Page 1 MI I " A HI ÚT – I T R I D. 首都大学東京機関リポジトリ | Tokyo

Title
Author(s)
大規模地下空洞盤下げ掘削における効率的施工法に関
する研究
河邉, 信之
Citation
Issue Date
URL
2010-03
http://hdl.handle.net/10748/2197
DOI
Rights
Type
Textversion
Thesis or Dissertation
publisher
http://www.tmu.ac.jp/
首都大学東京 機関リポジトリ
大規模地下空洞盤下げ掘削における
効率的施工法に関する研究
2010年3月
首都大学東京
都市基盤環境工学 769
Kawabe Nobuyuki
氏名 河邉信之
大規模地下空洞盤下げ掘削における
効率的施工法に関する研究
2010年3月
首都大学東京
目 次
第1章 序論
1.1本研究の背景と目的…………・…・…・……………・一・…・・…・……・・…・…・…・…………・・……………・…1
1.2 本論文の構成’…………………………・…・…・………・…………・・一・…・………・・………’’”…’”……10
第2章 大規模地下空洞盤下げ掘削の現状
2.1盤下げ掘削における掘削工法の現状…・・……………・・………・………・……・……・……・…………15
2.2盤下げ掘削における発破規模の現状………・…・……・…・……・………・・…………・……・…………19
2.3盤下げ掘削における施工性に関する現状…・・……………・……………・・…・……・………・…・…・・20
24第2章のまとめ・…………・・…・………・…・……・………・…………・………一……・…・………・…………23
第3章 大規模発破適用による効率性向上に関する検討
3.1概説………・・…………・・……………・………・……・…・……・…・………・……・…………………・・………・……27
3.2 ,奥多々良木発電所増設工事地下空洞の概要………・…・……・……………・・…・…・・……………・・28
3.3 大規模発破適用にあたっての課題と対応…・……………・・………・……・…………・・………・……35
34 実施工結果と考察……………・…・………・…・……・……………………・…………・…・……・…………・…44
3.5 大規模発破施工フロー…・・………・…………・…………・…・………・……・……………・…・・…一’……59
3.6第3章のまとめ…………・・……・………・・………・……・…………・・……・………・…・……・…・……………61
第4章 緩め発破適用による効率性向上に関する検討
4.1概説…・・………・…・・………………………・…………・・…………・……・・……・……・・…………………・………65
4.2 小丸川発電所地下空洞の概要………一……・……………一・…一…………・一……………・…66
4.3緩め発破に関する既往の研究・………………・……………・・…・……・…・…………………………・・…74
4.4緩め発破適用にあたっての課題………一……・…………・…・…・………・…・……・……・・…………77
4.5地下空洞盤下げ掘削への適用と計測結果・・…………・・…・・…・……………・…・………∴…………79
4.6 空洞の安定性に対する数値解析による検証・・………………・・………・………・……・……・……・・86
4.7緩め発破適用の施工性に関する検証・…・…・…・・……・・………………・・………・……・…・・…・……・93
4.8第4章のまとめ・…・・…・・……・…一…・……………・・……………・・………・…・・…・・………・…・……・……95
第5章 盤下げ掘削における最適な発破手法の選定
5」 概説・………………・…………・…・…・……・…・……….___._.__._____.._.___.___..._gg
5.2 盤下げ掘削における発破手法選定フロー…・…・……・・…・・…・…・……・・…・…………・・……・・・…100
5.3第5章のまとめ………・………・…・…………・…・…・・……………・・………………・・………………・・……106
第6章 結論と今後の展望
6.1本研究のまとめ……・・…………・…・……・………・・………・・…・・…・…・…・……__.__.___._._.109
6.2 今後の展望………・……・…・・……・…………・・…………・….・・…______.__..__..._..__._113
付録 本研究に関連する発表論文………・…・……・一・……………・・………・………・・…・………一・117
言射 舌辛………・・…・…・………・…・……・・………・…・・…………・…………・・…・……………・………・・………・・………・119
第1章 序 論
1.1 本研究の背景と目的
(1)大規模地下空洞建設工事を取り巻く背景
人類の地下利用の歴史は極めて古く,石器時代に人類の祖先が自然の脅威や外敵から身
を守るために,天然の空洞を利用したことまで遡ることができる.それ以降,現代に至る
まで,地下空洞は様々な形態で利用されているが,第二次世界大戦後は,主に地下発電所
等の電力施設,石油備蓄,LPGガス備蓄空洞等を目的としたエネルギー貯蔵施設等に多く
利用されてきた1).
このうち,国内において数多く建設されてきた地下発電所地下空洞での施工事例を基に,
空洞規模の変遷を見てみる.図一1.1.12)に空洞掘削断面積の推移を示す.1960年台後半か
ら1980年代にかけて,スケールメリットを求めた発電所の大型化に伴い,空洞規模が飛躍
的に大きくなっており3),最近では,掘削断面積1,500m2近くを有する東京電力㈱葛野川
発電所地下空洞4)・5),神流川発電所地下空洞6)等も建設されている.また,図一1.1.27)に地
下空洞の建設地点における土被りの変遷を示す.発電規模の増加に伴い,特に揚水発電で
は上部調整池と下部調整池との高低差が必要になってきており,地下深部に建設される事
例が多くなっている.以上,これまでの地下発電所地下空洞の施工事例の変遷を見ると,
地下空洞の大規模化,大深度化の方向にある.
一方,地下空洞の利用目的を見てみると,最近では1994年のリレハンメルオリンピック
で使用されたノルウェーの地下アイスホッケー場8)や,国内初の岩盤地下美術館である高
山祭屋台美術館9)・10),東京大学宇宙線研究所による宇宙素粒子観測のための大規模地下空
洞(通称,スーパーカミオカンデ地下空洞)11)・12)等,多岐にわたっている.今後の地下空
洞の利用を考えても,試験施工中の放射性廃棄物処分を目的とした地下空洞13)の本格運用
やリニアコライダーの実験施設を収納する地下空洞14)等,大規模かつ大深度のプロジェク
トが多岐にわたる地下利用のなかで計画されている.
1
葛野川神流川
1500
。きのこ形 新毫瀬川 今市塩原 ゜°
● o
●たまご形・弾頭形
△円筒ドーム形
@ 喜響山 玉原
o
ハ水力
−一
@’ 南原第二沼沢天山
奥多娘蝕゜°°
作第二〇〇本川o俣野川
沼原・騨瀬川第{。下郷・大河内
1000
御母衣 高根第一 奥美濃
奥只見ぎ獣新冠寧☆ °
乍
)
黒部川第四:木曽 東の沢褒道寺
藝
㌦谷
.1羅
雨竜 。 壼 伊奈21第二
500
皇 須面貝 皇川俣 一
右左府 有峰第三
伊予川 2 莞石
2 三縄
A
0
1940 1950 1960 1970 1980 1990 層 2000 2010
運 開 年 …
図一1.1.1地下発電所地下空洞断面積の推移2)
0
100
ε200
へ
法300
貧
・H400
◎ O COO
。 8. ・ 。 °。
o O o ●● ●
O ● ● OO
● ●
● ● ● ●
° ・・㌻ ゜・ ・
o一般水力 ●● ●
●揚水発電 ゜
500
1940 1950 1960 1970 1980 1990
着工年
図一1.1.2 地下発電所地下空洞の土被りの変遷7)
2
次に,地下空洞建設をめぐる社会的背景として,建設コストの観点から述べる.図
一1.1.315)一部修正に1965年度以降に着工された大規模地下空洞の建設コストのうち,掘削単価
の推移を示した.大規模地下空洞の建設コストに関わる資料は一般的に公表されていない
ため,示せるデータ数は少ない.掘削単価の推移を見ると,1980年頃までは掘削単価が上
昇している一方で,1980年以降着工の大規模地下空洞については,1m3あたりの掘削単価
は5,000円前後で,ほぼ横ばいである.また,図一1.1.416)に日本道路公団(現,東日本高
速道路株式会社,中日本高速道路株式会社,西日本高速道路株式会社)での積算ベースで
のトンネル工事コストの推移を示す.大規模地下空洞掘削単価の推移と同様に,幅10m程
度の2車線道路トンネルの建設コストも,1980年以降,ほぼ横ばいである.さらに,消費
者物価が1980年以降上昇していることを考えると,トンネル工事費は,実質的に縮減して
いると考えれる.今後,わが国における人口減少に伴う社会資本整備の投資額の減少が予
想されること17)も考えると,地下空洞建設コストが,今後,増加していくとは考えにくく,
コスト縮減を図っていく必要がある.
以上,大規模地下空洞を取り巻く背景をまとめると,今後の大規模地下空洞については,
多岐にわたる地下利用計画のなかで,大規模化,大深度化の方向にあり,掘削量の増加に
伴って多額な建設コストも必要になってくるが,社会的背景から建設工事にかかるコスト
を縮減していく必要があるといえる.
3
10,000
※ 9,000
●地下発電所
圧 8,000
「石油備蓄
亘7・000
掛 6,000
コ
江 5,000
●
△
警4,…
罎3・…
㌔ 2・000
− 1,000
0
1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005
着工年
※穿孔,発破作業の直接工事費.ずり出し、支保工(吹付けコンクリートエ,
ロックボルトエ,ロックアンカー工)設置等の費用を除く.
図一1.1.3 大規模地下空洞掘削単価の推移15)一部修正
300
巴25°
+消費者物価
{トンネルエ事
8 200
馬
廿 150
§
60%
W loo
把 50
0
’79 ’81 ’83 ’85 ’87 ’89 ’91 ’93 ’95 ’97
年度 日本道路公団
注)トンネルコストは,本坑掘削,覆工等で,補助工法は含んでいない.
図一1.1.4 日本道路公団※トンネル本体工工事コスト推移16)
※現,東日本,中日本,西日本,各高速道路株式会社
4
②大規模地下空洞の特徴7い8い9)
通常のトンネルと大規模地下空洞は,その規模によって分けられる.内空断面積が100m2
までが標準的なトンネルであり,これを超えるものが超大断面トンネルと呼ばれている.
一方,大規模地下空洞は小さいものでも掘削断面積が300m2を超えるのが一般的で,
1,500m2を超えるものもある.図一1.1.519)に超大断面トンネルに分類される清水第三トンネ
ル,青梅トンネルと大規模地下空洞との断面規模の比較を示す.また,図一1.1.619)に,ト
ンネルと大規模地下空洞の建設地点の地山強度と空洞スパンとの関係を示す.線状の構造
物であるトンネルに比べ,ある限られた広がりの構造物である地下空洞は,良好な地山を
選択するなど立地条件を選択して建設している.ただし,今後は前述した多様な地下利用
の進展に伴い,地山条件の厳しい状況での計画が増えていくことと考えられる.
以上を踏まえ,大規模地下空洞の設計・施工におけるトンネルの違いを以下に示す.
・大規模地下空洞は通常,空洞上部からの長期にわたっての掘削となり,掘削ステップ毎
に空洞周辺岩盤の応力再配分がなされ,着目した箇所の岩盤i挙動は,その箇所の掘削が
完了した後も変化する.
・掘削に伴う影響範囲は掘削径に依存するため,緩み領域は広範囲に広がる.それに伴っ
て,大規模地下空洞の支保工は,ロックアンカーによる補強等,大規模な支保工となる.
・大規模地下空洞はその安定を周辺地山に依存している構造物であり,周辺地山の強度を
最大限利用している地下構造物である.施工にあたっては,周辺岩盤の支保能力を最大
限引き出すよう,周辺岩盤を傷めない慎重な施工が求められる.
5
60m
岬ンデ\!新高瀬川 /
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図一1.1.5 トンネルと地下空洞の断面規模の比較19) .、
70
@60 50 40 30 20+
●新高瀬川地下発電所
現状技術での施工限界線
硬岩大空洞
ジオドーム
ε
O今市地下発電所
ムチラタ地下発電所
ロヴァルデック五地下発電所
◇スーパーカミオカンデ
参40
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R
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、
灘、
一糾30
蘂
灘’§
簸麟
■
10
Vールド
gンネル
●菊間地下備蓄
▲ミラノ地下鉄(補助工法付)
■ランツベルク地下駐車場
石油地下備蓄
◆東名所領T(3車線)
都市
mATM
十 圏央道青梅T(2車線)
山岳NATM
×第二東名清水第三T(3車線)
0 10
100 ユ000 1000
一軸圧縮強度(kgf/cm2)
図一1.1.6 トンネルと大規模地下空洞の建設地点の地山強度と空洞スパンとの関係19)
6
(3}本論文の位置付け
一般的に,岩盤i内に設置される地下空洞の掘削は発破方式によるものがほとんどであり,
空洞上部にあたるアーチ部を掘削した後,ベンチ発破を主体とする盤下げ掘削により施工
する.図一1.1.720)にわが国で建設された地下式発電所地下空洞のうち,奥多々良木発電所
増設工事地下空洞の掘削段階の断面図,表一1.1.121)に掘削工事工程表を示す.掘削量で見
た場合,盤i下げ掘削は地下空洞全体掘削量の約70∼80%,工程面で見た場合,掘削工事の
約60%を占めることから,盤下げ掘削の施工性を向上させることが空洞全体の施工性向上
に繋がると考えられる.図一1.1.8には,奥多々良木発電所増設工事地下空洞建設コストの
うち,アーチ部と盤下げ部,各々の占める割合を示した.地下空洞建設コストのうち,盤
下げ掘削が65%を占めていることから,盤下げ掘削の施工性を向上させ,盤下げ部の建設
コストを縮減することが,地下空洞全体のコスト縮減に繋がると考えられる.また,図
一1.1.922L部修正には,新高瀬川発電所地下空洞建設コストを掘削工,吹付け工,ロックボル
トエ,ロックアンカー工といった工種毎に分類した場合の,各工種が全体コストに占める
割合を示した:地下空洞掘削に関わる建設コストのうち,穿孔,発破といった作業を含む
掘削工が全体の44%を占め,大きなウェートを占めていることがわかる.したがって,地
下空洞の大規模化,大深度化に向けて建設コスト縮減が求められている状況で,本研究で
は地下空洞掘削工事で大きなウェートを占める盤下げ部の掘削工に着目し,施工性を向上
させる発破方法についての研究を行った.
ただし,前述したように,大規模地下空洞は空洞断面が通常のトンネルに比べ大きくな
り,空洞を安定させる支保工も大規模になるため,周辺岩盤の支保能力を最大限引き出す
よう,極力岩盤を傷めない施工方法が求められる.従来,大規模地下空洞の盤下げ掘削で
適用される発破手法についても,周辺岩盤を極力傷めない発破手法が適用されている一方
で,周辺岩盤への損傷防止を前提に効率性向上の観点から施工法の改善をした事例はなく,
従来の施工法を踏襲した画一的な施工法がほとんどである23).
したがって,本研究では,地下空洞の安定性を確保しつつ,盤下げ掘削の工程,コスト
等,施工性を向上させる施工法の確立を図った.
7
→
8の
ト
1
卜・
側壁切広
ド
中央導坑
側壁切広
oc
1リフト
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図一1.1.7 奥多々良木発電所増設工事地下空洞断面図20)
表一1.1.1奥多々良木発電所増設工事地下空洞掘削工事工程21)
対象
掘削量
@(m3)
アーチ部
19,370
盤下げ部
70,430
延月数
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14
55ケ月
8.5ケ月
8
アーチ部
35%
薦盤織鎌部講
華麟鷺轟輯譲
※アーチ部,盤下げ部の掘削費,支保工設置費等を合算した合計額を比較.
アーチ部で用いたSD(スロット・ドリリング)工法等の特殊工法を除く.
図一1.1.8奥多々良木発電所増設工事地下空洞掘削箇所毎のコスト比率
7%吹付け工鱗雛講
ロックボルト工 灘叢霧
16% 講欝籔ぶ泣
※ずり出し費用含む
図一1.1.9新高瀬川発電所地下空洞工種毎のコスト比率22)一部修正
9
1.2本論文の構成
本論文の構成フローを図一1.2.1に示す.
本論文は,次の6章より構成される.
第1章 序論
第2章 大規模地下空洞盤下げ掘削の現状
第3章 大規模発破適用による効率性向上に関する検討
第4章 緩め発破適用による効率性向上に関する検討
第5章 盤下げ掘削における最適な発破手法の選定
第6章 結論と今後の展望
以下に,各章の概要を述べる.
第1章は序論であり,大規模地下空洞を取り巻く背景から地下空洞盤下げ掘削における
効率性向上を図る必要性について述べるとともに,本論文の概要と論文の構成について概…
説している.
第2章では,わが国で建設された主な大規模地下空洞盤下げ掘削の施工実績を分析する
ことで,従来の盤下げ掘削で適用される掘削工法,1発破あたりの発破規模について明ら
かにした.また,従来の地下空洞盤下げ掘削の施工サイクルを分析することで,施工性に
関する課題を示している.
第3章では,盤下げ掘削の施工実績を分析した結果,1発破掘削量の少ない小規模発破
を繰り返し行っており,発破退避等のロス時間の積み重ねにより,施工性が低下している
ことが判明したため,1発破掘削量を多くした大規模発破の適用について研究した.
大規模発破の適用にあたっては,1}支保工完了までの無支保時間が長くなることによる
地下空洞の安定性に与える影響,2)発破が周辺岩盤に与える損傷が懸念されたことから,
1)地下空洞の安定に影響を与えない掘削時の適用指標の確立,2}周辺岩盤への発破による
損傷を低減した発破パターンの提案と周辺岩盤に与える損傷程度の解明を行った.また,
大規模発破を適用するにあたって,施工の効率性向上の観点から施工サイクルの最適化を
図っている.以上の大規模発破の適用研究にあたっては,関西電力奥多々良木発電所増設
工事地下空洞盤下げ掘削を対象に,実施工結果に基づく検証を行っている.
10
第4章では,上記,大規模発破は地質条件が良好で,空洞の安定性が高いと判断される
場合に適用される工法であり,この適用条件を外れる標準的な掘削工法,1発破掘削量に
対する効率的な施工法として,緩め発破の適用を研究した.緩め発破は,最近のわが国の
石灰石鉱山,砕石鉱山等でずりを存置したまま次回以降の発破を行っている工法24)・25)で
あり,装薬・発破とずり処理を併行作業することにより効率化を図っている.したがって,
この緩め発破を標準的な掘削工法である中割先進側壁切拡工法のうち,ベンチ掘削となる
中割部に適用することにより,施工の効率化を図った.ただし,適用にあたってはずりを
存置することによる地下空洞の安定,すなわち,緩め発破後ずりを存置している期間の空
洞の安定性に及ぼす影響が懸念されることから,この影響にっいて検証し,緩め発破の適
用範囲を明らかにした.以上の緩め発破の適用研究にあたっては,九州電力小丸川発電所
地下空洞盤下げ掘削を対象に,実施工結果に基づく検証を行っている.
第5章では,大規模発破と緩め発破の適用研究を踏まえ,地下空洞盤下げ掘削において,
地山条件等に応じ,空洞の安定性を評価した上で,最も効率的な盤下げ掘削工法を選択で
きる選定フローの策定を行っている.
第6章では,本論文の各章の研究成果をとりまとめるとともに,今後の大規模地下空洞
の盤下げ掘削の効率化にむけた展望を述べている.
