2016 年 4 月 22 日 オークネット総合研究所 ~世界の中古スマートフォン流通市場の実態を探る~ 第8回:中古スマートフォンのデータ消去と流通端末のトレーサビリティ(2) オ ー ク ネ ッ ト 総 合 研 究 所 ( 所 在 地 : 東 京 都 港 区 / 代 表 理 事 : 山 内 良 信 /URL : http://www.aucnet.co.jp /aucnet-reseach/)は、BtoB ネットオークションを主軸とした情報流通サービスを提供するオークネットグループが運 営し、独自の調査レポートなどを発表しています。昨年 10 月からは、昨今注目される中古スマートフォン市場に関し、 モバイル研究家・木暮祐一氏に取材・調査を依頼し、その実態をニュースレターとして月1~2 回のペースで配信してお ります。 これまで、香港・中国での中古スマートフォン流通の実態や、国内における政策動向とこれに関連した企業、団体等の 動きにフォーカスして当レポートにて報告してきました。今回は国内で最大規模のスマートフォン・リユース事業を行う ゲオホールディングスの中古端末整備センター(加工センター)を取材しレポートいたします。 1. ゲオ買取端末は必ず加工センターで処理が施される 消費者が一度利用したスマートフォン(以下、スマホ)を買取り、中古市場に流通させるリユースチ ェーンが多数存在する。その中でも国内最大手とされているのが DVD レンタル事業などを手掛けてき たゲオホールディングス(以下、ゲオ)である。ゲオはその店舗が全国に約 1,300 店あり、同社系リユ ースショップ「セカンドストリート」を含めるとその店舗数は 1,600 店以上となる。これらの店舗で中 古スマホの買取や販売を行っている。また昨年 4 月からは NTT コミュニケーションズと業務提携し格 安 SIM の「ゲオ×OCN SIM」を商品化して全国のゲオで販売開始したほか、モバイル専業ショップ「ゲ オモバイル」もオープンさせ、全国にその店舗網を拡充中である。 ゲオでは freetel 製や HUAWEI 製の新品スマホの販売も行っているが、来店する顧客からのニーズが 高いのが中古スマホ商品である。以前から CD/DVD・ゲームソフト、電子機器などのリユース事業を手 掛けてきたが、中古スマホに関しても各店舗や同社 EC サイトを通じた積極的な買い取りを実施してお り、こうして仕入れた中古端末を整備した上で店頭に再配備し、消費者向けに小売りを行っている。 中古スマホというと、端末を手放す側のユーザーにとっては端末内データの取扱い等のセキュリティ 面で不安が拭えない部分がある。パソコンのハードディスクと同様に、端末の初期化だけではデータ流 出を完全に防ぐことができない。一方、中古端末を購入する側のユーザーにとっても、商品の品質や購 入後の保証などが気になるところであろう。電子製品であるスマホは外見だけではその品質が見極めら 1 れないものであるからこそ、買取から販売までを取扱う企業における商品のチェック体制や流通におけ る品質管理が問われるところである。 では実際に、ゲオでは端末の買取から店頭に中古スマホとして陳列されるまで、どういった管理を行 っているのか。その中核となる買取端末を商品化させる工程を担う「ゲオ岩倉加工センター」(愛知県 岩倉市)を取材した。取材に対応してくれたのは、株式会社ゲオ 購買流通部 商品流通課 岩倉加工セ ンター ユニットリーダー・栗真喜朗(くりま・きろう)氏、同 商品流通課 メディア流通 GP 統括リー ダー・及川徒宏(おいかわ・ただひろ)氏、同 商品流通課 加工・外部物流 G 統括リーダー・中島英臣(な かじま・ひでおみ)氏。 ゲオ 岩倉事業所(愛知県岩倉市) 左から、株式会社ゲオ 購買流通部 商品流通課 岩倉加工センター ユニットリーダー・栗真喜朗氏、同 課 メディア流通 GP 統括リーダー・及川徒宏氏、同課 加工・外部物流 G 統括リーダー・中島英臣氏 ゲオ岩倉事業所は、ゲオの物流管理の中心を担っている。中古製品の管理と販売先店舗への仕分けな どを行う流通部門(岩倉物流センター)と、携帯電話やスマホ、パソコン、ゲーム機といった電子製品 の点検等を行う加工部門(岩倉加工センター)が併設されている。ゲオでは、店頭で買取された中古商 材は基本的に買取った店舗で再販売するのが基本である(一部、売れ残りや重複する在庫となる場合は センターに送られる) 。しかし携帯電話やスマホの場合は買取後必ずこの加工センターへ送られるルー ルになっている。 