Neue Fahne Journal

No.125
2016.5.16
ノイエ・ファーネジャーナル
Neue FahneJournal
[発行元]株式会社ノイエ・ファーネ
〒101-0043 東京都千代田区神田多町2-7-3
三好ビル
℡.03-5297-1866
http://www.n-fahne.jp
雇用形態を横断する
社内制度に向けた基本的視点
― 正規・非正規の枠組みに囚われない、パフォーマンスを基準にしたマネジメント ―
株式会社ノイエ・ファーネ
代表取締役
本間 次郎
(ほんま
じろう)
1954年生まれ。大学在学中より出版・編集業務に携わり、卒業と同時に出版・編集業界にて、主に労働経済関係を
フィールドとし取材・執筆、編集業務に携わる。中小企業経営者向け経営専門誌の編集、人材教育・研修ツール等
の作成および人事・組織コンサルティング業務を経て㈱ノイエ・ファーネを設立。
本稿は雑誌『近代中小企業』2016年5月号の特別企画“人が集まる会社”に寄稿した『雇用形態を横断する社内制度確立
に向けたガバナンスの基本』に加筆したものです。
多様な雇用形態が前提
経過措置があるにせよ企業は定年後の 的職務に従事する層」(長期蓄積能力活
従業員を「本人が再雇用を希望すれば、 用型グループ)、定型的職務に従事する
企業は再雇用条件を提示する」ことが
必須となった。つまり、一つの職場に
プロ層」(専門能力発揮型グループ)、
そして「雇用柔軟型グループ」の3つ
雇用形態の多様化による企業の人材
への対応は、労働行政の変遷や法令改
正に大きく規定されるようになってき
大別して正規雇用から非正規雇用の多
様な雇用形態が混在する状況が常態化
するようになっている。また、就労ビ
に区分するという「雇用ポートフォー
リオ」論を展開した。この報告に沿う
形で日本の雇用が今日の様相を呈して
た。多様な雇用形態を前提とした企業
の社内制度を確立することが人材の有
ザを取得した外国人雇用も一般化して
きた。さらには中小企業のメーカーで
きたとみることができるのだが、歴史
効活用にとって重要な課題となるだろ
う。当然のことながら社内制度とは単
は技能実習生という名の実質的な外国
用ポートフォーリオ」論に相応する形
人雇用も定着化している。
での制度が確立しているわけではない。
に正規雇用を対象としたものに限定す
従って、企業は一般的に「使用者」
と「労働者」という単純な雇用構造か
つまり、雇用の多様性については歴
史も浅く、現在も過渡期であるため労
ることなく、雇用形態を横断したもの
として施行される必要がある。何故な
らば事の是非は別として今日の日本の
的にはわずか20年の事であるため「雇
ら「多様な雇用形態」を前提とした人 働行政や法律対応も目まぐるしく変化
材政策が不可避となってきた。しかし、 しているわけだ。ほぼ毎年のように改
ところで、今日の企業現場に「多様
正される労働法制は、こうした過度期
の証左でもあり、当然のことながら個
別企業の人材政策は、この過度期を意
視点から捉えなおす必要があるだろう。 な雇用形態」が一般化してきたのは、1
企業規模の大小に関わりなく今日で 995年に当時の日経連(現・日本経団連)
識して展開していくことが重要になっ
ている。
雇用労働者の約40%が非正規雇用であ
るからだ。そこで雇用の多様化に対応
する基本スタンスを職場ガバナンスの
は「多様な雇用形態」の従業員が存在
現実の進行に各企業の人材政策が追い
付いていない現状は否めない。
している。一つの職場に正規雇用者、
が掲げた「新時代の『日本的経営』~
挑戦すべき方向とその具体策~」が端
派遣労働者、契約社員、パートアルバ
イト社員、業務委託など5~6形態が存
緒になっていることは周知の事実だ。
「新時代の『日本的経営』」は、日本
正規・非正規の
雇用区分は無意味
在している。また、「改正高年齢者雇
企業が高度成長から低成長・グローバ
ル化を先取りし、雇用形態を「非定型
そもそも「社員」という位置づけは
用安定法」が施行され、中小企業には
- 1 -
法律的には資本の“出資者”のことを
にとっては従業員からの適正な労務提
担当者が自らの業務の前工程と後工程
指している。実際に労働法では「社員」
供に対する報酬を支払うという関係に
を把握できるようにしなければならな
という表記は存在せず、「従業員」な
いし「労働者」である。従業員ないし
ある。従業員の労務提供に対する支払
いは、あくまでも総額人件費コストと
い。職務要件の定義と業務フローの明
確化は、雇用形態による差異という属
労働者とは「雇用契約」によって業務
に従事する者であり、非常勤の役員、
いう枠組みで捉えなければならない。
従って、「正規・非正規」による雇用
