Vol.616(pdfファイル) - 京都大学 大学院経済学研究科・経済学部

2016 年 4 月 18 日発行 第 616 号
CONTENTS
「中国経済研究会」のお知らせ ................................................................................................................... 2
中国ニュース
4.11-4.17 ............................................................................................................................. 3
読後雑感:2016 年
第 8 回 ........................................................................................................................ 7
【中国経済最新統計】 ............................................................................................................................... 15
1
京大東アジアセンターニュースレター2016/4/18No.616
「中国経済研究会」のお知らせ
2016年度第2回(通算第56回)の中国経済研究会は下記の要領で開催することになりましたので、
ご案内いたします。大勢の方のご参加をお待ちしております。
記
時
間: 2016 年 5 月 17 日(火) 16:30-18:00
場
所: 京都大学吉田キャンパス・法経済学部東館地下 1 階
みずほホール AB
テーマ: 「中国の人口動態と経済成長」
報告者:
厳
善平(同志社大学グローバルスタディーズ研究科教授)
注:本研究会は原則として授業期間中の毎月第3火曜日に行いますが、講師の
都合等により変更する場合があります。2016度における開催(予定)日は以下
の通りです。
前期:4月19日(火)、 5月17日(火)
、 6月21日(火)、7月19日(火)
後期:10月18日(火)
、11月15日(火)、12月20(火)、1月17日(火)
(この研究会に関するお問い合わせは劉徳強([email protected])までお願いします。なお、
研究会終了後、有志による懇親会が予定されています。)
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京大東アジアセンターニュースレター2016/4/18No.616
中国ニュース
4.11-4.17
HEADLINES

中日韓の越境正規品確認プラットフォームが開設

中国外交部と国連アジア太平洋経済社会委員会が「一帯一路」協力文書に調印

海外観光客の 9 割、新課税政策の影響は「小さい」

中国の科学者、微小重力環境下での 3D プリンター使用実験に成功

中国の大手ショッピングサイト、日本市場開拓に 10 億円投資

北京の 1 万人当たり特許保有件数全国一

アジアインフラ投資銀行、世銀と協調融資で合意

米配車サービスのウーバー

アリババ、国際偽造対策連盟に加盟

中国 2016 年第 1 四半期経済成長率 6.7%
中国二線三線都市に進出
中日韓の越境正規品確認プラットフォームが開設
【新華網 4 月 12 日】中日韓の越境正規品確認プラットフォームはこのほど
浙江省義烏市で開催された「2016 中国国際電子商務博覧会」で発表され、今
月 12 日に正式に開設された。同プラットフォームは、工業・情報化部の認可
を経て設立された中国 2 次元コード産業連盟が中心となり開設したもので、国
際標準、国家標準、国家軍事標準、業界標準を兼ねそろえ、独自の知的財産権
を持つコンパクトマトリックス(CM)コードとグリッドマトリックス(GM)
コードという 2 つの 2 次元コード形式を技術的基盤に採用することで、安全性
を保障している。これから中日韓 3 カ国の越境商品のトレーサビリティが実現
され、商品が正規品かどうかを見分けることが可能となる。
中国外交部と国連アジア太平洋経済社会委員会が「一帯一路」協力文書に調印
【中国日報 4 月 12 日】中国外交部の陸慷報道官は記者会見で、王毅外交部
長と国連アジア太平洋経済社会委員会のシャムシャド・アクタール事務局長は
11 日、北京で「地域のコネクティビティと『一帯一路(1 ベルト、1 ロード)』
イニシアティブの推進に関する中国外交部と国連アジア太平洋経済社会委員
会の意向書」に署名したことを明らかにした。陸報道官によると、
「『一帯一路』
イニシアティブは打ち出されて以来、すでに 30 カ国以上が中国と協力文書を
