糖尿病と歯周病

糖尿病と歯周病
ニプロ糖尿病関連小冊子シリーズ
改訂版
糖尿病と
歯周病
《糖尿病の治療法を知ろう》
食事療法について知ろう
運動療法について知ろう
薬物療法について知ろう
《糖尿病の合併症》
目と腎臓の予病
神経と太い血管の予病
糖尿病ってなぁに?
● 糖尿病と歯周病
糖尿病と低血糖
糖尿病と妊娠
糖尿病とフットケア
監 修
糖尿病と肥満
日本大学 歯学部 特任教授
(前 日本大学 歯学部付属歯科病院 歯周病科 科長)
糖尿病とシックディ
日本大学 歯学部付属歯科病院 歯科麻酔科 科長
メタボリックドミノを食い止めよう!
ニプロ株式会社では、糖尿病に関する小冊子を発行しております。
ご要望の際は、弊社担当者までご連絡ください。
伊藤 公一
先生
見崎
先生
徹
CONTENTS
contents
歯周病は合併症? ………………………1
ニプロ血糖自己測定器に関するご質問は、お気軽に
下記へお問い合わせください。
治療などに関しましては主治医にご相談ください。
歯周病の原因は? ………………………2
や さ し い ニ プ ロ
糖尿病との関係①②③
0120 - 834 - 226
…………3・4・5
相互関係/豆知識 ………………………6
9:00∼17:30(土・日・祝祭日を除く)
※電話番号をよくお確かめの上、おかけ頂きますようお願い致します。
糖尿病と歯周病の合併症①②③ …7・8・9
当フリーダイヤルでは、
お客様に適切な対応をさせていただく為に個人情報をお伺いしております。
必要な情報をいただけない場合には適切な対応ができない場合があります。
関係を知って治療を
N4-1512-3000(OB)
…………………10
糖尿病と歯周病
歯周病は合併症?
歯周病の原因は?
糖尿病の慢性合併症に「網膜症」
「腎症」
「神経障害」の「3 大合併症」があ
歯周病はなぜ起こるのでしょうか。CM でも盛んに取り上げられている
ることは、よく知られていますが、
「歯周病」も糖尿病の 6 番目の合併症と
の で、ご 存 じ の 方 も 多 い で し ょ う が、歯 周 病 は 歯 や 歯 と 歯 ぐ き の 間 の
言われるようになってきました。
歯周ポケットに住みつく細菌による感染症です。細菌の塊をプラーク
もともと糖尿病は歯周病を悪化させる原因のひとつと考えられてきま
(歯垢)と呼びます。歯周病は、プラークに接している歯肉に炎症が起こり、
したが、同時に歯周病が糖尿病を悪化させる原因にもなっていると言われ
腫れたり、出血したりしながら、歯周組織を徐々に破壊し、最終的には歯が
るほど、互いに深い関係があることがわかってきました。
抜け落ちてしまう病気です。
糖尿病の人は、そうでない人と比べて約 2 倍歯周病が起こりやすいと言
細菌による感染症といっても、人間の身体には細菌やウイルスに対する
われています。糖尿病による高血糖状態が体の免疫機能を低下させたり、
防御機能が備わっていますから、歯周病の原因となる細菌「歯周病原菌」が
血管に障害を与えて、さまざまな合併症を引き起こすことから、口腔内に
住みついても必ず歯周病になるというわけではありません。
も同様な変化が起こると考えるのは当然のことでしょう。
しかし、口腔清掃が不良になって、プラーク中の細菌が増えたり、体の抵
逆に歯周病があると、血糖コントロールが難しくなり、糖尿病を悪化させ
抗力が弱まって、細菌や毒素などの産生物を防御できなかったり、口腔内
るという悪循環に陥るということもわかってきて、歯周病の治療をするこ
が細菌の活動を活発にさせるような環境であるなどの理由によって、歯周
とで血糖コントロールも改善し、血糖値も低下したという事例もあります。
病が発症しやすくなります。
糖尿病にはタイプや血糖コントロールの良し悪しの違いによって病状に
その発症にかかわる最大のリスクファクター(危険因子)は、歯周病原菌
