猫物語 - Leowords

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猫物語
Une histoire de chats
Copyright © 2013 by Leonard Mouillet
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皆さん、はじめまして、レオナルドと申します。
この短編小説をダウンロードしていただきありがとうご
ざいます。僕はフランス人で、インドネシアに3年、日本に
8 年、中国には1年、トータルで12年間海外に住んでいま
した。特に東京と北京での留学では、大変興味深い人々に出
会いました。彼らは独創的で僕に深い影響を与えてくれまし
た。
人生はやはり経験と人間関係ですよね。彼らにこの場を
借りて感謝したいと思います。
旅行、海外文化、言語に興味のある人々、そして世界に留学する人々がこの
世界の将来を明るく導いてくれることでしょう。
日本にはそういう積極的なエネルギーを持つ人々が集まっていると度々感じ
ます。8年の間、興味深く、独創的な人に会い、そのたびに、潜在力のある国だ
と確信させられました。
日本語でストーリーを書くことにチャレンジしてみようと思いました。もち
ろん、プロのようには書けませんが、僕のメッセージを皆さんに伝えることがで
きればいいと思っています。母国語ではない言葉を使ってみると、自分の見方や
考え方が変わり、視野が広がると思います。それにより、世界の問題をより深く
理解することができるし、自分自身のこともさらに理解することができると思い
ます。そして、それは楽しい事です。
皆さん、これから美しい世界になるように頑張りましょう。
ムイエ・レオナルド
(Leonard Mouillet) 2013 年
イラスト: 鶴岡麻伊
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お姉さんへ
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記者:
『レオナルドさん、ヨーロッパでは最近、社会運動など様々な出来事
が相次いでいましたが、何かコメントがありますか?』
レオナルド『いや、僕はただの小説家なんです』
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ました。僕と妹と弟は三人とも巣立ちをした。昔、にぎ
えてくれなかった。僕はその後数ヶ月間、相変わらずの
われた。しかし、その大ニュース自体が何だったかを教
六ヶ月前の事だった。フランスにいる母に電話する
と、
「大ニュースがあります」という謎に満ちた事を言
猫が二匹うずくまっていた。
ニャーという声がした。母がエンジンの所を確認すると
ある日、家を出るとガレージにあった車の中からニャー
うかと考え始めた。すると天が母の考えを聞いたように、
1 嬉しい驚き
やかだった家はだんだん静かになっていった。それで結
日々を過ごしながらフランスで何があったのかを考えて
二匹とも片手でつかめるほど小さかった。生後数日
の赤ちゃんだと思われた。そしてかなり汚かった。体の
局母は空いている空間と時間を補うように猫をまた飼お
いた。
した。すると、ソファの上で影のような物が二つ動いて
親、妹と弟)がそろって出迎えてくれた。皆と熱く挨拶
そして、二週間前にやっとフランスの 市の実家に
帰って来た。久しぶりに見た家に入ると、家族四人(両
のだろう。とてもかわいそうだった。母は猫の死にそう
猫の所に帰る事ができなくなって、僕たちの車に隠れた
ても怖わがっているように見えた。多分迷子になり、母
毛があっちこっちに散らばり埃で覆われていた。猫はと
な状態を見て、この子猫たちには母親が必要だと思い、
猫はとてもかわいかった。体が汚くて毛がバラバラ
だった子供の頃でもとてもかわいかった。そして僕がフ
家に連れて帰って面倒を見る事に決めた。
は第一子であり、僕にとってもお姉さんのようだった。
ランスに帰ると、猫はもう六ヶ月になってすごくきれい
一般的な種類の猫だったが大変かっこうよかった。一匹
皆がその猫を好きだったので、亡くなった時、大変ショ
二度と猫を飼わないと寂しげに約束した。
は茶色と黄色で、
もう一匹はグレーに黒のしまがあった。
になっていた。二匹とも雄でヨーロッパ系の猫だった。
そして10年が経った。母は、時間と空間を持てあ
ックを受けた。僕たちの悲劇だった。あの時、母はもう
昔も家に猫がいた。その猫は僕が生まれる前から家
族の一員で23歳で亡くなったので、僕の両親にとって
のか。大ニュースは猫だった。
いるように感じた。2匹の猫だった。そういう事だった
A
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やはり見つけた猫は迷子だった。大変かわいそうだと思
った。母は驚いた。
「猫の家族だ」。それを見て感動した。
ストレッチしながら寝転がる猫もいた。皆とても元気だ
していた。庭の芝生で楽しく寝そべっている猫もいた。
皆で遊んでいた。跳んだり走ったりして、喧嘩のふりを
に似ていた。子供もいれば大人もいるようだった。猫は
グレーの猫と黄色の猫がいた。皆エルピーとウイスキー
の庭を見つけた。近づくと猫は2種類いる事が分かった。
かってきた。近所を歩いていると、猫がたくさんいる家
エルピーとウイスキーは兄弟だった。もちろん母は
見つけた日はその事を知らなかったが、一週間経って分
色の猫を自然に「ウイスキー」と名付けた。
レートに 書 い て あ っ た「 エ ル ピ ー」( ) と 名 付 け、 茶
母は車の中で見つけたのでグレーの猫を車のナンバープ
った時にソファから飛んできて矢のように僕の回りを逃
イズになり、きれいになっていた。久しぶりに家族と喋
戻った日、昔小さくて痩せていた猫は2匹とも大人のサ
より熱心に、より丁寧にするようになった。そして僕が
たちの兄弟を見たよ」と言った。その時から猫の世話を
とエルピーとウイスキーを呼んだ。猫が前に来ると「君
がら「猫をお預かりします!」と頷いた。母は家に帰る
まれた。母はおばあさんの話を聞いた後、にっこりしな
くれて嬉しいと言って、そのままにしてくれないかと頼
スキーとエルピーがとても優しそうな人の家を見つけて
