原稿記入例 No. 5 アスファルテン凝集制御技術の開発 ペトロリオミクス 研究室 ○田中隆三 1.研究開発の目的 ア ス フ ァ ル テ ン の 凝 集 は 、石 油 産 業 の 上 流( 原 油 生 産 )・ 中 流( 輸 送 ・ 備 蓄 ) ・ 下 流( 精 製 )各 部 門 に お い て 管 の 閉 塞 や 触 媒 の 失 活 と い っ た 様 々 な 問 題 の 主 原 因 の 一 つ で あ り 、そ の コ ン ト ロ ー ル は 極 め て 重 要 で あ る 。し か し ア ス フ ァ ル テ ン の 凝 集 挙 動 は 非 常 に 複 雑 で あ る た め 、こ れ ま で は そ れ を 定 量 的 に 予 測 し 制 御 す る 方 法 が 確 立 さ れ て い な か っ た 。そ こ で 、「 ア ス フ ァ ル テ ン 凝 集 制 御 技 術 の 開 発 」で は 、先 端 的な実験技術を駆使して様々な条件におけるアスファルテンの凝集挙動を把握し、 そ の メ カ ニ ズ ム を 解 明 し て 、 重 質 油 の 溶 解 /凝 集 /析 出 を 定 量 的 に 予 測 で き る モ デ ル を 作 成 す る こ と 、及 び そ の モ デ ル を 活 用 し て 石 油 精 製 に 関 わ る 諸 問 題 を 解 決 す る こ とを目的として研究開発を実施した。 2.研究開発の内容 凝集挙動の把握 先 端 的 な 実 験 技 術 を 駆 使 し て 、様 々 な 溶 媒 中 に お け る ア ス フ ァ ル テ ン 凝 集 体 の 大 き さ や 構 造 、 或 い は 凝 集 度 の 異 な る ア ス フ ァ ル テ ン 成 分 の 量 比 を 、 室 温 か ら 300 ℃ 程 度 ま で の 広 い 温 度 範 囲 、及 び 10ppmか ら 1 0% の 広 い 濃 度 範 囲 に わ た っ て 観 察 し た 。 具 体 的 に は 、 専 用 の 高 温 高 圧 セ ル を 製 作 し 、 小 角 X 線 散 乱 ( SAXS ) 、 レ イ リ ー 散 乱 ( RS) 、 X 線 回 折 ( XRD ) 、 核 磁 気 共 鳴 ( NMR ) 、 及 び 溶 解 実 験 を 行 っ た 。 こ れ に よ り 貧 溶 媒 ほ ど 或 い は 高 濃 度 ほ ど ア ス フ ァ ル テ ン の 凝 集 度 は 増 大 し 、高 温 ほ ど 低下することを明らかにした。 メカニズムの解明 上 記 の 凝 集 実 験 と 併 せ て 、ア ス フ ァ ル テ ン を 含 む 試 料 油 の 詳 細 組 成 構 造 解 析 を 行 い 、マ ル テ ン と 異 な り ア ス フ ァ ル テ ン は 強 塩 基 性 か ら 強 塩 基 性 ま で の 多 く の 極 性 成 分 を 含 む こ と を 明 ら か に し た 。ま た 、ア ス フ ァ ル テ ン 分 子 を 模 し て 様 々 な 官 能 基 を 有 す る モ デ ル 化 合 物 を 新 規 に 化 学 合 成 し 、そ の 結 晶 構 造 や 凝 集 挙 動 を 調 べ る こ と で 、 ア ス フ ァ ル テ ン 凝 集 に 寄 与 す る 相 互 作 用 と し て 、従 来 か ら 知 ら れ て い た 縮 合 芳 香 環 同 士 の イ -ス タ ッ キ ン グ だ け で な く 、酸 -塩 基 相 互 作 用 や 水 素 結 合 な ど 極 性 構 造 に 由 来 す る も の の 影 響 も 大 き い こ と を 明 ら か に し た 。こ れ ら を 踏 ま え て 多 く の 相 互 作 用点が関与するマルチポイント凝集メカニズムを提案した。 