環境保全型かんがい排水事業における 肥培施設整備後

平成27年度
環境保全型かんがい排水事業における
肥培施設整備後の効果検証
―第九報―
釧路開発建設部
根室農業事務所 ○第1工事課 村上 功
第1工事課 西脇 康善
我が国を代表する大規模酪農地帯である別海町、根室市では、国営環境保全型かんがい排水
事業により肥培かんがい施設等を整備し、家畜ふん尿の適正な利活用とともに地域環境への負
荷軽減を図っている。本報告では、施設で腐熟させた家畜ふん尿の施用効果や施設導入による
各種作業量の削減効果等、施設の有効活用に伴う効果の調査結果に加え、効果的な施設運転の
啓発のため、農家へのわかりやすい説明資料作成の工夫について報告する。
キーワード:環境保全型かんがい排水事業、肥培かんがい施設、家畜ふん尿、化学肥料節減
1. はじめに
2. 肥培かんがい施設の概要
別海町および根室市からなる本地域は、北海道東部
に位置する我が国を代表する大規模酪農地帯である(図
-1参照)。しかし近年、飼養頭数増加による経営規模の
拡大に伴い家畜ふん尿の農地還元が適正に行えない状況
となっていた。そのため、国営環境保全型かんがい排水
事業では、家畜ふん尿の有効かつ適正利用を図る目的で
肥培かんがい施設の整備を行っている。
過年度の報告では、事業計画に基づく施設整備の効
果として、家畜ふん尿をかんがい用水で希釈した液状の
ふん尿(以降、「スラリー」という)の散布による牧草増収、
経営経費の節減、雑草種子の発芽抑制の他、腐熟スラリ
ーの窒素肥効率の向上などについて報告した。
また、昨年度の報告では、実営農レベルの試験にお
いて、適正な化学肥料銘柄を選択し施肥設計を実施する
ことで、ほ場の肥料成分要求量と投入量を等しくし、化
学肥料の節減が可能なことを明らかにした。さらに、こ
れらの結果について調査対象牧場へ説明することで、慣
行のスラリー散布量や化学肥料施肥量にも変化がみられ
るようになった。本報告では
化学肥料節減調査の継続結果
とこれに伴う農家の施肥管理
などの営農状況の変化につい
て報告する。また、これらを
別海町
含む調査結果を反映させた肥
根室市
培かんがい施設の有効活用の
ための啓発普及資料の作成の
図-1 位置図
概要についても報告する。
図-2に別海南部、別海西部、別海北部および根室地区
で整備されている肥培かんがい施設の一般的な概要を示
す。なお、地区別の施設整備の開始年度は、別海南部地
区が平成18年度、別海西部地区が平成20年度、別海北部
地区が平成25年度、根室地区が平成26年度からである。
牛舎から排出されたふん尿は、流入口で3倍程度に希
釈(ふん尿:水=1:2) され、調整槽へ圧送ポンプによ
り搬送される。この搬送されたスラリーは、ブロアポン
プによって曝気・撹拌し、均質に調整された後、竪型ス
ラリーポンプで配水調整槽へ移送される。配水調整槽に
貯留されたスラリーは、スラリータンカーでほ場に散布
される。
Ko Murakami,
Yasuyoshi Nishiwaki
図-2 肥培かんがい施設概要
3. 化学肥料節減実証調査
を原則とした。
a) 地区の施肥標準量
本地区における施肥標準量は、北海道施肥ガイドよ
化学肥料節減実証調査は、平成25年度に別海南部およ
り、窒素=10kg/10a、リン酸=8kg/10a、カリウム=18kg/10a
び西部地区に試験ほ場(各地区経営農家の異なる2ほ場、 である(マメ科率 5∼15%、チモシー採草地)。
計4ほ場、A∼Dほ場)を設置し、平成27年度まで同一
b)土壌診断
ほ場で継続調査を行った。なお、これまでの化学肥料削
土壌診断では、試験区ごとに前年秋に表層 0∼5cm を
減効果検証は、①ほ場の片隅の小面積やポット栽培試験
