ポスター10 術後管理・合併症 P10-1 Y型人工血管置換術後遠隔期に

ポスター10 術後管理・合併症
5月25日 15:20〜16:20
第8会場 (ホテル グランパシフィック LE DAIBA B1F パレロワイヤルD)
司会
蔡 景襄 (座長) (JR仙台病院 血管外科)
P10-1 Y型人工血管置換術後遠隔期に生じた右大腿筋間膿瘍で発症した人
工血管十二指腸瘻の一例
演者
貝原 正樹 (済生会横浜市東部病院 血管外科)
小野 滋司 (済生会横浜市東部病院 血管外科)
渋谷 慎太郎 (済生会横浜市東部病院 血管外科)
【背景】Y型人工血管置換術後の人工血管腸管瘻は,比較的まれな晩期合併症の1つとして知られ
ている(0.4~4%).発症期間は,初回手術から平均3~7年後と報告されている.発生部位は
十二指腸が最も多く,人工血管吻合部と腸管に瘻孔を形成した場合,吐下血で発症することが多
い.しかし,非特異的な症状を呈することもあり,診断の遅延につながりやすく,致死率の高い
合併症である.今回,われわれは初回手術から10年以上経過してから発症した,人工血管十二指
腸瘻の症例を経験したので報告する.【症例】70歳台後半の女性.13年前に腹部大動脈瘤に対
してY型人工血管置換術を施行した既往があった.今回,右下肢痛,発熱を主訴に当院内科外来
を受診した.下肢造影CT検査にて,多発右大腿筋間膿瘍を認めたため,穿刺ドレナージ目的で当
科に緊急入院となった.切開排膿ドレナージおよびSBT/ABPC 3g 6qhにて治療を開始したが,
培養検査にて膿瘍から腸内細菌群が検出された.加療開始後,症状の増悪なく経過していたが,
3週間後,悪寒戦慄を伴う発熱を認めたため,全身造影CT検査を施行したところ,人工血管分岐
部周囲にairを認め,人工血管腸管瘻が疑われた.同瘻孔からのseptic embolismを原因とした多
発右大腿筋間膿瘍と診断し,根治目的に緊急開腹手術の方針とした.手術所見は,Y型人工血管
のbodyから右脚にかけて十二指腸と強固に癒着しており,剥離すると局所的に人工血管が褐色に
変色しており,腸液に暴露されていたことが示唆された.吻合部に明らかな異常は認めず,また
,感染は局所に限局していると判断し,感染人工血管を切除し,in situにて新たな人工血管(eP
TEE)で置換した.術後1日目,後出血にて開腹止血術を要したが,活動性の出血は認めず,後
腹膜組織全体から滲出性に出血している状態であり,凝固異常の一端と考えられた.術後2日目
に急速なアシドーシス進行,血圧低下を認め,治療の甲斐なく,死亡転機となった.病理解剖で
は敗血症の所見以外,特記すべき所見を認めず,手術所見と併せても,人工血管十二指腸瘻を起
因とした敗血症性ショックが死因と考えられた.遠隔期に生じ,右大腿筋間膿瘍で発症した人工
血管十二指腸瘻の1例を経験したので,若干の文献的考察を含めて報告する.
P10-2 内シャント感染(人工血管)の術後に閉鎖持続陰圧療法(NPWT)
を行った治療効果の検討
演者
本間 健一 (福岡市民病院 血管外科)
江口 大彦 (福岡市民病院 血管外科)
内シャント感染は透析患者のシャントトラブルにおける深刻な合併症で,迅速かつ適切な治療を
要する.特に,人工血管は自己血管と比較すると感染しやすく,難治化しやすい.当科で内シャ
ント感染(人工血管)の術後に閉鎖持続陰圧療法(NPWT)を行った症例の治療効果を検討した
.【対象と治療】2010年1月~2015年10月までの当院におけるシャント関連手術症例2270例の
うち,内シャント感染症例は128例(80人)であった.そのうち,人工血管を用いた内シャント
感染症例120例を対象とした.感染グラフト抜去を行った創は開放創とし,120例のうち15例に
開放創の閉鎖持続陰圧療法(NPWT)を行った.105例は創傷被覆材や軟膏を用いて治療を行っ
た(Non-NPWT).【結果】NPWT群はNon-NPWT群と比較して開放創の創傷治癒は早かった
が,術後の平均在院日数はNPWT群:23.9日(7~75日),Non-NPWT群:23.7日(5~54日)
であり,早期の退院にはつながらない結果となった.【まとめ】閉鎖持続陰圧療法は開放創に対
して創傷治癒を早め,術後の平均在院日数を短縮しうる有効な治療法と考えられる.今回の検討
ではNPWT群においてシャント修復術後にグラフトの再感染を来たし,再手術(グラフト抜去)
を行った症例が2例(術後在院日数は49日と54日)みられ,術後の平均在院日数を延長する結果
となったと考える.
