柱間達には
﹄
関係ない。やるべき事は一つ。この尾獣玉を防ぐ事だけだ。
﹃はぁぁ
﹂
へと追いやった。
更にアカネが螺旋丸を投げつけて、その威力にて尾獣玉を結界の外
﹁よっ
か尾獣玉を天高く放り投げる。
人は十尾の尾獣玉を受け止め、そしてそのまま後退しながらもどうに
柱間とマダラの合体忍術である木人須佐能乎。須佐能乎を得た木
!
788
十尾はより強大となった力を初代三忍に向けて振るう。脅威とな
る者を排除する。その判断は非常に正しい。だが、正しければ必ず結
果が伴う訳ではなかった。
﹂
﹂
﹁マダラ
﹁ああ
!
十尾から放たれる巨大な尾獣玉。このまま着弾すれば柱間達はお
!
!
﹁まったく⋮⋮﹂
十尾の本格的な活動に対して、ようやく馬鹿を止めた三人を見て扉
間が息を吐く。
別に馬鹿をしつつも無駄な動きはしていないという、極めて有能な
馬鹿なのだが、それでも最年長者として恥ずかしくない姿を見せてほ
しいと思うのは、けして扉間の我侭ではないだろう。
◆
イズナは三忍達の力を見て思う。確かに脅威だ、と。
二代目や三代目も三忍の名に恥じぬ力を見せ、初代達は更に別格の
力を振るう。十尾の尾獣玉をああまで容易く防ぐとは、流石のイズナ
も想像していなかった。
﹁だが⋮⋮﹂
﹂
789
だ が、問 題 は な か っ た。む し ろ 敵 が 強 け れ ば 強 い ほ ど、イ ズ ナ に
とっては好都合であった。
むしろイズナにとっての脅威は別にある。それに対して、イズナは
││
注意を払っていた。その脅威とは││
││神威
放ったが、完全に警戒していたイズナには通用しなかった。
だけ不意を突こうと、オビトの協力の元に神威空間からの不意打ちを
だからこそ、イズナは常にカカシを警戒していた。カカシも出来る
尾が狙われてしまえば面倒だ。
言えるだろう。発動のタイムラグ故に自身が受ける心配はないが、十
塵遁すら時空間に消し飛ばすその瞳力。イズナをして恐るべきと
力は、二代目土影を穢土転生にて操っている時に確認していた。
これがイズナが警戒していた脅威、神威である。カカシの神威の能
して九喇嘛のチャクラにて範囲を拡大させた神威を十尾に放つ。
突如として十尾後方の空間が歪み、そこからカカシが出現する。そ
!
││神羅天征││
﹁ぐぅ
!
神威が効果を発揮するタイムラグの間に、神羅天征にてカカシを吹
き飛ばす。目標がずれた神威はあらぬ空間に発動し、何も飲み込まず
に不発に終わった。
﹁中々の瞳力だ⋮⋮。うちはの血族ではないお前が、そこまでの瞳力
警戒されていたか⋮⋮﹂
に目覚めるとはな⋮⋮﹂
﹁ちっ
渾身の一撃が無駄に終わった事にカカシは内心で悪態を吐く。
神 威 の 発 動 に は か な り の チ ャ ク ラ を 消 耗 す る。い く ら 九 喇 嘛 の
チャクラにて増大していようとも、十尾ほどの巨体を対象にすれば
チャクラの消費も大幅に増加してしまう。
それだけならまだいい。問題は視力の低下にある。万華鏡写輪眼
の多用は視力を大きく低下させてしまう。うちは一族ではないカカ
シならばなおさらだ。
十尾を対象に出来る程の神威となればあと何回放てるか。その少
ない回数の内、最大の好機が潰されたのは痛かった。
そんなカカシの心中はともかく、イズナはカカシの存在を疎ましく
思う。
いや、カカシだけならば殺せば終わりで問題ない。だが、カカシは
神 威 が 外 れ た 瞬 間 に オ ビ ト に よ っ て 神 威 空 間 へ と 逃 げ て い る の だ。
然しものイズナも神威空間へは手出しが出来なかった。
先程から圧倒的な力を見せる三忍達や、それに負けじと戦う五影達
にそれに追従する力を持つ者達、そして力を合わせて戦う忍連合軍。
そんな連中を相手にしつつ、その上で神威の不意打ちに警戒しなけれ
ばならない。
流石にこれだけ面倒が集まるとイズナでも手間だった。だからこ
そ、イズナは切り札の内の一つを切ろうとする。そしてこの切り札が
発動した時の、忍達が浮かべるだろう絶望の顔を思い描き、イズナは
悦に浸る。
イズナにとって敵の力が強大であればあるほど好都合だった。そ
790
!
れは、集団の連携によって生み出される力ではなく、一人の個として
の力に関してである。
一人の力がどれ程強大でも、イズナには関係がない。何故ならば、
イズナにはそれを利用出来る力があるからだ。
敵が別天神を使うならば、こちらも別天神にて対抗しよう。そう、
イズナもまた、別天神の使い手なのだ。その力にてかつてマダラを
操ったのだから。
答
だが、今回の別天神の対象はマダラではなかった。イズナに取って
は悔しい事だが、忍界最強の忍はマダラではない。ならば誰か
えはそう││日向アカネである。
日向アカネの圧倒的な強さはイズナも良く理解している。恐らく
まだ全力を出し切ってはいないだろう。そんな恐るべき忍である日
向アカネを別天神にて支配する。それがイズナが余裕だった理由の
一つだ。
イズナにとって別天神はとっておきの切り札だ。マダラ以外に使
用しなかった事からも、イズナが別天神の力を重要視している事が伺
える。生半可な相手に使用して、再使用までに長い時間を掛けるとい
う無駄をしたくなかったのだ。
十数年という別天神のインターバルを縮める方法はイズナにはな
かった。本来の別天神ならば、柱間細胞にてそのインターバルを大幅
に縮小する事が出来るのだが、イズナの別天神は永遠の万華鏡を得た
時に後天的に開眼した為か、柱間細胞の恩恵が得られなかったのだ。
もっとも、イズナは柱間細胞によって別天神のインターバルが縮小
されること自体知らないのだが。自身に発揮されなかった効果ゆえ
にそれも仕方ないだろう。
ともかく、そのとっておきの別天神を、この世で最も憎む存在に向
けて使用する。
日向アカネが、あの日向ヒヨリがその力を味方に向けて振るうの
だ。そう考えただけで胸が空く思いだ。
そうしてイズナはアカネに対して別天神を使用する為に、そして確
実に別天神を発動させる為に、輪廻眼の力を発動させる。
791
?
﹄
その瞬間、イズナは突如としてアカネの眼前の大地に立っていた。
﹃
アカネも、そして柱間もマダラも、イズナが現れた瞬間を察知出来
なかった。
それもそのはず。イズナは一切のタイムラグもなく、一切の前触れ
もなく、この場に現れたからだ。そう、戦場に突如として現れた十尾
と同じ様に。
おおくにぬし
輪廻眼には六道の力以外にも、開眼者固有の瞳術も存在していた。
イズナにも当然固有の瞳術がある。それが大国主と呼称された瞳術
であった。
大国主は大地を縮める力を有している。自身か、自身が触れた物体
が大地に接触している時に発動させると、地続きとなっている大地の
どこにでも瞬時に移動する事が出来るのだ。
これによってイズナはアジトから遠く離れた戦場へと、十尾を連れ
て移動したのだ。アカネやマダラが気付かなかったのも当然だ。そ
の移動にタイムラグは存在しないのだから。
もっともデメリットも存在する。移動した距離が長ければ長い程、
インターバルも長くなってしまうのだ。流石にこれだけの距離を移
動した事により、相当なインターバルを必要とした。
その為にオレ
だがそのインターバルも既に終わっている。大国主は発動し、日向
アカネの虚は突けた。後はアカネを操るのみだ。
││
││無限月読こそが平和へ至る唯一絶対の手段
に協力するのがお前の使命
﹂
しかも飛雷神ではないな
いつの間に
に操られるのだ。
﹁イズナ
﹁先程の時と同じ⋮⋮
﹁⋮⋮ふむ﹂
﹂
神を受けた者はその命令を当然だと思い込み、自身ですら気付かぬ内
その命令がどれほど荒唐無稽だろうと、別天神には関係ない。別天
!
!
!?
!
現象を二度見たマダラは、この現象が飛雷神の術によるものではない
突如として現れたイズナに柱間とマダラが驚愕する。そして同じ
!
!
792
!?
と見抜いた。
飛雷神の術にはマーキングが必要だが、イズナが現れた場所にその
マーキングは刻まれていなかったのだ。
一度目は十尾の巨体でマーキングが隠されているのかとも考えて
いたマダラだが、流石にこの距離で、しかもイズナの大きさでマーキ
﹂
その力を忍連合軍に振る
ングを見落とす程に、マダラの眼は無能ではない。
﹁ふはははは さあ 日向ヒヨリよ
!
!
無限月読を完遂する為の一助となれ
え
﹂
!!
!
描く。
マダラの反応から柱間も脅威を感じ取り、そして絶望の未来を思い
い行為だ。
アカネに触れる事すら至難の業。他の忍ならなおさら不可能に等し
柱間とマダラならば対抗はまだ可能だが、その激しい戦闘の中では
れが誰に出来るというのか。
事が可能だろう。だが、アカネの動きを止めて別天神を解除する。そ
他の誰だろうと、アカネならばその動きを止めて別天神を解除する
だが、当のアカネが操られてしまえば話は変わる。
もなくそれらを有していた。
るからだ。もちろん相応の実力や技術は必要だが、アカネは言うまで
は考えていた。別天神はその効果を他人によって解除する事が出来
それに別天神自体警戒はしていても、それ程脅威ではないとマダラ
でほぼ何でも出来ていたのだから、そう考えても仕方あるまい。
は見ていた。戦いに関してなら、マダラに出来る事は固有の能力以外
当然自分が警戒しているならアカネも警戒しているものとマダラ
人生を狂わされた術だ。二度も受けない様に警戒するのは当然だ。
マダラは当然イズナの別天神を警戒していた。一度受けた、それも
理解してアカネを見る。
柱間はイズナの発言の意図が理解出来ずに訝しみ、マダラはそれを
﹁まさか
﹂
﹁む
!
そんな二人の反応と、狂った様に笑うイズナを見てアカネはその口
793
!?
?
を開く。
⋮⋮は
﹂
?
﹁だが断る﹂
﹄
﹁ははははは
﹃⋮⋮ん
!
た。
﹁ふ、ふざけるな 貴様の使命はなんだ
﹂
!
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ふ﹂
﹁ふ
﹂
﹁ふざけるなぁぁぁ
本当に化け物か
別天神も、無限月読すら効かんだと 貴様
無効化します。あ、多分無限月読も効きませんね﹂
﹁はあ、仕方ないですね。私に幻術の類は通用しません。全部自動で
は秘密にしていた己の固有能力について説明してあげた。
そんな三人に対し、アカネはため息を吐きつつ、一族の一部以外に
なのか、さっぱり理解が出来ない三人であった。
イズナとマダラと柱間が同時に沈黙する。これは一体どういう事
﹃⋮⋮﹄
ですかね﹂
修行に励み、弟子を鍛え、美味しい物を食べながら平和を謳歌する事
﹁私の使命って⋮⋮まずはあなたを倒して無限月読を止めて、その後
月読実現の為に働け
さっさとその力で無限
その意味を理解するのに時間を要し、そして再びアカネに命令をし
まさか断りの言葉が返って来るとは思ってもいなかったイズナは、
だが断る。それがイズナの言葉に対するアカネの返答だ。
?
なお、幻術は当然として陰陽遁も封印術もその大半を無効化してし
であった。
化け物がもっと強い化け物だったという、まさに考えたくもない事実
それが幻術を完全に無効化する能力だったのだ。ただでさえ強い
でいるものだと思っていた。
いた憶えは二人にもなかったが、それはあくまでアカネの実力で防い
これには柱間とマダラもイズナに同意した。今までにも幻術が効
!?
794
!
!
!!
!
?
まうのだが、流石にそれは言わないでおいたアカネであった。
795
NARUTO 第四十話
別天神が不発に終わった事で怒り心頭となるイズナ。冷静さを完
﹂
全に失っているイズナは、アカネにとって完全に隙だらけであった。
﹁はっ
イズナが気付いた時には遅かった。アカネ達から離れる為に大国
﹂
主を発動させようとするが、その前にアカネはイズナを捉えていた。
﹁遅い
﹂
││八卦六十四掌││
﹁ぐぅっ
い る な。柱 間 の 力 の 恩 恵 か な 塞 い だ 点 穴 も 意 味 は な し。回 復 し
も問題ない、という事ですね。その証拠にダメージは即座に回復して
﹁ふむ。頭部を集中して守りましたか。頭部以外はダメージを負って
アカネは様々な推察を行う。
イズナのダメージ、そして攻撃を受けた時の防御。それらを見て、
てその全身には大きな傷が付けられていた。
剛拳の威力にイズナは吹き飛ばされ、大地に叩き付けられる。そし
剛拳を同時に叩き込む。まさに神速の早業と言えよう。
内臓を攻撃し、同時にアカネは剛拳による攻撃も加えていた。柔拳と
刹那の間にイズナの点穴が突かれる。更に体内にチャクラを流し
!?
﹁き、貴様⋮⋮
﹂
クラ吸収は常時発動ではない。とりあえずこんな所ですか﹂
ているけど柔拳による内臓のダメージはあり。つまり輪廻眼のチャ
?
﹁ああ。お前は強くなった。だが、ヒヨリの強さは単純な強さでは勝
﹁もう止めておけイズナよ。おぬしではヒヨリには勝てんぞ﹂
ある。
出す事で味方と情報を共有し、敵の冷静さを奪う。まさに一石二鳥で
もちろんそれもアカネの計算の内だ。こうして情報を敢えて声に
も容易く暴かれると勘に障るというものだ。
る。未知の敵を相手には確かに情報の有無の差は大きい。だが、こう
自身の情報を暴いている。それを理解して、イズナは苛立ちを覚え
!
796
!?
!
てない領域にあるんだ⋮⋮﹂
イズナは強い。それは柱間もマダラも認める所だ。恐らく自分達
よりも純粋な強さでは上だろう。
だが、イズナと戦って勝てないとは二人は思わなかった。純粋なス
ペックでは負けていても、それを覆せる経験と技術を二人は有してい
るのだ。
そして、アカネはそれ以上の経験と技術を有していた。だからこ
そ、二人はヒヨリとの勝負で一度たりとも勝利した事がなかったの
だ。
﹁単純な強さでは勝てない⋮⋮か﹂
イズナはマダラの言葉をそのままに呟く。そして、倒れたままに勝
ヒヨリ避け││﹂
ち誇った様な笑みを浮かべた。
﹁これは
瞬間、マダラは突如としてアカネに何かを叫び、それとほぼ同時に
﹂
アカネが後方へと吹き飛んだ。
﹁なにっ
いや、そんな気配は一切感じな
柱間はアカネが吹き飛んだ理由が理解出来なかった。
何らかの術による攻撃を受けた
という事になる。それはまさに脅威だ。
?
﹁ヒヨリ
マダラ
何があった
﹂
も避ける事が出来ない事を意味しているのだから。
ば。アカネですら避けられなかった攻撃だとしたら⋮⋮。それは誰
柱間が最も恐れたのは前者だ。もし、もし今のが攻撃だったなら
だ納得が出来た。
れならば、何を理由としてそうしたかは理解出来ないが、それでもま
ならば攻撃を受けたのではなく、アカネが自ら後方に飛んだ
そ
かった。もしそうだとすれば、それはアカネですら感じ取れなかった
?
!?
れに答える暇も惜しいと言わんばかりに、柱間を無視してアカネの元
そう判断した柱間はマダラに向けて疑問を問う。だが、マダラはそ
ラが理解している事を表している。
先のマダラのアカネに対する言葉は、アカネに起こった事象をマダ
!
797
!
!?
!?
﹂
へと駆けつけた。
﹁ヒヨリ
﹁無事ですよ。しかし⋮⋮敵からダメージを受けたのはどれほどぶり
か⋮⋮﹂
心配するマダラとは裏腹に、アカネにはそれ程のダメージを受けた
形跡はなかった。今は何かしらの攻撃に備えて廻天を発動している。
これならば見えぬ攻撃も防御できると判断したのだろう。
逆に言えば、それはアカネも先の攻撃を感知する事が出来なかった
という事を示していた。
﹁流石だな日向ヒヨリ。今の一撃で胸を貫くつもりだったが、兄さん
の声に反応して一瞬早く後ろに飛んで衝撃を逃がしたか﹂
﹁⋮⋮﹂
イズナは生き延びたアカネを称賛する。アカネはその言葉を無視
し、白眼の力を強め、そして意識を集中させて感知能力を最大限に引
き上げる。イズナの攻撃を見抜くつもりなのだろう。
そんなアカネに対し、イズナは余裕の笑みを浮かべながらアカネの
行動の無駄を指摘した。
﹂
﹁無駄だ日向ヒヨリ。いくら貴様でも、この力を見切る事は不可能だ。
それが可能なのは││﹂
﹁オレだけの様だな⋮⋮
一体イズナは何をしたのだ
!?
を見る事くらいは出来るようだね﹂
﹁マダラよ
﹂
﹁そういう事だ。兄さんの輪廻眼は穢土転生の紛い物。でも、この力
をだ。
イズナはマダラに視線を向ける。正確にはその両目にある輪廻眼
!
どうやらそのイズナは輪廻眼以外では
!
えた。
﹂
﹁もう一人のイズナがいる
﹂
見えない様だ
﹁なんだと
﹁見えないイズナ⋮⋮﹂
!
798
!!
柱間の問いに、アカネを庇う様に立つマダラが何かを警戒しつつ答
!
!?
輪廻眼以外では見えないイズナ。マダラのその言葉に、柱間もアカ
ネも意識を集中させて周辺を探る。
だが、やはり何も感じ取る事は出来ない。アカネの白眼でも、仙人
リンボ
モードの感知力でも、一切の気配すら掴めないのだ。
兄さんの輪廻眼の力だ
貴様らには何を
﹁無駄だと言ったはずだ。輪墓・辺獄。見えざる世界〝輪墓〟に己の
分身を呼び出す瞳術
﹂
﹂
兄さんだけで庇いきれるかな
三人に増えただと
の力で戦うまでの事
﹁これは⋮⋮
﹂
それは少々厄介ぞ
!
あれは飛雷神の術か
﹂
そう呟いて、イズナはその場から一瞬で消え去った。どうやら大国
全力でやるべきだろう﹂
﹁ちっ⋮⋮流石にこれ以上は見過ごせんな⋮⋮まあいい、どうせなら
た。
ダラも柱間も焦りを覚える中、イズナが突如として後ろへと振り返っ
アカネを庇いつつイズナを制する。その果てしなく至難の業にマ
で終わりだ。
である柱間はいいが、生身であるアカネは致命傷を受ければそれだけ
そんな敵を相手に、十分な対応が出来るのはマダラのみ。穢土転生
撃をしてくるだろう。
見る事も感じる事も出来ないイズナが三体。そして当然本人も攻
イズナはその力を存分に振るい、輪墓に三体の分身を呼び出した。
!
!?
﹁見えざる世界に三人のイズナか⋮⋮
﹂
﹁単純な強さでは勝てない。十分に理解したよ。ならば⋮⋮それ以上
体を理解した。
ダラの輪廻眼、そしてイズナの言葉を聞いて、全員が先程の攻撃の正
そう言って、イズナは己の両掌を見せ付ける。そこに移植されたマ
どうしようと見る事はおろか感じる事すら出来ん
!
!!
!
!!
主の力で移動した様だ。
﹁また消えたぞ
?
ナの両目にチャクラが集まっていた。きっとイズナ固有の瞳術なん
だろうな﹂
799
!
!
﹁いや、恐らくあれも輪廻眼の力だと思う。消える前に一瞬だがイズ
!?
﹂
﹁警戒を解くなよ二人とも
いる
﹂
イズナは消えたが、その分身は残って
ヒヨリはオレの傍にいろ
の分身の情報を集めろ
﹁ひどくないかマダラ
﹂
﹂
柱間は攻撃を受けてイズナ
!
それくらい我慢しろ
!
﹁来るぞ
そしてイズナを追おうとする三人を足止めする。
だ残っていた。
マダラの言う通り、イズナが呼び出した輪墓・辺獄による分身はま
!
﹁当たらん
ここにいるのかマダラ
﹂
だが、こちらの攻撃はすり抜けている
!
!
ダメージを受ける覚悟で強引に突破しようとしたアカネを制止し、
﹁待て、これは⋮⋮﹂
﹁こうなったら強引に││﹂
いだろう。そう判断したアカネは強引な手段を取る事にした。
このままではサスケが死ぬ。そしてそれだけでは被害が収まらな
ラが小さくなっていくのが感じられた。
様だ。十尾の姿は外道魔像へと変化しており、そしてサスケのチャク
アカネが十尾の方角を見る。そこではかなり状況が変化している
﹁分身がそれを許さない、か﹂
﹁そうしたいのは山々だが⋮⋮﹂
﹁マダラ、出来るなら十尾の方に向かってくれ。あっちがやばそうだ﹂
まあ、マダラにお姫様抱っこをされながらだったが。
輪墓の出鱈目な性能に舌を巻きつつ、アカネは冷静に分析をする。
だな﹂
﹁相手の姿や攻撃は見えず、こっちの攻撃は効かないか。これは面倒
﹁いる
﹂
てその場で輪墓イズナがいるだろう空間を攻撃する。
柱間は不満を漏らしつつも輪墓イズナの攻撃をその身に受け、そし
うに動く。
マダラはアカネを抱きしめ、そして輪墓イズナの攻撃から逃れるよ
﹁死なぬ身体だろうが
!! !? !
!
!
マダラは周囲の空間を見つめる。
800
!
!
﹂
お前の輪廻眼でも見えなくなったのか
﹁イズナの分身が消えた⋮⋮﹂
﹁どういう事だ
﹁いや⋮⋮もしや効果時間が切れたのか
﹂
?
﹂
﹁分 身 が 消 え た の な ら 好 都 合 だ。早 く イ ズ ナ を 止 め に 行 か な く て は
び出した分身には時間制限があるのだろうとマダラは推測する。
見えなくなったのではない、文字通り消えたのだ。恐らく輪墓に呼
?
?
消えかけるサスケのチャクラに、そしてナルトにも大きな変化が生
じている事を感じ取るアカネ。
二人を助ける為にもイズナを止めに行こうとする。だが││既に
遅かったようだ。
◆
こい
イズナがアカネに別天神を仕掛けに移動し、十尾を離れている間。
ナルト達は分裂体を越えて十尾の元へと辿り着いていた。
﹂
こん中には尾獣達がいんだ
﹁よし、後はこのデカブツを消すだけだ﹂
﹁ちょっと待ってくれサスケ
つを倒すのは尾獣達を助けてからだ
!
行くぜ九喇嘛
﹂
中に封印されている尾獣達を助けようとしていた。
サスケは厄介な敵をさっさと片付ける腹だったが、ナルトは十尾の
!
!
!
﹁ちっ、だったら早くしやがれ﹂
││
﹁分かってるって
││おう
!
よって十尾の中に眠る尾獣のチャクラが反応し、外へと飛び出そうと
には尾獣達から分け与えられたチャクラが残っており、この攻撃に
だがナルトの目的を果たすにはそれで十分だった。ナルトの攻撃
少であり十尾を行動不能に陥らす程ではなかった。
その一撃により、十尾は多少のダメージを負った。だが、所詮は多
籠めて作り出した螺旋丸にて十尾を攻撃する。
ナルトは九喇嘛からもらったアドバイス通りに、全力でチャクラを
!
801
!
﹂
しだしたのだ。
﹁よし
狙い通りに事が動いたナルトは、次に飛び出した尾獣達を十尾から
引き摺り抜こうとする。
だが一尾と八尾のチャクラは持っていなかった為に、その二つの
チャクラは上手く引き摺る事が出来ないでいた。
そこをカバーしたのが我愛羅とビーだ。一尾の人柱力であった我
愛羅は一尾のチャクラを、八尾の人柱力であるビーは八尾のチャクラ
を引っ張り、それぞれ十尾から引き抜こうとする。
当然十尾もそれに抵抗する。だが、ナルトが引っ張る力に更に無数
の忍が集まる事で、十尾は抵抗空しく全ての尾獣を抜き取られてし
まった。
十尾は抜け殻であった外道魔像へと戻り、そして外道魔像の周囲に
﹂
全ての尾獣が元の姿を取り戻して集結した。
﹁よっしゃー
﹁オレ達の勝ちだ
﹂
﹁後はこのデカブツを消せば⋮⋮﹂
ていた。もっとも、それを素直に見せる事はないだろうが。
ていた。人間嫌いな一尾だが、それでもナルトには多少の感謝を持っ
それでも目の前の少年が自分を助けてくれたのだと、一尾も理解し
る。
獣が感謝する。⋮⋮唯一、一尾だけはその約束を知らなかったりす
自分達を助けるという約束を本当に守ったナルトに対し、全ての尾
!
﹁え
﹂
﹁な⋮⋮に⋮⋮
﹂
放とうとして││
そうして外道魔像に向けてナルトとサスケが力を合わせた一撃を
読は適わない。
残るは外道魔像のみ。それさえ倒せばイズナの目的である無限月
!
何が起こったのか。それを理解出来た者は誰一人いなかった。サ
802
!
サスケの腹部から、突如として血が吹き出した。
?
?
スケの隣に立っていたナルトも、そしてサスケ自身もだ。
そのままサスケは大地に崩れ落ちる。それをナルトは支えようと
﹂
して││謎の力によって押さえつけられた。
﹁サス││がぁっ
﹁サスケ君
ナルトォ
﹂
動かすが、どう足掻いても動く事は出来なかった。
首を掴まれたかの様な苦しみがナルトを襲う。じたばたと手足を
!?
!?
イズナ
﹄
!?
﹃
﹄
その力を振るった。
そしてイズナは慌てふためく忍達を無視し、外道魔像の上に立って
大国主の力によって前触れなく出現したイズナに誰もが驚愕する。
﹃なっ
れ以上は見逃せんな﹂
﹁十尾から尾獣を抜き取るとはな。大した奴らだ⋮⋮だが、流石にそ
そしてそこに、この場を支配する男がやって来た。
するばかりであった。
周囲の忍達も一体何が起こっているのか全く理解できず、ただ混乱
突然の出来事にサクラも理解が追いつかないでいた。
!?
受けた時と同じく、誰もその攻撃の正体を見抜けてはいない様だ。
そしてイズナは吹き飛び大きなダメージを受けて弱った尾獣を、外
道魔像に再び封印しようとする。外道魔像から伸びた鎖が全ての尾
獣、そしてビーとナルトに繋がれた。
﹂
﹁無駄な抵抗はするな。さっさと一つに戻れ。十尾こそがお前達の真
の姿だろう
﹃ぐああ
﹄
にそう呟き、そしてまたも見えざる力、輪墓・辺獄を振るう。
当然の如く抵抗する尾獣と人柱力に向けて、イズナは面倒くさそう
?
八尾は最後に己の足の一部を千切り、それをビーの為に残す。人柱
から順に外道魔像へと封じ込まれていく。
更なる攻撃を加えられた尾獣達は抵抗の力を無くし、そのまま一尾
!?
803
!?
突如として全ての尾獣が吹き飛ばされる。先程サスケが致命傷を
!?
﹂
力であるビーが死なぬ様、己の一部を残したのだ。
そして││
﹁く、九喇嘛⋮⋮
﹁││﹂
﹂
﹁いや、オレは兄さんの輪廻眼すら得ている。つまり││﹂
等の力であった。
そう、これこそが十尾の人柱力。そして忍の祖である六道仙人と同
へと変化する。
の黒い球が浮かび、勾玉模様の入った衣姿││の様に見える肉体││
本の角の様な突起物が生え、右手には黒い錫杖を持ち、背後には九つ
十尾を取り込んだイズナの肉体は変わった。肌は灰色に、額には二
﹁⋮⋮これが﹂
吸収した十尾を己の肉体へと封じ込めた。
そしてイズナは窮地に陥った忍連合軍を無視し⋮⋮全ての尾獣を
た。
快進撃を続けていた忍連合軍が、一瞬にして窮地に陥ったのだっ
イズナの手に落ちる。
サスケが倒れ、そしてナルトもまた倒れた。尾獣は全て封印され、
過ぎなかった。
まき一族と言えど逃れる事は出来ない。僅かに生を延ばしているに
だがそれだけだ。尾獣を抜かれた人柱力は死ぬ。その法則は、うず
抜かれても即死する事はないのだ。
だ。生命力に溢れたうずまき一族は人柱力として優れており、尾獣を
ナルトが即死していないのはうずまき一族の血を引いているから
だが、その心臓の鼓動はどんどんと弱っていく。
落ちていく。そして地に落ちる前に我愛羅によって受け止められた。
九喇嘛を封印されたナルトは輪墓イズナから開放され、力なく地に
﹁ッ
と封印された。
そして九喇嘛もまた、最後に我愛羅にある頼みを残し、外道魔像へ
!
つまり、六道仙人すら越える者。そう、イズナは全てを越える力を
804
!
得たのだ。
﹁認めよう。認めたくなかったが、それでも認めるしかない。日向ヒ
ヨリよ⋮⋮ここまでしなければ、貴様を相手に勝利は確信できんとな
﹂
イズナの持つ輪墓の力はアカネですら防げなかった。輪墓の力が
・・・
あればアカネにも勝てるだろう。イズナはそう思っている。
だが、輪墓の力があればアカネに絶対に勝てる、と断言出来る自信
はなかった。あのアカネならば、輪墓を受けながらも自分を打倒しそ
うなイメージが浮かび上がったのだ。
イズナはこの戦争で十尾の人柱力になるつもりはなかった。そう
する必要もなく、十尾の力と己の力があれば勝利は確定しているもの
と思っていた。
だが、マダラを奪われ、柱間を復活させ、別天神を防がれた。ここ
までされては最早悠長な事を言ってられはしない。
﹂
﹁この力で日向ヒヨリを殺す。他はどうでもいい。日向ヒヨリさえ殺
せば⋮⋮
││別天神
││
に出現した、己の同胞にも、だ。
だからこそ、周囲に群がる忍連合軍など、一瞥だにしなかった。新た
その時点で戦争は己の勝利となる。イズナにはその確信があった。
!
﹁別天神が⋮⋮
﹂
失敗という結果に終わった。
﹁無駄だ﹂
その賭けは││
それを好機と取ったシスイが一か八かの賭けに出たのだ。そして
ていた。
の事だった。だが、十尾の人柱力となった際に仮面はその顔から外れ
今までイズナが仮面を被っていたのはシスイの別天神を警戒して
神。それを使う機会を、シスイは待ち続けていた。
マダラを開放する為に使用した別天神とは別の、もう片方の別天
神威空間から現れたシスイがイズナに向けて別天神を放つ。
!
!
805
!
﹁今のオレに別天神など効かん。仮面がなくなった理由をもっと深く
考えるべきだったな﹂
そう、イズナから仮面がなくなった理由。それは人柱力となる際の
衝撃で外れたのではない。仮面を必要としなくなったから、外したの
だ。
その事実に驚愕するシスイを他所に、イズナは一瞬でその場からシ
﹂
スイの後方へと移動する。
﹁
自分を通り過ぎたイズナにシスイは疑問を抱く。何故、自分を殺さ
なかったのか、と。
今のタイミングならば確実に殺す事が出来ていた。イズナの動き
は瞬間移動の類ではなく、ただただ単純に速いだけのもの。だからこ
そ理解出来る。イズナは自分を殺そうと思えば、一瞬で殺す事が出来
ていたのだ、と。
﹂
だが、イズナはそうしていない。その理由は何なのか。同胞だから
日向ヒヨリィィ
だろうか。それとも││
﹁貴様さえ殺せば⋮⋮
!
だ。
レッシャーに耐えながらも攻撃しようとしていた忍達を無視したの
そ、サ ス ケ を 治 療 す る サ ク ラ を 無 視 し た。だ か ら こ そ、イ ズ ナ の プ
だからこそ、ナルトを連れて逃げる我愛羅を無視した。だからこ
だ。ただ一人、日向アカネ以外は。
はやイズナは自分はおろか、忍連合軍自体を歯牙に掛けていないの
自分を殺さなかったのは同胞だからとか、そんな理由ではない。も
怨嗟の声を上げ、イズナは消えた。そして、シスイは理解した。
!
イズナの全ては、日向アカネを殺す事だけに向いていた。
◆
﹁二人とも⋮⋮﹂
﹁ああ⋮⋮﹂
806
!?
﹁分かっている﹂
イズナの元に向かっていた初代三忍は、その動きを止めて戦闘態勢
に移行した。
今更向かった所で意味がない事を感じ取ったのだ。イズナは既に
目的を果たした。そして、こちらに向かってくるだろう。
今のイズナは真っ先にアカネを狙ってくるだろう。それが理解出
来ていた三人はこの場に留まり、イズナと決戦する事にした。これ以
上忍連合軍の部隊に近付けば、彼らを巻き込んでしまうからだ。
││
そして三人が戦闘態勢を取った後に、イズナが現れる。
││速い
三人の思いが一致した。それはイズナが現れたのが瞬間移動によ
るものではなく、単純な速さによるものだと三人が見抜いた事を意味
する。
﹁待たせたな日向ヒヨリよ。単純な強さでは敵わんと言っていたな。
それが本当か確かめに戻ってきてやったぞ﹂
﹁⋮⋮それ言ったの私じゃないんだけど﹂
これほどの力の差ですら跳ね除ける事が出来るのか。イズナは先
のマダラの言葉がどこまで真実なのか、どこまで自分に付いてこれる
か確かめようとしているのだ。
﹁やれやれ⋮⋮ここまで力の差のある戦いはどれほどぶりか⋮⋮﹂
﹂
﹁ほう、今までにも経験があるみたいなセリフだな。お前に敵う者が
オレ以外に今までにもいたのか
自分よりも強い敵と戦う。それは普通に考えれば不幸だろう。だ
当に少しですけどね﹂
自分より強い相手と戦う機会も少しはありましたよ。幸か不幸か、本
﹁まあ、これでも経験は積んでいますからね。あなたよりも遥かにね。
にあったが。
ネが力の差のある敵と戦った憶えなどなかった。逆の意味でなら常
だが、アカネと付き合いが最も長いだろう柱間とマダラには、アカ
に聞こえた。
アカネの言葉はイズナにも、そして柱間とマダラにもそういう意味
?
807
!