対象に 5 地点で試料採取して混合し、分析に供した。土
であったこと、②人力による施肥作業であったこと、③
壌分析を行った結果(H26 年度秋の例)を表-1 に示す。
不足成分を単肥で補っていたことなど、実営農とかけ離
なお、施肥ガイドより、土壌中の窒素量は考慮しないこ
れていたことが課題となっていた。そこで、実際に農家
ととした。
が化学肥料を散布している牧草地に試験ほ場を設けて、
表-1 土壌分析結果(H26 年度秋)
スラリー散布ほ場における化学肥料節減の効果を検証し
有効態リン酸 交換性カリウム
容積重
土壌区分
ほ場名
項目
た。特に、平成25年度は農家慣行の化学肥料を用いて施
mg/100g
mg/100g
g/g
慣行区
45.0
5.8
0.57
肥設計を行ったが、平成26年以降は、スラリーと化学肥
Aほ場
黒色火山性土
設計区
117.8
7.3
0.55
慣行区
14.6
11.7
0.57
料施用による投入成分バランスを考慮し、肥料銘柄の選
Bほ場
黒色火山性土
設計区
16.6
12.2
0.59
定も実施した。なお、営農レベルでの実証のため、試験
慣行区
67.8
8.4
0.66
Cほ場
黒色火山性土
設計区
128.4
13.1
0.60
ほ場へのスラリー散布及び化学肥料の施肥作業も受益農
慣行区
50.2
3.6
0.75
Dほ場
未熟火山性土
設計区
69.1
7.8
0.73
家の慣行作業と同様に、スラリータンカー(スラリー散
*:結果は乾物あたり
布)、ブロードキャスタ(化学肥料施用)によって行った。
c)土壌診断に基づく施肥対応
土壌分析結果を基に表-2及び式①、②に従い、リン酸
(1) 試験区の設定
及びカリウムの肥料成分要求量を算出した。
試験区は、ほ場1区画を、受益農家が従来から行って
きた慣行区と、施肥設計によりスラリー及び化学肥料の
表-2 リン酸施肥対応
散布量を決定する設計区に分けた。なお、慣行区では各
土壌区分
基準値未満
基準値
基準値以上
有効態リン酸
農家の施肥方法に基づき農家が選定した複合肥料を早春
未熟
∼30
30∼60
60∼
(mg/100g)
火山性土
黒色
∼20
20∼50
50∼
および1番草収穫後に施用し、スラリーも農家が散布し
※1
150
100
50
施肥標準量に対する施肥率(%)
ている量に準じて散布した。
3-1.調査方法
(2) 施肥設計
施肥設計は、各年度、「北海道施肥ガイド2010」1)に従
い以下の手順で行った。
①地区の施肥標準量(平均的な肥沃度のほ場におい
て、基準収量を達成するための養分必要量)を把握する
(毎年度)。
②各ほ場の土壌診断を行う(毎年度;秋)。
③土壌診断に基づいた施肥対応(土壌診断から算出
した土壌の養分含有量に基づいて施肥量を補正するこ
と)を行い、各ほ場の肥料成分要求量を算出する(毎年
度、前年度秋の分析値を使用)。
④各スラリー成分を分析する(毎年度)。
⑤肥料成分要求量を上回らないようスラリー散布量
を算出する(毎年度)。
⑥スラリー散布によっても不足する肥料成分要求量
を複合肥料で補足する(平成25年度;農家慣行肥料銘柄、
平成26、27年度;不足分を最適に補足する銘柄を選定)。
なお、試験目的が前述の通り営農規模での化学肥料
節減効果検討のため、化学肥料は1種類とし、単肥の複
合を行わないこと、投入量は慣行区より少なくすること
Ko Murakami,
Yasuyoshi Nishiwaki
リン酸施用量(kg/10a)
=8※2×土壌分析結果を基に上表から読み取った施肥
率・・・式①
カリウム施用量(kg/10a)
=22-1/2×容積重×土壌中の交換性カリウム(mg/100g)・・・式②