11
(第1章)
大規模地下空洞を取り巻く背景,地下空洞盤下げ掘削の効率性向上を図る必要性
(第2章)
大規模地下空洞盤下げ掘削の現状分析,課題の整理
〉
D. (第3章)
邑i ‘●x .■ ll ●
…
{
空洞の安定性から見た大規模発破適用指標の確立
“
ュ破による周辺岩盤の損傷領域を低減した発破パターンの確立
@ 発破工法の違いによる周辺岩盤に与える損傷の解明
i 施工牲(工程,コスト)から見た施工サイクル最適化の実施
…
…
、
(第4章)
■■ ロロ ‘路 ・ 取 ●
1 “ 空洞の安定性から見た緩め発破適用指標の確立
1
、
1 施工性(工程コスト)から見た緩め発破適用の評価
1
’
、
(第5章)
大規模地下空洞盤下げ掘削における最適な発破手法選定フローの提案
(第6章)
結論と今後の地下空洞盤下げ掘削の効率化に向けた展望
図一1.2.1 本論文の構成
12
参考文献
1)土木学会:大規模地下空洞の情報化施工,pp 5−12,1996.11
2)日本トンネル技術協会:トンネル技術白書,pp.2−26,2006.1
3)日本電力建設業協会:施工から見た地下発電所の変遷と事例集,pp.12−14,2004.12
4)小山俊博,南部茂義,小松崎勇一:地下500mの大規模空洞 東京電力 葛野川地下発
電所,トンネルと地下,第28巻1号,pp.37−45,1997.1
5)大規模地下空洞連載講座小委員会:大規模地下空洞(7),事例 東京電力㈱葛野川地下発
電所,トンネルと地下,Vbl.29, No.11, pp.69−81,1998.11
6)前島俊雄,森岡宏之,伊藤俊彦:ゆるみ領域に着目した大規模地下空洞の情報化設計施
工 東京電力神流川地下発電所,トンネルと地下,第32巻5号,pp.29−38,2001.5
7)大規模地下空洞連載講座小委員会:大規模地下空洞(1),序論 大規模地下空洞の概要,
歴史,トンネルと地下,VbL29, No5, pp.63−67,1998.5
8)大規模地下空洞連載講座小委員会:大規模地下空洞(9),岩盤i地下空洞の新たな活用(1),
北欧における不特定多数が活用する岩盤地下空洞,トンネルと地下,Vbl.30, No.1,
pp.73−82, 1999.1
9)中田金太・近久博志・吉元洋・小林薫:国内初の岩盤地下美術館,高山祭り美術館の計
画,トンネルと地下,Vbl.27, No.3, pp.35−41,1996.3
10)大規模地下空洞連載講座小委員会:大規模地下空洞(最終回),岩盤地下空洞の新たな
活用(2),日本における不特定多数が活用する岩盤i地下空洞,トンネルと地下,Vbl.30,
No.2, PP.65−75, 1999.2
11)竹村友之,鶴見憲二,西村毅:スーパーカミオカンデ空洞の掘削,土と基礎,第46巻
第6号,PP28−30,1998.6
12)鶴見憲二,藤井伸一郎,中川哲夫:スーパーカミオカンデの空洞掘削について,資源
と素材,第111巻第6号,pp.381−386,1995.6
13)冨田敦紀,蛯名孝仁,福田勝美,戸井田克:地下深部約100mの堆積軟岩中に大規模
試験空洞を掘削,余裕深度処分埋設施設本格調査のうち試験空洞掘削工事,トンネル
と地下,Vbl.37, No.11, pp.39−47,2006.11
14)山下了:プロジェクト紹介 ∼リニアコライダー計画∼ 長大トンネルと大空洞でつ
13
くる科学技術拠点,岩の力学ニュース,No.78, pp.1−4,2006.2
15)株式会社間組:施工技術マニュアル 地下空洞,p.6,1983.12
16)今田徹:何がトンネル技術を発展させたか 一トンネル技術の発展をたどり,将来を
展望する一,第3回先端建設技術研究発表会 特別講演,財団法人先端建設技術セン
ター,p.71,2004.7
17)国土交通省:平成19年度度国土交通省建設白書
(h //www mlit o’/statistics/fileOOOOO4 html)
18)土木学会:大規模地下空洞の情報化施工,p.1,1996.11
19)大規模地下空洞連載講座小委員会:大規模地下空洞(3),大規模地下空洞の設計,トン
ネルと地下,Viol.29, No.7, pp.67−74,1998.7
20)加藤清策,蓮井昭則,河邉信之:新工法を駆使した地下発電所の急速施工,第40回施
工体験発表会,日本トンネル技術協会,pp.41−50,1997.11
21)関西電力株式会社:奥多々良木発電所増設工事記録,pp.524−564,1998. .
22)前述15),P.77
23)河邉信之,袋井肇,西村和夫:地下空洞盤下げ掘削における効率的施工を目的とした
大規模発破の適用に関する研究,土木学会論文集F,Vbl.65, No.2, pp.148−162,20094
24)山口梅太郎,柳瀬昇時:打掛け発破,石灰石,第289巻,pp.38−45,1997.9
25)山口梅太郎,柳瀬昇時:打掛け発破,EXPLOSION, Vbl.7, No.1, pp.2−10,1997.
14
第2章 大規模地下空洞盤下げ掘削の現状
2.1 盤下げ掘削における掘削工法の現状
表一2.1.11)∼17)に1970年代以降,わが国で建設された掘削量50,000m3以上の主な地
下空洞の空洞諸元と盤下げ掘削の施工実績を示す.
わが国では,主にCH級以上の良好な岩盤を対象に大規模地下空洞が建設されている.
掘削工法は主に以下の3工法に分類される.
・中割先進側壁切拡工法(図一2.1.1参照)
空洞横断方向に断面分割し,空洞中心の中割部を先行して掘削した後,空洞壁面近
傍の側壁部を掘削する工法.
・左右断面分割工法(図一2.1.2参照)
空洞横断方向の中心付近で左右に断面を分割し,左右交互に掘削する工法.
・全断面一括工法(図一2.1.3参照)
空洞横断方向に断面を分割せず一度に発破,掘削する工法.1発破あたりの発破規
模は大きくなる.
表一2.1.1の施エ実績に基づき,掘削工法について整理した結果を図一2.1.4に示す.
これによると,全体の70%を占める18件について中割先進側壁切拡工法が採用されて
おり,本工法が盤下げ掘削における主流な工法である.中割先進側壁切拡工法のうち
側壁部の仕上げ掘削は,1970年代後半以降,空洞長軸方向の穿孔・発破による掘削に
移行しているが,これは同時期に普及したホイールジャンボ18)による水平方向のスム
ースブラスティング(以下,S.B)が,周辺岩盤に与える損傷に対して最も効果があ
ると考えられていたためと推測される.
15
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図一2.1.1 中割先進側壁切拡工法の例
ら診
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図一2.1.2 左右断面分割工法の例
17
も紗
懐酬τpり
空洞幅(24m程度)
図一2.1.3 全断面一括工法の例
左右
図一2.1.4 大規模地下空洞における掘削工法の適用件数
18
2.2 盤下げ掘削における発破規模の現状
表一2.1.1に示した地下空洞の盤下げ掘削の施工実績分析結果より,従来の1発破あたり
の掘削幅,進行長,掘削高さ,掘削量について発破規模を明らかにする.
(1}1発破あたりの掘削幅
空洞横断方向に断面を分割する中割先進側壁切拡工法の場合,側壁部を平均4m程度残
すように中割部を先行して掘削した後,側壁部を切拡げ掘削している.なお,左右断面分
割工法の場合,1発破あたりの掘削幅は空洞幅の半分,全断面一括工法の場合は空洞幅で
ある.
(2}1発破あたりの進行長
1発破あたりの進行長は中割先進側壁切拡工法の中割部で平均9m,左右断面分割工法で
平均5m,全断面一・括工法で平均6mであり,明かり発破に見られるような1発破進行長が
大きな発破は適用されていない.この理由として,明かり発破においては発破後の残った
岩盤面の安定性が問題にされないのに対して,地下空洞盤i下げ発破においては空洞の安定
を確保するため,1発破掘削領域を小さくし,支保実施までのタイムラグを少なくする必
要があるためと推測される.
(3}1発破あたりの掘削高さ
揚水発電を目的とした地下空洞はほとんどがロックアンカーによる支保で計画されて
おり,1発破あたりの盤下げ高さは3m程度とほぼ一定である.これは,ロックアンカー機
械の施工高さの制約条件から定まっており18),掘削高さ方向の発破の大規模化を図るにあ
たっては制約条件が多い.なお,石油備蓄を目的としている地下空洞にっいては,ロック
アンカーによる支保工は計画されておらず,1発破あたりの掘削高さは4.5∼5.Omである.
(4)1発破あたりの掘削量
1発破あたりの掘削量は100∼600m3程度であり,全データの単純平均は300m3程度であ
る.1発破あたりの掘削量は空洞壁面への発破による影響の低減,発破後から一次支保完
19
了までの無支保時間を極力小さくするといった考えから,600m3程度が上限になっている・
一方で,同様な盤下げ発破を用いる砕石場等における明かり発破においては,経済性を重
視し,1回あたり数万m3に及ぶ大規模発破も実施されていること19)を考えると,地下空洞
盤下げ発破における1回あたりの発破は,小規模な範囲に留まっている.
2.3 盤下げ掘削における施工性に関する現状
表一2.1.1に示した大規模地下空洞のうち,関西電力奥多々良木地下発電所増設工事地
下空洞の盤下げ掘削1∼5リフトにおいては,2.1,2.2に示した従来,主流であった中割
先進側壁切拡工法による比較的小規模な盤下げ発破を繰り返している.図一2.3.1に、奥
多々良木発電所増設工事地下空洞1∼5リフトで実施した施工手順を示す.具体的な掘削
手順としては,幅15m,高さ3m,進行長10m,掘削量450m3の中割発破を行った後,幅
5m,高さ3m,1発破進行長3mの水平発破による側壁払い発破を実施している. ’
図一2.3.2に幅25m,高さ3m,長さ50mを対象とした施工実績に基づく各作業におけ
る純作業時間とロス時間の比率を示した.以下に,現状の中割先進側壁切拡工法の施工の
効率性,作業の安全性について示す.
・中割掘削,側壁切拡掘削とも比較的小規模な発破を繰り返しており,発破に伴う準備,
片付け,発破退避等のロス時間が全作業時間の21.6%にあたり,施工性を低下させて
いる大きな要因の一つである.
・中割掘削については穿孔・装薬とずり処理,側壁切拡掘削においては穿孔・装薬,ずり
処理,支保工と各作業が終了後,次作業に移行している.掘削作業が切羽に集約され
る通常のトンネルと異なり,地下空洞盤下げ掘削においては比較的,作業空間に余裕
があることから,各作業の併行作業等,施工性向上のための改善の余地がある.
・作業の安全性を考えた場合,現状の小規模な発破を繰り返すことは,火薬取扱い時の
災害や,頻繁な発破退避による重機車両災害に繋がる危険性の高い作業時間が多く,災
害発生のリスクが高い.
また,図一2.3.3には,掘削に関わるコスト全体のうち,ロス時間に相当するコストが
占める割合を示した.掘削に関わるコストを機械費,労務費,材料費に分類すると,機械
20
費は機械損料が主体であることから,作業時間に比例して変動する.同じく,労務費も作
業時間に比例して変動する.一方で,材料費は作業時間に影響されない.現状の機i械費と
労務費の合計は図一2.3.3に示すとおり,掘削コスト全体の65%を占めており,この合計し
たコストが作業時間に比例して変動する.ここで,ロス時間は全作業時間の21.6%を占め
ることから,このロス時間をなくした場合,機械費と労務費の合計65%のうち,21.6%分
が縮減できる.すなわち,ロス時間に相当するコストは,掘削に関わるコスト全体の14%
に相当し,ロス時間を短縮した場合,このロス時間に相当するコストが縮減できる.
8
o
1617@3000=5000
ll壁発破
」iL趾_部_ 」幽_
、
側壁←
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穿孔・発破 穿孔・発破
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ずり処理 ずり処理
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次サイクルへ 支 保 工
側壁←
次サイクルへ
中割発破
5@10000=50000
図一2.3.1 中割先進側壁切拡工法の施工手順
21
穿孔 装薬・発破ずり処理 吹付けロックボルト
1 114 1,6 0、6 L4 1.O
l I
l l
l l
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l l
[::]各作業における純作業時間
\各作業における準備,片付け等のロス時間
※幅25m×長さ50m×高さ3rnを対象に中割部、側壁部の作業時間を合計した。
図一2.3.2 中割先進側壁切拡工法の純作業時間とロス時間の比率
薩麹作業時間に比例して変動するコストの割合 ロス時間に相当するコスト
機i械費(38%)十労務費(27%)=65% 65%×0.216=14%
⇒ 蹴
純作業時間に相当するコスト
購 笏霧 轍携藁i霧綴鱗
掘削に関わるコスト※のうち 掘削に関わるコスト※のうち
機械費,労務費,材料費の割合 ロス時間に相当するコスト
※1リフト幅25m×延長50m×高さ3mを対象に中割先進側壁切拡工法にて掘削.
吹付けコンクリート(t=8cm×3層),ロックボルト(L=5m,1.5mピッチ),金
網の施工を含めた掘削コスト.
図一2.3.3掘削に関わるコスト全体のうちロス時間に相当するコストが占める割合
22
2.4第2章のまとめ
本章では,わが国で建設された主な地下空洞の盤下げ掘削の施工実績を分析することで,
従来の盤下げ掘削で適用される掘削工法,1発破あたりの発破規模を明らかにした.また,
従来の地下空洞盤下げ掘削の施工サイクルを分析することで,大規模地下空洞の施工性に
関する課題を示している.
本章により得られた成果を以下に示す.
1}盤i下げ掘削工法の主流は,中割部をベンチ発破で先行した後,掘削幅4m程度の側壁
部を水平発破で切拡げ掘削する中割先進側壁切拡工法が主流である.
2}発破規模については,中割部で1発破進行長最大10m程度,ベンチ高さ3m程度であ
る.1発破掘削量を明かり発破と比較した場合,600m3を上限とした比較的小規模な発
破に留まっている.
3)中割部,側壁部とも穿孔・発破,ずり処理,支保工(吹付けコンクリート,ロックボ
ルト)といった各作業が終了後,次作業に移行しており,各作業の併行作業の実施等,
施工性向上のための改善の余地が残されている.
4}中割先進側壁切拡工法の施工サイクルを分析した結果,小規模な発破を繰り返すこと
で,発破退避等のロス時間が全作業時間の20%を超えており,施工性を低下させてい
る.また,ロス時間に相当するコストは,掘削に関わるコスト全体の14%程度を占め
ることから,施工性向上に伴い,ロス時間を短縮した場合,コスト縮減に繋がる.
23
参考文献
1)土木学会:大規模地下空洞の情報化施工,pp.44−45,1996.11
2)日本電力建設業協会:施工からみた地下発電所の変遷iと事例集,PP.39−65,2004.12
3)菊池功,田中親治,田中紘一:地下発電所の本体掘削と壁面仕上げ発破について 一
奥多々良木地下発電所の施工例一,間組技術年報 土木・機械編 一1974−,PP.55−63,
1974.
4)高瀬 元:地下発電所の施工実績と反省 一大平地下発電所の施工例一,間組技術年
報 土木・機械編 一1974−,pp.35−53,1974.
5)前田祐正,佐藤昭,佐々木勇一:地下発電所の施工と実績 一馬瀬川第一発電所の例
一,間組技術年報 土木・機械編 一1975−,pp.A.30g−342,1975.
6)中部電力株式会社:奥矢作第一発電所,奥矢作第二発電所建設工事報告,pp520−521,
1982.9
7)三宅清士:玉原発電所地下構造物の施工,土木施工,第21巻6号,pp.11−18,1980.6’
8)佐藤昭,鈴木隆三,世一英俊:地下発電所の周辺岩盤の安定を考慮した掘削方法につ
いて 一第二沼沢発電所新設工事の例一,間組技術年報 土木・機械編 一1979−,
pp.A−239−256,1979.
9)四国電力株式会社:本川発電所工事誌,p.388,1984.
10)小山俊博,南部茂義,小松崎勇一:地下500mの大規模空洞 東京電力 葛野川地下
発電所,トンネルと地下,第28巻1号,pp37−45,1997.1
11)東京電力株式会社:葛野川発電所建設工事報告,pp.1250−1254,2001.
12)手塚昌信,加藤清策,河邉信之:大規模地下空洞における効率的掘削システムの提案
とその適用,トンネル工学研究論文・報告集,第7巻,pp.169−174,1997.11
13)前島俊雄,森岡宏之,伊藤i俊彦:ゆるみ領域に着目した大規模地下空洞の情報化設計
施工 東京電力神流川地下発電所,トンネルと地下,第32巻5号,pp29−38,2001.5
14)西田米治,牟田潤,日比谷啓介:三陸海岸に築く大規模地下空洞群 久慈地下石油備
1 蓄基地,トンネルと地下,第22巻7号,PP.7−14,1991.7
15)岡本淳,山本和彦,西嶋国昭:領家帯花闇岩に急速施工で大断面連設空洞を築く 菊
間地下石油備蓄基地,トンネルと地下,第23巻2号,pp.7−13,1992.2
24
16)加藤元彦,前島俊雄,中島秀一:地下50mにLPG岩盤貯槽を建設,土木施工, Vol.48,
No.3, pp.48−53,2007.3
17)加藤元彦,前島俊雄,平井友幸:LPG岩盤貯槽掘削における情報化施工,基礎工,
Vol.35, No.9, pp.75−78,2007.9
18)日本電力建設業協会:施工からみた地下発電所の変遷と事例集,pp.30−65,2004.12
19)工業火薬協会:新・発破ハンドブック,pp.179−186,19885
25
第3章 大規模発破適用による効率性向上に関する検討
3.1概説
従来の盤下げ掘削の施工サイクルを分析した結果,小規模発破に起因する発破退避等
のロス時間の積み重ねが,施工性を低下させている一因であることから,発破規模を大き
くした場合,発破回数が減少し,施工サイクルが向上する可能性がある.一方で,大規模
発破を適用した場合,支保工完了までの無支保時間が長くなり,地質不良部を中心に空洞
の安定性に影響を及ぼす可能性があることから,その適用にあたっては地山条件等を見極
めていく必要がある.また,大規模発破の適用を考えた場合,従来,主流であった比較的
小規模な発破を繰り返す中割先進側壁切拡工法に代わり,空洞横断方向に断面分割をせず,
一括して発破を行う全断面一括工法の適用が考えられる.従来の中割先進側壁切拡工法の
適用は,分割して発破を行うことで,周辺岩盤への発破による損傷を低減することを目的
としていること1)から,全断面一括工法適用時に周辺岩盤の損傷低減に着目した発破パタ
ーン選定手法を確立する必要がある.
関西電力奥多々良木発電所増設工事地下空洞盤下げ掘削1∼5リフトでは,中割先進側
壁切拡工法による比較的小規模な発破を繰り返していたが,空洞の大部分が岩盤等級CH
級以上の良好な岩盤であること,周辺岩盤の計測結果から注意すべき岩盤の範囲を掌握で
きたことから,6リフト以降大規模発破の適用を試みた.
本章2)では始めに,空洞周辺の計測結果等に基づき,大規模発破を実施し支保完了まで
多少のタイムラグがあったとしても,空洞の安定に大きく影響を与えない掘削時の指標を
明らかにした.次に,全断面一括工法を適用した場合における周辺岩盤への損傷低減に着
目した発破パターンを提示するとともに,その有効性を奥多々良木発電所増設工事地下空
洞の施工実績を基に示した.あわせて,全断面一括工法と中割先進側壁切拡工法との周辺
岩盤に与える損傷範囲が同等であることを明らかにした.最後に,実施工結果に基づき工
程,経済性の観点から,地下空洞盤下げ掘削を対象とした施工サイクルの最適化検討を行
った.
以上の大規模発破適用検討を踏まえ,一連の大規模発破適用時の施工フローを示した.
27
3.2 奥多々良木発電所増設工事地下空洞の概要3)∼ll)
奥多々良木発電所増設工事は,昭和49年に運転を開始した既設発電所の上部調整池と
下部調整池を現状のまま利用し,既設の地下発電所空洞に隣接して地下揚水式発電所
(36万kW×2基)を建設するものである.このうち発電所地下空洞は地表面下250mに
位置し,掘削横断面は幅25m,掘削高さ47mの弾頭型空洞で空洞延長は130mである.
図一3.2.19)に地下発電所縦断面図,図一3.2.29)に地下発電所横断面図を示す.
川地下空洞周辺の地質状況
空洞周辺岩…盤の地質は中生代白亜紀中期(110百万年∼90百万年前)の生野層群の火山
岩類に属する流紋岩を主体としており,最大幅5m程度のひん岩の貫入が認められる.ひ
ん岩の貫入面近傍や破砕帯,変質帯などの狭い範囲に電力中央研究所のダム基礎岩盤分類
で,CM級以下のやや劣化した岩盤が分布しているものの,主たる地質である流紋岩の岩
盤等級はB∼CH級と良好である.
図一3.2.34)に地下空洞掘削時の地質展開図,図一3.2.44)に電力中央研究所の岩級区分に
基づく岩級分布図を示す.また,地下空洞掘削前に既設発電所横坑,調査横坑で各種岩盤
試験・室内岩石試験を実施している.このうち,表一3.2.14)に平板載荷試験結果,表一
3.2.24)にボーリングコアによる室内岩石試験結果を示す.
