GKH020803

3
5
日韓大学人試問題 (
英語)の比較
一大学セ ンター試験 (日本)と修学能力試験 (
韓国)を題材 として太
〔
要
田
耕
軌
旨〕 本稿は日韓両国における大学入試 (
英語)に関する大学セ ンター試厳 (日
本) と修学能力試験 (
韓国)問題 (
各2
0
0
3年度)を比較検討 し,問題,設問文などをテ
スティングの基本理念から考察 したものである。
その結果以下のことが明らかとなった。センター試験 (日本)は稔花的で限られた試
験時間の間であまりにも多 くのことをテス トしようとの意図が感 じられ,テス トの目的
が薄められてしまっている。他方韓国の修学試験は聴解 と速読に主眼がおかれ,テス ト
目的が明確である。これは両国のテス ト作成者のテスティングに関する基本理念の相違
によるものであ り,これは取 りも直さず両国における英語教育政策の理念が関係者に共
有されているかどうかを示す ものである。
同じように資源に乏 しく,教育立国を目指 しながらこの英語教育政策の大 きな相違は
日本の英語教育関係者に重大な事態として受け止められるべ きと考える。韓国の言語政
策か らわれわれは学ぶところが大きい。
1.序
本稿 は 日本お よび韓国 において,大学入学志願者 にたい して全国一斉 に実施 されているいわ
ゆるセ ンター試験 (日本 では大学入試 セ ンター試験 ,韓国では修学能力試験) について,テス
テ ィングの一般 的観点か ら,その出題内容 を比較検討 し,併せて両 国の英語教育 に関する言語
0
0
3年度 の 日本の大学 セ ンター試験 (
以下
政策 について,考察 を試みた ものであ る。本稿 では2
セ ンター試験) と韓 国の修学能力試験 (
以下修学試験) を比較考察 し,そのテス ト形式 ,問題
文の内容 などについて検討 してみた。
日韓両国 とも資源 にめ ぐまれず, したが って国の発展のため には教育 を通 して優れた人材 の
養成が不可欠である点,共通す るところ大であ る。その結果,大学入試 は非常 に激化 して きた
ことは周知の とお りである。 日本では最近 は少子化の影響 と大学数の増加 によ り,大学入試 は
一時期 ほ ど激 しくないか も知れないが, これは数的な面であ って,質的な面ではいわゆる難関
大学への競争 は以前 と変 わ らない。韓国にあっては大学入試 は きわめて競争が激 しく,高校生
たちの入試 に注 ぐエ ネルギーは膨大 な もので, 日本 の比ではない といわれている。
9
6
0年代以降の大学進学率の急上昇 とともに,難問奇聞が出題 された こともあ り,
日本では1
教育界のみな らず社会か らも厳 しい批判が なされた。 この状況の打 開策 として登場 して きたの
が共通一次試験 であった。す なわち1
97
9年 1月に第一回共通一次試験が行 われ るにいたったの
9
9
0年か ら大学入試セ ンター試験 と名称が変わったが,その 目的 とす る ところ
である。そ して1
は変 わ ってい ない。 テス トの作 成お よび実施 の責任 は現 在 は 「
独 立行 政法 人大学入試 セ ンタ
ー」 にある。
9
9
3年か ら実施 されて きた。
他方韓国 においては この統一試験 は 「
修学能力試験」 と呼 ばれ ,1
3
6
天 理 大 学 学 報
そ して毎年1
1月に実施 されるQ これにたいす る高校側の力の入れ方は,試験実施 日における各
試験会場での父兄 ・在校下級生の熱狂振 りか らも,す さまじい ものがあるといわれている。
2.韓 国修 学 能 力試験 (
英語)
修学試験 はテス ト時間8
0
分で,その うち聞 き取 りテス トに2
0
分,残 りの6
0分は読解テス トに
割 り当て られている。
2. 1 聞 き取 りテス トについて
聞 き取 りテス トは1
7
題あ り,問題用紙 に各聞 き取 りテス トの問いが母語 (
以下 Ll)で示 さ
れているQ したが って受験者 は問題の英文 をテープで聞 くまえに,聞 き取 るべ きポイン トがあ
らか じめ分かっている。あ とはそれに集中 して英文 を聞けばよいのである。そ して どのパ ラグ
