平成28年度 がん患者への薬学的介入実績の要約の書き方

日本臨床腫瘍薬学会
「外来がん治療認定薬剤師」認定試験
「がん患者への薬学的介入実績の要約」(様式 4)の書き方(記入例)
【はじめに】
本手引書は「がん患者への薬学的介入実績の要約」
(様式 4)を円滑に作成・報告するための
留意点を分かりやすく解説したものです。以下に示す実際の介入事例を参考に、必ず内容を
確認した後に様式 4 を作成してください。なお、ご報告いただいた事例は、日本臨床腫瘍薬
学会において個人の特定が不可能なデータに加工のうえ集計・分析を行い、外来がん治療に
関係する貴重な統計資料として行政機関などへの報告として活用させていただく場合もあり
ます。
【事例ごとに評価する項目(評価のポイント)
】
良い書き方と判断される例)
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報告書の体裁が整っており読みやすい
現病歴・現症・検査の記載が重要な要点をよく押さえている
 腎機能によって投与量を補正する際に医師に提案した場合などは、血清クレアチニ
ンの値や eGFR の値が必要となるなど
経過の記載が明瞭で理解しやすい
処方提案から意思決定のプロセスが明確である
できる限り標準的でない治療への介入事例は避けることが望ましい
 もし、標準的ではない治療への介入を報告する場合、その実施について医師とディ
スカッションしたことがわかる必要がある→嘔吐にオランザピンを提案するなど
臓器障害を持つ症例に対する介入において薬物動態学的に投与量を推察し処方提案して
いる(抗がん剤以外を含む)
 肝機能障害時に child-pugh 分類などで評価しクリアランスや蛋白結合率などから
投与量を推算したうえで処方の提案をしている
など
好ましくない書き方と判断される例)
報告書の体裁が整っていない場合
 個人情報(患者氏名、ID など)を記載している
 がんや合併症の診断名の記載が不正確である
 がん治療に影響を及ぼす合併症がある場合、それに関しての経過が記載されていない
 自身の事例間でのコピーペーストが極端に目立つ
 誤記や不適切な表現が極端に目立つ
 余白が多く内容が不足しているまたは不必要に長い(1 事例 600 字を原則とする)
 文章が極端に読みづらい
など
現病歴・現症・検査の記載が不適切である場合
 乳癌症例で閉経状態の記載がない
 PS、身長・体重、バイタルサインの記載がない
 努力目標ではありますが、できるかぎり記載することが望ましい
 必要時(Cock-croft で腎機能を評価した場合などの体重の情報)に記載がない場合
は不備と判断される場合があります
 糖尿病がある時の血糖値・HbA1c の記載がない
 介入内容に関連することがある場合は記載することが望ましい

基本的な血液検査所見の記載がない
 介入内容に関連することがある場合は記載することが望ましい
など
経過の記載が不十分または治療方針決定のプロセスが不明である場合
 重要な病理情報が記載されていない(乳癌でホルモン受容体や HER2 の検査結果など)
 チロシンキナーゼ阻害剤が適応となりうる進行肺癌症例で EGFR 変異の記載がない
 「施設としてこうしている」という記載があるが、それが標準的でない
 「カンファレンスで●●を実施することになった」という記載があるが、●●が標準的
治療で無い場合にその根拠が示されていない
など
標準的でない治療法を選択したりマネジメントをしたりしている場合
 理由もなく減量したり間隔を変更したりしている
 薬剤師の裁量ではありませんがあまり事例として好ましくはありません
 抗がん薬が体表面積あたりではなく、/body で計算されている
 比較試験実施中の試験治療を実地診療で実施している
 PD になったあとも漫然と治療を続行している
 腎機能低下高齢者に S-1 を通常量処方している
 そのまま服薬指導するのではなく医師に提案するべき案件です
 G-CSF や制吐薬の使用がガイドラインと大きく異なり、その理由の記載がない
など
薬物療法に関する記載が不適切である場合
 薬物療法の用法用量スケジュールの記載が不適切である
 効果・副作用の適切な記載がない
など
介入の内容が薄い又は間違っている場合
 ガイドラインに準拠した薬剤選択がされていない
 適応外の薬を根拠なく提案しているか、根拠があったとしても患者に適切な説明なしに
投与に至っている
 重要な併存疾患があるにも関わらず、その治療目的に併用されている薬剤の情報を十分
に網羅できていない
 提案が妥当であったのかどうかの考察がない
 処方提案に対する医師の見解や転帰が記されていない
 処方提案後の投与による副作用のモニタリングができていない
など
なお、複数の申請者の事例要約で相互に流用(同一内容の記載や酷似した介入内容)がみら
れた場合、いずれの申請者とも不正と判断されることがあります。
以上
日本臨床腫瘍薬学会では、筆記試験合格者に対し、ご提出いただいた事例の中から、面接官
があらかじめ2~3 事例を選択し、面接時に質問をする面接試験を行っています。
実際の介入はもちろんのこと、その患者がどのような背景、治療経過を経ているのか、併存
疾患や併用薬のモニタリングポイント、相互作用の確認などに至るまで幅広くお聞きするこ
とがあります。記載内容に疑問点がある場合、それに関して面接時に質問される場合があり
ますのでご注意ください。
実際の介入事例
ここに紹介しているのは、認定者が受験時に提出した実際の介入事例です。
面接官医師の指導のもと、一部記載を修正しております。
症例
1
年齢・性別
がん種(Stage)
治療内容
外来・薬局内
薬学的介入内容
の要約
7●歳 女性
結腸癌 T2N1M0 stage ⅢA
