伝統ブランド - 三菱UFJリサーチ&コンサルティング

2016 年 5 月 12 日
コンサルティングレポート
『伝統ブランド』に学ぶリブランディング成功の法則 【後編】
経営戦略部 [名古屋] チーフコンサルタント 林田充弘
経営戦略部 [大阪]
コンサルタント
鈴木ちさ
1. 『伝 統 ブランド』のリブランディング
(1)『伝 統 ブランド』とは

製 造 業 における製 品 ブランドの位 置 づけ
製 造 業 企 業 にとって、「製 品 」とは、自 社 の理 念 を具 現 化 したものと言 える。中 でも自 社 内 だけ
でなく市 場 においても「同 一 カテゴリーの他 製 品 とは明 らかに異 なる独 自 の存 在 として認 識 され、
明 示 的 に選 ばれる」製 品 については、自 社 を象 徴 するものとして大 切 に育 て守 られている。それ
が、製 品 ブランドである。

『ブランド』=「約 束 」
製 品 ブランドの場 合 、その製 品 に備 わった価 値 「企 業 の提 供 価 値 」と利 用 されるお客 様 が想 定
される価 値 「顧 客 の期 待 価 値 」が合 致 していることが、『ブランド』として認 知 される条 件 となる。それ
は、いわば「約 束 」のようなものであ り、その約 束 を象 徴 しているのが「ブランド名 称 」や「ロゴマーク」
である。
優 れたブランドは、そのブランド名 称 やロゴマーク、製 品 そのものを見 たあらゆる人 (お客 様 、製
造 者 、関 係 者 ・・・)に同 一 のイメージを想 起 させる。
つまり、『ブランド』の価 値 は、ブランド製 品 (モノ)にあるのではなく、人 々の心 に存 在 するものと
言 える。

『伝 統 ブランド』とは
製 品 ブランドの中 でも、一 過 性 のヒットではなく、長 きに渡 って人 々から支 持 され続 けているもの
を『伝 統 ブランド』と定 義 し、本 レポート【前 編 】において、具 体 的 事 例 を紹 介 している。
【伝 統 ブランド(イメージ)】
ブランドとは単独で存在するのではなく
企業と顧客の間に結ばれる約束の象徴
企業
ブランド
顧客
提供価値 = 期待価値
“信頼”
強いブランドは、提供価値と期待価値にズレ(ギャップ)がなく、
企業と顧客を“信頼”によって結びつけている
「伝統ブランド」は、その“信頼”関係を長期に渡って維持・発展させている
ご利用に際してのご留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
(お問い合わせ)革新創造センター
TEL:03-6733-1005
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(2)リブランディングの必 要 性

『ブランド』の長 寿 化 は困 難
製 品 には、製 品 ライフサイクル(寿 命 )と呼 ばれるものがあり、単 なる一 製 品 としてだけでも市 場 に
存 在 し続 けることは容 易 ではない。まして長 期 に渡 って「ブランド」として人 々から支 持 され続 けると
いうのは至 難 の業 である。『伝 統 ブランド』事 例 をみても、様 々な取 り組 みの結 果 、ブランド力 の維
持 ・向 上 を継 続 的 に果 たしていることが分 かる。
自 社 ブランドの長 寿 化 を目 指 すには、「ブランド力 」の定 期 的 診 断 と課 題 の把 握 、その解 決 の
ための「リブランディング」の取 り組 みは必 要 不 可 欠 なものと言 えるだろう。
2. ブランドの長 寿 化 における3つの課 題
ブランドの長 寿 化 を図 り、伝 統 ブランドになるまでには、【前 編 】の伝 統 ブランドの事 例 からも、3
つの側 面 におけるブランド課 題 の把 握 と継 続 的 なリブランディング取 り組 みの必 要 性 が考 察 され
た。
【ブランド価 値 維 持 ・成 長 、「ブラン ド長 寿 化 」における3つの課 題 】
企業
①企業の提供価値側面
↓
どのように価値を高め、
提供していくのか?
(追い求めるビジョン)
ブランド
提供価値 = 期待価値
“信頼”
③ブランドを生み出す組織機能側面
↓
価値を生み出し、守り続ける組織・
人をどのように育成するのか?
(インターナルブランディング)
顧客
② 顧客の期待価値側面
↓
時代とともに変化する期待
価値に、どこまで対応して
いくのか?
(軸はブレない許容範囲)
(1)企 業 の提 供 価 値 側 面

