小規模な掘削および埋め戻しをともなう土工の 品質管理

平成27年度
小規模な掘削および埋め戻しをともなう土工の
品質管理方法の提案
―施工後の変状抑制に向けて―
土木研究所
寒地土木研究所
○佐藤
林
山田
厚子
憲裕
充
供用中の道路に設置・埋設されている電柱・管路等の更新作業にともなう小規模な土工は、
工事時間が制限されたり、狭隘な施工条件である場合が多く、標準的な土工の品質管理方法を
適切に適用することが困難な場合がある。十分な品質管理を行うことができなかった場合には、
施工後の時間経過にともない変状が発生し進行する可能性がある。そこで、路盤・路床等の強
度を簡易・迅速に計測することのできる小規模土工に適した新たな品質管理方法を検討した。
キーワード:小規模土工、品質管理、衝撃加速度、土壌硬度
このような施工不良を見落としてしまう危険性がある。
さらに、一般的に締固め不足による変状は、施工直後に
発生することは少ないため、竣工直後には適切に復旧さ
供用中の道路に、新たに電柱、電気・電話・ガス・上
れたように見受けられても、時間の経過により徐々に変
下水道などの管路を設置する場合や、このような構造物
状が発生・進行する恐れがある。
を老朽化や基準改変のために更新する占有工事では、施
そこで、供用中の道路での小規模土工に適した、埋め
工箇所の掘削、埋め戻しの小規模土工をともなう。また、
戻し後の適切な品質を担保することのできる新たな品質
国土交通省では、景観・観光、安全・快適、防災の観点
管理方法を提案するための検討を行った。
から無電柱化1) を推進しており、電線地中化工事におい
ても掘削、埋め戻し作業が行われる。これらの工事は、
十分な締固めを行い、作業終了後、埋め戻し箇所が時間
経過後も変状しないように現況復旧しなければならない。
2. 小規模土工に適した品質管理方法の考え方
一般的な土工の品質は、材料の最大乾燥密度に対する
施工箇所の乾燥密度の割合である締固め度により管理さ
れており2)、小規模土工でも同様の品質管理が求められ
小規模土工に適した品質管理方法を検討するに当たり、
る。しかし、施工箇所の最大乾燥密度は、締固め試験に
埋め戻し後の強度が掘削前の強度以上であれば、掘削埋
より求めるため、結果の判明まで1週間以上の時間を要
め戻し後も変状が生じないと考え、狭隘で計測時間に制
する。また、作業範囲が小規模であり材料土の発生量が
限のある条件に適した、簡易・迅速に計測することがで
少ない場合は、締固め試験に必要な土砂量を確保できな
き、しかも比較的小型な装置を用いて、掘削前と埋め戻
い場合もある。さらに、施工箇所の乾燥密度の計測は、
し後の各装置の計測値を比較することとした。選定した
3)
一般的には砂置換法およびRI法などの方法 によるが、
装置は、衝撃加速度計4)、コーンペネトロメーター5)、山
これらの方法は、現場計測に1時間程度の時間を要する。 中式土壌硬度計6)である。
くわえて、供用中の道路では、掘削、埋め戻しまでの時
衝撃加速度計は、重さ4.5kgのランマーを高さ40cmか
間に制限があることが多く、現場計測に必要な時間の確
ら自由落下させたときにランマーに生ずる衝撃加速度を
保が困難となる場合がある。このように供用中の道路に
求めるものであり、北海道開発局において盛土の品質管
おける小規模埋め戻し土工は、適切な品質管理を適用し
理に用いられている装置である。コーンペネトロメータ
づらい現場条件が多く、品質管理のための試験を省略し、 ーは、先端コーンを人力で垂直に土中へ貫入させた
1層当たりの施工層厚・埋め戻し材料・施工機械などの
時の貫入抵抗を求める計測機器であり、建設機械の
施工方法で規定したり、写真のみの管理としている場合
走行性(トラフィカビリティ)の判定に使用される。
が多い。したがって、現状の品質管理方法では、もし何
山中式土壌硬度計は、先端コーンを押し込んだときの貫
らかの要因により十分な締固めがされなかった場合には
入量によって土壌の硬度を計測するものであり、植物の
1. はじめに
Atsuko Sato, Toshihiro Hayashi, Mitsuru Yamada
a.衝撃加速度計
b.コーンペネトロメーター
c.山中式土壌硬度計
写真-1 計測装置
生育に適した土壌であるかを判断するために用いられて
いる。各装置を写真-1に、重量とサイズを表-1に示す。
いずれの装置も比較的小型で、かつ、人力で運搬するこ
とが可能な重量であり、時間に制限があり狭隘な現場条