調印しており、
『一帯一路』協力理念への各国や国際組織の歓迎、支持は高ま
っているという。
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海外観光客の 9 割、新課税政策の影響は「小さい」
【中国青年報 4 月 13 日】越境電子商取引の小売輸入に対する新課税政策は
今月 8 日に施行されたが、個人観光客には引き続き帰国時における携行品の免
税限度額 5 千元が適用されるほか、新政策によって出入国の通関地の免税店で
の買い物で一人あたり 3 千元の免税限度額が適用され、限度額は合計 8 千元と
なり、実質的には上昇する。中国のオンライン旅行サービス会社の携程旅遊は
このほど、越境電子商取引の新課税政策が施行された後に海外旅行から帰国し
た観光客 300 人を対象に調査を行った結果、92%が「新課税政策が旅行に与え
た影響は大きくなかった」との見方を示し、「旅行の計画を再検討した」とし
た人は 2%に止まった。
中国の科学者、微小重力環境下での 3D プリンター使用実験に成功
【新華網 4 月 13 日】中国科学院宇宙応用
工学・技術センターは 13 日、中国の科学者
がこのほど、放物線飛行により初の微小重力
環境下での 3D プリンターの使用実験に成功
したと発表した。中国科学院宇宙応用センタ
ーはドイツ宇宙航空局から放物線飛行の試
験チャンスを得て、フランスのボルドーで 93 回の実験を行い、3D 設備で目標
サンプルを作成した。この実験結果は 3D プリンターを宇宙に持ち込み、宇宙
ステーション内での物資の補給に、重要なデータと経験を提供する。
中国の大手ショッピングサイト、日本市場開拓に 10 億円投資
【環球網 4 月 13 日】中国最大の独立型海外ショッピングサイトの洋碼頭は
13 日、日本市場をより深く開拓するために 10 億円を投入することを明らかに
した。洋碼頭の張最高財務責任者は、「洋碼頭は今後も引き続き買い手の環境
の充実をはかり、海外での倉庫・物流業務の発展に力を入れ、既存の東京の貨
物ステーションの容量を 4 倍以上に拡大するほか、大阪にも新たに貨物ステー
ションを建設し、日々増加する細分化された多様な貨物受注ニーズに対応する」
と述べた。調査会社・艾瑞市場諮詢有限公司が発表した「2016 年中国越境ネ
ット通販ユーザー研究報告」によると、消費者が海外からネット通販で購入し
た商品の国別番付で、日本製品は米国製品に次ぐ 2 位であるという
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京大東アジアセンターニュースレター2016/4/18No.616
北京の 1 万人当たり特許保有件数全国一
【新華網 4 月 14 日】
北京市知的財産権管理
局が 14 日に記者会見を
開き、北京市の知的財産
権の発展状況を紹介し
た。それによると、北京
市の第 12 次五年計画期
間(2011−2015 年)の特許出願件数・登録件数は、それぞれ 58.8 万件と 32.3
万件であり、第 11 次五年計画期間の 2.8 倍と 3.2 倍となった。昨年末の時点
で、北京市の 1 万人当たり特許保有件数は 61.3 件に達し、全都市の中で一位
である。その他、北京のソフトウェア著作権登録件数は約 6 万 4000 件で、全
国の 21.9%を占める
アジアインフラ投資銀行、世銀と協調融資で合意
【新華網
4 月 14 日】2016 年 4 月 13 日、アジアインフラ投資銀行(AIIB)
の金立群総裁と世界銀行のジム・ヨン・キム総裁は、協調融資に向けた合意文
書に調印した。両行は現在、12 の案件に対する協調融資について話し合いを
進めており、主なものとしてアジアの交通、水利、エネルギー関連のプロジェ
クトが挙げられている。世銀によると、電力設備を持たない人は現在 12 億人、
基本的な衛生施設を持たない人は約 24 億人に上る。キム総裁は AIIB との合
意に関し、
「世銀と新たなパートナーが世界の巨大なインフラ需要に対応する
上での重要な第一歩になる」との考えを語った。AIIB は今年、開発支援に 12
億ドルを融資する方針を打ち出しており、世銀との協調融資がこの多くを占め
ることとなる。
米配車サービスのウーバー 中国二線三線都市に進出
【新華網
4 月 15 日】米配車サービスのウーバーは 15 日、バージョンアップ
したオンライン相乗りタクシーサービスの「人民優歩プラス」を安徽省合肥市
と浙江省寧波市で開設したことを明らかにした。このことはウーバーが中国の
二線都市・三線都市での事業に力を入れ始めたことを物語る。合肥市では、一
日あたり平均 30%を超えるペースで利用者が増加しており、ウーバーの世界
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京大東アジアセンターニュースレター2016/4/18No.616