・・
が、アカネにとっては絶対に不幸だとは言い切れない思いがあった。
強敵と戦いたい。それはアカネの武人としての根幹に根付くもの
だ。どれだけ年月が流れようと、幾つの人生を歩もうと、それが崩れ
去る事はなかった。
﹁イズナ、あなたは強い﹂
﹁当然だ。オレは最早貴様を越えた。この身は忍の祖と同じ、いやそ
れ以上の存在に至ったのだからな﹂
﹁忍の祖⋮⋮後ろのはやはり求道玉、ならば⋮⋮。柱間、今のイズナか
ら深手を負うなよ。恐らく今のイズナは陰陽遁を完全に操り、全ての
忍術を無にする事が出来るはずだ﹂
そう、それこそが六道仙人の力。陰陽遁を完全に制御出来る者は六
道仙人のみであり、今のイズナは六道仙人と同じ力を持っている。
その身にあらゆる忍術は効果を及ぼさず、陰陽遁によって作り出さ
れた求道玉││イズナの背後に浮かぶ九つの黒い球││に触れれば
分身が来るぞ気を付けろ
﹂
﹂
はいかない。見えず、攻撃も効かないとなれば然しもの柱間も手の打
ちようがなかった。
808
あらゆる物体が消滅する。
そしてイズナに傷つけられた穢土転生体は再生する事は出来ず、深
手を負えばそのまま無力化されるだろう。穢土転生の不死性を期待
した戦いは出来ないという事だ。そればかりか穢土転生故に医療忍
術による回復も出来ない分、下手すれば生身よりもやりにくい相手と
言えた。
﹁穢土転生であるオレ達には相性の悪い相手という事か⋮⋮﹂
﹂
﹁そういう事だ。もはやお前達に出来る事はない。消えるならば追い
はせん。オレの狙いは日向ヒヨリだけよ⋮⋮
をさせじとアカネの隣に立つ。
アカネのみを狙うと告げるイズナに対し、柱間とマダラは当然それ
!
だが、イズナもまたそれをさせじと二人に分身をぶつけた。
﹁ちっ、柱間
﹁見えぬ敵を相手にどうせいと言うのか
!
マダラはまだ輪廻眼により輪墓イズナを視認出来るが、柱間はそう
!
!
マダラも輪墓イズナの攻撃を回避するのが限界だ。輪廻眼では見
る事は出来ても、攻撃は不可能な事に変わりはなかったのだ。しかも
輪墓イズナが見える分、マダラには二体の輪墓イズナが向かっていた
から尚更だ。
唯一の救いは、輪墓イズナには六道の力が備わっていない事か。輪
墓イズナからダメージを受けても、穢土転生ならば再生する事が可能
だったのだ。
﹂
﹁さあ、これで邪魔者はいない。貴様とは一対一で戦って、そして圧倒
的な力で殺してやる
﹁随分と評価されたものですね。まあ、嬉しくもありますよ﹂
そう言って、アカネは笑いながら構えを取る。その構えは、柱間や
マダラが知る柔拳の構えではなかった。
﹁もう一度言おう。イズナ、あなたは強い。身体能力は比べるまでも
なく、チャクラ量ですら私を越える。それらの単純な強さを数値化出
来るならば、私はあなたの半分にも届かないでしょう﹂
それは全て真実であった。アカネが僅かな時間で感じ取れたイズ
ナの力量は、完全にアカネのそれを上回っていた。
ただし、言葉通りの意味でだ。アカネが何を言わんとしているの
﹂
か、それはイズナも理解出来たようだ。
﹁あくまでオレに勝つつもりか⋮⋮
だ、と。
﹁格の差を教えてやろう
﹂
れほど技術が優れてようと、圧倒的な差を覆す事は出来はしないの
だが、イズナはそれを否定する。どれほど技量に長けてようと、ど
た。
く生き、誰よりも戦いの経験を持つアカネのその言葉には重みがあっ
強さとは単純なスペックだけで決まるものではない。誰よりも長
ろう﹂
﹁来いイズナ。強さとは数値で計れるものだけではない事を教えてや
!
神話の再現である六道イズナと、千年を越える研鑽を持つ武人アカ
﹁伊達に長く生きていない事を教えてやろう﹂
!
809
!
ネ。その二つが今、激突した。
◆
先に動いたのはイズナだ。アカネとの間合いを一瞬で詰め、右手に
持つ黒い錫杖││求道玉が変化したもの││を袈裟切りに振るう。
それをアカネは僅かに身体を逸らす事で避ける。その瞬間、イズナ
は二つの求道玉をアカネの足元へと移動させ、その足を払うように左
右から交差させる。
払うように、と言ったが、求道玉に触れてしまえばあらゆる物体は
消滅してしまう。それが防げるのは六道仙術を得た者のみ。つまり
アカネでは求道玉が命中した瞬間、その部位は消滅してしまう事にな
る。
アカネは足元に迫る求道玉を跳躍して避ける。だが、宙に浮いた事
810
で完全に無防備となったアカネに向けて、イズナが求道玉の錫丈を振
り下ろした。
逃げ場はない。宙に浮いたまま自在に動く事が出来るのは今の世
ではオオノキと、六道仙術を得たイズナくらいだ。
イズナは早くも終わりかと、呆気なく終わる事に対して若干のつま
﹂
らなさと、そして勝利の笑みを浮かべ││その予想を覆された。
﹁む
た風穴は一瞬にして再生し、その傷跡は欠片も残ってはいない。
だが、その程度の損傷はイズナにとって痛手ですらなかった。空い
な﹂
﹁⋮⋮器用な事だ。流石は最強の柔拳使いか。空中戦もこなせるとは
駄な破壊を生まずにイズナのわき腹に風穴を空けたのだ。
えていた。一点、足のつま先ただ一点のみにチャクラを集中させ、無
それだけではない。逃れる瞬間にアカネはイズナの肉体に一撃加
だ。それにより、錫丈の攻撃範囲から逃れていた。
部からチャクラを噴出する事で、その勢いを利用して宙を移動したの
錫丈を振り下ろした先にアカネはいなかった。アカネは肉体の一
!?
再生力も桁外れかと、アカネはイズナの情報を修正する。先の移動
を見て予想した通り、身体能力は完全に自分を上回る。だが、反応出
来ない程ではない。ならば対処の仕様はあるな。
アカネはそう考えるが、懸念する事はイズナの倒し方ではなく、ナ
ルトとサスケの事だ。二人のチャクラはもう殆ど感じられない程に
弱まっている。このままでは死んでしまうだろう。
サスケはまだいい。死んでも時間が経ちすぎなかったらまだ蘇生
も可能だ。だが、ナルトは九喇嘛を抜かれている。こうなったらアカ
ネが再生忍術を使用しても確実に助けられるかは分からない。
何をする気だ。ナルトは我愛
││サスケの元にはサクラがいる。ならば治療により助かる可能
性も、いや、大蛇丸がサスケの傍に
羅が連れているのか。どこに││なるほど、ミナトの⋮⋮なら、ナル
トは助かる可能性が高いな。
アカネは二人の現状を把握し、そしてどうにかなる可能性を見出
す。大蛇丸がサスケの傍に近寄ったのは気になるが、今更サスケの肉
体を奪うような事はしないとアカネは信じている。何らかの処置を
施すつもりだろう。
ナルトに至っては無事に回復する可能性が高くなった。九喇嘛を
抜かれたから、九喇嘛を入れ直すつもりだろう。ミナトの元に行けば
││
それが可能だった。
││ん
ナルトとサスケのチャクラが消えていた。それだけではない、サクラ
と大蛇丸とミナト、そしてクシナもだ。一瞬疑問に思うが、アカネは
すぐに理解した。ナルト達がオビトによって神威空間に移動させら
れたのだろう、と。
神威空間ならば未だ戦場に存在する白ゼツに襲われる心配もなく、
安全に二人の治療に集中する事が出来る。より助かる確率が上がる
﹂
というものだ。アカネはオビトの判断に笑みを浮かべる。
﹁⋮⋮何が嬉しい
それがイズナには癪に障った。今の自分と戦って、どうして絶望で
?
811
?
アカネが二人が助かる可能性を見出した時、アカネの感知範囲から
?
はなく笑顔になれるのだ、と。
﹂
﹁気にするな。少し良い事があっただけだ﹂
﹁どこまでも癪に障る⋮⋮
この状況にあって良い事があっただなどと、戯言としか思えない事
を口走るアカネにイズナは更に苛立つ。
圧倒的有利なはずなのに、何故かアカネを前にするとその有利が
ちっぽけな物に見えてしまうのだ。
そんなはずはない。六道仙人を越えた自分に敵う者等この世にあ
る訳がない。イズナは自分にそう言い聞かせる。
一方アカネはイズナへの対策方法を模索していた。
マダラはイズナには全ての忍術が効かないと言っていたが、体術は
効果があった。ならば仙術ならばどうだろうか。
││
考えたならば即実行。敵を相手に遠慮は必要ないのだ。
││仙法・風遁大突破
アカネは仙術によりその効果範囲と威力を大幅に拡大させた風遁・
大突破を放つ。
この術を選んだ理由は、単純に効果範囲と発動速度、術自体の速さ
に優れているからだ。雷遁系も速度という点では上だが、範囲という
点では大突破が上だ。確認に必要なのは威力ではなく当てやすさな
のだから。
だが、大突破により生み出された風圧は求道玉によって防がれた。
求道玉が変化してイズナの身体を覆い、大突破を全て防ぎ切ったの
だ。
これでは仙術が効果を及ぼしたかどうかは判断がつかない。求道
玉は変幻自在で攻防一体の便利な能力というのが確認出来ただけだ。
ならば、直接当てるしかないだろう。
次にアカネはイズナの元に自ら移動し接近戦に望んだ。
イズナは、求道玉を持つ自身相手に接近戦を挑む事の愚かさに嘲笑
を浮かべ、そしてその接近戦を敢えて受けた。
相手の土俵だろうと負けはない、という自信があるのだ。同時に、
相手の土俵で勝つ事でそのプライドをへし折り、アカネに対して負け
812
!
!
る可能性を考える己の弱気を払拭しようという考えもあった。
高速で接近するアカネに対し、イズナは四つの求道玉にて迎撃しよ
うとする。
飛翔する求道玉は変幻自在に動き、アカネに攻撃を仕掛ける。それ
を紙一重で躱しつつ、アカネはイズナに向けて近付いていく。
四つから六つに求道玉が増える。だが、例え後ろから迫ろうと、死
角がないアカネは求道玉を完全に見切り、回避していた。
アカネに死角がないのは白眼によるもの││ではない。確かに白
眼は360度という視界を有しているが、僅か一部のみ視界が届かな
いという弱点を有している。これはアカネと言えど変わりない弱点
だ。
だが、それでもアカネに死角はない。その理由は単純明快。視界に
頼ってはいないからだ。白眼の使い手としてはまさしく矛盾してい
る理由だろう。
813
アカネにとって白眼とはここ百年程で手に入れた力だ。その前の
アカネは白眼など有してはいなかった。だからこそ、アカネは視界に
頼らずに、気配や空気の動き、直感などで死角を消す術を得ていたの
だ。
白眼に死角あれど日向アカネに死角なし。そして、その技術と体術
を融合させて、アカネは全ての求道玉を避けながらイズナの眼前まで
近付いた。
﹁ふん﹂
だが、アカネの神技を見てもイズナは一切うろたえる事はなく、冷
静に対処する。
元より身体能力とそれを強化するチャクラはイズナが圧倒的に上
なのだ。例えアカネが体術を極めていようとも、その差は覆しようが
ない。
﹂
イズナはそう確信し、超速の動きにてアカネに拳を叩き込む。そし
て││
﹁││
拳に籠めた威力がそのままに、自身へと返って来た。
?!
これにはイズナも混乱した。一体何をされたのか、全く理解が及ば
ないのだ。
アカネがしたのは、相手の力をそのままに相手に返すという合気の
真髄だ。この忍の世では編み出される事がなかった合気柔術である。
今の世の中で合気を扱える者はアカネが指導した極僅かな忍のみ。
その上、この真髄にまで到達した者はまだいない。つまりこの技術は
日向アカネのみの技術なのである。イズナが知らなくて当然と言え
よう。
アカネはイズナにその力を返し吹き飛ばすと同時に、左右の手で螺
旋丸を叩き込む。右手は通常の螺旋丸。左手は仙術を籠めた螺旋丸
をだ。
通常の忍術が通用するか、仙術が通用するか、それを同時に確かめ
る為である。仙人モードにて仙術を籠めずに術を使うという、無駄に
器用な技術であった。
そしてその結果は││
﹁なるほどな。忍術は無効化するが、仙術は効果ありと﹂
左手の仙術を籠めた螺旋丸が炸裂した部分は傷ついていた。つま
り、仙術ならば今のイズナにも効果がある事が実証された訳だ。そし
てアカネはここまでで得た全ての情報を纏める。
体術と仙術ならば効果あり。ただしその動きは全てに置いて自身
を上回っている。だが、技術ならばこちらが上。求道玉と呼ばれる黒
い球は自在に動かす事が可能で、形も流動的に変化する。効果範囲は
ま だ 不 明。大 突 破 を 無 効 化 し た 事 か ら、求 道 玉 に 触 れ る の は 危 険
⋮⋮。
最後の、求道玉の効果に関してはまだ確認が出来ていなかった。な
ら、確認すればいいだけだ。
体術が有効ならば物理攻撃全般は有効なはず。そう判断したアカ
ネは懐から手裏剣を取り出した。
﹁忍具使うのどれくらいぶりだろ﹂
久しぶりに戦闘で手裏剣を使用する事に、アカネは思わず呟いてし
まう。そして手裏剣を投擲すると同時に術を放った。
814
││手裏剣影分身の術
││
投擲した手裏剣そのものを影分身で増やすという、影分身の応用忍
術だ。
アカネのチャクラにて万を越す数にまで増殖した手裏剣がイズナ
を襲う。だが、その全ては錫丈が盾の様に変化した事で防がれてしま
う。
だがアカネにはそれで問題はなかった。元よりダメージを与えた
くて放った術ではない。確認したかったのは、求道玉の効果である。
﹁オオノキの塵遁みたいなものか。触れた物質を消滅させる⋮⋮形状
﹂
の変化や術を保持できる点からも、塵遁を上回ってるけど﹂
﹁分析はすんだか。なら、オレの倒し方も編み出せたかな
む。だが、今度の目的はイズナへの攻撃ではなかった。
それを確認する為に、アカネはまたもイズナに対して接近戦を挑
アドバンテージになる。
アカネの予想が正しければ、イズナとの戦闘に置いて非常に大きな
││まあ、やってみるか││
確認して、もう一つ確認したい事が出来た。それが上手く行けば││
イズナが考える事はアカネも考えていた。そして、求道玉の能力を
肉体を削り取られるだろう。そうなればイズナの勝利だ。
いずれは求道玉か、イズナ本人に捉えられ、そして防御も意味なく
能に近い。
ればイズナが有利であり、そして求道玉を全て回避し続けるのは不可
いっても、やはりイズナとは基本スペックが違い過ぎる。長期戦にな
そのイズナの予想は間違ってはいないだろう。アカネが強いとは
打にはならない。どれだけ耐えようと、結局はジリ貧となるだけだ。
うが求道玉の力に抗う事は出来ない。妙な体術を使うが、それも決定
そして、それでも問題ないとイズナは思っている。いくら分析しよ
た。
アカネが自分の能力を分析している事はイズナにも理解出来てい
?
接近するアカネに対し、イズナは当然求道玉を展開した。今度は九
つ全ての求道玉をだ。
815
!
アカネはそれを回避するのが精一杯で、イズナに近づけなかった。
いや、その様に演出していた。
そしてギリギリ躱す演出をし続け、アカネの身体が死角となり、イ
ズナからは見えなくなった瞬間に││アカネは求道玉を僅かに触れ
てみた。
それは本当に僅かにだ。当たっても大したダメージにはならない
様、指先に僅かに触れただけ。それならば、指の先が少し消滅するだ
けで、アカネならばすぐに再生出来るダメージにしかならない。
そして確認したかった事が理解出来た時││アカネはイズナに向
かって直進した。
求道玉は回避しているが、先ほどまでとは打って変わってアカネは
確実にイズナに近付いている。それも猛スピードでだ。
今まで回避が精一杯に見せていたのは演技だったのかとイズナは
気付くが、それが何の目的だったのかはイズナにも理解出来なかっ
た。
遠 距 離 で 求 道 玉 を 動 か し て も ア カ ネ 相 手 に は あ ま り 意 味 は な い。
イズナはそう悟り、錫杖を投擲する事でアカネを牽制し、その間に求
道玉を全て己の周囲に戻す。
遠距離戦で埒が明かないならば、近距離戦で決着をつけるまで。近
距離戦の最中ならば、イズナの攻撃と求道玉の攻撃の両方に気を割か
ねばならず、隙も大きくなるだろう。そういう判断だった。
そしてその判断は││アカネが狙った通りの行動であった。
アカネはイズナに接近し、そして高密度に圧縮した螺旋丸を作り出
す。これならば強靭な十尾の人柱力の肉体でも耐える事は出来ない
だろう。
当然その圧縮螺旋丸をまともに受けるつもりはイズナにはなく、錫
杖を振るってアカネを両断せんとする。
アカネは錫杖を躱すが、そこを求道玉にて追撃するイズナ。求道玉
を避けたらすぐに錫杖を。単純だが、隙のない連携によりアカネは螺
旋丸を当てるタイミングを得る事が出来ないでいる。
イズナはアカネの合気を警戒し、自らの身体で体術を繰り出す事は
816
しなかった。イズナは合気の理屈をおぼろげながらに理解していた
のだ。
錫杖と求道玉ならば、触れた瞬間にアカネの肉体が消滅する。そう
すれば、相手の力を利用する事も出来ないだろう。イズナのその判断
は非常に正しかった。
だが、アカネは非常に非常識な存在でもあった。その非常識さを完
全に理解していなかったのが、イズナの誤算だろう。
いや、誤算というのは流石にイズナに酷だった。何故なら││六道
仙術を使えない者が求道玉を無効化するなどと、どうして予想出来よ
﹂
うか。
﹁な
イズナは信じられないものを見た。アカネに向かっていた錫杖は、
体を崩したアカネでは避けられぬだろう一撃であった。
求道玉と錫丈の連携にて、ついに憎き日向ヒヨリを追い詰めたと
思った矢先だ。アカネは避ける事が出来ない錫丈を、その腕で防いだ
のだ。
触れた対象を消滅される錫杖だ。本来ならば防ぐという行為は不
可能であり、だからこそアカネは錫杖と求道玉の攻撃を全て避けてい
た。
だから、この錫杖の一撃を受ければ受けた肉体は消滅するはずであ
り、アカネはガードした腕ごと胴体が真っ二つになるはずだった。
だからこそ、イズナは目の前の光景が信じられなかった。錫杖はア
カネの胴体を真っ二つにするどころか、ガードした腕すら消滅させる
事が出来ずにいたのだ。
﹂
イズナに走った衝撃は小さくなく、そして大きな隙を生み出してし
まった。
﹁がはぁっ
この状態でも生きている事は恐るべき事だが、それでも再生には若
していたようだ。おかげで即死する事は免れていた。
流石はというべきか、唯一守るべき頭部はどうにか求道玉でガード
アカネの圧縮螺旋丸が命中し、イズナの胴体の大半が消し飛んだ。
!?
817
!?
干の時間を要するだろう。その間に頭部も破壊すれば、それで終わり
である。
マダラには悪いが、今のイズナを生かしておくつもりはアカネには
﹂
なかった。容赦なく止めの一撃を放とうとして││
﹁ぐぅっ
今度はアカネが大きなダメージを受けて吹き飛ぶ事になった。
何もない空間から突如としてダメージを受ける。アカネは吹き飛
﹂
びつつも、これが輪墓イズナの仕業だと理解した。
﹁くっ、まだ輪墓の分身がいたのか⋮⋮
アカネは輪墓イズナから受けたダメージを即座に再生させる。そ
でいたという事だ。その分身が、本体の危機を救ったのだろう。
いた。つまり、二人に差し向けた輪墓イズナ以外にも別の分身が潜ん
柱間とマダラを見るに、二人は未だに輪墓イズナに足止めを受けて
!
何故⋮⋮何故求道玉が通用せん
﹂
して、イズナもまた胴体の殆どが消し飛ぶという重傷を癒しきってい
た。
﹁貴様⋮⋮どういう事だ
!
にかなりのチャクラを消費したが。
﹂
の能力はボス属性の効果が及ぶ範疇なのである。当然、無効化した際
求道玉は触れた物質を消滅させるという効果を持つ能力であり、そ
いた。
果を及ぼす能力を無効化する、という何ともファジーな性能を有して
アカネの持つ特殊固有能力︻ボス属性︼は、術者に対する特殊な効
すよ。その求道玉、恐らく陰陽遁の術なんじゃないですか
﹁ああ、言い忘れていましたね。私、幻術だけでなく陰陽遁も防ぐんで
疑問に答えた。
て防御力を高め、輪墓イズナの攻撃に耐える準備をしつつ、イズナの
怒り喚くイズナに対し、アカネは全身のチャクラを更に活性化させ
錫杖を防いだ事が納得出来なかった。
それを誰よりも理解しているイズナだからこそ、求道玉が変化した
六道仙術を会得せずして求道玉を防ぐ事は不可能なのだ。
イズナは怒りのままに疑問を叫んだ。いくら日向アカネと言えど、
!?
?
818
!?
アカネが幻術や陰陽遁を防ぐと説明したのは、ボス属性のファジー
な性能をいちいち説明するのが面倒だったからだ。
そして、アカネの説明を受けたイズナは、その怒りを通り越してア
カネを完全に危険視した。
﹁⋮⋮求道玉すら防ぐだと。貴様は危険すぎる⋮⋮。圧倒的な力で絶
最早戦いを楽しもうだのと思わん
﹂
望を与えようと思い、輪墓の力を貴様に使わなかったのはオレの驕り
だ
﹂
駆けつける。
﹁アカネ
﹁無事のようだな
﹂
何を││﹂
﹁ああ。そっちも無事でなにより、イズナは││ん
ている
上空に向かっ
そう思うアカネの元に、輪墓イズナから開放された柱間とマダラが
感じ取る。この瞬間移動は出現にもタイムラグは殆どないようだ。
アカネはイズナが消えた瞬間に、別の場所にてイズナのチャクラを
﹁消えたか⋮⋮いや、あそこか﹂
の場から離れた。
イズナは大地にあって使用出来る大国主を発動し、そして瞬時にそ
く。効果時間が切れたのだろう。だが、それはイズナも承知の上だ。
それらの輪墓イズナは集結してそのままイズナ本体に重なってい
いた一体。計四体の輪墓イズナだ。
一体。柱間に差し向けた二体。そして念の為に自身の警護をさせて
そう叫び、イズナは全ての輪墓を集結させる。マダラに差し向けた
!!
いかん
イズナは無限月読を行う気だ
!
!
に、イズナの目的に気付いた。
﹁ま、まさか
﹄
!
ラだからこそ、イズナの狙いに瞬時に気付けた。
無限月読に関する情報を、イズナを除き誰よりも理解しているマダ
﹃なに
﹂
だが、アカネの言葉を聞いた柱間が上空に浮かぶ月を確認した時
かった。
アカネは上空に向かうイズナを感知するが、その目的が理解出来な
?
!
!
?
!?
819
!
アカネ達はすぐにイズナを止めようと動き出す。だが、イズナはア
カネ達がそうする事を理解しており、迎撃の為に地爆天星で作り出し
た無数の巨石による投擲を行う。
そして、アカネ達がその対処に時間を取られている間に、イズナは
夜の空に浮かぶ月と対峙する。
うちは一族に伝わる石碑にある一文が記されている。
無限月読
││
輪廻の力を持つ者が月に近付きし時、無限の夢を叶えるための月に
映せし眼が開く。
││世を照らせ
!!
逃れえぬ月の光が、世界を照らす。無限の夢が始まった。
820
!
NARUTO 第四十一話
イズナの額に輪廻眼と写輪眼の模様が重なった第三の瞳、輪廻写輪
眼とも言うべき瞳が浮かび上がる。
そして天に浮かぶ月に、イズナの輪廻写輪眼が映し出され、全てを
照らす光を放ち出す。
その光は太陽の如きであり、夜の闇を切り裂き昼の如き明るさと
し、そして障害物を越えて全ての生物を照らしていく。
無限月読の光に触れた存在は、老若男女どころか、人も動物も関係
││
なくその幻術に飲み込まれ、そして意識を無限月読の中に飲まれてい
く。
││神・樹界降誕
さらにイズナは世界中に神樹の根を張り巡らせ、神樹の生命エネル
ギーで人々を縛っていった。
影すら貫く無限月読の光により、全ての人間は神樹に縛られ繭の様
な物に包まれていく。その中で、誰もが己の望む幸せな世界を見てい
た。
それが無限月読による幻覚だと理解していても、それに抗う事は出
来ず、やがて誰もがその幻術の世界を己のいるべき世界だと感じる様
になる。
無限月読に掛かっていない存在はこの世に数人のみだった。穢土
転生体の存在達とアカネ。そして穢土転生の術者であるイズナとそ
の直属の部下である白ゼツと黒ゼツの存在である。
穢土転生達が無限月読に掛かっていない理由。それは彼らが穢土
転生体だから、である。無限月読は生物のみに作用される術であり、
穢土転生で蘇った彼らは意思はあれど生物としては見なされていな
い様だ。
アカネが無限月読に掛かっていない理由は、言うまでもなくボス属
性のおかげである。ここまでボス属性の存在に感謝した事はアカネ
の長い経験で初めての事かもしれない。
白と黒のゼツに関しては、理由は定かではない。イズナが作り出し
821
!
た存在な為か、それとも別の理由があるのか⋮⋮。少なくとも、イズ
﹂
ナは己が生み出した存在である為と思っているだろう。
﹂
﹁無限月読が発動してしまったか⋮⋮
﹁何故オレ達は無事なのだ
!
マダラにヒヨリ
﹂
﹂
?
﹁ならばどうすればいい
﹂
﹁いや、イズナを倒しても無限月読は収まらん﹂
扉間の質問に、無限月読や輪廻眼に最も詳しいマダラが答える。
﹁どうする。これはイズナを倒せば収まるのか
読に掛かっておらず、現状打破の為にアカネ達に合流したのだ。
アカネ達の元に扉間が合流する。彼もまた穢土転生体故に無限月
﹁兄者
状を覆すにはどうすればいいのか、甚だ見当が付かないのだ。
軽口を叩くアカネ達だが、その内心はかなり焦燥している。この現
﹁納得するなよおい﹂
﹁なるほどな﹂
⋮⋮こいつが異常だからだ﹂
﹁オレ達が無事なのは恐らく穢土転生だからだ。ヒヨリが無事なのは
?
!
﹁⋮⋮勝てるのか
﹂
﹁なら、イズナを倒すのが先決か﹂
ろう。
ズナを倒さなくては意味がない。確実にイズナはその邪魔をするだ
そして、例えマダラの輪廻眼で無限月読を解除出来たとしても、イ
くとも、真の輪廻眼には遠く及ばないのが現状だ。
そう、マダラの輪廻眼は穢土転生によるまがい物。その力は凄まじ
ズナをどうにかしなくては解除など夢のまた夢だ﹂
﹁オレのまがい物の輪廻眼でどこまで解除可能か⋮⋮。そもそも、イ
だが、そこにマダラの歯切れが悪くなった理由があった。
できる。ならば、マダラがいれば解除は可能だという事だ。
そこでマダラの歯切れが悪くなる。輪廻眼ならば無限月読を解除
﹁輪廻眼による幻術だ。同じく輪廻眼によって解除は可能だが⋮⋮﹂
?
イズナを倒す。そう言うアカネに対し、マダラは確認をした。イズ
?
822
!
ナを倒す事が出来るのか。
イズナは強すぎると言ってもいい。その身体能力、チャクラ量、輪
廻眼の瞳術。全てが規格外の存在だ。
先の一戦ではアカネもまた規格外の能力にて対抗したが、それでも
アカネがイズナに勝てるかと言えばマダラは否と答えるだろう。
アカネが対抗出来たのは、イズナが一対一の戦いに拘ったからだ。
初めから輪墓イズナと同時に戦っていればどうなっていたか。
見えぬ攻撃にどれほど耐えられるだろうか。こちらの攻撃は全て
光が収
無効化され、どうやって倒せというのか。対抗手段がないアカネに、
イズナを倒す事は出来ない。それがマダラの考えだ。
﹁まあ、勝てるか勝てないかではなく、勝つしかない⋮⋮ん
まって来ているな﹂
アカネの言う通り、月から照らされる光は徐々に弱まりつつあっ
た。
﹁そ の 様 だ な。光 が 収 ま れ ば 無 限 月 読 に 掛 か る 心 配 も な く な る だ ろ
う。もっとも、端からその心配はないのだがな﹂
マダラはアカネが無限月読を無効化しているからそう言うが、アカ
ネとしては嬉しい誤算だった。
アカネは無限月読を無効化している。だが、それは何のデメリット
もなしにという訳ではない。便利な能力には相応のデメリットが存
在する。それはボス属性も同じだ。
ボス属性で何らかの能力を無効化した場合、その能力に籠められた
チャクラと、効果に見合ったチャクラが代償として消費される。
一度無効化すればチャクラの消費も一度だけで済むが、無効化し続
けた場合チャクラも消費し続ける事になるのだ。このまま無限月読
が効果を発揮し続けていれば、アカネのチャクラはいずれ尽きていた
だろう。
そうなる前に勝負を急ごうかと思っていたアカネだが、これならば
その心配もなさそうだった。多少はチャクラが消耗したが、自然エネ
ルギーを取り込み、そして切り札を残しているアカネには問題ないレ
ベルの消耗であった。
823
?
﹁光が収まったか﹂
やがて、世界を照らす光は収まり、そして世界に闇が戻って来た。
だが、無限月読に捕らわれた人々は元には戻らない。やはり輪廻眼に
よる解術が必要なのだろう。
そして天からイズナが降り立った。そこには完全に勝ち誇った笑
みが浮かんでいた。
﹁全ては終わった。世界はオレという救世主によって救われた。最早
貴様らがどう足掻こうが、無限月読の中で夢に浸る者達を解放する事
は出来ん。それは兄さんの力であってもだ﹂
まがい物の輪廻眼であるマダラでは、無限月読を解除出来ないとイ
ズナは言う。その言葉が嘘ではない事がアカネには理解出来た。イ
ズナは真にそう思っているからこそ、こうして勝ち誇っているのだ。
﹂
﹁お前がそう思っていても、もしかしたらマダラに解除出来るかもし
れないぞ
そう、イズナは嘘は言っていない。だが、それがイズナの思い込み
であり、実はまがい物の輪廻眼でも解除出来るかもしれない。その可
能性は本当に僅かだが存在する。
﹂
﹁愚かだな。ありもしない希望に縋るか⋮⋮。まあ、いい。貴様だけ
は殺す。それは無限月読が実行された所で変わりはせん
る事にした。
面倒だとも思っていた。だから、イズナは先に周囲の三人を無力化す
だが、アカネ以外の三人が、その身を盾にしてアカネを守れば少々
を出して戦う自身に負けはないとイズナは思う。
アカネ、柱間、マダラ、扉間。その四人の敵を相手にしても、全力
のも面倒だな﹂
﹁四対一か。まあ、問題はないが、日向ヒヨリを殺すのに邪魔をされる
ナを倒す為に戦おうとする。
そう叫ぶイズナに対し、アカネ達もまた諦めるつもりもなく、イズ
!!
﹂
イズナは輪墓・辺獄を発動し、四人の分身を呼び出してアカネ達に
差し向ける。
﹁分身が来るぞ
!
824
?
当然それを視認出来るマダラが皆に警告するが、対応出来るのはや
はり視認出来るマダラのみだろう。
そうしてマダラが仲間達に輪墓イズナの動きを声にして警告して
﹂
いる隙に、イズナ本人が大国主の力によってマダラの後ろへと移動し
た。
﹁はっ
﹁悪いな兄さん。少し大人しくしてもらうよ﹂
輪墓イズナの警戒と、周囲への指示。二つを同時にこなしていたマ
ダラに、大国主によって瞬間移動したイズナの動きを察知する事は流
石に無理だった。
イズナは陰陽遁によって生み出した複数の黒い棒をマダラの身体
に突き刺す。背中の点穴を貫かれた事により、マダラはチャクラを練
﹂
る事を制限され、その上大地に縫い付けられてしまう。
ぐおっ
﹂
﹁マダラ
﹁くっ
!
う。
﹁う、動けん⋮⋮﹂
﹁全力で下がれ柱間
﹂
!
可能であった。
アカネがそう叫ぶが、輪墓イズナに動きを封じられた柱間にそれは不
扉間が封じられた事により、次の狙いが柱間だと確実に理解出来た
ぐっ
突かれた扉間もまた、マダラと同じく黒い棒により磔にされてしま
距離転移ならばインターバルも非常に少なくて済む。そうして隙を
大地ある場所ならば大国主で移動できぬ地はない。これほどの短
国主によって現れたのだ。
かならなかった。飛雷神で移動した瞬間に、その場にイズナもまた大
そうして飛雷神にて延命する扉間だったが、やはりそれは延命にし
えぬ攻撃を回避する事は運に頼るしかない。
扉間は飛雷神を駆使する事でどうにか回避するが、それでも目に見
た事で、柱間は輪墓イズナの攻撃を避ける事が出来なくなる。
唯一輪墓イズナを視認し、仲間の目となっていたマダラが封じられ
!?
!
825
!?
!
アカネはイズナを止めようと動くも、アカネの周囲にも輪墓イズナ
が存在する。当然本体の邪魔をさせるわけもなく、アカネは輪墓イズ
ナによって吹き飛ばされ、その間に柱間も黒い棒によって完全に身体
を固定されてしまった。
﹁初代三忍も、火影も、今のオレにはこの程度の存在だ。例え穢土転生
でなかろうと、結果は変わらなかっただろうな。それをお前で証明し
てやろう、日向ヒヨリよ﹂
穢土転生で再現出来る強さには限界がある。柱間にマダラ、そして
扉間はその限界を超えた強さを持っていた為に、穢土転生では生前以
下の強さしか発揮できない。
だが、例え生前の強さであったとしても結果は変わらない。それを
損 な っ て い な い 完 全 な 力 を 有 し て い る ア カ ネ を 倒 す 事 で 証 明 す る。
イズナはそう言っているのだ。
﹂
﹁先程とは違うぞ。最早オレの力だけで勝とうなどとは思わん。兄さ
んの力である輪墓・辺獄。それを最大限に利用して、貴様を殺す
アカネの周囲を四体の見えざる輪墓イズナが囲む。そしてイズナ
本体もまた、アカネを攻撃する準備を整える。
そんなイズナに対し、アカネは平然とある提案をする。
﹁場所を移そう。ここだとマダラ達に被害が出る﹂
﹁⋮⋮いいだろう。死に場所くらいは選ばせてやる﹂
穢土転生だろうと、イズナの力に掛かれば再生も叶わずダメージを
受ける。この場で戦えば、下手すれば彼らが消滅する恐れもあった。
それを回避するべくアカネは戦場を移す事を提案したのだが、イズナ
は拒否する事なくそれを受け入れた。
柱間達はどうでもいいが、マダラが傷つく事はイズナも本意ではな
﹂
いのだ。例え、マダラが傷ついているのがイズナの仕業だとしても
だ。
﹁ヒヨリ⋮⋮
とイズナはその場から一瞬で移動し、マダラ達を巻き込まない場所に
826
!
アカネを心配するマダラに、アカネは笑顔で応える。そしてアカネ
﹁大丈夫。負けるつもりはないよマダラ﹂
!
