柳田 伸太郎 - Graduate School of Mathematics, Nagoya University

柳田 伸太郎
(やなぎだ しんたろう/ YANAGIDA, Shintaro)
研 究
室
理学部 A 館 441 号室
准教授
(内線 5595)
電子メール
[email protected]
所属学会
日本数学会
研究テーマ
• 表現論
• 代数幾何学
• 数理物理学
研究テーマの概要
代数幾何学と量子代数の表現論が私の主な研究テーマです. どちらにおいても数理物理学に関係す
る内容を扱っています.
代数幾何学における研究から説明しましょう. 代数曲面上の Gieseker 安定層のモジュライ空間を調
べる重要な手法の一つに, 導来圏上で定義される Fourier 向井変換があります. 私の研究は Abel 曲面
上の安定層のモジュライ空間を Fourier 向井変換を使って調べることから始まりました.
論文 [1] において私達は 1980 年の向井茂氏の予想を肯定的に解決しました. この予想は, 非常に一
般な Abel 曲面上の一般の安定層が, ある条件の下で, 半等質層と呼ばれる特殊な連接層による分解を
持つことを主張します. その応用として, 安定層のモジュライ空間の双有理幾何に統制がつくことも
分かりました. 例えばモジュライ空間の双有理同値達がある算術群がなすことが分かりました.
論文 [2] では Abel 曲面ないし K3 曲面上の Bridgeland 安定性を研究しました. 特に安定性空間の
壁と部屋の構造, Fourier 向井変換との関連を調べました.
量子代数については論文 [3] が研究のスタートに当たります. Macdonald 対称函数は 2 パラメー
タを持つ重要な対称函数ですが, 可換な差分作用素族の同時固有函数でもあります. 論文 [3] では
Feigin-Odesskii 代数と呼ばれる有理函数のなす可換代数でもって差分作用素族の自由場表示に成功
しました. またこの代数が 量子トロイダル gl1 代数(Ding-Iohara-Miki 代数とも呼ばれます)という
(形式的)Hopf 代数とも関係することが分かりました.
モジュライの代数幾何学と量子代数の表現論の交差点にある話題として, 物理学者によって提唱さ
れた AGT 予想があります. この予想は, 射影曲面上の枠付き連接層のモジュライ空間の同変コホモ
ロジー群に頂点作用素代数の重要な例である W 代数が作用し, その作用で同変コホモロジー群が W
代数の完備普遍 Verma 加群と同型になることを主張します.
論文 [4, 5, 6] はこの予想に関する研究です. [5] では Virasoro 代数の場合の物質場なしの AGT 予想
の, Zamolodchikov 型の漸化式による証明を完成させました. [6] では AGT 予想の K 理論類似を量子
トロイダル代数の立場から扱いました. 特に物質場つき K 理論的 Nekrasov 分配関数の実現に必要な
頂点作用素に関して予想を提出しました. AGT 予想において表現論サイドに現れる対象は Whittaker
ベクトルと呼ばれる W 代数の完備 Verma 加群の特別な元ですが, [4] では Virasoro 代数の場合に Jack
対称函数を用いて明示化しました.
また Bridgeland が導入した 2 周期的複体の Hall 代数についても研究を進めています(論文 [7]).
この研究は上述の量子トロイダル代数に動機づけされています. この量子代数の実現は私達の仕事の
他に, 楕円曲線上の連接層のなす Abel 圏に付随した Ringel-Hall 代数の Drinfeld ダブルを用いる構成
が知られています. 量子トロイダル代数の余積構造の研究はこれから益々重要になると思われます.
主要論文・著書
[1] (with K. Yoshioka) Semi-homogeneous sheaves, Fourier-Mukai transforms and moduli of stable
sheaves on abelian surfaces, J. Reine Angew. Math. 684 (2013), 31–86.
[2] (with H. Minamide and K. Yoshioka) The wall-crossing behavior for Bridgeland’s stability conditions on abelian and K3 surfaces, to appear in J. Reine Angew. Math..
[3] (with B. Feigin, K. Hashizume, A. Hoshino and J. Shiraishi) A commutative algebra on degenerate CP 1 and Macdonald polynomials, J. Math. Phys., 50 (2009), no. 9, 095215, 42 pp.
[4] Whittaker vectors of the Virasoro algebra in terms of Jack symmetric polynomial, J. Algebra,
333 (2011), 273–294.
[5] Norm of logarithmic primary of Virasoro algebra, Lett. Math. Phys., 98 (2011), no. 2, 133–156.
[6] (with H. Awata, B. Feigin, A. Hoshino, M. Kanai and J. Shiraishi) Notes on Ding-Iohara algebra
and AGT conjecture, RIMS Kokyuroku, 1765 (2011), 12–32.
[7] A note on Bridgeland’s Hall algebra of two-periodic complexes, to appear in Math. Z..
経歴
2012 年
2012 年
2012 年
2016 年
神戸大学大学院理学研究科数学専攻 博士課程卒業
日本学術振興会 特別研究員(PD)京都大学数理解析研究所
京都大学数理解析研究所 助教
名古屋大学大学院多元数理科学研究科 准教授
学生へのメッセージ
学部生の方であれば, 代数幾何学もしくは(代数的な)表現論に関して勉強や研究のスタートアッ
プのお手伝いをすることができます. 代数幾何ならテキスト 1 を, 表現論ならテキスト 4 と 5 を学部
卒業までに読み終え, その過程で研究テーマを探すことを目標にするとよいと思います.
大学院に進んで研究を進めたい方であれば, 安定性とそのモジュライ空間の代数幾何学, もしくは
数理物理学に現れる代数構造とその表現論に興味がある方を歓迎します. 数理物理学に興味があって
特に代数的な視点から研究を進めたい方でも相談にのれます. 具体的には博士前期課程の最初の 6∼9
か月間位でテキストおよび論文の講読をし, その過程で問題を見つけてもらいます. 周辺分野のテキ
ストとして 2, 3, 6 をあげておきます.
1. R. Hartshorne, Algebraic Geometry, Graduate Texts in Mathematics, 52, Springer (1977).
2. D. Huybrechts, Fourier-Mukai transforms in algebraic geometry, Oxford University Press
(2006).
3. D. Huybrechts, M. Lehn, The geometry of moduli spaces of sheaves, Cambridge University
Press (2010).
4. 小林俊行, 大島利雄, 「リー群と表現論」 岩波書店 (2005).
5. 谷崎俊之, 「リー代数と量子群」 現代数学の潮流, 共立出版 (2002).
6. E. Frenkel, D. Ben-Zvi, Vertex algebras and algebraic curves, Mathematical Surveys and
Monographs, 88, American Mathematical Society (2004).