基礎化学 第2回「原⼦の構造」 担当︓⻘⼭学院⼤学理⼯学部化学・⽣命科学科 阿部 ⼆朗 1 【質量保存の法則(law of mass conservation)】 「化学反応において、質量は決して増えたり減ったりすることはない」 ラボアジェ(Atonie Lavoisier 1743-1794)は密閉した容器の中で燃焼させる実 験によって、燃焼⽣成物の質量が出発物質の質量と完全に等しいことを証明した。 例えば、⽔素ガスが燃焼して酸素と結合し、⽔ができるとき、⽣成した⽔の質量 は消費された⽔素および酸素の質量の和に等しい。 【定⽐例の法則(law of definite proportion)】 「純粋な⼀つの化合物において元素の質量⽐は常に⼀定である」 プルースト(Joseph Proust 1754-1826) 例えば、⽔(H2O)のどんな試料でも、⽔素と酸素の質量⽐は常に1︓8であり、 ⼆酸化炭素(CO2)の試料は常に炭素と酸素を質量⽐3︓8で含んでいる。つまり、 元素は常に⼀定の割合で結合し、任意の割合で結合することはない。 【倍数⽐例の法則(law of multiple proportion)】 「⼆つの元素が結合するとき、元素の質量⽐の異なる複数の化合物が⽣成すること がある。そのとき、⼀⽅の元素の⼀定質量と結合する他⽅の元素の質量は簡単な整 数⽐となる。」 ドルトン(John Dalton 1766-1844)の主張は、同じ組み合わせの元素が異なる 割合で結合して異なる化合物を与えることを⾒いだしたことに基づいている。 例えば、COとCO2、NOとNO2、FeOとFe2O3, Fe3O4 など 2 【倍数⽐例の法則(law of multiple proportion)】 「⼆つの元素が結合するとき、元素の質量⽐の異なる複数の化合物が⽣成すること がある。そのとき、⼀⽅の元素の⼀定質量と結合する他⽅の元素の質量は簡単な整 数⽐となる。」 【例題1】メタンとプロパンはともに天然ガスの成分である。あるメタンの試料 は炭素5.70 gと⽔素1.90 gからできている。あるプロパンの試料は4.47 gの炭素 と0.993 gの⽔素からできている。この⼆つの化合物が倍数⽐例の法則に従って いることを⽰せ。 3 【⾼校教科書「化学基礎」東京書籍】 4 【⾼校教科書「化学基礎」東京書籍】 5 【電⼦の発⾒】 トムソン(J. J. Thomson 1856-1940、1906年ノーベル物理学賞)は1897年に 放電管(陰極線管)を⽤いた実験で、負の電荷をもっている⼩さな粒⼦(現在の電 ⼦)を発⾒し、電⼦の電荷と質量の⽐ e/m (=1.758820×108 C/g )を求めた。 6 放電現象︓排気したガラス管に封じた⾦属電極間に電圧をかけると、電極間が輝き、 電流が流れる現象。放電現象によって⽣じる輝くビームは、陰極線とよばれた。 負の電圧をかけた電極(カソード︓陰極)から正の電圧をかけた電極(アノード︓ 陽極)に電⼦が流れる。ガラス管が完全な真空ではなく、少量の空気や他の気体が あると、電流が陰極線とよばれる⽩熱光として⽬に⾒える。さらに、陽極に孔を開 けて、管の末端に硫化亜鉛のような蛍光物質を塗っておくと、陰極線の⼀部が孔を 通って管の末端に達して明るい光のスポットを与える。 7 【陰極線管(ブラウン管)の構造】 8 【陰極線管(ブラウン管)の構造】 9 10 蛍光灯︓放電で発⽣する紫外線を蛍光体に当てて可視光線に変換する光源である。 11 ネオン管︓ガス放電管の⼀種で、封⼊ガスとして100 - 1,000Pa(0.001 - 0.01気 圧)のネオンガスを⽤いたもの。各種照明器具や表⽰⽤に⽤いられることが多い。 ⼀般に、特にネオンサインなどの表⽰⽤途において、封⼊ガスとして⽔銀、ヘリウ ム、窒素を⽤いたり、管内壁に蛍光物質を塗布するなどして様々な光⾊を得られる ようにした各種ガス放電管も便宜上ネオン管と呼ばれ、蛍光灯のガラス管を着⾊し、 あるいは適宜蛍光物質を調製した蛍光サイン管もこれに含まれることが多い。 12 希ガスを⽤いたガス放電管 13 希ガス以外の元素を⽤いたガス放電管 14 【電⼦の質量を測定】 ミリカン(R. A. Millikan, 1868-1953、1923年ノーベル物理学賞)は油滴実験か ら電⼦の質量を求めた。 ミリカンの油滴実験︓⼩室の中で油を噴霧し、その⼩さな油滴が2枚の⽔平な板の 間を落下するようにする。球状の油滴を望遠鏡の接眼レンズを通して観察し、油滴 が空中を落下する速度を測定し、これからその質量を計算する。次に、X線を照射 して負電荷をもたせる。2枚の⽔平板の上側が正になるように電圧をかけて、荷電 した油滴が落下せずに⽌まるようにする。2枚の板にかかる電圧と油滴の質量から、 ミリカンは、どの油滴の電荷も e の整数倍になっていることを⽰した。 現在、e の値は1.602176×10-19 Cとされている。 