展開において発展のペースが最速の都市となっている。すでにサービスを行っ
ている都市と新たに開拓した都市を合わせて、ウーバーは中国の 50 近い都市
で事業を展開している。今年は 100 都市をカバーする予定で、中部、西部、東
北地域の空白を埋めることも視野に入れている。
アリババ、国際偽造対策連盟に加盟
【新華網 4 月 15 日】中国の
大手越境電子商取引企業アリ
ババ(阿里巴巴)集団は 14 日、
国際偽造対策連合(IACC)に加
盟し、IACC に加盟した初のネ
ット通販企業となった。アリバ
バは 2013 年から IACC との協
力をスタートしており、不合格
商品の「迅速な撤去処理メカニズム」などを通じ、IACC 加盟メンバーが淘宝
(タオバオ)や天猫(Tmall) のプラットフォームにある権利侵害商品を識別
し、迅速に撤去することを可能にした。このメカニズムの実施後、16 万点以上
の商品が撤去され、5 千店近い店舗がニセ物を販売していたとして閉鎖され、
淘宝・天猫プラットフォームとの協力が永久に禁止されることになった。
中国 2016 年第 1 四半期経済成長率 6.7%
【人民網
4 月 16 日】中国国家統計局が 15 日に発表したデータによると、
2016 年第 1 四半期の GDP は 15 兆 8526 億元で、不変価格に基づく計算では
前年同期と比べ 6.7%増加した。第 1 四半期、一定規模以上の工業企業(年売
上高 2000 万元以上の企業)の付加価値額は不変価格で計算すると前年同期比
5.8%増で、増加率は前年(通年)の数値を 0.3 ポイント下回り、また、今年 1
~2 月の数値を 0.4 ポイント上回った。固定資産投資の前年同期比の名目増加
率は 10.7%で、前年(通年)の数値を 0.7 ポイント上回っている。また、社会
消費財小売総額の前年同期比の名目増加率は 10.3%(実質増加率は 9.7%)で、
前年(通年)の数値を 0.4 ポイント下回り、また、今年 1~2 月の数値を 0.1 ポ
イント上回っている。
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読後雑感:2016 年 第 8 回
15.APR.16
アジア・アパレルものづくりネットワーク代表理事
株式会社小島衣料オーナー
東アジアセンター外部研究員
小島正憲
1.「民主主義という不思議な仕組み」
2.「これからの死に方」
3.「医療再生」
4.「家族という病 2」
5.「下流老人と幸福老人」
6.「いかに死んでみせるか」
1.「民主主義という不思議な仕組み」
帯の言葉
:
佐々木毅著
ちくまプリマー新書
2007 年 8 月 10 日
「悩める大人たちの学びなおしのために」
本書は 10 年ほど前に発刊されたものだが、当時よりもさらに混迷を深めて
いる現在の民主主義に対して、その仕組みをわかりやすく説明しており、まさ
に私も含めて、
「悩める大人たちの学びなおしのために」、有効な書であると思
う。
佐々木氏は本書で、「一言で言えば、人間の持っている基本的人権に適合す
る政治の仕組みは、民主政治しかないのです」と断定し、「しかし、民主政治
は、歴史の現実の中で諸課題を解決し、問題を処理していかなければならない
統治の仕組みでもあります。その中には経済問題もあれば、国際関係もありま
す。しかも、やっかいなのは、短期的によさそうな解決策も、長期的にはとん
でもないマイナスの効果をもたらすということがあるということです。民主政
治は道義的には圧倒的な強みを持っていますが、そのことは、諸々の難問に対
する問題解決能力を保証することになるでしょうか。道義的な強さを持ってい
るとしても、直面する大きな課題の解決に失敗するならば、それは信用を失う
ことにならないでしょうか。実際、歴史を見るとそうしたことが起こったこと
もあります。ファシズムやクーデターなどが起こるのはその一例です。道義的
にも強みがあり、しかも、諸問題の解決においても信頼できる民主政治を実現
するためには、多大の努力と工夫と、そしてときには幸運も必要になるのだと
思います」と書いている。これは、きわめて含蓄のある言葉だと思う。
佐々木氏は、
「民主政治は有権者が横着を決め込み、無闇にわがままを言っ
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たり、無理なサービスを政治家に求めたりする政治ではありません。有権者自
身が自ら努力することによって、世論を変えていくこと、あるいは成長させて
いくものであることを忘れるならば、民主政治は怠惰を煽るような政治体制に
なってしまいます。これでは、民主政治はまともな人々の支持を得られません。
そういうところでは“独裁者の支配”への願望が密かに培養されても不思議は
ないのです」と書いている。これもきわめて納得のいく解説である。
