SURE: Shizuoka University REpository

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「教職に関する科目」におけるオムニバス型授業の効果
に関する研究 : 「学び続ける力」の育成に着目して
長谷川, 哲也; 島田, 桂吾
静岡大学教育学部研究報告. 人文・社会・自然科学篇. 66,
p. 147-160
2016-03
http://doi.org/10.14945/00009526
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静岡大学教育学部研 究報告 (人 文 ・社会・ 自然科学篇)第 66号 (20163)147∼ 160
147
「教職に関す る科目」におけるオムニバス型授業の効果に関する研究
― 「 学 び続 け る力 」 の 育 成 に着 日 して一
Study on Efect of the O― bus Type Class h・ Sュ 匈ectS Related to Te血 ng Profession・
:
Focushg on the Development of"Ab■ サ to Contmue Learnmg
長谷川
哲
・・ 島
也
田 桂
吾“
Tetsuya HASEGAWA and KeigO SHIMADA
(平 成
27年 10月 1日 受 理 )
The purpose of this study is to examine how the omnibus― type class of‖ education and
society・
which purpose is learning the relations between keep― changing society and
education, contributes to the promotion of the iatures and abilities of teachers The
establshment of・ Ideal teacher who has ablけ to cOntinue lea― gi is required,therefore it
pald especlally attenion to‖ abihty to conttue learmgL
Thls research clarined ttrst nOt Only the・
abil■ y
to c¨血 ue learninピ
natures and abilHes have unproved through thls dass Se∞
nd,"abil■ y
i bⅢ
also a lot of the
to conunue lem・
has imprOved more in connection with variety contents of society, like educational
adminお 廿aion From the above,■ could be sald that thお dasS conmbuted to the promotlon
of Wability to continue learning‖
and the development of the educational standpoint of
students
l
はじめに
「教育の質」がそのまま「教員の質」 として捉 えられる今 日、学校や子 どもをとりまく環境
の変化 に伴って、新たな教貝像の確立が求められている。2012年 の中央教育審議会 (以 下、中
「教
教審)答 申「教職生活の全体 を通 じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」では、
員が探究心 を持ち、学び続ける存在であることが不可欠である」 として、教職生活全体 を通 じ
て学びの意欲を継続 して持ち続ける「学び続ける教員像」の確立が必要であると指摘 している。
2015年 の中教審「 こ
こうした「学び続ける教員像」の確立は今 日でも引き続 き強調されてお り、
れからの学校教育 を担 う教員の資質能力の向上について (中 間まとめ)」 では、主体的に学び
続ける教損 の教職生活 を支える仕組みについて検討されている。
この ような中教審を中心 とした「学び続ける教員像」の議論では、その前提 において、グロー
バル化、情報化、少子高齢化 といつた、今日直面する急激な社会変動がある。例えば、上記の
2012年 中教審答申では「社会 の急速な進展 の中で、知識・技能の絶 えざる刷新が必要である」
ことを、また2015年 中教審中間まとめでは「 社会がどのように変化 しようとも、その時々に必
要な知識・技能を身に付けることので きる探究心や学び続ける意識をもつ」 ことを、それぞれ
'附 属教育実践総合センター
・
・ 教職大学院系列
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哲
也
島
田 桂
吾
示 している。つまり、教員はなぜ学び続けなければならないのか、とい う問いに対する一つの
とが挙げられているのであ り、脚噺化するような固定された知
考え方 として、急激な社会の変イ
識や技能を習得するのではなく、社会の変化 に対応 して知識や技能を刷新す るための探究心や
″
学 び続ける姿勢を身に付けることが重視 されているのである。
それでは、 この ような「学び続ける教員像」を確立するため、養成段階ではどのような学び
が求められるだろうか。上記の議論では、社会の変化 に対応することが強調されていることか
ら、根本的には、社会を変化するものとして捉え、教育 を変動社会の中に位置づけてい くこと
が求められる。そこで本研究が注 目するのは、静岡大学教育学部
(以 下、本学部)で 開講 して
いる「教育 と社会」 という科 日である。
「教職に関する科 目」 として位置づいてお り、教育職員免許法施行規則第
「教育 と社会」は、
6条 別表第3欄 に規定された「教育に関する社会的、制度的又 は経営的事項」を含めることが必
要な科 日として開講されている。 この項 目を合めることが定められたのは、1987年 の教育職員
「大学において教職に関す る専門教育科 目を弾力的に開設すること
養成審議会答申において、
ができることをより明確 にするため、現行の教職に関する専門教育科 目の表現 を履修すべ き分
