バーゼル銀行監督委員会が金融危機後に進めてきた自己資 本比率規制︵バーゼル規制︶の見直し作業が、今年末まで に完了する運びとなっている。自己資本比率の分母である リスクアセットの計測手法には、簡素な﹁標準的手法﹂と、 リスク感応度の高い﹁内部モデル手法﹂とがあり、バーゼ な見直しに取り組んでいる。銀 行が最低所要水準を一定程度上 回る自己資本比率を維持してい ながら金融危機が起こった背景 には、自己資本比率の分子であ る銀行の自己資本の中身が脆弱 だったこと、分母のリスクアセ ットでもリスク捕捉が甘かった 上げやトレーディング勘定の取 扱いを見直した﹁バーゼル2・ 5﹂と呼ばれる分母の改正だ。 次に、自己資本の構成や算入要 件を抜本的に見直した﹁バーゼ ルⅢ﹂において、分子の改正を 実施した。バーゼルⅢでは、損 失吸収力を備えたより質の高い ル委は内部モデル手法の使用を大幅に制限する方針を打ち 出している。バーゼルⅡで示された方向性を大きく転換す ることを意味しており、リスクアセットの増加に伴う自己 資本比率の悪化だけではなく、リスク管理や収益管理のあ り方など、多方面に影響を及ぼすとみられている。 などの問題があった。バーゼル 委は金融危機の反省から、自己 資本比率の分子と分母の両面に ついて抜本的な見直しを進めて きた︵図表2︶ 。 まず着手したのが、金融危機 の直接的な原因となった再証券 化商品などのリスクウェイト引 世 界 的 な 金 融 危 機 を ふ ま え た バ ー ゼ ル 銀 行 監 督 委 員 会 の 規 制 改 革 作 業 が 大 詰 め を 迎 え て い る。 2013年から実施されたバーゼルⅢでは自己資本比率の分子である自己資本の枠組みが大幅 に 見 直 さ れ、 現 在 は 分 母 で あ る リ ス ク ア セ ッ ト の 計 測 手 法 を 抜 本 的 に 見 直 す 検 討 が 進 ん で い る 。 な か で も 高 度 な 計 測 手 法 で あ る 内 部 モ デ ル 手 法 に つ い て は、 そ の 利 用 を 制 限 す る 方 向 性 が 打 ち 出 さ れ て お り、 リ ス ク ア セ ッ ト が 大 幅 に 増 加 す る 可 能 性 が 指 摘 さ れ て い る 。 年末までに すべての規制改革を最終化 2008年のリーマンショッ クに端を発した金融危機をふま え、 バ ー ゼ ル 銀 行 監 督 委 員 会 ︵以下、﹁バーセル委﹂︶が自己 資本比率規制︵図表1︶の大幅 16 10 2016. 6. 6 金融財政事情 動きが目立っているのだ。 そもそも私募ファンドの場 合、公募ファンドと比べて手数 料が低く、ファンドの配当や売 却益を本業収益であるコア業務 純益に計上できるメリットがあ る。なかでも、ここ数年にわた って地域金融機関を中心に爆発 的に売れているのが、ラダー型 運用をベースとする内外の国債 ファンドだ。ラダー型運用とは、 残存期間の異なる債券にバラン マイナス金利政策の導入決定以降、日本国債(JGB)の利回り低下が著しい。ポストJ GB運用は国内投資家の最優先課題であり、足もとでは米国債を中心に外債投資が活発化 している。ラダー型外国債ファンドやジニーメイ債券ファンドといった私募ファンドの人 気も高い。ただ、相対的に利回りが高い債券には世界中の投資家が殺到するため、あっと いう間に投資妙味が薄れてしまう。少しでも利回りを確保すべく、債券市場が“早い者の 勝ち”の様相を呈するなか、今年注目の運用対象に「米国地方債」が浮上している。 通常、金融機関は3月末の年 度決算締め前に、ある程度利益 を確定させてしまうので、新年 度の仕込みはもっぱら4月に入 ってから行うのが債券運用界の 〝慣行〟だった。しかし、日銀 がマイナス金利政策を発表した ことで、今年はその様相が一変 した。さらなる金利低下が懸念 さ れ る な か、 ﹁先んずれば運用 を制す﹂とばかりに、利回り確 保に向けて早めに〝仕掛ける〟 スよく投資し、キャリー収益の 平均化を目指す運用手法のこと。 