Signal-to-News IR/Raman Customer News Letter 光音響分光 (PAS)/ FT-IR による材料の表面分析 1. 連続スキャン法 サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社 IR/Raman 営業部 編集発行 : マーケティング部 M95006 はじめに Key Words y FT-IR y PAS FT-IRを用いた光音響分光法(Photoacoustic Spectroscopy : PAS)による材料表面のデプスプロファイリングとして、連続ス y 連続スキャン キャン法で移動鏡の速度を変えながら測定する方法とステッ プスキャンによる位相変調・位相分解法がある。この報文で は、PASの原理を説明し、連続スキャン法による材料表面の y 表面分析 非破壊分析例を紹介する。 y 光音響分光法 光音響分光法の原理1-4) 試料に赤外光を照射すると、試料は赤外光を吸収し、分子 の振動エネルギーは励起状態となり、ただちにエネルギーを 放出する。基底状態に戻る際に試料内部に熱を発生させ、 その熱エネルギーの一部は周辺の気体を加熱する。密封状 態に置かれた試料に、ある周期で断続的に照射をすると熱 エネルギーが周囲の気体を加熱するのも断続的になり、音 波が発生する。これをマイクロフォンで検出する手法を光音 響分光法(PAS)という。図1に PAS 法の概念図を示す。図2 には FT-IR 用に設計された市販の PAS アクセサリを示す。 図2 PASアクセサリ (MTEC社 Model 300) PAS 法の特長として、① 試料の形態を問わない、② 非破壊 測定である、③ 反射法やATR法のようなスペクトルの歪みが 起きない、④ 深さ方向のデプスプロファイル分析が可能、と いう点が挙げられる。 光の浸透深さをμs 、変調周波数を f とすると μs ∝(1/f)1/2 IR 上記の式により、PAS における分析深さおよび光音響シグ ナル強度は赤外光の変調周波数に反比例することがわか る。PASによる分析深さに相当するパラメータとして、熱拡散 長(μ)を求める式と各パラメータを以下に表す。 μ = 1/a = (2α/ω)1/2 = (2k/ωρCp)1/2 = (k/ρCpπf)1/2 IR光 マイクロフォン 熱拡散長 : μ = 1/a (cm) 変調周波数 : f (Hz) 熱拡散係数 : a = (ω/2α)1/2 (cm-1) 熱拡散率 : α = k/ρCp (cm2/s) (一般的ポリマーでは α = 1.3×10-3) 光源の変調角周波数 : ω = 4πvν(rad/s) v : 移動鏡速度(cm/s) IR光の 強度 試料 図1 光音響分光法の概念図 熱 ν : 赤外光の波数 (材料特性) 熱伝導度 : k (cal/cm s℃) 密度 比熱 : ρ (g/cm3) : Cp (cal/g ℃) 表1 連続スキャン速度と各波数における変調周波数 M95006 連続スキャン法(一般のFT-IRの移動鏡駆動方式でリニアス キャンとも呼ばれる)では、光音響シグナルは移動鏡速度 に反比例する。すなわちスキャン速度が遅いほど光音響シ グナルは強くなり、より深い位置の情報が得られる。スキャ ン速度を速くするとシグナルは小さくなるが、より浅い位置 の情報が得られる。このように FT-IR PAS法では移動鏡速 度を変化させ赤外光の変調周波数( f )を変えることで、深 さの異なるスペクトル情報を得ることができる。連続スキャン 法では、表1 に示すように各波数で変調周波数が異なるた 0.63cm/sec の 変 調 速 度 ( 最 上 段 ) で は と 1720cm-1に、表面層である PMMA の特性吸収バンドが検 サーモフィッシャー サイエンティフィック株式会社 1300-1100cm-1 出されている。変調速度が遅くなるにつれ、これらのバンド 強 度 が 相 対 的 に 小 さ く な る の が わ か る 。 0.0317 と 0.0158cm/sec の変調速度では、1720cm-1のバンドが重畳す るものの、基材であるABSのスペクトルが明瞭に観察されて いる。このように、PAS法では移動鏡速度を変えることでデ プスプロファイルを実現できることが理解できよう。 スペクトロスコピー営業本部 IR/Raman 営業部 横浜本社 045-453-9210 大阪支店 06-6863-1552 E-mail [email protected] め、一定の移動鏡速度で得られるスペクトルの各波数にお ける分析深さが一定でないことを認識しておく必要がある。 図3 の模式図から明らかなように、低波数側の分析深さは、 高波数側に比べて相対的に深くなる。 図3 連続スキャン法でのPAS測定における分析深さ の違い PAS測定では、試料の熱拡散に伴う気体の疎密波を検出す るため、感度よくPAS測定を行うためには熱伝導度の高い気 体で密閉系内を置換する必要がある。一般的にはHeガスが 用いられる。 連続スキャンFT-IR PASによるデプス プロファイリング例 www.thermofisher.co.jp (日本) www.thermo.com (グローバル) 図4 FT-IR PAS法によるデプスプロファイルでは、多層サンプル や表面のコーティング層および内部層、暴露試験における サンプル表面層などのアプリケーションが考えられる。 連続スキャン法によるデプスプロファイル実験として、図4に PMMA(表面, 0.9μm)/ABS(バルク)二層ラミネートのPAS スペクトル測定例を示す。リファレンスとして専用のカーボン ブラックフィルムを用い、移動鏡速度を 0.63~0.0158cm/sec に変えてPASスペクトルの測定を行った。 連続スキャンによる PMMA/ABS フィルムの PASスペクトル(V= 0.63~0.0158cm/sec) 文献 1) A. G. Bell, Am. J. Sci. 20, 305 (1880). 2) A. Rosencwaig and A. Gersho, Science 190, 556 (1975). 3) A. Rosencwaig and A. Gersho, J. Appl. Phys. 47, 64 (1976). 4) J.F.McClelland, Anal.Chem. 55, 90A (1983). ©2007 Thermo Fisher Scientific Inc. All rights reserved. All trademarks are the property of Thermo Fisher Scientific Inc. and its subsidiaries. Specification, terms and pricing are subject to change. Not all products are available in all countries. Please consult your local sales representative for details.
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