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第11回日本・シンガポール・シンポジウム
木原外務副大臣基調講演
ビビアン・バラクリシュナン外務大臣,
トミー・コー共同議長,野上義二共同議長,
並びに御列席の皆様,
まず,今回の熊本地震に際し,バラクリシュナン大臣をはじめシ
ンガポールの皆様から温かいお見舞いのお言葉をいただき,日本政
府,日本国民を代表いたしまして,心より深く感謝申し上げます。
50年前に国交が樹立された記念すべき日である本日,バラクリ
シュナン外務大臣と共に,第11回日・シンガポール・シンポジウ
ムの基調講演を行う機会を得たことを大変嬉しく思います。
私は,2006年,林芳正議員と共に,日シンガポール友好議連の一員
としてシンガポールを初めて訪れました。
そして,50年前の今日,日シンガポールの外交関係の扉を開いたの
は,シンガポールの建国の父,故リー・クァンユー元首相です。リー元首
相は仰っておられます。
「我々の将来は不確実さがあふれているのと同じように希望に満ちて
いる」,そして
「工業社会は知識を基盤とした社会へと変わりつつある。世界をこれか
ら分かつものは,知識の有無である」と。
本シンポジウムは,まさにその知識を結集し,希望に満ちた将来を切り
開くためのものです。1995年に当時の村山首相とゴー・チョクトン首
相が首脳会談で開催に合意して以来,両国の知的交流の柱として継続
的に開催され,両国をリードする各界の皆様が,地域の重要な課題につ
いて議論を行ってきました。
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昨日のクローズド・セッションでは,アジア太平洋地域の政治,経済情
勢について,自由闊達な御議論をいただいたと承知しています。本日も
「日・シンガポール関係の未来と展望」をテーマに活発な議論を期待して
います。
私からは,先ず,日シンガポール関係発展の歴史に触れた後,現在の
状況,そして,最後に今後の展望についてお話したいと思います。
70年前の先の大戦に際し,自らの行いが,シンガポールにおいて多く
の人々に,様々な苦難,そして,多くの尊い犠牲を強いた事実から,私た
ちは目をそむけたことはありません。そして,その記憶を胸に,戦後の歩
みを刻んでまいりました。
そして,日本とシンガポールは,シンガポール独立の翌年,ちょうど50
年前の本日,1966年4月26日に外交関係を樹立しました。以来,70年
代からの日本の経済協力を通じた協力,2002年の我が国として初めて
の経済連携協定の締結など,様々な友好・協力関係を進めてきました。
また,文化交流や人的交流も,大きな発展が見られており,特に,20
09年に設置されたジャパン・クリエイティブ・センター,JCC が重要な役割
を果たしております。
また,日シンガポールの協力は,二国間関係の枠組みを大きく越え,
地域及び国際社会の課題に共に取り組む原動力ともなってきました。こ
れは,両国が平和と繁栄についての基本的考えを共有してきたからこそ,
成し遂げられたものであります。
一つの良い例が,アジア海賊対策地域協力協定,ReCAAP における
協力であり,法の支配を重視する海洋国家として,日本とシンガポール
は, ReCAAP を主導してきました。
我が国は,ReCAAP 情報共有センター(ISC)の設立以来,代々事務局
長を送り出してきており,今月初めには,3代目の黒木事務局長が就任
したところです。
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シンガポールもまた,ReCAAP のホスト国としてアジアの海賊対策の
情報共有の促進に貢献してこられました。ISC は,船舶業界や法執行機
関,研究機関などとともにガイダンスを作るなど,この地域の海賊・海上
武装強盗対策に大変大きな貢献をもたらしております。
また,私たちは,海上安全保障対話も開催しており,マラッカ・シンガポ
ール海峡など重要な海域における航行の安全,海賊対策などについて
意見交換を行っています。
これらの海洋分野における二国間や多国間の協力を通じて,両国は
海における法の支配に貢献しておりますが,この「法の支配」の貫徹を通
じて,世界・人類共通の公共財である海洋を平和にそして安全に保ち続
けることこそ,私たち共通の使命であり,世界共通の利益であることを,
改めて強調したいと思います。
次に,現在の二国間関係についてお話したいと思います。
日本とシンガポールは,こうした半世紀の協力を経て,様々なレベルで
強い絆で結ばれ,これ以上ない良好な関係を構築しました。
まず,過去10年だけを見ても,2006年に天皇皇后両陛下がシンガポ
ールを国賓として御訪問され,2009年にはナザン大統領が国賓として
訪日された他,毎年,首脳又は外相レベルの往来があります。
市民間の交流においても,二国間の観光客の往来は,この10年間で
50%以上も増えています。
こうした両国の人的交流の土台が,若い世代を中心とした交流であり,
JENESYS を通じて既に3000人以上の青少年を含む交流が進められて
いますが,更に,これを促進していきたいと考えます。
経済分野においても,両国の貿易額は10年間で25%増加しておりま
す。そして,投資においては,フローベースで近年大幅な増加が見られる