野やそのねらい等 を明らかにするように概括的な表現 に改める必要がある」と指摘 されたこと
に拠 るものである。 この「概括的」 とい う観点に立てば、上記の事項から教育を俯蹴的・全体
「教育 と社会」を位置づけることが
的に把握 し、教育 と社会の関連性を理解する科 目として、
で きるだろう。
ただし、大学の授業内容は基本的には担当教員 に委ねられてお り、学生の学 びは担当教員の
専門分野に依存するため、従来のように一人の教員 だけで授業 を担当す るスタイルで、はたし
て「概括的」な学びが達成 されるのかという疑間は残 る。そこで本学部では、2014年 度の「教
育 と社会」の授業 を、研究者教員2名 と実務家教員2名 の.14名 で担当 し、教育の理論 と実践 を
幅広 く捉え、それ らを結 びつける感覚を養 うことができる構成 とした。また、4名 の専門分野
を生かして、教育を機能・構造や法制度から概観するマクロな視点 と、教育委員会や学校・教
員から観察す るミクロな視点を設けることで、重層的 立体的に現代 日本の教育に迫 るプログ
ラムを開発 した。
│
以上、本研究では、
「概括的」な観点から設計 した2014年 度の「教育 と社会」の授業において、
教員に必要 とされるどのような資質能力が育成されたのか、その教育効果を検討する。 とりわ
「学び続ける教員像」の確立が求められることを背景 として、変化する社会 と教育 との関
け、
連性を扱 う「教育 と社会」の授業が、学び続ける姿勢の育成にどのように寄与 しうるのかとい
う観点か ら分析を進めたい。
2
「学び続ける教員」の育成に関する議論
教員はなぜ学び続けなければならないのか。この問いに対する一うの考え方 として、上記の
中教審では、社会の変化への対応が指摘 されていた。 とりわけ変化の激 しい今 日ではこの点が
強調されるものの、そもそも教職 とい う仕事 自体が持つ特殊性から、
「学び続ける教員」が議
論されることがある。例えばローティは、他の専門職 と比較 して教員の仕事が不確実であ り、
それを「職業的風土病」であると指摘 した (Lone,D C 1975)。 これは、教育実践が文脈 に依
存するものであり、価値がきわめて多元的であつて評価 も定まらず、成果も見えづ らい営みで
あることに由来する。一方でシヨーンは、不確実性が脅威 となってしまう「技術的熟達者」 と
「教職に関する科目」におけるオムニバス型授業の効果に関する研究
149
い う見方 に とらわれるのではな く、 この不確実性 を正面か ら受け止め、 自分 自身の実践 の 中で
あ るい は実践 について (∝ )省 察 し、そ こか ら学 ぶ とい う「反省的実践家」 とい う概念
を提示 し、教員 をめ ぐる新 たな専門職像 をとして援用 されてい る (SchOn,D1983)。 と りわけ
(h)、
日本 の教員 は、学校や子 どもに関 わるあ りとあ らゆる事柄が仕事 として回収 される無境界性 と
い う性質か ら、仕事 に応 じた多様 な資質能力が求め られるとい う文脈 の 中に存在 してい る。す
なわち教 員 は、単 に固定 された知識 や技術 を実践 に適用 す るのではな く、その知識や技術 を刷
新 してい くために、常 に自分 自身の実践 を省察す る「反省的実践家 Jで あ り、その意味におい
て「学 び続ける教員」が位置づ けられる。
加 えて、今 日の学校教育 で求 め られてい る子 ど もの「新 たな学 び」 をめ ぐって、「学 び続け
る教員」 が議論 される こともある。高橋 (1997)に よれば、産業 の近代化が国家的課題 であつ
た時代 には、労働 に向けて準備 される知識・技能 や測 定可能な学力 の育成 に方向づ けられ、生
産性 の向上に寄与す る「 目標達成型」 の学 びが求 め られてい た。 ところが、今 日のよ うな不確
実 な時代 を生 きてい くためには、他者 との関わ りのなかで意味あ る生 を探求することが 目標 と
な り、一 人 ひと りの生 きる意味 の充実 と結 びつい た「 目標探求型」 の学 びが求め られるとい う。
この ような「教 える こと」 の重視か ら「学 ぶことJの 重視へ とパ ラダイムが転換 した ことで、
学校教育の担い手 として、知識・技能を漏れなく教える教員ではな く、自律的 主体的に生 き
る力 を育てることができる教員が要請される (高 橋 21113)。 つ まり、教員の役割が「教える専
門家」から「学びの専門家」へ とシフトしたことで、教職は学び続けることなしに遂行で きな
い職業 とな り、生涯学び続ける教損 とい う専F5家 像が形成されたのである (佐 藤 2015)。
一方でこのような「学びの専門家」へのシフ トが、教員主導の授業から子 どもの学びを中心
とす るシステムヘ と変化 した点だけではなく、教師教育自体が養成段階のみならず現職段階 も
射程に入れた生涯学習へ と発展 しつつあるとい う点からも説明 される (佐 藤 2015)。 例えば今
津 (2012)は 、国の教員政策が教育職員免許法などの資格に関する法制度 を中心 としてお り、
教員免許 という資格が与えられた時点で資質能力 は一定の水準 に達 していると判断されがちで
「学び続ける教員」を育成す る制度的課題 を鋭 く指摘す る。その うえで、ある時
あるといい、
期までに発達がおおむね完了 してしまう「子ども発達モデルJで はな く、成長は生涯の長期 に
わたつて継続す る「生涯発達モデル」に転換すべ きとしている。実際に研究レベルでは、稲垣
ほか (1988)や 山崎 (21X12)の ライフコース研究、川村 (21X19)の ライフヒス トリー研究など、
「生涯発達モデル」を前提 としながら、教職生活全般 を通 じた教員の成長が描き出されている。
以上のように、教職 とい う仕事自体が持つ特殊性、子 どもが主体 となる「新 たな学び」の実
践、
「生涯発達モデル」にもとづ く教員の成長な ど、い くつかの文脈から「学び続ける教員像」
の確立が求められていることが確認できる。他方でこうした議論は、やや現職段階に重 きを置
くものであり、養成段階における「学び続ける教員像」の確立 とい う視点から、 どのような議
論が展開で きるだろうか。 ここでは以下に二点述べておきたい。
一つ 目は、探究心の育成である。今津 (2012)は 先 に示 した「生涯発達モデル」に転換すべ
きとする一方、大学教育では既成の知識 技能の成 り立ちや応用方法などの習得を通 して、常