P10-3 開心術後予防的vaccume assited closureの使用経験
演者
高澤 一平 (自治医科大学附属病院 心臓血管外科)
相澤 啓 (自治医科大学附属病院 心臓血管外科)
菅谷 彰 (自治医科大学附属病院 心臓血管外科)
阿久津 博彦 (自治医科大学附属病院 心臓血管外科)
楜澤 壮樹 (自治医科大学附属病院 心臓血管外科)
佐藤 弘隆 (自治医科大学附属病院 心臓血管外科)
村岡 新 (自治医科大学附属病院 心臓血管外科)
大木 伸一 (自治医科大学附属病院 心臓血管外科)
川人 宏次 (自治医科大学附属病院 心臓血管外科)
三澤 吉雄 (自治医科大学附属病院 心臓血管外科)
【初めに】心臓血管外科開心術後に発症する重篤な合併症に縦隔炎がある.生命予後を左右する
重篤な合併症であり発症率は0.1%~2.3%と報告されている.また,縦隔炎を含むsurgical site
infection(以下SSI)全体では発生率3~5%と報告されている.術後の予防的なvaccume
assited closure(以下VAC)の使用は欧米諸国では有効性が指摘されており,開心術後正中創で
の予防的VACの使用も欧米では6文献報告されているが,本邦では使用経験が少なくその有効性
のまとまった報告はない.当院では開心術後正中切開創部感染のリスクが高いと判断された症例
に対して予防的VACを使用しており,その有効性を文献的考察も加え報告する.【症例・方法】
2012年9月から2015年2月までの間,当科で開心術を行った570例のうちハイリスク症例134例
(内訳は男性78名,女性56名)に対し
てKCI社のV.A.C.Ⓡsystemを用いて予防的VAC療法を行った.適応としては肥満(Body Mass In
dex>25),糖尿病,ステロイド・免疫抑制剤内服,透析患者,慢性腎不全(G3b以上),糖尿
病,緊急手術,その他(正中創部癌放射線治療後)に対して行った.【結果】適応患者の内訳は
肥満45例,糖尿病60例,ステロイド・免疫抑制剤14例,慢性腎不全47例,透析患者21例,緊急
手術は32例,頭頸部癌放射線療法後2例で,手術内容は弁膜症手術39例,冠動脈バイパス手術40
例,大血管28例,基部置換7例(大血管+基部合計35例),複合手術13例,その他7例で,手術
時間平均は367.4分であった.VAC使用期間は平均6.34日(最短2日,最長14日)で,対象症例
において在院死はなく,退院後2015年2月時点までの外来経過観察中も含めて術後縦隔炎患者は
いなかった.在院中のSSI創離開はゼロで,退院後SSI発生患者は3例.そのうち2例が深部切開創
SSIで1例は表層切開創SSIであり,起因菌はいずれも表皮ブドウ球菌であった.うち2例は離開創
に対しVAC療法を行い保存的に治癒・退院している.【結語】一般に創傷治癒過程で約3日間の
炎症を経て3週間の増殖期に移行すると言われている.創部の不安定な時期にVACを行うことで
外部からの細菌の侵入を防ぐと共に陰圧により切開創を固定することで創部の側方への張力が軽
減されると考えられる.今回の全症例がSSIハイリスク症例であったにも関わらずSSI,縦隔炎の
発生率(全症例/大血管+基部置換)はそれぞれ2.23/2.86%,0/0%と良好な成績であった.術
後予防的VAC療法はSSIならびに縦隔炎の予防に有効であると考えられた.
