1715 旅客が一時的に利用する施設を考慮した駅ホーム上の旅客流動 シミュレーション 〇野口 朋之 (千葉工業大学) 正[電] 富井 規雄 (千葉工業大学) Passenger flow simulator on a platform considering facilities visited by passengers Tomoyuki NOGUCHI (Chiba Institute Of Technology) Norio TOMII (Chiba Institute Of Technology) We have developed a multi-agent based simulator for passenger flow simulation on a Shinkansen platform. We can simulate not only passengers who align on an alignment area but passengers who drop in a noodle restaurant, a kiosk, a waiting room, a trash box and passengers who sit on a bench. The latter passengers behave differently from the former passengers and we have introduced a new state transition for these passengers. We can also estimate how passenger feel uncomfortable by counting the number of other agent encountered while an agent is moving to the target. Using this simulator, we can evaluate the layout of facilities such as a noodle restaurant, a kiosk, a bench, a trash box etc., on a platform. Keywords : Railway, passenger ow, multi-agent, simulation 1.はじめに 新幹線の駅ホーム上には様々な目的を持った旅客が存 在する。すなわち,列車への乗降だけでなく,乗降前後 に,蕎麦屋,売店,待合室,ゴミ箱などへの立ち寄りが 観察される。これらの旅客は,単なる乗降のみを行なう 乗客とは異なった動きをする。また,蕎麦屋や売店の前 には,時として行列ができることもある。従って,特に 混雑時には,これらの旅客の動きや行列は,その長さや 整列方法・位置によっては,他の旅客の移動の妨げとな る。このような理由によって,蕎麦屋,売店,待合室, ゴミ箱などのホーム上の施設について,その位置やそれ への整列方法が旅客の歩きにくさにどのような影響を与 えるかを推定をすることが求められている。 これまで,在来線での乗降時間の検討を目的とした旅 客流動シミュレータ (1),新幹線ホーム上での荷物を持つ 旅客の動きを模擬することを目的とした旅客流動シミュ レータ (2),在来線ホーム上の混雑する旅客流動を対象と した旅客流動シミュレータ (3)(4) などが報告されている。 しかし,蕎麦屋や売店など,ホーム上で旅客が一時的 に利用する施設を対象とした旅客流動シミュレータにつ いては,報告されていない。 そこで,本研究では,売店,蕎麦屋,ゴミ箱,待合室 など旅客が一時的に利用する施設を考慮した場合の旅客 流動シミュレータを開発し,蕎麦屋や売店に並ぶ客の整 列方法や整列位置,ゴミ箱や待合室の大きさや位置など が,旅客の歩きにくさなどにどのような影響を与えるか を推定することを目的とする。 2.マルチエージェントシミュレーション 2.1 エージェント 本研究では,マルチエージェントシミュレーションを 用い,一人の旅客を一つのエージェントとして旅客の個 別の行動を模擬することにより,駅ホーム上の旅客流動 の再現を行なう。エージェントとしては,旅客エージェ ントと,その旅客が所持している荷物のエージェントの 2 種類が存在する。 エージェントのパラメータは,次の通りである。 ・ 現在地 ・ 目的エリア ・ 歩行速度 ・ 最大歩行速度 ・ 半径 ・ 向き ・ 視野角 ・ 対人視野 ・ 対物視野 2.2 環境 本研究では,駅ホームを環境とする。環境内で考慮す る駅ホーム内の設備としては,次がある。 ・ 壁,柱,柵 ・ 誘導ライン ・ ホームドア ・ 階段 ・ 蕎麦屋,売店,ゴミ箱,ベンチ,自動販売機(以 下,自販機) 2.3 ポテンシャルモデル 行動モデルとしては,ポテンシャルモデルを用いる。 ポテンシャルモデルとは,旅客と障害物に同極の電荷, 旅客と目的地には異極の電荷を与えることで,前者の間 には斥力,後者の間には引力を発生させるモデルである。 