差があります。また、歯周病は成人の罹患率が非常に高い病気であることか
であり、その他に加齢や糖尿病、骨粗しょう症、精神的ストレス、腎臓の疾
ら進行状況などを含めて、
両者を単純に比較することは難しいのですが、
患等の病気や、遺伝的なこと、かみ合わせや歯ならびの不整などの危険因
糖尿病と歯周病の関係については、ぜひ知っておきたいところです。
子があげられます。
さらに、喫煙、食習慣、飲酒などの生活習慣も歯周病を起こしやすくします。
したがって、歯周病は感染症であると同時に生活習慣病でもあるわけです。
細菌因子
(プラーク、歯周病原菌)
重度歯周炎
発症のリスクが
最も高い
宿主因子
糖尿病
(免疫機能、年齢、
糖尿病などの全身疾患)
環境因子
(喫煙、ストレス、
食生活、栄養過多など)
歯周病のリスクファクター
1
歯周病検査に
用いるプローブ
正常な歯周組織
歯や歯周ポケットに
溜まったプラークや歯石
歯周ポケット
歯周ポケットの深さは、
6ミリ以上。
歯肉が腫れ、膿が出て、
歯はグラグラし、歯が
抜けることも。
歯周組織に炎症がない、
きれいな歯肉です。
プローブは 1ミリ程度
しか入りません。
2
飲
酒
喫
煙
糖尿病と歯周病
1
糖尿病との関係 2
糖尿病との関係 糖尿病と歯周病の関係を見てみましょう。
エネルギー不足
口の中のかわき
血液中の糖の濃度が高くなる糖尿病では、水分をとって薄めようとする
糖尿病になると、インスリンの作用不足でブドウ糖をエネルギーに変え
ために、不要な水分は多量のブドウ糖と共に尿中に排出されます。
ることができなくなり、エネルギー不足を補うため、筋肉のたんぱく質や
そこで、多量の水分が失われるので、細胞が脱水状態となってしまいます。
脂肪が分解されて使われるようになります。
唾液の分泌量も減り、のどや口のかわきという症状が出てきます。
そうした代謝が変化した影響で歯周組織内の
唾液には食べ物を消化するだけでなく、口の中の浄化作用や組織の修復と
コラーゲンの減少や変化が起こると、破壊された
いう役目があり、歯周病を防ぐ役割も担っているので、糖尿病のために口
歯周組織の修復力も弱くなってしまいます。
腔内が乾燥すると、その働きが低下して歯周病原菌が繁殖しやすい環境に
また、糖尿病では高脂血症を併発することも
なってしまうことが考えられます。
ありますが、高脂血症が歯周病を悪化させるとい
また、口の中を潤している唾液や歯肉からの滲出液
う可能性もあります。
には血液成分が含まれていて、糖尿病による高血糖状
態が持続すると、その唾液や滲出液の糖分の濃度も高
くなるため、歯周病原菌がより繁殖しやすくなるとも
考えられます。
脂肪細胞が炎症作用を
糖尿病を発症した患者さんの約 7 割は肥満、もしくは以前、肥満だった
ことがあると言われていますが、肥満による脂肪細胞の蓄積も、実は歯周
全身の抵抗力の低下
糖尿病の高血糖状態にあると、細菌を攻撃する白血球の働きも低下する
ので、感染症にかかりやすくなり、感染症のひとつである歯周病も起こり
病を悪化させる危険因子となることがわかってきました。
脂肪細胞はエネルギーを貯蔵するだけでなく、組織に炎症を起こす作用
を持つ物質が作られていることが
やすくなると言えます。
わかっていて、歯周病のように歯周
また、高血糖状態では、歯周病原菌が産生するコラゲナーゼが増加し、
組織に炎症が起こる病気にも影響
歯周組織の主な構成成分であるコラーゲンを破壊します。また、過剰なブド
を与えてさらに悪化させるのです。
ウ糖がタンパク質と結びついて、最終糖化産物という
物質が作られ、歯周組織の炎症を起こし、糖尿病患者
さんの歯周病の悪化に影響すると考えられています。
3
4
糖尿病と歯周病
3
糖尿病との関係 相 互 関 係
糖尿病と歯周病には、次のような相互関係が見られます。
