認識調査を創ってみよう -教員養成での授業の一試み-

認識調査を創ってみよう -教員養成での授業の一試み福山市立大学 太田直樹
1.認識調査を授業で実施することについて
学校教育では,より良い授業のために,校内や公開などの形態で研究授業が行われる。そこでは,
事前に検討された学習指 導案をもとに授業が行われ,指導案のねらいや教 材の工夫が適切であ
ったか,実際の子 どもたちの様子をもとに協議 される。その学習 指導 案は,各 校や地 域によって,
様々な書 式があるが,学 習内容に関する児童 観が書かれることが多い。この児童観では,事前に
実施・分析した子どもたちの実態が記載される。しかし,教員養成の授業で,実際に調査問題を作
成し,分析することは,あまり扱われていないのが現状であろう。そこで,算数科教育特論 (受講者 3
回生 24 名)の3回分を認識調査の作成・実施・分析にあてて,授業することを試みた。
2.授業の流れ
①認識調査の利点を学ぼう。
学 生 の実 態 では,教 育 実 習 で認 識 調 査 を経 験 した学 生 が若 干 名 いたが,ほぼ未 経 験 か見
聞 きしたことのない学 生 であった。そこで,まず,予 習 として拙 稿 (2015)を配 布 し,「認 識 調 査 の
効 果 」について,A4 版 半 分 にまとめる課 題 を出 し,そのレポートをもとに,グループ討 議 を行 っ
た。さらに ,そ の 後 ,以 下 の よ うな 認 識 調 査 を 取 り入 れた 実 践 研 究 の 効 果 を 授 業 計 画 時 ,授
業 実 施 時 ,授 業 実 施 後 の3つの段 階 に対 して,具 体 例 を提 示 しながら説 明 した 。
1)認 識 調 査 を作 成 する段 階 で,指 導 単 元 の重 点 目 標 ,指 導 の系 統 性 ,数 学 的 背 景 を教
材 研 究 することができる。
2)学 校 教 育 で未 習 の内 容 を含 む子 ども達 の考 え方 や知 識 (誤 認 識 )を事 前 に把 握 できるた
め,単 元 の指 導 計 画 の中 での軽 重 を設 定 できる。
3)子 どもの認 識 を把 握 できるため,指 導 の際 に,子 どもの 発 言 や呟 きの意 図 を理 解 し,その
価 値 を適 切 に活 かすことができる。
4) 指 導 の 成 果 と 改 善 点 を把 握 し,子 ども 達 への 次 の 指 導 や 同 様 の 教 育 内 容 の 指 導 に 対
する改 善 の視 点 になる。
②認識調査を作ってみよう。
認識調査の作成時は,写真のように,3人 ~5人 の小 グループに分 かれ,調 査 課 題 と調 査 問 題
の検討を行った。今回の授業では,実施上の都合で調査対象を本学の 1 年生約 100 名とした。調
査 問 題 の作 成 時 には,「正 答 するか誤 答 するかではなく,どのように考 えて答 えを出 しているか,
判断できるようにする」「回答までの手立てが,細かくわかるようにする」を留意点として伝えている。
各グループが設定した調査課題 は,以下の例のようである。
1)大学生の量感について(調査問題例)
4)面積の求積と,高さの選択について
2)立方体の展開図の理解,見方について
5)日常生活への算数の活用について
3)繰り下がりのひき算(減加法・減々法)
6)小数点のある筆算の意味について
写 真 調 査 問 題 の検 討 の様 子
図 学 生 の作 成 した調 査 問 題 例
調 査 課 題 1)「大 学 生 の量 感 について」のグループは,子 どもたちに量 感 が育 っていないとい
う課 題 意 識 の基 で,それらを指 導 する大 学 生 を対 象 に,図 のような量 感 についての認 識 調 査
を作 成 した。その調 査 問 題 では,長 さ,高 さ,面 積 ,体 積 などの 大 き さについて,日 常 生 活 の
感 覚 で4つの選 択 肢 から選 択 させている。学 生 らは,この調 査 の結 果 ,問 1の鉛 筆 の長 さ( 正
答 率 :75.0%)以 外 の問 で,正 答 率 が順 に 17%,23%,36%であることを明 らかにしている。そして,
学 生 らは,「今 回 の調 査 から,大 学 生 でさえも実 際 に触 って量 を体 感 することができないものや,
面 積 ,体 積 については量 感 が身 についていないことが分 かった。ここから,量 を普 段 の生 活 か
ら意 識 させ るよ うな言 葉 がけや 指 導 が 必 要 で あ ると 考 える 」 と 考 察 してい る 。 学 生 の 考 察 の 対
象 は,おそ らく 小 学 生 で あろうが,大 学 生 に対 しては,面 積 や 体 積 で ,お よそのかけ算 に 直 し
て見 当 をつけることを指 導 することが必 要 であろう。当 然 ,大 学 1年 生 に 対 する量 感 の指 導 法
は,私 の担 当 であり,意 図 せず大 学 生 の数 理 認 識 の課 題 も明 らかとなった。
3.終 わりに
本 実 践 では,教 員 養 成 の授 業 における児 童 観 を把 握 する方 法 として,実 践 的 に認 識 調 査 の
作 成 ・実 施 ・分 析 を行 う試 みを消 化 した。初 めての認 識 調 査 の作 成 のため,学 生 の振 り返 りで
は,「認 識 調 査 の問 題 に不 備 があり,回 答 の理 由 を考 察 することができなかった」「 認 識 調 査 を
行 う場 合 は,選 択 したわけを書 く欄 を用 意 した方 が良 いということが分 かった 」など,認 識 調 査 の
作 成 に反 省 があったことが分 かる。言 い換 えれば,この活 動 を通 して,認 識 調 査 の効 果 1)を体
験 的 に理 解 したといえる。また,「実 際 に現 場 に出 て授 業 研 究 する時 は,子 どもたちの考 え方 が
わかるような調 査 問 題 を作 成 したい」「調 査 問 題 の作 成 や回 答 の集 計 が大 変 で,いっぱい頭 を
使 ったけどとても有 意 義 な時 間 だった」という感 想 が多 く見 られた。このような経 験 をもった学 生
が,子 どもたちの算 数 の認 識 を把 握 した上 で,新 たな授 業 改 善 を提 案 できるこ とを期 待 したい。
【引 用 ・参 考 文 献 】
1 ) 渡 邉 伸 樹 (2013),「現 職 教 員 の再 教 育 に効 果 的 な研 修 に関 する実 践 的 研 究 その1」,『数
学 教 育 学 会 誌 Vol.53/No.3・4』,数 学 教 育 学 会 ,121-129
2) 太 田 直 樹 (2015),「数 学 教 育 における認 識 調 査 を活 用 した実 践 研 究 」,『福 山 市 立 大 学 研
究 紀 要 第 3巻 』,11-18