凝集モデルの作成 上記の通りアスファルテンの凝集には多くの官能基に由来する多くの相互作用 が 関 与 し て お り 非 常 に 複 雑 で あ る 。そ こ で 様 々 な 化 合 物 の 様 々 な 溶 媒 に 対 す る 溶 解 度 を そ の 分 子 構 造 に 基 づ い て 推 定 で き る ハ ン セ ン 溶 解 度 パ ラ メ ー タ( HSP)を 有 効 活 用 し て 、ア ス フ ァ ル テ ン の 凝 集 挙 動 を 整 理 ・ 定 量 化 す る こ と を 試 み た 。先 ず 、多 く の ア ス フ ァ ル テ ン モ デ ル 化 合 物 の 溶 解 実 験 を 行 っ て そ れ ら の HSP値 を 求 め 、様 々 な 重 質 油 分 子 の HSPを 計 算 で き る 新 規 HSP 推 算 方 法 ( JKU- HSP) を 開 発 し た 。 次 に こ の JKU-HSP を 用 い て 前 述 の 実 験 デ ー タ を 整 理 し 、 様 々 な 溶 媒 、 濃 度 、 温 度 に お け る ア ス フ ァ ル テ ン の 凝 集 度 を 定 量 的 に 推 算 で き る 指 標 で あ る 凝 集 指 数( AI)を 開 発 し た 。更 に 、こ の AIを 用 い て 、重 質 油 の 分 子 構 造 と 組 成 に 基 づ く 多 成 分 系 の 溶 解 /凝 集 / 析 出 モ デ ル ( M CAM ) を 開 発 し た 。 こ の MCAM を 実 行 す る 際 は 、 詳 細 組 成 構 造 解 析 に 得 ら れ る 重 質 油 試 料 の 分 子 構 造・組 成 情 報 と 、そ れ を 使 っ て 全 石 油 分 子 デ ー タ ベ ー ス ( ComCat) か ら 抽 出 す る 物 性 情 報 ( 融 点 、 HSP値 等 ) を 用 い る 。 3.研究開発の結果 今 回 開 発 し た M CAM を 中 心 と す る ア ス フ ァ ル テ ン 凝 集 の 予 測 技 術 の 特 徴 を 、従 来 技術と比較して表に示す。 従来(既存技術) 今後(開発技術) 特徴 ランプ組成/経験値立脚 → 適用範囲は限定的 分子組成/メカニズム立脚 → 様々な事象に適用可能 凝集メカ ニズム • マルテン(Ma)が溶媒、 • Ma、Asの区別無く、全ての重質油分子 アスファルテン(As)が溶 が条件に応じて溶媒にも溶質にもなり得る 質 • -スタッキング以外にも水素結合、金属 • Maの芳香族性が不足 配位など様々な相互作用が関与し、特に すると凝集/析出が進む 極性が大きく影響している 凝集シ ミュレー ション • 滴定試験等の結果に 基づき、SARA組成か ら予測 • 実験データの内挿の範 囲でのみ予測可能 • 分子分散(溶解)、ナノ凝集、マクロ凝集 (析出)を明確に区別 • 凝集/析出を決定付けるのは試料油に含 まれる全分子の構造と物性(分子組成) →予測は原油種や精製履歴に依らない 4.まとめ 多くの凝集実験と詳細組成構造解析結果に基づいてアスファルテンの凝集挙動とその メカニズムを明らかにし、それらを踏まえて多成分系の溶解/凝集/析出モデル(MCAM) を開発した。この MCAM を用いることで、様々な条件における重質油の溶解 /凝集/析出 シミュレーションが可能になった。 なお、本技術開発は、関西大学、千葉大学、北海道大学、産業技術総合研究所との共同 研究によるものであり、アスファルテンモデル化合物はアルバータ大学(加)とエアラ ンゲン大学(独)から提供を受けました。ここに感謝の意を表します。 以上
© Copyright 2024 ExpyDoc