さらに佐々木氏は、「仕組みとしての民主政治が確立すればそれで政治をめ
ぐる問題が終わるのではなく、そこから肝心の問題がむしろ始まる。つまり、
人々が具体的に政治とどういう態度で対面するかによって、その実際の姿は違
ったものになってくる」と言い、「政治は権力を伴った集団的な活動であり、
民主政治も決して例外ではありません。それは、“自分たちの共通の権力をど
う運営するか”という問題に尽きます。これは結局のところ、自分たちの運命
は自分たちで決めたいという、人間集団の自由の現れといえるでしょう。その
意味で、政治は集団の自己主張の現れであり、自己主張が自由の現れである以
上、それは自由の現れでもあります。人間の自由はさまざまな領域で現れます
が、政治は最も重要な領域の一つです。他の領域では自由を求めて、政治では
求めないというのは長くは続かない状態なのです」と書き続けている。つまり
佐々木氏は、人々は自分たちの自由を守るために民主政治というシステムを産
み出してきたが、それを効果的に運営するためには、不断の努力を続けなけれ
ばならないと説いているのである。
さらに佐々木氏は、「社会福祉など社会的弱者を支援する施策は今後とも必
要ですが、社会からの支援を受けた人々はそれに応えるように一生懸命努力し、
社会に“お返しをする”気構えが求められます。支援を受けていながら感謝の
気持ちもなく、努力もしないということになれば、こうした施策に対する支持
は失われるでしょう」、
「今後は、どこまでも自分を磨き、新たに挑戦する気構
えを持った人々が集まる社会や地域、国が豊かになり、そうでないところとの
“格差”が広がることになるでしょう。この意味で、教育は非常に戦略的な政
策領域になりつつあります。このように、個々人にとっても教育は国際・国内
における自分の社会的・経済的位置に、重要な影響を及ぼすようになっている
のです」と書いている。この文章などを読んでいると、まさに、
「我が意を得た
り」という思いがする。
佐々木氏は、
「民主主義には不服従の自由がある」と示唆している。この点
については、明快に論じているわけではないが、私はきわめて重要な主張であ
ると思う。ガンディーが、
「不服従・非暴力」の旗を掲げて戦い、世界最大の民
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京大東アジアセンターニュースレター2016/4/18No.616
主主義国=インドを創り上げたことから考えても、「不服従の自由は、民主主
義の重要な構成要素」であると、私は考える。佐々木氏はこの章で、
「ひたすら
多数派の意向という“みなし”に安住して惰眠を貪る民主政治には、
“内なる”
弱さが潜んでいます。その上、投票さえしない国民が 3 割、4 割いるとすれば、
少数派の責任はますます重いとも考えられます。少数派の異議申し立てが社会
にとって常に有益なわけではありませんが、それがほとんどない民主政治は深
刻な“内なる”病いに冒されていると見るべきでしょう」と書いている。
佐々木氏は、歴史上では独裁者が、「大衆を動員しつつ、あるいは大衆の支
持を演出しつつ、
“民主主義的”であるという外観を最大限活用」して、
「独裁
者の支配」を成し遂げてきたという。これも貴重な指摘である。
2.「これからの死に方」
副題
:
帯の言葉
橳島次郎著
平凡社新書
2016 年 3 月 15 日
「葬送はどこまで自由か」
:
「いま、死をめぐって起きていること」
橳島氏の発想は、興味深く、きわめて参考になる。ぜひ多くの人に、本書を
読んでもらいたいと思う。
目下の私の主要な関心は、
「民主主義」と「超高齢社会」の二つであり、私は
今まで、これらに関する新刊書などを手当たり次第、読み、読後雑感を書いて
きた。しかしこの二つの分野にはまったく接点がなく、読後雑感の読者のみな
さんも、なぜ私が執拗にこの二つの分野を追いかけ続けるのかと、疑問に思わ
れたことだろう。私の頭の中でも、その二つはまったく違うテーマであったか
ら、それは当然のことだと思う。ところが本書では、橳島氏の手で、私の追っ
てきたテーマである「民主主義」と「超高齢社会」が、見事に結びつけられて
いた。本書を読んで、偶然ではあるが、私の切り込み口が、時代にぴったり適
合していたことがよくわかった。
橳島氏は本書で、
「死に方の自由」や「葬送の自由」を基本的人権として捉
え、それを実現させるのが民主政治の役割ではないかと問いかけている。橳島
氏によれば、それは、オランダの法律では、「家庭医が準備した致死薬を要請
者に渡し、要請者がそれを自ら飲むことで死ぬ。“自死の援助”も認められて
いる」
、
「医師からの製薬を受けずに、望みどおり死ぬ自由を実行しようという
人たちがオランダでは出てきた。近年、医師が関与しない“自己安楽死”が広
がりつつある」と、
「死に方の自由」について言及している。また日本でも、散