「ゲオの店頭では、買取時にまずマニュアルに沿った基本動作チェックや外装の傷や損傷などのチェッ 2 クを行います。店舗では入荷商品個別の管理コードが振られ、このコードに基づいて作業内容や流通状 況が一元管理されています。その後、動作チェックの内容を記載したチェックシートと共に端末等一式 が流通センターへ送られてきます。 」 (及川氏) 流通センターは現在、札幌、高崎、岩倉、福岡の 4 カ所に設置されている。北海道は札幌、九州・四 国・中国は福岡、東北から近畿は高崎と岩倉が担当している。加工センターは各流通センターの中に設 置されている。流通センターでは、まず各店舗からの集荷品が流通センターに入庫してくる。流通セン ターにおける集荷品の検品では、本社購買部門から送られてきた集荷品リストと突き合わせて、流通中 に商材の紛失がないか厳密にチェックされる。流通センターに運び込まれた集荷品は、携帯電話とスマ ホが仕分けられていく。仕分けられた携帯電話およびスマホのみが加工センターへと運び込まれる。こ こから中古携帯電話・中古スマホの商品化に向けた加工が手順を追って行われていく。 端末は加工センターに運び込まれる。 入退室管理を含め厳重管理されている 加工センターに入庫した端末が 積み上げられている 加工センターに入庫した端末。 この次に検品部門に回っていく 2. 加工センターへの入庫と検品、動作確認 加工センターに運び込まれた携帯電話およびスマホは、最初にスタッフによる外装検査および動作確 3 認が行われる。外装のランク付けのチェック後、次に電源を入れ、既定の操作を行うことで端末の動作 確認を実施していく。買取時にも店頭で基本的なチェックは行っているが、加工センターに入庫してき た際にも再度同様なチェックを受けている。ボタン類が確実に動作するか、マイクやスピーカーなどが 確実に動作するか、ディスプレイやその他の装備品に異常はないかなど、厳しいチェックがスタッフの 手で行われる。ここで異常がある端末が見つかれば、ラインから外されていく。 続いて、ネットワーク利用制限に問題が無いかのチェックを行う。これも店頭での買取時に 1 回、加 工センターで 1 回、さらに店頭での再販時にも 1 回、計 3 回ものチェックを行う。これは、買取後に端 末の利用制限登録状況が変わる場合も考えられるためである。 「弊社の場合はネットワーク利用制限のチェックで△のものでも販売を行うことがあります。弊社では 中古スマホ販売においてネットワーク利用に関して永久保証を謳っていますので、万が一新しいお客様 の手に渡った後、ネットワーク利用制限で×になってしまって使えなくなってしまった場合でも、購入 時のレシートを持ってきてもらえば同等品で交換か返金を行っています。」 (栗真氏) 検品部門。入庫してきた端末を 1 台 1 台丁寧 にチェックしていく 店舗での動作チェックシート。下半分が空欄 で入庫し加工センターのスタッフが再度チ ェックを行い埋めていく ネットワーク利用制限チェック用 PC。 キャリアごとにすぐに調べられるよう スタンバイされていた 4 3. 最も重要な入庫端末のデータ消去処理作業 次の行程では、端末内のデータ消去を行う。データ消去ソフトウェアがインストールされた PC が何 台も並んでおり、携帯電話とスマホでそれぞれ異なるソフトウェアを使って端末内メモリの完全データ 消去作業を実施する。 「スマホのデータ消去はブランコ社製のデータ消去ソフトウェアをメインで使っています。処理速度が 早いのがポイントです。とくに 1 つのパソコンで多数の端末を同時に処理できるのが大変助かっていま す。しかし、ブランコ社製データ消去ソフトウェアは携帯電話のデータ消去に対応していません。この 携帯電話のデータ消去作業のために、従来からある他社製のデータ消去ソフトウェアも同時使用してい ます。 」 (栗真氏) ブランコのデータ消去ソフトウェアは 2 年ほ ど前から使用している(写真提供:ゲオ) 携帯電話のデータ消去は従来から導入していた ソフトウェアを継続使用(写真提供:ゲオ) こうした業務用のデータ消去ソフトウェアの価格は、データ消去処理した端末数に応じてライセンス 料を払う仕組みになっているという。 データ消去作業の行程までは、中古端末は厳重に管理された状態で取扱われる。万が一、前所有者の 何らかの個人情報が流出したら大きな問題となるからである。しかし、専用ソフトウェアを使ったデー タ消去の行程さえ終了すれば、その先の行程では他の取扱い商材と変わらない対応で済む。実際に、デ ータ消去作業の次は端末の清掃などを行う再出荷に向けた最終工程のみとなる。 