家族信託の仕組み Ⅰ 民事(個人・家族)信託の登場人物

2号(24・5)
家族信託の世界
相続対策の専門家
堀光博税理士事務所
092-292-5138
家族信託の仕組み
家族信託情報1号では、民事信託についての概要をお伝えいたしました。2号では民事
(家族)信託の基礎についての情報をお送りいたします。
Ⅰ
民事(個人・家族)信託の登場人物
“信託とは信頼して託すこと”と広辞苑に記載してあります。したがって、信託では“託
す人”と“託される人”が存在することになります。信託で託すものは“財産”ですから、
この託された財産を運用した“利益を受け取る人”も登場します。
基本的に全ての信託(民事信託、営利信託)には、上記3人の人物が登場します。
「委託者」:託す人
「受託者」:託される人
「受益者」:利益を受け取る人
信託では、この3人の登場人物を、このように呼んでいます。
そして託するものを「信託財産」と呼びます。
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実際の信託においては多くの人が登場しますが、本質的には委託者・受託者・受益者・
信託財産の関係さえ分かれば、理解しやすくなると思います。
Ⅱ
民事(個人・家族)信託の資格
一般になじみ深い「信託」は、信託会社に報酬を払って行う≪営利信託(商事信託とい
う場合もある)≫だとご紹介しましたが、この営利信託は「信託業法」の規定に基づき、
免許や登録を内閣総理大臣から受けて行う必要がありますが、≪民事(個人・家族)信
託≫は、営利目的でなければ、だれでも受託者となることができます。
委託者および受益者についても資格は必要ありません。
つまり、個人・家族信託では、関連法にさえ反しなければ、特に資格などは必要とせず、
“高齢者や障害者のための財産管理”や“家族・親族に対する資産承継” について、家族
のことを考えたうえで、最も良い方法を採ることができるのです。
Ⅲ
託した財産のゆくえ
では、信頼して託した財産は、どのようになるのでしょうか。
1 所有権
銀行に預金をした場合、自分の名義でありながら、銀行が自身の資金であるかのように
運用をして利益を上げ、預金への利息として、名義人に残高に応じた利益の分配をする。
この流れは信託の場合と同じです。つまり、「委託者」
(預金者)が「受託者」
(銀行)に
「信託財産」(預金者の資金)を“信頼して託す”(預金する)と、受託者はこれを運用し
て利益を上げ、利息を委託者に払うということになります。このとき、利益を受け取る人
を「受益者」と呼びます。
この場合は委託者=受益者となります。この形は家族信託においては一般的な形なので、
記憶に留めておいて下さい。
さて、信託では預けた財産は、受託者に所有権が移転(不動産の場合には所有権移転登記
が必要)します。ただし、この場合にも受託者は単に財産を預かっているだけと解釈さ
れます。
2 課税関係
しかし、税務上の取り扱いは異なります。
たとえ、預かっているとはいえ、所有権は受託者が持っていますが、税務上では「受益者」
が「信託財産」を所有しているとみなします(例外もありますが、詳細は別の機会にご紹
介します)
。信託財産から得られる利益は、受託者のものではありません。それどころか受
託者は運用した信託財産から利益を得ることはできないのです(家族信託情報1号参照「≪
民事信託≫は“非営利”つまり“無報酬”を原則とする」
)
。
税務上は原則的に利益を得るものが所有者であると解釈しています。
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このことから、委託者=受益者である信託では、税務上の所有権は移転していないものと
みなします。
したがって、信託の契約において、委託者が委託者以外に受益者を設定すると、委託者
から受益者への贈与(委託者の死亡が原因となる信託では相続)とみなされ、課税される
ことになります。
民事(個人・家族)信託を考える場合、これらの課税関係を熟考した契約内容とすること
が重要な課題であると言えます。
現在の信託法は、税に関しての優遇はなにもありません。海外では信託においては優遇