ラフについても 5つの選択肢が Llあるいは L2で与えられている。例 を示 してみる。
A:「対話 を聞いて,2人が話 している場所 を選びなさい。
」(
5つの選択肢が Llで与 え
られている。)
B:「
対話 を聞いて,女性が男性 に頼 んだことを選びなさい。
」 (5つの選択肢が L2で与
えられている。)
聞 き取 りテス トの形式 はこの 2種である。受験生は問題の指示 を聞 き間違 う恐れはない。英
7
題の聞 き取 りテス トを,解答用紙-の記入時間 も含めて2
0
文はテープで一回だけ流 される。1
分内で処理するのである。 日本で問題 にされる音声の客観性,す なわち全 国の どの試験会場で
も全 く同一の聴取環境が確保 されるか どうか,などとい うような心配は問題 にもされていない。
日本では過去長年 にわたって聞 き取 りテス トの実施が英語教育関係者か ら要請 されたが,その
たびに実施者側 は 日本全土で一律 に音声 を同 じような状態で聞かせることに不安があるなどと
言 って, これまで実施 してこなかったのである。やっと2
0
0
6年度のセ ンター試験か ら聞 き取 り
テス トは実施 される運び となった。 これについては別の箇所で取 り上げる。
2.2 読解テス ト
2
0
分 にわたる聞 き取 りテス トが終了すると受験生 は読解テス トにとりかかる。問題番号 1
8か
ら5
0まですべて読解 テス トである。では読解 テス トの出題形式 と内容,選択肢の示 し方 につい
て検討 してみる。
読解テス トで も形式は聞 き取 りテス トと同 じで, まず問題の説明がある。すなわち各英文パ
ラグラフの どこに焦点 を当てて読み取 るかが Llで明確 に示 されている。ついで英文パ ラグラ
フが示 され,そのあ とに 5つの選択肢が Llない しは L2で与えられている。以下 に例 を示す。
例 1.
問題 1
8:
設問文 :次の手紙 はお祝 いの気持 ちをあ らわ していますが,何のお祝いで しょうか。
テス ト原文 :
Yo
u'
vewo
r
keds
ohar
df
b∫t
hi
smo
me
nt
,andyo
umus
tbeve
r
ypr
oud, Si
nc
ewe
37
日韓大学人試問題 (
英語)の比較
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c
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hebes
t
!
① 引越 し
②
例
誕生 日
③
昇進
④
結婚
⑤
卒業
2.
間49
設問文
テス ト原文 :
Onc
eawe
e
k,
Wr
it
eahear
t
f
e
l
tl
e
t
t
e
r
.Taki
ngaf
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w mi
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ese
ac
hwe
e
kt
odos
o".
〔
以下省略〕
選択肢 :
① Lo
vel
e
t
t
e
r
sandDat
i
ng. ② Ho
wt
oWr
it
eBus
i
ne
s
sLe
t
t
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. ③ Ho
w Le
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I
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veLi
f
e. ④ Reas
o
nsf
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it
i
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oYo
ur
s
e
l
f
. ⑤ Typesand Pur
po
s
eso
f
Le
t
t
e
r
s
.