て再び対峙する。
◆
四体の見えざるイズナに、桁違いの力を持つ六道イズナ。その圧倒
的に不利な状況にあって、アカネはゆっくりと風間流の基本とされる
構えを取る。
﹁来い﹂
アカネの言葉に対し、イズナは何も言わずに分身を向かわせる。察
知出来ない攻撃の前に、どれだけ警戒しようとも無意味だ。
可能なのは耐える事のみ。そして、耐える内に出来るやもしれない
イズナの隙を突く。それがアカネの狙いだとイズナは考える。
だが、イズナのその予想は初手から覆された。輪墓イズナの攻撃が
﹂
アカネに届いた、その瞬間││
﹁なんだと
アカネは輪墓イズナの攻撃を捌いたのだ。見えぬはずの、察知出来
ぬはずの攻撃を捌く。それはどういう理屈なのか。
いや、まぐれにすぎない。そうに決まっている。イズナはそう思う
事で精神を安定させ、そして輪墓イズナに攻撃を仕掛けさせ続ける。
だが、またも攻撃が当たる瞬間に、アカネはその身を捻り、輪墓イ
四度目もそうならば
ズナの攻撃を最低限のダメージで抑えた。一度ならばまぐれだ。二
度までもそう言える。だが、三度目は
?
ける事は出来てはいない。僅かにだが、攻撃が加えられた箇所の服は
アカネは四体の輪墓イズナの攻撃の全てを捌き続ける。完全に避
?
なぜ輪墓にいるオレの攻撃を紙
裂け、肉もまたかすかに裂けて血が滲んでいる。もっとも、傷はすぐ
に回復しているようだが。
﹁ばかな⋮⋮馬鹿な馬鹿な馬鹿な
!
一重とはいえ防げるのだ ま、まさか⋮⋮見えているというのか
﹂
!?
の顔を見て自分の発言を否定した。
827
!?
イズナは信じられないものを見たかのように絶叫し、そしてアカネ
!?
﹂
アカネは輪墓イズナを見る事は出来ていない。それは絶対だ。何
﹂
﹂
故なら、アカネは自らの瞳を閉じているからだ。
﹁な、なぜ瞳を閉じている⋮⋮
﹁見えぬ攻撃だ。ならば、見る必要があるのか
見えぬはずだ
イズナの問いに、アカネは攻撃を防ぎつつも律儀に答える。
﹁な、ならばどうやって攻撃を防いでいる⋮⋮
!
﹂
撃が触れた瞬間に反応すれば致命傷は避けられる。当たり前だろう
﹁見えなくとも、攻撃は来る。当たればダメージを受ける。ならば、攻
!
?
!?
﹁な、あ⋮⋮﹂
当然の事を述べたかの様なアカネの言葉に、イズナは開口したまま
にあった。
なるほど。アカネの言葉は道理だろう。例え見えずとも、攻撃され
てダメージを受けるならば、攻撃を受けた時の肉体の反応は見えずと
も同じだ。ならばその瞬間、攻撃が肉体に触れた瞬間に、その攻撃に
対して対応するように動けば、ダメージは最小限に抑えられるだろ
う。
理屈の上ではイズナも理解出来る。いや、イズナもそれを行おうと
すれば可能だろう。ただし、相手が圧倒的に格下だったならば、の話
だ。
輪墓イズナの攻撃はけして格下などという生易しいものではない。
今の輪墓イズナは六道イズナの分身だ。六道の力は有してないが、そ
の身体能力は桁違いだ。十尾の人柱力になっていないイズナの輪墓
でさえ、尾獣達を叩きのめしている事からその凄まじさは理解出来る
だろう。
そんな輪墓イズナを四体同時に相手取り、その全ての攻撃において
致命傷を避ける。それはどういう神技なのか。いや、まさに神技とし
か言い様がない技術であった。
イズナが理解出来ないのも当然だ。イズナはこの世で最強の忍と
呼んでも過言ではない存在に至っている。そのイズナが、自分では出
来ない所業をアカネはこなしているのだ。
828
?
だが、アカネはこの世の誰よりも経験を積んでいる存在だ。その研
鑽はゆうに千年を超える。イズナが理解出来ない年月を掛けて練磨
してきた存在がアカネなのだ。
アカネにとって忍の生はせいぜい百年と少しだ。だが、武人として
過 ご し た 年 月 は そ の 十 倍 以 上。忍 と し て の ア カ ネ は イ ズ ナ に 劣 る。
だが、ここにいるのは忍ではない。武人に戻ったアカネなのだ。なら
ば、この程度の技が出来ない理屈がない。
イ ズ ナ は 理 解 の 及 ば な い ナ ニ カ を 見 る よ う な 目 で ア カ ネ を 見 る。
その時だ。イズナの意識が完全にアカネに向いている瞬間、イズナの
﹂
﹂
後ろの空間が突如として歪み、そこからクシナが現れた。
﹁なに
﹁喰らいなさい
クシナの身体から伸びたチャクラの鎖がイズナを捕らえ、そしてそ
オレから尾獣を奪うつもりか
﹂
こからイズナの中に眠る尾獣のチャクラを取り出そうとする。
﹁く、貴様
!
なかった。
!?
たのだ。
!?
﹂
事はイズナには出来なかった。
が何かをした証拠はないが、ここに至ってアカネ以外を犯人だと思う
イズナは見えない攻撃を放った人物だろうアカネを見る。アカネ
﹁ま、まさか⋮⋮先程のも貴様か日向ヒヨリ
﹂
ズナは自分でも理解出来ない何かのよって攻撃を受け、吹き飛ばされ
それよりも問題なのは先程の攻撃だ。いや、攻撃だと思われる。イ
一尾と八尾のチャクラが僅かにだ。戦闘力に何ら支障はない。
だが、イズナにとってクシナなど最早どうでもいい。奪われたのは
ビトによって神威空間へと移動する。
イズナが何らかの力によって吹き飛ばされた隙を狙い、クシナはオ
﹁こ、今度は何だというのだ
﹂
動は、突如としてイズナが吹き飛ばされた事により実行する事が出来
イズナは求道玉を操り、クシナに向けて放とうとする。だがその行
!
﹁そうだと言ったら
?
829
!
!?
﹁何をした
どんな術を使った
やり返しただけだが
﹂
﹂
﹁自分だって見えない攻撃をしてるじゃないか。私も似たような事を
聞いてため息を吐く。
アカネは輪墓イズナの攻撃から致命傷を避けつつ、イズナの言葉を
!!
輪廻眼でも見切れない術だと
!?
えざる攻撃の正体だ。
﹁馬鹿な⋮⋮
﹂
ラを切り離さずにそのまま伸ばし、イズナに一撃を加えた。それが見
つまり、アカネは天使のヴェールを発動させ、肉体から仙術チャク
うになるだろう。
螺旋丸も投擲すれば天使のヴェールの能力から外れ、普通に見えるよ
もっとも、アカネの肉体から離れたチャクラはその限りではない。
獄のチャクラのみと言えばいいだろうか。
が、それらは視認する事はおろか、感じ取る事も出来ない。輪墓・辺
え何をしようとも、螺旋丸を作ろうが、チャクラを全力で解放しよう
三者がアカネを見ても何も変わらない通常時のチャクラが映る。例
天使のヴェールを発動させると、アカネのチャクラは隠蔽され、第
にアカネ特有の能力である。
〝天使のヴェール〟。それがアカネの使用した、〝ボス属性〟同様
のなのだ。
ない。それもそのはず、アカネの能力はこの世界の理から逸脱したも
如何なる理屈で成り立っている術なのか。イズナには見当もつか
輪廻眼の力を以ってしても見えないのだ。
見 え ざ る 攻 撃 を 二 度 も 受 け た イ ズ ナ は 驚 愕 す る。見 え な い の だ。
の一撃を喰らう事で遮られた。
イズナはアカネの言葉を否定しようとするも、それはまたも不可視
﹁り、輪廻眼を持たない貴様にそんな事が出来るはずが││﹂
?
それは完全に挑発の意味を籠めたセリフだった。いや、アカネ自身
さ﹂
だからな。さっきの様に緊急を要さない限り、使わないでおいてやる
﹁そう興奮するな。安心しろ、私がこの能力を使うのはいささか卑怯
!
830
!?
天 使 の ヴ ェ ー ル は あ ま り 使 わ な い 様 に し て い る 事 は 確 か で は あ る。
あまりにも強すぎる能力だからだ。
だが、この言葉をイズナに対して言うのは嫌味すら籠もった挑発と
なっていた。イズナはアカネに見えぬ輪墓・辺獄を使用しているの
だ。対してアカネは同じ様な力を持っているのに、それは卑怯になる
﹂
から使わないという。これが挑発でなくてなんだというのか。
﹁ひゅ、日向ヒヨリィィィ
アカネの挑発に、イズナは完全に切れた。そうなればアカネとして
はよりやり易くなるだけだ。激情した相手の心理など読みやすいに
も程があるからだ。
イズナの怒りは輪墓にいる分身にも伝わった。だからだろう。ア
カネの中で想像する輪墓イズナの動きと、現実に動いている輪墓イズ
ナの動きが一致し始めたのだ。
﹂
そして、アカネの予測が現実に追い付いたその時、とうとうアカネ
見えているのだろう
は輪墓イズナの攻撃を防ぐ、ではなく躱しだした。
﹁や、やはり見えているのか
!!
アカネに対して、イズナは見えているだろうと叫ぶ。見えていて欲し
い。イズナはそう思っている。その方がまだ納得が行くからだ。
見えているならば、避ける事が出来ても当然だ。それくらいは出来
るとイズナはアカネの事を認めている。
だが、見えずして避けているならば⋮⋮それはもう、アカネという
﹂
存在をどう受け取っていいのか、イズナには分からなかった。
﹁見えていないさ。だが、予測は、出来る
取っていたのだ。
く、輪墓イズナと戦う柱間やマダラの動きやダメージを観て、感じ
別の角度から観ていた。それは輪墓イズナを直接見ているのではな
その答えは、予測にあった。今までにアカネは輪墓イズナの攻撃を
気配や殺意なども察知出来ていない。だが、避ける事は出来る。
アカネは輪墓イズナの姿も攻撃も見えてはいない。それどころか
どうやらアカネはイズナには理解の及ばない存在だったようだ。
!
831
!!
先程までの憤怒は恐怖へと変化した。変わらずに瞳を閉じている
!?
輪墓イズナの身体能力、技術、攻撃パターン。それら全てを、アカ
ネはイズナ本体と戦っている時に白眼の全周囲に及ぶ視界から観察
していた。
そして輪墓イズナと直接戦闘している間に、輪墓イズナに出来る事
出来ない事を更に分析。そして、予測した。次にどう動くか、どう攻
撃してくるか、その攻撃を躱せばどう追撃してくるか、その全てをそ
れまでの情報から予測したのだ。
十を超える生を歩み、千を超える年を武に費やし、万を超える戦い
を制してきた。その経験から来る予測は未来予知に匹敵する。
本来ならば相手の視線や筋肉の動き、習得している武術、戦意や殺
気などの意から予測をするのだが、それらは輪墓イズナからは見取れ
ない。
それ故に情報を集めるのに時間が掛かったが、集まりさえすれば問
題はなかった。
うが、見える攻撃に今更当たるアカネではない。
当然それを避けるが、そこに輪墓イズナが攻撃を仕掛けてくる。だ
なぜ当たらん
﹂
が、アカネはそれすら当然の如くに避けた。
﹁なぜだ
!
832
避ける、避ける、避ける、避ける。今までとは打って変わって、ア
カネは全ての攻撃を避ける。
そして、輪墓イズナの攻撃を大きく跳躍する事で躱し、今まで閉じ
﹂
て い た 瞳 を 開 い た。も は や 瞳 を 閉 じ て 神 経 を 集 中 す る 必 要 も な く
なったのだ。
﹁この、バケモノがァァッ
へと攻撃を仕掛けた。
││仙法・隠遁雷派
││
そして様々な感情をないまぜにしながら、全ての分身と共にアカネ
分になり、怒りと羞恥、そして恐怖から絶叫する。
アカネが開いた瞳を見て、イズナは己の全てを見透かされた様な気
!!
イズナの両手から無数の雷が飛び交う。鋭く速い雷がアカネを襲
!
﹁お前なら、そう動くと思っているからな﹂
!
ある意味で、アカネはこの世で誰よりもイズナを理解しているのか
もしれない。そう、イズナ以上に。
最早アカネの目には輪墓イズナの動きが映っていた。それは本当
に見えているのではなく、予測と現実が寸分たがわぬ動きをしている
﹂
が故に、見えているのと同然になっているのだ。
﹁これならばどうだ
││
││地爆天星
囚われている地点だった。
﹂
﹁奴らは無限月読で眠りに付いているが、死んでいる訳でない
捨てれば確実に死ぬぞ
!
﹂
!?
││仙術須佐能乎
││
!
││
││尾獣玉螺旋手裏剣
攻撃を避ける事に専念したのだ。
ちを見捨てたのではない。助ける必要がなかったから、輪墓イズナの
だが、イズナを更に驚愕させる出来事が起こった。アカネは仲間た
のまま巨石と隕石を落とし続ける。
動揺する。だが、それがアカネの選択ならば止むなしと、イズナはそ
アカネがその選択を選ぶとは思ってもいなかったイズナは僅かに
込まれてしまうだろう。
このままでは本当に無限月読にて眠りに付く忍の幾百人かは巻き
﹁仲間を見捨てただと
ズナの攻撃を避ける事に専念した。
の外道の戦術だ。その戦術に対して、アカネは何もせずにただ輪墓イ
日向アカネが仲間を見捨てる事が出来ないと知っているからこそ
の攻撃に晒される。
だろう。そして、アカネがそれを防ごうとすればその隙に輪墓イズナ
アカネが巨石や隕石を無視すれば、それらは多くの死者を生み出す
!
見
石を呼び落とす。そしてそれらの落下地点、そこは多くの忍が神樹に
せて雨あられの如く降らせ、そして次に万象天引にて天より巨大な隕
イズナは天高く飛翔し、地爆天星にて大地から大量の巨石を浮かば
││
││万象天引
!
!
!
833
!
突如として放たれた巨大な螺旋丸が巨石を全て破壊し、そしてマダ
次はなんだ
何故貴様らが生きている
﹂
ラの完成体須佐能乎に劣らぬ仙術須佐能乎が巨大隕石を破壊する。
﹁次から次へと⋮⋮
!!
の声が掛かった。
﹁ちょっと待った
﹂
我愛羅のその願いに、当然ミナトは賛同する。だが、そこに待った
れば、ナルトは助かるだろう。
陰の九喇嘛は陽の九喇嘛の半身だ。その九喇嘛がナルトの中に入
が我愛羅に頼んだ事だった。
トの中に入れるように願った。それが、十尾に封印される前に九喇嘛
そこで我愛羅はミナトに対し、ミナトの中に眠る陰の九喇嘛をナル
と運ばれた。
九喇嘛を抜かれたナルトは死に瀕し、我愛羅によってミナトの元へ
時はナルトとサスケが倒れた時間まで遡る。
◆
サスケだったのだ。
で死んだはずのナルトと、イズナに急所を貫かれた事で死んだはずの
巨石と隕石、その二つを破壊した存在。それは九喇嘛を抜かれた事
次から次に起こる現象に、イズナの理解は追いつかない。
!?
いつどこで九尾を狙っているか分かったもん
﹂
オレと一緒に神威空間に来てくれ。そこなら安全にナ
ルトを助ける事が出来る
じゃねー
﹁ここは敵地だ先生
突如として現れたオビトがミナトを止める。
!
静になったもんだね。師として嬉しいよ﹂
師として弟子の成長を嬉しく思いつつ、その成長を見届ける事が出
来なかった事をミナトは悔いる。だが、それでもこうして成長した姿
を見れた事により、嬉しさが勝る想いだった。
一方オビトとしては尊敬する師に褒められた事を恥ずかしがりつ
834
!!
!
﹁それは⋮⋮確かにそうだね。分かったよ⋮⋮オビト、あのキミが冷
!
!
私も連れて行って欲しいってばね
﹂
つも、あまり褒められた事がなかった故にそれを嬉しく思っていた。
﹁ちょっと待って
るインドラとアシュラの転生体だからだ。
何故、この二人が選ばれたのか。それは二人がハゴロモの息子であ
年もの間待ち続けたのだ。それが、ナルトとサスケであった。
そして待った。己の想いと力を託す事が出来る者が現れるのを、千
けてきたのだ。
した後もそのチャクラと意思はこの世に留まり、常に世界を見守り続
六 道 仙 人。安 寧 秩 序 を 成 す 者。そ の 名 を 大 筒 木 ハ ゴ ロ モ。彼 は 死
対面を果たしていたのだ。
ナルトとサスケは様々な条件をクリアした事により、六道仙人との
世界にあった。
ナルトとサスケが目覚めない理由。それはナルトとサスケの精神
だが、ナルトもサスケもすぐには目覚める事はなかった。
ようとする。
そしてナルトもミナトから陰の九喇嘛を託され、その命を取りとめ
によりサスケは一命を取りとめようとしていた。
サクラの医療忍術と、大蛇丸が研究し尽くした柱間細胞。その二つ
し出たのだ。
してすぐにその場へと駆けつけ、サスケを治療するサクラに協力を申
大蛇丸はサスケが瀕死の重傷を負ったのを仙人モードで感知し、そ
も存在していた。
トと同じく死に掛けているサスケと、それを治療するサクラと大蛇丸
そうして神威空間にナルト含む四人が連れられる。そこにはナル
というのに、何もせずに黙って待つ事は出来なかったのだ。
何も出来ないかもしれないが、それでも息子が死の淵に瀕している
い出た。
神威空間に移動しようとしていた二人を止めて、クシナも同行を願
!
インドラとアシュラ。二人は六道仙人の息子でありながら、大きな
違いがあった。それは才能だ。
835
!
優秀な兄であるインドラと、落ちこぼれの弟であるアシュラ。親が
優秀だとしても、必ずしも子がその才を引き継ぐとは限らない。その
典型的な例と言えよう。
才能の差は、そのまま二人の歩む道を真逆とした。
インドラは何でも一人の力でやりぬき、己の力が他人とは違う特別
なものだと知る。そして力こそが全てを可能にすると悟った。
一方アシュラは何をするにも上手くいかず、一人では何も出来な
かった。だからこそ努力し、他人と協力し、修行の苦しみの中で肉体
のチャクラの力が開花し、インドラに並ぶ力を得た。そして強くなれ
たのは一人の力ではなく、皆の協力や助けがあったからこそだと理解
したのだ。そこには他人を想いやる愛があることを知り、愛こそが全
てを可能にすると悟ったのだ。
ハゴロモはアシュラのその生き方の中に可能性を感じ、アシュラを
皆を導く忍宗の後見人とした。だが、それが悲劇の始まりでもあっ
た。
兄であるインドラは、弟のアシュラと協力してくれるだろうとハゴ
ロモは信じていた。だが、インドラはアシュラが忍宗の後見人となる
事を認めなかった。
そして、その時よりインドラとアシュラの長きに渡る争いが始まっ
たのだ。
インドラとアシュラの肉体が滅んでも、二人が作り上げたチャクラ
は消える事なく、時をおいて転生した。
そして幾度とない転生を経て、インドラはサスケに、アシュラはナ
ルトへと転生したのだ。
﹁ワシの目にはハッキリとアシュラのチャクラがお前に寄り添うのが
見える﹂
﹁⋮⋮﹂
ハゴロモの言葉にナルトも思い当たる節があった。今までにも幾
度か自分の中にアシュラの存在を感じた事があったのだ。
そして同時に、インドラの転生体が誰であるかも理解していた。
836
そこでナルトは自分達の前の転生者がどうなったかが気になった。
その問いに、ハゴロモはどこか悲しそうに語り出した。
﹁一世代前の転生者は千手柱間とうちはマダラだった⋮⋮。ワシは二
人を見守っていた時、この二人こそがワシの想いを告ぐ者達だと感じ
ていた⋮⋮だが﹂
それもイズナによって妨げられてしまった。あそこまで共にあり、
仲良く笑いあうインドラとアシュラの転生体を見た事はハゴロモに
もなかった。
かつて失った息子達の笑顔が戻って来たと、精神体の身で喜びを噛
み締めていたものだ。
﹁そ れ も あ の ヒ ヨ リ と い う 不 思 議 な 者 の お か げ か。今 は ア カ ネ と 名
乗っておるな。ハムラの、ワシの弟の血を継ぐ者が、ワシの息子たち
なあ六道の大じいちゃん
アカネもずっと転生してん
の転生体の間を取り持つ。縁とは異なものよ﹂
﹂
﹁そうだ
のか
!
が﹂
﹁⋮⋮
どういうことだってばよ
﹂
らぬ。だからこそ、アカネの存在はワシの理解の及ぶ範疇にないのだ
﹁いや、あの者はそうではない。日向ヒヨリの前のあの者をワシは知
ではアカネの根幹を言い当てていたナルトであった。
たのかとナルトは問い掛ける。それは間違っているのだが、ある意味
アカネもまた誰かの転生体であり、かつては六道仙人の関係者だっ
!
に同意するだろう。
ネ。当人が聞けば不満を口にするだろうが、他の者が聞けばハゴロモ
神樹の実を喰らい、全てを超越した存在を比較対象にされるアカ
⋮⋮。むしろ母の転生体であると言われた方が納得する﹂
ハ ム ラ の 血 を 継 ぐ 一 族 と 言 え ど、あ り 得 る 事 で は な い は ず な の だ
チャクラを内包するなど。いくらワシの弟であり、転生眼を開眼した
﹁あ の 者 の 存 在 は 在 り 得 な い の だ。人 の 身 で 十 尾 に 迫 ろ う か と い う
をして理解の及ばぬ存在とは、どういう意味なのか。
ハゴロモの言葉の意味はナルトには理解出来なかった。六道仙人
?
837
!?
?
﹁うーん。まあ、アカネは超スゲーって事でいいんじゃない 六道
の大じいちゃんだって世界の全部を知ってるってわけじゃないんだ
ろうしさ﹂
﹁⋮⋮それはその通りだ。ワシとて神の身ではない。森羅万象をこの
身に収めるなど出来はせん。⋮⋮そういう細かい事を気にせん所も、
お前の魅力なのだろう。九喇嘛が気にいるのも理解出来る﹂
そうしてナルトとハゴロモが会話をしている時、現実世界の神威空
間では新たな動きが起こっていた。
﹁ナルトを救う為に、一尾と八尾のチャクラが必要だ。出来るなクシ
ナ﹂
ナルトの身体に入り込んだ陰の九喇嘛が、クシナに対して一尾と八
尾のチャクラをイズナから奪って来いと言ったのだ。
﹁分かったわ﹂
それに対し、クシナは理由も問わずに一片の迷いもなく承諾した。
母として息子のために出来る事がある。そう思った時、十尾の人柱
力と化したイズナと向きあう恐怖など、欠片も生まれなかったのだ。
﹁クシナ⋮⋮﹂
﹁ええ、大丈夫よ﹂
ミナトもまた、クシナの覚悟を知って反対はしなかった。命を懸け
てでも子どもを守る。生前にそれを発揮した自分達が、穢土転生と
なって今更子どもの為に命を懸ける事を躊躇うわけがないのだ。
﹂
﹂
﹁タイミングはオレが計ります。イズナが隙を見せた時がチャンスで
す
﹁だが、そう上手くイズナが隙を見せるのか
から尾獣のチャクラを奪い取るタイミングを計ろうとする。
だが、カカシはそれに疑問を抱いた。いくら神威からの奇襲とは言
え、幾度となく同じ様な奇襲を仕掛けているのだ。イズナがそれに警
戒しない訳はなく、今回の奇襲もまた防がれてしまうのではと懸念し
838
?
神威空間から唯一外の世界を確認出来るオビトが、クシナがイズナ
?
!
たのだ。
﹂
﹁いや、多分大丈夫だ。今、アカネちゃんがイズナと戦っている。アカ
ネちゃんなら、きっとイズナに隙を作り出してくれるはずだ⋮⋮
﹁⋮⋮そうだな。アカネならきっとやってくれるだろう。もしかした
らそのままイズナを倒してしまったりするかもな﹂
﹁ヒヨリ様ならきっとそうだってばね﹂
﹁確かにね﹂
カカシの半分は冗談で、半分は本気の言葉に皆が笑う。我愛羅のみ
はこの状況で笑える木ノ葉の忍達をある意味で尊敬していたが。
そしてイズナに大きな隙が出来た瞬間に、オビトはクシナを現実世
界へと移動させ、そして一尾と八尾のチャクラを奪ったのを見届けて
から、再び神威空間へと移動させた。
﹁よし。そのチャクラを早くナルトの中に入れろ。それで全ての尾獣
のチャクラが揃う﹂
二尾から七尾の尾獣に預けられたチャクラ。イズナから奪った一
尾と八尾のチャクラ。そして九喇嘛のチャクラ。
ここに、全ての尾獣のチャクラがナルトの中に集結した。そしてナ
ルトは、ハゴロモに己の信じる答えを示し、ハゴロモより想いと六道
の陽の力を託されてここに目覚めた。
一方サスケもまた精神世界にてハゴロモから想いと六道の陰の力
を託されていた。
サスケの傷は大蛇丸に柱間細胞を移植された事により塞がれ、それ
と同時に輪廻眼に開眼する条件を満たす事になる。
﹂
そして現実世界では、治療を終えたサクラがカカシから頼まれごと
﹂
をされていた。
﹁え
﹁な、何を言っているカカシ
だが、そんな二人に対し、カカシは再び同じ事を説明する。
﹁サクラ、オレの写輪眼をオビトに移植してくれ﹂
839
!
サクラもオビトも、カカシの言葉の意味が一瞬理解出来なかった。
!?
!?
﹁バカ野郎
そんな事をすればお前の左目が
﹂
﹂
﹁だ、だから、オレとお前が協力すればいいんだろ
うだったし、これからだって
﹂
今までだってそ
!
が揃って初めて真価を発揮するものだ。違うか
﹁オビト、オレの写輪眼は元々お前のだ。そして、写輪眼とは本来両目
るオビトをカカシは制止し、そして諭すように語り出した。
カカシの提案をオビトは却下しようとする。己に詰め寄ろうとす
!
?
も上げるしかない
﹂
だったらその可能性をわずかで
!
て叫んだ。
﹂
だったら、守ってみせろ
﹁お前はその写輪眼で里の皆を守るんだろ
守るんだろ
﹂
を、世界中の人々を、リンを
﹁
里の皆を、連合軍の仲間
!?
!
﹂
﹂
!
であった。
輪眼が戻った今、オビトはついに己の真価を発揮出来る様になったの
オビトの左目に、二十年という年月を経て写輪眼が戻る。両目の写
﹁はい
﹁⋮⋮サクラちゃん、頼む
﹁さあ、放置すれば腐るだけだぞオビト﹂
れをサクラに手渡す。
そう言って、カカシは笑顔で左目の写輪眼を抉り取った。そしてそ
﹁お前が火影になる姿を、オレの残った右目で見せてくれ﹂
!
!?
火影になって、仲間を
それでもまだ否定の色を見せるオビトの胸倉をカカシは掴み、そし
﹁だ、だけどよ││﹂
にそう言った。
それこそが、オビトの両目に写輪眼を揃える事だ。カカシはオビト
!
!
倒さなくちゃ可能性はなくなる
イズナを倒しても無限月読は解除出来るか分からない。だがな
前に託すのが一番なんだ⋮⋮ 無限月読は発動してしまった
はもう碌に見えなくなった。チャクラも尽き掛けている。だから、お
﹁今まで通りじゃ駄目だから、そうしようってんだろ。⋮⋮この左目
!
!
!
840
!
!
!!
NARUTO 第四十二話
アシュラの転生体として目覚め、六道仙術を会得したナルト。
インドラの転生体として目覚め、輪廻写輪眼を開眼したサスケ。
二人は六道仙人から託された想いを叶える為に、再び現実世界へと
戻って来た。
そして天から降り注ぐ巨石を目の当たりにし、新たな力にてその全
桁違いにパ
て を 破 壊 す る。そ の 力 は 以 前 の そ れ と は 比 べ 物 に な ら な い 程 に 高
まっており、アカネをして驚愕する程であった。
﹁なんとまあ⋮⋮。一体何があったんですか二人とも
ワーアップしてるみたいですけど﹂
﹁ちょっと色々あってな。なーに、後はオレ達に任せておけってばよ﹂
﹁そういう事だ。お前はもう休んでいていいぞ。残りはオレとナルト
で片を付ける﹂
互いの力と使命を果たすべく、ナルトとサスケはアカネを休ませて
己達の力で全てを終わらせようとする。
だが、その二人に反対したのはアカネではなかった。
﹁ちょっと待って。私も第七班の一員なのよ。忘れてもらっちゃ困る
わ﹂
そこに現れたのはサクラだ。サスケの治療に体力とチャクラを大
きく消耗したが、それでも第七班として二人に置いてけぼりにされる
つもりはなかった。
百豪の術を最大限に活性化させ、イズナの眼力に怯まぬ胆力を見せ
付ける。
﹁オレも参加させてもらう。次期火影として、仲間を守るのは当然の
役目だからな﹂
両目の写輪眼を取り戻したオビトもまた最後の戦いに参戦する。
左の神威による絶対攻撃と、右の神威による絶対防御。その上両目
の万華鏡を得た事により須佐能乎にも目覚めたオビトだ。その戦力
はナルト達にも引けを取らないだろう。
﹁やれやれ。年寄り扱いされる年齢じゃありませんよ。まだまだ戦え
841
?
ますって﹂
ナルト、サスケ、サクラ、オビト。そして未だ健在のアカネ。
無限月読が世界を支配する中にあって、彼らはまだ絶望していな
い。それがイズナには理解出来ない。例え自分を倒したとしても、無
貴様、その左目は
﹂
限月読を解除する事は不可能││
﹁なに
﹂
!?
る。だが││
何かくんぞ
﹂
オレにははっきりと見えるぞ﹂
イズナはサスケを確実に殺すべく、全ての輪墓イズナを差し向け
崩されてたまるか。
にはいかない。ようやく実現した平和な世界なのだ。ここまで来て
サスケを殺さなければ無限月読が解除される。それだけは許す訳
みした。
その言葉にアカネは希望を見出し、そしてイズナはその事実に歯噛
﹁ああ。これなら無限月読も解除出来るはずだ﹂
﹁サスケ、あなた輪廻眼を開眼したのですか
紋様すら入っているという、輪廻写輪眼に開眼しているのだ。
そこにあるのは確かに輪廻眼の紋様だった。しかも写輪眼の勾玉
スケの左目の紋様が映る。
無限月読を解除する事は不可能。そう考えていたイズナの目に、サ
!
お前には見えないのか
﹁サスケ
﹁何か
!
﹂
える事に成功した。
その一撃は防がれてしまうが、それでも輪墓イズナにダメージを与
﹁ここか
叩き付ける。
サスケに迫る四体のイズナの内一体を、ナルトは六道の黒い棒にて
する事も可能だったのだ。
それだけではない。六道仙術ならば、輪墓の世界にいる分身を攻撃
能としていた。
道仙術を会得したナルトは輪墓イズナを見えずとも感知する事を可
輪廻眼を有するサスケに輪墓による奇襲は奇襲足りえず、そして六
?
!
!
842
!?
?
サスケは口寄せした刀を輪墓イズナに投げつけ止めを刺そうとす
るが、それはすり抜ける事で無効化されてしまう。
﹁サスケ。その分身に通常の攻撃は通用しない⋮⋮はずなんですが、
﹂
ナルトの攻撃は当たっているようですね。あなたも輪廻眼を開眼し
てるし、この短時間であなた達に何があったんですか
﹁説明すると長くなる﹂
﹁じゃあ、後でいいですよ。イズナを倒した後で﹂
て行った。
﹁⋮⋮見えてるのか
﹂
﹂
そしてその後の攻撃は全て予測し、回避しながらイズナへと向かっ
る事が出来ず、攻撃を受けてから身体を捻りダメージを抑える。
それを聞いたアカネは距離感がつかめない最初の一撃だけは避け
カネに対して忠告する。
アカネを足止めする為に向かわせた輪墓イズナを見たサスケがア
﹁そっちに一体行ったぞアカネ
かっているならば仕方ないと割り切る冷静さはアカネにもあった。
にこれだけの強者で襲い掛かるのは好みではないが、世界の命運が掛
アカネはそう言って、イズナに向かって直進する。一人の敵を相手
?
﹂
れ以上何も言わず、自分を殺す為に迫るイズナ本体に視線を向ける。
﹁貴様さえ死ねば
無限月読は解除されない。自身の生死よりも勝利条件を満たす事を
優先し、イズナはサスケを狙う。
それに対してサスケは六道の陰のチャクラを籠めた黒い千鳥を作
り出し、その千鳥を槍状に変化させて、離れた位置に転がっている石
に向けて投擲した。
瞬間、石があった空間にイズナが突如として現れ、千鳥がまともに
命中し、その肉体を貫き穿つ事になる。そしてイズナが先程までいた
843
!
アカネの非常識さを深く考えては負けだと悟っているサスケはそ
﹁⋮⋮そうか﹂
﹁経験と予測と勘ですよ﹂
?
輪廻眼を持つサスケさえ殺せば、そうすれば例え自分が死した所で
!
﹂
空間に石が出現し、万有引力に従い大地へと転がった。
﹁なに
自身の位置が一瞬で入れ替わった事にイズナは気付き、そしてその
効果も理解した。
アメノテジカラ
サスケが視認した一定範囲の空間にある存在や物体の、任意の空間
座標を入れ替える。それがサスケの輪廻眼の瞳術、 天 手 力である。
サスケは天手力によって石とイズナの空間を入れ替え、石に向けて
﹂
放っていた千鳥をイズナに命中させたのである。
﹁はぁぁ
﹂
!
││
!
﹂
!
絶対防御によって意味を成さなかった。
ある意味貴様がもっとも厄介だな
!
││
!
るう。剣に触れた物体は全てが神威空間へと飛ばされる、防御不能の
オビトは須佐能乎の剣に神威の力を籠め、それをイズナに向けて振
││神威須佐能乎
の厄介さも理解していた。
オビトに宿る瞳力に幾度となく煮え湯を飲まされたイズナだ。そ
﹁おのれ⋮⋮
﹂
く。それを輪墓イズナの一体が止めようとするが、その攻撃は神威の
須佐能乎を発動したままにオビトはイズナに向けて突き進んでい
﹁行くぞ
も目覚めていた。
そして両目の万華鏡写輪眼が揃った事で、オビトは須佐能乎の力に
目の写輪眼が揃った事により、神威自体の性能も大きく増したのだ。
今までよりも遥かに速い神威の発動速度にイズナが舌を巻く。両
││速い
て安全な神威空間へと移動していた。
だが、錫杖がサクラに触れる瞬間に、サクラはオビトの神威によっ
るサクラに対し虫を払うかのように錫杖を叩きつけようとする。
サクラを警戒に値しないと判断したイズナは、追撃を加えようとす
﹁調子に乗るなよ塵芥め
ラを解放したサクラが追撃を加えようとする。
六道千鳥が命中したイズナに対し、百豪の術にて溜め込んだチャク
!
