岡山畜産便り 1964.07 ―優良事例調査から― 養豚経営の方向 県普及教育課専技 多 田 昌 男 昨年下半期における豚肉価格は有史以来の高値を 養豚部門は当初肥育経営のみとし、素子豚を県外ま 呼んだが、本年1月以降急落し、去る4月から落ち たは他地区から導入していたが、子豚価格の値上り つきをみせている。4~6月における枝肉価格は、 と、経営の合理化を図るため、素子豚生産も行うよ 岡山枝肉市場で、上 285 円、中 275 円、下 265 円程 うになり、ランドレース及び中ヨークシャーの繁殖 度の横ばい状態を示している。 豚を導入した。子豚の生産は 39 年からである。 このため一時浮動養豚家の落伍が見られたが、最 B農家は4家族、男女7名で構成する協業経営で 近やっと落ちつきをみせている。このような安値の ある。35 年8月養豚研究会を 21 戸で結成して養豚を 時期を乗り越えるためには、経営費の占める割合を はじめたが、質の不揃、肥育素子豚の供給不足から 出来るだけ尐くし、所得率をあげるよう努力しなけ 37 年3月新しく協業経営として再出発した。A農家 ればならない。 は舎飼肥育に重点を置いているのに比べ、B農家は、 今年はじめ豚多頭飼育優良経営事例6ヵ所につい 繁殖豚を各人において飼育し、離乳豚になってはじ て、聞き取りあるいは資料により調査したが、その めて、協極経営部門に購入の形式をとっている。こ 内容を分析し、今後の養豚経営の参考にしたい。 れは繁殖技術の差異による協業経営部門に及ぼす影 響を尐なくするため個人に責任を持たせ、その成績 1、調査農家の概要 調査対象農家は、協業2戸、個人経営4戸、計6 戸であるが、その家族構成、年間平均頭数は、第1 表のとおりである。調査対象期間は、38 年1月から に応じた収益配分を考えたためである。素子豚の大 部分は県外あるいは他地区から求めているが、自給 子豚の生産向上しつつある。 肥育豚は簡単なコロニー豚舎に 20~30 頭収容し、 12 月までの 12 ヵ月間で、飼育頭数は年間の平均を示 柵を囲って放牧形体を取っているので、施設費が尐 す。これから示す数字は殆んどがききとり数値であ くてすみ、年中敷わらが不要であり、糞掃除が不要 るため、正確度においては、人によって多尐相違が なため日常の管理が省力化されている。汚染した運 あるので一応およその傾向として判断願いたい。 動場は順次ラジノクローバー等を播種して緑餌とし A農家は4家族、男女8名からなる協業経営で、 個人経営の行きづまり打開のため農業研究会同志が て利用しているが、これからの飼養方法の1つの方 向を示すものと考える。 集り養鶏場を設立した。ところが当初計画したブロ C農家は繁殖経営で、子豚販売に重点が置かれ、 イラー部門が巧くゆかないので、37 年7月から採卵 これに耕種部門及び地区の豚輸送により収益をあげ 部門に重点を置き、ブロイラーを養豚に切り替えた。 ている。 岡山畜産便り 1964.07 D農家は繁殖経営で、子豚収入のほか種雄豚を繁 肉市場に出している。しかし中には未だ生体で業者 養して人工授精を行い、子豚収入と同程度の粗収入 へ出している者がある。代金の決済はすべて現金取 を得ている。耕種部門における収益は多くない。 引か農協が取扱っている。 E農家は繁殖肥育併用経営で、従来は中ヨークシ 肉豚の1頭当り価格は、廃豚を除くとF農家が最 ャーであったが、ランドレースの地区指定を受け今 も高く販売している。協業経営においては1万8千 後ランドレース、中ヨークシャーの2本立で進むよ 円程度で販売しているが、これは肉豚の回転率をあ うにしている。個人経営としては年間に取扱う肉豚 げるため、体重 85kg 程度以内で出荷しているようで 頭数が非常に多いが、施設投資が大きい。しかし都 ある。上半期が安く下半期が高かったため、年平均 市周辺のため残飯利用が容易であり、又イモの利用 は1頭1万 9275 円になっている。 が可能であるため、健全な養豚経営が行われている。 子豚の価格はB農家の自家供給価格 3665 円は別と 飼養頭数が多く、舎飼いのため、自家労働力のみで して、実際せり市場等で取引された1頭平均は 6503 なく、年間常時臨時人夫を入れている。養豚のほか 円である。このほか農家によっては豚種付料、鶏卵 採卵鶏により約 100 万円程度の粗収益をあげ、又樹 代金などがあるが、農家別の畜産部門粗収益は第3 園地 80aにはミカンを植えているが、今のところ収 表のとおりである。 入を得る程の生産をあげていない。 畜産、耕種、農外収入の各部門の総粗収益内容は、 F農家は都市から生産される残飯と耕地及び借入 第4表のとおり、協業経営では 580 万円から 746 万 耕地から生産される麦を利用した肥育養豚であるが、 円であるが、個人経営においては、最低 86 万円から 飼育様式は舎飼いである。