大方 はこの形式であるが,設問内容 は問題 1
8の ように英文パ ラグラフの要 旨ない しはその 目
的をたずねている ものや,本文 中の語句 (
下線で示 されている)の内容理解 に関す るなど多様
であるQ これを設問形式別 にまとめてみると以下の ようになる0
2.2.1 設問形式の分類
1.英文要 旨について適切 な選択肢 (
Ll) を選ぶ
2.英文の要 旨と一致 しない選択肢 を選ぶ
3.英文内の語句 (
下線部)の説明 (
Llまたは L2の選択肢か ら)
4.英文内の複数の箇所 の語法 について,適切 な組み合わせ選ぶ
5.英文内の下線部の語法 について不適切 なものを選ぶ
6.ある話題 に関す る英文 とそれについての図絵 の中か ら適切 な ものを選ぶ
7.英文 に後続す る文 として適切 な もの を選ぶ (
選択肢 は Ll)
L2)の選択
8.英文内の空所 に入れるべ き語句 (
9. インタービュー形式 による質問者 と回答者 とのや り取 りか ら,質問文 として適切 なも
L2)
のを選択肢の 5つの組み合わせか ら選ぶ 。(
L2)
1
0.英文の題 目選択 (
.英文パ ラグラフを読みその英文要約 (
空所あ り) を適切 な選択肢の組み合わせか ら完
1
1
成 させ る。
1
2.英文の文脈 に合致 している文 を本文 中の空所 (5カ所)の中か ら一つ選ぶ。
1
3.英文の文脈 に合致 していない文 を本文中の 5カ所 に与 えられている選択肢 か ら選ぶ。
1
4.英文の趣 旨を適切 に説明 している語句 (
L2)の選択
1
5.英文の主題 として最 も適切 な選択肢 (
L2) を選ぶ
1
6.英文の主題 として最 も適切 な選択肢 (
Ll) を選ぶ
38
天 理 大 学 学 報
1
7.所与の英文 とグラフか らその内容 に一致 しない文 (
L2) を選ぶ
1
8.複数の英文パ ラグラフの どの組み合わせがパ ラグラフ全体の要旨に一致 しているかを
選択肢 (
Ll)か ら選ぶ。
英文テクス トと Llによる問題指示文か ら, どの出題 も英文の要旨を早 く理解で きているか
どうか, を測定することを目的 としていることが明確 に読み取れる。上記で興味深いのは英文
の趣 旨に合致 しない選択肢 を選ぶ問題である。セ ンター試験では見 られない出題形式である。
2. 2. 2 文型の種類
ではこれ らテス ト原文中に見 られる文型 (
s
e
nt
e
nc
e t
y
pe)は,伝統文法で扱 う 5文型の範
囲の中にお さまってお り,またいわゆる構文 (
s
e
nt
e
nc
es
t
r
uc
t
ur
e) として,た とえば 日本で
0
0とか1
5
0と称 して受験参考書 によく登場する文語文的な, ことさら複雑 なものは
は重要構文 1
見当た らない。すべて平易な構文ばか りである。文語文 に見 られるような倒置文はない。左か
ら右へ とそのまま読み通せ ば文意はおのずか ら通 じるものばか りである。
また文法事項 について も仮定法過去完了の例 は全体の英文中たった 2つ しかない。 また仮定
we
ve
rや no
法過去完 了や仮定法未来 な ど 「あや」のある文章 は出題 されてい ない。 また ho
ma
t
t
e
rプラス疑問詞 な どの譲歩文の出題 は皆無 である。ただ し韓国の指導要領 によれば中学
校 3年間で英語の文法構造のほ とんどが導入 され関係代名詞,関係副詞,仮定法過去完了や独
立分詞構文 まで導入が推奨 されているとのことである。
ただ し修学試験問題 はすべて単純明快 な現代英語である。 もちろん内容理解について問題が
進むにつれて本文か ら直接即座 に解答で きる ものか ら類推力 を試す もの もあるが, これはテス
テ ィングの常道である。全般的に本文の要旨の理解 に主眼が置かれてお り,解答 に困るような
ものはない。
2. 2. 3 語菜
t
o
ke
ns
)は3,
3
4
2語で,
では語桑の点では どうであろ うか。 このテス トを構成す る語句総数 (
t
ype
s
)は1
,
0
9
5
語であった。 とい うこ とは1
,
0
9
5
語で
このテス トで用 い られている異 な り語 (
以って3,
3
4
2語か らなる問題文が作成 されていることになる。言い換 えれば総語数 と異 な り語
3
3であ り, この比率は 1に近づ くほ どテクス トの難易度
との比率は (
異な り語/総語数)は0.