!
844
!?
絶対攻撃だ。
だが、仙術ではないその攻撃では六道イズナには通じない。それは
﹂
神 威 だ ろ う と 変 わ り は な か っ た。オ ビ ト が 仙 術 を 扱 え れ ば 話 は 別
だっただろうが。
﹁なら直接叩くだけだ
術が通用しないなら体術で攻撃すればいい。それは当然の判断だ
が、オビトが自らの体術を披露する事はなかった。
イズナの後ろの空間に神威を発動させ、そこから神威空間に送って
いたサクラを呼び戻し、サクラに攻撃させたのだ。
一撃の重さではサクラの方が圧倒的に上であり、そして奇襲を仕掛
﹂
ける事も出来る連携攻撃だ。
﹁何度もその手が通じるか
そして現れたサクラに向けて錫杖を突き刺そうとし││その錫杖
だが、流石にイズナも神威による奇襲は読んでいた。
!
﹂
﹂
なり強靭な肉体を得たイズナに対しても、確かなダメージを与えてい
た。
﹁くっ
た。
だが、ここに至って勝ち目が非常に低くなった事をイズナは悟っ
致命的な攻撃を避ける予定だ。
残る一体は自分と同化させており、いざという時に身代わりにして
を観察していたが。
の表情で見えざる攻撃を当たり前の様に回避し、弟子たちの戦いぶり
もう一体はアカネの足止めをしている。と言ってもアカネは余裕
ズナの内、二体がナルトの六道仙術によって動きを封じられていた。
そして眼下に映る光景を見た。そこでは自分の分身である輪墓イ
吹き飛ばされつつも、イズナは空中で姿勢を制御し体勢を整える。
!
845
!
はナルトの求道玉によって防がれてしまう。
﹁
﹂
!!
サクラは全力でイズナを殴り付ける。その一撃は、十尾の人柱力と
﹁しゃーんなろー
!?
封印された輪墓イズナは輪墓の効果時間が切れたとしても、元に戻
る事はないとイズナは直感した。
つまりあの封印を解かない限り、イズナの呼び出せる分身は二体が
限度となる。その数で、輪墓を視認出来るサスケ、輪墓を感じ取り攻
撃と封印をする事が出来るナルト、そして見えずとも輪墓の攻撃を回
避するアカネ、輪墓ですらダメージを受けないオビト。この四人を相
手に戦って勝てるとは、流石のイズナも思えなかった。
そして輪墓の効果時間が切れ、アカネを攻撃していた輪墓イズナも
本体と同化する。
それとほぼ同時にアカネの動きも止まる。輪墓の効果時間すら完
全に把握している様子に苛立ちと恐怖をイズナは抱く。
ここに至っては逃げるのも選択の内か。六道の力を手に入れた今、
やろうと思えば無限月読は月さえあれば可能となった。
この世で無限月読を解除出来るのは自分を除きサスケのみ。今は
何度も同じ術を使えばカラクリを見抜かれて当然だ。
大国主の発動条件を見抜いたアカネは、天使のヴェールで不可視と
﹂
なったチャクラをぶつけ、イズナを大地に触れさせない様にしたの
だ。
﹁アカネ。あいつを地面に降ろさないようにすればいいんだな
?
﹂
﹁ええ。そのサポートは私がしましょう。あなた達は全力で戦いなさ
いくぜサスケ
!
い﹂
﹁よっしゃ
!
846
無理だが、いずれサスケを殺す事が出来ればそれで問題はなくなる。
大国主の力があれば暗殺も容易だろう。
そう思い立ったイズナはここは逃走の一手を取ると苦渋の決断を
﹂
し、大国主の力を発動する為に大地に降り立とうとし││
﹁がっ
﹂
使用出来ないのでしょう
?
││
││そこまで見抜くか
!
﹁逃がしませんよ。あなたのあの瞬間移動、大地に触れていなければ
顎に大きな衝撃を受けて上空へと吹き飛んだ。
!?
﹁行 く 必 要 は な い。オ レ に 向 か っ て 術 を 打 て。動 き を 封 じ る 術 が い
い﹂
守
鶴
サスケの策に従い、ナルトは己の中にある尾獣の内、封印術を得意
とする一尾の力を借りた術を発動させる。
サスケもまた六道の力による黒い千鳥を発動させ、そして天手力を
使用した。
ナルトがサスケに、そしてサスケがナルトに向けて同時に術を放
つ。その間の空間に天手力で空間ごと転移させられたイズナが現れ、
両方の術を同時に受ける。
イズナはその攻撃を保険としていた輪墓イズナを身代わりとする
事で回避し、そしてどうにか大地に触れようと足掻く。
だが、それはことごとくアカネによって遮られた。見えざるチャク
ラの攻撃は、イズナにはどうしようもなかったのだ。いや、餓鬼道に
てどうにか吸収しようとはしたのだが、アカネはそれすら見抜き、見
えざるチャクラを放出して衝撃波を作り、それをイズナに叩き付けて
いた。それでは然しもの餓鬼道でも吸収する事は出来なかった。
大国主を封じられたイズナはアカネの攻撃を逆に利用し、そのまま
空中へ逃れようとする。
そこに神威から現れたサクラとオビトが先回りしていた。二人で
は決定打に欠けるが、僅かな時間が稼げればそれでいい。その時間で
ナルトとサスケがイズナの元に辿り着き、そして攻撃を加えていく。
単純な戦闘力ではイズナが最も高いだろう。一対一ならば、ナルト
もサスケもイズナに勝てはしない。
だが、小隊を組んで連携を取る事で、その力の差を逆転させている
のだ。イズナはアカネのみを敵と見ていた。アカネ以外の存在を有
象無象としか見ていなかった。だからこそ、イズナはこうしてナルト
達に追い詰められていた。
そうして、イズナを追い詰めるナルト達を見てアカネは微笑む。
││ああ、今の彼らには私も勝てないかもな││
そこには弟子の成長を喜ぶ師としてのアカネと、新たな好敵手の誕
生を喜ぶ武人としてのアカネがあった。
847
も は や イ ズ ナ に 勝 ち 目 は な か っ た。ま だ 余 力 は 多 く 残 っ て い る。
だが、イズナ一人ではナルト達の連携に対処する事は出来なくなって
いたのだ。
六道仙術を得たナルト。輪廻眼に目覚めたサスケ。その二人を攻
撃力と回復力に秀でたサクラと、神威という凄まじい性能を誇る瞳術
を持つオビトがサポートする。
大国主で逃げようにも、それはアカネによって妨げられる。輪墓イ
ズナも封じられ、六道イズナの全力もナルトとサスケのコンビを相手
﹂
に決定打足りえない。
﹁お、おのれ⋮⋮
手詰まりだ。それがイズナにも理解出来てしまった。
空中にて怒りと焦燥に駆られ、ナルト達を憎々しげに睨みつけるイ
ズナ。だが、それで戦況が良くなる訳ではない。
どうにかして逃げなければならない。その為の手段を講じなけれ
ばならない。ここで死ねば今までの全てが無意味と化す。それだけ
は、兄を犠牲にしてまで進めた計画を今更無駄にする訳にはいかな
い。
イズナは大国主を発動する為に、地爆天星にて大地を強引に隆起さ
せる。大地に降りようとすれば邪魔が入るなら、大地の方を引っ張り
上げる。大地から岩が離れないよう、それでいて地殻を変動させるほ
どの出力を調整し、無理矢理に大国主を発動させようとしたのだ。
当然それを許すアカネではなく、イズナが隆起した大地に触れる前
にイズナを攻撃しようとして││
﹄
﹁な││﹂
﹃
て、イズナの胸が貫かれた。
◆
848
!
それよりも僅かに早く、大地から突如として出現した黒ゼツによっ
!?
﹂
黒ゼツによって胸を貫かれたイズナは、謎の力によって動く事も出
来ずにただ困惑していた。
﹁き、貴様⋮⋮何故造物主であるオレに逆らう⋮⋮
﹁造物主
﹄
違ウナ。オレノ造物主ハ、オレノ母ハカグヤダ﹂
・・・
!
﹁母復活
﹂
﹂
﹁カグヤ⋮⋮まさか
﹁グオオオ
﹂
﹂
こいつが動き出す前に止める
!
﹁ナルト
﹁ああ
﹂
クラの吸収に肉体が耐え切れず、膨張を始めたのだ。
チャクラの吸収と共にイズナの身体が変化していく。膨大なチャ
よって縛られている人々からチャクラを抽出し、吸収しているのだ。
地中から膨大なチャクラが溢れ出す。無限月読に囚われ、神樹に
た。
そして、その恐るべき可能性はイズナの絶叫と共に具現化していっ
頭に浮かべる。
黒ゼツの言葉とハゴロモとの会話から、ナルトは恐るべき可能性を
!!
!?
ガイズナヲ消耗サセテクレタノハ好都合ダッタ﹂
ナ抵抗ヲサレル可能性ハ少シデモ減ラシタカッタトコロダ。オ前達
﹁輪廻眼ヲ四ツモ手ニ入レタ存在ハイズナガ初メテダ。母復活ニ下手
続ける。
疑問に思うアカネ達を見ながら、黒ゼツは笑みを浮かべながら話を
としているのか。
それがどうして黒ゼツの母となるのか。一体黒ゼツは何をしよう
場人物。遥か過去の存在だ。
カグヤ。それはハゴロモがナルトとサスケに語った話の中での登
突然の出来事と黒ゼツの言葉に誰もが混乱する。
﹃
?
?
!
それを防ぐ為にナルトとサスケはイズナ││いや、イズナだったモ
はチャクラを吸収されている人々の命に関わるだろう。
黒ゼツの企みを成就させてはならない。そして何より、このままで
!
849
!?
ノを封印しようとする。
だが、それは黒ゼツにとっては好都合な行動だった。膨張を続ける
イズナだったモノから、膨大な髪の毛の束が伸び、一瞬にしてナルト
とサスケを捕らえてしまったのだ。
そして二人からチャクラを吸収し始める。このままでは自分達も、
そして人々も死んでしまう。そう焦る二人に対し、黒ゼツは無限月読
に囚われている者達に命の別状はない事を告げる。
だが、それは人間として無事という意味ではなかった。
無限月読。それはイズナが信じたように、人々に永遠の安寧をもた
らす術ではない。その本来の用途は、カグヤの兵を生産する為のもの
であった。
無限月読に囚われた人々は、いずれその肉体を変化させてカグヤの
﹂
﹂
従順な兵士と化す。その成れの果てが、白ゼツなのだった。
﹁オビト
﹁分かってる
オビトが神威須佐能乎にてナルトとサスケを捕らえる髪の毛を切
り裂こうとする。
アカネが仙術チャクラを取り込ませる事で十尾の人柱力にも通用
する様にした神威須佐能乎は、その髪の毛を確実に切り裂いた。
解放されたナルトとサスケは即座にその場を離れ、そしてイズナの
変化を見届ける。
イズナだったモノは更に膨張を続け、そして一定の大きさから急速
に縮小し始めた。
そして、一つの存在が現れた。十尾を取り込んだイズナに、無限月
読で囚われた人々からチャクラを吸収する事で封印から目覚めた者。
額に二本の角、その中央に輪廻写輪眼を、両目には白眼を有する女
神。それこそが、かつてハゴロモによって封印された大筒木カグヤ
だった。
大筒木カグヤ。その正体は異空間からこの星に渡ってきた異邦人
だ。
カグヤはかつて神樹││十尾の正体││を追い、この地へとやって
850
!
!
きた。そして神樹になったチャクラの実を喰らい、圧倒的な力を手に
入れたのだ。
いや、チャクラの実を喰らう前から、カグヤは恐るべき力を有して
いた。だが、カグヤはその力を慈愛と平和の為に使っていた。この地
を治めていた時、民からは女神と崇められてすらいた。
それが神樹の実を喰らった事で変わってしまった。カグヤの性格
は徐々に変化し、そしていつしか多くの民から恐れられる様になった
のだ。
そして愛していた二人の息子も離反し、カグヤは全てのチャクラを
己に取り戻す為に二人の息子と争った。そして、ハゴロモによって封
印されたのである。
だが、カグヤは封印される前に最後の足掻きとして黒ゼツを生み出
していた。第三の息子と言うべき黒ゼツは、母復活の為に動き始め
た。
その為に黒ゼツはハゴロモが残した石碑を改竄する。それにより、
うちは一族は石碑に記された言葉を間違った意味で捉えてしまい、そ
の傲慢と暴走の一助としてしまったのである。
ハゴロモの子どもであるインドラがアシュラと争った裏にも黒ゼ
ツの影があった。黒ゼツはそうして長き年月を掛けて、カグヤが復活
する土壌を整えていたのだ。
その中で、黒ゼツはマダラという最高の素材を見つけた。マダラな
らばいずれ輪廻眼に開眼し、カグヤ復活の計画を進める事が出来ると
期待したのだ。
だが、その期待は裏切られた。事もあろうに、インドラの転生体で
あるマダラは、アシュラの転生体である柱間と友となったのだ。それ
も、インドラとアシュラの因縁による憎しみすら超える程の友に。
その功績が日向ヒヨリにあったのは言うまでもない。だからこそ、
黒ゼツはイズナ以上に日向ヒヨリを憎々しく思っていた。
マダラと柱間は互いに裏切る事のない無二の親友となった。だが、
それでも黒ゼツは諦めなかった。彼にとってカグヤ復活は、例え何
千、何万年経とうとも成し遂げなければならない悲願なのだ。
851
そして黒ゼツは、マダラを罠に嵌めるべく動き出した。そう、イズ
ナに狙いを付けたのである。永遠の万華鏡写輪眼の情報を気付かれ
ぬ様にイズナに与え、そして千手一族や木ノ葉隠れに対する憎しみを
煽っていく。
イズナは黒ゼツの予想通りに、いや予想以上に踊ってくれた。別天
神に目覚め、マダラを操り、柱間の細胞を手に入れてマダラが輪廻眼
を開眼する条件を整えるばかりか、自らが輪廻眼に開眼する。黒ゼツ
にとっては大金星と言える活躍だ。
流石にマダラの輪廻眼すら移植したのは少々予想外だったが、それ
でもこうしてカグヤ復活に至った今では些細な事だった。
こうして、千年に渡り忍界の裏で暗躍した黒ゼツにより、大筒木カ
グヤが復活を果たしたのだ。
﹁⋮⋮﹂
カグヤは白眼を発動させ、その視線をナルトとサスケに向ける。
852
そして二人のチャクラからインドラとアシュラの転生体である事
を見抜き、そして陰と陽のチャクラからハゴロモが術を渡した事も見
抜いた。
﹁⋮⋮﹂
次にカグヤはアカネにその視線を向けた。そして徐々にその表情
を険しくしていく。
アカネもまた、白眼にてカグヤを見る。そしてその圧倒的な力を見
抜く。今のカグヤは六道イズナすら越えるチャクラを有しているの
だ。もはやアカネですら比較にならない程のチャクラ量である。
切り札を切ってなお、勝ち目は薄い。だが、なくはない。それに、ナ
ルト達がいれば可能性は劇的に上昇する。そう考えるアカネに対し、
カグヤは口を開いた。
﹂
﹁貴様は危険だ。そのチャクラ、ワラワの系譜ではない。だというの
﹂
に、それだけの力⋮⋮﹂
﹁なに
﹁どういうことだってばよ
カグヤの系譜ではないチャクラ。その意味はナルト達には理解出
?
?
来ない。
元 々 こ の 世 界 の 人 々 は チ ャ ク ラ と い う 力 を 有 し て は い な か っ た。
いや、生物である以上なくはないのだが、一般人と同じくチャクラを
操る術を有していなかったのだ。
この世界に忍と呼ばれるチャクラを操る存在が現れたのは、チャク
ラの化身とも言えるカグヤから世界中に広がったからだ。カグヤの
血を引く二人の息子からその子に、更に次の子に。そうして世界中に
広がりながら、忍と呼ばれる存在は増えていった。
つまり、大元を辿れば忍のチャクラはカグヤに辿り着く事になる。
だが、アカネは違う。アカネの、ヒヨリのチャクラは数多の人生にて
築き上げたアカネだけの物。言うなれば、別の世界から運ばれた力
だ。それがこの世界でチャクラと呼ばれる力に適応変化したのだ。
だからアカネのチャクラから、カグヤのチャクラに繋がるものは欠
片も感じ取れない。それがカグヤの警戒を上昇させた。
﹂
どことなく理由は推測出来たが、一族とは何なのか。
カグヤの言う一族とは、大筒木一族の事を指す。だがそれは、大筒
木ハゴロモや大筒木ハムラの子孫を指すのではない。それはカグヤ
がこの星に渡る前、カグヤが別れた大筒木一族の事を指していた。
大筒木一族は神樹の実を求めて星々を旅する一族だ。そして今の
カグヤは、その大筒木一族と敵対していた。白ゼツを量産しているの
も、いずれ来るであろう大筒木一族に対抗する為であった。
カグヤは、アカネの事を大筒木一族が自分達に対抗する為に作り出
した存在なのでは、と勘違いをしたのだ。
十尾に迫るという、人間では有する事が不可能と言えるチャクラ
量。大筒木一族が有する白眼。そして今こうして己の邪魔をする行
動。これらから、カグヤがそう勘違いするのはあながち間違いとも言
えなかった。
853
﹁ハムラの子孫のはず⋮⋮だが、この力はワラワのものではない⋮⋮。
﹂
まさか、一族の仕業か
﹁一族
?
カグヤの独白はアカネにも理解は出来ない。チャクラに関しては
?
﹂
﹁ここで消えよ﹂
﹁
やそがみくうげき
カグヤはアカネに向けて、突如としてチャクラの塊を叩きつけよう
とする。八十神空撃、掌にチャクラを籠めて放出する体術の一種だ。
八卦空掌と似た様な体術だが、その規模と破壊力は桁違いと言えよ
う。
アカネはここに来て切り札を切る。と言ってもそれはアカネ固有
の能力という訳ではない。アカネは努力によって力を付けてきた存
在だ。それ故に、努力によって身に付けられる力ならば大抵習得して
いる。
まあ、流石に八門遁甲の陣は習得していないが。理由としては解放
する程の潜在能力が殆どないからだ。つまり、八門遁甲を使用した所
でアカネには意味を成さないのである。
アカネの切り札。それは綱手やサクラと同じ百豪の術である。ア
カネが長年額に溜め込んだチャクラを解放し、全身に行き渡らせる。
多くの戦いで消耗したチャクラが回復し、通常時以上のチャクラと
なってアカネの力を底上げした。
アカネがイズナ戦にて切り札を切らなかったのは、文字通り切り札
であるからだ。この切り札を切ってなお、イズナに隠された一手があ
れば抗う術を失うかも知れない。それを恐れ、アカネはイズナの底を
見るまでは切り札を封じていたのだ。
もっとも、底を見た後にナルト達が増援として現れたので、切り札
﹂
やそがみくうげき
を切る必要もなくなったのだが。
﹁はあっ
とも大地を大きく砕いていく。
無数にぶつかり合う二つの力。その衝撃は大気を震わせ、当たらず
て埋めるアカネ。ぶつかり合う二つの力の塊は完全に互角であった。
力とチャクラに任せて攻撃を繰り出すカグヤと、劣る能力を技術に
だけの話だ。
も規模と破壊力が上ならば、八卦空掌の規模と破壊力を上げればいい
ア カ ネ は 八十神空撃 に 対 し て 八 卦 空 掌 で 対 抗 す る。八 卦 空 掌 よ り
!
854
!!
﹁きゃあ
﹂
﹁冗談だろ⋮⋮
﹂
ともごろし
人外とも言える二つの存在の衝突にサクラは思わず目を瞑り、オビ
トも戦慄する。
﹁お前のチャクラは吸収出来ずともよい。滅びよ﹂
はいこつ
カ グ ヤ は 己 の 骨 を 変 化 さ せ、あ ら ぬ 空 間 に 向 け て 放 つ。 共 殺 の
ともごろし
はいこつ
灰骨と呼ばれる、カグヤの特殊な体質を利用した攻撃だ。
共 殺の灰骨は対象に突き刺さると同時に、対象もろとも崩壊して
いく。一撃必殺の術だ。それをカグヤは時空間を操る事で、アカネの
背後に出現させた。
だが、アカネは廻天によって灰骨を弾く。そして灰骨が現れたと同
﹂
﹂
時にその時空間に八卦空掌を放ち、逆にカグヤに攻撃を返した。
﹁ぐっ
﹁母さん
アカネの思わぬ反撃に、カグヤの右袖口に同化した黒ゼツが心配の
声を上げる。そしてアカネを睨みつけ、後悔する。ここまで面倒な存
在になる前に消すべきだった、と。
いや、消す為にイズナをけし掛けた結果が、かつての三尾と戦争を
利用したヒヨリ殺害に繋がるのだが。こうして転生して復活するな
どとどうして思えるか。
﹁母さん。こいつは絶対に殺すべきだ。ナルト達も含めて別の世界に
連れて行こう。そこならここよりももっと戦いやすいし、何よりこの
世界を傷つけずにすむ﹂
﹁⋮⋮そうね﹂
黒ゼツの言葉にカグヤは賛成する。この地、すなわちこの星は、カ
グヤにとって大切な苗床だ。
無限月読にて人間を白ゼツという兵にしつつ、人間が滅びないよう
に一定数の人々は術から解放する。そしてその数が増えると再び無
限月読にてチャクラを吸収し、白ゼツにする。苗床とはよく言ったも
のだ。
その大切な苗床をこれ以上傷つけるつもりはカグヤにはない。ア
855
!
!
!
!
カネというイレギュラーな存在に思わず力を振るったが、殺すならば
アメノミナカ
より効率的な世界がある。
天之御中。それがカグヤの輪廻眼の固有瞳術だ。
自分と周囲にいる存在を瞬時に別空間へと強制移動させる時空間
アメノミナカ
忍術の一種で、移動先に設定されている六つの空間は、どれも人間に
は戦いづらい環境となっている。
・・・・
そこで全ての決着をつけるべく、カグヤは天之御中を発動し、この
場の人間のほとんどを強制移動させた。
アカネのチャクラは減った。
﹁⋮⋮﹂
どうしてこうなった。誰もいなくなった周囲を見渡し、どれほどぶ
りかにその心境に至ったアカネであった。
856
NARUTO 最終話
ナルト達がカグヤによって異空間に強制移動させられ、壮絶な戦い
をしている中、アカネは風に当たりながら考えていた。
││どうしよう││
アカネの感知でもナルト達を感じ取る事は出来ない。それ程に遠
い場所か、もしくは違う空間世界に移動したのだ。そして今回の場合
は後者である。
いくらアカネが非常識な存在だと言えど、別空間に移動したナルト
達を追う事は出来ない。そもそもアカネに時空間忍術の適正はない。
手詰まりである。
そんな風に途方に暮れているアカネの元に、柱間達がやって来た。
柱間達を抑えていた黒い棒はイズナがカグヤに飲まれたと同時に消
何があった
﹂
滅し、自由になった柱間達がアカネのチャクラを追ってこの場に集結
﹂
ない理由、あの膨大なチャクラの持ち主。
それらの疑問についてアカネが答えようとした時だ。その場に突
如として現れた存在があった。それこそ、忍宗の開祖である六道仙
人、大筒木ハゴロモである。
﹁それについてはワシから説明しよう﹂
イズナの血痕から現れたハゴロモは、ナルト達の現状を皆に伝え
た。
それに対してもっと早く助言を欲しかった事を扉間が口にするが、
ハゴロモとしてもこの世に顕現する為に、九尾とインドラとアシュラ
のチャクラを必要としたのだから致し方なかった。
イズナの内に眠るマダラと柱間、そして九尾のチャクラがあったか
857
したのだ。
﹁ヒヨリ
!?
﹁突如として凄まじいチャクラが出現した⋮⋮あれはなんだったのだ
!
柱間達はアカネに説明を求める。ここにいたはずのナルト達がい
!?
らこそ、ようやく顕現を可能としたのだ。
一通りの情報を語ったハゴロモはアカネに目を向ける。
﹁礼を言おう。お前のおかげで、インドラとアシュラの転生者は手を
取り合う事が出来た﹂
﹁⋮⋮私が居なくとも、ナルトとサスケならきっと手を取り合う事が
出来ましたよ﹂
﹁そうかもしれぬし、そうでないかもしれぬ。神ならぬこの身では未
来を見通す事は出来ぬ。だから、此度と前回の転生者が手を取り合え
たのは、お前のおかげと思う事にしよう。感謝する﹂
そう言って、ハゴロモはアカネに対して頭を下げる。そこまでされ
て礼を受け取らないアカネではなく、ハゴロモの想いを汲んで頷きを
返した。
﹁さて、先も説明した通り。ナルト達が母を封印すれば、この世界に口
寄せの術にて呼び戻す。だが、それにはチャクラが足りぬ。この術に
858
は膨大なチャクラがいる。ワシには今そのチャクラはない。ナルト
とサスケに託したのでな⋮⋮﹂
そう、ナルト達が首尾よくカグヤを封印出来たとしても、彼らは自
力でこの世界に帰還する事が出来ないのだ。オビトの神威でさえ繋
がらない程に遠い世界に、彼らは連れていかれたのだ。
そんなナルト達を助けるべく、ハゴロモが案を出してくれた。それ
が彼らの口寄せであった。他の者ならばいざ知らず、ハゴロモであれ
ば遠く離れたナルト達だろうと、ナルトとサスケを通じて皆を呼び戻
す事が可能なのだ。
だが、その口寄せの術に必要なチャクラは膨大であり、ハゴロモに
﹂
はそれ程のチャクラが残されていなかった。それを補う方法がある
にはあるのだが││
﹁私のチャクラを融通しても足りませんか
﹁⋮⋮十分過ぎるほどだな﹂
寄せの術を発動しようと試みたハゴロモだったが、規格外が一体存在
過去の五影全てを穢土転生にて呼び出し、彼らのサポートを得て口
その方法を提案するまでもなく、問題は解決した。
?
していたおかげで必要なくなった様だ。
そして、ナルト達はカグヤを黒ゼツもろとも封印する事に成功す
る。
それを感じ取ったハゴロモは、アカネのチャクラを受け取りながら
口寄せの術式を展開した。
並の口寄せの術式など比べ物にならない程に広大な術式が大地に
描かれ、そして遠く離れたナルト達を呼び戻す。
アカネェ
無事だったのかよ
急に
そこにはナルト達だけでなく、十尾から解放された全ての尾獣も口
ここは⋮⋮って
!
寄せによってこの地に戻っていた。
﹁え
﹂
!
﹂
!
イズナはカグヤが封印された事により元の肉体を取り戻していた。
た。
多くの忍が喜びを顕わにする中、マダラは一人イズナの傍に佇んでい
ナルトが神威空間から戻って来た両親と語らい、ハゴロモを含めた
変えてくれるとハゴロモには思えた。
たくなる。そんな忍が現れたのだ。ナルトならばきっと今の世界を
これこそが、ハゴロモが思い描いた世界。尾獣達すら己から協力し
ハゴロモは解放された九喇嘛と楽しげに会話するナルトを見る。
謝していた。
自らが残した禍根を拭ってくれたのだ。ハゴロモは心底彼らに感
ハゴロモはナルト達と、そしてアカネに向けて礼を言う。
﹁ナルト、サスケ。そして皆⋮⋮よくぞ世界を救ってくれた﹂
救った事を褒め称えた。
たのだ。ナルトの心配も当然であり、アカネも謝罪し、そして世界を
カグヤとの最終決戦において、移動した矢先にアカネの姿がなかっ
そして、良く頑張りました⋮⋮
事情がありましてね。最後の戦いに参加出来ずにすみませんでした。
﹁私からしたら急にいなくなったのはあなた達です⋮⋮まあ、私にも
いなくなって心配したんだぞ
!
だが、それだけだ。尾獣を抜かれた人柱力は死ぬ。それはイズナも例
859
!
?
外ではない。
﹁にい、さん⋮⋮﹂
﹁ああ﹂
マダラの存在を感じ取り、イズナは力なく語り出す。
﹁平和な世界が出来ると、信じていた⋮⋮それは本当なんだ⋮⋮﹂
﹁ああ。分かってる。ただ、お前はやり方を間違えてしまった。一人
の力で変えられる事などたかが知れている。だから、皆で協力して、
次に想いを託していかなければならないんだ﹂
﹁何度も、同じ事を言われたな⋮⋮オレは、それでも間違えてしまった
⋮⋮。兄さんの、弟とは思えないくらい⋮⋮出来そこないだ⋮⋮﹂
イズナは誰に止められようと、どんな罵倒を受けようと、目的の為
に邁進する事を止めなかった。
だが、その目的が根本から間違っていたとなれば話は別だ。無限月
読 だ け に 希 望 を 見 出 し て い た の だ。そ れ が そ も そ も 間 違 っ て い た
﹂
﹁分かった⋮⋮。ヒヨリよ、こっちに来てくれ﹂
イズナの、恐らくは最期の頼みを聞き、マダラはアカネを呼び出す。
﹂
アカネもそれを拒否せずに、マダラと共にイズナの傍で膝をつき、
倒れ伏すイズナと会話をする。
﹁どうしたイズナ。私に何の用がある
﹁駄目だ﹂
アカネはイズナの目を見つめ、そして首を横に振りながら答える。
はないほどに。
を仕出かしてきたのだ。例え騙されていたとしても、情状酌量の余地
その願いは誰が聞いても却下するだろう。イズナはそれだけの事
の、チャクラを分けて欲しい⋮⋮﹂
﹁さ、散々お前と敵対して今更だと思うが⋮⋮頼みがある⋮⋮。お前
?
860
知った時、イズナは絶望し、その心は黒ゼツに歪まされる以前のイズ
ナに戻っていた。
﹂
﹁兄さん⋮⋮日向ヒヨリも、そこにいるのか
﹁ああ、いるぞ。それがどうした
?
﹁呼んでくれ⋮⋮頼みたいことが、あるんだ⋮⋮﹂
?
﹁⋮⋮そうか﹂
最期の望みも断たれた事にイズナは力なく、そして当然だろうと納
得する。だが、アカネの答えはまだ終わってはいなかった。
﹂
﹁アカネだ﹂
﹁なに⋮⋮
﹁私の今の名前だ。日向ヒヨリはもう死んでいるんだ。いつまでも過
去の私と今の私を同一視しないでもらいたいな。そうそう、マダラと
﹂
柱間も私の事はアカネって呼べよ。いつまでも死んだ人間に引き摺
られてどうする﹂
﹁⋮⋮転生したお前がいう事か
それを見たマダラは思わず叫んだ。イズナの使おうとしている術
てある術を発動しようとする。
イズナは両手を組み、そしてアカネから受け取ったチャクラを使っ
うとしているのか。
で、尾獣を抜かれたイズナの死は覆らない。ならばイズナは何をしよ
それがイズナの命を救う事にはならない。今更チャクラを得た所
ない肉体にチャクラを分け与えていく。
アカネはイズナの頼みを疑う事無く受け入れた。その手を握り、力
﹁分かったよ﹂
⋮⋮。分かった。なら、頼むアカネよ⋮⋮オレに、チャクラを⋮⋮﹂
﹁ふ、ふふ⋮⋮そう言えば、お前の今の名前を呼んだ事は、なかったか
然の如くアカネはそれを無視した。
アカネ達を少し離れた場所で見守っていた柱間が思わず呟くが、当
?
その術は
﹂
が何なのか、マダラは理解しているのだ。
﹁イズナ
!
の悪あがきを企んでいたのか。誰もがそう思っていた所で、動き出そ
うとする者達をハゴロモとナルトが止めた。
﹁待て。イズナに戦闘の意思は最早ない﹂
﹁ああ。あれは、そういう術じゃねーってばよ⋮⋮﹂
ナルトにはイズナが発動しようとしている術に覚えがあった。そ
861
?
マダラの叫びにアカネを除く周囲の者達が反応する。やはり最後
!
う、それはかつて長門が木ノ葉隠れの忍を蘇らせたのと同じ││
││外道・輪廻天生の術││
輪廻天生の術。死んだ人間を蘇らせるという輪廻眼に宿る外道の
術。ただし、その反動として術者の命も失われてしまうが。
イズナが輪廻天生の術を発動した瞬間、マダラの身体が輝き出し
﹂
た。そして穢土転生であったその肉体に生気が宿り始めた。
﹂
﹁こ、これは
﹁まさか
蘇りだしたのだ。
!?
なお、流石に暁が殺しただろう無数の人々はイズナでも蘇らす事が
たが。
チャクラであった。おかげでアカネのチャクラは底を尽き掛けてい
それを補ったのが四つの輪廻眼の力であり、そしてアカネの膨大な
う。
るが、遥か昔に死んだ死者を蘇らせるのは輪廻眼でも一人が限界だろ
る事が出来た要因だ。死んでから間もなければ多くの死者を蘇らせ
イズナが四つの輪廻眼を有していた事が、これだけの死者を蘇らせ
ば過去の五影達や忍刀七人衆などは蘇らせていないが。
た。イズナが言う様に、イズナや黒ゼツが関与していない死者、例え
なった忍も、尾獣を抜かれて死んだ人柱力達も、その多くが蘇ってい
そう、蘇ったのはマダラ達だけではない。第四次忍界大戦で犠牲と
いがな﹂
で、蘇ったはずだ⋮⋮オレが、関与していない者は⋮⋮蘇らせていな
﹁オレや、黒ゼツの陰謀でこの世を去った者達⋮⋮その、大半はこれ
されている為に、蘇っても両目だけは空洞のままだったのだ。
砕け散った事で視力を失う。マダラの真の目はイズナの両掌に移植
蘇ったマダラは思わずイズナを見つめ、そしてまがい物の輪廻眼が
﹁イズナ⋮⋮お前⋮⋮くっ
﹂
その肉体に生気が宿り出す。そう、穢土転生だった者達が生者として
マダラだけではない。柱間に扉間、そしてミナトとクシナもまた、
!
出来なかった。この戦場の様に場所を指定出来るならばともかく、イ
862
!
