1 81 自己有能性 ・自己好意性の 日米文化比較 一計量的等価性の検討一 島 田 拓 司 〔 要 旨〕 本稿は,自己有能性 ・自己好意性尺度 ( SLCS)の計量的等価性について検 討 したものである。SLCSは自尊感情を測定する目的で作成された比較的新 しい尺度で あるが, しばしば比較文化研究で使用されており,今後 も使用されることが予想される。 名のデータを基に,さまざまな統計分析によって SLCSの 本研究では, 日米大学生487 計量的等価性を検討 した。具体的には,これまで一般的に行われてきた項 目分析や多母 集団同時分析による測定不変性の検討に加えて,項 目反応理論を利用 した特異項 目機能 ( Di f f e r e nt i alI t e m Func t i o ni ng:DI F)分析を行い,等価性が確認されなかった項 目 については,翻訳上の問題点や比較文化的視点か ら解釈を試みた。 〔 キーワー ド〕 自己有能性 ・自己好意性 ( SLCS) ,日米文化比較,計量的等価性,多 I DF) 母集団同時分析,特異項 目機能 ( 0 .は じ め に これ までの比較文化研究では,欧米,特 にアメリカ合衆国で開発 された心理尺度 を翻訳 して 用いることが一般的だったが,昨今,等価性の問題 が喧伝 されるようになって きた。使用 され る測走道具が同等 でなければ,それ を使 って得 た研究結果 は妥当なもの とは言い難いため,等 価性 を確保す ることは,比較文化研究 に とって不可欠 な手続 きになってきている。比較文化研 究で留意 しなければな らない等価性 は,機能的等価性,概念的等価性,計量的等価性の 3点で ある。機能的等価性 とは,異 なる文化 の同 じ場面で,ある特定 の行動 が同等の機能 を持つか と い う点 を問題 に してお り,概念 的等価性 は,特定の行動が異 なる文化で同等の意味 を持つか と い う点 を,そ して計量的等価性 は,同 じ項 目,同 じ尺度で測定 叶能であるかを問題 にする ( 高 9 9 9) 。 とりわけ,使用 した道具 の計量 的等価性が確保 されてい か ナれば,ある特徴 の程 井 ,1 9 9 4) 。 度 を異文化 間で比較す ることは適切 ではない ( 岩脇 ,1 ar o di& Swann( 1 995)が作成 した 自己有能性 ・自己好意性尺度 ( SLCS) の 本稿 では,Taf 計量的等価性 について 日本人 とアメ リカ人か ら収集 したデータを用いて検討 した。 自己有能性 と自己好意性 は, 自尊感情の二面性 を表す ものであ り,東西文化で異 なる と指摘 されている 自 Kas hi ma,2001) 。 さら 尊感情 の とらえ方 を解明するための手がか りを提供 する ものである ( にこの 自尊感情の二元モデルは, これ まで明確 に示 されなかった自尊感情 に関わる様 々な問題 Bo s s o n & Swann,1 999;Si l ve r a & Se ge r ,2004; 点 を明 らかにする可能性 を含んでいる ( ro di ,1 998;Taf ar o di& Vu,1 997) osLCSを使用 したこれ までの研 究はほ とん どが アメ Tafa リカ国内での研究 か,比較文化研究であるが,今後 日本人 を対象 に した比較文化研究 な どで使 用 される可能性がある。 したが って,SLCSの計量的等価性 を検討す ることは重要であ り,普 義深い ことである。 1 82 天 理 大 学 学 報 1. 自尊感情 と文化 1- 1 自己有能性 ・自己好意性 と文化相反仮説 自尊感情 に個人の能力に基づ く感情 と社会的価値 に基づ く感情の両面が含 まれることは, こ e. g. ,Fr a nks& Ma r o l l a,1 976;Har t e r ,1 9 85)が,Ta f ro a di& れ まで も論 じられて きた ( Swann ( 1 9 9 5)は,この理論 を発展 させ, 自尊感情 を 「自己有 能性 ( s e l f c o mpe t e nc e) 」と s e l f l l i ki ng) 」で構成 される二元モデルを提唱 した。 「自己好意性 ( 自己有能性 とは,成功体験 に基づ く自己効力感であ り,自分の定めた目標 を達成 したか どう かによって決定 される比較的自律 した感情である。一方, 自己好意性 は,他者からの評価 によ って構築 される自己の社会的価値 についての感覚であ り,何が人の価値 を決めるのか とい う社 会的に受け継がれて きた価値観 に関連 している。高い自己好意性 を有する人は承認,不承認 を 表す他者か らの反応 に敏感であ り,高い自己有能性 を有する人は,統制や 自己決定 に関する状 況要因に敏感である ( Ta f ar o di& Swa nn,1 996) . Taf ar o di& Swann ( 1 9 95)によれば, 自己有能性 と自己好意性はそれぞれ独 自の行動 に反 映 されるが,一方が もう一方の原因になっているので両者 は強 く相関 している. これ までの SLCSを使用 した研究 ( Si l ve r a&Se ge r ,20 0 4;Taf a r o di ,Lang, &Smi t h,1 999;Ta f a r o di & Swa nn,1 996;Ta払r o di& Swann,1 995)で も. 5 0-. 7 5 程度の高い相関が報告 されてお り, このことを裏付 けている。 計量的等価性の確保 は,比較文化研究で使用 されるあ らゆる測定尺度 に要求されるものだが, c ul t ur alt r a de o f hy po t he s i s ) を検証する方法 として比較文化研 自尊感情の文化相反仮説 ( 究で使用 される SLCSにとっては, この点がなおいっそ う重要 になる。文化相反仮説 とは, 個人主義文化 と集団主義文化では,自尊感情 を構成す る二つの次元 (自己有能性 ・自己好意 性)が正反対の報酬 ( コス ト)をもた らし,個人主義文化では自己有能性が重視 されるが 自己 好意性が抑制 され,集団主義文化では自己好意性が重視 されるために自己有能性が抑制 される とい うものである ( Taf ar o di & Swa n n, 1 996) o この仮説 はすでに中国人 とアメ リカ人 ( Taf a r o di& Swa n n,1 996) ,マ レーシア人 とイギリス人 という集団主義文化 と個人主義文化 の比較文化研究 ( Taf ar o die ta1 . ,1 9 99)でその妥当性が確認 されているO 集団主義文化では,集団の意見 に敏感でなければならず, ときには自分の考 えを曲げてで も 集団の意見 に従 うことが要求 されることがある。家族,友人,隣人,同僚等の内集団の要望や 期待 に自己の行動 を合わせることが,その集団に受容 され好感 を持 たれることにつなが り, こ の ような受容,承認 を反映 した評価が 自己の感 じる社会的価値 である自己好意性 を高揚 させ る。 一方,他者か らの期待 に自己の行動 を合わせ ることは,自律,選択の 自由, 自己決定 など, 日 常の統制に関する事柄の部分的放棄 を強いる。統制 は,効力感や有能感 を体験するための不可 欠な要素であるため,集団主義文化が統制の放棄 を要求するのであれば, 自己有能感の発達 は Taf ar o die ta l リ1 9 99;Ta f a r o di& Swann,1 996) 0 抑制 されることになる ( 個 人主義文化では,独立,自己主張,集団 よ りも個人を優先することが強調 され,個 人の意 思 と他者の願望や期待の間に生 じるずれは, 自律. 自己表現,独創性 を保持するための不可避 的な代償 と して認識 される。意見の衝突や相互の欲求不満が結果的に個人に対する嫌悪感や拒 絶感 を生むが,このような否定的評価 は自己の社会的価値の低減をもた らすので, 自己好意性 の低下につながる。対照的に,個人が集団か ら独立 した存在であることが, 自己表現,行動の 選択,アイデンティティーの形成 に自由度 を与 えることになるので,結果的にそれが統制感の 自己有能性 ・自己好意性の日米文化比較 1 8 3 発達につなが り,自己有能性の発達 を促進する ( Taf a r o die ta 1 . ,1 999;Ta f ar o di&Swann, 1 996) 。 1- 2 自尊感情 (自己有能性 ・自己好意性)の文化差 文化相反仮説は,異文化間で自己有能僅 ・自己好意性の強調 される程度が異 なるとい う点に 着 目してお り,文化 間で程度の違いはあるが概念的には同等 とみな している。すなわち, 自己 有能性 ・自己好意性 は文化 ( 集団主義一個人主義)の影響で強調 された り抑制 された りするが, 日本人の とらえる自己有能性 もアメリカ人のとらえる自己有能性 も本質的には同等 な概念 とし て比較可能であ り,SLCSの測定項 目として概念化 された自己有能性 ・自己好意性 は計量的 に 等価であると想定 している。 