P10-4 人工血管感染に対しVAC療法を行い治癒した一症例
演者
阪口 仁寿 (天理よろづ相談所病院 心臓血管外科)
南方 謙二 (京都大学医学部付属病院 心臓血管外科)
山崎 和裕 (京都大学医学部付属病院 心臓血管外科)
原 寛幸 (京都大学医学部付属病院 心臓血管外科)
池田 義 (京都大学医学部付属病院 心臓血管外科)
山中 一朗 (天理よろづ相談所病院 心臓血管外科)
患者は64歳男性.両側の大腿動脈瘤に対し,人工血管置換術を施行し,一旦経過は良好で退院と
なるも術後約1ヶ月後に右大腿創部より膿の流出を認めた.PET-CTを施行したところ,人工血管
およびその周囲に強い集積を認め,人工血管感染と診断した.同日より洗浄とopen drainageを
開始.通常であれば,感染人工血管を摘出し,自家静脈による再建か人工血管を使用する場合は
閉鎖孔バイパスを行うべきであるが,自身の大腿動脈が大きく,自家静脈ではサイズのミスマッ
チがあり不適.また閉鎖孔バイパスも考慮したが,スタンプする中枢即の右外腸骨動脈も拡大が
あり,将来的に同部の破裂も危惧された.最近の文献では人工血管感染に対してもvacuumassisted closure(VAC)療法が良好な成績を認めているとのことから,今回の症例ではVAC療
法を行うこととした.創部を開放してから3日目よりVAC療法を開始したところ,徐々に人工血
管を覆うように良好な肉芽形成を認め,VAC開始後約2ヶ月で人工血管はすべて良好な肉芽で覆
われた.その後はVACを中止し,洗浄と軟膏処置のみを続け,最終的には創部は閉鎖した.感染
から半年を経過した現在でも創部は問題なく,感染の再燃も認めていない.今回の症例からVAC
療法は人工血管感染に対してもtake
downを必要とせず,安全かつ簡便に治癒が可能な治療であると思われた.
P10-5 胸部大動脈ステントグラフト内挿術後に食道破裂を来した症例の検
討
演者
山口 聖一
武内 重康
藤田 久徳
末田 智紀
(千葉県救急医療センター 胸腹部治療科)
(千葉県救急医療センター 胸腹部治療科)
(千葉県救急医療センター 胸腹部治療科)
(千葉県救急医療センター 胸腹部治療科)
【目的】胸部下行大動脈術後の食道破裂は稀だが極めて予後不良である.最近我々は,胸部ステ
ントグラフト(SG)内挿術(TEVAR)後に食道破裂を来した2症例を経験したため,文献的考察
を含め報告する.【症例1】64歳女性.咳嗽,血痰を主訴に近医を受診し,CTで巨大な胸部大動
脈瘤を認め,当院へ紹介となった.体温39.1℃.血液検査で白血球12,900/μl,CRP 17.1 mg/d
lと感染の存在が疑われた.既往歴は交通外傷による対麻痺と自己導尿による尿路感染症があり,
最近も抗生剤投与を受けていた.入院時CTで11 cm×6 cmの近位下行大動脈瘤を認め,1か月前
のCTに同瘤がないことから感染性仮性大動脈瘤と診断した.抗生剤投与を開始し,入院3日目に
TEVARを施行した.その後,炎症反応減少と解熱を認めた.しかしPOD 11に38.9℃の再発熱を
認め,CTで仮性瘤内ガス像を,食道造影で瘤内へ造影剤の流入を認め,大動脈―食道瘻(AEF)
と診断した.経管栄養などの保存療法継続で解熱と炎症反応軽減を認め,POD 55に食道瘻閉鎖
を認めた.術後1年で感染再燃を認めないが,今後も厳重な管理を要する.【症例2】78歳男性
.維持透析中に背部痛自覚後ショック状態となり,CTにて縦隔血腫を認め当院へ紹介された.造
影CTで急性B型大動脈解離破裂と診断された.大動脈壁石灰化が著明であった.左鎖骨下動脈(
LSCA)とtearとの間が9 cm程度あるため,緊急TEVARでLSCAから5 cm程度遠位より大動脈径
と同サイズのSGをdeployした.術後数時間で再度ショック状態となり,CTにてtype Ia
endoleakによる出血と診断.緊急追加TEVARをzone 3
landingにて施行し破裂を制御した.POD
6より39℃以上の発熱を認め,血液培養等で腸内細菌を検出した.POD 8の食道造影で縦隔への
多量の漏れを認め,食道壊死と診断した.以後,敗血症のため急速に全身状態悪化し,食道手術
に至ることなくPOD 16に永眠された.【結論】TEVAR後のAEFは極めて予後不良な合併症であ
るが,感染が限局し敗血症に陥らなければ保存療法が有効なケースもある.大動脈壁高度石灰化
症例では,type I endoleakが生じやすく,長めのlanding zoneが必要.食道壊死症例救命の為に
は,内視鏡での早期診断や開胸などによる縦隔血腫ドレナージ等を考慮すべきだろう.