骨などの自然葬が行われはじめ、それに反対する地域住民も現れたことにより、
土葬・鳥葬・散骨(自然葬)など、
「葬送の自由」に関する論争が湧き起こって
9
京大東アジアセンターニュースレター2016/4/18No.616
いるからだという。詳しいことについては、本書を読んでいただきたい。
橳島氏は、憲法に規定されている基本的人権を、
「思想・良心の自由(第 18 条)、
信教の自由(第 19 条)、表現、集会・結社の自由(第 21 条)、職業選択、居住
移転、外国移住、国籍離脱の自由(第 22 条)、学問の自由(第 23 条)
」と捉え、
「このリスト(基本的人権の中身)は固定したものではない。新しい自由の権
利を求める運動が起こって、それを社会の大多数が認めるようになれば、新た
に追加されたり補充されたりしていくものだ。最近の憲法改正論議の中では、
たとえば環境権(良好な環境の中で生活する権利)が、追加の候補に挙がって
いる。葬送の自由、または遺体の扱いを決める自由は、憲法の認める自由のリ
ストには入っていない。それは、そこに新たに加えられるべき候補になるだろ
うか」と書いている。今のところ、私には葬送の自由が基本的人権の中に加え
られるかどうかは、判定できないが、時代の進歩とともに、基本的人権の中身
が付け加えられていくということについては、よく理解できる。
さらに橳島氏は、「現代の民主主義社会では、少数派や異なる宗教、異なる文
化の人たちも排除せずに受け入れ、その人たちのニーズに対応していくことが
求められる。土葬する自由を求める人たちにどう対応すればいいか考えてみる
のは、現代社会が抱えるこの難しい課題に向き合ういい練習台になるだろう」、
「もし異なる自由の主張同士がぶつかり合って両立しない事態が起こったら、
議論して調整することが必要になる。そこでお互いを尊重しあって対話を重ね、
ことを進めるのが民主主義の政治である。大げさに聞こえるかもしれないが、
葬送の自由をすすめるという理念は、葬送のあり方を“突破口”にして、そう
した真の民主主義を日本に根付かせようとする可能性をもったものだと、私は
考えたい。死はだれにでも平等にやってくる。死ねば弔う。だから葬送のあり
方は、すべての人が考える問題であり、自由と民主主義を身につけるためのと
っかかりとして、誰でも入りやすい格好の題材になると思う」と書き、葬送の
自由の認可が、民主主義の定着の試金石になるのではと指摘している。
3.「医療再生」
副題
大木隆生著
集英社新書
2016 年 1 月 20 日
:「日本とアメリカの現場から」
帯の言葉
:
「世界的名医による、手術室からの提言」
医療関連書である本書から、私は久しぶりに、さわやかな風を感じとること
ができた。最近の医療関連本には、自説の強調や批判の応酬が多く、いささか
食傷気味だったからである。著者の大木氏は、心臓血管外科医として、米国と
日本で勤務、執刀し、その体験から両国の医療業界事情を比較し、「米国は医
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師性悪説、日本は医師性善説」と喝破している。もちろん米国の医療の先進性
や医師の技量の卓越性などについては、高く評価しているが、同時にその欠陥
について鋭く分析しており、日本の医療の再生のために、米国とは別の道を指
し示している。
大木氏は米国の医療事情について、
「外科手術ができる専門医は数が限られ、
腕が保証されていること。その治療法がもっとも適切かどうか、ほかの医師の
意見を聞くセカンドオピニオン制度が浸透していること。手術を受ける患者さ
んにとって不利益がないかどうか、看護師が中立的な立場で見守り、不利益が
あると思われたときは内部告発するシステムが完備されていること。医療ミス
があったかどうかを判断する、専門家による第三者機関が機能していること。
さらに支払者である保険会社が利潤を追求している会社なので、手術の“要・
不要”を厳しくチェックしています」
、
「医療の安全性に対して米国がここまで
徹底しているのは、
“医師も他の職業と変わらずビジネスをしている”と見な
しているからです」と書いている。
さらに大木氏は日本の医療業界に米国式インセンティブ制度を取り入れよ
うとする考え方に、
「日本は、
“お医者さんは悪いことなどしない”という医師
性善説で、米国にはいくつもあるチェックシステムがほとんどないまま今まで
やってきました。米国の医師やビジネスマンたちは、決められたルールの中で
勝つか負けるかのビジネスをしているうち、倫理観や道徳観を失くしてしまう
ように私には見えました。それに対し、日本の医師たちは今も使命感や倫理観
に支えられながら、ローコストで高いパフォーマンスを実現しています」と言
い、日本独自の医療再生の道を主張しています。
大木氏は自分自身について、「お金は“衣食足りる”ためには絶対必要です
が、それ以上の過分なお金は人間を幸せにするためにはあまり貢献しないと私