元気に見えるが、実は難しい状況だという。その中ウイ
毎日大変だと言っていた。猫が多すぎるのでなかなか世
の家のおばあさんが一人で引き受けているらしい。でも
うに、子猫の世話をするお母さんがもういないので、こ
ばかりの猫もいた。ところが猫のお母さんが交通事故で
さんいた。数十匹いるようだった。その中には生まれた
ベルを押すと、おばあさんが出て来た。母の話を聞
いてから、その家の猫の状況を話しだした。子猫はたく
家の人と話して猫を返す事を。
る。家の中と家族の愛情で保護されず、道を放浪するタ
た。しかし五反田の猫は、誰かの猫ではなく野良猫であ
が多い東五反田という町に住んでいるので、毎日見てい
僕は身の回りに猫のいる生活に慣れていた。22年
間お姉さんみたいな猫がいたからだ。また、日本では猫
げた二つの影はエルピーとウイスキーらしかった。
話ができないと悲しそうに告白した。外から見ると猫は
った。どうしようかとすこし考えてから、決めた!その
なくなった(車にひかれたらしい)と説明した。このよ
LP
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な っ た。 ま ず は 全 体 的 な 形 だ が 均 斉 の と れ た 身 体 で、
め て 育 て た。 そ の お か げ で 抱 き た い ほ ど き れ い な 猫 に
ら れ た。 そ し て 家 で 母 は 丁 寧 に 猫 の 世 話 を し、 心 を 込
五 反 田 の 猫 と は 逆 に、 エ ル ピ ー と ウ イ ス キ ー は 生
ま れ て か ら( 少 し だ け 道 を さ ま よ っ た が ) す ぐ 見 つ け
い。でも汚いのであまり近づきたくない。
所の人が猫に、時折、食べ物を与えるので痩せてはいな
まったく人々を気にせず、人が近づいても逃げない。近
る事に慣れているので、かなりワイルドであるものの、
ようだ。毎日数匹見える。そしてその猫たちは人間を見
速いペースで繁殖し、僕の家の近所にはもう数百匹いる
の猫である。そして数も多い。自然に生殖するせいか、
イプである。要するにペットと山猫の間の完全なる雑種
ま、視線を天空のかなたへ向けて尻尾を体の周りに巻き
好きになった。猫が窓の縁に座って顔を少し見上げたま
感動できる。そして僕は、猫を見るのが、観察するのが、
ると気分がよくなる。猫と遊ばない時でも、見るだけで
ばしてゴロゴロと喉を鳴らす。ほのぼのとした様子を見
猫を撫でると、よくそのゴロゴロという音が聞こえる。
特に猫のゴロゴロという声を聞くと、気分が落ち着く。
ぶ時は、とても気分が落ち着いてストレスも解消される。
抱いたまま寝たいほど気持ちよかった。そして、猫と遊
とても当てはまると思う。一晩ずっとぬいぐるみとして
いい」というような文章があった気がするが、その猫に
には「小さい熊を抱いたまま小山を転がりたいほどかわ
たが、とても滑らかな感じがした。ある村上春樹の小説
そして猫は床の上でくるくる回転し、快適そうに手を伸
2 匹 と も 猫 ら し い 猫 で あ る。 文 章 で 読 者 が よ く 想 像 で
あ の 気 持 ち の レ ベ ル だ )。 撫 で た く て た ま ら な か っ た。
でもなく、シフォンケーキにフォークを刺す時のような
ケーキを食べる時の、クリームではなく、チーズケーキ
らいだった。そして毛は適量あってふわふわだ(例えば、
しろ狐か狸が大事な動物だけれども、猫を尊敬する宗教
じようにミイラにされる場合もあった。日本の神道はむ
という猫の神の像が有名である。ちなみに猫は人間と同
プトでは、猫は尊敬される動物だった。今でも「バステ」
見える。古代エジプト人はよくわかっていた。古代エジ
き る か ど う か は 曖 昧 だ が、 た と え 映 画 に 出 て い て も
付
け
る
時
が
好
き
だ
っ
た
。
その姿を見ると猫が世界で一番
おかしくないほどだった。まるで猫のモデルができるぐ
厳かな生き物だと分かる。猫はその時とても堂々として
そして撫でるとすごく気持ちよかった。毛は量が多かっ
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すごく楽しいと思った。そして人生も美しいと思った。
典映画を映画館で見たりした。パリでゆっくりするのは
を過ごした。美術館に行ったり、日本では見られない古
めた。最高の気分だった。文化的な面でもリッチな毎日
ーキを食べながら、ワインかビールを飲んで、人々を眺
っくりカフェのテラスに座って、おいしいサラダやステ
いているカップルを眺めたりしていた。そして友達とゆ
場をのんびりと歩いたり、セーヌ川沿いの道を楽しく歩
を自分のペースで散歩したり、敷石のついた中世風の広
をかけて、ゆっくりと、町の楽しさを味わった。狭い道
僕はその二週間のうち、かなりの時間パリにいた。時間
雰囲気が素晴らしくて、本当にゆっくりできる町である。
るので完全に忘れていたが、パリは素晴らしい町である。
僕は猫という嬉しい驚きと共に、フランス、特にパ
リの特別な雰囲気を再発見した。六年間日本に住んでい
理由が理解できる。
は少なくない。窓の縁にいる猫の偉大さを見ると、その
パリの状況をうまく説明すると思う。
それは現在のフランスの矛盾である」という文章があっ
に「先端技術の超特急新幹線が社会運動で止められる事、
しているからこそ素晴らしいのである。ある新聞の記事
と思う。混雑には活気があるからだ。そしてパリは混雑
より混雑している。そして僕は混雑している物が面白い
ると、裏には素晴らしい世界が現れる。実は汚いという
けるという。皮肉なことに、その最初の現実を乗り越え
電車を見ると夢が崩れたみたいに精神的なショックを受
クなイメージだけが頭に浮かんでいるので、汚れている
モンマルトルやノートルダムなどフランスのロマンチッ
る日本人も何人かいたそうである。そういう人たちは、
際にフランスの現実と施設の状態を見てうつ病状態に陥
る日本人にとっては、激しいショックになると思う。実
ひどいだろう。特にピカピカできれいな施設に慣れてい
る旅客がそれを最初に見るという事だ。空港から電車で
けっこう汚れている。問題なのは、フランスに初めて来
とにかく僕のフランスでの滞在は、パリでは友達と
一緒に楽しく時間を過ごして、実家では家族や猫と楽し
