消費者教育コーディネーターについて ∼若年者の消費者教育の視点から

(資料2)
消費者教育コーディネーターについて
∼若年者の消費者教育の視点から∼
岡山県消費者教育コーディネーター
矢
吹
香
月
1.岡山県の取組みについて
(1) 岡山県消費者教育推進計画
平成 24 年 12 月、消費者教育を総合的・一体的に推進することを目的とした「消費
者教育の推進に関する法律」が施行され、平成 25 年 6 月「消費者教育の推進に関する
基本的な方針」
(以下、
「基本方針」という。
)が閣議決定されたことを受け、岡山県で
は、平成 26 年 3 月基本方針に沿って、自ら考え自立した消費者を育成するために「岡
山県消費者教育推進計画」
(平成 26 年度∼30 年度)を策定した。なお、計画の策定に
当たっては、県民の意識調査を実施するとともに、岡山県消費生活センター(以下、
「県
センター」という。
)の相談実績を分析し、岡山県消費生活懇談会(岡山県消費者教育
推進地域協議会)の意見や県民のニーズを踏まえた。
この計画は、消費者教育の推進について、3 つの基本目標と 13 の重点目標を定めた。
また、期間中の重点施策として①高齢者・障害のある人を中心とした消費者教育の推
進、②学校教育における消費者教育の推進を掲げ、県センターを消費者教育の拠点と
して位置付け、消費者教育を推進するコーディネーターを配置することとした。
(2) 消費者教育連携の仕組み
①平成 18 年 6 月岡山県における消費者教育に関する行政機関等の連絡調整及び協議を
行うため、岡山県消費者教育連絡協議会を設置し、毎年担当者会議を開催し、連携
を図り教育計画や基本計画の進捗状況等調査を行っている。
②教育委員会の人材応援バンクに、学校へ出前事業ができる機関として登録し、登録
団体と学校が出会う「おかやま教育支援活動メニュ―フェアー」に平成 26 年度より
参加し、学校教育現場の教員に直接出前授業の概要を紹介している。昨年度は、メ
ニューフェアーに参加されていた中学校の教頭先生に中学生の消費者問題の現状に
ついて説明したところ、後日、講師派遣依頼があった。
③平成 26 年度から教育委員会とくらし安全・安心課が連携して、ネットトラブル防止
教材のタブレットパックを作成し、貸出する事業を行っている。小中教員に使用方
法を含めた貸し出しについての説明会が開催された時に出向き、最新の消費者トラ
ブルについて講座を実施した。
④平成 27 年度より消費者庁の先駆的プログラム事業として 3 年計画で体系的な教材開
発をしている。この事業の特色は、
「教材検討委員会」を設置し大学教授、高校教員、
1
幼稚園園長、金融広報委員会、県教育委員会、岡山市教育委員会をメンバーとして
構成している点があげられる。平成 27 年度は「契約」の基本を法教育としての消費
者教育の視点を取り入れた発達段階に応じた教材を作成した。
ア)幼児期は「ももたのおかいもの」と題する紙芝居で、〝自由″に主眼をお
いた<きまり><やくそく>の意味について学ぶ教材である。
イ)小学生期では多発している消費者問題であるオンラインゲームを題材とし、
小学生になったももたが父親のクレジットカードナンバーをこっそり入力し
て 50 万円のアイテムを購入する教材である。<きまり><やくそく>を守る
ことの意義、守れないときには話し合いをして新たなルールを作ることの大
切さを学ぶ教材である。
ウ)中・高校生期では、高校生になったももたが私的自治の原則、契約の基本
を学び、未成年者契約の取り消しはなぜできるのかを深く学び、消費者と事
業者間の格差やクーリング・オフ制度について考える授業につながる教材で
ある。
これらの教材は、検討委員会で検討しモデル授業において教材を実際に使用し
て児童や生徒の反応を確認しながら作成した。また、学校現場の教員が負担なく
使用できるように、指導解説書とワークシートやパワーポイントを用いた映像等
のCDを一つのパックとするように工夫した。平成 28 年度はこれらの教材を学校
や各機関で使用してもらい、不都合な点等意見を集約してさらにブラッシュアッ