が高い とされている。た とえば,総語数1
,
0
0
0語の英文が1
,
0
0
0の異な り語で書かれているとす
れば,その比率は 1で理論的には同一語は英文中一回 しか使用 されていない ことにな り, これ
3
3とい う比率 は,
以上 ない難易度の英文 となる。 この ような言語使用 は実際あ りえないが,0.
このテス トの語柔の難易度は低 い方に属す ることを示 しているといえよう。逆 に異 な り語 を分
1とい う数値が得 られる。 これは1
,
0
9
5の語が平均 3回使用 されて
母 として総語数 を除すると3.
0
0である とすれば,比率 は3
3.
4とな り1語が平均3
3回
いることを示す。 も し異 な り語総数が 1
使用 されていることにな り,テクス トの難易度 は大 きく低下する。ただ しテクス トの難易度 を
e
adabi
l
i
t
yの公式 自体 はこれ まで多種多様提案 され
語菓だけで測定す るに して も,いわゆる r
て お り,何 を以 っ て基 準 とす るか は まだ まだ今 後 の研 究 を また ね ば な らな い。 しか も
r
e
a
da
bi
l
i
t
yの公式 自体,英語の母語話者 を対象 として提案 された ものであ り,外 国語 と して
e
adabi
l
i
t
yの研究はまだ まだである。
の英語 (
例 えば日本の英語教育 を対象 とした)r
筆者のこれまでの英語教師 としての経験か ら,修学試験の語嚢の難易度 は高い とは言えず,
問題の多 きと回答形式の単純 さか ら,テス ト作成者たちの意図は,英文 をで きるだけ早 く正確
に読み取 る読解力 を測定 しようとしていると結論づけて間違いはなかろう。すなわち修学試験
日韓大学人試問題 (
英語)の比較
39
はp
o
we
rt
e
s
tで な く s
pe
e
dt
e
s
tを意図 してい るこ とが うかが え るのであ る。
ではつ ぎに 日本 の大学 セ ンター試験 (
0
3年度) を検討 してみ よう。
3 大 学 セ ン タ ー試 験 (
03年 度 )
まず どの英語能力 を測定 しようと しているのか,下位 テス トの分類 か ら始 めてみ る。
3. 1 下位 テ ス トの概 要
第 1間 :音声 :
A :同一文 中 におけ る 2単語 に共通す るアクセ ン トの位 置 (2題) :
B :会話文 にお ける文強勢 : (4題)
第 2間 :
A:文法
・語法 (
以下空所補充形式 ) (
l
o遭)
B :対話文の完成 (3題) ・
C:
語句整序 に よる文完成
(3題)
第 3間 :
A :談話文の完成 (
空所補 充 :接続語句 の選択 :2題 )
B :談話文 の完成 (
空所補 充 :3つの英文 の並 び替 え :2題)
C:
長 い談話文の完成
(3つの英文 を適所 に入 れ る)
第 4間 :
1 :グラフを用 いての長文読解 (1題 )
2 :上記文の理解 に関す る設 問 (4題)
3 :空所補 充 に よる上記文の要約 : (3題)
4 :本文要約文 の選択 (1題)
第 5間 :長い対話文 の理解 (
設 問 4題 :図絵 と本文の照合)
第 6間 :長文理解 (
設問 7題 :内容 に合致す る文 の選択)
選 択 肢 は す べ て 4者 択 一 で あ る。 この 点 修 学 試 験 は 5者 択 一 で あ る こ とは 興 味 深 い。
Br
o
wnに よれ ば 4つの選択肢 の作 成 自体 , 4つ 目は非常 に困難 であ る との指摘 に もか か わ ら
ず, どうい う根拠 か ら 5者択 一 に踏み切 ったのであ ろ うか。
3. 2 修学試験 との相違
修学試験 とセ ンター試験 の問題 を一読すれば,作 成者側 のテステ ィングにたいす る姿勢 ない
しは理解度の相違が分か る。
セ ンター試験 は,音声 ・文法 ・語法 ・読解 のすべ ての部 門 につ いて全体 的 に評価 しよ うとす
る意 図が感 じられ る。す なわちセ ンター試験 の範 囲 に入 る英語 Ⅰ ・英語 Ⅲの指導要領 の項 目を
網羅 的 に出題 しようと してい る と評 して も間違 いで はなか ろ うO
た とえば第 1間の音声 テス トは毎年 出題 されてい るが. これは筆記 テス トに よる発音 や強勢
の知識 に よるテス トで,英語 の音声 を実際 に受験者 に聞かせ てテス トす るわけで はない。発音
テス トとい えば綴 りの似通 った もの を与 えて受験者 の錯覚 を誘 った りす る ものが多 く出題 され,
そのため に音声 テス トに出る頻 出語表 な どが一時 もてはや された ことさえあ った。つ ま り音声
テス トにだけ出題 され る単語表 な どとい う奇妙 な現象がかつ て諸大学 の入試問題 にみ られたが,