た。僕は同じように「きれいな町が汚い」という文章は、
パリへ行く人が多いが、観光客にとって、電車の具合は
正直に言うと、最初に見えたのはフランスの美しさ
ではなくその汚さだった。というのは、パリの風景は美
しいし雰囲気も素晴らしい。しかもビルは奇麗だ。しか
し、道そのものは汚いのだ。床は汚い。そして地下鉄も
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一方、ウイスキーはとても恐がりな猫だ。弱虫なだ
けではない。触ることさえ難しいのだ。ようするに怖が
ある。
然怖がらない猫だ。あまりにも元気でしつこい時も結構
い。エルピーはとても好奇心の強い猫だ。そして人を全
コニコしながらゴロゴロと声を鳴らす。見るだけで楽し
ばしてストレッチしながら仰向けになり、楽しそうにニ
るのが大好きだ。ソファで撫でたら、エルピーは足を伸
遊ぶ。エルピーは遊ぶのが大好きだ。特に人に撫でられ
を眺めた後、ソファに跳んで来て誰かの膝に弾みながら
アを爪で引っ掻いて、ニャーニャーと入って来てから皆
触ったりする。僕たちがテレビを見ていると、部屋のド
に来て、テーブルを歩き回ったり、座っている人の足を
エルピーは自分から僕たちのいる所に勝手に来る。
僕たちが食事をすると、エルピーはキッチンやリビング
からだったらしい。
であるのに、性格はまったく違っていたのだ。子供の頃
事である。ウイスキーとはまったく遊べなかった。兄弟
さっき猫と一緒に遊ぶと書いたが、それはエルピーとの
く時間を過ごすという形になった。家の猫の話に戻ると、
出した」と母が笑いながら言った。両親にも楽しそうだ
で、広い庭で遊ぶのも好きだった。
「あっちこっち走り
る日、両親はせっかくの三連休を別荘で過ごそうと思っ
が長いので、そこに行くのはいつも楽しい。そして、あ
結構大きいし、しかもその家は我々家族にとっては歴史
スの田舎の典型的で小さい村にあるし、付いている庭は
華な館ではなく、かなり地味な屋敷だ。しかし、フラン
中ぐらいに別荘がある。別荘と言っても映画のような豪
した事を例としてあげたい。 僕たちはフランスの真ん
な衝撃を受けたのだろうと皆が思ったほどだ。母が説明
どの恐がりだった。ウイスキーは多分子供の頃に精神的
分の小皿の周りから離れないと食べに行かない。それほ
と家を歩き回った。しかしおなかが空いていても人が自
を食べたい時だけだった。そういう時は「ニャーニャー」
満だった。時々、ウイスキーも自分で積極的に家族の誰
にいたが、一回も触る事ができなかった。とても欲求不
ので、つかまえる事などでもできない。僕は二週間実家
だ。もちろん猫は人間より素早いし、身のこなしも軽い
離でも近づくのが難しい。彼はすぐに逃げてしまうから
て猫を二匹とも連れて行った。猫は田舎の雰囲気が好き
かを探す時があったが、それはおなかが空いていて何か
りでどうしようもないのである。たとえ二メートルの距
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しまった。
度きりだったそうだ。僕はこの話を聞いて大声で笑って
て帰る事ができた。猫と一緒に田舎に行ったのはそれ一
だりして、結局二時間以上かけて、やっと捕まえて連れ
しまったのだ。両親は二人で猫の後を追いかけたり囲ん
なかなか捕まえられなかったのだ。近づくとすぐ逃げて
った。ところが帰る日に大問題が起きた。ウイスキーを
猫について多くの本を読んだりしていた。
った事は全然知らなかった。今回、よく猫と遊んだり、
そのため、僕の猫に対する知識は限られていて、そうい
然 に ず っ と い た の で 猫 に つ い て 勉 強 は し て い な か っ た。
さんみたいな猫がいたと説明したが、僕はその猫とは自
要するに餌と水を別々に置く必要がある。子供の頃お姉
べ物(餌)と飲み物(水)が同じ所にあるのが嫌いな事。
とにかく(一言で言えば)猫の性格は格好と同じよ
うに兄弟でだいぶ異なっていた。母は獣医になぜ兄弟な
のに性格がそんなに違うのかと聞くと、獣医はしばらく
考えた。そして母を見ながら「あなたはお子さんが三人
いるでしょう」と反問した。母が「はい」と頷くと獣医
は質問を続けた。「子供は皆同じ性格ですか?」と聞いた。
母は「皆違います」と認めた。僕は獣医は賢いと思った。
僕が実家に帰った時、猫はもうすっかり家族のメン
バーになっていた。僕もすぐ猫の存在に慣れて、餌をあ
げたり一緒に遊んだりした。そして猫について色々勉強
をした。例えば、猫にチョコレートを絶対にあげてはい
けない事。猫はチョコレートを消化できないので、食べ
ると、死ぬ可能性がある。そして猫は甘味を感じないの
で、チョコレートが危ないと分からない。また、猫は食
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そこにいる猫は危険な種類である。
ームがあった。
2 猫の事件
猫はキャンプの客の食べ物を盗んだり爪でテントに損害
一週間が経った後、意外な事が起きた。僕がキッチ
ンで昼ご飯を食べていた時に突然「へ!?何これ?」と
人を脅迫する。
を与えたりいろいろ迷惑をかける。幾人もの客からクレ
いう母の声が聞こえた。母は郵便ボックスのそばで目を
猫は不衛生で人間へもウイルスが伝染する。
市会の対策
月末にこの問題を対処する。
丸くして、あるチラシを読んでいた。そして母がチラシ
を渡しくれたので、確認した。「猫は危ない!」という
会が作ったチラシのようだった。そして市長のサインが
派遣される専門家は夜キャンプ場周辺で作業を行う。
目を引くようなタイトルが太い文字で書いてあった。市
あったのできっと大事な話だとすぐに分かった。チラシ
市のそれぞれの家に配られたそうだった。中身を読
猫の死体は朝専門の会社が拾ってトラックで運ぶ。
皆さんの迷惑を及ぼさないように夜の作業をする。
むと、想像した以上にずっと恐ろしい内容だった。いく
った。
そしてとても怪しいと思った。まず、国際キャンプ場に
調査によると、もう数百匹いるそうだ。繁殖のペースが
している。
的問題をもたらすなどは冗談のレベルだった。誰も信じ
特に問題ないと思っていた。そして猫が危ないとか衛生
る母にとっても初耳だった。
猫がいる事は知っていたが、
猫の問題がある事を聞いた事がなかった。毎日ここにい
減少しなければ間もなく数万匹になる恐れがある。
猫は危ない!