文化相 反仮説 は 自尊感情 の程 度差 につい て直接言 及 してい ないが, タフ オルデ ィー ら ( Ta f a r o die ta 1 . ,1 999;Taf a r o di& Swa nn,1 996)が個人主義的文化山身の人々は集E i l 主義 的文化出身の人々よりも自己有能性が高 く,自己好意性が低い,集団主義的文化出身の人々は 個人主義的文化出身の人々よりも自己好意性が高 く,自己有能性が低いとい う仮説 を検証する ことによって文化相反仮説の妥当性 を証明 しようとしていることか ら,自己有能性 と自己好意 性で構成 される自尊感情の程度 は文化間 ( 個人主義文化一集団主義文化)でさほど大差 はない はずである。 しか し, これ までの自尊感情や 自尊感情 を維持する動機づけ としての 自己高揚傾 向に関す る比較文化研究では,欧米人の自尊感情 は日本人の もの よりもかな り高い と結論づけ てお り, 自己有能性 ・自己好意性の とらえ方が同等であ り,SLCSが計量的に等価 であると想 定す るには,少 し無理があるように思われる。 He i ne,Le hman,Mar kus ,& K it ayama ( 1 9 9 9)によれば,ローゼ ンバーグの自尊感情尺度 ( Ros e nbe r g,1965)で測定 したヨーロッパ系 カナダ人の得点分布の平均値 は尺度の中心点 よ りもはるかに高 く,負 に歪 曲した曲線 を描 くが,外国滞在経験のない 日本人の分布はほぼ正規 曲線 を描 き, 日本人はカナダ人ほど自己を肯定的に捉える傾向が見 られない と報告 している し, 能力や性格特性 を使 った比較研究 ( He ne& Le i hman,1 999;Mar kus& Xi t ayama,1 991) で も, 日本人の方が北米人 よりも自己批判的な傾向が読み とれる。 さらに,北山,高木,松本 ( 1 9 9 5)は日本における成功 と失敗の原因帰属 に関する研究 をレビュー し,成功条件では課題 の困難 さ,運,状況 といった外的要因が多いのに対 し,失敗の原因 としては努力 と能力がほと んどで,能力 を成功の原因 とし失敗の原因 とは しない欧米人に見 られるような自己高揚 ,自己 防衛傾向がほ とんど見 られない と報告 している 。 自尊感情の文化差 は,主観的幸福感 ( s ub j e c t i vewe l l be i ng)に関する比較文化研究の結果 か らも示唆 されている。北米人の間では自尊感情の高 さは主観的幸福感 に強 く関連 しているが, e ne r& Di e ne r( 1 9 95) によれば,生活満足度は調査 した 他の文化ではそれほどで もな く,Di 31の全ての国で 自尊感情 と相関 していた ものの,その程度 は個人主義的傾向が強い国民ほ ど自 n,Bo nd,&Si nge l i s( 1 9 9 7) は,集団主 尊感情が生活満足度に関連 していた。さらに,Kwa 義文化では,他者 との良好 な人間関係 を保持することが生活満足度 を左右す る重要な要素だ と い う仮説 をアメリカ人 と香港出身者の回答 をもとに検証 し,アメリカ人は, 自尊感情の方が人 間関係 よ りも生活満足度 に影響するが,香港出身者は,両者が同程度 に重要だと回答 したこと を報告 している。 文化相反仮説が予測するように,特 に日本 人の 自己有能感が欧米人ほ ど強 くない という報告 l e i nee tal .( 1 9 9 9) は, 自尊感情 に意味的に近い 日本語語句 には否定的意味合いが もある。f 1 84 天 理 大 学 学 報 含 まれ,性格特性 を表す2 0語句の うち ヨーロ ッパ系 カナダ人は 自信 ( s e l f c o n丘de nc 。)を 2番 8 番 目と回答 した と報告 している し,He i ne ( 2 0 0 3) ち,東 目に重要だと答 えたが, 日本人は1 洋人 と北米人の違いは自己好意性 よりもむ しろ自己有能性 についてである と指摘 している。 自尊感情 に文化差が存在するのであれば, 自尊感情の概念が文化間で異なっている可能性が ある。 したが って,SLCSを使用 して 自己有能性 ・自己好意性 を異文化比較す るため には, SLCSが測定 しようとする概念が文化間で同等であるか を確認 してお く必要がある。概念的等 価性 は計量的等価性 と密接 に関連 してお り,計量的等価性 を確認する過程で理論的に構築 され た構 成概 念 の内容領 域が文化 間で同等 であ れ ば,概念 の等 価性 を示 す こ とが で きる ( 岩 脇 ,1 9 9 4) 。この ような構成概念の等価性 は,内的整合性 ( 項 目一尺度得点相関,クロンバ ッ クの α係数)千,因子分析 による因子負荷量の比較 によって計量的等価性 と共 に検討 され る。 さらに特異項 目機能 ( DI F) 分析 を通 して質問項 目の文化 間での不変性 を示す ことに より, SLCS項 目が示す文化差が 「 程度の違い」なのか 「 種類の違い」 なのかを明 らか にで きる。程 度の差であれば,概念的 ・計量的等価性の条件 を満た しているので,平均値や標準偏差 などを 異文化間で比較することは可能だが,種類の差であれば,文化間で概念が異 なることになるの で,異文化比較の対象 としては不適切 ということになる ( Andr i c h,1 988) 。 1- 3 分析手順 本研究では, 日米間における SLCSの計量的等価性 を検討す るため,4段階 に分けて統計 分析 を試みた。 まず,SLCSの基礎的統計値である平均値,標準偏差,歪度,尖度ついて 日米 間で比較 したのちに, 日米文化別 に確認的因子分析 を行い,自己有能性 ・自己好意性の二因子 モデルがそれぞれのデータにうまく適合するか どうかを確認 した。 次 に,尺度の内的整合性 ( i nt e ma lc o ns i s t e nc y) とそれぞれの項 目についての項 目一全体 i t e mt o t al c o 汀e l a t i o ns: Ⅰ T相 関)の 日米文化データを比較 した。内的整合性 ( α係 相関 ( 敬)は尺度 を構成 している項 目が同一の ものを測定 しているか どうか を示 し,項 目の同質性 を 表す指標である。内的整合性の高 さは項 目間相関の高 さを表す ( De Ve l l i s ,2 0 03) 。Ⅰ T相関は 各項 目が どの程度被調査者の特性の違いを表 しているか という識別力 を示す。因子分析 の因子 負荷量 と概念的に同等 なものであ り,尺度項 目の妥当性指標 として使用 される。 この相関が高 いことが望 ましいが,類似 した項 目が多 く含 まれていると同 じことを繰 り返 していることな り, 自己有能性 ・自己好意性 を特徴づ ける様 々な側面 を測定するための範囲 ( 測定幅)が不十分 に なる。逆 にこの相関が低す ぎる項 目は,尺度が測定 しようとする構成概念 を測定 していないこ とを意味 し,信頼性 を低下 させる ものであるか ら,尺度か ら取 り除 くか,項 目を書 き直すなど の措置が必要になる。 3番 目のステ ップとして,Amo s5. 0( Ar bu . c kl e, 2 0 03)を用いた多母集団同時分析 によっ て日米文化間で共分散構造モデルが同等であるかを検討 した。多母集団同時分析 とは,推定す べ きパラメータが複数の集団間で同等であると仮定する同値制約 を課 し,制約 を課 さないモデ ル との差 をx2 検定 し,制約の少ないモデルか ら徐 々に制約 を増や し, どの程度 までモデルの 9 9 7) 。 まず最 も制約 の弱い配置不変モ 構造が同等であるのか を確認する手法である ( 狩野,1 デルをテス トし,次 に因子負荷パ ターンが同等であるとい う測定不変モデルを検討 した。 さら に測定不変 と因子の分散共分散が等 しい というモデルまで を検討 し, 日米間で有意差 を示 した 項 目を抽出 した。 計量的等価性の一般的な確認方法 としてはこの第 3ステ ップまでである ( Suz uki& Ra nc e r , 自己有能性 ・自己好意性の日米文化比較 1 85 996)が,前述のように文化 間で 自尊感情の捉え方が異なること 1 99 4;Taf ar o di&Swann,1 が指摘 され てお り,SLCSの作 成者 で ある タフ オルデ イ とス ワ ン ( Ta払r odi & Swann, 1 996) ち,個人が有す る自己有能性 ・自己好意性の程度 によって尺度項 目へ の反応の仕方が 文化間で同等なのかそれ とも異なるのか,項 目困難度 ( 項 目内容 に同意することが どの程度困 難かを示す指標)の等価性 を確認する必要性 を指摘 していることか ら,4番 目のステップとし F分析 を行い,尺度の等価性 を検討 した。 て項 目反応理論 を利用 した DI 2.