P10-6 A型急性大動脈解離手術時の低体温の検討
演者
木村 有成
玉置 基継
深谷 俊介
北村 英樹
大川 育秀
(名古屋ハートセンター 心臓血管外科)
(名古屋ハートセンター 心臓血管外科)
(名古屋ハートセンター 心臓血管外科)
(名古屋ハートセンター 心臓血管外科)
(名古屋ハートセンター 心臓血管外科)
A型急性大動脈解離手術症例で循環停止を使用する症例では,当院は選択的脳潅流を使用しopen
distal anastomosis法で吻合するため術中低体温を併用している.当院では,2008年12月から2
015年11月までの84か月間にA型急性大動脈解離の手術を70例経験した.その内,上行大動脈限
局型で上行大動脈を遮断して人工血管置換術を施行した1例と開心術中に大動脈解離を来した1例
,ステントグラフト手術直後に解離を来した1例を除外した67例についてstrategyを検討した.
平均手術時年齢は66.4歳,性別の内訳は男35女32例であり,術式の内訳は全弓部大動脈人工血
管置換術20例(うち同時手術症例(重複あり)Bentall 6例,左鎖骨下動脈再建3例,オープンス
テント1例,冠動脈バイパス手術(CABG)2例),部分弓部大動脈人工血管置換術2例(すべてB
CA再建例,1例は大動脈弁置換術(AVR)併施),上行大動脈人工血管置換術44例(うち同時手
術症例(重複あり)AVR 1例,僧帽弁輪形成術1例,CABG 3例,Bentall 2例),Bentall 1例で
あった.循環停止時の体温に関しては,25℃での遮断症例が30例,28℃の症例が30例,その他
の症例が7例であった.大動脈遮断時の中等度低体温に関して当院での手術症例成績を踏まえて
考察し報告する.
P10-7 85歳以上の超高齢者胸部大動脈瘤に対して開胸で大動脈瘤切除術
を行いfast-track recoveryを成し得た二症例
演者
小池 雅人 (近江草津徳洲会病院 心臓血管外科)
白石 昭一郎 (近江草津徳洲会病院 心臓血管外科)
青嶋 實 (近江草津徳洲会病院 心臓血管外科)
鈴木 友彰 (滋賀医科大学 心臓血管外科)
浅井 徹 (滋賀医科大学 心臓血管外科)
心臓外科手術後の過剰な安静臥床は身体デコンディショニングを生じるため,可及的早期に離床
を進めることが重要である.当院では待機的開心術を行った患者の90%以上が術後24時間以内に
食事,離床,歩行を行っている.今回超高齢者の胸部大動脈瘤に対して開胸(open
surgery)で大動脈瘤切除術を行い,早期回復管理(fast-track recovery)を成し得たので報告
する.【症例1】85歳女性,経過観察中の弓部大動脈瘤が最大径56mmに増大し手術適応と診断
され入院.Japan SCOREはmortalityが5.3%,morbidityを加えると37.3%であった.手術は胸
部正中切開を行い,上行大動脈から送血,上下大静脈より脱血,完全体外循環確立後に,人工血
管Gelweave四分岐24mmを用いて弓部全置換術を行った.手術時間は3時間20分,総体外循環時
間は116分,大動脈遮断時間61分,循環停止40分,選択的脳灌流73分であった.術後14時間で
人工呼吸器離脱,術後16時間で飲水開始,術後18時間で食事,離床,歩行を開始した.術後5日
目にシャワー浴開始,術後16日目には独歩で自宅退院となった.【症例2】86歳女性,半年前に
EVT後の左下肢閉塞性動脈硬化症増悪に対して,当院で自家静脈グラフトを用いたF-Pバイパス
術を行った既往がある.経過観察中であった大動脈弁狭窄症の進行と上行大動脈瘤の最大径が61
mmに増大し手術適応と診断され入院.Japan SCOREはmortalityが4.5%,morbidityを加える