市の国際キャンプ場で、猫は途方もないほど速く繁殖
僕はこのチラシの内容を読んでショックを受けた。
詳細は後ほど発表する。
は
A
つかの段落に分かれていたが主なポイントは次のようだ
A
A
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「ねえ、冗談じゃない?これ」と母に聞いた。
た。完全に違和感があった。
ぐ下に、女の子が芝生の上で静かに猫と遊ぶ写真があっ
った写真だった。「猫は危ない!」というタイトルのす
られない事だった。しかし最も怪しいのは、チラシに載
の件が気になった。 市はけっこう立派な町だが、村み
場は実家から歩いて二分という距離なので、僕たちは猫
国際キャンプ場はいつも混んでいる。ちなみにキャンプ
通が便利なので、観光客にとっても人気のある町である。
だがおしゃれな感じのする町である。そしてパリへの交
母は再び視線をチラシに向けて、「とにかく怪しい
ね」と言って少し考えてから「後で町に調べに行って来
店はそこにある。母がさっき「町に行く」と言っていた
中心にある一つだけの大通りのことだ。 市のあらゆる
という国王はそこに別荘があった(別荘という言葉をま
てとてもおしゃれな町である。貴族的な町でルイ十四世
市はパリから電車で二十分ぐらいの郊外にあるも
のの、人口二万人ぐらいのかなり小さい町である。そし
商店街は市役所と駅で始まってその回りにいくつか
のカフェがある。普段はコーヒーを飲みながらおしゃれ
予想以上の騒ぎがあった。
チ ラ シ は 話 題 に な る は ず だ っ た。
「町」に行って見ると
いう意味だった。 市は普段静かな町だからこそ市長の
た使うが今回は立派なお城という意味だ。そのお城は、
セーヌ川の土手を歩くカップル、公園で遊ぶ子供、カフ
いい。モネやルノアールの絵画によく見られる風景だ。
通っているので特別な雰囲気がある。静かで住み心地が
がいくつかある。周りには林もある。そしてセーヌ川が
派な一軒家や館があちらこちらにある。緑も豊かで公園
だった。彼女は集まっている人にとても積極的に話して
て、道で母とすれ違うと挨拶を交わすぐらいの知り合い
声が聞こえた。彼女は顔見知りだった。近所に住んでい
い た。 そ の 人 ご み の 中 か ら 文 句 を 言 っ て い る 女 性 の 大
着くとカフェの前で何人も集まり立ったままで話をして
A
いた。背が低いのに彼女の声は大きかった。
「スキャン
A
ェのテラスでのんびりする大人など、毎日ある平凡な事
今でも誇らしげに隣の町にそびえている)。
な風景をゆっくり眺める人がいる。しかしその日、母が
が、それは歩いて五分ぐらい離れている大通りに行くと
A
たいな所もある。小さい町の中心街というのは文字通り
るわ」と呟いた。
A
市には立
A
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市の猫を守る会」という協会からの新しく作られた
物だった。あの女性の反応は速いと思った。パンフレッ
ダルよ!」と彼女は叫んだ。「これは許せないことよ!」 「
と続けた。「市長は猫を絶滅させるつもりよ!」と今度
トの内容は次のようだった。
会の代表者だと母は分かった。区役所を指さしながら「と
反体制の精神が世界ナンバーワンを誇るフランスで
は、ストとデモは毎日の事になってしまった。フランス
たりした。
がら言った。周りの人は皆激励の声をかけたり、拍手し
抵抗の運動をしましょう!」とこぶしを空に振り上げな
えてから説明した。「協会と相談するけど、とりあえず
「 市の猫を守る会」は市長の計画に反対する!
本的に清潔な動物だ。
国際キャンプ場の猫は数十匹しかいないし繁殖は実際に
市長は正しい知識に基づかないで計画を決めた。
それは不法なことだ!
市長は
にかく市長にはこういう権利はないわよ!」と呼吸を整
人は色々な課題について討論するのが好きである。年齢
市の猫を絶滅させるつもりだ!
は顔を怒りで真っ赤にして怒鳴った。彼女が動物愛護協
A
は減速している。しかも猫はとても素直だ。その上、基
A
がらでも、家族と晩ご飯を食べながらでも、討論したり
を問わず、友達同士でも、たとえ学生達が食堂で食べな
う!
市長に皆さんの意見を見せよう!皆さんの声を聞かせよ
今週の土曜日十二時にデモを開催する。
いは社会的な問題の議論で盛り上がる。海外の人にとっ
てそれは時代遅れだと思うかもしれないが、フランス人
にとっては、とても大事な事である。社会的な議論と反
市 も 猫 の 事 件 で 盛 り 上 が り 始 め た。 市 長 の チ ラ
た後、僕は母にパンフレットを渡しながら言った。
「さすが動物愛護協会の人だね」と内容を読み終え
する。そして離れている田舎の村でも政治的な問題、或
A
それから 市は猫の事件で盛り上がった。どこへ行
っても、人はチラシとパンフレットについて話していた。
A
体制の心が民主主義の基礎だと考えるからだ。そして静
かな
-
シ が 届 い た 二 三 日 ぐ ら い 後 に パ ン フ レ ッ ト が 届 い た。
A
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猫について意見を述べ合ったりした。カフェの前を通れ
スーパーマーケットに行けばレジの列に並びながら人は
えた。そして 市の中心に近づけば近づくほど音がだん
を出た。すると、もう遠くからドラムのような音が聞こ
た。パンフレットが届いたその日の夜、僕は家族の皆を
った。僕たちも晩ご飯の時に猫の事件について話してい
に市長の計画に同意する人もいた。実は予想した以上だ
った。そして皆かなり熱心に議論をしていた。変なこと
流行っているキーワードは、まさに「猫」になってしま
に参加して、徐々に行列の先頭までさかのぼった。周り
ったまま傍観している人もいた。僕たちは後ろからデモ
ていた。ドラムを叩く人もいた。そして行列の両側で立
スローガンを叫んだりして、大通りの中をゆっくり歩い
た。数千人の人がプラカードを振りかざしたり、大声で
が見えた。そしてとてもうるさかった。人がたくさんい
だん大きくなった。大通りに着くと、デモの行列の後ろ
見て「僕たちも出ようよ!」と強く提案した。妹は僕の
たが。そして「猫の虐殺をやめろ!やめろ!猫の虐殺を
の人は皆すごく元気だった。積極的だった。プラカード
「でも狙われるのはキャンプ場の猫だよね、エルピーと
やめろ!」という歌のようなスローガンが行列の先頭か
セリフを聞いたとたん、口に入れるところだったフォー
ウイスキーじゃないね」と彼女は言い返した。「かまわ
ら聞こえた。スローガンはこだまのように行列の後ろへ
には「猫の次は何だろうか!」とか「市長は殺し屋だ!」
ないよ!」と僕は言った。「我々の義務だよ・・・義務だ!」
響き渡ってきて、僕たちも結局同じように叫んだ。大通
クを皿の上に勢いよく置いて「へー?」と呆気に取られ
と最後の「義務」を強く発音した。母はこの会話を聞い
りがそんなににぎやかになったのは始めて見た。そして
などの激しいスローガンが書いてあった。「僕の犬はい
て少し考えた。「そうだね」と結局僕に賛成だった。「参
行列は三時間かかって 市を回った。人の数はだんだん
たように言った。「僕たちも猫がいるんだから守らない
加しよう!」。「ヨッシ!行動に移ろう!」という父の言
ったいどこだ?」という全く関係ないメッセージもあっ
ば市長の計画をめぐって喧嘩している人を見た。 市で
A
といけないよ!」と僕は妹の反応を確認しながら言った。
A
そして土曜日が来た。僕たちは十二時少しすぎに家
葉で会話に決着がついた。
だ。最後まで残った人は本当の動物愛好家だったらしい。
少なくなったが、残っている人は相変わらず元気に叫ん
A
16
なり強い印象を受けた。しかし考えてみると、パリなど
けだった。僕はデモに参加するのは初めてだったのでか
僕たちも最後までいたが回りの人と喋りながら歩いただ
僕はページを二枚めくってインタビューを読み始め
た。家に猫が二匹いる 市のある主婦(まさかと思った)
参照」。
の言葉「人民の、人民による、人民の為」は七ページを
市長に見せてやったよ!」と言った。そのよい感じで一
信満々に言った。僕は興奮して「道のパワーはすごいよ!
