海水・かん水からの 金属回収・精製技術開発事例の紹介

平成28年度第1回 JOGMEC金属資源セミナー
海水・かん水からの
金属回収・精製技術開発事例の紹介
金属資源技術部
目次英哉
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海水・かん水からの金属回収・精製技術開発事例の紹介
海水・かん水からの金属回収・精製技術開発事例の紹介
「製塩技術を活かした溶存イオンの抽出精製」
1.「水に溶けた資源」
2.利用されている技術
3.最近の技術開発事例
(1) 製塩技術を利用した塩湖かん水からのリチウム抽出
(2) 膜を用いたリチウム抽出物の精製試験
(3) 海水からの製塩工程でのマグネシウム回収
4.今後の展望
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海水・かん水からの金属回収・精製技術開発事例の紹介
1.水に溶けた資源
1.「水に溶けた資源」
●非鉄金属資源: 自然界では硬い鉱石中に含まれて存在
⇒例外:自然界の水に溶けたイオンの状態から抽出される元素
Na、K、Mg、Br、Li、U、V、・・・
●同じ元素を含む鉱石も存在し鉱山で採掘・抽出精製も可能
⇒コストと製品市況に応じていずれか/双方が利用される
*Na、K、Mg :世界的には鉱石からの生産が主流
鉱石を産しない我が国で独自に海水からの生産技術が発達
*Br : 国内外を問わず海水・かん水からの生産が主流
*Li : 従来は鉱石からの生産が主流(精製不要な用途向け)
⇒90年代以降南米塩湖かん水からの生産が拡大
*U、V、・・・: 技術的には海水から回収可能だがコスト>価格
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海水・かん水からの金属回収・精製技術開発事例の紹介
1.水に溶けた資源②
●資源を溶かした水
(1)かん水(鹹水):イオンを高濃度で溶かし込んだ水
○塩湖かん水:
a: 蒸発気候下の内陸湖を作る高濃度の塩水 ⇒死海、グレートソルトレーク
b: 塩原を形成するNaCl結晶の粒界を満たす飽和塩水
⇒チリ・アタカマ塩湖、ボリビア・ウユニ塩湖など
○地質かん水: 特定元素を高濃度で含む地下水⇒千葉県のヨウ素鹹水
※地熱蒸気・石油ガス掘削時に湧出する熱水、随伴水もその一つ
◆特定の場所に限定的に産し、組成や産状は千差万別
⇒事例に応じて必要技術が異なり、最適共通解が無い
(2)海 水
○世界中何処でも利用可能、ほぼ一定の組成、無尽蔵
海水からの回収コスト=資源価格の上限
◆経済的に抽出・精製する技術があれば誰でも実施可能
⇒実現すれば国内資源となる
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海水・かん水からの金属回収・精製技術開発事例の紹介
1.水に溶けた資源②
塩湖かん水からの炭酸リチウム生産フロー比較(その1)
濃縮
チリ・
アタカマ塩湖
アルゼンチン・
オンブレムエルト塩湖
アルゼンチン・
オラロス塩湖
中国・
チベット地方の塩湖
かん水: 0.16%.Li
かん水: 0.09%Li
かん水: 0.08%Li
かん水:0.05% Li
天日蒸発
pH・温度調整
Mg除去(CaO添加)
自然冷却
NaCl、KCl
0.9%Li
MgCi2
Li吸着(アルミナ)
LiCl溶液(1%Li)
精製
LiCl溶液(Max6%Li)
天日蒸発
B除去(溶媒抽出)
LiCl溶液(3%Li)
天日蒸発
NaCl、KCl
LiCl溶液(0.84%Li)
炭酸化
Na2CO3
NaCl、KCl
粗炭酸Li
不純物除去
B等除去(イオン交換)
Na2CO3
Li2CO3
加熱
Li2CO3
天日蒸発
Na2CO3
CO2吹込み再溶解
Mg除去(CaO添加)
Na2SO4、
MgSO4
Li2CO3
LiCl溶液
Mg除去(CaO添加)
Na2CO3
Li2CO3
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海水・かん水からの金属回収・精製技術開発事例の紹介
4.最近の技術開発事例
塩湖かん水からの炭酸リチウム生産フロー比較(その2)
CITIC方式
塩湖かん水
天日蒸発
濃縮
NaCl、KCl
LiCl溶液
B除去(塩酸処理)
POSCO方式
Bateman方式
塩湖かん水
NaOH
Mg(OH)2
Na2CO3
CaCO3
塩湖かん水
NaOH
Mg(OH)2
Na2CO3
CaCO3
Na3PO4
膜電解
Li3PO4沈殿
H3PO4
精製
スプレー乾燥・
キルン処理
再溶解
Li3PO4溶液
膜電解
LiCl溶液
炭酸化
Mg除去(CaO添加)
Na2CO3
溶媒抽出
※各塩湖、各企業毎に、
「ベスト」なプロセスが
存在する
LiOH
Na2CO3
膜電解
CO2
Li2CO3
Li2CO3
Li2CO3
LiOH
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海水・かん水からの金属回収・精製技術開発事例の紹介
2.利用されている技術①
2.利用されている技術
<かん水・海水中の溶存元素の抽出・精製に使用される技術>
●蒸発濃縮⇒飽和析出(天日濃縮)
●化学晶析
●溶媒抽出
●イオン吸着剤/イオン交換膜
←我が国に
●電気化学的処理(電気透析、膜電解)
技術優位性あり
●加熱晶析
※いわゆる冶金技術ではなく、化学工場の技術
⇒生産施設は「鉱山」と言うよりは「工場」
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2.利用されている技術②
