豚敗血症のPCR を併用した確定診断の一考察

豚敗血症の PCR を併用した確定診断の一考察
○甲斐雅裕1)、西本清仁2)
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大分県食肉衛検、2大分県豊肥保
【はじめに】当所での豚の敗血症の精密検査は、各検体を寒天培地に塗抹、培養後、発育した菌をグラム染色、鏡検す
る方法(以下、スタンプ法)が行われているが、一部の個体では細菌の発育が悪い場合や、染色像のみで菌種を判別する
ことが困難な場合がある。そこで、より正確かつ迅速な診断法として、今回、増菌培養を行った液体培地から抽出し
た DNA を用いた PCR の併用(以下、PCR 法)の有効性について検討した。
【材料と方法】(1)検体:2013 年 11 月から 2014 年 11 月の間に、当所が検査業務を行っている O と畜場に搬入された
豚で、敗血症と診断した 33 個体について、疣、心筋、肝臓、腎臓、横隔膜、リンパ節、脾臓および肺を検体とした。(2)
スタンプ法:各検体を血液寒天培地および卵黄加 GAM 培地に塗抹、37℃、18~24 時間培養後、グラム染色により菌が認め
られた検体を発育陽性とした。(3)PCR 法:増菌用液体培地として TSB もしくは GK ブイヨンを用い、各検体を 10ml の液
体培地が入った試験管に加え、37℃、18~24 時間好気培養後、培養液からボイル法により DNA 抽出を行った。PCR は
S.suis、S.dysgalactiae、A.pyogenes、E.rhusiopathiae の 4 菌種を同定するプライマーを用いて実施し、電気泳動によ
り特異的バンドを認めた検体を遺伝子検出陽性とした。
【結果】スタンプ法において、33 個体中 3 個体(9.1%)は疣以外で発育陽性の検体が認められず、9 個体(27.3%)は疣
を含む 2 検体のみで陽性となった。一方、PCR 法では、起因菌を同定できなかった 1 個体を除くすべての個体におい
て 3 検体以上で遺伝子検出陽性となり、18 個体(54.5%)については 8 検体すべてで陽性となった。スタンプ法と PCR 法
を比較すると、33 個体中 30 個体(90.1%)において、PCR 法の陽性検体数がスタンプ法を上回っていた。
【考察】今回検討したほとんどの個体において、PCR 法の陽性検体数がスタンプ法を上回っていたことから、本法の敗血
症診断法としての有効性が確認された。特に、スタンプ法では疣以外で発育陽性の検体が認められなかった 3 個体につい
て、PCR 法では 7~8 検体で陽性となったことから、菌の発育が悪い個体における検査法として非常に有用であると考
えられる。また菌種同定に関して、スタンプ法では疣分離株のみキットで同定していたが、PCR 法では各検体から特定遺伝
子を検出するため、純培養行程が不要となり同定までに掛かる時間が 1 日以上短縮されることから、正確かつ迅速な
敗血症の診断が可能となると考えられる。