改めて求められる「安全第一」 - 東京海上日動WINクラブ

2016 May Special-2
東京海上日動 WINクラブ
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改めて求められる「安全第一」
昨今、工場、建設現場や交通機関等での事故が相次いでいます。どの現場でも「安全第一」のスローガンが掲げられ
ていますが、その言葉の本当の意味が関係者に理解されずに惨事を招くケースが多いように思われます。
そこで、本稿では改めて産業災害防止の基本となる「安全第一」の重要性について考察します。
Ⅰ.安全第一の意味
何事も、仕事をする際には共通的な基本となる方針や価値観が存在します。事故なく仕事を進め、労働者自身の労働
災害はもちろん、お客様の安全を確保する際にも重要な価値観が「安全第一」です。安全第一は決して曖昧なスローガ
ンではなく、仕事をする上での行動の優先順位について述べた言葉
です。
意外と知られていませんが、
「安全第一(Safety 1st)
」の後には、
「品
質第二、生産第三(Quality 2nd,Production 3rd)
」という言葉が続きま
安全第一
す。つまり、仕事をする際にはまずは自分自身や関係する方が怪我
をしないように安全を確保し、次にお客様の要望を満たす品質を確
保し、そしてその上で利益を考えよという趣旨の言葉になっていま
す。
「生産第一、品質第二、安全第三」ではないのです。
現実に、生産を最優先とし、次に品質、最後に安全の順番で考え
品質第二
生産第三
ていると、事故が起こりやすくなります。過去に発生した工場等で
の火災・爆発事故、労災事故、鉄道やバスなど交通機関での悲惨な事故を見ても、それらの多くは、本来は一旦停止し
たほうが良い状態に差し掛かっているにもかかわらず、生産・運行を続けたいという誘惑に負け、あるいは生産・運行
を続けなければいけないという使命感が悪い方に作用し、停止するタイミングを見失い事故に至っています。つまり、
知らず知らずのうちに、
「生産第一、品質第二、安全第三」になっていたことで事故が起こっているのです。
Ⅱ.事故が相次ぐ原因は?
わが国では戦後一貫して、安全技術の進歩と共
に労働災害をはじめとする産業災害は減少傾向に
ありましたが、近年は必ずしも減少していません
(図表 1 参照)
。
交通機関における乗客を巻き込んだ
悲惨な事故も後を絶ちません。
若手労働者による事故であると指摘されることが
死 200,000
傷
災
害 150,000
発
生
状 100,000
況
︵ ︶
その原因を一つに絞り込むことはできませんが、
図表1 死傷災害発生状況推移(死亡災害及び休業4日以上)
250,000
人 50,000
最近増えています。
H元
H2
H3
H4
H5
H6
H7
H8
H9
H10
H11
H12
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H14
H15
H16
H17
H18
H19
H20
H21
H22
H23
H24
H25
H26
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厚生労働省HP労働災害統計より作成
http://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/tok/anst00.htm
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「判断の誤り。ベテランがいれば防げた」と評価される事故は
多発しています。かつて日本の生産の現場には、大勢の経験豊富
ベテランが大勢いた時代
なベテランがいました。彼らは様々な難局を乗り越えた経験を有
し、危険に直面した場合の対処方法を知っていました。しかし、
その大半はこの十年程度の間に定年を迎え、
職場を去っています。
その結果、生産の現場では今、20 代、30 代の若手が重要な役
割を担うようになってきています。このように急速に世代交代が
進んだため、職場によっては様々なノウハウが十分に継承できて
・ 大勢の経験豊富なベテラン(生き字引)が存在。
・ ベテランは生産の誘惑があるが、
危険がある場面で、
生産の誘惑に負けると結局は悲惨な事態に結びつく
ことを骨身にしみて理解。
・ 万が一、若手・中堅社員が間違えた判断を下しそう
になっても、正しい対応に引き戻すことができた。
いないという問題、つまり技能継承の問題があることが指摘され
ていますが、その中の一つである「安全確保に関する技能」もう
まく継承されていないのです。
最近の典型的な展開
ビジネスとは利益を拡大することなので、生産が第一であるよ
うに見えてしまいがちです。しかし実際には「安全第一、品質第
二、
生産第三」
の順番で仕事をすることが事故防止の要諦であり、
また、重大な事故を起こさないことこそが実はお客様の信頼や社
員のモチベーションを維持し、結果として会社の業績に貢献する
ことを、経験豊富なベテラン層は知っていました。しかし、周り
に経験豊富なベテランがいない環境で育った 20 代、30 代の若
手は、このことに十分な確信を持てていない可能性があります。
・ 生き字引はすでに退職。
・ 生産現場の効率化の結果、現場にいる絶対的な人
数も少なくなってしまった。
・ 悲惨な現場を見たことがない若手・中堅社員は、
生産の誘惑に負け、危険がある場面で業務を続け
ることへの本能的な恐怖が不足。
・ 一方で経済低迷の中で育った世代は、赤字への本
能的な恐怖の刷り込みは大きい。
・ 危険に直面をしている場面でも、生産中断の恐怖
がある状況で、業務を停止する勇気を出せずに、
結局重大な事態を招いてしまう。
Ⅲ.「安全第一」の由来
ここで、
「安全第一、品質第二、生産第三」という言葉の由来をご紹介しておきます。
「安全第一、品質第二、生産第三」という言葉は 20 世紀初頭の米国で生まれました。当時の米国は当然のことなが
ら経済最優先の資本主義でしたが、一方で労働災害なども多数発生している状況でした。そういった中で米国の鉄鋼会
社の社長E.H.ゲイリー氏が、その状況を見かねて「同じ神の子である人たちが、こんな悲惨な災害をこうむり不幸
な目にあっているのは、見るに忍びない。
」と考え、経営方針として敢えて「安全第一、品質第二、生産第三」を掲げる
ことを決意します。そして、彼は所内で働く人とその家族の生活を守るために、さまざまな対策を講じていき、安心し
て働くことができる環境や仕事の仕方を整えていきます。その核心にあったのは、人間愛であったといえるでしょう。
その後米国では第一次世界大戦が発生し、特需が発生しますが、彼の会社は安全に働ける環境を整えていたことにより
社員の士気も高まり、この特需の波に乗って見事に会社を発展させることに成功します。この事例が広く知られるよう
になったのが、
「安全第一」の起こりです。
安全を実現するためには、従業員やお客様を危険に晒さない、そしてサービスを安定的に提供することでお客様に安
心していただく、そういった精神で仕事をする必要があります。その精神を一言でいえばまさしく愛情といってよいで
しょう。今、経営者に求められているのは、一見矛盾するようですが、利益第一の経営ではなく、従業員をはじめとす
る関係者に対する愛情を全面に置いた経営をすることといえるのではないでしょうか。
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