Title A群β溶連菌による実験的腎炎起生,とくに同種腎投与の 影響について

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A群β溶連菌による実験的腎炎起生,とくに同種腎投与の
影響について( Abstract_要旨 )
浜野, 正美
Kyoto University (京都大学)
1966-11-24
http://hdl.handle.net/2433/212018
Right
Type
Textversion
Thesis or Dissertation
none
Kyoto University
【172 】
氏
浜
野
正
はま
の
まさ
み
学 位 の 種 類
医
学
博
士
学 位 記 番 号
論
学位授与 の 日付
昭 和 41 年 11 月 24 日
学位授与の要件
学 位 規 則 第 5 条 第 2 項 該 当
学位論文題 目
A 群 β溶 連 菌 に よ る 実 験 的 腎 炎 起 生 , と くに 同 種 腎 投 与
の影響 につ いて
医
博
美
第 321 号
(主 査)
論
文
内
容
の
要
旨
急性糸球体 腎炎 の発症 には感染 ア レルギ- の関与が推定 されている。 なかで も本症 の大部分がA 群 β溶
連菌 の感染後 に発症す ることはひろ く認 め られ て い る。 この間の機序 を明 らかにす る目的で , 既 に鳥居
は, A 群 β溶連菌多糖体分画 による抗原抗体反応 の手続 によ り家兎 に実験的急性糸球体 腎炎 の起生 を行 い
うることを明 らかに した。 しか し, 鳥居 の実験では臨床像 は ヒ ト急性糸球体腎炎 に比 し明 らかに弱 く, さ
らに附加 さるべ き因子 のあることが推定 された。 一方 , 馬杉腎炎は実験的腎炎 のモデル と して異論 はない
が, 使用抗腎血清は異種であ り, ヒ ト腎炎発症 とはかな り異 った手続 きによ っている。 また, ヒ ト急性 腎
炎回復期や慢性 腎炎患者血清中には, 抗腎抗体 が認め られている。 すなわ ち, ヒ ト急性糸球体 腎炎 に も自
己腎抗原およびそれ に由来す る抗腎抗体 が, 何 らかの役割 を果す のではないか と考え られ る。 本実験 は,
この観点 に立 って行われた。
狸紅熟腎炎患児 の兄弟例 よ り純培養状 に分離 したA 群 β溶連菌 12型株 (田中株 ) の死菌 ワクチ ンで家兎
を15 日間にわ た り 5 回感作 し, その第 4 , 5 回 目に同種 腎 トリプ シ ン消化抽出液を溶連菌 ワクチ ンと共 に
投与 した。 つ いで感作終了後 11 日目に, 該菌 よ り抽出 した粗製
C 一多糖体 による惹起注射を行 ない, 次 の
どとき成績 を得 た。
1 ) 惹起注射群では, 全例 に軽度ない し中等度 のシ ョック症状 を認めた。 抗 C 一多 糖体価 の高 い もので
は, 強いシ ョック症状が認 め られた。
2 ) 尿所見 : 惹起注射後 1 週以 内には10 羽中 7 羽に蛋 白尿 が認 め られ , 全経過 を通 じてみ ると, 全例 に
尿蛋 白の出現 がみ られた。 尿沈漆中の赤血球は , 全例 のy3が陽性 (200倍拡大顕微鏡下で 1 視野 中 1 コ以
上) で , 沈漆のベ ンチジ ン反応 は半数以上が陽性 を示 し, 対照群 に比 し異常尿所見 出現率 が高か った。
3 ) シ ョック症状 の強 さと蛋 白尿 および赤 血球 出現 との間 には特別 な関係 を認めなか った。
4 ) 抗腎抗体価は惹起注射群 において , 実施 した 8 例 中 2 例 に惹起注射施行後 6 週 目に上昇 を認めた。
5 ) 腎組織所見 : 惹起注射 1 週後 には明 らか に, 急性 および慢性糸球体腎炎像 を得 , 3 - 4 週頃 になる
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と, 急性期の好 中球浸潤は消 越 しは じめ るが, 係蹄細胞や メザ ンギ ウム細胞の浮腫像 はなおの こり, メザ
ンギ ウム増殖 , 軸性
PA S
の陽性物質の増加などの変化が増強 , 一部 には細網化がみ られ , ヒ ト糸球体腎
炎 の遷延化像類似の所見 が出現 して来 る。 しか し 6 週後に至 ると, これ らの所見 はやや軽快す る。
6 ) ワクチ ンを Schlepper と して トリプシ ン消化腎抽出液を 2 回注射 したのみで も, 8 週後 に軽度 の
糸球体腎炎像 を呈す る。 以上の実験成績 は次 の ことを示す。 す なわ ち溶連菌群 に関す る多糖体抗原抗体反
応 によ って , 急性糸球体腎炎 が惹起 され る。 さ らに同種腎抗原 の添加 は急性糸球体 腎炎像 に遷延化像 を附
与す る。 この ことは ヒ ト急性糸球体 腎炎 において抗腎抗体 の流血 中- の出現 が, 急性腎炎回復期や慢性腎
炎等 に認め られ ることの意義 に, 始めて実験的根拠を与えた といえよ う。
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
急性糸球体腎炎の起生 につ いては A 群 β溶連菌
C 一多糖体 とその抗体 との抗原抗体反応が注 目されてい
る。 また, ヒ ト急性糸球体腎炎回復期 , 遷延性 ない し慢性糸球体腎炎患者血清中に抗腎抗体 が認め られ る
ことは, ヒ ト糸球体腎炎で 自己腎が抗原 と して作用 している機序 を うかがわ しめる。 著者は この点 に着 目
して研究 を行 な った。
A 群 β溶連菌 12型催腎炎性株 の死菌 ワクチ ンで家兎を感作 し, 感作後半 に ワクチ ンを Schlepper と し
て同種腎 トリプ シ ン消化抽出液投与を行な った。 その結果 , 溶連菌多糖体分画による抗原抗体反応 と腎抗
原添加 によ って被験動物 に急性糸球体腎炎 が明 らかに認め られた。 この急性期の変化は 3 - 4 週後 には消
槌 して くるが , 一方で ヒ ト糸球体腎炎遷延化の際 と類似の像 が出現 して くる。 この遷延化像 も惹起注射 6
過後 にはやや軽快す るが, 抗腎抗体 の出現 を一部 に認めた。
以上の成績 は, A 群 β溶連菌壁成分 と糸球体血管基定膜 との問 に共通抗原性 があることにかんがみ , ヒ
ト急性 ない し遷延性糸球体腎炎 の際 に抗腎抗体 が出現す ることの意義 について , 始めて実験的根拠を与え
る端緒を開いた ものであ り, 医学博士 の学位論文 と して価値 ある もの と認定す る。
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