一般口演8 TAA(TEVARなど)5 O8-1 大動脈弁生体弁置換術後弓部瘤

一般口演8 TAA(TEVARなど)5
5月25日 13:30〜14:20
第6会場 (ホテル グランパシフィック LE DAIBA 29F 虹)
司会
谷口 哲 (座長) (弘前大学 胸部心臓血管外科)
O8-1 大動脈弁生体弁置換術後弓部瘤に心尖部アプローチでTEVARを施行
した1例
演者
野上 英次郎 (佐賀大学医学部 胸部・心臓血管外科)
柚木 純二 (佐賀大学医学部 胸部・心臓血管外科)
木塚 貴浩 (佐賀大学医学部 胸部・心臓血管外科)
野口 亮 (佐賀大学医学部 胸部・心臓血管外科)
麓 英征 (佐賀大学医学部 胸部・心臓血管外科)
田中 厚寿 (佐賀大学医学部 胸部・心臓血管外科)
古川 浩二郎 (佐賀大学医学部 胸部・心臓血管外科)
森田 茂樹 (佐賀大学医学部 胸部・心臓血管外科)
症例は80歳男性.2010年1月に腹部大動脈瘤破裂に対してY-graft置換術(Hemashield 16×8m
m),2010年4月に大動脈弁閉鎖不全症に対して大動脈弁置換術(CEP23mm)の既往がある患
者で,当科に1年ごとに定期的に外来通院中であった.2015年の定期の胸部レントゲンで左第1
弓の拡大を認め,CTを撮影したところ,遠位弓部に65mmの紡錘状の大動脈瘤を認めたため,手
術加療の方針とした.術前精査の結果,閉塞性換気障害等を認め,Japan scoreでMortality
22.0%とhigh riskのため,血管内治療の方針とした.Y-graft脚の径が8mmで屈曲が強く,アプ
ローチとして心尖部を選択する方針とした.また,瘤と頸部3分枝の関係から手術は2-debranch
+TEVARの方針とした.術前の心エコーでは生体弁機能は問題なく,有効弁口面積は1.37cm2,
EF66%と心機能も問題なかった.手術は全身麻酔下,MEPモニタリング下に仰臥位で行った.生
体弁をデバイスが通過している際の循環虚脱に備え,右大腿動静脈にシースを確保しておいた.
第五肋間より心尖部へアプローチ.右鎖骨下-左総頸動脈左鎖骨下動脈バイパス施行し,左鎖骨下動脈をAVP-1 16mmで閉塞した.心尖部には3-0SHのプ
ローリンでの三角状に2重にタバコ縫合をかけ,そこから22Frのドライシールを左室内に留置し
た.C-TAG 34mm-20cmをTH-9のレベルでdeployし,その中枢に左総頸動脈分岐直後からC-T
AG37mm-20cmをDeployした.MEP低下無く,術中の経食道エコー上も術前,術後で生体弁の
機能に関して変化を認めなかった.エンドリークも認めず,術中の循環動態も安定していた.手
術時間317分,合併症なし,輸血RBC4単位,FFP4単位であった.術後はICUへ帰室し,経胸壁
心エコーでも生体弁機能に異常を認めず,術後14日目に自宅へ独歩退院となった.腹部大動脈人
工血管置換術後,人工血管屈曲により大腿動脈アプローチ困難症例で,生体弁置換術後であるが
,心尖部よりアプローチし,2-debranch+TEVARを施行し良好な結果を得たため,文献的考察
を加え報告する.