40
天 理 大 学 学 報
セ ンター試験 にあって も文字で音声テス トをするか ぎり状況は今 も変わっていない。実際に音
声 を聞かせれば解決する ものを,なぜ長年放置 して きたのか。 これ まで満足のい く回答 にわれ
われは接 していない。
音声 テス トとして会話文 における文強勢が出題 されているが,これについて も同 じである。
なぜ筆記テス トで会話文の文強勢 をテス トするのであろうか。 オーラル ・コミュニケーション
とい う科 目があるために,それ もテス トに含めているとい う言い訳程度 にしか出題の意図が感
じられない。 これ らはすべて実際 に音声 による聴解 テス トを実施すれば簡単 に解決する筈であ
る。
音声 テス トに続いて文法 ・語法のテス トが出題 されているが,問題数は1
6で文法 ・語法のテ
0題以上 なければ文法テス トとしての安
ス トとするには余 りにも出題数が少ない。少 な くとも5
当性 も信頼性 も確保で きない。TOEFLに しろ英語検定試験 に しろテステ ィングの作成資料 に
は困 らない筈である。 この点,セ ンター試験作成者のテステ ィングについての考 え方 を示 して
もらいたい。受験生が履修 して きた内容 を少 しずつ網羅的に出題 しているとしか言い様がない。
これに対 し第 3間か ら第 6間 までの出題 はすべ て読解力の測定 にあで られ,テス トとして筋
が通 っている。ただ回答形式が単調 になるのを避 けるためか, さまざまな回答方法が用意 され
てお り,受験者は問題文 を幾度 も読み返す必要 に迫 られる場合があるか も知れない。問題文 は
順 を追 って短いパ ラグラフか ら長文- と用意 されてお り, これは 日韓 とも共通 している。単純
な回答形式の出題 とやや複雑 な回答形式の例 を示 してみ よう。
例
第 4間
次の文章 とグラフを読み,下の問い
(
A・B)に答 えよ
。
原文 :
t
ti
swe
l
lk
no
wnt
ha
ts
t
r
es
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c
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omi
s
smanydayso
fwo
r
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ve
I
Yyear
.(
以下省略)
省略)
設問文 :A (
B次の問い (
問 1-4)の 1
341- (
371に入れるのに最 も適当な ものを,それぞ
れ下の① ∼④ の うちか ら一つずつ選べ。
問 1Themai
nr
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① t
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c
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i
o
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r
es
s
② wa
yst
o(
以下省略)
③
(
省略)
④
(
省略)
以下問 2, 3, 4省略 ならびに選択肢省略
この出題は原文の量 も多 く,設問 自体受験者 は再度本文 を読み返す必要に迫 られるか も知れ
ない。 この ような出題 は問題が進むにつれて現れる。修学試験の設問に比べ て設問の仕方が煩
雑で, どうして も解答 に手間取 るとい う感 を受ける。 これは読解力 を測定することと無縁 であ
り,設問は出来るだけ解答 に手間取 らないにする TOEI
Cなどと大 きな差がある。修学試験 は
C と同 じ出題 ・解答の手順 を踏んでお り,受験者 に余分 な時間 と手 間を取 らせ
まさしくTOEI
日韓大学人試問遺 (
英語)の比較
41
ない ようにとの配慮が感 じられる。す なわちテス ト目的が明確 にテス ト作成者 に認識 されてい
るか らである。セ ンター試験では必要以上に煩雑 な手順 を受験者 に要求 しているように感 じら
れ, これはテステ ィングとは無関係である。設問方法 について再考 を求めたい。
3.3 文型および文法事項
文法や文型 についてはご く普通の出題であ り,問題 とすべ きところはない。難 しい仮定法 な
どはな く,穏当な本文が用意 されている。
3.4 語垂
語嚢の難易度 については修学試験の検討で用いた総語数 と異な り語の比率で見てみる。0
3年
度のセ ンター試験の読解部門の結語桑数 は3,
36
2であ り,異 な り語 は1,
11
0であった。総譜嚢数
で異 な り語 を除す ると0.