も賛成して「これで市長は計画を諦めるでしょう」と自
たりした。「デモはすごかったね!」と父が言うと、母
僕たちは家に帰ると、この日のイベントについて話
した。そしてデモのインパクトを予想したり意見を述べ
ケールは違うだろうし。
けるという事だった。信じられなかった。僕たちの予想
それから意外な事が起きた。郵便ボックスの中に市
長からのチラシが入っていた。市長は計画をそのまま続
っちゃうよね」。
心配そうに言った。「皆その女の人が私じゃないかと思
コメントがあった。母に見せると「あら大変!」と母は
の イ ン タ ビ ュ ー だ っ た。
「あの猫たちへの邪魔をやめま
の大都市ではもっと大きい運動があると思い出した。ス
日が終わった。
シの翌日に計画を実施する事になった。前日のデモを認
トルで混乱している大通りの写真が付いていた。次のよ
めたが、参加者が少なく、一方で計画に同意する人はた
うな内容の記事だった:「9月25日土曜日
日のデモでは市民の激しい反対が明らかになった。詳細
止めるため専門家を呼んで抜本的対策を提案した。土曜
市長は同市の国際キャンプ場での猫の急速な繁殖を食い
逆にキャンプ場の客はキャンプ場から出ないようにとい
にキャンプ場の周りに行かないように忠告してあった。
れない事だった。そしてチラシに太い文字で火曜日の夜
た。僕はこれはまさにスキャンダルだと思った。信じら
くさんいるので、対策を進める事にしたと書かれてあっ
は完全に外れてしまった。しかも火曜日、要するにチラ
しょう、あのね、豹ではないでしょう!」などの面白い
朝になると、地方の新聞が届いた。前日のデモにつ
いて記事があった。「 市は盛り上がった」というタイ
A
う規則が書いてあった。夜の出来事なので皆さんの迷惑
で同市の猫の問題の対策を反対するデモが行われた。
A
は五ページへ。現場のインタビューは六ページへ。今日
A
市の中心
A
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にならないと最後に説明してあった。
は事情が分かっているように珍しく素直だった。
とウイスキーと遊んだ。母も猫と暖かく遊んで、より心
市が変に静かだと思った。そして家でエルピー
僕はその夜の事件を目で見なかったが、後の記事か
ら知ってしまった。
と愛情を込めて猫の世話をしていた。そしてウイスキー
晩ご飯の時に皆は怒っていた。市長を強く批判した
り、どこがスキャンダルかを説明したりした。失望して
しまった。そして翌日も町で不満を表す人が少なくなか
った。母と道を歩くと、猫の協会のあの女の人とすれ違
った。彼女はこれから皆に今夜は家にいるように頼むと
言った。「猫の事はあきらめないけど、まあ、とにかく
激しい試合になるよ」と不思議そうに続けた。大通りへ
行くと街全体が失望に覆われているかのように見えた。
不気味な雰囲気がした。人々の目もあきらめの色がにじ
んでいた。バーで喧嘩する人がいた。そして見た事のな
市の外から来たと思われる人が数人いた。例えば
い人もいた。猫のニュースが地方でも話題になったせい
か、
る時に
皆諦めて話すことまでも避けたかった。夕方パリから帰
その翌日は市長が選んだ日だった。町にはまだ猫の
件について話している人はいたが、とても少なかった。
今でも覚えている。殺し屋の目だった。
その冷酷で突き刺すような目は一瞬しか見れなかったが
の男がいたがその人の目を見ると血が凍りそうだった。
その元気そうな男。彼の前に細い体つきの四十歳ぐらい
A
A
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も優しいです。アニーとよく猫と一緒に遊びます。アニ
キャンプ場の猫も優しいです。ちょっと汚いですがとて
匹います。犬も2匹います。家の犬と猫は仲良しです。
いますが私は猫が大好きです。ロンドンの家には猫が3
ンプ場に猫が増えました。猫が危ないと町の人が言って
仲良くしてくれます。一緒によく遊びます。最近はキャ
緒にキャンプ場に来ます。女の子で一才上ですがとても
です。彼女はドイツから来ました。彼女も毎年両親と一
しいです。そしてここには休みの仲間がいます。アニー
の生活より楽しいです。休みも大好きです。学校より楽
秋休みにします。私はキャンプが好きです。ロンドンで
僕たちの習慣になりました。夏は混んでいるのでいつも
キャンプ場はとても静かです。両親と一緒に、毎年
秋の休みにフランスのこのキャンプ場に二週間来るのが
見つかった日記のあるページ
3 瀬戸際
みます。明日のスケジュールは・・・
の時ロンドンに来るように誘いたいです。明日両親に頼
ここに来られたらいいです。そしてアニーにクリスマス
うです。私は猫に何もないように願います。来年もまた
えます。そして人の叫び声も聞こえます。何かがあるよ
りますがその形は動きません。突然その所から光りが見
ます。隣の広場もすこし見えます。広場には人の形があ
ントからキャンプ場の橋が見えます。遠くて小さく見え
は不気味な感じがしています。でも美しいです。私のテ
キャンプ場はしんとしています。木も紅葉していて夜に
他のテントからも音が聞こえません。
皆は眠っています。
しいです。隣にある両親のテントからも音がしません。
した。私はこうやって外を眺めるのが好きです。外は涼
です。テントのドアのジッパーを外して頭を外に出しま
静かです。普段はこんなに静かではありません。そのせ
今夜は猫と関係ある事があると聞きました。何があ
るのでしょう。とにかくキャンプ場は、今夜は、とても
水曜日の朝一時(その一)
いで私はなかなか眠れません。時計を見ると夜中の一時
ーはとてもラッキーです。先週は猫と遊ぶ時に写真を撮
と言っていました。うらやましいです。私も有名人にな
市は静まり返った。しんとした道は家と並木の陰
られました。写真家はアニーに「君は有名人になるよ」
りたいです。
A
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彼は一日中準備していた。プロなのだ。まずは現場
の偵察に行った。キャンプ場の回りの地形を確認した。
と思って微笑んだ。
り出して使うだけの事だ。猫をたくさん殺す事ができる
前もって完全に準備して、装填していた。ケースから取
で体全体が喜びに震え始めた。手に持っていた銃はもう
場へ向かっていた。今回の目標は猫だった。考えるだけ
鋭くなった。町の中心部を歩いていたのに既にキャンプ
を持っていた。そして目的地に近づけば近づくほど目が