O8-2 弓部人工血管置換術後の人工血管リークに対するTEVAR実施例の検
討
演者
大月 優貴 (心臓病センター榊原病院 心臓血管外科)
平岡 有努 (心臓病センター榊原病院 心臓血管外科)
田村 健太郎 (心臓病センター榊原病院 心臓血管外科)
都津川 敏範 (心臓病センター榊原病院 心臓血管外科)
坂口 太一 (心臓病センター榊原病院 心臓血管外科)
近沢 元太 (心臓病センター榊原病院 心臓血管外科)
吉鷹 秀範 (心臓病センター榊原病院 心臓血管外科)
【はじめに】胸部大動脈瘤の治療として,人工血管置換術が行われているが,術後慢性期にgraf
t自体から血液成分のリークについては知られていない.弓部大動脈人工血管置換術後に人工血
管からリークを認め,TEVARを施行した症例を経験したので報告する.【対象】2000~2015年
までに約500例の弓部置換術(TAR)を行い,5例に慢性期に人工血管からのリークによる瘤形
成を認めた.5例中の4例に対してTEVARを行った.【結果】症例1:73歳 女性.2011年
弓部大動脈瘤に対してTAR(J Graft 24mm).ワーファリン内服あり.2015年 弓部人工血管
周囲のLDAが増大.人工血管から造影剤の漏出を認め,TEVAR施行.LDA拡大なし.症例2:71
歳 男性.2008年 弓部瘤に対して,TAR(Gelseal 22mm).ワーファリン内服あり.2010年の
CTで人工血管からの造影剤の漏出を認めた.徐々にLDAの拡大を認め,2014年にTEVAR施行.
LDA拡大なし.症例3:72歳 女性.2000年 胸部大動脈瘤に対して,TAR(Inter Gard woven
24mm)+open stent(Inter Gard woven 24mm)+AVR施行.ワーファリン・バイアスピリ
ン内服あり.徐々に遠位弓部大動脈瘤が増大,2015年open
stentからのtype4リークを認め,TEVAR施行.リーク消失,瘤拡大なし.症例4:41歳
男性.2014年 急性大動脈解離に対して,TAR(Gelweave
26mm)+Betall施行.術後より人工血管周囲にfluid貯留,2015年 上行の人工血管からのリー
クあり.PCI後で,ワーファリン・コンプラビン内服中,コンプラビンをバイアスピリンに変更
.fluid増加なし.症例5:81歳 男性.2012年 弓部大動脈瘤に対してTAR(Gelweave 26mm)
.脳梗塞に対してバイアスピリン内服.2015年嗄声出現.人工血管周囲にLDA出現,人工血管
リークが疑われ,TEVAR施行.【考察】人工血管のリークは非常に稀で,1990年以降の報告は
ない.我々の施設では約1%の発生率である.今回の5症例はグラフトの種類や発症時期等は異な
っていたが,全例が抗凝固薬,抗血小板薬,またはその両方を投与されていた.症例4では,抗
血小板薬の減量によりリークが消失しており,抗血小板薬・抗凝固薬がリークの原因なっている
可能性が考えられた.また,グラフトリークに対してTEVARは有効な治療と考えられた.
O8-3 弓部TEVAR後のtype Ia endoleakに対するrevision手術
演者
坂上 直子 (浜松医科大学 第一外科学講座)
椎谷 紀彦 (浜松医科大学 第一外科学講座)
山下 克司 (浜松医科大学 第一外科学講座)
鷲山 直己 (浜松医科大学 第一外科学講座)
高橋 大輔 (浜松医科大学 第一外科学講座)
山中 憲 (浜松医科大学 第一外科学講座)
夏目 佳代子 (浜松医科大学 第一外科学講座)
弓部大動脈瘤に対するTEVAR術後Type Ia endoleakに対するrevision手術2例の工夫を報告する
.【症例1】75歳女性.27歳から関節リウマチでステロイド内服中.73歳時,他科にて左鎖骨下
動脈閉塞に対し腋窩―腋窩動脈バイパス術,14ヶ月後に同科で弓部嚢状瘤に対しTalentを用い
たzone 1 TEVARおよび腋窩―腋窩バイパスから左総頚動脈へのバイパス術を施行された.Bare
stentが瘤内へ落ち込みtype 1a endoleak認めたが,外来フォローされていた.5ヶ月で瘤が5m
m増大したため当科紹介.手術は開存バイパスを温存して胸骨正中切開を行い,これを選択的脳
灌流と左総頸・左鎖骨下動脈再建に流用して全弓部置換術を施行した.デバイスはベアステント
を切除して生かし,デバイスとnative aortaをまとめて枝付人工血管の遠位吻合を行った.術後
経過は良好で,術後28日目に退院した.【症例2】77歳女性.4年前に遠位弓部嚢状瘤にて当科