ズナが関与していない死者を特定して蘇らす事は出来なかったのだ。
ともかく、イズナの手によって戦争の犠牲者の多くは蘇った。だ
が、そこに疑問の声を上げた者がいる。
﹁⋮⋮ワシを蘇らせたのは何故だ。ワシはお前の手に掛かった覚えは
ないのだがな﹂
そう、扉間である。マダラやミナトにクシナはイズナの策略によっ
て命を奪われたも同然だ。だが、扉間はそうではない。金銀兄弟のせ
いで多少の寿命は削れたが、それでも天寿を全うしたと言える。
だが、こうしてイズナの手によって蘇っていた。しかもある程度は
若返ってまでだ。
﹁ふ、ふふ。貴様に関しては⋮⋮ただの嫌がらせだ⋮⋮木ノ葉で火影
の座を奪い混乱を呼ぶもよし⋮⋮何もせず無為に生きるもよし⋮⋮
せいぜい、好きに、生きろ⋮⋮﹂
それは、かつてはライバルだったイズナからの意趣返しの様なもの
863
だ。マダラと柱間が戦場で激突していた時は、イズナと扉間もまた激
﹂
突していたのだ。
﹁貴様⋮⋮
ある。ある意味で、イズナも犠牲者と言えた。
れがイズナの暴走の始まりであり、それを利用したのが黒ゼツなので
達と兄が意気投合したことで、兄が遠く離れた様に感じる喪失感。そ
敬するマダラが願う平和な世界。それを叶えたいという思いと、柱間
そう、イズナの願いの根幹にあったのは、マダラの願いだった。尊
ものだとしても。
本当にイズナの願いだったのだ。例えそれが、マダラの願いを模した
いや、無念がないわけがない。世界に平和をもたらしたい。それは、
マ ダ ラ の 両 目 を 返 す。そ れ で イ ズ ナ に は 思 い 残 す 事 は な か っ た。
﹁イズナ⋮⋮﹂
だった⋮⋮﹂
﹁にい、さん⋮⋮兄さんの、目を⋮⋮返すよ⋮⋮オレには、過ぎた力
吐いて受け入れた。今更文句を言っても意味はないと悟ったのだ。
イズナの最後の嫌がらせに扉間は眉間に皺を寄せ、そしてため息を
!
﹁⋮⋮ヒヨリ。いや、アカネ。頼みがある﹂
﹁⋮⋮分かった﹂
マダラの頼みを受け、アカネはイズナから輪廻眼を摘出し、マダラ
に移植する。
﹁それは⋮⋮﹂
それにイズナは驚愕する。アカネが輪廻眼を移植した事にではな
い。アカネが移植した輪廻眼に驚愕したのだ。
その輪廻眼は、一つはイズナの右掌に移植されていたマダラ本人の
物。もう一つは、イズナの左目だったのだ。
﹁オレの目は確かに返してもらった。だが、左目はお前にやるさ。代
﹂
わりにお前の左目をもらうぞ﹂
﹁なぜ⋮⋮そんなことを⋮⋮
マダラがそうした理由がイズナには理解出来ない。そんなイズナ
に対し、マダラは優しい笑みを浮かべて答える。
﹁こうすれば、お前はオレの左目としてずっと一緒にいられる。これ
なら、世界がゆっくりと変わっていく様子がお前にも見えるだろう﹂
マダラの言葉にイズナは残された右目を見開く。
﹁人は、少しずつしか前に進めない。時に過ちを犯し、後戻りしてしま
う事もあるだろう。それでも前に進み、いずれは平和な世界に近付い
ていく。それをオレと共にお前も見届けるんだ﹂
﹁ふ、ふふ⋮⋮知らなかったよ。意外と、ロマンチストなんだね⋮⋮
兄、さん⋮⋮⋮⋮あり、が⋮⋮と⋮⋮⋮⋮﹂
最期に、イズナは笑いながら逝った。それをマダラは見届けなが
ら、ただ無言で佇んでいた。
﹁穢土転生を解術するつもりであったが⋮⋮まさか輪廻天生を行うと
はな﹂
イズナの最期を見届けたハゴロモは思わずそう呟く。それを聞い
たナルトは小さく頷き、そして両親が蘇った事を素直に喜びたい気持
ちを抑える。
今は、そういう想いを出してはいけないと理解しているのだ。
﹁皆よ⋮⋮今はマダラをそっとしておいてくれぬか⋮⋮﹂
864
?
柱間の頼みに皆が頷き、その場から離れて行く。
﹁ヒヨリ⋮⋮いや、アカネよ。おぬしだけは、残ってやってくれ﹂
﹁え⋮⋮いや、分かったよ﹂
そうして、マダラとアカネを除く者達はこの場から移動した。今頃
は六道仙人と尾獣達が思い思いに別れを告げている事だろう。
膝をつき、静かにイズナを見つめるマダラにアカネはゆっくりと近
付いていき⋮⋮そして、そっと頭を抱き締め優しく語りかける。
﹁いいんだ⋮⋮もういいんだマダラ﹂
﹁⋮⋮オレは﹂
お、オレが⋮⋮ オレがもっと、もっとイズナを
﹁もう、誰も見ていないよ⋮⋮もう、我慢しなくても、いいんだ⋮⋮﹂
﹂
﹁オレは⋮⋮
⋮⋮
!
イズナは⋮⋮
﹂
イズナ
﹁オレがイズナをもっと、もっと理解してやれてたら⋮⋮
は
﹁お前のせいじゃない⋮⋮
!
ないでくれ⋮⋮﹂
おおおおおおお
!!
術されたのである。
子の印を結ぶ。ハゴロモから教わったその方法により、無限月読は解
ね
尾獣全てのチャクラを持つナルトと、輪廻眼を持つサスケが互いに
事で解放された。
無限月読に囚われていた人々は、ナルトとサスケの二人が協力する
◆
た。
マダラの叫びが木霊し、そして忍界史上最大の戦争は幕を下ろし
﹁う、おお⋮⋮
﹂
は全部カグヤと黒ゼツだ⋮⋮だから、お前も自分を責めるな⋮⋮責め
悪いの
お前は、悪くないんだ⋮⋮
!
アカネの言葉により、塞き止めていたマダラの感情が溢れ出した。
!
!
865
!
!
!
!
第四次忍界大戦終結後。世界は慌しく動き始めた。
死んだはずの人間が蘇った事により、喜びと同時に様々な問題も増
えたのだ。その中で顕著なのが人柱力と尾獣の存在だろう。
暁に捕らえられ犠牲になった人柱力が蘇った事により、その人柱力
に対応する尾獣を再び封印するという話が上がったのだ。
だが、多くの話し合いの結果それは却下された。尾獣達は最早天災
と呼ばれる災害ではなく、人に恨みを持たずに自由に生きる道を選ん
だのだ。
そしてそれを後押ししたのがナルトだ。大戦を集結に導いた英雄
に後押しされては、尾獣を兵器とする道を選ぶ事も出来ず、全ての国
が納得して人柱力と尾獣を解放した。
牛
鬼
唯 一 人 柱 力 と し て 存 在 し て い る の は ナ ル ト と ビ ー だ。九 喇 嘛 も
八尾も、人柱力と共にある事を選んだのだ。それ以外の尾獣は各々が
故郷とする地に戻り、平穏に過ごした。
﹂
866
蘇った人柱力達は人柱力としての在り方から解放され、自由に世界
を旅したり、里の為に働いたりと好きに生きた。
この戦争によって手を取り合った五大国と五大忍里は、今までの禍
根を捨てて平和条約を締結する事にした。
暁によって受けた痛みを共有した今、互いが平和を望み、こうして
歩み寄れる様になったのだ。
この平和が永遠だと思う者は子どもだけだろう。共通の敵を失っ
た事により、いずれ再び対立を始めるかもしれない。だが、それでも
人は平和に向けて歩み出した。
ならば、それを少しでも長く維持するよう努力し、その想いを次代
に繋げる事こそが、今を生きる人々の使命だった。
各国や各里は大きく体制を変えていき、その激動の慌しさに翻弄さ
ナルトー
れながらも、平和を謳歌するのであった。
﹁ナルトー
!
﹁うーん⋮⋮なんだよ母ちゃん⋮⋮もう少し寝かせてくれよ⋮⋮今日
!
は任務もないってばよ∼⋮⋮﹂
平和を謳歌しているのは木ノ葉隠れの里も同じだ。大戦の英雄に
して、今や忍界でその名を知らぬ者はいない忍であるうずまきナルト
も、平和な世界で惰眠を貪っていた。
早く
今日は早く起こしてくれっていったのはあなたで
﹂
起きるってばよ
﹂
サスケ君とサクラちゃんと約束してるんでしょ
﹁何言ってるの
しょう
起きる
起きないと拳骨落とすわよ
﹁わぁ
クシナの拳骨の痛さを思い出し、ナルトは咄嗟に起き上がる。
それを見たクシナが両腕を組んだままナルトを見下ろし、そして満
足そうに頷いた。
ラ ー メ ン だ と 嬉 し い ん だ け ど
﹁よし。じゃあ早くご飯食べちゃいなさい。もう出来てるわよ﹂
﹁へ ー い。今 日 の 朝 ご は ん は 何
なぁ﹂
﹂
私が料理を作る限り、ラーメンなん
て体に悪い物を朝から食べさせたりはしないわよ
﹁朝っぱらから何言ってんの
?
ラーメンは体に悪くねーってばよ
ては駄目と言うのは、それはナルトにとって死の宣告に等しい。
﹁ま、待ってくれよ母ちゃん
元気に生きてるってばよ
﹂
オレってば三食ラーメンだった事もあったけど、それでもこんなに
!
ともかく、ナルトにとってラーメンはベストフードだ。それを食べ
と言ってもいい。⋮⋮まあ、その友を食すのはどうかと思うが。
ナルトにとって切っては切れない存在だ。言わば掛け替えのない友
その絶望的な宣言に、ナルトの精神は崩壊しかける。ラーメンとは
!
!
!
だった。
﹁さ、三食ラーメン
﹂
どういうことだってばね、あんたの食生活は
三代目様はナルトにどんな教育をしてたってばね
!
必死にクシナを説得するナルト。だが、その説得の仕方は逆効果
!
ない。
タイミングでヒルゼンに悪寒が走ったそうだが、前後関係は定かでは
思わぬところでヒルゼンに飛び火したクシナの怒り。この時、同じ
!!
!?
867
!!
!
!
!
!
!
!
﹁い い ナ ル ト。ラ ー メ ン を 食 べ る な と は 言 わ な い わ。で も ね。三 食
ラーメンとか、朝からラーメンなんてのは駄目よ。お昼とか夕飯にた
まに一楽に行くくらいはいいけど。カップラーメンは特に駄目
﹂
﹁か、カップラーメンが禁じられた⋮⋮
﹂
いてナルトに食べさせようと思うクシナではなかった。
の悪さであった。ナルトにとって不幸な事かもしれないが、それを聞
コトから教わった。その中の一つが、カップラーメンの栄養バランス
死んでから十七年経って生き返ったクシナは、今の時代の常識をミ
までもない。幾つになっても女性は乙女なのである。
なお、ミコトがクシナが歳を取っていない事を羨んでいたのは言う
もおらず、再会した時はそれは驚いていた様だ。
シナが死んだ時は悲しんだが、まさか生き返って再会するとは思って
うちはミコト。サスケの母にして、クシナの友人だった女性だ。ク
いたんだからね
ああいう携帯食には体に悪い物がたくさん入ってるってミコトに聞
!
﹂
!
﹁ん﹂
﹁父ちゃん、醤油取って﹂
食べ始める。
既に朝食を食べていたミナトと一緒に食卓につき、ナルトも朝食を
﹁おはよう父ちゃん。それじゃ、頂きまーす
﹁おはようナルト。早く食べないとご飯冷めるぞ﹂
しいからだ。
には、この両親に囲まれた家庭での温もりを味わえる方がよっぽど嬉
だが、その実そこまでショックは受けてはいなかった。今のナルト
ショックで項垂れて、とぼとぼと朝食を食べに行くナルト。
﹁分かったってばよ⋮⋮﹂
きなさい﹂
﹁全く。ほら、いつまでも落ち込んでないで、さっさと朝ごはん食べて
!
﹂
ミナトは言われるがままに傍にあった醤油をナルトに渡し、ナルト
はそれを目玉焼きにかける。
﹁さて、私も食べよっと。頂きまーす
!
868
!
﹂
そしてクシナも食卓に加わり、家族のひと時が始まった。
﹂
﹁ねえミナト。ミナトはこれからどうするの
﹁どうするって⋮⋮忍の仕事のこと
?
﹂
聞いてねーってばよそんな話
らったんでしょ﹂
﹁え
ういうことだってばよ
父ちゃんがライバルってど
﹁そ。綱 手 様 が 退 任 し た 時 に、も う 一 度 火 影 に 就 任 す る っ て 話 を も
?
父ちゃんは里を守り、オレを守って死ん
﹂
そんな立派な忍がちょっと死んで生き返ったくらいで火
!
﹂
?
を知らない世代が増えれば、人は過去の戒めすら忘れ、再び争い出す
だが、それは永遠に続く訳ではない。戦争を知らない世代が、痛み
知らない世代が増えていくだろう。
ている。これからしばらくは、戦争もない時代が続き、そして戦争を
そう、それがミナトのやりたい事だ。今、世界は平和に向けて動い
﹁ああ。アカデミーの教師をしようと思ってね﹂
﹁やりたいこと
﹁それに、オレにはやりたい事もあるしね﹂
そこはまあ、ナルトにも複雑な心境があるのだ。
どっちなんだってばね⋮⋮﹂
﹁あんたはミナトが火影になってほしいのかなってほしくないのか、
影になれないなんておかしいってばよ
だんだ
﹁そんな事ねーってばよ
りは今を生きる人がやるべきさ﹂
﹁いや、その話は断るよ。オレは一度死んだ人間だからね。里の舵取
言い難いのだ。
が火影になるのは誇らしいが、火影を目指す一人の忍としては何とも
その話を初めて聞いたナルトは複雑な思いになる。息子として父
ろん、綱手が退任してからの話だが。
い。火影として再び就任するのに里としては異論はないのだ。もち
ミナトはまだ若く、そして戦争でも活躍した実力者であり名声も高
う話を持ち掛けられていた。
ミナトは里の上層部から四代目火影として再び就任しないか、とい
!
!
!
869
!?
!
かもしれない。
それを少しでも防ぎたく、ミナトはアカデミーの教師として子ども
達に様々な事を教えてやりたいのだ。
﹁そっか。うん、私は良いと思うわ。それに夫のやりたい事を応援す
るのも妻の役目だしね﹂
ミナトの想いを聞いたクシナはそれを了承し、ミナトを応援する事
にした。
﹁父ちゃんがやりたいならオレも反対はしないけどさ。⋮⋮これから
のアカデミー生はスゲー贅沢出来るってばよ﹂
そう、元火影が現役と同じ戦闘力を持ったままに、教師として忍候
補生を指導して行くのだ。これがどれほど凄まじい事か、理解出来な
いナルトではなかった。
だが、ナルトの驚愕はそれで終わらなかった。
﹁オレだけじゃないよ。二代目様もオレの意見に賛同してくれてね。
てて準備をする。
それを見ながらミナトとクシナは微笑み、そして幸せを噛み締めて
いた。
﹁こんな幸せなひと時が来るなんて、夢にも思っていなかったよ﹂
﹁え え ⋮⋮。ナ ル ト が 立 派 に な っ た 姿 を 見 れ た だ け で 満 足 だ っ た の
に。こうして家族で揃って暮らす事が出来るなんて⋮⋮本当に夢の
870
二代目様も一緒に教師をしてくれる様になったんだ﹂
﹁マ ジ か よ ⋮⋮ ど ん だ け だ よ。む し ろ 心 配 に な っ て き た っ て ば よ
⋮⋮﹂
二代目火影と四代目火影に教わる候補生達。今後の下忍に求めら
﹂
れる水準が高くなり過ぎないか、逆に心配するナルトであった。
﹁ご馳走様でした
い﹂
﹁ありがと母ちゃん
﹂
﹁はい、お粗末様。食器は置いといていいから、準備して行ってきなさ
!
食事を終えたナルトは、サスケ達との約束の時間に遅れないよう慌
!
ようよ﹂
﹁もしかして、これが無限月読の中だったりね﹂
﹁やめてってばね。縁起でもないんだから﹂
少々縁起でもない冗談を言いつつ、二人は笑い合う。
戦争が終わり、ヒルゼンの好意で一軒家を貰い、そして家族で揃っ
て暮らす。こんな平凡で、そして掛け替えのない幸せが手に入るなん
て、ミナトもクシナも夢にも思っていなかった。
いや、本来ならこれが当たり前だったのだ。黒ゼツの企みによって
多くの平穏が崩されたが、そうでなかったら、今の様に幸せな日々を
送っていたのだろう。
一度失ったからこそ、より今の幸せが理解出来る。皮肉だが、黒ゼ
ツの企みがミナト達にそれを実感させ、再び失わない様に心掛けさせ
ていた。
﹁ミナト⋮⋮愛してるわ﹂
!
﹁き、気をつけるってばね
◆
﹂
して、無収入のままではいられないのである。
きを、ミナトは教師になる為の手続きを。いつまでも一家の大黒柱と
に笑い合い、そしてそれぞれすべき事をし出した。クシナは家事の続
ナルトが出かけてしばらく無言となった二人。そして互いに同時
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
がらも、そういう方面に鈍いナルトはそのまま出かけて行く。
ナルトの声で、慌てて距離を離した。そんな両親をおかしく思いな
!
871
﹁オレもだよクシナ﹂
かつて失った幸せを噛み締める内に、二人の雰囲気が変化してい
﹂
く。そして徐々に互いの距離が近付いていき││
そんじゃ行ってきまーす
﹁よっしゃ
!
行ってらっしゃいナルト﹂
﹁あ、ああ
!
﹁お、待たせたってばよ
﹂
﹁ふん。まあ時間には間に合っているから許してやる﹂
待ち合わせの場所には既にサスケとサクラが待っていた。最後に
﹂
なったナルトだが、集合時間には遅れてはいない。
﹁それで、今日はどうするんだ
﹂
?
参加者は涙目である。
という目で見られたくないんだよ
﹁だが、いつまでも下忍のままではいられん
まで下忍なんだこいつ
﹂
オレは父さんに、いつ
そんな控えめに言っても化け物三人が、中忍試験に参加する。他の
とせるだろう。
いうか、ぶっちゃけ三人がその気になれば一国や二国くらい簡単に落
だが、この三人は上忍相手でも正直言って楽勝な実力者である。と
る。
格好がつかないので、中忍になりたいという気持ちは当然全員にあ
期で下忍である者はもういない。彼らだけが下忍のままだ。それは
ナルト・サスケ・サクラ。木ノ葉の第七班の三人は、未だ下忍だ。同
﹁まあ、な﹂
﹁⋮⋮それは、まあ﹂
﹁でもさ。今更中忍試験をオレ達が受けていいのか
る中忍試験を利用し、各国の関係をより良くする狙いもある。
忍試験となるだろう。そして、五大忍里の上役と五大国の大名が集ま
全ての里は同盟を組んでいる。今までと違いその規模は最大の中
そんな中、中忍試験を開催する話が五影会議で決定したのだ。
そう、戦争が終わり平和となり、既にある程度の時が流れている。
﹁あ、そうだったそうだった﹂
かどうかの話し合いでしょ﹂
﹁あんたね⋮⋮少しは話を聞いてなさいよ。今日は中忍試験を受ける
?
ガクもサスケを誰よりも誇り高く思っている。というか、結構親馬鹿
戦争で活躍し、世界を救った英雄の一人となったサスケだ。今はフ
れた事があるらしい。
それは暁が木ノ葉落としをする前の話なのだが、そういう目で見ら
!
!
872
!
?
なので昔からそういう節はあった。
だが、それを表に出すフガクではない。サスケは未だに下忍である
任
事を情けなく思われているのでは、と若干不安に感じているのだ。
﹂
﹁私だって中忍になりたいわ。だって⋮⋮給料が全然違うのよ
務だって碌なのが受けられないのよ
は中忍試験を諦めた下忍も多くいたという。
﹁そういやさ、ナルトってヒナタとどこまで進んでるの
怪しいわね、ねえサスケ
﹂
きゅ、急に何を言いだすんだよサクラちゃん
﹂
あるナルト達を一目見たいという理由が大半だった。なお、その中に
なかったからだ。そして、観客が増えた理由は、世界を救った英雄で
減った理由は至って単純だ。そんな化け物がいて合格する自信が
珍事が起こった。
間、中忍試験参加者が大幅に減り、そして観客は大幅に増えたという
余談だが、今期の中忍試験参加者にナルト達がいる事が判明した瞬
反対意見なく、ナルト達の中忍試験参加が決定した。
﹃異議なし﹄
いけど、中忍試験に参加ということで﹂
﹁⋮⋮そうだな。オレだって中忍になりてーし。今回の参加者には悪
いだろう。
のである。実力相応の給料が欲しいと思うのは何ら間違ってはいな
有していようが変わらない。例え三忍と謳われようと、下忍は下忍な
危険度と給料が全然違う。それは、例えサクラが上忍を上回る実力を
サクラの願望はある意味で当然の願望だ。下忍と中忍では任務の
!
﹁えーっと、その⋮⋮そ、そういうサクラちゃんこそサスケとどうなん
﹁じゃあどういう関係なのよ。教えなさいよ、うりうり﹂
﹁ひ、ヒナタとは、その、別にそういう関係じゃねーってばよ﹂
如としてナルトに恋話を持ち出した。
中忍試験の参加が確定し、特にやる事がなくなった所でサクラが突
﹁⋮⋮くだらねぇ﹂
君﹂
﹁あらー、どうして慌ててるのナルト∼
﹁いっ
?
873
!
!
?
!?
だってばよ
﹂
﹂
わ、私
﹁ぶはっ
﹁え
!
さ、サスケ君とは、その⋮⋮﹂
﹂
!
ろだけだった。
!!
﹁なあ、似合ってるかこれ
﹂
﹁ええ。とっても似合ってるわよオビト
﹂
綱手が火影の座から降り、新たな火影が就任したのである。
になっていた。
戦争終結から時は流れ、木ノ葉隠れの里はちょっとしたお祭り騒ぎ
◆
木ノ葉隠れは平和を謳歌していた。
である事を実感するナルト。
逃げたサスケを追いかけるサクラ。そしてそんな二人を見て、平和
﹁⋮⋮輪廻眼をあんな事に使う。平和だってばよ⋮⋮﹂
﹁あーん、サスケ君待ってよー
﹂
ら消えさる。その場に残されたのは、サスケと空間を入れ替えた石こ
沈黙に耐えかねたサスケは天手力を発動させてまでしてこの場か
﹁⋮⋮知るか
ナルトはサクラの追求から逃げられた事に安堵していた。
サスケは冷や汗を流しつつ、余計な事を言ったナルトを睨みつけ、
るように顔を赤らめながらチラチラとサスケを見る。
突如として巻き込まれたサスケは吹き出し、そしてサクラは期待す
?
!
つめる。
?
戦争で最後まで戦い抜き、ナルト達を導いた実績が認められたの
綱手の後任である六代目火影に選ばれたのはオビトだった。
﹁なあリン⋮⋮本当に、オレが火影になってもいいのかな
﹂
それに対してリンは笑顔で頷き、そしてじっくりとオビトの姿を見
けたオビトが、恥ずかしげにリンに尋ねる。
六代目火影の文字が描かれた衣装と火の文字が描かれた帽子を付
!
?
874
?
だ。そ れ だ け で は な い。常 日 頃 か ら 公 言 し て い る オ ビ ト の 夢。火 影
になって里の皆を守りたいというその夢を、今や木ノ葉隠れで知らな
い者は殆どいない。
そして、その公言が嘘でない事もまた、多くの民が理解していた。
そんなオビトだからこそ、火影として選ばれたのだ。火影にとって必
要な想いを持っているオビトだからこそ。
だが、当のオビトは自分が火影に選ばれて良かったのかと、今更な
がらに不安になっていた。
火影として木ノ葉隠れを守り、導く事が出来るのか。その不安をオ
ビトはリンにぶつけた。
﹁もう。ここに来てまで惚れた女相手に情けないこと言わないでよ﹂
﹁うう⋮⋮﹂
呆れる様に叱り付けてくるリンに、オビトは頭を下げる。
そんなオビトに対して、リンは苦笑しながら言う。
だ、だか
や、仕事の内容に変化は出るが、その根本はそのままなのだ。
﹂
﹁リン。ありがとう。オレは誰よりも立派な火影になる
ら⋮⋮﹂
﹁だから
!
875
﹁オビトの不安は私には分からないわ。だって、オビトなら火影にな
﹂
れるって信じてたから。オビトが木ノ葉を守れないなら、それは他の
誰にも無理よ。火影に選ばれるというのはそういう事でしょ
リンを真っ直ぐに見つめる。
それを理解したオビトは、今までとは違い自信に溢れた瞳になり、
影になると信じていたリンを信じられない事を意味する。
そしてオビトがその言葉を信じれないとしたら、それはオビトが火
そう言っているのだ。
自分を信じれないなら、自分を選んでくれた者達を信じろ。リンは
?
オレは今まで通り、木ノ葉の皆を守る
それは火影になっても同じだ﹂
﹁そうだな⋮⋮。分かった
為に努力する
!
そう、火影になったとしても、オビトのやる事に変わりはない。い
!
顔を赤くして口淀むオビトに対し、リンも顔を赤くしながらも意地
?
悪そうな笑みを浮かべて聞き返す。
オビトの次の言葉を理解しているリンだが、最後まで本人に言って
﹂
ほしいという乙女心だろう。けしてオビトを弄って楽しんでいる訳
ではない⋮⋮はずだ。
﹁だ、だから、オレと結婚してくれ
﹁いいわよ﹂
﹁もう、いいわよって言ったのよ。二度も言わせないでよ、恥ずかしい
それが理解出来ずに、オビトは呆けた様にリンを見つめる。
ビトだったが、その耳に入った言葉は了承の意味を持つ言葉だった。
いつもの様に告白して、いつもの様に振られる。そう思っていたオ
﹁⋮⋮はあ、やっぱりだめ⋮⋮え
﹂
て、それで心が動かされる事もある。人の心とはそういうものだ。
といってそれが叶うとは限らない。だが、何度も想いをぶつけられ
想いは言葉にしなければ上手く伝わらない。そして、伝わったから
なったのだ。
よって後押しされたのが切っ掛けで、事あるごとに告白するように
今までにも、オビトは幾度となくリンに告白してきた。アカネに
!
だって⋮⋮リンはカカシの事が⋮⋮﹂
じゃない﹂
﹁え
しら﹂
﹁ま、待ってくれ
オレが悪かったからそれだけは勘弁してくれ
﹂
!
を見てリンは内心で微笑む。
オビトの事を、どこか頼りない、守らなきゃいけない弟の様にリン
は感じていた。だが、オビトは成長するにつれ逞しくなり、背の高さ
もリンを大きく超え、今では誰もが認める忍に成長した。
もう弟の様には見れなくなったオビトを、それでも少し情けない所
を可愛いと感じる。これも惚れた弱みなのだろうとリンは思う。
カカシの事は今でも好きだ。だが、それは憧れに近い物になってい
た。常にストレートに感情をぶつけてくれるオビトに、リンも徐々に
876
?
乙女心を解していないオビトに呆れつつも、オビトが慌てて謝る姿
!
﹁はあ⋮⋮ここに来て他の男の名前を出すなんて。やっぱ止めようか
?
惹かれていたのだ。
﹁ちょ、ちょっと待ってくれ。も、もう一度やり直させてほしい⋮⋮。
リン。オレと結婚してください﹂
﹁うん。よろしくお願いします﹂
うちはオビトが六代目火影に就任した日。それは同時にオビトの
恋が成就した日となり、オビトの人生で最高の1日となった。
もっとも、リンとの間に娘が生まれた日によって、最高の1日は上
書きされてしまったのだが。良い事なので何も問題はないだろう。
﹁⋮⋮﹂
新たな門出を迎えた二人。そんな二人が互いに意識している中、気
付かれないよう二人を見守っていた隻眼の男性が一人、笑みを浮かべ
ながらその場から立ち去っていった。
◆
877
大きな事件もなく、平和を謳歌する木ノ葉隠れの里。その入り口の
あなた達を拒否する者は木ノ葉にはい
門に、数人の忍が集まっていた。
﹁どうしても行くのですか
柱間もまた、マダラと共に世界を旅する事にした。こうして蘇った
が無駄に緊張するやもしれんしな﹂
ノ葉にオレ達はいない方が良い。正直戦力が過剰過ぎるぞ。他の里
﹁マダラが行くのだ。オレも付き合おうと思ってな。それに、今の木
て、木ノ葉から旅立とうとしているのはマダラだけではなかった。
イズナの目で世界を見届ける。それが今のマダラの望みだ。そし
たい﹂
﹁世界は平和の道を進もうとしている。オレはそれをこの目で見届け
だが彼らは、マダラはその申し出に首を横に振って拒否した。
る。
カカシが、里を出て世界を旅しようとする者達を食い止めようとす
もう十分に英雄として活躍してくれた。休んでもいいはずだ﹂
ません。木ノ葉隠れで隠居しても咎める者もいません。あなた達は
?
のも何かの縁として、世界中を旅するというマダラの案に便乗したの
だ。
なお、木ノ葉隠れの戦力が過剰なのは今更である。例えマダラと柱
間が抜けたとしても、今の木ノ葉隠れにはそれに比類する忍が数人も
いるのだ。これだけでもう過剰過ぎるだろう。
そして、マダラと柱間が共にあるならば、当然もう一人もこの旅に
付き合うのであった。
﹁私がいなくてもあなた達なら大丈夫でしょう。でも、こいつらは私
がいないと何をするか分かりませんからね﹂
アカネもマダラ・柱間と同行を申し出たのだ。初代三忍による諸国
行脚である。道中彼らが悪党と出会わない事を祈る。悪党に対して
だが。
﹁何をしでかすか一番分からんのはアカネぞ⋮⋮﹂
﹁言うな柱間⋮⋮後で折檻されるても知らんぞ⋮⋮﹂
878
﹁聞こえてるからな二人とも。全く。さて、それでは木ノ葉を任せま
したよ皆﹂
﹁アカネ⋮⋮﹂
﹁ナ ル ト。あ な た な ら き っ と 火 影 に な れ ま す。そ の 時 は、お 祝 い に
戻ってきますね﹂
﹁安心しろアカネ。飛雷神の術は会得している。木ノ葉の情報はオレ
が逐一仕入れておこう﹂
そう、マダラは木ノ葉にてしばしの平和を謳歌していた時、旅の役
に立つだろうと飛雷神の術を会得していた。天才の面目躍如である。
﹁いいなぁ。私も飛雷神覚えたいなぁ⋮⋮﹂
﹂
﹁アカネは昔から時空間忍術が使えなかったからなぁ。これはマダラ
﹂
﹄
のあれに匹敵するアカネの弄りポイントぞ﹂
﹃はっ
﹁ぐはっ
余計な事を口走った柱間が二人から制裁を受ける。
﹂
﹁ぐぅぅ、もう穢土転生ではないのだ⋮⋮少しは加減せんか
﹁それくらいでお前が死ぬわけないだろうが
!
!
!
!
﹁そういう事だ﹂
蘇っても、三人の関係は相変わらずの様である。
アカネ達は戦争終結後、木ノ葉隠れの里にて他の忍と同じく、しば
しの平和を謳歌した。
特に柱間とマダラの二人は時代が流れた木ノ葉隠れを隅々まで見
て回り、そして安定している里を見て感動していた。
自分達が心血を注いで築き上げた物が、何十年と経っても存在し続
け、そればかりか大きく発展しているのだ。暁により一度は崩壊しか
けたが、人的損害は殆どなかった事もあり、すぐに復興して人々の活
気は戻った。
例えこれから先、何かあったとしても、きっと木ノ葉隠れは耐え抜
き、そして負けじと立ち向かえるだろう。二人はそれを確信したの
だ。だからこそ、こうして思い残す事なく旅に出る事が出来るのであ
る。
﹂
879
﹁おいアカネ。オレはまだお前に勝っていないんだ。だから必ず帰っ
て来い、いいな﹂
﹁え え。輪 廻 眼 を 開 眼 し た サ ス ケ と 勝 負 し て み た か っ た で す し ね。
帰って来た時は勝負と行きましょう﹂
ああ言いながらも、サスケは無事に帰って来いとアカネに伝えてい
るのだ。サスケのその不器用な言葉にアカネは笑顔で返す。
まあ、分かってるわよ。馬鹿ばっ
﹁サクラ。二人をよろしくお願いしますよ﹂
﹁なんか私のハードル高くない
もいいのか
﹁さて、そろそろ行くとするか。⋮⋮アカネ、今の両親に挨拶しなくて
を噤んだ。正しい判断である。
だろう。なお、柱間とマダラはこれ以上アカネを刺激しないように口
この場に扉間がいれば、お前が一番の馬鹿だろうがと叫んでいた事
が大変でして﹂
﹁流石、サクラは分かっていますね。この馬鹿二人も中々に止めるの
かりする男どもを止めるのは、いい女の役目だしね﹂
?
﹁ええ。昨夜ゆっくりと語り合いました⋮⋮。それに、私特製の消え
?
ない影分身を残していますので、一緒には居られます﹂
﹁⋮⋮そうか﹂
アカネの斜め上の回答に、要らぬ心配だったとマダラはため息を吐
いた。影分身の癖に消えないとか、アカネに常識を求めてはいけな
い。
まあ、流石のアカネも消えない影分身を作るには、大量のチャクラ
﹂
と特別な術式を描いた符が必要だとは記しておこう。そうポンポン
と増産できる代物ではないのだ。
﹁では、行くか﹂
﹁うむ。未知の世界を知るのは中々に楽しみぞ
﹁美味しい食べ物はあるかなぁ﹂
そうして初代三忍達は、思い思いの言葉を口にしながら楽しげに木
ノ葉から旅立って行く。
それを見送りながら、ナルトがぽつりと呟いた。
﹁行ったってばよ⋮⋮﹂
﹁ああ﹂
﹁そうね⋮⋮﹂
﹁もう、見えなくなったな﹂
ナルトの呟きに続けて、サスケも、サクラも、そしてカカシも呟く。
る
﹂
た様だ。地獄から解放された彼らは、まさに真の平和を手に入れたの
だった。
なお、この会話は遠く離れたアカネの白眼によって、読唇術にて読
880
!
そこには、アカネという心強い仲間が離れていく事に対する悲しさ
﹂
﹂
﹂
と、そしてそれ以上の││
﹁よっしゃー
﹁ようやく、ようやく
﹁解放されたのよ私たち
!
﹁ああ、これで地獄の修行に巻き込んだ事をオビトに愚痴られなくな
!
!!
それ以上の、喜びが籠められていた。よほどアカネの修行が辛かっ
!!
