労働環境 -長時間労働と過労死-

労働環境 -長時間労働と過労死-
2年
北原
1、はじめに
今回レポートをこのテーマにしたのはこの労働環境の問題は喫緊の社会問題であり、自
分のバイト先の飲食店でも問題の深刻さを目の当たりにしているから、さらに以前から問
題視されているがあまりいい方向に改善されているように感じないからである。日本の社
会における企業は労働時間を減らすためにどのような対策をたて、変化していくことが必
要なのか本レポートで考えていきたい。
2、長時間労働の事例とそれに関する法律
長時間労働は社会的な問題となっているが、その一部として株式会社大庄やワタミなど
が長時間労働による過労死や自殺などにより問題となり世間でも話題となった。2社とも
が全国展開する大きな企業であるが、亡くなった人は1か月で 100 時間を超える時間外労
働というような法外な労働を強いられていた。
法の定める労働時間としては原則として 1 日に 8 時間、1 週間に 40 時間を超えた労働を
させてはいけないというものである。しかしすべての会社がその時間を守りながら仕事を
終えることは不可能であり、そのためにあらかじめ行政官庁に届け出た場合は法定の労働
時間を超えた時間外労働や法定の休日における休日労働が認められるという「時間外労働
協定」や一定期間を平均し、1 週間当たりの労働時間が法廷の労働時間を超えない範囲内で
特定の日、または週に法定労働時間を超えて労働させることができるという「変形労働時
間制」、ほかには「フレックスタイム制」や「みなし労働時間制」などの制度が設けられて
いる。これらの制度が設けられているからといって、もちろん無制限に働かせることがで
きるわけではなく限度がどの制度にも設けられている 1。そんな中でブラック企業と呼ばれ
るような企業の中で法外な時間働かされることによって様々な疾患を抱えてしまうような
人もいてその最悪の結果が過労死である。
3、過労死
過労死の認定基準としては「発病前一か月ないし六か月にわたり、一か月あたりおおむね
45 時間を超える時間外労働を行わせた場合は時間が長くなればなるほど業務と発症との関
連性が強まる」という考えや「発症前一か月間におおむね 100 時間を超える時間外労働を
行わせた場合、または発症前二か月ないし六か月間にわたり一か月あたりおおむね 80 時間
を超える時間外労働をさせた場合は業務と発症との関連性が強い」という考えに加え、「不
規則な勤務」
「拘束時間の長い勤務」
「出張の多い勤務」
「交代制・深夜勤務」
「作業環境」
「精
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http://kokoro.mhlw.go.jp/guideline/overwork.html
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神的緊張を伴う勤務」という 6 つの項目を基準として判断している 2。これらの基準の中で、
平成 26 年における日本での脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況としては労災認定の
請求件数は 763 件、支給決定件数は 277 件、その中で死亡事例は 121 件であった。つまり
死亡が過労死として認められた事例が 121 件であったということである。下のグラフを見
ると分かるがこの数字は前年度に比べると下がっているがまだまだ請求件数は減っていな
いし、過労死と認定された件数もまだまだ少ないといえるほどではないように思える。そ
して同時に乗っている精神障害に関する事例では請求件数も認定件数も増える一方である
ことがわかる。過労死ではないがこの問題も大きな社会問題であるといえるだろう。
図
過労死等および精神障害の労災補償状況
(出所:http://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/provision/5.html)
さらにこれらのグラフや数字はすべて労災の請求にまで至った事例の数であるため表面化
した件数以上に多くの隠れた過労死などが起こっている可能性はおおきい 3。
4、海外との労働時間の比較
日本での過労死を含む長時間労働の問題の現状はこういった数字に表れているが、これ
2
3
http://www.jil.go.jp/rodoqa/hourei/rodokijun/KH1063-H13.html
小倉一哉 2011 23 ページ
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は世界的に見るとどうなのだろうか。OECD(経済協力開発機構)の調べでは、韓国やチ
ェコなどは日本より労働時間が長い。これらの統計は各国の統計調査の基準が違うことや
パートタイマーが含まれることによって確実な比較ができるわけではないが、おおまかに
比べるとアフリカ、アジア、中南米では長期労働者の割合が高い国が多く、ヨーロッパ、
東欧諸国においてはそれほど高くない。この結果から見るとやはり発展途上国ではまだ長
時間労働が必要で長時間労働者の比率は高くなっている。その中でも上のほうにくる日本
は当然先進国の中では長期労働者の多い国に入る。なぜ他の先進国に比べて日本の労働時
間が長いのかという理由はもちろんいろいろあるとは思うが私は仕事に関する個人の自由
度だと考える。日本では時間によって給料が発生するような企業が多くその時間に与えら
れたことをこなすというだけというような状態があり、働き方を会社に管理されていると
いってもいいかもしれない。それに比べ諸外国は働き方が割と個人の裁量に任されていて
仕事のノルマが終われば帰ってもいいし休暇も自分たちで自由に調整できるというように
自由度が高い。この結果として現れているのが生産効率の数字でもあると思う。日本は労
働時間が長い割には生産量が多くなく、時間に対する生産量がほかの先進国より低い。こ
れは時間ではなく成果を重視したほうが労働時間を減らすための工夫をすることで生産効