製 品 としての陳 腐 化 リスク
ブランドの長 寿 化 により最 も懸 念 されることは、「陳 腐 化 」である。上 市 当 時 は市 場 の潜 在 ニー
ズを満 たすような「新 たな提 供 価 値 」を備 えた製 品 であっても、すぐに目 新 しさが感 じられない「当
たり前 のもの」になってしまう。
最 近 では、そのスピードが速 くなっており、いかに市 場 の変 化 に対 応 するかがブランドの寿 命 に
影 響 している。

課 題 ① どのように価 値 を高 めるか
製 品 ブランド価 値 の低 下 を回 避 する企 業 取 り組 みとしては、製 品 としての陳 腐 化 を回 避 するた
めの市 場 ニーズ変 化 対 応 だけでは不 十 分 と言 える。市 場 環 境 変 化 に対 応 しつつ、自 社 ブランド
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の真 の競 争 優 位 要 因 となる『付 加 価 値 』を認 識 し、相 対 的 ブランド地 位 を維 持 することも求 められ
る。このように自 社 製 品 ブランドの独 自 価 値 を常 に高 めるためには、ブランド戦 略 を事 業 戦 略 課 題
の一 つとして、ブランドが目 指 すべき『ビジョン』を明 確 にし、全 社 での取 り組 みを検 討 する必 要 が
ある。
(2)顧 客 の期 待 価 値 側 面

ブランド価 値 要 素
製 品 ブランドの場 合 、ブランド価 値 要 素 として重 要 となるのが『仕 様 (スペック)価 値 』『機 能 価
値 』『心 理 価 値 (ベネフィット)』である。
『仕 様 (スペック)』は、大 きさや素 材 、組 成 など、製 品 のモノとしての価 値 自 体 である。『機 能 価
値 』は、製 品 の用 途 に対 していかに機 能 性 を高 めているかである。この 2つの要 素 は、客 観 的 に比
較 可 能 な要 素 と言 える。汎 用 性 が高 い商 材 (例 えば、特 定 の製 品 でなくても用 途 充 足 は可 能 な
使 い捨 ての掃 除 機 用 ゴミパックなど)の場 合 、『仕 様 』と『機 能 』に対 する「価 格 」を比 較 し、選 択 さ
れることが多 くなる。
それに対 し『心 理 的 価 値 (ベネフィット)』と呼 ばれるものは、「カッコイイ」「可 愛 い」「お洒 落 」「自
分 のスタイルに合 っている」「何 となく好 き」と言 った主 観 的 評 価 であり、単 純 に他 の製 品 と比 較 を
したり、価 格 妥 当 性 を判 断 したりするのが難 しい要 素 である。

変 化 する顧 客 の期 待 価 値
いずれの価 値 要 素 についても、市 場 全 体 の環 境 変 化 や顧 客 のライフスタイルの変 化 に合 わせ
て要 求 される内 容 や水 準 は常 に変 化 している。
例 えば、食 生 活 の変 化 により、菓 子 (砂 糖 を使 った甘 いもの)は特 別 な『ハレ』の存 在 から日 常
的 な『ケ』の存 在 となり、その為 、「仕 様 」としては、大 人 数 (家 族 )でのハレの日 消 費 を想 定 した形
状 、大 きさ、数 ではなく、個 装 で食 べきりのようなサイズが求 められ、機 能 ・スペックとしては、足 りな
い栄 養 分 やエネルギーを充 足 する内 容 ではなく、健 康 に配 慮 した機 能 性 原 材 料 や調 合 に変 わっ
ている。
そして、心 理 的 価 値 側 面 でも、「ハレ」の日 の非 日 常 的 高 揚 感 というものから、日 常 生 活 のちょ
っとした気 分 転 換 や自 分 へのご褒 美 などに変 化 している。