税制を採用している国が多く存在します。
国内法もこの点が考慮されれば、民事信託利用者が増加し、信託財産の活性化が期待でき
ると言われています。
Ⅳ
信託財産の安全性
信託では預けた財産は、受託者に所有権が移転するとしましたが、不動産などは所
有者名義が変わるため、その安全性に疑問を持つものと思います。
もし、受託者が破産したらどうなるのか。このような質問をよくいただきます。
確かに、信託財産の所有屋は受託者なのですが、信託とは「信頼して委託すること。他
人をして、一定の目的に従い財産の管理・処分をさせるため、その者に財産権を移すこと
(広辞苑)
」とあるなかで、一定の目的とは自分の愛する家族の生活を守るために、信託と
いう制度を利用し、中長期的な視点に立ち、安心して現在から未来に繋げる仕組みであり、
家族のために利益を使って、「扶養、後見・管理、遺産分割、事業承継、社会貢献」を行う
ことだと言い換えることができます。
この目的を達成するために、信託法により受託者の債権者は、信託財産に属する財産に
対しては強制執行等をできないとされています。
(信託法第23条第1項 ただし信託財産
で負担しなければならない債務は除く(信託法第21条第2項)
)
つまり、信託に関係のないところでの、受託者の債務に関しては、信託財産は切り離され
ており、そして守られているのです。この事を「信託財産の隔離機能」と言います。
もちろん、委託者・受託者・受益者が、悪意を持って信託を利用した場合は守られない
ことは言うまでもありません。
たとえ、法により守られているとは言っても、信託に込められた委託者の気持ちを考え
ると、課税上の所有権者である受益者は、受託者による信託財産の運営方法などは、管理
監督する必要はあります。このため、信託の契約においても、制限することのできない受
益者の権利が規定されています。
(信託法第92条)
3
Ⅴ
個人・家族信託の方法
信託法3条により、信託をする方法は以下の3種類があります。
1 信託契約による信託
信託契約は委託者と受託者の合意で行います。受益者は、一方的に利益を受け取るだ
けであることから、契約の当事者とはなりません。
(今後のコラムでこの有効性はご紹介
する予定です)
2 遺言による信託
遺言書によって信託を行うこともできます。これを信託銀行の遺言信託と区別するた
めに、
「遺言による信託」と呼んでいます。遺言書(有効な遺言書であることが必要)の
中で、信託をすることを、遺言者の単独意思で記載しておくと、遺言の効力が発生した
時(通常は、遺言者死亡の時)に有効となります。
3 信託宣言による信託
自分で自分に対する信託を行うこと(委託者=受託者)を自己信託といいます。受
託予定者に管理能力の欠如が考えられる場合などが考えられます。自己信託では、契
約当事者(委託者・受託者)が一人しかいませんので、契約の締結行為自体ができま
せん。このような場合は「信託宣言」と言って、委託者単独の意思表示により行いま
す。ただし、この信託行為は、受益者に対して信託の内容を書面で通知することで発
効します。しかしながら、この場合は受益権に対する課税問題が残りますので、充分
検討する必要があります。
4 共通
全ての信託行為において、受託者=受益者となること自体は禁止されていませんが、
このような状況が1年以上継続してしまうと、信託は強制的に終了となります(信託法
第163条第2項)
。ただしこの場合も、信託法は共同受益者であることを禁じてはいま
せんので、信託契約書に充分な検討を加え(専門家との相談が必要と思われます)、目的
に沿う内容とすることは可能だと考えています。
また、信託契約により信託をする場合は、口頭で信託をすることも可能ですが、その
目的を考えると、内容が非常に複雑になりますので、専門家を交えて充分に検討をした
うえで、書面で行うほうがよいと思われます。
次回のコラム(3号)では委託者・受託者・受益者以外の登場人物と役割および受益権に
ついて、ご紹介したいと思います。
4号以降からは信託の実務についてのご紹介をしていく予定です。
by T.Senoo
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