柱脚と建物基礎間に黒鉛潤滑剤を用いた直置き型構造の滑り挙動特性 背景と目的: 近い将来発生が危惧されている首都直下地震や南海トラフ地震において、設計レベルを超える地震動が発生する可能性は否定で きない。そのような地震動に対しても建物の倒壊が免れるように設計することは耐震工学の重要な命題である。そこで極めて大きな地震動に対し て建物の損傷を低減させる簡易な方法として、建物柱脚部の滑りを許容する構造が提案されている。上部構造に作用する力は滑り面に発生する 摩擦力に依存するため、滑り面に黒鉛潤滑剤を用いることで上部構造の応答を低減させることが可能である。本研究では、低層建物を模擬した 骨組試験体に直置き型構造を適用した場合の性能を評価し、転倒モーメントが滑り挙動に及ぼす影響や柱脚が連結されている場合の挙動を検 証した。 研究方法: 振動台実験と数値解析を用いて骨組試験体の滑り挙動の特性について以下の4点を評価する。 (1) 摩擦係数の安定性、 (2) 加振中 の柱の軸力変動、 (3) 4つの柱脚滑り変位の比較、 (4) 骨組に必要な最大ベースシア係数 実験結果 ロッキングは起こらなかった。 直置き型構造の概念 (2) 加振中の柱の軸力変動 N/Ng 上部構造 柱脚 1 N1 固定柱脚 0 直置き型構造 0 Ng 柱脚浮き上がり発生 (N/Ng=0)との差 N2 1 2 N1 3 時間(s) 振動台実験 モルタル基礎 x 3.20 Hz ∆≤0.5%× ℎ 300 ℎ 200 100 1 2 0 3 4 1 -100 10 20 30 摩擦係数 0.2 𝜇 =0.16 𝑑 0 0.16 Kinit -0.2 𝜇𝑑 = −0.16 -0.4 -600 -300 0 300 滑り速度(mm/s) 600 Dx 最大ベースシア係数 (4) 骨組に必要な最大ベースシア係数 μ 0.4 すべり面拡大図 500 400 4 2 ∆ 3 40 時間(s) (1)摩擦係数のモデル化 柱脚 600 0 振動台 黒鉛 柱脚の滑り変位 (mm) 全体質量 質量比 固有振動数 (実験) 固有振動数 (解析) TTB 7578 kg 0.91 3.17 Hz N2 加振中柱脚は同時に変位する。 (3) 4つの柱脚滑り変位の比較 錘 Ng 上限値は0.4であった。 1 0.8 0.6 KobeEW_Test KobeEW_Numerical ElCentro_Numerical Granada EW ElCentro_Test KobeNS_Numerical CerroPrieto NS Newhall EW KobeNS_Test Sylmar NS Upper limit = 0.4 0.4 0.2 0 0 500 1000 最大入力加速度の大きさ (gal) 主な成果: 数値解析と振動台実験により以下の知見を得た。(1) 黒鉛潤滑剤を用いると直置き型構造は安定した滑り挙動を示した。動摩擦係数 は約0.16で、その速度依存性は小さかった。数値解析においては摩擦係数は速度一定モデルが適当であった。 (2) 加振中、試験体にロッキング は起こらなかった。 (3) 加振中、4つの柱脚に変位のずれはなかったため、柱脚間を連結する梁は必要ない。 (4) 入力加速度が大きくなるにつれ て、最大ベースシア係数は0.4に近づく。また、この値は入力地震動の特性に依存しなかった。
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