May. 2016 工務店信用を再考証する 信用補完の原点は完成保証制度 昨今住宅業界における信用訴求の内容に変化が表れだしている。従来は、「工務店に頼んで倒 産など起きたら大変ですよ」という履行能力であったが、今日では「30 年でも 40 年でも家守る」 保証能力比較へと変わってきている。 長期優良住宅の普及に伴う消費者意識の変化も相まって、瑕疵保険法人では住宅瑕疵担保責任 保険(1 号保険)を延長し、20 年とする商品認可の動きが強まっている。安心と安全、信用と保 証の関係を再考証してみる。 ■ 60 年保証の是非 家の永大供養は必要か ■ ハウスメーカーの中には最長 60 年保証を打ち出すメーカーが現れた。住宅瑕疵保険の 20 年延 長保証は時代の要請とも言えようが、世界の保証制度の中でも日本の住宅保証の特殊性は際立ち はじめている。 まず長期寿命が当たり前の英、米、カナダのいずれの国でも Home Warranty(住宅瑕疵保証) の保証期間は 7 ~ 10 年で終了する。瑕疵延長保証どころか中古住宅の瑕疵保証もリフォーム保 証も存在しない。 意味するところは、保証が長寿命住宅を担保しているわけではないということ。品確法で定め られた 10 年間の瑕疵担保責任の義務化は世界の常識である。瑕疵担保期間が満了した後は住ま い手とビルダーの関係は任意となり、住宅メンテナンス(家守り)は住まい手の責任へと移る。 瑕疵担保履行法による資力確保の中の供託制度は日本独自の制度である。10 年間無利息かつ 簿外の資産ともならない供託制度は、アメリカであれば資本効率を阻害し、株主利益を逸失させ るとして行政訴訟も起こされかねない制度である(投資した株式の一部が 10 年間も自由にでき ないなんてけしからんと株主は思うはずだ)。 何もそこまでと、あきれさせるほど供託は強い。 過去の姉歯構造計算偽装や、さらにはマンション基礎杭事件を見れば明らかであろう。故意と 重過失は免責となり保険は下りない。潤沢な資力を背景にした自社保証、即ち供託事業者の優位 は揺るがない。 だからハウスメーカーと保証期間の長短を競うことに益はないだろう。永大供養のような長期 保証が求められるかについて、まずは観察してからでも遅くはない。 ■ 完成保証をブラッシュアップする 2万円で完成保証の利用が可能に ■ 住宅業界で最も古くから取り組まれてきた保証制度ではあるが、普及が進まない保証制度の一 つが完成保証制度である。 5年前に最大の工務店ネットワークの「TH友の会」が完成保証制度を取り扱うビルダー共済 会から撤退した期を潮に垣間見られることも少なくなっている。 完成保証制度は名板貸し責任のリスクヘッジとして住宅FCでもっぱら利用されているに過ぎ ない。 完成保証制度は、利用したい会社は審査が通らず、審査を通る会社は保険を必要としない矛盾 を内包している。信用度の悪い会社ばかり集めても引き受け手がなく保険が成立しない集積リス クと、信用度の高い会社では審査合格をステイタスとして保険を付けないために保険が集まらな い不足リスクがある。 1999 年住宅あんしん保証、2000 年住宅保証機構がそれぞれに「完成保証基金」を造成して完 成保証が始まった。 指定法人に移行した両社とも完成保証制度を有しはするが、課題の解法は発案されてはおらず 制度利用は低調である。 完成保証制度の補完制度として期待された第三者による資金管理制度のエスクローも運営コス ト以上の便益を生み出すに至らず、利用率は完成保証を下回る。 工務店信用補完の最善手を再検討すると、やはり原点の完成保証に立ち戻ることになる。自己 資本比率の低い建築事業者の信用補完は古くて新しい課題であるからだ。 まず、事業者登録制度を改善し合格・不合格の二択方式を改めて、信用評点の低い会社でも保 険料率で調整し利用できるように変更する。 そして、取引信用保険のレイティング方式を応用する。売掛債権を担保する取引信用保険では 特定の債権(不良債権)だけを保険契約する逆選択は認めない。 優良も不良もまとめてバンドルするからこそ大数の法則で保険が成立する。保険料率は優良 0.1 ~不良 0.8 くらいまで階層化する。2,000 万円の請負契約の完成保証料として優良は 2 万円、不 良は 16 万円くらいとなる。 完成保証料を平均 10 万円として 1 万件集めると 10 億円の完成保証プールができあがる。予想 損害率1%、事故額 600 万円平均ならば持続可能な保証制度となる。住宅FC各社が各々で運営 する完成保証制度を全件集めることで 1 万件の組成は十分に可能性があるし、業務コストも大幅 に低減するであろう。 また、運営方式としては保険方式と共済方式の2つが考えられる。保険方式の利点は 30 倍近 い保証枠が設営できること。半面、60%以上を保険料でもっていかれる。 10 億円の試算式は共済をモデル化したものである。共済の弱点はある程度予納保険料を集め ないとスタートできないことであるが、もちろん両者の組み合わせは可能である。
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