平成 28 年度 第1回全国研修会 高次脳機能障害,発達障害,認知症にみる障害の神経心理学的な理解と支援 早稲田大学 教育・総合科学学術院 坂爪 一幸 1.発達障害と認知症の従来の理解と問題点 従来,発達障害や認知症は知的能力の水準(例:知能検査の成績)や行動の特徴 (例:パターン化した行動/不適応・問題行動)から理解されてきた。しかし,能力 の水準による理解(判定)や行動の特徴による理解(診断)だけでは支援(治療介 入)を実施しづらい。能力や行動以外の別の視点からの理解と支援が必要になる。 2.発達障害と認知症と高次脳機能 本来,発達障害も認知症も脳機能,特に高次脳機能の問題である。発達障害と認 知症の主要な違いは高次脳機能に問題が発生した時期(発達性/獲得性)にある。高 次脳機能は脳の領域に関係する(局在性) 。そのために発達障害では神経成熟の遅滞 や神経回路の形成の偏りの部位に,また認知症では脳の病変や萎縮した部位に対応 した症状が現れる。特に前頭葉や頭頂葉や側頭葉の各連合野では神経細胞の成熟(軸 索の髄鞘化)が遅い。また加齢に伴い神経細胞の萎縮・壊死や軸索の脱髄鞘化が生 じやすい。各連合野機能の未成熟さや障害が能力の水準や行動の特徴の基盤(背景) になっている。 3.障害の神経心理学的な理解 認知症は伝統的には知的能力の障害とされてきた。最近は記憶障害を中心にして 言語・認知・感情・意欲など複数の高次脳機能が障害され,脳の病変部位の違いで 認知症の症状は異なると理解されてきている。発達障害では神経成熟に遅滞や神経 回路の形成に偏りが生じた脳領域によって,高次脳機能の発達の遅滞や偏向が違い 障害像も異なる。 4.障害への神経心理学的な支援 能力や行動の基盤にある高次脳機能の状態を理解できれば包括的に支援できる。 言語・認知・行為・記憶・注意・遂行など高次脳機能のプロフィール(強みと弱み) がわかれば支援の対象と効果的な経路が明確になる。そして,①機能能改善型,② 能力代償型,③心理安定型,④能力補填型,⑤行動変容型,⑥環境調整型,⑦関係 者支持型の各支援を適宜に実施できる。
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