件においても、迅速に計測箇所へ装置を導入することが
可能である。また、いずれの装置も迅速に計測ができ、
小型で軽量であるにも関わらず、計測精度の信頼性が高
く、個人誤差が少なく、短時間で多数のデータ収集が可
能である。
表-1 計測装置の重量とサイズ
衝撃加速度計
コーンペネトロメーター
山中式土壌硬度計
重量(kg)
10
6
1
サイズ(cm)
高さ85×幅20
長さ80×幅40
長さ23×幅5
3. 試験方法
掘削前と埋め戻し後の強度を 3 種類の計測装置により
測定した。図-1 に計測箇所の詳細を示す。掘削前の強
度については、路盤の場合はアスファルト舗装を切削し
露出した路盤上部、また、路床の場合は路盤を掘削し露
出した路床上部で計測した。無舗装箇所では、表層の植
生を除去して、計測箇所を地表面から 5cm 程度掘削し
平坦にした。埋め戻し後の強度については、対象箇所を
埋め戻したときの最上面で計測した。
舗装箇所はバックホウにより掘削し、埋め戻し後の転
圧は主にランマにより、プレートコンパクタ仕上げを行
った。非舗装箇所の掘削はトレンチャーで行い、埋め戻
し後の転圧は振動ローラによった。
計測箇所は札幌市近郊の 4 箇所であり、いずれの箇所
も掘削と埋め戻しの間は 6 時間以内であった。計測箇所
の施工条件と材料の基本物性値を表-2 に示す。計測箇
所 1~4 は、歩道または車道の路盤、路床の下にある上
↓
5cm
↑
埋め戻し後地表面
掘削時・埋め戻し時路盤
アスファルト舗装
掘削時地表面
路盤
測定位置
掘削時・埋め戻し時路床
路床
a.舗装箇所
b.無舗装箇所
図-1 計測箇所
Atsuko Sato, Toshihiro Hayashi, Mitsuru Yamada
表-2 測定箇所の施工条件と材料の基本物性値
No.
1
施工場所
施工箇所
手稲(札幌市)
路盤(歩道)
施工目的
施工の種類
基
本
物
性
値
土粒子密度 ρs(g/cm3)
自然含水比 wn(%)
2mm 以上
粒度
特性
75μm~2mm
(%)
75μm 以下
コンシステンシー限界
地盤材料の分類記号
2
路床(歩道)
上水道管更新
掘削
2.707
13.3
95.7
4.3N.P.
G
埋め
戻し
2.693
11.9
81.3
17.2
1.5
N.P.
GS
掘削
2.704
38.05
33.4
37.1
29.5
N.P.
GFS
埋め
戻し
2.671
15.75
0.4
94.4
5.2
N.P.
S-F
水道管、ガス管などの管路を交換するための工事であり、
計測箇所 5~7 は、電線地中化の試験施工により掘削、
埋め戻し作業が行われた箇所である。
計測箇所 3 および 5~7 は、掘削と埋め戻しの土砂が
同じであった。計測箇所 1、2、4 は、掘削と異なった材
料により埋め戻した。計測箇所 1 の埋め戻し土は掘削時
よりも細粒分が多くなっていたが、ほぼ同じ材料と見な
すことができる。計測箇所 2 の材料は掘削時には礫質土
であったが、埋め戻し時は砂質土であった。計測箇所 4
はほぼ同じ材料と見なすことができる。
各箇所において衝撃加速度計、コーンペネトロメータ
ー、山中式土壌硬度計によりそれぞれ衝撃加速度、コー
ン指数、土壌硬度を測定した。測定方法は、衝撃加速度
による盛土品質管理方法に準拠し、それぞれの装置によ
り、1箇所につき10点測定した。測定値の上限・下限の
各2データを取り除き計6点の平均値を計測箇所の測定値
とした。
また、計測箇所1~4は施工から約10か月後、一冬期経
過後に、計測箇所5~7は施工から2週間後に、施工箇所
の変状の有無を目視で確認した。
4. 試験:結果および考察
(1) 計測装置の適用性
コーンペネトロメーターでは、計測箇所 2 で、掘削前
と埋め戻し後のいずれも表面では測定できたものの、表
面から 7.5cm の深さで貫入不可となった。また、他の計
測箇所では表面でも貫入不能となり、具体的な数値を識
別することができなかった。数値で強度を示すことはで
きなかった。これは、コーンペネトロメーターは、主に
Atsuko Sato, Toshihiro Hayashi, Mitsuru Yamada
3
4
大通
月寒(札幌市)
(札幌市)
路盤
路盤(歩道)
(車道)
上水道
ガス管更新
管更新
埋め戻
掘削
掘削
し
埋め戻し
2.772
2.752
2.761
6.25
5.73
5.96
72.1
86.2
85.5
22.2
10.3
11.0
5.7
3.5
3.5
N.P.