血管の障害
糖尿病が進行すると、全身の血管に障害が起きて、
さまざまな合併症を生み出していくことは周知の通
りですが、特に細い血管に影響が現れやすいため、末
合
併
症
糖尿病の人は歯周病にかかりやすい。
歯周病の人は糖尿病もしくは糖尿病予備軍であることが多いと考えられ
ます。糖尿病の人はそうでない人に比べて 2 倍以上の確率で歯周病にかか
りやすく、逆に歯周病の人は歯周病でない人よりも糖尿病の罹患率が高く、
梢組織の血流量が低下して、感染や組織の修復を妨げ
糖尿病でなくても糖尿病予備軍である血糖値が高めの人が多いことがわ
ます。歯周組織はまさにその末梢組織にあたり毛細
かってきました。
血管が豊富にあるため、歯周病の悪化を手助けしてし
まうことになるのです。
糖尿病の人は歯周病が重症化しやすい。
糖尿病の人は糖尿病でない人よりも歯周病が重症化しやすいが、糖尿病
の人が歯周病を徹底して治療すると、血糖値が改善することがあります。
しかし、血糖コントロールが悪いと、歯周病の治療効果もでにくくなります。
食後高血糖
歯周病が進行すると、歯がぐらついたり、歯を失ったりすることで、硬い
ものが食べにくくなってしまいます。そこで軟らかいものばかり食べたり
よく噛まずに飲み込んでしまいがちです。軟らかい食べ物はプラークを蓄
積しやすいので、歯周病に悪影響を与えるのはもちろんのこと、食後高血
糖を起こしやすく、糖尿病への悪影響も否めません。硬いものを食べにく
くなるということは、食後高血糖を抑える働きのある繊維質の食べ物を摂
りにくくなります。また、噛む回数が少なくてすむ食事が多くなることも
食後高血糖につながりやすいのです。
豆知識
糖代謝異常の判定区分と判定基準
※
①早朝空腹時血糖値 126mg/dL以上
②75gOGTTで2時間値200mg/dL以上
※※
③随時血糖値 200mg/dL以上
④HbA1cが6.5%以上
①∼④のいずれかが確認さ
れた場合は
「糖尿病型」と判
定する。
ただし①∼③のいずれかと
④が確認された場合には、
糖尿病と診断してよい。
⑤早朝空腹時血糖値110mg/dL未満
⑥75gOGTTで2時間値140mg/dL未満
⑤および⑥の血糖値が確認
された場合には「正常型」と
判定する。
●上記の「糖尿病型」
「正常型」いずれにも属さない場合は「境界型」と判定する。
※ 早朝空腹時血糖値・・・検査当日の朝食を抜いた空腹の状態で測定した血糖値。
※※ 随時血糖値・・・食事と採血時間との時間関係を問わないで測定した血糖値。糖負荷後の血糖値は除く。
《日本糖尿病学会編・著 「糖尿病治療ガイド2014-2015 糖代謝異常の判定区分と判定基準」
P18、
文光堂、2014より引用 一部改変》
5
6
糖尿病と歯周病
1
糖尿病と歯周病の合併症 似ている合併症
2
糖尿病と歯周病の合併症 合併症の特徴
糖尿病も歯周病も生活習慣病です。ご存じの通り生活習慣病が怖いのは
合併症は糖尿病や歯周病でなくても起こりうる病気ですが、糖尿病の慢
病気そのものというよりも、さまざまな合併症にあります。病気そのもの
性合併症のうち、網膜症、腎症および、神経障害を 3 大合併症と呼んでま
は無自覚のままに進行していきますが、放置しておくと深刻な病気に進展
すが、血糖コントロールのよい人には多く起こる合併症ではなく、糖尿病
してしまう可能性が高いのです。
でない人にはあまり起こらない病気でもあることから、糖尿病の特異的な
改めて糖尿病と歯周病のそれぞれの合併症についてみてみましょう。
合併症といえるのです。
3 大合併症が細い血管が障害されて起きる「細小血管障害」に対して、
糖尿病
太い血管が障害されて起きるのが「大血管障害」で、こちらは糖尿病でない
網膜症・腎症・神経障害・動脈硬化・狭心症・心筋梗塞・脳梗塞・
人にも起こりうる合併症なのですが、糖尿病があることで、発症の頻度が