は思っています。“住”は横になって寝られるスペースがあれば充分で、豪邸
や高級車を買ったところで、本当の充実感にはつながらないことは、米国で 12
年間の間に無給医から年収 1 億円になっても住む家も車も変わらなかったこ
とで実証しました。お金は水と似ています。水は生きるために必要な量がなけ
れば命に関わりますが、過分にあっても意味がないのです。人間にとってもっ
とも普遍的な欲望は、“人に喜ばれること”だと思います。人に喜んでもらえ
ることで得られるトキメキは、お金では買えません」、「私は学生に、“衣食足
りたらトキメキを求めよ”と発破をかけています」と書いている。実に立派な
医者だと、私は思う。なお、大木氏は NHK「プロフェッショナル 仕事の流
儀」を始めとする数々のメディアで取り上げられているという。
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京大東アジアセンターニュースレター2016/4/18No.616
4.「家族という病 2」
帯の言葉
:
下重暁子著
幻冬舎新書
「
“幸せな家族”なんて存在しない。
2016 年4月 1 日
ならば、どうする?」
私の予想通り、
「家族論争」の第 2 幕が切って落とされたようである。本書
の第 5 章のタイトルは、「家族という病の処方箋」であり、これは明らかに金
美齢氏の「家族という名のクスリ」
(PHP 研究所:2016 年 3 月 18 日)を意識
したものである。ただし金氏がその著書で、下重氏を名指しで批判しているの
に対し、本書で下重氏は金氏やその著書名を引き合いに出して論駁してはいな
い。しかし、クスリに対して処方箋で応対しているわけで、論戦を受けて立っ
ているのは明らかである。おそらく今後、多くの知識人がこの論争に加わって
くることだろう。
本書で私が興味深く感じたのは、本書が韓国でもベストセラーになっており、
韓国のメディアからのインタビューを受けたというくだりである。それは韓国
には、儒教精神が色濃く残っており、日本よりも家族の縛りが強く、その上少
子高齢化も進み、日本同様に家族をめぐる意識が大きく変わらざるを得ない状
況になっているからであろう。その韓国に、「家族という病」が日本で発刊さ
れベストセラーになったということが伝わり、大きな反響を呼んでいるという
のである。ここでも超高齢社会に、他国に先駆けて突入している日本の、思想
的・哲学的位置が注目されているのである。やがて同じ現象が中国にも現れる
と考えられる。中国社会は、
「未富先老」
・
「文革によるモラル破壊」
・
「小皇帝問
題」など、さらに複雑であるが、それでも日本の超高齢社会が必要に迫られて
生み出す思想や哲学が、中国社会を救うことになるだろう。
下重氏は、
「最近増えてきた殺人の原因の一つが、介護に関するものだ。介
護疲れの夫や妻、子による殺人は、家族内では解決できない今の時代を如実に
反映している」
、
「年を取ることは個性的になることだから、高齢者は一番個性
がある。長い人生を歩んできているから経験も豊富、それぞれの道で尊敬され
るべき存在である」
、
「老老介護はまわりを見渡せば当たり前の状況になってき
た。若い人や子どもに老後を託すなど夢物語である。若い人たちには、これか
らの先の自分の人生をしっかり生きてもらいたいし、それがなければ健康保険
や年金なども成り立たない」などとは書いているが、超高齢社会の家族のあり
方や考え方を明示しているわけではなく、「良い子、良い親、良い家族という
型に自分をはめ込まず、反抗やいたずらややんちゃという型で、自分を解放す
る方法を会得することこそ、家族という病にかからないための処方箋といえる
かもしれない」という平凡な言葉で、締め括っているだけである。次作では、
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超高齢社会の老人のあり方、家族の処し方などを、さらに深く解明してもらい
たいものである。
5.「下流老人と幸福老人」
三浦展著
副題:「資産がなくても幸福な老人
光文社新書
2016 年 3 月 30 日
資産があっても不幸な老人」
帯の言葉:「
“お金がなくても幸せ”の条件」
三浦氏は本書で、
「“下流幸福老人”は、自分だけでなく他人の幸福を考える
人、
“下流不幸老人”は、お金が欲しいと言い続ける人、“上流不幸老人”は、
夫婦や子供との関係が悪い人」という平凡な結論に行き着いている。そして、
「昨年秋に母が入院し、結局老人ホームに入った。おかげで 80 歳から 100 歳
を超える老人、主におばあちゃんたちをたくさん見ることになった。日本中で、
何百万人もの老人が、ベッドに横たわり、クルマ椅子に乗って毎日を過ごして
いる。これって平和な社会じゃないと絶対にありえない光景だなあと私はつく
づく実感した。たしかに高齢者の増加、要介護者の増加は財政にとって負担で