方 法 調査対象者 :奈良県内の大学生2 9 5名 ( 男性1 45名,女性1 5 0 名) と,アメリカ南部の大学の学 生2 09名 ( 男性8 7 名,女性 1 1 5名,不明 7名) を対象 に質問紙調査 を行 った。回答不備などによ り, 日本人学生 5名,アメリカ入学生 8名 を調査対象から外 したため,最終的には日本人対象 者2 87名 ( 男性 1 41名,女性1 4 6名)ア メ リカ人 対 象 者2 01名 ( 男 性8 2名,女 性1 1 3名,不 明 6 ( SD-2.71),ア メ リカ人22.61歳 ( s D-6 . 4 2 )であ り,アメリカ人対象者の方が 日本人対象者 よりも年齢が上だった ( tl 4 8 5 1 名) とな っ た。対 象 者 の年 齢 の 平均 は, 日本 人1 9. 0歳 -8. 49, p<. 0 0 1 ) o 自己有能性/ 自己好意性尺度 ( SLCS):Taf a r odi& Swann ( 1 9 95)が作成 した自己有能性/ SLCS)は,自己有能性1 0項 目,自己好意性 1 0項 目の合計2 0 項 目で構成 され, 自己好意性尺度 ( 」か ら 「ぴった り当てはまる (5点) 」 それぞれの項 目は,「まった く当てはまらない (1点) までの リッカー ト形式の 5件法である ( 項 目内容 については表 1参照)。この尺度 を 日本語 に 翻訳 し,その日本語訳の妥当性 を 2名のバ イリンガル話者がチェックした。語薫 レベルの等価 性 を意識 しす ぎてぎこちない直訳調の 日本語訳 を避 けるため,厳密 な意味でのバ ック トランス レーシ ョンは行 わなかったが,意味的等価性 には十分配慮 した。得点集計 にあたって,逆転項 目である項 目 3, 6, 7,9,ll,1 4,1 7,1 8,1 9,2 0については全て得点変換 した。 3.分 析 結 果 3- 1 SLCSの基礎統計 SLCSの分析 を始めるにあた り,基礎的な統計量 を確認 した ( 表 1参照)。 これまで報告 さ れて きた研究結果 と同様,アメリカ人の方が 日本人 よりも自己有能性が高 く,得点のば らつ き を示す標準偏差 も小 さい。ハ イネら ( He i neeta1 . ,1 999)の報告通 り, 日本人の自己有能性 の得点分布は正規分布 に近い得点分布であるのに対 し,アメリカ人の分布は,理論的な中心 よ りもはるかに右側 に歪んだ得点分布 になってお り,多 くのアメリカ人がほぼ例外 な く自己を有 能であると見な していることが読み とれる。 自己好意性 についてもほぼ同様のことが言えるが, 全体的に自己有能性ほ どの差 はな く,ばらつ きの差 も幾分ノ J 、さい。 平均値 と標準偏差の他 に,得点分布の形状 を表す指標 として使われる歪度 と尖度 について も 検討 した。 これらの言 1量心理学的特性 は,平均値の差 を大 きく歪めることがあ り,異文化 間で 同一の測定尺度 を使用する場合は検討 を安する指標である ( By m e& Campbe l l ,1 999) と同 時に,共分散構造分析で最尤法 を使用する場合 にもこれ らの指標が正規分布 を示 している必要 がある。歪度 とは得点分布の対称度を表 し,左右均等 に分布 している場合,歪度は 0になる。 尖度 とは得点分布の とが り具合によって正規分布か らどれだけ逸脱 しているかを示す統計指標 であ り, この指標 も正規分布の場合は 0になる。By r ne& Campbe l l( 1 9 9 9) によれば,歪度 . 5 0か ら+1 . 5 0の範囲内に収 と尖度が正規分布 していると見なすためには, これ らの数値が-1 186 天 理 大 学 学 報 まっている必要がある。表 1に示 したように,アメリカ人デー タの項 目10, 1 1を除けば全ての 数値が この範囲内にあ り,ほほ正規分布 と見なすことできると確認 された。 3- 2 SLCS の確認的因子分析 SLCS が仮定す る二元モデルが 日本人 とアメ リカ人のデータに適合するかを確認す るため, m os 5. A 0( Ar buc kl e,2003) による確認的因子分析 を行 ったO仮定 したモデルは,① 自尊感 情 は自己有能性 ・自己好意性 とい う二つの次元 ( 因子)で説明 され,②それ らの因子 は相 関 ( 共分散) してお り,③誤差間相関はない, というものだった。 さらに因子の尺度単位 を確定 す るため,最初の観測変数 ( 項 目 1と項 目 2)へのパス係数を 1に固定 した。 表 1:SLCS尺度の平均得点,標準偏差,重度,尖度 日本人 ( n-2 8 7人) 平均値 ( SD) 歪度 アメ リカ人 ( n-2 01人) 尖度 恒 均値 ( SD)\歪度 \尖度 1 5, 自分 には才能がある 1 7 . 自分 はあ ま り有能ではない 1 9.難題 に対処す るのは苦手 だ . 0 7 -. 6 9 4. 21( 0. 7 4) -. 7 2 . 7 4 2. 6 5( 1 . 0 5 ) . l l -. 9 3 4. 1 4( 0. 9 1) -1 . 01 . 5 2 3. 0 9( 1 . 0 4) -. 0 -. 5 5 3. 8 7( 0. 8 8) -. 5 7 , ll 2. 6 4( 1 . 0 3) . 31 -. 4 2 3. 9 3( 0. 8 6) -. 6 6 . 1 9 2. 6 2( 1 . 0 5 ) . 3 0 -. 4 3 4. 2 7( 0. 8 5) -1 . 3 8 2. 3 8 2. 8 9( 1 . 2 7 ) . 1 3 -1 . 0 4 4. 4 0( 0. 9 3 ) -1 . 6 5 2. 2 0 2. 85( 1. l l ) . 1 2 -. 6 4 3. 9 9( 0. 9 0 ) -. 6 7 . 1 0 2. 7 8( 1. 1 4) . 1 6 -. 2 9 4. 1 3( 1 . 01 ) -. 8 5 -. 3 6 2. 5 6( 1 . 2 3) . 2 8 -1 . 0 2 4. 0 5( 0. 9 7 ) -1 . 01 . 7 2 2 0.多 自己好青性 2 自分 くの大事 自身に心地 な場面で適切 よさを感 に対処で じている きない 6_ 自分 の ことを考 えるのがいやになることがあ る 7. 自分 の ことを低 く評価 しが ちだ 8. 自分の長所 を重視 している 9.時々自分は価値のない人間だと感 じることがある 1 2.自分の価値 を しっか り自覚 してい る 1 3. 自分 の ことが気 に入っている 1 4.自分 自身 をあ ま り大切 に していない 1 6.自分 自身 に満足 している 1 8. 自分 に対 して否定 的であ る 2 9 2( 1 . 0 9 . 1 2 -. 8 2 3. 8 6( 3 7 4 3. 0 1 2) -. 4 7 84 0 8 0. 9 6 ) -. 9 5 2. 7 6( 1 . 31 ) . 2 2 -1. 1 8 3. 9 6( 0. 9 9 ) .73 2. 40( 1 . 1 6) _ 5 3 一一 5 13. 7 5( 1 . 1 2 ) -. 5 3. 2 4( 1 . 1 9) -. 1 7 -. 8 9 3. 5 9( 0. 9 3) -. 5 9 2. 9 0( 1 . 3 4) . 2 0 -1. 1 4 3. 6 6( 1 . 1 4) - .52 2, 7 4( 1 . 1 6) . 3 0 -. 61 3. 8 2( 1 . 0 3 ) -. 81 3. 0 3( 1 . 1 3) . 0 3 -. 7 3 4. 1 8( 0. 9 6 ) -1 . 2 5 3. 5 6( 1 . 1 0) -. 40 -. 5 5 4. 0 4( 1 . 2 0 ) -1 . 0 3 2. 7 4( 1 . 1 9) . 1 3 -. 9 7 4. 1 0( 0. 8 6 ) -. 7 6 2. 8 9( 1 . 2 3) . 1 9 . 9 3 4. 0 4( 1 . 0 6 ) -. 9 5 自己有能性 1.多彩 な能力があ り,大い在る可能性 を秘めている 3 . 0 6( 1 . 1 2) 3. うま くいかない ことが多 い 4. これ まで ( の人生) は うま くや って こられた 5.多 くの ことを うま くこなせ る 1 0. 自分 は有能 な人間だ と思 う ll. 自分 には自慢 で きる ところがあ ま りない 1 - 4 2 6 . 4 8 -. 21 -. 61 . 1 5 -. 5 4 . 2 4 1 . 4 4 -. 1 0 . 2 5 . 0 6 註 :逆転項目3, 6, 7, 9,l l ,1 4,1 7,1 8,1 9,20は統計処理により得点を修正。 適合度 を検討するために採用 した指標 は,カイ二乗 ,x 2 / df ,CFI ,RMSEA の 4種類であるO カイ二乗の使用 は大標本が前提であるが,データ数が大 きくなるほどほんのわずかの差 も敏感 に感知 されるようにな り,結局モデルが棄却 されて しまうとい う欠点がある。