<我が国の技術優位性の母体:製塩技術>
●製塩技術=海水から塩を得る技術
過去: 海水→天日濃縮 → 蒸発晶析→塩 (塩田)
現在: 海水→ろ過→電気透析* →加熱晶析* →塩+α
※近年の製塩法は、岩塩を産しない我が国で独自に発達
⇒*要素技術は世界最先端
「海水淡水化プロセス」として海外で操業例多数
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海水・かん水からの金属回収・精製技術開発事例の紹介
2.利用されている技術④
現在の製塩プロセス
コジェネ施設
ボイラー
蒸気
→
タービン
石
炭
⇒冷めた蒸気
(水として利用)
↑↑↑
蒸発
高温蒸気⇒
電力⇒
海水
-
一価イオン
塩化物溶液
陽イオン
交換膜
透過性
低い
-
+
+
↑
中
↓
+
-
+
ろ過
-
透過性
高い
+
+
↓
NaCl結晶
(KCl,MgCl2)
加熱晶析による
NaCl回収
Li+
K+
-
-
+
2-
Mg2+
↓
NaCl結晶
Na+
高い
海水
⇒苦汁
(にがり)
-
+
SO4
蒸発
飽和析出
透析後液⇒
陰イオン
交換膜
Cl-
↑↑↑
飽和析出
低い
希塩酸
-
海水
電気透析
⇒二価イオン除去
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海水・かん水からの金属回収・精製技術開発事例の紹介
4.最近の技術開発事例
3.最近の技術開発事例
(1) 製塩技術を利用した塩湖かん水からのリチウム抽出
(2) 膜を用いたリチウム精製試験
(3) 海水からの製塩工程でのマグネシウム回収
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海水・かん水からの金属回収・精製技術開発事例の紹介
4.最近の技術開発事例
(1) 製塩技術を利用した塩湖かん水からのリチウム回収
塩湖かん水
リチウ ム抽 出
※最適プロセスの構築
天日濃縮
@蒸発池
濃 縮 ・炭 酸 化
飽和晶析
化学晶析
溶媒抽出
ソーダ灰
添加
吸着法
①電気透析
⇒当該かん水の組成上の特徴と
現地で利用可能なエネルギー、
原料、インフラの制約の範囲内
で最適な要素技術の組合せ
○要素技術の選択肢の多くが、
製塩技術からの応用
硫酸塩晶析
②加熱晶析
ソルベイ法
膜による
透析/電解
炭酸リチウム(Li2CO3)
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4.最近の技術開発事例
海水・かん水からの金属回収・精製技術開発事例の紹介
(2) 膜を用いたリチウム抽出物の精製試験
塩素ガス
(Cl2)
陽イオン交換膜
イオン交換膜(重要)
Cl2
+
水素ガス(H2)
-
H2
①膜電解によるリチウム精製
投げ込みヒーター
液温: 60℃
-
+
Li +
薄い
LiCl
電流: 0.0 A~ 3.0 A
電圧: 1.5 V ~ 4.5 V
水酸化リチウム
(LiOH)
H+
陽極
Cl-
Cl-
陰極
OH
-
陰極室
陽極室
2LiCl+2H2O⇒2LiOH+H2+Cl2
水
H2O
塩リチ
LiCl
塩化リチウムの電気分解の原理(想像図)
ポンプ
陰極側
陽極側
ポンプ
Li濃度(g/l)
第4回ロングラン試験結果
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陽極側Li濃度
22.1
22
極間距離はなるべく近く。
20
陰極側Li濃度
19.05
18.95
18.9
18
17.7
17.1
10.60
12.35
12.14
11.83
11.96
10.85
9.75
8.37
9.49
9.32
8.06
6.35
7.47
7.80
10.37
9.22
9.65
10.13
9.58
1.35
5
5.60
3.75
2.81 3.68
3.08
3.30 4.47
3.74 5.03
4.024.71 5.88
4.43
4.81 5.78
6.77
7.21
7.50
10
1.30
※塩化リチウム⇒水酸化リチウムに転換可能
13.35
陰極側へLi移動
11.07
11.03
15
7.40
6.67
陽極液: LiCl
濃度: 20 ~40 gLi/L
5.54
陰極液:LiOH
濃度: 20 gLi/L
累積通電日数
0
0
2
4
6
8
10
12
14
16
12
海水・かん水からの金属回収・精製技術開発事例の紹介
4.最近の技術開発事例
②バイポーラ電気透析によるリチウム精製+酸回収
BP
HCl
H2O
A
AC
NaOH
or
LiOH
電極室
A
C
LiOH
BP
AC
C
Cl-
Li+
H2O
H2O
H+
OH-
H2O
LiCl
H2O
陽極室
(塩酸回収)
中間室
(試料供給)
陰極室
(LiOH回収)
BP:バイポーラ膜
A:陰イオン交換膜
C:陽イオン交換膜
A(膜内):アニオン交換層
C(膜内):カチオン交換層
NaOH
or
LiOH
電極室
低濃度の塩化リチウム溶液を濃縮・水酸化リチウムに転換
+ 1mol HClを回収可能
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海水・かん水からの金属回収・精製技術開発事例の紹介
4.最近の技術開発事例
③NaClの膜電解による酸・アルカリ製造
塩酸の合成
※塩湖のNaClから、プロセスに必要な酸とアルカリを製造可能
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