日産の経営戦略について 2年 目次 1.はじめに 2.日産の経営戦略 3.海外での戦略 4.EV 市場の開拓 5.終わりに 西野 1. はじめに 日産は 1999 年に倒産寸前の経営状態になった。しかし、ルノーの傘下 に入りカルロス・ゴーンが新たな最高責任者となり「日産リバイバルプ ラン」を提示した。日産とルノーの提携から 17 年近くが立っており、現 在では、経営を立て直し 2015 年第一四半期決算において、売上高は前年 同期比 17.6%増の 2 兆 8994 億円を計上した。 1しかし、日産・ルノーは 世界でのシェアは第 4 位であるが、日本でのシェアは第 4 位と低い。世 界シェアに比べてなぜ日本のシェアが低い。日産の経営戦略を分析し、 日本市場でのシェアを拡大していくためには何をしなければならないの か明らかにしていこうと思う。 2. 日産の経営戦略 日産の経営戦略は大きく 2 つあげられる。まず1つ目に、コミットメ ント経営である。そして 2 つ目に、モジュール戦略である。 2−1 コミットメント経営 コミットメント経営とは、必達目標を提示しながら経営方針を示すも のである。適度な高い目標はやる気を引き出す。しかし、その数値に囚 われすぎて、都合のよい情報しかあがってこないなどデメリットもある。 カルロス・ゴーンはいまでもこの経営戦略を用いて日産を引っ張ってい る。しかし、あまりにも到達目標を重視しすぎることで会社の自由度を なくし、顧客のニーズ以外のものを作り出してしまったといわれている 2。 2−2 モジュール戦略 モジュール戦略を述べる前に、先 行研究からモジュール化の定義を 引用すると、青木昌彦本経済産業省 経済産業研究所長は「一つの複雑な システムまたはプロセスを一定の 連結ルールに基づいて、独立に設計 図 1 出所: http://techon.nikkeibp.co.jp/article/HONS 1 2 http://www.nissan-global.com/JP/ 福井晋。 HI/20120329/210379/?rt=nocnt されうる反自律的なサブシステムに分解することをモジュール化、ある 連結ルールの下で独立に設計され得るサブシステムを統合して、複雑な システムまたはプロセスを構成することをモジェラリティという」 3と、 原初的概念を定義している。 日産はこのモジュール化を用いた CMF を発案した。CMF(Common Module Family)とは、日産自動車とルノーが共同開発した、プラット フォームを基幹としたエンジニアリングアーキテクチャである。先行研 究である柴田友厚教授のレポートから引用すると、 「CMF の説明では、 「4 +1 Big Module Concept」という表現が使われている。「4」は 4 つの メカモジュール(エンジンコンパートメント、フロントアンダーボディ ー、コックピット、リアアンダーボディー)、「1」は電気・電子アーキ テクチャを指している。これら 5 つの「ビッグモジュール」間のインタ ーフェースは物理的視点および電気的視点に基づいてルールを定めてお り、このルールに沿って設計したビッグモジュールを組み合わせること で多様なクルマを開発できる。 ビッグモジュールのバリエーションは、エンジンコンパートメントが 2 種類、フロントアンダーボディー、コックピット、リアアンダーボディ ーがそれぞれ 3 種類。電気・電子アーキテクチャに至っては、ハードウ エアが 1 種類で、車種ごとに異なる「可変部分」はソフトウエアによっ て対応する。つまり、理論的には 2×3×3×3=54 種類の組み合わせの中か ら造り分けている。 CMFによる最初の量産車は、日産自動車が 2013 年 12 月に発売した多 目的スポーツ車(SUV)の「エクストレイル」である。その後も導入を 進め、これまで日産・ルノー連合の計 14 車種に適用してきた。この 14 車種の年間販売台数を足すと、約 160 万台になる。これによって、日産・ ルノー連合の部品共有化率(金額ベース)は 53%とCMF以前の 6%から 大幅に上昇し、部品調達コストを約 3 割削減できた。今後は他の車種群 への導入を進め、2020 年までに 7 割のクルマをCMFで開発するとい う。」 4 つまり、CMFにより大きくコストを削減できるということである。ま 3 4 青木昌彦(2002)。 柴田友厚(2014)。 た、コストの削減だけでなく、新製品を作り出す際の容易化や、受注か ら納品までの時間短縮なども含まれる。また、実際にトヨタも「TNGA (Toyota New Global Architecture)」といったようなCMFと似たようなモ ジュール化を進めている。しかし、もちろんデメリットもある。モジュ ール化を進めてしまうことで似たような形の車を作り出してしまうこと だろう。ここで先行研究の宇山通教授のレポートを引用すると、「共通 性と多様性の両方を追求することが求められている。しかし、プラット フォームを前提とした設計では、多様性が失われてしまう。」 5と言って いる。つまり、革新性が失われてしまうこともあげられるのではないだ ろうか。 3. 海外での戦略 図 2 は 2013 年の中国市場におけ る日系メーカー別販売台数である。 日産は新興国市場に強く力を入れ ており、実際に中国市場では首位を 独走している。しかし、最近では新 興国市場が減速傾向にあり、販売の 図 2 低迷が見られる。 出所:http://panda.sc/updates/?p=1306 また、中国での戦略としてブラン ド戦略があげられるのではないか。中国では現在、日産の「GT—R」が人 気である。日産GT—Rはフェラーリやポルシェと比較すると、性能が同等 で、価格が比較的低い。それが中国市場で受けいれられ日系メーカーで は首位にまで上り詰めたといわれている 6。そして、日産のGT—Rには大 きな特徴がある。