3
3であった。修学試験のそれ も偶然 に0.
3
3であ り,両者 ともそれぞれ
の資料の範囲内で難易度 は同 じとなっている。セ ンター試験の異 な り語で給語嚢数 を除す ると
3とな り, 1語が平均 3回使用 されていることになる。実 に不思議 なことに修学試験,セ ンタ
ー試験 とも語薫の難易度はそれぞれの資料の範囲内で同一数値,つま り難易度が類似 している
ことになった。 これは修学試験お よびセ ンター試験 の語童難易度が必ず しも両者 に共通 して同
一 とい うわけではないが,それぞれの資料内で上記のような結果が見 られた とい うことである。
すなわちそれぞれのテス ト問題は既習語童 を 3倍程度用いて作成 されているという結果 を示 し
ているO同一語嚢が平均 3回程度用い られてテス トが作成 されているとい うことは,興味深い。
4.問 題 点 の考 察
本稿 では,教育お よびそれを取 り巻 く社会的事情が類似 している日韓両国の大学入試 につい
て, とくに全国的規模で実施 される大学への第一の関門であるセ ンター試験 と修学能力試験 を
比較 し,両者 にどの ような類似点あるいは相違点があるか考察 し以下のような印象 を得 た。
韓国では大学入学志望者は全員,韓国語,英語,数学 Ⅰ,11の科 目を受験 しなければならな
い。 しか も英語の聴解テス トも全員である。 とい うことは韓国では大学入学志望者は仝見
一
定の英語聴解力 を持っていなければならない とい うことである。 これは韓国英語教育政策の根
本理念の一つであると言 って間違いないであろう。
ではセンター試験ではなぜ聴解 テス トが実施 されなかったのか。「共通一次」か ら現在 のセ
5
年 とい う歳月が経過 しなが ら語学力の最 も基本的部分 を形成す る聴解
ンター試験 に至 るまで2
テス トが実施 されなかったのか。他方 「
修学試験」では最初か ら聴解テス トは実施 されて きた。
この両者の差異 はどこか ら生 じたのであろうか。
まず外国語テス トの原理か ら考察 してみよう。テステ ィングの基本原理か ら考 えてみると,
外国語テス トは聴解 ・読解 ・作文 ・話 し方の 4技能 をテス トす る場合が多い。ただセ ンター試
験や修学試験のように一度 に大勢の受験者の力 を測定す る場合 には,テス トは客観テス トに依
らざるを得ない。それゆえセ ンター試験や修学試験,あ るいは T
OEI
Cや TOEFLに して も客
観 テス トの形式 をとっているのである。そのため主観的評価 に栃 らざるを得 ない作文お よび話
し方のテス トは省か ざるを得 ない。 ところがセ ンター試験では下位 テス トに文字 による発音 ・
強勢テス トが出題 されているが, これはどうい うことか理解 に苦 しむところである。 これにつ
ある。 これについての満足すべ き説明はテス ト作成者か らこれ まで説明 されたことがない。大
4
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天 理 大 学 学 報
学英語教育学会などで も,聴解テス トの実施 を幾度 とな く要請 して きたにもかかわ らずである。
他方修学試験では聴解テス トは出題 され, しか もその実施 に際 しては受験者 にで きるだけ音
声が支障な く, どの試験会場で も聴取で きるよう配慮がなされているという。例 えば音声 テス
トの時間帯 には会場 によっては近郊の空港での飛行機の発着 を禁止 させ,受験会場 によっての
音声聴取の障害 を取 り除こうとする努力が官 を挙 げてなされているようだ。ここまで して も修
学試験の重要性 を韓国では認めているのである。つ まり大学入学志望者はすべて一定の英語聴
解力が なければならない とい う韓国外国語教育界の言語政策が如実 にこのテス トに表れている。
つ ま り外国語教育では 4技能の習得 は当然 として,それを確実 にす るため に大学入試 という全
国一斉テス トで聴解力テス トを実施 している。 これにより韓国の大学入学志望者は,全員聴解
力が測定 されるのであ り,これは とりも直 さず高校以下での英語教育にこれ以上ないフィー ド
バ ックを与えているのである。
