乳牛改良を通して酪農経営・従事者の育成を目指す

乳牛改良を通して酪農経営・従事者の育成を目指す
兵庫県立播磨農業高等学校
教諭
1
取組の内容・方法
松 島
敏 春
写真1 畜産科の風景
現在、畜産科酪農コースの経営形態は 1.5
haの放牧地を有し、6.4haの牧草地を利用
した通年サイレージ給与を基本とし、成牛 22
頭・育成子牛 13 頭を飼養している。
年間を通して、朝・夕の除糞・ベットメー
キングから搾乳・飼料給与等の実践的な畜産
教育を展開している。
(1)乳牛改良の取組
ア
牛群検定
乳牛改良は一朝一夕にできるものでなく、先輩から後輩に引き継いでこそ実現する
ものである。平成 8 年度より、毎日の乳量記録と月一回の乳量・乳質・繁殖・疾病等
の状況を科学的に総合判定する牛群検定を実施し、淘汰・更新牛の選定として牛群の
レベルアップを図っている。
イ
牛群体型審査
写真2 牛群体型審査風景
体型改良として高乳量と連産に耐えられる
「骨格と乳器の改良」を目指し、平成 13 年
度より日本ホルスタイン登録協会が実施する
牛群体型審査を年 2 回受け、各個体の改良度
合いを確認するのと今後の方向性についてア
ドバイスを頂いている。
ウ 受精卵移植による改良
乳牛改良は、母牛の欠点を補う種雄牛を世界レベルで選定し交配すると同時に、牛
群検定と体型審査による科学的データーを基に優良な雌牛(ドナー)を選定し、受精
卵を回収して他の雌牛(レシピェント)に移植をおこなうことで飛躍的に改良スピー
ドが向上してきている。
(2)農業における環境学習として
酪農はどのような飼養形態でも牛を清潔にし、快適に飼うことにより生産性が高ま
る。牛舎環境を整えることで人もウシも快適となり、牛乳の消費拡大につながると考
え、平成 13 年度よりカウ・コンフォート(乳牛の快適性の追求)に取り組んでいる。
生徒の意識改革と乳牛の潜在能力を最大限に発揮させるために、フリーバーンから
フリーストールに改善するとともに、換気扇の増設と手作りの自動給水装置の設置に
取り組み、体細胞数の減少と泌乳能力の向上効果が出ている。
平成 19 年度より、夏場の暑熱対策としてセダム・サツマイモ・宿根性アサガオに
よる牛舎屋根緑化に挑戦し、牛舎内の温度を最大 4℃低下することを実証した。
平成 22 年度からは、兵庫県教育委員会のインスパイア・ハイスクール事業(スペ
シャリスト養成)として、用土を使用しない軽量な屋根緑化を目的として、古着の繊
維素材をリサイクルした「エコ緑化マットによる屋根緑化の開発」を企業と共同研究
し、地球温暖化防止と夏場の節電にも貢献できる全国初の取組を実施している。
写真3 宿根性朝顔による空中緑化
写真4 用土を使用しない屋根緑化
(3)乳牛クラブの活動
生徒たちが育てた乳牛を乳牛共進会に出場することで、プロの酪農家の乳牛改良に
対する熱意と技を修得させようと、平成 13 年度より兵庫県乳牛共進会・兵庫県B&
Wショウ・中国地区B&Wショウに毎年出場している。さらに 5 年に一度開催される
全日本ブラック&ホワイトショウ・全日本共進会にも出場でき、酪農家との交流を図
り牛群の改良レベルを上げてきている。
乳牛共進会に出場する乳牛の飼養管理・調教・毛刈り・乳房調整等は生徒たちで計
画し実施した。数々の失敗を繰り返し、そのつど酪農家の方に指導を仰ぎ理想の乳牛
を目指し頑張っている。
写真5 毎日の搾乳実習
2
取組の成果
(1) 乳牛改良の取組成果
ア
牛群検定の成果
個体ごとの調査と全国の乳牛との比較
検討を科学的に検定する牛群検定を実施
してきている。その成果として、兵庫県
知事より平成 23 年度より 2 年連続で乳
量・乳質の成績が優良であると認定され、新鮮で安全・安心な栄養たっぷりの美味
しいミルクを消費者に供給している。
(平成 24 年度の牛群成績は、平均経産牛頭数 20.8 頭、平均分娩間隔 400 日、1 頭当
たり乳量 9,322kg、乳脂率 4.23%、無脂固形分率 8.72%)
イ
