表層地盤モデルの速度構造の違いによる地震動伝播特性への影響に関する研究 名古屋大学社会環境工学科建築学コース 飛田研究室 山田芳人 1 背景と目的 2.3 レイリー波モード形 兵庫県南部地震では震災の帯と呼ばれる激震地域が発生し被 図 4 にレイリー波モード形を示す。各モードとも水平動の振 害が集中した。この原因として堆積平野端部の基盤段差による 幅は最表層で大きく変化しており、表層と 2 層目との境界面よ 直達波と回折波の干渉効果が挙げられている 。このような不整 り深い深度では振幅は 0 に収束している。表面波は表層内で反 形地盤構造を持つ場所では、地震動の増幅特性を考える際に堆 射を繰り返しエネルギーが伝わる波であるために、表層より深 積層だけでなく、深部地盤の伝播特性についても考慮すること い深度にはエネルギーが伝わらず振幅は小さくなり、表層と 2 が重要である。 層目との境界面より振幅が大きくなると考えられる。図は略し このような背景から堆積平野の地下地盤構造を把握するため たが、上下動はエアリー相(0.48Hz)において最大となり、そ に様々な物理探査が実施され、地震基盤以浅の堆積平野の波動 の際の水平動は 0 になるという傾向が見られた。 1) 伝播特性についての研究が盛んに行われている。その中で 2 次 2.4 伝達関数 元・3 次元の地盤モデルを設定した解析では、堆積層と地震基盤 図 5 に層毎の基盤との伝達関数 2E/2E、図 6 に伝達関数 2E/E+F を区別した 2~5 層程度のモデルとし、各層では深さ方向に一定 を示す。多層モデルになるほど伝達関数の 1 次ピーク振動数は の速度を与えている場合が多い。しかし実際には各層内でも深 長周期側にずれる傾向が見られた。層毎の増幅度を見ると 1 次 さによって速度構造が変化しており、速度構造のモデルの設定 ピークには表層の物性が大きく寄与しているが、2 次・3 次ピー の違いが地震動伝播特性にどの程度の影響を及ぼすのかを把握 クにおいては中間層の影響が大きいことがわかる。2E/2E では、 しておくことは、適切なモデル化を行う上で重要である。 最表層と基盤との速度差が大きくインピーダンス比も大きくな そこで本論では堆積層と地震基盤からなるモデルを対象に、 る多層モデルほど増幅度は大きくなっている。しかし多層モデ 堆積層の速度変化の設定の異なるモデルを比較することによっ ルになるほど増幅度はインピーダンス比よりも小さな値となる て、表層地盤モデルの速度構造の違いによる地震動伝播特性へ が、これは、多層モデルになると各層での増幅しやすい振動数 の影響を考察する。 が異なってくるためと判断できる。また、2 層モデル以外では 1 2 堆積層の速度構造と波動伝播特性 次ピークより 2 次ピークが大きな振幅を示す場合も認められる。 地震基盤以浅の堆積層の地盤モデルの違いが表面波の特性や 2.5 H/V スペクトル 伝達関数の特性にどのような影響を与えるかを検討する。 図 8 にレイリー波 H/V スペクトルを示す。H/V スペクトルの 2.1 地盤モデルの設定 1 次ピーク振動数と伝達関数(2E/2E)の 1 次ピーク振動数は比 図 1 に検討に用いる地盤モデルを示す。層厚で重みづけした 較的対応が良いと言えるが、多層モデルになるほど H/V スペク 表層平均 S 波速度が 1000m/sとなるように堆積層を分割したモ トルの 1 次ピーク振動数は長周期側にずれる傾向が見られた。 デルを設定する。各モデルの物性値は S 波速度をパラメータと 2.6 分散曲線と伝達関数の関連 している。 レイリー波分散曲線(図 2)の各モードにおいて、速度変化の 2.2 レイリー波・ラブ波分散曲線 勾配の大きな振動数と、伝達関数の卓越振動数(図 5)が対応し 図 2・図 3 に各地盤モデルのレイリー波・ラブ波分散曲線を示す。 ている傾向が多層モデルほどよく見られた。さらにレイリー波 分散曲線には速度変化の顕著な振動数域があり、この振動数域 モード形(図 4)と、伝達関数の深さ方向の振幅分布(図 7)の での変化は基盤と表層の S 波速度の差が大きくなる多層モデル 形状の対応がよいことが確認できた。表層の影響の大きい多層 ほど傾きが顕著なものとなっている。これは表面波の分散曲線 モデルになるほどモード形の対応が良くなると考えられる。 が基盤と表層の S 波速度に大きく依存していることを示してい 3 結論 る。また、短周期になるにつれ高次のモードが現れ、多層モデ これらの検討によって、地盤のモデル化により表面波の伝播 ルになるほど低い振動数で複数のモードが存在していることが 特性、地盤の増幅特性に大きな影響があることを示した。しか 確認できる。 しながら今回検討したモデルは、深さに比例し速度が大きくな 2層モデル 9層モデル 1000m る、限定された特性をもつ非常に単純な例である。よって今後 0 125m ×8 2層モデル 3層モデル 5層モデル 9層モデル 17層モデル -250 17層モデル 500m 62.5m ×16 -500 特性への影響も検討していくことが今後の課題である。 参考文献 -750 5層モデル 250m 250m 250m 250m る必要がある。