そのため,カイ 二乗値 を自由度で割 った指標 ( x 2 / df )が よく用い られ,通常 この値が 3未満であるこ とが望 Kl i ne,1998)。CFIは,NFIとTLIの欠点を補 って提唱 された基準であ り,0. 9以上 ましい ( Kl i ne,1998)。RMSEA は 「1自由度あた りの真のモデルとの であればモデルは受容 される ( 乗離度」 ( 豊 田.20 3,p.130) を扱 う指標 で,0.05以下は当ては ま りが良 く,0. 08まで は受 Bym e,2001)。 容で きるが ,0.10以上だと当てはまりが悪い とされる ( 自己有能性 ・自己好意性の日米文化比較 1 87 分析 の結果, 日本人デー タによるモデル- の適合度 は何 とか受容で きる ものだったが ( x2 [ 1 6 9,N-2 8 7 ] -45 6. 6 4,x2 / df -2・ 7 0,CFI -・ 8 7,RMSEA-・ 0 7 7) ,CFIの数値 が や や低 い。 表 2が示す ように,因子負荷 は項 目 3と4を除けば全てが・ 6 0( 非標準解) を超 えていた。 ま た,二因子 間の相関係数は. 8 0であ り,予想通 り高い相関が確認 された○ ァメ. )カ人データの適合度 も日本人デー タによる もの とほほ同等の結果であった ( x2 [ 1 6 9, N -2 01 ] -3 97. 7 0,x2 / df -2. 35,CF1 -. 8 5,RMSEA-. 0 8 2) 。因子負荷 に関 しては, 日本 人 8 0を超えてお り,二因子間の相関係数は. 7 7であった。 データの もの とは異 な り全ての項 目が. Am。 S 5 . 0では,適合度 を改善するための指標 として修正指数が出力 されるので, これ を参 考 に して日本人 とアメ リカ人のモデルの修正 を行 った。 日本人のモデルでは因子負荷量が著 し 5,項 目1 9と項 目2 0, 項 目 2と項 目1 6, く小 さい項 目 4を削除 し,改善度が高 い項 目 1と項 目1 項 目 6と項 目 9の誤差項 目に相関 を認めるとい う修正 を行 った結果,十分受容で きるモデルに なった ( x2 [ 1 47,N-2 8 7 1 -3 2 8. 7 3;x2 / df -2, 2 4;CF1 -. 91;RMSEA-. 0 6 6) 。一 方,ア メ リカ人のモデルでは因子負荷量が′ 」 、さい項 目はなかったが,適合度指標が良 くなかったので, 修正指標 を参考 に改善度の高い項 目1 9と項 目2 0,項 目 6と項 目7,項 目 7と項 目9,項 目 9と項 4の誤差相関 を認 める こ とでモデル を修 正 した ( x2【 1 6 5,N-2 01 ] -31 6. 9 9;x2 / df -1 . 9 2; 目1 90;RMSEA-. 06 8) 。 CF1-. 3- 3 SLCSの内的整合性の検討 自己有能性尺度で測定 した 日本人デー タの α係数 は. 81 5であった。確認 的因子分析 で因子 負荷量が小 さかった項 目4は各項 目との相関が全 て. 1 5以下 と非常 に低 く,尺度全体 との相 関 Ⅰ T相関) ち. 11と非常 に小 さかった。 この項 目を除外 して α係数 を計 である項 目合計相関 ( 算 し直す と. 8 3 4になる。 この項 目 4を除けば Ⅰ T相関はすべ て. 3 0以上 だった。一方,自己好 意性尺度の 日本人デー タの α係数 は. 8 72で,Ⅰ T相 関 も全 て. 4 5以上 であ り,問題のあ りそ う な項 目は見つか らなかった。 8 2 6だった。Ⅰ T相 関は全 て. 4 0以 自己有能性尺度で測定 したアメリカ人デー タの α係数 は. 8 91であ り,Ⅰ T相 上であ り,信頼性 に欠ける項 目は見つか らなかった。 自己好意性尺度では. 関は全 て. 5 0以上であった。 尺度の信頼度係数が文化 間で同等であるとい うことは,計量的等価性 を示す指標の 1つ にな Vi j ve r& Le ung,1 997) O 自己有能性尺度 ・自己好意性尺度の α係数が 日米 グループ間で る ( 同等であるかを Vi j ve r& Le ung ( 1 9 9 7,p. 6 0)が示 した手法で検証 した結果,自己有能性尺 皮 ( Fl 2 87, 2 0 0 ] -1 . 06,p>. 05), 自己好意性尺度 ( Fl 2 8 7 , 2 0 0 1 -1 . 1 7,p>. 05 ) とも同等 の 精度 を有 していることが確認 された。 以上の結果か ら,SLCSは十分な内的整合性 を有 していると考 えられるが, 日本人デー タの 項 目 4は他の項 目との相関が低 く,信頼性 に欠けることがわかった。 この項 目は因子負荷 も小 さく, 自己有能性 とは異 なる概念 を測定 している可能性があるため,内容の見直 しを含めた検 討が必要だ と思われる。 1 88 天 理 大 学 学 報 表 2: SLCS項 目の最尤法による項 目推定値 と Ⅰ . T相関 1. 自己有能性 . 6 6 ( 1 . 0 0 ( 標準解) 非標準解) 3. 4. 5. 10 . l l. 1 5 . 1 7. 1 9. . 4 0 l l . . 5 0 . 6 8 . 7 2 . 6 9 . 7 5 . 4 5 . 5 6 . 1 6 . 6 9 . 9 6 1 . 2 4 1 . 0 4 . 1 4 1 . 7 4 . 4 3 ( 1 . 0 0 . 6 0 ( 標準解) 非標準解) . 3 5 . 5 3 1 . 5 4 . 1 2 . 6 0 1 . 6 9 . 6 4 1 . 7 5 . 4 8 . 5 4 . 6 4 1 . 7 2 . 6 3 . 5 6 1 . 6 7 . 6 0 . 6 7 1 . 9 1 . 6 4 . 4 5 1 . 4 3 . 4 6 . 5 4 1 . 6 6 自己好意性 2 2 0. 6. 7. 8. 9. 1 2. 1 3. 1 4. 1 6. . 5 3 7 1 . 6 5 . 5 4 . 5 8 . 6 7 . 6 2 . 7 7 . 51 . 6 2 . 8 0 1 0 1 . 1 0 . 8 1 . 8 9 . 1 6 1 . 9 3. 1 , 1 3 . 7 2 . 9 6 . 5 3 6 6 . 6 2 . 5 0 . 5 1 . 6 4 . 5 5 . 7 2 . 4 8 . 5 6 . 6 2 9 . 5 4 . 6 6 . 6 7 . 6 4 . 7 2 . 7 0 . 6 9 . 7 6 1 . 8 7 0 0 . 8 4 1 . 1 5 . 9 7 1 . 1 3 1 . 1 5 1 . 0 4 1 . 2 7 1. 01 . 4 0 . 4 9 . 5 0 . 5 8 . 5 8 . 5 2 . 5 8 . 4 3 . 4 8 . 5 7 6 1 . 5 3 . 6 6 . 6 0 . 6 4 . 6 7 . 6 3 . 6 6 . 6 8 3- 4 SLCSの 日米文化 間の国子不変性 の検討 LCSの二元 モ デルが妥 当か どうか を検討 す るため,AMOS5. 0を使 用 し 日米被調査者 間で S た最尤法 による多母集団 同時分析 を行 い,因子不 変性 ( f ac t o ia r li nvar ia nc e) を確認 したo 因子不変性 とは,複数 の異 なるグループで, 同等 の因子が想定 で きる ことを意味 し ( 狩野, 1 9 9 7),比 較 文 化 研 究 で は 計 量 的 等 価 性 を保 証 す る た め の 重 要 な指 標 の 1つ で あ る ( 岩 脇 ,1 9 9 4) 。因子不変性 が確認 で きれ ば, 日米被 調査 者 間で SLCSの質 問項 目が 自己有 能性 と 自己好意性 の概念 を同等 に測定 してい る と主張で きることになる。 因子不変性の検討 は,尺度が保持 してい る と主張で きる等 質性 の程度 に応 じて以下の ように 5段 階 に分かれ る ( 豊 田 ,2 0 0 3) 0 ステ ップ 1 配置不変モデル ステ ップ 2 ( 弱 )測定不変 モデル -囲子 頁荷 ( 因子パ タン)がすべ て等 しいモデル ス テ ップ 3 測定不変 +因子の分散共分散 が等 しいモ デル ステ ップ 4 測定不 変 +誤差分散が等 しい ( 強測定不変)モデル ス テ ップ 5 すべ ての母 数 ( 因子パ ター ン,因子 の分散共分散,観測変数 の誤差分散)が等 しいモデル 自己有能性 ・自己好意性の日米文化比較 1 8 9 これ ら 5つの仮説モデルをステ ップ 1か ら段階的に検討す ることによって日米間の因子不変 パスの位置)の 性 を確認す る。ステ ップ 1の配置不変モデルは等値条件がな く,モデルの形 ( みが同 じであるとい う最 も制約の少 ないモデルであ り,ステップ 2は因子負荷量が複数の母集 団間で同等なモデルである。