28
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E』145.200
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EL電138.900
B−2
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2,000
D000
15600
9400
25000
図一3.2.1 地下発電所横断面図9)
空調機室
5信000 8.000 9,000 8.500 9{500 9.500 8.000 6.5003250 10,500 3フ50 7,000 5,500 8,000 1,000
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主要変圧器室
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始動装置室
機器搬入トンネル
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130¶000
図一3.2.2 地下発電所縦断面図9)
29
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31
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表一3.2.1 平板載荷試験結果4)
D
B級流紋岩
q殻流紋岩
載荷時
Es
荷 時
除
Es
Et
kf/cm2
kfycm2
195,000
188,000
クリープ率
kfアcm2
kfrcm2
Et
kf/cm2
168,000
191,000
187,000
∼
262,000
∼
∼
∼
∼
∼
278,000
266,000
280,000
273,00⑪
0.09
(ヱ96,000)
(228,⑪00)
(227,⑪00)
(232,000)
(244,00⑪)
(0・07)
34,000
78,000
79,000
81,000
フ9,000
⑪.05
∼
∼
∼
∼
∼
P14,00⑪
P60,000
127,000
P60,000
127,000
P60,000
Q08,000
160,000
79,000
13仏000
0.⑪5
∼0.07
(0.06
D:変形係数、Es:割線弾性係数Et:接線弾性係数 {)内数字は平均値を示す.
表一3.2.2 ボーリングコアによる室内岩石試験結果4)
流紋岩
B級
表乾比重 Gt
吸水率W(殉
Vp
弾性波
ik誠e⇔
Vs
ikm∼記c)
CH級
2.49
2.5ヱ
2.77
@ ∼・2.62
@ ∼2、60
@ ∼2.60
@ ∼2.55
@ ∼2.80
@ 258
@ 2,56
@ 255
@ (2.54
@ f2.79
⑪.98
⑪.63
1.02
L97
∪71
@ ∼1.?6
@ ∼2.75
@ ∼3.26
@ ∼2.86
@ ∼1、43
@(1.36
@(1。64
ミ.97
@ 2。36
@ u8
5.56
4.72
4.95
5.27
5.62
@ ∼6.42
@ ∼6.25
@ ∼5.82
@ ∼5.%
@ ∼626
@f5,78
@ 5。61
o5.41
@ 553
@ 5.96
2.66
2.19
土71
2.⑪5
2.60
@ ∼3.⑪9
@ ∼3.25
@ ∼3ユ1
@ ∼2.94
@ ∼3.01
@ 2.97}
@ 2.84
?Q,47
@ (2.64
@ (2.87
121
46
圧縮強度 σs(kgf〆Cmう
1,475
静ボアソン比 聡
B級
B級
2.49
93
@ fx1ぴk卸Cm2)
CM級
ひん岩(
2.56
弓1弓長強度 {ヨt(kgガcm2)
静弾性係数Es
凝灰岩
1,36⑪
51
643
1,007
62
974
535
5.8⑪
4」7
5.69
5.03
0.22
0.23
⑪32
0.25
022
75
150
12ユ
49
54
63
強度定数
粘着力c(kg鈎mう
160
内部摩擦角 φ(°)
( )内数字は平均値を示す。
32
(2)地下空洞支保パターン
地下空洞の支保パターンは,吹付けコンクリート,ロックボルトを基本とし,事前解
析(非線形粘弾性逐次掘削解析)より得られた補強対象領域内に仮定した崩落(抜け落ち,
すべり)岩塊をロックアンカーの導入力で支えるものとしている.アーチ部では破壊領域
の岩盤荷重をロックアンカーの導入力で支保し,側壁部ではすべり力に対してアンカーの
導入力と岩盤i自重による摩擦抵抗で支保することとした.図一3.2.58)に地下空洞初期支保
設計パターンを示す.
当地下空洞の支保パターンの設計にあたっては,建設コストの低減や工期短縮を可能
にする合理的な地下空洞建設を行うために,NATMの最大の特徴である「地山保持能力
の最大限利用」の観点から,必要最小限で初期支保設計を行い,施工時の情報化施工によ
り,必要な箇所に追加補強する考え方に基づいている.したがって,ロックアンカーの配
置は空洞断面左右非対称の配置とし,事前解析からロックアンカーの配置が不要と判断さ
れたアーチ部鉄管路側と側壁部放水路側については,計測を目的とした緊張力を導入しな
いロックアンカーを若干配置している.
ロックボルト L=5m ・
PSアンカー L=10m 45.5tf/本
PSアンカー L=10m c・t・c・4.5m
10tf/本 、 、 、
溶接金鋼2層
竃嶢
PSアンカー
t・=24cm
(ブレーン2層十SFRC1層)
1(放綱)
L=10m
c.t.c.6.Om
L=15m
c.t.c.3.Om
47.5tf/本
溶接金鋼1層
25000
10tf/本
図一3.2.5 地下空洞初期支保設計パターン(横断面図)8)
33
(3)地下空洞の施工概要
掘削はアーチ部を中央導坑先進側壁切拡工法で掘削したあと,1ベンチ3m程度の盤下
げ掘削を11回繰り返して行った(図一3.2.65)参照).このうち,1∼5リフトの盤下げ掘
削においては,比較的小規模な発破を繰り返して行う中割先進側壁切拡工法にて行い,6
リフト以降全断面一括工法による大規模発破の適用を試みている.
1∼5リフトで実施した中割先進側壁切拡工法のうち,中割部の1発破あたりの規模は
幅15m,長さ10m,高さ3m,1発破掘削量450m3のベンチ発破であり,側壁部を各々5m
残している.側壁部発破については,ホイールジャンボによる水平発破を実施しており,
幅5m,高さ3m,1発破進行長3mで掘削している.
→
8
●
1
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側壁切広
中央導坑
側壁切広
の
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2リフト
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図一3.2.6奥多々良木発電所増設工事地下空洞断面図5)
34
3.3大規模発破適用にあたっての課題と対応
(1}空洞の安定性に関する課題と対応
大規模発破を適用した場合,発破後から一次支保完了までの無支保時間が長くなるこ
とで,地質不良部を中心に空洞の安定性に影響を及ぼす可能性がある.現状の地下空洞盤
下げ掘削の実績から,地質不良等の要因により変状等が見られた場合には,1発破あたり
の掘削領域を小さくし,早期に支保を実施することで空洞の安定性を図っている事例が報
告されている7).したがって,大規模発破を実施し,支保完了まで多少のタイムラグがあ
ったとしても,空洞の安定に大きく影響が及ぼない適用範囲を示す指標を明らかにする必
要がある.
地下空洞の安定性については,岩盤の不連続面が地山の応力状態等に及ぼす影響など
により,事前に予測することは難しい.そこで,掘削の進行にあわせて空洞壁面の切羽観
察,周辺に発生する空洞変位,支保工の健全性を各種計測機器により測定する情報化施工
を実施することにより,空洞の安定性を評価している.したがって,大規模発破適用の指
標は,切羽観察による地山評価と空洞周辺に発生した変位の計測値に着目して確立してい
く必要がある.
a}地山評価
地山評価を行うにあたって用いる岩盤分類は道路,鉄道,水路トンネルなど,その用途
別の分類方法があり,わが国においては,高速道路各社12)(東日本高速道路株式会社,中
日本高速道路株式会社,西日本高速道路株式会社)による岩盤分類,日本鉄道建設公団13)
(現,鉄道建設・運輸施設整備支援機蒲)による岩盤分類,電力中央研究所(菊池・斉
藤)14)による岩盤分類等が代表的である.また,海外においてはトンネルを対象とした岩
盤分類15)としてWickham−TiedmannによるRSR法(Rock Structure Rating),Bieniawskiによ
るRMR法(Rock Mass Rating),BartonによるQシステム等が挙げられる.図一3.3.116)に,
トンネルを対象とした日本国内および主な海外の岩盤分類の評価値の比較を示した.この
なかで,国内における地下式発電所等の地下空洞の地山評価として用いられる岩盤分類と
しては,電力中央研究所による岩盤分類(以下,電中研式岩盤分類)が広く用いられてい
る17)ことから,この岩盤分類を用いて,大規模発破適用の指標を策定する.岩盤分類と無
支保により許容される空洞スパンとの関係は,.主に海外の岩盤分類で示されている.この
35
なかで,空洞幅15m以上ある地下空洞の主な岩盤分類としては, Qシステムによる岩盤分
類が挙げられる18).以下に,Q値を用いた無支保による最大空洞許容スパン19)を示す
L=2・E5ソ∼・(204 (3.1}
L :無支保による最大空洞許容スパン(m)
E3R:空洞支保比
この式に空洞スパン,ESR値を代入すると,無支保で許容されるQ値が導き出せる.こ
こで,EぷRについては仮設的な採鉱空洞で3∼5,恒久的な発電所空洞でLOと適用する数
値にっいては幅があるが,今回,大規模発破後,支保を実施するまでの1∼2日間のタイ
ムラグの影響に着目しているため,最も仮設的な状態であると捉え,E5R=5と仮定した.
例えば,奥多々良木発電所増設工事地下空洞の空洞幅25.Om, E5R=5を(3.1}式に代入する
と,無支保で許容されるρ値は9.9となる.求められるρ値はあくまで空洞アーチ部の崩落’
等を含めており,今回1ベンチ3mの大規模発破後の一時的な側壁部の安定を対象とした場
合,求められるρ値は十分に安全側の数値と捉えられる.したがって,周辺岩盤がρ=10
以上の場合には大規模発破を実施しても空洞の安定に大きな影響は与えないと判断できる.
ここで,ρ=10以上と評価された岩盤について,電中研式岩盤等級での評価を試みる.
海外における岩盤i等級と日本国内の岩盤等級を比較するにあたっては,日本国内の地山性
状が複雑であることから,一概に比較するのは難しく16),比較については各種の報告がさ
れている.このうち,図一3.3.1によると,ρ=10以上の岩盤は,電中研方式による岩盤等
級B∼CH級のうち比較的,良好な範囲に相当する.また, Qシステムを提唱している
Bartonらが,当時の日本道路公団の地山分類における弾性波速度とQ値の関係を発表して
おり20),それによると,(∼=10以上は日本道路公団のB等級に相当する.すなわち,図一
3.3.1に照らし合わせた場合,電中研式岩盤分類のB∼CH級に相当する.また,
Bieniawskiは, Q値とRMRの関係として,以下の式を提唱している21).
ノ㎜=9109eρ十44 (3.2)
36
曙路麟欝魎匡][璽コ〔コ
A
非常に良
100∼75
CH∼B
B
D100∼81
良好80∼61
75∼59
普通60∼41
CI
●,●・
@CM
班N
C互
DI
58∼44
@CL
悪い
43∼29
S0∼21
HN
非常に悪い
タ φ
DH
E
28以下
IL,IS
@D
@20以下
特S,特L
図一3.3.1 日本国内および海外の岩盤i分類の評価値の比較16)
(組織名称は改正前の名称を明示)
この換算式は吉中21)によって日本国内の閃緑岩においても同様な関係式が成り立つとし
ている.(3.2)式を用いると,ρ=10以上は㎜=64.7以上が得られ,これを図一3.3.1に照
らし合わせると,電中研式岩盤分類のB∼CH級に相当する.
以上,ρ=10以上で評価される岩盤については,電中研方式岩盤等級で見た場合,B∼
CH級に相当する.すなわち,地山評価から見た大規模発破適用指標は,岩…盤等級CH級以
上の良好な岩盤とした.
b)計測管理
地下空洞掘削時の空洞の安定性を評価する計測項目としては,周辺岩盤の変位挙動を把
握する地中変位測定が主体である.また,空洞壁面内空変位・天端沈下や地下空洞におけ
る主たる支保であるロックアンカー軸力も計測されている.通常,これらの計測値に対し
ては,各地下空洞による地質や空洞の形状,規模,地圧条件,方法を考慮して管理基準値
を設定し,空洞の安定性を判断している.最近の大規模地下空洞の情報化施工の事例によ
ると,計測値について予め段階毎のグレードに分け,各々のレベルに応じた対策の方針を
定めている22).また,管理基準値の設定方法は,最終掘削段階のFEM解析から得られた変
位や,ロックアンカーの引張強度の数値を基に,.3段階程度に分けて管理する方法が多い.
37
奥多々良木発電所増設工事地下空洞の管理基準値設定にあたっては,この設定方法を適
用し,最も対策レベルの高い管理基準値に達した場合,岩盤内部の破壊や支保部材の破断
が大きく進行していると考えられ,この段階で盤下げ掘削リフトの位置によっては,最適
な箇所への対策工の実施が施工上,難しくなる可能性があるため,表一3.3.18)に示す管理
基準を設定した.
・岩石の一軸圧縮試験から求められた限界ひずみ0.36%を用いて,内空変位の管理値
72mm(壁面変位量で36mm)を絶対値として設定し,変位速度に着目した「傾向値管
理」を重点的に実施する.なお,傾向値管理とは1日あたりの変位量である変位速度を
絶対量で評価せず,前日の計測値からの増減で評価していく手法である.
・「注意レベル」に応じて対策を行うという考え方ではなく,管理基準値を一つに設定し,
段階的な対策(対策レベル)を実施する.
・極限荷重を超えているロックアンカーについては,周辺に増打ちを実施した後,その荷
重を緩める.
ここで,大規模発破の適用を考えた場合,計測値が対策レベル1に至っていない場合は,
空洞が最も安定していると判断でき,変状等が発生するまでには多少の余裕があると判断
できる.また,大規模発破を適用し,万が一,管理基準値を超える変位等が計測されたと
しても,対策工を実施することで,空洞の安定を維持することは可能と考えれる.したが
って,目視による空洞壁面等の変状確認とあわせ,管理基準値が対策レベル1以内の場合
に,大規模発破の適用を試みることとした.
表一3.3.1 ,奥多々良木発電所増設工事地下空洞の管理基準8)
対策
激xル
1
2
3
対象項目
管理基準値
地中変位・内空変位
前日の変位速度を上回らないこと
i1回/日)(1回/週)
竭ホ値が36mmを越えないこと
地中変位・内空変位
@ (掘削毎)
竭ホ値が36mmを越えないこと
地中変位・内空変位
@ (掘削毎)
竭ホ値が36mmを越えないこと
PS工軸力
i掘削毎)
前日の変位速度を上回らないこと
;
[1
計測頻度の増加(掘削毎)
ロックボルトエの追加打設
ロックアンカー工の早期実施
(掘削を中断し、ロックアンカー工打設)
前日の変位速度を上回らないこと
極限荷重に達しないこと
X8.7tf×0.65=64tf
38
ロックアンカー工増し打ちおよび
既設ロックアンカー工を緩める。
②発破方法に関する課題と対応
従来の地下空洞盤下げ掘削においては,発破後の有害ガスが少なく,坑内での使用にあ
たって換気上の制約が少ない含水爆薬と,一般的に用いられる電気雷管を組み合わせた発
破方法を用いてきたが,大規模発破を適用するにあたって,1回あたりの穿孔数・装薬孔
数が多くなることから,さらなる施工効率性向上を図った発破方法を確立する必要がある.
また,大規模発破適用を考えた場合,空洞横断方向に断面分割をせず一括して発破を
行う全断面一括工法の適用が考えられる.これに対して,比較的小規模な発破を繰り返し
行う中割先進側壁切拡工法が主流であった理由としては,空洞横断方向に分割して発破を
行うことで発破による周辺岩盤への損傷を低減し,空洞周辺の発破による損傷と掘削解放
に伴うゆるみ領域を極力低減することとしている7).しかし,周辺岩盤に発生する発破損
傷領域を定量的に評価したうえでの適用には至ってはおらず,十分な議論が尽くされてい
るとは言い難い.したがって,周辺岩盤の損傷低減に着目した発破パターンを適用すると
ともに,全断面一括工法と中割先進側壁切拡工法との周辺岩盤に与える損傷範囲の違いを
明らかにする必要がある.
a}施工効率性向上への対応
地下空洞盤下げ掘削の発破パターンの実績1)によると穿孔間隔は1.0∼15mであり,明
かり掘削等におけるベンチ発破の穿孔間隔2.0∼35m23)に比べると小さい.したがって,
施工効率性向上のために穿孔間隔を大きくし,極力穿孔数を減らしていく必要がある.そ
の一・手法として,穿孔した孔に密充填でき,1孔あたりの爆力が大きくなる可能性のある
ばら状ANFO爆薬の適用が考えられる.例えば, Langefbrsの発破抵抗線の算出式24)によ
ると,φ75mmの穿孔した孔にANFO爆薬を密充填した場合に求まる発破抵抗線は,従来
用いられてきたφ50mmのピース状の含水爆薬を装填した場合と比べ30∼40%大きくな
ることから,穿孔数を大幅に減少させることが可能と考えれる.一一方で,ANFO爆薬の発
破後の有害ガス発生量は含水爆薬に比べ6∼14倍25)になり,坑内での使用にあたって発
破後の換気時間が長くなることから,適用を妨げる一一因になっている.これに対して,奥
多々良木発電所増設工事地下空洞においては,7,000m3/min×2台の大容量換気設備を設置
しており,1回あたり1,000m3の大規模発破(ANFO爆薬0.4kg/m3使用)を行ったとして
も,必要換気時間は10分以下となることから,大きく施工サイクルに影響を与えないと
39
推測される.
b)発破による損傷低減への対応
全断面一括工法による大規模発破を実施した場合の周辺岩盤への損傷を低減する方法
としては,S.Bの適用が考えられる. S.Bの最適な孔配置について26)はLangefbrsらが実
験により装薬孔間隔と抵抗線との比を明らかにしている.また,装薬量について26)は装
薬孔の穿孔径と薬径との比,デカップリング係数に着目した装薬方法等も紹介されている.
ただし,これらは海外の硬岩地山等,比較的均一な岩盤に対して示されているものであり,
わが国の多種多様な地質状況に対しては,上記,基本的な施工パターンを基に個々の現場
に対して試行錯誤的に対応している状況である.また,わが国の坑内での発破作業は水平
方向の穿孔・発破となるトンネル工事が主体であることから,大規模地下空洞盤下げ掘削
での鉛直方向S.Bについて,最適な発破方法を選定できる手法を構築する必要がある.
S.B実施後の評価指標としては,例えば中川ら27)の研究によれば,発破後の岩盤面で観
察される平均のみ跡率を用いている.この評価として,のみ跡率が70%以上得られた場/
合に,S.Bの効果が得られたとしている.これは,発破後の岩盤にのみ跡が観察されれば,
周辺岩盤に与える損傷は最小限に抑制されていると考えるもので,簡便かつ確実に評価さ
れている方法である.したがって,今回,盤下げ掘削におけるのみ跡率に着目した発破パ
ターン選定フローを策定した(図一3.3.2参照).この選定フローでは最も岩盤i面に近接
して装薬する外周孔,外周孔に隣接する隣接孔,それ以外の払い孔に分類し,特に周辺岩
盤への損傷低減のための外周孔孔配置,装薬量に着目した発破方法を示している.
また,図一3.3.2には前述した穿孔数低減のためANFO爆薬を適用した払い孔の孔配置,
装薬量の選定フローも示している.払い孔の評価としては,爆薬の起砕効果等を評価する
ため飛石,発破後のずり粒度といった指標にて評価している.
奥多々良木発電所増設工事地下空洞での盤下げ掘削では,6,7リフトで図一3.3.2に示
した発破パターン選定フローにしたがって,当地点における最適な発破パターンの確立を
試みた.
40
\
要求要件:
・穿孔,装薬数を極力減らし,経済的であること.ただし,ずり粒径は発破後に小割りを必要としない1m以下であること,
・飛石が発生しないこと.
・発破後の周辺岩盤にのみ跡が確認できること(70%以上).
使用材料の選定:
・雷管は導火管付き非電気式雷管使用
・払い孔は親ダイ含水爆薬(500g)+増ダイばら状ANFO爆薬
・隣接孔は親ダイ含水爆薬(500g)+増ダイ含水爆薬(500gと200g交互装填)
・周辺孔は親ダイ含水爆薬(200g)+増ダイSB爆薬
‘一・
・い孔の見直し…一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一「
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‘ 1m≦最大径 最大径く20cm ‘
1 ’装薬間隔・抵抗線を小さくする ・現状のままOK ’装薬孔間隔・抵抗線を大きくする 一
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全体的 ㊦ックブレイ 側壁面下部 1
1・現状のまま・K ’禦醜抵抗線を大き’ダンピング長を小さくする’最下部装薬量(ボトムチャ
・装薬量を減らす
STOP
図一3.3.2 大規模発破パターン選定フロー
41
(3}施工方法に関する課題と対応
地下空洞掘削工事で使用される重機類については,通常の山岳トンネル工事と同様に
機械能力が向上し,施工の効率化が図られている状況である1).したがって,この重機類
の機械能力向上を最大限発揮できる大規模発破の規模,施工サイクルの最適化を図る必要
がある.
奥多々良木発電所増設工事地下空洞では,6リフト以降で表一3.3.22}に示す対象掘削
範囲を一度に発破する全断面一括工法(分割なし),3)に示す対象掘削範囲を2分割する
全断面一括工法(2分割),4)に示す対象掘削範囲を4分割する全断面一括工法(4分
割)を適用し,5リフトまでの1}中割先進側壁切拡工法の施工結果とあわせ工程,経済性
の観点から大規模地下空洞における最適な施工方法の確立を図ることにした.