堆積平野内の地震動予測のため、より精度の高 い地盤モデルの設定を行い、さらに地盤の不整形性による伝播 500m m 3層モデル は、実際の地盤の複雑な構造のモデル化についても検討を加え 堆積層 -1000 0 地震基盤 図 1 地盤モデルと S 波速度構造 1) 川瀬博:兵庫県南部地震の際の神戸市内に震災帯を生成させた 盆地端部でのエッジ効果の生成プロセスと深部地盤構造の関 1000 Vs(m/s) 2000 係に 関 す る一 考 察 、日 本 建 築 学会 学 術 講演 梗 概 集 pp.271272.1996 2 層モデル 3 層モデル 5 層モデル 17 層モデル 250m 250m 250m 250m 500m 1000m 500m 位相速度 基本モード 位相速度 1次モード 位相速度 2次モード 群速度 基本モード 群速度 1次モード 群速度 2次モード m/s 3000 m/s 3000 m/s 3000 m/s 3000 2500 2500 2500 2500 2000 2000 2000 2000 1500 1500 1500 1500 1000 1000 1000 1000 500 500 500 500 0 0 0 0 位相速度 基本モード 位相速度 1次モード 位相速度 2次モード 群速度 基本モード 群速度 1次モード 群速度 2次モード 各62.5m ×16 0.25 0.5 0.75 Hz 1 1.25 1.5 0 0.25 0.5 0.75 Hz 1 1.25 0 1.5 0 0.25 0.5 0.75 1 1.25 1.5 図 2 レイリー波分散曲線 m/s m/s 3000 m/s 3000 3000 m/s 3000 2500 2500 2500 2500 2000 2000 2000 2000 1500 1500 1500 1500 1000 1000 1000 1000 500 500 500 0 0 0.25 0.5 0.75 Hz 1 1.25 0 1.5 0 0.25 0.5 0.75 Hz 1 1.25 0.25 0.5 0.75 1 1.25 1.5 0 0.25 0.5 0.75 Hz 1 1.25 1.5 500 0 1.5 0 0 0.25 0.5 0.75 Hz 1 1.25 0 1.5 図 3 ラブ波分散曲線 基本モード 0.25Hz 0 1次モード 0.75Hz 0 2次モード 1.25Hz 0 基本モード 0.24Hz 0 1次モード 0.63Hz 0 2次モード 0.88Hz 0 基本モード 0.22Hz 0 250 水平 上下 500 500 250 500 500 1000 1 -1 0 1000 0 1 -1 0 1 1000 -1 1000 1 -1 0 1000 0 1 -1 0 1 1000 750 1000 1 -1 0 1000 0 1-1 0 基本モード 0.18Hz 0 500 750 -1 2次モード 0.76Hz 0 250 500 750 1000 -1 1次モード 0.46Hz 0 1 1次モード 0.36Hz 0 125 125 125 250 250 250 375 375 375 500 500 500 625 625 625 750 750 750 875 875 1000 -1 875 1000 1 -1 0 2次モード 0.60Hz 0 1000 0 1-1 0 1 1 1.25 1.5 図 4 レイリー波モード形 15 Amp. Amp. 15 Amp. 15 Amp. 15 10 10 10 10 5 5 5 5 0.5 0.75 Hz 1 1.25 0 0 1.5 0.25 0.5 0.75 Hz 1 1.25 1.5 0 0 0.25 0.5 図 5 層毎の伝達関数 2E/2E 50 Amp. 1 1.25 1.5 0 0 40 40 40 40 30 30 30 30 20 20 20 20 10 10 10 10 0 0 0.25 0.5 0.75 Hz 1 1.25 1.5 0 0 0.25 0.5 0.75 Hz 1 1.25 1.5 0 0 0.25 0.5 0.75 Hz 50 50 Amp. 50 0.75 Hz Amp. 0.25 Amp. 0 0 0.25 0.5 0.75 Hz 1 1.25 1.5 0 0 0.25 0.5 0.75 Hz 1 1.25 1.5 図 6 層毎の伝達関数 2E/E+F S波 0 P波 0 S波 0 P波 0 S波 0 -500 -500 -500 S波 0 -250 -250 -500 P波 0 -125 -250 -250 -375 -375 -500 -500 -625 -625 -750 -750 0.74Hz 2.25Hz 3.74Hz 0.25Hz 0.75Hz 1.25Hz -1000 -15 -10 -5 0 5 -1000 10 15 -4 -2 0.78Hz 1.77Hz 2.86Hz 0.23Hz 0.72Hz 1.27Hz 0 2 4 -1000 -15 -10 -5 0 5 -1000 10 15 -4 -2 0 2 4 -1000 -15 -10 -5 0 5 -1000 10 15 -4 -750 -750 0.81Hz 1.82Hz 3.22Hz 0.22Hz 0.48Hz 0.76Hz -2 -875 0 2 4 ・P波 0 -125 0.20Hz 0.35Hz 0.58Hz -1000 -15 -10 -5 -875 0 5 -1000 -4 10 15 0.78Hz 1.63Hz 2.58Hz -2 0 2 4 図 7 卓越振動数における深さ方向の振幅分布 100 100 100 100 10 10 10 10 1 1 1 1 基本モード 1次モード 2次モード 0.1 0 0.25 0.5 0.75 Hz 1 1.25 1.5 0.1 0 0.25 0.5 0.75 Hz 1 1.25 1.5 0.1 0 0.25 図 8 レイリー波 H/V スペクトル 0.5 0.75 Hz 1 1.25 1.5 0.1 0 0.25 0.5 0.75 Hz 1 1.25 1.5
© Copyright 2024 ExpyDoc