に探求するとい う姿勢 を身に付けることが学びの中核 になるとしている。つ まり養成段階では、
既成の知識・技能の体系 を表面的に教授するのではな く、資質能力の根底 にある探究心を育む
ことで、その後の教職生活で必要 とされる多様 な資質能力を育成 し、あるいは刷新する原動力
になると指摘する。ここでは、養成段階で培われた探究心を原動力 とする学 びのサイクルとし
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吾
て「学 び続ける教損像」が想定されるのである。
二つ 日は、
「行為についての省察」である。
「反省的実践家」 とい う概念を示 したシ ョーンに
よれば、実践から学ぶための省察には、実践の文脈 に沿つて自らの行為を省察する「行為のな
かの省察 (re■ eci∞ 血閾面on)」 と、自らの行為を対象化 して複lll的 に省察す る「行為 につい
ての省察
(re■ ectlon‐ on
acJon)」
があるとい う (Schon,D1983)。
この うち、教員が実践から
「行為のなかの省察」の重要性がたびたび強調されている (例 えば、佐藤 2015な
学ぶ際には、
ど)。 一方で油布 (2013)は 、学校現場 に影響 を及ぼす諸要因が複雑 になるほど、社会的状況
からそれらの諸要因を見極め、学校現場 を相対化できるような力が求められるとい う。そ して
こうした力は、自らの行為 を複限的に省察する「行為 についての省察」を通 して育まれる。
「大
学における教損養成」は、学校現場の文脈からあえて独立 しているからこそ、実践における自
分 自身の行為を相対化 し、社会 との関係 において教育 を布置する視野の育成が目指せるのであ
る (1)。
3.本 学部における「教育と社会」の設計
3-1
教員や学校をとりまく広範な文脈を把握するための授業
「教育 と社会」はA組 ∼D組 の4ク ラスで構成 されている。平成25年 度 は教育社会学 と教育行
政学 を専門 とする2名 の研究者教員が2ク ラスずつ害Jり 当てられ、全15回 を各担当教員の専門分
野 に特化 して実施 した。この方式では各担当教員の専門分野 について深 く学ぶことがで きる一
「教職に関する科 目」第3欄 に記載されている
方で、同じ授業科 日で も学習する分野が異なり、
「社会的、制度的又 は経営的」を網羅的に学習させることは難 しい現状があった。また、実戦
的指導力が求められる今 日においては、研究者教員 による理論 を基盤とした講義だけではな く、
実務家教員 による実践を基盤とした授業 を求める機運が高まりつつあつた。
上記のような課題を改善するための方策 として、平成26年 度 は、2名 の研究者教員 (教 育社
オムニバス形式で授業を実
会学・教育法規)と 2名 の実務家教員 (学 校経営・教育行財政)カ ド
施す ることを企画 した。特徴 としては以下の三点が挙げられる。
第一 に、研究者教員 と実務家教員 をバ ランスよく配置した点である。教職大学院が法制化さ
れて以降、
「理論 と実践の融合」の必要性が指摘されるようになってきたため、研究者教員 と
実務家教員がオムニバス形式で授業を行 うことで学部授業 においても「理論と実践の融合」を
意識 した授業の在 り方 を検討することができるとともに、学生へ「理論 と実践の融合」を図る
資質能力 を醸成することにつながると考 えたからである。
「教
第二 に、マクロな視点とミクロな視点からの講義 を試みた点である。本学部1年 生では、
「専門基礎」など、教員 として「教える」
「発達と学習」や「教科教育法」
職入門」「教育原理」
ことに主眼を置いた授業が多 く設定 されているが、こうした授業だけでは教育への捉 え方が偏
る可能性 もあ り、教育 と社会 との関わ りを広 く捉える多様 な視点を身に付けることが重要であ
ると考えたからである。具体的には、教育を「機能や構造、法制度から俯隊す る」 とい うマク
ロな視点 と「教育委員会や学校、教師から観察す る」 とい うミクロな視点を融合 した学びに
よって、重層的・立体的な現代 日本の教育に迫ることをねらい とした。
第三に、授業構成のイメージを学生に常に意識させた点である。 これは、学生が一つ一つの
授業 を細切れのものと認識 しないためにもヾ学生が本時は何について学んでお り、その前後関
係が どのようなものであるかを学生に意識させることが重要である。具体的には、1回 目のオ
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「教職に関する科目」におけるオムニバス型授業の効果に関する研究
リエ ンテー シ ョンで4名 の担 当者 が共通 のパ ワー ポイ ン ト資料 を用 い て授業 の構成 を丁寧 に説
明 し、担当者が クラスを入れ替 わる際 に も担当分野 の位置づ け を説明す るな ど、授業構成 のイ
メージを常 に学生 に意識 させ ることを心掛 けた。
3-2.具 体的な授業 プログラム
本授業は、①教育社会学、②学校経営、③教育法規、④教育行財政の4分 野から授業 を構成
することとした。本授業の授業計画を表1に 示 した。以下では、4分 野ごとの授業内容 を概観す
る。
表1 授業計画
(例
:A組 )
分 野・ 授 業 内 容
回
担 当教 員
1
オ リエ ンテ ー シ ヨン (授 業 の 日標 と内容 、進 め 方 、評 価 の 方 法 等 )
長谷川 哲也
2
教育社会学① 教育の社会的機能 とその特徴
長谷 川 哲也
3
教育社会学② 変動社会における教師の仕事と役割
長谷 川 哲也
4
教育社会学③ 子どもをめぐる今日的課題の構造
長 谷川 哲也
5
教育行財政① 教育行政の基礎
6
教育行財政② 教職員研修の実際
7
教育行財政③ 教育改革の課題
8
中 間 ま とめ (2∼ 7回 の 授 業 分 )
9
教育法規① 教育法規の基礎
(法 体系、法令の読み方、法律用話)
島 田桂 吾
10
教育法規② 教育法規の体系
(憲 法、教育基本法、教育公務員特例法等)
島 田桂 吾
11
教育法規③ 教育法規の解釈
(教 職員制度、いじめ等の裁判)
島 田桂 吾
学校経営① 学校組織
(教
学校経営② 校長の役割
(教 育委員会制度について)
三 ッ谷 二 善
(静 岡県の教職員の研修)
三 ッ谷 二 善
(理 想の学校教育の実現を目指 して)
三 ッ谷三普
師はどんな仕事しているの?)
(校 長はどんな仕事をしているの ?)
