極低温量子物性研究室 - 名古屋大学 物理学教室

L
極低温量子物性研究室
研究室
て可能にする.また現象の解析や理解には熱・統計力学,
電磁気学,量子力学など随所で適用する必要があり,大
変興味ある総合実験物理である.超低温の分野では名古
屋大学は国際的にもっとも進んだ研究を行ってきた大学
の一つである.修了者は他大学に就職したり,会社やそ
の研究所の新しい領域で活躍している.
1.1次元ナノ多孔体中の4Heボースおよび3Heフェルミ
量子流体
同位元素で単原子分子の4Heと3Heは,高温ではほとんど
同じ性質を持つ.しかし極低温ではそれぞれボースおよび
フェルミ粒子の量子特性を顕著に反映した凝縮相になる.
バルク
( 3 次元)
の4He液体は約 2 K以下で超流動に相転移し,
3
He液体はフェルミ縮退したあと数mK以下でP波超流動に
転移する.これらの超流動では,相転移の臨界現象の理
論の検証や,時間に依存した相転移(いわば 4 次元)での
Kibble-Zurek機構のシュミレーションが行われている.ま
た平らな固体表面上に吸着した4Heの液体薄膜では典型的
な 2 次元Kosterlitz-Thouless超流動転移を示す.
これら 4 次元から 2 次元の4Heボース液体に加え,我々
は新しく 1 次元の4Heボース液体を創り出す研究を行って
いる.これまでに多孔体(FSM-16)に形成された直径が約
1.8ナノ・メートルの真っ直ぐにのびたトンネル中に4Heを吸
着して,このボース液体を実現した. 1 次元の場合は 3 次
元の常識が単純には当てはまらない.例えば 1 次元ガスの
場合は絶対零度までボース凝縮を起こさない計算になる.
このような 1 次元トンネル中に実際に作られた 1 次元4He
ボース液体で, 2 次元や 3 次元のものとは異なる特徴を示
す新しいタイプの超流動が低温で発達することが,我々の
系統的な実験研究によってわかってきた.従来 1 次元では
超流動はないと信じられてきたが,最近の平島大教授(S
研究室)らの理論では有限長のトンネル中で 1 次元超流動
が存在することが示されてきており,現在検証研究を進め
和田信雄教授
* 和田信雄 教授 Nobuo Wada, Prof.
三浦裕一 准教授 Yuichi Miura, Assoc. Prof.
松下 琢 講師 Taku Matsushita, Lecturer
10
32K以上の世界の始まりの温度から現在の宇宙の温
度(約 3 K)への冷却の過程では,いくつもの相転
移を経て,ある種の秩序相である現在の世界があるとい
われている.一方,約300Kの地球上に住む我々は 1 mK
(10−3 K)以下の極・超低温を定常的に作ることを可能にし
てきた.また原子ガスや核スピン系については,アイデ
アに富んだ手法で 1μK(10−6 K)や 1 nK(10−9 K)の程度の温
度も実現されている.当研究室では極低温および超低温
環境をつくりだし,この極限環境ではじめて実現する4He
と3Heの量子凝縮相や,物質科学において次々と創り出さ
れる新規磁性体や電子系物質などの量子物性を研究して
いる.
現在我々は, 4 台の小型3He/4He希釈冷凍機(最低温度
約40mK)と大型希釈冷凍機(最低温度約10mK),また
3
He冷凍機(約0.4K)などを用いて極低温を実現している.
さらにサブmKの超低温を定常的に作り出すために,核断
熱消磁冷凍装置も開発する予定である.現在,中心とな
る比熱や帯磁率などの熱力学的測定に加え,ねじれ振り
子や水晶振動子,NMRなどの測定技術も駆使し,以下に
あげる様な研究を行っている.
極低温および超低温実験では微少な電気信号の検出や
精密測定を,電気,機械,コンピュータの技術を駆使し
動についても,高周波数の振動が可能な水晶振動子を用
いて,動的効果という新しい側面から超流動発現に関わ
る量子渦の微視的状態などを解明する研究を行っている.
3.有機反強磁性体の量子磁性・フラストレーションを持
つ磁性体の基底状態
我々は数十mKまでの比熱や磁化率などの物性計測を
行えるようにしている.そして学内外のグループが創り
出した多種・多様な新物質について極低温での物性研究
を行っている.スピンが幾何学的な理由等でエネルギー
を最低にする方向がとれないとき(フラストレーション)
や配置が低次元的であると,スピン方向の秩序化が起き
ず量子力学でしか記述できない基底状態が現れる可能性
がある.
阿波賀邦夫教授(物質理学専攻)のグループが開発し
たm-MPYNN有機反強磁性体では,我々は30mKまでの比
熱や磁化率測定を行い,強い量子効果で基底スピン状態
が非磁性状態になった 2 次元スピン・ギャップ状態を発見
した.更にこの量子基底状態のミクロな機構を解明する
ために,我々は筑波にあるKEKや英国のRALにある理研
の実験施設を利用してμ+SRの実験も行った.そしてこの
微視的手段でも非磁性状態を確認し,さらにS= 1 のダイ
マースピン内での量子ゆらぎを観測した.最近では磁場
中の基底状態について重要な知見を与える磁化プラトー
を交流帯磁率測定により観測した.
また反強磁性ボンド交替鎖F5PNNにおいては,磁性
と格子の競合による極低温の構造相転移や,二量体の鎖
がつくる磁場誘起磁気秩序について大阪府立大学と共同
研究を行っている.我々の帯磁率測定において鎖間相互
作用による三次元磁気秩序に先行して起きる一次元短距
離秩序が明らかになった.これらの磁気秩序はそれぞれ
Magnonのボース凝縮,朝永-Luttinger液体として記述で
きる可能性があり,研究をさらに進めている.
三浦裕一准教授
ている.
1 次元のフェルミ流体についても 1 次元多孔体中に3He
を吸着することで実現する研究を行っている. 3 次元の
3
He液体は極低温で典型的なフェルミ液体であるが, 1 次
元トンネル中では 1 次元系特有の朝永-Luttinger液体とい
う量子液体やSDW状態などになると期待されており,比
熱やNMRを用いた実験研究を進めている.
2.種々の次元性を持つ量子流体薄膜
2 次元的に吸着されたHe薄膜がナノスケールの細孔中
では実際には 1 次元性を示す.このように吸着薄膜を用
いれば,吸着基盤の構造によってさまざまな次元性を持
つ量子流体を実現することが可能である.我々は同孔径
の細孔で細孔の接続環境だけを代え,薄膜量子流体4Heの
比熱や超流動密度の次元性に依存する部分だけを取り出
す試みを行っている.次元性の違いは,たとえば超流動
発現の機構の違いとして観測されている.
また,従来型の平面に吸着された 2 次元薄膜4Heの超流
http://ult.phys.nagoya-u.ac.jp/
*連絡先 [email protected] FAX 052-789-2888
教授:1/准教授:1/講師:1/助教:0/ DC:0/ MC:7
松下琢講師
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L研所属の学生とスタッフ
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