第 2 回スクール・パリ協定 第一回目のパリ協定特別作業

第 2 回スクール・パリ協定
「SB44 と APA1 を前にポイントまとめ」
WWF ジャパン 小西雅子
第 2 回スクール・パリ協定
SB44 と APA1 を前にポイントまとめ
気候変動に関する国連会議
国連気候変動枠組条約第 44 回補助機関会合(SB44)及び
パリ協定特別作業部会(APA1)を前に
第一回目のパリ協定特別作業部会の開催:パリ協定のルール作りが始動する!
2016 年 5 日 16 日から 26 日にかけて、ドイツ・ボンにおいて国連気候変動枠組条約第 44 回補助機関会合
(SB44)及び第 1 回パリ協定特別作業部会(APA1)が開催される。すべての国を対象とし、法的拘束力のあ
る協定となった画期的なパリ協定は、困難な交渉の結果として、大枠は決まったものの、そのほとんどの詳
細なルールは、今後の国際交渉にゆだねられている。そのため今後のルール作りがパリ協定の実効力を左右
する、非常に重要なポイントとなる。また、こういったルール作りは、世界が初めて、今世紀後半に実質排
出ゼロを目指すために、どのようなやり方がよいのかを具体的に決めていく作業である。見方を換えれば、
ルール作りは、新しいビジネスチャンスを誕生させる過程ということになる。
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「SB44 と APA1 を前にポイントまとめ」
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主な舞台は、パリ協定の発効と第一回パリ協定締約国会合(CMA と呼ばれる※1)に向けた準備をすること
になっている、「パリ協定特別作業部会(APA と呼ばれる※1)」となる。しかし、ルール作りは、APA だけ
ではなく、SBI や SBSTA においても行われるため、国際交渉上注目される論点や、日本にとって関心の深い
トピックについて、APA だけではなく、SBI、SBSTA にも目配りする必要がある。
今回のボン会議は、第一回目のパリ協定締約国会合が開催されるため、いよいよパリ協定のルール作りが
始動すると言える。その APA1 と、第 44 回目となる SBI、SBSTA が開催される今回の SB44 で注目される点を、
APA1 における 4 つのアジェンダと、発効に向けての動きの 5 つに分けて紹介する。
※1:APA(Adhoc Working Group on the Paris Agreement:パリ協定特別作業部会)とは、パリ協定の発
効のための準備と、パリ協定第 1 回締約国会議(CMA: The Conference of the Parties serving as the meeting
of the Parties to the Paris Agreement)の招集の準備を行う特別作業部会(COP21 決定パラ 8)

COP21 決定とパリ協定の最終版:Decision 1/CP.21(2016 年 1 月 29 日版)
http://unfccc.int/resource/docs/2015/cop21/eng/10a01.pdf
パリ協定の仮訳
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000151860.pdf
*COP21 における決定は、「(2020 年以降の枠組みである)パリ協定」と、「COP21 決定」の二つ
からなることに留意。パリ協定の発効前の事項、および 2020 年までの取り組みに関しては主に
COP21 決定を見る必要がある。
SB44 & APA1 についての前に:パリ協定の批准について
2016 年 4 月 22 日のニューヨークの署名式で、175 か国署名、15 か国批准した
2016 年 4 月 29 日現在で、177 か国が署名、16 か国が批准、世界の排出量の 0.03%を占める
UNFCCC :パリ協定の批准について最新状況を知るのに、一番おすすめページ
http://unfccc.int/paris_agreement/items/9444.php
署名国の詳細を知るには?
https://treaties.un.org/pages/ViewDetails.aspx?src=TREATY&mtdsg_no=XXVII-7-d&chapter=27&lang=en
パリ協定の発効について:法的必要事項とその意味(UNFCCC の説明文書)
http://unfccc.int/files/paris_agreement/application/pdf/entry_into_force_of_pa.pdf
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批准に関する留意点

第 21 条:少なくとも 55 の条約の締約国であって、温室効果ガスの総排出量の 55%を占める温室効果
ガスを排出するものが、批准書、受諾書、承認書または加入書を寄託した日の後、30 日後に発効(21
条 1 項)、協定発効後に批准、受諾、承認、加入する国は、寄託後 30 日目に効力を生じる(21 条 4 項)。