※1:各圃場の養分含量において、基準収量の達成に必要な肥料の
量を算出するために、施肥標準量に乗する補正率
※2:本地区におけるリン酸の施肥標準量(kg/10a)
土壌診断に基づく施肥対応の結果として、窒素、リ
ン酸及びカリウムの肥料成分要求量(H27年度の例)を
表-3に示す。
施肥標準量に比べ、Aほ場、Cほ場及びDほ場はリ
ン酸の要求量が低くなった。
表-3 土壌診断に基づく肥料成分要求量(H27年度)
ほ 場名
項目
A ほ場
慣行区
設計区
慣行区
設計区
慣行区
設計区
慣行区
設計区
B ほ場
C ほ場
D ほ場
窒素
kg/10a
10.0
10.0
10.0
10.0
10.0
10.0
10.0
10.0
リン酸
kg/10a
8.0
4.0
12.0
12.0
4.0
4.0
8.0
4.0
カリウ ム
kg/10a
20.3
20.0
18.7
18.4
19.2
18.1
20.7
19.2
早春
1番草
収穫後
ほ場名
Aほ場
Bほ場
Cほ場
Dほ場
Aほ場
Bほ場
Cほ場
Dほ場
窒素
kg/t
0.80
1.00
0.96
1.08
1.30
0.86
0.86
0.86
リン酸
カリウム
kg/t
kg/t
0.36
1.28
0.36
2.56
0.44
2.72
0.40
1.84
0.39
1.52
0.35
2.56
0.44
1.92
0.39
1.52
* スラリー1t当りの肥料成分
e) 施肥設計
前述のa)∼d)の結果を踏まえ、施肥設計を行った。
施肥設計では、まず、いずれの成分も肥料成分要求量を
超えないスラリー散布上限量を算出した。このとき、1
回当りの散布上限量は表面流去等を考慮し5t/10aとした。
次に、平成25年度は農家慣行の複合肥料銘柄を用い、全
ての肥料要求量を満たす施肥量を算出した。平成26、27
年度は、地元JAが扱う牧草用肥料銘柄9種類のうち、肥
料成分要求量に最も近く、かつ慣行区より肥料費が安価
になる銘柄と量を決定した。なお、慣行区の肥料銘柄や
施用量は農家が決定しており、肥料費はJAのH27年単価
から算出した。表-5に平成27年度のDほ場の施肥設計例
を示す。Dほ場では、慣行区の化学肥料施肥量より少な
く、肥料費が安価で、投入成分が肥料成分要求量に最も
近いBB456を9.4㎏/10a施用することとなった。
表-5 施肥検討の例(Dほ場、H27年度)
表-6 施肥管理の変化(設計区)
ほ場
調査年
H25
H26
H27
H25
H26
H27
H25
H26
H27
H25
H26
H27
H25
H26
H27
Aほ場
Bほ場
Cほ場
Dほ場
4牧場
平均 *2
化肥削減量 化肥節減費 肥料成分投入量と要求量の差(kg/10a) *1
(kg/10a) (円/10a)
窒素
リン酸
カリウム
5.6
503
2.0
4.1
0.0
15.2
1,476
0.2
0.2
0.0
4.6
150
3.6
0.9
0.0
12.0
974
1.1
0.0
9.5
7.3
880
0.0
5.5
0.0
9.0
467
0.5
0.0
0.0
22.2
1,683
0.0
3.8
8.6
26.9
2,216
0.0
0.8
1.2
20.8
1,279
0.0
0.5
1.1
14.7
1,325
-0.2
-5.9
0.0
9.1
795
2.1
0.0
0.6
30.6
2,797
1.0
0.4
0.0
13.6
1,121
0.8
3.5
4.5
14.6
1,342
0.6
1.6
0.5
16.3
1,174
1.3
0.5
0.3
*1:投入量-要求量 *2:投入量-要求量の絶対値の平均
25.0
20.0
H25
H26
H27
平均1,212円/10a
1,500
1,200
平均14.8㎏/10a