課 題 ② 変 化 する顧 客 の期 待 にどこまで対 応 するか
このようにどのようなカテゴリーの商 材 であっても、顧 客 側 のブランド付 加 価 値 認 識 が変 化 するこ
とを前 提 にしなければ、提 供 価 値 と期 待 価 値 の乖 離 が大 きくなり、『ブランド』として永 続 化 すること
は難 しくなる。
しかしながら、ブランド価 値 というものは提 供 価 値 と期 待 価 値 が合 致 して初 めて存 在 するもので
あり、やみくもに迎 合 することがブランド価 値 を維 持 、向 上 させるものではない。事 例 で確 認 されるよ
うに、長 きに渡 って支 持 されているブランドは、その価 値 のアップデートの仕 方 にも、ブランド独 自 の
ルールや思 想 がしっかりとある。変 えることと変 えないこと、そのバランスが重 要 となる。
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(3)ブランド価 値 を生 み出 す組 織 機 能 側 面

ブランディングの罠
陳 腐 化 リスクの回 避 は、皮 肉 にも「ブランド」として多 くの消 費 者 に認 知 されている程 、困 難 にな
るというジレンマがある。
商 品 カテゴリーの中 で、短 期 間 で圧 倒 的 一 番 ブランドの地 位 を築 いた場 合 、供 給 する企 業 とし
ては、一 時 的 に拡 大 する需 要 への対 応 として「さらなる量 産 化 」に追 われるとともに、獲 得 出 来 た
顧 客 の維 持 のためには期 待 を裏 切 らないよう「ブランド提 供 価 値 」=「商 品 内 容 」を固 定 化 してし
まう傾 向 があり、結 果 的 に市 場 環 境 の変 化 への対 応 が遅 れてしまうからである。
また、硬 直 的 な組 織 風 土 の会 社 では、事 業 貢 献 度 の高 い基 幹 ブランドに市 場 とのミスマッチが
生 じていても、リブランディングの必 要 性 を提 言 することが難 しい。顧 客 期 待 価 値 との乖 離 が徐 々
に広 がり、中 長 期 でブランド売 り上 げが減 少 しているとさらにブランドが「聖 域 化 」(誰 も触 れない課
題 )するケースが多 い。
このように『強 い』ブランドほど、「ブランディングの罠 」ともいうべき状 況 に陥 る危 険 性 が高 い。

課 題 ③ ブランド価 値 を守 り、生 み出 し続 ける組 織 /全 員 ブランディング
実 は、ブランディングにおいて重 要 でありながら、見 落 とされがちなのが、ブランド価 値 を生 み出
す「人 」「組 織 」の観 点 である。
ブランディングの罠 のような状 況 を打 破 するには、全 社 でのブランド価 値 認 識 共 有 と従 業 員 全
員 が自 身 の業 務 の中 でいかにブランド付 加 価 値 を生 み出 しているかを考 え、また、その活 動 がス
ムーズに行 われるよう、会 社 が事 業 の仕 組 みの中 で支 援 することが求 められる。
3. 『伝 統 ブランド』課 題 解 決 アプローチ
本 章 では、3つの観 点 における課 題 について、【前 編 】の事 例 に共 通 するリブランディングのアプ
ローチ方 法 について整 理 をしている。
【『伝 統 ブランド』企 業 でのリブランディング・アプローチ】
①企業の提供価値側面
全社方針として、独自価値の醸成を理想とし、その
提供をブランド使命とする
②顧客の期待価値側面
顧客(市場)と自社のブランド価値(約束)に対す
る「認識ギャップ」を解消する
『伝統ブランド』事例
に共通する戦略方向性
③ブランドを生み出す組織機能側面
社員全員が自社ブランドの価値を正しく理解し、その
価値を顧客に提供する活動に誇り持って
自ら行動する組織を目指す
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(1)企 業 の提 供 価 値 側 面 での課 題 解 決 アプローチ