カペシタビン療法 (cape:2500 mg/㎡ 14 日間投与 7 日間休薬),
外来(介入回数
8
回)
結腸癌術後補助療法としてカペシタビン療法開始となった(3000
mg/day)。開始に伴い薬剤師より投与スケジュールおよび出現し易
い副作用を説明した。コース 2 day 10、主治医より手足症候群の対
応について相談あり。患者面談を行うと水泡、腫脹など手足症候群
grade 2、悪心 grade 1 出現していた。主治医へカペシタビンを休薬
し grade 1-0 へ回復後、同量での次コース開始を提案した。また、
外用薬が処方されていないためステロイド軟膏(very strong)、ヘパリ
ン類似物質ローションを提案し処方となった。悪心対策としてドン
ペリドン提案し処方となった。14 日後診察前面談、カペシタビンの
休薬とステロイド軟膏の効果があり手足症候群 grade 1(発赤)へ改
善され、
同量で 3 コース目カペシタビン開始となった。
4 コース day1
診察前患者面談すると、grade 2 の手足症候群が発現していたため主
治医と協議し休薬となった。外用薬の使用法を再指導した。21 日後、
診察前面談すると手足症候群 grade 0 へ改善みられた。2度目の手
足症候群のため適正使用ガイドラインに則り 1 段階減量(2400
mg/day)を提案し処方となった。その後、副作用発現なく順調に治
療継続した。7コース day 1 診察前面談。指先に皮膚亀裂ありサリ
チル酸ワセリンを提案し使用法指導した。
8 コース day1 診察前面談。
手足症候群 grade 1、皮膚亀裂改善された。8 コース完遂し治療終了
となった。
確認した医師(面接官)のコメント及び修正点
 数字と単位の間に半角のスペースを入れる
 数字は半角で
この事例については、面接官同士で以下のような議論がありました。
(薬剤師面接官 A)本事例は、21 日間の休薬をおこなっています。これは、治験を経験して
いる者にとっては少し違和感を覚えます。もともと 7 日間の休薬がある薬剤ですので、さら
に 21 日間休薬したとすると合計 28 日間休薬したことになります。治験時には 28 日間手足
症候群の回復が認められない場合、投与中止が原則でした。
(医師面接官)しかしこの事例は、28 日間回復しなかったのではなく、外来の都合で 21 日
後に来院した際に確認したところ回復していたということであるため、医学的には問題ない
という見解です。また、薬剤師がそこまで介入することは困難であるということも言えます。
症例
2
年齢・性別
がん種(Stage)
治療内容
外来・薬局内
(窓口含む)
薬学的介入内容
の要約
6●歳 女性
非小細胞肺癌(腺癌) 脳転移 骨転移
化学療法レジメン: ゲフィチニブ
外来(介入回数
5
回)
T2aN1M1 stageⅣ
(250 mg/body)
非小細胞肺癌、脳転移のためゲフィチニブ開始となった。開始後、
ざ瘡様皮疹、皮膚乾燥、下痢を繰り返しながらも治療効果あり治療
継続となっていた。Day 56 に皮疹、皮膚乾燥が強く発現したため看
護師より相談あり介入した。患者面談すると皮膚掻痒を伴ったざ瘡
様皮疹 grade 3、皮膚乾燥 grade 3 の発現あり。すでにざ瘡様皮疹、
皮膚乾燥、皮膚掻痒に関しては皮膚科受診によりステロイド軟膏
(very strong)、ヘパリン類似物質ローションが処方済みであり使用
法も問題なく塗布されていた。皮膚症状改善するためには、ゲフィ
チニブ休薬が必要と考え、主治医へ皮膚症状改善目的でゲフィチニ
ブ休薬、プレドニゾロン 10 mg を7日間内服、抗菌・抗炎症作用目
的でミノサイクリン 100 mg 1 日 2 回内服を提案した。休薬に対し
患者は、疾患進行の不安から当初拒否されるが説明のうえ納得され
た。ゲフィチニブ休薬、プレドニゾロン、ミノサイクリン処方とな
った。Day 70 面談時には、ざ瘡様皮疹 grade 1、皮膚乾燥 grade 1
へ改善みられ、ゲフィチニブ再開となった。ゲフィチニブ休薬、プ
レドニゾロン、ミノサイクリン内服の効果が確認された。
(プレドニ
ゾロン内服終了後の退薬症状みられず)day 77、ざ瘡様皮疹 grade 2
へ増悪みられたため、主治医と協議しゲフィチニブ休薬となった。
また、減量による再開を検討した。Day 91 ざ瘡様皮疹 grade 1 へ改
善みられたためゲフィチニブ隔日投与で再開し治療継続となった。
確認した医師(面接官)のコメント及び修正点
 (元の記載)ミノサイクリン 200mg2x を提案する。→ミノサイクリン 100 mg
回内服を提案する。
 説得され納得される。→説明のうえ納得される。
1日2
この事例については、面接官同士で以下のような議論がありました。
(薬剤師面接官 B)本事例において、プレドニゾロンの提案は経験的なもので根拠があると
はいえず、例えば血糖の問題や長期間服用するのでしたら moon face などのチェックも必要
だろうと思いますし、危ない提案かなと思いました。
(薬剤師面接官 A)Grade 3 の rash が適切な指導のもと行われている外用処方でも悪化して
いることを考慮して、この提案については受け入れられるものと考えました。
(医師面接官)医学的にこの提案は全く受け入れられるし、問題はない。
このようにご提出いただいた事例については一人の面接官の判断ではなく、医師面接官、薬
剤師面接官の複数で査読し、場合によっては面接時に確認をしながら判断いたします。
また、ここに提示した事例は模範事例として掲載しているのではなく、実際の臨床で起こり
うる状況を的確に報告し、介入している事例として掲載しておりますことをご了承ください。