旭川を読もう ― 小路幸也 一般人文科教授 石本 裕之 「旭川を読もう」と題し、今日は、依頼字数を少し超えて、小路幸也の話をしよう。 小路幸也(しょうじ・ゆきや)。1961 年生まれ。旭川市出身、江別市在住。すでに多くの 作品をものしている売れっ子作家は、かつての旭川高専生だ。 『東京公園』が 2011 年に映画化された。全体に静かなトーンの、いい映画だった。代表 作には『東京バンドワゴン』シリーズがある。東京下町にある、明治期創業の古本屋・堀 田家をめぐる事件簿的悲喜劇。2013 年テレビドラマが放映されて、小路幸也の名は一気に 全国に広がった。頑固翁店主の、いい歳をしたドラ息子・堀田我南人(ほった・がなと) を、旭川市出身の玉置浩二が演じていた。 「堀田」と言えば、これは三浦綾子さん(1922―1999)の旧姓。2年前の平成 26(2014) 年はデビュー作『氷点』の 50 周年で、旭川市内や道内を中心に各種記念行事・事業が実施 された。綾子作品の人気ランキングでは、『塩狩峠』『氷点』『道ありき』が3傑と聞く。平 成 28(2016)年は、 『塩狩峠』50 周年だ。 「他人の犠牲になんてなりたかない、誰だってそ うさ――そうだろうか、本当に?」 。今年、鉄道職員・永野信夫に出会ってみてほしい。 先輩の話に戻ろう。小路作品には淡い清涼感がある。 二十歳前後の読者に勧めたいのは、 『ダウンタウン』。河出文庫で読める。70 年代終わり 頃の旭川を舞台に、若者が街の喫茶店で出会った人々と織りなす青春物語。ほろ苦い季節。 遡って、デビュー作の紹介。『空を見上げる古い歌を口ずさむ pulp-town fiction』。英題 のとおり、旭川市「パルプ町」(そこは作者の「ふるさと」でもある)が舞台だ。今、手元 にあるのは、講談社 2003 年初版本。作者の直筆署名がある。23 頁を引用する。 そう。カタカナの名前の町。/それ自体には何の意味もないし、これから話す事にも 関係ないんだけどずっと気になっていてね。//パルプ町というのが、町名だった。 そう、冗談じゃなく本当にそういう名前の町だったんですよ。 ―『空を見上げる古い歌を口ずさむ pulp-town fiction』「カタカナの町」 何年か前、旭川市中央図書館で講演会が催された。その時、彼は故郷旭川にふれてこん なことを話していた。「待っているだけではダメです」。「札幌は“S”席で、旭川はどうせ “A”席だ、なんていう根性がいけません。『文化を支える』という矜持はむしろ地方にこ そ必要。気骨ある人が減っては悲しい」と。 小路幸也は高潔だ。
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