N.P.
N.P.
GS-F
G-S
G-S
5
6
7
角山(江別市)
地山
2.563
23.67
21.7
51.7
26.6
N.P.
SFG
電線地中化
試験施工
掘削
埋め戻し
2.850
13.35
73.9
21.4
4.7
N.P.
GS
2.629
20.77
69.0
23.4
7.6
N.P.
GS-F
建設機械の走行性(トラフィかビリティ)の判定に使用
されるため、本検討の計測箇所よりもかなり軟弱な土材
料を計測対象として用いられている計測装置であること
による。このため、人力で貫入抵抗を測定する機構であ
り、体重よりも大きな荷重による貫入ができない。した
がって、コーンペネトロメーターは、地盤の強度評価は
できるものの、掘削前と埋め戻し後の数値を比較する小
規模土工の品質管理への適用が困難であるといえる。
衝撃加速度計と山中式土壌硬度計については、全ての
箇所で計測結果を具体的な数値で取得することができた。
このことより、この 2 つの計器による測定は小規模土工
の品質管理に適用できる可能性があると考えられる。
(2) 掘削前と埋め戻し後の測定値の変化と施工現場の変
状有無の関係性について
施工後の現場での目視確認では、計測箇所7で部分的
に変状が見られた箇所があった。それ以外のすべての箇
所では変状は認められなかった。
掘削前と埋め戻し後の衝撃加速度を図-2に示す。図に
は、測定したすべてと、測定値の上限・下限の各2デー
タを取り除いた6データの平均値を示している。なお、
計測箇所1、6、7については、施工面積が比較的広かっ
たため、掘削前は代表値1点の測定となっているが、埋
め戻し後は複数点で測定した。計測箇所1、6では2点、
計測箇所7では5点測定した。
一般的な施工現場では、砂置換法により測定した場合、
密度のばらつきが大きいことがわかっているが8)、計測
に時間を要するために、現場において多点を測定するこ
とが実用的でないことから、限られた測定数で現場の施
工管理を行っている。しかし、衝撃加速度による測定で
は、短時間にしかも簡単に計測が可能であることから、
狭隘な箇所でも多点の測定が可能である。今回の調査に
おいても10点の測定が可能であり、狭隘な箇所でもある
250
色塗り:上限、下限の各2点のデータを除いた6点の平均値
衝撃加速度(G)
200
掘削前
埋め戻し後
変状あり
埋め戻し後
150
100
50
0
0
1
歩道
路盤
2
歩道
路床
3
歩道
路盤
4
車道
路盤
5
6
7
電線地中化(試験施工)
埋め戻し
測定箇所
図-2 掘削前と埋め戻し後の衝撃加速度
50
色塗り:上限、下限の各2点のデータを除いた6点の平均値
埋め戻し後
変状あり
地山
40
土壌硬度(mm)
埋め戻し後
30
20
10
0
0
1
歩道
路盤
2
歩道
路床
3
歩道
路盤
4
車道
路盤
5
6
7
電線地中化(試験施工)
埋め戻し
測定箇所
図-3 掘削前と埋め戻し後の土壌硬度
程度のばらつきがあったことから、測定値の上限・下限
の各2データを取り除いた6データの平均値を現場の値と
する方法が、異常値を排除しつつも、平均値を示すこと
ができ、小規模土工の品質管理にも適しているといえる。
図中、路盤では衝撃加速度が大きく、路床および埋め
戻し箇所では衝撃加速度が小さい。一般的に、路盤には
砕石、スラグ、砂利、切り込み砂利、砂などが使用され、
路床や埋め戻し箇所では、一般的な土砂で施工される場
合が多く、今回の調査箇所でも路盤は砕石が、路床や埋
め戻しには一般的な土砂が使用されていた。路盤での衝
撃加速度が大きく、路床、路体(一般土砂)での衝撃加
速度が小さい9)というデータと一致している。
計測箇所3、6を除いて掘削前の衝撃加速度の平均値よ
Atsuko Sato, Toshihiro Hayashi, Mitsuru Yamada
り埋め戻し後の衝撃加速度の平均値は、同じか小さくな
っており、全体として掘削前の衝撃加速度の平均値より
も埋め戻し後の衝撃加速度の平均値が小さくなる傾向と