と15.6%であった.手術は胸部正中切開を行い,上行大動脈から送血,上下大静脈より脱血,完
全体外循環確立後に,人工血管J graft 30mmを用いた大動脈瘤切除術と生体弁MITROFLOW 21
mmを用いた大動脈弁置換術を行った.手術時間は3時間23分,総体外循環時間は109分,大動脈
遮断時間84分,循環停止18分であった.術後16時間で人工呼吸器離脱,術後17時間で飲水開始
,術後20時間で食事を開始,術後22時間で離床,歩行を開始した.術後7日目にシャワー浴開始
,術後27日目には独歩で自宅退院となった.【考察】胸部大動脈瘤に対するopen surgery(OS
)は手術時間が長く,低体温,循環停止が必要等,手術侵襲が非常に大きくなり高齢者の早期回
復管理は困難な場合が多い.しかし,超高齢者でハイリスクな胸部大動脈瘤に対するOSでも,確
実な手術治療とチーム医療でfast-track recoveryは可能であると考える.
P10-8 大血管手術患者における術後高乳酸血症と予後及び周術期諸因子の
検討
演者
星野 康弘 (東京大学医学部附属病院 心臓外科)
山内 治雄 (東京大学医学部附属病院 心臓外科)
木下 修 (東京大学医学部附属病院 心臓外科)
井戸田 佳史 (東京大学医学部附属病院 心臓外科)
木村 光利 (東京大学医学部附属病院 心臓外科)
縄田 寛 (東京大学医学部附属病院 心臓外科)
小野 稔 (東京大学医学部附属病院 心臓外科)
【背景と目的】心臓大血管手術周術期における高乳酸血症(Hyperlactatemia:HL)は術後合併
症の発生率,死亡率等の術後不良outcomeの予測因子と諸家から報告されているが,特に術後早
期HLは予後不良の予測因子となり,術後後期HLは予後予測因子とはならないと報告されている
.前者は人工心肺による局所灌流不全や術中の循環不安定によるlactateの過剰産生が原因と考
えられている.後者は術後のエピネフリン投与や高血糖との関係が報告されている.本研究では
大血管手術後ICUに入室し,その後に進行したHL,つまり後期HLと術後成績及び周術期諸因子と
の関係について検討した.【対象と方法】対象は2013年7月から2015年6月までに当院で大血管
手術(基部置換及び,腹部を除く大血管置換術)を施行された全64例のうち,手術時間24時間
超の1例,術後データ欠損1例,術直後吻合部出血心停止1例,人工心肺離脱困難PCPS装着1例,
術直後心室頻拍発症1例,小児1例を除く58例を対象に,術後HL(>5mmol/l)を来した症例を
HL群,それ以外をNHL群とし,病院死亡率,入院期間,さらに周術期諸因子について検討した.
【結果】HL群は28/58(48.3%)で,病院死亡はHL群での,感染性遠位弓部大動脈瘤切迫破裂
で術後に多臓器不全で失った1例.2群間で病院死亡率,入院期間に有意差はなかった.手術時間
,人工心肺時間,心筋虚血時間,下半身循環停止時間,出血量,術中最低ヘマトクリット値は2
群間で有意差なく,術中最高血糖値(p=0.0016),術後最高血糖値(p=0.0182)に有意差を
認めた.さらに,ICU帰室後から術後24時間までの血糖値のarea under the curve(台形法)は
2群間で有意差を認め(p<0.0001),また術後乳酸値とICU帰室後から術後24時間までの血糖
値のarea under the curveに線形関係を認めた(R2=0.4587,p<0.0001).【結語】術後高乳
酸血症は短期術後成績の予測因子とは認められなかった.術後乳酸値と血糖値の量的関係を認め
た.
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