るのではなく、冷酷に輝いていたのだ。彼は殺し屋の目
キラキラと輝いていた。しかし希望か楽しさで輝いてい
かった。元気がなさそうな細い体の中で目だけは活気で
えるようにうまく止まったりした。目で追う事さえ難し
背景と解け合うように素早く動いたり、回りの風景に消
とらえにくい輪郭だった。その人の姿は忍び足で巧妙に
び上がり、ほんの少しだけ見えた。ステレス機のように
鬱に動いている形が見えた。その輪郭は風のように浮か
だった。その平和を壊す物はなかった。ただ、時折、陰
がしていた。動く物もなく風もなかった。すべては静か
が薄暗い月の光に投影されて不気味ながら平和な雰囲気
に畑に行った。入ったら遠くに二・三匹の小動物の輪郭
そして水曜日の朝一時に町を風のように歩いてキャ
ンプ場に向かっていた。キャンプ場の橋へ付くと、すぐ
あった。茂みに隠れればいいと思った。
してキャンプ場まで行く橋の足に茂みに囲まれた広場が
の光で十分だと判断した。彼の目的は殺す事なのだ。そ
の陰もないし、邪魔をする物もないので、光だったら月
義者になった。キャンプ場のそばにある小さい畑は、木
は彼の趣味だ。そして非常に有能で的を外さない完璧主
そのまま数時間待って、スナイパーで動物を殺す。それ
はなくむしろ趣味だ。山の奥に行って、木の上に隠れて、
十五年間この仕事している。いや、彼にとっては仕事で
銃を持っている。前は軍隊にいた。軍隊を出てからもう
だ。一番速い弾丸にした。彼は世界最高の精度を備えた
あるスナイパーにした。小さくて精度の高い弾丸を選ん
に準備した。銃を現場の状況に会わせてサイレンサーの
と角度も覚えたりした。そして時間をかけて道具を完璧
こで隠れるか、どこを狙うかを丁寧に確認したり、距離
仕事だった。現場の形をちゃんと理解したいからだ。ど
べてを詳しく確認した。彼はプロだからだ。偵察は昼の
来るだろうと思った。道の形もキャンプ場へ行く橋もす
や る
畑か草原みたいな所があった。夜は猫がきっとたくさん
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ルしかなかった。彼はまだ歩いていた。頭がヒステリー
だ止まってその人間を眺めた。彼と猫の距離は五メート
して猫へゆっくりと近づいた。猫は怖がらなかった。た
向かって歩いていた。彼は猫を見ると呼吸を止めた。そ
猫が動いているのが見えた。猫はゆっくりと広場を橋に
殺したいだけだった。まだ遊びたかった。そして横目で
はまだ猫をたくさん殺したかったのだ。猫でも何でも。
くて熱狂的な笑い声をあげた。理不尽な笑いだった。彼
少し考えた。月の方を見上げながら深呼吸してから甲高
なった。彼は橋の広場の方に行って、真ん中に止まって、
えた。そしてその音は急に止まった。畑には猫がいなく
ィッ」というサイレンサーのよく分かる音が何回も聞こ
ていて、口は喜びでよだれを流した。畑では「フィッ」、「フ
をだんだん上げて、熱狂的になった。目は楽しみで光っ
った。とても速いスピードで動いたが、さらにスピード
撃って走るという流れを続けた。まるでダンスみたいだ
じパターンを繰り返した。一回も休まないで走って撃つ、
構え、狙って、撃って、当たった。そしてまた走って同
して横目で遠く猫の影を見ると、素早く止まって、銃を
がほんの少し見えた。考えることなしに走り始めた。そ
い何があった!」と思った。
ると、血だらけだった。そして大変痛かった。
「いった
いないしフラッシュが来た所にも何もなかった。手を見
力を取り戻して回りを確認すると、何もなかった。猫も
みを感じて「わあああ!」とうなりを発した。意識と視
眩んだ。「何!?」と言わんばかりに手にものすごい痛
た。彼は驚いて振り返ると、二枚目のフラッシュに目が
それからすべての事は速やかに起きた。猫を包丁で
刺そうとした時に、後ろから稲妻のような強い光が走っ
上げた。
た。猫の目を見ながらニッコリした。そして包丁を振り
見つめた後、ゆっくりとジャケットから包丁を取り出し
鼓動が聞こえるほど興奮していた。そして数秒猫の目を
んなに楽しみを感じるのも初めてだった。自分の心臓の
獲物をこんなに近くで見るのは初めてだった。そしてこ
しゃがんだまま猫を撫で始めた。
彼の胸はドキドキした。
れる所まで近づいた。すると彼はゆっくり身をかがめて、
の目をじっと見つめて、歩み続けた。そして猫に触れら
れたようにぼんやりと眺めた。彼はニコニコしながら猫
そして静かに猫の方へ歩いた。猫はその人間に心を奪わ
で燃えたがその極度の興奮を押さえて、緩慢に、徐々に、
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仕事は人と動物をだます事なのだ。一晩動かないで同じ
逃すだろう。彼はそういうレベルのプロだからだ。彼の
え、細心に眺め、ほんの少しだけ、暗い形を感じても見
茂みの方を見ても何も見えないだろう。用心深い人でさ
彼の迷彩は完璧だった。もう風景に溶けてしまった。
もう背景の一部分になってしまった。通りがかりの人は
もう数時間もそこに隠れていて、ちっとも動かなかった。
ていた人でさえ乱さなかった。彼はプロだからだ。彼は
った。この平和を乱す物はなかった。回りの茂みに隠れ
ヌ川も緩慢に静かに流れていた。橋の広場は特に平和だ
た。動く物はなかった。キャンプ場を町から隔てるセー
いなかった。静まり返った道に木と家は整然と並んでい
市は静寂に包まれていた。道には人がいなかった
し、車も一台なかった。音が全くなかった。風も吹いて
水曜日の朝一時(その二)
今回は動物愛好家としてこの 市のおばさんを手伝うつ
になって、動物と一緒に、
動物として、
生きるのが好きだ。
動物が好きで写真家になった。山に隠れて自然の一部分
たい人である。そして彼は動物愛好家である。もともと
が出るプレッシャが好きである。彼は自分の限界を越え
事である。それはかなりの挑戦だが彼はそういうやる気
しい。写真を本当にアートとして扱う。今回の使命は動
クニシャンである。彼は器用で、技術のセンスが素晴ら
のはカメラ用具のみならず彼も反応が鋭く、速やかなテ
備えたレンズを付けて、上手に使う。そして優れている
る。一番機能のいいカメラを選んで世界最高の精密度を
ンズはいつも目標と状況に詳しく合わせて精密に選択す
必ず当たる。彼はいつも丁寧に準備をする。カメラとレ
事だ。彼は特別な猟師だ。
写真の猟師だ。写真ハンターだ。
物の写真ではなく猫を殺しに来た人の現場の写真を撮る
そして彼は的をはずさない完璧主義者だ。