まれていた。アカネが木ノ葉に帰って来た時、ナルト達は更なる地獄
を体験する事になるのだが⋮⋮今の彼らにそれを知る由はなかった。
◆
うずまきナルト
紆余曲折を経て日向ヒナタと結ばれる。その後はヒナタとの間に
二児を儲け、幸せな家庭を築く。
オビトが火影を退任後に七代目火影として選ばれる。火影として
忙しい日々を送るが、多くの仲間の助けもあり、どうにか家庭と火影
を両立させる事に成功。
九 尾 と 六 道 仙 術 を 使 い こ な す 最 強 の 忍 の 一 人 と し て 数 え ら れ る。
だが、六道仙術自体は強すぎる為に、殆ど使用する事はなかった。使
用例としては対アカネ戦が主である。
うちはサスケ
結婚したナルトを見て焦って迫ってきたサクラの愛に根負けし、サ
クラと結婚する。二児の父となる。子どもは一人で十分の様だった
が、二人目が生まれたナルトに負けじとサクラに二人目を仕込んだ。
ナルトが火影に就任したのを切っ掛けに、火影の右腕となる。口喧
嘩をしつつもナルトを支え続けた。おかげてナルトの負担は減り、家
族との時間が取れたようである。
輪廻写輪眼という、輪廻眼と写輪眼の二つの瞳力を同時に扱える稀
有な存在。その力はナルトと完全に互角であり、最強の忍として数え
られる。だが、その全力を出すのは対アカネ戦くらいである。
春野サクラ
ナルトとヒナタの幸せそうな結婚式を見て、サスケへのアタックを
加速させた。そのおかげか、念願叶ってサスケと結婚に至る。なお、
881
いのにかなり勝ち誇ったらしい。
結婚後はうちはの性を名乗り、サスケとの間に娘と息子の二児を授
かる。忙しい夫を支える良き妻となった。だが、たまに家を壊すほど
の怪力を繰り出す事もある。
三代目三忍として正式に名乗る事を許された忍。その医療忍術に
右に出る者は少なく、生涯に渡って多くの患者の命を救う事になる。
日向ヒナタ
かつてからの憧れであったナルトとついにゴールイン。幸せな家
庭を築き上げた。長男と長女を授かり、良き妻として夫を支え、良き
母として子どもたちと接する。
アカネの正体を知った後も、変わらずアカネを姉の様に慕ってい
た。
犬塚キバ
アカネの地獄の修行を乗り越えた事で、犬塚一族最強の忍となる。
火影にはなれなかったが、それでも多くの忍から尊敬される程の実力
者となった。
油女シノ
アカネの地獄の修行を乗り越えた事で、木ノ葉でも屈指の体術の使
い手となる。なお、当然油女一族秘伝の忍術も巧みに使いこなす。
その高い実力を買われ、扉間にアカデミーの教師としてスカウトさ
れ、それを承諾。教師として多くの忍を育てて行く。なお、存在感の
薄さは健在である。
奈良シカマル
その高い知能指数と知識を持ち、火影となったナルトの相談役とし
てナルトを支えていく。恐らく一番里に貢献した忍と言える。だが、
面倒くさがり屋な所は変わらない。
かねてから怪しい関係であった砂のテマリと結婚。一児を授かる。
882
秋道チョウジ
ついにデブでも構わないというマニア⋮⋮もとい、体型を気にしな
い女性を発見。その女性、雲隠れの忍であったカルイと結婚し、長女
を授かる。
秋道秘伝の忍術を操り、高い実力を持つ忍として木ノ葉を支えてい
く。
山中いの
サクラがサスケをゲットしたのを勝ち誇った事に怒り心頭になり、
意地でもイケメンをゲットしてやると里を奔放する。そして哀れな
犠牲者⋮⋮もとい、いのの心を射止めた一人のイケメン暗部と結ばれ
た。
結婚後は長男を授かり、忍の道から離れて実家の花屋を継ぐ。
日向ネジ
アカネの正体を知った後、アカネに挑む事に空しさを感じる。そし
てヒナタも結婚した事で守る必要がなくなり、生きがいをなくす。
そこでヒアシがネジをハナビ││ヒナタの妹││の護衛に任命す
る。新たな生きがいを得たネジは懸命にハナビを守り、そしてその心
を射止めてしまう。この時ネジ22歳、ハナビ16歳であった。ヒア
シにボッコボコにされながらもハナビとの結婚を願い、どうにか結婚
を許された。
日向の長となったハナビを支えつつ、火影の左腕にも選ばれた為に
火影をサポートするという忙しい日々を送る。
ロック・リー
尊敬するガイに追いつけるよう、パワー全開で今も青春を送る。サ
クラが結婚したのでその恋を諦める。後に一人の女性と恋愛し、結
婚。一人息子を得た。
883
テンテン
原作と変わらず忍具店を営むが、原作と違い六道の宝具は得ていな
い。
波風ミナト
アカデミーの教師としてその腕を振るう。その整った顔と忍とし
ての類稀なる腕から女性候補生に圧倒的な人気を誇る。プレゼント
を貰うと捨てる事も出来ず、持ち帰ってクシナによく怒られる。
多くの候補生を優秀な忍へと育て、慕われている。実はナルトが波
風性を名乗ってくれない事を残念に思っている。
うずまきクシナ
ナルトと家族で暮らし出し、ようやく母親として振舞える事に幸せ
を感じ、少々教育ママ的になる。
新しい生き方に生きがいを感じる夫を支えつつ、新しい子どもをお
ねだりしたりする。ナルトが兄になるのはそう遠くない未来であっ
た。
日向ソウ
オリジナルキャラクター。アカネの父。
戦争終結後、世界を見て回るというアカネの意思を尊重し、アカネ
を見送る。もっとも、影分身のアカネがいたので寂しくはなかった
が。
立派に巣立った子どもを見て、妻と共に二人目を欲しがる。アカネ
が里帰りした時に二十歳離れた弟を見せて愕然とさせた。
日向ホノカ
オリジナルキャラクター。アカネの母。
日向ソウの項を参照。
日向ヒアシ
884
ナルトがヒナタを託すに相応しい人物だと認め、二人の結婚を許
す。そして日向の後継者としてハナビをより厳しく鍛えていくが、そ
のハナビがあろう事か護衛役であったネジと結婚したいと言い出す。
これにはお父さんもびっくりして八卦六十四掌をネジに叩きこんだ
ほどであった。
しばらく機嫌は直らなかったが、ネジとヒザシの土下座、そしてハ
ナビの懇願により二人の結婚を許す。
日向ヒザシ
ネジから宗家の跡取りと結婚したいという話を聞き、父として息子
の為に命懸けでヒアシを説得する。
特にそれらの影響で兄弟の仲が悪くなるということもなく、たまに
二人で飲んで愚痴を聞いたりしている。
日向ヒルマ
ヒアシとヒザシの父。原作には登場しているが、名前がない為にオ
リジナルの名前を与えられた。
平和な世界を見て、日向も変わるべきかと少しずつ柔らかくなる。
後にナルトの提案である日向一族の掟変更に賛成し、掟を変更する助
力をする。
うちはフガク
イタチに刑務部隊隊長の座を譲った後、立派になった二人の息子を
残された片目に刻みつつ、二人の活躍を肴に酒を飲む事を楽しみにし
ながら生きる。
親馬鹿だが、それを息子達には悟らせないように努力する。だが、
イタチには気付かれていた模様。
うちはミコト
蘇ったクシナと驚愕の再会を果たし、そしてそれを喜んだ。今では
先輩母として色々とクシナに教えている。だが、クシナの若さを羨ま
885
しく思っていたりもする。
うちはイタチ
父の跡を継ぎ、刑務部隊隊長に就任する。それを親の七光りだと言
うものは一人もおらず、多くの者から尊敬される。ナルト達と違い目
立った活躍は少ないが、最も素晴らしい忍の一人として謳われた。
サスケが結婚した後もしばらく独身として過ごしていたが、親友で
あるシスイの紹介で出会った女性と付き合い始め、時間を掛けて結婚
に至る。
うちはシスイ
戦争終結後、別天神があまりに有名になり、別天神の力を権力者が
恐れる事を自ら示唆して封印する。その封印は五影会談にて行われ、
五影全ての承認がなければ使用出来ない様にされた。
その後は以前から付き合いのあった日向の分家の女性と結婚。う
ちはと日向の仲をより深く保つ役目を果たす。イタチと並び、最も素
晴らしい忍として称えられる。
自来也
綱手の火影退任を祝う酒の席で戯れにした告白が綱手に受け入れ
られ、放心している間にあれよあれよと結婚していた。
何が起こったのか自来也を以ってしても理解出来なかった。幻術
だとか無限月読だとか、そんなチャチなもんじゃなく、もっと恐ろし
いものの片鱗を││ここからは先は読めなくなっているようだ。と
もかく、熟年結婚だったが互いの仲に問題はなく、喧嘩をしながらも
幸せな日々を過ごした。
ナルトを孫の様に可愛がり、その子どもを更に可愛がった。
綱手
火影退任後、自来也の想いを受け入れて結婚する。高齢だったが年
齢を二十代まで操れる綱手には何の問題もなく、三人もの子どもを産
886
んだ。
ナルトを可愛がり、そしてナルトの家族と本当の家族の様に付き合
う様になる。
大蛇丸
イザナミによって改心するが、罪は罪。罰は受けなければならない
が、戦争終結の一助を担った事により大きく軽減される。
他にも技術提供などをする事で刑もあってないようなものとなり、
悠々自適に研究する日々を送る。両親に会いたいという夢は変わら
ず、次は転生を繰り返すアカネの秘術を開発するべく研究に力を注い
でいる様だ。
はたけカカシ
火 影 と な っ た オ ビ ト の 良 き 相 談 役 と し て 共 に 木 ノ 葉 の 為 に 働 く。
オビトが火影を退任した後も、その妻であるリン共々に長きに渡る付
き合いをする。
写輪眼はなくなったが、修行によって五影に匹敵する実力は有して
いる実力者である。六道仙術にて隻眼を再生する提案をナルトから
受けたが、あえてそれを断った。
なお、一楽というラーメン屋の一人娘であるアヤメという女性と結
婚した。
うちはオビト
うちは一族で初の火影に就任したとして、一族ではマダラやサスケ
と人気を分け合う程に名高くなる。兼ねてからの目標であった火影
となり、今まで以上に里の為に貢献した。
両目の万華鏡を得て、神威という万華鏡をして強すぎると言える瞳
術を操り、歴代でも最強と名高い火影と言われる。ナルトが火影と
なった今でも、どちらが強いが何度も議論された事がある。
愛妻家として知られ、妻には頭が上がらない事も広く知られてい
る。そういった点も含め、里の多くから慕われた良き火影となった。
887
野原リン
カカシに恋をしていたが、オビトの情熱的な愛に押されて彼になび
く。オビトが火影となった日を記念に結婚を受け入れた。
結婚後は子どもを二人儲け、幸せな家庭を築く。なお、カカシが別
の女性と結婚した時は複雑な想いを抱いたという。
マイト・ガイ
リー共々変わらぬ青春パワーで熱く過ごしていく。その剛拳は右
に並ぶ者がいないとまで言われ、史上唯一八門遁甲の第七門をほぼ
ノーリスクで解放する事に成功する。
ヤマト
ある意味で木ノ葉最大の英雄。彼がいなければ里の復興は五年は
掛かったとまで言われている。
戦争終結後は忍として様々な仕事をこなす。そのオールマイティ
さにより綱手、オビト、ナルトと三代の火影に重宝された苦労人。
薬師カブト
マザーや孤児院の家族と共に孤児院を切り盛りする。戦争や何ら
かの理由で家族を失った孤児に己がマザーから受けた愛を分け与え
ていった。
薬師ノノウ
大蛇丸から投与された薬物の影響がなくなり、元の健常な体に戻っ
た後は以前と同じ様に孤児院にて多くの孤児たちに愛を与えていっ
た。
猿飛アスマ
戦 争 終 結 直 後 に 婚 約 者 で あ っ た 紅 に 結 婚 を 申 し 込 む。全 て が 終
わったら結婚しようと戦争前に伝えていたらしい。死亡フラグを乗
888
り越えて幸せな家庭を得た。
夕日紅
妊娠していた為に戦争には参加せず、木ノ葉でアスマや仲間の勝利
と無事を祈っていた。
無事に帰還したアスマとすぐに結婚式を挙げ、長女と長男次男の三
人の子どもを授かり幸せに過ごす。
猿飛ヒルゼン
戦争終結後、里を若い者に任せて忍世界から引退。ダンゾウと共に
平和な世界でのんびりと過ごした。
志村ダンゾウ
戦争終結後、里にはもう自分は必要ないと考え引退。ヒルゼンと
ゆっくり過ごしたり、尊敬する師である扉間と共に語り合ったりして
平和を謳歌する。
水戸門ホムラ
ヒルゼン達同様に引退した後は平穏に過ごす。
うたたねコハル
ヒルゼン達同様に引退した後は平穏に過ごす。
猿飛木ノ葉丸
三代目火影の孫として見られる日々を嫌っていたが、ナルトによっ
てそのコンプレックスを払拭された少年。故にナルトを尊敬してい
る。
戦争終結後にナルトと同じ中忍試験を受け、下忍から中忍となる。
その後も修行を続け、立派な上忍となって多くの下忍を育てていっ
た。
889
奈良シカク
その明晰な頭脳を以って、木ノ葉に大きく貢献する。息子の成長を
見守った後は引退し、好きな将棋を打ちながらのんびり過ごす。な
お、幾度となくアカネが挑んできたが、全て返り討ちにしている。
千手扉間
平和な世界で己の存在意義を問うていた時に、ミナトに誘われたの
を切っ掛けにアカデミーの教師として働く事を決める。
その手腕は今でも衰えておらず、多くの優秀な下忍を生み出した。
彼の教え子の多くはリアリストになったが、その根底には木ノ葉を想
う気持ちが確かに流れていた。
我愛羅
風影として立派に砂隠れの里を率い、火影となったナルトの良き理
解者となる。
チヨバア
平和になった世界を、長生きはするものだと感慨深く見守り、更に
長生きし続ける。
明美メイ
水影を退任し、旧五影の集いにて綱手の結婚を知る。唯一の未婚者
という事実に焦りを抱き、新たな水影にアプローチをする様になる。
オオノキ
戦争を通じて凝り固まった思考を柔らかくし、戦争終結後は他里と
の同盟に力を入れる。日向アカネの影に怯えていたという噂もある
が、所詮は噂である。
エー
雷影を退任した後も、その力を衰えさせる事無く修行に励む。目指
890
すは打倒日向アカネだという。それが叶ったかどうかは定かではな
いとだけは記しておこう。
ビー
元の鞘に収まった八尾と共に、修行したりラップを刻んだりと自由
に生きる。
二位ユギト
元二尾の人柱力。人柱力の立場から解放され、新たな人生を歩む。
︶で会話をしたりもする。
もっとも、二尾である又旅との仲は元々悪くなく、良く二人︵一人と
一匹
やぐら
元三尾の人柱力。操られていたとはいえ、霧隠れを混乱に陥れた事
に責任を感じ、罪を償う為に里の為に尽力する。
老紫
元四尾の人柱力。オオノキよりも頑固と言われていたが、ナルトと
尾獣達の対話によってそれも若干柔らかくなる。人柱力の立場から
解放されてからは一人の忍として岩隠れに貢献する。
ハン
元 五 尾 の 人 柱 力。人 柱 力 で あ っ た 頃 は 里 の 者 に 疎 外 さ れ て い た。
人柱力の立場から解放され、忍界が大きく変わった事もあり、里の者
からの目も変わって来た事からそれを受け入れ、一人の忍として里の
為に働く様になる。
ウタカタ
元六尾の人柱力。一度は霧隠れから離反したが、再び里に戻り和
解。忍の師として多くの弟子を育てる。
891
?
フウ
元七尾の人柱力。人柱力であった頃は里に庇護され、あまり外の世
界を見る事は出来ず、友達もいなかった。だが、人柱力の立場から解
放されたのを切っ掛けに、世界中を旅して様々な物を見聞きし、多く
の友達を作る事に成功する。
八尾と九尾を除く尾獣達
各々が故郷や好きな土地にて自由に生きる。ナルトを介する事で
離れていてもそれぞれが会話をする事ができる。かつての様に人々
に災厄を振りまく事もなくなり、中には人を助け感謝される者もい
た。
◆
けている。お前ちゃんと飯食ってるのか
の顔を見つめていた。
﹂
だが、それ以上に混乱している長門は何も言えずに、ただじっと弥彦
記憶にある姿とは変わり果てた長門に弥彦は戸惑っているようだ。
?
892
カグヤが封印され、イズナが輪廻天生を行った同時刻。雨隠れの里
のある場所にて異変が起こっていた。
﹁ここは⋮⋮おれは、死んだはずでは⋮⋮﹂
紙で作られた花に囲まれていた長門がゆっくりと体を起こす。そ
して信じられないように自身の体を見つめた。
確かに自分は死んだはずだ。あの時、輪廻天生にて木ノ葉の忍を蘇
らせ、ナルトに全てを託して死んだはず。
﹂
ど う し た ん だ そ の 髪 の 毛。
そう思い悩む長門。だが、その悩みが吹き飛ぶ出来事が長門の隣で
起こった。
や、弥彦⋮⋮
﹁う、うう⋮⋮﹂
﹁
﹁こ、こ こ は ⋮⋮ 長 門 長 門 か お 前
?
?
あんなに赤かった髪が真っ白になってるじゃないか。それに、頬もこ
?
!?
﹁どうしたんだよお前
庇って⋮⋮﹂
﹂
﹁弥彦
﹂
⋮⋮いや、おかしいな。オレは確かお前を
いきなり抱きつくなよ
!
伝えていた。
!
まるで⋮⋮。そうだ、小南は
小南はどこだ
﹂
!?
﹁⋮⋮ああ
﹂
﹁なに言ってるんだ。家族が助け合うのは当然だろう。ほら、行くぞ﹂
笑って答える。
それを弥彦が支え助けた。思わず礼を告げる長門に対し、弥彦は
﹁ああ。ありがとう弥彦﹂
﹁おっと。大丈夫か長門﹂
よって歩行が困難になっている長門は、その場で倒れそうになる。
長門は立ち上がり小南を探そうとする。だが、足に受けた古傷に
た家族だ。その一人がこの場にいない。
弥彦と小南と長門。この3人は小さな頃から困難を乗り越えてき
としている時、長門が小南を思い出した。
弥彦が自分の死を思い出し、そして二人で現状の認識を確認しよう
?
﹁分からない。オレも死んだ。だが、こうして生きている⋮⋮これは
⋮⋮﹂
様だな。オレは確かに死んだはず⋮⋮それが、どうして生きている
﹁生き返った⋮⋮。そう、か。そうだな。どうやら寝ぼけすぎていた
﹁生き返った⋮⋮生き返ったのか⋮⋮
﹂
も弥彦の体を抱きしめる。そこにあった感触は夢ではないと長門に
長門は、これが夢でないか、幻術でないかと疑心暗鬼になりながら
!
?
な、何だよ長門
﹁うお
!
やがて二人は自分達が眠っていた傍に、大きな樹とその樹にぶら下
は、三人が揃った時だ。
長門は泣きそうになる己を抑え、もう一人の家族を探す。泣く時
いる。
そう、家族だ。自分を助けてくれた。助け合ってきた家族がここに
!
893
!
がる人間大の繭があるのを見つけた。
﹂
﹂
そして長門がその感知力を以ってして、その繭の中に小南がいる事
に気付く。
﹁あの中に小南がいる⋮⋮
﹁そうか⋮⋮なら、絶対に助け出すぞ
解けていく。
﹂
﹁⋮⋮ん﹂
﹁小南
﹁いたっ
な、何をするの弥彦
﹂
そんな小南に対し、弥彦がその額にでこぴんを放った。
のだ。この現実を夢と間違えるのも仕方ないだろう。
その夢から覚めて、最初に目にしたのが死んだはずの弥彦と長門な
彦と長門と共に過ごすという、幸せな夢を。
先ほどまで、無限月読の中で小南は幸せな夢を見ていた。そう、弥
も⋮⋮﹂
﹁弥彦⋮⋮長門⋮⋮ああ、夢でもいい。二人に会えるなら、これが夢で
瞳を開ける。そして、夢の続きを見た。
無限月読から解放された小南は、懐かしい声に誘われてゆっくりと
﹁無事かおい
﹂
同時に、小南を包んでいた繭が地面に落ち、そして繭がゆっくりと
た。
ナルトとサスケが無限月読を解術する印を組み、無限月読は解除され
二 人 は 小 南 救 出 の 為 に 繭 や 大 樹 を 切 り 裂 こ う と す る。そ の 時 だ。
!
!
!
いくらいだ﹂
﹂
﹁弥彦が言っても説得力がないな⋮⋮さっき寝ぼけてたのは誰だ
﹁う、うるさいな長門
?
先ほどまでの幸せな夢と違い、どこか現実感がある。いや、現実な
く。
そんな二人を見つめながら、小南は徐々に現状の認識を改めてい
図星を指されてうろたえる弥彦に、それを見て笑う長門。
!
﹂
﹁お前が寝ぼけているから起こしてやったんだろ。感謝してもらいた
!
894
!
!
の
でも、弥彦と長門が生きている⋮⋮。
混乱する小南に、弥彦も長門も互いに苦笑し、そして小南に優しく
語りかけた。
﹂
﹁現実だよ。夢なんかじゃない。オレ達にも何が起こったか分かって
いないんだけどな﹂
﹁そうだ⋮⋮これは夢じゃない。夢じゃ、ないんだ⋮⋮
﹁長門⋮⋮じゃあ、この弥彦も⋮⋮﹂
天道ではなく本物の弥彦。
長門が生きているのも夢ではなく、弥彦もまた、長門が操っている
!
それを理解するのに小南はしばしの時間を要し、そして、理解した
長門⋮⋮
﹂
瞬間に二人に抱きついた。
﹁弥彦⋮⋮
!
﹁いいえ。私は私の意思であなたに賛同したのよ。だから、罪はあな
めないでやってくれ﹂
﹁すまない⋮⋮だが、小南はオレの命令を聞いてただけだ。小南は責
﹁お前ら。オレが死んでからそんな事をしてたのか⋮⋮﹂
らないという結果に終わった。
そして、蘇った事も、小南を捕らえていた繭に関しても、結局分か
の話を小南から聞く。
弥彦は自分が死んだ後の話を二人から聞き、長門も自分が死んだ後
しあう。
三人が泣き止み落ち着いてから、長門達は各々の状況について確認
て、三人でしばらく泣き続けた。
そんな二人に釣られ、弥彦も徐々にその涙腺を緩めていった。そし
び涙を流す。
二人に抱きついて泣きじゃくる小南に、長門もまた三人の再会に喜
⋮⋮﹂
﹁な、何 だ よ お 前 ら ⋮⋮ 泣 く な よ。オ レ だ っ て 泣 き た く な る だ ろ う
﹁ああ⋮⋮﹂
!
ただけにはないわ﹂
895
?
自身が死んだ後の長門達の行動を聞いた弥彦。その声は多少の非
難の意思が入っていた。
だが、同時に自分が彼らの立場だった場合も考える。
﹁いや⋮⋮オレだって逆の立場だったら⋮⋮お前らが死んだら、きっ
とそうしてたかもな。だから、気にすんなよ。大事なのはこれからだ
ろ﹂
﹁弥彦⋮⋮﹂
﹁大事なのはこれから、か⋮⋮﹂
弥彦の言葉に、やはり自分達のリーダーは弥彦だと二人は思う。
単純な強さではなく、人を引っ張る力を持つ者。それが弥彦なのだ
と。
﹁とりあえず自来也先生の所に行こうぜ。自来也先生ならオレ達がど
うなったか、世界がどうなってるかきっと教えてくれるさ﹂
﹁そうだな⋮⋮自来也先生にも、ちゃんと謝りたいしな﹂
﹁そうね。迷惑ばかり掛けたものね﹂
そうして三人は自来也を訪ねて木ノ葉隠れの里へ赴くのであった。
◆
長門
自来也とナルトと再会し、そして己の過ちを深く謝罪する。自来也
は三人の復活を心底喜び、そして長門と小南を許した。自来也の懐の
広さに改めて師の偉大さを理解し、そして二度と間違えないように誓
う。
その後は罪を償う意味も籠めて、雨隠れの里と世界の平和の為に尽
力する。その傍には常に大切な家族の姿があった。
弥彦
長き眠りから復活し、家族と再会を果たす。自来也との再会では生
来の涙もろさから誰よりも泣いたという。
長門と小南と共に雨隠れの里と世界の平和の為に尽力する。後に
896
小南と結婚し、家族を増やした。
小南
長門と弥彦の復活を心から喜び、そして自来也とナルトに感謝し
た。
長門や弥彦と共に雨隠れの里と世界の平和の為に尽力する。そし
て、以前から心を寄せていた弥彦と結婚を果たす。
◆
アカネ達が木ノ葉から十分に離れた時。アカネがぼそりと呟いた。
﹁あいつら⋮⋮次に帰ってきたら覚えていろよ﹂
どうやら白眼でナルト達の会話を読み取った様だ。相変わらず無
駄に高性能な能力を無駄に使うアカネであった。
﹂
﹂
してアカネとして転生して更に生きた事に関してだ。つまり、ヒヨリ
以前の人生で積み重ねてきた年月は計算に加えられていない。知ら
ないのだから当然だ。
だが、アカネとしてはそれも含めて言われている様に感じた。千年
転生して若返ると、少しは年齢に合わせて精神も
以上生きてるのに子どもみたいなところがあるな、と言われて気がし
たのだ。
﹁う、うるさいな
!
897
﹁し か し、姿 は 変 わ っ た の に 中 身 は 変 わ ら ん な ア カ ネ は。昔 も そ う
やってオレ達の会話を覗いていただろう
﹁うっ﹂
﹁ううっ
ぽいなお前は﹂
﹁生きてきた年数でいえばオレ達よりも上なのに、誰よりも子どもっ
た。
とマダラの会話を盗み見て、そして二人と出会った経緯を持ってい
柱間に痛い所を突かれ、アカネが呻く。ヒヨリであった頃にも柱間
?
マダラの言葉の意味は、ヒヨリとして他の二人よりも長く生き、そ
!
変化するんだよ
﹁
﹂
﹂
﹂
そう言えばアカネよ。おぬしはもう日向の契約から外れ
ているのか
﹁⋮⋮ん
人の精神の影響が強いと思われる。
もっぽくなっていても仕方ない事なのだ。⋮⋮いや、流石にアカネ個
つまり、今の若く瑞々しい肉体を得たアカネの精神が、多少は子ど
神には恐らく差が出ているだろう。
体。同じ精神がその二つの肉体に入ったとして、数年もすればその精
若々しく気力に溢れた肉体と、老いて自由が利かなくなってきた肉
よっても変わってくるものだ。
計すると千年以上の年月を生きているのだが、精神とは肉体の変化に
アカネの言い訳もあながち嘘という訳ではない。全ての人生を合
!
﹁ん
ああ、あの契約ですか。ええ。日向ヒヨリはもう死んでいま
マダラがはっと目を見開いた。
柱間が突如として思い出したかの様にアカネに問い、それを聞いた
?
?
﹁ほう、そうかそうか
﹂
すからね。今の私には何の関係もありませんよ﹂
?
﹂
?
ヒヨリの時は契約のせいで結婚
!
ヒヨリが長となる事を認める代わりに兄と契約したその内容は二
事を見越し、全てを失う前に手を打ったのだ。
ヒヨリに契約を持ちかけた。このままではヒヨリが日向の長となる
その時、兄は長の座をヒヨリに奪われたのではなく、そうなる前に
なれなかった。
終わらすべくヒヨリがその座を得ようとした為に、兄は日向の長には
元々日向の長となる存在はヒヨリの兄であった。だが、戦国の世を
契約により、結婚する事を禁じられていた。
そう、日向ヒヨリは日向宗家との、正確にはヒヨリの兄と交わした
も出来なかったのだろう
﹁いやぁ、アカネも大変だったな
それを憎々しげに睨みながらも、マダラは何も言えなかった。
アカネの答えを聞いた柱間はニヤニヤしながらマダラを見る。
!
898
!?
つ。
一つは次代の長に兄の子どもを選ぶ事。そしてもう一つが、ヒヨリ
の結婚と子を残す事を禁じる事であった。
ヒヨリはそのどちらも飲んだ。ヒヨリにとって大事なのは今であ
り、未来の長に兄の血が選ばれようと、自身の血が絶えようと、それ
はどうでも良い事だったのだ。
もう
だが、一人だけその契約が多大な障害となった者がいたりする。
﹁私は気にしてないんですけどね﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁ほう、そうか。だが、いいかげん結婚するつもりはないのか
﹂
ろう。柱間とマダラはそう直感した。
﹁では、結婚するとしたらどんな男がいい
﹂
うか。多分アカネが自分から積極的に結婚に向けて動く事はないだ
今は、と言ってるが、ではいつになったら結婚するつもりなのだろ
いですね﹂
に、今はお前達と一緒にいる方が楽しいから、結婚とかは考えられな
﹁一つや二つって⋮⋮そういうものじゃないでしょ、結婚って。それ
結婚もいいものぞ
契約に縛られていないなら結婚の一つや二つすればいいではないか。
?
かな﹂
﹃やっぱりお前結婚する気ないだろ
﹄
﹂
私よりも強い人を求めて何が悪い
アカネの答えに柱間もマダラも異口同音に叫んだ。
﹁な、何でですか
﹁お前よりも強い奴がそこらにいてたまるかぁぁぁ
﹂
﹁自分の強さをちゃんと理解してんのかこの脳タリンがぁぁ
﹂
﹂
﹁はあ⋮⋮優しい人がいいですね。あと⋮⋮私より強ければなお良し
ンボにしていた。
アカネは妙に思いながらもその問いに答えていく。マダラは耳をダ
マダラにとっては危険球とも言える言葉を投げ掛ける柱間に対し、
?
!
﹂
﹁そんなの世の男が私よりも弱いのが悪い
﹁この世の男は全員悪いってことぞそれ
!?
!!
!
!
!?
899
?
!
﹁この馬鹿女に世の常識を叩きこみたい⋮⋮
﹂
﹂
!
﹄
﹂
少々お灸をす
蘇って新たに得た力をお前で試してやろうぞ
!
輪廻眼の力も試したかったところだ
丁度いい
﹁うるさい黙れぶっとばすぞ
﹁おお
﹂
﹃ぶっ殺す
えてやるぞこの馬鹿が
﹁そうだな
!
アカネと幾度となく勝負し、幾度となく敗北し、そしてとうとう勝
めるチートっぷりを発揮。世界最強の忍の一人。
眼の交換という史上初の行為が原因か、時空を操作する瞳力にも目覚
イズナの輪廻眼を移植した事でその固有瞳術も得る。しかも、輪廻
るう。
報や大筒木一族の情報を得て、その対処の為に輪廻眼の力を存分に振
イズナの目と共に世界中を見て回る。そしてその中でカグヤの情
うちはマダラ
やって見せた。世界最強の忍の一人。
める。そしてマダラとの力の差を再び互角へと持っていく離れ業を
蘇った直後に六道仙人と接した為か、しばらくして六道仙術に目覚
た。
トに巻き込まれながらも、三人の力でそれを乗り越えて楽しく過ごし
マダラとアカネと共に世界中を旅する。様々な事件やアクシデン
千手柱間
◆
中を旅して回ったという。
犯人に思い至った者達は全員が頭を抱えるが、当人達は楽しく世界
う摩訶不思議な事件が起きた。
その日、木ノ葉の外れの森が消滅し、そして翌日には元に戻るとい
!
!
ちを拾った。
900
!
!
!
!
日向アカネ
最大の友である二人と一緒に楽しく世界中を旅した。道中のハプ
ニングも楽しさを増すスパイスである。
蘇って更に強くなる二人を嬉しく思い、自身も更なる修行に励ん
だ。も う ゴ ー ル し て も い い ん で す よ と は 誰 の 言 葉 か。世 界 最 強
の忍にして、世界最強の武人。
マダラと柱間が寿命を迎えると、木ノ葉にて隠居してゆっくりと暮
ら し た。そ し て、里 と 世 界 の 平 和 を 噛 み 締 め て 寿 命 を 迎 え る。そ の
後、アカネの魂がどこに向かったのか、それを知る者は誰もいない。
⋮⋮この世界では、だったが。
∼Fin∼
901
?
NARUTO編おまけ││THE LAST││
第四次忍界大戦から二年の年月が流れ、世界は平和を謳歌し続けて
いた。それは木の葉隠れの里も変わらない。
そんな木ノ葉隠れは今、いつもよりも若干陽気な雰囲気に溢れてい
た。その理由は、木ノ葉隠れの、いや、世界の英雄であるうずまきナ
ルトと日向ヒナタの結婚式が近日中に挙げられる事が判明したから
である。
そのおめでたい話に便乗する者は多く、記念としてうずまき一族の
印が入った饅頭を売り出したり、螺旋丸キーホルダーなる商品を売り
出したりと、木ノ葉隠れはちょっとしたお祭り状態になっていたの
だ。もっとも、来月からは本当のお祭りである輪廻祭りが開催される
おおごと
のだが、騒げる理由は多いに越した事はないのである。
結婚とかす
﹂
!
太った体型でもいいという女性を見つける宣言といい、相変わらず
ないみたいだな﹂
﹁お前は彼女見つける努力をする前に痩せる努力を⋮⋮するつもりは
スピードを落とさずにそう話す。
結婚が面倒だと言う友人に対し、チョウジは焼肉を食べる手と口の
だ。絶対ボクの体型でもいいって言う彼女を見つけてみせる
﹁シカマルは相変わらずだね。ボクは今度雲隠れの忍と合コンするん
?
902
﹁しっかしお前の結婚がここまで大事になるなんざ、アカデミー時代
だと思ってもみなかったぜ﹂
結婚の前祝いという名目で、ナルトは友人たちと焼肉店で楽しく食
べていた。ちなみに男のみの参加である。
そんな中、シカマルは昔を思い出しつつナルトとアカデミー時代の
思い出を語り合う。
どうなってんだ
﹁オレだって思ってもいなかったってばよ。そういやシカマルも我愛
﹂
羅のねーちゃんと仲いいんだろ
んのか
?
﹁めんどくせー⋮⋮オレは一生独身でいいぜ﹂
?
の食欲といい、完全に痩せずに彼女を見つけるつもりの様である。あ
る意味男らしい宣言と言えよう。
﹁しかし最近は有名どころの結婚ラッシュだな。この前は綱手様と自
﹂
来也様が、その前には六代目就任とほぼ同時に火影様とリンさんが結
婚してるしな﹂
﹁だなー。サクラちゃんもサスケを狙ってるし、次はサスケかもな
﹁おい、やめろ縁起でもねー⋮⋮﹂
﹃お前は一生結婚しない気か
﹄
までは結婚なんて物にうつつを抜かすわけには││﹂
﹂
﹁べ、別にそういう訳じゃない。だが、オレは⋮⋮そう、アカネを倒す
﹁お前いいかげん腹括れよ。そんなにサクラちゃんが嫌いなのか
いいかげん冗談になっていないその言葉は本当に縁起でもなかった。
最 近 は サ ク ラ の 迫 り 方 が 徐 々 に ラ ン ク ア ッ プ し て き て い る の だ。
流しながらナルトの言葉に反応する。
ナルトの向かいの席で黙々と焼肉を食べていたサスケが、冷や汗を
!
?
そんな夢を追うくらいなら
サスケの言い訳には全員一致の突っ込みが返って来たが、残念でも
なく当然である。
﹂
﹁アカネの姉御に勝てるわけねーだろ
火影になる方が簡単だぜ
!
する牙は完全に抜かれていた。
まあ仕方ないだろう。犬の様な性格の者が多い犬塚一族の青年だ。
圧倒的に強いアカネ相手に、徹底的に鍛えられたのだ。彼がアカネに
対して腹を見せて服従しても当然と言えるのかもしれない。実際に
腹を見せたわけではないが。
﹁アカネに勝つ。その為には何が必要なのかすら分からない⋮⋮何故
なら、アカネはまだ全力を見せた事がないからだ﹂
席の隅の方で一人黙々と食事をしていたシノがようやく存在感を
顕わにする。そして、その言葉は正鵠を射ていた。
﹁そうだな。アカネは強いが、その強さがどこまでの高みにあるのか
が分からん。オレ達よりも遥かに長い年月を修行に費やしているの
903
?