『提 供 価 値 』の事 業 モデル化 による継 続 的 価 値 提 供
提 供 価 値 側 面 では、いかに自 社 の独 自 価 値 の品 質 を維 持 しながら、継 続 的 に提 供 するかが
鍵 となる。自 社 ブランドに対 する顧 客 の期 待 価 値 に対 して、他 社 ブランドも同 等 の価 値 を提 供 出
来 た場 合 、不 毛 な「価 格 競 争 」に巻 き込 まれるなど、ブランド価 値 毀 損 の危 険 性 があるためであ
る。
伝 統 ブランド事 例 の中 では、そのようなリスクを回 避 するため、ブランド事 業 分 野 について事 業 モ
デルの発 展 を図 るケースが見 られる。
製 造 業 での傾 向 としては、価 値 確 保 を自 社 でコントロールするために、原 材 料 栽 培 、協 働 調 達
事 業 といった製 造 面 での上 流 事 業 伸 長 や独 自 販 売 チ ャネル(店 舗 ・ネット)保 有 など販 売 面 (顧
客 との直 接 接 点 醸 成 )での下 流 への事 業 伸 長 が見 られる。
(2)顧 客 の期 待 価 値 側 面 での課 題 解 決 アプローチ

顧 客 『期 待 価 値 』の変 化 (変 質 )への柔 軟 な対 応
顧 客 の期 待 価 値 側 面 においては、時 代 ・環 境 変 化 により、顧 客 が求 める価 値 (期 待 価 値 )に
ついても変 化 することを前 提 としながら、ブランドと顧 客 との関 係 性 、顧 客 にとってのブランド・ポジ
ションは変 わることなく維 持 しているというのが、事 例 に共 通 することとして注 目 された。
顧 客 が本 質 的 に期 待 する価 値 が何 かを考 え、変 えてはいけない要 素 と変 えるべき要 素 を峻 別
し、変 えることをおそれずアップデートをしているので、ブランドが長 寿 化 しても「昔 のブランド」とはな
らないのである。
ブランド提 供 価 値 に絶 対 的 自 信 を持 ちながら、徹 底 した顧 客 志 向 (顧 客 の期 待 を常 に考 える)
を貫 いているのも、伝 統 ブランドの共 通 点 と言 える。
(3)ブランド価 値 を生 み出 す組 織 機 能 側 面 での課 題 解 決 アプローチ