何かを狙うと、
姿勢を保つのに慣れていた。そして環境がいくら窮屈で
と照準機を一瞬で合わせてシャッターを押す。そういう
の風景を眺めたり動物を探したりする。そして見つける
家だ。山か森に行き、木の上などに隠れて双眼鏡で回り
に見えるが、とても侮れない人である。彼は動物の専門
も我慢するプロだ。ふっくらとした顔をして、優しそう
った。畑みたいな所があると確認した。そこはかなり暗
仕事は夜なので準備も夜にしないといけないという事だ
現場の明るさと光の源を理解したかったからだ。実際の
した。まずは現場の偵察をした。偵察は夜の仕事だった。
もりだった。この任務を完了させるために十分に準備を
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ンズで猟師を眺めた。目で追うだけでも難しかった。そ
しかし、畑の方へ行ってしまった。彼はカメラの望遠レ
ではなかった。猟師はとても速やかでスムーズに動いた。
った。ただその影を眺めた。もちろんまだ写真を撮る時
だと思った。音が聞こえなかったので驚いたが動かなか
った後、突然、広場を通った人の輪郭が見えた。「猟師」
ラッシュが付いていて広場に向いていた。2時間以上待
いて、畑の方に狙い定められていた。もう一台は強いフ
た。二台あった。一台は六百ミリの超遠レンズが付いて
そして彼はもう二時間以上、横たわったまま待って
い た。 カ メ ラ は も う、 準 備 し て い て、 隣 に 置 い て あ っ
レンジだったが。
して猟師が広場へ来たら済む事だ。広場も暗いのでチャ
ずだ。少なくとも猟師を眺める事ができると思った。そ
うが畑には猫がいるようなので猟師が必ずそこに行くは
るかもしれないと思った。暗いので陰だけになってしま
遠くに畑が見えるので望遠レンズを使うと、写真を撮れ
隠れる事ができて、より明るかった。その上、茂みから
いと判断した。広場の方がいいと思った。回りの茂みに
いし、隠れる場所はないので、いい写真を撮るのが難し
た。猫と猟師は互いに見つめ合いながらコミュニケーシ
なかった。ただ猫を眺めた。猫も動かないで猟師を眺め
にいる猫を見つけたのを見た。猟師はしばらくの間動か
いが終わると風景は重苦しくなった。そして猟師が広場
写真家の体の奥まで突き刺さるような鋭い声だった。笑
人だと思った。猟師が止まって、
理由なしに笑い始めた。
いた。来るだろうか?猟師を目で眺めた。見覚えのある
た。彼はその一回だけという好機を心配しながら待って
けだと思った。そして速く逃げる事もポイントだと思っ
だった。フラッシュを使うので写真を撮れるのは一回だ
メラで猟師の動きを追って、いつでも写真を撮れる状態
て写真家の声が聞こえたみたいに広場の方に歩き始め
事だ」と自分に言った。畑にいた猟師は止まった。そし
と思った。
「一回しかないかもしれないのでミスしない
と小声で言った。そして「チャンスはこの広場になる」
家は写真を何枚か撮ったがやはり暗すぎた。
「クソー!」
象的だった。そしてきれいだった。芸術的だった。写真
の中でその影がダンスしているように見えた。とても印
まって、一瞬で銃を構えて、またこっちへ走った。暗闇
師のスピードに唖然とした。猟師はあっちへ走って、止
た。写真家の胸はだんだんドキドキした。小さい方のカ
して猟師は急にペースを上げて走り出した。写真家は猟
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えた。恐ろしかった。
写真家が素早く逃げた時、後ろから猟師の叫び声が聞こ
師の顔を思い出した。前日バーで見た不思議な人だった。
全な写真を撮った。そして、二度目の写真を撮った時猟
返った時に写真家は反射的にシャッターを押し直して完
ッターを押した。強いフラッシュが光った。猟師が振り
の本能を一気に取り戻して「今だ!」と思いながらシャ
ていた。そして彼は猟師が包丁を構えると写真家として
い!」と猫に叫びたかった。彼は完全に場面に魅惑され
てとてもゆっくりと包丁を取り出した。写真家は「危な
師は背中を向けていた。猫のそばに着き止まった。そし
りと猫の方へ歩き始めた。写真家の体は震え始めた。猟
ョンしているようだった。そして猟師は微笑してゆっく
くれたのでそばに行った。そして少し遊んだ。楽しかっ
の家の人は優しそうだ。お母さんは今日特に優しくして
り覚えていないけど、とにかくとても不安だ。でも、こ
ゃんの頃、道で人間に蹴られた思い出がある。もうあま
は何も、誰も怖くはない。しかし僕はとても怖い。赤ち
間が怖い。お兄さんは怖がらないが僕は怖い。お兄さん
うな人でいつも食べ物を準備してくれる。しかし僕は人
幸い、家のお母さんに見つけられた。お母さんは親切そ
からなくなった。そして車に隠れた。とても怖かった。
お兄さんが散歩したくて一緒に行ったが、結局、道が分
遊ぶのが大好きだ。散歩するのも好きだ。赤ちゃんの時、
兄さんは散歩したいように見える。彼はとても元気だ。
誘う。僕は「ニャーニャー」と答えて窓から降りる。お
あるかな。今夜はとても静かだ。風がないし音もない。
好き。特に空を眺めるのが好き。広い空の後ろには何か
僕は窓の縁に座るのが好きだ。お兄さんは好きでは
ないが僕は好きだ。窓の縁に座って回りの物を見るのが
水曜日の朝一時(その三)
ャーニャー」と強く誘う。畑へ行く道はとても静かだ。
で提案する。僕は嫌な予感がするがお兄さんはまた「ニ
せている。お兄さんはあそこで遊ぼうと「ニャーニャー」
がたくさんいる。しかしあの猫たちはけっこう汚いし痩
時々散歩する。家のお母さんは知らないと思う。そして
た。今、お兄さんは近所を散歩したいようだ。僕たちは
穏やかな町だよね。すぐ下にはお兄さんがいる。お兄さ
何もない。町は静かで平和だが同時に不気味で心を締め
他の猫に会う時もある。この道のあっちの畑があって猫
んは尻尾を回しながら僕に「ニャーニャー」と遊ぼうと
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兄さんは橋の方へ行こうと広場を歩き始める。ところが
いると感じる。ワナかな。僕は怖くて家に帰りたいがお
してその形はすこしも動かない。しかし生きている物が
る。猫ではない。変な形がほんの少しだけが見える。そ
ばらくしてから向こうの茂みに何かが隠れていると分か
げてしまう。そして広場の方へ行って茂みに隠れる。し
危ない!」と「ニャーニャー」と叫けぶので僕たちも逃
るのだろう。僕たちの方へ走って来る猫たちは「危ない!