学校経営③ 学校の危機管理
三 ッ谷二善
(学 校は様々な危機にどう対応 しているか)
中 間 ま とめ (9∼ 14回 授 業 分 )、 全 体 ま とめ
山 口久 芳
山 口久 芳
山 口久 芳
山 口久 芳
① 教育社会学分野
【1時 限目】教育の社会的機能 とその特徴
本時では、潜在的なカリキュラムとその機能をとりあげ、具体的には以下の二つ を例示 した。
第一 に、 トイレの「赤い人/青 い人」 とい う表示 により、色や形によつて性別を認識 している
ことから、学校教育において「男 らしさ」や「女 らしさ」 といったステレオタイプの性別観が
醸成 されているという例である。第二に、生徒であるA子 と教師であるB男 が学校内で生徒指
「生徒」 と「教師」とい う関係や「学校」 とい う場が、両者の権力関
導が成立す ることから、
係 を規定 しているとい う例である。 この二つの例から、個人の行為は社会構造が求める何 らか
の役割を遂行するとい う「構造機能主義」 と、子 どもは社会の支配的な価値に向かい、社会の
成員 としての役割遂行 に必要な能力を身につける「社会化」 とい う考 え方を示 し、 こうしたマ
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也
島
田 桂
吾
クロな考 え方で現象 を切 り取 つたときにはじめてみえる教育や学校の社会的機能 を理解させた。
2時 限目】変動社会 における教師の仕事 と役割
【
本時では、近代以降に展開されてきた「聖職者論」と「労働者論」 という2っ の教職観を対
比させた。まず「聖職者論」では、明治以降に天皇を中心 とした国家体制 を樹立するための担
い手 として、教職は天から与えられた職業 (天 職)で あるという性質が強調され、清廉潔白な
存在 として社会の信任 を得ていつたことを学習させた。次に「労働者論」では、敗戦を機に、
日本国憲法の もとで民主主義社会の樹立を目指 し、権利 としての教育を実現することが求めら
れる中で、教師もまた経済的地位や労働者 としての権利を主張する存在 となったことを学習さ
せた。 このように社会変動 を背景 として登場 した「聖職者論」と「労働者論」 とい う2つ の教
職観を通 して、教師が社会 とは切 り離された学校の中だけで生 きる存在ではなく、むしろその
仕事や役割 を社会が規定する側面もあることを理解させた。
【3時 限目】子 どもをめ ぐる今 日的課題の構造
本時では、
「 い じめ」をテーマ として、公的な統計データと理論的研究の知見から、い じめ
とい う現象 に迫 った。まず「教育の課題」 とされる背景について、1980年 代以降、い じめがマ
スメデイアを通 じてセンセーショナルに報道されることにより、い じめが「よくないこと」 と
して認識 される枠組みが社会的に共有 されるようになったことを示 した。その上で、い じめの
認知 (発 生)件 数の統計 をみると、い じめに対す る社会的なまなざしの変化によつて定義や調
査方法が変更されてお り、それに伴 つて統計の数値が乱高下することを確認 した。さらにい じ
めを行為 レベルで単純にみれば「被害者」 と「加害者」の二者間関係 しかみえないが、現象 と
してマクロな視点でみればその二者 を取 り巻 く「観衆」 と「傍観者」 とい う四層構造であるこ
とを確認 した。い じめに対するこうした見方の転換 により、今 日的に「教育の課題」とされる
現象を構造的に捉える重要性を理解させた。
② 教育行政分野
【1時 限目】教育行政の基礎―教育委員会制度について一
本時では、教育委員の集まりである教育委員会 (狭 義)と 教育長及び事務局 を含めた教育委
員会 (広 義)が あることをおさえた。次に、レイマンコン トロール、政治的中立性、継続性・
安定性等の教育委員会の果たす役割、また教育委員長 と教育長の違いに留意 しつつ、教育委員
の任命 の在 り方について理解させた。教育委員会制度の歴史については、戦後、教育の民主化
の中で、教育委員会制度は誕生 し、教育委員は住民の直接選挙で選ばれたが、米 ソの冷戦下、
逆 コースが進行 し、地方教育行政法が制定され、教育委員 は首長による任命制に変わつた。ま
た、その後の同法の改正を団体自治及び住民自治の強化の観点から理解させた。制度の改革に
ついては、今なぜ教育委員会が問われるのかを、大津市の中学生のい じめ自殺事件 と首長の教
育委員会批判を基に説明 した。新たな教育委員会制度については、中央教育審議会が示 した制
度改革案 と別案を取 り上 げ、それぞれの案 における首長、教育委員会 (狭 義)、 教育長の位置
づけに注 目させた。その後、国会に提出された改革案について、首長の主宰する総合教育会議、
教育委員長 と教育長を統合 した新教育長を中心に、課題を含め考察 させた。
【2時 限目】教職員研修の実際―静岡県の教職員の研修―
本時では、教職員研修について、教育基本法、地方自治法、教育公務員特例法 の規定から、
教職員の研修は義務であるとともに権利であるとの認識が大切であることをおさえた。研修の
「教職に関する科 目」におけるオムニバス型授業の効果に関する研究
153
具体 については、静 岡県教育委員会が策定 した「静 岡県教職員研修指針 J(平 成23年 )及 びそ
れに基づ く実際 の研修内容 を教材 と した。 また、初任者が安心 して4月 を迎 え られるように、
近年 は採用前研修 も行われて い ること も紹介 した。研修 は、初任者研修や5年 経験者研修 の よ
うに義務 として参加す るものの他、採用前研修のように希望 により参加で きる研修があるので、
積極的に参加 し、教員 としての力量向上に努めるべ きことを確認 し、まとめとした。
【3時 限目】教育改革の課題―理想の学校教育の実現 を目指 して一
本時では、静岡県教育委員会が設置 した有識者会議である「理想の学校教育具現化委員会」
の提言 を手がか りとして、学習 を進めた。同提言は「学校を取 り巻 く実態状況調査報告書」 を
基にしていることから、まずその内容を概観させた。また、学校教育の改善を図るために、提
言 は、教員の子 どもと向き合 う時間の拡充 と指導準備時間の確保 に向けて、施策提言をまとめ
ていることを理解 させた。その際、子 どもと向き合 つて行う指導の質 を高めるためには、子 ど