第 28 条:協定が発効してから 3 年を経過後には、いつでも書面によって脱退の通告を行うことにより、
この協定から脱退できる(28 条 1 項)。脱退の通告後、1 年経過してから脱退が可能となる(28 条 2
項)
⇒
つまりアメリカの場合は、オバマ大統領が 2016 年中に批准し(3 月 31 日に中国とともに発表)、
55/55 の条件を満たしてパリ協定が発効した場合には、4 年間は脱退できないことになる。(もっとも
28 条 3 で、条約から脱退する国はパリ協定も脱退したとみなされるとの規定はある)

署名とは、パリ協定の内容に基本的に同意し、将来、国内における議会などの承認手続きを経て正式に
批准する意思があることを示す手続き。そのため署名した国は、法的な拘束力はまだかからなくとも、
少なくともパリ協定に向けて各国が提出した削減約束などが大きく妨げられるような行動はとっては
ならない(条約法条約 18 条)

NDC(Nationally Determined Contribution:約束草案)は、Interim Registry(仮の登録簿)に登録され
る(4 条 12 項)(http://www4.unfccc.int/ndcregistry/Pages/Home.aspx)。批准した 16 か国がすで
に提出。

登録簿についての様式や手続きは、SBI における合意によって進められる。

批准する前にも、NDC を通告することができる。
1.SB33
APA1 の注目点
COP21 と COP22 議長からの Reflection Note
今回のボン会合をはじめ、今後どのように進めていくかについて説明
http://unfccc.int/files/meetings/paris_nov_2015/application/pdf/reflections_note.pdf

パリ協定は、すべての国のバランスを取った妥協の産物で、法的拘束力のある世界共通の協定。パリ協
定合意に至った勢いを維持して、ようやく見つけたバランスを今後も協力して維持し、国別目標を公共
政策や投資へつなげること。

交渉の段階は終わって、いよいよパリ協定の実施(運用開始)の段階に入ったこと。

今後の作業を行動へつなげるために
(a) パリ協定の発効を確保
(b) 国別目標を達成するための国内措置のサポート
(C)行動を強化するための協力イニシアチブを追及
(d) 2020 年までの緩和と適応の強化行動
(e)2020 年までと 2020 年後の資金・技術・キャパビルを動員
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(f) パリ協定第 1 回締約国会合(CMA1)に、パリ協定の運用を開始できるようにするために、パリ協
定で定められた作業計画を進めていくこと
*パリ協定で定められた作業計画は多岐にわたり、4 つの会議の場に分かれて議論されることになって
いる。それぞれ関連するため、相互に進捗を報告・確認・統合(CLUSTER)しながら進めていくことに
なっている。
参照:作業計画のまとめ REFLECTION NOTE の ANNEXⅡ
→
今後この作業計画に基づいて、進捗状況をみられるウェブサイトが UNFCCC で展開されることにな
っている。
参照:今後の作業計画がどの会議の場で議論されていくかを示した図(REFLECTION NOTE ANNEXⅠ)
2.APA1 のアジェンダ4つ

ボン会合では、パリ協定で決まっている APA に与えられた 4 つの主要アジェンダ(国別目標、透明性、
グローバルストックテイク、実施/遵守)をどのように議論を進めていくかを決める

今のところ、4 つに分けたグループ分けなどは提案されておらず、4 つをハイレベルなアプローチで行
くのはどうか、とされている
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⇒
過去の交渉では、ぎりぎりの妥協で成立した国際合意の後には、バックラッシュがあって、どのア
ジェンダから先に交渉する、ということでおおもめにもめた経緯がある(アジェンダファイトと呼ばれ
る、いわば代理戦争で、中身の議論に時間が費やされない)。それが避けられるか?
2.1.APA1の 4 つの主要なアジェンダ
(1)国別目標に関して:削減目標に関わるルールについて

CMA1 で採択される国別目標の特徴についてのさらなるガイダンス(para 20)

国別目標の中身について、理解を深めるためと、透明性を促進するために、提供されるべき情報につい
てのさらなるガイダンスを発展させること(para 26)
⇒

その他、SBSTA44 において、市場メカ&非市場メカの議論(para 31,36,38,39)
⇒

各国の比較可能性を増し、野心レベルを上げるための仕組みであるため、非常に重要
日本の二国間メカニズムはここで議論される
その他、SBI44 の国別目標の登録簿の様式や手続きの議論も重要。たった今の国別目標は INTERIM
REGISTRY(暫定登録簿)に登録されている。なお、締約国は批准の前に国別目標を登録しても構わないこ
とになっており、批准の暁にはそれがパリ協定における正式な国別目標として扱われる。
(2)透明性に関して

