⾼橋 昂輝 (Koki TAKAHASHI) ⽇本⼤学⼤学院理⼯学研究科地理専攻博⼠後期課程 私は,⼤学四年で取り組んだ卒業論⽂以降,現在まで約5年間,カナダ・トロントのポ ルトガル系移⺠コミュニティを調査してきました。これまで,①移⺠コミュニティの空間 構造の移り変わり,②移⺠街におけるジェントリフィケーションと経営者間の社会関係, ③BIAと呼ばれる都市空間のガバナンス制度を利⽤した地域のブランド化,などについて 研究論⽂を執筆してきました。 トロントは総⼈⼝約260万(⼤都市圏レベルでは約560万)を有する,北⽶第4位の都市 です。また,このうち2⼈に1⼈は国境を越えて移住してきた移⺠によって構成されます。 200以上の⺠族集団が居住するといわれる多⺠族都市トロントにおいて,ポルトガル系コ ミュニティは⼈⼝約20万を数え,少数派集団のなかでは第7位の⼈⼝規模を誇ります。 この度,斎藤功研究助成に採択いただいた研究課題は,これまでの現地調査におけるポ ルトガル系住⺠の⽅々との交流のなかで着想を得たものです。調査の際には,ポルトガル 系住⺠が集中して住む地区に私⾃⾝も数ヶ⽉間居住します。数年この地区で調査を続けて いると,移⺠コミュニティ内の重要⼈物をはじめ,様々なことが次第にわかってきました。 住⺠の⽅にインタヴューをしていると,シルバ,ヴィエイラ,カルヴァーリョなど,多く の⼈の名前が挙がり,「あそこに⾏けば彼/彼⼥に会えるよ」などと教えてくれます。しか し,実際にその場所に⾏ってみても,必ずしもそうした⼈物に会えることばかりではあり ませんでした。そこでさらに詳しく話を聞いてみると,「今,あの⼈はポルトガルにいて, 5⽉にならないとトロントには帰ってこないよ。」などと⾔われることがしばしばありま した。温暖なポルトガルから移住してきた彼らにとって,氷点下が続くトロントの冬は厳 しいものです。そこで,⼀定の成功を収めてリタイアした⾼齢の移⺠⼀世のなかには,冬 の間,ポルトガルに居住しているものもいるということがわかりました。インターネット の普及やLCCの参⼊など,近年における通信・交通網の変化,また,それに伴うグローバ リゼーションの⼀層の進展により,現在,ポルトガル系移⺠を取り巻く環境は,半世紀前 に遥か⼤⻄洋を越えてトロントにやってきた,当時の彼らを取り巻いたそれとは劇的に変 わっています。⼤⻄洋上を⾃由に往き来し,トロントとポルトガルの⼆地域に居住の拠点 をもつという,ポルトガル系移⺠の新たな居住・⽣活形態をこの⼀年間を通じてより具体 的に明らかにします。
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