プしていく予定である。
また、今年度も新たな教材作りに取り掛かっている。
⑤市町村との連携については、各市町村の状況に応じてどのような支援をしながら
連携することができるかを考えなくてはならない。特に、学校現場に出向く講座
については、消費生活センターが設置されていて数名の消費生活相談員が配置さ
れている市の場合は、県センターが作成した教材の提供や県が主催する事業・講
座の声掛けなどをして、参考にしていただくようにしている。消費生活センター
が設置されていない市町村の場合は、県センターが中心となって講座を実施して
いる。
−例−
ア)平成 25 年度は県立高校での消費者問題の授業を実施する際、岡山市の担当
者の方にお声掛けをして、授業で見ていただいた。その後、市内の県立高校
からの依頼があった場合、自信を持って講座をしていただくように支援した。
イ)平成 26 年度は津山市内の小学校で授業をする際、津山市の担当者の方にお
声掛けをして、授業を見ていただいた。
ウ)同じく平成 26 年度は岡山県高等学校家庭科教育協会で講座をする際、岡山
市にお声掛けをして講座にお越しいただき、市内高校の家庭科教員と連携が
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できるように体制創りをした。
エ)平成 27 年度は前出の幼児期用教材「ももたのおかいもの」のモデル授業を
実施する際は、岡山市消費生活センターと連携して一緒に実施した。
オ)平成 28 年度は、中学生用教材作成のモデル授業を早島町の消費生活相談窓
口と連携して町立中学校で実施する予定である。
⑥他機関との連携・協働については、様々な機会で教材の作成と連携体制の構築を
してきた。
ア)若年者層に対する消費者教育教材作成に関しては、平成 24 年度は中国学園
短期大学の学生と連携して「若者による若者のための消費者トラブル対処
法」のパンフレットを作成した。大学生はパンフレットつくりに参加し他
者に伝えることを通して自ら消費者問題とは何かを学ぶことができたよう
だ。こうした経験は、大学生の消費者教育にも有益なことであると考え、
前出の消費者教育教材開発事業では、中・高生の教材作成やモデル授業に
大学生も関与してもらうようにした。また、前出の消費者教育教材開発事
業においては、教材作成について金融広報委員会に検討委員会のメンバー
に入っていただき連携している。
イ)連携体制構築については、平成 26 年度より総務省eネットキャラバンと連
携して、消費生活相談員が仕事として講座を担当することができ、最新の
生情報を伝えることができるようにした。
ウ)高齢者に対する教材の作成に関して、平成 25 年度は美作大学の学生と連携
して「元気に笑顔で暮らす∼虎の巻∼」のパンフレットを作成した。大学
生は教員を目指すものや高齢者施設への就職を希望するものなど有志であ
ったが、高齢者被害の現状を学び、社会の一員としてどのように社会とか
かわっていくことが重要かを深く学ぶことができたようだ。その後、有志
の学生を中心とした「みまだいコンシュマーズ」が組織され、岡山県消費
生活センターのボランティア講師として登録してもらい、寸劇などを交え
た啓発講座を担当してもらっている。
エ)高齢者に対する消費者教育の連携体制構築については、財務局、消防組合
との連携を構築した。また、民事調停協会との連携を構築した。
⑦平成 27 年度県センターが若年者層を対象に実施した消費者教育の実績は、下記表
のとおりである。
幼稚園・保育園
1回
大
学
8回
小学校
2回
支援学校
2回
中学校
2回
専門学校
1回
高等学校
6回
合
3
計
22 回
2.コーディネーターの資質について
(1) コーディネートとは
コーディネートの意味を現代用語の基礎知識(2015)で調べてみると「調整する、
統合させる。組合せ衣料品(家具)。」と記述されている。そこで、消費者教育をコー
ディネートすることの意味を当てはめると、①消費者教育をする人と消費者教育をす
