【 201 6年 4月 23 日 , 24日 ・ 2 8日 改 訂 】 熊 本 地 震 の 経 済 的 被 害 規 模 に 関 す るノート ノートブ… 作成日: 作成者: 日誌 2016/04/23 12:36 [email protected] 更新日: 2016/04/28 10:45 熊本地震の経済的被害規模に関するノート 2016年 4月 23日, 4月 24日改訂,4月28日改訂 齊藤 誠 本ノートでは, 2016年 4月 14日, 16日に発生した熊本地震の経済的被害規模について 考えてみたい。 2011年 3月 11日に発生した東北地方太平洋沖地震がもたらした経済的被 害規模について大きく見通しを誤ったことを踏まえてである。 地震の社会経済への影響を含めて東日本大震災と名付けられた大地震の被害について 見通しを誤った最大の理由は,地震直後,死者・行方不明者数が 2万名を大きく超えて 阪神淡路大震災の 6,437名の 4倍近くに達するであろうという予想を重視しすぎて,地震 被害が岩手,宮城,福島の太平洋岸に集中していた事実を見逃したからである。当初 は,内陸部も含め,東北地方の広い範囲で甚大な地震被害がもたらされたと考えられて いた。 熊本地震は, 4月 22日現在で死者数が 59名(すべて熊本県内, 11名の震災関連死を含 む)と,同様に直下型地震の被害が甚大であった阪神淡路大震災の死者・行方不明者数 に比べると非常に少ない( 59名/ 6,437名= 0.9%)。しかし,死者・行方不明者数は, 地震被害の性質や発生時間によって大きく異なってくる。したがって,死者・行方不明 者数の数字をもって「熊本地震の被害規模が非常に小さい」と直ちに判断すると,東日 本大震災の時とまったく逆の方向で誤ってしまうかもしれない。 以下では,地震の物理的に大きな力が及んだ範囲の人口や,その物理的な影響を顕著 に表す指標を重視したい。具体的な地理的範囲として,建物倒壊被害であれば震 度 7 が 記 録 さ れ た 地 域 の 人 口 ,津波被害であれば浸 水 地 域 の 人 口 を考えていく。阪神淡路 大震災では,震度 7を記録した地域を含む市区町の人口は 164.0万人に達した。東日本大 震災では,津波浸水地域の人口は 60.2万人であった。甚大な被害を受けた地域の人口で は,東日本大震災に比べて阪神淡路大震災の方がはるかに大きかった。 今回の熊本地震は,建物倒壊被害が中心であったので震度 7が記録された地域の人口 を見ると, 4月 14日と 16日に震度 7を記録した益城町で 3.4万人, 4月 16日に震度 7を記録 した西原村で 0.7万人である。したがって,被 害 地 域 の 人 口 は 4. 1 万 人 と な り , 阪 神 淡 路 大 震 災 の 2. 5% に 相 当 す る ( 4. 1 万 人 / 164. 0 万 人 ) 。 ただし,阪神淡路大震災の時のように,気象庁が後から震度 6強の地域について震 度 7に上方改訂する可能性がある。 4月 14日の地震では震度 6強を記録した市区町村はな かった。一方, 4月 16日の地震で震度 6強を記録したのは,南阿蘇村( 1.2万人),菊池 市( 4.8万人),宇土市( 3.7万人),大津町( 3.4万人),嘉島町( 0.9万人),宇城市 ( 5.9万人),合志市( 5.9万人),熊本市の中央区( 9.2万人),東区( 8.4万人),西 区( 4.2万人)であった。仮にこれらの市区町村がすべて震度 7に上方改訂される と, 47.6万人増えて 51.7万人,阪神淡路大震災の 34%に達する( 51.7万人/ 164.0万 人)。その意味では,被害規模の判断についても予断を許さないが,甚大な被害を受け た地域の人口については,後で再検討してみよう。 一方,物理的な影響を示す被害指標としては,住家倒壊棟数,とりわけ 全 壊 住 家 棟 数 に着目していく。全壊住家棟数に注目するのは,「半壊」や「一部破損」に比べて 「全壊」という現象が外部から明確に観察できるからである。全壊住家棟数は,阪神淡 路大震災で 10.4万棟,東日本大震災で 12.7万棟に及んだ。