エージェントの移動先は斥力と引力を合成した値から決 定される (1)(2)。 2.4 行動状態 本研究における旅客エージェントの行動状態の詳細を 次に示す。本研究では,上水流のモデル (2)において導入 [No.15-63]日本機械学会 第 22 回鉄道技術連合シンポジウム講演論文集[2015-12.9~11.東京] された歩行状態,整列状態,降車状態,乗車状態,階段 状態,乗車中状態に加えて,以下の状態を新設した。行 動状態の相互関係の概略図を図 1 に示す。 (1) 蕎麦屋利用待ち状態: 旅客が蕎麦屋の前に向かっ て整列している状態。蕎麦屋に整列した後の動きは,先頭 客と2番目以降との客では異なる。行列の先頭の客は,経 過時間等に関する一定の条件を満たした時,蕎麦屋の中に 入って,蕎麦屋利用中状態に遷移する。2番目以降の客は 前の旅客の後ろに整列する。 先頭客が蕎麦屋に入った後は,2 番目に並んでいた客 が新しい先頭客となる。 3. 歩きにくさの指標 ホーム上での歩きにくさの可視化に関連した研究とし て,山本らの研究 (5)がある。本研究では,歩きにくさの 指標を算出することを目的とする。歩きにくさの指標と して,歩行中に,旅客エージェントが視野内の一定の距 離内に存在する他の旅客エージェントにどれくらい遭遇 するかを用いる。具体的には,旅客エージェントの視野 内の一定の距離に存在する,蕎麦屋・売店前の整列客, ゴミ箱・自販機を利用する客をカウントし,それを時間 (クロック)で積分する。歩きにくさの指標は,以下の 式で表される。 𝑚 𝑛 ∑ ( ∑ 𝑐𝑙𝑜𝑐𝑘=1 視野内の一定の距離内にいる旅客 ) (1) 歩行者=1 4. おわりに 本研究では,駅ホーム上で旅客が一時的に利用する施 設を利用する場合を考慮した旅客流動シミュレータを提 案した。一時点に利用する施設としては,蕎麦屋,売店, ゴミ箱,自販機,ベンチ等を対象とした。 現在,シミュレータの実装が終了し,精度の検証を行なっ ている。その後,蕎麦屋の前の行列の形を変更した場合, 施設の位置等を変更した場合の旅客流動シミュレーショ ンなどを実施し,歩きにくさ等の視点から,各種施策の評 価を行なっていく所存である。 図1 行動状態の遷移 (2) 蕎麦屋利用中状態:旅客が蕎麦屋を利用している状 態。旅客は蕎麦屋内の壁以外の場所を目的地とし,一定時 間蕎麦屋内に滞在する。一定時間経過後は,歩行状態に遷 移する。 (3) 売店利用中状態:旅客が売店を利用している状態。 旅客は売店内の壁以外の場所を目的地とし,到着後,一定 時間滞在する。一定時間経過後,歩行状態に遷移する。 (4) ゴミ箱利用中状態:旅客がゴミ箱を利用している状 態。旅客はゴミ箱の正面を目的地とし,到着後,一定時間 その場に滞在する。その後,歩行状態に遷移する。 (5) 自販機利用中状態:旅客が自販機を利用している状 態。旅客は自販機の正面を目的地とし,一定時間,その場 に滞在する。その後,歩行状態に遷移する。 (6) ベンチ利用中状態:旅客がベンチを利用している状 態。旅客はベンチの内部を目的地とし,ベンチ到着後一定 時間滞在する。一定時間経過後,歩行状態に遷移する。 なお,蕎麦屋,売店,ゴミ箱,自販機,ベンチは,そ れぞれ一定比率の旅客が利用するとし,どの旅客がそれ らを利用するかは,ランダムに決定する。 2.5 中間目的地 蕎麦屋の前の列,特に列を 2 列とする場合,蕎麦屋を 利用する客が分かれてどこに並べばよいのか,および, 蕎麦屋利用後どこに行けばよいかの基準となる目的地を 設定する必要がある。本研究では,これらの目的地を中 間目的地として設定する。中間目的地には,蕎麦屋の前 に整列する際の中間目的地と,蕎麦屋を利用した後の中 間目的地の 2 つがある。蕎麦屋の他,売店,弁当屋等に 対しても中間目的地を設定することとした。 参考文献 (1) 稲木達哉,富井規雄,『駅ホーム上のマルチエージェ ントシミュレーションによる乗降時間の推定』,電気 学会交通・電気鉄道研究会資料,TER-11-062, 2011 (2) 上水流友望,富井規雄,『マルチエージェントモデル による繁忙期における新幹線駅ホーム上の旅客流動 シミュレーション』,電気学会論文誌D,Vol.134, No.8, 2014 (3) 加瀬史朗,坂本圭司,佐藤敏彦,柴崎亮介,石間計夫, 木下芳郎,山田武志,中村仁也『駅ホーム上の混雑状 況を再現したシミュレーションモデルの開発-鉄道駅 におけるシミュレーション精度確保に関する研究その1』,日本建築学会大会学術講演梗概集,2011 (4) 加瀬史朗,佐藤敏彦,坂本圭司『ホーム上旅客流動の 変化を予測できるシミュレーションシステムの開発』, JREAST Technical Review No.41,2012 (5) 山本昌和,石突光隆,青木俊幸「駅における歩きにく さを可視化した旅客流動シミュレーション」,鉄道総 研報告,vol.23,No.12,2009
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