クロスジャンルコラボレーションについて

現代美術(ヤノベケンジ個展)
× 映 画(林海象監督作品『BOLT』)
クロスジャンル コラボレーションについて
ヤノベケンジ(現代美術家)
永瀬正敏(映画『BOLT』主演)
林海象(映画監督)
「美術はヤノベさんに造ってもらいたいんだよね。
」
きっかけは、映画監督の林海象のひと言からだった。
東日本大震災に衝撃を受け、林の頭の中には、地震でボルトが緩み落ちてくる発電所内の映像と、
絶望的状況の中でそれを閉めに行かなければならない男たちのイメージで溢れていた。
いつかこのイメージを映画にしたい―。
それが 2014 年末に撮影し、スウェーデンのベステルオース映画祭で“最優秀撮影賞“を受賞した
短編映画『GOOD YEAR』と、それに続き撮影した『LIFE』と合わせた三部作として具現化する
ことになる。タイトルは、そのものずばり『BOLT』だ。
林は、2012 年に撮影した映画『彌勒 MIROKU』を、劇場や美術館、プラネタリウムなどで生オ
ーケストラとともに上映するなど、既存の映画の枠組みを超えた取り組みに、映画の今後の活路
を見出そうとしていた。冒頭のひと言は、そんな折の 2013 年、林が映画『BOLT』の構想を語っ
た時のものだ。
一方、現代美術家のヤノベケンジも、映画に対して並々ならない強い思いがあった。
そもそも、ヤノベが現代美術の世界へ入る入口となった京都市立芸術大学美術学部彫刻科の扉を
叩いたのは、映画美術の世界に対する強い憧れがきっかけだった。事実、その映画への思いから
か、ヤノベの作品の語り部となるキャラクター「トらやん」を登場させた《森の映画館》をはじ
めとする作品やドキュメンタリーなどに積極的に映像を取り入れている。また、大阪万博閉幕後
の茨木市に育ち、取り壊される博覧会会場で目にした「未来の廃墟」を原風景に、25 年以上にわ
たって制作してきた大型機械彫刻などの作品群は、空間に設置されることで常に現実を映画のよ
うに変容させてきた。また、それらの足跡を振り返ってみると、まるで時代というシナリオライ
ターに導かれるかのように、
「虚構」と「現実」が共鳴し合いながらストーリーが紡がれており、
映画そのもののようでもある。
かくして、林からその構想を聞いた時、ヤノベの頭の中で明確なヴィジョンが動きだす。その舞
台は高松市美術館だ。初期の作品から現在までを俯瞰するヤノベの大規模個展。そこにつけられ
た名前は、
「CINEMATIZE(シネマタイズ)」だ。そして、このヤノベの個展会場そのものが、映
画『BOLT』の撮影現場となる。
2016 年 5 月。ゴールデンウィークの最中、その「CINEMATIZE」の会場で上映するショートフ
ィルムの撮影が行われ、
「BOLT」の主演を務める林の 20 年来の盟友 永瀬正敏をはじめとする林
の映画チームと、ヤノベがディレクターを務める ULTRA FACTORY を中心とした制作チームが一
堂に会した。場所は、ヤノベの大型機械彫刻の作品がずらりと並ぶ、MASK(おおさか創造千島
財団メガアートストレージ北加賀屋)だ。
そして、そこで全員が経験をした。現代美術作品の中で「映画」が撮影されるという現場を。そ
れぞれのジャンルの才能がスパークする瞬間を。
撮影が終了したあとのインタビュー映像の中で永瀬と林は語る。
(永瀬)
「ヤノベさんと海象さんとの中でひとつ共通項があったということじゃないでしょうかね。そ
れで、作品をつくっていただいて、僕たちが現代アートに映画を持ち込むというか、そのコラボレー
ション。これはあんまり聞いたことないなと思うのですが。やればよいのにとずっと思っていました
けどね。映画ってよく絵が飾ってあったり写真が飾ってあったりとかするけど、そういうのもそうい
うアーティストの人たちの作品が何気なく置いてある映画とかいうのもかっこいいのになぁって思っ
ていたのですけど、今回の『BOLT』っていうのは、そのど真ん中にいるものが現代アートという凄さ
がありますよね。だから、本撮影はまだですけど、今回イメージビデオというかアートフィルムの撮
影で、ヤノベさんの世界に僕たちが入らせてもらったという感じがすごく面白かったですね。そうい
うコラボレーションが。海象さんもすごい普段よりも増して楽しそうでしたね。」
(林)
「色んな形のコラボレーションとか共同作品ってあると思うんですけど、今回は本当の「美
術」と「映画」の完全なる共同制作というか・・・死闘ですよね。これが始まっていると思いますね。
これはものすごく面白い。映画は映画である形を守ろうとするんですよね。美術は美術である形
を守ろうとするじゃないですか。で、その領域を超えた中で、お互いの面白い発想および力を出
し合って。これは映画なのか美術なのか。美術なのか映画なのか。また、今回永瀬正敏さんとい
う素晴らしい俳優さんに来ていただいて、そこに演技のリアリティというのがすごい立ちました
から、なんかものすごく揺れ動く・・・今回地震があった後の話なんですけど、地震のような状態に
今なっていると思います。だけど物を造るってこういうことだと思うんですけど。」
今回撮影された画像・映像は、6 月中旬頃に展覧会「CINEMATIZE」のチラシ・ポスター・プロ
モーションビデオとして、また展覧会会期中に会場内で上映される映像としてお目見えする予定
だが、いずれにしても、これらのものはあくまでもプロローグにすぎない。
本番は、真夏の高松だ。時代がヤノベに描かせてきた「虚構」と「現実」の軌跡の中で、繰り広
げられる現在の「虚構」と「現実」
。一般公開されるというその撮影現場を目撃する来場者も、時
代が描くシナリオの一部となるに違いない。
撮影後インタビューに答える永瀬正敏。
「CINEMATIZE」の会場には、今回の撮影現場でインスパイアされた
写真家 永瀬の作品も埋め込まれる。
-今回のクロスジャンル コラボレーションに関するお問合せ-
京都造形芸術大学 広報室 TEL: 075-791-9112