ある。今後は福祉サービスも減るかもしれない。だが、たとえ財政に問題がな
かったとしても、平和な社会でなければ、老人たちに安心して病院や老人ホー
ムに入ってもらうことはできないはずだ。あらためて平和の大切さを感じた。
平和が幸福の基本条件だ」と、至極、当たり前のことを書いている。
三浦氏は本書で、資産 500 万円未満を「下流老人」
、500 万円以上 2000 万円未
満を「中流老人」
、2000 万円以上を「上流老人」と 3 段階に分けて、書いてい
る。そして「金融資産による格差があるのは、
“生活資金の不足”だけである。
病気も災害も介護も死別も差はないのだ。“生老病死”の不安に格差はないと
言える。いくらお金があっても、最後は死ぬ。それだけは平等だ」とこれまた
当然のことを書いている。
三浦氏は、
「自分の人生を振り返り、後悔することは誰でもたくさんあるは
ずだ」と問いを発し、「これまでの人生で失敗した、もう少しうまくやるべき
だったと思うこと」というアンケートを取っており、
「全体では“もっと貯金、
資産を増やしておくべきだった”がダントツで、次いで“もっと遊んでおくべ
きだった”
、
“もっと恋愛をしておけばよかった”、“もっと仕事中心ではなく、
プライベートを大事にすればよかった”などが上がっている」という回答を得
ている。
「後悔することが誰でもたくさんあるはずだ」として問いかければ、
これまた当然、このような回答が寄せられるにちがいない。私ならば、「現代
の老人は飢えや戦争を知らない世代であり、それだけで十分に幸せであり、そ
の他のことは贅沢な後悔である」と呼びかけ、「下流であろうと上流であろう
13
京大東アジアセンターニュースレター2016/4/18No.616
と、日本の老人の幸せは 1000 兆円超の借金の上に成り立っており、そのこと
についての罪の意識があるかどうか。そしてそれをいかに返済しようと考えて
いるか」と問いただす。三浦氏には次回作で、ぜひ、そこに切り込んでもらい
たいものである。現代の老人がもっとも後悔しなければならないのは、「自分
たちが作った借金を完済せずに死んでいくこと」なのだから。
6.「いかに死んでみせるか」
弘兼憲史著
廣済堂新書
2016 年4月 11 日
副題:「最期の言葉と自分」
帯の言葉:
「あなたは何と言って死ねますか? 最期の言葉から見えてくる“生き様”と“死に
様”
」
本書の題名は勇ましいが、内容は平凡である。
弘兼氏は、本書の最後で、最期の言葉について、
「その人の死後、皆の印象に
残れば大成功です。何も言わないのも一つの手です。要は、自分にとって思い
残すことのない言葉、つまりハッピーな気持ちになれる言葉です。今のうちに、
その言葉が何であるか、この本を参考にして考えましょう。そして、楽しく死
を迎えようではありませんか」と、書いている。私にはとても、最期の言葉を
考えることで、
「楽しく死を迎える」心境になれるとは思えないが、そろそろ
格好の良い言葉を考えておこうかとも思っている。
また本書で弘兼氏は、カール・マルクスの最期の言葉として、「最期の言葉
なんてものは、生前に言い足りなかったことがあるバカタレのためにあるもの
だ」という文言を紹介している。この文言は、資本論をはじめとして、名著で
あり同時に大著である作品を数多く世に残したマルクスならではの最期の言
葉だと思うが、なんだか下品な訳だと思う。だれか、本当にこれがマルクスの
最期の言葉だったということを確認し、もっと高尚な訳に直してもらえないだ
ろうか。
以上
14
京大東アジアセンターニュースレター2016/4/18No.616
【中国経済最新統計】
①
実 質
GDP
増加率
(%)
2005 年
2006 年
2007 年
2008 年
2009 年
2010 年
2011 年
2012 年
2013 年
2014 年
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10 月
11 月
12 月
2015 年
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10 月
11 月
12 月
2016 年
1月
2月
10.4
11.6
13.0
9.0
9.1
10.3
9.2
7.7
7.7
7.4
7.4
7.5
7.3
7.3
6.9
7.0
7.0
6.9
6.8
②
工業付
加価値
増加率
(%)
③
消費財
小売総
額増加
率(%)
④
消費者
物価指
数上昇
率(%)
18.5
12.9
11.0
15.7
13.9
10.0
9.7
8.3
12.9
13.7
16.8
21.6
15.5
18.4
17.1
14.3
11.4
12.0
8.8
8.7
8.8
9.2
9.0
6.9
8.0
7.7
7.2
7.9
5.9
12.2
11.9
12.5
12.4
12.2
11.9
11.6
11.5
11.7
11.9
10.7
5.6
5.9