牛群体型審査の成果
成牛 20 頭規模の学校農場であるが、平成 13 年度より 12 年連続の審査成績優秀
牛群として表彰され、平成 20 年度より 3 連続の都府県 No1の牛群となっている。
さらに、乳牛として最高の称号であるEX(エクセレント)牛が 12 年間に 5 頭も
認定され、日々の管理の成果が着実に現れてきている。
ウ 受精卵移植による改良成果
写真6 優良牛からの受精卵回収
平成 11 年度に受精卵移植によ
る改良の研究で、旺文社主催の第
43 回全国学芸科学コンクールで
自然科学部門金賞と中学高校の科
学分野において最高の江崎玲於奈
賞を受賞する。
現在、牛群の 6 割が受精卵移植
牛とその娘牛となっている。今年
度より、雌凍結精液を用いた雌受
精卵回収に挑戦しており、短期間
に優良牛を生産することが可能となれば、兵庫の基礎牛となる乳牛を県内に広めた
いと考え、生徒たちとともに取り組んでいる。
(2)農業における環境学習の成果
活動成果として兵庫県乳質向上技術検討会からの発表依頼や、毎日新聞社主催の
「高校生の環境への提言」に応募し、平成 19 年度にドイツに特派員として派遣さ
れた生徒もいる。
また、プロジェクト学習として「ウシ・人・地球に優しい暑さ対策」の研究を平
成 19 年度に学校農業クラブ大会で発表し、兵庫県代表として近畿大会優秀賞を 3
年連続で受賞した。
さらに、平成 20 年度に旺文社主催の全国学芸科学コンクールに応募し自然科学
部門銅賞、さらにストップ温暖化「一村一品」大作戦で兵庫県最優秀賞となり全国
大会で審査員特別賞を受賞するなど、生徒たちの取組が全国規模で評価された。
(3)乳牛共進会
共進会の成果として、平成 13 年度より 12 年間に兵庫県乳牛共進会において最高
位の名誉賞を 2 回獲得、兵庫県ブラック&ホワイトショウ最高位のグランドチャン
ピオンを 2 回獲得、中国地区ブラック&ホワイトショウではグランドチャンピオン
とリザーブ・グランドチャンピオンを同時に獲得し、農大・高校の出場において最
優秀校にも選ばれた。
平成 24 年度の第8回全日本ブラック・&・ホワイトショウの未経産クラスに出
品したハリマ・ローリン・ディーオ・ツネ号と経産クラスに出品したハリマ・ダン
ディー・ツネ号の2頭がいずれもクラストップの全国1位となった。
生徒たちが出産時から飼育、管理し、継続してきた乳牛だけに感慨深いものがあ
ると同時に、
生徒の意気込みと熱意に驚きと喜びの連続である。
この取組の成果は、
地域の酪農家と兵庫県内の乳牛改良同志会の温かいご支援ご指導と夏休みにお世話
になっている酪農家宿泊実習のインターンシップの成果であると感謝している。
写真7
3
第8回全日本ブラック&ホワイトショウ 経産・育成クラス1位
課題及び今後の取組の方向
酪農の情勢は、酪農家の高齢化が進む中で後継者不足となっているのと、
飼料の高騰、
TPPなどにより先行きが不安な情勢となっているが、日本の乳牛改良技術は世界トッ
プレベルとなっているだけに、これからの日本の食料生産を担う農業経営者と酪農従事
者を一人でも多く育てていくことが使命である。
2年後の平成27年度に北海道で開催される全日本乳牛共進会において、兵庫県唯一
の文部科学省指定農業経営者育成高等学校として「兵庫の底力を全国に示そう」を合い
言葉に生徒とともに頑張っている。
最後に、乳牛改良は僅か3年間で成しえるものではない。先輩から後輩に引き継いで
いくことにより、大きな改良成果となり得る。生徒たちに夢を持たせ失敗を恐れずチャ
レンジさせることが自信となり、魅力ある酪農経営、従事者の育成につながると信じ、
今後も師弟同行で根気よく取り組むとともに、後進の育成にも取り組んでいきたい。
写真1 畜産科の風景
写真3 宿根性朝顔による空中緑化
写真5 毎日の搾乳実習
写真2 牛群体型審査風景
写真4 用土を使用しない屋根緑化
写真6
優良牛からの受精卵回収
写真7 第8回全日本ブラック&ホワイトショウ 経産・育成クラス1位
参考資料