また 4技能の中,客観テス トが可能な下位 テス トについて,文法 などは除外 して速読一本 に
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ntt
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tの文法項 目など
絞 ってテス トしている点 も見逃 してはならない。すなわち d
のテス トが どれだけ外 国語テス トとしての妥当性 ・信頼性があるか, とい う点 を十分把握 した
上で聴解力 と速読力の 2点に絞 ってテス トを作成 している。つ ま りテステ ィングに関す る深い
理解がテス ト作成者たちに共有 されていることが,修学試験の下位テス ト (
聴解テス トと読解
テス ト) に反映 されている。 ここか ら韓国における外国語教育政策 とテステ ィングに関す る基
本理念が関係者 に明確 に認識 されていることが分かるのである。修学試験作成者たちの卓越 し
た力量のほどに感服するのみである。
他方セ ンター試験 は, どうい う理由か文字による音声 テス ト (
発音 と強勢)が必ず出題 され
てきたが,文字による音声テス トの信頼性 ・妥当性 をテス ト作成者たちは検証 して きたのか。
文字 による音声 テス トへの批判が これまで絶 えないにもかかわ らず,その結果 についての検証
結果が,た とえば他の下位テス トとの相関性 について,一度 も公表 されていない。おそ らくは
関係者たちは文字 による音声 テス トの妥当性 ・信頼性の低 さについて,内心では十分理解 して
いるが,何 らかの理 由により中止 に踏み切れないのであろうか。音声 テス トは,実際 に音声 を
聞かす以外 にテス トはで きないことは誰にも自明のことである。修学試験 の ようにテープによ
るテス トを実施 して来なかった理由は,全 国のすべての試験会場で まった く同一の聴取環境 を
確保す ることに不安があったか らだ, ということらしい。 なぜ な ら, これ まで満足すべ き回答
がセ ンター試験作成者側か ら英語教育関係者 に示 されていないか ら推測するだけである。 これ
では外 国語教育 に関する基本政策が 日本にはこれまで無かったと言 うに等 しい。
実 はその とお りなのである。 日本では旧文部省以来文科省 に至 るまで,英語教育 については
数年 に一度の指導要領の改訂で済 ませて きた。そ して其の言語政策,すなわち日本 における英
語教育は どうすべ きかについて,根本的に追求 し,その結果 を検証することを文科省 は避 けて
きたのではなかろうか。 これは指導要領の変遷 をた どれば明 らかである。その ときその ときの
社会 に対する間に合わせの言い訳 を指導要領 の改訂 に盛 り込 んだに過 ぎない。「オーラル ・コ
ミュニケーション」 とい う科 目の導入 に して も, 日本の将来 を考 えての真撃 な反省か ら生 まれ
たのか。 さまざまな英語科 目の導入はどの ような視点か らなされたのか。その極めつけは現行
の小学校 における 「国際理解」の名の下で,英会話 を敢 えて もよい といいなが ら,実際は各都
道府県にモデル校 を設 け させ,英会話の指導 を強制 させ ている。「
英会話」 とい う科 目名でな
く 「国際理解」の名の下で,英会話 を推奨 しているのか,それは どういう理由によるのか。 こ
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3) に譲 る。ただ近い将来全 国の小学校で英会話 を事実上必修科 目化 し
の間の事情 は山田 (
日韓大学人試問題 (
英語)の比較
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ようとす る文科省の意図は,すでに全 国の声 を立てぬ英語教育関係者の間で,諦めにも似 た受
け とめ方をされている と言えよう。
5.結
語
まず 日韓両国において英語テス ト作成 について基本的認識の相違がある。 日本 は L2テステ
ィングについてポイン トがずれているとしか言いようがない。なぜ なら上記で考察 した ように
