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超精密機器付近のトンネル掘削に伴う工事振動の振動源特性
名古屋大学工学部社会環境工学科建築学コース
構造設計工学講座 飛田研究室 入山広阿貴
1. 序論
現在名古屋大学北側では、
名古屋都市高速一号線の東山ト
ンネルの建設工事が進められており、
これに伴い発生する工
事振動は学内の超精密機器の使用環境に影響を与えている。
名古屋大学では環境モニタリングシステムの構築を行い、
振
動発生要因の分析と障害の防止対策を行っている。
本研究で
は、
工事状況の映像と振動を同時に収録できる新たな計測シ
ステムを開発し、これを利用して、工事振動の振動源特性を
詳細に明らかにすることを目的とする。
本トンネル工事の振
動特性を詳細に明らかにすることによって、
他の場所で同様
の工事が行われた際の工事振動の予測に有用であると考え
る。
2. 工事及び計測の概要
都市高速道路東山トンネルの断面と計測地点を図 1 に示
す。高速道路トンネルは NATM 工法により上下線 2 本建設
される。各トンネルにつき 2 本の側壁導坑を先行して掘削
し、その後本坑を上半・下半に分けて掘削する。本研究では
大学敷地に接した上り線の本坑上半掘削工事を対象とした。
計測は計3回(掘削工事時2回、工事機械走行試験1回)行っ
た(表1)
。本計測の特長は現場内にカメラを設置し、その
1
0 .5
0
-0 . 5
- 1
0
5
1 0
5
1 0
1 5
2 0
2 5
3 0
3 5
4 0
2 5
3 0
3 5
4 0
1
電子顕微鏡架台
0 .5
電子顕微鏡基礎
-0 . 5
0
③ ❹ ②
- 1
0
1 5
2 0
1
0 .5
0
-0 . 5
- 01
平面道路
5
1 0
1 5
2 0
2 5
3 0
3 5
表土層
4 0
❸
砂礫層
❶
❷
1
0 .5
粘土層
0
❷’
-0 . 5
- 1
0
5
1 0
1 5
2 0
2 5
3 0
3 5
砂礫層
4 0
粘土層
①
砂礫層
❶’
1
1
0 .5
0
0 .5
0
0
-0 . 5
- 1
0
1
砂層
0 .5
-0 . 5
-0 . 5
5
1 0
1 5
2 0
2 5
3 0
3 5
- 1
0
4 0
5
1 0
1 5
2 0
2 5
3 0
3 5
4 0
- 1
0
5
1 0
1 5
2 0
2 5
3 0
3 5
4 0
図1 トンネル断面と計測地点及び振動の伝播状況
表 1 計測内容
映像を振動の波形や
計測名
計測内容
電子顕微鏡の画像と
キャリアダンプ走行
掘削
同期させてビデオに
掘削工事計測
バックホー接触
録画した点である。
ニブラーのはずし作業
ビデオの特長を生か
キャリアダンプ走行
生コン車走行
し、波形と映像との 工事機械走行試験
バックホー走行
対応を繰り返し行
etc
い、それぞれの波形
トンネル内
の特徴と、機械・作業
波形モニタ
上り線カメラ
種別との対応につい
て詳細に分析する。 電子顕微鏡
下り線カメラ
これによって各々の
振動源の特性を把握
● ● ● ● (コントローラー)
する。
3. 振動源特性
本研究では工事振
上り線
下り線
動の振動源特性の指
標として、振動レベ
電子顕微鏡
波形
の画像
ル(最大値)
、継続時
間と再現性、振動数
特性に注目した。ま 図 2 計測システムのイメージ図
た、掘削位置に最も近い場所に設置されている❶’のセン
サーを振動源とした。
以下に振動源で最も振幅の大きい上下
方向の特徴について考察する。
3.1 掘削工事で発生した振動の振動源特性
図3に各工事作業時の波形を示す。キャリアダンプ走行時
(以下キャリアダンプ)は常に0.5gal程度の振動が発生し(最
大約 1.0gal)
、継続時間は 20 秒以上、波形は紡鐘形となって
いる。土砂掘削作業時(以下掘削)の振動は継続時間が 0.5
秒∼ 1.0 秒のパルス状の波形であり、振幅レベルは発生する
度に大きく異なる(最大約1.5gal)
。この要因としては掘削位
置や掘削の勢いの違いが影響していると考えられる。
バック
ホーの側壁導坑の支保工への接触時(以下バックホー)を図
中に矢印で示す。不定期に1.0gal程度の波形が継続時間約0.5
秒のパルス状に現れることが分かる。
ニブラーによる側壁導
坑の支保工はずし作業時(以下ニブラー)は 2.0 ∼ 3.0gal の
振動が 5 秒に 1 回程度の割合で発生している。ニブラーは、
他の作業に比べて振幅が最も大きいが、継続時間は最も短
い。図 4に各作業毎のフーリエスペクトルを示す。キャリア
ダンプは20Hz付近に明確なピークがある。また、掘削やバッ
クホーにも 11Hz 付近にピークがある。ニブラーは他に比べ
て高振動数が卓越しており、
この傾向は上下方向で顕著に見
られる。
これらより工事機械の種類や作業によって発生する
gal
キャリアダンプ
gal
1
0.5
0
-0.5
-1
2
1
0
-1
-2
ニブラー