全壊住家棟数で見る限りは, 阪神淡路大震災と東日本大震災では被害規模が大きく違わなかった。 熊本地震の家屋被害状況について消防庁が 4月 22日までに集計したものによると,全 壊住家は 1,526棟であり,そのすべてが熊本県の住家であった。半壊( 1,411棟),一部 破損( 2,612棟)を含めた住家被害は,計 5,549棟に達した。 ただし,消防庁が公表している被害状況は最終的に確認されたものだけを含んでいる ので,実態を適切に反映した数値が掲載されるのに時間を要する。また,本地震被害に 関する消防庁集計では,市町村別の数字を載せていない。そこで, 4月 21日の日本経済 新聞朝刊社会面の記事を見てみると,新聞社が前日午後までに各市区町村に問い合わせ た損壊家屋棟数(全壊だけでなく,半壊や一部破損を含めたもの)を報告していた。熊 本県の損壊家屋(計 8,600棟程度)は,益城町( 5,400棟),西原村( 1,431棟),南阿蘇 町( 400~500棟)に集中していた。一方, 4月 16日の地震で震度 6強を記録した熊本市 ( 282棟)や嘉島町( 20棟)では,人口に比べて被害家屋棟数が必ずしも大きくなかっ た。 こうした数値を踏まえると,震度 6強から震度 7に上方改訂されるのは南阿蘇村 ( 1.2万人)だけの可能性が高いのでないだろうか。したがって,震度 7の地域の人口 は,益城町と西原村に南阿蘇村を加えた 5.3万人に上昇する可能性がある。この場 合,甚 大 な 被 害 を 受 け た 地 域 の 人 口 規 模 は , 阪 神 淡 路 大 震 災 の 3. 2% に 相 当 す る ( 5. 3 万 人 / 164. 0 万 人 ) 。 それでは,全壊住家棟数は,最終的にどの程度になるであろうか。 4月 22日の日本経 済新聞朝刊 1面は,損壊家屋棟数が合計 1万棟に達する見込みを報じている。消防庁 の 4月 22日現在の集計によると,合計 5,549棟の住家被害の 27.5%,約3割が全壊住家であ った。したがって,全壊棟数は, 4月 22日現在の 1,526棟の水準から,1万棟の3割に相当 する 3,000棟程度に拡大する可能性がある。仮 に 全 壊 住 家 が 3, 000 棟 で あ る と す る と , 阪 神 淡 路 大 震 災 の 2. 9% と な る ( 0. 3 万 棟 / 10. 4 万 棟 ) 。 今後,新たな地震の発生によって被害が広がる可能性は十分にあるので予断を許さな い。しかし,上のように震度 7の被害を受けた地域の人口や全壊住家棟数で被害規模を 見ていくと, 熊 本 地 震 の 経 済 的 被 害 は 阪 神 淡 路 大 震 災 の 3% 程 度 の 規 模 と 推 定 で き る 。阪神淡路大震災の経済的被害は 10兆円弱(国土庁推計で 9.6兆円,総理府推計 で 9.9兆円)だったので,熊 本 地 震 の 経 済 的 被 害 規 模 は 3 千 億 円 程 度 と み な し て よ い のでないだろうか。 いうまでもないが,甚大な被害を受けた地域の広狭に目を向けたとしても,被災した 方々の苦しみが減ずるわけではない。本ノートでは,政府が,過去の大きな震災に比し てどの程度の“構え”(財政支援の規模を含めて)で被災地域の厳しい状況に向き合う べきかについて若干の考察をしている。構えが小さすぎても,大きすぎても,深刻な政 策問題を生じさせてしまうことは過去の貴重な教訓の一つであるから。 ( 4 月 28 日 改 訂 ) 4月27日の消防庁の被害情報では,熊本県内の損壊家屋棟数が 2万7千棟に達すると大 幅に上方改訂された。熊本市東部の住宅被害が大きく上方に修正されたからである。被 害分類が確定したものについては,損壊家屋棟数 10,858棟の18%,1,952棟が全壊であっ た(全壊住家棟数の上方修正の度合いは小さかった)。したがって,全壊住家棟数は, 損壊家屋 2万7千棟の約2割,5,400棟程度に達することが予想される。その場合,阪神淡路 大震災の 5. 2 %に相当する( 0. 54 万棟/ 10. 4 万棟)。
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