42
表一3.3.2 、奥多々良木発電所増設工事地下空洞で試行した施工パターン
空洞平面図 施工概要
側壁
1)中割先進側壁
切拡工法
中割部を先行して掘削した
後,側壁部切拡掘削を併行
1中割
して実施する.
川1川川1川1←側壁
発破対象範囲を平面的に
一度に発破する.発破対象
範囲を全て穿孔・発破した
後,ずり処理,支保工を実施
2)全断面一括工法
(分割なし)
する.
発破対象面積を平面的に2
分割する.片側で穿孔・発
破,ずり処理,片側で支保工
を実施し,2箇所で併行作業
3)全断面一括工法
(2分割)
する.
1 併行!作業
4)全断面一括工法
(4分割)
1 ← 1 ←
発破対象面積を平面的に4
分割する.最大2箇所で併行
作業し,一方で穿孔・発破,
ずり処理,一方で支保工を
作業する.
43
3.4 実施工結果と考察
川大規模発破適用の施工経過
奥多々良木地下発電所地下空洞では空洞延長130mに対して,3測線の主計測断面と3
測線の補助計測断面による情報化施工を実施している.図一3.4128)に主計測断面のうち最
も空洞高が高くなる断面の計測計器配置図を示す.この計測データに対しては全て自動計
測とし,工事関係者にLAN回線を用いてリアルタイムにデータを配信できる情報化施工
を実施している.
5リフトまでは前述したように中割先進側壁切拡工法による比較的小規模な発破を繰り
返し行っていたが,空洞の大部分は岩盤等級CH級以上の良好な岩盤であること,計測結
果から注意すべき岩盤の範囲を掌握できたことから,岩盤の不安定挙動に対する計測監視
の強化,変状発生時には掘削作業を中止してロックアンカー工の追加打設を行う等の対策
工がいつでも実施できる施工体制の構築を前提に,全断面一括工法による大規模発破の適
用を試みた.適用にあたっては,前述した岩盤分類がCH級以上であること,表一3.3.1に
示した計測に関する管理基準が対策レベル1以内であることを確認しながら行った.
大規模発破の適用開始となる6リフトでは,表一3.3.24)に示した空洞長手方向に
1,000m3程度に分割した大規模発破を繰り返し,特に発破方法に関する最適化を図った.
その後,7リフト以降ではさらに発破規模を大きくし,表一3.3.23}に示す平面的に断面
を2分割した2,000m3程度の大規模発破を試みた.また,最終10リフトでは表一3.3.22}
に示す平面的な掘削対象範囲をほぼ1度に発破する3,600m3の大規模発破を試み,発破に
よる想定通りの岩盤の起砕効果が得られている(写真一3.419)参照).ただし,7リフト
掘削完了後,鉄管路側側壁部については破砕帯・変質帯(傾斜角70°)の存在により,
地中変位計測結果が他の地点での計測結果と比べ大きくなるとともに,図一3.4.28)一部修正
に示したB5連絡坑との土被りが小さくなり,残った岩盤に応力集中したことによる山な
り,山はね現象等が発生したため,8リフトのみ図一3.42②∼⑥に示した小規模発破を実
施している.また,小規模発破掘削時にも,鉄管路側側壁部の一部については図一3.4.38)
一部修正に示す管理基準を超える変位が計測されたことから,ロックアンカーの早期打設,
追加打設等を実施している.結果として,この箇所におけるロックアンカー打設密度は初
期支保設計の2倍の密度(@9.Om2→@4.5m2)となったが,変位は収束し,空洞は安定し
44
た状態になっている,
(鉄管路側) 倣水路側)
1361015 25m
③
(B3E16地中変位)
B断面 凡例
←◆◇地中変位計
P→− PSアンカー軸力計
X ロックボルト軸力計
図一3,4.1 計測計器配置図劉
写真一3.41 10リフト大規模発破直後の状況9}
45
(鉄管路側)
⑪ ④ 砂6
8
ぎ
F
‘ ドラフトトンネル(6号)
B5連絡坑
ドラフトトンネル(5号)
図一3.42 8リフトで実施した小規模発破の実施図8)一部修正
(B3E16地中変位計)
金■;“’
’量盟
0
↑↑・
@掘削②掘削↑
@識。。吐酋_。_
③掘削㌣ひ一つつ一。・◇〔鞠踏吐…畑心・ 1・’. ・ ・1◆δ..、 ひ゜◇◇◇・。’。.。.Φ。。。..、
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草 \1 ㌧◆《♂ 、・ ...
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【凡例】 ’ ”冊■㌔
㌔心・“触杜“4 .…
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35
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’◆
↑1④掘削}、
…△一壁面から15m位置
c。…
ヌ面から10m位置
cθ一・
ヌ面から6m位置
⑤掘削 iL
c・・一壁面から3m位置
c▲・・壁面から1m位置
ィ一一
ヌ面付近
i−1●■, ■
、 ・
f 、 ■■1 ・
ェ ”合・・…、 ・ .
⑥掘削
0 、 10 20 30 40
経過日数(日)
※掘削番号は図一3.42に位置を明示
図一3.437リフト掘削完了後の鉄管路側地中変位測定8)一部修正
、a 46
②空洞の安定性に関する考察
空洞の安定性を評価する地中変位計の計測データと発破規模との関係を整理し,空洞
の安定性に与える影響について考察を加える.図一3.44に6リフト以降における1発破
掘削量と発破後次リフトに移行するまでの1リフト分変位量との関係を示す.
変位量は発破実施箇所近傍の地中変位量のうち,壁面位置の変位量を抽出して示した.
この図には,発破後に管理基準値を超えたことによる追加アンカーの実施等,対策工の有
無を分類して示している.また,図一3.45には1発破掘削量と発破前後の1リフト変位
量の比(=発破後1リフト変位量/発破前1リフト変位量)を示した.この発破前後の変位
量の比が1.0以下になる場合,空洞壁面の変位が収束方向にあると判断できる.
図一3.44によると大規模発破後の1リフト変位量はほとんど3∼5mm程度であり,図一
3.45では発破後1リフト変位量/発破前1リフト変位量は0.4∼0.8程度である.また,
ほとんど発破後の追加対策工を必要としていないことから,大規模発破を行っても空洞の
安定性に対する大きな影響は見られない.1箇所だけ大規模発破を実施し追加対策を必要
とした図一3.44,3.45中のAデータについては,前述した7リフト掘削完了後に小規模
発破に変更した箇所であるが,最終的にはこの位置においても追加アンカー等の実施によ
り,空洞の安定が図られている.
次に,1発破掘削量と発破後に計測された総変位量と管理基準値36㎜の比との関係を
図一3.4.6に示した.ほとんどが総変位量/管理基準値が0.5以下となっており,大規模
発破後の総変位量も限界ひずみから求めた管理基準値に対して余裕をもっており,空洞の
、安定性に対して大きな影響は見られない.
したがって,岩盤分類がCH級以上であること,計測に関する管理基準が対策レベル1
以下であることを目安に大規模発破を適用した場合,ほとんどの場合,空洞の安定性に対
する大きな影響は見られない.また,大規模発破後に管理基準を超える計測値や変状等が
見られた場合についても,小規模発破への変更,追加支保工の実施等により空洞の安定を
図ることが可能であることから,今回提案した岩盤分類,空洞の安定性に関する考え方が
大規模発破適用にあたっての二つの指標であるといえる.
47
大規模発破
35
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0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3500 4,000
ヨ
1発破当り掘削量(m)
岩盤分類OB∼CH級ロCH級△CH∼CM級◇CM級
※塗りつぶし箇所は変状発生等により追加対策実施
図一3,44 1発破掘削量と発破後の1リフト変位量
大規模発破
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1発破当り掘削量(m3)
岩盤分類OB∼CH級口CH級△CH∼CM級◇CM級
※塗りっぶし箇所は変状発生等により追加対策実施
図一3.4.5 1発破掘削量と発破前後の1リフト変位量の比
48
大規模発破
1.00
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1発破当り掘削量(m3)
岩盤分類OB∼CH級ロCH級△CH∼CM級◇CM級
※塗りつぶし箇所は変状発生等により追加対策実施
図一3.4.6 1発破掘削量と発破後の総変位量と管理基準値の比
(3)発破方法に関する考察
奥多々良木発電所増設工事地下空洞6,7リフトで発破パターンの最適化のための試験
施工を実施し,大規模化,周辺岩盤への損傷低減に対応した発破パターンを策定した.表
一3.4.1に試験施工結果,図一3,4.7に最適化した全断面一括工法による大規模発破の発破
パターンを示す.また,図一3,48には比較のため1∼5リフトで実施した中割先進側壁切
拡工法の発破パターンを示す.
a)大規模化への対応
従来のφ50mm含水爆薬の場合,払い孔の孔間隔,抵抗線はL3mピッチ(図一3.4.8参
照)であったのに対し,ばら状のANFO爆薬を装填した場合,約1.5倍,2.Omまで拡げ
ることが可能であった.計画段階ではLangefbrsの発破抵抗線の算出式からは30%∼40%
程度大きくなると予想していたが50%程度抵抗線が大きくでき,結果として60%程度穿
孔数が低減できた.また,坑内への適用にあたって,課題とされてきた発破後の有害ガス
についても,有害ガス濃度測定を行った結果,換気するのに必要な時間は予測範囲内に収
まり,大きく施工サイクルに影響を与えないことが確認できた.
49
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外周孔
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孔配置平面図 中割部払い孔配置平面図 側壁部水平孔縦断図
中割部払い孔 側壁部水平孔
騰接孔)
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蹴?綴罐麟鵠,、、、/子L 《鵠嬬瓢:;::llヲ1ご
外周孔ISB爆薬主体(φ22mm)」.Okg/孔
孔配置断面図
孔配置断面図
図一3.4.7 全断面一括工法 図一3、4,8 中割先進側壁切拡工法
発破パターン図 発破パターン図
b)周辺岩盤の発破による損傷への対応
写真一3.4.2に試験施工時に周辺岩盤の壁面で観察されたのみ跡の一例を示す.
写真一3,42 試験施工時に周辺岩盤の壁面で観察されたのみ跡の一例
51
周辺岩盤ののみ跡率は,図一3.3.2大規模発破パターン選定フローに則って周辺岩盤近
傍の外周孔穿孔パターン,装薬量の最適化を図った場合,最終的にのみ跡率70%以上が
得られた.1∼5リフトで実施した中割先進側壁切拡工法適用時の平均のみ跡率60%と比
べても同等以上ののみ跡率が得られ,全断面一括工法による大規模発破においても,周辺
岩盤への損傷を最小限に抑制した発破方法が確立できたことがわかる.
次に全断面一括工法と,従来の中割先進側壁切拡工法を適用した場合の,周辺岩盤に
発生する損傷範囲の違いを把握する.
周辺岩盤が発破により受ける影響は,SVEDEFO(Swedish Detonic Research
Foundation:スウェーデン爆破研究財団)の研究29)で,薬量,発破点距離との関係式が実
験式に基づき導かれている. 〆
〃=700・ 〃アo’7/1)15 (3.3}
〃:発破振動速度 (mm/s)
〃:単位あたりの爆薬量 (kg/m)
D:発破点からの距離 (m)
一方,発破振動の伝播によって岩盤内に発生する伝播方向の応力σは,以下のように
表されている30).
σ=ρ゜ろ・1)/g (3.4}
σ :発生応力 (N/mm2)
ρ :岩盤iの単位体積重量 (N/mm3)
り:岩盤のP波弾性波速度 (mm/sec)
o :発破振動速度 (mm/sec)
g:重力加速度 (㎜/sec2)
ここで,岩盤に引張強度の以上の伝播方向の発生応力が作用した場合に,岩盤が破壊
されるため,この時の岩盤の振動速度,すなわち発破による限界振動速度o。は以下のよ
52
うになる.
1)c==στ・
X/ (ρ・7P) (3.5)
o、:発破による限界振動速度 (mm/sec)
φ:岩盤の引張強度 (N/mm2)
奥多々良木発電所増設工事地下空洞で大規模発破適用の対象となるCH級以上の岩盤は,
一軸圧縮強度147.5N/mm2,引張強度9.3N/mm2, P波速度c=5.78×106mln/sec,岩盤の単
位体積重量258×1σ7N/mm3であることから,(3.5)式より岩盤の限界振動速度は以下の
とおりになる.
〃c=611エr皿/sec
したがって,中割先進側壁切拡工法,全断面一括工法ごとに空洞壁面近傍の発破振動値
を(3.3}式を用いて算出し,上記限界振動速度と照らし合わせ,掘削工法の違い,ANFO
爆薬使用等の発破方法の違いによる発破損傷領域の比較を試みる.
図一3.4.9に掘削工法,発破方法の違いによる発破時の周辺岩盤iへの損傷領域の比較を
示した.発破による岩盤に与える影響は外周孔が大きく,1孔あたりの爆力が大きい
ANFO爆薬を払い孔に使用しても,周辺岩盤に与える影響は小さい.また,発破振動によ
り岩盤iが損傷を受ける範囲は,全断面一括工法が壁面から66.8cm,中割先進側壁切拡工
法が壁面から57.3cmとほぼ同程度であり,掘削工法による違いは大きく見受けられない.
全断面一括工法,中割先進側壁切拡工法を適用した時の岩盤面ののみ跡率が同程度であっ
たこともあわせて考えると,全断面一括工法,中割先進側壁切拡工法による周辺岩盤への
発破による影響は同程度である.
さらに,発破振動の壁面からの減衰状況を見ると,両工法とも壁面から60∼70cmより
奥については,発破振動値は急激に減衰し,発破による影響は小さい.発破による損傷範
囲が60∼70cmと小さいことについては,発破後ののみ跡率が70%以上得られたことから
も傍証できる. 、
53
したがって,今回,最適化した全断面一括工法による大規模発破と従来の中割先進側
壁切拡工法を比較した場合,発破による岩盤への損傷領域は同程度であり,掘削工法の
選定にあたって,発破による周辺岩盤への影響は,大きな要因にならないと判断できる,
また,発破による損傷範囲も壁面から60∼70cm以内であり,支保工の支保対象領域と比
べても小さく,発破による周辺岩盤への影響は小さいことが判明した,
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全断面一括工法による発破時の影響 中割先進側壁切拡工法による発破時の1
図一3.49 掘削工法,発破方法の違いによる発破時の周辺岩盤への損傷領域の比較
54
(4}施工方法に関する考察
6リフト以降の施工実績に基づいて工程,経済性の観点から大規模発破を適用する場合
の最適な発破規模,施工サイクルの確立を図る.
表一3.42に,7リフト以降の1リフト掘削量である空洞幅25m×空洞延長50m×1ベンチ
高さ3.6mを対象とした掘削工法別の工程を示す.この工程算出の条件としては,支保工
として吹付けコンクリート、(t=8cm×3層),ロックボルト(L=5m 1.5mピッチ),金網
(1層)の施工を加味している.全断面一括工法を適用した場合,平面的に掘削対象範囲
を2分割し,片方で穿孔・装薬,ずり処理,片方で支保工を実施する方法が,併行作業に
よる施工の効率化により,中割先進側壁切拡工法と比べ工程に関して36%短縮でき,最
も施工効率が高いことがわかる.また,図一3.4,10には工法別の作業時間に占める準備,
後片付け,発破退避等のロス時間の比率を示した.全断面一括工法を適用すると,発破回
数が減少することにより,ロス時間が低減し,工程短縮に効果があることがわかる.
一・方,図一3.4.11には掘削工法別のコスト比較を示した.この図では,中割先進側壁切
拡工法の掘削から支保工(吹付けコンクリート,ロックボルト,金網工)までの総コスト
を1.0とし,他の掘削工法のコストは中割先進側壁切拡工法のコストに対する比率で示し
た.これによると,平面的に断面を2分割した全断面一括工法を適用した場合,従来の中
割先進側壁切拡工法に比べコストが22%減少し,最も経済的であることがわかる.以上,
大規模発破を適用する場合の最適な施工法として,写真一3.43に示すように掘削対象断
面を2分割し,併行作業で片側で穿孔・装薬,ずり処理,片側で支保工を実施する工法が
最も施工性に優れる.
55
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①中割先進 ②全断面一括③全断面一括 ④全断面一括
側壁切拡 (分割なし) (2分割) (4分割)
図一3.4.10 掘削工法別の作業時間に占めるロス時間の比率
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①中割先進 ②全断面一括 ③全断面一括 ④全断面一括
側壁切拡 (分割なし) (2分割) (4分割)
図一3.4.11 掘削工法別のコスト比較
⑱
57
写真一3.4.3 全断面一括工法による断面2分割の施工状況
※奥多々良木発電所増設工事地下空洞7リフト施.1:状況
58
3.5大規模発破施工フロー
3.3,3.4章の大規模発破適用検討を踏まえ,図一3・5.1に盤i下げ掘削における大規模発
破施工フローを示す.
盤下げ掘削における大規模発破は,発破後の空洞の安定性を第一に考えた場合,岩盤
等級がCH級以上の硬岩であること,計測に関する管理基準のうち対策レベルが最も低い
レベル1以内が,その適用条件である.また,大規模発破を適用するにあたっては全断面
一括工法により平面的に2分割する工法が最も施工性に優れていることから,これを第一・
に施工する.次に発破を行うにあたっては,大規模発破パターン選定フローにしたがって,
ずり粒度,飛石発生,周辺岩盤ののみ跡率に着目した発破パターンを適用する.
なお,発破後については情報化施工に基づく計測管理を実施し,空洞の安定性を確認し
た後,次リフト以降の発破に移行することとした.
59
YES
NO
計測管理レベル1以内
笏ユ等級CH級以上
大規模発破適用
i2分割発破の実施)
標準発破・小規模発破適用・1発破掘削量は別途,検討
【標準発破・小規模発破パターン選定】
【大規模発破パターン選定】
@ 20cm≦最大径く1m
ずりの粒径
目大径く20cm,20cm≦最大径
E別途,検討
現状のままOK 装薬間隔・抵抗線・装薬量の見直し
発生なし 発生あり
飛石発生
(
現状のままOK 装薬間隔・抵抗線・装薬量の見直し
のみ跡率70%以上 のみ跡率70%未満
のみ跡率
現状のままOK 装薬間隔・抵抗線・装薬量の見直し
計測管理 あり亦状の有無
対策工実施
なし
次回発破の有ハ、
あり
ネし
STOP
図一3.5.1 盤下げ掘削における大規模発破施工フロー
60
3.6第3章のまとめ
本章では,盤下げ掘削の施工実績の分析結果から,1発破掘削量の少ない小規模発破の
適用が,施工性を低下させる一因であることが判明したため,1発破掘削量を多くした大
規模発破の適用について,関西電力奥多々良木発電所増設工事地下空洞盤下げ掘削を対象
に検討した.ただし,大規模発破の適用にあたっては,①支保工完了までの無支保が長く
なることによる地下空洞の安定性に与える影響②発破が周辺岩盤に与える損傷が懸念さ
れることから,①地下空洞の安定に影響を与えない掘削時の適用指標の確立,②周辺岩盤
への発破による損傷を低減した発破パターンの提案と周辺岩盤に与える損傷程度の解明を
行った.また,大規模発破を適用するにあたって,施工の効率性向上の観点から施工サイ
クルの最適化を図った.
本章により得られた成果を以下に示す.
1)実際の地下空洞へ適用した結果から,岩盤等級がCH級以上,計測に関する管理基準の
うち最も対策レベルが低いレベル1以内の場合に,大規模発破が適用可能であることを
示した.また,この適用条件を外れる場合については,大規模発破を用いることで地
下空洞の安定性に影響を及ぼす可能性があるため,標準発破または小規模発破の適用
が妥当である.
2)掘削対象断面を平面的に2分割し,片側で穿孔・装薬,ずり処理,片側で支保工を実施
する大規模発破を適用した施工を行った場合,発破回数の減少に伴うロス時間の減少
と併行作業による施工の効率化により,従来,最も多く採用されてきた中割先進側壁
切拡工法に比べ,工程が36%,コストが22%低減する.
3)大規模発破パターン選定にあたって,施工の効率性向上と周辺岩盤への発破による損
傷を低減する大規模発破パターン選定フローを具体的に示した.また,従来の中割先
進側壁切拡工法と,大規模発破による全断面一括工法の周辺岩盤に与える発破損傷は
同程度であり,その損傷範囲も小さい.
4)大規模発破施工にあたっての適用条件から,最適な発破規模,発破方法を一連の大規
模発破適用フローとして示した.