gal
バックホー&掘削
6
3
0
-3
-6
0
5
10
15
20
25
30
35
図 3 工事作業時の上下方向の波形 (矢印はバックホーが側壁導坑の支保工に接触した時)
40
sec
トンネル平行方向
mkine*sec
0.9
0.6
上下方向
バックホー
ニブラー
キャリアダンプ
掘削
1.2
0.9
0.6
0.3
0.3
0
0
5
10
15 20
25
frequency(Hz)
0.9
0.6
0.3
0
0
30
バックホー
ニブラー
キャリアダンプ
掘削
1.2
mkine*sec
1.2
mkine*sec
トンネル直交方向
バックホー
ニブラー
キャリアダンプ
掘削
5
10
15
20
25
frequency(Hz)
0
30
0
5
10
15 20
25
frequency(Hz)
30
図 4 各工事作業時の❶’地点のフーリエスペクトル
キャリアダンプ
2 キャリアダンプ(徐行)
1
0
-1
-2
0.5
0.25
0
-0.25
-0.5
gal
gal
1
0
-1
-2
gal
2 キャリアダンプ(通常速度)
gal
0.5
0.25
0
-0.25
-0.5
0
5
10
15
図7 工事作業時の❹地点における上下方向の波形
gal
0.4 生コン車 障害乗り越え
0.2
0
-0.2
-0.4
0
5
10
バックホー&掘削
20
sec
3
4. 超精密機器への影響
5. 結論
図1に示したように、
発生した振動は距離減衰や地盤増幅
特性などの影響を受けて超精密機器へと入力している。
しか
し、
地盤の伝播特性に比べて超精密機器の防振装置などの振
動特性の影響が非常に大きいため、ここではトンネルから
30mほど離れた電子顕微鏡に着目して、その振動特性と振動
キャリアダンプ走行時は明確な卓越振動数が存在するな
ど、ビデオとの対応により各々の工事機械・作業種別による
振動源特性が明確にできた。これは、新たに開発した計測シ
ステムによるところが大きい。
この計測システムは単に振動
源の特定のみにとどまらず、
今後の振動の監視と予測に極め
て有用であると考える。
mkine*sec
図5 工事機械走行時の上下方向の波形
100
振動の特性は大きく
通常速度時
異なることが分か
徐行時
る。
10
3.2 工事機械走行
試験時に発生させた
1
振動の振動源特性
各工事機械走行時
0.1
の波形を図5に、
キャリアダンプ走行
0.01
時のフーリエスペク
0
5
10
15
20
25
30
frequency(Hz)
トルを図6に示す。
図6 キャリアダンプ走行時の
キャリアダンプの振
フーリエスペクトル
幅はスピードが遅い
mkine*sec
sec2 0
mkine*sec
15
振幅比
ときは通常時の 2 分の 1 以下になる。積載量の変化による違
いは見られなかった。また、障害物の有無による影響はキャ
リアダンプでは見られないが、
生コン車走行時には明確に見
ることができる。この差は、キャリアダンプは接地面がキャ
タピラであるのに対して、
生コン車はタイヤであることが考
えられる。また、生コン車走行時の振幅レベルがバックホー
などの工事機械走行時より小さいことから、
キャタピラの方
がタイヤよりも大きな振動を発生させると考えられる。
図6
のフーリエスペクトルより、
キャリアダンプの通常速度時は
ピークが 21Hz 付近であるのに対し、徐行時は 15Hz 付近と
なっている。これより、キャタピラによる振動は走行速度に
よって卓越振動数が変化すると考えられる。
積載量の変化に
よる違いも見られるが、これは積載することにより、スピー
ドが減速したことが原因であると予想される。
源特性のよる影響を検
2
討する。また、電子顕微
鏡は基礎が建物から独
1
立しているため、基礎
0
0
5
10
15
20
25
30
からの入力が主である
frequency(Hz)
と考えられる。
図 8 ②地点に対する❹地点の
工事作業時の始め2
伝達関数
0秒間の❹地点の波形 0.8
②
を図7に、②地点に対
❹
0.6
する❹地点の伝達関数
を図8に、キャリアダ
0.4
ンプ走行時と掘削時の
②地点と❹地点のフー 0.2
リエスペクトルを図9
に示す。振幅レベルは
0
0
5
10
15
20
25
30
frequency(Hz)
バックホーが非常に大 0.8
きい。電子顕微鏡の防
②
❹
振台の上下方向の固有 0.6
振動数は 5Hz 付近にあ
る。これより5Hzの振動 0.4
数成分を多く持ってい
0.2
る振動は共振して、非
常に大きな影響を与え
0
0
5
10
15
20
25
30
る可能性がある。また
frequency(Hz)
❹地点でキャリアダン
図 9 キャリアダンプ走行時(上)
プの21Hz付近や掘削の
11Hz付近に小さなピー と掘削時(下)の②地点と❹地点
クが振動源特性の影響 のフーリエスペクトル
として見られる。これらより、工事作業によって与える影響
が大きく異なることが考えられる。