Ⅳ.地方移住を支援するまちづくりの課題

伊賀市空家等対策計画策定に係る調査分析
Ⅳ.地方移住を支援するまちづくりの課題
調査・分析
ランドブレイン㈱
発注者
伊賀市
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地方移住に関する意識・都市分析、既存住宅の市場分析からみたまちづくりの課題
は、以下のとおりです。
1.大都市に住んでいる伊賀市出身者を対象としたUターン支援体制の構築
国土交通省が実施した「国民意識調査」で、地方への移住の希望を調査したとこ
ろ、都市居住者の中でも、都市に居住している地方出身者や、転勤や家族の介護、
進学等で現在一時的に地方に居住している都市在住者など地方に縁のある人のほう
が、都市出身の都市在住者より地方移住を希望する割合が高い傾向にあります。
このことは、伊賀市への移住を促進するには、大都市に住んでいる伊賀出身者を
対象としたUターンを支援することが効率的であることを示しています。
まず、地元の中学校や高校の卒業者名簿から伊賀出身者の卒業後の現住所を把握
し、Uターン支援のパンフレットを送付したり、伊賀市での同窓会の開催を支援し、
同窓会において本市のUターン支援のメニュー等について説明する機会を設けるよ
うな体制を構築する必要があります。
2.伊賀市に縁のないI/Jターン者に対する「伊賀市の魅力」の検討と情報発信コ
ンテンツの設定
・伊賀市に縁のないI/Jターン者の地方移住意向をみるため、まち・ひと・しご
と創生本部事務局がとりまとめた「東京在住者の今後の移住に関する意向調査」
を参照すると、今後移住する予定または移住を検討したいと回答した人(「今後1
年」「今後5年をめど」「今後 10 年をめど」「具体的な時期は決まっていない
が、検討したい」の合計)は、全体の4割(40.7%)であるのに対して、関東圏(1
都6県)以外の出身者では5割(49.7%)に達しています。
性別・年代別にみると、男女とも 10・20 代で移住する予定または検討したいと
回答した人が 46.7%で比較的高く、男性では 50 代が 50.8%で最も高くなって
います。
・国土交通省が実施した「国民意識調査」によると、地方移住を希望している若い
世代は、地方の中でも都市部への移住を希望する傾向が強くなっています。また、
60 歳以上の世代も地方の都市部に移住したいと思う者が多いものの、若い世代
と比較すると、農山漁村への移住を希望する者が多いことが分かります。
地方回帰というと、田園回帰やスローライフの実現といったキーワードで語られ
ますが、地方の都市部への移住を求める流れと農山漁村地域への移住を希望する
流れの2つの異なる潮流があり、割合的には前者の方が多い傾向にあることがみ
てとれます。
・また、地方移住希望者に対して「地方に住むことの魅力とは何か」と尋ねたとこ
ろ、最も魅力を感じているのは「自然の豊かさ」で、8割以上が魅力を感じてお
り、「生活費の安さ」、「時間的余裕」、「広々とした居住環境」と続いていま
す。比較的多くの地方移住希望者は地方の都市部を希望していることから、必ず
しも「自然の豊かさ」を農山漁村地域のみに感じているわけではなく、地方の都
市部の自然へのアクセスの良さ等にも「自然の豊かさ」を感じていることが推察
されます。地方の都市部を志向する者は、自然への高い近接性と都市的な利便性
をバランス良く享受できるゆとりのある生活を求めているものと考えられます。
・一方、実際にUターンやI/Jターンにより移住した層においては、自然災害の
リスクが低いことを現在の居住地の魅力としています。また、地震や津波の少な
い安全な場所に住みたいと考える者は、東日本大震災直後から4年余りが経過し
ている現在、安全に対する意識が若干薄れてきたようにも見受けられますが、
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2014 年においてもなお、8割以上の者が安全な場所に住みたいという意向を
持っています。安心・安全に対する潜在的ニーズは依然として高い水準にあり、
具体的な地方移住の理由の一つになり得ることがうかがえます。
ア.伊賀市の魅力の検討
以上のアンケート調査の結果からみて、地方移住希望者にとって「伊賀市の魅力」
は、つぎのように考えられます。
伊賀市の魅力①
名古屋、大阪という大都市に近接し、自然の豊かさと都市的な利便性をバラン
スよく享受できるゆとりある生活。
伊賀市の魅力②
伊賀地域は、南海トラフ地震の揺れによる死者数は 0 人と予測され、地震、津
波による被害は少なく、自然災害のリスクが比較的低いところ。
伊賀市の魅力③
伊賀市は、市の中心部の戦災を免れた市街地と周辺の農村地域から構成され、
多様なライフスタイルを享受できるまちで、以下のような地域資源を活かしなが
ら、I/Jターン者にとってワクワクする伊賀暮らしを提供できるまちづくりが
可能です。
そのためには、これらの地域資源を総合化して、都市的な利便性と田舎暮らし
をミックスした「伊賀暮らし」を企画・提案できること。
・歴史遺産:城下町、宿場町などの歴史的町並み、上野城、忍者屋敷、芭蕉翁