リ ー マ ン シ ョ ッ ク 以 降、〝 羹 に 懲りた〟地域金融機関では、運 用リスクを懸念して外貨建ての 仕組み債やハイイールド債等の 運用を取りやめるところが相次 ぎ、安定的かつ相応のリターン が期待できるラダー型ファンド への投資人気が強まった。その 後、日銀の量的・質的金融緩和 の発動により、日本国債の超長 期ゾーンや外国債券︵7∼ 年 物︶など、より金利の高い債券 で運用するラダー型ファンドの 人気が高まっていった︵本誌2 014年3月 日号6ページ︶。 他社に先駆けてラダー型ファ ンドの募集を仕掛けた野村証券 では、すでに足もとで1・5兆 円超の残高を積み上げており、 その人気ぶりがうかがえる。た だし昨今、日銀やECBの追加 的な金融政策の影響で、日本や ヨーロッパの国債利回りは大き くつぶれ︵イールドカーブのフ ラ ッ ト 化 の 進 行 ︶、 昨 年 月 に 利上げを行った米国債が先進国 で数少ない優良投資先となって いる。それゆえ投資マネーが集 10 12 大人気のラダー型ファンド 投資マネーはアメリカに集中 ﹁日銀のマイナス金利政策導入 の影響もあり、2月に入って私 募ファンドが通常の2∼3倍は 売れている。月間募集額でみて も、2月は過去最高に匹敵する 水 準 だ ﹂。 野 村 証 券 ポ ー ト フ ォ リオ・コンサルティング部の落 合俊之部長は、私募ファンドの 人気ぶりをこう強調する。 17 30 2016. 6. 6 金融財政事情 及している。均衡実質金利︵景 気を加速も減速もさせない金利 水準のこと︶がマイナス圏に転 落したと目されるなか、市場金 利をマイナス圏に誘導すること は理にかなった政策であるとい えよう。しかし、同政策に対す る市場からの評価は芳しくない。 理由はいくつかあげられるが、 最も根強い批判が﹁金融機関の 収益﹂への懸念だろう。 初めにマイナス金利政策と金 融機関の収益構造の関係を整理 してみよう。金融機関の収益は、 ①預貸金利スプレッド、②超過 準 備 の 運 用︵ ブ タ 積 み ︶、 ③ 国 債 の 利 息 収 入︵ イ ン カ ム ゲ イ ン︶ 、 ④ 国 債 の 売 却 益︵ キ ャ ピ タルゲイン︶という四つの要因 によって規定される。マイナス 金利政策の導入により、これら のうち、①∼③の要因が金融機 関の収益を下押ししたことで、 今後の金融機関の収益環境に対 する不透明感が急速に強まった。 ﹁①預貸金利スプレッド﹂要因 マイナス金利政策の導入により、金融機関の収益環境が悪化するなか、 ﹁ 日 銀 ト レ ー ド﹂ に よ る 収 益 は 大 幅 に 拡 大 し て い る。 だ が 、 日 銀 ト レ ー ド へ の 過 度 の 依 存 は 、 長 期 的 に は 金 融 機 関 の 収 益 環 境 を 悪 化 さ せ る 要 因 と し て 働 き か ね ず、 新 た な 収 益 源 の 獲 得 が 経 営 上 の 課 題 と な る。 日銀トレードで 荒稼ぎ ﹁史上最強の金融緩和スキー ム﹂︱︱黒田日銀総裁はマイナ ス金利付き量的・質的金融緩和 をこう自画自賛してみせる。確 かに、同政策を発表後、長期金 利はマイナス圏での推移が定着 し、貸出金利や住宅ローン金利 にも低下圧力がかかっており、 金利面での政策効果は徐々に波 については、預金金利のゼロ制 約が依然として残存している一 方で、貸出金利の低下圧力が発 生し、収益を下押ししている。 ま た、﹁ ② 超 過 準 備 の 運 用 ﹂ に 関しては、従来プラス0・1% の付利が設定されていたが、マ イナス金利の導入により限界的 な当座預金の増加分に対してマ イナス0・1%の付利が設定さ れた。大和総研では、マイナス 金利導入に伴うブタ積みの損失 額は、1年間で700億円程度 40 2016. 6. 6 金融財政事情
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