15.0
900
10.0
600
5.0
300
0.0
化学肥料削減費
(円/10a)
採取
時期
0
節減量
節減費
図-3 化学肥料節減量および節減費(慣行区との比較)
5.0
要求量と投入量の
差(kg/10a)
表-4 スラリー分析結果と肥効率を考慮した肥料成分(H27年度)
化学肥料の節減量は3年間の平均で14.8㎏/10aとなり、
その節減費は1,212円/10aであった。化学肥料の節減量
および節減費は、農家慣行肥料を用いて検討した平成25
年度と比較して肥料銘柄を変更した平成26、27年で僅か
に大きくなったが明瞭な差がみられなかった。一方で、
平成25年度に課題となった各肥料成分と投入量のバラン
スについては、図-4に示すように要求量と投入量の差が
小さくなっており、肥料銘柄の選定による施肥設計を実
施したことで、平成26年度以降は特にリン酸とカリウム
で改善された。
化学肥料節減量
(kg/10a)
d)スラリー分析結果と肥効率を考慮した肥料成分
表-4にスラリーの分析結果と各成分の肥効率(窒素リン酸-カリウム;0.4-0.4-0.8)を考慮したスラリー1t
当りの肥料成分(H27年度の例)を示す。
4ほ場を比較するとリン酸に関しては大きな差はない
が、カリウムは早春のBほ場とCほ場、1番草収穫後の
Bほ場が他のほ場より1kg/t以上多くなった。
4.0
H25
H26
H27
3.0
2.0
1.0
0.0
窒素
リン酸
カリウム
図-4 肥料成分要求量と投入量の差
3-2. 調査結果
(1) 化学肥料節減
前述の施肥設計により、いずれの年度も設計区では慣
行区に比べて施肥量が減少し、肥料費も節減できた。表
-6に4ほ場の設計区における施肥管理の変化、図-3に化
学肥料節減量および節減費(4ほ場平均)、図-4に肥料
成分要求量と投入量の差(4ほ場平均)を示す。
Ko Murakami,
Yasuyoshi Nishiwaki
(2) 牧草調査
施肥設計による牧草収量への影響を確認するため、
牧草収量調査を実施した。
a) 牧草収量
牧草の収量調査は、各農家の収穫時期にあわせて 1 番
草と 2 番草で坪刈りによって行った。図-5 に調査年度
ごとの 4 ほ場平均の生草収量結果を示す。また、図-6
に 3 年間の農耕期間(4 月∼9 月)の気象概況を示す。
慣行区の収量を年度ごとに比較すると、平成 25 年>
平成 27 年>平成 26 年で、特に平成 26 年度が低い値と
なった。これは、図-6 に示したように平成 26 年度の 5
∼8 月の降水量が、平年値より約 232 ㎜も多く、この多
雨が影響したものと考えられた。
牧草収量を設計区と慣行区で比較すると、いずれの
年度も設計区が慣行区を上回った。特に、平成 26 年度
以降は慣行区と比較した設計区の比率は高くなっており
(H26;118、H27;114)、これは肥料銘柄も変更し投入
成分が肥料成分要求量に近くなり、バランスが改善され
たことが要因と考えられた。
以上の結果より、化学肥料の節減を行ってもスラリ
ーを活用することで肥料成分要求量を満たせば、牧草収
量は維持、増加することが示された。
H27
H26
H25
0
1,000
生草収量(㎏/10a)
2,000
3,000
4,000
慣行区
図-7 牧草の Mg、粗タンパク質(CP)、K 含有率から牛血清中 Mg
濃度の推定 2)
表-7 安全な牧草の範囲、CP×K と Mg の関係(グラステタニー)
5,000
CP(%)×K(%)
牧草中Mg(%)
30以下
0.10以上
40以下
0.13以上
設計区
50以下
0.16以上
慣行区
60以下
0.19以上
104
設計区
慣行区
118
114
設計区
