博士論文内容要旨 氏名 朴美善 (Piao Meishan) 学位の種類 博士(理工学) 学位記番号 学位授与年月日 学位授与の要件 学位規則第 10 条第 1 項該当 研究科 福島大学大学院共生システム理工学研究科(博士課程) 学位論文題名 産業立地と地域経済政策に関する研究 ―中国の周辺地域を事例として 論文審査委員 (主査)藤本 典嗣 董 彦文 石岡 賢 論文目次 第 1 章 序論 第 2 章 周辺地域における産業立地の分析枠組み 第 3 章 中国における地域構造の実態 第 4 章 周辺地域における産業立地と産業集積に関する実態分析 ―中朝ロ三カ国国境付近の延辺地域を事例に― 第 5 章 周辺地域の工業立地と雇用・労働環境の実態分析 ―労働者の雇用満足度に関するアンケート調査に基づいて― 第 6 章 周辺地域の工業立地と地域経済政策の展開と課題 ―地域経済のレジリエンスの視点から― 終章 参考文献 i 論文内容要旨 グローバル化・情報化が進行する過程で、産業立地の分散を主眼とした地域格差是正政 策と地域自立策の必要性は、ますます高まっている。また、各地域が画一的かつ同じよう な地域経済政策を採るのではなく、地域ごとに地域の文化、伝統、資源、技術、自然条件 を踏まえた、地域独自の発展戦略を採ることが必要となっている。さらに、既存の政策と その結果としての現状に関する単なる時系列の統計的比較だけではなく、企業の立地要因 と雇用・労働環境に関するヒアリングやアンケート調査などを通じた一次データの収集に 基づく、周辺地域の工業立地と産業集積に資する地域政策の中身に関する検討が必要とな っている。 そして、近年における大型自然災害の発生などによる地域経済発展の攪乱リスクや深刻 な環境汚染問題の顕在化などは、国の産業立地政策の根本的な見直しを迫られていると共 に、自然環境的、社会経済的なリスクへの耐性と危機後の回復力、すなわちレジリエンス を高める地域経済システムの構築が必要となっている。 以上のような問題意識を踏まえて本研究では、農村地域、辺縁地域、民族地区など個別 に取り上げてきた「問題地域」を、 「周辺地域」として統合的に位置づける。そして、周辺 地域における所得や就業構造、民族問題などの住民レベルでの把握が中心であったこれま での周辺地域研究に、産業立地論的議論と地域政策論的議論を付け加え、中国における周 辺地域研究に関する新しい視点を提示することを目指している。 特に、矢田俊文の地域構造論における理論的枠組みを参照しながら、国土政策と産業立 地の空間分布に焦点をあて、中国における「中心―周辺部」構造の形成メカニズムと、そ れが周辺地域の経済発展に及ぼす影響を明らかにし、周辺地域における産業立地の促進に 基づく自主的な発展の可能性について考察する。 そして、本研究では、経済地理学と空間経済学および企業立地論の視点から、中国にお ける空間的な地域間格差の発生メカニズムとその実態、および産業立地と経済発展の条件 が異なる地域における産業発展の実態、地域経済構造の変容、およびそれと関連する地域 政策に関する実証分析をおこっている。 本研究の分析に基づく主要な結論は、主に以下のような 4 点に統括できる。第一に、中 国における地域際収支と工業立地の実態との関係に関する分析に基づいて、中国の中心― 周辺関係の地域構造の実態を明らかにした上で、経済成長と産業誘致に向けた地域産業政 ii 策や不均衡是正策が、周辺地域では必要である、ということを明らかにしている。第二に、 国境が経済成長の障壁となっている周辺地域においても、地域の経済統合に伴う輸送費の 低下と国境貿易の増加が、企業立地と産業集積の形成をもたらす萌芽となりうる、という ことを指摘している。第三に、周辺部の中国延辺地域における工業立地にかかわる雇用・ 労働環境に関する定性的、定量的分析、すなわち製造業労働者を対象としたアンケート調 査に基づき、労働市場の地域間格差を明らかにした上で、周辺地域の雇用条件や労働因子 の優位性が低い、という事実を明らかにしている。第四に、日本と中国における大型自然 災害や外部経済の変動などの地域経済成長の攪乱リスクへの対応可能性、すなわち、地域 経済のレジリエンスに関する分析に基づいて、地域アクター主導型の地域産業政策が、周 辺地域では必要である、ということを明らかにしている。 iii
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