る人、②消費者教育をする人と消費者教育を受ける人、③消費者教育をする人と消費
者教育に必要な情報、④消費者教育を受ける人と消費者教育に必要な情報、⑤消費者
教育をする人と消費者教育に関する資源、⑥消費者教育を受ける人と消費者教育に関
する資源を、ニーズや条件を考慮して適切に結びつくように「調整」することとなる。
(2) 消費者教育コーディネーターとは1
コーディネーターとは、コーディネートする人のことを意味することから、消費者
教育コーディネーターとは、消費者教育をコーディネートする人のことである。
そこで、消費者教育コーディネーターの役割について、考察すると 2 つの役割を示
すことができる。
①人と人、人と情報、人と資源を当事者のニーズに合うように調整する役割がある。
具体的には、
・消費者問題・消費者教育についての情報収集・発信する役割
・当事者相互の要望を調整する仲介的役割
・消費者教育資源を上手く利用できるように世話をする役割
・消費者教育に関する経験等を通してより良い方向に向かうように牽引する役
割
などを挙げることができる。
②人と人、人と情報、人と資源を結びつけて、新たな消費者教育の場を創出するな
ど企画・提案する役割がある。具体的には、
・新たな消費者教育の場の創設をする役割
・異なる団体の当事者を結びつけて、新たな消費者教育の創出をする役割
・有意義な事業をするために、新たな協力機関等を見出す役割
(3) 消費者教育コーディネーターの資質・能力
消費者教育コーディネーターに期待される資質については、消費者教育推進会議地
域連携推進小委員会において以下の 3 つの資質が提示されている。
①消費者教育を広めるため<魅力的な講座等の企画・立案・説得>する資質
1
コーディネーターの役割については、文部科学省国立教育政策研修所社会教育実践研究センターが調査した報告書を
参考にした。国立教育政策研修所社会教育実践研究センター『平成 19 年度社会教育を推進するコーディネーターの役割
及び資質向上に関する調査報告書』(2008 年 4 月)、国立教育政策研修所社会教育実践研究センター『平成 20 年度社会
教育を推進するコーディネーターの役割及び資質向上に関する調査報告書』(2009 年 3 月)。
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②消費者教育の実施を働きかけるため<調整を行う、共感を生む>資質
③消費者教育の関係者をつなぐため<調整を行う、共感を生む>資質
ここでは、
「広める」
「働きかける」
「つなぐ」3 つの消費者教育コーディネーターの
役割と「広める」ための資質として<企画・立案・説得>、
「働きかける」ための資質
として<調整・共感>、
「つなぐ」ための資質として<調整・共感>が示されている。
これら提示された資質を実践に即してより具体的に整理すると①専門性②人間性③
ネットワークという 3 つの要素と「信頼・共感」というキーワードを導き出すことが
できる。
① 専門性・・・・・・・・・知識・技能
・消費者問題の歴史・消費者問題の現状・消費者問題の法的観点
・学校教育の現状・教材化に向けての知識
②人間性・・・・・・・・・情意・態度
・信頼性に結びつく人間性・他者と協働して社会参画
③ネットワーク・・・・・・思考力・判断力・表現力
・個人が持っているネットワーク
・行政が持っているネットワーク
講座・研修会・研究会等への参加、交流会での意見交換、発表の場
↓
考察する力(多角的に)
構想する力(複数の立場や意見を踏まえ、課題を把握、構想)
説明する力(自分の考えを論理的・効果的に説明)
これら 3 つの要素が重なりあい、さらに④ニーズの発見⑤コミュニケーション⑥企画・
提案という資質が求められ、もっとも重要となる「信頼される」
「共感する」という資
質を導き出すことができると考えられる。これらの関係を図で示すならば以下の通り
である。
図
企画・提案
コミュニケーション
信頼・共感
ニーズの
発見
5
(4) 消費者教育コーディネーター養成の方策
消費者教育コーディネーターを養成するための研修として、どのような視点でプロ