脳出血・肺炎・感染症・歯周病・高脂血症・高血圧・骨粗しょう症・
高くなったり進行がより早くなってしまいます。
白内障・緑内障・妊娠による糖尿病の悪化・胎児・母体トラブルなど。
一方、歯周病原菌は血液の中に入ると全身に流れ、心臓の冠動脈に炎症
を起こして、心臓病のリスクファクターとなったり、血栓が出来やすくな
歯周病
歯が抜ける・糖尿病・動脈硬化・心筋梗塞・脳梗塞・脳出血・肺炎・
妊娠による歯周病の悪化、早産など。
ったりします。一方、肝臓や脂肪細胞などにも作用して、血糖値を下げる
ホルモンのインスリンの働きを阻害することもわかっています。
歯周病の合併症については、先に上げたように、まだはっきりとした研
究結果として出ているわけではありませんが、歯周病と糖尿病の合併症は
合併症を比べてみると、かなりの部分で似ていることがわかります。
かなりの部分で重なりあうことから、歯周病を口腔内だけの病気として捉
つまり、血管系の障害によって病気の発症が早くなるのです。血管の老化
えるのではなく、さまざまな全身的な病気と関連がある病気であることを
は加齢によって、だれにでも起きて
自覚する必要があります。
し ま う の で す が、喫 煙、食 べ す ぎ、
飲みすぎ、肥満や精神的ストレスな
どの生活習慣が、進行を早めること
がわかっています。糖尿病や歯周病
が生活習慣病と名づけられている
理由です。
7
8
糖尿病と歯周病
3
糖尿病と歯周病の合併症 歯周病治療で糖尿病治療?
関係を知って治療を
以上のように、糖尿病と歯周病は複雑にからみあい、相互に影響を与えて
境界型の糖尿病と診断された人の歯周病が悪化することもあります。
います。糖尿病の治療で内科を受診した場合、歯周病の治療に対してアド
通常の歯石除去等の治療のみではなかなかよくならないことから、深い
バイスを受けることはまれかもしれませんが、糖尿病の診断を受けたら歯
ポケット内の歯周病原菌の除去に効果的な超音波スケーラーを使って、
周病を、歯周病の診断を受けたら糖尿病を考慮に入れて積極的に治療する
歯周病原菌を徹底して駆遂する治療を行ったところ、歯ぐきからの出血
ことが大切と言えるでしょう。
や歯のぐらつきがなくなったばかりか、血糖値も下がって改善した例が
歯周病と糖尿病は別々の病気だから無関係というわけではないことを、
あります。
心に留めることが両方の病気にも好ましい結果をもたらすことにつながる
歯周病の悪化している糖尿病患者さんに対して、超音波スケーラーと
と考えられます。
抗菌薬で歯周病治療を徹底して行うほど血糖値が下がる傾向が見られる
悪化して自覚症状や合併症が出現してから治療をはじめるのではなく、
ようです。歯周病の原因であるプラークを患者さん自身による日々の口腔
生活習慣の改善に早くから取り組むことで、糖尿病や歯周病、そのほかの
清掃と定期的にかかりつけ歯科医院を受診することにより、継続してコン
病気の進行をくい止めていきたいものです。
トロールすることが大切です。
このような事例を見れば、歯周病を治療することで糖尿病の治療にもよ
い結果が生まれることが期待されますが、まだその機序が十分解明されて
いるわけではなく、これからの研究で明らかにされることに期待したいと
ころです。
糖尿病の自覚がなくても定期的に検査を
受けて、早期に糖尿病を発見して、血糖コ
ントロールをすることで、合併症を防ぐ。
今まで、健康だったから安心というのでは
なく、生活習慣病は加齢によってリスクが
高くなるものと心得て、検査を欠かさず、
食べすぎや飲みすぎ、運動不足を改善する
ように心がける。
口腔内はプラークコントロールによって清
潔に保ち、間食や喫煙習慣をなくすことで、
歯周病を予防する。
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