※数値は慣行区を100としたときの設計区の比率、エラーバーは標準誤差を示す。
40
35
30
25
20
15
10
5
0
0
50
100
150
200
250
300
350
400
4月
5月
降水量(H25)
降水量(平年値*)
平均気温(H27)
6月
7月
8月
降水量(H26)
平均気温(H25)
平均気温(平年値*)
降水量(㎜)
気温(℃)
図-5 生草収量(平成 25∼27 年度)
9月
降水量(H27)
平均気温(H26)
図-6 農耕期間の気象概況(平成 25∼27 年度)
b) 牧草品質
スラリーなど家畜ふん尿を多量に施用した場合の牧
草等作物への影響の指標として、牧草の硝酸態窒素や
Mg の含有率などが用いられる 2)。硝酸態窒素では、乾物
当たり 0.2%を超える飼料作物を牛が摂取すると、急性
硝酸塩中毒を発症する危険性が大きくなる。また、低
Mg 含有率の飼料を牛が採食するとグラステタニー(血
液中の Mg 不足によってもたらされる家畜疾病で、体が
が硬直して痙攣を起こし、場合によっては急死すること
もある)を発症する恐れがある。これは、牛の体内での
Mg 吸収阻害によってもたらされるため、図-7 に示すよ
うな牧草中 Mg と吸収阻害要因の粗タンパク質(CP)と
K 含有率から牛血清中 Mg 濃度の推定図で表されている。
これによると、安全な牧草(図中;安全に放牧でき
る)の範囲として CP(%)×K(%)と牧草中 Mg(%)
の関係を表-7 のように示すことができる。
Ko Murakami,
Yasuyoshi Nishiwaki
牧草の品質調査結果を表-8 に示す。
本調査において、硝酸態窒素はどの試験区も 0.2%を
超えなかったことから、いずれの施肥によっても急性硝
酸塩中毒発症の危険性はないと想定できた。
また、CP×K と Mg の関係は、いずれの年度、試験区
においても表-7 の条件を満たしており、グラステタニ
ー発症の危険性は低いと想定できた。これらのことから、
本試験のように肥料成分要求量を大きく上回らず、なお
かつスラリー散布量の上限量が 5t/各期という制限の
中で要求量を満たす限り、牧草の安全性に問題無いと判
断できた。
表-8 牧草の品質結果(H25∼27 年)
項目
一
番
H 草
2
5 二
番
草
一
番
H
草
2
二
6
番
草
一
番
H
草
2
二
7
番
草
Mg
硝酸態窒素
CP×K
Mg
硝酸態窒素
CP×K
Mg
硝酸態窒素
CP×K
Mg
硝酸態窒素
CP×K
Mg
硝酸態窒素
CP×K
Mg
硝酸態窒素
CP×K
単
位
%
%
%
%
%
%
%
%
%
%
%
%
%
%
%
%
%
%
Aほ場
慣行区 設計区
0.34 0.22
0.001 0.001
14.4 18.3
0.43 0.29
0.001 0.024
21.7 33.0
0.25 0.18
0.001 0.000
16.6 24.3
0.40 0.22
0.000 0.001
14.4 20.8
0.27 0.19
0.000 0.001
11.6 20.4
0.39 0.21
0.000 0.003
12.0 20.2
Bほ場
慣行区 設計区
0.16 0.13
0.001 0.004
36.1 29.4
0.19 0.19
0.005 0.003
34.2 41.4
0.10 0.10
0.001 0.001
25.7 27.2
0.16 0.15
0.003 0.001
19.3 18.6
0.10 0.10
0.001 0.001
20.0 26.2
0.13 0.19
0.000 0.000
25.8 27.4
Cほ場
慣行区 設計区
0.13 0.14
0.005 0.011
23.6 24.6