61
参考文献
1)日本電力建設業協会:施工からみた地下発電所の変遷と事例集,PP.28−65,2004.12
2)河邉信之,袋井肇,西村和夫:地下空洞盤下げ掘削における効率的施工を目的とした
大規模発破の適用に関する研究,土木学会論文集F,VoL65 No.2, pp.148−162,
2009.4
3)関西電力株式会社:奥多々良木発電所増設工事記録,1998.
4)手塚昌信:大規模岩盤地下空洞の合理的な設計・施工に関する研究 京都大学学位論
文,1997.
5)加藤清策,蓮井昭則,河邉信之:新工法を駆使した地下発電所の急速施工,第40回施
工体験発表会,日本トンネル技術協会,pp.41−50,1997.11
6)手塚昌信,加藤清策,河邉信之:大規模地下空洞における効率的掘削システムの提案
とその適用,トンネル工学研究論文・報告集,第7巻,pp.169−174,1997.11
7)連載講i座大規模地下空洞(4)大規模地下空洞の施工:トンネルと地下,第29巻8号,(
pp.73−79, 1998.8
8)手塚昌信,大西有三,袋井肇,瀬岡正彦:大規模地下空洞掘削における情報化施工の
適用例,第28回岩盤力学に関するシンポジウム講演概要集,pp.43−47,1997.1
9)手塚昌信,吉舎廣幸,大石富彦,加藤清策:地下発電所における新しい試み一掘削技
術と情報化施工一,土と基礎,第46巻第6号,pp.13−16,1998.6
10)手塚昌信,吉舎廣幸,美野誠一:奥多々良木発電所増設工事の設計と施工,電力土木,
No.260, pp.51−59,1995.11
11)加藤清策,斉藤靖孝,蓮井昭則,西村毅:地下発電所における支保工と情報化施工
一奥多々良木発電所増設工事の例一,間組技術年報 土木・機i械編 一1996−,pp.131−
147, 1996.
12)東日本高速道路株式会社,中日本高速道路株式会社,西日本高速道路株式会社:設計
要領 第三集 トンネル編,pp.70−78,2007.4
13)日本鉄道建設公団:NATM設計施工指針, pp.36−42,1996.2
14)土木学会:ダムの地質調査法,p.111,1986.
15)日本応用地質学会:岩盤分類 応用地質特別号,PP.168−170,1984.8
62
16)日本トンネル技術協会:TBMハンドブック, p.65,2000.2
17)土木工学社:岩盤i分類とその適用,p.113,1988.7
18)土木工学社:山岳トンネルの新技術,p.38,1991.11
19)福島啓一:わかりやいトンネルの力学,pp.157−158,土木工学社,1996.9
20)N.Barton,伊藤 淳:ノルウェートンネル工法(NMT)の概要(1),トンネルと地下,
第26巻10号,PP.39−46,1995.10
21)前述17),PP.30−31
22)土木学会:大規模地下空洞の情報化施工,1996.11
23)工業火薬協会編:新・発破ハンドブック,pp.181−182,1988.5
24)OlofSson, S,0.:Applied Explosives Technology fbr Construction and Mining, p.64,
Applex,1990.6
25)建設業労働災害防止協会:ずい道建設工事における換気技術指針,p.41,2001.
26)火薬学会:発破工学ハンドブック,pp.263・・267,2001.6
27)中川浩二,古川浩平,鈴木宏平,吉見憲一:削孔ロボットを用いた硬岩トンネルのス
ムースブラスティングに関する研究,土木学会論文集,第367号/IV−4, pp.52−61,
1986.3
28)前述3),P.870
29)前述23),P.179
30)雑喉謙:発破振動の周辺の影響と対策,pp.8−9,鹿島出版会,1984.9
63
第4章 緩め発破適用による効率性向上に関する検討
4.1概説
前章で1発破あたりの発破面積を拡大させた大規模発破を地下空洞盤下げ掘削に適用す
ることで,掘削の効率性が向上することを明らかにした.しかし,大規模発破は地質条件
が良好で,空洞掘削時の周辺岩盤の変位が小さく,空洞の安定性が高いと判断される場合
のみ適用できる工法であり,この適用条件を外れた場合における標準的な掘削量に対する
効率的な施工法を確立していく必要がある.
一方,最近わが国の石灰石鉱山,砕石鉱山等で打掛け発破1)∼3)と称するベンチ発破が適
用されてきている.打掛け発破は以前から明かり発破において用いられてきた先行緩め発
破4)∼6),もしくは予備発破4Σ7)とも呼ばれる一自由面に対しての発破と類似したものと考え
ることができ,破砕されたずりを撤去せずに,そのまま次回以降の発破を行う工法である
(以下,地下空洞内に適用した発破については緩め発破に用語を統一する).この工法を適
用することにより,明かり発破では飛石が防止できること,穿孔・装薬とずり処理が併行
で作業可能であることから,施工性が向上するなどの利点が得られている.
九州電力小丸川発電所地下空洞では,この明かり部で適用されている緩め発破に着目し,
地下空洞盤下げ掘削の標準的な掘削工法である中割先進側壁切拡工法のうち,ベンチ掘削
となる中割部への適用を図った.本章では,実際に緩め発破を適用した場合の空洞周辺の
壁面変位計測結果等を分析することで,発破後,ずりを存置している期間における空洞の
安定性に対する影響を検証し,緩め発破の適用範囲を明らかにした.また,従来の中割部
の掘削方法と比較した場合における工程,コスト等といった施工性の観点からの優位性に
ついて検討した8).
65
42小丸川発電所地下空洞の概要9)∼17)
小丸川発電所は,小丸川の支流大瀬内谷川の最上流部に上部ダム,小丸川中流部に下部
ダムを築造し,この間の有効落差約646mを約2.8㎞の水路で,毎秒222m3の水を導水するこ
とにより,地下に設けた発電所で最大出力120万kW(30万kW×4台)の発電を行うもので
ある.このうち,発電所本館となる地下空洞は,地表面下400mに位置し,掘削幅24m,掘
削高さ48.1m,最大長さ188.Om,総掘削量約16万m3,最大掘削断面積1,000m2を超える弾頭
型大規模地下空洞である.
図一42.113)に地下発電所横断面図,図一42.213)に地下発電所縦断面図を示す.
川地下空洞周辺の地質状況
発電所本体地下空洞付近は,新生代古第三紀始新世∼漸新世の四万十累層群の日向層群
(砂岩,頁岩)に貫入している木城花闇閃緑岩の幅約300mの岩脈状岩体に位置している.
図一42.315)に水路系の地質縦断図を示す. .
花闇閃緑岩の岩級としては,電力中央研究所による岩盤分類で概ねCH級であり,部分的
にCM級が分布している.地下空洞掘削前の地質調査結果からは, CH級岩盤iの基質は一軸圧
縮強度170MPa程度,小断層又は節理間隔が5∼15cm(細区分A皿a)あるいは15∼50cm(細
区分AHa)程度,弾性波速度は5.Oc∼5.4㎞secであり,堅硬な岩盤である.
図一42.49)に本体地下空洞掘削時に観察された切羽観察記録に基づく地質展開図を示す.
掘削中の地質観察結果からも,概ね想定どおりの地質性状であることを確認した.しかし,
当初はCH級岩盤の分布に関してAIIa岩盤が主体となり,その中にA皿a岩盤が分布すると予
想していたが,掘削中の地質観察結果からは本体空洞全体は概ねA皿a岩盤を主体としてお
り,その中にAHa岩盤が分布する結果となった.調査段階では,鉛直ボーリングによる不
連続面調査に頼らざる得ないことから,高角度系の不連続面が集中することによる細区分
評価が十分でなく,AHa岩盤が連続して分布すると評価していたためと考えられる.
66
建
物
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自ビαo
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且59600
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@ 発電所幅
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且24000
08.←
図一42.1地下発電所横断面図13)
00
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@ ’
図一42.2地下発電所縦断面図13)
67
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八\,_ノ㎞
図一42.3 小丸川発電所水路系地質縦断図15)
CM級(B)
小丸川発電所地下空洞における地質細区分表陶
B I’15∼50c皿 b面は褐色化している
C硬 皿15∼15cmc‘割れ目沿いに変質が認められる
図一424 小丸川発電所地下空洞地質展開図9)
68
②地下空洞支保パターン
大規模地下空洞の初期支保設計は,岩盤i試験,初期地圧試験等の試験結果を基に設定し
た解析用物性値を用いて設計した.つまり,空洞全体を平均化した代表的な岩盤と考えて
いることから,局所的な地質不良部に対するリスク管理が必要となる.また,空洞全体に
分布する不連続面の位置や挙動を安全側で想定した設計を行うと,初期設計支保が増える
こととなり,結果的に不経済となる.これらのことから,当地点では支保量を初期設計支
保工と情報化施工に基づく追加支保工に分けて考え,局所的に地質の悪い箇所や不連続面
によるキーブロックに対しては個別に補強対策を講じることで,必要最小限とすることを
目指した.
初期設計時の支保工としては,吹付けコンクリート(t=16∼32cm),ロックボルト(L=5m),
PSアンカー(L=10∼15m,アンカー耐力110t)を主な部材としているが,このうち主要
な支保部材となるPSアンカーは,岩盤を平均化した均質体としてモデル化し,二次元有
限要素法を用いた逐次掘削解析から推定されるゆるみ領域を補強対象領域としている.
図一42.5に地下空洞における初期支保パターン図を示す.
(3)地下空洞掘削工事の概要
地下空洞の掘削は,空洞アーチ部を中央導坑先進側壁切拡工法で掘削完了した後,1リフ
ト3mの盤i下げ掘削を合計13回繰り返している.図一42.5地下空洞断面図に掘削時の加背割
りを示した.盤下げ掘削は1リフトから7リフトまで中割先進側壁切拡工法で掘削しており,
緩め発破の適用はベンチ発破となる中割部に適用している.中割部の1発破あたりの規模は,
幅18m,長さ10m,高さ3m,1発破当り掘削量540m3であり,側壁部を各々3m残している.
側壁部発破についてはホイールジャンボによる水平発破を実施しており,幅3m,高さ3m,
1発破進行長3mで掘削している.
69
PSアンカー
アーチ部L・10m
@ ロックボルト
@ ト5.Om
@ PSアンカー
PSアンカー
放水路側側壁部L=10m
鉄管路側側壁部L=mm
8c
{ l
@ I [ 1 [
@ 1 ‘
吹付コンクリー
@ t=32cm
鑛禦
艶リ掘中央導
F:灘鑛::
≡≡一一
8ミ
§冨e
8ま
§89
F灘獄一一一一 8リフト
&tコンクリー
水平掘肖1トー一一一
9リフト
@ t=24c爪
&tコンクリー
10リフト
@ t=16cm
】1リフト
12リフト
一一一一一一一一一一一一
@13リフト
1000
12,500
地下空洞断面図
足
0
o
o
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m
●
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−
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o
o 0
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● ●
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3,000
3,000
,
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●
●
● ●
a,000
4,000
41000
OPSアンカー 12.Or㎡/本 OPSアンカー 9.Or㎡/本
●ロックボルト 3.0㎡/本 ●ロックボルト 4.5㎡/本
アーチ部支保工配置図 側壁部支保工配置図
図一4.2.5 小丸川発電所地下空洞初期支保パターン図
70
上
(4}地下空洞掘削に適用した情報化施工
a)計測計器設置状況
緩め発破の適用にあたっては,発破後ずりを存置するため,空洞の安定性に影響を及ぼ
す可能性がある.したがって,緩め発破の適用にあたっては,空洞の岩盤挙動を正確に把
握し,安定性を的確に評価していく情報化施工の適用が前提となる.今回,空洞の周辺岩
盤の挙動を把握するため,空洞長軸方向にほぼ均等に計測断面を設け,断面毎に地中変位
計,PSアンカー荷重計,ロックボルト軸力計等の埋設計器を設置し,岩盤挙動を監視す
ることとした.このうち,空洞の安定性については,地中変位計による周辺岩盤の変位挙
動を中心に評価を行っている.
計測断面は,空洞の変状を確認するとともに,解析による検証を行うための主計測断面
と空洞全体の変状を均等に把握するための従計測断面を設けた.主計測断面は,掘削断面
積が大きく,変形が最も大きくなると予想されるA,B断面及び断面形状の異なるC断面
とし,その他の断面(D,E, F, G, H)は従計測断面としている(図一42.611)参照),図
一42.711)に主計測断面Aにおける埋設計器配置図を示す.
計測システムとしては,1}計測結果の図化処理を自動化,2}工事関係者で計測結果を共
有し,変状発生時には迅速かつ適切な分析・評価の実施を行うことを目的に,新たに計測
管理システムを開発,導入している18).
ρ
」り
図一42.6計測断面位置図11)
71
中間調査坑
AI〕−1
AD−2
@ AI〕−3
`R_1 (方文21く星各但‖)
i水圧管路側)
@ AR−3
@ AR−2 AR竺1
`Cせ2 AC’1 A艦3A−4 EL 616 AA一
@ AR−5 AD−5α
@ AR−4 AD−4α
C−4 AC−5
`A−42 AA−43ロ
@ EL 556
AD−5
@発電所空洞
`−6 AA− AR−7 AD−7
D−4
@ AR−6AD−6
▽AC−6 AC−7▽ AT−7
励磁室
@− 36 AA一
A↑−6
沫p道路
@ AI〕−8
`−10EL 36AA^1 AD−9
AR−8 ▽AC−8 AC−9▽AR−9
@ 凡例
@ EL 316
AA−13
一←H地中変位計
ロ PSアンカー軸力計
→…・ロックボルト軸力計
▽ 吹付け応力計
図一42.7 埋設計器配置図(A断面)11)
b)管理レベル・管理基準の設定 一
計測された岩盤挙動に対しては,管理レベル・管理基準を設け,空洞の安定性を定量的
に評価している.表一42.1に小丸川発電所地下空洞管理レベルと管理基準を示す.管理基
準策定にあたっては,傾向管理と絶対値管理を併用している.傾向管理としては,1日当
りの変位量を変位速度,アンカー荷重の増分をアンカー軸力増分値と定義し,前日より増
加する場合には管理レベル2に示される対策工より実施し,変位速度等が前日より上回ら
ないことを確認するまで,管理レベルを上げていく手法である.したがって,変位速度,
アンカー軸力増分値に対して管理レベルを区切る管理基準は示していない.一方,絶対値
管理は,計測値の絶対量で評価し,予め定めておいた対策工実施方針に従い対処する手法
である.なお,絶対値管理の管理基準の設定にあたっては,地下空洞盤下げ掘削が鉛直方
向下向きの掘削となるため,掘削リフトと計測位置とが大きく離隔し,対策工の実施が必
要となった場合,最適箇所への対策工の施工が難しくなることも想定し,掘削リフト位置
によって次リフト以降に見込まれる変位増分を予め最終の管理基準値より減じて管理して
いく手法を適用した.すなわち,事前に実施したFEM解析結果による変位発生量の予測
値等をもとに,掘削リフト位置によって最終の管理基準値より減じる処置を行った管理基
準値を策定している.
72
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ρ拐
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※
3
43緩め発破に関する既往の研究
明かり発破で住宅地など保安物件に近接している場合においては,主にリッパ工法など
の機械掘削を用いるが,岩石の強度が大きくなり,割れ目の頻度が少なくなれば破砕が困
難になってくる.このような場合,図一43.17)に示すように,リッパ掘削に先立って発破
を用いて亀裂をいれ,リッパ工法によって掘削可能にする発破工法が用いられる.佐々7)
はこの発破を予備発破と呼んでおり,この発破のメカニズムとして,爆源の周囲は圧縮応
力によるせん断亀裂により岩石が比較的細かく破砕されており,その外側は接線方向の引
張応力により,放射状の引張亀裂を発生させていることを明らかにしている.また,この
発破については岩盤を掘削するための発破でなく,岩盤の性質を変えるための発破として
いる.
同様に岩盤を緩める発破については,和田5)・6)らも先行発破工法,先行緩め発破と呼ん
で,緩め発破前後の弾性波速度を測定し,例えば弾性波速度45∼4.8km/secの硬質砂岩の場
合,発破後の弾性波速度が30∼40%に低減することを明らかにしている.同様な測定は,.
塩月19)らによっても行われ,発破後に弾性波速度が平均38%程度に低減するとしている.
なお,石井4)らの著書によると,この先行発破工法,先行緩め発破工法は前述した予備発
破と同様な発破と捉えている.
以上の既往の研究をまとめると,緩め発破は爆源を中心に,せん断亀裂と引張亀裂を発
生させることで,岩盤を緩ませており,弾性波速度で比較した場合,発破前の40%程度に
低減する手法といえる.
一方,石灰石鉱山である群馬県の叶山鉱山と,砕石鉱山である茨城県の小高鉱山では,
破砕したずりを存置したまま次回以降の発破作業を行う打掛け発破を行っている.図
一43.21)に発破方法の概念図を示す.山ロ1)・2)らは,特にこの発破で使用する穿孔ピッチ,
装薬量等の装薬方法においては従来と異なる手法ではないが,支障なく発破が行われてい
るとしている.ただし,ずり積込み時にはホイール式トラクタショベルでは著しく積込み
能力が低下することから,油圧ショベルに積込み機械を変更している.これは,発破によ
り亀裂を発生させているが,ホイール式トラクタシゴベルで積込み処理ができるまではほ
ぐされてないのに対して,油圧ショベルは,積込み機構が岩石を引き剥がす方向で作用す
るため,有効であるとしている.
74
この打掛け発破の考え方は,前述した先行緩め発破が亀裂の発生によりリッピング可能
にしている考え方と同じと捉えることができ,いずれも比較的ベンチ高さの低い1自由面に
対しての発破であることを考えると,類似した発破手法であると考えれる.
次に,施工の効率性の観点からは従来のベンチ発破等では,発破後,ずりを搬出し,自
由面を解放した後,次回以降の穿孔・装薬等の発破作業を行う(以下,従来工法と称する)
のに対して,打掛け発破では穿孔・装薬とずり積込みとが併行作業できるため,施工効率
が向上すると報告されている.’ アの他,自由面にずりを存置することで飛石発生が防止で
き,火薬保安上良好としている.
以上,地下空洞盤下げ掘削に緩め発破を適用するにあたって,既往の研究から,1)ホイ
ール式トラクタショベルによるずり積込みから油圧ショベルに変更するが,使用する爆薬
量,装薬方法等を特に変更しなくても緩め発破効果を得られること,2}穿孔・装薬とずり
処理が併行作業可能であること,3}発破時の飛石がなくなり,重機退避等のロス時間が低
減することが判明し,盤下げ掘削の効率化が図れる可能性があると判断した.
ただし,これまでの緩め発破の適用は明かり部に限定されており,周辺地山の安定性に
ついて論じられていない.したがって,地下空洞への適用にあたっては,発破後ずりを存
置することに対する空洞の安定性,すなわち,緩め発破後,ずりを存置している期間の空
洞の安定性に与える影響について,検証していく必要がある.
75
o
リッパのみで掘さく
一 一一一一
一 一 一 一
一 }一 一
一一一一一…風イ
一一 一一一
潟bパのみでは掘さ
ない岩盤
に)予備発破のための装薬孔の穿孔
リッパのみで掘さく一一一一一一一一一風化
一一 一 一
一彩
一 一
一一
リッパのみで掘さ
ネい岩盤
(2)予備発破の実施
(3)予備発破した岩盤のリッパによる掘さく
リッノ寸による
(4)予備発破のための装薬孔の穿孔
掘さくへもどる
一
{5)予備発破の実施
図一4.3.1 予備発破の概念図7)
二回目
.二ぷ’”ポご”㌔“・.∵ ∫
‘・ご.・’ち白r・°’°°
@ ・
図一4.3.2打掛け発破の概念図1)
76
4.4 緩め発破適用にあたっての課題
前章で,岩盤等級がCH級以上で,計測に関する管理基準のうち管理レベルが最も低いレ
ベル1以内の場合,大規模発破が最適であることを明らかにした.この条件を外れる場合に
は,従来の施工実績の分析結果から,1発破掘削量600m3を上限とする標準発破,もしくは
地質不良等の要因により掘削解放領域を小さくすることを目的とする小規模発破となる.
また,標準発破の掘削工法はベンチ発破となる中割部と水平発破となる側壁部に分けられ
る中割先進側壁切拡工法が最も多く適用されている.発破後ずりを存置する緩め発破の特
性を考慮すると,極力早期に支保を実施する必要があると判断して発破を行う小規模発破
への適用は難しく,標準発破が対象となりうる.