人的な要素を排除するということでも
ある。
使用人兼務役員扱い、顧問、パート、
形態の差異を意図的に強調する必要は
同様に一旦退職した高齢者を再雇用
アルバイトなども含まれる。ところで
なく、働きに対するアウトプットが評
する場合にも単純に「定年延長」とい
何時頃から「社員」という呼称が一般
価基準でなければならない。
う感覚での雇用は、職場に無用な軋轢
化したかについては諸説あるが、日本
では従業員を「社員」と呼ぶことによ
り、「自分たちも会社の一員だ」とい
う意識を持たせメンバーシップ=仲間
意識を醸成するものとして機能してき
たことだけは確かだ。これが戦後日本
の高度成長を通じてあたかも日本的と
を生み出すことになる。このために退
職務要件定義と
業務フローの明確化
職時期に至る前から明確に再雇用の下
での自らの役割認知をしてもらう必要
がある。決して自動的に「働き続ける
ことができる…」という意識ではなく、
企業内での多様な雇用形態の存在は、 企 業 の 側 が ま ず 、 再 雇 用 者 に 対 し て
今後の少子高齢化にともない外国人技
「何を求めるのか」「何を期待するの
いう冠で特異化されてきたことになる。 能実習生実習や直接的雇用の機会増加
か」「何を目的とし、どのような目標
同時にこの陰には労働を提供する側と
使用する側という労使関係が企業内に
なども含めてますます拡大されてくる。 設定をしてもらいたいか」という点を
このため企業規模を問わず多様な雇用 明示化することだ。また、企業の側が
限定された労使関係として展開され、
労働組合が企業別に組織されてきたこ
とにも大きく規定されている。
形態の混在を前提とした現場マネジメ
ントでなければならない。ところが、
現実的には現場マネジメントを司るマ
再雇用者に対して具体的な後進指導の
対象を明記し、どのような職務経験を
伝承させていくのかという点などにつ
確かに企業組織で働く一人ひとりが
メンバー意識を持ち、共通の目的に向
ネジメント層の意識は、旧態依然とし
たメンバーシップの構成員たる「正規
いてしっかりと確認しておく必要があ
る。企業の側が何となく「今まで通り
かって協働(貢献)し、組織の一員と
して役割を果たす参画意識は雇用形態
雇用」至上主義の域から脱していない。 の仕事をしてもらう」という姿勢で、
現場において雇用形態によって業務内 再雇用者に対して以前と同様の役割や
に関わりなく必要なことだ。むしろ、
この貢献意欲の欠如が新たな問題をも
容が区別されているように錯覚されて
いる。
生み出してきている。ありていにいえ
ば従業員の中に「正規雇用」が正規の
メンバーであり、「非正規雇用」は正
しかし、実際には多くの職場で定型 進のモチベーションも下がり組織内に
業務と非定型業務の関係が曖昧にされ、 無用な「世代間バトル」を生み出して
非定型業務を行うのが「正規雇用」、 しまう危険性もある。
規のメンバーではないという意識構造
の下では本来的な協働意識など生まれ
定型業務を行うのが「非正規雇用」で
あるなどという明確な区分はなされて
るはずもない。逆に無意味な対立構造
が生み出され、いつしか「労・労対立」
いない。「正規雇用」であったとして
も多くの一般社員は定型業務の遂行に
という構造さえ生み出すことになって
従事し、定型業務をさして疑問にも思っ
きた。
職務を与えるならば、本人のモチベー
ションも下がるのは必定だ。同時に後
適正な評価が組織を
活性化させる
ていない。マネジメントの視点からす
多様化する雇用形態のもとでは適正
とりわけ、自らの仕事(ジョブ)の内
るならば定型業務に従事している者の
な評価実践が職場ガバナンスの基本と
容や生み出される成果を判断基準とす
雇用形態の区別による差を明確に規定
なる。「評価」の大前提は、“何を”
ることなく、正規メンバーであること
する必要もある。
評価するかであり、その「評価」すべ
自体に意義を見出す意識構造からは、
そこで雇用形態に関わりなく企業あ
き対象を明確にすることだ。さもなけ
自らの働きや仕事内容への問いかけや
るいは事業所ごとに存在している業務
れば「評価」は恣意的なものとなる。
問題意識は形成されてくるはずもない。 内容の一つ一つに対して、職務要件の
まして正規雇用が「よいこと」で、非 定義(ジョブ・ディスクリプション)
「年功」による「評価」が主流の時代
正規雇用が「わるいこと」であるかの
を明確にすることが重要になる。職務
るごとに経験が積まれていくものであ
論理の組み立ては、雇用形態の差異に
要件を定義するとは、個々の従業員が
る」という暗黙の了解を前提としてい
よってあたかも仕事(ジョブ)に違いが
果たす職務の目的、目標、責任、権限