もと向き合わず、指導の準備 を行う時間の確保が必要であることを確認 した。数々の施策の中
では、静岡県の特色である「静岡式35人 学級」 を特に取 り上げ、その内容及び成果 と課題 につ
いて説明 した。施策推進上の留意点にも触れ、施策の優先順位、国 と地方の役割分担、市町教
育委員会等 との連携 ・協働が大切であることをおさえた。最後に、静岡県教育委員会の施策提
言の具現化状況 を見てまとめとした。
③ 教育法規分野
【1時 限目】教育法規の種類 体系 ・解釈
本時では、成文法 には国家法令である憲法・法律 ・政令・省令、自治法令 として条例・規則
「法律 は法規の一種類」であることを理解 させた。次に、日本国憲法
等があることを説明 し、
及び教育基本法・学校教育法などの体系図を示 し、教育法規は複数の法規が関連 し合いながら
成立 していることを示 した。さらに、学校教育法第33条 、学校教育法施行規則52条 、小学校学
「文部科学大巨が公示す る教育課程の基準である学習
習指導要領等の条文 を参照させながら、
指導要領 の範囲内で各学校が策定する」 ことを理解 させた上で、伝習館高校事件最高裁判決
(H2118)の 事例 をベースに、学習指導要領 は「法律 の委任」によつて法的拘束力を持つ と解
釈 されていることを理解 させた。
【2時 限目】学校 ・義務教育の制度的理解
本時では、教育基本法の旧法 と新法の条文の変化 を示 したあと、教育基本法の基礎的な事項
の解説を行 つた。次に、
「学校の種類」をグループで考 えさせたあと、学校教育法について解
「法律 に定める学校」 とは「一条校」 を指 し、
「公の性質」 を担保するために、特例を除
説 し、
き、国、地方公共団体、学校法人のみ設置が認められていることを説明 した。また、義務教育
「 日本 に住 む外国人に就学義務
制度について、就学義務 と学校設置義務の概念 を説明 した後、
はあるのか P」 などクイズ形式で問題を提示 し、義務教育制度の解釈を理解させた。さらに、
「教科書 はどこが採択す るのか ?Jと い う問いを提示 し、地方教育行政法 と教科書無償措置法
の解釈 をめ ぐる文部科学省 と竹富町の主張 を紹介するとともに、法律の間で矛盾が生 じる場合
もあるため、法律が規定 している根拠を考察する重要性 を理解 させた。
【3時 限目】教員の制度的理解
本時では、教育基本法、地方公務員法、教育公務員特例法の一部条文 を取 り上げ、一般公務
員 と比較 して特例はあるが、懲戒処分 と分限処分、指導不適切教員等の存在があることを示 し
154
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吾
た。次に、実際に起 きたい じめ自殺事件 の概要を読ませた上で「 (こ の)学 級担任が損害賠償
として保護者にい くら支払 ったか ?」 とい う問いを提示 し、グループで予想させた。その後、
国家賠償法の趣旨を解説 しながら、教員個人に損害賠償請求がなされないなど、法律で守られ
ていることを示 し、法規を学ぶ重要性を理解させた。また、教員 の責任 は重責であることから、
自己の崇高 な使命を自覚 しながら「学び続けること」の重要性 も理解させた。
④ 学校経営分野
ヽ
【1時 限目】教員の1日 の勤務 を知る
本時では、まず、教員が一 日をどのような仕事 をしているのかを把握させるために、中学校
に勤務するある着手教員の終日の行動を写真に撮 つて来たものを提示 し、それぞれの場面での
教員の児童・生徒への具体的な働 きかけやその言動の意図を考えさせた。次に給料以外の手当、
例えば主任手当、部活動手当や宿泊を伴 う修学旅行での手当にういてもその詳細を説明した。
その上で、教員 とい う仕事 の苛酷さ多忙感 を克明に説明した。学生の中にも「教員 は忙 しい」
とい うことは知識 としては有 しているが、実務家教員の実体験 を語 ることで具体的なイメージ
を抱かせることにつながるように意識 した。
【2時 限目】中学校 の生徒指導 とその対応
本時では、生徒指導困難校での実態 を話 した。実際に実務家教員が経験 した事例をベースに
して、生徒指導の具体的な実践方策について講義 した。特に、一貫 して強調 した点は、
「排除
の論理」では、学校 を建 て直す事 は難 しい とい う事であった。そのため、クラス内でリーダー
を育てることを主眼にお くことで、問題行動を起 こす生徒 に対 して抑止力になることを期待す
る側面についても解説 した。また、法的な措置で学校 の荒れを立て直 した事例 を基にして、法
による抑止 も性行不良生徒を最後の手段 として「法によつて守 つた」 という事 を強調 した。 こ
の事例 を通 じて、問題行動を起 こす生徒 に対する学校内の教員の意識を統一す ることの難 しさ
や警察 との連携の在 り方などを考えさせる契機 とした。
【3時 限目】校長の仕事
本時では、学校経営分野のまとめとしてく校長の仕事 について解説 した。また、実務家教育
が実際に行 つた学校経営 ビジョンに基づいたグラン ドデザインを示 しながら、校長 は、明確な
ビジ ョンによって職員を率いる事が大切であることを説明した。また、
「無識の指揮官は殺人
犯なり」であることから、校長が学校経営のリーダーとして求められる資質能力 を示 しながら
も、教え子達や同僚達と音楽を共にした日々が校長としての生 きがいであることを強調 した。
3-3
学生の能動的な学びを設計
本授業では、学生の能動的な学びを設計するための工夫 を主に二点行 った。
まず、 コメン トベーパーの活用である。各回授業の最後に5分 ∼10分 程度で授業内容を踏ま
えて感 じたことや考えたことをまとめる作業 を行わせた。その際に、テーマを限定 しないこと
で、学生の自由な発想 を醸成することを期待 した。また、 コメン トベーパーに書かれた内容は
次回の冒頭で特徴的なコメン トを紹介することで学生の学ぶ意欲を高めさせることを企図した。
さらに、原則 としてコメン トペーパーは返却することで、学生に学んだことが蓄積 されている
ことを実感させることをねらい とした。
次に、最終回である第15回 にリフレクションを取 り入れた点である。 この意図は、ショーン
「教職に関する科 目」におけるオムニバス型授業の効果に関する研究
155
が指摘 した「反省的実践家」の理念を参照 しながら、本授業を通 じて学んだ内容に関す るリフ
レクション
(re■