ここで,発破後,ずりをある期間存置する施工法として,鉱山における採掘のための発
破方法を取り入れた東京大学宇宙線研究所による宇宙素粒子観測のための大規模地下空洞,
通称スーパーカミオカンデの地下空洞20Σ21)の施工法に触れる.この盤下げ部における施工
は,アーチ部掘削完了後,図一4412°)に示す⑧,⑩,⑫に示す部分を掘削したのち,それ
ぞれ上部から穿孔長10mの鉛直方向の長孔発破を実施し,⑨,⑪,⑬のブロックを一回の
発破で起砕する盤下げ掘削を実施している.ずり処理については,⑧,⑩,⑫ブロックよ
りアプローチし,各ブロック5m単位で施工盤を下げていき,上部より支保工を施工してい
る.また,空洞の安定性を評価するために,地中変位計による変位計測を実施しているが,
ずりを存置することによる空洞の安定性については言及していない.これは,対象とした
地質が,施工当時の建設省の岩盤分類22)でAに分類される非常に硬質な角閃石片麻岩であ
り,一般的に無支保で掘削される鉱山空洞と同等な発破手法を用いても大きく問題になる
ことはなかったためと,地中変位計測結果からも掘削前の予想変位とほぼ同程度の変位で
あり,大きな論点になりえなかったためといえる.
しかし,今回,地山条件等が最も良好な場合における大規模発破への適用ではなく,標
準発破における緩め発破の適用を考えているため,緩め発破後,ずりを存置している期間
の空洞の安定性に与える影響について,詳細に検討する必要がある.
77
E.L−485.Om
⑥
④
⑤
孕_
EL.−500.2m
11
③
1
②1
⑦
⑦
璽
11
⑨
E.L−514.3m
ll
⑧ ll
⑪
E.L−528.4m
ll
⑩ ll
⑬
E.L−542.6m
ll
⑫ {1
図一441スーパーカミオカンデ空洞施工順序図20)
45地下空洞盤下げ掘削への適用と計測結果
4.3章に示した既往の研究から以下に示す考え方に基づき,小丸川発電所地下空洞で緩め
発破の適用に踏み切り,情報化施工による空洞周辺の変位計測等により,空洞の安定性に
対する影響を評価,分析することにした.
n緩め発破により亀裂を発生させるぶ,岩石は大きく移動していないため,自由面が解放
されておらず,掘削解放力は大きく作用しない. ・
2)斜面で地すべりが懸念された場合に,押え盛土により斜面変位の抑制を図ることは斜面
安定対策工の一つである23).したがって,緩め発破後,ずりを存置している状況は,地
すべりに対する押え盛土の状態と同様であると考えることができ,空洞周辺の変位を大
きく進行させない.
(1)緩め発破施工状況
緩め発破の適用は,アーチ部掘削完了後1リフト中割部より試みた.発破については,
図一45.124)に示したように,1孔あたりANFO爆薬を主体とした3.0∼4.5kgの装薬を行い,
穿孔ピッチは1.5∼2.Om前後で行っているが,従来の発破手法と大きく変わるものではな
い.緩め発破後の切羽状況を写真一45.124)に示す.発破後の切羽状況はlm隆起した程度
で,破砕効果は得られており,飛石は発生していない.従来の地下空洞盤下げ発破の考え
方のなかで,上方および側方の2自由面に対して発破を行うという概念が一般的であった
が,特に自由面を解放せずとも発破効果を得ることが可能であった.ただし,ずり積込み
作業については,従来の地下空洞盤下げ掘削においてはホイール式トラクタショベルが中
心であったが25),明かり発破で用いられている緩め発破と同様に,油圧ショベルに変更し
た.
79
D:孔間隔(1.5∼2.0皿)
D D D
]恥
一発破 c
ピ
前回破砕したずり 発破孔(ao∼45kg/子L州FO使用)
図一45.1緩め発破パターン24)
写真一45.1 緩め発破後の状況詞
80
②地中変位計計測結果
図一45.224)にG断面5リフト水圧管路側の地中変位計測結果のうち壁面付近における地
中変位の増加を示す.発破位置は地中変位計と同じ高さになる5リフトの発破であり,平
面的には地中変位計位置を通過する発破による変位の経時変化を示している.この掘削リ
フトで発生している総変位量4.3㎜のうち,中割部発破からずり処理を開始するまで,ず
りを存置している期間における発生変位量}ま0.2㎜であり,当該掘削リフトで発生してい
る変位量に占める割合は5%程度と小さい.ずりを存置している期間が4日間であること
から,1日あたりの変位量に換算すると0.05mmノ日であり,非常に小さい.
また,5リブ院了時点の変位量7.4㎜につし、ては,前述したこの掘削リフト位置にお
ける絶対値管理基準に照らし合わせた場合,管理レベル2に該当し,管理基準値1を超え
ているものの,緩め発破適用が空洞の安定に大きな影響を及ぼしたとはいえない.
同様に,中割先進側壁切拡工法のうち中割部に緩め発破を適用した直後の1日あたりの
変位量,すなわち変位速度の経時変化を図一45.3∼図一45.5に示した.図一45.3∼図
一45.5は最も多く地中変位計を埋設した5リフト位置における壁面付近の地中変位測定結
果で,図一45.3については5リフト,図一4.5.4については6リフト,図一4.5.5について
は7リフトのそれぞれ発破時と前後5日間の測定結果である.なお,7リフトについては
空洞内に作業用の斜路を設けるため,発破後すぐにずりを撤去している箇所もあったため,
示せるデータ数は少ない.測定結果の整理にあたっては,その時点における測定箇所の地
山の安定性との関連を把握するために,各地点の総変位量を絶対値管理基準で評価した対
応する管理レベル記号で示している.
緩め発破後の変位速度を見ると,発破直後は最大2mm/日の変位速度が発生しているが,
その後はほとんど1mm/日以下になり収束傾向にあると判断できる.局部的に変位が増加
に転じている箇所は,次ブロックの発破を行った影響である.管理レベル毎に比較すると,
管理レベル4の場合には発破直後および発破後1日経過後も,比較的変位速度が大きい.
以上,管理レベル3以内の場合については,発破直後を除き,ずりを存置している期間
は,ほとんど空洞変位が進展していないと判断できる.一方で,管理基準値3を超える管
理レベル4の場合は,発破後,ずりを存置している期間において,変位量は漸増している
といえる.
81
10
↓
e 日
P 日
柵 ρ
9
ト(
恨已
エ ∈
マ
トト
8
匿 輩
:ひ)
雛 豊
7
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心9 躍
胡
㌶攣
盲 6
旦 5
攣日
紅 ∈
線 曝等
⊥
撫 4
⊃
翌 3
一’”一一一一一≡≡一≡一一≡一≡一一一’一一一一一一一一一一一一一一≡一一一一一已●一一一一吟●一≡一一一≡≡一’≡≡≡一一≡’一一一’
w「←一←
2
一空洞壁面から1m奥の地中変位一
’
0
図一4。5.2 緩め発破直後の壁面付近の地中変位計測結果(G断面5リフト水圧管路側)24,
2.5
(2.0
§L・
中割部緩め発破
‘ ⊥r‘
;L・
0.5
一[ 、一. ,一一_ ト
0.0
一〇.5
日日日日日日日日日日
前前前前前後後後後後
発破後の経過日数(日)
i凡例護難㍊;鷺鑑霊i
図一4.5.3 緩め発破前後の変位速度(5リフト発破)
82
2.5
中割部緩め発破
( 2.0
㌣
巨1・5
)
1.0
0.5
0.0
−0.5
日日目日日日日日日日
前前前前前後後後後後
発破後の経過日数(日)
i凡鵠翼㌫懸置≧z
図一45,4 緩め発破前後の変位速度(6リフト発破)
2.5
中割部緩め発破
↓
( 2.0
㌣
巨1・5
)
LO
O.5
0.0
‘−1− P − 1 ‘
−0.5
日日日日日日日日日日
前前前前前後後後後後
発破後の経過日数(日)
iこ.竺懸遮懸翼㌶一一.
図一455 緩め発破前後の変位速度(7リフト発破)
83
(3〕小規模発破への変更
図一45,3∼図一4.5,5に示した管理レベル4に該当している箇所は,A断面および隣接する
C断面水圧管路側の地中変位計である.この位置においては,10リフト掘削完了後,施工
停止・大規模な対策工が求められる管理基準3}こ相当する50㎜を超える計測値が測1定され
ている(図一45.69)・11)参照).当該箇所の地質状況については,CM級(細区分AIV∼B)
に分類される比較的脆弱な地質状況であり,高角度不連続面(図一45.79Ll1}F−AP(小断
層)参照)で周辺岩盤と区切られている.したがって,変状発生の原因としては卓越した
不連続面が空洞側に倒れ込むことによって生じたものであると判断し,長尺PSアンカー
(L=15∼20m)による追加補強を実施している(図一45.89,・ll)参照).
また,補強対策後の掘削については,掘削解放領域を極力小さくし,変位発生を抑制す
る目的で小規模発破を行っている.発破規模としては,通常幅18m×延長10m×ベンチ高
さ3mを,幅5m×延長5m×ベンチ高さ2mに変更するとともに,計測頻度の増加等,計
測体制を強化している.最終的には,追加補強工の実施,発破方法の変更により,変位が
収束方向であることを確認し,最終リフトまでの掘削が完了できている.
80
75
70
65
60
55
_50
烏45
5m
)40
週35
鼠30
任25
翌20
補強レベル ・ 一. 7m
烏
15
10
5
0
・5
−10
“ぷバ論㌻¢ぷぷ/べ蕊〉べwバ!
図一4、5,6 側壁部地中変位経時変化図(AD−6)9)・】D
84
似1・ Q。3・
S曾…㍗;・、。…翫r…………一…1°2畠
加蛭1“1騙AD.7㍗…
1.ユー「.一型]£‡.L−Ll
一L」 L..ヱコ£±一」一.L l−
‘ I l l 8〕F七 l l l l
水圧管路下部水平坑 F−AP(小断層)
口」」一⊥一ユ2」⊥£‡−L−LL1
A計測 B針測
2リフト ー・う←・一
水圧管路側 ㌶;ゴ:ゴ= 羅蹴濃錨;;, 放水路側
13リフト完了+“→− A断面
・ 図一45.7側壁部変位分布図(A断面)9)・ll)
0,069MPa
PSアン
f1群設計) 一.45− °そそ杏ルトエ
l l
l l
___⊥____L___
ユリフト
2リフト
3リフト
≡ ε
q⊃ ⊂≧
O cr)
4リフト
5リフト
ε
oo
寸
6リフト
u
O
寸
7リフト
}
,舖強工打設位置9旦三上_
9リフト
、 10リフト
11リフト
文中補強アンカー
{L=15m∼20m)
12リフト,
13リフト
放水路側
水圧管路側
凡例
24・m 黙㌶翼亨灘厚
図一4.58 追加補強PSアンカー配置図9)・11)
⑱
85
46 空洞の安定性に対する数値解析による検証
中割部に緩め発破を適用した場合の,空洞の安定性に及ぼす影響について,数値解析を
用いて検証する.
これまで,当地下空洞においては,掘削前の予測解析時の解析物性値を,実際の地下空
洞掘削時における変位計測値とフィッティングさせた逆解析11)について報告されているが,
これは空洞完了時点の空洞全体の安定性について検討するものであり,緩め発破が空洞の
安定性に及ぼす影響について,言及していない.したがって,今回,緩め発破適用時の施
工サイクルであるη中割部緩め発破,2}中割部ずり処理実施による掘削完了,3)側壁部掘
削完了を考慮した有限要素法による逐次解析(2次元FEM解析)を実施し,特に変位発
生時期に着目した検討を行った.
(1}2次元FEM解析手法
解析の評価としては,1リフト掘削で発生する変位量のうち,中割部緩め発破,中割部
掘削完了,側壁部掘削完了の各施工ステップ間で,どの程度の割合で変位が発生するかに
ついて行い,実際の地下空洞変位計測結果と比較検討することにより,解析の前提とした
緩め発破が岩盤に及ぼす影響についての考え方が妥当であるかについて検証した.解析結
果の絶対値での評価でなく,変位発生割合で評価したため,解析手法としては,線形解析
により行っている.
・解析ステップについては,1ベンチ毎にn中割部緩め発破実施,2)中割部ずり処理完了
(中割部掘削解放力100%),3}側壁部掘削完了(側壁部掘削解放力100%)を繰り返し
た(表一4.6.1参照).
・地山の解析物性値を表一46.2に示す.前述した逆解析実施時に,空洞壁面2m以内につ
いては発破損傷領域を設けており,今回の解析入力値も,2mより奥の地山領域(領域
1),2m以内の発破損傷領域(領域皿)に分けて,逆解析時の地山物性値を引用した.
・逆解析時から求まった地山の変形係数を解析に用いていることから,支保の効果につい
ては地山の変形係数に含まれていると考えられる.したがって,支保部材自体は表現し
ていない.
・既往の研究から緩め発破を適用したことにより弾性波速度が30∼40%に低減する.また,
86
菊地2ωの研究で、花闇岩における弾性波速度と弾性係数との相関式が示されていること
から,弾性係数の低減率と相関式を用いて,緩め発破後の弾性係数を当初の1/10とした,
・解析の評価は,実測した計測値と比較するために地中変位計を設置している】リフト,5
リフト位置における壁面変位量の発生時期毎の割合により評価した.
表一4,6,1FEM解析モデルと解析結果
2)中割部掘削完了時 3)側壁部掘削完了時
り 中害‘1部緩め発破時
解析モデル
・中割部を掘削
・緩め発破部の弾性係数をL‘10に
・側壁部を掘削
※ヰ割部掘削解放力α=100%
低減(弾性係数E=8GPa−0.8GPa)
※5リフトまでの地山内の応力に対し
て,弾性係数を変化させて再計算
※側壁部掘削解放力α=10D%
・側壁部壁面に発破損傷領域
(2m)を考慮(弾性係数E=8GPa→
3GPa)
中割部発破までの発生変位量の割合
中割部掘削までの発生変位量の割合側壁部掘削までの発生変位量の割合
〔ll,129mm−9.912nlm)/5.227mm
(1|576mm・9.912mm)/5.227mm (15,139mm−9.912n皿}/5227mm
コ0.232 =0.319 =|.0
※5リフト完了時点で5リフト側壁位置の変位量は9.912mm.
したがって,6リフト掘削時の1リブ噛肖1」分の全変位量は,|5,139mm−9912㎜F5.227㎜
.表一46.2 解析物性値一覧
領域1 領域n
領域nI
n山領域 発破損傷領域 ノめ発破領域
モデル区分
単位体積重量
@弾性係数
kN/m3
fPa
2.71
W.0 3.0 1 0.8 0.23 −一
{アソン比 一.
炎匀棊ヘ※
lPa
@ −−
σ、=100σy=60
σ、:鉛直方向初期応力 σy:水平方向初期応力
87
(2)2次元FEM解析結果
表一461に解析結果の一例を示した.この解析結果は6リフト掘削における5リフト側
壁位置における変位量を示している.この解析結果では,6リフト掘削で5.227㎜発生し
ており,このうち,中割部発破までで1.217㎜(23.2%),中割部掘削完了段階までで
1.664㎜(31.8%)発生している.同じよう鰹理方法で,1リフト分を掘削して発生する
変位量のうち,各施工段階における発生変位量の割合について,FEM解析値と実際の変位
計測の比較を図一461∼46.5に示した.図一46.1,46.2については1リフト側壁位置に
おけるそれぞれ2リフト,4リフト掘削した時の変位量発生割合,図一463∼46.5につい
ては5リフト側壁位置におけるそれぞれ5リフト,6リフト,7リフト掘削時の変位量の発
生割合である.計測された変位発生割合を示すにあたっては,その時点における計測箇所
の地山の安定性との関連を検討するために,絶対値管理基準で評価した対応する管理レベ
ル記号で示している.また,3リフトについては,掘削作業を中止して逆巻きでコンクリ
ート構造物を構築する関係上,壁面近傍の発破にプレスプリティング工法等の特殊工法を
採用していたため,除外した.また,図一466には,図一461∼46.5の発生割合をまと
め,管理レベル3以内と管理レベル4で区別し,それぞれの変位発生割合を平均化して示
した.
図一46.1∼46.5を見ると,いずれの掘削リフトの解析値においても,中割部緩め発破実
施時の発生割合が20%前後,中割部掘削完了時で30%前後の変位が発生している.一方,
計測値については,管理レベル3以内については,ほぼ解析値と同等の変位発生割合が得ら
れ,平均すると図一46.6に示すように,ほぼ近似した値が得られている.一方,管理レベ
ル4の場合には,緩め発破後までで35%程度,中割部掘削完了までで50%程度の変位を計測
しており,解析値とも乖離する結果となった.管理レベル4の場合には,前述したずりを存
置している期間も変位が漸増傾向にあることを考えると,地山の弾性係数のみが変化して
いる以上の掘削解放力が作用しているといえる.
88
室100
緬go
誓、。
豊・・
驚・・
£・・
両・・
憲・・
譲2°
やo
∋ 0
掘削開始 中割部緩め 中割部 側壁部
発破実施 掘削完了 掘削完了
凡例 口管理レベル1 △管理レベル2
◇管理レベル3 ×管理レベル4
●FEM解析結果
図一46,1 各施工段階における変位量発生割合の解析値と計測値の比較
(2リフト掘削時における1リフト側壁変位)
(100
5,。
曹,。
き・・
驚6・
£・・
轟・・
§・・
隷2°
ξ1°
− 0
掘削開始 中割部緩め 中割部 側壁部
発破実施 掘削完了 掘削完了
図一462 各施工段階における変位量発生割合の解析値と計測値の比較
(4リフト掘削時における1リフト側壁変位)
89
(100
5,。−N(計醐)。9 一
誓,。
璽・・
驚・・
£5・
両・・
爵3°
蘭2°
芯10
∋ 0
掘削開始 中割部緩め 中割部 側壁部
発破実施 掘削完了 掘削完了
凡例 口管理レベル1 △管理レベル2
◇管理レベル3 ×管理レベル4
●FEM解析結果
図一46.3 各施工段階における変位量発生割合の解析値と計測値の比較
(5リフト掘削時における5リフト側壁変位)
(100
芭
ぐロ90
濡
e80
遅70
驚・・
£5・
両・・
§3°
藻2°
ξ1:
掘削開始 中割部緩め 中割部 側壁部
発破実施 掘削完了 掘削完了
凡例 口管理レベル1 △管理レベル2
◇管理レベル3 ×管理レベル4
●FEM解析結果
図一4.6,4 各施工段階における変位量発生割合の解析値と計測値の比較
(6リフト掘削時における5リフト側壁変位)
90
100
ξ・・
曹・・
豊・・
§・・
£・・
最・・
薫・・
覇・・
白〇
三 〇
掘削開始 中割部緩め 中割部 側壁部
発破実施 掘削完了 掘削完了
凡例 口管理レベル1 △管理レベル2
◇管理レベル3 ×管理レベル4
●FEM解析結果
図一465 各施工段階における変位量発生割合の解析値と計測値の比較
(7リフト掘削時における5リフト側壁)
② ③
①21.3%
FEM解析結果
計測値
(管理レベル3以内)
W.2 70,5%
①17.4%
② ③
P3.5% 69.2%
②16.4%
①35.6%
③48.0%
計測値
(管理レベル4)
凡例:①中割部緩め発破時発生変位量の割合
②中割部掘削完了時発生変位量の割合
③側壁部掘削完了時発生変位量の割合
図一46.6 解析結果および計測値の変位発生割合の平均
91
また,計測値が管理レベル4に該当している箇所が,結果的にほぼCM級岩盤が主体であ
ったことからも空洞の安定性が比較的低かったことが伺える.図一46.727)に,トンネルを
対象とした日本国内および主な海外分類の評価値の比較を示す.電力中央研究所による岩
盤分類でCM級に分類される岩盤は,日本道路公団(現,東日本高速道路株式会社,中日本
高速道路株式会社,西日本高速道路株式会社)による岩盤分類で,CI∼CI[に相当する.
CI∼cnの掘削後の切羽は,標準的なトンネル幅10m程度の道路トンネルで,掘削後すぐ
にトンネル天端部に肌落ち等が生じるため,吹付けコンクリート等による支保が必要とさ
れている地山である28).また,既設の地下発電所地下空洞は,主にB∼CH級の良好な岩盤
に計画されており29),過去の地下空洞の変状実績を分析した結果からは,上記範囲を外れ
るCM級岩盤が50%以上を占める位置において発生した変状については,比較的大がかりな
補強工を要した実績が多い30)ことが判明している.したがって,CM級岩盤が主体の場合は,
空洞の安定性が低いと判断され,緩め発破の適用範囲から外すのが適切である.
以上をまとめると,管理レベル3以内については,緩め発破で地山の性質が変化し,空
洞周辺の応力状態は変化するものの,自由面は解放されていないので,掘削解放力は大き
く作用しないとの考え方が妥当である.