トムソンが求めた、e/m=1.758820×108 C/g より、m=9.109382×10-28 g 15 【原⼦核の発⾒】 ラザフォード(Ernest Rutherford、1871-1937、1908年ノーベル化学賞)は 「ラジウム、ポロニウム、ラドンといった天然の放射性元素から放出される⼀種の 放射線であるα粒⼦(ヘリウム原⼦核)を⾦の薄膜に当てると、その⼤部分は偏向 することなく薄膜を通過するが、ごく少数の粒⼦(ほぼ20,000個に1個)はある⾓ 度で曲げられ、その⼀部は線源に跳ね返ってきた」という実験結果から、⾦属原⼦ はほとんど何もない空間からできており、その質量は原⼦核とよばれる⼩さな中⼼ 部分に集中していることを⾒いだした。 16 【ラザフォードの原⼦模型】 プラスの電荷を持った重い原⼦核の周りをマイナスの電荷を持った軽い電⼦が運 動しているというちょうど太陽と惑星のような模型がラザフォードによって提唱さ れ、実験ともうまく合致することが分かった。しかしこのモデルは「加速度運動を する粒⼦(電⼦)は電磁波を出しながらエネルギーを失っていく。なぜ電⼦は原⼦ 核に落ちて⾏かないのか︖」という疑問に答えることはできなかった。ラザフォー ドのあとを継いで原⼦模型を理論的に解明しようとしたのがニールス・ボーアであ る。ボーアの仕事が現在の「量⼦⼒学」へとつながっていく。 17 表1.原⼦を構成する粒⼦ 18 【⾼校教科書「化学基礎」東京書籍】 19 【原⼦番号・質量数】 原⼦番号︓原⼦に含まれる陽⼦の数(atomic number; Z) 質量数 ︓原⼦に含まれる陽⼦と中性⼦の総数(mass number; A) 同位体 ︓陽⼦数が同じであるが、中性⼦の数が異なる原⼦(isotope) 質量数 原⼦番号 20 元素記号 表2.天然に存在するいくつかの⼀般的な元素の同位体 21 【原⼦質量および原⼦量】 原⼦質量単位(atomic mass unit; amu) 1 amuは質量数12の炭素原⼦1個の質量の正確に12分の1と定義されており、 1 amu = 1.660539 × 10-24 g 陽⼦と中性⼦の質量はほぼ等しく、電⼦の質量ははるかに軽いので、 陽⼦や中性⼦1個の質量がほぼ1 amuであることを意味する。 原⼦質量(atomic mass) その元素の天然に存在する同位体の質量を加重平均したもの。 Cの原⼦質量= Cの質量 Cの存在⽐ Cの質量 Cの存在⽐ = 12 amu × 0.9893 + 13.0034 amu × 0.0107 = 12.011 amu 原⼦量(atomic weight) 原⼦量は、質量数12の炭素原⼦1個の質量を12と定義し、これを基準とした 相対質量であり、単位をもたない量である。その数値は原⼦質量に等しく、 炭素の原⼦量は12.011である。 通常は、原⼦質量の代わりに原⼦量を使う。 22 【例題2】塩素には天然に2種類の同位体が存在する。すなわち、⾃然存在⽐ 75.76 %で相対質量34.969の Clと⾃然存在⽐24.24 %で相対質量36.966の Clである。塩素の原⼦量を求めよ。 23 【モルと物質量】 モル(mole, SI基本単位で記号は mol ) 元素 1 molは、グラム単位で表した元素の質量がその原⼦量と同じ数値になる量。 この量を g/mol 単位で表したものをモル質量(molar mass)という。 例えば、炭素原⼦ 1 mol の質量は 12.011 g である。したがって、モル質量は 原⼦のグラム単位の質量と原⼦数との間の換算係数ということになる。 アボガドロ定数(Avogadro constant, NA) 物質 1 mol に含まれている粒⼦数で 6.022142 × 1023 /mol 6.022142 × 1023 をアボガドロ数という。 物質量(Amount of substance) モルを単位として表した粒⼦の量 24 物質量 物質の質量 モル質量 / 【⾼校教科書「化学基礎」東京書籍】 25 【⾼校教科書「化学基礎」東京書籍】 26 【質量分析計】原⼦量や分⼦量を精密に測定する分析装置。 試料を気化して、希薄な気体として真空にした⼩室に注⼊し、⾼エネルギーの電 ⼦線を当てる。電⼦線は試料分⼦から電⼦をたたきだして、正に荷電したイオンに 変える。イオン化した分⼦の⼀部は壊れずに⽣き残り、他は⼩さなイオンへと断⽚ 化する。異なる質量をもついろいろなイオンは、電場によって加速されて強い磁⽯ の両極の間を通過し、その間に磁場によって⾶跡を曲げられる。軽いイオンは重い イオンよりも⼤きく曲げられる。磁場の強さを変えることによって、異なる質量の イオンを順次スリットを通して検知装置へ導くことができる。 このようにして得られる質量スペクトルは、イオンの強度を質量に対してプロッ トしたグラフ、すなわち装置内で⽣成したいろいろなイオンの相対的な数をそれら のイオンの質量に対してプロットしたグラフとなる。 27 図1.(a) 質量分析計の模式図 (b) ナフタレン(分⼦量=128)の質量スペクトル 28 【⾼分解能質量スペクトルの例】 実測データ 計算データ 29 【⾼校教科書「化学基礎」東京書籍】 30
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