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第2章
マイクロ水力発電の基礎知識
2-1 マイクロ水力発電の定義
マイクロ水力発電の定義については、統一されたものは無く、一般的には数千 kW~数十 kW
程度のものまでを小水力と言い、うち 100kW 以下をマイクロ水力と呼んでいる。
NEDOの「マイクロ水力発電導入ガイドブック」においては、以下のようにおおよそ分
類されている。
① 大水力( large hydropower)
: 100,000 kW 以上
② 中水力(medium hydropower)
: 10,000 kW ~ 100,000 kW
③ 小水力( smal l hydropower)
:
④ ミニ水力(mini hydropower)
:
1,000 kW ~ 10,000 kW
100 kW ~
⑤ マイクロ水力(micro hydropower) :
1,000 kW
100 kW 以下
2-2 マイクロ水力発電の特徴
(1)一般的な特長
水力発電は、その名のとおり、水の力を利用して電気を生み出すものである。
マイクロ水力発電は、身近にある沢や堰などから取水し、水車までの高低差を利用す
ることによってエネルギーを回収する。
このように、流水と落差を利用して電気を起こす水力発電所は、以下のような特徴を
有している。
①
クリーンエネルギー
水力発電は、運転中に地球温暖化の原因とも考えられる二酸化炭素(CO2)をほと
んど排出させない環境にやさしいクリーンエネルギーである。
図 2-2-1 は各電源における1kWh当たりのCO2排出量を示すものであるが、水力
発電は、発電時には全くCO2を排出せず、また設備建設時に間接的に排出される量に
ついても石炭、石油、LNG等の各種電源に比べて少ない傾向にある。
図 2-2-1 各電源における1kWh当たりのCO2排出量
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②
再生可能な純国産自然エネルギー
大地に降り注いだ雨や雪は、川を下って海に注いで蒸発し、そして再び雨や雪となって
大地に降り注がれる。このため、永遠になくなることなく、繰り返し使える水を利用する
水力発電は、無限に再生可能な純国産の自然エネルギーである。
③
ローカルエネルギー供給
水力発電の開発は、治水、かんがい、上水道、工業用水などを利用することも可能であ
り、これらと連携することにより地域の社会基盤整備の促進に貢献することができる。
(2)他の再生可能エネルギーとの比較
水力発電の特長は、前記するとおりであるが、太陽光、風力発電などの再生可能エネ
ルギーと比較した場合、以下に示すような特徴がある。
【長
所】
・
昼夜、年間を通じて安定した発電が可能
・
設備利用率が 50~90%と高く、太陽光発電と比較して 5~8 倍の電力量を発電
・
出力変動が少なく、系統安定、電力品質に影響を与えない
・
経済性が高い(ただし、小水力は地点毎に経済性が異なる)
・
未開発の包蔵量が大きい
・
太陽光などと比べ設置面積が小さい
【短
所】
・
落差と流量がある場所に限定される
・
河川法、電気事業法などの法的手続きが煩雑
・
現時点では、太陽光、風力と比べて法的不利益がある
・
小流量、低落差の領域の水車におけるコストダウンが途上である
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2-3
水力発電計画の立案
(1)水力発電のしくみと発電型式
一般的な水力発電は、発電所から比較的遠方にダムを建設して、その間の水位差によ
る水圧と、流速で水車(タービン)を回転して発電する。マイクロ水力発電も水の流れで
水車を回して発電する原理は同じであるが、ダムのような大規模構造物を必要としない
(構造物を作る場合でも規模は小さい)点が異なる。
ダムを用いないで落差を確保する必要があるため、マイクロ水力発電開発では、表 2-31 に示すように分類される。
表 2-3-1 発電方式の分類
分類
概 念 図
概 要
水
路
式
落差を確保するための水路・水圧管路を
川などをバイパスして設置する方法
直
接
設
置
式
用水路の落差工や既存の堰などに水車と
発電機を直接設置する方法
減
圧
設
備
代
替
式
水道の給水設備などで利用されている
減圧バルブによる水圧を利用する方法
現
有
施
設
利
用
ため池やプールなどの施設の水を利用す
る方法
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2-4 発電力
2地点間の落差と流量が分かると、どれだけの電力を発生させる可能性があるか、いわ
ゆる発電力を計算することができ、以下に示す式で算出され、これを理論水力という。
なお、河川水を使用する場合、河川法上において水利使用料を支払う必要があるが、水
利使用料は、理論出力を算出根拠として計算される。
ここでいう落差とは、水が管路等を流下する際に生じる損失水頭などを差し引いた有
効落差を用いて計算される。
理論出力(発電力)P`(kW) =9.8×流量(m3/s)×落差(m)
図 2-4-1 水力発電の総落差と有効落差の関係
上式で計算される発電力は、エネルギー源としての水力が全て電気エネルギーに換わ
るとみた場合のものであるが、現実にはエネルギー交換の過程でも損失が生じる。
水を水車に導水してエネルギーに変換する際には水車に生じる摩擦などの損失が生じ、
同様に水車で取り出した運動エネルギーを電気エネルギーに変換する際にも発電機に損
失が生じる。
このため、実際に発電される発電力は、理論出力に水車・発電機の損失を差し引いて
有効に発電に利用できる率を乗じ、以下に示す式で算定される。