一方で,管理レベル4の場合には,1}緩め発破後,ずりを存置している期間においても変
位が漸増していること,2)緩め発破により岩盤の性質が変わった以上に,発破時の変位発
生割合が大きいこと,3)最終的に小規模発破への変更を必要としたことを考慮すると,小
規模発破により早期に支保を実施する施工法が最良である.
圃麟欝團匝コ[RMR]E=]
A
B
CI
CH∼B
hVN
58∼44
ヌN
@CL
43∼29
@D
非常に良
女子100∼81 _,
良好
の セ
普通
10以上
悪し、 20∼10
普通 …
ふ 悪い …
かなり悪い
01∼20
40∼21
非常に悪い
皿N
,.非常に悪い_.
1LIS
DH
E
75∼59
@CM
C互
DI
100∼75
VN
28以下
01∼004
20以下
圭璽立嵩1こ悪し、
特S.特L
α004以下
図一467 日本国内および海外の岩盤分類の評価値の比較27)
92
4.7緩め発破適用の施工性に関する検証
中割先進側壁切拡工法のうち中割部に緩め発破を適用した場合における,施工性の観点
から見た従来工法との比較を行う.
表一47.1に小丸川発電所地下空洞施工実績に基づく従来工法と緩め発破を適用した場
合の施工実績に基づく工程,コストの比較を示す.この工程,コストの算出条件としては,
中割部のみを抽出し,空洞幅方向18m×延長方向100m×高さ3mを対象領域とした.
工程面で見た場合,緩め発破を適用することにより穿孔・装薬とずり処理の併行作業が
可能になり,従来工法に比べ26%短縮されている.また,サイクル別に見てみると,穿孔・
装薬作業が1サイクル1.2方であったのに対して,緩め発破を適用することにより1.1方に
低減している.これは,緩め発破適用により飛石の危険性がほとんどなくなったことから,
発破に伴う重機退避距離が短くなり,発破による損失時間が小さくなったためである.
また,コスト面で見た場合は主に労務費のコスト低減効果により,10%のコスト縮減が
可能となった.
以上,従来工法と比較した場合,緩め発破は工程,コストといった施工性の観点から優
れていることが判明し,前述した空洞の安定性から適用可能な場合については,適用する
のが望ましい.
93
経書三
〇 長
※
ム
器書三
藝
口 」醐醐醐
K
垂禦
縢㌶
n
菜
口(
LΩ⊂i
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一
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巴
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口
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H
嘉
{n匡㊤、
×…送
舗
耀
登
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一
一
潔二.口
94
露
遷
誌
鷲
顯
諜
踏
欝
諜
認
48第4章のまとめ
第3章で検討した大規模発破は地質条件が良好で,空洞の安定性が高いと判断される場
合に適用される工法である.本章では,大規模発破の適用条件(地山等級CH級以上,計測
に関する管理レベルが1以内)を外れる場合における地下空洞盤下げ掘削の効率的施工法と
して,標準的な盤下げ掘削工法である中割先進側壁切拡工法のうち中割部への緩め発破の
適用性について検討を行った.適用にあたっては,ずりを存置することによる地下空洞の
安定性,すなわち,緩め発破後ずりを存置している期間の空洞の安定性に及ぼす影響が懸
念されることから,この影響について検証し,緩め発破の適用範囲を明らかにした.また,
従来工法と比較した場合における工程,コストといった施工性の観点からの優位性につい
て示している.
本章により得られた成果を以下に示す.
1)ずりを存置している期間における空洞の安定性を考慮した場合,緩め発破の適用は計測
に関する管理レベル3以内がその適用条件であることを,実際の地下空洞変位計測結果,
数値解析による検証から明らかにした.
2)計測に関する管理レベル4の場合には,緩め発破後,ずりを存置している期間の空洞変位
が漸増傾向にあり,1リフトで発生する変位に占める割合も大きいことから,早期に支保
を実施できる小規模発破の適用が妥当である.
3}標準発破の中割先進側壁切拡工法に緩め発破を適用した場合,従来に比べ,工程で26%,
コストで10%低減し,施工性に優れている.したがって,上記空洞の安定性から緩め発
破が適用可能な場合については,中割先進側壁切拡工法のうち中割部に緩め発破を適用
する.
95
参考文献
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1984.5
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評価法,石灰石,第203巻,pp.47−57,1983.5
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工業火薬協会誌,Vbl43, No.3, pp.138−143,1982.6
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1980.7
8)河邉信之,長崎 義美,河原田寿紀,西村和夫:地下空洞盤下げ掘削における緩め発破
適用による効率的施工法に関する研究,土木学会論文集F,Vbl.65, No4, pp.461−472,
2009.10
9)河邉信之,園田利美津,江口聡一郎,西村毅:大規模地下空洞における情報化施工の適
用と実施工結果について,トンネル工学研究論文・報告集,第15巻,pp.175−180,2005.11
10)鶴田正治,河原田寿紀,日高英介:小丸川地下発電所の設計解析と情報化施工計画,
電力土木,No.300, pp.114.118,2002.7
11)柏木雄二,河原田寿紀,日高英介:小丸川発電所地下空洞の情報化施工,電力土木,
No.307, pp.53−57,2003.9
12)柏木雄二,園田利美津,江口聡一郎:小丸川発電所新設工事のうち地下発電所空洞の
設計と施工,電力土木,No.319, pp.55−59,2005.9
13)柏木雄二:小丸川揚水発電所 地下発電所本体空洞の設計・施工,岩の力学ニュース,
No.72, pp.5−10,2004.7
14)柏木雄二,高森重治,江口聡一郎,小林康夫:情報化施工を用いた16万m3地下空洞
掘削工事 一九州電力 小丸川地下発電所一,トンネルと地下,第37巻第4号,pp.31・・37,
96
2006.4
15)連載講i座 山岳トンネルにおける工事用機械の選定(7) 掘削機i械(5)一発破掘削
(特殊事例)一:トンネルと地下,第35巻5号,pp.47−51,20045
16)三浦智哉,河邉信之,園田利美津,相良健一:地下空洞における地山分類に応じた支
保パターンの適用について,土木学会第62回年次学術講演会講演概要集第6部,
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17)日本電力建設業協会:施工からみた地下発電所の変遷と事例集 施工事例,別冊
CD−ROM,2004.12
18)丸山能生,鶴田正治,西村毅:地下掘削工事における岩盤i計測管理システムの開発・
導入,土木学会第57回年次学術講演会講演概要集第6部,第57巻,pp.865−866,2002.9
19)塩月隆久,坂本浩之,古川浩平,中川浩二:盤i下げ発破と大型ブルドーザーを用いた
大規模岩盤掘削の効率化に関する研究,土木学会論文集,NO.444/VI−16, pp.49−58,1992.3
20)竹村友之,鶴見憲二,西村毅:スーパーカミオカンデ空洞の掘削,土と基礎,第46巻
第6号,pp:28−30,1998.6
21)鶴見憲二,藤井伸一郎,中川哲夫:スーパーカミオカンデの空洞掘削について,資源
と素材,第111巻第6号,pp.381−386,1995.6
22)日本道路協会:道路トンネル技術基準(構造編)・同解説,pp.76−77,1989.6
23)日本道路協会:道路土工 のり面工・斜面安定工指針,pp.353−372,1993.3
24)河邉信之,西村毅,市丸義次:大規模地下空洞盤下げ掘削における緩め発破工法の適
用について,土木学会第58回年次学術講演会講演概要集第6部,第58巻,PP.29−30,
2003.9
25)日本電力建設業協会:施工からみた地下発電所の変遷と事例集,p.46,2004.12
26)菊地宏吉:ダム基礎岩盤の地質工学的評価に関する研究,早稲田大学学位論文,P.78,
1979.9
27)日本トンネル技術協会:TBMハンドブック, PP.65,2000.2
28)土木学会:トンネル標準示方書[山岳工法編]・同解説,pp.40−41,1996.7
29)土木学会:大規模地下空洞の情報化施工,pp.57−59,1996.11
30)前述29),PP.124−125
97
第5章 盤下げ掘削における最適な発破手法の選定
5.1概説
地下空洞盤下げ掘削の効率化を図る発破手法として,2箇所の地下空洞において,異なる
発破手法の確立を試みた.奥多々良木発電所増設工事地下空洞では,地山条件等が良好で一
空洞壁面に発生している変位計測結果等から,空洞の安定性が最も高いと判断される場合
において,1発破掘削量を多くした大規模発破の適用性について研究した1).また,九州電
力小丸川発電所地下空洞では,地山条件や空洞の安定性評価から,大規模発破が適用範囲
外となり,標準的な1発破掘削量が妥当であると判断された場合に,発破手法として緩め発
破を用いる施工法の適用性について研究した2).
本章では,はじめに発破手法の選定指標の一つである計測管理について,各々の地下空
洞で管理基準,管理レベルの運用が若干,異なっていることから,管理基準の考え方の整
理を試みている.次に,この2工法の実施工結果に基づく適用研究を踏まえ,地下空洞盤下
げ掘削において,地山条件等に応じ,最も効率的な盤下げ発破手法を選択できる選定フロ
ーの策定を行った.
99
5.2盤下げ掘削における発破手法選定フロー
川空洞の安定性から見た盤下げ発破の選定
3章で,大規模発破の適用は,電力中央研究所の岩盤分類でCH級以上および表一5.2.13)
に示す奥多々良木発電所増設工事地下空洞で策定した管理基準のうち対策レベル1以内で
あることを明らかにした.また,4章で中割先進側壁切拡工法のうち,中割部への緩め発
破の適用範囲は,小丸川発電所地下空洞の管理基準(表一42.1参照)のうち管理レベル3
以内としている.
このうち,大規模発破の適用指標の一つである岩盤分類については,国内における地下
空洞においては電力中央研究所による岩盤分類が広く用いられていること4)から,汎用性
は高いと考えられる.一方で,計測に関する管理基準にっいては,研究対象とした2箇所の
地下空洞における運用で,対策レベル,管理レベルと異なる用語を使用していることから,
整理する必要がある.
計測に関する管理基準の設定は,3.3,川,b)に示したように,各地下空洞の地質や空洞
の形状,規模,地圧条件,施工方法等を考慮して設定しており,特に決まっているもので
はない.ただし,最近の大規模地下空洞管理基準値の設定をみると5)・6),実施する対策工
のレベルを区切る管理基準値については3段階,管理基準値によって分けられる対策工のレ
ベルとして4段階程度に分けられたものが多く,大きな考え方として表一52.2にようにまと
められる.これは,図一5.2.17)に示す通常の山岳トンネルで一般的に言われている管理基
準値と管理体制の関係とほぼ考え方は同じである.
今回,表一5.2.1に示した奥多々良木発電所増設工事地下空洞の管理基準,表一421に示
した小丸川発電所地下空洞の管理基準を表一5.2.2に照らした場合,管理基準値の設定方法
表一5.2.1奥多々良木発電所増設工事地下空洞の管理基準3)
対策
激xノレ
1
2
3
対象項目
管理基準値
地中変位・内空変位
前日の変位速度を上回らないこと
i1回/日)(1回/週)
竭ホ値が36mmを越えないこと
地中変位・内空変位
@ (掘削毎)
前日の変位速度を上回らないこと
地中変位・内空変位
@ (掘削毎)
前日の変位速度を上回らないこと
PS工軸力
i掘削毎)
;…禦繍璽
竭ホ値が36mmを越えないこと
竭ホ値が36mmを越えないこと
極限荷重に達しないこと
X8.7tf×0.65=64tf
100
ロックアンカー工増し打ちおよび
既設ロックアンカー工を緩める。
としては個々の考え方があるが,対策工を実施する管理レベルについては表一5.2.2に示す
考え方と同様な考え方をしているといえる.したがって,3章で示した大規模発破の適用
指標の一つである管理基準のうち最も安定性が高いと判断される対策レベル1は,表一5.2.2
に示す管理レベル1と考えることができる.また,中割部に適用する緩め発破については最
も管理基準値の数値が高い管理基準値3以内であることから,表一5.2.2に示す管理レベル3
以内が該当する.なお,表一5.2.2に示す管理レベル4の場合については,3.4,(1),45,㈲
に示すように,空洞周辺の変位計測結果より空洞の安定性が低いと判断される場合であり,
抜本的な施工の見直しを求められるレベルであることから,1発破掘削量を小さくし,極力
早期に支保を行える小規模発破を選定する.
表一5.2.2 地下空洞における管理基準値と管理レベルの基本的な考え方
管理基準値と管理レベル
管理レベル1
管理レベルの基本的な考え方
・計画通り計測、掘削の実施
管理基準値1
管理レベル2
管理基準値2
・計測頻度の増加,必要に応じ部分的に支保
Hの追加実施
管理レベル3
・計測体制の強化,支保工の追加実施
管理レベル4
・設計,施工等の抜本的見直し
管理基準値3
管珊盤準値 管理基準値 管理基準値
(管理レペル1} (管理レベルH) {笹理レベルM)
A:通甜体制・・…・定時爵測
B:注意体制……翫測頻度強化,現場点棲.作業員へ注意強化
C:要漉意体制……帥測体制の強化,軽微な対策工の裳施
D:厳砿注意体制一…施工の停止,変状要因・傾向の解析.トンネル補強の検討
図一5.2.1山岳トンネルにおける管理基準と管理体制の関係7)
101
②施工性から見た盤下げ発破の選定
3.4,(4)で奥多々良木発電所増設工事地下空洞での施工実績を基にした,大規模発破に
よる全断面一括工法と従来の中割先進側壁切拡工法との工程,コスト比較を行った.また,
47では小丸川発電所地下空洞での施工実績を基に,中割先進側壁切拡工法のうち中割部に
緩め発破を適用した場合の工程,コスト比較を行っている.
本章では,それぞれ個別の施工実績を基に検討していたものを比較するために,①従来
のベンチ発破による中割先進側壁切拡工法,②大規模発破適用による全断面一括工法,③
中割部に緩め発破を適用した中割先進側壁切拡工法について,工程,コストといった施工
性の検討を行った.
3工法の比較検討にあたっての,検討条件を以下に示す.
・掘削対象範囲:幅24m×長さ50m×高さ3m
・対象地山:電力中央研究所岩盤分類でCH級
表一5.2.3に掘削工法別の施工性の比較検討を示す.従来のベンチ発破による中割先進側
壁切拡工法での掘削必要日数を1.0とした場合の各工法の比率は,②大規模発破適用による
全断面一括工法が0.71,③中割部に緩め発破を適用した中割先進側壁切拡工法が0.93となっ
た.同様に,コストは従来工法を1.0とした場合,②大規模発破適用による全断面一括工法
が0.83,③中割部に緩め発破を適用した中割先進側壁切拡工法が0.94となった.
以上,施工性の観点からは,②大規模発破適用による全断面一括工法,③中割部に緩め
発破を適用した中割先進側壁切拡工法,①従来のベンチ発破による中割先進側壁切拡工法
の順に優位性があることがわかった.
102
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103
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(3)発破手法選定フローの策定
これまでの一連の研究成果をまとめ,図一5.2.2に地下空洞盤下げ掘削における発破手法
選定フローを示した.
岩盤等級がCH級以上,計測の管理レベルが表一5.2.2に示す最も低いレベル1以内で,掘
削時の空洞の安定性が最も高いと判断される場合には,工程,コストといった施工面から,
大規模発破による全断面一括工法が最も効率的であり,第一に選定する.次に,この条件
下を外れる場合については,標準発破または小規模発破となるが,表一5.2.2に示す管理レ
ベル3以内の場合については,標準的な中割先進側壁切拡工法のうち中割部に緩め発破を適
用しても地下空洞の安定性に大きく影響を与えないことから,施工性に優れる緩め発破を
選定する.また,表一5.2.2に示す管理レベル4の場合については,発破後,極力早期に支保
を行える小規模発破を選定する.
なお,小規模発破の発破パターンについては,奥多々良木発電所増設工事地下空洞での
事例(3.4,(1}参照),小丸川発電所地下空洞での事例(45,(3)参照)を見ると,地山状況,
変位発生状況,現場状況を,各々考慮して適用する必要があることから,別途検討とした.
発破後については情報工施工による空洞周辺の変位計測管理を行い,管理基準に則って,
変状がある場合は対策工を検討するとともに,次回の発破工法の選定に反映させることと
した.
104
START
▼
xES 計測管理レベル1以 NO
岩盤等級CH級以上
@ YES
計測管理レベル
NO
@ 3以内
大規模発破
標準発破
小規模発破
全断面一括工法
Q分割発破の実施
中割先進側壁切拡工法
??狽ノ緩め発破適用
地山状況等に応じ,1発
j掘削量等,別途検討
㌶麟あり対策工検討
なし
あり
次回発破の有無
なし
図一5.2.2盤下げ掘削における発破方法選定フロー
105
5,3第5章のまとめ
第3章の大規模発破の適用検討,第4章の緩め発破の適用検討を踏まえ,地下空洞盤下
げ掘削における最適な発破手法を選択できる選定フローを策定した.
なお,発破手法の選定指標の一つである計測管理については,各々の地下空洞で管理基
準,管理レベルの運用が若干,異なっていることから,計測管理基準の考え方の整理を試
みている.
本章により得られた成果を以下に示す.
1)岩…盤等級CH級以上,計測に関する管理レベルが表一52.2に示すレベル1以内の場合は,
最も空洞の安定性が高い場合と判断されることから,工程,コストといった施工性の観
点から最も優れている大規模発破による全断面一括工法を第一に選定する.
2)上記1)の施工条件を外れる場合で,計測に関する管理レベルが表一5.2.2に示すレベル3
以内の場合は,中割先進側壁切拡工法による標準発破を選定する.このうち,中割部の
発破については,緩め発破を用いることで,工程,コストといった施工性の観点に優れ
ることから,標準的に緩め発破を適用する.
3)計測の管理レベルが表一5.2.2に示すレベル4の場合には,空洞の安定性から小規模発破を
適用し,早期に支保を実施する.この場合,1発破掘削量等は,地山状況,変位発生状況,
現場状況を考慮し,別途検討する.
106
参考文献
1)河邉信之,袋井肇,西村和夫:地下空洞盤下げ掘削における効率的施工を目的とした大
規模発破の適用に関する研究,土木学会論文集F,VbL65, No.2, pp.148.162,200g.4
2)河邉信之,長崎義美,河原田寿紀,西村和夫:地下空洞盤下げ掘削における緩め発破適
用による効率的施工法に関する研究,土木学会論文集F,Vbl.65, No.4, pp.461−472,200g.10
3)手塚昌信,大西有三,袋井肇,瀬岡正彦:大規模地下空洞掘削における情報化施工の適
用例,第28回岩盤力学に関するシンポジウム講i演概要集,pp.43−47,1997.1
4)土木工学社:岩盤i分類とその適用,p.113,1988.7
5)土木学会:大規模地下空洞の情報化施工,pp.155−159,1996.12
6)日本電力建設業協会:施工からみた地下発電所の変遷と事例集,pp.109−111,2004.12
7)土木学会:トンネル標準示方書 山岳工法・同解説,p.263,2006.7
107
第6章 結論と今後の展望
6.1本研究のまとめ
本研究では,地下空洞の大規模化,大深度化に向け,建設コスト縮減が求められるなか
で,工程,コストといった施工性の観点で,大きなウェートを占める盤下げ掘削の施工性
に着目し,施工性を向上させる盤i下げ発破方法,掘削方法の確立を図った.研究にあたっ
ては,掘削時の大規模地下空洞の安定性を確保することが最も重要であることから,地下
空洞の安定性を確保しつつ,盤i下げ掘削の施工性を向上させる施工法の検討を行った.
本研究から得られた結論を各章ごとにまとめて以下に示す.
第1章では,本研究の背景と目的,論文の構成について示した.
大規模地下空洞を取り巻く背景から,今後の大規模地下空洞については,多岐にわたる
地下利用計画のなかで,大規模化,大深度化の方向にあり,掘削量の増加に伴って多額な
建設コストも必要になってくることから,地下空洞建設に関わる建設コストを縮減してい
く必要があることを示した.
そのなかでも,盤下げ掘削は地下空洞全体の掘削量のうち約70∼80%,工程で掘削工事
の約60%,建設コストで65%を占め,地下空洞掘削工事全体に大きなウェートを占めるこ
とから,本研究では盤下げ掘削の施工性に着目し,発破方法,掘削方法についての研究を
行ったことを示した.
第2章では,わが国で建設された主な大規模地下空洞盤下げ掘削の施工実績を分析する
ことで,従来の盤下げ掘削で適用される掘削工法,1発破あたりの発破規模を明らかにし
た.また,従来の地下空洞盤下げ掘削の施工サイクルを分析することで,大規模地下空洞
の施工性に関する課題を示した.