生家、鍵屋の辻
・地場産業:伊賀組紐、和傘
・食文化:伊賀米、伊賀酒、伊賀牛、伊賀豚、忍者うどん、和菓子、伊賀焼
・観光・レジャー:青山高原、メナード青山リゾート
・温泉:伊賀の国大山田温泉さるびの、島ヶ原温泉やぶっちゃの湯
・農業の6次産業化:伊賀の里モクモク手づくりファーム
・鉄道:伊賀鉄道伊賀線
イ.情報発信コンテンツの設定
「伊賀市の魅力」をもとに、以下のような大都市住民に対する地域プロモー
ション活動(情報発信活動)を推進することが考えられます。
①ドローン空撮コンテストの開催
ドローンを安全に楽しみたい若者に対して、「伊賀移住元年・伊賀の街
へようこそ」というキャッチフレーズのもとで、農林業団体の許可を得て
農閑期に伊賀盆地の広い田畑や山林を活かし、ドローンを空高く飛ばして
空撮を競う「ドローン空撮コンテスト」を開催し、伊賀移住への呼びかけ
とします。このため、ドローン空撮コンテストの企画・運営主体を全国か
ら公募することが考えられます。今後は、ドローン操作訓練施設などの誘
致を検討する必要があります。
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②伊賀暮らし体験教室の開催
市内で農業や地場産業、観光業に携わってきた定年退職者の経験やノウ
ハウを活かし、空き家を利用した短期滞在型施設を活用して、以下のよう
な2泊3日の伊賀暮らし体験教室を開催し、伊賀市に縁のないI/Jターン
者に対して伊賀移住へのきっかけづくりとします。
・伊賀歴史塾
・伊賀グルメ塾
・伊賀温泉塾
・農のある暮らし塾
・酒づくり職人塾
・和菓子づくり職人塾
・伊賀焼職人塾
③定年退職者を対象にした週末ライブハウスの開催
大阪や名古屋在住のおっさんバンドを対象に、週末ライブハウスの開催
を呼びかけ、伊賀移住へのきっかけづくりとします。
3.地方移住希望者の年代に応じた環境を提供する仕組みの構築
地方移住者が「移住したいと思ったきっかけ」は、性別・年齢別で大きく異
なっています。
10・20 代と 30 代の女性は「結婚」(39.3%、19.1%)、「子育て」(32.1%、
25.5%)、10・20 代男性は「就職」(28.6%)、30 代男性は「転職」(22.9%)、
30 代、40 代と 50 代の男性は「早期退職」(29.2%、31.6%、49.2%)、60
代男性は、「定年退職」(45.5%)、「子や孫との同居・近居」(15.9%)が、それ
ぞれ比較的高くなっています。
また、移住を考える上で重視する点としては、「買い物や交通の利便性」(買い
物:53.7%、交通:47.3%)、「仕事」(40.4%)、「医療・福祉施設の充実」
(37.9%)が比較的高くなっています。
10~30 代女性、30 代男性は、これに加えて「子育てのしやすさ」(10・20
代女性:48.2%、30 代女性:36.2%、30 代男性:31.3%)、60 代女性は「医
療・福祉施設の充実」(70.6%)がみられます。
地方移住希望者のうち、10 代~30 代には「子育てしやすい環境」、40 代
~50 代には「やりがいのある仕事づくり」、60 代以上には「生きがいのもて
る環境」を提供する仕組みを構築する必要があります。
4.スローライフの実現を期待しているI/Jターン者に対応し、市内で仕事を複数
掛け持ちできるよう多数の小さな雇用(近隣集落での就農や、福祉、6次産業等
での臨時雇用等)を用意する就労支援体制の構築
現実に地方に在住している現役世代は一つの職業で収入を確保している者が
多く、地方移住希望者の多くも一つの職業で収入を確保したいと考えています。
ただし、地方移住希望者は主な職業を持ちながら農業等の副業をもって生計を
立てたいと願う者が地方に在住する者に比べて多いことがわかります。いわゆ
るスローライフを求めている者が一定程度存在することを示していると思われ
ます。確かにU/IJターン者は、地方定住者に比較して主な職業を持ちながら
農業等の副業もって生計を立てている者が多くなっています。
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このため、スローライフの実現を期待しているI/Jターン者に対しては、市
内で仕事を複数掛け持ちできるよう多数の小さな雇用(近隣集落での就農や、福
祉、6次産業等での臨時雇用等)を用意する就労支援体制の構築が求められます。
5.二地域居住を促進するための空き家を活用した短期滞在型施設の整備
二地域居住については、今後「行ってみたい」(「行ってみたい」+「やや行って
みたい」の合計)人は全体の約3割(27.9%)で、特に 60 代男女は 32.5%で最も
高くなっています。
このため、大都市と伊賀市に2つの居住拠点を設けて週末の田舎暮らしを実践
したり、南海トラフ地震のリスクに対応したセーフティネットを構築できるよう、
二地域居住を促進する空き家活用の短期滞在型施設の整備を促進する必要があり
ます。
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