ブランド価 値 維 持 ・発 展 を支 える組 織 ・人 づくり(風 土 ・文 化 )
組 織 機 能 側 面 で事 例 企 業 に共 通 する特 徴 としては、職 種 に関 係 なく全 ての従 業 員 が自 身 の
業 務 の中 でブランド価 値 を生 み出 していることが挙 げられる。しかも、事 例 企 業 においては、楽 しん
でブランド活 動 をしているケースが多 く見 られた。
「会 社 が好 き」「自 社 の商 品 が好 き」「社 員 (仲 間 )が好 き」と言 うポジティブな言 葉 が自 然 に発
せられるように、組 織 や製 品 にでさえ個 性 や人 格 を認 めるような従 業 員 の好 意 的 感 情 が、『ブラン
ド』価 値 の源 泉 であり、ブランドが市 場 において永 続 的 に存 在 するために必 要 不 可 欠 なものであ
ることが分 かる。
このようなブランドが醸 成 される組 織 風 土 は、年 月 を掛 けて自 然 に形 成 される場 合 もあるが、伝
統 ブランドを有 する老 舗 企 業 こそ、長 い歴 史 があるゆえに社 内 においても世 代 間 での認 識 ギャッ
プが生 じる恐 れがあり、注 意 深 く、意 識 的 に風 土 ・文 化 づくりに取 り組 むことが求 められる。
ここまでは、【前 編 】での事 例 を踏 まえながら、伝 統 ブランドのリブランディングにおける共 通 事 項
を洗 い出 し、一 般 化 を図 るべく整 理 してきた。
以 下 においては、【後 編 】1~3節 で整 理 した共 通 事 項 を前 提 とした上 で、今 一 度 、【前 編 】の 1
0社 それぞれの個 別 事 例 を取 り上 げながら、各 社 が目 指 すリブランディング戦 略 は、具 体 的 にどの
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ように商 材 やその販 促 施 策 等 に組 み込 むことで、ブランドとしての価 値 を向 上 させていくことができ
るのか、リブランディング戦 略 の具 体 的 方 向 性 について、考 察 を試 みる。
4. 『伝 統 ブランド』のリブランディング商 材 の訴 求 特 性 別 分 類
(1)リブランディング商 材 の訴 求 特 性 による分 類
【前 編 】で見 てきた伝 統 ブランドを持 つ10社 は、いずれも製 造 業 であり、そのリブランディングの具 体
的 な取 り組 み施 策 の大 半 は、やはり商 材 に関 連 するものであった。それらリブランディング商 材 に託 さ
れたメッセージ、訴 求 特 性 の傾 向 を探 ると、次 の 2つの切 り口 があげられる。
①顧 客 へのアプローチは、見 た目 か?中 身 か?
②主 たる対 象 顧 客 は、個 人 か?集 団 か?
まず①については、顧 客 に対 してブランドの新 たな魅 力 を訴 求 するために、主 に何 からアプローチし
ているか?の切 り口 である。
ヤンマーは、抜 群 の認 知 度 を誇 る「ヤン坊 マー坊 」を止 めてブランドマークを刷 新 、有 名 デザイナー
による斬 新 なデザインのトラクターや作 業 着 を開 発 した。辰 馬 本 家 酒 造 は、酒 器 や催 事 の道 具 類 を現
代 風 にアップデートし、日 本 酒 の文 化 的 側 面 に触 れる機 会 を与 えている。いわば見 た目 を変 えること
で、それぞれ農 業 や日 本 酒 の真 の美 しさを再 発 見 、見 直 してもらおうとしている。
一 方 、井 村 屋 は、従 来 は短 所 とされていた「あずきバー」が固 いことをむしろ逆 手 に取 ったような SNS
発 信 が大 きな反 響 を呼 び話 題 となっている。大 幸 薬 品 は、受 験 生 応 援 キャンペーンと称 して腹 サポー
ター(腹 巻 )や腹 パンをプレゼントしている。いずれも商 材 そのものは変 えずに、その機 能 や特 徴 を面 白
おかしく若 干 誇 張 することで分 かり易 く伝 え、顧 客 同 士 が愉 しめる場 を提 供 している。
伝 統 ブランドは、ブランドの認 知 は極 めて高 いが、最 近 に限 った利 用 率 だと極 めて低 い、といったケ