グラムを企画する必要があるかについて模索中ではあるが、岡山県では平成 27 年度に
消費者庁の先駆的プログラムとしてコーディネート人材養成講座を開催した。この講
座は、全 16 回に亘る講座で、消費者教育コーディネーターの資質を養うものであった
と思われる。この事業を終え、再度検証し不足していた資質の領域も明確になった。
国立教育政策研修所社会教育実践研究センターの調査研究報告書2を参考に、消費者
教育コーディネーターを養成するプログラムを考察するならば、以下のとおりとなる。
消費者教育コーディネーター養成研修プログラム例
資質・能力の領域
1.専門性
学習テーマ
消費者問題の基礎
主な学習内容
消費者問題の歴史、消費者問題
の現状と関連する法律等
学校教育の基礎
学校教育・学習指導要領等教育
の基礎、教材作成の注意点、学
習指導案の作成
地域組織・活動領域の基礎
地域の教育支援方策、地域の教
材等の収集・活用方策
2.ネットワーク
個人情報保護
個人情報保護、人権等
ネットワークの理解
ネットワーク形成方法、連携・
協働の意義
ネットワーク診断
人脈リスト作成等
情報収集方法
消費者教育についてどこからど
のような情報をえることができ
るか情報源の確認
3.人間性
コミュニケーション・スキル
話し方、共感すること、提案の
しかた、説得等
4.企画・提案
カウンセリング・スキル
傾聴についてロールプレイング
企画・提案
講座作成方法、プレゼンテーシ
ョン方法など実演、PDCAに
ついて
5.コーディネート
コーディネーターの役割
役割と活動例
2 国立教育政策研修所社会教育実践研究センター『平成 20 年度社会教育を推進するコーディネーターの役割及び資質
向上に関する調査報告書』
(2009 年 3 月)。
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3.コーディネーターが活躍できる環境
(1) 自治体の役割
コーディネーターを配置するときには、自治体はコーディネーターが何をするかを
明確に示す必要がある。消費者教育推進計画に基づいて配置されると思われるが、ど
のような役割を担ってもらうかが重要である。例えば、①教育委員会と消費者行政と
の壁を取り除くため、②消費者教育を学校教育現場に取り入れてもうらため、③消費
者教育教材を作成するため、④消費者教育を学校の授業でしてもらうため等の目的で
教員OB・OGを消費者教育コーディネーターに就任していただくという場合がある。
この場合は、教員OB・OGは消費者問題について専門家ではないので、消費者問題
や行政内部組織との連携について行政のフォローが重要である。
また、消費生活相談員を消費者教育コーディネーターとして配置する場合がある。
例えば、①消費者教育を学校の授業でしてもらうため、②消費者教育教材を作成する
ため、③消費者教育の場を開拓してもらうため等の目的がある。この場合は、消費生
活相談員は教えるプロではないので、教える技術等が未熟で学習指導要領について詳
しくないので学校や教育委員会との橋渡しを行政がフォローすることが重要である。
しかし、目的は消費者市民社会に参画する消費者市民を育成する教育を行うことで
あり、この目的を達成する手段として消費者教育コーディネーターが存在しているこ
とを忘れてはいけないと考える。手段が目的化することで消費者教育は「絵に描いた
餅」となってしまう恐れがある。目的を明確にして、目的達成の手段として消費者教
育コーディネーターに何を求めるかを行政は明示する必要がある。
(2) 教育委員会との関係
教育委員会と消費者行政の壁を消費者教育コーディネーターに求める場合がある。
学校現場は○○教育が次から次へと降ってくるため忙しく、消費者教育だけに時間を
さいてくれることはないことを共感する必要がある。学校現場が何を求めているかを
把握し、教育委員会にはお願いしたいことを具体的に示すことで高い壁は低くなるの
ではないだろうか。きめ細かいオーダーメードを消費者教育コーディネーターと行政
職員とでやり取りする必要がある。