このステ ップ 2の仮説が支持 されれば・対象 となっている母集団 9 9 7 ) oステ ップ 3では・研究仮説 に応 じて に同 じ因子が存在す るとい う根拠 になる ( 狩野 ,1 因子 ( 潜在変数)の分散や因子間の共分散のみを確認するもの もあるが,特 に因子間 (自己有 能性一 自己好意性)の共分散が同等であることは重要で,この仮定が満 たされなければ,文化 によって自己有能性 と自己好意性の相互依存性 ( 独立性)が異 なることにな り,それぞれの自 尊感情の次元が文化 によって異 なることになって しまう。 したがって,SLCSを異文化比較研 究で使用する場合は,ステ ップ 2の測定不変モデル と因子間共分散が同等であると示す ことが 必要条件 になる ( Ta f a r o di& Swa nn,1 996) 。By r ne( 2 0 01 )によれば,ステ ップ 4以上の誤 差分散共分散が同等であることは比較的重要ではな く,ステ ップ 3までのモデルが受容で きれ ば,尺度の不変性 は保持 された もの と見なす ことがで きるので,本研究では因子間共分散だけ でな く,二因子の分散が等 しい とい う仮説 をも含めたモデルが想定で きるかを検証 した。 多母集団同時分析 を行 う準備 として,まず基準 となるモデルを日米 グループ別 に用意する必 要がある。 この基準モデルは,倹約性 と実質的な意味か ら判断 してデータに最 も適合 したもの By r ne ,2 001 ) 。 3- 2ですでに日米グループそれぞれのモデルの問題 でなければならない ( 点 を指摘 し,修正 を施 したので,それ らのモデルを基準モデルとした。すなわち, 日本人グル ープの基準モデルは項 目 4を削除 し,項 目 1-項 目1 5,項 目1 9 -項 目2 0,項 目 2-項 目1 6,項 9 目 6-項 目 9の誤差相関を認めるモデルであ り,アメリカ人グループの基準モデルは項 目1 項 目2 0,項 目 6- 項 目 7,項 目 7-項 目 9,項 目 9-項 目1 4の誤差相関を認める ものである。 次にこれ らの基準モデルを比較検討 して,多母集団同時分析 に使用する日米共通の基準モデ ルを設定 した。 まず 日本人グループの基準モデルで除外 された項 目 4を削除 し, 日米両方の基 準モデルで共通の項 目1 9 -項 目2 0に誤差相関 を認めたモデルを同時分析 した. このモデルでは, RMSEA はほぼ受容で きる水準 であったが,Cf ' Ⅰが基準 となる. 9 0に達 してお らず,若干の修 x2 【 3 0 0,N -4 8 8 】 -7 2 5 . 51;x : / df -2. 4 2;CFI-. 8 8;RMSEA-, 0 5 4) o 正 が必 要 で あ っ た ( 修正指数 を参考に して,特 に改善度の大 きい項 目 1-項 目1 5, 項 目 2-項 目1 6, 項 目 7-項 目 9 の誤差相関 を認めて再度分析 を行 った結果,適合度指標 は受容 で きる水準 に改善 された ( x2 8 8 ] -6 2 6. 41;x 2 / df -2, 1 3;CF1 -. 9 1;RMSEA-. 0 4 8) 。 このモ デル を基準 モデ [ 2 9 4,N-4 ル として, 日米間で測定不変 と因子の分散共分散が等 しいモデルを想定で きるか検証 した。 検証手順 は,因子か ら項 目 ( 観測変数)へのパスに同値制約 を課 し,同値制約 を課 さないモ 値が有意 に変化 ( △x 2 ) したか どうか を変化 した 自由度 ( Adf )に基づ き統 デルと比較 して x2 計的に検討するとい うものである。x2 値が有意に変化 していれば,パスは同等ではない ことに なるので, どのパスが同等でないのかを突 き止めるため,同値制約 をパスに 1つずつ課 しなが ら,x2 値の検討 を繰 り返す。 それぞれの因子 と最初の観測変数 ( 項 目 1と項 目 2) とのパスを 1に固定 し,その他のパス 因子パター ンが 日米間で全て等 しい と仮定 したモデル) を基準 に同値制約 を課 したモデル 1 ( モデル と比較 した結果 , 2つのモデルの差 は有意であ り, このモデルは採用で きない ( 表 3を 参照)。因子負荷量 ( パス)を一つずつ同値 に固定 して, 日米 間で異 なる項 目を突 き止めた結 莱,項 目 1, 7,l l,1 4,1 7に有意差が検出 された。これ らの項 目の扱 いについては, 日米被 x2 調査者間で有意差が認め られたのだか ら,尺度か ら全 て除外す るとい う考 え方 もあるが ,A 1 90 天 理 大 学 学 報 検定 も通常の x2 検定 と同様 にサ ンプル数 に敏感す ぎるため に実用性,現実性 に欠 ける といっ Byr ne, 2006),CFIや RMSEA なども参考 に しなが ら統計学的見地か らだけ た批判 もあ り ( Far ug r ia, Che g n, でな く,実用的,理論的な視点 も加味すべ きだ と主張す る研究者 もいる ( Gr e e nbe r ge r,Dmi t r i e va,& Mac e k,2004;Suz uki& Ran° e r ,1 994) 。有意差が検出された これ らの項 目は因子負荷量 ,I T相関 とも十分 に大 きく信頼性 の高い項 目であるため,Ax2 検 定の結果のみで全ての項 目を除外するとい うや り方はやや思慮 に欠ける し,理論的にも無理が あるD表 3に示 されているように・その有意差 は一様 ではな く,項 目 7と項 E ulの Ax2 は比較 4,1 7のみ尺度か ら除外するという判断を 的小 さいので, この 2項 目は尺度 に残 し,項 目 1,1 6項 目 (自己有能性 7項 目, 自己好意性 9項 目,項 目 1-項 目1 5の誤差項 目相関は し,残 った1 項 目 1が尺度か ら外れたことに伴い削除)の因子負荷量 に同値制約 を課 した ものをモデル 3と した。 表 3 :各モデルの適合度テス ト 冒 ) 9 6 2 6 準モデル( 項 目4を除外 した1 .4 1 64 2 . 9 8 約 デル デ解ル除 1 2 ) ( ( 因子負荷量を全て固定) 項 目 1,7, l l , 1 4, 1 7の 6 9 7 8 1 . 9 1 . 0 4 8 NS . 9 1 8 9 1 p<. 0 01 . 9 0 . . 0 5 1 2 9 4 7 1 . 3 8 1 7 p<. 0 1 1 6. 56 1 4. 31 1 2 目1 6 4 8. 4 6 3 0 6 1 1 2 9 5 目1 1 目1 4 6 4 2. 9 8 6 4 6. 9 3 2 9 5 2 9 5 8. 8 6 1 2. 8 0 目7 6 3 8. 8 6 2 9 5 4. 7 3 0 4 8 . 0 5 2 1 p=. 0 0 3 1 p<. 0 01 J l.052 1 p-. 0 3 0 . 9 0 このモデル 3に課 した等値制約 に加 えて, 自己有能性 と自己好意性の二因子の分散 と二因子 値 に有意 な変化 は示 さな 間の共分散 に同値制約 を課 したモデル 4は,モデル 3との比較で x2 項 目 3, 5,1 0,1 5,1 7,1 9,20) と自己好意性 9項 かった。すなわち,自己有能性 7項 目 ( 2,1 3,1 6,1 8)か ら構成 されるモデル 4は, 日米被調査者間 目 ( 項 目 2, 6, 7, 8, 9,1 で測定不変モデルと見 なす ことがで き,これは計量的等価性 を主張するための重要な根拠 にな りうる ものである。 7項 目で構成 される自己有能性尺度の α係数 は, 日本人データでは. 7 7, 8 0であ り, 9項 目の 自己好意性尺度 の α係数 は 日本人デー タでは. 87, アメリカ人データでは. アメリカ人デー タでは, 8 8だった。 3- 5 項 目反応理論 による特異項 目機能 ( Di ferent i lI a t en Funct i oni ng:DI F)分析 DI F) とは,異 なったグループに属 している同等の特性 を有す る個人が,そ 特異項 目機能 ( の特性 を測定す る項 目に異なった反応 をす る傾向である ( De Ve l l i s ,2003)。元来 は,特定 の グループに不利益 に働 くテス ト問題の項 目を検出す る目的で研究 されていたので,項 目バイア 自己有能性 ・自己好意性の日米文化比較 1 91 ス と呼ばれていたが,最近ではテス ト問題 に限 らず・比較文化研究 など様 々なコンテクス トで 「ぁる項 目が異なる機能 を果た していることを検出する」必要性が認識 され・より中立的な意 味合いを持つ特異項 目機能 という術語が使用 されている ( 渡辺 ・野l コ,1 9 9 9) o DI Fが生 じている項 目はグループ間で異 なった事象 を測定 していることを意味す るので, DI Fが生 じているか どうかを確認することは計量的等価性 を確保す る上で重要であるoす な ゎち, 2つのグループを直接比較するには両 グループに対 し測定尺度が同等 に機能 し,観察 さ れた差が特定の属性 によってのみ起因 しているとい う計量的等価性が想定で きなければな らな いのである。