パリ協定において重要となる透明性(削減目標をきちんと達成しているかどうかを国際的にチェックし
ていく仕組み)の内容やそのプロセスをどうするか。これは、削減目標の話だけではなく、途上国への
資金や技術支援がちゃんと行われているか、それをどのように国際的にチェックしていくかも入る。
COP24(2018 年)までに、様式や手続き、ガイドラインを決めることになっている(para
91,92-95,97-98,96)
⇒
資金や技術援助は、途上国の削減意欲を左右する重要なポイントであるから、世界全体で削減して
いくためには欠かせない論点。透明性は、パリ協定において最後まで対立が深かった点。
(4)実施及び遵守の仕組み

(注意:説明のしやすさのため(3)と(4)を入れ替えてある)
懲罰的な遵守の仕組みを持たないパリ協定において、それぞれの国の実施を担保するための仕組み(遵
守促進メカニズムはある)をどのように作っていくか
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(3)グローバルストックテイク(全体の科学的進捗評価)

各国の掲げる削減目標を足し合わせて、全体としてパリ協定の目標である、2 度未満に気温を抑えるに
足るかを科学的に進捗評価していく過程(グローバルストックテーク)のやり方(para 99)

SBSTA44 の IPCC インプットのやり方(締切 APA2(COP22))
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2.2. 発効に向けた準備

上記の準備は、ほとんどが CMA1 となっている。つまり、発効までに、パリ協定のルールブックを作る
ことが今後の交渉の中心

ほとんどの締切が CMA1 となっている中、特に重要な透明性ルールの締め切りは、COP24(2018 年)、わ
ざわざ 2018 年までに終わることとなっている。

早期の発効がされた場合に備えて、その時点でまだ批准していない国のための措置が議論される(議長
REFLECTION NOTE para.19)
⇒
発効したら、本来は締約国だけがルール作りに権利があることになるが、批准手続きが済んでいな
いからと言って、ルール作りに参加できなくなる事態を避けるための措置