(3) 環境整備
消費者教育コーディネーターを配置して終わりとするのではなく、共に歩く行政職
員の存在が重要である。消費者教育は消費者教育コーディネーター一人がするもので
はなく、様々な人々と連携・協働するからこそできるものであることを行政側も認識
し、消費者教育コーディネーターを信頼して共に歩むことが息の長い消費者教育に繋
がっていくと考える。消費者教育コーディネーターと行政職員が信頼して働ける環境
を整備することが必要である。
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4.消費者教育のあるべき姿について
(1) 消費者教育の基本姿勢
私の消費者教育に関する基本姿勢は、消費者教育コーディネーターを拝命する以前
から「法教育としての消費者教育」である。
「法教育としての消費者教育」とは、消費
者として日常生活で起こる様々な契約を通して、法の背後にある<自由・責任・公正・
正義>という価値を主体的に考えることができるように支援する教育である。
自由で公正な社会において求められる消費者市民とは、様々な考え方や価値観を持
ち、多様な生き方を求める人々が、お互いの存在を承認し、尊重しながらともに協力
して生きていくことのできる社会の形成に参画する消費者であると考えている。つま
り、資本主義経済の市場においては、一人一人が自分にとって何が必要か、自分はど
のようなライフスタイルを選択するかについて、まずは情報収集し、適切な情報の下
で自らが取捨選択し、判断していくことで「生きる力」が育成されると考える。但し
重要なことは、自ら判断する際にどのような価値を重視するか考える必要があるがそ
のときに、自分の利益のみではなく公的利益も考慮するような基準があることに気づ
くような教育内容にすることである。自律した消費者を育成する消費者教育は、消費
者問題を教材として自分を大切にしつつ、自分以外の周りの人々との協力関係を適切
に構築していく能力を身につける教育で、自分の考えと異なる意見にどのように向き
合い、合意を形成することができるかを考える力が、消費者市民社会の中で生きる力
になると考えている。
(2) 消費者教育コーディネーターになった経緯
消費者教育コーディネーターを拝命する以前から、こうした消費者教育に関する基
本姿勢であった。県センターの消費生活相談員は非常勤職員で、勤務日以外は、中高
一貫校(私学)の社会科教員、大学の非常勤講師として教壇に立っている(現在は大
学のみ)
。学校現場はもとより、県センターでの消費者教育講座・啓発活動においても、
同姿勢で活動していた。平成 22 年度は、「知っておきたい契約・取引の基礎知識3」と
題する消費者教育副読本を作成し、翌 23 年度には、その消費者教育副読本の「教員向
け解説書」を作成した。平成 24 年度は、
「消費生活学」の非常勤講師をしていた短期
大学において、学生が学んだ消費者問題を、県センターが作成するパンフレットに関
与して伝えるという手法で講義を行い、
「若者による
若者のための 消費者トラブル
対処法」を作成した。平成 25 年度は、県センターが高齢者向けのパンフレットを刷新
するとのことであったので、県北部にある大学と連携して作成することを提案し、大
学教員と連携して、大学生に①消費者問題の基本知識②高齢者の消費者被害について
講座を行い、
「高齢者のための 元気に笑顔で暮らす∼虎の巻∼」のパンフレットを作
成した。
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平成 22 年度消費者教育教材資料表彰優秀賞受賞((公財)消費者教育支援センター主催)
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こうした姿勢が消費者教育コーディネーターを拝命する契機となったと考える。
(3) 消費者教育の内容
消費者教育の内容は、発達段階に応じた内容のものが必要となる。さらに、トラブ
ルや被害に遭いやすい内容のものを取り入れ、社会情勢の変化にも機敏に対応するこ