それが日産の伝統である丸形のテールランプだ。これ こそが、ブランド戦略の第一歩目である。大ヒットの車を一台作ること で、ブランディングを確立し、商品に対する価値とともに共感や信頼な どを得られるため、差別化ができた顧客を獲得することができる。日産 のGT—Rは一目でわかるテールランプの形をしているので、企業のシンボ ルマークとしてブランド戦略が成り立っているのではないか。GT—Rを作 5 6 宇山通(2013) http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20111007/1038232/?rt=nocnt っている日産だから信頼があるという理由で他の車も買ってくれるとい うことも見込めるだろう。これは、日本でのトヨタの戦略がまさにブラ ンド戦略を用い、信頼を得続けてきているのではないだろうか。その戦 略を用いていくことがこれからの日産にとって日本でシェアを伸ばして 行くために必要になってくるだろう。 4. EV 市場の開拓 日産は、電気自動車産市場で世界首位の 26 万 5000 台以上売り上げて いる(2015 年までの累計)7。これに目を付けて行きたい。現在、世界で は電気自動車の普及率は約 0.2%しかない。まだあまり手を付けられてい ない市場だと言える。先駆者として入っていった日産は、この市場でさ らなる成長が見込めるのではないか。市場を確保してしまえば、ブラン ドを確立することができ、日産は日本でのシェアを拡大することが出来 るのではないだろうか。 また、2016 年 4 月に、法律の改正により家庭などに向けた電力小売り が全面自由化される。これにより、従来の地域ごとの電力会社だけでな く、さまざまな会社が電力を消費者に直接販売出来るようになる。これ に、日産もこれを利用すべきではないだろうか。そうすることで、いま まで圧倒的に少なかった充電施設を日産自身が作り出せばよいのではな いだろうか。インフラの整備をすることで電気自動車業界はさらなる成 長が期待出来るといえるだろう。もちろん、日産も 2013 年にPPS(Power Producers & Suppliers)を活用し販売会社への電力供給を開始してい た。 8しかし、電力自由化によりいままでよりも格段に選択の幅が広がっ ているのだ。 あるいは、電力を小売りしている事業と提携やM&Aという方法もある のではないだろうか。このM&Aの手法は関連型M&Aと呼ばれる。関連 型M&Aは事業強化のために必要な技術・ノウハウの獲得や、本業に相乗 効果のある新規事業の取り込みなどが目的である。 9実際に例を挙げてみ ると、コスモエネルギーホールディングスでは、電力の小売りも始まっ 7http://jp.autoblog.com/2015/09/07/renault-nissan-has-sold-more-evs-worldw ide-than-its-next-two-com/ http://www.nissan-global.com/JP/ 9 坂本恒夫(2015) 。 8 た。こういった企業と提携していくことによって、地域の枠に囚われる ことなく充電施設を整備していくことができるだろう。 5. 終わりに これから日産が更なる成長を遂げるにはどうすればよいだろうか。コ ットメント経営は日産の復活させたのではあるが、今後は過度に数字に 囚われるのではなく、顧客志向を高めていかなければならない。また、 電気自動車の売り上げ台数を見てわかる通り、間違いなく日産の電気自 動車の技術は高いものであり、強みであると言えるだろう。そして、日 本のガソリンを使用する自動車市場はすでに成熟していると言えるだろ う。だからこそ、外の新興国に目を付けたのだと思うが、新興国の成長 にも陰りが見えてきている。やはり、日産が日本でシェアを拡大するた めには、電気自動車市場に大きく力を入れ、EV 市場に目を付けていかな ければならないのでないだろうか。最初は多少損をしてもいいという考 えのもと、日本において電気自動車を普及させるために、充電できるス タンドを増やしインフラを整備して行く必要があるだろう。そして、こ れを行うために日産は電力の販売が自由化される法律の改正があり、他 企業が電力への参入をし、電気が安価で供給しやすくなるいまこそ日産 は電気自動車への普及を強く押し進めて行くべきだ。このことが、日産 とルノーが提携して以来続いてきたコミットメント経営を破り、新たな 日本市場でのシェアを拡大して行く第一歩になるのではないだろうか。 参考文献 青木昌彦ほか(2002) 『モジュール化、新しい産業アーキテクチャの本質』 東洋経済新報社出版。 宇山通(2013)「自動車企業におけるモジュール化の新展開−新興国市場 急拡大とパワートレーン多様化のインパクト−」『九州産業大学経営学論 集』第 24 巻第 2 号。 柴田友厚(2014) 「モジュール化の開発プロセスの構築:日産 CMF での デザイン・ルールの策定過程」 『赤門マネジメントレビュー』第 13 巻 12 号。 福井晋(2013)「日産業績低迷で加速するゴーン社長の孤立」 (http://biz-journal.jp/2013/12/post_3728.html) 坂本恒夫ほか編(2015)『テキスト 現代企業論』同文館出版。 http://biz-journal.jp/ (サイゾー) http://panda.sc/updates/ (P&A LLC) http://techon.nikkeibp.co.jp/ (日経 BP) http://trendy.nikkeibp.co.jp/ (日経 BP) http://jp.autoblog.com/ (AOL Asia Limited) http://www.nissan-global.com/JP/ (日産)
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