項 目反応理論 は,調査対象のグループに依存 しない独立 した 「ものさし」 を提供 Fの分析 に優れてお り ( De Ve l l i s ,2003),この理論 を使 ったさまざまな DI F分 す るので,DI ( 1 ) 析法が提案 されている。 項 目反応理論 とは,テス ト項 目に対する被調査者の反応 と潜在特性 との関係 を表す確率的関 数モデルを仮定 し,項 目-の反応パ ターンによってその項 目が測定する被調査者の潜在特性 を 推定 しようとする理論である。反応パ ターンと被調査者が有する潜在的特性の関係 は項 目特性 曲線で表 される。項 目特性 曲線は,質問項 目で測定 された特性の関数 としての応答確率 を表 し た もので,S字形 を想定 した単調増加関数 になっている。 この関数モデルは扱 うパ ラメータの F分析 を行 う目的は, 自己有能性 ・自己好意性の程度が異 数 によって異 なるが,本研究で DI なる個人 ( 能力パラメー タ)が各項 目 ( 項 目困難度)に反応するパ ターンが 日米間で異なって Ras c h い るか を検 討す る こ となので,項 目困難度パ ラメー タのみ を扱 うラ ッシュモデル ( F分析 を行 った。 Mo de l ) を用いて DI 各項 目の DI F分析は,ラッシュモデル用のプログラムである Wi ns t eps ( Li nac r e, 2006) を使用 して行 った。Wi ns t e psでは,以下の手続 きで DI F分析 を行 うためのパ ラメータを推定 す る。 ① 対象 グループ (1, 2)全体 について潜在特性尺度値 ( 能力値)β と評定尺度値 を算出 す る。 ( ヨ ステップ①で算 出された潜在特性尺度 β と評定尺度値 を使 って グループ 1の項 目パ ラ メー タ bl を算出する。 ③ ステ ップ@) で算 出された潜在特性尺度 0 と評定尺度値 を使 って グループ 2の項 E ]パ ラ メータ bZ を算出する。 ④ グループ 1とグループ 2の項 目困難度値 bを項 目ごとに tテス トで検定する. す なわ ち,最初 に全体 の潜在特性尺度値 ( 能力値) を決定 し,次 にグループ間で能力値 O を共通化するように項 目困難度パ ラメータを等化 したのちに,グループ間の項 目パ ラメー タを Fが生 じているか どうか を検討するのであるo検定 される t値 は以下の公式 で算 比較 して DI 出 される。 ∂ 1 -∂ 2 この公式で,bl と b2はそれぞれ グループ 1, 2の項 目困難度 を表 し,SEl と SE2はそれぞれ グループ 1とグループ 2の標準誤差 を表 している。 しば しば利用 される Lo r d( 1 9 8 0)の方法 は,最初のステ ップで潜在特性尺度値 ( 能力値) 1 92 天 理 大 学 学 報 βではな く,項 目困難度パ ラメー タ bで標準化 している点が異なっている。いずれ に して も, この方法 は,DI Fが生 じていなけれ ば・2つの グループの ラ ッシュモデルの b値 は等 しくな る とい う前提 に基づいている。 Wi ns t e psでは,DI F検定の有意確率 ( p値) に加 えてマ ンテル ・ヘ ンツェル検定 ( Ma nt e 1 H 検定 は,項 目反応理論 ではな く Hae ns z e lt e s t:MH 検定) による p値 も出力 される。MI F分析法 で,2つの集 団の項 目特性 曲線が 0上のあ る地点で交差す クロス集計 を利用 した DI るような不均 一 DI F( no nuni f o r m DI F)の検証 はで きない とい う欠点 はあ る ( Ro ge , S & Swa mi na t ha n, 1 993)が, 1つの集団が一貫 して もう 1つの集団 よ りも正答確率が高い ( 能 F( uni f o r m DI F) を検 出す るための統計手法 としては非常 力値が高い)場合の ような均 一 DI Hua ng,Chur c h,& Ka t i gba k,1 997) 0 D I Fを検出す る方法 はいろいろ提案 さ に優 れている ( れているが,検定法 ごとに結果が異なるとい う問題点があ り,複数の検定法 を併用すべ きとい 9 9 9) もあるので,本研究では MH 検定の結果 も参考 に した。 う意見 ( 渡辺 ・野 口,1 Li na c r e( 2 0 0 6)が指摘 しているように,Wi ns t e psが出力す る t値はペ アごとの多重比較 の Bo nf e r r o ni )補正 を行 って,α 結果 なので, タイプ Ⅰエ ラーを回避す るためボ ンフェロー こ ( 値 は通常 の・ 0 5で はな く・ 0 0 0 2 5( 0 5 / 2 0 )に設定 した。 さ らに,Wi ns t ep sが 出力 す る b値 推 ( 2 ). 定後の識別力指数 も参考 に した。 DI F分析 を行 う前 に, 5件法 の リッカー ト尺度 か ら得 られたデー タを 2倍反応 デ ー タに変 F分析 のほ うが多値応答 の方法 よ りも歴史が 換 した 。 その理 由は,2値反応項 目に基づ くDI 長 く理論 も確立 されている ( Hua nge ta 1 . ,1 997,p. 1 98)だけでな く,推定す るパ ラメー タ数 Embr e t s o n & Re i s e, が多い とパ ラメー タ推定の誤差が大 き くなる可能性があ るか らである ( 2000;Ha mbl e t o n,Swa mi na t ha n,& Ro ge r s ,1 991 ) 0 5件法の回答 を 2分す る手続 きは, Hua nge tal .( 1 9 9 7 ) に準 じた。 リッカー ト尺度 の 1, 2は 0に, 4, 5は 1に変換 し,中立 を表す 3については,肯定的な基調 の項 目の場合 は 0に,否定的な基調の項 目に対 しては 1に 変換 した。 表 4で示 した とお り,項 目 8,1 0,1 4が t検定 ,MH 検定 いずれの結 果 も有 意 であ り, こ Fが生 じてい る可能性が高 い ことを示 した。つ ま り,同等 の 自己有 能性,あ れ らの項 目に DI るいは 自己好意性 を有 している 日本人 とアメ リカ人の間で, これ らの項 目の反応が統計 的に有 4は識別 力指 数 もラ ッシュモデルが想定 す る 意 に異 なっていることを示 してい る。項 目 8と1 1 . 0 0よ りも著 し く低 く,識別力指 数 が低 い項 目は DI F を生 じさせ やす い ようだ。項 目1 0は 「自分 は有能な人間だ と思 う」 とい う項 目であ り, 自己の有能 さに対す る とらえ方が 日米で異 . 41と理論的平均値 0よ り なることを示唆 している。 この項 目の困難度 は, 日本人被調査者が1 もはるか に大 きい値であ り,同意す ることがかな り難 しい と考 えているのに対 し,アメリカ人 4 「自分 自身をあ ま り大切 に していない」 はいず 項 目 8 「自分の長所 を重視 している」 と項 目1 れ も自己好意性 の指標で,これ らの項 目については同等 な自己好意性の高 さを有す る 日本人 と アメリカ人 を比べ た場合,前者 は後者 に比べ て非常 にこの項 目に同意 しやすい と考 えているこ とがわかる。 193 自己有能性 ・自己好意性の日米文化比較 F分析 表 4:日米硬調査者の DI 「丁 b j SEj ba 項目 自己有能性 1( SC1) 項目 3( SC2) 項目4( SC3) 項目 5( SC4) 項目1 0( SC5) 項目1 1( SC6) 項目1 5( SC7) 項目1 7( SC8) 項目1 9( SC9) . 4 2 -. 5 6 . 2 8 1 . 41 1 . 41 -. 9 5 . 85 -. 91 -. 3 8 . 1 5 . 1 4 . 1 4 . 1 7 . 1 7 . 1 4 . 1 6 . 1 4 . 1 4 . 2 2 -. 8 4 1 . 4 8 1 . 1 3 . ( 氾 -1 . 0 3 1 . 2 9 一. 67 -. 8 4 . 2 3 . 3 0 . 2 0 . 2 0 . 2 4 . 3 2 . 2 0 . 2 8 . 3 0 . 7 4 . 85 -4. 9 4 1ー 0 6 4. 7 7 . 2 3 -1 . 7 2 -. 7 5 1 . 3 8 . 2 9 0 . 0 0 0' . 8 2 0 . 0 8 6 . 451 .1 67 項目 自己好意性 2 2( 0( SLl C1 0 ) 項目6( SL2) 項目 7( SL3) 項目8( SL4) 項目9( SL5) 項目1 2( SL6) 項目1 3( SL7) 項目1 4( SL8) 項目1 6( SL9) 8 2 -1 . 4 9 -. 3 3 . 1 3 . 0 9 -. 6 3 1 . 