本章により得られた成果を以下に示す.
1}地下空洞の盤下げ掘削工法の主流は,中割部をベンチ発破で先行した後,掘削幅4m程
度の側壁部を水平発破で切拡げ掘削する中割先進側壁切拡工法が主流である.
2}発破規模については,中割部で1発破進行長最大10m程度,ベンチ高さ3m程度であ
109
る.1発破掘削量を明かり発破と比較した場合,600m3を上限とした比較的小規模な発
破を繰り返し行っている.
3)中割部,側壁部とも穿孔・発破,ずり処理,支保工(吹付けコンクリート,ロックボル
ト)といった各作業が終了後,次作業に移行しており,各作業の併行作業の実施等,施
工性向上のための改善の余地が残されている.
4)中割先進側壁切拡工法の施工サイクルを分析した結果,小規模な発破を繰り返すことで,
発破退避等のロス時間が全作業時間の20%を超えており,施工性を低下させている.ま
た,ロス時間に相当するコストは,掘削に関わるコスト全体の14%程度を占めることか
ら,施工性向上に伴い,ロス時間を短縮した場合,コスト縮減に繋がる.
第3章では盤下げ掘削の施工実績の分析結果から,1発破掘削量の少ない小規模発破の
適用が,施工性を低下させる一因であることが判明したため,1発破掘削量を多くした大
規模発破の適用について,関西電力奥多々良木発電所増設工事地下空洞盤i下げ掘削を対象
に検討した.ただし,大規模発破の適用にあたっては,①支保工完了までの無支保時間が
長くなることによる地下空洞の安定性に与える影響,②発破が周辺岩盤に与える損傷が懸
念されることから,①地下空洞の安定に影響を与えない掘削時の適用指標の確立,②周辺
岩盤への発破による損傷について低減した発破パターンの提案と周辺岩盤に与える損傷程
度の解明を行った.また,大規模発破を適用するにあたって,施工の効率性向上の観点か
ら施工サイクルの最適化を図った.
本章により得られた成果を以下に示す.
1)岩盤等級がCH級以上,、奥多々良木発電所増設工事地下空洞の管理基準のうち最も対策
レベルが低いレベル1以内の場合に,大規模発破が適用可能であることを示した.また,
この適用条件を外れる場合については,大規模発破を用いることで,地下空洞の安定性
に影響を及ぼす可能性があるため,標準発破または小規模発破の適用が妥当である.
2)大規模発破を適用する場合,掘削対象断面を平面的に2分割し,片側で穿孔・装薬,ず
り処理,片側で支保工を実施する施工を行った場合,従来,最も多く採用されてきた中
割先進側壁切拡工法に比べ,発破回数の減少に伴うロス時間の減少と併行作業による施
工の効率化により,工程が36%,コストが22%低減し,最も効率的である.
110
3)大規模発破パターン選定にあたって,施工の効率性向上と周辺岩盤への発破による損
傷低減を目的とした大規模発破パターン選定フローを具体的に示した.また,従来の中
割先進側壁切拡工法と,大規模発破による全断面一括工法の周辺岩盤に与える発破損傷
は同程度であり,その損傷範囲も小さい.
4)大規模発破施工にあたっての適用条件から,最適な発破規模,発破方法を一連の大規
模発破適用フローとして示した.
第4章では,上記,大規模発破は地質条件が良好で,空洞の安定性が高いと判断される
場合に適用される工法であり,この適用条件を外れる標準的な掘削工法,1発破掘削量に
対する効率的な施工法として,緩め発破の適用を研究した.緩め発破は,最近のわが国の
石灰石鉱山,砕石鉱山等でずりを存置したまま次回以降の発破を行っている工法であり,
装薬・発破とずり処理を併行作業することにより効率化を図っている.したがって,この
緩め発破を地下空洞盤i下げ掘削の標準的な掘削工法である中割先進側壁切拡工法のうちベ
ンチ発破となる中割部に適用することにより,施工の効率化を図った.ただし,適用にあ
たっては,ずりを存置することによる地下空洞の安定,すなわち,緩め発破後ずりを存置
している期間の空洞の安定性に及ぼす影響が懸念されることから,この影響について検証
し,緩め発破の適用範囲を明らかにした.また,従来工法と比較した場合における工程,
コストといった施工性の観点からの優位性について検討した.なお,緩め発破の適用研究
にあたっては,九州電力小丸川発電所地下空洞盤下げ掘削を対象に,実施工結果に基づく
検証を行っている.
本章により得られた成果を以下に示す.
1)ずりを存置している期間における空洞の安定性を考慮した場合,緩め発破の適用は管
理レベル3以内がその適用条件であることを,実際の地下空洞変位計測結果,数値解析
による検証から明らかにした.
2)小丸川発電所管理基準のうち管理レベル4の場合には,緩め発破後,ずりを存置してい
る期間の空洞変位が漸増傾向にあり,1リフトで発生する変位に占める割合も大きいこ
とから,早期に支保を実施できる小規模発破の適用が妥当である.
3)標準発破の中割先進側壁切拡工法に緩め発破を適用した場合,従来に比べ,工程で26%,
111
コストで10%低減し,施工性に優れている.したがって,上記空洞の安定性から緩め発
破が適用可能な場合については,中割先進側壁切拡工法のうち中割部に緩め発破を適用
する.
第5章では,第3章の大規模発破の適用検討,第4章の緩め発破の適用検討を踏まえ,
地下空洞盤下げ掘削における最適な発破手法を選択できる選定フローを策定した.なお,
発破手法の選定指標の一つである計測管理については,各々の地下空洞で管理基準,管理
レベルの運用が若干,異なっているから,計測に関する管理基準の考え方の整理を試みて
いる.
本章により得られた成果を以下に示す.
1)岩盤等級CH級以上,計測に関する管理レベルがレベル1以内の場合は,最も空洞の安定
性が高いと判断されることから,工程,コストといった施工性の観点から最も優れてい
る全断面一括工法を第一に選定する.
2}上記1)の施工条件を外れる場合で,計測に関する管理レベルが表一52.2に示すレベル3
以内の場合は,中割先進側壁切拡工法による標準発破を選定する.このうち中割部の発
破については,緩め発破を用いることで,工程,コストといった施工性が優れることか
ら,標準的に緩め発破を適用する.
3}計測に関する管理レベルが表一5.2.2に示すレベル4の場合には,空洞の安定性から小規
模発破を適用し,早期に支保を実施する.この場合,1発破掘削量等は,地山状況等を
考慮し,別途検討する.
112
6.2今後の展望
従来,大規模地下空洞の盤下げ掘削で適用される発破手法,掘削工法は周辺岩盤を極力
傷めない発破手法,掘削工法が適用される一方で,施工の効率性向上の観点から発破方法,
掘削方法を改善した事例はなく,従来の施工法を踏襲した画一的な施工法がほとんどであ
った.これに対して,本研究では空洞の安定性を確保しつつ,効率性を向上させる盤下げ
掘削方法を提案でき,今後の地下空洞建設の効率化に向けた施工法を提唱できたと考えて
いる1)・2). 一
さらに,今後の地下空洞建設の施工性向上を考えた場合,今回,研究対象とした“大規
模発破”,“緩め発破”の適用性を拡大していく必要がある.以下に,“大規模発破”,“緩め
発破”の適用性拡大に向けた展望を示す.
川大規模発破の適用性拡大と残された課題
施工事例の多い道路トンネル等の山岳トンネルの掘削工法を見た場合,1980年代の
NArMの考え方が導入される以前の矢板工法で施工されていた時代には,地山不良部を中
心に切羽断面を分割していた3).これに対し,現在では補助ベンチ付き全断面工法または
上半先進ベンチカット工法が標準的な掘削工法として採用されており4),山岳トンネルの
大きな流れとして,切羽における加背割りついては大断面化の方向にある.これは,効果
的で廉価な補助工法の技術開発等により,切羽が大断面になってもトンネル天端や鏡面の
安定を確保することが可能になり,大型重機等を使った効率的な施工を目的としていると
いえる.したがって,今後,地下空洞盤下げ掘削においても,施工の効率性向上に向けて,
加背割りの大規模化になるのは必然である.
本研究における結論として,地下空洞盤下げ掘削における大規模発破の適用指標として
岩盤等級がCH級以上であること,計測に関する管理レベルが最も安定性が高いと判断さ
れる管理レベル1であることとした.これは,地下空洞の安定性を確保することを第一に
考えたためで,安全側の判断指標である.したがって,今後,今回提案した適用指標を外
れる地山に対しても大規模発破の適用性を拡大していく必要がある.
以下に,大規模発破の適用性拡大に向けた今後の展望を示す.
1)大規模発破の適用性拡大を考えた場合,発破後,支保工を実施するまでの時間的経過
113
が,どの程度空洞の安定性に影響を与えるか,空洞周辺の緩みの時間的進展を詳細に把
握する必要がある.最近の地下空洞建設工事においては,発破直後の岩盤の破壊に伴い
発生する微小な弾性波(振動,音響)を感知し,空洞周辺のゆるみ領域の時間的進展を
詳細に把握するAE(アコースティック・エミッション)法5)・6)も行われている.今後,
AEの発生数,発生周波数と岩盤のゆるみ領域との関係等を解明していくことで,発破
直後からのゆるみの進展等が解明できるかと考える.
2)大規模発破の適用性拡大を考えた場合,早期に地下空洞の支保工の効果を発揮させる
ことが重要である.例えば,山岳トンネルで掘削断面積が180m2の第二東名・名神高速
道路の超大断面トンネルでは,高強度吹付けコンクリート,高耐力ロックボルト,高規
格鋼製支保工といった支保工が適用された7).このうち,高強度吹付けコンクリートは
材令1日の初期鍍が従来の2倍の10N/㎜2,材令28日強度も従来の2倍の36N/㎜2
であり8),早期に支保工の効果を発揮させる観点からは優位性の高い支保材料の一つで
あり,今後,大規模発破適用時の空洞の安定性向上に対する効果について検証していく
必要がある.
3)大規模発破後,早期に支保工を実施していくためには,大量に発生するずり処理の迅
速化,支保工作業時間の短縮化を図っていく必要がある.例えば,ずり処理については,
山岳トンネルで適用事例が増えてきている連続ベルトコンベアによるずり処理方法9)
の適用が考えられる.また,地下空洞の主たる支保工であるPSアンカーについては,
アンカー穿孔から緊張まで最短でも4日間程度必要としており,この施工性向上も大規
模発破後の支保工の早期施工にあたっての課題の一つである.また,PSアンカーに代
わり,より簡易的な施工かつ長尺な支保効果が得られるケーブルボルトによる支保の実
施も考えられるためlo),今後,ケーブルボルトの支保効果を解明していうとともに,
その設計手法を確立していく必要がある.
以上,大規模発破の適用性拡大を推し進め,その上で,最終的には道路トンネル等の山
岳トンネルの1発破進行長が地山条件に応じ,標準的に1.0∼2.Omの進行長が定められて
いるように,地下空洞においても地山条件,計測条件により最適な発破掘削量を,予め定
めることが理想である.このためには,各種の地山条件に対し,大規模発破を適用し,空
洞の安定性等を検証していく必要がある.
114
②緩め発破の適用性拡大に向けた展望と残された課題
本研究における結論として,緩め発破の適用は地下空洞盤下げ掘削の標準的な施工法で
ある中割先進側壁切拡工法のうち中割部とし,適用範囲は大規模発破適用範囲を除く管理
レベル3以内とした.緩め発破の適用性拡大を考えた場合,装薬・発破作業とずり処理作
業を併行できる利点をいかし,発破の大規模化に対応していくことが考えられる.
以下に,緩め発破の適用性拡大に向けた今後の展望を示す.
1}大規模発破への緩め発破手法の適用を考えた場合,空洞横断方向に断面を分割せず,一
度に発破,掘削する全断面一括工法への適用が考えれる.緩め発破自体はずりが動かな
い発破であり,自由面が存在しない状況で空洞壁面近傍におけるS.B孔が,周辺岩盤iに
どの程度発破による損傷を与えるか不明である.したがって,全断面一・括工法に緩め発
破を適用した場合の周辺岩盤に与える損傷程度を解明し,空洞の安定に大きく影響を与
えないか把握していく必要がある.
2}今回,緩め発破後の空洞の安定性は,中割先進側壁切拡掘削工法のうち,中割部へ適用
する前提で検証を行っている.したがって,全断面一括工法による大規模発破への緩め
発破の適用を考えた場合,空洞壁面直下にずりを存置しておくことが,どの程度空洞の
安定性に影響を与えるか解明していく必要がある.
なお,本研究では地下空洞盤下げ掘削を対象に進めてきたが,緩め発破の適用は通常の
山岳トンネルへ展開が図れる発破手法である.実際に筆者も参画したジェオフロンテ研究
会掘削工法分科会緩め発破工法WGI1)・12)・13)では,第二東名・名神高速道路における超大
断面トンネル下半掘削への適用研究を進めている.ただし,このトンネル下半掘削への適
用にあたっては,ずりを存置するため,トンネルの安定性に与える影響が不明であるため,
適用する地質を見きわめていく必要があること,より効率性を向上するために最適な加背
割り等,施工方法を検討していく必要があるとしており,これ以降,緩め発破の適用は報
告されていない.
本研究では地下空洞盤下げ掘削に着目した緩め発破の適用研究であったが,道路トンネ
ル等の山岳トンネルの下半掘削への適用性拡大に向けて,今回の研究内容が十分反映でき
るものと考えている.今後,施工件数の多い道路トンネル等の山岳トンネル下半掘削の合
理化も視野にいれていきたい.
115
参考文献
1)河邉信之,袋井肇,西村和夫:地下空洞盤下げ掘削における効率的施工を目的とした大
規模発破の適用に関する研究,土木学会論文集F,Vbl.65, No.2, PP.148−162,2009.4
2)河邉信之,長崎義美,河原田寿紀,西村和夫:地下空洞盤下げ掘削における緩め発破適
用による効率的施工法に関する研究,土木学会論文集F,Vbl.65, No.4, PP.461−472,
2009.10
3)土木学会:トンネル標準示方書(山岳編)・同解説 昭和52年版,PP.36−39,1977.1
4)土木学会:トンネル標準示方書 山岳工法・同解説 2006制定,pp.65−70,2006.7
5)塩谷智基,河原田寿紀,日高英介,中西康博,西村毅:AE法を用いた地下発電所空洞
掘削時のゆるみ領域評価,日本非破壊検査協会,第14回AE総合カンファレンス論文
集, pp.143−146, 2003.
6)前島俊雄,森岡宏之,伊東敏彦:ゆるみ領域に着目した大規模地下空洞の情報化設計施
工 東京電力神流川地下発電所,トンネルと地下,Vol.32, No.5, pp.29−38,20015、
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名・名神高速道路),pp 42−66,2000.12
8)日本道路公団:第二東名・名神高速道路 トンネル施工管理要領,p.3,2001.1
9)ジェオフロンテ研究会:連続ベルトコンベアシステムの計画と施工(山岳トンネル編),
pp.62−112, 2008.3
10)ジェオフロンテ研究会:トンネル技術者が読む大規模地下空洞構築技術,PP.50−51,
2009.3
11)ジェオフロンテ研究会掘削工法分科会緩め発破WG:大断面トンネルにおける緩め発
破について,’1999.11
12)ジェオフロンテ研究会掘削工法分科会緩め発破WG:大断面トンネルにおける緩め発
破技術資料(改訂版),2001.12
13)吉田武男,荒勇,森正彦,井上博之:打掛け発破を用いた偏平大断面トンネル下半部
の効率的な施工について,トンネル工学研究論文・報告集第11巻,PP.197−202,2001.11
116
付録 本研究に関連する発表論文
全文審査付論文
1.河邉信之,袋井肇,西村和夫:地下空洞盤下げ掘削における効率的施工を目的とした大
規模発破の適用に関する研究,土木学会論文集F,Vbl.65, No.2, pp.148−162,2009.4
2.河邉信之,長崎義美,河原田寿紀,西村和夫:地下空洞盤下げ掘削における緩め発破適
用による効率的施工法に関する研究,土木学会論文集F,Vbl.65, No.4, pp.461−472,
2009.10
3.河邉信之,鈴木雅行,野田英博,西村和夫:爆薬機械装填工法の定量的評価に基づく施
工上の優位性について,土木学会トンネル工学論文集,Vb1.19, pp.29−37,2009.11
概要審査付論文
1.手塚昌信,加藤清策,河邉信之:大規模地下空洞における効率的掘削システムの提案と
その適用,トンネル工学研究論文・報告集,VbL 7, pp.169−174,1997.11
2.加藤清策,蓮井昭則,河邉信之:新工法を駆使した地下発電所の急速施工,日本トンネ
ル技術協会第40回施工体験発表会,pp 41−50,1997.
3.鈴木雅行,河邉信之,馬場裕,上林凡人,桐原章浩:ANFO爆薬を用いた合理的発破技
術の開発とその適用,土木学会トンネル工学研究論文・報告集,Vbl.8,pp.163−168,1998.11
4.河邉信之,園田利美津,江口聡一郎,西村毅:大規模地下空洞における情報化施工の適
用と実施工結果について,土木学会トンネル工学研究論文・報告集,Vbl.15, PP.175−180,
2005.11
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謝 辞
本研究の遂行および論文の取りまとめに際して,首都大学東京大学院教授西村和夫博士
には,大学院博士後期課程の学生として受け入れていただき,終始変わらないご指導とこ
鞭燵を賜りました.特に,博士課程入学当初の段階において,研究の取りまとめの方向が
定まらない筆者に対して懇切丁寧なご指導により,研究の道しるべを示していただき,研
究成果を取りまとめるに至りました.ここに,深く感謝の意を表します.
また,首都大学東京大学院教授長嶋文雄博士,同准教授小田義也博士には,論文として
の記載方法をはじめ,本論文の質向上に向けた適切なご指導,ご指摘をいただきました.
厚く御礼申し上げる次第です.
本研究は,筆者が平成4年に株式会社間組に入社以来,施工に従事した関西電力奥多々
良木発電所増設工事,九州電力小丸川発電所新設工事の2ヶ所の大規模地下空洞の施工を
中心に取りまとめたものです.国内において施工事例の少ない大規模地下空洞掘削工事の
施工機会を与えていただきました関西電力株式会社,九州電力株式会社の両電力会社には
深く感謝しております.関西電力奥多々良木発電所増設工事においては,国内最大規模と
なる大規模発破について,関西電力株式会社執行役員土木建築室長大石富彦氏,同北陸支
社次長袋井肇氏,同土木建築室課長柳瀬洋氏,同和歌山支店電力設備室課長瀬岡正彦氏を
はじめ,奥多々良木発電所増設工事建設所の皆様にご指導を賜りました.心より感謝の意
を表します.また,九州電力小丸川発電所新設工事においては,地山状況に応じた効率的
な施工方法について,九州電力株式会社土木部副部長柏木雄二氏,同川内原子力総合事務
所調査部副部長鶴田正治氏,同総合研究所知的財産グループ長河原田寿紀氏,同土木部水
力開発グループ長園田利美津氏,同小丸川発電所建設所土木工事課長長崎義美氏,同土木
部土木運営グループ副長高森重治氏をはじめ,小丸川発電所建設所の皆様にご指導を賜り
ました.深く,感謝の意を表します.
本研究をまとめることができたのは,私が勤務する株式会社間組の皆様のご指導,ご支
援の賜物と感謝しております.㈱間組土木事業本部副本部長浜野哲夫氏,技術第三部長長
沢教夫氏には,博士号取得を目的とした社内の長期研修支援制度のなかで,博士号取得に
挑戦する機会を与えていただき,本研究に対してのご理解とご支援をいただきました.常
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務執行役員肥後満朗博士は筆者の入社当時,直属の上司として,大規模地下空洞の施工へ
の道筋を示して頂きました.心より感謝申し上げます.土木事業本部技術統括部長鈴木雅
行博士,技術第三部トンネルグループ長寺内伸博士には,博士号取得を勧めてくださると
ともに,その環境を整えていただき,技術的なご指導も数多く賜りました.心より厚く御
礼申し上げます.また,大阪支店奥多々良木出張所在籍時には元所長加藤清策氏,技術・
環境本部技術研究第一部部長蓮井昭則博士,九州支店小丸川作業所在籍時には九州支店土
木部長小林康夫氏,川辺川作業所長齋藤靖孝氏をはじめ,多くの諸先輩方に大規模地下空
洞施工に関するご指導をいだきました.誠にありがとうございました.
以上の皆様をはじめ,ここに名前を挙げることのできなかった多くの関係の方々に深く
お礼申し上げます.
以 上
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