とが重要である。消費者教育の栄養は“消費者の声”である。消費生活センターが消
費者教育拠点となることは、消費者の生の声を直接聞いている消費生活相談員が関与
しているということに意義がある。相談者の声から社会問題を抽出し、教材とするこ
とが現代社会で「生きる力」を育むことにつながっていくのではないかと考える。学
校教員は教えることのプロであるが、教える内容である消費者問題のプロではない。
そこで、消費生活センターとうまく連携をして実践に基づいた教育内容を考えること
が大切ではないかと考える。消費生活センターは、消費者の声を教育現場に伝え、消
費者問題に対する教員の認識を高めてもらうとともに、両者が一体となって将来を担
う世代を育成しなくてはならない。また、自由で公正な社会の形成に主体的に参画で
きる「自律的な消費者」として育成する取り組みを進めるためには、文部科学省との
息の長い連携が必要となる。
―例―
・今年度の高校卒の新入社員対象の消費者教育講座(造船会社で多数が男性)で
は、若者用のパンフレットを用いながら、講座担当の消費生活相談員が受けて
いる若い男性特有の消費者問題の一つである包茎手術の事例を紹介した。若い
男性だからこそ陥りやすい消費者被害事例を伝え、契約する際には慎重に考慮
しないといけないことがあること、困ったときには恥ずかしがらずに相談する
こと等を伝えた。
消費者教育コーディネーターは、このように講座担当の消費生活相談員に消
費者教育の内容について相談を受け、助言等を行っている。
・小学生期では、オンラインゲームに関するトラブルが多発している現状を踏ま
え、教材を作成した。また、このオンラインゲームに関する教材の授業は、授
業参観日に実施させていただいた。オンラインゲーム関係については、家庭教
育との関係もある内容であることから、授業参観日に実施することは有益な方
法であった。
5.消費者教育を推進するために国として取り組むべきこと
(1) 「点」⇒「線」
、
「線」⇒「面」への実効性の高い連携のシステムの構築
消費者教育を社会に根付かせ、消費者市民社会を構築するためには、消費生活セン
ターの充実が必要である。消費者の生の声を自由で公正な社会の形成につなげていく
ためには、多くの機関との連携が重要と考える。
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岡山県の取り組みの中で、実施可能と思われる取組みは国全体の取り組みにつなが
ることが望ましいと考える。このような環境の整備を担うのが国の大きな役割ではな
いだろうか。
(2)
県と市町村の役割分担の明確化と地方の相談体制の充実に向けた継続的支援
市町村は、住民に身近な相談窓口として、
「寄り添う」
「掘り起こす」
「センサー機能
を地域に細かく張り巡らせる」という役割が期待され、また、きめ細かな情報伝達力、
ワンストップでの機動的かつ総合的な対応力など、都道府県にはない優れた特性を備
えている。
一方で、都道府県は、地域からの複雑化・高度化する相談に応じるという課題と基
礎自治体を的確にバックアップするという重要な役割を担うことが期待されている。
しかしながら、こうした県と市町村の役割分担ができている自治体はまだ数少ない
のではないだろうか。
消費者安全法が施行され、消費生活センターの法的位置づけが明確にされ、役割分
担について移行段階にある現在、超高齢社会における基礎自治体の相談窓口の重要性
の高まりを踏まえた今後の消費生活センター体制のあるべき姿に関する国の一定の方
向付けが必要と考える。
また、地方消費者行政活性化基金により充実・強化が図られた地方の消費生活相談
体制を後退させることがないよう、消費者の生の声が消費者教育の栄養素であること
を踏まえると、特に基金を契機に新設された消費生活センター及び今後新たに消費生
活センターの設置を目指す基礎自治体への支援を継続することが重要ではないかと考
える。
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