た。これが処遇や報酬に対する「評価
あるかの錯覚を持つことになり、「働
の範囲を明確に規定し、責任や遂行す
誤差」が生まれる温床ともなってきた。
く」という概念さえもが曖昧になって
くる。雇用契約において仮に雇用形態
べき仕事内容と期待される成果などを
明確に示すことを意味する。同時に担
従業員に対して企業が「何を求め、何
を期待するのか」を明確にした判断基
が異なっていたとしても、雇用する側
当者ごとの業務フローを明確にして、
準が曖昧であるならば結果的には「情
- 2 -
には、「社員の業務遂行能力は歳を経
意」が横行することになる。以下に掲
げるのは、極めて単純な「評価の基準」
となるべき観点だ。
の確保)
の存在は正規・非正規を問わず企業組
織の桎梏である。企業内でパフォーマ
2. 職務意識
ンスの低い従業員の存在は、パフォー
・会社方針の正しい理解と、それに沿っ
1.能力:業務を円滑に遂行する上での
マンスの高い従業員から見たならば組
織ガバナンスの低下として映り、組織
た部門の運営
・責任感に裏付けられた、積極的な提
知識や技術の蓄積
2.実績:評価対象となる期間内に具体
に対する不信感を招くことにもなる。
この結果、パフォーマンスの高い従業
案の励行
・努力はもちろん、結果を出すまで満
的に「何をやってきたか」という業務
遂行実績
員は新たなフィールドを求めて去って
いき、会社にパフォーマンスの低い従
足しない
・全ての問題を自分の問題としてとら
3.成果:業務遂行実績を踏まえた上で、 業員が滞留することになり、いつしか
期間内のアウトプット結果
組織の活性化を失うものだ。従って
える当事者意識
・会社(組織)サイドに立った発言や
[評価の3つの基準]
「評価」は報酬と連動して初めて個々
「ペイ・フォー・パフォーマンス」を
の従業員のモチベーションとして機能
するものとなる。そこで従業員に浸透
受容するカルチャーづくりは、企業に
とって極めて重要な人事マネジメント
させなければならないのが「ペイ・フォー・
パフォーマンス」(明確な業績の達成
課題となっている。
マネジメント層の役割を
明確にする
度合いに応じて支払われる賃金形態)
という考え方だ。つまり、“勤続年数
によって形成されるであろう”という
属人性を排して、あくまでもアウトプッ
行動
3. 役割(仕事)
・仕事と人の管理、仕事の改善、部下
育成、経営の補佐
管理職の「責任・職務意識・役割」
という概念は、役職に就いたからといっ
て日常的な業務過程の延長線上に自然
発生的に形成されるものでは決してな
トの結果を基準にするということだ。
もちろん、個々の企業における給与体
系の変更には万全の計画と準備が必要
雇用の多様化に対応していくために
は、マネジメント層の強化が大前提と
なる。とりわけ中小企業では現場のマ
い。個人の自然発生性に依拠するなら
ば、登用された個々の管理職ごとの経
験則に基づいた「自分流」が蔓延り、
だが、少なくとも以下の観点をあらゆ
る機会を通して従業員に涵養させてい
ネジメント層に対して職務要件で役割
を明確に定義しておくことが重要だ。
従業員に対する指導方法や評価基準に
一貫性を欠くなどの弊害が生まれる。
く必要がある。
1.報酬は年齢や勤続年数、あるいは将来的
何故ならば中小企業では往々にして職
務内容の習熟度と関わりなく、社歴や
極端にいえば今日の厚生労働省による
労働行政に無頓着で従業員に対して配
な「期待値としての能力」に対して支払わ
れるものではない。
経験則という曖昧な判断基準により管
理職への登用(昇進)が行われる傾向
慮を欠いた行動などは、過去の経験則
でしか物事を判断することのできない
2.報酬は会社業績と個人の「業績に連動す
る」ものである。
3.報酬は個人の「仕事の内容と結果」に対し
があるからだ。
中小企業のマネジメント層は多くの
場合プレーヤーとしても機能している
管理職に典型的にあらわれる。こうし
た管理職の存在は、企業にとって労働
訴訟リスクともなってくる。
ため、日常業務の遂行に埋没しがちに
なる。このため本来的に求められるマ
管理職の「責任・職務意識・役割」
は企業ごとに職務要件として明示され
常に社内・社外、集団、個人により不
ることはできない。まして、会社が十
ネジメント業務に必要な「役割」と
「職務意識」に伴う「管理職としての
分な収益をあげられなければ従業員に
対してボーナスを払うことができない
責任」を定義して明示化することが極
めて重要だ。
だ。つまり、現場の管理職が多様な雇
用形態を横断的に捉えてマネジメント
のは自明の理となっている。また、自
管理職の職務要件で強調するポイン
していくためには、自己表現、表出力
を含む「自己理解能力」と状況を察知