eclm in acin)及 び学生 自身の学 びに関するリフレクション
(reflecion on
acion)を 行 うことにある。具体的な手順 として以下の四点を実施 した。第一 に、本授業の内
「① この授業で学んだことをまとめて ください。② この授業で学んだことを通 じて、
容を踏まえ、
身についたと思 う能力をまとめて ください。 (こ れから身につ きそうだ と思う点 も可)」 とい う
課題で事前にレポー トを作成 し、第15回 に持参させた。 これを、レポー ト作成 を通 じて学習者
が1人 で行う「自己リフレクシ ョン」として位置付けた。第二に、第15回 の前半にオリエンテー
ション時の資料 を用いながら、改めて本授業の 目的 と内容を確認 した。第三に、持参 した「自
己リフレクション」 (レ ポー ト)の 内容を4人 程度のグループで共有 した。 これを、本授業で学
んだことを多様 な視点から共有す る「対話 リフレクシ ョン」 として位置付け、グループは学科
や専攻が偏 らないように講師側で事前に指定 した。第四に、
「対話 リフレクシ ョン」をふまえ、
最後 に「大学卒業後に社会人 として働 くにあたり、 これからの課題だと思 うことをまとめてく
とい う課題を
ださい。 (教 員 を目指 している人は、教員になると仮定 して考えて ください。
)」
「対話 リフレクシ ョン」を通 じて、自分 自身の学 びを相対的に捉えるとと
提示 した。 これは、
もに、今後の課題を自ら設定することで「学び続ける力Jの 育成につなげることを意図 したも
のである。
4 「学び続ける力」の育成に焦点を当てたアンケー ト調査の結果分析
4-1「 授業開始時アンケー ト」と「授業終了時アンケー ト」の比較
本授業によって教職志望度にどのような変化が見 られたのか、本授業の目標に示 された内容
及 び教員 として必要 な資質能力の理解度にどのような変化が見 られるのか等 を分析するために、
第1回 目に「授業開始時ア ンケー トJ、 第15回 目に「授業終了時ア ンケー ト」 を実施 した。
まず、現在の「教職志望度」の設間について「1絶 対になりたい」
「2か なりなりたい」
「3や
やな りたい」
「4な りたい とは思わない」
「5未 定・わからない」の5件 法で尋 ね、各回答の割
合 を示 したものが図1で ある。その結果、開始時 と終了時ではほとんど変化がないことが示 さ
れた。教育 を俯賊的・全体的に把握 し、教育 と社会の関連性 を理解 させることを目指 して設計
した本授業ではあるが、こうしたことを理解することと、教職への志望が高まるかどうかとい
うことは、大きく関連 していない と推察される。
「本授業の目標 と関わつて、あなたは現在、以下のことをどれ くらい理解 していると
次に、
思いますか」 とい う設間に対 し、
「4+分 理解 している」「3や や理解 している」
「2あ まり理解
していない」
「1理 解 していない」の4件 法で尋 ね、各回答の書J合 を示す。
「授業開始時」の結
「十分理解 している」
果が図2、 「授業終了時」の結果が図3で ある。いずれの項 目において も、
「やや理解 している」の割合 は開始時 より終了時の方が上回っている。特 に、「学校組織の仕組
みや機能」
「教育 を支える諸法規のあ り方」
「教員研修や職能成長の仕組み」の理解度が高まっ
たと回答 している割合が増えているが、この授業で初めて学ぶ内容だったことが影響 している
と推察される。また、
「教師の地位や役割、使命」や「教育や子 どもをめ ぐる今 日的な課題J
について理解度が高まっている様子が看取されるが、上記の内容を学習することで教員の仕事
や教育課題の捉え方 を深めることにつながる可能性が指摘 される。
156
長谷川 哲
■絶対になりたい
也
島
田 桂
吾
ヽややなりたい
棗かなりなりたい
、
│な りたいとは思わない 、
・わからない
未定
図1 教職志望度における「開始時」と「終了時」の比較
社会 での教 育 の機能 、役割
N■ 375
社 会 で0致 青 の機 能 役割
N■ 387
藪 師 の地 位や 役割 、使 命
N■ 76
教 師 の地 位 や役 割 、使 命
N‐ 387
管理職 0仕 事 内害 や 役割
N・ 375
管 理職 の仕事 内容 や役 割
学 校組 織 の Itlみ や機能
N■ 376
学校 In織 の仕 IEみ や 機能
教 青 を支 える晴 法規 のあり方
教 育を支える諸ま 規 の あり方
N386
N・ 387
教宙 行 政 や教 育委 員会制 度
教 育 行政 や漱 青委 員会 制 度
N→ 76
。
s
N387
教 員研修 や職 能 成長 の■組 み
Nヨ 76
教 員研 修 や職能 成 長 ●仕 組 み
教 育改 革 の動 向やその影 響
N・ 876
教 育 載車 の動 向 やその影響
教 育 や子どもをの今 日的課 題
数 青 や子 どもをの 今 日的 課題
N→ 87
N・ 376
0% 20% 40% 60% 80%100%
0% 20% 40% 60% 80%100%
ll十 分理解している
□やや理解している
●十分理解している
口やや理解している
□あまり理解していない
●理解していない
口あまり理解していない
●理解していない
図2 本授業の目標に関する理解度
(開 始時)
図3 本授業の目標に関する理解度 (終 了時)
さらに、「教師として必要な資質能力のうち、あなたは現在、以下のことをどれ くらい理解
していると思いますか」という設間に対 し、
「4+分 理解している」
「3や や理解 している」
「2あ
まり理解 していない」
「1理 解 していない」の4件 法で尋ね、各回答の割合を示す。「授業開始時J
の結果が図4、 「授業終了時」の結果が図5で ある。いずれの項目においても、「十分理解 してい
「教職に関する科 目Jに おけるオムニバ ス型授業 の効果に関す る研究
157
「授業実践 に
る」
「 やや理解 してい る」 の割合 は開始時 よ り終了時 の方が上回ってい る。特 に、
関す る知識や技能Jや 「子 ども理解お よび指導・支援 に関す る知識や技能 (子 ども理解等 の知
識や技能)J「 学級経営 行事 に関す る知識 や技能」が増 えてい ることか ら、教員の仕事が具体
「社会 の 中での 自己 の人間性や、他
的 に把握 で きるようになった可能性が指摘 される。 また、