最近繁殖豚を導入してい 最高 211 万円に及んでいる。 るが、未だ生産効果をあげていない。 2、子豚、肉豚の取引方法と粗 収益 素子豚は殆んどの農家が自給して いるが、不足分については、九州、 鳥取県方面から導入している。 繁殖農家は農協を通じてせり市場 に出すかあるいは農協傘下の組合員 に譲渡されている。肉豚については、 第2表のように個人により多尐の相 違があるが、殆んど大阪、岡山の枝 岡山畜産便り 1964.07 3、経 営 費 の年にたまたま当ったことになるから、今後の経営 畜産経営費のうちで最も多くを占めるものは飼料 安定の方向としては繁殖肥育併用経営で、所得率 35 費である。特に養豚においては濃厚飼料費の占める ~40%を得たいものである。D 農家は繁殖経営と種雄 割合が多く、年間の購入数量は第5表のとおりで、 豚けい養による人口授精業務を行ったため、所得率 1kg 当り 32 円 20 銭から安いものは 24 円 50 銭であ は 57%となり、農家経営の主幹作目をなしている。 る。濃厚飼料に重点を置くとどうしても1kg30 円以 E農家はコレラによる被害と豚舎及び種豚に対する 上となるが、最近のように肉豚の枝肉単価が 280 円 投資がやや多いため粗収益が多い割合に所得率が 程度では、最高 32 円以内におさえなければ経営がな 12%に過ぎない。厳密にすれば 15%から 20%の間と りたたない。 その点E農家は都市から生産される残飯、港から 魚荒を求め、自家生産の甘藷を使って、単位当りの 飼料費を安くあげている。又F農家は残飯と自家生 産の小麦に購入小麦を加えて1kg 当 24 円 50 銭にと どめている。 経営費の主な内容は、第六表のとおりであるが、 このうち畜産部門のみについてみると、農家個々の 特徴が現れている。協業経営のA、B農家について みると、A農家は、豚購入費に多額の経費をかけ、 年内購入 387 頭に対し 316 頭を出荷し、相当数の肉 豚が翌年度へ繰越しており、又繁殖豚として中ヨー クシャー、ランドレースを導入した関係上、投下資 本が大となり、収支は赤字のかっこうになっている。 39 年初め以来の安値でその後も経営はむづかしかっ たことと考えるが、余り過剰投資にならぬよう心す べきである。 B農家は繁殖豚によりある程度の子豚を自給し、 安い子豚生産と購入子豚でバランスを取ったため、 所得率 13%で、理想の 20%より悪いが、今後の経営 は安定するものと考えられる。問題は借入金の利息 償還をうまくやることである。 次に個人経営のCからFについてみると、C農家 は、繁殖経営に重点を置いたため、所得率 41%のよ い成績をあげている。しかしこれは有史以来の高値 岡山畜産便り 1964.07 予想されるが、過剰投資にならぬよう、また伝染病 したが、細部についてでなく、その意とする所が表 発生地からの子豚導入は厳にいましむべきである。 現できなかったが、今後の養豚家経営は繁殖肥育併 F農家は都市周辺の肥育経営として、都市生産の 用で進み、安定した農家経営であってほしい。これ 残飯に、自家生産の小麦を加えた合理的な経営を行 からの自立経営農家としては1戸当り尐くとも年間 っている。このため理想の所得率 39%をあげている。 所得 76 万円程度をあげなければならない。所得率 35 最近になり子豚の生産を行っているが、その成績は ~40%の繁殖肥育併用型経営をするとすれば、粗収 かんばしくない。これは飼料給与上の栄養分のバラ 益 220 万円~190 万円をあげなければならない。耕種 ンスがうまくいっていない結果と考える。肉豚肥育 部門その他と結びついた場合は、これ以下の粗収益 と繁殖経営は飼料給与において、多尐異るから、こ でよく、経営が安定化してくるから、協業経営を除 の点に努力する必要がある。 いては副合経営で進んだ方がよいと考える。 以上豚の多頭飼育優良経営事例調査の概要を分析 さいきんの畜産情勢 他方農政局報告から 6月 15 日、6日の2日間、東京で開かれた地方農政局長会議で各地方の農業動向が報告された。これによ ると畜産部門では多頭羽飼養が一層つよまる傾向にあり、一時減った子豚生産は漸次回復しつつあるが、肉用 牛の生産はいぜん低調気味に推移しているようである。 特に中四国地方の養豚では、38 年の子豚生産頭数は前年比6%減、肉豚生産頭数は 12%減であったが、本 年に入っては生産が増えてきている。 (畜産情報)
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