5 8 . 7 4 -2. 7 8 1 . 0 5 6 . 1 5 . 1 5 . 1 5 . 1 5 . 1 5 . 1 8 . 1 6 . 2 0 . 1 6 . 9 -. 8 4 -1 . 3 6 -. 51 1 . 9 2 一. 3 9 1 . 1 2 . 0 8 -. 5 8 . 1 9 2 2 . 3 0 . 3 0 . 2 6 . 21 . 25 . 21 . 2 3 . 2 6 . 2 3 -. 2 5 1 . 9 3. 05 2. 1 7 -7. 05 -. 85 1 . 6 8 2. 3 3 -6. 7 2 3. 0 4 8 3 . 00 52 . ( 刀2 . 0 3 0 . 0 0 0' . 3 9 6 . 0 9 4 . 0 2 0 . 0 0 0' . 0 0 3 項 目 盲 P . 45 9 . 3 9 3 .00O' MI J p 識別力指数 . 45 5 .0 06 . 0 6 4 . 9 8 5 . 0 0 0' . 5 7 4 . 0 0 9 . 69 5 . 0 8 3 4 6 7 . 0 8 2 . C K ) 0書 . 04 . 0 0 0. . 35 2 . 1 0 3 .1 7 8 1 . 2 2 . 7 6 . 3 0 1 . 1 2 1 . 3 5 1 . 1 3 1 . 0 6 1 . 0 6 1,07 1 1 5 . 9 4 1.00 . 0 ( カ' . 8 7 . 4 9 1 . 05 1 .0 2 1 . 3 4 . 6 0 . 07 2 1 . 3 6 註 :b1 -日本人の項目困難度,SEE -日本人項目困難度の標準誤差,b2-アメリカ人の項 目困難度, SE2-アメリカ人項目困難度の標準誤差,MHp-マンテル ・ヘンツェn/ 検定値,p * <. 0 0 0 2 5. 項 目 4は確定的因子分析や Ⅰ T相関で も問題があった項 目であ り,予想通 り有意であったが, MH検定では有意差 は見つか らなかった。その理 由 として は, この項 目に不均 一 DI Fが生 じ Fは項 目困難度 のみ に差がある場合 てい る可能性が考 え られる。項 目反応理論で は,均 一DI DI Fは項 目識別力 に差がある場合 を表す ( Cl aus er&Maz o r ,1988)。実際, を指 し,不均 一 33に対 してアメリカ人が 1. 02と大 き く異 なって 日米 デー タ別の推定識別力指数 は, 日本 人が0. Fが生 じていることを示唆 した。 お り,不均 一 DI DI F分析 で計量的等価性が疑 問視 された項 目 4, 8,1 0,1 4の推 定識 別力指数 をみ る と, . 0 0か ら大 きく逸脱 してお り, ラッシュモデルに適合 してい すべ てラ ッシュモデルが想定す る1 ない可能性 を示唆 しているため,識別力パ ラメー タも推定す る 2パ ラメー タロジステ ィックモ F分析 をや り直 し,同様 の結果が出るか検討す る必要がある。 デルで DI 4.考 察 本稿の 目的は, 日本人 とア メリカ人か ら得 られたデータをもとに, 自己有能性 ・自己好意性 SLCS) の計量的等価性 を確認す るこ とであった。 この目的 を達成す るため,確認的因 尺度 ( 子分析,項 目分析 ( 内的整合性分析),多母集団同時分析 に よる因子不変性の検討,特異項 目 DI F)分析 を行 った.SLCSは, これ ら一連の分析 を通 して 日米間で計量的等価性 の条 機能 ( 1 94 天 理 大 学 学 報 件 をほぼ満た していることが明 らかになったが,同等ではない と考えられる項 目も一部検出 さ , 問題有 り」 とされた項 目が 「 問題 な し」 れたo尺度項 目の計量的等価性 の扱いについては 「 , と証明 されるまで 「 問題有 り」 と考 えることもで きる し 「問題有 り」 と証明 されるまで 「 問 題 な し」 と考えることもで きる。いずれの立場 を取 るかは,SLCSが どのような判断や決定 に 使用 され るか とい う点 にも関連 して くるだろ う。前述の ように,DI Fについては,検定法 ご とに結果が異 なるとい う問題点があることも踏 まえたうえで, 日米被調査者間で統計上の有意 差が検出 された項 目 1, 4, 8,1 0,1 4,1 7が計量的等価性 を満た していない可能性があると 判断 し,翻訳上の問題点お よび比較文化的視点か ら考察する 。 項 目4は,因子負荷量 ( . 1 6) とⅠ T相関 ( . 1 2)が著 しく低 く,DI F分析で も日米被調査者 T相関は,共に項 目と因子 の関連性 間の項 目困難度 に大 きな差が検出 された。因子負荷量 と Ⅰ を示す数値であるとい う点で類似 してお り,項 目反応理論 では,識別力指数 に相当す る概念 ( Re i s e,Wi dama n,& Pugh,1 993)なので,推定識別度指数が. 3 0と低かったのも当然の結 果 と言えよう。 この項 目と因子の関連性が 日本人のデー タのみ低 く,アメリカ人のデータでは 十分 な関連性を有 していることか ら,概念が同一ではないことを示唆 してお り,翻訳上の問題 が考 えられる。 この項 目の 日本語訳は 「これまで ( の人生)は順調 にやってこられた」であ り, オリジナルは, " Ihavedo newe l li nl i f es of ar . "であった。 ここで " l i f e" と " ha vedo ne , 順調 にやってこられた」 と翻訳 されていることに注 目 したい。 we l l " という語句 を 「人生」 「 l i f eとい う語を忠実 に訳す とこの ような日本文 にな り, 日本語 ではこの英文で使われている 1 i f eのニュアンスを上手 く伝 える適当な語句が見あた らないので,あえてカ ツコに入 れたO被 調査者は大学生であ り人生経験が まだ乏 しいため,人生 とい う語が重 く受け止め られた可能性 がある。 しか しそれ よりも大 きな問蓮 は … havedo newe l l "を 「 順調 にや ってこられた」 と訳 したことか もしれない。「 順調 にや って こられた」 とい うと, 自己の能力 としての有能性 とい うよ りも, 自分の周 りにいる家族,友人などの 「内集団のおかげで」 とい うニュアンスが入 り 込み, 自己の有能性 とは異 なった概念 として認識 された可能性があ る。 この項 目を英文通 り , 「うまくやってこられた」 として しまうと 「 世渡 り上手 -要領の良い人」 とい った否定的意 味合いも含んで しまうため,あえてより中立的な 「 順調 に」 という語句 を使 ったが, これが逆 効果 になった可能性 も否定で きないので,この項 目は 「これ まではうまくやってこられた」 と 修正 し,否定的に判断するか どうかは被調査者 に委ねた方が よい と思われる。このように修正 して も因子負荷量や Ⅰ T相関で同様 な関連性 しか示 さないのであれば,尺度か ら取 り除 くこと も選択肢の 1つ になるだろう。 項 目1 「 多様 な能力があ り,大いなる可能性 を秘めている ( " Owi ng t o my c apabi l i t y,I 」 と項 目1 7 「自分 は あ ま り有 能 で は な い ( " I am no t ve r y have muc h po t e nt i al . " ) C o mpe t e nt . " )逆転項 目」の 2項 目については, 日米デー タ間で因子負荷量 に有意差が見つか った。Ⅰ 一 丁相関で も, 日本人の方がアメリカ人よりもこの項 目が 自己有能性 を説明する程度が 高い と判断 している。 この結果は, 自己有能性 の概念が 日米間で微妙 に異 なる可能性 を示唆 し ている。すなわち, 日本 人の考 える有能性 とは,現在の自己が非常 に有能であると認識すると , いうよりも 「 現状 に満足せず 自己の将来的可能性 を信 じて努力する ( 項目1 ) 」 といった側面 や 「 有能 とは言 えない まで も有能でない ( 無能である) ことはない ( 項 目1 7) 」 といった側面 s hi( 2 0 0 6)はアメリ が強調 されることを示 している。項 目 1に見 られる特徴 に関連 して,Oi カ人 と中国人の幸福感 に関す る比較文化研究で,過去の業績や現状-の満足度を示す項 目に米 Fが生 じた と報告 してお り, 自己向上 を重視す る社会では,過去の業 中デー タ間で大 きな DI 自己有能性 ・自己好意性の日米文化比較 1 95 接 は幸福感 をもたらさず,すでに達成 された水準 は,常 に新 しくより高い水準 に引 き上げ られ るのでないか と推論 している。Oi s hiのい う自己向上 を重視す る社会 とは・中国や 日本 な どの Ma r kus& K it a ya ma,1 991)が優勢な社会 を指す ことか ら・項 目 1につ 相互強調的 自己観 ( いて も同様 な解釈が可能だと考 えられる。 