ースが少 なくない。リブランディングには何 か一 部 を新 しくして再 び利 用 を促 すことが求 められるのだが、
それは見 た目 の美 しさから入 るのか?それとも中 身 の愉 しさからか?これが、 ①の切 り口 <美 ←→愉 >
である。
< 美 >
< 愉 >
外 観 ・デザイン・見 た目 の美 しさ
内 面 ・マインド・中 身 の愉 しさ
次 に②については、昨 今 の消 費 者 の行 動 特 性 の特 徴 の一 つとされる「個 人 志 向 」と「集 団 志 向 」の
併 存 性 を、あえて切 り分 けたものである。
牛 乳 石 鹸 共 進 社 の「ウルルア」は、ハンドソープを洗 浄 力 や殺 菌 などの機 能 ではなく、洗 面 台 をお
洒 落 に彩 るオシャレアイテムとして選 びたいという特 定 顧 客 のニーズに適 合 させて開 発 されたものであ
る。不 易 糊 工 業 は、親 しみある「どうぶつのり(フエキくん)」の容 器 にハンドクリームを入 れてオフィス事
務 環 境 に馴 染 ませた。また、汎 用 品 や社 名 入 りが一 般 的 なクリアホルダを印 刷 可 にして簡 単 にオリジ
ナルが作 れるようにした。これらは普 段 日 常 に溢 れた商 品 群 の中 で、ちょっとした個 性 、自 分 を主 張 で
きる商 材 である。
一 方 、たねやの「ラコリーナ近 江 八 幡 」や「たねや農 藝 」は、顧 客 、従 業 員 、取 引 先 、地 域 が同 じ理
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想 に向 かって一 体 となれる壮 大 な空 間 ・場 を提 供 し、みんなで体 験 を共 有 している。牛 乳 石 鹸 共 進 社
のキッザニア出 展 、ヤンマーの「プレミアムマルシェ」も、そうした取 り組 みに準 じたものだといえよう。まさ
にコトラーのいうマーケティング 3.0 の現 代 に相 応 しいパートナーシップ、ファンづくりを目 的 とした取 組
みである。
前 述 したように「個 人 志 向 」と「集 団 志 向 」、一 見 相 矛 盾 する二 つの志 向 を併 せ持 ったのが現 代 人
である。自 分 のこだわりか?仲 間 と育 むか?そのどちらを対 象 顧 客 の主 たる側 面 とするか? <自 ←→
育 >が②の切 り口 である。
< 自 >
< 育 >
個 性 を大 事 に、自 分 らしく
仲 間 ・同 志 の輪 を育 みたい
(2)2つの切 り口 をクロスした<美 ・愉 ・自 ・育 マトリックス>、各 象 限 別 の特 徴
前 項 で抽 出 した2つの切 り口 <美 ←→愉 ><自 ←→育 >を、それぞれ縦 ・横 の軸 としてクロスさせる
と、次 のような<美 ・愉 ・自 ・育 マトリックス>を描 くことができる。
(縦軸)
顧客アプローチは、外観?中身?
外観・デザイン・見た目の美しさ
(第2象限)
(第1象限)
個
性
を
大
事
に
、
自
分
ら
し
く
仲
間
・
同
志
の
輪
を
育
み
た
い
(第3象限)
対
象
顧
客
は
、
個
人
?
集
団
?
(
横
軸
)
(第4象限)
内面・マインド・中身の愉しさ
この<美 ・愉 ・自 ・育 マトリックス>の各 象 限 について、縦 横 の軸 の定 義 を解 釈 しながらリブランディン
グのヒントを読 み解 いていく。
第 1象 限 は、「外 観 ・デザイン・見 た目 の美 しさ」で「仲 間 ・同 志 の輪 を育 みたい」となる。よって、その
ブランド好 きな人 たちが引 き寄 せられ集 まれる場 、世 界 観 を共 有 できるシチュエーションの提 供 、さらに
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は集 まった集 団 全 体 を外 部 から見 た時 の印 象 や活 動 シーンのイメージを良 化 ・価 値 を再 生 していく領
域 だといえる。
第 2象 限 は、「外 観 ・デザイン・見 た目 の美 しさ」で「個 性 を大 事 に、自 分 らしく」となる。よって、 その
ブランド商 材 を保 有 し、ブランドのファンであることを主 張 することでスタイリッシュな自 分 を演 出 、個 性 を
際 立 たせてくれるような革 新 性 が求 められる領 域 だといえる。