て支払うものである。
当然のことながらパフォーマンスの
悪い従業員の給与を定期的に上げ続け
分のパフォーマンスを顧みずに昇給や
トとは以下の3点だ。
ボーナスが支払われると発想する従業
1. 責任
員は、文字通り“ぶら下がり人材”以
・与えられた経営資源を最大限に活用
外の何者でもない。“ぶら下がり人材”
し、部門目標(予算)を達成(利益
断の意識づけを通して形成されるもの
して多様性を受入れる「他者理解能力」
の強化が不可避となっている。
社内研修・コンサルティングのご提案
「最近、"困った人"を何とかしたい…」との相談事が多くなってきています。
そこで、個別ヒアリングを基にして、教育指導などの面で企業が施す必要がある
課題を見極めて施策の提案を行います。また、具体的に"困った人"への組織対処
計画の策定などのご支援をします。
[連絡先]ノイエ・ファーネ/本間
- 3 -
日本の雇用システムは労働法令の改正を含めて大きな転換点を迎えています。この雇用システムの転換は、企業に
おいてリスク管理視点からの労務管理の重要性が増してきます。また、人事マネジメントの在り方に大きな影響を
及ぼしてくることは必定です。そこで、企業において人事・労務を担当する方々はもとより、現場でマネジメント
に携わっている方々や広くヒューマンビジネスに携わる人びとによる不定期な集いを通して、忌憚のない本音の討
議や意見交換を行う“場”=サロンとして、“ミニ・フォーラム”を再開し今後の人事マネジメントの帰趨を考え
て行きたいと思います。
人事マネジメント課題は現場において採用(入口)から出口(雇用調整)までのあらゆる過程で発生するものです。こ
のため相互の経験や実例を踏まえたうえで広角的な課題の見極めや課題解決に向けた道筋の模索が有益になると考
えます。“ミニ・フォーラム”は各回とも問題提起に基づいて参加者相互が討議や意見交換の中で見地を高めあい、
職場におけるマネジメントの新たな方向性や労務管理の視点を探求していく端緒になると考えています。
第18回
ミニ・フォーラム
「同一労働同一賃金」をめぐる
論議の流れを読む
政府の目玉政策である『一億総活躍社会』の実現に向けた一環として「同一労働同一賃金」が話題になっています。
既に“派遣社員ら非正社員と正社員の格差を是正する”との掛け声で有識者会議での検討も始まっています。また、
最近では各方面で俄かに「同一労働同一賃金」をめぐる論議が盛んに始まってきました。そこで、「同一労働同一賃
金」論が興ってきた系譜からみて、いま議論されている「同一労働同一賃金」は、これまでの企業の賃金制度にとっ
てどのような意味を持っているのか。はたして「正規」と「非正規」に区分された現状で多様化した雇用形態が存在
する雇用現場で、「同一労働同一賃金」の導入の現実性はあるのか。仮に「同一労働同一賃金」が企業に義務づけら
れた場合には、どのようなことが想定されるのか。
ミニ・フォーラムでは、これまでの日本の賃金制度を踏まえて「同一労働同一賃金」の行方、これからの賃金のあり
方について議論を深めていく端緒にしたいと考えます。
◎問題提起:「同一労働同一賃金」の現実性
株式会社ノイエ・ファーネ
代表取締役
本間次郎(ほんまじろう)
プロフィール
■
■
いま、賃金制度改革が主張され始めた背景
現状の「正規・非正規雇用」の実体と
「同一労働同一賃金」の問題点
経営者と従業員の両視点から見た
「同一労働同一賃金」の課題
■
[日 時]
[参加費]
[会 場]
5月18日(水)
2,000円
1954年生まれ。大学在学中より出版・編集業務に携わり主
に労働経済関係をフィールドとし取材・執筆、編集業務に
携わる。中小企業経営者向け経営専門誌の編集、人材教育・
研修ツール等の作成および人事・組織コンサルティング業
務を経て2010年11月より現職。
17:30~20:00(受付開始17:20~)
※当日会場で承ります。
ちよだプラットフォームスクウェア
(本館B1 ミーティングルーム004)
〒101-0054 東京都千代田区神田錦町3‐21
竹橋駅(東西線) 3b KKRホテル東京玄関前出口より徒歩2分
[申込欄]
申込欄にご記入の上、FAXでお申込み下さい。ホームページからもお申込みできます。
会 社 名
参加者名(ふりがな)
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[主催/お問合せ先]㈱ノイエ・ファーネ
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℡03-5297-1866
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