早期に発効した場合に、まだ批准していない国が、パリ協定に表明した国別目標を変えたり、2020 年
までの約束を変えたりすることはないことを明記している。
⇒
まだ批准していない国が、批准前に、公表した国別目標を下げることにないように(パリ協定は 5
年ごとに目標の改善を求めている)という“釘”を刺している。
⇒
早期の批准がかなり想定内にあることを前提として議論項目の立て方
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3. その他の注目点
3.1. SBI44
途上国の削減行動(2020 年までのカンクン合意下)の初めての国際レビュー
http://unfccc.int/national_reports/non-annex_i_parties/ica/items/8621.php
カンクン合意下で決まっている BURs (途上国の隔年報告書)と NC(国別報告書)に基づく国際的なレビュー
(ICA: International Consultation and Analysis)の下における、促進的な見解の共有(FSV:Facilitative
Sharing of Views)
※カンクン合意の下での国際レビューは、まだ先進国と途上国との間に明確に差を設けてあり、それぞれ報
告も国際レビューも形式が違って、名前も違っている。先進国が明確に国際的なレビューであるのに対し、
途上国には促進的な見解の共有とされている。
参考:カンクン合意におけるMRVがどのように先進国、途上国に分かれているかの名称
隔年報告書
国際的なレビュー
多国間の質疑応答
先進国
BR
IAR
MA
途上国
BUR
ICA
FSV
5 月 20 日、21 日開催予定:
http://unfccc.int/national_reports/non-annex_i_parties/ica/facilitative_sharing_of_views/items/
9382.php
今回の促進的な見解の共有の対象は、BUR を提出して、テクニカル分析が終了し、最終レポートが、2 月 29
日までに終了している国が対象:ex. アゼルバイジャン、ボスニア・ヘルツゴビナ、ブラジル、チリ、ガー
ナ、ナムビア、ペルー、韓国、シンガポール、南アフリカ、マセドニア、チュニジア、ベトナムの 13 か国
(アルファベット順に行われる)
。
インドは BUR 提出済みだが、またテクニカル分析が終了していない。中国はまだ BUR を提出していない。
4 月 29 日現在で、BUR を出しているのは、31 か国
隔年報告書(BUR)を提出している途上国の情報ページ
http://unfccc.int/national_reports/non-annex_i_natcom/reporting_on_climate_change/items/8722.php
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3.2. 2018 年の促進的対話につながる「リマからパリへの行動アジェンダ LPAA」のフォローアップ
2020 年までの行動強化の一環として、LPAA のフォローアップが行われる。野心レベルを向上させるための
技術的対話(Technical Examination Process)や、ハイレベルチャンピオン、非国家主体のイニシアティブの
リーダーシップ、また資金や技術援助など、野心のレベルを上げるための対話
⇒
これが 2018 年に行われることになっている、現状の 2025/2030 年目標の底上げにつながる促進的対話の一
部となることが期待されるために注目される。
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3.3. 新しい UNFCCC の事務局長
2010 年メキシコ・カンクンで開催された
COP16 において、失敗に終わった COP15 を
乗り越えて「カンクン合意」として見事に
まとめ上げたのが、メキシコの議長パトリ
シア・エスピノーザ。このたび次期 UNFCCC
議長に選ばれることになった。その手腕
で、パリ協定の実施を力強く進めていくこ
とが期待される。
©WWF Japan
COP16 カンクン会議で演説するエスピノーザ議長
4.ボン会合の意義を示す 4 つのポイント(*個人的な見解であることに注意)
(1) 交渉が終わって、実施の段階に入ったこと
これまでの温暖化交渉の段階を終えて、いよいよパリ協定の運用を開始(実施)するための準備の
段階に入ったこと。第一回目のパリ協定特別作業部会が始動する。パリ協定の運用開始のための準
備会合が始まったことになる。ルールブック作りは、世界経済を左右する温暖化対策の世界共通の
ルールを作る場。日本の産業の国際競争力の行方を左右するルール作りとなる可能性大。
ルール作りで特に重要なのは、国別目標のガイダンス作り(透明性を確保して、いかに目標レベル
を促進できるような情報を出させることができるか)、透明性のルール作り(比較可能性を高め、遵
守力を高められるか)など。
(2) パリ協定は早期の発効が、国連交渉における前提であること
米中が 2016 年中に批准(受諾)手続きをすることを表明したことによって、早期の発効が視野に入
ってきた。欧州連合は域内の官僚的な手続きのために 2016 年中の批准は難しいとみられるので、欧
州連合が批准する前に発効する可能性も?
前代未聞の 175 か国が署名した、という事実が語ることは、困難だったパリ協定の成立の勢いを維
持していこう、という世界の意思。
ほとんどがパリ協定発効後の第一回締約国会合(CMA1)までにルールブックを作ることを想定した
作業計画であり、特に重要な透明性は 2018 年から始動することと締め切りが区切られている。つま
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り早期の発効、少なくとも 2018 年くらいの発効が想定されるか?
つまり、いくつかの国が批准する前に発効する場合に備える必要があると受け取られているため、
その準備がこのボン会合の議題の一つとして挙がっている。
日本も様子見を決め込んでいる場合ではないのでは???
(3) 途上国の削減行動の国際的なレビューの開始、すべての国が温暖化対策を行う体制が本格的に始動
はじめて途上国の削減行動の削減行動の報告&国際的なレビュー(2020 年までのカンクン合意下)
が、ボン会合で始まる。パリ協定に向けて、すべての国が削減に参加する体制に移行していく第一
歩が始動。
意義:先進国・途上国に厳格な壁を設けていた体制から、すべての国へ移行する途中の段階と位置
付けられる 2013~2020 年までの取り組み(カンクン合意)の中で、移行の中途の段階として、「先
進国と途上国の双方が国際評価を受ける形は確保されたが、国際評価の型式は異なる」という段階
であるのが、今回(2020 年までの)の途上国の国際的なレビュー。
これらの算定・報告・検証の仕組み(MRV)が、先進国・途上国“共通の”様式に移っていくこ
とを決めたのがパリ協定。
(4) 2018 年の促進的対話に向けた 2020 年の見直しの機会と 2030 年目標の再検討のあり方を決めること。
これが、パリ協定における国別目標の事前協議(つまり野心のレベルを上げる方策の重要な要素)の
ひな型となっていくため重要。
なお各国には、2020 年までに、2030 年目標の再提出と、長期的な低炭素排出計画を提出することが
求められている。また、国別目標の達成のための国内措置を整備していくことも義務化されている。
これらのパリ協定から課されてくる国際的な宿題が、2020 年までにも矢継ぎ早に迫っている。
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