ゲオで買取される端末の数については非公表とのことだったが、この岩倉加工センターに入庫してく る端末のシェアでいうと、iOS が 4 割、Android が 4 割、携帯電話が 2 割ということだった。ほぼわが 国の市場シェアを踏襲した感じだろうか。以前では携帯電話がそれなりのシェアを占めていたが、これ が年々減ってきて、現時点で 2 割程度ということだった。中古スマホの入出荷量は年々増加しているこ とは言うまでもない。 5 またゲオでは端末のアクティベートまでを加工センターで実施の上で店舗向けに出荷している。これ は顧客サービスの一環とし、同時に販売店舗での手間をかけないようにとの配慮である。 顧客サービスの一環として行われているアクティベーション作業(写真提供:ゲオ) 4. 販売店舗への仕向け作業 在庫調整等は本社にある企画部門で一元管理されている。流通在庫と市場の流通傾向を見ながら、商 品の店舗別仕向け指示を行っている。流通センターでは、本社からのこの指示によって商品を店舗ごと に仕分けし、箱詰めの上出荷する。この店舗別の商品を振り分けていく装置が「ソーター」である。1 時間に 5,000 個の商品を仕分けられる処理能力を持っている。 1 時間に 5,000 個の商品を発送先別に仕分けられるソーター スタッフはソーターの上流で、コンベア上の定位置に置いていくだけ。その先でソーターはパッケー ジにある商品コード(バーコード)を読み取り、本社購買部門から送られてきたデータに従って商品を 出荷先店舗別に自動的に振り分けていく。この日は出荷先の店舗ごとの仕分けしか行われていなかった が、たとえばスマホの機種別の仕分けといった使い方もできる。たとえば iPhone 6s だけを箱詰めする といったことが可能という。 6 ソーターの上流で出荷する商品をコンベアに載せていく ソーターが流れてくる商品の バーコードをチェック コンベアで流れてくる商品が行先別に次々に 振り分けられていく 仕分けされた商品は、それぞれの仕分け品ごとにスタッフが箱詰めし、それらが運送業者のトラック に積み込まれ、各店舗へと送られていく。 「1,300 店以上の当社店舗で取り扱われる商品が一元管理され、とくに携帯電話やスマホといった商材 に関してはその流通や加工作業が厳しく管理されています。ゲオがこれをできるのは、そのほとんどす べての店舗を直営で運営しているからです。フランチャイズ営業では、こちらの店舗で買取った商材を あちらの店舗に並べるといったことができないわけですから」(中島氏) 岩倉事業所のスタッフ数は、物流センターが約 70 名、加工センターは約 25 名のスタッフが作業に 当たっている。 7 -------------------------------------------- 著者:木暮祐一(こぐれゆういち) モバイル研究家・青森公立大学経営経済学部准教授 1967 年、東京都生まれ。黎明期からの携帯電話業界動向をウォッチし、2000 年に(株)アスキー にて携帯電話情報サイト『携帯 24』を立ち上げ同 Web 編集長。コンテンツ業界を経て 2004 年独立。 2007 年、 「携帯電話の遠隔医療応用に関する研究」に携わり徳島大学大学院工学研究科を修了、博士(工 学)。スマートフォンの医療・ヘルスケア分野への応用をはじめ、ICT の地域社会での活用に関わる研 究に従事。モバイル学会理事/副会長、IT ヘルスケア学会理事。近著に『メディア技術史』 (共著、北樹 出版)など。1000 台を超えるケータイのコレクションも保有している。 <オークネット総合研究所 概要> 当総合研究所は、1985 年に世界初の中古車 TV オークション事業をスタートし、以来 30 年にわたり オークションを主軸とした情報流通サービスを提供するオークネットグループが運営。これまで培った 実績とネットワークを活用し、専門性、信頼性の高い情報を発信することで、更なる業界発展に寄与す ることを目指しています。 所在地:〒107‐8349 東京都港区北青山二丁目 5 番 8 号 青山 OM スクエア 代表理事:山内 良信 U R L:http://www.aucnet.co.jp/aucnet-reseach/ -------------------------------------------<本件に関するお問合せ> 株式会社オークネット 広報担当:降旗(フリハタ) TEL:03-6440-2530 E-MAIL:[email 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