第 3象 限 は、「内 面 ・マインド・中 身 の愉 しさ」で「個 性 を大 事 に、自 分 らしく」となる。よって、そのブラ
ンド商 材 はいわば自 分 自 身 の小 さな分 身 のような存 在 であり、ブランドに主 体 的 に関 わることで自 分 が
大 切 にしている価 値 を再 確 認 でき、自 分 の生 き方 を象 徴 するようなものにしていく領 域 だといえる。
第 4象 限 は、「内 面 ・マインド・中 身 の愉 しさ」で「仲 間 ・同 志 の輪 を育 みた い」となる。よって、そのブ
ランド好 きが集 まった集 団 は多 様 性 に満 ちていて見 た目 では共 通 項 は無 くとも同 じ理 想 を持 つ同 志 で
あり、かけがえのない仲 間 同 士 のコミュニティとなるような仕 組 みを備 えていく領 域 だといえる。
下 図 は、この<美 ・愉 ・自 ・育 マトリックス>に伝 統 ブランド10社 の主 だった商 材 や取 り組 みをマッピ
ング(※各 商 材 ・取 り組 みのポジショニングは著 者 の主 観 による)したものである。
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各 社 2つ程 の商 材 ・取 り組 みについてマッピングしたが、それらが一 定 の象 限 ・領 域 に固 まった企 業
もあれば、対 角 線 上 に 大 きくまたがった企 業 もあった。その分 布 状 況 にはいくつかのパターンが見 られ、
それぞれのパターンごとにリブランディング戦 略 の方 向 性 を示 唆 するものだと考 えられる。 この点 につい
ては、次 節 で詳 しく考 察 することとする。
5.企 業 ・商 材 特 性 別 リブランディング戦 略 の方 向 性 についての考 察
(1)企 業 別 のリブランディング商 材 ・取 り組 みの分 布
下 図 は、前 章 のマッピングを企 業 別 の商 材 ・取 り組 みの分 布 状 況 の違 いによって4つのパターンに
分 類 し、色 分 けしたものである(※各 ポジショニングの変 更 は無 し)。
4つのパターン別 の企 業 構 成 は、以 下 の通 りとなった。サンプル数 としてはかなり少 ないが、リブラン
ディング戦 略 のより具 体 策 の方 向 性 を探 るべく、業 界 特 性 や商 品 特 性 上 の共 通 項 を付 記 し、考 察 の
対 象 としたい。
パターン A:主 に第 1象 限 のみに集 まった企 業 。たねや、チョーヤ梅 酒 、辰 馬 本 家 酒 造 が該 当 す
る。いずれも日 本 酒 や和 菓 子 といった日 本 の伝 統 を守 る和 食 に関 わる企 業 だと いえ
る。
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パターン B:第 3・第 4象 限 の縦 軸 に近 い領 域 に集 中 した企 業 。ハマナカ、内 外 薬 品 、大 幸 薬 品 が
該 当 する。手 芸 や大 衆 薬 は、かつては暮 らしに欠 かせない存 在 であった企 業 だといえ
る。
パターン C:第 2・第 3象 限 に長 くまたがった領 域 の企 業 。井 村 屋 、不 易 糊 工 業 が該 当 する。菓 子
や文 具 、昔 も今 も子 どもからお年 寄 りまで広 く愛 される商 材 を有 している企 業 だといえ
る。
パターン D:第 2象 限 の左 上 と第 4象 限 の右 下 とに離 れて位 置 し、大 きく対 角 線 上 にまたがった企
業 。ヤンマ ー、牛 乳 石 鹸 共 進 社 が 該 当 する 。長 きに 渡 り多 くの 方 々に TV で 親 しま
れ、特 に中 高 年 以 上 の方 には企 業 イメージが完 全 に定 着 しきっている企 業 だといえ
る。
(2)業 界 ・商 材 特 性 別 リブランディング戦 略 を成 功 させる要 件 についての考 察
前 項 にて4つのパターン別 に展 開 された伝 統 ブランド10社 の結 果 から、業 界 や商 材 特 性 別 の共 通
項 やリブランディングパターンとの関 係 性 を見 出 し、リブランディング戦 略 を成 功 させる要 件 について考
察 を行 う。