紹介.関節リウマチで歩行困難・免疫抑制治療中で,大腸憩室穿孔術後早期でADL低下も著明で
あったため,Najuta(2枝開窓)を用いたTEVARを選択.左椎骨動脈PICA terminationであっ
たため,腋窩-腋窩動脈バイパスを併施.術後7日目のCTにて左鎖骨下動脈からのType II endol
eakを認めたため,コイル塞栓を追加した.約1年半後に嗄声が出現,瘤の増大傾向を認めた.コ
イルのためCTではendoleak確認できず.4年後,瘤径はさらに拡大し,バイパス閉塞および左鎖
骨下動脈の順行性造影が確認されたため,secondary Type Ia endoleakの診断でopen conversio
nとなった.手術は同様にデバイスを生かして全弓部置換術を施行.Najuta中枢側を開窓部まで
切除後,固定されていないstent骨格によるfabric損傷を防ぐためJ-openを内挿し,Jopen・Najuta・native aortaをまとめて枝付人工血管を遠位吻合した.術後Najuta外側に存在
した血栓塞栓と思われる微小脳梗塞を併発したが後遺障害なし.呼吸不全の管理に難渋したが,
退院に向けてリハビリ中である.【結語】弓部TEVAR後type Ia endoleakに対するrevision手術
は,既存デバイスを生かしたrevision手術が可能である.この際,デバイス特性と,debranchin
g bypassや開窓付近の血栓など既往再建後の病態を理解することが肝要である.
O8-4 TAA・AAA合併例にみる脊髄梗塞に対するstaged
approachの有用性
演者
若林 尚宏
東上 震一
畔柳 智司
薦岡 成年
降矢 温一
榎本 匡秀
小島 三郎
(岸和田徳洲会病院 心臓血管外科)
(岸和田徳洲会病院 心臓血管外科)
(岸和田徳洲会病院 心臓血管外科)
(岸和田徳洲会病院 心臓血管外科)
(岸和田徳洲会病院 心臓血管外科)
(岸和田徳洲会病院 心臓血管外科)
(岸和田徳洲会病院 心臓血管外科)
TAAおよびTAAAに対する手術加療は,TEVARを含む術式の進歩や周術期管理の工夫等により,
その成績が著しく向上している.しかし,周術期の脊髄梗塞による対麻痺は,今なお重大な合併
症として散見され,特にTAAAや,TAAとAAAの合併例では,そのリスクが高いとされている.
一方で,近年これらに対する2期的な手術(staged approach)が,脊髄へのcollateral networ
kの発達を促し,脊髄虚血の減少および軽減に寄与するとの報告がある.今回,当院でTAAおよ
びAAAの両病変に対し手術加療を行った症例を検証し,staged approachの有用性を検討した.
2012年1月から2015年11月にかけて当院でTAAに対しTEVARを施行した187例のうち37例で,
AAAに対し2期的あるいは同時にEVARまたは人工血管置換術を施行した.37例のうち,30例が
男性,年齢は42-89歳,21例でAAAに対する手術加療を先行,14例でTEVARを先行,2例は同時
手術(いずれもTEVAR+EVAR)で行い,2期的手術の間隔は最短で2週間であった.AAAに対し
ては,17例で人工血管置換術を,20例でEVARを施行した.TEVARはZone 1が5例,Zone
2が13例,Zone 3が18例,腹部分枝バイパスが1例であった.また,5例が緊急手術であった.3
7例のうち2例で術後対麻痺を認めた.そのうち1例は79歳女性で,2007年にEVARを,2013年
にdebranch TEVAR(Zone1)+AxA-AxA/-LCCA bypassをそれぞれ施行し,TEVAR後2日目に
不全対麻痺を認めたが,経過で徐々に症状は改善,独歩退院となった.もう1例は,75歳男性で
,2010年にEVARおよびOSを,2012年にTEVAR+EVAR(同時手術)をそれぞれ施行し,術後
当日に対麻痺を認め,経過で軽度改善を認めたものの,歩行不可となった.その他,35例に関し
ては,対麻痺症状は認めなかった.以上の結果は,staged approachにあるような術後対麻痺の
減少および軽減に,矛盾しないものであった.脊髄への血液供給については,これまでのAdamk
iewicz動脈を中心とした概念に変わり,collateral
networkという概念が提唱されており,この概念に基づくstaged approachの有用性が動物実験
でも示されている.今後,deviceを含む治療法の進歩や周術期管理の確立とともに,staged
approachに関する更なる検証が必要と考える.