とともに,ストックベースでも,シンガポールから日本へは約10倍,日本
からシンガポールへは約4倍に増えています。
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さらに,文化の面においても,日本映画祭やシンガポール国際芸術祭
に代表されるように,近年様々な文化交流イベントが行われています。ジ
ャパン・クリエイティブ・センターにおけるイベントの数や入場者数は,20
13年から倍増しています。
そして,この機会に,私から,日シンガポール外交関係樹立50周年を
記念した大きなイベントの紹介をさせていただきたいと思います。
今年の10月29日,30日,シンガポールの目抜き通りであるオーチャ
ード通りの近くの Ngee Ann City Civic Plaza において SJ50 Matsuri が開
催され,日本やシンガポールの素晴らしい料理や文化行事が堪能できま
す。皆様には,早速,カレンダーに記しをつけていただければ幸いです。
最後に,日シンガポール関係の今後の展望についてお話したいと思い
ます。
シンガポールが経済成長を遂げる過程で,5つの C が市民の憧れの
的であったと言います。クレジットカード(credit card),ゴルフクラブの会員
権であるクラブ・メンバーシップ(club membership),コンドミニアム
(condominium),車であるカー(car),現金であるキャッシュ(cash)。これ
にあやかって,日本とシンガポールの関係においては,これから述べる4
つの C を追求してまいりたいと考えております。
まず最初に,communication,交流です。
コミュニケーションは,互いを理解し合う上で必要不可欠であり,日本と
シンガポールの人的交流はもちろんのこと,ハイレベルの要人往来を促
進し続けてまいります。
なお,今年の初め,日本政府観光局とシンガポール観光局との間で,
協力覚書の署名を行いました。これによって,日本とシンガポール間の
観光客の往来が一層活発になることが期待されます。
二つ目は,cooperation,協力です。
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日本とシンガポールには既に様々な協力が存在しますが,私たちの間
には,新たな協力の可能性も広がっています。TPPがその一例でしょう。
両国は,TPPのメンバーとして,その利益を,地域,そして世界に拡大す
る中心的な存在となり得るでしょう。
また,インフラ分野における協力もそうです。昨年,アジア地域のインフ
ラ分野での協力を拡大するため,「質の高いインフラパートナーシップ」を
表明しました。インフラは,国の発展の基礎となるものであり,アジアにお
ける統合,連結性が強く求められている今,その重要性は一層高まって
います。
また,両国による第三国協力の枠組みである JSPP 21 を通じた協力も
深めていかなければなりません。
三つ目は,consolidation,団結です。
先ほども申し上げたとおり,自由で開かれ,安定した海洋は,地域の
繁栄に必要不可欠であり,そのためには海洋における法の支配の実現
が重要です。しかしながら,南シナ海における現況を見るに,残念ながら
それは損なわれていると言わざるを得ません。
また,ジャカルタにおける爆弾事件をはじめ,テロも各地で頻発してお
ります。
こうした中で,共に,アジア屈指の経済大国として,また価値観を共有
する国として,日本とシンガポールはこうした地域の課題に積極的に対応
し,地域の平和,安定,繁栄に貢献していかなければなりません。
両国の関係強化はもちろんのこと,そして,東アジア首脳会議(EAS)
を始めとする ASEAN を中心とした枠組における連携強化は我々の責務
です。
四つ目は,creativity,創造力です。
「前進をしない人は,後退をしているのだ」,ドイツの有名な詩人,ゲー
テは言っています。
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現状に満足することなく,変化し続ける世界に適切に対応し,また,両
国で,この変化をリードしていかなければなりません。そのために,我々
はよりクリエイティブになる必要があります。
日本とシンガポールは,環境に優しい都市開発,少子高齢化問題への
対応などについて,世界に先駆けて対応をし,経験を積み上げています。
このシンポジウムでは,こうした両国の知見・経験を共有するとともに,人
類が直面する諸問題について,解決に向けた新たなアイデアを提供する
ことが期待されております。
したがって,創設以来隔年で開催されてきた本シンポジウムにつきまし
ては,今後,毎年開催していくことが必要であると考えます。
本日,私たちは,日シンガポール関係の新たな半世紀の第一歩を踏
み出しました。本日ここにいる全員が,新たな時代における両国の協力
関係の立役者となります。
最後になりますが,このシンポジウムにおける有意義な議論を祈念し
つつ,また,今日の私たちの取組によって,日本とシンガポールの関係が
より強化となることを期待して,私の挨拶とさせていただきたいと思いま
す。
ご静聴,ありがとうございました。
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