者 とかかわ り等 の人間関係能力 (人 間関係能力)J「 自分 で考 え、判断 し、主体的 に行動 す る力」
「 自己を省察 し、学 び続 ける力」 は「授業 開始時Jか らやや理解度が高 い と回答す る傾 向が見
られたが、終了時ではよ り理解度が高 まった と回答す る割合が増加 してお り、本授業 は教 員 に
求 め られる資質能力 の育成 に一定程度寄与 で きた可 能性 が示唆 される。
教 師 の全 般 的な仕事 内容
∬
墨璽
墨鸞畢 畢
圏 L」
J三 二」 J
教 師 の 全般 的な仕 事 内容
=言
教 師 へ の熱意
教 師 へ の熱 意 使 命 責任 感
薦霞1責
任 感 ざざざざざざざ N麟 饉麗黎饉題麗慕 J
授 業 実践 に関す る知識 や技 能
授 業実 践 に関す る知 識 や 技能
子ど
も
理解等?聖甜やま能
子 ども理解 等 の知 識 や技 能
学 級経 営 行 事 の知 識 や 技能
f澤 露 二 111二 :====上
三二 J
地域 や 保護 者 の 知識 や理 解
地域 や保護 者の 知識 や理解
人間 関 係 能 力
人 F・l関 係撻 カ
主 体 的 に行動 す るカ
主体 的に,動 する力
自己を省察し
こ 3『
饉
けるカ
菫饉 IEl[I]
圏墨墨圏
ミ澤
詈晏
畢
0% 20% 40% 60% 80%10%
口+分 理解している
●やや理解している
0あ まり理解していない 0理 解していない
図4 資質能力の理解・習得度 (開 始時)
自己を省察 し 学び続 けるカ
0% 20% 40% 60% 80%10%
口十分理解している
回やや理解している
口あまり理解していない 口理解していない
図5 資質能力の理解・習得度 (終 了時 )
4-2
「学 び続ける力」との関連性
「学 び続 ける力J)
ここでは、本授業 の効果 について、
「 自己を省察 し、学 び続け る力J(以 下、
「学 び続 け る力」
との関連性 か ら検討 してみ よう。表2は 、授業開始時 と授業終了時 における、
と教職志望度、資質能力 の理解
習得度 、本授業 の 目標 に関す る理解度、多様 な視点 の理解
授業満足度 の相関係数 を示 してい る。
まず、「学 び続け る力」 と教職志望度 の相関係数 をみると、開始時の0191か ら終了時 の0148
へ と微減 してい る。いず れ も数値 は小 さ く、
「学 び続 け る力」 と教職志望度 との 関連性 はそれ
ほど強 くはない ものの、教員 に必要 とされる資質能力 の根底 にある「学 び続ける力」 を育成す
る ことが、必ず しも教職志望度 を高 めることにはつ なが らないこ とが示唆 される。
158
長谷川
哲 也
島
田 桂
吾
次に、
「学 び続ける力Jと 資質能力の理解・習得度の相関係数 をみると、すべての項 目にお
いて開始時から終了時で相関係数が高まっている。特 に「子 どもの理解お よび指導 ・支援 に関
「学級経営・行事 に関する知識や技能」、
、
「学校 に関わる地域や保護者 に関す
す る知識や技能」
る知識や理解」では、終了時には有意な値 とな り、
「学び続ける力」と結 びつ きが強まってい
ることがわかる。また、終了時の項 目間を比較する と、
「社会の中での 自己の人間性や、他者
とのかかわ り等の人間関係能力」(0511)や「 自分で考え、判断 し、主体的に行動する力」(0643)
は相関係数が高 くなつてお り、
「学び続ける力」 との関連性が比較的強いといえる。
「学び続ける力」 と本授業の日標に関する理解度の相関係数をみてみると、
「教師の
さらに、
地位や役割、使命」を除 くすべての項 目において開始時から終了時で相関係数が高まっている。
「教育改革
、
特に「教育行政や教育委員会制度の内容 と機能J、 「教員研修や職能成長の仕組み」
の動向やその影響」では、終了時には有意な値 となり、
「学び続ける力」 との結びつ きが強まっ
ていることがわかる。また、終了時の項 目間を比較すると、
「教育や子 どもをめ ぐる今 日的課
「学び続ける力」 との関連性が比較的強いといえる。
題」 (0426)は 相関係数が高 くなってお り、
「学び続ける力」 と多様 な視点の理解・授業満足度の相関
最後 に、終了時のみではあるが、
係数をみると、いずれも有意な値 となってお り、特に「実務家教員のミクロな視点と研究者教
員のマクロな視点の違いJ(0434)は 高 くなっている。
表2「 自己を省察し、学び続ける力」と各項目との相関係数
授 業 開始 時 (N)
教 職 志 望 度
(『 未 定 わ か らな い J器 く)
授 業終 了時 (N)
0148■ * 323
5
8
0300・ I**
4
8
0152■ ■
0351 ■
・I*
0511漱 `
0043絆 拿
0
0
0246■ ‖
0484■ ‖
0331摯 韓
0373摯 *摯
0361摯 *“
6
0
0126*
0098
0050
0074
6
0
0300・ I‖
0411 ■料
0337*‖
6
0
0245摯 轟
0372*中 *
6
8
実 務 家 教 員 の ミクロな 視 点 と研 究 者 教 員 の マ クロの 視 点 の 違 い
将 業 の 総 合 的 な満 星 庁
i!r!*: p<0.001 r '*'*: F<0.01i *: p<0.05
313
0
8
資 質能 力の理 解・習得 度
の
全
教職
般 的な仕事 内容
教職 に 対する熱意 や使 命 感・責任 感
授 業実 践 に 関する知識 や技 能
子 どもの理 解 および指導・支 援 に 関する知 識 や技能
学級 経 営・行事 に関する知識 や技 能
学校 にかか わる地域 や保護 者 に 関する知識 や理 解
社 会 の 中 での 自己の 人 間性 や 、他 者 とのか かわ り等 の 人 間 関係 能 力
自分 で考 え、判 断 し、主体 的 に行 動する力
本授 業 の 目標 に 関す る理 解 度
社会 における教 育 の機 能 や役害1
教 師 の 地位 や役割 、使 命
管理 職 の仕 事 内容 や役割
学校 組 織 の仕組 み や機 能
教 育 を支 える譜 法規 の あり方
教 育 行 政 や教 育委 員会 制 度 の 内 容 と機 能
教 員研 修 や職能 成 長 の仕組 み
教 育 改 革 の動 向 やその影 響
教 音 や子 ど亀をめぐる今 日的な課 題