0.17 0.15
0.019 0.005
28.1 31.1
0.12 0.15
0.001 0.006
22.7 32.0
0.15 0.14
0.001 0.002
33.1 36.9
0.13 0.14
0.000 0.005
18.4 20.7
0.24 0.21
0.003 0.010
29.4 58.9
Dほ場
慣行区 設計区
0.15 0.16
0.008 0.004
20.4 23.1
0.22 0.20
0.004 0.005
20.8 25.4
0.18 0.14
0.001 0.001
23.4 21.3
0.21 0.17
0.001 0.001
14.4 21.7
0.14 0.17
0.000 0.000
23.8 24.8
0.19 0.17
0.001 0.001
22.4 18.7
(3) 農家慣行施肥の変化
平成 25、26 年度の調査後には、各調査対象農家に対
して前述したような調査結果について報告し、化学肥料
節減の有効性についても説明してきた。表-9 および図-
7、8 に農家慣行区のスラリー散布や化学肥料施肥量等
の変化について示す。
各年度における結果報告により、平成 26 年度以降は
スラリー散布量は増加傾向、化学肥料費は減少傾向にあ
った。特に、Cほ場は成分投入量が過剰であったことか
ら、適正なほ場管理のためにスラリーの散布量、化学肥
料使用量を抑えていた。A、Bほ場ではスラリーを積極
的に活用し、化学肥料費の節減を進めていた。Dほ場で
もこれまでなかったスラリー散布が平成 27 年度には実
施された。
以上より、農家慣行においてもスラリーの積極的な利
用、ほ場の適正施肥管理および肥料費の節減がなされて
おり、肥培かんがい施設の有効活用の促進が確認された。
表-9 スラリー散布および施肥管理の変化(慣行区)
ほ場
調査年
H25
H26
H27
H25
H26
H27
H25
H26
H27
H25
H26
H27
H25
H26
H27
Aほ場
Bほ場
Cほ場
Dほ場
4牧場
平均 *2
肥料成分投入量と要求量の差
スラリー
化学
散布量
肥料費
(kg/10a) *1
(t/10a)(円/10a) 窒素
リン酸 カリウム
0.0
2,693
-7.0
2.0
-10.8
2.0
2,723
-5.3
2.8
-10.9
4.0
2,265
-2.8
-0.5
-12.6
2.5
3,656
-2.9
-0.3
0.8
2.5
3,670
-3.2
-0.9
6.7
7.0
2,310
-0.1
-5.0
3.7
9.8
3,788
5.8
6.4
15.0
9.8
3,545
5.0
6.4
12.3
3.5
2,583
-0.3
0.1
-7.6
0.0
3,523
-5.3
-6.9
-9.7
0.0
3,630
-6.0
0.0
-12.1
3.0
3,580
-2.6
0.4
-8.9
3.1
3,415
5.3
3.9
9.1
3.6
3,392
4.9
2.5
10.5
4.4
2,685
1.5
1.5
8.2
*1:投入 量-要 求量 *2: 投入 量-要求 量の 絶対値 の平 均
5.0
5,000
H26
H27
4.0
4,000
3.0
3,000
2.0
2,000
1.0
1,000
0.0
化学肥料費(円/10a)
スラリー散布量(t/10a)
H25
0
スラリー散布量
肥料費
図-7 スラリー散布量および化学肥料費の変化(慣行区)
要求量と投入量の
差(kg/10a)
12.0
10.0
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
H25
窒素
H26
H27
リン酸
カリウム
図-8 肥料成分要求量と投入量の差(慣行区)