うに見えた。畑の中に人の輪郭がある。いったい何があ
くさん走るのが見えた。しかし遊ぶというより逃げるよ
た。お兄さんは行こうと案内する。畑に入ると、猫がた
ャー」と言った。僕は怖いと「ニャーニャー」と説明し
音も聞こえる。猫が遊んでいるとお兄さんは「ニャーニ
自然な音が定期的に聞こえる。そして動物が走っている
だん強くなる。僕たちが畑に近づいた時に向こうから不
付ける雰囲気がする。畑に行く間に僕の嫌な予感はだん
人間が速く逃げるのが見える。本当にワナだったのかな。
える。そして僕たちは速く家に走る。反対側の茂みから
間に飛びかかって、強く手を噛む。人間が叫ぶのが聞こ
ンの大量放出に支配された僕は、反射的に広場にいる人
いたたまれなくなった本能の衝動というか、アドレナリ
の光がある。すると僕は体全体に刺激を感じる。恐怖に
うの茂みから稲妻のように強い光がある。そして二回目
側の茂みが少し動く。そして不思議な事が起きる。向こ
変な場面だ。そして人間はピカピカする物を出す。反対
お兄さんと人間は相変わらず互いを見つめ合う。とても
前に着いて、顔を傾けて、お兄さんの高さにしゃがむ。
が怖くて口から音が出ない。そして人間がお兄さんの手
らない。「危ない!」と「ニャーニャー」と予告したい
かない。ただ人間の顔を眺める。僕は怖くて怖くてたま
広場の人間はお兄さんの方に歩き始める。お兄さんは動
同 じ 場 面 を 見 て い て 何 か を 待 っ て い る の が 感 じ ら れ る。
人間も一人広場に静かに入る。人間は笑い始める。聞い
た事のない音だった。人間ではない動物の音のようだ。
そして人間は止まってお兄さんをじっと見つめる。お兄
さんも人間をしんと見つめる。僕は茂みに隠れたままお
兄さんと人間を眺める。反対側の茂みに隠れている物が
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挨拶として言った。彼女はすぐ母に「 市長はさっきの
があったかとか、猫が本当に殺されたかとか、いろいろ
た。僕もその話に参加した。前日の夜にキャンプ場で何
僕は朝起きるとすぐにキッチンの方へ行った。母と
妹 は 朝 ご 飯 を 食 べ て い た。 猫 の 事 件 に つ い て 話 し て い
けたが今日は戦争に勝った」と物事を達観するように言
言った。そして母にウィンクしながら「昨夜は戦いに負
動物愛護協会と連携せざるをえなくなりました」とまた
した。そして「猫の問題に適切な解決を見つけるように
CALAMUS GLADIO FORTIOR
推測をした。それで僕たちの質問にはすぐに答えがあっ
った。でも実は彼女はとても悲しかった。床を見ながら
いタイトルだけだった。写真はものすごく恐ろしい顔を
ジが広げられて看板に掛けられている。大きい写真と太
まった。僕はその女の人の最後のセリフが今でも耳に残
のに」と言い残し、自分の考えにふけるように行ってし
った。「当局が最初からもっと常識があったらよかった
ャに負けて計画を止めざるを得なくなりました」と説明
た。その朝、町へ行くと駅前の看板の所に人々が集まっ
深く考えて「昨日はたくさんの犠牲者が出たけど」と言
している男が片手で猫の頭をつかんで、他方の手で包丁
っている。
市で殺りく」という戦闘的なタ
を猫の方に脅すように振りかざす、という大変ぞっとす
した目で見ていた。「
るような写真だった。男は痩せた顔でカメラの方を充血
ていた。近づくと、看板に
地方の新聞のフロントペー
写真とニュースがもたらした全国のメディアのプレッシ
A
家に帰って大ニュースを妹に教えると、妹は「ペン
は本当に剣より強し」と言った。その通りだと思った。
A
の女の人に会った。彼女は「大ニュースがあります」と
った。そして午後母と町に行ったところで動物愛護協会
エルピーはソファの上で寝ていたので彼ではないはずだ
た。
「写真の猫はエルピーに似ていた」と妹に言ったが
場の猫は皆殺された」と思って悲しい気持ちで家に帰っ
イトルが写真の上に書いてあった。「やっぱりキャンプ
A
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この小説は皆さんのおかげで、やっと、出版できるようになりました。
ありがとうございます。
特に、僕のつたない日本語を我慢して直してくれた次の方に感謝を伝えたいと思
います:
田中 ゆうこ
川井 なつこ
田中 はるみ
北後 さぶろう
今度 みのる
澤井 みかこ
レオナルド
27
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