項 目1 7に見 られる 日本人被調査者の反応 は,他者か ら期待 され ることは一応 で きる とい う 「ほ どほ ど感」や 「 人並 み感」が 反映 され て い る と解 釈 す る こ とが で きる。北 山 ・唐 揮 ( 1 9 9 5)は, 「日本文化では, 自己批判的になることによ り,自らの欠点,短所,問題 な どを 見つけだ し,絶 え間ない 日常的努力 により, これを矯正するとい う自己向上のプロセスが文化 的 に広 く共有 され ( p. 1 40) 」てお り,この ような自己向上的な行動パ ター ンは最低 限他者か らの期待 には応 えられるように したい という人並み感が根底 にあ り,これは 「 欧米人が自己の 望 ましい属性 ( 能力,才能) を肯定 的に評価 しようと動機づ け られてい る ( p. 1 4 0) 」の とは 対照的だと指摘 している。 これ と同様のパ ター ンが,項 目11「自分は自慢で きるところがあま りない」で も見 られる 。 項 目 1,1 7 が間接 的に自己有能感 を問 うているの とは異な り,項 目1 0は自己の 「 有能 さ」 を 直接問 うているoこの項 目のアメリカ人被調査者の尖度 は高 く,平均値 も中心点 よりもかな り 高い評価 になっていた。DI F分析で も日米間で有意差が見つか ってお り,同 じ自己有能性 を 有する 日本人 とアメ リカ人を比較 した場合, この項 目に同意するのはアメリカ人の方がはるか に多 く,自分が有能であると認めることを日本人ははるかに困難 だと感 じている。この結果は, これ までの多 くの研究者が指摘 して きた自己高揚傾向の強いアメリカ人, 自己批判傾 向の強い 日本人 とい う構図を改めて示 した格好 になっている。 自己有能性尺度では 4項削 こついて日米被調査者間で有意差が検出されたが,自己好意性で 4 「自分 自身をあ まり大切 にしていない ( 逆転 は項 目 8 「自分の長所 を重視 している」 と項 目1 項 目) 」の 2項 目のみであった。項 目 8と項 目1 4で共通す るのは,同等の 自己好意性 を有 して いる場合, 日本人の方がアメリカ人 よりもこれ らの項 目に同意す ることが容易い と回答 した点 であ り, 自己好意性の概念が 日米間で幾分異 なる可能性 を示唆 している。文化相反仮説が主張 するように,自己好意性 とは他者か らの自己に対する評価であ り,集団主義的文化では他者か らの評価が重要で,評価懸念意識が強いのに対 し,個人主義的文化では他者か らの自己に対す る評価 よ りも自己有能感 を得 ることが重要で,そのために評価懸念意識が抑制 されるのであれ ば,自己好意性がまった く同等 な概念であるとは考 えづ らい。項 目1 4については,因子負荷量 T相関で も,自己好意性 を説明す る程度が 日本 人 よりもアメリカ人 に強 く,「自己を大切 やⅠ にす る」 ことが 自己好意性 には重要だと考 えるアメリカ人が多いことを示 している。項 目1 4に ついては,共分散分析 とDI F分析 の両方で 日米文化差が検 出されていることか ら,尺度か ら 削除することを検討 して もよい項 目だ と考 えられる。 以上,本研究の検討結果か ら計量的等価性 を満た していない可能性があると判断 した 6項 目 についてその考 えられる理由を翻訳,比較文化の視点か ら考察 した。次 にこれ らの計量的等価 性 を満た していない可能性のある項 目の扱い方について論 じてお きたい。すでに述べた ように, 計量 的等個性 の扱 い については,これ らすべ ての項 目を尺度 か ら削除す る とい う考 え方か ら, 1度のみの研究結果で判断す るのではな く,同 じ問題が繰 り返 し検出 されて明 らかに計量 的に同等でない と証明 されてから行われるべ きという考 え方 まであ り,測定 された結果が どの ような判断や決定に使用 されるか とい う点に大 きく関わっている。厳密 さを要求 されるのであ れば前者のような判断になるだろ うが ,SLCSは確固たる理論 に裏打 ちされてお り, 1つの研 196 天 理 大 学 学 報 究結 果 で尺 度 の 内容 が 変 わ る よ うな もの で は ない とい う立 場 に立 て ば, 後 者 に近 い もの にな る だ ろ う。 F分析 の結 果 につ い て は, 共分 散 構 造 分 析 に基 づ い た確 認 的 因子 分 析 や 多母 集 団 同 特 に DI 時 分析 な ど と比 較 す る と研 究が 少 な く, 開発 途 上 とい った感 が あ る。検 出法 に よって結 果 が異 な る とい う問題 も指 摘 され て い る こ とか ら,DI F分 析 の結 果 の み を もっ て尺 度 か ら問 題 項 目 Fが生 じて い る と判 断 され た項 目の識 別 力 はす を除外 す る とい うの は早計 で あ ろ う。今 回 DI べ て想 定値 1 ・ 0か ら逸 脱 してお り, これ は ラ ッシ ュモ デ ル に適 合 して い な い可 能性 を示 唆 す る もので あ るか ら, 2パ ラメー タモ デ ル に よる DI F分 析 で 同様 な結 果 が得 られ る まで は判 断 を 留 保 す べ きで あ り,少 な くと も DI F分析 の み で 問題 が検 出 され た項 目 8と10につ い て は そ う す るべ きで あ ろ うO 最後 に,本研 究 の限界 につ い て触 れ てお きた い。今 回の研 究 で は,厳 密 なバ ック トラ ンス レ ー シ ョンを行 わ なか っ たO ハ ック トラ ンス レー シ ョンを行 えば翻訳 等価性 が確 保 で きる とい う 9 94)が ,項 目 4の ような翻訳 上 の 問題 を防 げ た可 能性 が あ る。す で に もの で は ない ( 岩 脇 ,1 述べ た こ とだが , 今 回 の研 究 はサ ンプ ル数 に限 りが あ った ので ,推定 パ ラメー タを減 らす ため にデ ー タを 2値 反 応 デ ー タに変 換 して行 っ た上 で ラ ッシ ュモ デ ル に基 づ く DI F分析 を行 った が ,識 別力 が一定 とは想 定 で きな い項 目 も検 出 され たo Lたが って ,今後 の研 究 で は十分 な被 調 査 者 数 を確 保 し,項 目の識 別 力 を表 す aパ ラ メ ー タ をモ デ ル に取 り込 み , 2値 反 応 デ ー タ で は な く,多値 反応 モ デ ル を使 った分 析 が必 要 にな る だろ う。 注 (1) DI Fの方法 については,Embr e t s o n& Rei s e( 2 0∩)や Ha mbl e t o ne tal .( 1 9 91 ) を参照。 (2) Wi ns t e psはラ ッシュモデル用のプログラムであるため,項 目反応理論 を扱 う他のプログラム b)と識別力パ ラメータ( a)とい う 2つのパ ラメータ推定 を目的 の ように項 目困難度パ ラメー タ( ns t e psで出力 される識別力指数 とは,項 目困難度パ ラ としたモデルを扱 うことはで きない。Wi b)を推定 した後 に,識別力パ ラ メー タ( a)が ラ ッシュモ デルの想 定す る1. 0か らどの程 メー タ( 度逸脱 しているか を示す もので,逸脱 している程度が大 きければ, ラッシュモデルに適合 して いない ことを示す ( Li nac r e,2006)0 参考文献 」『社会心理学研究』10,1801189. 1 9 9 4)「 異文化 間研究の方法論 に関す る考察 岩脇三良 ( 狩野 裕 ( 1 9 9 7)『グラフ ィカル多変量解析』硯代数学社 . 」『実験社会心理学研究』35,133-163. 1 9 9 5 )「自己 :文化心理学的視座 北山 忍 ・唐揮真弓 ( 北山 忍 ( 1 9 9 8 )「欧米 における自己高揚 と日本 にお ける 自己批 判-成功 と失敗 の帰属 を中心 に-」 『自己 と感情 :文化心理学 による問いかけ』共立出版 pp. 1 0 3 -1 37. 」『心理 学評 北 山忍 ・高木活人 ・松本寿弥 ( 1 9 95) . 「成功 と失敗 の原 因 :日本 的 自己の文 化心理 学 8,2 47 -2 8 0. 論 』3 高井次郎 ( 1 9 9 9)「「日本 人 ら しさ」 を確認で きない比較文化研究」島根 国士 ・寺 田元 一 ( 宿)『 国際文 化学への招待 :衝突する文化,共生する文化』新評論 1 01 -1 2 2. 豊 田秀樹 ( 20 3) 『 共分散構造分析 [ 疑問編]一 構造方程式モデ リング』朝倉書店. 1 9 9 9)『 組織心理測定論 :項 目反応理論の フロンテ ィア』 白桃書房. 渡辺直登 ・野 口裕之 ( nd A ic r h,D.( 1 988) . 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