(4) まとめ
3年間の調査結果より、牧草地へのスラリー散布によ
る利点として、実営農レベルにおいても牧草収量増加や
Ko Murakami,
Yasuyoshi Nishiwaki
化学肥料の節減があることが示された。また、スラリー
を主肥料とし、不足成分を適正な化学肥料を選定し補う
ことで、ほ場の肥料成分要求量と投入量を等しくするこ
とができ、牧草品質に関しても乳牛に悪影響を及ぼすよ
うな傾向はみられなかった。さらに、これらの調査を継
続実施することで、農家の意識にも変化がみられ慣行の
施肥管理においてもスラリー散布量の増加や化学肥料の
節減などが確認できた。このような結果を地域全体に啓
発することで、肥培かんがい施設の有効活用の促進が図
られるものと考える。
4. 啓発普及資料の作成
酪農経営においては、所得向上に向けて、低コスト
な自給飼料利用率の向上や営農経費の削減が必要不可欠
となっている。そのため、肥培かんがい施設の適正な運
転方法や肥培かんがいに伴う増減経費(試算値)を示し
た受益者向けの啓発普及資料を作成し、より効果的に肥
培かんがいが実施されるよう活用しているところである。
4-1.資料作成方針
対象となる肥培かんがい施設導入農家では、根室区
域広域農用地開発公団事業(通称;新酪農村建設事業)な
どの実施による従来のスラリー処理や堆肥化によるふん
尿処理を行ってきた。これらの受益者に対して新たに肥
培かんがい施設の適正な運転方法や導入効果について啓
発するため、以下の点に留意して資料内容を検討した。
(1) 肥培かんがい施設の運転管理
a)スラリー腐熟の目安
施設導入後において、農家が自身のスラリーについ
て腐熟あるいは未熟な状態なのかを判別する必要がある。
そこで、農家が判断可能な腐熟指標について検討した。
b)適正な運転方法
スラリー腐熟の目安が明らかとなっても、希釈によ
る曝気効率向上や適切な曝気時間など、適正な運転方法
が分からなければ農家自身で実施できないため、これら
を明確にする。
(2) 肥培かんがいに伴う増減経費(試算値)
スラリーの腐熟化には希釈、曝気・撹拌の運転が不
可欠であるが、それには電気料金等の経費を要する。そ
こで、腐熟スラリーの散布に伴う掛かり増し経費と減少
経費を試算し、示すこととした。
掛かり増し経費を減少経費が上回れば、施設を適正
に運用して希釈、曝気・撹拌を行い、腐熟スラリーを散
布するメリット(経費節減)がイメージできると期待さ
れる。
曝気時間(hr/日)
(1) 肥培かんがい施設の運転管理
a)スラリー腐熟の目安
スラリーの腐熟指標について、これまでは臭気強度
や pH、BOD などが用いられてきたが、これらは化学分析
が必要で農家が判断することは困難であった。そこで、
本地区では農家がスラリー腐熟を判定できる指標として
液温に着目し、その目安が 30℃であることを明らかに
にしている。この目安を農家に示すことで、施設の適正
な運転を促すこととした。なお、現在事業実施地区の全
ての調整槽には液温測定用の温度計が設置されている。
b)適正な運転方法
肥培かんがい施設は、かんがい用水でふん尿を希釈
することで曝気・撹拌効率を向上させ、スラリーの腐熟
化を促進するものである。また、スラリー化することで
ふん尿処理の効率化を図り、労働力の節減となる。これ
が従来のふん尿処理との相違点である。過年度調査で、
腐熟にはスラリーのTS(固形分濃度)と曝気・撹拌時間の
双方が影響することが示されている。
一方で、近年、電気料金や購入飼料価格の高騰など
の影響から酪農業も厳しい経営状況があり、電気代等の
経費削減のため、十分な曝気を行えない状況がある。こ
のため、適正な運転方法を確立する希釈倍率と曝気時間