発電力(kW) =9.8×流量(m3/s)×落差(m) ×水車効率×発電機効率
※効率とは、水車・発電機・配管を流れる水のエネルギーロスをいいます。
2-5 発電電力量
発電力Pは、1秒間に発生する電力の大きさであって、この電力Pをt時間継続して発
生したときの電気の量を発電電力量といい、以下のように表される。
発電電力量(kWh)=発電力P(kW)×発電継続時間t(hr)
発電所が1年間に発生する電力量を年間発電電力量といい、たとえば、1kW の発電力で
変化することなく1年間継続して発電した場合は、以下のとおりとなる。
年間発電電力量(kWh)=1kW×24hr/日×365 日=8,760kWh
以上のように発電力は、流量によって変化するため、発電電力量は発電に使用する流量
によりその量は変化することとなる。
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2-6 水車の種類
発電に利用される水車は、地形により様々な落差や流量があるため、水車もそれに合わ
せて様々な種類が使われている。
水車は、流水のエネルギーを機械エネルギーに変換する羽根車(ランナ)の形状と構造に
より衝動水車と反動水車に大別され、表-3.2 に示すように分類される。
一般に水車形式は衝動水車、反動水車の二つに大別され、衝動水車は速度のエネルギー
を利用する水車で、比較的高落差に適応する水車であり、反動水車は圧力のエネルギーを
利用する水車で、低落差~中落差に適応する水車である。
これに重力水車が加わる形で水車は整理される。
重力水車は、水の重さを利用する水車で、小流量、超低落差(1~5m 程度)適応する水
車であり、マイクロ水力発電での低落差、小流量の領域をカバーするものである。
表 2-6-1 水車の種類
参考:
衝動水車:圧力エネルギーを速度エネルギーに変えて水車に作用させるものであり、高落差用。
反動水車:圧力エネルギーを水車に作用させる水車であり、低落差~中落差用。
重力水車:水の重さを利用する水車で、超低落差用(1~5m程度)。
※クロスフロー水車は、衝動水車と反動水車の両方の性質を持っている。
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2-7 許認可手続き
小水力発電を実施する場合の主な許認可手続きには、「電気事業法」と「河川法」による手
続きがあり、その概要は以下のとおりである。
(1)電気事業法
電気事業法は、電気工作物の工事、維持及び運用を規制することにより公共の安全を確
保し、また、環境の保全を図ることを目的としたものである。
電気事業法上の電気工作物は、図-3.3に示すように電気工作物を事業用電気工作物と一
般用電気工作物とに区分され、更に事業用電気工作物は電気事業用電気工作物と自家用電
気工作物とに区分されている。
電気事業者
電気事業の
用に供する
電気工作物
・一般電気事業者(電力会社)
・卸電気事業者
・特定電気事業者
・特定規模電気事業者
事業用電気工作物
電
気
工
作
物
自 家 用
電気工作物
・卸供給事業者(公営、その他
卸供給事業者)
・自家用電気工作物を設置する
者(自家用発電設置者)
水力発電設備
一般電気工作物
出力20kW未満※
※ダムを伴うものを除く
図 2-7-1 電気工作物と事業者の関係
水力発電の開発を地方公共団体が行う場合、自家用発電設置者になるケースが大半であ
り、その場合には下記に示す法令に従いそれぞれの電気工作物に応じた保安体制の確立や
工事計画の届出が求められ、手続きの届出は、各地方経済産業局に対して行う。
なお、一般用電気工作物(20kW 未満)の場合は、以下に示す①~④の手続きは不要であ
る。
① 法 第39 条(事業用電気工作物の維持)
事業者は自主保安体制の整備を図るため、常に技術基準に定めるところに従い、電
気工作物を正常な状態に維持しておかなければならない。
② 法 第42 条(保安規程)
電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安確保のため、保安規程を作成し届出
なければならない。
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③ 法 第43 条(主任技術者)
電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安の監督を行わせるため、主任技術者
を選任しなければならない。
④ 法 第48 条(工事計画の事前届出)
電気工作物の設置又は変更の工事を行うものは、工事の計画を届出なければならな
い。
2-8 河川法
水力発電所を設置する場合には、河川法に基づき水利権を取得する必要がある。水利権
とは、流水を特定の目的のために、排他的にまた継続的に占有する権利であり、河川法第
23 条(流水の占用の許可)により、河川管理者が許可を与えるものであり、表2-8-1に示
す許認可申請が必要である。
かんがい用水等水利権が取得済みの場合でも、目的が異なる発電用に利用する場合には、
新たに水利権の取得が必要となる。
ただし、上水道、下水道、工場内水を利用した発電所設置の場合は、必ずしもこれらの
法令が適用されるとは限らない。
また、市町村が自ら管理する準用河川、普通河川から取水する農業用水路等に自ら小水
力発電所を設置する場合には、設置予定位置により水利権申請が不要となる場合があるが、
個別の検討時にはどの法令の制約を受けるかについて当該地域の河川管理者の指導を受け
ることが必要である。
表 2-8-1 河川法関連条文
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