アカネを姉御という彼はキバだ。名前とは裏腹に、彼のアカネに対
!
だ。負けた所でそれは恥にはならない﹂
ネジがサスケを諭すように、そして己に対してどこか言い訳してい
る様に言う。
ネジもまたサスケの様にアカネ打倒を目指していた。だが、圧倒的
な強さと、初代三忍という正体を知り、それを空しく思うようになっ
てしまったのだ。
アカネ打倒に空しさを感じたネジは、任務であるヒナタ護衛に心血
を注ごうとした。だが、今回の結婚でその任務も終わりを告げた。
成すべき目標がなくなり、空しさを感じているネジであった。ま
あ、この場では関係のない事だが。
﹂
﹁関係ないな。あいつがどれだけ修行してようが、そんな事で諦める
理由にはならん。一度も勝てずに負けたままでいられるか⋮⋮
﹂
﹁まあ、サスケ君にサクラさんへの恋心がないとなればボクは一安心
頷いていた。
そしてアカネの毒牙に掛かっていないはずのリーは五人に同調して
そんな彼らを恐ろしいものを見る目でシカマルとチョウジは眺め、
安になるという修行病とも言うべき病に冒されていた。哀れな⋮⋮。
アカネの修行を骨の髄まで叩きこまれた彼らは、修行を止めると不
はアカネによって修行を受けた者達だ。
犠牲者
ナルトとサスケの言葉に、ネジとキバとシノが同意する。この五人
﹁いや分かんねーよ﹂
﹃分かる﹄
﹃いや、何か修行を止めるとどうも不安になってな⋮⋮﹄
たというのにだ。
行に励んでいた。一度はアカネの修行から逃れられた事を喜んでい
そう、シカマルが言う様に、ナルトとサスケはこの二年で更なる修
の地獄の修行から解放されて喜んでたんじゃねーのか
﹁だからお前らあんだけ強くなったのにまだ修行してんのか。アカネ
﹁それは分かるってばよ。オレだっていつかはアカネに勝ちてー﹂
!
﹂
です ライバルだと思っていたナルト君もヒナタさんと目出度く
結ばれますし、次はいよいよボクとサクラさんの⋮⋮
904
?
!
!
﹃ないない﹄
︶に盛り
未だにサクラに惚れているリーのお目出度い頭に全員が同情する。
どう見てもリーに望みがないからである。
一同はナルトの前祝いと、そしてリーの失恋の前慰め︵
上がるのであった。
◆
こんな時間にどうしたんだろう
いから、ヒアシ様の元に出向けとの仰せだ﹂
﹁ヒアシ様が
﹂
﹁ネジよ。ヒアシ様がお前を呼んでいたぞ。本日中ならば遅くても良
そのまま自宅へと戻るが、そこで出迎えたヒザシに呼びとめられた。
前祝いの焼肉パーティが終わり、ネジは一人日向の里に帰り着く。
?
ヒアシの言葉に従い、使用人は襖を開いてネジを部屋へと通す。そ
﹁通せ﹂
﹁ヒアシ様。ネジ様がいらっしゃいました﹂
事を取ってはならない。
はネジも知っているが、こういう作法は必要な事なのだ。使用人の仕
使用人に案内されて、ネジはヒアシが待つ部屋へと移動する。場所
﹁分かりました﹂
﹁お待たせいたしました。ヒアシ様がお待ちです。こちらに﹂
通し、しばし待合室にて待つ。
瞬身の術まで用いて急ぎ、そしてネジは屋敷に仕える使用人に話を
その気になれば自宅から宗家の屋敷まで十秒と経たずに到着する。
とにかく、ネジは出来るだけ急いで宗家の屋敷へと赴いた。ネジが
つもりもないが。
家の者にそう言われれば分家としては逆らう事は出来ない。逆らう
既に夜も遅く、日付も一時間ほどで変わろうとしている。だが、宗
?
れに従いネジは礼をしつつ、ヒアシの書斎に入室し、そしてヒアシの
言葉を待つ。
﹁良く来た。遅くにすまなかったな﹂
905
?
﹂
﹁いえ、こちらこそお待たせして申し訳ございませんでした。しかし、
この様な夜分に如何様なご用件でしょうか
﹂
﹂
⋮⋮一つ、ご質問よろしいでしょうか
﹁⋮⋮なんだ
﹁はっ
﹂
﹁そうか⋮⋮では、その力でハナビの為に尽くしてくれ。頼んだぞ﹂
でも、一応はネジもヒアシの中で特別な位置にいるのだろう。
ヒアシの言葉はネジの意思を汲もうとする優しさだ。甥という意味
元々分家の人間が宗家の命令に従わない事はありえない。なので、
﹁いえ、まさか断るなど。そのお話、ありがたくお受けいたします﹂
別だが﹂
﹁そうだ。明日にでもその旨をハナビに伝える。お前が断るなら話は
﹁ハナビ様の⋮⋮
な⋮⋮。ネジよ、お前をハナビの護衛に付けようと思っている﹂
﹁うむ。明日でも良かったのだが、出来るだけ早い方が良いと思って
てネジの質問に対し、ゆっくりと口を開いた。
ヒアシは何かの書物を見ながらネジに労いの言葉を掛ける。そし
?
?
﹁何故、護衛の話を急に持ち出したのでしょう
しょうか
﹂
出来るだけ早い方
が良いとヒアシ様は仰っていました。何か不穏な事でも起こるので
?
だろう﹂
ぶしつけな質問、申し訳ありませんでした
!
それでは失礼いたします﹂
難しい顔でヒアシは呟き、一人である場所へと赴いて行く。
﹁⋮⋮月の大筒木一族。私の杞憂で済めばいいのだが﹂
ていく。
そうしてネジが退室した後に、ヒアシは古い文献の続きを読み解い
﹁はっ
今日はゆっくりと休め﹂
﹁構 わ ん。⋮⋮ も う 下 が っ て 良 い ぞ。明 日 の 明 朝 に ま た 屋 敷 に 来 い。
﹁はっ
﹂
だ。ならば、その予測に対応出来るよう、準備は整えておくのが正解
﹁⋮⋮いや、決まっている訳ではない。だが、未来は常に予測不可能
?
906
!
ヒアシに頭を下げつつ、ネジは疑問に思った事を確認する。
?
!
!
!
だが、彼の不安は杞憂で終わる事はなかった⋮⋮。
◆
月の大筒木一族。それは、六道仙人である大筒木ハゴロモの弟、大
筒木ハムラの末裔だ。
ハムラは兄と共に十尾とカグヤを封印した後、月となった十尾を監
視する為に、己の一族の一部を引き連れて月の内部へと移り住んだの
だ。この時地上に残された一族が、後の日向一族である。
月の大筒木一族はハムラの教えに従い、長きに渡り生き続けてい
た。その教えとは、大筒木一族が月に移り住んでから千年の後、地上
の民がチャクラを正しく扱い世界が平穏であるかを見極める、という
ものである。
だが、その解釈を巡り、大筒木一族は宗家と分家とで分かれて壮大
な争いを行っていた。そして、勝ち残ったのは分家であった。
分家の者はハムラの教えをこう解釈した。千年の後に、地上の民が
チャクラを正しく扱わず、世に平穏を齎す事が出来ていなければ⋮⋮
地上を滅ぼし、真の楽園を作る⋮⋮と。
分家が勝ち残った事により、その教えが月の大筒木一族の悲願と
なってしまった。そして最後の一族である大筒木トネリは千年後の
地上を見て、地上を滅ぼす事を決断した。
千年経っても六道仙人の教えは浸透しておらず、地上の人間は未だ
チャクラを兵器の様に扱っている。最早これ以上地上の人間をのさ
ばらせる必要はないとトネリは判断したのだ。
トネリは地上の人々を滅ぼすべく、月の内部にあるエネルギー球体
〝転生眼〟の力を利用し、月そのものを地上に落とそうとする。
月の質量が地上に落ちれば、その破壊により大多数の人々は死に、
生き残った人々も環境の変化に耐えられず死滅するだろう。全ての
人々が死に絶えた後に、トネリは地上に真の楽園を作り出すのだ。
その為の力もまた転生眼であった。三大瞳術とは違う第四の瞳術
にして、輪廻眼と対を成す転生眼。 907
転生眼とはハムラが開眼した瞳術だ。写輪眼の行きつく先が輪廻
眼であるように、白眼の行きつく先が転生眼なのである。
転生眼の力は凄まじいの一言に尽きる。転生眼を持つ者に触れれ
ば、その者はチャクラを一瞬にして吸収され、その上転生眼の開眼者
にはハムラのチャクラを有する者か、その直系の子孫でない限りダ
メージを与える事も出来ない。
月の内部にある巨大な転生眼は元はハムラが開眼したものであり、
一族が代々伝わる教えに従いハムラの子孫の白眼の眼球を封印し続
けた結果、巨大なエネルギー球体になったのである。
転生眼の力を十全に発揮すれば、破壊された地上を楽園に変える事
も可能だろう。
だが、そこには問題があった。トネリは大筒木一族の最後の一人。
そう、千年の後に残った一族が、大筒木トネリただ一人だけだったの
だ。
これでは地上を滅ぼし楽園を作ったところで意味はない。生物は
一人では数を増やす事は出来ないのだ。単細胞生物は別としてだが。
そこでトネリは地上の日向一族に目をつけた。ハムラの血統、その
中でも純度の高い白眼を持ち、ハムラのチャクラを最も色濃く受け継
ぐ宗家の娘。それを妻と迎える事で、新世界の新たなアダムとイブに
なろうと画策したのだ。
だが、ここでも問題が起こった。なんとトネリに妻として選ばれた
日向ヒナタが、どこの馬の骨とも分からぬ輩と結婚をするという情報
を得たのだ。
これにはトネリも焦った。そして同時に憤慨した。ヒナタに、では
ない。ハムラの血統でありながら、他の一族の血を招き入れる事を許
したヒアシにだ。一族の誇りを汚す行為にトネリは激怒したのだ。
ヒナタが結婚してしまえば、全ての計画は台無しとなる。事は早急
を要した。
だが、焦っても問題は解決しない。ここでヒナタを強奪したとし
て、それで全てが上手く行くほどにトネリは地上の民を侮ってはいな
かった。
908
計画を進めるには力が必要だ。そう、誰にも負けない力が。
それこそが転生眼の力だ。月にある大筒木の秘宝ではなく、トネリ
個人の転生眼が必要なのだ。
その転生眼を開眼する為に、高い純度を保った白眼をトネリは必要
としていた。その候補に上がっているのが、日向ハナビの白眼であっ
た。
日向ハナビを攫い、その白眼を己の物にする。そして力を付けた
後、日向ヒナタが結婚する前に手に入れる。邪魔する者は転生眼の力
の前にひれ伏すだろう。
そして地上の民は月そのものを落とす事によって壊滅する。その
後に待っているのは争いのない真の楽園だ。
トネリはそれらの計画を、ハムラの意思だと信じて遂行しようとす
る。
トネリは地上の民を侮ってはいない。地上を観察した際に、その力
の高さは伺っている。転生眼がなくば、今のトネリでは負けてしまう
存在も少なくはないだろう。
トネリは地上の民を刺激しないよう深夜遅くに行動を開始し、気付
かれないようにチャクラを隠し、傀儡達を日向宗家の屋敷に潜入させ
る。
月の大筒木一族はトネリ以外が絶滅している為、人間を模した傀儡
をチャクラを以ってして操りトネリの周りの世話をさせている。当
然戦闘用の傀儡も存在しており、こうして屋敷に潜入しているのも戦
闘用の傀儡だ。
この傀儡には地上の忍が使う一般的な傀儡とは決定的に違う点が
ある。それは、一般の傀儡はチャクラ糸を繋げてその糸の微妙な動き
で傀儡を操るのに対し、トネリの傀儡にはチャクラ糸が繋がっていな
いのだ。
ト ネ リ の 傀 儡 は エ ネ ル ギ ー 球 体 で あ る 月 の 転 生 眼 の チ ャ ク ラ に
よって動いている。それ故にチャクラ糸を必要とせず、主であるトネ
リの意思で自在に動かす事が出来るのだ。
そして彼らは傀儡故に生物特有の気配は皆無だ。その上でチャク
909
ラを隠せば、人形に気付ける者はいないと言えよう。少なくとも、深
夜の寝静まった日向宗家の屋敷には、傀儡人形に気付けるはずの者は
いなくなっていた。
そう、屋敷の主人であるヒアシは今この屋敷にはいなかった。今頃
ヒアシはトネリがあらかじめ渡しておいた手紙に記された場所に赴
いているだろう。
日向一族の一部のみに月の大筒木一族の話は伝わっていた。それ
をトネリは利用し、ヒアシに手紙を出して屋敷から離させたのだ。全
てはハナビを、いやハナビの白眼を手に入れる為に。
下手にヒアシと争う事になり、事が木ノ葉隠れの里に広まっては手
痛いしっぺ返しを受けるかもしれない。その可能性を少しでも少な
くする為の策だった。
傀儡は静かに動き、そしてハナビの寝室に侵入し、寝静まっていた
﹂
彼女を一瞬で捕らえた。
﹁
何事かとハナビが目を覚ました時にはもう遅い。傀儡はハナビが
暴れ出す前にその意識を奪い、気絶した彼女を背負って静かに立ち
去っていく。
後は木ノ葉隠れから立ち去り、月に繋がっている秘密の洞窟へ赴
き、そこから月に戻ればそれで傀儡の仕事は終わりだ。
残るはトネリがヒナタを連れて月に戻ればいい。大筒木の末裔で
ある自分がヒナタを諭せば、それで彼女は目を覚ましてくれる。どこ
ぞの者とも知れぬ薄汚い野良犬と結婚しようなど、馬鹿げた事だと気
付いてくれる。
トネリは妄信的にそう信じていた。トネリにとって一族の掟は絶
対であり、同じハムラの直系であるヒナタも理解してくれると信じ
きっていたのだ。
そして、トネリがヒナタの元へ赴こうとした時、操作する傀儡の内
の一体からチャクラが失われたのを感じ取った。
﹁これは⋮⋮﹂
慎重を期して大事な白眼を手に入れたというのに、それを邪魔する
910
!?
者は誰なのか。
﹂
トネリがチャクラを広げてその犯人を確認する。それは││
﹁ハナビ様から手を離せ下郎
日向ネジ。ハナビの護衛役に任命されたばかりの日向きっての天
才であった。
ネジはヒアシからハナビの護衛役を仰せつかった後、家に帰りゆっ
くりと休んでいた。だが、何故か胸騒ぎがした為に、宗家に向けて白
眼の透視と望遠の力を使った。
そこで見た光景は信じられないものだった。宗家の次女にして次
代の当主であるハナビが、何者かに攫われようとしていたのだ。
これを黙って見ているネジではない。突如として飛び起き、一瞬に
して宗家の屋敷へと辿り着き、そしてハナビを担いでいない方の傀儡
に八卦空掌を浴びせたのだ。
傀儡達は急な闖入者に慌てる事なく││慌てるという感情自体な
い││対応する。ハナビを抱えている傀儡を先に行かせ、残る傀儡で
ネジの足止めをしようとしたのだ。
どこから現れたのか、ネジの周囲には無数の傀儡が現れていた。そ
して次々とネジに向かって襲い掛かっていく。その間に、ハナビを担
﹂
││
いだ傀儡は離れようとする。
﹁させるか
││八卦掌廻天
戦争終結後の二年間でその上の奥義である廻天まで身に付けていた。
流石にその技術自体は自力で編み出したのではなく、戦争でヒアシ
が使用していたのを目にしたのを真似た物だが、それでも二年で身に
付けた事は天才の面目躍如と言えよう。
廻天は回天とは違い、噴出したチャクラそのものを高速回転させる
技術だ。それ故にその場で自らが回転する必要がなく、自由に行動す
る事が出来る。
それを利用し、ネジは迫り来る傀儡達を廻天によって弾きながら、
一直線にハナビの元へと駆けつける。
911
!!
日向宗家のみに伝わる奥義回天。それを独自に編み出したネジは、
!
!
そしてネジは屋根を跳躍して逃げる傀儡の動きを捉え、その体に柔
﹂
拳を叩き込む。それと同時にハナビを奪い、抱きかかえて地面へと着
地した。
﹁う、うう⋮⋮﹂
﹁ご無事ですかハナビ様
あった。
ませんか
私は何者かに気絶させられて││﹂
﹂
!
﹁え⋮⋮ネジ兄様
﹂
キドキとさせ││そっと大地に降ろされた。
慌てて首を振りつつ、ハナビはネジの胸板のたくましさをに胸をド
﹁う、ううん。だ、大丈夫だから
﹂
﹁⋮⋮チャクラの乱れはなし。ハナビ様、どこか苦しい所などはあり
ビの体を確認した。
見たネジは敵に何らかの薬物を投入された事を危惧し、白眼にてハナ
現状を理解した瞬間、ハナビの顔が急速に赤くなっていく。それを
ネジに抱きかかえられている。
そう、何者かに気絶させられ、攫われようとしていた。そして、今
﹁そうだ
そんなネジを見つつ、ハナビは自分の現在の境遇を理解した。
混乱するも、その五体が無事である事にネジは安堵する。
﹁ハナビ様、ご無事で何よりです﹂
﹁ね、ネジ兄様⋮⋮あれ
私は確か⋮⋮﹂
ハナビがゆっくりと目蓋を開けると、そこには尊敬するネジの姿が
戦闘の衝撃により、ハナビが気絶から覚めようとしていた。そして
!?
?
その場に現れたのはトネリだ。トネリにとって最も重要なのはヒ
﹁手間を掛けさせてくれるね﹂
方に一人の男が立っている事に。
そしてネジに遅れてハナビも気付いた。いつの間にか、自分達の前
したネジに戸惑っていた。
地面に降ろされた事を僅かに不満に思いつつ、ハナビは様子が一変
﹁ハナビ様、オレの後ろに⋮⋮﹂
?
912
!
?
ナタだが、全ての目的を叶える為の前提条件である転生眼の為にはハ
ナビの白眼が必要だ。
せっかく手に入れた純度の高い白眼を取り返されては堪った物で
何の目的でハナビ様を狙った
﹂
はない。それ故にこうして直接出向いたのだ。正確には、直接ではな
いのだが。
﹁貴様、何者だ
!!
役目だ﹂
﹂
﹁ふざけた事を⋮⋮
﹁あ⋮⋮
⋮⋮なっ
﹂
!?
﹂
﹁こんばんは。良い夜ですね﹂
﹁え
アカネ
トネリはそんな二人の反応をどうでも良いと思い、そして││
見せた時、ネジとハナビは驚愕すべきものを見た。
自分を無視して訳の分からない事を話すトネリにネジが苛立ちを
!
﹁さあ、こちらにおいで。ボクと共に来る事が、日向宗家としての真の
差し伸べる。
そんなネジの叫びを、トネリは意にも介さずにハナビに向けて手を
近しい存在だと勘付いた。
ネジはこの男こそがハナビを狙った犯人の首謀者、もしくはそれに
!?
◆
﹁ふむ。やっぱりこれも傀儡ですね。視た感じが普通の人間と違って
ましたし﹂
破壊されたトネリ⋮⋮だった物を見下ろしながら、アカネはため息
を吐いた。
そう、アカネの言う通り、木ノ葉隠れに侵入したトネリは傀儡人形
だったのだ。本物のトネリは月で傀儡人形を操っていた。
お帰りなさい
﹂
﹁アカネ、帰っていたのか⋮⋮﹂
﹁アカネ姉様
!
!
913
!
背後から突如聞こえた声に振り向き⋮⋮絶望を見た。
?
﹁ただいま、ネジ。ただいま帰りましたハナビ様
上でしょ
﹂
様はヒヨリ様だったんでしょ
﹂
身分で言うならアカネ姉様の方が
﹁もう、様付けで呼ばなくてもいいって言ってるじゃない。アカネ姉
らネジは何とも思っていないが。
ネジとハナビに対する反応の差は明らかである。いつもの事だか
!
﹁しがない
分家
﹂
宗家の方に尽くすのは分家の務めでございます﹂
﹁いやいや、それは前世の話ですから。今はしがない分家の一人です。
?
﹁アカネ。お前はどうして木ノ葉に帰ってきたんだ
﹂
日々だけでなく、年頃の女の子として様々な経験を積んだのだ。
が原因だろう。忍の在り方も徐々に変わりつつあり、ハナビも修行の
ハナビが変化した理由は、やはり平和に向けて世界が動き始めた事
見える。この変化にはアカネも驚きつつ、同時に喜んでいた。
だが、ここにいるハナビは歳相応の反応をする極普通の少女の様に
し、あまり感情を表に出す事のない少女だった。
第四次忍界大戦までのハナビは日向の跡取りとしての修行をこな
えに当然として、その精神は二年前とは大違いだ。
そう、ハナビは二年の年月で大きく成長している。外見は成長期ゆ
て。安心しましたよ﹂
に成長しましたね。見た目もそうですが、性格も大分年齢相応になっ
﹁ふふ、分かりましたよハナビ。それはそうとして、二年も会わない内
だったらもっと親しく接してほしいな﹂
﹁ア カ ネ 姉 様 は 分 家 と か 気 に し な く て い い っ て な っ て る ん で し ょ。
こっちが損をするだけなのだ。
二秒で考えを放棄したが。アカネの言葉を真面目に受け取っては
家の概念について深く考えた。
アカネがしがない分家の立場なら、他の分家は何なのか。ネジは分
?
そう、飛雷神の術により定期的に木ノ葉隠れの里に帰還しているマ
を聞きまして。結婚式に参加すべく大急ぎで帰ってきました﹂
﹁ああ、マダラからナルトとヒナタ様⋮⋮ヒナタが結婚するという話
?
914
?
?
ダラから得た情報により、アカネは二人の結婚を知った。
その式には必ず参加すべく、遥か彼方から全力で木ノ葉隠れへと帰
還したのだ。
﹁で、先ほど帰ってきたばかりなのですが⋮⋮﹂
﹁そこでこいつを見つけた、と﹂
﹁そういう事です﹂
深夜遅くに木ノ葉に辿り着き、実家でしばらく休もうと思っていた
矢先に、不審人物が日向の敷地内にいるのを発見したのだ。
しかもネジと相対し、その後ろにはハナビがいる。二人の会話を確
認すれば、その不審人物はハナビを狙っている様子。制裁決定であ
る。
﹁し か し ⋮⋮ こ の 傀 儡、チ ャ ク ラ 糸 が 繋 が っ て い な か っ た 様 で す が
⋮⋮﹂
﹁確かに⋮⋮おかしいな。本来ならチャクラ糸がなければ傀儡を操る
﹂
を開き、そして月に向けて白眼を発動させた。
どうした
に映っていた。それを不思議に思いつつ、ハナビは首を傾げる。
﹁⋮⋮月の大筒木一族﹂
915
事は出来ないはず⋮⋮﹂
傀儡の常識から外れているハムラの傀儡に二人は悩み、そしてアカ
ネが結論を出した。
﹁まあ、遠隔操作しているなら、どこかに犯人が隠れているという事で
しょう。少し調べてみますか﹂
そう言って、アカネは仙人モードとなり、傀儡人形に籠められてい
たチャクラと同質のチャクラを探知しようとする。
こ
周 辺 国 家
?
チ ャ ク ラ を 消 し た か ⋮⋮⋮⋮ ん
?
│ │ 木 ノ 葉 ⋮⋮ い な い。火 の 国 ⋮⋮ い な い
⋮⋮⋮⋮⋮⋮ い な い
れは││
?
しばらく集中してチャクラを探知していたアカネがゆっくりと目
?
?
⋮⋮なるほど。最近の月の接近はそういう事か﹂
﹁アカネ
﹁月
?
徐々に迫りつつある月は、地上から見ると明らかに大きく見える様
?
﹁月の││﹂
﹁大筒木一族
﹂
アカネが零した言葉はネジとハナビの知識にはないものだ。
そんな二人に、アカネはどう説明したものか悩みつつ、とりあえず
ザックバランに説明した。
﹁ええ。月には日向一族と源流を同じくする大筒木一族が住んでいる
んですよ。この傀儡から感じたチャクラと同質のチャクラを月にも
感じました。恐らく犯人は大筒木一族でしょう﹂
アカネはかつてヒヨリであった頃に、宗家の一員として大筒木一族
﹂
について知識を得る機会があった。それ故に月に渡り住んだかつて
の同胞の事も多少は理解していた。
﹁月だと⋮⋮まさか、この傀儡は月から操っていたのか
﹁そういう事になりますね﹂
全て破壊してしまった。
傀儡を泳がせればそれを追う事も出来ただろうが、侵入した傀儡は
段で月に行く事が出来るのだろうが、その手段が分からない。
どうやって月に行くか。手がかりは殆どない。恐らく何らかの手
何ともないように話しつつ、その実アカネは悩んでいた。
!?
﹂
再び敵が襲ってくるのを待つしかないのか。そう考えながらも悩
んでいたその時、アカネの脳内に電流が走った。
﹁そうだ。月まで飛んで行けばいいんだ﹂
﹂
﹁ハナビ様、屋敷に解熱剤と鎮静剤はございませんか
﹁すぐ取って来るね
?
﹂
と言わなかったか
﹂
﹁⋮⋮言ったけど
﹁アカネ姉様、宇宙って空気がないって知ってた
昔、土遁でどこま
?
?
﹁アカネ。オレの聞き間違えじゃなければ、お前は月まで飛んで行く
いた。だが、二人の反応は当然のものだと誰もが思うだろう。
二人のセメントな反応と迅速な対応に、思わずアカネも冷や汗をか
だ﹂
﹁ちょっと待て。私は熱などないし、興奮もしていない。至って冷静
!
?
916
?
で高く昇れるか試した忍がいたらしいけど、途中で空気が薄くなりす
﹂
正直この世界の人よりよっぽど私の方が詳しいよ
ぎて諦めたんだって。これで一つ賢くなったね姉様
﹁知ってますよ
﹂
!
私に自殺願望はありません
それに気付かなかったが。
﹁全く
に移動出来る様に準備しておけば何の問題もないです
!
そう言って、アカネは様々な術を駆使し出した。
﹂
ちゃんと宇宙空間でも無事
世界の知識がある事を示唆する様な台詞を吐いてしまう。幸い誰も
ハナビに可哀想なモノを見る目で哀れまれたアカネは、思わず別の
!
!
考防御壁は順調に作動しているようだ。
今日うちに泊まって行きなよ
﹂
かった事にした。考えを放棄した方が良い事もある。対アカネ用思
ネジとハナビは急な展開に付いて行けず、やがて先ほどの光景をな
﹃⋮⋮﹄
か﹂
かの情報を得てくれるはず。それじゃあ、私たちは家に帰りましょう
﹁さ、後は私の影分身が何とかしてくれるでしょう。少なくとも何ら
影分身達はそのまま宇宙へと飛び立った。
空気が漏れない為に外には聞こえない出発宣言をしつつ、アカネの
﹁じゃ、ちょっと行って来ますねー﹂
を自在に移動する。アカネ式簡易ロケットの完成である。
電熱で暖まった苦無で暖も取れ、チャクラのブーストで空と宇宙空間
いだろう。外に空気が漏れる事はなく、紫外線なども岩壁にて遮断。
空気には限りはあるが、これで宇宙空間に出てもある程度は問題な
中の温度を調節し、球体の周囲を膨大なチャクラで覆う。
空間を強固にする。そして雷遁にて無数の苦無に電流を流すことで
土遁にて巨大な球体を作り密閉し、風遁にて空気の断層を作り密閉
放出を行い、四人が収まれる大きさの球体を作り出した。
作り出す。その影分身がそれぞれ風遁・土遁・雷遁・そしてチャクラ
まず仙人モードのままで、かなりのチャクラを籠めた影分身を四体
!
!
﹁ねぇねぇアカネ姉様
!
917
!
﹁うん
⋮⋮そうですね。こんな時間に家に帰っても父さんと母さ
じゃあ旅の話でも聞かせてよ
﹂
んに迷惑でしょうし、お言葉に甘えましょうか﹂
﹁やった
!
だ。
﹂
﹁そうそう、ネジ兄様
﹂
どうされましたハナビ様
?
!
﹂
﹂
﹁⋮⋮さっきは、ありがとね そ、それだけ
ジ兄様
﹁お、お休みなさいませハナビ様
それじゃ、お休みネ
!
られた。
あ、ア カ ネ か
﹁ネジ⋮⋮﹂
﹁う お
⋮⋮﹂
ん
お 前 は さ っ き ハ ナ ビ 様 と 一 緒 に
?
﹁分かりますね
﹂
﹁お、オレにそんな気は││﹂
齢で手を出せば⋮⋮分かりますね
﹂
﹁ハナビに手を出したければ、最低でも後二年は待つ事です。今の年
いる。そんなネジの疑問に対し、アカネは敵意で以ってして答えた。
ハナビと一緒に岐路に着いたはずのアカネが何故か自分の後ろに
!
そしてハナビの労いの言葉に満足している所で、後ろから声を掛け
慌てる様に離れて行くハナビに、ネジもまた慌てて挨拶を返す。
!
!
つつも、ネジは姿勢を正して分家としてあるべき態度を取る。
突如として振り返ったハナビがネジに声を掛ける。何事かと思い
﹁はっ
﹂
るが、別に寂しくはないと自分で自分に言い聞かせていた。その時
そうして二人は和気藹々と帰路に就く。ネジは一人寂しく残され
﹁はーい
けですからね﹂
﹁こんな時間なんだから、早く寝ないと体に悪いですよ、もう。少しだ
!
!
?
今のアカネが影分身であった事に納得しつつ、ネジは何をどう間
ネジの快い返事を聞けたアカネは、影分身を解いて消滅した。
﹁わ、分かった⋮⋮﹂
?
918
?
!
!
!
違ってもハナビに手を出す事はしないと誓った。
もっとも、そんなネジの誓いに反し、ハナビの方から徐々にアタッ
クを強めてくるのだが。ネジの胃が壊れるのが先か、ネジの精神が壊
れるのが先か。今、ネジの人生において最大の戦いが始まろうとして
いた。
◆
地上にいるネジの苦痛はさておき。
宇宙に向けて飛び立ったアカネ︵影分身︶達は、影分身である事を
良い事に、碌に安全確認もせずに大気圏に突入、そのまま突破し宇宙
空間へと到達する。
これが本体であればもう少し慎重に行動するのだが、影分身なのだ
からダメージを受けても消滅するだけで他に問題はない。まあ、結果
﹃はっはっはっはっは
﹂
﹄
﹁その分大きめに作りましたけど、持って後十時間くらいでしょうか
﹁そうですね。四人もいるから酸素の消費も多くなりますし﹂
﹁っと、酸素がなくなる前にさっさと月に行かなきゃな﹂
影分身同士でコントをする。これも一人コントなのだろうか。
!
﹃おいばか止めろ﹄
919
として大気圏突破も、宇宙空間での移動も問題なかったのだが。
チャクラを用いたとは言え、人間が個人の力で宇宙に飛び出す。こ
の事実にはアカネも興奮した。
﹁おお、地球は青かった⋮⋮﹂
白眼にて地球を見つめながら、アカネはどこかで聞いた事がある様
な台詞を思わず呟いた。
﹂
あなたが覚えていないのに私が覚えている訳がない﹂
﹁それ、誰の台詞でしたっけ
﹁さあ
?
﹁そりゃそうです。全員私なんですからね﹂
?
﹁一秒間に十回の呼吸を⋮⋮﹂
?
影分身にも呼吸は必要だ。酸素がなくなり、呼吸困難となればその
時点で影分身は消滅するだろう。
アカネの影分身ならば十分な酸素を体内に取り込んでいれば十分
以上は活動できるだろうが、術の限界を超えた時点で影分身は消滅し
てしまうだろう。
酸素を大幅に減らす様な馬鹿をしようとした影分身を、他の影分身
が叩こうとするが、そうすると影分身は消滅してしまうのでそれも出
来ない。馬鹿な発言をした影分身は勝ち誇って他の影分身を見てい
た。
なお、その影分身に苛立っている他の影分身達だが、そいつが馬鹿
馬
鹿
な発言をしなければ結局他の誰かが同じ事をしていたのは言うまで
もない。だって同じアカネなのだから。
﹁さて、空気が勿体無いですから、月まで一気に飛ばしますか﹂
﹃賛成﹄
﹁頑張るのは私なんだけどなぁ⋮⋮﹂
気軽に月まで一気にと言うが、エンジン役となっているのは簡易ロ
ケットの周囲をチャクラで覆っているアカネだ。
他のアカネ達はそれぞれの役目を果たしているが、明らかにチャク
ラを放出しているアカネが一番重労働だろう。
文句を言いつつも、チャクラ役のアカネは放出するチャクラの量を
一気に上昇させる。それにより、明らかな加速を見せて簡易ロケット
は月に向かって移動を速めた。
﹁おお、やっぱり大気がない分速度が上がりやすいですね﹂
﹁その代わり減速もしにくいですよ。月に着陸する時に激突しない様
に気を付けなければ﹂
﹁逆に考えるんだ。激突しちゃってもいいやって﹂
﹁⋮⋮まあ、そうですね。白眼で見たところ、どうやら大筒木の本拠地
は地下にあるようですし﹂
﹁地下に巨大な空間があります。それに、白眼でも見通せない太陽の
様な何かも﹂
﹁どうやらその太陽らしきものから、傀儡を操っていたチャクラと同
920
質のチャクラを感じ取ったようですね﹂
﹁そ の 内 部 が 大 筒 木 一 族 の 住 処 か な。他 に 人 が い そ う な 気 配 は な い
し﹂
﹁じゃあ、月に到着したらそのまま地下に侵入という事で﹂
﹃賛成﹄
全員がアカネなだけに、意見がすらすらと出てそのまま作戦が決定
された。作戦は、障害物を力ずくでぶち抜いて敵アジトに侵入しろ、
という誰が聞いても完璧な作戦である。ただし、実行者がアカネであ
る事が前提だが。
やがて簡易ロケットは月の表面近くまで近付いた。元々月の方か
ら近付いているだけに、アカネの予想よりも早く到達したようだ。
﹁そんじゃ、速度を少しだけ落としてそのまま行くぞー﹂
﹂
衝撃に備えろ
﹂
﹂
ればすぐに他のアカネを手伝うつもりではあったが。
﹁そんじゃ、突入開始
﹃りょーかーい﹄
!
そんなものは圧倒的なチャクラの前では無意味だ。チャクラ万
ま月の地下空間目掛けて地面を掘り進んで行く。激突した時の衝撃
とうとう簡易ロケットが月の表面に着地⋮⋮せずに激突し、そのま
!
どれほど掘り進んだだろうか。ドリルの様に高速回転するチャク
ラにより順調に進む簡易ロケットは、とうとう岩盤を貫き地下空間へ
と到達した。
﹃おおー﹄
地下空間には広大な大地が広がっていた。水があり、森があり、そ
921
﹁オーケー。月の大地に突撃する部分は鋭角にしておく﹂
﹄
!