多様な視 点 の理解 :授 業満 足度
0191*ネ
386
0126・I
0265**■ 386
0202・ 1 385
0159■ *
0298凛 *■
0145**
0078
0070
0100
0348**ネ 386
0320**・ 1 386
0331 *摯・1 383
0370*摯・1 385
0113*
I*・
386
0426絆 * 386
0434中 中* 381
0316***
382
以上、「学 び続 ける力」 との関連か ら本授業 の効果 を検討す ると、 次 の三点が い えるだろ う。
第 一 に、先 の 図5よ り終了時 に「学び続ける力」が高 まっていたことか ら、本授業の効果 とし
て「学 び続け る力」その ものの育成が窺 われることである。第二 に、開始時には「学 び続け る
力」 と他 の項 目との結 びつ きは限定的であ り、中で も教職へ の熱意や使命・役割 な どとの関連
が 日立 ってい たが、終了時 には教 育経営や教育行政 を中心 と して、 よ り幅広 い項 目との結 びつ
「教職に関す る科 目」におけるオムニバス型授業の効果に関する研究
159
きが強まったことである。第三に、終了時の「学び続ける力」 と各項 目との関連 をみると、学
校や教室における教育実践に関わる項 目よりも、教育 に限らず広 く社会 と関わる項 目や、教育
と社会 との関係 を理解する項 目において、相対的に結びつ きが強いことである。
5
おわりに
「学び続ける教員像」の確立が求められることを背景 として、変化す る社会 と
本研究では、
教育 との関連性 を扱う「教育 と社会」の授業が、教員 に必要とされる資質能力の育成にどのよ
うに寄与 しうるのか、とりわけ学び続ける力 との関わ りを中心 に分析を進めてきた。そこでは
まず、オムニバス型の「教育 と社会上の授業前後で、学 び続ける力を含む多 くの資質能力が向
上 しているとい う結果が明らかとなった。また、授業開始時には学び続ける力 と他の項 目との
関連は限定的であつたが、授業終了時には教育経営や教育行政など幅広い項 目と関連 し、相対
「教育 と社会」の
的には広 く社会 と関わる項 目との結 びつ きが強まっていた。以上のことは、
「学び続けるとは何か」 とい う学生
授業が学 び続ける力の育成 に寄与 しているだけではなく、
の捉 えも変容させている可能性を示 している。す なわち、本授業を通 じて学生は、教員 として
「教える」 とい う直接的な教育実践を高めるとい う意味だけではな く、教育を取 り巻 く広範で
複雑な条件・環境 を丁寧 に読み解 くという意味においても、学び続ける力を身に付ける必要性
を感 じたのではないだろうか ゛
)。
即戦力的で実践的な指導力が重視 されがちな今 日の教員養成改革ではあるが、他方で求めら
れる学び続ける力 とは、必ず しもそうした4/1ヽ 化された指導力 に回収されない汎用性のある力
であろう。学び続ける力を培 うための「学び」 とは何か。 これを明らかにし、実践す ることが
大学 における教員養成に課された重要な課題であるといえよう。
注
(1)榊 原 (2012)は 、物事 を多面的・複眼的 に捉 える ことがで きるメタ認知 の能力が、教員 の
健康 を保 ち、職務 を遂行す る上で も重要 であ ることを指摘 してい る。榊原に よれば、他者
の視点を弱 め、思考実験 や 自己開示 が出来な くなった状態 では、現代社会 における学校 の
役割や子 どもの様子、教員へ の期待や批判 を、 自らの経験 の限 りで理解 ・判断す ることに
な り、ひいてはそれがバー ンアウ ト (燃 え尽 き症候群)な どの心 身の不調 につ なが りうる
とい う。
(2)1つ の授業 を取 り出 して成果 の検証 をす る ことは難 しい ため、 この結果 が「教育 と社会」
の授業 のみによって得 られた ものではないことに留意す る必要があ る。
参考文献
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稲垣忠彦・寺崎昌男・松平信久編 ,1988,「教師のライフコースー 昭和史を教師 として生 きてJ
東京大学出版会。
川村光 ,211119,「 1970-80年 代 の学校 の「荒れ」 を経験 した中学校教 師 の ライ フヒス トリーー
教 師文化 にお ける権威性へ の注 目」『教育社会学研究』85,pp525
160
長御
│1哲 也
島
田 桂
吾
● 4■ d引 %ゴ c″ Sι υ″ ,The univers■ Of CmCago Press
“
榊原禎宏,2012,「 感情 としての教育労働 と教師のや りがい、健康」山崎準二・榊原禎宏・辻
野けんま著 『
「考える教師」―省察、創造、実践する教師 J学 文社,pp 2641
Lortie,DC,195,Sc/2ο σ
"ac・
佐藤学,2015,「 専門家 として教師を育てる一教師教育改革のグランドデザインJ岩 波書店。
Schon,Dl 1983,動 θRttecゴ 7e Pracゴ ゴの∝ ib″ 場
ヵ スε動 ,Basic Booヽ
(=柳 沢昌―・三輪建二監訳,2007,「 省察的実践 とは何か―プロフェッショナルの行為 と
sJa″ ゴs abJbた
,
思考』鳳書房)
II嶋 書店。
機能空間〉から (意 味空間〉へ』り
高橋勝,1997,『 学校のパ ラダイム転換― 〈
ァーー,2013,「『学び続ける教師像Jを どう考えるか (上 )」 (日 本私立大学協会 HP:http〃
ww糀 節dd』けo
orわ /neWSpapet′ヽ
e/2528/5しLh制 ,September 25,2015)。
山峙準二,21X12,F教 師のライフコース研究』創風社。
油布佐和子,2013,「 教師教育改革の課題―「実践的指導力」養成の予想 される帰結 と大学の
役割―」 F教 育學研究』80(4),pp′ 8490
謝辞
本 稿 を執筆す るにあた り、静岡大学教職大学院の三ッ谷 三善氏 と山口久芳氏か ら「教育 と社
会」 の授業内容 に関す る情報 をご提供い ただいた。 ここに深謝 の意 を表す る。
付記
本研究 は、平成2527年 度科学研究費助成事業
(基 盤研究 (B))「
自律 的に学 び続け る教師の
核 となる資質・能力 の解明 と質保証 に関する研究」 (研 究代表者 :浦 野弘)の 成果 の一部 である。