O8-5 胸部大動脈ステントグラフト内挿術における脊髄虚血のリスク因子
の検討
演者
黒田 陽介 (札幌医科大学 心臓血管外科)
伊藤 寿朗 (札幌医科大学 心臓血管外科)
沼口 亮介 (札幌医科大学 心臓血管外科)
萩原 敬之 (札幌医科大学 心臓血管外科)
仲澤 順二 (札幌医科大学 心臓血管外科)
橘 一俊 (札幌医科大学 心臓血管外科)
川原田 修義 (札幌医科大学 心臓血管外科)
【目的】胸部大動脈疾患の治療において脊髄虚血は,術後のADLを左右する重大な合併症である
.開胸による人工血管置換術と比較しTEVAR後の脊髄虚血の発生頻度は低いといわれているが,
諸家の報告では約2-15%と報告されている.今回,当院でのTEVAR後の成績をもとに脊髄虚血
のリスク因子の検討した.【対象】2006年11月から2015年11月までに当科で施行したTEVAR
は332例であり,その内の術前より対麻痺があった5例を除いた327例を対象とした.平均年齢7
2.1±10.1歳,男性256例,女性71例であった.診断は,真性瘤172例,仮性瘤70例,解離性74
例,感染性6例,その他5例であった.術前にアダムキュービッツ動脈(AKA)が同定できたのは
269例(82%)であり,TEVARにてAKAが閉塞したのは106例(32.4%)であった.以前に中
枢もしくは末梢大動脈手術の施行症例は140例(43%)であった.また,緊急手術が96例(29
%)で,うち破裂症例は50例(15%)であった.ステントグラフトの中枢留置部位は,Zone0
;36例(11%),Zone1;21例(6.4%),Zone2;44例(13%),Zone3;114例(35%)
,Zone4;112例(34%)であり,留置区間は平均5.9±1.8椎体,開窓式は72例,debranchは2
9例,鎖骨下動脈閉塞例は24例であった.腸骨動脈もしくは腹部大動脈アプローチは31例(9.5
%)であった.【結果】術後に脊髄虚血をきたした症例は14例(4.3%)(対麻痺4例,不全対
麻痺10例:Acute type4例,delayed type 10例)であった.AKAを閉塞させた場合の脊髄虚血
の発生率は7.5%(8/106)であった.脊髄虚血のリスク因子に関して多変量解析で破裂症例(P
=0.02)とAKA(P=0.04)の閉塞が有意に脊髄虚血のリスクを増加させた.左鎖骨下動脈閉塞
,大動脈手術の既往,腎不全,SG留置範囲,術前からのCSFドレナージの不使用は,リスク因子
として有意差は認められなかった.また,術前状態が不安定な緊急症例を除いた231例中で脊髄
虚血をきたした症例は7例であり,その内AKAが同定できたのは6例で,閉塞させた症例は5例で
あった.AKAを閉塞させた2例で術中発生の動脈解離にて低血圧による管理を余儀なくされた.
また,AKAを温存できた1例は,EVARとの同時手術の症例であった.【結語】胸部大動脈疾患の
脊髄虚血は,重度のADLの低下を伴う避けたい合併症である.人工血管置換術と同様にTEVARに
おいてもAKAの閉塞は脊髄虚血のリスクになる為,術前にAKAを同定し,可能な限り温存する術
式を選択し,閉塞させなければならない症例は厳重な周術期管理が必要であると考えられた.
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