を整理することで、営農経費の節減に繋げることが重要
である。そこで、過年度調査を含めたデータに基づき、
TSと曝気・撹拌時間の2つの変数を用いた解析によって、
スラリー腐熟の目安となる液温推定式を作成し、そこか
ら液温30℃に必要なTS濃度別の曝気時間を整理した(図
-9)。検討の結果、腐熟のために必要な曝気時間を、ス
ラリーのTSから生ふん尿の場合6.0時間時間/日、2倍希
釈の場合4.6時間/日、3倍希釈の場合4.1時間/日と決定
し、資料に示した。
7.0
液温30℃直線
5.0
3.0
1.0
4
6
3倍希釈
2倍希釈
8
10
調整槽中スラリーのTS(%)
12
生ふん尿
図-9 液温30℃に必要なTS別の曝気時間
(2) 肥培かんがいに伴う増減経費(試算値)
別海南部、西部、北部および根室の各地区でスラリー
を腐熟化させている受益者を 1 戸ずつ選定し、掛かり増
し経費として、電気料金及び水道料金の増加額(実額)
を、減少経費として、購入飼料費、化学肥料購入費、ふ
ん尿処理作業経費の減少額を試算した(図-10)。なお、
購入飼料費の減少額は、前述の化学肥料節減実証調査の
牧草収量調査結果をもとに、慣行区に比べて腐熟スラリ
ー散布で増収する牧草(TDN 量)によって、これまで購
入していた配合飼料(同等の TDN 量)を代替するとして、
試算した。10a あたりの購入飼料費の減少額は、4,209
円/10a と設定した。
試算の結果、掛かり増し経費が1,073∼3,555千円/戸
であるのに対し、減少経費が2,880∼6,611千円/戸とそ
れを大きく上回った。減少経費から掛かり増し経費を差
し引いた節減経費は、1,028∼3,630千円/戸と試算され
る。これを、施設を適正に運用して希釈、曝気・撹拌を
行い、腐熟スラリーを散布するメリットとして受益農家
に示すことが可能と考えられる。
節減費と経費(千円/年)
0
d牧場 c牧場 b牧場 a牧場
( 55ha) (120ha) ( 60ha) ( 85ha)
4-2.啓発普及資料作成
1,000
2,000
3,000
4,000
5,000
Yasuyoshi Nishiwaki
7,000
3,630
掛かり増し経費
減少経費
掛かり増し経費
1,781
減少経費
3,055
掛かり増し経費
減少経費
掛かり増し経費
1,028
数値は節減経費
=減少経費−掛かり増し経費
購入肥料費減少額
化学肥料購入費減少額
電気料金増加額
水道料金増加額
ふん尿処理作業経費減少額
図-10 肥培かんがいに伴う増減経費
5. おわりに
TPP交渉等国際化が進み、酪農業も厳しい経営状況が
ある。我が国の酪農も大規模化や、飼料自給率の向上、
更には効率化による営農経費の削減を今にも増して進め
なければならない状況である。
我々も、これまでの調査による効果発現の状況や、適
正な運転時間による効果を受益者にわかりやすく丁寧な
説明ができるよう資料整理に務めたい。また、北海道酪
農が益々繁栄し、国際的競争力を持てるよう、肥培かん
がい先進地として、他地域の肥培かんがい推進に役立つ
資料作成に努めて参りたい。
今後は、地元JAや農業改良普及センター、農業試験場
等関係機関との連携を模索しつつ、これまで蓄積した肥
培かんがい技術を更に確立して普及させていく方針であ
る。
このことが、北海道農業の発展に繋がると考えてお
り、このために根室地域で肥培かんがいを確かな技術と
なるよう施設整備、適正な運転普及に努めてまいりたい。
参考文献
1) 北海道農政部(2010):北海道施肥ガイド,pp.189-221
2) 松中照夫(2003):土壌学の基礎,pp.224-229
Ko Murakami,
6,000
減少経費