なった。
計測箇所7では、埋め戻し後変状のあった箇所の衝撃
加速度の平均値は、変状がなかった箇所の衝撃加速度の
平均値よりも小さく、衝撃加速度による変状の有無の推
定が可能である。将来的に小規模土工の品質管理に適用
できると考えられる。
掘削前と埋め戻し後の土壌硬度を図-3に示す。衝撃加
速度とおおむね同様な傾向であった。計測箇所7におい
ても衝撃加速度と同様に、埋め戻し後に変状のあった箇
所の土壌硬度の平均値は、変状がなかった箇所の土壌硬
50
色塗り:埋め戻し後変状あり
埋め戻し後の土壌硬度(mm)
埋め戻し後の衝撃加速度(G)
150
100
50
路盤
路床
埋め戻し
0
0
50
100
色塗り:埋め戻し後変状あり
40
30
20
路盤
路床
埋め戻し
10
0
0
150
掘削前の衝撃加速度(G)
10
20
30
40
50
掘削前の土壌硬度(mm)
a.衝撃加速度
b.土壌硬度
図-4 掘削前と埋め戻し後の衝撃加速度および土壌硬度の関係
度の平均値よりも小さい値となった。土壌硬度は地表面
の浅い箇所の土壌の硬さを示すものであるが、小規模土
工の品質管理に適用できる可能性がある。
図-4に掘削前と埋め戻し後の衝撃加速度および土壌硬
度の関係を示す。今回のデータより、衝撃加速度に関し
ては、掘削前に対して埋め戻し後の衝撃加速度の割合が
ある一定値以上あれば、変状が発生しない傾向があると
推察される。今後、より多くのデータを蓄積し具体的な
基準値を提案したい。一方、土壌硬度に関しては、今回
のデータからは、変状の有無との明確な関係性は見受け
られなかった。今後データを増やして、検討を続けたい。
また、実際の現場では計測箇所1、2、4のように、掘
削土と埋め戻し土が異なる場合もあると考えられる。一
般に、ある強度に対する衝撃加速度やその他の値は材料
によって異なるため、掘削土と埋め戻し土が異なる場合
には、単純に測定値を比較することはできず、厳密には
材料ごとにこれらを求める試験が必要である。しかし、
特に路盤や路床には品質管理された一般流通している良
質材料が用いられることが多く、実際、本報告の調査箇
所においても、掘削土と埋め戻し土がほぼ同じ材料と見
なせる場合があった。また、今後多量のデータを蓄積す
ることにより、どんな材料にも適用できる基準値を設定
することができれば、小規模土工の品質管理方法に求め
られる簡易・迅速な計測を実現できることが可能となる。
今回の検討の結果、以下のことがわかった。
① 衝撃加速度試験機および山中式土壌硬度計は、小規
模土工の品質管理に適用できる可能性がある。
② 衝撃加速度および土壌硬度は、埋め戻し後の変状の
有無と関係があったことから、変状の有無の推定が可能
である。
謝辞:本検討に当たり、フィールドを提供していただい
た北海道開発局、北海道ガス株式会社の皆様に対し、心
から感謝いたします。
参考文献
1) http://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/chicyuka/index.html
2) 北海道開発局:道路・河川工事仕様書、2-160、2-186、
2015.4
3) 地盤工学会:地盤調査の方法と解説、2013.4
4) 北海道開発局:道路・河川工事仕様書、付表 4-39、
2015.4
5) 日本道路協会:道路土工要綱、p.287、2009.6
6) 地盤工学会:地盤調査の方法と解説、p.420、2013.3
7) 北海道開発局:道路・河川工事仕様書、2-186、2015.4
8) 佐藤厚子、西本聡、鈴木輝之:北海道における盛土の締固
め管理に関する検討、平成22年度土木学会北海道支部 論文
報告集第67号、2011.2
9) 山田 充、山梨 高裕、佐藤 厚子:衝撃加速度を用いた路床、
路盤の品質管理方法の検討について、地盤工学会北海道支
5. まとめ
Atsuko Sato, Toshihiro Hayashi, Mitsuru Yamada
部技術報告集第55号、2015.1