無用 と思 われる下位 テス ト,た とえば文字 による音声テス トや少数の文法項 目のテス トがある。
他方韓国の ように,L2習得の基本 は聴解力 と速読力であるとの認識が試験問題の作成 に反映
されている。すなわち L2教育 について国家 として言語政策が確立 されてお り,それが修学試
験 に明確 に反映 されているO つ まり韓国では大学入学志望者は全員一定の英語 (
選択外 国語)
の聴解力 と速読力が身についていなければならない, とい う言語政策が修学試験の構成 に表れ
ている。有無 を言わさず求めているのである。 しか も中学 レベルか ら 2つの外 国語の教育 を義
務づけている状況 をも理解 してお こう。
日本で共通一次やセ ンター試験導入以前か ら,大学入試が諸悪の根源であると批判 され,大
学入試が変わらない と健全なる高校での教育 は成立 しない とまで言われた時期があった。その
反省 に立 って共通一次やセ ンター試験が導入 されている筈である。 しか し1
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年の実施以来今
日まで英語教育の根幹 をなす聴解力テス トは実施 されず,やっと2
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4年 9月に試行テス トが行
われるのである。セ ンター入試で聴解力テス トが実施 されるのは2
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6年 1月まで得たねばなら
ない。
これまで旧文部省 ・文科省が指導要領 を改訂 して 「オーラル ・コミュニケーシ ョン」な どと
い う科 目を高校 に設定 しなが ら,セ ンター入試では聴解力テス トが実施 されて来なかったとい
うことは理解 に苦 しむ。わが国では英語教育政策の責任はどこにあるのだろ うか。
極論すれば 日本の英語教育政策,ひいては言語教育政策は不十分である といえよう。複数言
語が存在する世界の多 くの国や地域 にとっては, どの言語 を公用語 とす るかで,諸言語集団の
間で流血の争いが絶 えずあった。 どの言語 を日本の公用語 とするかについて, 日本人は考えて
みたことはない し,考える必要 もない例外的な地域 に住んでいることに気づいていない。 した
がって民族の違いが言語の違い と結びついている世界諸地域の事情 を, 日本人は理解 し難いよ
うである。そ して英語 を日本の公用語 に,などとい う複数言語社会の複雑 な事情 を知 らぬ発言
が飛 び出 している。公用語 といえば EU では加盟国の言語 はすべ て公用語 とされ, したが っ
用 は膨大な もの とされているが, これ も特定の少数言語 による EU 支配の弊害 を防 ぐための
出費 とみな している。 この ような世界の複雑な言語事情 を日本人は理解せず して,外 国語教育
に取 り組むことは不可能である。
以上はセ ンター試験 と修学試験の単純 な比較であるが,ここか ら明 らかになったことは,お
な じように資源に乏 しく,優れた人材 を育てる以外 に道のない 日韓両国にあって,英語教育政
策 にこれほどの大 きな理念の差があることを我 々は認識 しなければならない。 この事態 を招い
たのは文科省お よびわれわれ英語教師一人ひとりの責任である。
分析資料 :
河合塾編集部編 : 『
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4大学セ ンター試験過去問 レビュー』2
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注 :修 学 試 験 の 問題 指 示 文 の 日本 語 へ の翻 訳 は西 山友 加 里 氏 (
ゆ あ ほ うむ榛 原 勤 務 ) の 手
を煩 わせ た。
参考文献
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原著 :Te
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新曜
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