率が上がった結果だと考える。しかし近年グローバル化ということで世界とのかかわりが
深くなり海外のような形態をとる企業も増えてきている。そうやって海外のいいところを
日本の企業も見習って取り入れることで労働時間の改善にもつながるかもしれないし、現
実に諸外国は日本より労働時間が短く生産性も高いのでどんどん取り入れていってほしい。
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図
年間実労働時間の国際比較(1960-2013 年)
出所:http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3100.html
5、長時間労働への対策
この海外を見習うというもの以外にも長時間労働の改善のために必要なことはいくつか
あり、その一つ目は「社風・職場風土の改善」である。この問題は近年成果主義を導入す
る企業が増えたり、「ノー残業デー」を取り入れる企業もあるが、依然として「長時間働く
ことによって評価される」と考える人も少なくなく、その考え・雰囲気を払拭しないこと
には時短を進めるのは難しいだろう。これは社風や職場風土の改善にあたるので上の役職
に就く人達が率先垂範して取り組んでいき会社全体を早く帰る方向に向けた雰囲気に改善
していくことが重要になる。二つ目は「仕事の分析と適切な配分」である。一つ目の改善
点のように雰囲気などの問題もあるが根本的に仕事の量が多いことももちろん長時間労働
になる問題点の一つである。この問題に対しては仕事を「質」と「量」の両面から分析す
ることが必要であり、今ある仕事をこなすにはどのような能力・スキルを持った人材がど
の程度必要なのか。それと現状との間にはどの程度差があり、その差を埋めるためにはど
のような人員配置や取り組みが必要になるのか。などを分析して実行していくことが必要
になると思う。三つ目は「社員の多能工化・仕事のマニュアル化」である。これは二つ目
と似たようなものではあるが、大量の仕事量がある中でどうやって時短を進めるかという
問題であるが、これには一人一人の行う仕事の幅を増やしみんながいろいろな仕事をでき
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る状態にし、さらに効率的な仕事の仕方を社内で共有することによって効率的な仕事をす
る多能工を増やすことや、仕事をマニュアル化し誰でも簡単・効率的にできるものに改善
することが効果的であるだろう。四つ目は「仕事の見える化の推進」である。これは派遣
スタッフやアルバイト・パートの多い職場で効果的なものであるが、例えば一つの仕事に
関して、その内容と処理プロセス・流れを書き出し、だれがどの程度できるかを示した「仕
事習熟表」を作成し、それと見比べながら適正に仕事を割り振っていく方法などがある。
こうして仕事を可視化することによって特定の人が仕事を抱え込むことが少なくなるし、
うまく分担することで全体での生産率が上がり、同時に時短も進むという取り組みである 4。
6、おわりに
5 では長時間労働への対策としてポイントを挙げたがこれによって実際に長時間労働や
それによる過労死・疾患などがなくなるというのはとても難しい問題であると考える。も
ちろん少しでも時短になればいいわけだが現実的にどう頑張っても定時には終わらないぐ
らいの仕事量を持った会社や普通に仕事をしていては食べていけなかったり、仕事をこな
すことができない業界・企業もあるだろう。私はやはり根本となる仕事の量を減らしてい
くしかこの労働に関する問題を解決することはできないと思う。例えば飲食店が店舗を減
らすことや受ける仕事を選んで数を減らすなどである。もちろんそれをしてしまっては企
業自体の売り上げなどは下がってしまうだろうが従業員が過労死するなどして社会的な問
題になるよりはいいのではないだろうか。さらに近年ニュースなどでも取り上げられるが、
労働に関する訴訟では莫大な時間とお金がかかる。大きなニュースとなるような大企業の
訴訟では企業は非を認めずに何年も裁判で戦い続けることが多いような気がするが、たと
え裁判の結果がどうなったとしてもそこに費やす費用や時間などは利益にとって当然そん
なのではないか。そういったことをふまえても私は利益だけを求めて労働者に対する環境
を悪化させていくよりも、問題にならない範囲内の仕事量で収まるように工夫していくほ
うがいいのではないだろうかと考える。もちろん長時間労働の環境は日本では昔からあり
日本人の根本的な考え方や人格などが関わってくる問題でもあるからそれを変えていくの
にはとても時間がかかるし、そうした変化をしていく上では様々な問題も出てくるだろう。
だが法律や企業内で長時間労働による問題や過労死が起こらないように決まり事を作って
強制的にでも今の環境を変化させていかなければならないと思う。今回のレポートで過労
死やそれにかかわる長時間労働について調べ、考えたがやはりこの問題は決して無視でき
るものではないしまだまだ問題は多いが社会全体で解決に向けて取り組んでいかなければ
ならない問題だということを改めて実感した。
4
https://jinjibu.jp/article/detl/manage/226/4/
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参考文献
小倉一哉(2011 年)
『過働社会日本―長時間労働大国の実態に迫る―』日経ビジネス人文庫。
https://jinjibu.jp/
(株式会社
アイ・キュー)
http://kokoro.mhlw.go.jp/(厚生労働省)
http://www.jil.go.jp/ (労働政策研究・研修機構)
http://www.jili.or.jp/ (生命保険文化センター)
http://www2.ttcn.ne.jp/ (本川裕 社会実情データ図録)
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