日 本 の伝 統 を守 る和 食 に関 わる企 業 (たねや、チョーヤ梅 酒 、辰 馬 本 家 酒 造 など)
→パターン A:古 臭 くなった業 界 イメージを見 た目 から一 心 、新 たな仲 間 予 備 群 を呼 ぶ
リブランディングのもっともオーソドックスなやり方 である。古 臭 くなったとはいえ、伝 統 的 な和 食 には日
本 の豊 かな食 材 、匠 の技 の数 々、和 の心 がこめられている。しかしながら日 本 文 化 の美 徳 とされる奥 ゆ
かしさ故 に、そうした大 切 な部 分 もが陰 に潜 みがちである。本 物 の美 は曲 げずに、ただし、それを表 現
する方 法 は今 風 な形 に大 胆 にアレンジして、見 て触 れて感 じてもらう努 力 を怠 らないことである。

かつては暮 らしに欠 かせない存 在 だった企 業 (ハマナカ、大 幸 薬 品 、内 外 薬 品 など)
→パターン B:触 れる機 会 が激 減 、分 かり難 くなった愉 しさを知 るき っかけをつくる
時 代 の変 遷 と共 に日 本 人 の生 活 スタイルが大 きく様 変 わりし、かつては暮 らしに欠 かせない役 割 を
担 っていたものでも、その存 在 価 値 は急 激 に薄 くなりつつある。必 需 から趣 味 へ、あるいは安 心 感 へと
価 値 の転 換 が必 要 なのである。元 々有 している商 材 本 来 の付 加 価 値 は何 ら変 わらなくても良 いが、敷
居 はかなり低 くして、心 から「愉 しい」「あると安 心 」などと感 じてもらうきっかけ、とっかかりをつくることが
重 要 である。
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昔 も今 も子 どもからお年 寄 りまで広 く愛 される企 業 (井 村 屋 、不 易 糊 工 業 など)
→パターン C:この商 材 を持 つことによる“他 とはちょっと違 う特 別 感 ”を与 える
比 較 的 安 価 で今 でも広 く愛 される商 材 を有 しているにもかかわらず、人 口 減 少 、少 子 高 齢 化 による
市 場 縮 小 が大 きな脅 威 となっている企 業 が少 なくない。こうした企 業 は、自 社 の代 表 商 材 の特 徴 をより
強 調 して訴 求 、コンテンツ的 な魅 力 を付 加 して“他 とはちょっと違 う特 別 感 ”を提 供 する。ただし、面 白
いばかりでは陳 腐 や軽 薄 と捉 えられてしまうため、同 時 並 行 してハイグレード化 、プレミアム化 について
も取 り組 むことが肝 要 である。
ご利用に際してのご留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
(お問い合わせ)革新創造センター
TEL:03-6733-1005
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企 業 イメージが完 全 に定 着 しきっている企 業 (ヤンマー、牛 乳 石 鹸 共 進 社 など)
→パターン D:ハイセンスデザインと超 地 道 なファンづくり活 動 とを併 存 させる
長 期 に渡 り TV-CM などの大 規 模 な広 告 投 下 を行 い、企 業 イメージを定 着 させてきた企 業 の場 合 、
そのままでもブランド価 値 は当 面 底 堅 い。しかし、ネット社 会 が浸 透 した現 在 においては、若 年 層 はじ
め新 たなファンの獲 得 においては、逆 にそのブランド価 値 がボトルネックともなりかねない。地 に足 が付
いた地 道 なファンづくり活 動 をタイムリーにネットで発 信 させつつ、新 たな商 材 については斬 新 な機 能 、
ハイセンスなデザインに取 り組 むことで、双 方 の活 動 が互 いを引 き立 たせることができる。
6.さいごに
伝 統 ブランド企 業 のリブランディング戦 略 に おける失 敗 は、時 代 の変 化 に対 する経 営 陣 の認 識 の不
一 致 に起 因 するケースが多 い。さらにはその認 識 の違 いが、 これまで大 切 に培 ってきた伝 統 ブランドを
「どこまで変 えるべきか?変 えざるべきか?」といったブランドの主 軸 を揺 らがせる事 態 へとつながり、ブラ
ンドの価 値 を一 気 に失 墜 してしまうのである。
伝 統 ブランドの尊 い歴 史 や資 産 を守 りつつ、その負 の側 面 である硬 直 的 で“古 い“イメージ を払 拭
し、新 たな支 持 層 を増 やしていくためには、いったい何 をどのようにしたら良 いのだろうか。こうしたブラン
ドを掲 げるすべての企 業 にとって、いつかは必 ず起 こり得 る非 常 に悩 ましい問 題 に対 して、まずは全 社
員 で3つの観 点 から、自 社 ブランドの現 状 を把 握 されることを提 案 したい。
そして、4~5節 で解 説 してきた<美 ・愉 ・自 ・育 マトリックス>による商 材 や取 り組 み施 策 のポジショ
ニングは、リブランディング戦 略 の主 軸 にブレが無 いか監 視 しておくためのマップとして活 用 できるものと
なり、また、5節 の「(2)業 界 ・商 材 特 性 別 リブランディング戦 略 を成 功 させる要 件 についての考 察 」 で
述 べた4つのパターン別 成 功 の要 件 が、一 つの指 針 を指 し示 すものになれたら幸 いである。
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