6.1
6.8
6.0
6.1
5.7
5.6
6.2
5.9
10.2
10.0
10.1
10.6
10.5
10.8
10.9
11.0
11.2
11.1
1.8
1.5
4.8
5.9
▲0.7
3.3
5.4
2.7
2.6
2.0
2.5
2.0
2.4
1.8
2.5
2.3
2.3
2.0
1.6
1.6
1.4
1.5
1.4
0.8
1.4
1.4
1.5
1.2
1.4
1.6
2.0
1.6
1.3
1.5
1.6
10.3
10.2
1.8
2.3
⑤
都市固
定資産
投資増
加 率
(%)
27.2
24.3
25.8
26.1
31.0
24.5
24.0
20.7
19.4
15.2
19.8
17.3
16.6
16.9
17.9
15.6
13.3
11.5
13.9
13.4
12.6
9.7
13.1
9.6
9.9
11.6
9.9
9.1
6.8
9.3
10.8
6.8
18.0
⑥
貿易収
支
(億㌦)
⑦
輸 出
増加率
(%)
⑧
輸 入
増加率
(%)
⑩
外国直
接投資
金額増
加率
(%)
▲0.5
4.5
18.7
23.6
▲16.9
17.4
9.7
▲3.7
5.3
14.2
-4.5
4.0
-1.5
3.4
-6.6
0.2
-17.0
-14.0
1.9
1.3
22.2
10.3
0.8
-1.1
0.1
1.3
10.2
8.1
1.1
5.2
20.9
6.1
2.9
0.0
-45.1
⑪
貨幣供
給量増
加 率
M2(%)
⑫
人民元
貸出残
高増加
率(%)
17.6
19.9
20.8
18.5
▲11.3
38.7
24.9
4.3
7.2
0.4
10.8
10.4
-11.3
0.7
-1.7
5.5
-1.5
-2.1
7.2
4.6
-6.7
-2.3
-14.4
-20.0
-20.8
-12.9
-16.4
-17.7
-6.3
-8.2
-13.9
-20.5
-19.0
-9.2
-7.6
⑨
外国直
接投資
件数の
増加率
(%)
0.8
▲5.7
▲8.7
▲27.4
▲14.9
16.9
1.1
▲10.1
▲8.6
4.41
-8.6
1.3
6.1
0.5
8.4
10.3
14.0
5.2
9.4
8.7
-8.6
6.1
11.0
2.2
49.8
0.3
2.9
-14.0
4.6
9.6
23.9
5.2
2.5
27.7
17.2
1020
1775
2618
2955
1961
1831
1549
2303
2590
3824
319
-230
77
185
359
316
473
498
310
454
545
496
6024
600
606
31
341
595
465
430
602
603
616
541
594
28.4
27.2
25.7
17.2
▲15.9
31.3
20.3
7.9
7.8
6.1
10.5
-18.1
-6.6
0.8
7.0
7.2
14.5
9.4
15.1
11.6
4.7
9.5
-9.8
-3.3
48.3
-15.0
-6.5
-2.4
2.8
-8.4
-5.6
-3.8
-7.0
-7.2
-1.7
17.6
15.7
16.7
17.8
27.6
19.7
13.6
13.8
13.6
12.2
13.2
13.3
12.1
13.2
13.4
14.7
13.5
12.8
11.6
12.1
12.0
11.0
11.9
10.6
11.1
9.9
9.6
10.6
10.2
13.3
13.3
13.1
13.5
13.7
13.3
9.3
15.7
16.1
15.9
31.7
19.8
14.3
15.0
14.1
13.6
14.3
14.2
13.9
13.7
13.9
14.0
13.4
13.3
13.2
13.2
13.4
13.6
15.0
14.3
14.7
14.7
14.4
14.3
14.4
15.7
15.7
15.8
15.6
15.3
15.0
633
326
-11.5
-25.4
-18.8
-13.8
14.1
-11.3
-2.1
-1.3
14.0
13.3
15.2
14.7
注:1.①「実質 GDP 増加率」は前年同期(四半期)比、その他の増加率はいずれも前年同月比である。
2.中国では、旧正月休みは年によって月が変わるため、1 月と 2 月の前年同月比は比較できない場合があるので注意
されたい。また、(
)内の数字は 1 月から当該月までの合計の前年同期に対する増加率を示している。
3. ③「消費財小売総額」は中国における「社会消費財小売総額」
、④「消費者物価指数」は「住民消費価格指数」に
対応している。⑤「都市固定資産投資」は全国総投資額の 86%(2007 年)を占めている。⑥―⑧はいずれもモノの
貿易である。⑨と⑩は実施ベースである。
出所:①―⑤は国家統計局統計、⑥⑦⑧は海関統計、⑨⑩は商務部統計、⑪⑫は中国人民銀行統計による。
。
15