﹁私もチャクラの高速回転で掘り進めるようにしよう﹂
﹁空気の壁に異常なし
﹃お前ら楽だな
﹁電気による発熱、及び苦無に異常なし
!
風遁と雷遁の役目のアカネは非常に楽に寛いでいた。いや、何かあ
!?
能説は伊達ではない。
?
して太陽まである。もちろん人工の太陽だが。
その時、アカネ達は気付いた。月の表面と繋がったはずの空洞だ
が、アカネ達が突き破った岩壁から空気が漏れ出していないのだ。
なにやら不思議な力が作用しているのだろうと判断する。恐らく
はこれも大筒木一族の技術なのだろう。
アカネ達は地下空間を白眼でくまなく見通す。だが、その大地に人
の影は見当たらなかった。何やら遺跡の様な物は見つかったが、遺跡
というだけに既に廃墟であり、既に人は住んではいない様だ。だが、
僅かに気になるチャクラが残されている様だ。
遺跡も気になるが、やはり怪しいのはあの人工太陽だ。太陽から傀
儡を操るチャクラと同質のチャクラを感じる上に、白眼で内部を視る
事が出来ないとなれば怪しい事この上ないだろう。
しかし、どうやって侵入するかが問題だ。太陽の様に光は照らして
も、熱量は感じない事から近付いても問題はないだろうが、中に入る
922
方法が見当たらない。
アカネ達は考えに考えた。大体二秒くらい悩み、そして結論を出し
た。
﹁突き破るか﹂
﹁異議なし﹂
﹁先に手を出したのはあっちだしね﹂
﹁うちの可愛いハナビに手を出そうたぁふてー野郎だ。その上ヒナタ
﹄
には手を出していないのが尚更許せん。突入で﹂
﹃賛成
がいた。トネリが操る傀儡達である。
て人工太陽に突撃しようとする。だが、それを阻止しようとする者達
とにかく、怒り心頭なアカネ達はその怒りのままに簡易ロケットに
るが。
ケの四人のうち、最低でも二人は必要だ。物理的でなければ他にもい
今のアカネを物理的に止められるのはマダラ・柱間・ナルト・サス
知れば余計に怒りを増すだけだろう。
実際にはトネリがヒナタに手を出す前に邪魔をしたのだが、それを
!
傀儡は巨大な鳥の傀儡を操り、人工太陽から飛び出して簡易ロケッ
ト目掛けて攻撃を仕掛けてきたのだ。
チャクラの光弾を雨あられの如く放ち、簡易ロケットを迎撃しよう
とする。だが、その全ては高速回転するチャクラによって弾かれて
いった。
そしてそのまま人工太陽に突撃した。傀儡達が出現する際に何や
ら人工太陽の一部に穴が空いていたが、そんなの知ったこっちゃねー
﹂
と言わんばかりに強引に突き破ろうとした。
﹁おお、これは⋮⋮
﹁ふむ。かなりの頑強さ⋮⋮﹂
﹁ほほう。良し、もう風遁は必要なさそうだし、私も手伝おう﹂
﹁だね。雷遁もいらなそうだし、私もやるか﹂
地下空間の環境は人が生活できるレベルで整っている。必然的に
簡易ロケットの環境を整えていたアカネ達はその力を別の事に割く
事が出来るという訳だ。
!
﹃では││﹄
││仙法・風遁螺旋風塵玉
││
││仙法・土遁螺旋土流削
!
﹁ふ、私の防御を破りたければ、その万倍は持ってきなさい﹂
れていた兵器を傀儡が操り、膨大な量のチャクラ弾が放たれる。
城に向けて突撃する簡易ロケット。それに向けて、城に備え付けら
いる事を見抜いた。当然目標とすべきはその城だ。
そして、アカネ達は白眼にてその城の内部に傀儡とは違う、人間が
ていた。
た球体、そして明らかに人が住んでいると思われる巨大な城が存在し
人工太陽の内部には空中に浮かぶ小さな島々と、月を思わせる欠け
そして出来上がった巨大な穴に、簡易ロケットは突入する。
壁は僅かに拮抗し、そして砕け散った。
三人のアカネ達から放たれる極大忍術により、人工太陽の強固な外
││
││
││仙法・雷遁螺旋雷神撃
!
まあ、簡易ロケットを守る廻天の前では無意味な攻撃だったが。
923
!
﹁実際に万倍来たら
﹂
﹄
﹄
﹂
アカネ達は精神に5ダメージを受けた
物事の本質にも気付きやすいと言えよう。
にて世界を認識しているからだ。ある意味健常者よりも視界が広く、
そんなトネリが不自由なく暮らしているのは、目ではなくチャクラ
つまり、トネリは生まれてから一度も世界を見た事がないのだ。
月の転生眼へと捧げられたのだ。
トネリは大筒木一族の掟に従い、生まれた落ちた瞬間にその白眼を
だ。
目を持っていない。アカネのその言葉の通り、トネリの眼孔は空洞
﹁ええ。目を持っていなくとも、良く視えている様ですね﹂
同じチャクラ⋮⋮分身、それも実体を持っているね﹂
﹁君たちは⋮⋮日向の、ハムラの末裔⋮⋮その分家か。それに四人が
!
﹁強 引 だ ね。女 性 な ら ば も う 少 し 淑 女 ら し く し た 方 が い い と 思 う よ
こではアカネ達を待ち構えていたトネリが立っていた。
そうしてアカネ達は最短距離でトネリの居場所まで到達する。そ
も落とす要因にはならなかった。
する。道中傀儡が邪魔をしに来るが、それらはアカネの速度を僅かに
壁も、天井も、そんなものは一切関係なく、トネリに目掛けて突撃
⋮⋮文字通り、一直線にだ。
ア カ ネ 達 は そ の ま ま ト ネ リ の 居 場 所 を 目 指 し て 一 直 線 に 進 む。
﹃了解
﹁よし、突入。目指すは大筒木一族と思われる者の居場所だ﹂
らアカネ達が降り立った。
どっと笑いつつ、簡易ロケットはそのまま城に突撃し、そして中か
﹃ですよねー﹄
﹁影分身ですからね。チャクラが尽きます﹂
?
!
﹂
﹁⋮⋮聞きたい事がある﹂
﹁なんだい
?
924
!
!
トネリの先制攻撃
﹃うっ
?
﹁ハナビを攫おうとしたのは⋮⋮その眼を埋める為か
﹁そうだよ。もっとも、それだけじゃないけどね﹂
を真に知ってからだ。
﹁ハナビの白眼を奪って何をしようとしていた
﹂
﹂
は冷静に事情を確認しようとする。怒りを発揮するのは相手の目的
淡々とハナビの眼球を奪おうとした事を告白するトネリに、アカネ
?
ど⋮⋮ん
呪印の力を感じない⋮⋮
﹂
﹁分家の君に言っても仕方のない事だ。所詮は呪印を刻まれた白眼な
?
月と地上を繋
分家には必ず呪印が刻まれ
﹁ああ、私に呪印は刻まれていませんよ﹂
﹁⋮⋮君は、日向の分家ではないのか
るはず⋮⋮﹂
﹁分家ですが、私は少々特殊でして﹂
﹁⋮⋮そういえば、君はどうやってここに気付いた
どうやってここまで来た
﹂
ぐ地下洞窟には監視を置いていたが、監視が気付いた様子はない⋮⋮
?
リに、アカネが答えを教えた。
るはず。だが、アカネからそれは感じられない。それに困惑するトネ
呪印を刻まれているならば、影分身にも同じ様に呪印の力が刻まれ
?
?
﹂
﹂
!?
それほど驚く
?
らこそだが。
まあ、アカネも気付けたのは月の転生眼のチャクラが膨大だったか
芸当が出来るはずもなかった。
チャクラを籠められて動いているからだ。転生眼がなければそんな
トネリが傀儡達を月から操る事が出来たのは、傀儡が月の転生眼の
驚く事である。普通はそんな感知力を持っている訳がない。
事ですか
﹁ええ。あなたも月から傀儡を操っていたでしょう
﹁まさか⋮⋮地上から月のチャクラを感じ取ったというのか
チャクラが同質だったので、月があなたの本拠地だと気付きました﹂
﹁傀 儡 の 内 部 か ら 感 じ ら れ た チ ャ ク ラ と、月 の 内 部 か ら 感 じ ら れ た
る事が出来たのかを聞き出す。
アカネの不可思議さに戸惑いつつ、トネリはどうやってここまで来
?
925
?
?
﹂
﹁それと、私達がここまで来た方法は、地上から直接月に向かって飛ん
できました﹂
﹄
﹁君の頭は正気か
﹃失礼な
か。
﹁ちゃんと宇宙空間への対策をしてから来ましたよ
!
﹁そうだ﹂
﹁ハムラの天命
﹂
ば、ハムラの天命に従え﹂
﹁まあ、良くは分からないが君も日向の、ハムラの血を受け継ぐ者なら
トネリは呆れつつも、それらを無視して口を開く。
違う、そういう問題じゃない。
﹂
う。人間が地球から月に向かって飛ぶなどと、誰が信じると言うの
いや、誰だってアカネの言葉を聞けばトネリと同じ事を返すだろ
?
﹂
﹁なるほど⋮⋮その力で、月を落とした後の荒廃した地上を再生しよ
る環境へと変わったのさ﹂
﹁そう、ハムラが開眼した第四の瞳術。その力によって、月は人が住め
﹁転生眼
れこそがハムラの天命であり、ハムラの末裔の使命なのだと。
地上の人間を滅ぼし、転生眼にて地上に真の楽園を築き上げる。そ
クラを争いの道具として扱う。地上の人間に、生きる価値はない、と。
一人となったトネリが判断を下した。長き年月を掛けても、人はチャ
大筒木一族は、ハムラが残した天命に従い生き続け、そして最後の
よと言葉を残した事を。
向けて、千年の後に地上にてチャクラが正しく扱われているか見極め
チャクラが正しく扱われているか見守っていた事を。そして、一族に
た事を。月から地上を見つめ、兄の六道仙人が作り上げた世界にて、
ハムラが月の外道魔像を見張る為に一族を率いて月に移住してき
そうしてトネリはアカネにハムラの天命を、己の目的を話した。
?
うというわけですか﹂
﹁そうだ﹂
926
!
?
既にアカネも月の落下がトネリの仕業だと気付いている。月の不
自然な接近と、トネリの話を総合すれば馬鹿でも理解出来るだろう。
ちなみに月の表面にさえ転生眼の力は伝わっており、月の地表でも
人は呼吸が可能となっている。恐るべきは転生眼の力である。
﹂
﹁月を動かしているのも転生眼の力ですか。ハムラの転生眼が残って
いるのですか
﹁察しがいい。その通りだよ。まあ、今の君には転生眼の場所までは
教えられないけどね﹂
アカネの白眼を以ってしても転生眼の場所は確認出来ない。恐ら
﹂
く何らかの手段で白眼対策をしている場所に隠しているのだろう。
﹁今の、ですか
﹁そうだ。君もハムラの末裔だ。ならば、ハムラの天命に従う事こそ、
その本懐のはず⋮⋮﹂
つまり、トネリはアカネを仲間に誘っているのだ。同じハムラの末
裔同士、手を組もうと。
アカネがただの分家であればこの様な誘いはしなかったかもしれ
ないが、今はそうは言っていられない程に困窮した状況であり、そし
て何よりアカネの力は利用出来ると、トネリは判断したのだ。
﹂
﹁ふむ⋮⋮もう一つ質問です。地上を滅ぼす決断は、あなただけでし
たのですか
亡くなってから、ずっとボク一人だった⋮⋮﹂
トネリが色々な事をアカネに話したのはそれも理由があったのか
もしれない。これだけ長く話したのは本当に久しぶりだったのだ。
アカネはトネリのそんな感情を見抜き、若干の哀れみを持ちつつ
も、トネリの誘いを断った。
﹂
お前はこ
﹁一人で決断したのか。だったら、なおさらお前を止めるとしよう﹂
﹁⋮⋮何故だい
﹁一人で決めた事に、間違いがあったら誰がそれを正す
﹂
地上の人間は何年、何十年、何百年と経っても
の決断が間違いでないと言えるのか
﹁間違いな訳がない
?
?
?
!
927
?
?
﹁そうだ。今の大筒木一族はボクしか残されていない。幼い頃に父が
?
﹂
そんな愚かな者達を滅ぼし、地上に真の楽
これこそハムラが我らに託した天命だ
未だに争い続けている
園を作る
!
!
天命を忘れた愚かな末裔よ
﹂
これ以上一族の血を汚す前
!
﹂
!
﹂
﹂
来なかった。
﹁ふん
﹁ごはぁっ
アカネリバーブロー︵手加減︶
!
結果、相手の肝臓は粉砕される。ただし死にはしない。だって手加減
なく拳に伝え、相手の肝臓を打ち抜く手加減した一撃の事である
足腰のバネから生み出される破壊力を、体を捻転させる事で損なう事
説明しよう。アカネリバーブロー︵手加減︶とは、アカネの強靭な
!
た。トネリの意識は攻撃に傾いていた為、その動きに対応する事が出
そもそもだ。トネリが光球を生み出す前に、アカネは動き出してい
事をトネリが知る由もない。
もっとも、アカネのボス属性の前では無意味な能力なのだが、そんな
れ を 人 体 に 埋 め 込 め ば、そ れ で 対 象 を 操 る 事 が 出 来 る と い う 術 だ。
トネリは光球を生み出し、その光球にてアカネを貫こうとする。こ
て、情報の多さはそのまま先手を取る確率を上げる事に繋がる。
ら読み取れる情報は非常に多い。先読みを得意とするアカネにとっ
だが、アカネを前にして感情を剥き出しにするのは悪手だ。そこか
た。一見温厚だが、意外と激情しやすい性格の様だ。
次々と放たれるアカネの挑発染みた発言に、とうとうトネリが切れ
﹁な、舐めるなぁぁぁっ
ましょう。これで互いに条件は同じですね﹂
後ろの三人は手を出しませんのでご安心を。そうそう、私も目を瞑り
﹁そう怒鳴らなくてもその内消えますよ。私影分身ですから。ああ、
にここで消え去れ
﹁黙れ
﹁ふぅ、仕方ない駄々っ子だ。来なさい、少し教育してあげます﹂
にした。
を聞いて、アカネは現状は説得の余地なしと見て、力ずくで止める事
アカネの言葉に、トネリは闇を思わせる眼孔を見開いて叫ぶ。それ
!
!?
928
!
!
!
してるから。
﹁あ、ぐ、あぁ﹂
肝臓が破壊され、多大なダメージを受けたトネリ。だが、彼の心は
折れていなかった。
必ずや、一族の悲願を達成する。ハムラの天命に従う事こそが、一
族の悲願なのだ。その一念が、トネリの心を絶望から守っていた。
﹂
﹁ふむ。肝臓は破壊されど心は折れず⋮⋮敵ながらその意気や良し
﹂
だが戦いは無情
﹁がはぁっ
!
!
じゃ、もう一発⋮⋮
﹂
!
一人の男しか残されていなかった。
﹂
﹁おお、まだ倒れないとは⋮⋮感動した
﹁││
アカネジャーマンスープレックス︵手加減︶
!
に一族の掟がどうのこうのという想いはなく、ただただ痛みに耐える
顎が砕け、脳も揺れ、激痛が走り、朦朧とするトネリ。そこには既
﹁ぐ、ぁ⋮⋮﹂
てるから。
結果、相手の顎は粉砕される。ただし死にはしない。だって手加減し
事なく拳に伝え、相手の顎を打ち抜く手加減した一撃の事である
な足腰のバネから生み出される破壊力を、体を捻転させる事で損なう
説明しよう。アカネアッパーカット︵手加減︶とは、アカネの強靭
アカネアッパーカット︵手加減︶
!
方から相手の腰に腕を回してクラッチし、アカネの強靭な足腰のバネ
結果、相手の頭部は粉砕され
を利用して後方に反り投げ、相手の頭部を大地︵チャクラによる強化
済み︶に叩き付ける一撃の事である
どしゃり、と音を立ててトネリは崩れ落ちた。アカネが眼を開いて
る。ただし死にはしない。だって手加減してるから。
!
﹂
見ると、そこにはピクピクと小さく痙攣を繰り返すトネリの姿があっ
た。
﹁⋮⋮やりすぎでは
?
929
!
!?
説明しよう。アカネジャーマンスープレックス︵手加減︶とは、後
!
!?
﹁鬼か
﹂
﹁いや悪魔か
﹂
わたくし
﹁同 じ 私 だ ろ う
﹂
立 場 が 違 え ば お 前 ら だ っ て 同 じ 事 を し た は ず だ
﹂
!
すぐ傍にアカネがいる事に気付いた。
﹁気付きましたか﹂
﹁⋮⋮ボクは、敗れたのか﹂
惨敗である。
?
﹁間違った教育だと⋮⋮
ボクは、ボク達は遥か昔から天命に従っ
ちを犯した子どもを殺しはしませんよ。教育はしますけどね﹂
﹁まあ、あなたは明らかに間違った教育で育っている様ですしね。過
﹁⋮⋮敵の心配をするなんて、可笑しな事だ﹂
﹁状況判断良し。どうやら後遺症はない様で安心しましたよ﹂
までにはそれ程の猶予はない事から推察した様だ。
そう、トネリは然程の時間を掛けずに気絶から覚めた。月が落ちる
だね﹂
﹁⋮⋮その物言いでは、ボクはそれほど長くは気絶していなかった様
﹁さて、まだ月を落として地上を滅ぼそうと考えていますか
﹂
死の淵から生還し、意識を取り戻したトネリは辺りを窺う。すると
﹁⋮⋮ここは﹂
◆
神は彼の元に訪れなかった様だ。
トネリの状態に気付いたアカネ達が彼に治療を施す。どうやら死
﹃あ、やば﹄
小さくなりつつあった。彼の命の灯火は後どれ程持つのか⋮⋮。
そうやってアカネ達がコントを広げている間にも、トネリの痙攣は
﹁こ、こいつら⋮⋮
﹃そんな⋮⋮私、淑女なのでその様な恐ろしい事出来ませんわ﹄
!?
?
?
て││﹂
!
930
!?
﹂
﹁じゃあ、あなたの両親も、同じ事を言っていたのですか
﹁ッ
さそうだ。
﹁あなたの親は、あなたに何と言っていたのですか
﹁⋮⋮﹂
﹂
﹂
時は間違った教育だと断言するつもりだったが、どうやらそうではな
親もハムラの天命とやらをトネリに教え込んでいたとすれば、その
アカネはトネリの親は息子に別の道を指し示した事を察する。
アカネのその言葉に、トネリは反論出来ずに呻いた。それを見て、
?
ければならない⋮⋮ならないんだ⋮⋮
﹂
﹁大筒木一族の最後の一人であるボクは⋮⋮ハムラの天命を果たさな
が、ハムラの天命が、トネリを月に縛りつけたのだ。
残った。孤独は確かに辛かった。だが、先祖の想いが、大筒木の悲願
それが、父の遺言であった。だが、トネリはその遺言に背き、月の
間は一人で生きてはならない⋮⋮。
も忘れていい。仲間を探し、友を見つけ、自分の為に生きなさい。人
││父が死んだら、お前は地球に行け。もう、大筒木の大義も宿命
は衣食住が足りればいいという生き物ではないのだ。。
行く末を心配した。傀儡達がいるので生活に問題はない、だが、人間
危篤になったトネリの父は、たった一人で月に残される幼い息子の
アカネの言葉で、トネリは父の遺言を思い出した。
?
?
見てアカネはため息を吐き、そして言った。
ハムラは確かに││﹂
﹁その天命とやら、間違った解釈をしていませんか
﹁そんなはずはない
﹂
天命と言う名の呪いに、トネリは動かされていた。そんなトネリを
!
﹂
!
﹂
﹁それは⋮⋮そのはずだ
それこそがハムラの想いだ
もしれませんが、正しくなければ人間を滅ぼせとまで言ったんですか
﹁地上でチャクラが正しく扱われているかを見極めろとは言ったのか
!
れならばなおさら大筒木一族がハムラの遺志を間違った解釈で受け
931
!
どうやらハムラが人を滅ぼせ等と言い残した伝承はない様だ。そ
!
?
取った可能性があるとアカネは考える。
そして、それは事実当たっていた。ハムラに地上を滅ぼすつもりな
ど毛頭なかった。だが、大筒木一族の分家がハムラの掟を誤まった解
釈で受け取ってしまい、宗家と敵対して宗家を滅ぼしてしまったの
だ。そして、分家の解釈が真のハムラの天命だと受け継がれてしまっ
た。
云わばトネリは被害者だ。歪んだ掟を守るべく、生まれた時からそ
こんにち
う教えられて育ち、そして己を除く一族が幼い頃に死に絶えた為に、
その過ちを正される事なく独善的な性格を作り上げ、今日まで育って
しまったのだ。
﹁ふむ。あなたは、今の地上の人々がチャクラを正しく扱えていない
﹂
と 判 断 し た よ う で す が。今 の 世 界 は 平 和 に 向 け て 動 い て い ま す よ。
それはどう判断されるのですか
﹁どうせお前達はまた争いを起こす。チャクラを使ってな⋮⋮﹂
そう、トネリは地上の人々を貶しているが、それはトネリ自身にも
返って来る言葉だ。
トネリが地上を滅ぼそうとすれば、当然それに対して地上の人々も
対抗する。そしてそれは、チャクラを用いた争いに発展するだろう。
﹁安寧が齎されようとしている地上に、チャクラを以ってしてあらぬ
ボクは地上に真の安寧を齎す為に⋮⋮
六道仙人の
争いを起こそうとしているのはあなたじゃないですか﹂
﹁ち、違う
!
﹂
!
すか
﹂
最大の戦争が起こりました。その彼と、今のあなたと、何が違うので
した。地上に真の平和を作る為に戦っている⋮⋮と。その結果、史上
﹁一緒ですよ。今まで私が戦ってきた者も、同じ様な事を言っていま
お前達と一緒にするな
間違った世界を破壊して、真の楽園を作る為にチャクラを使っている
!
﹁そ、それは⋮⋮﹂
?
932
?
﹁なるほど。ですが、あなたもチャクラを使って争いを起こしていま
﹂
すが
?
﹂
﹁え
?
!
アカネの言葉に、トネリは言い返せなくなっていた。普段のトネリ
ならまだ言い返せていただろう。だが、戦いに敗れ、気力を失ってい
る今のトネリには反論する力もなかったのだ。
そんな状態だからこそ、アカネの言葉を冷静に受け止める事が出来
た。そう、一緒なのだ。今のトネリと、アカネが思い浮かべた悲しい
男の想いと行動は⋮⋮。
﹂
﹁もう一度聞きますね。あなたの親は、あなたに何と言っていたので
すか
今のトネリならば、答えてくれる。そう信じて、アカネは同じ質問
を繰り返した。
﹁父上は⋮⋮地球に行って⋮⋮掟を忘れて⋮⋮友や仲間を見つけて、
共に生きろ、と⋮⋮﹂
﹁なんだ⋮⋮いいお父さんじゃないですか﹂
こ、これは⋮⋮
﹂
トネリの答えを聞き、アカネは微笑みながらトネリに再生忍術を掛
けた。
﹁う⋮⋮
!?
目を開いてください﹂
何を言ってるんだ。ボクには目は⋮⋮
!?
﹁み、見える⋮⋮世界が、見える
﹂
いていく。そして、信じられないものを見た。
・・
アカネの言葉を怪訝に思いつつも、トネリはその瞳をゆっくりと開
﹁目を
﹂
﹁少し刺激が強いかもしれませんが、大丈夫ですよ。さあ、ゆっくりと
!
たかった﹂
﹁モノを見るとは⋮⋮こういう事なのか。⋮⋮父上にも、見せてあげ
しく頂いていた。
に哀悼の意を⋮⋮。なお、犠牲になった獣はアカネ達がちゃんと美味
う高度な技術を学んだのだ。術を会得するまでに犠牲になった獣達
この二年で、アカネは六道仙術を会得した柱間から眼球の再生とい
忍術により眼球を再生させたのだ。
トネリの眼孔に、まごう事なく眼球が埋まっていた。アカネが再生
﹁流石に白眼を上げる訳にはいきませんが。これくらいならね﹂
!?
933
?
?
初めて見る世界に戸惑いながら、トネリは感動する。チャクラを集
めた心の目で周囲の状況を感じ取る事で、目で見る以上に的確に行動
する事は出来た。
だが、やはり感じると見るとでは大きな違いがあったのだ。そし
て、モノを見る感動と喜びを味わいつつ、それらを父にも味わわせて
あげたかったと僅かに慟哭する。
﹁⋮⋮それが、君の姿か。感じていたよりも、よっぽど美しい﹂
﹁えっと⋮⋮その⋮⋮﹂
トネリは周囲の光景の次に、自分に目を与えてくれたアカネを見つ
める。そして、感じた事をそのままに口にした。
そのあまりのストレートな物言いに、アカネは少々焦った。ここま
﹂
月を落とすなんて馬鹿げた事はもう止めなさい。
でまともに褒められた事はあまりなかったのだ。大体は自分の行動
のせいだが。
﹁と、とにかく
ここまで言っても止めないなら、実力行使しますよ
﹂
﹁ボクを殺しても、月は止まらないよ。転生眼を破壊しないとね。さ
あ、どうやって実力行使する
﹁え
﹂
﹁転生眼を破壊します。それが無理なら月を破壊します﹂
?
ネ本体に協力を仰げば不可能ではない。ついでにマダラと柱間もい
るので、三人掛かりならより確実だ。月など然したる時間もなく砕け
るだろう。大概化け物である。地上はともかく、この化け物共は滅び
さあ、次は何と言って私を止めます
るべきなのかもしれない⋮⋮。
﹂
﹁やろうと思えば出来ますよ
か
﹁は、ははは⋮⋮ははははは
﹂
?
そうか⋮⋮転生眼を壊されるのは、勘
私が転生眼か月を破壊しますよ
﹁時間がないから早くして下さいよ。月を落とす事を止めないなら、
を止める側になっていた。トネリも良く理解出来ていない様だ。
いつの間にかアカネがトネリを止めるのではなく、トネリがアカネ
?
!
934
?
!
月の破壊と簡単に言うが、簡単な事ではない。が、地上にいるアカ
?
?
弁 し て ほ し い な。ア レ に は 一 族 の 想 い が 籠 め ら れ て い る。例 え、間
違った物だとしてもね⋮⋮﹂
﹂
どこか吹っ切れた様に語るトネリを見て、アカネはゆっくりと笑顔
を見せた。
﹁じゃあ、月を止めるんですね
められるだろう。
﹁え
ああ、私は日向アカネと言います﹂
﹁トネリだ。大筒木トネリ﹂
されて、トネリはようやくそれに気がついた。
いいのだ。いや、初めからそうすれば良かったのだろう。アカネに諭
ならばどうすればいい
答えは簡単だった。父の遺言に従えば
も叶いそうにない。トネリが何をしようとも、アカネによって食い止
だ。ならばヒナタを攫って嫁にすればいい。だが、今の状態ではそれ
アカネとの会話が、トネリの孤独を刺激したのだ。孤独はもう嫌
た。そして、元の軌道上に戻る様に、転生眼にて月を操作する。
そう言って、トネリは月を動かしている転生眼の力の働きを止め
過ごしてみよう。その為には、地上が滅んでは意味がない﹂
い⋮⋮。ボクは、地上で生きてみたくなった。そして、地上の人々と
﹁ああ⋮⋮父上の遺言は、正しかった。人は一人では生きていられな
?
事を思い出してアカネも自分の名を名乗る。
そ、そうでしょうか
自分では良く分かりませんけど⋮⋮﹂
﹁アカネ⋮⋮いい名だ。あなたに相応しい﹂
﹁え
﹁ええ、大丈夫ですよ﹂
く微笑んで語りかけた。
どこか言い難そうに歯切れが悪くなるトネリを見て、アカネは優し
﹁アカネ、頼みがある⋮⋮ボクの⋮⋮﹂
かっているからこそ、アカネもたじたじなのだが。
カ ネ の 数 歩 上 に 立 っ て い る 事 に な る。ま あ 本 気 で 言 っ て い る と 分
で、これがトネリの計算通りの精神攻撃ならば、トネリは精神面でア
先ほどからのトネリのべた褒めにアカネはたじたじだ。今が戦場
?
935
?
突如として自分の名を告げたトネリに、自己紹介をしていなかった
?
?
トネリの想いを汲み、アカネは頷いた。父の遺言である友や仲間を
見つけろ。その遺言に応えたいのだろう。
仲 間 で も な く
アカネは喜んで友となる事を心の中で誓い、そして││
﹂
友 じ ゃ な く
?
﹁ボクの母になってくれないか
え
?
!?
?
まさかの答えに放心した。
母 と 言 っ た の か
母
?
ハハッ、おっとこれ以上は危険だ。
?
﹁本当かい
ありがとう
キミに、いや母さんに叱られて思った
!
す様にと想いを籠めていただけだったのだ。
だ、地上の民がチャクラの正しい扱い方をしていなければ、それを正
ハムラは決して地上を滅ぼそうなどとは思ってはいなかった。た
知った。
ハムラのチャクラ体であった。そこでトネリは、ハムラの真の遺志を
そこでトネリが出会ったのは、大筒木一族の本家と、そして大筒木
り、トネリと共に立ち寄ってみたのだが⋮⋮。
アカネが地下空間に突入した時に気付いた遺跡のチャクラが気にな
そうして紆余曲折を経て、アカネ達とトネリは城を出た。その際、
どうしてこうなった、と。
本体のアカネはまだこの事実を知らない。知ればきっと叫ぶだろう。
こうして、アカネに一つ年下の子どもが出来たのであった。なお、
も出来ない。
どうしてそうなる。アカネは混乱している。だが、今更拒否する事
こそ、あれが母親なんじゃないかって思ったんだ﹂
く前に亡くなってしまったから、母親の思い出はないけど⋮⋮だから
んだ。何だかお母さんみたいだって⋮⋮。ボクの母はボクが物心付
!
アカネはその視線を振り払う事が出来なかった。
﹁い、いいですよ﹂
れはまるで、母親に捨てられそうな子どもの目だった。
混乱するアカネに、期待と不安を籠めた様な視線が突き刺さる。そ
はは
母
?
そして、ハムラは今の地上は正す必要もないと判断していた。兄で
936
?
あるハゴロモがナルト達に未来を託した様に、ハムラもまた地上の民
に未来を委ねたのだ。
己が信じていた天命が根本から崩れたトネリだが、その表情は晴れ
晴れとしていた。かつてのトネリならともかく、今のトネリはその真
実を受け止める事が出来たのだ。
そして、地球に繋がる地下洞窟を抜けて、アカネ達は地上へと戻っ
て来た。宇宙空間を戻る必要がなくなり、アカネ達は影分身の内の一
﹂という叫び
人を解除する。これで本体にも情報が伝わっただろう。
その時、木ノ葉隠れの里にて、
﹁どうしてこうなった
声が上がったのだが、その原因を知る者はまだ誰もいなかった。
◆
日向ハナビ
今回の一件から、ネジを尊敬する従兄としてではなく、一人の異性
として見る様になる。そして感情そのままにアタックを続けた。姉
とは違い恋に積極的な様だ。
日向ネジ
護衛対象であるハナビに迫られ続けるも、二年は耐え抜いた。そし
て、ハナビが十六歳の時にとうとう陥落。ヒアシに土下座して結婚の
許しを請う。
日向ヒアシ
トネリに呼び出された場所にて傀儡に襲われるが、原作と違い壊滅
させて己の足で里に戻ってくる。帰って来てゆっくりと眠り、朝目を
覚ました時、何故か大筒木一族の末裔と共にアカネが頭を下げてい
た。何が起こったのかはヒアシを以ってしても理解出来なかった。
事情を聞き、ハナビを攫おうとしたトネリに思う所はあるが、反省
をしているようだし、アカネの懇願もあってトネリを許した。だが、
しばらくはハナビやヒナタに近づけさせなかったという。
937
!?
大筒木トネリ
アカネを母と慕い、地上で暮らす決意をする。そして慣れない地上
に戸惑いながらも、多くの光景に感動し、多くの友を作った。
日向アカネ
知らぬ間に出来た子どもに困惑しつつも、母の愛を知らずに育った
トネリに愛情を注ぎ、地上の常識を教え込んだ。母性本能は高い様で
ある。
月の転生眼
悪用されないよう、マダラの輪廻眼によって厳重な封印を施され
る。これを解けるのは輪廻眼の使い手くらいだろう。さらに月との
繋がりである地下洞窟を物理的に破壊される。これで月への移動手
938
段はなくなった。⋮⋮アカネの様に直接移動すれば話は別だが。
◆
ナルトとヒナタの結婚式には多くの人が集まった。木ノ葉の上層
部から、親しい友まで幅広く、そして他里からも風影を初めとする多
﹂
くの人々が立場に関わりなく集まり、そして祝福した。
﹁ヒナタ⋮⋮綺麗ですよ﹂
﹁ありがとうアカネ姉さん⋮⋮﹂
﹁ナルト、ヒナタを不幸にしたら許しませんからね
﹁分かってるってばよ﹂
アカネの隣でその呟きを聞いていたマダラは、何かを言おうとする
﹁⋮⋮そ、そうだな﹂
すね⋮⋮﹂
﹁長く生きてますが、こういうのはどんな時でも素晴らしいと思えま
いた妹分が結婚する事に、少しの感慨を感じていた。
アカネもまた、ナルトとヒナタを祝福した。そして、長年見守って
?
﹂
もそれを上手く言葉に出来ないでいた。
﹁どうしたんですかマダラ
﹂
﹂
﹁母さん。こっちに来てくれないかな
?
﹂
!
が結婚相手としての絶対条件ではなかったりするが、それをマダラが
ネに打ち勝つ手段を模索する。なお、アカネは別に自分よりも強い者
今回を機に、アカネへ想いを告げる決意を固める。その為に、アカ
うちはマダラ
◆
今日も木ノ葉は平和の様だ。
るサクラに、何故か寒気を感じるサスケ。
息子の晴れ舞台に涙目になるミナトとクシナ。次は私だと決意す
れた目で見つめる扉間。
そんな親友を遠目でもどかしそうに見つめる柱間に、その柱間を呆
ばかりにアカネを連れて移動した。
思わず輪廻眼にて全力で睨み返すが、トネリはどこ吹く風と言わん
﹁砂利が調子に乗りおって⋮⋮
味ではなく、内在的な敵なのだ、と。
その瞬間、マダラは理解した。こいつは敵だと。根本的な敵という意
だが、トネリは去り際にマダラに勝ち誇った笑みを浮かべていた。
うだ。
行った。今は母の愛情を知らずに育ったトネリに構って上げたいよ
そ う し て ア カ ネ は ト ネ リ に 連 れ ら れ る ま ま に マ ダ ラ か ら 離 れ て
﹂
﹁はいはい。どうしたんですかトネリ
?
その時だ。二人の間に割って入る様に、トネリが現れた。
い聞かせる。
つめる。マダラは決心を固めようとしつつ、まだ時期尚早だと己に言
親友が何を言いたいのか分からず、アカネはキョトンとマダラを見
﹁い、いや、何でもない
?
知るのは知る意味がなくなってからであった。
939
!