体腔液の旅

けんさの豆知識
2013 年 5 月
《42》
臨床検査部
発行
~体腔液の旅~
今回の豆知識は「体腔液、お願いしま~す」と言って検査室に持って来られた、体腔液の中の「腹水・胸水」に
スポットを当て、一般検査室での流れをご紹介します。
腹水・胸水の検査はそれらが貯留した原因や病態を把握するために依頼されます。
体腔液の種類は、下記のようにたくさんあります。
腹水
胸水
体腔液
心嚢液
脳脊髄液
関節液
その他
1) 検体が検査室に運ばれる
《疑問 1》「検体をすぐに持って来てください」と言われたけど?
⇒採取してから時間が経つと細胞の崩壊とフィブリンが析出します。このフィブリンは細胞を取り込み、
正しい細胞数・その種類を検査することが出来なくなります。
フィブリンが析出する前に検査を行いたいので「すぐに」とお願いしています。
当院では検体にヘパリンを必ず入れてください。
※髄液の検査時にヘパリンは使用しないでください。(細胞数を数える時の染色液と反応し細胞凝集
をおこしてしまい、細胞数が数えられなくなってしまうからです)
腹水
腹水
胸水
これらはほんの一例です。このように腹水・胸水は様々な外観を呈します。
2)検査室で分注
左から生化スピッツ・外注スピッツ・血算・
分注後の検体・遠心する(細胞種類・蛋白・比重のため)
スピッツ
この様に、医師の依頼に従って検体を各検査室に分けます。
各検査室の検査の内容
《一般検査》
浸出液・濾出液の鑑別
遠心
上清の一部:生化学検査
外観・比重・蛋白量
細胞種類
3)
《微生物検査》
起炎菌の検出
《病理検査》
腫瘍細胞の検出
細胞種類の標本作成
遠心後のスピッツ
《すり合わせ法》
《ギムザ染色》
粘性の高いものや細胞成分の多いものに適している
《引きガラス法》
引き終わりや辺縁に腫瘍細胞などの大型細胞は集まりやすいのでそれらの検索に適している
《細胞遠心機法》
遠心力によってスライドに細胞を付着させる。
方法の違う 3 枚の標本を十分に乾燥させたあとギムザ染色を行います。
4)
蛋白・比重測定
比重計
蛋白計
《疑問 2》蛋白・比重測定からわかる事
浸出液・濾出液を鑑別する手助けとなります。
腹水・胸水検査は、健常者でも少量存在します。病的に貯留した場合、貯留原因や病態の把握のため採取され
ますが、この時重要なのが浸出液と濾出液を鑑別する事なのです。
⇒《浸出液》
《濾出液》
漿膜の炎症や悪性腫瘍の漿膜腔への転移や浸潤により蛋白の透過性が進むことで生じる。
毛細血管内圧の上昇、毛細血管透過性の亢進、膠質浸透圧の低下、リンパ管閉塞によるリン
パ液の通過障害で生じる。
浸出液
濾出液
外観
淡黄色・膿性・血性・混濁
多くは淡黄色透明
比重
1.018 以上
1.015 以下
蛋白
4g/dl 以上
2.5g/dl 以下
細胞数
多い 1.000/μl 以上
少ない 1.000/μl 以下
細胞種類
好中球
中皮細胞
リンパ球
組織球
悪性腫瘍
フィブリン
多量
微量
LD
200U/l 以上
200U/l 以下
胸腹水LD/血清LD
0.6 以上
0.6 以下
成分
血漿成分に似る
リンパ液と同じ
そして、最後にギムザ染色をした標本を技師が細胞種類をカウントして報告し、体腔液の長い旅は終わるのです。