天体物理学研究室 - 名古屋大学 物理学教室

A
天体物理学研究室
研究室
福井康雄教授
図 1 :チリ・アタカマ高地に設置されているNANTEN2望遠鏡
さらに,望遠鏡の制御,観測システム,データ解析ソフ
トといったソフトウェアも独自に開発をしています.
福井康雄 教授 Yasuo Fukui, Prof.
* 立原研悟 准教授 Kengo Tachihara, Assoc. Prof.
山本宏昭 助教 Hiroaki Yamamoto, Assist. Prof.
佐野栄俊 特任助教 Hidetoshi Sano, Assist. Prof.
電波観測で探る宇宙
電波による分子輝線の観測によって,分子雲の物理状
態や運動をつぶさに調べることができます.NANTEN2
望遠鏡では,ミリ波・サブミリ波帯の電波観測を遂行し
ています.ミリ波帯の電波を用いると,星が誕生してい
る高密度な分子雲コアに加えて,それらを取り巻く低密
度で淡く広がる分子ガスの分布を調べることができます.
私
たちの研究室は,電波によって星間空間に漂う分子
ガスを観測し,「銀河・宇宙の起源」を解き明かそ
うとしています.分子ガスは温度が低く,光では見えま
せん.かわりに,色々な分子が放つ電波を観測すること
によって,銀河系,近傍銀河の分子ガスの全体像を明ら
かにし,そこで起きている様々な現象の起源を明らかに
しています.
電波望遠鏡 NANTEN2
分子ガスの観測に用いる装置は高精度の電波望遠鏡です.
この望遠鏡はNANTEN2と名付けられており,南米チリ共
和国の北部,標高4,800mのアタカマ高地に設置され世界 6
カ国(日本,ドイツ,オーストラリア,チリ,韓国,スイス)
,
10の大学の共同研究として行われています(図1)
.アタカ
マ高地はたいへん乾燥しており,年間の晴天率が80%をこ
える場所で,天文観測にとって理想的な場所です.口径 4
メートルと小型ですが,その広い視野と世界最高の感度に
特長があります.最先端の電波を観測する装置は市販され
ていないため,研究室で独自に開発をしています.特に観
測の成果を左右するのは受信機の感度です.私たちは,超
伝導を利用した受信機を大学内で開発しています.受信
機の他にも,光学系,中間周波数系や分光計といった装置,
佐野栄俊特任助教・山本宏昭助教・立原研悟准教授
研究員・大学院生
またサブミリ波帯の観測により,分子ガスの奥深くに埋
もれている高密度/高温領域をピンポイントで探ること
ができ,誕生した星から分子雲へのフィードバック効果
を調べることができます.これにより,例えば分子雲が
別の分子雲に衝突し,それがきっかけとなって巨大な星
団が誕生することがわかりました(図 2 ).
衛星やHerschel衛星などの赤外線データの比較から,銀
河系中心部の二重螺旋上ジェット,磁気浮上ループ,スー
パーシェルなどの特異な構造なども調べています.
NASCO計画
水素原子ガスや衛星による赤外線,ガンマ線等の観測
は全天をカバーしている一方で,分子ガスの観測は銀河
面に集中したものばかりでした.この現状を打破すべく,
これまでの分子ガスのデータをはるかに凌駕する新しい
分子ガスサーベイ計画を遂行しています.この計画は
NANTEN Super CO survey(NASCO)と呼ばれていま
す.このサーベイはNANTEN2望遠鏡から見える全天の
70%をくまなく観測するものです.NASCOでは分子ガス
による天文学史上初の超高域サーベイを行います.この
分子ガスの分布とPLANCK衛星によって取得される電波
連続波のデータを比較,研究することで,銀河系全体の
ガス・ダストを含む星間物質全体の性質を明らかにしま
す.さらにその他の衛星データ,地上望遠鏡のデータと
超高域にわたる比較を行い,銀河系内で起こっている様々
な現象の起源を明らかにしていきます.この計画のため
の専用受信器の開発も行っています.
他波長のデータとの比較研究
本研究室が1996年から2003年までチリ・ラスカンパナ
ス天文台で観測に用いていた「なんてん」望遠鏡によっ
て,天の川銀河の銀河面と,我々に最も近い系外銀河で
ある大マゼラン星雲の分子ガスの分布をこれまでにない
分解能で明らかにしてきました.このデータは世界最高
の質,規模をほこっています.この分子ガスのデータを
元に,現在観測中のガンマ線観測衛星やチェレンコフ望
遠鏡によって取得されたガンマ線放射の分布との比較を
行っています.ガンマ線の放射起源は陽子起源,電子起
源の 2 つが提案されています.ガンマ線の放射起源が陽子
起源の場合,相互作用するガスの存在が必要不可欠とな
るため,「なんてん」のデータは陽子起源のガンマ線放射
を探る上で重要な役割を果たしています.他にもSpitzer
大学院での研究
http://www.a.phys.nagoya-u.ac.jp/ae
図 2 :大規模星団RCW38の光学写真と,その周囲に存在する2つの速度か
らなる分子雲の分布.+印は大質量星の位置を示す.指先状に見え
る赤方偏移した分子雲がもう一方と衝突し,星団の形成を促したと
考えられている.
*連絡先 [email protected] FAX 052-789-2845
教授:1/准教授:1/助教:2/ PD:5/DC:4/MC:14
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修士課程ではまず,NANTEN2電波望遠鏡を使った観測をリモートで行い,そのデータ解析の方法を学びま
す。他にも国立天文台45m望遠鏡やASTE望遠鏡,ALMAなどの国内外にある望遠鏡を積極的に使用します.
私達の銀河系やマゼラン雲などの近傍銀河における星形成や星間物質の性質など,テーマは非常に多岐にわたっ
ています.またNANTEN2電波望遠鏡の装置やソフトウェアなどのシステム開発も重要な研究テーマです.チ
リ・アタカマ砂漠の観測所まで赴き,実際にNANTEN2望遠鏡の運用も行います.これらの研究成果を修士論文,
博士論文にまとめます.
最近の博士論文は,『An Observational Study of Shock-Cloud Interaction in the young VHE g -ray
SNR RX J1713.7-3946; Evidence for Cosmic-Ray Acceleration(2013)』,修士論文は『フィラメン
ト状分子雲LupusⅠの観測的研究(2015)』『NANTEN2望遠鏡に搭載するシングルビーム両偏波SSB受信機
の開発(2015)』などがあります.
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